X線撮影装置及びX線画像システム
【課題】高精度を要求される精密部品への衝撃や振動の影響を防止しつつ、輸送性、保管性に優れたX線撮影装置、及びこれを用いたX線画像システムを提供する。
【解決手段】マルチ格子12、第1格子14及び第2格子15のうちの少なくとも1つをX線の照射方向と直交する方向に、マルチ格子12または第1格子14若しくは第2格子15に対して相対移動させながら撮影を行い、一定周期間隔のモアレ画像を複数得るX線撮影装置1であって、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140及び第2格子ユニット150は、それぞれが共通の基台部19に着脱自在に構成されており、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140及び第2格子ユニット150のうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における平行度を調整可能とするθx回転用モータ125bが設けられている。
【解決手段】マルチ格子12、第1格子14及び第2格子15のうちの少なくとも1つをX線の照射方向と直交する方向に、マルチ格子12または第1格子14若しくは第2格子15に対して相対移動させながら撮影を行い、一定周期間隔のモアレ画像を複数得るX線撮影装置1であって、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140及び第2格子ユニット150は、それぞれが共通の基台部19に着脱自在に構成されており、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140及び第2格子ユニット150のうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における平行度を調整可能とするθx回転用モータ125bが設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影装置及びX線画像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
診断に用いられる医療用のX線画像のほとんどは、吸収コントラスト法による画像である。吸収コントラスト法は、X線が被写体を透過したときのX線強度の減衰の差によりコントラストを形成する。一方、X線の吸収ではなく、X線の位相変化によってコントラストを得る位相コントラスト法が提案されている。例えば、拡大撮影時のX線の屈折を利用したエッジ強調によって視認性の高いX線画像を得る位相コントラスト撮影が行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
吸収コントラスト法は骨等のX線吸収が大きい被写体の撮影に有効である。これに対し、位相コントラスト法はX線吸収差が小さく、吸収コントラスト法によっては画像として現れにくい乳房の組織や関節軟骨、関節周辺の軟部組織をも画像化することが可能であり、X線画像診断への適用が期待されている。
【0004】
位相コントラスト撮影の1つとして、タルボ効果を利用するタルボ干渉計も検討されている(例えば、特許文献3〜5)。タルボ効果とは、一定の周期でスリットが設けられた第1格子を干渉性の光が透過すると、光の進行方向に一定周期でその格子像を結ぶ現象をいう。この格子像は自己像と呼ばれ、タルボ干渉計は自己像を結ぶ位置に第2格子を配置し、この第2格子をわずかにずらすことで生じる干渉縞(モアレ)を測定する。第2格子の前に物体を配置するとモアレが乱れることから、タルボ干渉計によりX線撮影を行うのであれば、第1格子の前に被写体を配置して干渉性X線を照射し、得られたモアレの画像を演算することによって被写体の再構成画像を得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−268033号公報
【特許文献2】特開2008−18060号公報
【特許文献3】特開昭58−16216号公報
【特許文献4】国際公開第2004/058070号パンフレット
【特許文献5】特開2007−203063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実用化を考慮すると、X線源と第1格子との間にマルチ格子(マルチスリット)を設置し、X線の照射線量を増大させるタルボ・ロー干渉計が期待される。
タルボ・ロー干渉計を、例えばリウマチ診断のためのX線撮影に用いる場合、X線撮影装置を天井から床への重力方向にX線を照射する縦型とすることが好ましい。縦型であれば、リウマチが発症しやすい手等を撮影しやすく、またX線撮影装置の省設置面積化をはかることができる。
【0007】
しかし、このようなタルボ干渉計、タルボ・ロー干渉計を用いたX線撮影装置では、縞走査法により再構成画像を作成する場合、従来のタルボ・ロー干渉計であれば、第1格子又は第2格子を移動しながら(両格子を相対移動させながら)、両格子の相対位置に応じた縞の位相の異なるモアレ画像(以後、一定周期間隔のモアレ画像と呼ぶ)が複数撮影される。この撮影における各格子の移動量は極僅かであり、適切にモアレ画像を撮影するためには、各格子を高精度に微調整することが必要となる。
【0008】
特にこのマルチ格子、第1格子及び第2格子は極めて高精度の精密部品であり、装置の輸送中や保管中の外部からの衝撃・振動や温度変化をできる限り避ける必要がある。
このため、装置を組み立てた状態で輸送又は保管しようとすると、特に精密部品であるマルチ格子、第1格子及び第2格子を頑丈に梱包するために、全体がかなり大きくなり、場所をとるため、輸送や保管にかかる費用が増大するという問題がある。
【0009】
また、装置を病院等の施設内に設置した後も、被写体台の上に患者が手等を載せたときの振動や、患者の身体が被写体台に当たった際の衝撃がマルチ格子、第1格子及び第2格子といった精密部品に伝わると、高精度な移動制御ができないことが懸念されるため、振動の影響が無くなるまで撮影を待機しなければならず、円滑・迅速な撮影処理を行うことができない。
また、撮影の途中で被写体台から衝撃や振動がマルチ格子、第1格子及び第2格子といった精密部品に伝わることにより、各格子の位置等がずれてしまった場合には、適切なモアレ画像を得ることができなくなり、再撮影が必要となって、患者に無駄な被曝をさせることとなってしまう。
【0010】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、高精度を要求される精密部品への衝撃や振動の影響を防止しつつ、輸送性、保管性に優れたX線撮影装置、及びこれを用いたX線画像システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明によれば、
X線を照射するX線源と、
複数のスリットを有するマルチ格子、第1格子及び第2格子と、
前記マルチ格子、前記第1格子、及び前記第2格子のうちの少なくとも1つを移動させる移動部と、
被写体台と、
照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取るX線検出器と、
を備え、
前記移動部により、前記マルチ格子、前記第1格子及び前記第2格子のうちの少なくとも1つを前記X線の照射方向と直交する方向に、前記マルチ格子または前記第1格子若しくは前記第2格子に対して相対移動し、前記少なくとも1つがが一定周期間隔で移動する毎に、前記X線源により照射されたX線に応じて前記X線検出器が画像信号を読み取る処理を繰り返し、一定周期間隔のモアレ画像を複数得るX線撮影装置であって、
前記マルチ格子を含むマルチ格子ユニット、前記第1格子を含む第1格子ユニット及び前記第2格子を含む第2格子ユニットは、それぞれが共通の基台部に着脱自在に構成されており、
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における平行度(相対的な平行度)を調整可能とする煽り調整機構が設けられているX線撮影装置が提供される。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における相対距離を調整可能とする相対距離調整機構が設けられている請求項1に記載のX線撮影装置が提供される。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのそれぞれに、前記煽り調整機構及び前記相対距離調整機構が設けられている請求項2に記載のX線撮影装置が提供される。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、
前記X線源は、平行度及び相対距離を調整された前記マルチ格子、前記第1格子及び前記第2格子のスリット方向に対する取付方向が変更可能に構成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のX線撮影装置が提供される。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のX線撮影装置と、
前記X線撮影装置によって得られたモアレ画像を処理し、被写体の再構成画像を作成する画像処理装置と、
を備えるX線画像システムが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の撮影装置によれば、タルボ・ロー干渉計を用いたX線撮影装置において、マルチ格子を含むマルチ格子ユニット、第1格子を含む第1格子ユニット及び第2の格子を含む第2格子ユニットがそれぞれ共通の基台部に着脱自在に構成されているため、装置の輸送時や倉庫等における保管時には、このマルチ格子ユニット、第1格子ユニット及び第2格子ユニットを基台部から取り外した状態とすることができる。
これにより、基台部については厳重な梱包をする必要がなく、マルチ格子ユニット、第1格子ユニット及び第2格子ユニットのみ梱包を厳重にすれば足りる。このため、輸送時や保管時に車両や倉庫内に装置をコンパクトに収容することができ、輸送・保管に要するコストを抑えることができる。
また、マルチ格子ユニット、第1格子ユニット及び第2の格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、マルチ格子、第1格子及び第2の格子相互間における平行度を調整可能とする煽り調整機構が設けられているため、各格子間の平行度(相対的な平行度)を適切に調整して、高精度のモアレ画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係るX線撮影装置を含むX線画像システムの模式的な側面図である。
【図2】図1に示すX線撮影装置の上面図である。
【図3】図1に示すX線撮影装置の具体的構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示すX線撮影装置の各構成部を分離した状態を示す斜視図である。
【図5】図1に示すX線撮影装置のX線源の向きを変更した状態を示す斜視図である。
【図6】図5に示すX線撮影装置の各構成部を分離した状態を示す斜視図である。
【図7】マルチ格子ユニットの斜視図である。
【図8】マルチ格子ユニットがX線源の下方に配置された状態を示す斜視図である。
【図9】励磁電流とマルチ格子の変位量との関係を示すグラフ図である。
【図10】マルチ格子の平面図である。
【図11】第1格子ユニット及び第2格子ユニットを基台部に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図12】第1格子ユニットの斜視図である。
【図13】第1格子ユニットの斜視図である。
【図14】第1格子ユニットの斜視図である。
【図15】本体部の機能的構成を示すブロック図である。
【図16】タルボ干渉計の原理を説明する図である。
【図17】X線撮影装置によるX線撮影時の処理を示すフローチャートである。
【図18】コントローラによる処理を示すフローチャートである。
【図19】5ステップの撮影により得られるモアレ画像を示す図である。
【図20】各ステップのモアレ画像の注目画素のX線相対強度を示すグラフである。
【図21】横型のX線撮影装置の側面図である。
【図22】(a)被写体を配置し、マルチ格子を移動して撮影された各ステップのモアレ画像である。(b)被写体を配置せずに、マルチ格子を移動して撮影された各ステップのモアレ画像である。(c)(a)のモアレ画像を用いて作成された再構成画像である。
【図23】(a)被写体を配置し、第2格子を移動して撮影された各ステップのモアレ画像である。(b)被写体を配置せずに、第2格子を移動して撮影された各ステップのモアレ画像である。(c)(a)のモアレ画像を用いて作成された再構成画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者等は鋭意検討を行った結果、第1格子の第2格子に対する相対移動、又は第2格子の第1格子に対する相対移動により複数枚のモアレ画像を生成する機能と、マルチ格子(マルチスリット)によりX線の照射線量を増大させる機能という、従来のタルボ・ロー干渉計の概念にとらわれず、第1の格子及び第2の格子の位置は固定(相対移動無し)とし、マルチ格子を当該第1及び第2の格子に対し、相対移動させる構成によっても、従来のタルボ・ロー干渉計と同様のモアレ画像が得られることを見出した。これにより、従来のタルボ・ロー干渉計に於ける課題、特に縦型に配置した際に想定される課題を解消することができ、タルボ・ロー干渉計を用いた縦型のX線撮影装置を実用化することが可能となる。
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るX線撮影装置及びこれを用いたX線画像システムの一実施形態について説明する。
【0020】
図1は本実施形態に係るX線画像システムを模式的に示したものであり、図2は、図1に示すX線撮影装置1を上方から見た平面図である。
X線画像システムは、X線撮影装置1とコントローラ5を備えている。X線撮影装置1はタルボ・ロー干渉計によるX線撮影を行い、コントローラ5は当該X線撮影により得られたモアレ画像を用いて被写体の再構成画像を作成する。
【0021】
X線撮影装置1は、図1に示すように、X線源11、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16、支柱17、本体部18、基台部19を備えている。
本実施形態におけるX線撮影装置1は縦型であり、X線源11、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16は、この順序に重力方向であるz方向に沿って配置されている。
なお、図1中、X線源11の焦点とマルチ格子12間の距離をd1(mm)、X線源11の焦点とX線検出器16間の距離をd2(mm)、マルチ格子12と第1格子14間の距離をd3(mm)、第1格子14と第2格子15間の距離をd4(mm)で表す。
【0022】
距離d1は好ましくは3〜500(mm)であり、さらに好ましくは4〜300(mm)である。
距離d2は、一般的に放射線科の撮影室の高さは3(m)程度又はそれ以下であることから、少なくとも3000(mm)以下であることが好ましい。なかでも、距離d2は400〜2500(mm)が好ましく、さらに好ましくは500〜2000(mm)である。
X線源11の焦点と第1格子14間の距離(d1+d3)は、好ましくは300〜5000(mm)であり、さらに好ましくは400〜1800(mm)である。
X線源11の焦点と第2格子15間の距離(d1+d3+d4)は、好ましくは400〜5000(mm)であり、さらに好ましくは500〜2000(mm)である。
それぞれの距離は、X線源11から照射されるX線の波長から、第2格子15上に第1格子14による格子像(自己像)が重なる最適な距離を算出し、設定すればよい。
【0023】
図3は、図1及び図2に示すX線撮影装置1の構成を具体的に示した斜視図であり、図4は、X線撮影装置1の各構成部を分離した状態を示す斜視図である。
図3及び図4に示すように、本実施形態におけるX線撮影装置1は、X線源11を支持する支柱17と、マルチ格子12を含むマルチ格子ユニット120、第1格子14を含む第1格子ユニット140、第2格子15を含む第2格子ユニット150及びX線検出器16が取り付けられている基台部19と、被写体台13とに大きく分離することができる。
【0024】
X線源11には、ほぼコ字状に形成された固定用部材111が取付用アーム112を介して取り付けられている。本実施形態において、支柱17は、四角柱形状となっており、固定用部材111は、支柱17を側面から挟み込むようにして支柱17に取り付けられ、固定されている。
取付用アーム112の一部には緩衝部材17a(図1参照)が設けられており、X線源11は、この緩衝部材17aを介して保持されている。緩衝部材17aは、衝撃や振動を吸収できる材料であれば何れの材料を用いてもよいが、例えばエラストマー等が挙げられる。X線源11はX線の照射によって発熱するため、X線源11側の緩衝部材17aは衝撃や振動を吸収できる材料であることに加えて断熱材料であることが好ましい。
【0025】
X線源11はX線管を備え、当該X線管によりX線を発生させて重力方向(z方向)にX線を照射する。X線管としては、例えば医療現場で広く一般に用いられているクーリッジX線管や回転陽極X線管を用いることができる。陽極としては、タングステンやモリブデンを用いることができる。
X線の焦点径は、0.03〜3(mm)が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1(mm)である。
【0026】
また、本実施形態では、X線源11は、図5及び図6に示すように、取付用アーム112の一部がほぼ90度屈曲することにより、平行度及び相対距離を調整されたマルチ格子12、第1格子14、第2格子15のスリットの方向に対してX線源11の取付方向がほぼ90度回転可能に構成されている。
本実施形態において、X線源11のX線管の焦点形状は完全な円形ではなく、僅かに楕円形状となっており、後述するモアレ画像を取得する際の撮影では、X線管の向きを変えることによって適切なモアレ画像を得ることができる場合がある。このため、X線源11をほぼ90度回転させることにより、X線管の焦点形状に由来する不具合を解消することができる。
