X線検出システム
【課題】電子線を照射した試料からの特性X線を回折させてスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出し、除去する。
【解決手段】試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備え、前記分析部は、抽出された前記カソードルミネッセンス成分を前記エネルギー分布スペクトルから除去する。
【解決手段】試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備え、前記分析部は、抽出された前記カソードルミネッセンス成分を前記エネルギー分布スペクトルから除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検出システムに関し、特に、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線などの荷電粒子線を照射すると、該試料から特性X線が発生する。この特性X線を検出器で検出し、試料の組成を計測する手法はエネルギー分散型X線分光と呼ばれている。
【0003】
この手法では、特性X線が試料を構成する元素の特有なエネルギーを持つことを利用している。単位時間当たりのX線発生個数をX線のエネルギー毎に計数して試料の元素組成等の情報を得ている。ここで、X線を検出する手段として、シリコンやゲルマニウム等の半導体結晶を用いた半導体検出素子を用いるのが一般的である。
【0004】
一方、試料に電子線などの荷電粒子線を照射して発生した特性X線を回折格子に入射すると、回折X線が分離される。この回折X線をX線用CCDイメージセンサで検出し、画像化する手法も存在している。
【0005】
この手法を実現する装置としては、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、を備えて構成されている。
【0006】
この種のX線検出システムについては、以下の特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−329473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のようなX線検出システムにより、酸化物・窒素物等の化合物を試料として電子線を照射すると、軟X線である特性X線以外に、特性X線とは波長が異なるカソードルミネッセンス(CL)と呼ばれる発光が発生することがある。
【0009】
このようなカソードルミネッセンスなどの存在により、イメージセンサで得られる採取スペクトルの分析が困難になっている。
【0010】
しかし、イメージセンサで得られる採取スペクトルの各ピークが、測定対象の回折X線(軟X線)であるか、あるいや、カソードルミネッセンスであるかは、イメージセンサの受光結果からは容易に判別することができないため、これらを判断可能なシステムは存在していなかった。
【0011】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出できるX線検出システムを実現することである。
【0012】
また、本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出し、検出したカソードルミネッセンスを除去できるX線検出システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、上記の課題を解決する本願発明は、以下のそれぞれに述べるようなものである。
【0014】
(1)請求項1記載の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
(2)請求項2記載の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備え、前記分析部は、抽出された前記カソードルミネッセンス成分を前記エネルギー分布スペクトルから除去する、たことを特徴とする。
【0016】
(3)請求項3記載の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の成分を検知する画像処理部と、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無から前記イメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
(4)請求項4記載の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の成分を検知する画像処理部と、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無から前記イメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備え、前記画像処理部は、前記カソードルミネッセンス抽出部により抽出された前記カソードルミネッセンスの領域のイメージを画像処理により除去し、該画像処理後のイメージを前記回折X線の採取スペクトルとして前記分析部に供給する、ことを特徴とする。
【0018】
(5)請求項5記載の発明は、上記(3)−(4)において、前記カソードルミネッセンス抽出部は、前記エネルギー分散方向と直交する方向における前記イメージ中の異なる領域間での比較により、エネルギー分散方向の成分の有無を判断する、ことを特徴とする。
【0019】
(6)請求項6記載の発明は、上記(5)において、前記イメージセンサは、前記エネルギー分散方向と直交する方向(光広がり方向)において、受光すべき領域より小さく構成され、露光時間内に前記光広がり方向に移動しつつ受光する、ことを特徴とする。
【0020】
(7)請求項7記載の発明は、上記(4)において、前記画像処理部は、前記イメージに含まれる軟X線成分を検出すると共に、前記カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去による該軟X線成分の減衰量を検出し、該減衰量が一定に達した時点で、前記カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去を停止する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
これらの発明によると、以下のような効果を得ることができる。
【0022】
(1)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、イメージセンサで検出された回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成し、このエネルギー分布スペクトルのベースラインの傾きを抽出し、このベースラインの傾きからエネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出している。
【0023】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出することができる。
【0024】
(2)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、イメージセンサで検出された回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成し、このエネルギー分布スペクトルのベースラインの傾きを抽出し、このベースラインの傾きからエネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出し、抽出されたカソードルミネッセンス成分をエネルギー分布スペクトルから除去する。
【0025】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出し、検出したカソードルミネッセンスを除去することができる。
【0026】
(3)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、イメージセンサで検出された回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の特定の成分を検知し、イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無からイメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出している。
【0027】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出することができる。
【0028】
