説明

X線発生装置及びX線発生装置の製造方法

【課題】 大気に曝されるX線透過窓の腐食を、X線透過性を損なわず、かつ低コストで低減することができるX線発生装置及びX線発生装置の製造方法を提供する。
【解決手段】 X線発生装置は、真空外囲器180と、真空外囲器180内に設けられたX線発生手段と、真空外囲器180に接続され、真空外囲器180を密閉し、ベリリウムで形成され、X線発生手段が発生したX線を透過して大気側に放射させるX線透過窓182と、保護膜Fと、を備えている。保護膜Fは、X線透過窓182の大気に露出する側の表面の少なくとも一部を覆い、X線透過窓182と、ベンゾトリアゾール又はその誘導体と、の反応被膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線発生装置及びX線発生装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管装置のようなX線発生装置は、真空外囲器の一部にX線透過窓を備えている。このX線透過窓としては、X線の透過率の高いベリリウムを使用する場合が少なくない。しかし、ベリリウム製のX線透過窓の外側(真空と反対側)が大気であるような使用環境である場合、X線照射の影響で、腐食され、最終的にはX線透過窓が破壊される恐れがある。
【0003】
X線透過窓が破壊されると、真空外囲器内の減圧が解かれ、真空外囲器内に空気が入る不具合が生じる。特に、軟X線に対する透過率を高めるためにベリリウムの厚みを50μm以下に薄くする場合にこの不具合が短時間で発生し易い。
【0004】
このため、X線透過窓の表面に保護性の薄膜を形成することが知られている。例えば、X線透過窓の表面には、Si、SiO、SiC、BN、BC、BSi、Al、ポリイミド、架橋ポリエチレン等からなり、数十乃至数百nmの厚みを有する保護膜が形成されている。また、X線透過窓の表面に、ホウ素を0.1乃至1.0μm被着させている。さらにまた、X線透過窓の表面には、膜厚10乃至100nmのSiOからなる中間層を介して膜厚10乃至100nmのTiOが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−35774号公報
【特許文献2】特開平6−302289号公報
【特許文献3】特開平10−142399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来のX線発生装置では、以下のような問題が発生する恐れがある。
(1)まず、X線透過窓に形成する保護膜の製造法に物理蒸着等の真空成膜法を使った場合であるが、この場合、製造コストが高くなる。また、X線透過窓の形状によってはシャドウ効果により必要範囲に均一にムラなく成膜することが困難となる。X線発生装置が完成した状態での成膜が困難である。
【0007】
(2)次に、保護膜の製造法に塗布法を使った場合であるが、この場合、熟練技能が必要である。また、0.1μm以下の膜をムラなくかつ無欠陥で形成することは困難である。さらに、一般的に密着度の高い膜が得難いものである。また、一般に塗布後の高温焼成が必要であるため、X線発生装置が完成した状態での成膜が困難である。
【0008】
(3)次に、X線、特にエネルギが10kV以下の軟X線を使用する場合であるが、この場合、保護膜を、透過率の高い薄膜で形成することが困難である。十分に透過率が高い保護膜を得ようとすると、保護膜に欠陥が生じ、防食性能が損なわれてしまう。
【0009】
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、大気に曝されるX線透過窓の腐食を、X線透過性を損なわず、かつ低コストで低減することができるX線発生装置及びX線発生装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態に係るX線発生装置は、
真空外囲器と、
前記真空外囲器内に設けられたX線発生手段と、
前記真空外囲器に接続され、前記真空外囲器を密閉し、ベリリウムで形成され、前記X線発生手段が発生したX線を透過して大気側に放射させるX線透過窓と、
前記X線透過窓の大気に露出する側の表面の少なくとも一部を覆い、前記X線透過窓と、ベンゾトリアゾール又はその誘導体と、の反応被膜である保護膜と、を備えたことを特徴としている。
【0011】
また、一実施形態に係るX線発生装置の製造方法は、
真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられたX線発生手段と、前記真空外囲器に接続され、前記真空外囲器を密閉し、ベリリウムで形成され、前記X線発生手段が発生したX線を透過して大気側に放射させるX線透過窓と、を備えたX線発生装置の製造方法において、
