説明

X線発生装置

【課題】シールド構造体の冷却効率を上げることで装置の冷却能力を向上し、連続運転を可能とするとともに、長寿命のX線発生装置を提供すること。
【解決手段】陽極ターゲット33と電子銃20との間に配置されたシールド構造体40は、電子ビームが通過する開口部42を有するとともに、陽極ターゲット33にて発生した電子を捕獲する本体41と、本体41内部に形成され、開口部42に隣接する内周部に設けられるとともに冷却液循環系50から冷却液が導入される冷却液導入口46を有する内側流路44と、内側流路44の開口部42側からみて外周側に仕切壁43を介して設けられるとともに、内側流路44を通過した冷却液が導入され、冷却液が冷却液循環系50へ排出される冷却液排出口47を有する外側流路45とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CTスキャナ等に用いられる大容量のX線発生装置に関し、特に、シールド構造体を流体で冷却するものに関する。
【背景技術】
【0002】
X線検出器のデジタル信号処理、画像再構成アルゴリズム及びコンピュータ能力の最近の進歩は、高速で信頼性の高いヘリカルCTスキャナの開発を可能にした。ヘリカルCTスキャナの処理能力は、X線発生装置の能力に左右される。
【0003】
従来のX線発生装置は、冷却能力が乏しく、X線の連続発生が困難であった。この結果、ヘリカルCTスキャナの運転は、X線の発生、つまり、CT撮影と、X線発生装置の冷却のための一時的な停止の繰り返しとなり、稼動率が低下していた。
【0004】
従来のX線発生装置は、真空容器を伴ったハウジングで構成される。さらに真空容器は、軸方向に配置された陰極と陽極から構成される。X線は、原子量の大きなターゲット金属(以下、「陽極」と称する)上で電子がすばやく減速し分散する間に発生する。陽極としては、タングステンやレニウムが使われる。電子は、加熱されたタングステンフィラメントから発射され、負にチャージされた陰極と正にチャージされた陽極の間を通過する間に加速される。そして、電子は、一般的に120〜140keVのエネルギを持って、陽極表面に衝突する。陽極に衝突する電子がもつ運動エネルギのごくわずかの一部が、X線に変換される。
【0005】
一方、残ったエネルギは熱となることから、陽極の集光スポット材料は、数ミリ秒の放射の間に2000℃以上に達する。この熱を広い領域に拡散させるために、最も小さなX線発生装置でさえも、陽極は真空下で回転している。熱が拡散する領域をフォーカルトラックと呼んでいる。性能向上のために電子ビームパワーを増加させると、フォーカルトラックの温度が上昇することから、フォーカルトラック表面に大きな応力が発生し、クラックが発生する。このクラックは、X線発生装置の寿命を短くする。
【0006】
エネルギを持った電子が陽極に衝突するときに、入射した電子の約半数は、逆方向に散乱する。逆方向に散乱した電子のほとんどは、最初から持っていた運動エネルギの多くの部分を持ちながら陽極の表面から離れるが、その後、陽極上の、X線を発生する集光スポットからある一定の距離の位置に再度衝突し、X線を放射する。この逆方向に散乱した電子によって生じる、集光スポットでない部分からの放射(以下、「オフフォーカル放射」と呼ぶ)は、X線の強度を低下させ、そして、X線の放射が正確な点光源からの放射でなくなるため、CT画像の画質を低下させる。
【0007】
逆方向に散乱した電子はCT画像を悪化させるだけでなく、X線チューブの陽極以外の部分にダメージを与える。例えば、電子のいくつかは、十分なエネルギを持ち、真空容器の壁やX線が出てくる窓に衝突し、真空容器とベリリウム窓を加熱する。冷媒がオイルの場合、真空容器の加熱された部分が350℃に達すると、冷却オイルが沸騰し、破壊され始める。この沸騰現象もCT画像にアーチファクトを発生させる原因となる。また、冷却オイルの破壊は、カーボンを発生させ、時間の経過とともに、X線が出てくる窓や真空容器に堆積する。
【0008】
従来のX線発生装置に用いられる冷媒は、オイルのような電気的な絶縁体であり、X線発生装置の中を循環するように設計されている。このようなX線発生装置の一例として例えば、冷却オイルが陽極のシャフトの中を循環するものが米国特許4,309,637に開示されている。さらにこの改良型として、オフフォーカル放射の効果を低減させるために、陽極の周囲を囲うシュラウドを設けることが提案されている。
【0009】
しかしながら、シュラウドは電子源に向かって伸びていくため、電子ビームは、陽極に向かってシュラウドの穴を通過することになる。上記の米国特許に記載されたシュラウドは、冷却オイルがその中を流れるように中空構造である。このシュラウドがあるために、電子ビームは長い漂流領域を通過するため、電子ビームのぼけが発生する。また、このシュラウドでは、対流による熱伝達がもっとも必要であるにもかかわらず、冷却流体の流速は低い。さらに、陽極とカソード間の距離の増加に伴ってX線発生装置全体が大型化する。
