説明

X線撮像素子、装置及び方法

【課題】薄型化を達成しつつ、モアレ縞を確実に撮像することができる新たなX線撮像素子を提供する。
【解決手段】X線撮像素子11は、タルボ用回折格子から略タルボ距離L離れた位置に配置され、タルボ用回折格子によって回折されたX線を撮像する。X線撮像素子11は、X線を吸収して可視光を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有するX線変換素子111と、可視光を撮像する撮像素子112とを含む。具体的にはX線変換素子111は、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発する物質を含む蛍光部111aと、そのような蛍光物質を含まない非蛍光部111bとからなる。そして蛍光部111aは、回折格子に相当するパターンで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を撮像する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線撮影では、X線の吸収コントラスト、すなわち、被写体によるX線吸収の大小をコントラストとした画像が得られている。X線の吸収は、一般に、原子番号が大きくなるほど、すなわち、重い元素になるほど多くなる。生体を被写体とする場合、生体を構成する元素は、主に、水素(H)、炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)等の比較的原子番号が小さい元素、すなわち、軽い元素であるため、生体のX線画像は、コントラストがあまりつかない。そのため、生体のX線撮影では、原子番号の大きな元素を含んだ物質が造影剤として使用される。例えば、胃や結腸等の消化器に対するX線撮影では、硫酸バリウムが造影剤として使用されている。しかしながら、すべての組織に造影剤が利用できるわけではなく、また、生体の負担も大きい。
【0003】
そこで、近年では、X線を波として扱って被写体中を波が伝わる速さの違いをコントラストとした画像を得る位相コントラスト法が研究、開発されている。位相コントラスト法は、例えば、X線干渉計が利用され、被写体を通過することによって生じるX線の位相シフトを検出することによって、被写体の透過画像を得ている。この位相コントラスト法は、X線の吸収コントラストによって被写体の透過画像を得る場合に較べて、約1000倍の感度改善が見込まれ、それによってX線照射量が例えば1/100〜1/1000に軽減可能となるという利点もある。
【0004】
このような位相コントラスト法の一つとして例えばタルボ干渉計を利用した方法が例えば特許文献1や非特許文献1に提案されている。
【0005】
図7は、特許文献1に記載のX線撮像装置の概略的な構成を示す説明図である。図7において、特許文献1に記載のX線撮像装置1000は、X線源1001と、X線源1001から照射されるX線を回折する位相型の第1回折格子1002と、第1回折格子1002により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型の第2回折格子1003と、第2回折格子1003により画像コントラストの生じたX線を検出するX線画像検出器1004とを備え、第1および第2回折格子1002、1003がタルボ干渉計を構成する条件に設定される。この条件は、次の式1および式2によって表される。式2は、第1回折格子1002が位相型回折格子であることを前提としている。
l=λ/(a/(L+Z1+Z2)) ・・・(式1)Z1=(m+1/2)×(d/λ) ・・・(式2)
【0006】
ここで、lは、可干渉距離であり、λは、X線の波長(通常は中心波長)であり、aは、回折格子の回折部材にほぼ直交する方向におけるX線源1001の開口径であり、Lは、X線源1001から第1回折格子1002までの距離であり、Z1は、第1回折格子1002から第2回折格子1003までの距離であり、Z2は、第2回折格子1003からX線画像検出器1004までの距離であり、mは、整数であり、dは、回折部材の周期(回折格子の周期、格子定数、隣接する回折部材の中心間距離)である。
【0007】
このような構成のX線撮像装置1000では、X線源1001と第1回折格子1002との間に被検体1010が配置され、X線源1001から第1回折格子1002に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、第1回折格子1002でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が第2回折格子1003で作用を受け、モアレ縞の画
像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器1004で検出される。このモアレ縞は、被検体1010によって変調を受けており、この変調量が被検体1010による屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体1010およびその内部の構造を検出することができる。
