説明

X線撮像装置

【課題】遮蔽格子を湾曲させることなく信号強度の向上を図ることが可能となるX線撮像装置を提供すること。
【解決手段】被検体を撮像するX線撮像装置は、X線源からのX線を回折することにより干渉パターンを形成する回折格子と、干渉パターンを形成するX線の一部を遮る遮蔽格子と、遮蔽格子からのX線の強度分布を検出するX線検出器を備える。
X線源から遮蔽格子へ引いた垂線と遮蔽格子との交点を遮蔽格子の中心とする。
また、遮蔽格子の中心との距離が所定の距離よりも小さい領域を遮蔽格子の中心部、遮蔽格子の中心との距離が所定の距離以上の領域を遮蔽格子の周辺部とする。このとき、遮蔽格子の中心部よりも遮蔽格子の周辺部の方が、X線が垂直に入射したときのX線透過率が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線の位相差を用いたX線位相イメージング法の一つとしてタルボ干渉法がある。
タルボ干渉法とは、透過型の回折格子を用いて、ある干渉条件で発現する干渉パターンから被検体の位相像を回復する方法である。
タルボ干渉法を用いて被検体を撮像するためには、空間的に可干渉なX線を出射するX線源、X線を回折する回折格子、回折格子がX線を回折することにより形成する干渉パターン(自己像)を検出するX線検出器が少なくとも必要である。X線源と位相格子の間に被検体を配置すると、被検体に照射されたX線は被検体を透過することにより位相がシフトする。
被検体を透過したX線が回折格子により回折されることで形成される自己像は被検体の位相情報を有するため、この自己像を検出し、解析すれば、被検体の位相像を得ることができる。
しかし、X線の干渉により形成される自己像は周期が小さいため、一般的な撮像装置に使用されるX線検出器では自己像を検出するのに空間分解能が不十分である場合が多い。
そのため、回折格子により回折されたX線が自己像を形成する位置(タルボ位置)に、X線透過部とX線遮蔽部が配列された回折格子である遮蔽格子(吸収格子)を配置してモアレを形成し、このモアレを検出する方法が行なわれている。被検体によるX線の位相シフトの情報はモアレの変形として検出することができるため、このモアレをX線検出器で検出すれば、被検体を撮像することができる。
【0003】
一般的な実験室などの室内で撮像を行う場合、X線源としてX線管を用い、更にX線源から検出器は数m以内である場合が多い。そのため、X線は点源からの発散X線である。この場合、遮蔽格子の周辺部分で、X線遮蔽部と遮蔽格子に入射するX線の平行性が大きくずれることになる。
そのため、遮蔽格子の周辺部では、遮蔽格子のX線遮蔽部に入射するX線の割合が高くなり、X線検出器の周辺部では強度分布のコントラストが低下する。
このような問題に対処するために、特許文献1には遮蔽格子を湾曲させたり、遮蔽格子の遮蔽部をX線源方向に傾けたりする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−206075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の、湾曲した遮蔽格子と、X線遮蔽部がX線源の方向に傾いた遮蔽格子は、作製が困難である。
【0006】
そこで本発明は、遮蔽格子を湾曲させたり、X線遮蔽部をX線源の方向に傾けたりすることなく、遮蔽格子の周辺部におけるX線の透過率を向上させることが可能なX線撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その目的を達成するために、本発明の一側面としての被検体を撮像するX線撮像装置は、
X線源からのX線を回折することにより干渉パターンを形成する回折格子と、前記干渉パターンを形成するX線の一部を遮る遮蔽格子と、前記遮蔽格子からのX線の強度分布を検出するX線検出器とを備え、
前記X線源から前記遮蔽格子へ引いた垂線と前記遮蔽格子との交点を前記遮蔽格子の中心とし、