なお、X線源11を、マルチ格子12、第1格子14及び第2の格子15のスリット方向に対する取付方向を変更可能とする構成はここに例示したものに限定されない。例えば、固定用部材111の取付位置を変えることによりX線源11の取付方向を変更可能としてもよい。また、X線源11の取付方向の変更は90度だけでなく、さらに細かく角度設定が可能となるように構成してもよい。
【0027】
マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150及びX線検出器16は、同一の基台部19の上に保持され、z方向における位置関係が固定されている。マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150は、重力方向(z方向)と直交する方向に延展せしめられており、ねじ等により、それぞれ基台部19に対して着脱自在に取り付けられている。
また、X線検出器16は、基台部19に設けられている検出器支持台191の上に、緩衝部材192を介して載置されている。
なお、基台部19は支柱17に対してz方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0028】
図7は、マルチ格子ユニット120の斜視図である。
図7に示すように、マルチ格子ユニット120は、基台部19に取り付けられるほぼL字状の基台取付部121とこの基台取付部121の上に載置されるマルチ格子ユニット本体122を備えている。
この基台取付部121における床面に対してほぼ水平に配置されている面には、マルチ格子ユニット本体122をx方向に移動させるためのリニアガイド123が設けられている。
基台取付部121は、基台部19への取り付け位置を調整することにより、マルチ格子12と、第1格子14や第2の格子15との間における相対距離を調整可能とするものである。また、マルチ格子ユニット本体122には、相対距離微調整機構部127が設けられている。相対距離微調整機構部127は、その重力方向(上下方向)の長さを変えることでマルチ格子12の重力方向(上下方向)の位置を調整するものである。本実施形態では、基台取付部121と相対距離微調整機構部127とにより、マルチ格子12と、第1格子14や第2の格子15との間における相対距離を調整する相対距離調整機構が構成される。
なお、比較的重量物であるマルチ格子ユニットを扱う際の作業性や安全性、及び、位置調整のやり易さの両観点からは、前者と後者の機能を分離する方が好ましく、取付位置は位置決めピン等により仮固定し(調整不可)、ネジ等で基台部19に螺合(固定)する構造とし、固定終了後、作業者が両手を自由に使って、マルチ格子ユニット本体122内に設けた相対距離微調整機構部127により相対距離を微調整する構造とすることが好ましい。
【0029】
マルチ格子ユニット本体122には、マルチ格子12が支持されている他、マルチ格子12を移動させるためのマルチ格子駆動部125として、x方向移動用モータ125a、マルチ格子12をx方向に回転させるためのθx回転用モータ125b、マルチ格子12をy方向に回転させるためのθy回転用モータ125c、マルチ格子12をz方向に回転させるためのθz回転用モータ125dが設けられている。
本実施形態では、マルチ格子12は、図8に示すように、X線源11の下方からX線源11の内部に挿入されており、X線管の焦点位置のすぐ近くに配置されるようになっている。
【0030】
x方向移動用モータ125aは、通電駆動される駆動源であり、例えばパルス信号に正確に同期して動作するステッピングモータ(パルスモータ)等、高精度の動作制御を行うことのできるモータにより構成されている。x方向移動用モータ125aに適用されるステッピングモータとしては、例えば、オリエンタルモーター株式会社製の5相ステッピングモータ(型式:PX533MH-B)等の5相ステッピングモータが望ましく、5相でも高分解能タイプが好ましい。すなわち、一般的には基本ステップ角:0.72°であるが、高分解能タイプでは基本ステップ角:0.36°であり、このようなモータが好適に用いられる。更に、ステップ数を細分化できるマイクロステップによる制御を行うことが好ましい。
本実施形態では、駆動源であるx方向移動用モータ125aが駆動すると、当該駆動源の出力を被駆動部であるマルチ格子12を含むマルチ格子ユニット120の本体まで伝達する伝達系を構成する図示しないボールねじが回転し、マルチ格子12を含むマルチ格子ユニット120の本体がリニアガイド123にガイドされてx方向に移動するようになっている。
駆動源であるx方向移動用モータ125aと伝達系であるボールねじ及びリニアガイドによってマルチ格子ユニット120の移動部が構成されており、この移動部は重力方向(z方向)と直交する方向に移動する移動要素のみにより構成されている。
【0031】
また、本実施形態では、マルチ格子12を移動させる際には、x方向移動用モータ125aの出力を最大とするが、X線照射時には、マルチ格子駆動部125は、x方向移動用モータ125aへの通電電流が、当該モータの出力を最大としたときにマルチ格子12に生じる変位量の50%以下となるような電流値となるようにx方向移動用モータ125aへの通電電流値を調整するようになっている。
【0032】
マルチ格子12を移動させながら複数回の撮影を行う場合、マルチ格子12の位置を高精度に維持するために、x方向移動用モータ125aに電流をかけて励磁することによりその自己保持力で位置を固定しておく必要がある。また、マルチ格子12を移動させながら複数回の撮影を行う場合には、現時点でのマルチ格子12の位置を次の移動の際の基点としてマルチ格子12を順次移動させていくが、電源を停止させてしまうと、現時点でのマルチ格子12の位置を次の移動の際にフィードバックさせることができなくなってしまう。このため、マルチ格子12を移動させていないとき(すなわち、X線照射時)でも、所定の複数回の撮影が終了するまでは、x方向移動用モータ125aに電流をかけ続けておく必要がある。
他方で、励磁する際にx方向移動用モータ125aにかける電流の電流値が高いと、x方向移動用モータ125aが発熱するとともに、微振動を生じ、これがボールねじに伝わる等により、マルチ格子12の位置に微細な変位を生じさせてしまう。
【0033】
図9は、横軸に時間(min)をとり、縦軸にマルチ格子12の変位量(μm)と温度変化(℃)をとって、励磁電流値と、温度変化及びマルチ格子12の変位量との関係を示したグラフである。
図9において、マルチ格子12の変位量は、初期状態のマルチ格子12の位置をゼロとしたときに励磁電流値及び温度変化によってどれだけマルチ格子12が移動方向(x方向)に変位するかを測定したものである。また、温度上昇値は、各電流値の励磁電流をかけた際のx方向移動用モータ125aの温度変化を測定したものである。
図9に示すように、励磁電流値を当該モータの出力を最大としたときの90%程度とすると、時間の経過に伴ってx方向移動用モータ125aの温度が上昇するとともに、マルチ格子12の変位量も大きくなっていき、1.4μmを超える変位量となる。これに対して、励磁電流値を当該モータの出力を最大としたときの27%程度とすると、時間が経過してもx方向移動用モータ125aの温度はそれほど上昇せず、マルチ格子12の変位量も0.3μm程度に止まる。また、励磁電流値を当該モータの出力を最大としたときの50%程度とした場合でも、時間経過に伴うx方向移動用モータ125aの温度上昇はそれほど大きくなく、マルチ格子12の変位量も0.45μm程度に止まる。
【0034】
ここで、適切なモアレ画像を得るためには、x方向移動用モータ125aによるマルチ格子12の格子送り精度は、格子送り量の1/10以下である必要がある。例えば、マルチ格子12を5回移動させて5回撮影することによりモアレ画像を得る場合には、格子ピッチの1/5ずつマルチ格子12を移動させる。また、マルチ格子12を3回移動させて3回撮影することによりモアレ画像を得る場合には、格子ピッチの1/3ずつマルチ格子12を移動させることとなる。したがって、例えば、格子ピッチが22.8μmであり、その格子送り量が5.7μmである場合、要求される精度(格子相対位置)は、±0.23μm(P-P:0.46μm)となる。
本実施形態においては、励磁電流値を当該モータの出力を最大としたときの50%程度以下であれば、要求される精度(格子相対位置)を満たしており、x方向移動用モータ125aに電流をかけてもモアレ画像の生成に影響を与えないといえる。
【0035】
なお、x方向移動用モータ125aにかける励磁電流値がどの程度のときにモアレ画像の生成に影響を与えるか、すなわち、「x方向移動用モータ125aへの通電電流が、当該モータの出力を最大としたときにマルチ格子12に生じる変位量の50%以下となるような電流値」がどの程度であるかは、モータの種類によって異なる。このため、X線照射時の励磁電流値は、適用するモータに応じて適宜設定することが好ましい。
【0036】
θx回転用モータ125b、θy回転用モータ125c、θz回転用モータ125dは、例えば駆動源となるアクチュエータ等を内蔵したゴニオステージであり、マルチ格子12、第1格子14及び第2の格子15相互間における平行度を調整可能とする煽り調整機構として機能するものである。
【0037】
マルチ格子ユニット120に設けられているマルチ格子12は回折格子であり、図10に示すようにx方向に複数のスリットが所定間隔で設けられている。マルチ格子12はシリコンやガラスといったX線の吸収率が低い材質の基板上に、タングステン、鉛、金といったX線の遮蔽力が大きい、つまりX線の吸収率が高い材質により形成される。例えば、フォトリソグラフィーによりレジスト層がスリット状にマスクされ、UVが照射されてスリットのパターンがレジスト層に転写される。露光によって当該パターンと同じ形状のスリット構造が得られ、電鋳法によりスリット構造間に金属が埋め込まれて、マルチ格子12が形成される。
【0038】
マルチ格子12のスリット周期は1〜60(μm)である。スリット周期は、図10に示すように隣接するスリット間の距離を1周期とする。スリットの幅(x方向の長さ)はスリット周期の1〜60(%)の長さであり、さらに好ましくは10〜40(%)である。スリットの高さ(z方向の長さ)は1〜500(μm)であり、好ましくは1〜150(μm)である。
マルチ格子12のスリット周期をw0(μm)、第1格子14のスリット周期をw1(μm)とすると、スリット周期w0は下記式により求めることができる。
w0=w1・(d3+d4)/d4
当該式を満たすように周期w0を決定することにより、マルチ格子12及び第1格子14の各スリットを通過したX線により形成される自己像が、それぞれ第2格子15上で重なり合い、いわばピントが合った状態とすることができる。
【0039】
第1格子14は、マルチ格子12と同様にx方向に複数のスリットが設けられた回折格子である。第1格子14は、マルチ格子12と同様にUVを用いたフォトリソグラフィーによって形成することもできるし、いわゆるICP法によりシリコン基板に微細細線で深掘加工を行い、シリコンのみで格子構造を形成することとしてもよい。第1格子14のスリット周期は1〜20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の20〜70(%)であり、好ましくは35〜60(%)である。スリットの高さは1〜100(μm)である。
【0040】
第1格子14として位相型を用いる場合、スリットの高さ(z方向の長さ)はスリット周期を形成する2種の素材、つまりX線透過部とX線遮蔽部の素材による位相差(X線の位相差)がπ/8〜15×π/8となる高さとする。好ましくは、π/4〜3×π/4となる高さである。第1格子14として吸収型を用いる場合、スリットの高さはX線遮蔽部によりX線が十分吸収される高さとする。
【0041】
第1格子14が位相型である場合、第1格子14と第2格子15間の距離d4は、次の条件をほぼ満たすことが必要である。
d4=(m+(1/2))・w12/λ
なお、mは整数であり、λはX線の波長である。
【0042】
第2格子15は、マルチ格子12及び第1格子14と同様にx方向に複数のスリットが設けられた回折格子である。第2格子15もフォトリソグラフィーにより形成することができる。第2格子15のスリット周期は1〜20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の30〜70(%)であり、好ましくは35〜60(%)である。スリットの高さは1〜100(μm)である。
【0043】
本実施例では第1格子14及び第2格子15は、それぞれの格子面がz方向に対し垂直(x−y平面内で平行)であり、第1格子のスリット配列方向と第2格子のスリット配列方向とは、x−y平面内で所定角度だけ傾けて配置されているが、両者を平行な配置としてもよい。
【0044】
第1格子14及び第2格子15は、それぞれ、ほぼ同様の構成を有する第1格子ユニット140及び第2格子ユニット150に設けられている。
図11は、基台部19における第1格子ユニット140の取り付け部分を拡大した斜視図である。図11に示すように、第2格子ユニット150は、第2格子15がX線検出器16のすぐ上に位置するように配置される。また、第1格子ユニット140は、第1格子15が第2格子15の上方に位置するように配置される。
【0045】
また、図12及び図13は、第1格子ユニット140を上側から見た斜視図であり、図14は斜め上方向から見た斜視図である。なお、第2格子ユニット150は、第1格子ユニット140と同一の構成となっているため、図示及び説明を省略する。
【0046】
第1格子ユニット140は、図12から図14に示すように、基台部19に取り付けられるほぼL字状の基台取付部141と第1格子ユニット本体142とを備えている。この第1格子ユニット本体142は、基台取付部141における床面に対してほぼ水平に配置されている面に載置されている。
基台取付部141は、基台部19への取り付け位置を調整することにより、第1格子14と、第2の格子15やマルチ格子12との間における相対距離を調整可能とする相対距離調整機構として機能する。
また、第1格子ユニット本体142の上側面には、第1格子14をx方向に移動させるためのリニアガイド143が設けられている。
【0047】
第1格子ユニット本体142には、支持部14aに支持された第1格子14が設けられている他、第1格子14を移動させるための第1格子駆動部145として、x方向移動用モータ145a、第1格子14をx方向に回転させるためのθx回転用モータ145bが設けられている。
【0048】
x方向移動用モータ145aは、通電駆動される駆動源であり、マルチ格子ユニット120のx方向移動用モータ125aと同様に、例えばパルス信号に正確に同期して動作するステッピングモータ(パルスモータ)等、高精度の動作制御を行うことのできるモータにより構成されている。
本実施形態では、駆動源であるx方向移動用モータ145aが駆動すると、当該駆動源の出力を被駆動部である第1格子14を支持する支持部14aまで伝達する伝達系を構成するボールねじ144が回転し、支持部14aに支持された第1格子14がリニアガイド143にガイドされてx方向に移動するようになっている。
駆動源であるx方向移動用モータ145aと伝達系であるボールねじ及びリニアガイドによって第1格子ユニット140の移動部が構成されており、この移動部は重力方向(z方向)と直交する方向に移動する移動要素のみにより構成されている。
【0049】
ここで、適切なモアレ画像を得るためには、x方向移動用モータ145aによる第1格子14の格子送り精度は、マルチ格子12の場合と同様に、格子送り量の1/10以下である必要がある。例えば、第1格子14を5回移動させて5回撮影することによりモアレ画像を得る場合には、格子ピッチの1/5ずつ第1格子14を移動させ、第1格子14を3回移動させて3回撮影することによりモアレ画像を得る場合には、格子ピッチの1/3ずつ第1格子14を移動させることとなる。したがって、例えば、格子ピッチが5.3μmであり、その格子送り量が1.33μmである場合、要求される精度(格子相対位置)は、±0.05μm(P-P:0.10μm)となる。
そして、x方向移動用モータ145aに電流をかけるとx方向移動用モータ125aの場合と同様、モータの温度が上昇し、周辺部品の熱膨張を誘発し、結果として最終的な第1格子14の精密送りが達成できず、静的な格子間のアライメント不良を生じたり、モータが微振動し、この振動が周辺部品に伝搬し、結果として第1格子14が精密送りされた位置に保持できず、動的な格子間のアライメント不良(不定)を生じてしまう。
【0050】
このため、x方向移動用モータ145aについても、x方向移動用モータ125aの場合と同様、第1格子14を移動させる際には、x方向移動用モータ145aの出力を最大とするが、X線照射時には、第1格子駆動部145は、x方向移動用モータ145aへの通電電流が、当該モータの出力を最大としたときに第1格子14に生じる変位量の50%以下となるような電流値となるようにx方向移動用モータ145aへの通電電流値を調整するようになっている。
なお、X線照射時におけるx方向移動用モータ145aへの通電電流値(励磁電流値)は、x方向移動用モータ125aの場合と同様、適用するモータに応じて適宜設定することが好ましい。
【0051】
θx回転用モータ145bは、例えば駆動源となるアクチュエータ等を内蔵したゴニオステージであり、マルチ格子12、第1格子14及び第2の格子15相互間における平行度を調整可能とする煽り調整機構として機能するものである。なお、マルチ格子ユニット120の場合と同様に、煽り調整機構としてθy回転用モータ、θz回転用モータを設けてもよい。
【0052】
第2格子ユニット本体152には、支持部に支持された第2格子15が設けられている他、第2格子15を移動させるための第2格子駆動部155として、x方向移動用モータ、第2格子15をx方向に回転させるためのθx回転用モータ(いずれも図示せず)が設けられている。
なお、前記のように、X線照射時における通電電流値(励磁電流値)を調整する点等については、第2格子15の第2格子駆動部155のx方向移動用モータについても、マルチ格子ユニット120のx方向移動用モータ125a、第1格子ユニット140のx方向移動用モータ145a同様である。
【0053】
上記マルチ格子12、第1格子14、第2格子15は、例えば下記のように構成することができる。