【0008】
ここで、タルボ効果とは、回折格子に光が入射されると、或る距離に前記回折格子と同じ像(前記回折格子の自己像)が形成されることをいい、この或る距離をタルボ距離Lといい、この自己像をタルボ像という。タルボ距離Lは、回折格子が位相型回折格子の場合では、上記式2に表されるZ1となる(L=Z1)。タルボ像は、Lの奇数倍(=(2m+1)L、mは、整数)では、反転像が現れ、Lの偶数倍(=2mL)では、正像が現れる。
【特許文献1】国際公開第WO2004/058070号パンフレット
【非特許文献1】百生敦、「X線位相イメージングの最近の展開」、Medical Imaging Technology,Vol.24,No.5,November 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このX線撮像装置1000に利用される第1回折格子1002は、X線のタルボ像を形成するために、X線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数がX線の波長の約20倍以上である必要がある。X線の波長は、一般に、10−12m〜10−8mくらいであるので、第1回折格子1002の格子定数は、10−11m〜10−7mくらいであり、実用的には、数μmとなる。タルボ像は、第1回折格子1002の自己像であるため、すなわち、入射X線が平行光である場合には第1回折格子1002の格子模様と同一模様の像であり、X線源1001が点光源と見なせる場合にはX線源1001から第1回折格子1002までの距離とX線源1001から第2回折格子1003までの距離との比に応じた拡大された第1回折格子1002の格子模様の像であり、タルボ像も数μmの周期の縞模様となる。このため、タルボ像が第2回折格子1003によってモアレ縞を生じるためには、第2回折格子1003の格子定数も数μmとなる。
【0010】
一方、この第2回折格子1003を振幅型(吸収型)回折格子で形成する場合、振幅型回折格子として機能するような充分なX線を吸収させるためには、第2回折格子1003の回折部材に重い元素の例えば金(Au)を用いた場合でも、数十〜数百μmの厚さが必要となる。
【0011】
したがって、図8に示すように、第2回折格子1003の回折部材は、幅が数μm(例えば4μm)に対し厚さが数十〜数百μm(例えば100μm)となる。このため、回折部材をハイアスペクト比で形成する必要があり、第2回折格子1003の製作が容易ではない。
【0012】
また、仮に第2回折格子1003が製作することができたとしても、X線源1001から放射したX線は、X線源1001が略点光源であるため、放射状に拡がる。このため、図8に示すように、第2回折格子1003の中心領域では、タルボ像のX線が回折部材と略平行に入射されるため、タルボ像と第2回折格子1003とによってモアレを生じるが、第2回折格子1003の両サイド領域では、タルボ像のX線が回折部材に対して斜めに入射されるため、タルボ像と第2回折格子1003とによるモアレ像がぼけるか、あるいは全くモアレを生じない。
【0013】
一方、この第2回折格子1003を位相型回折格子で形成する場合でも、位相型回折格子として機能するような充分な位相変化をX線に与えるためには、第2回折格子1003
の回折部材に重い元素の例えば金(Au)を用いた場合でも、数十μmの厚さが必要となる。このため、位相型回折格子においても振幅型回折格子と同様の上記不都合が生じる。
【0014】
また、このような上述の第2回折格子1003による不都合を回避するために、第2回折格子1003を使用することなく、タルボ像を直接撮像する方法が考えられる。胸部レントゲン用では、大きさが17インチ×14インチであって解像度が4000ドット×3000ドットであるCCDなどのディジタルの撮像素子が知られているが、その画素のサイズは、約110μmであり、このような撮像素子でも数μm周期のタルボ像を撮像することができない。
【0015】
本発明は、振幅型や位相型回折格子を介してX線を撮像する場合に生ずる各種問題を克服するために、薄型化を達成しつつ、モアレ縞を確実に撮像することができる新たなX線撮像素子、装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一局面に係るX線撮像素子は、X線を吸収して2次エネルギーを発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第1のX線変換素子と、前記第1のX線変換素子による前記2次エネルギーの発生パターンを検出するパターン検出手段と、を含み、前記第1のX線変換素子は、X線画像が入射される入射面を備えることを特徴とする(請求項1)。
【0017】
この構成によれば、振幅型や位相型回折格子を用いる代わりに、X線を吸収して2次エネルギーを発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第1のX線変換素子が用いられる。そして、第1のX線変換素子の入射面にX線の縞画像が入射した場合、当該X線の縞模様と第1のX線変換素子のパターンとが一致した部位において2次エネルギーが発生される。従って、この2次エネルギーの発生パターンを検出することで、実質的にモアレ縞を撮像することができる。