前記X線透過窓を、ベンゾトリアゾール又はその誘導体を溶媒に溶解させた処理溶液に浸漬し、前記X線透過窓と、ベンゾトリアゾール又はその誘導体と、の反応被膜であり、前記X線透過窓の大気に露出する側の表面の少なくとも一部を覆った保護膜を形成する浸漬処理工程と、
前記真空外囲器、X線発生手段及びX線透過窓をモジュールに組立てる工程と、を備えたことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、一実施形態に係るX線管装置を示す分解断面図である。
【図2】図2は、図1の線II−IIに沿った方向から見たX線管装置を示す平面図である。
【図3】図3は、上記X線管装置を示す他の分解断面図である。
【図4】図4は、上記X線管装置の一部を示す断面図であり、X線透過窓及び保護膜を示す図である。
【図5】図5は、上記実施形態に係るX線管装置の保護膜の製造工程を示す概略図である。
【図6】図6は、図5に続く、上記保護膜の製造工程を示す概略図である。
【図7】図7は、図6に続く、上記保護膜の製造工程を示す概略図である。
【図8】図8は、図7に続く、上記保護膜の製造工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら一実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の製造方法について詳細に説明する。
図1、図2及び図3に示すように、X線管装置は、X線管1、高電圧コネクタ400、管部11、管部12、押圧機構13及び押圧機構14を備えている。図示しないが、X線管装置は、冷却装置も備えている。冷却装置では、冷却液Lの循環装置と言い換えることができる。
【0014】
固定陽極型のX線管1は、陰極150と、陽極160と、収束電極170と、真空外囲器180と、高電圧供給端子210と、を備えている。
陰極150は、電子を放出する電子放出源として陰極フィラメント151を含んでいる。収束電極170は、筒状に形成され、陰極フィラメント151の内側に配置され、陰極フィラメント151を固定している。
【0015】
陽極160は、収束電極170の内側に配置されている。陽極160は、陰極フィラメント151から放出される電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲット161と、管部162と、底部165a、底部165bと、管部166と、管部167と、を含んでいる。陽極ターゲット161及び底部165は円盤状に形成されている。管部162は、筒状に形成され、一端は陽極ターゲット161で液密に閉塞され、他端は底部165で液密に閉塞されている。管部162は、他端側に、冷却液Lの導入口163及び排出口164を有している。
【0016】
管部166は、筒状に形成され、管部162の内側に設けられている。管部166において、一端は陽極ターゲット161に間隔を置いて対向配置され、他端は底部165に液密に固定されている。管部166の他端側に形成された開口部及び導入口163は、筒状の管部167で液密に連通されている。
この実施形態において、陽極ターゲット161はタングステン合金で形成され、管部162、底部165a、底部165bは金属としての銅で形成され、管部166及び管部167は金属としてのステンレス鋼で形成されている。
【0017】
管部167及び管部166は、陽極160の内部に冷却液Lを導入する導入路C1を形成している。このため、陽極ターゲット161に冷却液Lを吹き掛けることができる。管部162及び管部166は、陽極160の外部に冷却液Lを排出するための排出路C2を形成している。導入路C1及び排出路C2は、冷却液Lが流れるX線管1の冷却路3を形成している。このため、上記冷却路3を流れる冷却液Lにより、陽極ターゲット161を直接冷却することができるため、冷却液Lには陽極ターゲット161から放出される熱のほとんどの部分が伝導される。冷却液Lは、絶縁油などの高電圧絶縁性流体のみならず、純水や水系冷却液を使用することができる。
【0018】
真空外囲器180は、金属外囲器181、金属外囲器183及び高電圧絶縁部材200を含んでいる。金属外囲器181は、その先端外径が徐々に細くなる筒状で、先端面が平坦に形成されている。
【0019】
金属外囲器183は、金属で形成されている。金属外囲器183は、枠部184、筒部185、筒部186及び枠部193を有している。枠部184は、内周及び外周が円形である枠状に形成されている。枠部184の一端面には金属外囲器181が気密に接続されている。
【0020】