X線源11のX線管の焦点径;300(μm)、管電圧:40(kVp)、付加フィルタ:アルミ1.6(mm)
X線源11の焦点からマルチ格子12までの距離d1:40(mm)
マルチ格子12から第1格子14までの距離d3:1110(mm)
マルチ格子12から第2格子15までの距離d3+d4:1370(mm)
マルチ格子12のサイズ:10(mm四方)、スリット周期:22.8(μm)
第1格子14のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:4.3(μm)
第2格子15のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:5.3(μm)
【0054】
X線検出器16は、照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取る。
X線検出器16の画素サイズは10〜300(μm)であり、さらに好ましくは50〜200(μm)である。
【0055】
X線検出器16は第2格子15に当接するように基台部19に位置を固定することが好ましい。第2格子15とX線検出器16間の距離が大きくなるほど、X線検出器16により得られるモアレ画像がボケるからである。
X線検出器16としては、FPD(Flat Panel Detector)を用いることができる。FPDには、X線をシンチレータを介して光電変換素子により電気信号に変換する間接変換型、X線を直接的に電気信号に変換する直接変換型があるが、何れを用いてもよい。
【0056】
間接変換型は、CsIやGd2O3あるいはGd2O2S等のシンチレータプレートの下に、光電変換素子がTFT(薄膜トランジスタ)とともに2次元状に配置されて各画素を構成する。X線検出器16に入射したX線がシンチレータプレートに吸収されると、シンチレータプレートが発光する。この発光した光により、各光電変換素子に電荷が蓄積され、蓄積された電荷は画像信号として読み出される。
【0057】
直接変換型は、アモルファスセレンの熱蒸着により、100〜1000(μm)の膜厚のアモルファスセレン膜がガラス上に形成され、2次元状に配置されたTFTのアレイ上にアモルファスセレン膜と電極が蒸着される。アモルファスセレン膜がX線を吸収するとき、電子正孔対の形で物質内にキャリアが遊離され、電極間の電圧信号がTFTにより読み取られる。
なお、CCD(Charge Coupled Device)、X線カメラ等の撮影手段をX線検出器16として用いてもよい。
【0058】
X線撮影時のFPDによる一連の処理を説明する。
まずFPDはリセットを行い、前回の撮影(読取)以降に残存する不要な電荷を取り除く。その後、X線の照射が開始するタイミングで電荷の蓄積が行われ、X線の照射が終了するタイミングで蓄積された電荷が画像信号として読み取られる。なお、リセットの直後や画像信号の読み取り後に、蓄積されている電荷の電圧値を検出するダーク読み取りを行い、当該電圧値を補正値としてX線照射後に蓄積された電荷の電圧値から補正値を差し引いた電圧値を画像信号として出力してもよい。これにより、画像信号に対しいわゆるオフセット補正を行うことができる。
【0059】
本体部18は、図15に示すように、制御部181、操作部182、表示部183、通信部184、記憶部185、マルチ格子駆動部125、第1格子駆動部145、第2格子駆動部155を備えて構成されている。
制御部181は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)等から構成され、記憶部185に記憶されているプログラムとの協働により、各種処理を実行する。例えば、制御部181はコントローラ5から入力される撮影条件の設定情報に従って、X線源11からのX線照射のタイミングやX線検出器16による画像信号の読取タイミング等を制御する。
【0060】
操作部182は曝射スイッチや撮影条件等の入力操作に用いるキー群の他、表示部183のディスプレイと一体に構成されたタッチパネルを備え、これらの操作に応じた操作信号を生成して制御部181に出力する。
表示部183は制御部181の表示制御に従って、ディスプレイに操作画面やX線撮影装置1の動作状況等を表示する。
【0061】
通信部184は通信インターフェイスを備え、ネットワーク上のコントローラ5と通信する。例えば、通信部184はX線検出器16によって読み取られ、記憶部185に記憶されたモアレ画像をコントローラ5に送信する。
記憶部185は、制御部181により実行されるプログラム、プログラムの実行に必要なデータを記憶している。また、記憶部185はX線検出器16によって得られたモアレ画像を記憶する。
【0062】
マルチ格子駆動部125、第1格子駆動部145、第2格子駆動部155は、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150の各駆動源(モータ)を動作させるものである。
【0063】
被写体台13は、撮影時に被写体となる患者の手指等を載置するものである。
図3から図6に示すように、本実施形態では、被写体台13は、キャスタ131を備える脚部132を有し、支柱17や基台部19から独立している。脚部132は、支柱17と基台部19との間に配置されるようになっており、基台部19側の脚部132には、キャスタ131をロックするロック機構133が設けられている。
なお、被写体台13の構成はここに例示したものに限定されない。例えば全ての脚部132にロック機構133を設けてもよいし、ロック機構133を設けず、支柱17又は基台部19の一端に被写体台13が固定されるようにしてもよい。なお、被写体台13は、支柱17又は基台部19に接触した際に衝撃を吸収することのできる衝撃吸収部材(図示せず)を備えていることが好ましい。
【0064】
コントローラ5は、オペレータによる操作に従ってX線撮影装置1の撮影動作を制御し、X線撮影装置1により得られたモアレ画像を用いて被写体の再構成画像を作成する。本実施形態では被写体の再構成画像を作成する画像処理装置としてコントローラ5を用いた例を説明するが、X線画像に様々な画像処理を施す専用の画像処理装置をX線撮影装置1と接続し、当該画像処理装置により再構成画像の作成を行うこととしてもよい。
【0065】
上記X線撮影装置1のタルボ・ロー干渉計によるX線撮影方法を説明する。
図16に示すように、X線源11から照射されたX線が第1格子14を透過すると、透過したX線がz方向に一定の間隔で像を結ぶ。この像を自己像といい、自己像が形成される現象をタルボ効果という。自己像を結ぶ位置に第2格子15が平行に配置され、当該第2格子15はその格子方向が第1格子14の格子方向と平行な位置からわずかに傾けられているので、第2格子15を透過したX線によりモアレ画像Mが得られる。X線源11と第1格子14間に被写体Hが存在すると、被写体HによってX線の位相がずれるため、図16に示すようにモアレ画像M上の干渉縞は被写体Hの辺縁を境界に乱れる(歪む)。この干渉縞の乱れ(歪み)を、モアレ画像Mを処理することによって検出し、被写体像を画像化することができる。これがタルボ干渉計の原理である。
【0066】
X線撮影装置1では、X線源11と第1格子14との間のX線源11に近い位置に、マルチ格子12が配置され、タルボ・ロー干渉計によるX線撮影が行われる。タルボ干渉計はX線源11が理想的な点線源であることを前提としているが、実際の撮影にはある程度焦点径が大きい焦点が用いられるため、マルチ格子12によってあたかも点線源が複数連なってX線が照射されているかのように多光源化する。これがタルボ・ロー干渉計によるX線撮影法であり、焦点径がある程度大きい場合にも、タルボ干渉計と同様のタルボ効果を得ることができる。
【0067】
従来のタルボ・ロー干渉計では、マルチ格子12は上述のように多光源化と照射線量の増大を目的に用いられ、縞走査法によりモアレ画像を得るため、第1格子14又は第2格子15を相対移動させていた。しかし、本実施形態では、第1格子14又は第2格子15を相対移動させるのではなく、第1格子14及び第2格子15の位置は固定したまま、第1格子14及び第2格子15に対してマルチ格子を移動させることで一定周期間隔のモアレ画像を複数得る。
【0068】
図17は、X線撮影装置1によるX線撮影の流れを示すフローチャートである。
X線撮影には上述のタルボ・ロー干渉計によるX線撮影方法が用いられ、被写体像の再構成には縞走査法が用いられる。X線撮影装置1ではマルチ格子12が等間隔毎に複数ステップ移動され、ステップ毎に撮影が行われて、各ステップのモアレ画像が得られる。
【0069】
ステップ数は2〜20、さらに好ましくは3〜10である。視認性の高い再構成画像を短時間で得るという観点からすれば、5ステップが好ましい(参照文献(1)K.Hibino, B.F.Oreb and D.I.Farrant, Phase shifting for nonsinusoidal wave forms with phase−shift errors, J.Opt.Soc.Am.A, Vol.12, 761−768(1995)、参照文献(2)A.Momose, W.Yashiro, Y. Takeda, Y.Suzuki and T.Hattori, Phase Tomography by X−ray Talbot Interferometetry for biological imaging, Jpn. J. Appl. Phys., Vol.45, 5254−5262(2006))。
【0070】
図17に示すように、オペレータにより曝射スイッチがON操作されると(ステップS1;Y)、x方向移動用モータ125aによりマルチ格子12が移動され、複数ステップの撮影が実行され、モアレ画像が生成される(ステップS2)。
まず、マルチ格子12が停止した状態でX線源11によるX線の照射が開始される。X線検出器16ではリセット後、X線照射のタイミングに合わせて電荷が蓄積され、X線の照射停止のタイミングに合わせて蓄積された電荷が画像信号として読み取られる。これが1ステップ分の撮影である。1ステップ分の撮影が終了するタイミングでマルチ格子12の移動が開始され、所定量移動すると停止され、次のステップの撮影が行われる。このようにして、マルチ格子12の移動と停止が所定のステップ数分だけ繰り返され、マルチ格子12が停止したときにX線の照射と画像信号の読み取りが行われる。読み取られた画像信号はモアレ画像として本体部18に出力される。
【0071】
例えば、マルチ格子12のスリット周期を22.8(μm)とし、5ステップの撮影を10秒で行うとする。マルチ格子12がそのスリット周期の1/5に該当する4.56(μm)移動し停止する毎に撮影が行われる。撮影時間でいえば爆射スイッチON後、2、4、6、8、10秒後にそれぞれ撮影が行われる。
【0072】
従来のように第2格子15(又は第1格子14)を第1格子14(又は第2格子15)に対して移動させる場合、第2格子15のスリット周期は比較的小さく、各ステップの移動量も小さくなるが、マルチ格子12のスリット周期は第2格子15よりも比較的大きく、各ステップの移動量も大きい。例えば、スリット周期5.3(μm)の第2格子15のステップ毎の移動量は1.06(μm)であるのに対し、スリット周期22.8(μm)のマルチ格子12の移動量は4.56(μm)と約4倍の大きさである。同一の駆動伝達系(駆動源、減速伝達系を含む)を使用し、各ステップの撮影に際し、x方向移動用モータ125aの起動と停止を繰り返して撮影を行った場合、移動用のパルスモータ(駆動源)の制御量(駆動パルス数)に対応した実際の移動量に占める、起動時及び停止時のx方向移動用モータ125aのバックラッシュ等の影響による移動量誤差の割合は、本実施形態のようにマルチ格子12を移動させる方式の方が小さくなる。これは、後述するサインカーブに沿ったモアレ画像を得やすく、起動及び停止を繰り返しても高精細な再構成画像が得られることを示している。或いは、従来方式による画像でも充分診断に適合する場合には、モータ(駆動源)を含む駆動伝達系全体の精度(特に、起動特性及び停止特性)を緩和し、駆動伝達系を構成する部品のコストダウンが可能であることを示している。
【0073】
各ステップの撮影が終了すると、本体部18からコントローラ5に、各ステップのモアレ画像が送信される(ステップS3)。本体部18からコントローラ5に対しては各ステップの撮影が終了する毎に1枚ずつ送信することとしてもよいし、各ステップの撮影が終了し、全てのモアレ画像が得られた後、まとめて送信することとしてもよい。
【0074】
図18は、モアレ画像を受信した後のコントローラ5の処理の流れを示すフローチャートである。
図18に示すように、まずモアレ画像の解析が行われ(ステップS11)、再構成画像の作成に使用できるか否かが判断される(ステップS12)。理想的な送り精度によりマルチ格子12を一定の送り量で移動できた場合、図19に示すように、5ステップの撮影でマルチ格子12のスリット周期1周期分のモアレ画像5枚が得られる。各ステップのモアレ画像は0.2周期という一定周期間隔毎に縞走査をした結果であるので、各モアレ画像の任意の1画素に注目すると、その信号値を正規化して得られるX線相対強度は、図20に示すようにサインカーブを描く。よって、コントローラ5は得られた各ステップのモアレ画像のある画素に注目してX線相対強度を求める。各モアレ画像から求められたX線相対強度が、図20に示すようなサインカーブを形成すれば、一定周期間隔のモアレ画像が得られているので、再構成画像の作成に使用できると判断することができる。
なお、上記サインカーブ形状は、マルチ格子開口幅、位相格子の周期、及び位相格子の格子間距離に依存し、また、放射光のようなコヒーレント光の場合には三角波形状となるが、マルチ格子効果によりX線が準コヒーレント光として作用する為、サインカーブを描くものとなる。
【0075】
各ステップのモアレ画像の中にサインカーブを形成できないモアレ画像がある場合、再構成画像の作成に使用できないと判断され(ステップS12;N)、撮影のタイミングを変更して再撮影するよう指示する制御情報がコントローラ5からX線撮影装置1に送信される(ステップS13)。例えば、図20に示すように、3ステップ目は本来0.4周期のところ、周期がずれて0.35周期のモアレ画像が得られた場合であれば、x方向移動用モータ125aの送り精度の低下が原因(例えば、パルスモータの駆動パルスへのノイズ重畳等)と考えられる。よって、0.05周期分だけ撮影のタイミングを早めて3ステップ目のみ再撮影を行うよう指示すればよい。或いは、5ステップ全てについて再撮影し、3ステップ目のみ0.05周期分の撮影時間を早めるように指示してもよい。5ステップ全てのモアレ画像が所定量ずつサインカーブからずれている場合、x方向移動用モータ125aの起動から停止までの駆動パルス数を増やすか、或いは減らすように指示してもよい。
X線撮影装置1では、当該制御情報に従って撮影のタイミングが調整され、図17に示すX線撮影の処理が再度実行される。
【0076】
一方、再構成画像の作成にモアレ画像を使用できると判断された場合(ステップS12;Y)、コントローラ5によってモアレ画像が処理され、被写体の再構成画像が作成される(ステップS14)。具体的には、5枚のモアレ画像の各画素についてステップ毎の強度変化(信号値の変化)が算出され、当該強度変化より微分位相が算出される。必要であれば、位相接続(位相アンラップ)が行われ、ステップ全体の位相が求められる。当該位相からz方向における光路差(屈折率差に起因する光路差)が算出され、被写体の形状を表す再構成画像が作成される(上記参照文献(1)、(2))。作成された再構成画像はコントローラ5に表示されるので、オペレータは当該再構成画像を確認することができる。
【0077】
〈撮影実験〉
撮影実験により、第1格子14又は第2格子15ではなく、マルチ格子12を移動させた場合にも同様なモアレ画像及び再構成画像が得られることを検証した。
【0078】
図21に、撮影実験に用いた横型のX線撮影装置を示す。
X線源21、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15及びX線検出器16を、横方向(y方向)に配置した横型のX線撮影装置3の試作機を作製し、当該試作機を撮影実験に用いた。X線源21には、市販品のX線管のモリブデンをタングステンに改造したX線管を使用した。
この試作機においてマルチ格子12をx方向に移動させて撮影を行い、モアレ画像を得て被写体の再構成画像を作成した。次に、同じ試作機において第2格子15をx方向移動させて撮影を行い、同様に再構成画像を作成した。
【0079】
撮影条件は以下の通りである。マルチ格子12、第2格子15の何れを移動させた場合も同じ撮影条件を用いた。
X線管の焦点径;300(μm)、管電圧;40kV、付加フィルタ;アルミ1.6(mm)、中心エネルギー28(keV)
X線検出器;Condor486(Fairchild Imaging社製)、画素サイズ;15(μm)
X線源11の焦点からマルチ格子までの距離d1: 40(mm)
マルチ格子から第1格子までの距離d3 :1110(mm)
マルチ格子から第2格子までの距離d3+d4 :1370(mm)
マルチ格子のサイズ:5(mm四方)、スリット周期:22.8(μm)
第1格子のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:4.3(μm)
第2格子のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:5.3(μm)
【0080】
図22(a)〜図22(c)は、マルチ格子を移動させて得られた画像を示している。図22(a)は被写体(サンプル)を配置して撮影された1〜5ステップのモアレ画像、図22(b)は被写体を配置せずに撮影された1〜5ステップのモアレ画像である。図22(c)は、図22(a)の各ステップのモアレ画像から作成された再構成画像を示す。
一方、図23(a)〜図23(c)は第2格子を移動させて得られた画像を示している。
図23(a)は被写体を配置して撮影された1〜5ステップのモアレ画像、図23(b)は被写体を配置せずに撮影された1〜5ステップのモアレ画像、図23(c)は図23(a)の各ステップのモアレ画像から作成された再構成画像である。
【0081】
図22(a)と図23(a)、図22(b)と図23(b)、図22(c)と図23(c)をそれぞれ比較して分かるように、マルチ格子を移動させた場合も、第2格子を移動させた場合と比べて個々の画像自体の画質が劣化することもなく、更に、各画像の位相(周期)関係が維持され易いので、同等以上の再構成画像を得ることができる。