(4)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、イメージセンサで検出された回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の特定の成分を検知し、イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無からイメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出し、抽出されたカソードルミネッセンスの領域のイメージを画像処理により除去し、該画像処理後のイメージを回折X線の採取スペクトルとして分析してエネルギー分布スペクトルを生成する。
【0029】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出し、検出したカソードルミネッセンスを除去することができる。
【0030】
(5)上記(3)(4)において、エネルギー分散方向と直交する方向におけるイメージ中の異なる領域間での比較により、エネルギー分散方向の成分の有無を判断することで、迅速に判断することができる。
【0031】
(6)上記(5)において、イメージセンサは、エネルギー分散方向と直交する方向(光広がり方向)において受光すべき領域より小さく構成されていて、露光時間内に光広がり方向に移動しつつ受光することで、小サイズイメージセンサを用いることが可能になり、、迅速に判断することができる。
【0032】
(7)上記(4)において、カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去による軟X線成分の減衰量を検出し、該減衰量が一定に達した時点で、カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去を停止することで、本来の測定対象の信号レベルを一定以上に適切に保ちつつ、カソードルミネッセンスを除去することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の画像形成装置を実施するための形態(実施形態)を詳細に説明する。
【0035】
〈第1実施形態〉
まず図1〜図2を参照して第1実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0036】
なお、この図1においては、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した斜視図の状態でX線検出システムを示している。また、図2では、ブロック図に近い状態でX線検出システムを示している。
【0037】
電子線照射部10は、走査電子顕微鏡の鏡筒部分に設けられ、試料20に対して電子線を照射する。
【0038】
X線集光ミラー部30は、試料20から放出される特性X線を、2枚のミラー34aと34bとで集光させて回折格子50に導く。ここで、X線集光ミラー部30で集光させることにより、回折格子50に入射する特性X線の強度を増加させて、測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。なお、ここでは、説明のため、ミラー34aと34bとがむき出しの状態になっているが、これに限定されず、ミラー34aと34bとを一体保持するミラー外部筐体のような筒状の構造体が存在していてもよい。
【0039】
回折格子50は、X線集光ミラー部30により集光された特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。この回折格子50は、収差補正のために不等間隔の溝が形成されており、このような不等間隔回折格子は、大きな入射角(回折格子面(図1のY軸)に平行に近い角度)で入射させたとき、回折光の焦点をローランド円上ではなく、光線にほぼ垂直な平面(イメージセンサ60の受光面:図1のXZ平面))上に作るように設計される。
【0040】
イメージセンサ60は、回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ60は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0041】
分析部80は、イメージセンサ60で検出された回折X線の採取スペクトルを分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成する波形分析装置である。
【0042】
なお、この分析部80は、イメージセンサ60で検出された採取スペクトルのイメージデータを画像処理する画像処理部81と、採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成するスペクトル分析部82と、エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部83と、ベースラインの傾きからエネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するCL抽出部84と、を備えて構成されている。
【0043】
表示部90は分析部80での分析結果であるエネルギー分布スペクトルやその他の各種情報を視覚的に表示するディスプレイである。
【0044】
なお、分析部80と表示部90とは、コンピュータ装置及びエネルギー分布スペクトルを算出するコンピュータプログラムとで構成することも可能である。
【0045】
また、このX線検出システムにおける回折格子50およびその周辺の構成の詳細については、本件出願人が別途特許出願した特開2002−329473号公報に記載されている。また、イメージセンサ60で得られた回折X線の処理システムについては、既知のものを使用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0046】
以上のようなX線検出システムでは、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線をX線集光ミラー部30により集光させて、回折格子50に入射させる。そして、回折格子50は、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。そして、この回折X線は、イメージセンサ60で露光処理される。
【0047】
そして、分析部80は、イメージセンサ60の出力を分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成し、表示部90に表示する。
【0048】
ここで、カソードルミネッセンスが存在していない状態では、図3(a)に示すように、ピークが無い部分では水平なベースラインが存在しており、そのベースラインに対して試料20を構成する元素に応じてエネルギーとレベルとが異なるピークが表れる。そして、このピークのエネルギーとレベルとから、試料20を構成する元素を特定することができる。
【0049】
ここで、試料20からカソードルミネッセンス発生していると、回折格子50で全反射に近い状態で反射されて、回折X線と共にイメージセンサ60に入射する。このようにカソードルミネッセンスがイメージセンサ60に入射している状態では、エネルギー分布スペクトルのベースラインは、図3(b1)や図3(c1)に示すように、傾きのある状態になる。なお、カソードルミネッセンスがイメージセンサ60の受光面でどのような状態であるかにより、図3(b1)や図3(c1)のベースラインの傾きの状態は変化することがある。
【0050】
そこで、ベース抽出部83は、スペクトル分析部82で生成されたエネルギー分布スペクトルのピーク部分のみのデータを生成し、エネルギー分布スペクトル全体のデータからピーク部分のみのデータを差し引くことにより、図3(b2)や図3(c2)のように、エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出する。
【0051】
ここで、CL抽出部84は、ベースラインの傾きに含まれる領域(図3(b2)と図3(c2)におけるハッチング部分)からエネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出する。
【0052】
なお、CL抽出部84は、得られたベースラインのデータを、一次関数の最小二乗法によって誤差を算出し、その誤差をパラメータとして、ある一定以上であると、カソードルミネッセンスが発生すると認識する。
【0053】
そして、スペクトル分析部82は、エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分(図3(b2)と図3(c2)におけるハッチング部分)を、カソードルミネッセンスの影響を受けたエネルギー分布スペクトル(図3(b1)と図3(c1))から差し引くことで、カソードルミネッセンスの影響を除去した状態のエネルギー分布スペクトル(図3(a)相当)を抽出する。
【0054】