筒部185は、筒状に形成されている。筒部185の一端は枠部184の他端面に気密に接続されている。筒部186は、筒部185より径の大きい筒状に形成され、筒部185の外側に位置している。筒部186の一端は枠部184の他端面に接続されている。筒部186の外面の複数個所には平面が形成されている。筒部186には、筒部186の平面に開口した開口部189、開口部190及び複数のネジ孔191、192が形成されている。枠部193は、内周が円形であり、外周が四角形である枠状に形成されている。枠部193は、筒部186の他端に接続されている。枠部193には、複数のネジ孔194が形成されている。ここでは、枠部184、筒部185、筒部186及び枠部193は、一体に形成されている。
【0021】
高電圧絶縁部材200は、アルミナ、窒化アルミニウム、ベリリア、窒化珪素等の電気絶縁性セラミクスで形成されている。ここでは、高電圧絶縁部材200は、アルミナで形成されている。高電圧絶縁部材200は、柱状に形成され、高電圧絶縁部材200の一端部の外周面は、筒部185の内周面に気密に接続され、固定されている。
【0022】
高電圧絶縁部材200には、陰極150及び陽極160の何れか一方が取り付けられている。この実施形態において、高電圧絶縁部材200には、陽極160が取り付けられている。詳しくは、高電圧絶縁部材200には管部162の他端側及び底部165が取り付けられ、高電圧絶縁部材200は導入口163及び排出口164を覆っている。
【0023】
真空外囲器180は、陰極150、陽極160及び収束電極170を収容している。言い替えると、陰極150、陽極160及び収束電極170は、真空外囲器180内に設けられている。
【0024】
X線透過窓182は、真空外囲器180に接続され、真空外囲器180を密閉している。詳しくは、X線透過窓182は、金属外囲器181の先端面に気密に取り付けられている。X線透過窓182は、陽極ターゲット161に対向配置されている。X線透過窓182は、X線を透過して大気側に放射させるものであり、X線の減衰が少ない材料としてベリリウム(Be)で形成されている。
【0025】
X線透過窓182で密閉された真空外囲器180の内部は、真空状態である。このため、金属外囲器181に形成された排気管、又は金属外囲器183に形成された排気管、又は高電圧絶縁部材200に形成された排気孔を通じて真空外囲器180内を真空排気した後、上記排気管又は排気孔を封止している。
【0026】
高電圧供給端子210は、高電圧絶縁部材200に設けられた陰極150及び陽極160の何れか一方に高電圧を供給するものである。この実施形態において、高電圧供給端子210は、底部165(陽極160)に接続され、陽極160に高電圧を供給するものである。
【0027】
高電圧絶縁部材200は、高電圧供給端子210とともに真空外部に露出した第1端面201と、真空外部に露出した第2端面202、203と、X線管1の冷却路3を形成する貫通孔204、205とを有している。この実施の形態において、第1端面201は平面である。
【0028】
第2端面202は、開口部189に対向している。第2端面203は、開口部190に対向している。この実施形態において、第2端面202、203は、外部から内部に向かって細くなるテーパ状の凹面である。
【0029】
貫通孔204、205は、高電圧絶縁部材200の内部に形成されている。貫通孔204は、一方が導入口163に連通し、他方が第2端面202に開口している。貫通孔205は、一方が排出口164に連通し、他方が第2端面203に開口している。貫通孔204、205には、冷却液Lが流れる。
【0030】
高電圧コネクタ400は、有底筒状のハウジング401と、ハウジング401内にその先端が挿入されたケーブル402と、ハウジング401内に充填され、ケーブル402の端子402aをハウジング401の開口部側に向けて固定するエポキシ樹脂材製の固定部403と、この固定部403と高電圧絶縁部材200の第1端面201との間に挿入されたシリコーン樹脂材製のシリコーンプレート404と、を備えている。この実施形態において、ケーブル402は高電圧ケーブルである。固定部403は、電気絶縁材である。シリコーンプレート404は、内周及び外周が円形である枠状に形成されている。
【0031】
この実施形態において、高電圧コネクタ400の電気絶縁材としての固定部403は、高電圧絶縁部材200の第1端面201に間接的に密着されている。なお、固定部403は、第1端面201に直接密着されていても良い。高電圧コネクタ400は、高電圧供給端子210に正の高電圧を与えるものである。
【0032】