【0018】
上記構成において、前記第1のX線変換素子は、X線画像が入射される第1面と、前記2次エネルギーの発生パターンを検出するパターン検出手段と対向する第2面とを備えることが望ましい(請求項2)。この場合、前記2次エネルギーが可視光であり、前記パターン検出手段が可視光を撮像する撮像素子である構成とすることができる(請求項3)。或いは、前記2次エネルギーが電子若しくは正孔であり、前記パターン検出手段が電子若しくは正孔により充電された電荷分布を検出可能な電荷検出手段である構成とすることができる(請求項4)。
【0019】
上記いずれかの構成において、前記X線画像が、X線タルボ画像であることが望ましい(請求項5)。また、前記回折格子に相当するパターンは、一次元周期のパターンであることが望ましい(請求項6)。さらに、前記回折格子に相当するパターンは、二次元周期のパターンであることであることが望ましい(請求項7)。
【0020】
二次元周期を採用する場合、その周期構造が、正方格子配列又は三角格子配列であることが望ましい(請求項8)。
【0021】
本発明の他の局面に係るX線撮像素子は、X線を吸収して可視光を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第2のX線変換素子と、可視光を撮像する撮像素子と、を含み、前記第2のX線変換素子は、X線画像が入射される第1面と、前記撮像素子と対向する第2面とを備えることを特徴とする(請求項9)。
【0022】
この構成によれば、振幅型や位相型回折格子を用いる代わりに、X線を吸収して可視光
を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第2のX線変換素子が用いられる。そして、第2のX線変換素子の第1面にX線の縞画像が入射した場合、当該X線の縞模様と第2のX線変換素子のパターンとが一致した部位においてのみ可視光に変換されるので、結果として可視光のモアレ縞が発生される。この可視光のモアレ縞を、第2のX線変換素子の第2面に配置された撮像素子で撮像することにより、モアレ縞を撮像することができる。
【0023】
本発明のさらに他の局面に係るX線撮像素子は、X線を吸収して電子若しくは正孔を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第3のX線変換素子と、前記第3のX線変換素子が発生した電子若しくは正孔により充電された電荷分布を検出可能な電荷検出手段と、を含み、前記第3のX線変換素子は、X線画像が入射される入射面を備えることを特徴とする(請求項10)。
【0024】
この構成によれば、振幅型や位相型回折格子を用いる代わりに、X線を吸収して電子若しくは正孔を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第3のX線変換素子が用いられる。そして、第3のX線変換素子の入射面にX線の縞画像が入射した場合、当該X線の縞模様と第3のX線変換素子のパターンとが一致した部位においてのみ電子若しくは正孔が発生するので、結果として電荷分布のモアレ縞が発生される。従って、この電荷分布を検出することで、実質的にモアレ縞を撮像することができる。
【0025】
本発明の他の局面に係るX線撮像装置は、X線を放射するX線源と、前記X線源から放射されたX線によってタルボ効果を生じるタルボ用回折格子と、前記タルボ用回折格子によって回折されたX線を撮像するX線撮像素子と、を備え、前記X線撮像素子は、請求項1〜10のいずれか1項に記載のX線撮像素子であって、前記X線変換素子は、前記タルボ用回折格子から実質的にタルボ距離離れた位置に配置されることを特徴とする(請求項11)。
【0026】
また、本発明のさらに他の局面に係るX線撮像方法は、X線タルボ画像を生成し、該X線タルボ画像を、請求項1〜10のいずれか1項に記載のX線撮像素子に入射させることを特徴とする(請求項12)。
【0027】
これらの構成によれば、X線撮像素子には、タルボ用回折格子により生成されたタルボ画像が入射される。そして、X線撮像素子において、モアレ縞が撮像される。従って、振幅型回折格子を用いることなく、モアレ縞を撮像することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るX線撮像素子、装置及び方法によれば、回折格子でモアレ縞を発生させるのではなく、回折格子に相当するパターンを有するX線変換素子を用い、X線の縞模様と前記パターンとが一致した部位にモアレ縞を発生させる構成である。従って、モアレ縞を確実に発生させることができると共に、X線変換素子を厚肉化する必要は無いので、X線撮像素子及びX線撮像装置の薄型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(第1実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係るX線撮像装置の構成を示す説明図である。図2は、第1実施形態におけるX線撮像素子の構成を示す説明図である。