このようにして、スペクトル分析部82は、カソードルミネッセンスの有無情報、カソードルミネッセンスの影響を受けた状態のエネルギー分布スペクトル、カソードルミネッセンスの影響を受けた状態のエネルギー分布スペクトルのベースライン、カソードルミネッセンスの影響を除去した状態のエネルギー分布スペクトル、のいずれかを表示部90に表示する。また、これら複数を並べて表示しても、あるいはこれらを順次表示してもよい。
【0055】
以上のように、この実施形態では、電子線を照射した試料20からの特性X線を回折格子50により回折させてイメージセンサ60でスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出することと、除去することができる。
【0056】
〈第2実施形態〉
この第2実施形態において、以上の第1実施形態との違いは、図4に示すように、画像処理部81からCL抽出部84がカソードルミネッセンスの抽出を行い、画像処理部81はカソードルミネッセンスが除去された状態の採取スペクトルのイメージをスペクトル分析部82に供給する構成になっている。すなわち、CL抽出部84は、イメージセンサ60で検出された回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の特定の成分を検知し、イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無からイメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出する。その他の構成、および、基本的動作は第1実施形態と同じである。
【0057】
以上のようなX線検出システムでは、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線を回折格子50に入射させる。そして、回折格子50は、特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。そして、この回折X線は、イメージセンサ60で露光処理される。
【0058】
そして、分析部80は、イメージセンサ60の出力を分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成し、表示部90に表示する。
【0059】
ここで、カソードルミネッセンスが存在していない状態では、図5(a)に示すように、エネルギー分散方向(Z方向)にピークを有する状態で、光広がり方向(X方向)に一様な回折X線の採取スペクトルのイメージが生じている。そして、この回折X線のイメージを分析部80で分析することにより、エネルギー分布スペクトルを得ている。
【0060】
ここで、試料20からカソードルミネッセンス発生していると、回折格子50で全反射に近い状態で反射されて、回折X線と共にイメージセンサ60に入射し、図5(b)のように、回折X線ののイメージとは異なるパターンのイメージが重畳される。
【0061】
ここで、回折X線のイメージはX方向のスジ状のパターンであったのに対し、カソードルミネッセンスによるイメージは、高エネルギー側の一点から低エネルギー側へ放射状に広がるパターンが一般的である。
【0062】
そこで、イメージセンサ60で得られた採取スペクトルのイメージを画像処理部81で処理する際に、CL抽出部84は、このイメージに含まれるX方向とY方向のベクトル比をパラメータとして、Z方向が一定以上になった場合にはカソードルミネッセンスが発生していると判断する。なお、カソードルミネッセンスが存在しなければZ方向のベクトルが発生しないため、Z方向のベクトルが発生していればカソードルミネッセンスを検出したと判断してもよい。
【0063】
〈第3実施形態〉
この第3実施形態では、装置構成は図4の第2実施形態の場合と基本的に同じである。ただし、イメージセンサ60として、回折X線のイメージを一度に受光するフルサイズの大きさではなく、エネルギー分散方向(Z方向)には回折X線のイメージの範囲(図6の62)と同じであるものの、光広がり方向(X方向)には回折X線のイメージの範囲(図6の62)よりも小さい大きさのセンサ63を備え、駆動機構61の働きによって、露光時間内に光広がり方向(X方向)にセンサ63を移動しつつ受光する構成になっている。
【0064】
このようなイメージセンサ60を用いた場合は、いずれかの位置における採取スペクトルのイメージ(図6(a)、(b))から、第2実施形態と同様にX方向ベクトルとZ方向ベクトルの比、あるいは、Z方向ベクトルの存在により、CL抽出部84がカソードルミネッセンスの存在を検出する。
【0065】
また、センサ63を移動させて全範囲の採取スペクトルのイメージを取得してから第2実施形態と同様にX方向ベクトルとZ方向ベクトルの比、あるいは、Z方向ベクトルの存在により、CL抽出部84がカソードルミネッセンスの存在を検出してもよい。
【0066】
〈第4実施形態〉
この第4実施形態では、装置構成は図4の第2−第3実施形態の場合と基本的に同じである。また、イメージセンサ60として、第3実施形態と同様に、回折X線のイメージを一度に受光するフルサイズの大きさではなく、エネルギー分散方向(Z方向)には回折X線のイメージの範囲(図6の62)と同じであるものの、光広がり方向(X方向)には回折X線のイメージの範囲(図6の62)よりも小さい大きさのセンサ63を備え、駆動機構61の働きによって、露光時間内に光広がり方向(X方向)にセンサ63を移動しつつ受光する構成になっている。
【0067】
このようなイメージセンサ60を用いた場合は、複数の異なる位置における採取スペクトルのイメージ(図7(a)の63aと63b、あるいは、図7(b)の63aと63b)間で、画像処理により差分を抽出する。カソードルミネッセンスの無い状態の図7(a)の63aと63bでは、ほぼ同一のイメージであり、差分は殆ど生じない。一方、カソードルミネッセンスの影響がある状態の図7(b)の63aと63bでは、カソードルミネッセンスの部分が異なっており、差分が発生する。そこで、CL抽出部84は、画像処理された差分が一定以上の大きさであれば、カソードルミネッセンスを検出したと判断してもよい。この場合は、2箇所の部分イメージ間の差分画像処理と結果判断であり、高速に処理を実行することができる。
【0068】
〈第5実施形態〉
この第5実施形態では、装置構成は図4の第2−第4実施形態の場合と基本的に同じである。
【0069】
この第5実施形態では、イメージセンサ60のビニングと呼ばれる隣接画素の電荷を加算する機能を用いる。ここでは、Z方向の全画素を加算し、X方向には1〜数画素程度を加算し、このように加算した結果を1つの画素データ(ビニングデータ)として扱う。図8(a)(b)の1つのハッチングで囲まれた範囲が、以上のビニング処理で加算する範囲である。このようにして、エネルギー分散方向の全画素を加算し、光広がり方向に複数個のビニングデータが得られる。
【0070】
ここで、カソードルミネッセンスの影響のない図8(a)の場合には、各ビニングデータが同じであり、比較しても差が殆ど生じない。一方、カソードルミネッセンスの影響がある図8(b)の場合には、各ビニングデータがに違いが生じていて、比較しても差が検出される。このビニングデータの差からカソードルミネッセンスの発生をCL抽出部84が判断する。
【0071】
なお、この第5実施形態の処理では、ビニング処理はイメージセンサ60が有する機能であり、かつ、簡単なビニングデータの比較でカソードルミネッセンスの判断が可能になる。そして、以上の実施形態のようなベクトル算出の画像処理が必要ないため、高速に判断することが可能になる。なお、第2−第3実施形態で説明した小サイズのセンサ63を使用する場合でも、このビニング処理を適用することが可能である。
【0072】
〈第6実施形態〉
以上の第2実施形態に関連し、イメージセンサ60で得られた採取スペクトルのイメージを画像処理部81で処理する際に、CL抽出部84は、このイメージに含まれるX方向とY方向のベクトル比をパラメータとして、Z方向が一定以上になった場合にはカソードルミネッセンスが発生していると判断すると共に、カソードルミネッセンスが発生する位置(領域)を特定する。
【0073】
そして、画像処理部81では、採取スペクトルのイメージ(図9(a))から、CL抽出部84によって特定されたカソードルミネッセンスの領域の画像データを除去した状態のイメージを再構築する(図9(b))。そして、このカソードルミネッセンスの領域が除去された採取スペクトルのイメージによって、スペクトル分析部82がエネルギー分布スペクトルを生成する。
【0074】
これにより、カソードルミネッセンスの影響を排除した状態で、エネルギー分布スペクトルを生成することが可能になる。
【0075】
〈第7実施形態〉
以上の第2実施形態に関連し、CL抽出部84は、採取スペクトルのイメージに含まれるX方向とY方向のベクトル比をパラメータとして、カソードルミネッセンスが発生していな領域を特定して、画像処理部81に通知する。