上記のように構成されたX線管1では、次のように用いられる。高電圧コネクタ400を真空外囲器180に取り付ける際に、シリコーンプレート404が、それぞれ固定部403と、高電圧絶縁部材200の第1端面201とに密着するように押圧する。上記押圧状態を維持するため、図示しないネジは、ハウジング401の図示しないネジ孔を通って枠部193のネジ孔194に締め付けられている。
【0033】
管部11は、冷却液Lが流れる電気絶縁部材からなるホース11aを有している。管部11は、第2端面202に密着される電気絶縁部材11bを有している。この実施の形態において、電気絶縁部材11bはホース11aの先端部で形成されている。電気絶縁部材11bの外面は、先端に向かって細くなるテーパ状の凸面である。電気絶縁部材11bが第2端面202に密着されることにより、管部11は、貫通孔204に連通される。
【0034】
管部12は、冷却液Lが流れる電気絶縁部材からなるホース12aを有している。管部12は、第2端面203に密着される電気絶縁部材12bを有している。この実施の形態において、電気絶縁部材12bはホース12aの先端部で形成されている。電気絶縁部材12bの外面は、先端に向かって細くなるテーパ状の凸面である。電気絶縁部材12bが第2端面203に密着されることにより、管部12は、貫通孔205に連通される。
【0035】
ホース11a、12aを形成する材料としては、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、オレフィン系エラストマー、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリウレタンなどを利用することができる。
【0036】
電気絶縁部材11bの第2端面202への密着状態を維持するため、押圧機構13により、管部11の電気絶縁部材11bを第2端面202に押し付けている。押圧機構13は、固定部材13aと、ネジ13eとを有している。固定部材13aは、筒部と、筒部の一端に接続された枠部とが一体となって形成されている。固定部材13aの枠部には複数のネジ孔13dが形成されている。固定部材13aは、管部11、ここではホース11aに固定されている。そして、ネジ13eは、固定部材13aのネジ孔13dを通って金属外囲器183のネジ孔191に締め付けられている。
【0037】
電気絶縁部材12bの第2端面203への密着状態を維持するため、押圧機構14により、管部11の電気絶縁部材12bを第2端面203に押し付けている。押圧機構14は、固定部材14aと、ネジ14eとを有している。固定部材14aは、筒部と、筒部の一端に接続された枠部とが一体となって形成されている。固定部材14aの枠部には複数のネジ孔14dが形成されている。固定部材14aは、管部12、ここではホース12aに固定されている。そして、ネジ14eは、固定部材14aのネジ孔14dを通って金属外囲器183のネジ孔192に締め付けられている。
【0038】
上記のように構成されたX線管装置において、陰極150及び収束電極170には相対的に負の電圧が印加され、陽極160には相対的に正の電圧が印加される。ここでは、陽極ターゲット161には、高電圧供給端子210、底部165及び筒部162を介して高電圧コネクタ400に印加された高電圧が与えられる。陰極150及び収束電極170は、接地されている。
【0039】
管部11において、一端はX線管1に気密に接続され、他端は冷却装置に気密に接続されている。管部12において、一端はX線管1に気密に接続され、他端は冷却装置に気密に接続されている。冷却装置は、熱交換器や循環ポンプを有し、管部11、12を介して冷却液LをX線管1の冷却路3との間で循環させるものである。
【0040】
図4に示すように、X線透過窓182の大気に露出する側の表面は、保護膜Fで覆われている。保護膜Fは、X線透過窓182と、ベンゾトリアゾール又はその誘導体と、の反応被膜で形成されている。
【0041】
保護膜Fは、ベンゾトリアゾール(BTA)又はその誘導体で形成されている。上記誘導体としては、トリトリアゾール(TTA)、ナフトトリアゾール(NTA)、アルキルベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール(CBTA)、ヒドロキシベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール(MBTA)、5,6−ジメチルベンゾトリアゾール・一水和塩(DMBTA)、1−メタンスルフォニルベンゾトリアゾール(MSBTA)、及び1−(α−クロロアセチル)ベンゾトリアゾール(CABTA)の中の少なくとも1つを利用することができる。
上記のようにX線管装置が構成されている。
【0042】
次に、上記X線管装置の製造方法について説明する。