【0010】
このような欠点を改善したシールド構造体が米国特許5,689,542に開示されている。図14はこのようなシールド構造体を用いたX線発生装置の要部を示す図である。図14中1は真空容器、2は電子銃、3は陽極、4はシールド構造体を示している。電子銃2から照射された電子Eが陽極3に衝突するときに、入射した電子Eの約半数は、逆方向に散乱する。逆方向に散乱した電子Eは、前述したオフフォーカル放射の原因となる。また、陽極3の熱負荷を減少させるためには、陽極3に再衝突する前に電子を捕獲しなければならない。シールド構造体4はこのような逆方向に散乱した電子Eを捕獲する機能を有している。シールド構造体4に捕獲された電子Eのもつエネルギのほとんど全ては熱に変換される。よって、シールド構造体4は高度な冷却機能を持つ必要がある。
【0011】
シールド構造体4は、高効率な対流熱伝達を実現することで高度な冷却機能を必要とする。例えば、72kWのX線発生装置の最大熱流束はシールド構造体4の内壁4aで発生し、1000W/cm以上となる。また、凹面壁4bでは、数百W/cmである。シールド構造体4の陽極3側の平らな壁面4cでは、陽極3からの熱放射(ふく射)により少量の熱負荷と、逆方向に散乱した電子Eによる熱負荷を受けるが、これは極少量である。
【0012】
シールド構造体4の内部は、図15の(a)〜(c)に示すように構成されている。すなわち、内部が中空状に形成されたドーナツ状の本体5を備えている。本体5は電子ビーム及び反射した電子Eが通過する開口部5aを備えている。本体5内部には仕切壁6が設けられ、第1流路6aと第2流路6bとが形成されている。第1流路6aには冷却液導入口7aが設けられ、第2流路6bには冷却液排出7bが設けられている。また、仕切壁6の開口部5a側には隙間6cが設けられており、第1流路6aと第2流路6bとが連通している。なお、電子Eが本体5に捕獲される外壁部が伝熱面8a,8bとなる。
【0013】
冷却液導入口7aから導入された冷却液は第1流路6aを通流し、伝熱面8aを介して加熱される。さらに、冷却液は隙間6cを通って第2流路6bに導入される。導入された冷却液は第2流路6bを通流し、伝熱面8bを介して加熱される。
【特許文献1】国際公開第01/05196号公報
【特許文献2】特開平08−115798号公報(図3)
【特許文献3】特表2001−502473号公報(図3)
【特許文献4】特表平11−510955号公報(第11頁第13−14行)
【特許文献5】特開平04−034823号公報(第2頁右下欄第11−14行)
【特許文献6】特開2000−251810号公報(段落0012)
【特許文献7】特開2000−251811号公報(第4頁第5欄第9−21行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したX線発生装置には次のような問題があった。図15の(c)はシールド構造体4における冷却液の流れを概念的に示す図である。すなわち、冷却液は第1流路6a内で図中二点鎖線Fで示すように渦状に流れる。加熱された冷却液(暖かい)が新たに流入した冷却液(冷たい)と合流するため冷却液の温度が上昇する。よって、生温い冷却液が伝熱面8a,8bに接するため、冷却液が沸騰しやすくなり、バーンアウト現象を引き起こす可能性が大となる。
【0015】
ここでバーンアウト現象、核沸騰熱伝達、膜沸騰熱伝達を説明する。
【0016】
核沸騰熱伝達は、蒸気による小さな気泡が伝熱面に発生する状態である。大きな熱流束が得られるのが特徴である。核沸騰熱伝達を維持するためには、局所的に発生する小さな気泡が大きな気泡へと合体したり、膜状の気体に成長したりする前に、局所的な気泡を、加熱された表面からすばやく除去する必要がある。このためには、速い流速と適切な温度の多量の冷媒を必要とする。気泡は、周囲の大量の冷媒によって直ちに凝集し、冷媒の温度を沸騰しない程度に上昇させる。そして熱は、グツグツと沸騰している表面から除去される。
【0017】
核沸騰熱伝達を維持するためには、局所的な流速は少なくとも1m/s以上必要である。そして、好ましい値は、その倍以上である。
【0018】
次に膜沸騰熱伝達を説明する。これは、熱負荷が大きくなって、気泡が大きな気泡へと合体し熱源をとり囲むように膜状の気体に成長した状態である。この膜は熱を通さず、断熱材として作用するので、核沸騰熱伝達と比較して熱伝達率が大幅に低下して、パイプ壁面は高温(ほとんどの場合、金属の融点以上)になり、パイプは損傷する。これをバーンアウト現象という。
【0019】