【0030】
図1において、X線撮像装置1は、X線撮像素子11と、回折格子12(タルボ用回折格子)と、X線源13とを備え、さらに、本実施形態では、X線源13に電源を供給するX線電源部14と、X線撮像素子11の撮像動作を制御するカメラ制御部15と、本X線
撮像装置Xの全体動作を制御する処理部16と、X線電源部14の動作を制御することによってX線源13におけるX線の放射動作を制御するX線制御部17とを備えて構成される。
【0031】
X線源13は、X線を放射し、回折格子12へ向けてX線を照射する装置である。X線源13は、例えば、X線電源部14から供給された高電圧が陰極と陽極との間に印加され、陰極のフィラメントから放出された電子が陽極に衝突することによってX線を放射する装置である。
【0032】
回折格子12は、X線源13から放射されたX線によってタルボ効果を生じる透過型の回折格子である。回折格子12は、X線を透過する材料から構成された平板状の基板と、基板の一方面に形成された複数の回折部材とを備えて構成される。この複数の回折部材は、それぞれ、一方向(図1では紙面の法線方向)に延びる線状であり、該一方向と直交する方向に所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。この所定の間隔は、本実施形態では、一定とされている。すなわち、複数の回折部材は、前記一方向と直交する方向に等間隔でそれぞれ配設されている。回折格子12の基板には、例えばガラスが用いられ、その回折部材には、例えば金(Au)が用いられる。回折格子12は、タルボ効果を生じる条件を満たすように構成されており、X線源13から放射されたX線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数(回折格子の周期)dが当該X線の波長の約20倍以上である位相型回折格子である。なお、第1回折格子12は、同様な作用を果たす振幅型(吸収型)回折格子であってもよい。
【0033】
X線撮像素子11は、回折格子12から略タルボ距離L離れた位置に配置され、回折格子によって回折されたX線を撮像する装置である。X線撮像素子11は、図2に示すように、X線を吸収して可視光を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有するX線変換素子111(第2のX線変換素子)と、可視光を撮像する撮像素子112とを含む。X線変換素子111の被写体Sと対向する面(第1面)には、X線タルボ像T(X線画像)が入射される。撮像素子112は、X線変換素子111の第1面とは反対側の面(第2面)に、その受光面が対向配置されている。
【0034】
X線変換素子111は、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発する物質を含む蛍光部111aと、そのような蛍光物質を含まない非蛍光部111bとからなる。蛍光部111aは、例えばシンチレータにより構成することができる。シンチレータは、蛍光体を主たる成分とする層であり、入射したX線により、可視光波長の蛍光を発する。
【0035】
この蛍光部111aで用いられる蛍光体としては、タングステン酸塩系蛍光体、テルビウム賦活希土類酸硫化物系蛍光体、テルビウム賦活希土類燐酸塩系蛍光体、テルビウム賦活希土類オキシハロゲン化物系蛍光体、ツリウム賦活希土類オキシハロゲン化物系蛍光体、ガドリニウム賦活希土類オキシハロゲン化物系蛍光体、セリウム賦活希土類オキシハロゲン化物系蛍光体、硫酸バリウム系蛍光体、2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属燐酸塩系蛍光体、2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体、沃化物系蛍光体、硫化物系蛍光体、燐酸ハフニウム系蛍光体、タンタル酸塩系蛍光体等を例示できる。特に、X線吸収及び発光効率が高いセシウムアイオダイド(CsI:X、Xは賦活剤)やガドリニウムオキシサルファイド(Gd22S:X、Xは賦活剤)が好ましい。
【0036】
また、蛍光体粒子の直径は7μm以下、特に4μm以下であることが好ましい。蛍光体粒子の直径が小さいほどシンチレータ内での光の散乱を防ぐことが可能となり、高い鮮鋭度を得られるからである。さらに、この蛍光体粒子はバインダーに分散されても良い。バインダーとしては、ポリウレタン、ポリエステル、塩化ビニル系共重合体、ポリビニルブ
チラール、ニトロセルロース等が好ましい。このようなバインダーを用いれば、蛍光体の分散性を高め、蛍光体の充填率を高くすることが可能である。
【0037】
蛍光部111aは、回折格子に相当する一次元周期構造(縞模様構造)のパターンで形成されている。すなわち、回折格子のスリットに相当する幅及び間隔で、各蛍光部111aが設けられている。例えば、数μm〜数十μm幅の蛍光部111aと数μm〜数十μm幅の非蛍光部111bとが交互に配置された周期構造で、X線変換素子111が構成される。
【0038】