図1及び図3に示すように、まず、陰極150と、陽極160と、収束電極170と、真空外囲器180と、高電圧供給端子210と、を備えたX線管1を用意する。用意したX線管1において、真空外囲器180には、X線透過窓182が気密に接続され、真空外囲器180内は真空排気されている。
【0043】
図5に示すように、次に、第1製造装置20を用いた浸漬処理工程に移行する。第1製造装置20は、ベンゾトリアゾール又はその誘導体を溶媒に溶解させた処理溶液21を収容する処理溶液槽22と、処理溶液槽22に収容された処理溶液21を加熱するヒータ23とを備えている。上記溶媒は、水、アルコール又はこれらの混合液である。
【0044】
図6に示すように、浸漬処理工程にて、X線透過窓182を、処理溶液21に、一定期間、浸漬する。ここで、上記一定期間とは、X線透過窓182の表面に、保護膜Fが形成されるまでの期間である。これにより、X線透過窓182が、処理溶液21中のベンゾトリアゾール又はその誘導体と反応し、X線透過窓182の大気に露出する側の表面に、保護膜Fが形成される。
【0045】
図7に示すように、その後、第2製造装置30を用いた洗浄工程に移行する。第2製造装置30は、洗浄液としての純水31を収容する洗浄液槽32を備えている。洗浄工程にて、保護膜Fが形成された側のX線透過窓182の表面を純水31で洗浄する。
【0046】
図8に示すように、続いて、第3製造装置40を用いた乾燥工程に移行する。第3製造装置40は、送風機であり、ファン41を備えている。乾燥工程において、洗浄したX線透過窓182の表面にファン41を用いて送風し、X線透過窓182の表面を乾燥させる。
【0047】
図1及び図3に示すように、次いで、保護膜Fが形成されたX線管1と、高電圧コネクタ400と、管部11、12と、押圧機構13、14と、上記冷却装置と用いてモジュールに組立てる。これにより、X線管装置の製造が終了する。
【0048】
次に、上記X線管装置の製造方法について詳細に説明する。ここでは、水を溶媒に用いた浸漬法による保護膜Fの形成方法と、メタノールの50%水溶液を溶媒に用いた浸漬法による保護膜Fの形成方法と、についてそれぞれ説明する。
【0049】
・水を溶媒に用いた浸漬法による保護膜Fの形成方法
ベンゾトリアゾールを純水に1wt%溶解させて処理溶液21を作製する。続いて、X線管装置のX線透過窓182をアセトンにより十分脱脂する。次いで、処理溶液21を50℃に加温した状態でX線透過窓182の大気側の表面を60分浸漬させることにより、ベンゾトリアゾールとX線透過窓182(ベリリウム)との反応被膜により保護膜Fが形成される。処理溶液21の温度をより高くするほど、X線透過窓182を処理溶液21に浸漬する時間を短くすることができる。
【0050】
浸漬時間を延長しても保護膜Fの厚みは一定値以上には増大しない。形成された保護膜Fの外観は紫色の干渉色を呈する。保護膜Fの膜厚は50nm前後と推測される。保護膜FをAES分析(オージェ電子分光分析)したところ、構成元素として炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、ベリリウム(Be)が検出された。
保護膜Fを形成した後、X線透過窓182の浸漬個所を十分に純水で洗浄し、乾燥させる。
【0051】
・メタノールの50%水溶液を溶媒に用いた浸漬法による保護膜Fの形成方法
ベンゾトリアゾールをメタノールの50%水溶液に10wt%溶解させて処理溶液21を作製する。続いて、X線管装置のX線透過窓182をアセトンにより十分脱脂する。次いで、処理溶液21を50℃に加温した状態でX線透過窓182の大気側の表面を10分浸漬させることにより、ベンゾトリアゾールとX線透過窓182(ベリリウム)との反応被膜により保護膜Fが形成される。この場合も、処理溶液21の温度をより高くするほど、X線透過窓182を処理溶液21に浸漬する時間を短くすることができる。
【0052】
浸漬時間を延長しても保護膜Fの厚みは一定値以上には増大しない。形成された保護膜Fの外観は紫色の干渉色を呈する。保護膜Fの膜厚は50nm前後と推測される。保護膜FをAES分析したところ、構成元素としてC、N、O、Beが検出された。
保護膜Fを形成した後、X線透過窓182の浸漬個所を十分に純水で洗浄し、乾燥させる。
【0053】
以上のように構成された一実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の製造方法によれば、X線管装置は、陰極150と、陽極ターゲット161を含んだ陽極160と、高電圧絶縁部材200を含んだ真空外囲器180と、X線透過窓182と、高電圧供給端子210と、を具備したX線管1と、高電圧コネクタ400と、冷却液Lが流れる管部11、12と、管部11、12に間接的に取り付けられ冷却液Lを循環させる冷却装置と、を備えている。
