説明

X線管およびX線撮影装置

【課題】X線管のブッシングにおいて、レセプタクルとプラグの間での部分放電を防止するとともに、陰極および絶縁体の過熱を防止する。
【解決手段】ブッシングを有する陰極と、陽極とを備えるX線管であって、ブッシングは、フィラメント206が先端部に接続されたプラグ202と、プラグ202が挿入されるレセプタクル201と、絶縁性流体を注入する流体流入口218と、絶縁性流体を排出する流体排出口219と、絶縁性流体を流体流入口218からプラグ202の先端部まで到達させる流体流入流路216と、絶縁性流体をプラグ202の先端部から流体排出口219まで到達させる流体排出流路217を備える。流体流入流路216と流体排出流路217は、プラグ202とレセプタクル201との間に形成され、プラグ202の先端部で接続されている。さらに、ブッシングに絶縁性流体を循環させる絶縁性流体循環装置220を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影装置に用いられるX線管に係わり、特に陰極の絶縁技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管を搭載するX線撮影装置の例として、医療用X線CT装置の説明をする。X線CT装置は、X線ビームを発生するX線管と、被検体を挟んでX線管に対向する位置に配置されたX線検出器(以下、「検出器」と呼ぶ)と、スキャナを備え、X線管から扇状のX線ビームを被検体に照射し、被検体を透過したX線を検出器で検出し、検出したX線のデータを画像処理して被検体の断層像を撮影するものである。検出器は、円弧状に配列された数百個以上の検出素子で構成され、検出素子の数に対応した数のX線通路が放射状に分布している。スキャナは、X線管、検出器、これらを搭載するスキャナ回転盤等により構成される。スキャナが被検体の周りを360度回転する時に、検出器は、一定角度ごとに被検体の透過X線を検出する。
【0003】
X線CT装置では、スキャナを回転しながらX線を連続的に発生させるため、X線管には高電圧かつ大電流を供給する必要がある。また、回転速度もますます高速化する傾向にある。
【0004】
このような高速回転型X線CT装置は、スキャナ1回転あたりでX線管の照射するX線量が少なくなってしまうため、撮影した画像のノイズが増大することがある。したがって、X線管の単位時間当たりのX線照射量を増やすため、X線管に供給する電力を増大させる必要がある。
【0005】
X線CT装置では、衝突した電子により陽極が加熱されるが、大電流化による過熱を抑制するため、陽極を冷却しやすい陽極接地型X線管が用いられている。陽極接地型X線管の例は、特許文献1に記載されている。
【0006】
また、X線CT用X線管のブッシングにおいて、レセプタクルとプラグの間に空気の隙間があると、部分放電が発生することがある。このような部分放電を防止するために、絶縁グリスをプラグとレセプタクルの間に隙間なく充填する必要がある。この方法としては、例えば、特許文献2に記載の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−266622号公報
【特許文献2】特開2003−7158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、近年のX線CT用X線管では、陽極を冷却しやすい陽極接地型X線管が用いられている。陽極接地型X線管では、陽極に衝突した電子が反射し、反射した電子が再び陰極に衝突することにより、陰極が加熱される。陽極接地型では、中性点接地型と比較して、陰極に戻る電子が多く、陰極および絶縁体が過熱する可能性がある。このような過熱は、絶縁グリスやゴム製のプラグの熱劣化を早め、絶縁信頼性を著しく悪化させる。したがって、陽極接地型X線管では、陰極絶縁部の過熱防止が課題となっている。
【0009】
本発明は、X線管のブッシングにおいて、レセプタクルとプラグの間での部分放電を防止するとともに、陰極および絶縁体の過熱を防止することを、解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、その手段を以下に記述する。
【0011】