【0082】
撮影実験は横型のX線撮影装置3で行ったが、第1格子又は第2格子ではなくマルチ格子を移動させても同じ画像が得られること自体は、X線撮影装置が縦型でも横型でも変わらない。従来は複数枚のモアレ画像を得るためにマルチ格子を移動させる概念が無く、第1格子又は第2格子を移動させる構成に拘束されていた。本発明者等はマルチ格子を移動させる構成でも同様のモアレ画像及び再構成画像が得られることを見出し、患者が接近する被写体台近傍周辺部から精密移動部を取り除くことで撮影への悪影響を排除し、これを縦型に配置したX線撮影装置に適用することでタルボ・ロー干渉計を実用化することが可能となった。
【0083】
以上のように、本実施形態によれば、X線撮影装置1は、X線源11、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16がこの順に重力方向に配置された縦型であり、マルチ格子12をx方向に移動させる駆動部を備える。マルチ格子12が一定周期間隔で移動する毎に、X線源11により照射されたX線に応じてX線検出器16が画像信号の読み取る処理を繰り返し、一定周期間隔のモアレ画像を複数得る。
【0084】
縦型のX線撮影装置1において、第2格子15(又は第1格子14)ではなくマルチ格子12を移動する構成とすることにより、被写体より床側に配置される第2格子15付近に第2格子15を移動させるための駆動部を設けるスペースが不要となる。一方、x方向移動用モータ125aが配置されるマルチ格子12はX線源11近くに配置されるので、患者の足下付近を、駆動系を設けることなく第1格子14、第2格子15、X線検出器16のみの配置とすることができ、患者が接触し難い構成とすることができる。駆動系が無い被写体より下部を堅牢に構成することができるので、仮に患者の接触によりX線撮影装置1に振動が伝わるような場合があっても、共振等の発生を防ぎ、振動自体の伝搬を阻止することができる。よって、振動が収束するまで撮影を待機したり、マルチ格子12、第1格子14及び第2格子15の位置関係が変動したりすることを防止することができる。さらに、患者の被写体台への接近方向を制限しないので、撮影の自由度を向上させることができる。従って、高画質な位相コントラスト撮影が可能であり、実際の使用に耐久できる実用的な縦型X線撮影装置1を提供することができる。
【0085】
また、マルチ格子12は、基台部19に第1格子14及び第2格子15と一体的に保持され、第1格子14及び第2格子15とのX線の照射方向における位置関係が固定されている。これにより、X線撮影装置1の輸送時や設置時に生じた衝撃や振動によるX線の照射方向における関連部品の相対位置関係を維持することができる。相対位置関係を維持することにより、タルボ・ロー干渉計によるX線撮影によって高画質なモアレ画像を得ることができ、モアレ画像から作成される被写体の再構成画像の再現性を向上させることができる。
【0086】
また、X線検出器16は、基台部19に第1格子14及び第2格子15と一体的に保持され、第1格子14及び第2格子15とのX線の照射方向における位置関係が固定されている。これにより、X線検出器16と第1格子14及び第2格子15との位置関係を維持することができる。一般的に、X線撮影装置1の出荷時には第2格子15により形成されるモアレ画像がボケない位置にX線検出器16が調整配置されるため、この位置関係を維持することにより、位置関係の変動によるモアレ画像のボケを防止することができる。
【0087】
また、本実施形態では、X線撮影装置1は、支柱17、基台部19、被写体台13に大きく分離することができるため、輸送や保管の際にコンパクトになり、輸送・保管に要するコストを削減することができる。
また、高精度の調整が必要となる精密部品であるマルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150を基台部19から取り外すことができる。このため、精密部品を取り外した状態で輸送・保管することができ、梱包の簡易化が可能となるとともに、精密部品のみ温度管理等の可能な場所で保管等することができるため、長期の保管等による精密部品の劣化を防止することができる。
また、輸送や保管の際に取り外したマルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150は、組み立て時には、ねじにより容易に基台部19に固定することができる。このため、安全な輸送と施設内での取り扱いのし易さを両立させることができる。
【0088】
、
また、被写体台13は患者との接触により振動を伝えやすく、患者の手がぶつかる等により周囲の部材に衝撃を加えることがありうるが、本実施形態では被写体台13をマルチ格子12、第1格子14、第2格子15等が取り付けられる基台部19と切り離して、別体構成としている。このため、被写体台13に衝撃が加わっても、この衝撃が高精度な位置関係が求められるマルチ格子12、第1格子14、第2格子15等に対して影響を与えるのを防止して、高精度な位置関係の維持を図ることができる。
【0089】
、
また、本実施形態では、複数枚のモアレ画像を得る際、X線照射時には、パルスモータで構成されているx方向移動用モータにかける電流の電流値を、マルチ格子、第1格子及び第2格子に生じる変位量が当該モータの出力を最大としたときにマルチ格子、第1格子及び第2格子に生じる変位量の50%以下となるような電流値となるように調整するようになっている。このため、マルチ格子、第1格子及び第2格子の位置がx方向移動用モータの発熱や微振動の発生により変位することを防止することができる。
【0090】
また、本実施形態では、マルチ格子12、第1格子14、第2格子15を移動させる移動部を重力方向(z方向)と直交する方向に移動する移動要素のみにより構成している。これにより、重力方向への負荷が少なくなり、格子を移動させていないとき(すなわち、X線照射時)には、弱い励磁電流をかけるのみで格子の位置を維持することができ、x方向移動用モータの発熱や微振動の発生を防止することができる。
【0091】
なお、上記実施形態は本発明の好適な一例であり、これに限定されない。
例えば、上記実施形態では、X線源11、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16をこの順に配置(以下、第1の配置と呼ぶ)したが、X線源11、マルチ格子12、第1格子14、被写体台13、第2格子15、X線検出器16の配置(以下、第2の配置と呼ぶ)としても、第1格子14及び第2格子15は固定のまま、マルチ格子12の移動により、再構成画像を得ることが可能である。
第2の配置においては、被写体の厚み分だけ、被写体中心と第1格子14は離れることになり、上記の実施形態に比べ感度の点でやや劣ることになるが、一方で、被写体への被曝線量低減を考慮すると、当該配置の方が第1格子14でのX線吸収分だけX線を有効に活用していることになる。
また、被写体位置での実効的な空間分解能は、X線の焦点径、検出器の空間分解能、被写体の拡大率、被写体の厚さ等に依存するが、上記実施例に於ける検出器の空間分解能が120μm(ガウスの半値幅)以下の場合には、第1の配置よりも第2の配置の方が実効的な空間分解能は小さくなる。
感度、空間分解能、及び、第1格子14でのX線吸収量等を考慮して、第1格子14、被写体台13の配置順をきめることが好ましい。
【0092】
また、本実施形態では、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150にそれぞれ煽り調整機構及び相対距離調整機構が設けられている場合を例として説明したが、煽り調整機構及び相対距離調整機構は、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150全てに設けられている必要はなく、このうちの少なくともいずれか1つに設けられていてもよい。
【0093】
また、本実施形態では、マルチ格子12を移動させてモアレ画像を生成する場合を例として説明したが、モアレ画像を生成するために移動させる格子はマルチ格子12に限定されず、第1格子14、第2格子15であってもよい。
【0094】
また、本実施形態では、縞走査方式として、マルチ格子、第1格子及び第2格子を備えるタルボ・ロー干渉計を用いたX線撮影装置を例として説明したが、X線撮影装置に用いられるのはタルボ・ロー干渉計に限定されず、縞走査方式として、第1格子及び第2格子を備えるタルボ干渉計を用いたX線撮影装置についても本発明を適用することができる。
おいて、
【0095】
また、本実施形態では、被写体台13を完全に別体構成としたものを例として説明したが、被写体台13を基台部19等に固定してもよい。この場合には、被写体台13と基台部19との間に緩衝部材等を設けて、被写体台13に加えられた衝撃や振動ができる限り基台部19に伝達されないように構成する。
また、被写体台13は、その高さを患者の体型等に応じて調整できるようにしてもよい。
【0096】
また、本実施形態では、X線照射時にx方向移動用モータにかける電流の電流値を低くする場合を例としたが、モータによる励磁を行わなくても各格子の位置を維持できる場合には、移動部(マルチ格子駆動部125、第1格子駆動部145、第1格子駆動部155)は、X線照射時に駆動源であるx方向移動用モータに対する通電を停止させるように制御してもよい。x方向移動用モータに対する通電を停止させることにより、モータの発熱や微振動の発生を回避することができる。
【0097】
また、X線検出器16として、バッテリを内蔵し、無線により画像信号を本体部18に出力するケーブルレスのカセッテタイプFPDを用いてもよい。カセッテタイプFPDによれば、本体部18に接続するケーブル類を排除することができ、X線検出器16周辺の更なる小スペース化を図ることができる。小スペース化によって被写体の足下を広く構成し、より患者が接触し難い構成とすることができる。
【0098】
また、上記実施形態では、各ステップの撮影毎にマルチ格子12の移動と停止を繰り返す例を説明した。しかし、x方向移動用モータ125aの構成によっては、移動と停止を繰り返すことにより制御量と実際の移動量との誤差が累積拡大し、一定間隔毎のモアレ画像が得難いことが想定される場合には、連続的にマルチ格子12を移動させながら複数回の撮影を行う連続撮影方式が好ましい。曝射スイッチがONされると、マルチ格子12の移動を開始し、起動時の不安定移動領域を越え、安定移動領域に達した後、更に、マルチ格子を連続的に移動させて、所定量(例えば4.56(μm))移動する毎にX線のパルス照射と画像信号の読み取りを繰り返す。
【0099】
連続撮影方式におけるX線源11にはパルス照射可能なX線管を用いることが好ましい。
また、X線検出器16としては、対応できるフレームレート(単位時間あたり撮影可能な回数)が大きく、動画撮影が可能なFPDが好ましい。数百m秒〜数秒の間に5回以上の撮影を行うことを想定すると、少なくとも10フレーム/秒のフレームレートが必要であり、好ましくは20フレーム/秒以上のフレームレートである。
【0100】
なお、撮影においてX線検出器16は各ステップの撮影毎にオフセット補正を行うことが可能である。各ステップの撮影間隔が短く、オフセット補正を行う余裕が無い場合は、最初のステップの撮影時のみダーク読み取りを行い、オフセット補正値を得て、当該補正値を後のステップの撮影にも適用してもよい。或いは、一連の撮影終了後にダーク読み取りを行ってオフセット補正値を得て、当該補正値を各撮影に共通に使用することとしてもよい。
【0101】
連続撮影方式の場合、各ステップの前後でさらに予備撮影を行うこととしてもよい。
x方向移動用モータ125aが理想的な送り精度によりマルチ格子12を一定の送り量、つまり一定の移動速度で移動できた場合、図20に示すように各ステップのモアレ画像によりサインカーブを形成することができる。しかし、経年変化やx方向移動用モータ125aのバックラッシュ、起動時の慣性影響等によって送り量にずれが生じると、一定周期間隔のモアレ画像が得られない。例えば、図20に示すように、3ステップのモアレ画像は本来0.4周期に該当するが、3ステップのときのx方向移動用モータ125aの送り量がずれると、0.4周期前後のモアレ画像が得られる。
【0102】
このように各ステップのモアレ画像の周期がばらつくと、正確な位相が計算できず、再構成画像において被写体像を正確に再現できない。そこで、例えば撮影時間が2、4、6、8、10秒の各ステップの撮影に、各撮影時間±0.1秒の撮影時間で撮影を行う予備撮影を加えて合計15回の撮影を行う。これにより、1ステップでは1.9秒、2.0秒、2.1秒の各撮影時間のモアレ画像が得られる等、各ステップにつきそれぞれ3枚のモアレ画像が得られるので、そのうちX線相対強度のサインカーブに最も近いモアレ画像を選択して用いる。これにより、x方向移動用モータ125aによる送り量に誤差が生じたとしても、再構成画像の再現性の向上を図ることができる。
【0103】
予備撮影する調整時間として上記に挙げた±0.1秒は例示であり、調整時間はテスト撮影によって適宜決定すればよい。例えば、X線撮影装置1の設置時に、各ステップの撮影の前後で、±0.1秒、±0.2秒等、予備撮影時の調整時間を変えてテスト撮影を行い、最もサインカーブに一致しやすい調整時間を求めることとしてもよい。これにより、x方向移動用モータ125aの機器特性によって必要な調整時間が異なる場合にも対応することができる。
【0104】
なお、連続撮影方式におけるX線源11のX線管がパルス照射に対応していない場合には、X線源11のX線照射口の付近にシャッターを設けてもよい。この場合、シャッターとして、カメラ等に一般的に用いられるシャッター機構を用いてもよいが、照射野絞りの機能も備えることとしてもよい。
【0105】
また、コントローラ5の制御部が縞走査法による再構成画像作成処理の他、フーリエ変換法による再構成画像作成処理等を行うようにしてもよい(この場合、X線撮影装置の第1格子と第2格子との相対角のみ、縞走査法の場合に対し増大させるような装置設定変更が必要である。)。
例えば、フーリエ変換法による再構成画像作成処理は、以下のように行われる。
まず、被写体有りのモアレ画像と被写体無しのモアレ画像とを取得し、それぞれについてオフセット補正処理、ゲイン補正処理等の補正を行う。その後、補正後の被写体有りのモアレ画像と被写体無しのモアレ画像のそれぞれをフーリエ変換(二次元フーリエ変換)する。1枚のモアレ画像をフーリエ変換すると、低周波成分(0次成分と呼ぶ)と干渉縞周波数付近の成分(1次成分と呼ぶ)、又は、0次成分と1次成分に加えさらに高周波成分(X線撮影装置1の干渉性に依存)が並んで得られる。
次いで、フーリエ変換により得られた画像(被写体有り、被写体無しのそれぞれ)において、0次成分をHanning窓により切り出される。Hanning窓で切り出すことによりHanning窓の周辺部が0に落とされ、Hanning窓の中心部はそのまま通される。
次いで、フーリエ変換により得られた画像において、1次成分がキャリア周波数(=モアレ周波数)分シフトされ、Hanning窓で切り出される。切り出しの窓関数はHanning窓に限定されず、用途に応じてHamming窓、ガウス窓等を使用してもよい。
次いで、切り出された0次成分、1次成分のそれぞれが逆フーリエ変換される。
逆フーリエ変換が終了すると、逆フーリエ変換された0次成分、1次成分を用いて被写体有りと被写体無しのそれぞれの再構成画像の作成が行われる。具体的には、0次成分の振幅から吸収画像が作成される。また、1次成分の位相から位相画像が作成される。また、0次成分と1次成分の振幅の比(=Visibility)から小角散乱画像が作成される。
次いで、被写体無しの再構成画像を用いて被写体有りの再構成画像から干渉縞の位相の除去と、画像ムラ(アーチファクト)を除去するための補正処理が行われ、この画像ムラの補正が終了すると、フーリエ変換法による再構成画像作成処理は終了する。
【0106】
その他、本発明が本実施形態に限定されず、適宜変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0107】
1 X線撮影装置
5 コントローラ
11 X線源
12 マルチ格子
13 被写体台
14 第1格子
15 第2格子
16 X線検出器
17 支柱
17a 緩衝部材
18 本体部
19 基台部
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影装置及びX線画像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
診断に用いられる医療用のX線画像のほとんどは、吸収コントラスト法による画像である。吸収コントラスト法は、X線が被写体を透過したときのX線強度の減衰の差によりコントラストを形成する。一方、X線の吸収ではなく、X線の位相変化によってコントラストを得る位相コントラスト法が提案されている。例えば、拡大撮影時のX線の屈折を利用したエッジ強調によって視認性の高いX線画像を得る位相コントラスト撮影が行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
吸収コントラスト法は骨等のX線吸収が大きい被写体の撮影に有効である。これに対し、位相コントラスト法はX線吸収差が小さく、吸収コントラスト法によっては画像として現れにくい乳房の組織や関節軟骨、関節周辺の軟部組織をも画像化することが可能であり、X線画像診断への適用が期待されている。
【0004】
位相コントラスト撮影の1つとして、タルボ効果を利用するタルボ干渉計も検討されている(例えば、特許文献3〜5)。タルボ効果とは、一定の周期でスリットが設けられた第1格子を干渉性の光が透過すると、光の進行方向に一定周期でその格子像を結ぶ現象をいう。この格子像は自己像と呼ばれ、タルボ干渉計は自己像を結ぶ位置に第2格子を配置し、この第2格子をわずかにずらすことで生じる干渉縞(モアレ)を測定する。第2格子の前に物体を配置するとモアレが乱れることから、タルボ干渉計によりX線撮影を行うのであれば、第1格子の前に被写体を配置して干渉性X線を照射し、得られたモアレの画像を演算することによって被写体の再構成画像を得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−268033号公報