【0054】
X線透過窓182の大気に露出する側の表面は、保護膜Fで覆われている。保護膜Fは、X線透過窓182と、ベンゾトリアゾール又はその誘導体と、の反応被膜である。保護膜Fが形成されたX線透過窓182が大気に曝される腐食環境でX線管装置を使用する場合においても、X線透過窓182の腐食を抑制することができる。X線透過窓182がベリリウムで形成されている場合であっても、腐食の発生を抑制することができる。このため、長期にわたって信頼性が高く、製品寿命の長いX線管装置を得ることができる。
【0055】
X線透過窓182の他の防食被膜(物理蒸着等の真空成膜法による無機/有機コーティング、及び塗布法による無機/有機コーティング)に対し、この実施形態のベンゾトリアゾール又はその誘導体による保護膜Fの特に有利な点は、以下に挙げる通りである。
【0056】
・製造コストが低い。
【0057】
・製造に熟練技能が不要である。
【0058】
・X線発生装置が完成した状態での成膜が可能である。
【0059】
・X線、特にエネルギが10kV以下の軟X線の透過率が高い。
【0060】
・欠陥が少なく、かつ密着性が高いため防食性能に優れる。
【0061】
・X線透過窓182の形状の如何にかかわらず必要範囲に均一にムラなく成膜することが可能である。
【0062】
また、高電圧絶縁部材200は、高電圧供給端子210とともに真空外部に露出した第1端面201と、真空外部に露出した第2端面202、203と、内部に形成され第2端面202、203に開口し、X線管1の冷却路3を形成する貫通孔204、205と、を有している。高電圧コネクタ400は、第1端面201に間接的に密着された固定部403を有し、高電圧供給端子210に高電圧を与える。
【0063】
管部11は、管部11の電気絶縁部材11bが第2端面202に密着され、貫通孔204(冷却路3)に連通されている。管部12は、管部12の電気絶縁部材12bが第2端面203に密着され、貫通孔205(冷却路3)に連通されている。
【0064】
X線管1の冷却路3は、高電圧絶縁部材200の内部にも形成され、高電圧絶縁部材200に設けられた陽極160を冷却することができる。この実施の形態において、X線管1の冷却路3は、陽極160の内部にも形成され、陽極ターゲット161を直接冷却することができる。
【0065】
このため、陽極160から高電圧絶縁部材200、固定部(電気絶縁材)403、シリコーンプレート404への熱伝導を低減することができる。高電圧コネクタ400の温度を低くすることができ、高電圧コネクタ400の許容温度を越えた変形を抑制することができるため、高電圧コネクタ400と、高電圧絶縁部材200との密着性を維持することができる。これにより、高電圧コネクタ400と高電圧絶縁部材200との密着界面に沿った放電の発生を防止することができる。
【0066】
また、管部11、12の全長にわたってホース11a、12a内部の冷却液Lが高電気抵抗回路を形成するため、管部11、12を絶縁油とともにハウジング内に収容しなくとも電気絶縁性を確保することができる。
上記したことから、大気に曝されるX線透過窓182の腐食を、X線透過性を損なわず、かつ低コストで低減することができるX線発生装置及びX線発生装置の製造方法を得ることができる。
【0067】
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
例えば、BTAの替わりに各種のBTA誘導体を使用してもX線透過窓182に保護膜Fを同様に形成することができるため、この場合も上述した効果を得ることができる。
【0068】
X線透過窓182にベンゾトリアゾール又はその誘導体との反応被膜を形成させる工程は、X線管の排気工程前に実施しても良い。ただし、排気工程でX線透過窓182の温度を反応被膜の耐熱温度(約200℃と推定される)以下に抑えることが必要である。
【0069】
ベンゾトリアゾール又はその誘導体との反応被膜は、従来の他の防食被膜を形成させた上から形成させても効果がある。従来の防食被膜では微小な欠陥部を有するため、この欠陥部を起点として腐食が進行することが予想される。しかしながら、従来の他の防食被膜を形成させたX線透過窓182を、ベンゾトリアゾール又はその誘導体を溶媒に溶解させた処理溶液21に接触させる(浸らせる)だけで、欠陥部の耐食性を確保することができるものである。すなわち、欠陥部においては反応被膜が形成されるため、欠陥部を事後的に修復することができ、欠陥部を起点とするX線透過窓182の腐食の進行を防止することができる。
【0070】