そこで本発明は、シールド構造体の冷却効率を上げ、逆方向に散乱する電子の捕獲により生じる加熱現象を最小化することで装置の冷却能力を向上し、連続運転を可能とするとともに、長寿命のX線発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のX線発生装置は次のように構成されている。
【0021】
(1)陽極ターゲットと、この陽極ターゲットに電子ビームを照射する電子銃と、上記陽極ターゲットと上記電子銃との間に配置されたシールド構造体と、このシールド構造体内部に冷媒を循環させる冷却液循環部とを備え、上記シールド構造体は、上記電子ビームが通過する開口部を有するとともに、上記陽極ターゲットにて発生した電子を捕獲するボディ部と、このボディ部内部に形成され、上記開口部に隣接する内周部に設けられるとともに上記冷却液循環部から冷却液が導入される導入口を有する内側流路と、この内側流路の前記開口部側からみて外周側に壁面を介して設けられるとともに、上記内側流路を通過した上記冷却液が導入され、上記冷却液が上記冷却液循環部へ排出される排出口を有する外側流路とを具備し、上記内側流路は、上記陽極ターゲット側から上記電子銃側にかけて複数の流路に分割されていることを特徴とする。
【0022】
(2)陽極ターゲットと、この陽極ターゲットに電子ビームを照射する電子銃と、上記陽極ターゲットと上記電子銃との間に配置されたシールド構造体と、このシールド構造体内部に冷媒を循環させる冷却液循環部とを備え、上記シールド構造体は、上記電子ビームが通過する開口部を有するとともに、上記陽極ターゲットにて発生した電子を捕獲するボディ部と、このボディ部内部に形成され、上記開口部に隣接する内周部に設けられるとともに上記冷却液循環部から冷却液が導入される導入口を有する内側流路と、この内側流路の前記開口部側からみて外周側に壁面を介して設けられるとともに、上記内側流路を通過した上記冷却液が導入され、上記冷却液が上記冷却液循環部へ排出される排出口を有する外側流路とを具備し、上記シールド構造体は、熱負荷が集中する部分に所定の熱伝導率を有する第1の材料を使用し、それ以外の部分に上記第1の材料よりも高い熱伝導率を有する第2の材料を使用したことを特徴とする。
【0023】
(3)上記(2)に記載されたX線発生装置であって、上記第1の材料はステンレス鋼であり、上記第2の材料は銅又はタングステンの少なくとも一方であることを特徴とする。
【0024】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載されたX線発生装置であって、上記外側流路の断面積は上記内側流路の断面積よりも大きいことを特徴とする。
【0025】
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載されたX線発生装置であって、上記内側流路と上記外側流路とは、接続口により接続されるとともに、この接続口は上記内側流路における上記導入口に対して最下流側に設けられ、かつ、上記外側流路における上記排出口に対して最上流側に設けられていることを特徴とする。
【0026】
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載されたX線発生装置であって、上記内側流路の外周側で、かつ、上記外側流路の内周側に上記内側流路及び上記外側流路と壁面を介して設けられるとともに、上記内側流路を通過した上記冷却液が導入され、かつ、上記外側流路にその内部を通過した冷却液を供給する中間流路が設けられていることを特徴とする。
【0027】
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載されたX線発生装置であって、上記シールド構造体は、上記内側流路又は外側流路の内壁面に凹凸部が設けられていることを特徴とする。
【0028】
(8)上記(1)〜(3)のいずれかに記載されたX線発生装置であって、上記内側流路又は上記外側流路には、整流板が設けられていることを特徴とする。
【0029】
(9)上記(1)〜(4)のいずれかに記載されたX線発生装置であって、上記内側流路と上記外側流路の断面積の比は、1:4〜1:7であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、シールド構造体の冷却効率を上げ、逆方向に散乱する電子の捕獲により生じる加熱現象を最小化することで装置の冷却能力を向上し、連続運転を可能とすることができる。さらに、陽極ターゲットの温度の上昇に伴うクラックの発生を防止できることにより装置の長寿命化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は本発明の第1の実施の形態に係るX線発生装置10を示す断面図である。X線発生装置10は、図示しないヘリカルCTスキャナ内に配置され冷却槽を構成する容器11と、この容器11内に設けられた真空容器12とを備えている。容器11及び真空容器12にはそれぞれ発生したX線を透過させる窓11a,12aが設けられている。真空容器12内部は減圧されている。