第一の手段は、ブッシングとフィラメントを有する陰極と、陽極とを備え、前記陰極に高電圧が印加されると前記フィラメントから電子が放出され、この電子が前記陽極に当たることによりX線を発生するX線管であって、前記ブッシングは、前記フィラメントが先端部に接続されたプラグと、前記プラグが挿入されるレセプタクルと、絶縁性流体を注入する流体流入口と、前記絶縁性流体を排出する流体排出口と、前記プラグと前記レセプタクルとの間に形成され、前記絶縁性流体を前記流体流入口から前記プラグの先端部まで到達させる流体流入流路と、前記プラグと前記レセプタクルとの間に形成され、前記絶縁性流体を前記プラグの先端部から前記流体排出口まで到達させる流体排出流路とを備え、前記流体流入流路と前記流体排出流路とは、前記プラグの先端部で接続されていることを特徴とする。さらに、前記X線管は、前記ブッシングに前記絶縁性流体を循環させる絶縁性流体循環装置を備えることを特徴とする。
【0012】
第二の手段は、第一の手段におけるX線管であって、前記流体流入流路と前記流体排出流路は、らせん状に形成されていることを特徴とする。
【0013】
第三の手段は、第一の手段におけるX線管であって、前記流体流入流路と前記流体排出流路は、前記プラグの外表面にらせん状に設けた突起部により形成されることを特徴とする。
【0014】
第四の手段は、第一の手段におけるX線管であって、前記流体流入流路と前記流体排出流路は、前記レセプタクルの内表面にらせん状に設けた溝により形成されることを特徴とする。
【0015】
第五の手段は、第一から第四の手段のいずれか1つの手段におけるX線管であって、前記絶縁性流体は、絶縁性液体であることを特徴とする。
【0016】
第六の手段は、第一から第四の手段のいずれか1つの手段におけるX線管を備えることを特徴とするX線撮影装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ブッシングの陰極および絶縁体を冷却して過熱を防止できるとともに、プラグとレセプタクルの間での部分放電を防止できるため、絶縁信頼性の高いX線管およびX線撮影装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1におけるX線管のブッシングの断面図。
【図2】実施例1におけるX線管のブッシングの断面212における断面図。
【図3】実施例1におけるX線管のブッシングの断面213における断面図。
【図4】実施例2におけるX線管のブッシングの断面図。
【図5】実施例2におけるX線管のブッシングの断面213における断面図。
【図6】実施例3におけるX線管のブッシングの断面図。
【図7】実施例4におけるX線撮影装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、従来の典型的なブッシングの構造を説明する。ブッシングは、プラグとレセプタクルを備え、多芯ケーブルにより高電圧発生装置と接続される。
【0020】
多芯ケーブルは、高電圧が印加される2本の芯線と、外部導体と、芯線と外部導体とを絶縁する内部絶縁体と、外部導体をさらに外部と絶縁する外部絶縁体から構成される。ブッシングでは、外部導体は、電界緩和リングに接続される。電界緩和リングは、導電性ゴムからなる。内部絶縁体が露出された多芯ケーブルは、ゴムモールドにより、概ね円すい台の形状のプラグに形成される。
【0021】
プラグは、先端部にコネクタ電極が取り付けられている。コネクタ電極は、レセプタクルを貫通した導線を介して、フィラメントと接続されている。フィラメントの一端は、金属製の収束体と電気的に接続されている。
【0022】
レセプタクルは、プラグと密着接続できるように、内部空間の形状が概ね円すい台である。レセプタクルは、セラミックス等の絶縁体からなり、先端部にはフィラメントや収束体から構成される陰極が接続され、他端には接地電位である筐体が接続される。なお、筐体は、電界緩和リングを介して外部導体と電気的に接続されている。X線管の場合、筐体は真空容器も兼ねる。
【0023】
このような構成において、例えば、一方の芯線に−150kV、もう一方の芯線に−150kVに数十Vを足した電圧を印加すると、フィラメントが加熱され、陽極に向かって熱電子が放出される。
【0024】
このような構成のブッシングにおいて、電気絶縁の観点から重要な点は、レセプタクルとプラグの間に隙間ができないようにすることである。レセプタクルとプラグは、比誘電率が1以上の絶縁体で構成されている。例えば、レセプタクルの材料であるアルミナセラミックスは、比誘電率が9程度であり、プラグの材料であるゴムは、比誘電率が4程度である。このような構成で、レセプタクルとプラグの間に空気の隙間があった場合、この隙間に電界が集中し、部分放電が発生することがある。部分放電が発生した状態で時間が経過すると、隙間付近の絶縁体が劣化し、導通に至ることがある。
【0025】