前記遮蔽格子の中心との距離が所定の距離よりも小さい領域を前記遮蔽格子の中心部とし、
前記遮蔽格子の中心との距離が所定の距離以上の領域を前記遮蔽格子の周辺部とするとき、前記遮蔽格子の中心部よりも前記遮蔽格子の周辺部の方が、X線が垂直に入射したときのX線透過率が高いことを特徴とする。
本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、遮蔽格子を湾曲させたり、X線遮蔽部をX線源の方向に傾けたりすることなく、遮蔽格子の周辺部におけるX線の透過率を向上させることが可能なX線撮像装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係るX線撮像装置の概略図。
【図2】本発明の実施形態に係るX線遮蔽部の厚みを変化させた遮蔽格子の概略図。
【図3】本発明の実施形態に係るX線遮蔽部の幅を変化させた遮蔽格子の概略図。
【図4】参考例の結果を示す図。
【図5】従来のX線撮像装置における、遮蔽格子へのX線入射角度と透過率の関係を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について説明する。
図1〜図3を用いて、本実施形態のX線撮像装置の構成例について説明する。
図1に示したX線撮像装置は、X線源1、被検体2、回折格子として位相格子3、遮蔽格子4、遮蔽格子を透過したX線の強度分布を検出するX線検出器5を備えている。
位相格子3、遮蔽格子4、X線検出器5夫々は夫々のX線照射範囲の中心に対してX線10が垂直に入射するように配置されている。また、位相格子3、遮蔽格子4、X線検出器5はお互いに平行に配置されている。
本実施形態のX線撮像装置は、回折格子として位相を変調する位相格子を用いているが、タルボ干渉を発生させるものであればよく、振幅を変調する遮蔽格子を用いることもできる。
但し、X線利用効率の観点から見れば、回折格子として位相格子を用いることが好ましい。
位相格子3により、位相格子からタルボ距離分X線下流側に離れた位置に干渉パターン(自己像)が形成される。自己像の周期はX線が発散することにより生じるX線照射系の拡大率と位相格子の形状に依存するが、概ね1〜15μmの周期を有する。
【0011】
自己像のパターンは位相格子の形状に対応して1次元、もしくは2次元の明暗のパターンとなる。ここでは、自己像が1次元のパターンである場合について説明するが、本実施形態は自己像が2次元のパターンの場合に応用することもできる。
X線検出器5としてX線検出エリアセンサーを用いた場合には、一般的に画素サイズが数十μm以上であるため、直接この自己像を撮像することは難しい。
そのため、遮蔽格子により自己像の一部、例えば明部のみを遮蔽し暗部のみを検出素子に導くことにより撮像を可能としている。
遮蔽格子4はX線透過部とX線遮蔽部が配列した構造を有する。X線遮蔽部はX線の透過率が低い材料からなり、中心軸に平行な方向における遮蔽部の長さを遮蔽部の厚み、中心軸と直交する方向における遮蔽部の長さを遮蔽部の幅と呼ぶ。なお、ここでは、遮蔽格子4の格子面(X線源側の表面)からX線源1に引いた垂線を中心軸20、中心軸20と遮蔽格子の格子面との交点を遮蔽格子の中心41と定義する。
被検体の位相情報を取得する位相回復方法の例として、縞走査法とフーリエ変換法が挙げられる。
縞走査法は、自己像と遮蔽格子4の相対位置をずらしながらX線を複数回検出して被検体の位相情報を計算する。また、フーリエ変換法は、自己像と遮蔽格子でモアレを形成し、1回以上X線を検出して、そのパターンから被検体の位相情報を計算する。
本実施形態は位相回復方法を問わず、縞走査法もフーリエ変換法も、またその他の方法も用いることができる。
【0012】
ここで、本実施形態との比較のために、従来のX線撮像装置について図5を用いて説明をする。
図5に示されているように、中心軸200と遮蔽格子104の交点である遮蔽格子の中心114では、X線210の入射方向が遮蔽格子104のX線透過部230と平行になっている。