【0032】
真空容器12内には、陰極を構成する電子銃20と、陽極を構成する陽極部30と、これら電子銃20と陽極部30との間に配置されたシールド構造体40とが配置されている。また、図1中50は、X線発生装置10を冷却する冷却液を循環させる冷却循環系を示している。冷却液としては、鉱油、水、不凍液を混ぜた水、ナトリウム等が考えられるが、流体ならば何でもよい。
【0033】
電子銃20は、高電圧電源21に接続され、後述する陽極板33に向けて電子ビームを発射する機能を有している。陽極部30は、真空容器12内壁面に設けられた軸受部31と、この軸受部31に回転自在に支持される軸部32と、この軸部32に取り付けられた陽極板33とを備えている。
【0034】
シールド構造体40は、ドーナツ状の本体41を備えている。本体41は電子ビーム及び反射した電子が通過する開口部42を備えている。本体41内部には仕切壁43が設けられており、開口部42側の内側流路44とその外側に配置された外側流路45とを備えている。
【0035】
内側流路44には冷却液導入口46が設けられ、外側流路45には冷却液排出47が設けられている。また、内側流路44と外側流路45との間には接続口48が設けられている。接続口48は内側流路44における最下流側、外側流路45における最上流側に配置されている。
【0036】
冷却循環系50は、冷却槽51と、循環ポンプ52とを備え、容器11と冷却槽51を接続する配管53と、冷却槽51と循環ポンプ52を接続する配管54と、循環ポンプ52とシールド構造体40を接続する配管55と、シールド構造体40と容器11とを接続する配管56とを備えている。なお、冷却循環系50は、冷却槽51で冷却された冷却液を循環ポンプ52を用いてシールド構造体40内に送り込むとともに、シールド構造体40内で温度上昇した冷却液を冷却槽51に回収する機能を有している。
【0037】
このように構成されたX線発生装置10は、次のようにしてX線を発生する。すなわち、電子銃20から出た電子ビームは、回転する陽極板33に衝突し、X線を発生する。X線は、真空容器12と容器11に設けられた窓12a,11aを通って放射される。
【0038】
衝突した電子ビームは陽極板33を加熱する。熱は、熱放射、及び、軸受31を介した熱伝導により、陽極板33から真空容器12に伝熱される。一方、シールド構造体40は、陽極板33から逆方向に散乱する電子Eを捕獲することで、陽極板33の熱負荷を低減するとともに、オフフォーカル放射を防止する(図14参照)。
【0039】
一方、電子Eが入射したシールド構造体40の伝熱面においては熱が内側流路44或は外側流路45内の冷却液に伝達される。すなわち、冷却液導入口46から導入された冷却液は内側流路44を通流し、伝熱面を介して加熱される。冷却液は加熱されることで沸騰しない状態又は核沸騰状態により、熱が冷却液に伝達される。さらに、冷却液は接続口48を通って外側流路45に導入される。導入された冷却液は外側流路45を通流し、伝熱面を介して加熱される。そして、冷却液排出口47より冷却液は外部に排出される。
【0040】
なお、外部に排出された冷却液は容器11から配管53を介して冷却槽51に送られ、所定温度まで冷却される。そして、配管54から循環ポンプ52に送られ、さらに配管ポンプ55を介してシールド構造体40の冷却液導入口46に送られる。
【0041】
図3はシールド構造体40内部の冷却液の流れをシミュレートした図を示す。解析は、シールド構造体40を1/4に分割した形状で行った。図中二点鎖線F1,F2で示すように内側流路44では安定した流れが形成されている。冷却液の流量を0.0003m3 /S程度を想定しているが、流量はX線発生装置10の容量によって決定されるため、流量は任意である。
【0042】
冷却液の流路を内側流路44と外側流路45とに分けることで、内側流路44内部の幅が狭くなる。このため、内側流路44内で冷却液が渦状の流れを発生させて停滞することがない。したがって、冷却液導入口46から導入された冷却液は円滑に接続口48へ向かうこととなる。したがって、内側流路44の断面積と冷却液循環系50による冷却液の流量とに基づいて、熱負荷が最大となる内側流路44の内壁近傍の流速を自由にコントロールすることができ、安定した核沸騰熱伝達状態を維持でき、バーンアウト現象を避けることができる。熱流束が最高になる領域だけに、そのような大きな流速が必要であるが、熱流束が大きくない領域で、大きな流速で流れていると、冷却系に必要としない圧力損失を引き起こすが、外側流路45の断面積を大きくすることにより、流速は小さくなる。よって、外側流路45では不要な圧力損失を発生させない。