本発明によるX線管では、絶縁性流体がブッシングのプラグとレセプタクルの間に設けた流路を流れることにより、陰極および絶縁体を冷却して過熱を防止する。さらに、プラグとレセプタクルの間を絶縁性流体で満たすことにより、プラグとレセプタクルの間での部分放電を防止する。
【0026】
以下の実施例では、本発明によるX線管を陽極接地型X線管に適用した場合、および本発明によるX線管を用いたX線撮影装置について述べる。本発明によるX線管は、陽極接地型X線管に限らず、中性点接地型X線管やその他のX線管にも適用可能である。
【0027】
絶縁性流体としては、絶縁性液体や気体を用いることができる。以下の実施例では、絶縁性流体として絶縁性液体を用いた例について述べる。絶縁性液体は絶縁性気体に比べ、絶縁性能が高く、部分放電を防止する効果が高い。
【実施例1】
【0028】
本発明によるX線管の第一の実施形態を、図1〜3を用いて説明する。図1は、本実施例におけるX線管のブッシングの断面図である。図2は、図1の断面212における断面図であり、図3は、断面213における断面図である。
【0029】
図1に示したブッシングについて説明する。ブッシングは、プラグ202とレセプタクル201を備え、多芯ケーブルにより高電圧発生装置(図示せず)と接続される。
【0030】
多芯ケーブルは、高電圧が印加される芯線204Aおよび204Bと、外部導体210と、芯線204Aおよび204Bと外部導体210とを絶縁する内部絶縁体203と、外部導体210をさらに外部と絶縁する外部絶縁体211から構成される。ブッシングでは、外部導体210は、電界緩和リング209に接続される。
【0031】
電界緩和リング209は、導電性ゴム、またはその他の導電性材料から構成することができる。レセプタクル201およびプラグ202の体積抵抗率のうち、低い方の1/10以下の体積抵抗率を有する物質で構成されていればよい。
【0032】
内部絶縁体203が露出された多芯ケーブルは、ゴムモールドにより、概ね円すい台の形状のプラグ202に形成される。
【0033】
プラグ202は、ゴム製でなくてもよく、エポキシ、ポリエチレン等を主成分とする絶縁性有機材料や、アルミナセラミックス等を主成分とする絶縁性無機材料で構成されても構わない。プラグ202の先端部には、コネクタ電極205Aおよび205Bが取り付けられている。コネクタ電極205Aおよび205Bは、レセプタクル201を貫通した導線を介して、フィラメント206と接続されている。したがって、プラグ202の先端部には、コネクタ電極205Aおよび205Bや導線を介して、フィラメント206が接続されている。フィラメント206の一端は、金属製の収束体207と電気的に接続されている。
【0034】
レセプタクル201は、プラグ202を挿入できるように、内部空間の形状が概ね円すい台である。プラグ202とレセプタクル201の間には、絶縁性液体を流すことができる流体流入流路216と流体排出流路217が設けてある。絶縁性液体は、ブッシング外部に設けた絶縁性流体循環装置220から供給される。流体流入流路216と流体排出流路217は、プラグ202の先端部で接続されている。したがって、絶縁性液体は、流体流入流路216から、プラグ202の先端部を経由して、流体排出流路217へと流れる。
【0035】
図3に示した断面図のように、流体流入流路216と流体排出流路217の間は、プラグ202の突起部230で隔てられている。突起部230は、レセプタクル201と密着する。突起部230は、突起部230の頂部でレセプタクル201と接触し、レセプタクル201との接触面積を減らすことで、接触部分で気泡等が形成されるのを防止しながら、流路を形成するものである。
【0036】
図1に戻って説明を続ける。レセプタクル201は、セラミックス等の絶縁体からなり、先端部にはフィラメント206や収束体207から構成される陰極が接続され、他端には接地電位である筐体208が接続される。レセプタクル201は、アルミナセラミックス等を主成分とする絶縁性無機材料から構成するのが望ましいが、エポキシ、ポリエチレン等を主成分とする絶縁性有機材料から構成しても構わない。
【0037】
筐体208は、電界緩和リング209を介して外部導体210と電気的に接続されている。X線管の場合、筐体208は真空容器も兼ねる。
【0038】
図2に示した断面図のように、電界緩和リング209には、流体流入穴214と流体排出穴215が設けられている。また、図1に示したように、ブッシングには、流体流入口218と流体排出口219が設けられている。流体流入口218と流体排出口219は、絶縁性流体循環装置220と接続されている。流体流入流路216と流体排出流路217は、それぞれ流体流入穴214と流体排出穴215を介して、流体流入口218と流体排出口219と通じている。