【0076】
ここで、画像処理部81は、エネルギー分散方向(Z方向)の全画素を長手方向、光広がり方向(X方向)1〜数画素を短手方向として、カソードルミネッセンスが発生していない領域(図10(a)の(1))を基準領域として抽出する。
【0077】
そして、この基準領域(図10(b)の(1))と隣接する同じ大きさの処理対象領域(図10(b)の(2))との間でAND処理を行う。さらに、基準領域(図10(b)の(1))と、先ほどの処理対象領域の隣の同じ大きさの処理対象領域(図10(b)の(3))との間でAND処理を行う。このように、全領域に対して、基準領域と処理対象領域とでAND処理を繰り返す。
【0078】
このAND処理により、カソードルミネッセンスが存在しない部分では、そのまま出力される。一方、カソードルミネッセンスが存在する部分では、出力が表れないため、カソードルミネッセンスが削除された状態になる。
【0079】
なお、(n)番目の処理対象領域でAND処理により出力が“0”となる場合には、両側に隣接する(n−1)と(n+1)の処理対象領域のデータの平均値を代入して、イメージを再構築してもよい。
【0080】
これにより、カソードルミネッセンスの影響を排除した状態で、エネルギー分布スペクトルを生成することが可能になる。
【0081】
〈第8実施形態〉
以上の第1〜第7実施形態において、カソードルミネッセンスの検出手法と除去手法を説明してきた。このカソードルミネッセンスの検出と除去とを具体的に実行する手順を以下に説明する。
【0082】
まず、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線を回折格子50に入射させ、回折格子50で生成された回折X線がイメージセンサ60で露光処理される(図11中のステップS101)。
【0083】
ここで、CL抽出部84によってカソードルミネッセンスの検出がなされ(図11中のステップS102)、カソードルミネッセンスが検出されなければ(図11中のステップS102でNO)、スペクトル分析部82で採取スペクトルのイメージからエネルギー分布スペクトルが生成される(図11中のステップS104)。
【0084】
一方、カソードルミネッセンスが検出されれば(図11中のステップS102でYES)、画像処理部81あるいスペクトル分析部82でカソードルミネッセンスが除去される(図11中のステップS103)。なお、この状態で更に、カソードルミネッセンスの検出(図11中のステップS102)と、カソードルミネッセンスの除去(図11中のステップS103)とが、カソードルミネッセンスが検出されなくなる(図11中のステップS102でNO)まで、繰り返される。
【0085】
これにより、カソードルミネッセンスの影響を排除した状態で、エネルギー分布スペクトルを生成することが可能になる。
【0086】
〈第9実施形態〉
この第9実施形態は、上述した第8実施形態のカソードルミネッセンスの検出と除去とを具体的に実行する手順の改良である。
【0087】
まず、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線を回折格子50に入射させ、回折格子50で生成された回折X線がイメージセンサ60で露光処理される(図12中のステップS201)。
【0088】
ここで、CL抽出部84によってカソードルミネッセンスの検出がなされ(図12中のステップS202)、カソードルミネッセンスが検出されなければ(図12中のステップS202でNO)、スペクトル分析部82で採取スペクトルのイメージからエネルギー分布スペクトルが生成される(図12中のステップS205)。
【0089】
一方、カソードルミネッセンスが検出されれば(図12中のステップS202でYES)、カソードルミネッセンスの除去の影響による本来の測定対象である軟X線成分の減衰量を検出し、本来の測定対象である軟X線成分の減衰量が閾値未満であれば(図12中のステップS203で<閾値)、画像処理部81あるいスペクトル分析部82でカソードルミネッセンスが除去される(図12中のステップS204)。ここで、閾値は、カソードルミネッセンスの除去の具合と、本来の軟X線の割合とから、使用者が任意に定めることができる。
【0090】
なお、この状態で、カソードルミネッセンスの検出(図12中のステップS202)と、本来の測定対象である軟X線成分の減衰量が検知(図12中のステップS203)と、カソードルミネッセンスの除去(図12中のステップS204)とが、カソードルミネッセンスが検出されなくなる(図12中のステップS202でNO)か本来の測定対象である軟X線成分の減衰量が閾値に達する(図12中のステップS203で>閾値)まで、繰り返される。
【0091】
このように、本来の軟X線の減衰量が一定に達した時点で、カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去を停止することで、本来の測定対象の信号レベルを一定以上に保つことが可能になる。そして、このような適正な状態で、カソードルミネッセンスの影響を排除した状態で、エネルギー分布スペクトルを生成することが可能になる。
【符号の説明】
【0092】
10 電子線照射部
20 試料
30 X線集光ミラー部
40 X線集光ミラー調整部
50 回折格子
60 イメージセンサ
80 分析部
90 表示部
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検出システムに関し、特に、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線などの荷電粒子線を照射すると、該試料から特性X線が発生する。この特性X線を検出器で検出し、試料の組成を計測する手法はエネルギー分散型X線分光と呼ばれている。
【0003】
この手法では、特性X線が試料を構成する元素の特有なエネルギーを持つことを利用している。単位時間当たりのX線発生個数をX線のエネルギー毎に計数して試料の元素組成等の情報を得ている。ここで、X線を検出する手段として、シリコンやゲルマニウム等の半導体結晶を用いた半導体検出素子を用いるのが一般的である。
【0004】
一方、試料に電子線などの荷電粒子線を照射して発生した特性X線を回折格子に入射すると、回折X線が分離される。この回折X線をX線用CCDイメージセンサで検出し、画像化する手法も存在している。
【0005】
この手法を実現する装置としては、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、を備えて構成されている。
【0006】
この種のX線検出システムについては、以下の特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−329473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のようなX線検出システムにより、酸化物・窒素物等の化合物を試料として電子線を照射すると、軟X線である特性X線以外に、特性X線とは波長が異なるカソードルミネッセンス(CL)と呼ばれる発光が発生することがある。
【0009】
このようなカソードルミネッセンスなどの存在により、イメージセンサで得られる採取スペクトルの分析が困難になっている。
【0010】
しかし、イメージセンサで得られる採取スペクトルの各ピークが、測定対象の回折X線(軟X線)であるか、あるいや、カソードルミネッセンスであるかは、イメージセンサの受光結果からは容易に判別することができないため、これらを判断可能なシステムは存在していなかった。
【0011】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出できるX線検出システムを実現することである。
【0012】
また、本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出し、検出したカソードルミネッセンスを除去できるX線検出システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、上記の課題を解決する本願発明は、以下のそれぞれに述べるようなものである。
【0014】
(1)請求項1記載の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
(2)請求項2記載の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備え、前記分析部は、抽出された前記カソードルミネッセンス成分を前記エネルギー分布スペクトルから除去する、たことを特徴とする。
【0016】