そのため、検出器の中心では良好なコントラストを有する画像が得られる。尚、検出器の中心とは、X線源から検出器のX線受光面へ引いた垂線とX線受光面の交点のことを指す。
また、遮蔽格子の中心114を透過したX線は検出器の中心へ入射する。
しかし、遮蔽格子104の周辺部ではX線210の入射方向と遮蔽格子104のX線透過部230が平行ではなく、透過させたいX線を遮蔽してしまう。
ここで、X線遮蔽部220のピッチをD、X線遮蔽部220の幅をw、X線遮蔽部220の厚みをh、X線源100からX線検出器までの距離をLとし、遮蔽格子の格子面上における遮蔽格子の中心からの距離をxとする。すると、

x=L(D−w)/h

で表される距離xよりも遮蔽格子の中心からの距離が長い領域では、例え格子面ではX線透過部に入射したX線であっても、遮蔽格子を透過するまでに一度はX線遮蔽部220に入射する。
その場合、遮蔽格子を透過したX線強度が遮蔽格子の中心114を透過したX線強度よりも低下し、X線検出器に入射するX線の強度も低下する。
すると、検出器による信号強度も低下し、その結果、S(シグナル)/N(ノイズ)が低下して、位相情報を取得することが困難になる可能性がある。
つまり、遮蔽格子を透過するX線の強度は、遮蔽格子の中心からの距離が長くなるに従い徐々に低下し、それに伴ってX線検出器による検出結果の信号強度も検出器の中心部からの距離が長くなるに従って低下する。
【0013】
本実施形態のX線撮像装置が備える遮蔽格子4は、遮蔽格子4の周辺部でのX線透過量を、遮蔽格子の中心41でのX線透過量に近づかせる。
そのために、X線が遮蔽格子に対して垂直に入射したときのX線透過率が、遮蔽格子の中心部よりも遮蔽格子の周辺部の方が高い構造を有する。
但し、遮蔽格子の中心部のX線透過率とは、中心部全体としてのX線透過率のことであり、X線透過率の平均値である。
例えば、遮蔽格子の中心部がX線透過率100%のX線透過部と、X線透過率0%のX線遮蔽部を同じ面積有する場合、その遮蔽格子の中心部のX線透過率は50%である。また、遮蔽格子の周辺部のX線透過率も同様である。
尚、遮蔽格子の中心部とは、遮蔽格子の中心41との距離が所定の距離よりも小さい領域であり、遮蔽格子の周辺部とは遮蔽格子の中心41との距離が所定の距離以上離れた領域のことを指す。所定の距離は任意の距離で良い。
【0014】
上述したように、従来のように遮蔽格子の中心部と遮蔽格子の周辺部で遮蔽部の厚さと遮蔽部の幅が等しい場合、遮蔽格子の中心との距離が上記式で表されるx以上の領域では、その領域に入射したX線が少なくとも1回はX線遮蔽部に入射する。そのため、所定の距離はx以下とすることが好ましい。
また、図5を用いて説明した従来例では、遮蔽格子の中心との距離がx/2の領域でも遮蔽格子の中心と比較して透過したX線の線量が低下していた。そのため、上述の所定の距離をx/2以下とすることがより好ましい。
遮蔽格子4のX線の透過率を遮蔽格子の周辺部で向上させる構造として、本実施形態では、X線遮蔽部の厚みを遮蔽格子の周辺部で薄くした構造と、X線遮蔽部の幅を狭くした構造の、大きく分けて2つの構造を採ることができる。
尚、本実施形態のように遮蔽部の厚みと幅の少なくともどちらか一方が遮蔽格子内で変化する場合、遮蔽格子の中心に最も近い遮蔽部の幅をw、遮蔽格子の中心に最も近い遮蔽部の厚みをh、とする。
尚、遮蔽格子の中心に最も近い遮蔽部とは、遮蔽格子の中心にX線遮蔽部があればその遮蔽部であり、遮蔽格子の中心にX線透過部があれば、遮蔽格子の中心との距離が最も小さい遮蔽部である。
【0015】
以下に、まず、X線遮蔽部の厚みを遮蔽格子の周辺部で薄くした構造について、図2を用いて説明する。
図2に示した遮蔽格子は遮蔽格子の中心との距離が長くなるにしたがってX線遮蔽部の厚みが連続的に薄くなっている。そのため、遮蔽格子の中心部と遮蔽格子の周辺部の境界をどこにとっても、遮蔽格子の中心部に配置されている遮蔽部の厚みの平均値よりも遮蔽格子の周辺部に配置されている遮蔽部の厚みの平均値の方が小さい。