【0039】
このような構造により、絶縁性流体循環装置220から供給される絶縁性液体は、流体流入口218、流体流入穴214、流体流入流路216、プラグ202の先端部、流体排出流路217、流体排出穴215、流体排出口219の順に流れる。本実施例では、流体流入流路216と流体排出流路217は、ほぼプラグ202の表面に沿って、ほぼ直線的にプラグ202の先端部と他端部を結ぶように設けられている。
【0040】
絶縁性液体は、鉱油を主成分とする絶縁油、アルキルベンゼンを主成分とする絶縁油、ポリブテンを主成分とする絶縁油、アルキルナフタレンを主成分とする絶縁油、アルキルジフェニルアルカンを主成分とする絶縁油、シリコーン油を主成分とする絶縁油、植物または動物由来の油、クロロフルオロカーボンを主成分とする液体、フルオロカーボンを主成分とする液体、ハイドロクロロフルオロカーボンを主成分とする液体、ハイドロフルオロカーボンを主成分とする液体、ハロンを主成分とする液体、および水の中から選んだ液体を使用するのが望ましい。または、上記の液体の混合物でもよい。このような絶縁性液体を絶縁性流体として用いると、取り扱いが簡単であることに加えて、プラグ202とレセプタクル201の間での安定した部分放電防止性能を得ることができる。
【0041】
また、以上の説明では、プラグ202とレセプタクル201の間に絶縁性液体を流すとしてきたが、本発明によるX線管では、プラグ202とレセプタクル201の間での部分放電を防止し得るものであれば液体でなくてもよく、外部から供給される気体を流してもよい。流す気体としては、例えば、空気、窒素、六フッ化硫黄、酸素、二酸化炭素等が挙げられるが、このような気体を用いるのであれば、部分放電を防止するために絶縁耐圧を向上させた高圧状態で用いるのがよい。また、上記の液体を気化したものから選んだ気体を流してもよい。以後では、引き続き、代表して絶縁性液体を流すものとして説明する。
【0042】
絶縁性液体は、ブッシング外部に設けた絶縁性流体循環装置220により、ブッシングに対して流入および排出させることができる。また、絶縁性流体循環装置220には、流体を循環させる機能と流体を冷却する機能を有することが望ましい。絶縁性流体循環装置220としては、陽極や高電圧電源を冷却するためにX線撮影装置に搭載される流体循環装置を兼用して用いてもよい。この場合、循環する流体の一部または全部をブッシングに供給する構造にしてもよい。
【0043】
本実施例のようなX線管のブッシングの構成では、絶縁性液体がプラグ202とレセプタクル201の間に設けた流路を流れることにより、陰極および絶縁体を冷却して過熱を防止することができる。さらに、プラグ202とレセプタクル201の間を絶縁性液体で満たすことにより、プラグ202とレセプタクル201の間での部分放電を防止することができる。
【実施例2】
【0044】
本発明によるX線管の第二の実施形態を、図4、5を用いて説明する。図4は、本実施例におけるX線管のブッシングの断面図である。図4において、図1と同一の符号は、図1に示したブッシングと同一または共通する構成要素を示す。図5は、断面213における断面図である。
【0045】
本実施例におけるX線管のブッシングは、実施例1でのブッシングと類似の構成をとるので、以下では、実施例1のブッシングと異なる部分についてのみ説明する。
【0046】
図4に示すように、本実施例でのブッシングは、実施例1のブッシング(図1)と同様に、プラグ202とレセプタクル201の間には、絶縁性流体循環装置220から供給される絶縁性液体を流すことができる流体流入流路216と流体排出流路217が設けてある。流体流入流路216と流体排出流路217は、プラグ202の先端部で接続されている。したがって、絶縁性液体は、流体流入流路216から、プラグ202の先端部を経由して、流体排出流路217へと流れる。
【0047】
本実施例では、流体流入流路216と流体排出流路217は、概ね円すい台形状のプラグ202の外表面に沿って、二重らせん形状で、プラグ202の先端部と他端部を結ぶように設けられている。
【0048】
図5に示した断面図のように、流体流入流路216と流体排出流路217の間はプラグ202の突起部230で隔てられている。突起部230は、レセプタクル201と密着する。なお、本実施例では、突起部230は、プラグ202の外表面に、二重らせん形状で設けられており、らせん形状の流体流入流路216とらせん形状の流体排出流路217によって二重らせんを形成している。