本発明が対象とするX線管装置は固定陽極型のX線管装置のみならず、回転陽極型のX線管装置にも適用することが可能である。また、本発明が対象とするX線発生装置はX線管装置のみならず、例えばデマンタブル方式の真空装置からなるX線管装置にも適用することが可能である。
本発明が上述した実施形態に係るX線管装置及びX線管装置の製造方法に限定されるものではなく、各種のX線発生装置及びX線発生装置の製造方法に適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0071】
1…X線管、3…冷却路、11,12…管部、11a,12a…ホース、11b,12b…電気絶縁部材、13,14…押圧機構、20…第1製造装置、21…処理溶液、22…処理溶液槽、23…ヒータ、30…第2製造装置、31…純水、32…洗浄液槽、40…第3製造装置、41…ファン、150…陰極、151…陰極フィラメント、160…陽極、161…陽極ターゲット、180…真空外囲器、182…X線透過窓、200…高電圧絶縁部材、201…第1端面、202,203…第2端面、204,205…貫通孔、210…高電圧供給端子、400…高電圧コネクタ、403…固定部、404…シリコーンプレート、F…保護膜、L…冷却液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空外囲器と、
前記真空外囲器内に設けられたX線発生手段と、
前記真空外囲器に接続され、前記真空外囲器を密閉し、ベリリウムで形成され、前記X線発生手段が発生したX線を透過して大気側に放射させるX線透過窓と、
前記X線透過窓の大気に露出する側の表面の少なくとも一部を覆い、前記X線透過窓と、ベンゾトリアゾール又はその誘導体と、の反応被膜である保護膜と、を備えたことを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記誘導体は、トリトリアゾール、ナフトトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、5,6−ジメチルベンゾトリアゾール・一水和塩、1−メタンスルフォニルベンゾトリアゾール、及び1−(α−クロロアセチル)ベンゾトリアゾールの中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられたX線発生手段と、前記真空外囲器に接続され、前記真空外囲器を密閉し、ベリリウムで形成され、前記X線発生手段が発生したX線を透過して大気側に放射させるX線透過窓と、を備えたX線発生装置の製造方法において、
前記X線透過窓を、ベンゾトリアゾール又はその誘導体を溶媒に溶解させた処理溶液に浸漬し、前記X線透過窓と、ベンゾトリアゾール又はその誘導体と、の反応被膜であり、前記X線透過窓の大気に露出する側の表面の少なくとも一部を覆った保護膜を形成する浸漬処理工程と、
前記真空外囲器、X線発生手段及びX線透過窓をモジュールに組立てる工程と、を備えたことを特徴とするX線発生装置の製造方法。
【請求項4】
前記誘導体は、トリトリアゾール、ナフトトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、5,6−ジメチルベンゾトリアゾール・一水和塩、1−メタンスルフォニルベンゾトリアゾール、及び1−(α−クロロアセチル)ベンゾトリアゾールの中の少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載のX線発生装置の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒は、水、アルコール又はこれらの混合液であることを特徴とする請求項3又は4に記載のX線発生装置の製造方法。
【請求項6】
前記浸漬処理工程の後に、前記保護膜が形成された側の前記X線透過窓の表面を純水で洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程の後に、前記洗浄したX線透過窓の表面を乾燥させる乾燥工程と、をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載のX線発生装置の製造方法。
【請求項7】
前記浸漬処理工程は、前記X線透過窓を前記真空外囲器に接続した後に実施されることを特徴とする請求項3乃至6の何れか1項に記載のX線発生装置の製造方法。
【請求項8】
前記浸漬処理工程は、前記真空外囲器内を真空排気した後に実施されることを特徴とする請求項7に記載のX線発生装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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