図2に示した遮蔽格子4(4a,4b,4c)はX線遮蔽部32(32a,32b,32c)とX線透過部33(33a,33b,33c)が配列している。
X線遮蔽部32は、重元素から構成されていることが好ましい。例えば、金や鉛、ビスマス、もしくはそれらの元素が含まれる合金が利用可能である。
一方、X線透過部33は、軽元素で構成されていることが好ましい。
例えばSi、Al、C、Mgやこれらの元素が含まれる材料が利用可能である。また、図2中の上がX線源側、下がX線検出器側である。また、各々の図面の中央に遮蔽格子の中心軸20(20a,20b,20c)とその中心軸との交点41(41a、41b、41c)を示した。
図2(a)に示した遮蔽格子4aは、遮蔽格子の中心41aからの距離が長くなるほどX線遮蔽部の厚みが図2(a)中の上下ともに薄くなっている例である。図2(b)に示した遮蔽格子4bは、遮蔽格子の中心41bからの距離が長くなるほどX線遮蔽部の厚みが図2(b)中の上部で薄くなっている例である。
図2(c)に示した遮蔽格子4cは、遮蔽格子の中心41cからの距離が長くなるほどX線遮蔽部の厚みが図2(c)中の下部で薄くなっている例である。
遮蔽格子4cはX線遮蔽部の下部にX線透過部材34があり、このX線透過部材34の厚みは遮蔽格子の中心41cからの距離が長くなるほど厚くなっている。
【0016】
自己像が形成される位置に遮蔽格子を配置して撮像を行うタルボ干渉法では、遮蔽格子の遮蔽部の厚みは厚くてX線を有効に遮ることが出来る方が一般的には良い。しかし、図2に示した遮蔽格子は、上記のように遮蔽部の厚みを遮蔽格子の中心部からの距離が長くなるほど薄くすることで遮蔽格子の周辺部のX線透過量を遮蔽格子の中心のX線透過量に近づける。
上記の遮蔽格子の作製方法としては、例えば、図2(b)であれば、Si基板を用いて半導体プロセスで鋳型を形成した後、中心に近いほどAuが厚く付着するようにめっきで充填すれば良い。
また、図2(c)であれば、Si基板を用いて半導体プロセスで鋳型を形成した後、周辺部ほどNiが厚く付着するようにNiをめっきで充填してから、Niの上にAuをめっきで充填すれば良い。NiはAuと比較して軽元素であるので、X線の透過率が高い。
尚、図2に記載の遮蔽格子は遮蔽格子の中心から周辺部に向けて連続的に遮蔽部の厚みが薄くなっているが、例えば階段状のように非連続的に薄くしても良い。
【0017】
つぎに、X線遮蔽部の幅を狭くした構成について、図3を用いて説明する。
図3において図面左側に遮蔽格子の中心軸20dと遮蔽格子の中心41dが示してあり、図面右に行くほど遮蔽格子の中心41dとの距離が長い周辺部を表す。図3に示した遮蔽格子は遮蔽格子の中心との距離が長くなるにしたがってX線遮蔽部の幅が連続的に小さくなっている。
そのため、遮蔽格子の中心部と遮蔽格子の周辺部の境界をどこにとっても、遮蔽格子の中心部に配置されている遮蔽部の幅の平均値よりも遮蔽格子の周辺部に配置されている遮蔽部の幅の平均値の方が小さい。
図3において、遮蔽格子の中心に近い部分(遮蔽格子の中心部)400に入射するX線47の入射方向は遮蔽格子の面と垂直、すなわちX線遮蔽部44の厚み方向と平行となっている。しかし、遮蔽格子の周辺部401に入射するX線48の入射方向はX線遮蔽部42の厚み方向に対して斜めである。
更に、遮蔽格子の周辺部401よりも遮蔽格子の中心からの距離が長い遮蔽格子の端部402に入射するX線49の入射方向はX線遮蔽部43の厚み方向に対して更に斜めである。つまり、遮蔽格子の周辺部401におけるX線48の入射方向とX線遮蔽部42の厚み方向のなす角度よりも、遮蔽格子の端部402におけるX線49の入射方向とX線遮蔽部43の厚み方向のなす角度の方が大きい。
【0018】
遮蔽格子の中心部400と、遮蔽格子の周辺部401、遮蔽格子の端部402はX線遮蔽部の厚みとピッチDは同じであるが、X線遮蔽部の幅は遮蔽格子の中心からの距離が長くなるほど小さくなっている。