【0049】
図4の断面212における断面は、図2の断面図に示した断面と同様の形状であり、電界緩和リング209には、流体流入穴214と流体排出穴215が設けられている。また、図4に示したように、ブッシングには、流体流入口218と流体排出口219が設けられている。流体流入口218と流体排出口219は、絶縁性流体循環装置220と接続されている。流体流入流路216と流体排出流路217は、それぞれ流体流入穴214と流体排出穴215を介して、流体流入口218と流体排出口219と通じている。
【0050】
このような構造により、絶縁性流体循環装置220から供給される絶縁性液体は、流体流入口218、流体流入穴214、流体流入流路216、プラグ202の先端部、流体排出流路217、流体排出穴215、流体排出口219の順に流れる。上述したように、本実施例では、絶縁性液体は、概ね円すい台形状のプラグ202の外表面を、らせん形状の流体流入流路216とらせん形状の流体排出流路217によって形成された二重らせん形状の流路に沿って流れる。
【0051】
絶縁性液体には、実施例1と同様なものを用いることができる。絶縁性液体に替えて気体を流してもよいのも、実施例1と同様である。
【0052】
本実施例のようなX線管のブッシングの構成では、絶縁性液体は、二重らせん状の流路のうち、1本の流路(流体流入流路216)を通って流体流入口218からプラグ202の先端部まで到達し、もう1本の流路(流体排出流路217)を通って流体排出口219から排出される。したがって、陰極および絶縁体と絶縁性液体との間で効率よく熱交換することが可能であり、実施例1以上に陰極および絶縁体の冷却には効果がある。また、絶縁性液体の流路を二重らせん形状とすることにより、絶縁性液体が滞留する部分がなくなり、放電の原因となる気泡が効率的に排出され、絶縁性液体の不均一部分を効果的に減らすことが可能である。さらに、レセプタクル201に共通の部品を使用することが可能である。
【実施例3】
【0053】
本発明によるX線管の第三の実施形態を、図6を用いて説明する。図6は、本実施例におけるX線管のブッシングの断面図である。図6において、図1と同一の符号は、図1に示したブッシングと同一または共通する構成要素を示す。
【0054】
本実施例におけるX線管のブッシングは、実施例2でのブッシングと類似の構成をとるので、以下では、実施例2のブッシングと異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
本実施例でのブッシングは、実施例2におけるブッシングと同様に、流体流入流路216と流体排出流路217は、概ね円すい台形状のプラグ202の表面に沿って、二重らせん形状で、プラグ202の先端部と他端部を結ぶように設けられている。実施例2のブッシングと異なる点は、流体流入流路216と流体排出流路217は、レセプタクル201の内表面に設けられた溝により形成されている点である。すなわち、レセプタクル201の内表面には、二重らせん形状に溝が形成され、この溝を絶縁性液体が流れて、陰極および絶縁体を冷却する。
【0056】
本実施例のようなX線管のブッシングの構成では、実施例2と同等の効果を得ることができる。さらに、レセプタクル201の内表面に絶縁性流体の流路を設けるので、発熱量の異なる仕様のX線管については、レセプタクル201の流路構造を変更するだけでよく、プラグ202には共通の部品を使用することが可能である。
【実施例4】
【0057】
本発明によるX線管を用いたX線撮影装置の実施形態を、図7を用いて説明する。図7は、本実施例におけるX線撮影装置の構成図である。
【0058】
商用電源1から電力の供給を受けた周波数変換器2は、高周波交流を出力する。周波数変換器2が出力した高周波交流は、電力伝達用ブラシ3に送られる。電力伝達用ブラシ3は、スキャナ回転盤4に固定された電力伝達用スリップリング5と接触しており、スキャナ回転盤4が回転していても電気的に導通している。電力伝達用スリップリング5は、高電圧発生装置6に接続されており、高電圧発生装置6にて、高周波交流は高電圧直流に変換される。X線管7は、高電圧直流の供給を受け、内部で電子ビームを発生し、電子ビームがターゲットに当たり、X線ビーム8を発生する。X線ビーム8は、寝台9に載った被検体10を透過し、X線ビーム8の強度は、検出器11で電気信号に変換される。この電気信号は、データ収集システム12でデジタル信号に変換され、データ伝達用スリップリング13とデータ伝達用ブラシ14を介して画像再構成装置15に送られる。画像再構成装置15は、得られたX線強度のデータを基に画像を再構成して、被検体10の断層像データを出力する。断層像データは、コンピュータ16に送られる。コンピュータ16は、画像表示装置17に被検体10の断層像を表示し、断層像データを画像記録装置18に記憶することができる。