【特許文献2】特開2008−18060号公報
【特許文献3】特開昭58−16216号公報
【特許文献4】国際公開第2004/058070号パンフレット
【特許文献5】特開2007−203063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実用化を考慮すると、X線源と第1格子との間にマルチ格子(マルチスリット)を設置し、X線の照射線量を増大させるタルボ・ロー干渉計が期待される。
タルボ・ロー干渉計を、例えばリウマチ診断のためのX線撮影に用いる場合、X線撮影装置を天井から床への重力方向にX線を照射する縦型とすることが好ましい。縦型であれば、リウマチが発症しやすい手等を撮影しやすく、またX線撮影装置の省設置面積化をはかることができる。
【0007】
しかし、このようなタルボ干渉計、タルボ・ロー干渉計を用いたX線撮影装置では、縞走査法により再構成画像を作成する場合、従来のタルボ・ロー干渉計であれば、第1格子又は第2格子を移動しながら(両格子を相対移動させながら)、両格子の相対位置に応じた縞の位相の異なるモアレ画像(以後、一定周期間隔のモアレ画像と呼ぶ)が複数撮影される。この撮影における各格子の移動量は極僅かであり、適切にモアレ画像を撮影するためには、各格子を高精度に微調整することが必要となる。
【0008】
特にこのマルチ格子、第1格子及び第2格子は極めて高精度の精密部品であり、装置の輸送中や保管中の外部からの衝撃・振動や温度変化をできる限り避ける必要がある。
このため、装置を組み立てた状態で輸送又は保管しようとすると、特に精密部品であるマルチ格子、第1格子及び第2格子を頑丈に梱包するために、全体がかなり大きくなり、場所をとるため、輸送や保管にかかる費用が増大するという問題がある。
【0009】
また、装置を病院等の施設内に設置した後も、被写体台の上に患者が手等を載せたときの振動や、患者の身体が被写体台に当たった際の衝撃がマルチ格子、第1格子及び第2格子といった精密部品に伝わると、高精度な移動制御ができないことが懸念されるため、振動の影響が無くなるまで撮影を待機しなければならず、円滑・迅速な撮影処理を行うことができない。
また、撮影の途中で被写体台から衝撃や振動がマルチ格子、第1格子及び第2格子といった精密部品に伝わることにより、各格子の位置等がずれてしまった場合には、適切なモアレ画像を得ることができなくなり、再撮影が必要となって、患者に無駄な被曝をさせることとなってしまう。
【0010】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、高精度を要求される精密部品への衝撃や振動の影響を防止しつつ、輸送性、保管性に優れたX線撮影装置、及びこれを用いたX線画像システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明によれば、
X線を照射するX線源と、
複数のスリットを有するマルチ格子、第1格子及び第2格子と、
前記マルチ格子、前記第1格子、及び前記第2格子のうちの少なくとも1つを移動させる移動部と、
被写体台と、
照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取るX線検出器と、
を備え、
前記移動部により、前記マルチ格子、前記第1格子及び前記第2格子のうちの少なくとも1つを前記X線の照射方向と直交する方向に、前記マルチ格子または前記第1格子若しくは前記第2格子に対して相対移動し、前記少なくとも1つがが一定周期間隔で移動する毎に、前記X線源により照射されたX線に応じて前記X線検出器が画像信号を読み取る処理を繰り返し、一定周期間隔のモアレ画像を複数得るX線撮影装置であって、
前記マルチ格子を含むマルチ格子ユニット、前記第1格子を含む第1格子ユニット及び前記第2格子を含む第2格子ユニットは、それぞれが共通の基台部に着脱自在に構成されており、
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における平行度(相対的な平行度)を調整可能とする煽り調整機構が設けられているX線撮影装置が提供される。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における相対距離を調整可能とする相対距離調整機構が設けられている請求項1に記載のX線撮影装置が提供される。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのそれぞれに、前記煽り調整機構及び前記相対距離調整機構が設けられている請求項2に記載のX線撮影装置が提供される。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、
前記X線源は、平行度及び相対距離を調整された前記マルチ格子、前記第1格子及び前記第2格子のスリット方向に対する取付方向が変更可能に構成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のX線撮影装置が提供される。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のX線撮影装置と、
前記X線撮影装置によって得られたモアレ画像を処理し、被写体の再構成画像を作成する画像処理装置と、
を備えるX線画像システムが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の撮影装置によれば、タルボ・ロー干渉計を用いたX線撮影装置において、マルチ格子を含むマルチ格子ユニット、第1格子を含む第1格子ユニット及び第2の格子を含む第2格子ユニットがそれぞれ共通の基台部に着脱自在に構成されているため、装置の輸送時や倉庫等における保管時には、このマルチ格子ユニット、第1格子ユニット及び第2格子ユニットを基台部から取り外した状態とすることができる。
これにより、基台部については厳重な梱包をする必要がなく、マルチ格子ユニット、第1格子ユニット及び第2格子ユニットのみ梱包を厳重にすれば足りる。このため、輸送時や保管時に車両や倉庫内に装置をコンパクトに収容することができ、輸送・保管に要するコストを抑えることができる。
また、マルチ格子ユニット、第1格子ユニット及び第2の格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、マルチ格子、第1格子及び第2の格子相互間における平行度を調整可能とする煽り調整機構が設けられているため、各格子間の平行度(相対的な平行度)を適切に調整して、高精度のモアレ画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係るX線撮影装置を含むX線画像システムの模式的な側面図である。
【図2】図1に示すX線撮影装置の上面図である。
【図3】図1に示すX線撮影装置の具体的構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示すX線撮影装置の各構成部を分離した状態を示す斜視図である。
【図5】図1に示すX線撮影装置のX線源の向きを変更した状態を示す斜視図である。
【図6】図5に示すX線撮影装置の各構成部を分離した状態を示す斜視図である。
【図7】マルチ格子ユニットの斜視図である。
【図8】マルチ格子ユニットがX線源の下方に配置された状態を示す斜視図である。
【図9】励磁電流とマルチ格子の変位量との関係を示すグラフ図である。
【図10】マルチ格子の平面図である。
【図11】第1格子ユニット及び第2格子ユニットを基台部に取り付けた状態を示す斜視図である。
【図12】第1格子ユニットの斜視図である。
【図13】第1格子ユニットの斜視図である。
【図14】第1格子ユニットの斜視図である。
【図15】本体部の機能的構成を示すブロック図である。
【図16】タルボ干渉計の原理を説明する図である。
【図17】X線撮影装置によるX線撮影時の処理を示すフローチャートである。
【図18】コントローラによる処理を示すフローチャートである。
【図19】5ステップの撮影により得られるモアレ画像を示す図である。
【図20】各ステップのモアレ画像の注目画素のX線相対強度を示すグラフである。
【図21】横型のX線撮影装置の側面図である。
【図22】(a)被写体を配置し、マルチ格子を移動して撮影された各ステップのモアレ画像である。(b)被写体を配置せずに、マルチ格子を移動して撮影された各ステップのモアレ画像である。(c)(a)のモアレ画像を用いて作成された再構成画像である。
【図23】(a)被写体を配置し、第2格子を移動して撮影された各ステップのモアレ画像である。(b)被写体を配置せずに、第2格子を移動して撮影された各ステップのモアレ画像である。(c)(a)のモアレ画像を用いて作成された再構成画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者等は鋭意検討を行った結果、第1格子の第2格子に対する相対移動、又は第2格子の第1格子に対する相対移動により複数枚のモアレ画像を生成する機能と、マルチ格子(マルチスリット)によりX線の照射線量を増大させる機能という、従来のタルボ・ロー干渉計の概念にとらわれず、第1の格子及び第2の格子の位置は固定(相対移動無し)とし、マルチ格子を当該第1及び第2の格子に対し、相対移動させる構成によっても、従来のタルボ・ロー干渉計と同様のモアレ画像が得られることを見出した。これにより、従来のタルボ・ロー干渉計に於ける課題、特に縦型に配置した際に想定される課題を解消することができ、タルボ・ロー干渉計を用いた縦型のX線撮影装置を実用化することが可能となる。
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るX線撮影装置及びこれを用いたX線画像システムの一実施形態について説明する。
【0020】
図1は本実施形態に係るX線画像システムを模式的に示したものであり、図2は、図1に示すX線撮影装置1を上方から見た平面図である。
X線画像システムは、X線撮影装置1とコントローラ5を備えている。X線撮影装置1はタルボ・ロー干渉計によるX線撮影を行い、コントローラ5は当該X線撮影により得られたモアレ画像を用いて被写体の再構成画像を作成する。
【0021】
X線撮影装置1は、図1に示すように、X線源11、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16、支柱17、本体部18、基台部19を備えている。
本実施形態におけるX線撮影装置1は縦型であり、X線源11、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16は、この順序に重力方向であるz方向に沿って配置されている。
なお、図1中、X線源11の焦点とマルチ格子12間の距離をd1(mm)、X線源11の焦点とX線検出器16間の距離をd2(mm)、マルチ格子12と第1格子14間の距離をd3(mm)、第1格子14と第2格子15間の距離をd4(mm)で表す。
【0022】
距離d1は好ましくは3〜500(mm)であり、さらに好ましくは4〜300(mm)である。
距離d2は、一般的に放射線科の撮影室の高さは3(m)程度又はそれ以下であることから、少なくとも3000(mm)以下であることが好ましい。なかでも、距離d2は400〜2500(mm)が好ましく、さらに好ましくは500〜2000(mm)である。
X線源11の焦点と第1格子14間の距離(d1+d3)は、好ましくは300〜5000(mm)であり、さらに好ましくは400〜1800(mm)である。
X線源11の焦点と第2格子15間の距離(d1+d3+d4)は、好ましくは400〜5000(mm)であり、さらに好ましくは500〜2000(mm)である。
それぞれの距離は、X線源11から照射されるX線の波長から、第2格子15上に第1格子14による格子像(自己像)が重なる最適な距離を算出し、設定すればよい。
【0023】
図3は、図1及び図2に示すX線撮影装置1の構成を具体的に示した斜視図であり、図4は、X線撮影装置1の各構成部を分離した状態を示す斜視図である。
図3及び図4に示すように、本実施形態におけるX線撮影装置1は、X線源11を支持する支柱17と、マルチ格子12を含むマルチ格子ユニット120、第1格子14を含む第1格子ユニット140、第2格子15を含む第2格子ユニット150及びX線検出器16が取り付けられている基台部19と、被写体台13とに大きく分離することができる。
【0024】
X線源11には、ほぼコ字状に形成された固定用部材111が取付用アーム112を介して取り付けられている。本実施形態において、支柱17は、四角柱形状となっており、固定用部材111は、支柱17を側面から挟み込むようにして支柱17に取り付けられ、固定されている。
取付用アーム112の一部には緩衝部材17a(図1参照)が設けられており、X線源11は、この緩衝部材17aを介して保持されている。緩衝部材17aは、衝撃や振動を吸収できる材料であれば何れの材料を用いてもよいが、例えばエラストマー等が挙げられる。X線源11はX線の照射によって発熱するため、X線源11側の緩衝部材17aは衝撃や振動を吸収できる材料であることに加えて断熱材料であることが好ましい。
【0025】
X線源11はX線管を備え、当該X線管によりX線を発生させて重力方向(z方向)にX線を照射する。X線管としては、例えば医療現場で広く一般に用いられているクーリッジX線管や回転陽極X線管を用いることができる。陽極としては、タングステンやモリブデンを用いることができる。
X線の焦点径は、0.03〜3(mm)が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1(mm)である。
【0026】
また、本実施形態では、X線源11は、図5及び図6に示すように、取付用アーム112の一部がほぼ90度屈曲することにより、平行度及び相対距離を調整されたマルチ格子12、第1格子14、第2格子15のスリットの方向に対してX線源11の取付方向がほぼ90度回転可能に構成されている。
本実施形態において、X線源11のX線管の焦点形状は完全な円形ではなく、僅かに楕円形状となっており、後述するモアレ画像を取得する際の撮影では、X線管の向きを変えることによって適切なモアレ画像を得ることができる場合がある。このため、X線源11をほぼ90度回転させることにより、X線管の焦点形状に由来する不具合を解消することができる。
なお、X線源11を、マルチ格子12、第1格子14及び第2の格子15のスリット方向に対する取付方向を変更可能とする構成はここに例示したものに限定されない。例えば、固定用部材111の取付位置を変えることによりX線源11の取付方向を変更可能としてもよい。また、X線源11の取付方向の変更は90度だけでなく、さらに細かく角度設定が可能となるように構成してもよい。
【0027】
マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150及びX線検出器16は、同一の基台部19の上に保持され、z方向における位置関係が固定されている。マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150は、重力方向(z方向)と直交する方向に延展せしめられており、ねじ等により、それぞれ基台部19に対して着脱自在に取り付けられている。
また、X線検出器16は、基台部19に設けられている検出器支持台191の上に、緩衝部材192を介して載置されている。
なお、基台部19は支柱17に対してz方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0028】
図7は、マルチ格子ユニット120の斜視図である。
図7に示すように、マルチ格子ユニット120は、基台部19に取り付けられるほぼL字状の基台取付部121とこの基台取付部121の上に載置されるマルチ格子ユニット本体122を備えている。
この基台取付部121における床面に対してほぼ水平に配置されている面には、マルチ格子ユニット本体122をx方向に移動させるためのリニアガイド123が設けられている。
基台取付部121は、基台部19への取り付け位置を調整することにより、マルチ格子12と、第1格子14や第2の格子15との間における相対距離を調整可能とするものである。また、マルチ格子ユニット本体122には、相対距離微調整機構部127が設けられている。相対距離微調整機構部127は、その重力方向(上下方向)の長さを変えることでマルチ格子12の重力方向(上下方向)の位置を調整するものである。本実施形態では、基台取付部121と相対距離微調整機構部127とにより、マルチ格子12と、第1格子14や第2の格子15との間における相対距離を調整する相対距離調整機構が構成される。
なお、比較的重量物であるマルチ格子ユニットを扱う際の作業性や安全性、及び、位置調整のやり易さの両観点からは、前者と後者の機能を分離する方が好ましく、取付位置は位置決めピン等により仮固定し(調整不可)、ネジ等で基台部19に螺合(固定)する構造とし、固定終了後、作業者が両手を自由に使って、マルチ格子ユニット本体122内に設けた相対距離微調整機構部127により相対距離を微調整する構造とすることが好ましい。
【0029】
マルチ格子ユニット本体122には、マルチ格子12が支持されている他、マルチ格子12を移動させるためのマルチ格子駆動部125として、x方向移動用モータ125a、マルチ格子12をx方向に回転させるためのθx回転用モータ125b、マルチ格子12をy方向に回転させるためのθy回転用モータ125c、マルチ格子12をz方向に回転させるためのθz回転用モータ125dが設けられている。
本実施形態では、マルチ格子12は、図8に示すように、X線源11の下方からX線源11の内部に挿入されており、X線管の焦点位置のすぐ近くに配置されるようになっている。
【0030】
x方向移動用モータ125aは、通電駆動される駆動源であり、例えばパルス信号に正確に同期して動作するステッピングモータ(パルスモータ)等、高精度の動作制御を行うことのできるモータにより構成されている。x方向移動用モータ125aに適用されるステッピングモータとしては、例えば、オリエンタルモーター株式会社製の5相ステッピングモータ(型式:PX533MH-B)等の5相ステッピングモータが望ましく、5相でも高分解能タイプが好ましい。すなわち、一般的には基本ステップ角:0.72°であるが、高分解能タイプでは基本ステップ角:0.36°であり、このようなモータが好適に用いられる。更に、ステップ数を細分化できるマイクロステップによる制御を行うことが好ましい。