【0043】
なお、内側流路44又は外側流路45の内壁面に微細な凹凸をつけることにより、流れの乱流度合いを大きくして冷却効率をより向上させるようにしてもよい。また、陽極板33とシールド構造体40とを接地している。しかし、陽極板33をプラスの電位、シールド構造体40に任意の電位としても、同様の効果が得られる。
【0044】
なお、内側流路44と外側流路45の断面積の比は、1:4〜1:7であることが好ましい。これは本体41が受ける熱流束を内側流路44及び外側流路45に通流する冷却液に伝達する際の温度差を同等のものとするためである。したがって、本体41の形状及びX線発生装置10の出力及び冷却液の流量に基づいて断面積の比を算出する。
【0045】
図4の(a),(b)はシールド構造体40の変形例に係るシールド構造体40Aを示す図である。なお、図4において図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0046】
本変形例に係るシールド構造体40Aの本体41の電子銃20側の壁面41aは凹状の曲面に形成されている。このように構成されたシールド構造体40Aが組み込まれたX線発生装置10でも同様の効果を得ることができる。
【0047】
図5の(a),(b)はシールド構造体40の変形例に係るシールド構造体40Bを示す図である。なお、図5において図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0048】
本変形例に係るシールド構造体40Bの本体41の電子銃20側の壁面41aは電子ビームの進行方向に対し直交する平面状に形成されている。このように構成されたシールド構造体40Bが組み込まれたX線発生装置10でも同様の効果を得ることができる。
【0049】
図6の(a),(b)はシールド構造体40の変形例に係るシールド構造体40Cを示す図である。なお、図6において図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0050】
本変形例に係るシールド構造体40Cの外側流路45には整流板60が設けられている。この整流板60の作用により、冷却液は外側流路45内で渦状の流れになることはなく、内部で停滞することがない。このように構成されたシールド構造体40Cが組み込まれたX線発生装置10でも同様の効果を得ることができる。
【0051】
図7の(a),(b)はシールド構造体40の変形例に係るシールド構造体40Dを示す図である。なお、図7において図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0052】
本変形例に係るシールド構造体40Dは内側流路44及び外側流路45がそれぞれ2つずつ設けられている。このように構成されたシールド構造体40Dが組み込まれたX線発生装置10でも同様の効果を得ることができる。
【0053】
図8の(a),(b)はシールド構造体40の変形例に係るシールド構造体40Eを示す図である。なお、図8において図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0054】
本変形例に係るシールド構造体40Eは内側流路44と外側流路45との間に中間流路70が設けられている。このように構成されたシールド構造体40Eが組み込まれたX線発生装置10でも同様の効果を得ることができる。
【0055】
図9の(a),(b)はシールド構造体40の変形例に係るシールド構造体40Fを示す図、図10はシールド構造体40Fの分解斜視図である。なお、図9,図10において図2と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0056】
図9に示すように、シールド構造体40Fにおいては内側流路44の代わりに第1内側流路80及び第2内側流路81が設けられている。これら第1内側流路80及び第2内側流路81は電子ビームの進行方向に沿って並設されている。このように内側流路が2つあると、冷却液と壁面とが接触する伝熱面積が大きくなることからさらに冷却効率が向上する。
【0057】
また、シールド構造体40Fは電子銃20側から3つの部材90,91,92から構成されている。これらの部材90〜92のうち大きな熱流束を受ける部材90,91においては、熱流束を受ける壁部90a,91aから壁部90b,91bまで熱が伝導される。したがって、第1内側流路80を通流する冷却液に効率よく熱伝達される。このように構成されたシールド構造体40Fが組み込まれたX線発生装置10でも同様の効果を得ることができる。
【0058】
図11は本発明の第2の実施の形態に係るX線発生装置に組み込まれるシールド構造体100の要部を示す断面図である。