【0059】
X線管7は、実施例1、実施例2、または実施例3に示したブッシングを適用したものであり、絶縁性液体を循環させる絶縁性流体循環装置220が接続されている。絶縁性流体循環装置220は、実施例1〜3における絶縁性流体循環装置220と同じ役割を果たす。
【0060】
絶縁性流体循環装置220は、スキャナ回転盤4に搭載され、X線管7、高電圧発生装置6等と同様に、被検体10の周囲を回転することが望ましい。絶縁性流体循環装置220を運転するのに電力が必要である場合は、図7に示していないが、電力伝達用スリップリング5や別途設けたスリップリングを介して電力を供給することが望ましい。
【0061】
本実施例のようなX線撮影装置の構成では、実施例1、実施例2、または実施例3におけるX線管を搭載しているので、X線管の陰極および絶縁体の冷却と絶縁信頼性とを同時に向上でき、さらにはX線撮影装置の全体の信頼性を確保できる。
【符号の説明】
【0062】
1…商用電源、2…周波数変換器、3…電力伝達用ブラシ、4…スキャナ回転盤、5…電力伝達用スリップリング、6…高電圧発生装置、7…X線管、8…X線ビーム、9…寝台、10…被検体、11…検出器、12…データ収集システム、13…データ伝達用スリップリング、14…データ伝達用ブラシ、15…画像再構成装置、16…コンピュータ、17…画像表示装置、18…画像記録装置、101…陰極、102…陽極、103…ロータ、104…ステータ、105…絶縁体、106…筐体、201…レセプタクル、202…プラグ、203…内部絶縁体、204A,204B…芯線、205A,205B…コネクタ電極、206…フィラメント、207…収束体、208…筐体、209…電界緩和リング、210…外部導体、211…外部絶縁体、212,213…断面、214…流体流入穴、215…流体排出穴、216…流体流入流路、217…流体排出流路、218…流体流入口、219…流体排出口、220…絶縁性流体循環装置、230…突起部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブッシングとフィラメントを有する陰極と、陽極とを備え、前記陰極に高電圧が印加されると前記フィラメントから電子が放出され、この電子が前記陽極に当たることによりX線を発生するX線管であって、
前記ブッシングは、
前記フィラメントが先端部に接続されたプラグと、
前記プラグが挿入されるレセプタクルと、
絶縁性流体を注入する流体流入口と、
前記絶縁性流体を排出する流体排出口と、
前記プラグと前記レセプタクルとの間に形成され、前記絶縁性流体を前記流体流入口から前記プラグの先端部まで到達させる流体流入流路と、
前記プラグと前記レセプタクルとの間に形成され、前記絶縁性流体を前記プラグの先端部から前記流体排出口まで到達させる流体排出流路と、を備え、
前記流体流入流路と前記流体排出流路とは、前記プラグの先端部で接続されており、
かつ、前記ブッシングに前記絶縁性流体を循環させる絶縁性流体循環装置を備える、
ことを特徴とするX線管。
【請求項2】
請求項1記載のX線管であって、前記流体流入流路と前記流体排出流路は、らせん状に形成されているX線管。
【請求項3】
請求項1記載のX線管であって、前記流体流入流路と前記流体排出流路は、前記プラグの外表面にらせん状に設けた突起部により形成されるX線管。
【請求項4】
請求項1記載のX線管であって、前記流体流入流路と前記流体排出流路は、前記レセプタクルの内表面にらせん状に設けた溝により形成されるX線管。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のX線管であって、前記絶縁性流体は、絶縁性液体であるX線管。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載のX線管を備えることを特徴とするX線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−3995(P2012−3995A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138830(P2010−138830)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】