本実施形態では、駆動源であるx方向移動用モータ125aが駆動すると、当該駆動源の出力を被駆動部であるマルチ格子12を含むマルチ格子ユニット120の本体まで伝達する伝達系を構成する図示しないボールねじが回転し、マルチ格子12を含むマルチ格子ユニット120の本体がリニアガイド123にガイドされてx方向に移動するようになっている。
駆動源であるx方向移動用モータ125aと伝達系であるボールねじ及びリニアガイドによってマルチ格子ユニット120の移動部が構成されており、この移動部は重力方向(z方向)と直交する方向に移動する移動要素のみにより構成されている。
【0031】
また、本実施形態では、マルチ格子12を移動させる際には、x方向移動用モータ125aの出力を最大とするが、X線照射時には、マルチ格子駆動部125は、x方向移動用モータ125aへの通電電流が、当該モータの出力を最大としたときにマルチ格子12に生じる変位量の50%以下となるような電流値となるようにx方向移動用モータ125aへの通電電流値を調整するようになっている。
【0032】
マルチ格子12を移動させながら複数回の撮影を行う場合、マルチ格子12の位置を高精度に維持するために、x方向移動用モータ125aに電流をかけて励磁することによりその自己保持力で位置を固定しておく必要がある。また、マルチ格子12を移動させながら複数回の撮影を行う場合には、現時点でのマルチ格子12の位置を次の移動の際の基点としてマルチ格子12を順次移動させていくが、電源を停止させてしまうと、現時点でのマルチ格子12の位置を次の移動の際にフィードバックさせることができなくなってしまう。このため、マルチ格子12を移動させていないとき(すなわち、X線照射時)でも、所定の複数回の撮影が終了するまでは、x方向移動用モータ125aに電流をかけ続けておく必要がある。
他方で、励磁する際にx方向移動用モータ125aにかける電流の電流値が高いと、x方向移動用モータ125aが発熱するとともに、微振動を生じ、これがボールねじに伝わる等により、マルチ格子12の位置に微細な変位を生じさせてしまう。
【0033】
図9は、横軸に時間(min)をとり、縦軸にマルチ格子12の変位量(μm)と温度変化(℃)をとって、励磁電流値と、温度変化及びマルチ格子12の変位量との関係を示したグラフである。
図9において、マルチ格子12の変位量は、初期状態のマルチ格子12の位置をゼロとしたときに励磁電流値及び温度変化によってどれだけマルチ格子12が移動方向(x方向)に変位するかを測定したものである。また、温度上昇値は、各電流値の励磁電流をかけた際のx方向移動用モータ125aの温度変化を測定したものである。
図9に示すように、励磁電流値を当該モータの出力を最大としたときの90%程度とすると、時間の経過に伴ってx方向移動用モータ125aの温度が上昇するとともに、マルチ格子12の変位量も大きくなっていき、1.4μmを超える変位量となる。これに対して、励磁電流値を当該モータの出力を最大としたときの27%程度とすると、時間が経過してもx方向移動用モータ125aの温度はそれほど上昇せず、マルチ格子12の変位量も0.3μm程度に止まる。また、励磁電流値を当該モータの出力を最大としたときの50%程度とした場合でも、時間経過に伴うx方向移動用モータ125aの温度上昇はそれほど大きくなく、マルチ格子12の変位量も0.45μm程度に止まる。
【0034】
ここで、適切なモアレ画像を得るためには、x方向移動用モータ125aによるマルチ格子12の格子送り精度は、格子送り量の1/10以下である必要がある。例えば、マルチ格子12を5回移動させて5回撮影することによりモアレ画像を得る場合には、格子ピッチの1/5ずつマルチ格子12を移動させる。また、マルチ格子12を3回移動させて3回撮影することによりモアレ画像を得る場合には、格子ピッチの1/3ずつマルチ格子12を移動させることとなる。したがって、例えば、格子ピッチが22.8μmであり、その格子送り量が5.7μmである場合、要求される精度(格子相対位置)は、±0.23μm(P-P:0.46μm)となる。
本実施形態においては、励磁電流値を当該モータの出力を最大としたときの50%程度以下であれば、要求される精度(格子相対位置)を満たしており、x方向移動用モータ125aに電流をかけてもモアレ画像の生成に影響を与えないといえる。
【0035】
なお、x方向移動用モータ125aにかける励磁電流値がどの程度のときにモアレ画像の生成に影響を与えるか、すなわち、「x方向移動用モータ125aへの通電電流が、当該モータの出力を最大としたときにマルチ格子12に生じる変位量の50%以下となるような電流値」がどの程度であるかは、モータの種類によって異なる。このため、X線照射時の励磁電流値は、適用するモータに応じて適宜設定することが好ましい。
【0036】
θx回転用モータ125b、θy回転用モータ125c、θz回転用モータ125dは、例えば駆動源となるアクチュエータ等を内蔵したゴニオステージであり、マルチ格子12、第1格子14及び第2の格子15相互間における平行度を調整可能とする煽り調整機構として機能するものである。
【0037】
マルチ格子ユニット120に設けられているマルチ格子12は回折格子であり、図10に示すようにx方向に複数のスリットが所定間隔で設けられている。マルチ格子12はシリコンやガラスといったX線の吸収率が低い材質の基板上に、タングステン、鉛、金といったX線の遮蔽力が大きい、つまりX線の吸収率が高い材質により形成される。例えば、フォトリソグラフィーによりレジスト層がスリット状にマスクされ、UVが照射されてスリットのパターンがレジスト層に転写される。露光によって当該パターンと同じ形状のスリット構造が得られ、電鋳法によりスリット構造間に金属が埋め込まれて、マルチ格子12が形成される。
【0038】
マルチ格子12のスリット周期は1〜60(μm)である。スリット周期は、図10に示すように隣接するスリット間の距離を1周期とする。スリットの幅(x方向の長さ)はスリット周期の1〜60(%)の長さであり、さらに好ましくは10〜40(%)である。スリットの高さ(z方向の長さ)は1〜500(μm)であり、好ましくは1〜150(μm)である。
マルチ格子12のスリット周期をw0(μm)、第1格子14のスリット周期をw1(μm)とすると、スリット周期w0は下記式により求めることができる。
w0=w1・(d3+d4)/d4
当該式を満たすように周期w0を決定することにより、マルチ格子12及び第1格子14の各スリットを通過したX線により形成される自己像が、それぞれ第2格子15上で重なり合い、いわばピントが合った状態とすることができる。
【0039】
第1格子14は、マルチ格子12と同様にx方向に複数のスリットが設けられた回折格子である。第1格子14は、マルチ格子12と同様にUVを用いたフォトリソグラフィーによって形成することもできるし、いわゆるICP法によりシリコン基板に微細細線で深掘加工を行い、シリコンのみで格子構造を形成することとしてもよい。第1格子14のスリット周期は1〜20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の20〜70(%)であり、好ましくは35〜60(%)である。スリットの高さは1〜100(μm)である。
【0040】
第1格子14として位相型を用いる場合、スリットの高さ(z方向の長さ)はスリット周期を形成する2種の素材、つまりX線透過部とX線遮蔽部の素材による位相差(X線の位相差)がπ/8〜15×π/8となる高さとする。好ましくは、π/4〜3×π/4となる高さである。第1格子14として吸収型を用いる場合、スリットの高さはX線遮蔽部によりX線が十分吸収される高さとする。
【0041】
第1格子14が位相型である場合、第1格子14と第2格子15間の距離d4は、次の条件をほぼ満たすことが必要である。
d4=(m+(1/2))・w12/λ
なお、mは整数であり、λはX線の波長である。
【0042】
第2格子15は、マルチ格子12及び第1格子14と同様にx方向に複数のスリットが設けられた回折格子である。第2格子15もフォトリソグラフィーにより形成することができる。第2格子15のスリット周期は1〜20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の30〜70(%)であり、好ましくは35〜60(%)である。スリットの高さは1〜100(μm)である。
【0043】
本実施例では第1格子14及び第2格子15は、それぞれの格子面がz方向に対し垂直(x−y平面内で平行)であり、第1格子のスリット配列方向と第2格子のスリット配列方向とは、x−y平面内で所定角度だけ傾けて配置されているが、両者を平行な配置としてもよい。
【0044】
第1格子14及び第2格子15は、それぞれ、ほぼ同様の構成を有する第1格子ユニット140及び第2格子ユニット150に設けられている。
図11は、基台部19における第1格子ユニット140の取り付け部分を拡大した斜視図である。図11に示すように、第2格子ユニット150は、第2格子15がX線検出器16のすぐ上に位置するように配置される。また、第1格子ユニット140は、第1格子15が第2格子15の上方に位置するように配置される。
【0045】
また、図12及び図13は、第1格子ユニット140を上側から見た斜視図であり、図14は斜め上方向から見た斜視図である。なお、第2格子ユニット150は、第1格子ユニット140と同一の構成となっているため、図示及び説明を省略する。
【0046】
第1格子ユニット140は、図12から図14に示すように、基台部19に取り付けられるほぼL字状の基台取付部141と第1格子ユニット本体142とを備えている。この第1格子ユニット本体142は、基台取付部141における床面に対してほぼ水平に配置されている面に載置されている。
基台取付部141は、基台部19への取り付け位置を調整することにより、第1格子14と、第2の格子15やマルチ格子12との間における相対距離を調整可能とする相対距離調整機構として機能する。
また、第1格子ユニット本体142の上側面には、第1格子14をx方向に移動させるためのリニアガイド143が設けられている。
【0047】
第1格子ユニット本体142には、支持部14aに支持された第1格子14が設けられている他、第1格子14を移動させるための第1格子駆動部145として、x方向移動用モータ145a、第1格子14をx方向に回転させるためのθx回転用モータ145bが設けられている。
【0048】
x方向移動用モータ145aは、通電駆動される駆動源であり、マルチ格子ユニット120のx方向移動用モータ125aと同様に、例えばパルス信号に正確に同期して動作するステッピングモータ(パルスモータ)等、高精度の動作制御を行うことのできるモータにより構成されている。
本実施形態では、駆動源であるx方向移動用モータ145aが駆動すると、当該駆動源の出力を被駆動部である第1格子14を支持する支持部14aまで伝達する伝達系を構成するボールねじ144が回転し、支持部14aに支持された第1格子14がリニアガイド143にガイドされてx方向に移動するようになっている。
駆動源であるx方向移動用モータ145aと伝達系であるボールねじ及びリニアガイドによって第1格子ユニット140の移動部が構成されており、この移動部は重力方向(z方向)と直交する方向に移動する移動要素のみにより構成されている。
【0049】
ここで、適切なモアレ画像を得るためには、x方向移動用モータ145aによる第1格子14の格子送り精度は、マルチ格子12の場合と同様に、格子送り量の1/10以下である必要がある。例えば、第1格子14を5回移動させて5回撮影することによりモアレ画像を得る場合には、格子ピッチの1/5ずつ第1格子14を移動させ、第1格子14を3回移動させて3回撮影することによりモアレ画像を得る場合には、格子ピッチの1/3ずつ第1格子14を移動させることとなる。したがって、例えば、格子ピッチが5.3μmであり、その格子送り量が1.33μmである場合、要求される精度(格子相対位置)は、±0.05μm(P-P:0.10μm)となる。
そして、x方向移動用モータ145aに電流をかけるとx方向移動用モータ125aの場合と同様、モータの温度が上昇し、周辺部品の熱膨張を誘発し、結果として最終的な第1格子14の精密送りが達成できず、静的な格子間のアライメント不良を生じたり、モータが微振動し、この振動が周辺部品に伝搬し、結果として第1格子14が精密送りされた位置に保持できず、動的な格子間のアライメント不良(不定)を生じてしまう。
【0050】
このため、x方向移動用モータ145aについても、x方向移動用モータ125aの場合と同様、第1格子14を移動させる際には、x方向移動用モータ145aの出力を最大とするが、X線照射時には、第1格子駆動部145は、x方向移動用モータ145aへの通電電流が、当該モータの出力を最大としたときに第1格子14に生じる変位量の50%以下となるような電流値となるようにx方向移動用モータ145aへの通電電流値を調整するようになっている。
なお、X線照射時におけるx方向移動用モータ145aへの通電電流値(励磁電流値)は、x方向移動用モータ125aの場合と同様、適用するモータに応じて適宜設定することが好ましい。
【0051】
θx回転用モータ145bは、例えば駆動源となるアクチュエータ等を内蔵したゴニオステージであり、マルチ格子12、第1格子14及び第2の格子15相互間における平行度を調整可能とする煽り調整機構として機能するものである。なお、マルチ格子ユニット120の場合と同様に、煽り調整機構としてθy回転用モータ、θz回転用モータを設けてもよい。
【0052】
第2格子ユニット本体152には、支持部に支持された第2格子15が設けられている他、第2格子15を移動させるための第2格子駆動部155として、x方向移動用モータ、第2格子15をx方向に回転させるためのθx回転用モータ(いずれも図示せず)が設けられている。
なお、前記のように、X線照射時における通電電流値(励磁電流値)を調整する点等については、第2格子15の第2格子駆動部155のx方向移動用モータについても、マルチ格子ユニット120のx方向移動用モータ125a、第1格子ユニット140のx方向移動用モータ145a同様である。
【0053】
上記マルチ格子12、第1格子14、第2格子15は、例えば下記のように構成することができる。
X線源11のX線管の焦点径;300(μm)、管電圧:40(kVp)、付加フィルタ:アルミ1.6(mm)
X線源11の焦点からマルチ格子12までの距離d1:40(mm)
マルチ格子12から第1格子14までの距離d3:1110(mm)
マルチ格子12から第2格子15までの距離d3+d4:1370(mm)
マルチ格子12のサイズ:10(mm四方)、スリット周期:22.8(μm)
第1格子14のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:4.3(μm)
第2格子15のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:5.3(μm)
【0054】
X線検出器16は、照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取る。
X線検出器16の画素サイズは10〜300(μm)であり、さらに好ましくは50〜200(μm)である。
【0055】
X線検出器16は第2格子15に当接するように基台部19に位置を固定することが好ましい。第2格子15とX線検出器16間の距離が大きくなるほど、X線検出器16により得られるモアレ画像がボケるからである。
X線検出器16としては、FPD(Flat Panel Detector)を用いることができる。FPDには、X線をシンチレータを介して光電変換素子により電気信号に変換する間接変換型、X線を直接的に電気信号に変換する直接変換型があるが、何れを用いてもよい。
【0056】
間接変換型は、CsIやGd2O3あるいはGd2O2S等のシンチレータプレートの下に、光電変換素子がTFT(薄膜トランジスタ)とともに2次元状に配置されて各画素を構成する。X線検出器16に入射したX線がシンチレータプレートに吸収されると、シンチレータプレートが発光する。この発光した光により、各光電変換素子に電荷が蓄積され、蓄積された電荷は画像信号として読み出される。
【0057】
直接変換型は、アモルファスセレンの熱蒸着により、100〜1000(μm)の膜厚のアモルファスセレン膜がガラス上に形成され、2次元状に配置されたTFTのアレイ上にアモルファスセレン膜と電極が蒸着される。アモルファスセレン膜がX線を吸収するとき、電子正孔対の形で物質内にキャリアが遊離され、電極間の電圧信号がTFTにより読み取られる。
なお、CCD(Charge Coupled Device)、X線カメラ等の撮影手段をX線検出器16として用いてもよい。
【0058】
X線撮影時のFPDによる一連の処理を説明する。
まずFPDはリセットを行い、前回の撮影(読取)以降に残存する不要な電荷を取り除く。その後、X線の照射が開始するタイミングで電荷の蓄積が行われ、X線の照射が終了するタイミングで蓄積された電荷が画像信号として読み取られる。なお、リセットの直後や画像信号の読み取り後に、蓄積されている電荷の電圧値を検出するダーク読み取りを行い、当該電圧値を補正値としてX線照射後に蓄積された電荷の電圧値から補正値を差し引いた電圧値を画像信号として出力してもよい。これにより、画像信号に対しいわゆるオフセット補正を行うことができる。
【0059】
本体部18は、図15に示すように、制御部181、操作部182、表示部183、通信部184、記憶部185、マルチ格子駆動部125、第1格子駆動部145、第2格子駆動部155を備えて構成されている。
制御部181は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)等から構成され、記憶部185に記憶されているプログラムとの協働により、各種処理を実行する。例えば、制御部181はコントローラ5から入力される撮影条件の設定情報に従って、X線源11からのX線照射のタイミングやX線検出器16による画像信号の読取タイミング等を制御する。
【0060】
操作部182は曝射スイッチや撮影条件等の入力操作に用いるキー群の他、表示部183のディスプレイと一体に構成されたタッチパネルを備え、これらの操作に応じた操作信号を生成して制御部181に出力する。