(3)請求項3記載の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の成分を検知する画像処理部と、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無から前記イメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
(4)請求項4記載の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の成分を検知する画像処理部と、前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、前記イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無から前記イメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備え、前記画像処理部は、前記カソードルミネッセンス抽出部により抽出された前記カソードルミネッセンスの領域のイメージを画像処理により除去し、該画像処理後のイメージを前記回折X線の採取スペクトルとして前記分析部に供給する、ことを特徴とする。
【0018】
(5)請求項5記載の発明は、上記(3)−(4)において、前記カソードルミネッセンス抽出部は、前記エネルギー分散方向と直交する方向における前記イメージ中の異なる領域間での比較により、エネルギー分散方向の成分の有無を判断する、ことを特徴とする。
【0019】
(6)請求項6記載の発明は、上記(5)において、前記イメージセンサは、前記エネルギー分散方向と直交する方向(光広がり方向)において、受光すべき領域より小さく構成され、露光時間内に前記光広がり方向に移動しつつ受光する、ことを特徴とする。
【0020】
(7)請求項7記載の発明は、上記(4)において、前記画像処理部は、前記イメージに含まれる軟X線成分を検出すると共に、前記カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去による該軟X線成分の減衰量を検出し、該減衰量が一定に達した時点で、前記カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去を停止する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
これらの発明によると、以下のような効果を得ることができる。
【0022】
(1)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、イメージセンサで検出された回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成し、このエネルギー分布スペクトルのベースラインの傾きを抽出し、このベースラインの傾きからエネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出している。
【0023】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出することができる。
【0024】
(2)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、イメージセンサで検出された回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成し、このエネルギー分布スペクトルのベースラインの傾きを抽出し、このベースラインの傾きからエネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出し、抽出されたカソードルミネッセンス成分をエネルギー分布スペクトルから除去する。
【0025】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出し、検出したカソードルミネッセンスを除去することができる。
【0026】
(3)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、イメージセンサで検出された回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の特定の成分を検知し、イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無からイメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出している。
【0027】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出することができる。
【0028】
(4)この発明では、試料から放出される特性X線を回折格子により回折X線としてイメージセンサ上に結像させてスペクトルを分析するX線検出システムにおいて、イメージセンサで検出された回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の特定の成分を検知し、イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無からイメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出し、抽出されたカソードルミネッセンスの領域のイメージを画像処理により除去し、該画像処理後のイメージを回折X線の採取スペクトルとして分析してエネルギー分布スペクトルを生成する。
【0029】
この結果、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出し、検出したカソードルミネッセンスを除去することができる。
【0030】
(5)上記(3)(4)において、エネルギー分散方向と直交する方向におけるイメージ中の異なる領域間での比較により、エネルギー分散方向の成分の有無を判断することで、迅速に判断することができる。
【0031】
(6)上記(5)において、イメージセンサは、エネルギー分散方向と直交する方向(光広がり方向)において受光すべき領域より小さく構成されていて、露光時間内に光広がり方向に移動しつつ受光することで、小サイズイメージセンサを用いることが可能になり、、迅速に判断することができる。
【0032】
(7)上記(4)において、カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去による軟X線成分の減衰量を検出し、該減衰量が一定に達した時点で、カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去を停止することで、本来の測定対象の信号レベルを一定以上に適切に保ちつつ、カソードルミネッセンスを除去することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の画像形成装置を実施するための形態(実施形態)を詳細に説明する。
【0035】
〈第1実施形態〉
まず図1〜図2を参照して第1実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0036】
なお、この図1においては、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した斜視図の状態でX線検出システムを示している。また、図2では、ブロック図に近い状態でX線検出システムを示している。
【0037】
電子線照射部10は、走査電子顕微鏡の鏡筒部分に設けられ、試料20に対して電子線を照射する。
【0038】
X線集光ミラー部30は、試料20から放出される特性X線を、2枚のミラー34aと34bとで集光させて回折格子50に導く。ここで、X線集光ミラー部30で集光させることにより、回折格子50に入射する特性X線の強度を増加させて、測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。なお、ここでは、説明のため、ミラー34aと34bとがむき出しの状態になっているが、これに限定されず、ミラー34aと34bとを一体保持するミラー外部筐体のような筒状の構造体が存在していてもよい。
【0039】
回折格子50は、X線集光ミラー部30により集光された特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。この回折格子50は、収差補正のために不等間隔の溝が形成されており、このような不等間隔回折格子は、大きな入射角(回折格子面(図1のY軸)に平行に近い角度)で入射させたとき、回折光の焦点をローランド円上ではなく、光線にほぼ垂直な平面(イメージセンサ60の受光面:図1のXZ平面))上に作るように設計される。
【0040】
イメージセンサ60は、回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ60は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0041】