例えば、遮蔽格子の中心部400のX線遮蔽部44の幅w1はピッチの半分のD/2であるが、遮蔽格子の周辺部401のX線遮蔽部42の幅w2はD/3であり、遮蔽格子の端部402のX線遮蔽部43の幅w3はD/4となる。
遮蔽格子の中心41dからの距離が長くなるほどX線遮蔽部の幅を狭くすることにより、遮蔽格子に入射したX線の一部がX線遮蔽部に入射しないで遮蔽格子を透過する。
これにより、遮蔽格子の周辺部401と端部402を透過したX線の強度が遮蔽格子の中心部400を透過したX線の強度に近づき、検出器の周辺部における信号の振幅も比較例よりも大きく計測されることになる。
尚、ここでは説明のために周辺部と端部という言葉を用いたが、遮蔽格子の周辺部は上述のように、遮蔽格子の中心からの距離が所定の距離よりも長い範囲であり、周辺部401も端部402も遮蔽格子の周辺部の一部である。
【0019】
図3に示した遮蔽格子の作製には、例えばSi基板を用い、遮蔽格子の中心からの距離が長くなるにつれてX線遮蔽部の幅を狭くした鋳型を形成し、Auをめっきにて充填すれば良い。
また、図2に示した遮蔽格子同様、X線遮蔽部の幅は遮蔽格子の中心からの距離が長くなるにつれて連続的に狭くしても良いし、非連続的に狭くしても良い。
以上のような本実施形態の構成によれば、X線が点光源から発散していることによる遮蔽格子の周辺部におけるX線透過量の低下を抑制することができるため、X線検出器の周辺部における信号強度低下を抑制することが可能になる。
また、遮蔽格子の周辺部の透過率を向上させるための2種類の手法を説明したが、基本的にはX線遮蔽部の厚みを薄くする方法でもX線遮蔽部の幅を狭くする方法でも同様の効果が得られる。
また、同時に2種類の方法を組み合わせることも可能である。また、遮蔽格子は平板状でなく、例えば湾曲していても良い。
本実施形態の方法を用いれば、X線の波面に沿うほど遮蔽格子を湾曲させなくても、遮蔽格子の周辺部を透過するX線量が遮蔽格子の中心部を透過したX線量に近づかせることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、図2(a)に示したような、遮蔽格子の中心からの距離が長くなるにつれてX線遮蔽部の厚みを薄くするX線撮像装置の構成例について数値計算を行った。撮像装置の構成は図1に示した撮像装置の構成と同様であり、X線源と位相格子と遮蔽格子とX線検出器を備える。
X線源からのX線のエネルギーは17.5KeVであり、位相格子は1次元の位相格子を利用し、遮蔽格子にはピッチ9.6μmの1次元の遮蔽格子を用いた。この遮蔽格子において、遮蔽格子の中心に最も近いX線遮蔽部の厚さは50μmであり、幅は4.8μmである。
また、X線源からX線検出器までの距離は120cmとした。
この条件から上述の式より距離xは11.5cmであり、遮蔽格子の中心との距離が11.5cm以上の領域を周辺部とする。
従来の一般的な遮蔽格子のように、遮蔽格子に配置されているX線遮蔽部の厚みが50μmで均一である場合、遮蔽格子の周辺部に入射したX線は、少なくとも一度はX線遮蔽部に入射し、X線強度が減衰する。それにより、検出器で検出される信号振幅も低下する。
【0021】
本実施例では、遮蔽格子の中心から11.5cmの位置におけるX線遮蔽部の厚みを40、30、20、15、10、5μmにする。
すると、検出器で検出される自己像の信号振幅は、X線遮蔽部の厚みが50μmのときと比較して順番に、約2.1倍、3.1倍、3.9倍、4.1倍、4.1倍、3.1倍となる。
信号のベースラインは上昇するものの、信号振幅が上昇する。特に本実施例の場合にはX線遮蔽部の厚みが10〜20μm程度のとき、X線遮蔽部の厚みが50μmのときと比較して振幅が大きく増大する。
Au10μmのX線(エネルギー17.5KeV)の透過率は約12%程度、15μmでは約4%程度、20μmでは約1.4%程度であり、また5μmでは65%程度である。
X線遮蔽部にX線が垂直に入射したときのX線透過率を65%程度まで上げても、上述の実施形態の効果を得られることが分かる。