非蛍光部111bの材質は特に制限はなく、X線透過性の各種物質、或いはX線を吸収するが可視光を発生しない各種物質にて形成することができる。例えば、非蛍光部111bを、蛍光体粒子を含まない上記バインダー材料や、或いは固体物質で構成せず、空気層で構成しても良い。
【0039】
このような一次元周期構造を有するX線変換素子111は、例えば数μm〜数十μmピッチのストライプマスクが施された基板や、数μm〜数十μm幅の凹溝加工が数μm〜数十μmピッチで施された基板の上に、蛍光部111aを構成する上記シンチレータ材料をストライプ状に選択成長させることにより形成することができる。
【0040】
X線変換素子111と回折格子12とは、上述の式1および式2によって表されるタルボ干渉計を構成する条件に配置位置が設定されている。
【0041】
撮像素子112は、X線変換素子111によって変換された可視光を撮像する装置である。撮像素子112は、可視光の像を電気信号に変換する素子であって、受光量に応じた電荷を生成するマトリクス状に二次元配列された複数の光電変換素子およびその周辺回路を備えて構成される。撮像素子112は、例えば、可視光用のCCD(charge coupled device)イメージセンサやCMOS(complementary metal oxide semiconductor)イメージセンサが用いられる。
【0042】
処理部16は、X線撮像装置1の各部を制御することによってX線撮像装置1全体の動作を制御する装置であり、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を備えて構成され、機能的に、画像処理部161およびシステム制御部162を備えている。
【0043】
システム制御部162は、X線制御部17との間で制御信号を送受信することによってX線電源部14を介してX線源13におけるX線の放射動作を制御すると共に、カメラ制御部15との間で制御信号を送受信することによってX線撮像素子11の撮像動作を制御する。システム制御部162の制御によって、X線が被写体Sに向けて照射され、これによって生じた像がX線撮像素子11によって撮像され、画像信号がカメラ制御部15を介して処理部16に入力される。
【0044】
画像処理部161は、X線撮像素子11によって生成された画像信号を処理し、被写体Sの画像を生成する。
【0045】
次に、第1実施形態の動作について説明する。被写体SがX線源13と回折格子12との間に配置され、X線撮像装置1のユーザによって図略の操作部から被写体Sの撮像が指示されると、処理部16のシステム制御部162は、被写体Sに向けてXを照射すべくX線制御部17に制御信号を出力する。この制御信号によってX線制御部17は、X線電源部14にX線源13へ給電させ、X線源13は、X線を放射して被写体Sに向けてX線を照射する。
【0046】
照射されたX線は、回折格子12を通過し、回折格子12によって回折され、タルボ距離L(=Z1)離れた位置に回折格子12の自己像であるタルボ像Tが形成される。
【0047】
このX線タルボ像は、X線撮像素子11のX線変換素子111の第1面に入射される。すると、タルボ像の縞模様とX線変換素子111の蛍光部111aの縞パターンとが一致した部位においてのみ、当該蛍光部111aによりX線が吸収されて可視光に変換される。その結果、X線変換素子111の第2面には、可視光のモアレ縞が現れるようになる。
【0048】
この可視光のモアレ縞の像は、システム制御部162によって例えば露光時間などが制御された撮像素子112によって撮像される。なお、非蛍光部111bはX線をそのまま透過させることになるが、X線の波長に撮像素子112は感度を有さないことから、このX線は撮像されない。
【0049】
ここで、可視光への変換効率を上げるためには、蛍光部111aのX線入射方向の厚さを厚くすれば良い。しかし、あまり厚くしすぎると、先に図8に基づき説明した問題と同様な問題が生じ得る。しかしながら、本実施形態では、X線と可視光との波長の違いによってコントラストを取りやすいので、蛍光部111aをさほど厚くする必要性は無い。すなわち、たとえ蛍光部111aで発生される可視光の強度が弱いものであっても、蛍光部111aを通過しないX線は撮像素子112で感知されないので、コントラストとしては大きく捉えることができるからである。
【0050】
撮像素子112は、モアレ縞の像の画像信号を、カメラ制御部15を介して処理部16へ出力する。この画像信号は、処理部16の画像処理部161によって処理される。
【0051】
ここで、被写体SがX線源13と回折格子12との間に配置されているので、被写体Sを通過したX線には、被写体Sを通過しないX線に対し位相がずれる。このため、回折格子12に入射したX線には、その波面に歪みが含まれ、タルボ像には、それに応じた変形が生じている。このため、X線変換素子111の第1面に入射されたX線タルボ像と、蛍光部111aの一次元周期構造との重ね合わせによって生じた可視のモアレ縞は、被写体Sによって変調を受けている。この変調量は、被写体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。したがって、モアレ縞を解析することによって被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。また、被写体Sを複数の角度から撮像することによってX線位相CT(computed tomography)により被写体Sの断層画像が形成可能で