【0059】
シールド構造体100は、銅材製の本体101を備えており、この本体101の内部には内側流路102及び外側流路103が設けられている。内側流路102を構成する壁面101aの一部は切欠されオースチナイト系ステンレス鋼材(SUS304)製の板材104がろう付けにより接合されている。なお、銅は高熱伝導率(384W/mK)である第2の材料であり、SUS304は低熱伝導率(15W/mK)である第1の材料である。
【0060】
図12の(a),(b)は本実施の形態に係るシールド構造体100の作用を説明するための図である。すなわち、図12の(a)は単一の材料(銅)により形成されている場合を示している。すなわち、X線発生装置の熱負荷がさらに大きくなり、内壁の熱流束が増大した場合、バーンアウト現象を避けるために冷却液の質量流量をより大きくする必要がある。しかし、この方法には限界がある。第1の限界は流量増大に伴う圧力損失の増大である。また、第2の限界は質量流量を増大しても冷却能力が頭打ちになる現象である。このため、内壁の熱流束が非常に大きい場合、どれだけ多くの冷却液を流しても、膜沸騰状態が形成され、熱流束が集中する部位Hにおいてバーンアウト現象が発生する。
【0061】
図12の(b)は熱流束が集中する部位HにSUS304製の板材104を配置する。これにより、熱は熱伝導率の小さなステンレス鋼を迂回して流れるから、熱流束を分散することができる。このため、バーンアウト現象の発生を防止することができる。
【0062】
本実施の形態に係るX線発生装置によれば、より大きい出力を有する場合であっても連続稼動が可能となるとともに、装置の寿命を延ばすことができる。
【0063】
なお、第1の材料としてオーステナイト系ステンレス鋼、第2の材料として銅を用いて説明したが、熱伝導率の大きな材料と小さな材料の組み合わせなら、どのような材料を用いてもよい。
【0064】
図13はシールド構造体100の変形例に係るシールド構造体110を示す要部断面図である。シールド構造体110は、銅材製の本体101を備えており、この本体101の内部には並行して設けられる2段構造の内側流路102a,102b及び外側流路103が設けられている。内側流路102a,102bを構成する壁面101aの一部は切欠されオースチナイト系ステンレス鋼材(SUS304)製の板材104a,104bがろう付けにより接合されている。本変形例においても同様の効果が得られる。
【0065】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。例えば、接合方法としてろう付けを例示したが、熱が十分に伝導させることができるものであれば、電子ビーム溶接や固相拡散接合等の他の接合方法でもよい。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るX線発生装置を示す断面図。
【図2】同X線発生装置に組み込まれたシールド構造体を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中X−X線で切断して矢印方向に見た断面図。
【図3】同シールド構造体内部の冷却液の流れのシミュレーションを示す説明図。
【図4】同シールド構造体の第1変形例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中X−X線で切断して矢印方向に見た断面図。
【図5】同シールド構造体の第2変形例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中X−X線で切断して矢印方向に見た断面図。
【図6】同シールド構造体の第3変形例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中X−X線で切断して矢印方向に見た断面図。
【図7】同シールド構造体の第4変形例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中X−X線で切断して矢印方向に見た断面図。
【図8】同シールド構造体の第5変形例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中X−X線で切断して矢印方向に見た断面図。
【図9】同シールド構造体の第6変形例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中X−X線で切断して矢印方向に見た断面図。
【図10】同シールド構造体を示す分解斜視図。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係るX線発生装置に組み込まれたシールド構造体の要部を示す断面図。
【図12】同シールド構造体の作用を示す説明図。