これらのことから、遮蔽格子の中心から距離x離れた位置に配置されたX線遮蔽部に対してX線が垂直に入射したときのX線透過率は65%以下、1.4%以上であることが好ましい。
更に、遮蔽格子の中心から距離x離れた位置に配置されたX線遮蔽部に対してX線が垂直に入射したときのX線透過率は12%以下であることがより好ましい。尚、本実施例では、遮蔽格子の中心からちょうど11.5cmの位置にX線遮蔽部が配置されているとみなして数値計算を行った。
遮蔽格子の中心からちょうど11.5cmの位置にはX線遮蔽部が配置されていない場合でも、遮蔽部のピッチは小さいため、遮蔽格子の中心との距離が11.5cmに最も近い遮蔽部の厚みを本実施例のように設定することで同様の効果を得ることができる。
【0022】
[実施例2]
実施例2は、図3に示した遮蔽格子のような、遮蔽格子の中心からの距離が長くなるにつれてX線遮蔽部の幅を狭くするX線撮像装置の構成例について数値計算を行った。
本実施例において、遮蔽格子以外のX線撮像装置の構成は実施例1と同じである。
遮蔽格子の中心から11.5cmの位置におけるX線遮蔽部の幅を4.8μmから3.8、2.9、1.9、1.4、1.0、0.5μmと減少させる。
すると、検出器により検出される自己像の信号振幅はX線遮蔽部の幅が4.8μmのときと比較して順番に、約2.1倍、3.1倍、3.9倍、4.1倍、4.1倍、3.1倍となる。
信号のベースラインは上昇するものの、X線遮蔽部の幅が4.8μmのときと比較して信号振幅は上昇する。
例えば、X線遮蔽部の幅が0.5μmのときと、2.9μmのときは共にX線遮蔽部の幅が4.8μmのときよりも信号振幅が3倍以上大きい。
そのため、遮蔽格子の周辺部でのX線遮蔽部の幅は遮蔽格子の中心部でのX線遮蔽部の幅の80%以下、10%以上でも上述の実施形態の効果を得られることが分かる。
特に本実施例の場合にはX線遮蔽部の幅が1〜2μm程度のときに信号振幅が大きく増大する。
そのため、遮蔽格子の周辺部でのX線遮蔽部の幅は遮蔽格子の中心部でのX線遮蔽部の幅の40%以下、20%以上であることが好ましい。
【0023】
[参考例]
本参考例においては、遮蔽格子の遮蔽部の厚みと、その遮蔽格子を透過したX線を検出するX線検出器による検出結果の関係について図4を用いて説明する。本参考例において、基本的なX線撮像装置の構成は実施例1と同じであるが、X線源とX線検出器の間は112cm、X線のエネルギーは30keV、遮蔽格子のピッチは3.7μmとした。
また、位相格子と遮蔽格子は2次元の周期構造を持つ2次元格子であり、遮蔽格子はメッシュ状のパターンを有する。
遮蔽格子のX線遮蔽部がAuからなり、そのX線遮蔽部の厚みが遮蔽格子の全面で60μmの遮蔽格子と、40μmの遮蔽格子と、20μmの遮蔽格子を夫々用いた場合にX線検出器により検出されるモアレとその断面強度プロファイルを図4に示す。
図4中で、左側が夫々検出器により検出されるモアレであり、右側が夫々のモアレの断面強度プロファイルである。
図4(a)は遮蔽部の厚みが60μmの遮蔽格子を用いた場合に検出されるモアレとその断面強度プロファイルである。
同様に、図4(b)は遮蔽部の厚みが40μmの遮蔽格子を用いた場合に検出されるモアレとその断面強度プロファイルであり、図4(c)は遮蔽部の厚みが20μmの遮蔽格子を用いた場合に検出されるモアレとその断面強度プロファイルである。
【0024】
図4から、X線遮蔽部の厚みを薄くすると、2次元の場合でも検出器の周辺部のモアレの信号振幅が大きくなり、検出器の中心部のモアレの信号振幅に近づくことが分かる。
しかし、同時に、図4から、X線遮蔽部の厚みを薄くすると、検出器の中心部のモアレの信号振幅が小さくなることが分かる。
これらのことから、検出器の中心部の信号振幅の減少を抑制しつつ検出器の周辺部の信号振幅を増大させるために、本発明の実施形態と実施例に示したX線撮像装置が効果的である。