ある。
【0052】
このように、第1実施形態に係るX線撮像装置1によれば、タルボ距離の位置に振幅型回折格子を配置する代わりに、X線を吸収して可視光を発生する蛍光部111aで形成された一次元周期の回折格子に相当するパターンを有するX線変換素子111により、可視光のモアレ縞を発生させることができる。従って、モアレ縞を確実に発生させることができ、また該X線変換素子111を厚肉化する必要は無いので、X線撮像素子11の薄型化を図ることができる。
【0053】
すなわち、上記構成によれば、X線タルボ像の縞模様と蛍光部111aの縞模様との重ね合わせにより実質的にモアレ縞が発生される。X線タルボ像Tの縞は非常に細かい縞模様であり、一般的な画素ピッチを有する撮像素子112ではこれを解像できないが、上述のように細かいピッチで配列された蛍光部111aが前置されているので、モアレを利用してX線タルボ像Tの縞模様を拡大することができる。このため、通常では縞模様を解像できない大きな画素ピッチを持つ撮像素子112を用いたとしても、X線タルボ像Tを実質的に撮像することができる。
【0054】
なお、上述の実施形態において、X線変換素子111及び回折格子12は、X線源13と撮像素子112とを通る光軸まわりに相対的に角度θだけ回転して配置されてもよい。格子定数dのX線変換素子111及び回折格子12を角度θだけ回転して配置すると、モアレ縞の間隔がd/θとなるので、角度θが微小角度とされることで、モアレ縞の間隔が拡大され、モアレ縞の解析がより容易となる。
【0055】
そして、上述の実施形態において、X線変換素子111及び回折格子12の格子定数が異なっていてもよい。回折格子12の格子定数をd1、X線変換素子111に形成された蛍光部111aの周期構造の格子定数をd2とすると、d1×d2/(d2−d1)のモアレ縞が現れ、上述と同様に、このモアレ縞を解析することによっても被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。
【0056】
また、上述の実施形態では、X線源13と回折格子12との間に被写体が配置されたが、回折格子12とX線変換素子111との間に被写体が配置されてもよい。
【0057】
さらに、上述の実施形態では、X線変換素子111は、一次元周期の回折格子のパターンに蛍光部111aが形成されている例を示したが、これに限定されるものではない。図3は、正方格子配列の二次元周期の回折格子のパターンを示す説明図である。図4は、図3に示すパターンによってタルボ像から生じるモアレを説明するための図である。図4(A)は、タルボ像を示し、図4(B)は、モアレ像を示す。X線変換素子111の蛍光部111aのパターンは、このように二次元周期の回折格子のパターンであってもよく、その周期構造は、正方格子配列や三角格子配列であってもよい。要は、蛍光部111aのパターンは、タルボ像を撮像することによってモアレを生じさせる構造のパターンであればよい。
【0058】
例えば、二次元周期の回折格子パターンは、回折部材となるドットが線形独立な2方向に所定の間隔を空けて等間隔に配設されて構成される。正方格子配列では、図3に示すように、単位格子が正方形になるように、直交する2方向に等間隔に回折部材となるドットが配設されて構成される。三角格子配列では、図示しないが、単位格子が正三角形になるように、互いに60度の方向をなす2方向に等間隔に回折部材となるドットが配設されて構成される。このようなドット部分を、蛍光部111a若しくは非蛍光部111bで構成すれば良い。
【0059】
このような二次元周期のX線変換素子111では、例えば、図4(A)に示すように、一方向に線状に延びた複数の影が該一方向と直交する方向に等間隔で形成されている縞模様のタルボ像に、例えば、図3に示すように、その周期構造が正方格子配列の蛍光部111aを有するX線変換素子111を該一方向から少し傾けて作用させると、図4(B)に示す可視光のモアレ縞を発生させることができる。
【0060】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係るX線撮像素子11Aを示す模式図である。このX線撮像素子11A以外の部分は、上述の第1実施形態と同じであるので説明を省略する。このX線撮像素子11Aは、X線を吸収して電子若しくは正孔を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有するX線変換素子113(第3のX線変換素子)と、前記X線変換素子113が発生した電子若しくは正孔により充電された電荷分布を検出可能な電荷検出手段とを含む。X線変換素子113の被写体Sと対向する入射面には、X線タルボ像Tが入射される。
【0061】