分析部80は、イメージセンサ60で検出された回折X線の採取スペクトルを分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成する波形分析装置である。
【0042】
なお、この分析部80は、イメージセンサ60で検出された採取スペクトルのイメージデータを画像処理する画像処理部81と、採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成するスペクトル分析部82と、エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部83と、ベースラインの傾きからエネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するCL抽出部84と、を備えて構成されている。
【0043】
表示部90は分析部80での分析結果であるエネルギー分布スペクトルやその他の各種情報を視覚的に表示するディスプレイである。
【0044】
なお、分析部80と表示部90とは、コンピュータ装置及びエネルギー分布スペクトルを算出するコンピュータプログラムとで構成することも可能である。
【0045】
また、このX線検出システムにおける回折格子50およびその周辺の構成の詳細については、本件出願人が別途特許出願した特開2002−329473号公報に記載されている。また、イメージセンサ60で得られた回折X線の処理システムについては、既知のものを使用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0046】
以上のようなX線検出システムでは、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線をX線集光ミラー部30により集光させて、回折格子50に入射させる。そして、回折格子50は、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。そして、この回折X線は、イメージセンサ60で露光処理される。
【0047】
そして、分析部80は、イメージセンサ60の出力を分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成し、表示部90に表示する。
【0048】
ここで、カソードルミネッセンスが存在していない状態では、図3(a)に示すように、ピークが無い部分では水平なベースラインが存在しており、そのベースラインに対して試料20を構成する元素に応じてエネルギーとレベルとが異なるピークが表れる。そして、このピークのエネルギーとレベルとから、試料20を構成する元素を特定することができる。
【0049】
ここで、試料20からカソードルミネッセンス発生していると、回折格子50で全反射に近い状態で反射されて、回折X線と共にイメージセンサ60に入射する。このようにカソードルミネッセンスがイメージセンサ60に入射している状態では、エネルギー分布スペクトルのベースラインは、図3(b1)や図3(c1)に示すように、傾きのある状態になる。なお、カソードルミネッセンスがイメージセンサ60の受光面でどのような状態であるかにより、図3(b1)や図3(c1)のベースラインの傾きの状態は変化することがある。
【0050】
そこで、ベース抽出部83は、スペクトル分析部82で生成されたエネルギー分布スペクトルのピーク部分のみのデータを生成し、エネルギー分布スペクトル全体のデータからピーク部分のみのデータを差し引くことにより、図3(b2)や図3(c2)のように、エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出する。
【0051】
ここで、CL抽出部84は、ベースラインの傾きに含まれる領域(図3(b2)と図3(c2)におけるハッチング部分)からエネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出する。
【0052】
なお、CL抽出部84は、得られたベースラインのデータを、一次関数の最小二乗法によって誤差を算出し、その誤差をパラメータとして、ある一定以上であると、カソードルミネッセンスが発生すると認識する。
【0053】
そして、スペクトル分析部82は、エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分(図3(b2)と図3(c2)におけるハッチング部分)を、カソードルミネッセンスの影響を受けたエネルギー分布スペクトル(図3(b1)と図3(c1))から差し引くことで、カソードルミネッセンスの影響を除去した状態のエネルギー分布スペクトル(図3(a)相当)を抽出する。
【0054】
このようにして、スペクトル分析部82は、カソードルミネッセンスの有無情報、カソードルミネッセンスの影響を受けた状態のエネルギー分布スペクトル、カソードルミネッセンスの影響を受けた状態のエネルギー分布スペクトルのベースライン、カソードルミネッセンスの影響を除去した状態のエネルギー分布スペクトル、のいずれかを表示部90に表示する。また、これら複数を並べて表示しても、あるいはこれらを順次表示してもよい。
【0055】
以上のように、この実施形態では、電子線を照射した試料20からの特性X線を回折格子50により回折させてイメージセンサ60でスペクトルを採取するシステムにおいて、採取スペクトル中にカソードルミネッセンスが含まれているかを検出することと、除去することができる。
【0056】
〈第2実施形態〉
この第2実施形態において、以上の第1実施形態との違いは、図4に示すように、画像処理部81からCL抽出部84がカソードルミネッセンスの抽出を行い、画像処理部81はカソードルミネッセンスが除去された状態の採取スペクトルのイメージをスペクトル分析部82に供給する構成になっている。すなわち、CL抽出部84は、イメージセンサ60で検出された回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の特定の成分を検知し、イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無からイメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出する。その他の構成、および、基本的動作は第1実施形態と同じである。
【0057】
以上のようなX線検出システムでは、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線を回折格子50に入射させる。そして、回折格子50は、特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。そして、この回折X線は、イメージセンサ60で露光処理される。
【0058】
そして、分析部80は、イメージセンサ60の出力を分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成し、表示部90に表示する。
【0059】
ここで、カソードルミネッセンスが存在していない状態では、図5(a)に示すように、エネルギー分散方向(Z方向)にピークを有する状態で、光広がり方向(X方向)に一様な回折X線の採取スペクトルのイメージが生じている。そして、この回折X線のイメージを分析部80で分析することにより、エネルギー分布スペクトルを得ている。
【0060】
ここで、試料20からカソードルミネッセンス発生していると、回折格子50で全反射に近い状態で反射されて、回折X線と共にイメージセンサ60に入射し、図5(b)のように、回折X線ののイメージとは異なるパターンのイメージが重畳される。
【0061】
ここで、回折X線のイメージはX方向のスジ状のパターンであったのに対し、カソードルミネッセンスによるイメージは、高エネルギー側の一点から低エネルギー側へ放射状に広がるパターンが一般的である。
【0062】
そこで、イメージセンサ60で得られた採取スペクトルのイメージを画像処理部81で処理する際に、CL抽出部84は、このイメージに含まれるX方向とY方向のベクトル比をパラメータとして、Z方向が一定以上になった場合にはカソードルミネッセンスが発生していると判断する。なお、カソードルミネッセンスが存在しなければZ方向のベクトルが発生しないため、Z方向のベクトルが発生していればカソードルミネッセンスを検出したと判断してもよい。
【0063】
〈第3実施形態〉
この第3実施形態では、装置構成は図4の第2実施形態の場合と基本的に同じである。ただし、イメージセンサ60として、回折X線のイメージを一度に受光するフルサイズの大きさではなく、エネルギー分散方向(Z方向)には回折X線のイメージの範囲(図6の62)と同じであるものの、光広がり方向(X方向)には回折X線のイメージの範囲(図6の62)よりも小さい大きさのセンサ63を備え、駆動機構61の働きによって、露光時間内に光広がり方向(X方向)にセンサ63を移動しつつ受光する構成になっている。