【図13】同シールド構造体の変形例を示す断面図。
【図14】従来のX線発生装置の要部を示す断面図。
【図15】同X線発生装置に組み込まれたシールド構造体を示す図。
【符号の説明】
【0067】
10…X線発生装置、12…真空容器、20…電子銃、30…陽極部、40…シールド構造体、44…内側流路、45…外側流路、50…冷却循環系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極ターゲットと、
この陽極ターゲットに電子ビームを照射する電子銃と、
上記陽極ターゲットと上記電子銃との間に配置されたシールド構造体と、
このシールド構造体内部に冷媒を循環させる冷却液循環部とを備え、
上記シールド構造体は、上記電子ビームが通過する開口部を有するとともに、上記陽極ターゲットにて発生した電子を捕獲するボディ部と、
このボディ部内部に形成され、上記開口部に隣接する内周部に設けられるとともに上記冷却液循環部から冷却液が導入される導入口を有する内側流路と、
この内側流路の前記開口部側からみて外周側に壁面を介して設けられるとともに、上記内側流路を通過した上記冷却液が導入され、上記冷却液が上記冷却液循環部へ排出される排出口を有する外側流路とを具備し、
上記内側流路は、上記陽極ターゲット側から上記電子銃側にかけて複数の流路に分割されていることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
陽極ターゲットと、
この陽極ターゲットに電子ビームを照射する電子銃と、
上記陽極ターゲットと上記電子銃との間に配置されたシールド構造体と、
このシールド構造体内部に冷媒を循環させる冷却液循環部とを備え、
上記シールド構造体は、上記電子ビームが通過する開口部を有するとともに、上記陽極ターゲットにて発生した電子を捕獲するボディ部と、
このボディ部内部に形成され、上記開口部に隣接する内周部に設けられるとともに上記冷却液循環部から冷却液が導入される導入口を有する内側流路と、
この内側流路の前記開口部側からみて外周側に壁面を介して設けられるとともに、上記内側流路を通過した上記冷却液が導入され、上記冷却液が上記冷却液循環部へ排出される排出口を有する外側流路とを具備し、
上記シールド構造体は、熱負荷が集中する部分に所定の熱伝導率を有する第1の材料を使用し、それ以外の部分に上記第1の材料よりも高い熱伝導率を有する第2の材料を使用したことを特徴とするX線発生装置。
【請求項3】
上記第1の材料はステンレス鋼であり、上記第2の材料は銅又はタングステンの少なくとも一方であることを特徴とする請求項2に記載のX線発生装置。
【請求項4】
上記外側流路の断面積は上記内側流路の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のX線発生装置。
【請求項5】
上記内側流路と上記外側流路とは、接続口により接続されるとともに、この接続口は上記内側流路における上記導入口に対して最下流側に設けられ、かつ、上記外側流路における上記排出口に対して最上流側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のX線発生装置。
【請求項6】
上記内側流路の外周側で、かつ、上記外側流路の内周側に上記内側流路及び上記外側流路と壁面を介して設けられるとともに、上記内側流路を通過した上記冷却液が導入され、かつ、上記外側流路にその内部を通過した冷却液を供給する中間流路が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のX線発生装置。
【請求項7】
上記シールド構造体は、上記内側流路又は外側流路の内壁面に凹凸部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のX線発生装置。
【請求項8】
上記内側流路又は上記外側流路には、整流板が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のX線発生装置。
【請求項9】
上記内側流路と上記外側流路の断面積の比は、1:4〜1:7であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−128137(P2006−128137A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340272(P2005−340272)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【分割の表示】特願2001−335843(P2001−335843)の分割
【原出願日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】