表示部183は制御部181の表示制御に従って、ディスプレイに操作画面やX線撮影装置1の動作状況等を表示する。
【0061】
通信部184は通信インターフェイスを備え、ネットワーク上のコントローラ5と通信する。例えば、通信部184はX線検出器16によって読み取られ、記憶部185に記憶されたモアレ画像をコントローラ5に送信する。
記憶部185は、制御部181により実行されるプログラム、プログラムの実行に必要なデータを記憶している。また、記憶部185はX線検出器16によって得られたモアレ画像を記憶する。
【0062】
マルチ格子駆動部125、第1格子駆動部145、第2格子駆動部155は、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150の各駆動源(モータ)を動作させるものである。
【0063】
被写体台13は、撮影時に被写体となる患者の手指等を載置するものである。
図3から図6に示すように、本実施形態では、被写体台13は、キャスタ131を備える脚部132を有し、支柱17や基台部19から独立している。脚部132は、支柱17と基台部19との間に配置されるようになっており、基台部19側の脚部132には、キャスタ131をロックするロック機構133が設けられている。
なお、被写体台13の構成はここに例示したものに限定されない。例えば全ての脚部132にロック機構133を設けてもよいし、ロック機構133を設けず、支柱17又は基台部19の一端に被写体台13が固定されるようにしてもよい。なお、被写体台13は、支柱17又は基台部19に接触した際に衝撃を吸収することのできる衝撃吸収部材(図示せず)を備えていることが好ましい。
【0064】
コントローラ5は、オペレータによる操作に従ってX線撮影装置1の撮影動作を制御し、X線撮影装置1により得られたモアレ画像を用いて被写体の再構成画像を作成する。本実施形態では被写体の再構成画像を作成する画像処理装置としてコントローラ5を用いた例を説明するが、X線画像に様々な画像処理を施す専用の画像処理装置をX線撮影装置1と接続し、当該画像処理装置により再構成画像の作成を行うこととしてもよい。
【0065】
上記X線撮影装置1のタルボ・ロー干渉計によるX線撮影方法を説明する。
図16に示すように、X線源11から照射されたX線が第1格子14を透過すると、透過したX線がz方向に一定の間隔で像を結ぶ。この像を自己像といい、自己像が形成される現象をタルボ効果という。自己像を結ぶ位置に第2格子15が平行に配置され、当該第2格子15はその格子方向が第1格子14の格子方向と平行な位置からわずかに傾けられているので、第2格子15を透過したX線によりモアレ画像Mが得られる。X線源11と第1格子14間に被写体Hが存在すると、被写体HによってX線の位相がずれるため、図16に示すようにモアレ画像M上の干渉縞は被写体Hの辺縁を境界に乱れる(歪む)。この干渉縞の乱れ(歪み)を、モアレ画像Mを処理することによって検出し、被写体像を画像化することができる。これがタルボ干渉計の原理である。
【0066】
X線撮影装置1では、X線源11と第1格子14との間のX線源11に近い位置に、マルチ格子12が配置され、タルボ・ロー干渉計によるX線撮影が行われる。タルボ干渉計はX線源11が理想的な点線源であることを前提としているが、実際の撮影にはある程度焦点径が大きい焦点が用いられるため、マルチ格子12によってあたかも点線源が複数連なってX線が照射されているかのように多光源化する。これがタルボ・ロー干渉計によるX線撮影法であり、焦点径がある程度大きい場合にも、タルボ干渉計と同様のタルボ効果を得ることができる。
【0067】
従来のタルボ・ロー干渉計では、マルチ格子12は上述のように多光源化と照射線量の増大を目的に用いられ、縞走査法によりモアレ画像を得るため、第1格子14又は第2格子15を相対移動させていた。しかし、本実施形態では、第1格子14又は第2格子15を相対移動させるのではなく、第1格子14及び第2格子15の位置は固定したまま、第1格子14及び第2格子15に対してマルチ格子を移動させることで一定周期間隔のモアレ画像を複数得る。
【0068】
図17は、X線撮影装置1によるX線撮影の流れを示すフローチャートである。
X線撮影には上述のタルボ・ロー干渉計によるX線撮影方法が用いられ、被写体像の再構成には縞走査法が用いられる。X線撮影装置1ではマルチ格子12が等間隔毎に複数ステップ移動され、ステップ毎に撮影が行われて、各ステップのモアレ画像が得られる。
【0069】
ステップ数は2〜20、さらに好ましくは3〜10である。視認性の高い再構成画像を短時間で得るという観点からすれば、5ステップが好ましい(参照文献(1)K.Hibino, B.F.Oreb and D.I.Farrant, Phase shifting for nonsinusoidal wave forms with phase−shift errors, J.Opt.Soc.Am.A, Vol.12, 761−768(1995)、参照文献(2)A.Momose, W.Yashiro, Y. Takeda, Y.Suzuki and T.Hattori, Phase Tomography by X−ray Talbot Interferometetry for biological imaging, Jpn. J. Appl. Phys., Vol.45, 5254−5262(2006))。
【0070】
図17に示すように、オペレータにより曝射スイッチがON操作されると(ステップS1;Y)、x方向移動用モータ125aによりマルチ格子12が移動され、複数ステップの撮影が実行され、モアレ画像が生成される(ステップS2)。
まず、マルチ格子12が停止した状態でX線源11によるX線の照射が開始される。X線検出器16ではリセット後、X線照射のタイミングに合わせて電荷が蓄積され、X線の照射停止のタイミングに合わせて蓄積された電荷が画像信号として読み取られる。これが1ステップ分の撮影である。1ステップ分の撮影が終了するタイミングでマルチ格子12の移動が開始され、所定量移動すると停止され、次のステップの撮影が行われる。このようにして、マルチ格子12の移動と停止が所定のステップ数分だけ繰り返され、マルチ格子12が停止したときにX線の照射と画像信号の読み取りが行われる。読み取られた画像信号はモアレ画像として本体部18に出力される。
【0071】
例えば、マルチ格子12のスリット周期を22.8(μm)とし、5ステップの撮影を10秒で行うとする。マルチ格子12がそのスリット周期の1/5に該当する4.56(μm)移動し停止する毎に撮影が行われる。撮影時間でいえば爆射スイッチON後、2、4、6、8、10秒後にそれぞれ撮影が行われる。
【0072】
従来のように第2格子15(又は第1格子14)を第1格子14(又は第2格子15)に対して移動させる場合、第2格子15のスリット周期は比較的小さく、各ステップの移動量も小さくなるが、マルチ格子12のスリット周期は第2格子15よりも比較的大きく、各ステップの移動量も大きい。例えば、スリット周期5.3(μm)の第2格子15のステップ毎の移動量は1.06(μm)であるのに対し、スリット周期22.8(μm)のマルチ格子12の移動量は4.56(μm)と約4倍の大きさである。同一の駆動伝達系(駆動源、減速伝達系を含む)を使用し、各ステップの撮影に際し、x方向移動用モータ125aの起動と停止を繰り返して撮影を行った場合、移動用のパルスモータ(駆動源)の制御量(駆動パルス数)に対応した実際の移動量に占める、起動時及び停止時のx方向移動用モータ125aのバックラッシュ等の影響による移動量誤差の割合は、本実施形態のようにマルチ格子12を移動させる方式の方が小さくなる。これは、後述するサインカーブに沿ったモアレ画像を得やすく、起動及び停止を繰り返しても高精細な再構成画像が得られることを示している。或いは、従来方式による画像でも充分診断に適合する場合には、モータ(駆動源)を含む駆動伝達系全体の精度(特に、起動特性及び停止特性)を緩和し、駆動伝達系を構成する部品のコストダウンが可能であることを示している。
【0073】
各ステップの撮影が終了すると、本体部18からコントローラ5に、各ステップのモアレ画像が送信される(ステップS3)。本体部18からコントローラ5に対しては各ステップの撮影が終了する毎に1枚ずつ送信することとしてもよいし、各ステップの撮影が終了し、全てのモアレ画像が得られた後、まとめて送信することとしてもよい。
【0074】
図18は、モアレ画像を受信した後のコントローラ5の処理の流れを示すフローチャートである。
図18に示すように、まずモアレ画像の解析が行われ(ステップS11)、再構成画像の作成に使用できるか否かが判断される(ステップS12)。理想的な送り精度によりマルチ格子12を一定の送り量で移動できた場合、図19に示すように、5ステップの撮影でマルチ格子12のスリット周期1周期分のモアレ画像5枚が得られる。各ステップのモアレ画像は0.2周期という一定周期間隔毎に縞走査をした結果であるので、各モアレ画像の任意の1画素に注目すると、その信号値を正規化して得られるX線相対強度は、図20に示すようにサインカーブを描く。よって、コントローラ5は得られた各ステップのモアレ画像のある画素に注目してX線相対強度を求める。各モアレ画像から求められたX線相対強度が、図20に示すようなサインカーブを形成すれば、一定周期間隔のモアレ画像が得られているので、再構成画像の作成に使用できると判断することができる。
なお、上記サインカーブ形状は、マルチ格子開口幅、位相格子の周期、及び位相格子の格子間距離に依存し、また、放射光のようなコヒーレント光の場合には三角波形状となるが、マルチ格子効果によりX線が準コヒーレント光として作用する為、サインカーブを描くものとなる。
【0075】
各ステップのモアレ画像の中にサインカーブを形成できないモアレ画像がある場合、再構成画像の作成に使用できないと判断され(ステップS12;N)、撮影のタイミングを変更して再撮影するよう指示する制御情報がコントローラ5からX線撮影装置1に送信される(ステップS13)。例えば、図20に示すように、3ステップ目は本来0.4周期のところ、周期がずれて0.35周期のモアレ画像が得られた場合であれば、x方向移動用モータ125aの送り精度の低下が原因(例えば、パルスモータの駆動パルスへのノイズ重畳等)と考えられる。よって、0.05周期分だけ撮影のタイミングを早めて3ステップ目のみ再撮影を行うよう指示すればよい。或いは、5ステップ全てについて再撮影し、3ステップ目のみ0.05周期分の撮影時間を早めるように指示してもよい。5ステップ全てのモアレ画像が所定量ずつサインカーブからずれている場合、x方向移動用モータ125aの起動から停止までの駆動パルス数を増やすか、或いは減らすように指示してもよい。
X線撮影装置1では、当該制御情報に従って撮影のタイミングが調整され、図17に示すX線撮影の処理が再度実行される。
【0076】
一方、再構成画像の作成にモアレ画像を使用できると判断された場合(ステップS12;Y)、コントローラ5によってモアレ画像が処理され、被写体の再構成画像が作成される(ステップS14)。具体的には、5枚のモアレ画像の各画素についてステップ毎の強度変化(信号値の変化)が算出され、当該強度変化より微分位相が算出される。必要であれば、位相接続(位相アンラップ)が行われ、ステップ全体の位相が求められる。当該位相からz方向における光路差(屈折率差に起因する光路差)が算出され、被写体の形状を表す再構成画像が作成される(上記参照文献(1)、(2))。作成された再構成画像はコントローラ5に表示されるので、オペレータは当該再構成画像を確認することができる。
【0077】
〈撮影実験〉
撮影実験により、第1格子14又は第2格子15ではなく、マルチ格子12を移動させた場合にも同様なモアレ画像及び再構成画像が得られることを検証した。
【0078】
図21に、撮影実験に用いた横型のX線撮影装置を示す。
X線源21、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15及びX線検出器16を、横方向(y方向)に配置した横型のX線撮影装置3の試作機を作製し、当該試作機を撮影実験に用いた。X線源21には、市販品のX線管のモリブデンをタングステンに改造したX線管を使用した。
この試作機においてマルチ格子12をx方向に移動させて撮影を行い、モアレ画像を得て被写体の再構成画像を作成した。次に、同じ試作機において第2格子15をx方向移動させて撮影を行い、同様に再構成画像を作成した。
【0079】
撮影条件は以下の通りである。マルチ格子12、第2格子15の何れを移動させた場合も同じ撮影条件を用いた。
X線管の焦点径;300(μm)、管電圧;40kV、付加フィルタ;アルミ1.6(mm)、中心エネルギー28(keV)
X線検出器;Condor486(Fairchild Imaging社製)、画素サイズ;15(μm)
X線源11の焦点からマルチ格子までの距離d1: 40(mm)
マルチ格子から第1格子までの距離d3 :1110(mm)
マルチ格子から第2格子までの距離d3+d4 :1370(mm)
マルチ格子のサイズ:5(mm四方)、スリット周期:22.8(μm)
第1格子のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:4.3(μm)
第2格子のサイズ:50(mm四方)、スリット周期:5.3(μm)
【0080】
図22(a)〜図22(c)は、マルチ格子を移動させて得られた画像を示している。図22(a)は被写体(サンプル)を配置して撮影された1〜5ステップのモアレ画像、図22(b)は被写体を配置せずに撮影された1〜5ステップのモアレ画像である。図22(c)は、図22(a)の各ステップのモアレ画像から作成された再構成画像を示す。
一方、図23(a)〜図23(c)は第2格子を移動させて得られた画像を示している。
図23(a)は被写体を配置して撮影された1〜5ステップのモアレ画像、図23(b)は被写体を配置せずに撮影された1〜5ステップのモアレ画像、図23(c)は図23(a)の各ステップのモアレ画像から作成された再構成画像である。
【0081】
図22(a)と図23(a)、図22(b)と図23(b)、図22(c)と図23(c)をそれぞれ比較して分かるように、マルチ格子を移動させた場合も、第2格子を移動させた場合と比べて個々の画像自体の画質が劣化することもなく、更に、各画像の位相(周期)関係が維持され易いので、同等以上の再構成画像を得ることができる。
【0082】
撮影実験は横型のX線撮影装置3で行ったが、第1格子又は第2格子ではなくマルチ格子を移動させても同じ画像が得られること自体は、X線撮影装置が縦型でも横型でも変わらない。従来は複数枚のモアレ画像を得るためにマルチ格子を移動させる概念が無く、第1格子又は第2格子を移動させる構成に拘束されていた。本発明者等はマルチ格子を移動させる構成でも同様のモアレ画像及び再構成画像が得られることを見出し、患者が接近する被写体台近傍周辺部から精密移動部を取り除くことで撮影への悪影響を排除し、これを縦型に配置したX線撮影装置に適用することでタルボ・ロー干渉計を実用化することが可能となった。
【0083】
以上のように、本実施形態によれば、X線撮影装置1は、X線源11、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16がこの順に重力方向に配置された縦型であり、マルチ格子12をx方向に移動させる駆動部を備える。マルチ格子12が一定周期間隔で移動する毎に、X線源11により照射されたX線に応じてX線検出器16が画像信号の読み取る処理を繰り返し、一定周期間隔のモアレ画像を複数得る。
【0084】
縦型のX線撮影装置1において、第2格子15(又は第1格子14)ではなくマルチ格子12を移動する構成とすることにより、被写体より床側に配置される第2格子15付近に第2格子15を移動させるための駆動部を設けるスペースが不要となる。一方、x方向移動用モータ125aが配置されるマルチ格子12はX線源11近くに配置されるので、患者の足下付近を、駆動系を設けることなく第1格子14、第2格子15、X線検出器16のみの配置とすることができ、患者が接触し難い構成とすることができる。駆動系が無い被写体より下部を堅牢に構成することができるので、仮に患者の接触によりX線撮影装置1に振動が伝わるような場合があっても、共振等の発生を防ぎ、振動自体の伝搬を阻止することができる。よって、振動が収束するまで撮影を待機したり、マルチ格子12、第1格子14及び第2格子15の位置関係が変動したりすることを防止することができる。さらに、患者の被写体台への接近方向を制限しないので、撮影の自由度を向上させることができる。従って、高画質な位相コントラスト撮影が可能であり、実際の使用に耐久できる実用的な縦型X線撮影装置1を提供することができる。
【0085】
また、マルチ格子12は、基台部19に第1格子14及び第2格子15と一体的に保持され、第1格子14及び第2格子15とのX線の照射方向における位置関係が固定されている。これにより、X線撮影装置1の輸送時や設置時に生じた衝撃や振動によるX線の照射方向における関連部品の相対位置関係を維持することができる。相対位置関係を維持することにより、タルボ・ロー干渉計によるX線撮影によって高画質なモアレ画像を得ることができ、モアレ画像から作成される被写体の再構成画像の再現性を向上させることができる。
【0086】
また、X線検出器16は、基台部19に第1格子14及び第2格子15と一体的に保持され、第1格子14及び第2格子15とのX線の照射方向における位置関係が固定されている。これにより、X線検出器16と第1格子14及び第2格子15との位置関係を維持することができる。一般的に、X線撮影装置1の出荷時には第2格子15により形成されるモアレ画像がボケない位置にX線検出器16が調整配置されるため、この位置関係を維持することにより、位置関係の変動によるモアレ画像のボケを防止することができる。
【0087】
また、本実施形態では、X線撮影装置1は、支柱17、基台部19、被写体台13に大きく分離することができるため、輸送や保管の際にコンパクトになり、輸送・保管に要するコストを削減することができる。