【0064】
このようなイメージセンサ60を用いた場合は、いずれかの位置における採取スペクトルのイメージ(図6(a)、(b))から、第2実施形態と同様にX方向ベクトルとZ方向ベクトルの比、あるいは、Z方向ベクトルの存在により、CL抽出部84がカソードルミネッセンスの存在を検出する。
【0065】
また、センサ63を移動させて全範囲の採取スペクトルのイメージを取得してから第2実施形態と同様にX方向ベクトルとZ方向ベクトルの比、あるいは、Z方向ベクトルの存在により、CL抽出部84がカソードルミネッセンスの存在を検出してもよい。
【0066】
〈第4実施形態〉
この第4実施形態では、装置構成は図4の第2−第3実施形態の場合と基本的に同じである。また、イメージセンサ60として、第3実施形態と同様に、回折X線のイメージを一度に受光するフルサイズの大きさではなく、エネルギー分散方向(Z方向)には回折X線のイメージの範囲(図6の62)と同じであるものの、光広がり方向(X方向)には回折X線のイメージの範囲(図6の62)よりも小さい大きさのセンサ63を備え、駆動機構61の働きによって、露光時間内に光広がり方向(X方向)にセンサ63を移動しつつ受光する構成になっている。
【0067】
このようなイメージセンサ60を用いた場合は、複数の異なる位置における採取スペクトルのイメージ(図7(a)の63aと63b、あるいは、図7(b)の63aと63b)間で、画像処理により差分を抽出する。カソードルミネッセンスの無い状態の図7(a)の63aと63bでは、ほぼ同一のイメージであり、差分は殆ど生じない。一方、カソードルミネッセンスの影響がある状態の図7(b)の63aと63bでは、カソードルミネッセンスの部分が異なっており、差分が発生する。そこで、CL抽出部84は、画像処理された差分が一定以上の大きさであれば、カソードルミネッセンスを検出したと判断してもよい。この場合は、2箇所の部分イメージ間の差分画像処理と結果判断であり、高速に処理を実行することができる。
【0068】
〈第5実施形態〉
この第5実施形態では、装置構成は図4の第2−第4実施形態の場合と基本的に同じである。
【0069】
この第5実施形態では、イメージセンサ60のビニングと呼ばれる隣接画素の電荷を加算する機能を用いる。ここでは、Z方向の全画素を加算し、X方向には1〜数画素程度を加算し、このように加算した結果を1つの画素データ(ビニングデータ)として扱う。図8(a)(b)の1つのハッチングで囲まれた範囲が、以上のビニング処理で加算する範囲である。このようにして、エネルギー分散方向の全画素を加算し、光広がり方向に複数個のビニングデータが得られる。
【0070】
ここで、カソードルミネッセンスの影響のない図8(a)の場合には、各ビニングデータが同じであり、比較しても差が殆ど生じない。一方、カソードルミネッセンスの影響がある図8(b)の場合には、各ビニングデータがに違いが生じていて、比較しても差が検出される。このビニングデータの差からカソードルミネッセンスの発生をCL抽出部84が判断する。
【0071】
なお、この第5実施形態の処理では、ビニング処理はイメージセンサ60が有する機能であり、かつ、簡単なビニングデータの比較でカソードルミネッセンスの判断が可能になる。そして、以上の実施形態のようなベクトル算出の画像処理が必要ないため、高速に判断することが可能になる。なお、第2−第3実施形態で説明した小サイズのセンサ63を使用する場合でも、このビニング処理を適用することが可能である。
【0072】
〈第6実施形態〉
以上の第2実施形態に関連し、イメージセンサ60で得られた採取スペクトルのイメージを画像処理部81で処理する際に、CL抽出部84は、このイメージに含まれるX方向とY方向のベクトル比をパラメータとして、Z方向が一定以上になった場合にはカソードルミネッセンスが発生していると判断すると共に、カソードルミネッセンスが発生する位置(領域)を特定する。
【0073】
そして、画像処理部81では、採取スペクトルのイメージ(図9(a))から、CL抽出部84によって特定されたカソードルミネッセンスの領域の画像データを除去した状態のイメージを再構築する(図9(b))。そして、このカソードルミネッセンスの領域が除去された採取スペクトルのイメージによって、スペクトル分析部82がエネルギー分布スペクトルを生成する。
【0074】
これにより、カソードルミネッセンスの影響を排除した状態で、エネルギー分布スペクトルを生成することが可能になる。
【0075】
〈第7実施形態〉
以上の第2実施形態に関連し、CL抽出部84は、採取スペクトルのイメージに含まれるX方向とY方向のベクトル比をパラメータとして、カソードルミネッセンスが発生していな領域を特定して、画像処理部81に通知する。
【0076】
ここで、画像処理部81は、エネルギー分散方向(Z方向)の全画素を長手方向、光広がり方向(X方向)1〜数画素を短手方向として、カソードルミネッセンスが発生していない領域(図10(a)の(1))を基準領域として抽出する。
【0077】
そして、この基準領域(図10(b)の(1))と隣接する同じ大きさの処理対象領域(図10(b)の(2))との間でAND処理を行う。さらに、基準領域(図10(b)の(1))と、先ほどの処理対象領域の隣の同じ大きさの処理対象領域(図10(b)の(3))との間でAND処理を行う。このように、全領域に対して、基準領域と処理対象領域とでAND処理を繰り返す。
【0078】
このAND処理により、カソードルミネッセンスが存在しない部分では、そのまま出力される。一方、カソードルミネッセンスが存在する部分では、出力が表れないため、カソードルミネッセンスが削除された状態になる。
【0079】
なお、(n)番目の処理対象領域でAND処理により出力が“0”となる場合には、両側に隣接する(n−1)と(n+1)の処理対象領域のデータの平均値を代入して、イメージを再構築してもよい。
【0080】
これにより、カソードルミネッセンスの影響を排除した状態で、エネルギー分布スペクトルを生成することが可能になる。
【0081】
〈第8実施形態〉
以上の第1〜第7実施形態において、カソードルミネッセンスの検出手法と除去手法を説明してきた。このカソードルミネッセンスの検出と除去とを具体的に実行する手順を以下に説明する。
【0082】
まず、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線を回折格子50に入射させ、回折格子50で生成された回折X線がイメージセンサ60で露光処理される(図11中のステップS101)。
【0083】
ここで、CL抽出部84によってカソードルミネッセンスの検出がなされ(図11中のステップS102)、カソードルミネッセンスが検出されなければ(図11中のステップS102でNO)、スペクトル分析部82で採取スペクトルのイメージからエネルギー分布スペクトルが生成される(図11中のステップS104)。
【0084】
一方、カソードルミネッセンスが検出されれば(図11中のステップS102でYES)、画像処理部81あるいスペクトル分析部82でカソードルミネッセンスが除去される(図11中のステップS103)。なお、この状態で更に、カソードルミネッセンスの検出(図11中のステップS102)と、カソードルミネッセンスの除去(図11中のステップS103)とが、カソードルミネッセンスが検出されなくなる(図11中のステップS102でNO)まで、繰り返される。
【0085】
これにより、カソードルミネッセンスの影響を排除した状態で、エネルギー分布スペクトルを生成することが可能になる。
【0086】
〈第9実施形態〉
この第9実施形態は、上述した第8実施形態のカソードルミネッセンスの検出と除去とを具体的に実行する手順の改良である。
【0087】
まず、電子線照射部10から試料20に対して電子線を照射し、試料20で発生した特性X線を回折格子50に入射させ、回折格子50で生成された回折X線がイメージセンサ60で露光処理される(図12中のステップS201)。
【0088】
ここで、CL抽出部84によってカソードルミネッセンスの検出がなされ(図12中のステップS202)、カソードルミネッセンスが検出されなければ(図12中のステップS202でNO)、スペクトル分析部82で採取スペクトルのイメージからエネルギー分布スペクトルが生成される(図12中のステップS205)。
【0089】
一方、カソードルミネッセンスが検出されれば(図12中のステップS202でYES)、カソードルミネッセンスの除去の影響による本来の測定対象である軟X線成分の減衰量を検出し、本来の測定対象である軟X線成分の減衰量が閾値未満であれば(図12中のステップS203で<閾値)、画像処理部81あるいスペクトル分析部82でカソードルミネッセンスが除去される(図12中のステップS204)。ここで、閾値は、カソードルミネッセンスの除去の具合と、本来の軟X線の割合とから、使用者が任意に定めることができる。