X線変換素子113は、X線のエネルギーを吸収して電子若しくは正孔を発生する半導体を有する光電変換部114と、そのような電子若しくは正孔の発生機能を有さない非変換部115とからなる。光電変換部114は、第1実施形態と同様に振幅型の回折格子に相当するパターンで形成されている。例えば、数μm〜数十μm幅の光電変換部114と数μm〜数十μm幅の非変換部115とのストライプが交互に配置された、一次元周期構造(縞模様構造)のパターンでX線変換素子113が構成されている。なお、前記パターンは、正方格子配列や三角格子配列のように二次元周期のパターンとしても良い。
【0062】
図6は、X線変換素子113の詳細構成を模式的に示す図である。X線変換素子113は、上記光電変換部114及び非変換部115からなる交互配置層114aと、この交互配置層114aのX線入射側の面にベタ付けされたバイアス電極114bと、交互配置層114aの他方の面に設けられた複数の画素電極114cとを備える。
【0063】
1つの画素電極114cは、複数(ここでは4層を例示)の光電変換部114をカバーしている。つまり、光電変換部114は、画素電極114cの配列ピッチよりも細かいピッチで配列されている。
【0064】
このような電極付きの交互配置層114aに対して、電荷検出部20(電荷検出手段)が付設されている。電荷検出部20は、画素電極114c毎に、スイッチング素子としてのFETと、電荷を蓄積するコンデンサCを含む。FETのドレインが画素電極114cに、ゲートが制御ラインg1、g2、g3に、ソースが信号ラインsに各々接続されている。コンデンサCは画素電極114cに接続されている。
【0065】
上記構成において、バイアス電極114bには高電圧が印加され、交互配置層114aの内部には加速電界が形成される。光電変換部114にX線が入射すると、X線は原子に結合した電子を弾き出す。飛び出した電子eはバイアス電極114bに向かう一方で、正孔hは対応する画素電極114cに向かい、コンデンサCを充電する。この充電電荷は、FETの動作により信号ラインsから読み出される。
【0066】
非変換部115は、このような光電変換作用を有さない適宜な物質で形成される。或いは非変換部115は、固体物質で構成せず、空気層で構成しても良い。
【0067】
このようなX線撮像素子11A(X線変換素子113)にX線タルボ像が入射されると、タルボ像の縞模様とX線変換素子113の光電変換部114の縞パターンとが一致した部位においてのみ、電荷が発生する。この電荷はコンデンサCに蓄積され、所定のタイミングで読み出される。そして、読み出した電荷の二次元分布を求めることで、モアレ縞に相当する像を得ることができる。
【0068】
すなわち、上記構成によれば、タルボ像の縞模様と光電変換部114の縞模様との重ね合わせにより実質的にモアレ縞が発生される。X線タルボ像Tの縞は非常に細かい縞模様であり、例えば画素電極114cの配列ピッチではこれを解像できないが、画素電極114cの配列ピッチよりも細かいピッチで配列された光電変換部114が設けられているので、モアレを利用してX線タルボ像Tの縞模様を拡大することができる。このため、通常では縞模様を解像できない大きなピッチで画素電極114cが配列されていても、X線タルボ像Tを実質的に撮像することができる。
【0069】
先に挙げた第1実施形態のX線変換素子111のように、蛍光体を用いてX線のエネルギーを蛍光に変換する場合、各蛍光体はX線の入射を受けて光を発する点光源となるため、本質的に拡散性を持つ2次エネルギーを発生する。このため、X線変換素子111内での拡散によって、撮像素子112に蛍光が届く前に像がぼやけてしまう傾向があることが否めない。しかしながら、この第2実施形態のX線変換素子113は、X線を吸収して電子若しくは正孔を発生する電荷変換型の材料を用いていることから、本質的に拡散性を持たない2次エネルギーを発生する。
【0070】
すなわち、図6に示したように、電荷変換型では非変換部115を電荷は流れることができないと共に、バイアス電極114b及び画素電極114cを介して電界が与えられていることも相俟って、電荷は光電変換部114内を拡散することなく進行する。このため、像がぼやけてしまう現象は生じ得ない。この局面において、第2実施形態のX線変換素子113は、第1実施形態のX線変換素子111よりも優位性を有している。
【0071】
以上、本発明の2つの実施形態につき説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、上記ではX線を吸収して可視光を発生するX線変換素子と、X線を吸収して電子若しくは正孔を発生するX線変換素子とを例示したが、X線を吸収して何らかの2次エネルギーを発生する材料で形成されたX線変換素子(第1のX線変換素子)であれば、本発明に適用することができる。この場合、X線変換素子による前記2次エネルギーの発生パターンを検出するパターン検出手段を具備させれば良い。
【0072】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更及び/又は改良するこ