尚、本比較例のX線遮蔽部にX線が垂直に入射した場合のX線透過率はAuの厚み60、40、20μmに対してそれぞれ4、12、35%である。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
1:X線源
2:被検体
3:位相格子
4:遮蔽格子
5:X線検出器
21:X線
22:X線吸収部
23、24:X線透過部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源からのX線を回折することにより干渉パターンを形成する回折格子と、
前記干渉パターンを形成するX線の一部を遮る遮蔽格子と、
前記遮蔽格子からのX線の強度分布を検出するX線検出器とを備え、被検体を撮像する撮像装置であって、
前記X線源から前記遮蔽格子へ引いた垂線と前記遮蔽格子との交点を前記遮蔽格子の中心とし、
前記遮蔽格子の中心から所定の距離よりも前記遮蔽格子の中心に近い領域を前記遮蔽格子の中心部とし、
前記遮蔽格子の中心から所定の距離以上離れた領域を前記遮蔽格子の周辺部とするとき、
前記遮蔽格子の中心部よりも前記遮蔽格子の周辺部の方が、X線が垂直に入射したときのX線透過率が高いことを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記遮蔽格子は、X線を遮る複数の遮蔽部を有し、
前記複数の遮蔽部の夫々は、前記垂線と平行な方向に厚みを持ち、
前記複数の遮蔽部のうち前記遮蔽格子の中心部に配置されている遮蔽部の厚みの平均値よりも前記遮蔽格子の周辺部に配置されている遮蔽部の厚みの平均値の方が小さい請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記遮蔽格子は、X線を遮る複数の遮蔽部を有し、
前記複数の遮蔽部の夫々は、前記垂線と直交する方向に幅を有し、
前記複数の遮蔽部のうち遮蔽格子の中心部に配置されている遮蔽部の幅の平均値よりも前記遮蔽格子の周辺部に配置されている遮蔽部の幅の平均値の方が小さい請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記遮蔽格子は、X線を遮る複数の遮蔽部を有し、
前記X線源から前記遮蔽格子までの距離をL、前記複数の遮蔽部のピッチをD、前記複数の遮蔽部のうち前記遮蔽格子の中心に最も近い遮蔽部の幅をw、前記複数の遮蔽部のうち前記遮蔽格子の中心に最も近い遮蔽部の厚みをh、とするとき、
前記遮蔽格子の周辺部は、前記遮蔽格子の中心から下記式のxで表される距離以上離れた領域を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
x=L(D−w)/h

但し、前記遮蔽部の幅とは前記垂線と直交する方向における遮蔽部の長さであり、前記遮蔽部の厚みとは前記垂線と平行な方向における遮蔽部の長さである。
【請求項5】
前記遮蔽格子の周辺部に配置された前記遮蔽部のうち前記遮蔽格子の中心との距離が前記距離xに最も近い遮蔽部の厚みが、
前記X線が該遮蔽部に垂直に入射したときに前記X線の透過率が65%以下、1.4%以上になる厚みである請求項4に記載のX線撮像装置。
【請求項6】
前記遮蔽格子の周辺部に配置された前記遮蔽部のうち前記遮蔽格子の中心との距離が前記距離xに最も近い遮蔽部の幅が、
前記遮蔽格子の中心に最も近い遮蔽部の幅の80%以下、10%以上である請求項4に記載のX線撮像装置。
【請求項7】
前記遮蔽格子の周辺部は、前記遮蔽格子の中心から下記式のx/2で表される距離以上離れた領域を有する請求項4乃至6のいずれか1項に記載のX線撮像装置。

x/2=L(D−w)/2h

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−208114(P2012−208114A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53972(P2012−53972)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】