【0090】
なお、この状態で、カソードルミネッセンスの検出(図12中のステップS202)と、本来の測定対象である軟X線成分の減衰量が検知(図12中のステップS203)と、カソードルミネッセンスの除去(図12中のステップS204)とが、カソードルミネッセンスが検出されなくなる(図12中のステップS202でNO)か本来の測定対象である軟X線成分の減衰量が閾値に達する(図12中のステップS203で>閾値)まで、繰り返される。
【0091】
このように、本来の軟X線の減衰量が一定に達した時点で、カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去を停止することで、本来の測定対象の信号レベルを一定以上に保つことが可能になる。そして、このような適正な状態で、カソードルミネッセンスの影響を排除した状態で、エネルギー分布スペクトルを生成することが可能になる。
【符号の説明】
【0092】
10 電子線照射部
20 試料
30 X線集光ミラー部
40 X線集光ミラー調整部
50 回折格子
60 イメージセンサ
80 分析部
90 表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、
前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、
前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、
を備えたことを特徴とするX線検出システム。
【請求項2】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、
前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、
前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備え、
前記分析部は、
抽出された前記カソードルミネッセンス成分を前記エネルギー分布スペクトルから除去する、
たことを特徴とするX線検出システム。
【請求項3】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の成分を検知する画像処理部と、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、
前記イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無から前記イメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、
を備えたことを特徴とするX線検出システム。
【請求項4】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の成分を検知する画像処理部と、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、
前記イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無から前記イメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、
を備え、
前記画像処理部は、
前記カソードルミネッセンス抽出部により抽出された前記カソードルミネッセンスの領域のイメージを画像処理により除去し、該画像処理後のイメージを前記回折X線の採取スペクトルとして前記分析部に供給する、
ことを特徴とするX線検出システム。
【請求項5】
前記カソードルミネッセンス抽出部は、前記エネルギー分散方向と直交する方向における前記イメージ中の異なる領域間での比較により、エネルギー分散方向の成分の有無を判断する、
ことを特徴とする請求項3−4に記載のX線検出システム。
【請求項6】
前記イメージセンサは、
前記エネルギー分散方向と直交する方向(光広がり方向)において、受光すべき領域より小さく構成され、露光時間内に前記光広がり方向に移動しつつ受光する、
ことを特徴とする請求項5記載のX線検出システム。
【請求項7】
前記画像処理部は、
前記イメージに含まれる軟X線成分を検出すると共に、前記カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去による該軟X線成分の減衰量を検出し、該減衰量が一定に達した時点で、前記カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去を停止する、
ことを特徴とする請求項4記載のX線検出システム。
【請求項1】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、
前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、
前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、
を備えたことを特徴とするX線検出システム。
【請求項2】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、
前記エネルギー分布スペクトルのベースラインを抽出するベース抽出部と、
前記ベースラインの傾きから前記エネルギー分布スペクトルに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、を備え、
前記分析部は、
抽出された前記カソードルミネッセンス成分を前記エネルギー分布スペクトルから除去する、
たことを特徴とするX線検出システム。
【請求項3】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の成分を検知する画像処理部と、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、
前記イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無から前記イメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、
を備えたことを特徴とするX線検出システム。
【請求項4】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルのイメージを分析して、該イメージに含まれるエネルギー分散方向の成分を検知する画像処理部と、
前記イメージセンサで検出された前記回折X線の採取スペクトルを分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部と、
前記イメージ中のエネルギー分散方向の成分の有無から前記イメージに含まれるカソードルミネッセンス成分を抽出するカソードルミネッセンス抽出部と、
を備え、
前記画像処理部は、
前記カソードルミネッセンス抽出部により抽出された前記カソードルミネッセンスの領域のイメージを画像処理により除去し、該画像処理後のイメージを前記回折X線の採取スペクトルとして前記分析部に供給する、
ことを特徴とするX線検出システム。
【請求項5】
前記カソードルミネッセンス抽出部は、前記エネルギー分散方向と直交する方向における前記イメージ中の異なる領域間での比較により、エネルギー分散方向の成分の有無を判断する、
ことを特徴とする請求項3−4に記載のX線検出システム。
【請求項6】
前記イメージセンサは、
前記エネルギー分散方向と直交する方向(光広がり方向)において、受光すべき領域より小さく構成され、露光時間内に前記光広がり方向に移動しつつ受光する、
ことを特徴とする請求項5記載のX線検出システム。
【請求項7】
前記画像処理部は、
前記イメージに含まれる軟X線成分を検出すると共に、前記カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去による該軟X線成分の減衰量を検出し、該減衰量が一定に達した時点で、前記カソードルミネッセンスの領域のイメージの除去を停止する、
ことを特徴とする請求項4記載のX線検出システム。
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−58146(P2012−58146A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203408(P2010−203408)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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