また、高精度の調整が必要となる精密部品であるマルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150を基台部19から取り外すことができる。このため、精密部品を取り外した状態で輸送・保管することができ、梱包の簡易化が可能となるとともに、精密部品のみ温度管理等の可能な場所で保管等することができるため、長期の保管等による精密部品の劣化を防止することができる。
また、輸送や保管の際に取り外したマルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150は、組み立て時には、ねじにより容易に基台部19に固定することができる。このため、安全な輸送と施設内での取り扱いのし易さを両立させることができる。
【0088】
、
また、被写体台13は患者との接触により振動を伝えやすく、患者の手がぶつかる等により周囲の部材に衝撃を加えることがありうるが、本実施形態では被写体台13をマルチ格子12、第1格子14、第2格子15等が取り付けられる基台部19と切り離して、別体構成としている。このため、被写体台13に衝撃が加わっても、この衝撃が高精度な位置関係が求められるマルチ格子12、第1格子14、第2格子15等に対して影響を与えるのを防止して、高精度な位置関係の維持を図ることができる。
【0089】
、
また、本実施形態では、複数枚のモアレ画像を得る際、X線照射時には、パルスモータで構成されているx方向移動用モータにかける電流の電流値を、マルチ格子、第1格子及び第2格子に生じる変位量が当該モータの出力を最大としたときにマルチ格子、第1格子及び第2格子に生じる変位量の50%以下となるような電流値となるように調整するようになっている。このため、マルチ格子、第1格子及び第2格子の位置がx方向移動用モータの発熱や微振動の発生により変位することを防止することができる。
【0090】
また、本実施形態では、マルチ格子12、第1格子14、第2格子15を移動させる移動部を重力方向(z方向)と直交する方向に移動する移動要素のみにより構成している。これにより、重力方向への負荷が少なくなり、格子を移動させていないとき(すなわち、X線照射時)には、弱い励磁電流をかけるのみで格子の位置を維持することができ、x方向移動用モータの発熱や微振動の発生を防止することができる。
【0091】
なお、上記実施形態は本発明の好適な一例であり、これに限定されない。
例えば、上記実施形態では、X線源11、マルチ格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16をこの順に配置(以下、第1の配置と呼ぶ)したが、X線源11、マルチ格子12、第1格子14、被写体台13、第2格子15、X線検出器16の配置(以下、第2の配置と呼ぶ)としても、第1格子14及び第2格子15は固定のまま、マルチ格子12の移動により、再構成画像を得ることが可能である。
第2の配置においては、被写体の厚み分だけ、被写体中心と第1格子14は離れることになり、上記の実施形態に比べ感度の点でやや劣ることになるが、一方で、被写体への被曝線量低減を考慮すると、当該配置の方が第1格子14でのX線吸収分だけX線を有効に活用していることになる。
また、被写体位置での実効的な空間分解能は、X線の焦点径、検出器の空間分解能、被写体の拡大率、被写体の厚さ等に依存するが、上記実施例に於ける検出器の空間分解能が120μm(ガウスの半値幅)以下の場合には、第1の配置よりも第2の配置の方が実効的な空間分解能は小さくなる。
感度、空間分解能、及び、第1格子14でのX線吸収量等を考慮して、第1格子14、被写体台13の配置順をきめることが好ましい。
【0092】
また、本実施形態では、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150にそれぞれ煽り調整機構及び相対距離調整機構が設けられている場合を例として説明したが、煽り調整機構及び相対距離調整機構は、マルチ格子ユニット120、第1格子ユニット140、第2格子ユニット150全てに設けられている必要はなく、このうちの少なくともいずれか1つに設けられていてもよい。
【0093】
また、本実施形態では、マルチ格子12を移動させてモアレ画像を生成する場合を例として説明したが、モアレ画像を生成するために移動させる格子はマルチ格子12に限定されず、第1格子14、第2格子15であってもよい。
【0094】
また、本実施形態では、縞走査方式として、マルチ格子、第1格子及び第2格子を備えるタルボ・ロー干渉計を用いたX線撮影装置を例として説明したが、X線撮影装置に用いられるのはタルボ・ロー干渉計に限定されず、縞走査方式として、第1格子及び第2格子を備えるタルボ干渉計を用いたX線撮影装置についても本発明を適用することができる。
おいて、
【0095】
また、本実施形態では、被写体台13を完全に別体構成としたものを例として説明したが、被写体台13を基台部19等に固定してもよい。この場合には、被写体台13と基台部19との間に緩衝部材等を設けて、被写体台13に加えられた衝撃や振動ができる限り基台部19に伝達されないように構成する。
また、被写体台13は、その高さを患者の体型等に応じて調整できるようにしてもよい。
【0096】
また、本実施形態では、X線照射時にx方向移動用モータにかける電流の電流値を低くする場合を例としたが、モータによる励磁を行わなくても各格子の位置を維持できる場合には、移動部(マルチ格子駆動部125、第1格子駆動部145、第1格子駆動部155)は、X線照射時に駆動源であるx方向移動用モータに対する通電を停止させるように制御してもよい。x方向移動用モータに対する通電を停止させることにより、モータの発熱や微振動の発生を回避することができる。
【0097】
また、X線検出器16として、バッテリを内蔵し、無線により画像信号を本体部18に出力するケーブルレスのカセッテタイプFPDを用いてもよい。カセッテタイプFPDによれば、本体部18に接続するケーブル類を排除することができ、X線検出器16周辺の更なる小スペース化を図ることができる。小スペース化によって被写体の足下を広く構成し、より患者が接触し難い構成とすることができる。
【0098】
また、上記実施形態では、各ステップの撮影毎にマルチ格子12の移動と停止を繰り返す例を説明した。しかし、x方向移動用モータ125aの構成によっては、移動と停止を繰り返すことにより制御量と実際の移動量との誤差が累積拡大し、一定間隔毎のモアレ画像が得難いことが想定される場合には、連続的にマルチ格子12を移動させながら複数回の撮影を行う連続撮影方式が好ましい。曝射スイッチがONされると、マルチ格子12の移動を開始し、起動時の不安定移動領域を越え、安定移動領域に達した後、更に、マルチ格子を連続的に移動させて、所定量(例えば4.56(μm))移動する毎にX線のパルス照射と画像信号の読み取りを繰り返す。
【0099】
連続撮影方式におけるX線源11にはパルス照射可能なX線管を用いることが好ましい。
また、X線検出器16としては、対応できるフレームレート(単位時間あたり撮影可能な回数)が大きく、動画撮影が可能なFPDが好ましい。数百m秒〜数秒の間に5回以上の撮影を行うことを想定すると、少なくとも10フレーム/秒のフレームレートが必要であり、好ましくは20フレーム/秒以上のフレームレートである。
【0100】
なお、撮影においてX線検出器16は各ステップの撮影毎にオフセット補正を行うことが可能である。各ステップの撮影間隔が短く、オフセット補正を行う余裕が無い場合は、最初のステップの撮影時のみダーク読み取りを行い、オフセット補正値を得て、当該補正値を後のステップの撮影にも適用してもよい。或いは、一連の撮影終了後にダーク読み取りを行ってオフセット補正値を得て、当該補正値を各撮影に共通に使用することとしてもよい。
【0101】
連続撮影方式の場合、各ステップの前後でさらに予備撮影を行うこととしてもよい。
x方向移動用モータ125aが理想的な送り精度によりマルチ格子12を一定の送り量、つまり一定の移動速度で移動できた場合、図20に示すように各ステップのモアレ画像によりサインカーブを形成することができる。しかし、経年変化やx方向移動用モータ125aのバックラッシュ、起動時の慣性影響等によって送り量にずれが生じると、一定周期間隔のモアレ画像が得られない。例えば、図20に示すように、3ステップのモアレ画像は本来0.4周期に該当するが、3ステップのときのx方向移動用モータ125aの送り量がずれると、0.4周期前後のモアレ画像が得られる。
【0102】
このように各ステップのモアレ画像の周期がばらつくと、正確な位相が計算できず、再構成画像において被写体像を正確に再現できない。そこで、例えば撮影時間が2、4、6、8、10秒の各ステップの撮影に、各撮影時間±0.1秒の撮影時間で撮影を行う予備撮影を加えて合計15回の撮影を行う。これにより、1ステップでは1.9秒、2.0秒、2.1秒の各撮影時間のモアレ画像が得られる等、各ステップにつきそれぞれ3枚のモアレ画像が得られるので、そのうちX線相対強度のサインカーブに最も近いモアレ画像を選択して用いる。これにより、x方向移動用モータ125aによる送り量に誤差が生じたとしても、再構成画像の再現性の向上を図ることができる。
【0103】
予備撮影する調整時間として上記に挙げた±0.1秒は例示であり、調整時間はテスト撮影によって適宜決定すればよい。例えば、X線撮影装置1の設置時に、各ステップの撮影の前後で、±0.1秒、±0.2秒等、予備撮影時の調整時間を変えてテスト撮影を行い、最もサインカーブに一致しやすい調整時間を求めることとしてもよい。これにより、x方向移動用モータ125aの機器特性によって必要な調整時間が異なる場合にも対応することができる。
【0104】
なお、連続撮影方式におけるX線源11のX線管がパルス照射に対応していない場合には、X線源11のX線照射口の付近にシャッターを設けてもよい。この場合、シャッターとして、カメラ等に一般的に用いられるシャッター機構を用いてもよいが、照射野絞りの機能も備えることとしてもよい。
【0105】
また、コントローラ5の制御部が縞走査法による再構成画像作成処理の他、フーリエ変換法による再構成画像作成処理等を行うようにしてもよい(この場合、X線撮影装置の第1格子と第2格子との相対角のみ、縞走査法の場合に対し増大させるような装置設定変更が必要である。)。
例えば、フーリエ変換法による再構成画像作成処理は、以下のように行われる。
まず、被写体有りのモアレ画像と被写体無しのモアレ画像とを取得し、それぞれについてオフセット補正処理、ゲイン補正処理等の補正を行う。その後、補正後の被写体有りのモアレ画像と被写体無しのモアレ画像のそれぞれをフーリエ変換(二次元フーリエ変換)する。1枚のモアレ画像をフーリエ変換すると、低周波成分(0次成分と呼ぶ)と干渉縞周波数付近の成分(1次成分と呼ぶ)、又は、0次成分と1次成分に加えさらに高周波成分(X線撮影装置1の干渉性に依存)が並んで得られる。
次いで、フーリエ変換により得られた画像(被写体有り、被写体無しのそれぞれ)において、0次成分をHanning窓により切り出される。Hanning窓で切り出すことによりHanning窓の周辺部が0に落とされ、Hanning窓の中心部はそのまま通される。
次いで、フーリエ変換により得られた画像において、1次成分がキャリア周波数(=モアレ周波数)分シフトされ、Hanning窓で切り出される。切り出しの窓関数はHanning窓に限定されず、用途に応じてHamming窓、ガウス窓等を使用してもよい。
次いで、切り出された0次成分、1次成分のそれぞれが逆フーリエ変換される。
逆フーリエ変換が終了すると、逆フーリエ変換された0次成分、1次成分を用いて被写体有りと被写体無しのそれぞれの再構成画像の作成が行われる。具体的には、0次成分の振幅から吸収画像が作成される。また、1次成分の位相から位相画像が作成される。また、0次成分と1次成分の振幅の比(=Visibility)から小角散乱画像が作成される。
次いで、被写体無しの再構成画像を用いて被写体有りの再構成画像から干渉縞の位相の除去と、画像ムラ(アーチファクト)を除去するための補正処理が行われ、この画像ムラの補正が終了すると、フーリエ変換法による再構成画像作成処理は終了する。
【0106】
その他、本発明が本実施形態に限定されず、適宜変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0107】
1 X線撮影装置
5 コントローラ
11 X線源
12 マルチ格子
13 被写体台
14 第1格子
15 第2格子
16 X線検出器
17 支柱
17a 緩衝部材
18 本体部
19 基台部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射するX線源と、
複数のスリットを有するマルチ格子、第1格子及び第2格子と、
前記マルチ格子、前記第1格子、及び前記第2格子のうちの少なくとも1つを移動させる移動部と、
被写体台と、
照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取るX線検出器と、
を備え、
前記移動部により、前記マルチ格子、前記第1格子及び前記第2格子のうちの少なくとも1つを前記X線の照射方向と直交する方向に、前記マルチ格子または前記第1格子若しくは前記第2格子に対して相対移動し、前記少なくとも1つがが一定周期間隔で移動する毎に、前記X線源により照射されたX線に応じて前記X線検出器が画像信号を読み取る処理を繰り返し、一定周期間隔のモアレ画像を複数得るX線撮影装置であって、
前記マルチ格子を含むマルチ格子ユニット、前記第1格子を含む第1格子ユニット及び前記第2格子を含む第2格子ユニットは、それぞれが共通の基台部に着脱自在に構成されており、
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における平行度を調整可能とする煽り調整機構が設けられている
ことを特徴とするX線撮影装置。
【請求項2】
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における相対距離を調整可能とする相対距離調整機構が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のX線撮影装置。
【請求項3】
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのそれぞれに、前記煽り調整機構及び前記相対距離調整機構が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のX線撮影装置。
【請求項4】
前記X線源は、平行度及び相対距離を調整された前記マルチ格子、前記第1格子及び前記第2格子のスリット方向に対する取付方向が変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のX線撮影装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のX線撮影装置と、
前記X線撮影装置によって得られたモアレ画像を処理し、被写体の再構成画像を作成する画像処理装置と、
を備えることを特徴とするX線画像システム。
【請求項1】
X線を照射するX線源と、
複数のスリットを有するマルチ格子、第1格子及び第2格子と、
前記マルチ格子、前記第1格子、及び前記第2格子のうちの少なくとも1つを移動させる移動部と、
被写体台と、
照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取るX線検出器と、
を備え、
前記移動部により、前記マルチ格子、前記第1格子及び前記第2格子のうちの少なくとも1つを前記X線の照射方向と直交する方向に、前記マルチ格子または前記第1格子若しくは前記第2格子に対して相対移動し、前記少なくとも1つがが一定周期間隔で移動する毎に、前記X線源により照射されたX線に応じて前記X線検出器が画像信号を読み取る処理を繰り返し、一定周期間隔のモアレ画像を複数得るX線撮影装置であって、
前記マルチ格子を含むマルチ格子ユニット、前記第1格子を含む第1格子ユニット及び前記第2格子を含む第2格子ユニットは、それぞれが共通の基台部に着脱自在に構成されており、
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における平行度を調整可能とする煽り調整機構が設けられている
ことを特徴とするX線撮影装置。
【請求項2】
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのうち少なくともいずれか1つには、当該ユニットに設けられている格子と他の格子との間における相対距離を調整可能とする相対距離調整機構が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のX線撮影装置。
【請求項3】
前記マルチ格子ユニット、前記第1格子ユニット及び前記第2格子ユニットのそれぞれに、前記煽り調整機構及び前記相対距離調整機構が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のX線撮影装置。
【請求項4】
前記X線源は、平行度及び相対距離を調整された前記マルチ格子、前記第1格子及び前記第2格子のスリット方向に対する取付方向が変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のX線撮影装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のX線撮影装置と、
前記X線撮影装置によって得られたモアレ画像を処理し、被写体の再構成画像を作成する画像処理装置と、
を備えることを特徴とするX線画像システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図16】
【図19】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図16】
【図19】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−65840(P2012−65840A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212994(P2010−212994)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
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