とは容易に為し得ることであると認識すべきである。従って、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。
【図2】第1実施形態におけるX線撮像素子の構成を示す説明図である。
【図3】正方格子配列の二次元周期の回折格子を示す説明図である。
【図4】図3に示す回折格子によってタルボ像から生じるモアレを説明するための図である。
【図5】第2実施形態におけるX線撮像素子の構成を示す説明図である。
【図6】第2実施形態における光電変換部の構成を示す模式図である。
【図7】特許文献1に記載のX線撮像装置の概略的な構成を示す説明図である。
【図8】背景技術に係るX線撮像装置における第2回折格子とモアレ像とを説明するための上面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 X線撮像装置
11、11A X線撮像素子
12 回折格子(タルボ用回折格子)
13 X線源
111 X線変換素子(第2のX線変換素子)
111a 蛍光部
111b 非蛍光部
112 撮像素子
113 X線変換素子(第3のX線変換素子)
114 光電変換部
115 非変換部
20 電荷検出部(電荷検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を吸収して2次エネルギーを発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第1のX線変換素子と、
前記第1のX線変換素子による前記2次エネルギーの発生パターンを検出するパターン検出手段と、を含み、
前記第1のX線変換素子は、X線画像が入射される入射面を備えることを特徴とするX線撮像素子。
【請求項2】
前記第1のX線変換素子は、
X線画像が入射される第1面と、
前記2次エネルギーの発生パターンを検出するパターン検出手段と対向する第2面とを備えることを特徴とする請求項1に記載のX線撮像素子。
【請求項3】
前記2次エネルギーが可視光であり、
前記パターン検出手段が可視光を撮像する撮像素子であることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線撮像素子。
【請求項4】
前記2次エネルギーが電子若しくは正孔であり、
前記パターン検出手段が電子若しくは正孔により充電された電荷分布を検出可能な電荷検出手段であることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線撮像素子。
【請求項5】
前記X線画像が、X線タルボ画像であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のX線撮像素子。
【請求項6】
前記回折格子に相当するパターンは、一次元周期のパターンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のX線撮像素子。
【請求項7】
前記回折格子に相当するパターンは、二次元周期のパターンであることであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のX線撮像素子。
【請求項8】
前記二次元周期の周期構造が、正方格子配列又は三角格子配列であることを特徴とする請求項7に記載のX線撮像素子。
【請求項9】
X線を吸収して可視光を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第2のX線変換素子と、
可視光を撮像する撮像素子と、を含み、
前記第2のX線変換素子は、X線画像が入射される第1面と、前記撮像素子と対向する第2面とを備えることを特徴とするX線撮像素子。
【請求項10】
X線を吸収して電子若しくは正孔を発生する材料で形成された回折格子に相当するパターンを有する第3のX線変換素子と、
前記第3のX線変換素子が発生した電子若しくは正孔により充電された電荷分布を検出可能な電荷検出手段と、を含み、
前記第3のX線変換素子は、X線画像が入射される入射面を備えることを特徴とするX線撮像素子。
【請求項11】
X線を放射するX線源と、
前記X線源から放射されたX線によってタルボ効果を生じるタルボ用回折格子と、
前記タルボ用回折格子によって回折されたX線を撮像するX線撮像素子と、を備え、
前記X線撮像素子は、請求項1〜10のいずれか1項に記載のX線撮像素子であって、
前記X線変換素子は、前記タルボ用回折格子から実質的にタルボ距離離れた位置に配置されることを特徴とするX線撮像装置。
【請求項12】
X線タルボ画像を生成し、
該X線タルボ画像を、請求項1〜10のいずれか1項に記載のX線撮像素子に入射させることを特徴とするX線撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−224661(P2008−224661A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30502(P2008−30502)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】