説明

X線管装置及びX線装置

【課題】 微小焦点を有しながら一般撮影が可能となるよう大電流を供給しても焦点ズレを生じるおそれが少ないX線管装置を提供する。
【解決手段】 X線管装置1は、X線管4を包含するX線管容器2を備えている。X線管4は、電子を放出する3つの電子発生源446〜448及び電子発生源から放出された電子を細いビーム状の電子線に集束させる集束体442及び集束電極449を含む陰極44と、陰極と対向して配置され、その対向面上に電子線が衝突してX線を放射するX線源を形成するターゲット462を有する陽極46と、陰極及び陽極を真空気密に封入する外囲器42とを有する。2つの電子発生源446,448によりターゲット462上に大焦点用のX線源を形成するとともに、1つの電子発生源445によりターゲット上に微小焦点用のX線源を形成するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線管装置及びX線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管装置は、被検体の検査または診断を行うX線装置に搭載され用いられている。X線装置による検査または診断は、まずX線管装置でX線を発生させ、その発生したX線を被検体に照射し、被検体を透過したX線の線量を測定し、その測定線量に基づいてX線画像を作成することにより行われる。
【0003】
X線管装置を搭載したX線装置は、医療の分野ではX線透視装置やX線撮影装置などに、また工業用の分野では種々の製品の欠陥検査や異物検査などに広く利用されている。
【0004】
このようなX線管装置では、被検体内の検査対象物が微小な場合に、良い検査または診断を行う為には検査対象物の出来るだけ拡大された像を得ることが望ましい。そのためには、X線管装置またはそれを内挿するX線発生装置において、X線の発生領域であるX線源(焦点ともいう。)の大きさを出来るだけ小さくする必要があり、これに伴い微小焦点を有するX線管装置の需要が高まっている。
【0005】
従来のX線管装置は、大きさが異なる焦点を陽極上に形成する構造をとっている。X線量の少ない透視撮影の場合には小焦点を利用し、X線量の多い一般撮影では大焦点が利用される。一般撮影では透視撮影と比べ大電流が必要となる。
【0006】
微小焦点を有するX線管装置の場合、極めて小さい焦点を得る為の電子集束方法としては、複数の電極を用いて電子レンズ(以下「集束電極」という。)を形成し、電子ビームを集束させる方法が知られている。この構造をとることにより小焦点は更に小さい微小焦点を形成することが可能となる。
【0007】
しかし、複数の焦点をもつX線管装置は、X線量が相違する透視撮影から一般撮影に切り替わる場合、またその逆の場合など焦点が切り替わる。その際に被検体の撮影位置のズレを小さくする必要があり、そのため集束溝の形状を変えることで焦点のずれを小さくする方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−135265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来手法では、集束電極による一般撮影における大焦点の焦点ズレを防ぐことは難しい。
【0010】
微小焦点を有するX線管装置において透視撮影のみでは汎用性に欠けてしまうため、一般撮影も可能なX線管装置が望ましい。透視撮影と一般撮影では線量が異なる為に透視撮影の数倍の電流が一般撮影では必要となる。透視用のフィラメントは通常、大電流に耐えうるほどの線径や巻き数を有していないため一般撮影に使用することは出来ない。このため、透視用のフィラメントの他に、一般撮影のフィラメントが必要になる。しかしながら、透視用フィラメントと一般撮影用フィラメントをそれぞれ単一で配置した場合、透視撮影を行う際の微小焦点を形成するための集束電極が、一般撮影を行う際に大焦点の焦点ズレを引き起こしてしまい、微小焦点と大焦点の位置が変わり、撮影に支障を帰す。
【0011】
発明が解決しようとする課題は、微小焦点を有しながら一般撮影が可能となるよう大電流を供給しても焦点ズレを生じるおそれが少ないX線管装置と、この装置を含むX線装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、以下の解決手段によって上記課題を解決する。なお、下記解決手段では、発明の実施形態を示す図面に対応する符号を付して説明するが、この符号は発明の理解を容易にするためだけのものであって発明を限定する趣旨ではない。
【0013】
発明に係るX線管装置(1,1a,1b,1c)は、X線管(4)を含むX線管容器(2)を備えたX線管装置において、
X線管(4)は、電子を放出する3つ以上の電子発生源(446〜448)及び電子発生源から放出された電子を細いビーム状の電子線に集束させる集束系(442,442a,442b,449,449a)を含む陰極(44,44a)と、
陰極と対向して配置され、その対向面上に電子線が衝突してX線を放射するX線源を形成するターゲット(462)を有する陽極(46)と、
陰極及び陽極を真空気密に封入する外囲器(42)とを有し、
2つ以上の電子発生源(446,448)によりターゲット上に大焦点用のX線源を形成するとともに、1つ以上の電子発生源(447)によりターゲット上に微小焦点用のX線源を形成するように構成したことを特徴とする。
【0014】
第1の観点では、陰極(44)の集束系は、
陽極(46)に対して後方に凹む集束溝(443〜445)が電子発生源の数と同一数だけ形成された集束体(442)と、
この集束体の陽極側端に接続された集束電極(449)を有し、
複数の集束溝のうち中央側の溝(444)には、微小焦点を形成するための第1のカソード(447)が配置してあり、中央側の溝を挟んで対称となる位置の溝(443,445)には、大焦点を形成するための第2のカソード(446,448)がそれぞれ配置してあることを特徴とする。
【0015】
第2の観点では、陰極(44a)の集束系は、
陽極(46)に対して後方に凹む単一の集束溝が形成された第1の集束体(442a)と、
第1の集束体の陽極側端に接続された集束電極(449a)と、
陽極(46)に対して後方に凹む複数の集束溝が形成された第2の集束体(442b)とを有し、
第1の集束体に形成された単一の溝には、微小焦点を形成するための第1のカソード(447)が配置してあり、第2の集束体に形成された複数の溝には、それぞれ大焦点を形成するための第2のカソード(446,448)が配置してあることを特徴とする。
【0016】
発明に係るX線装置は、何れかのX線管装置(1,1a,1b,1c)を搭載してなる。
【発明の効果】
【0017】
上記発明によれば、複数の電子発生源によりX線源を形成するように構成されているので、一般撮影に必要な大電流を可能にすべくこの複数の電子発生源で形成されるX線源を大焦点用に利用し、残りの電子発生源で形成されるX線源を微小焦点用に利用することにより、両焦点における焦点ズレの発生を防止することができる。
【0018】
大焦点用の電子発生源を複数備えることで、陽極上の大焦点用と微小焦点用の両X線源の焦点ズレを防止できるのは、陽極に向けて陰極の複数方向から電子ビームが衝突してくることにより、陽極における大焦点用の焦点軌道の偏りが防止され、微小焦点用の焦点軌道の中心付近に大焦点用の焦点軌道がオーバーラップする領域Aを作ることができることによるものと思われる(図6参照)。図6に示すように、領域Aの中心点が大焦点の焦点面の中心Cb1となり、これは微小焦点の焦点面の中心Cs1と一致することとなり、焦点ズレが防止される。
【0019】
上記発明によれば、微小焦点を有するX線管において一般撮影を行う為の大電流を流すことが可能となり、焦点ズレも小さいので、汎用性の高いX線管を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の一例に係るX線管装置を示す概略図である。
【図2】図2は図1のX線管装置に使用されるX線管を構成する陰極付近を示す要部拡大図である。
【図3】図3は図2の要部断面図である。
【図4】図4は図3をIV方向から見た場合の陰極付近を示す図である。
【図5】図5は図2〜図4の陰極を用いた場合の電子軌道図である。
【図6】図6は図3をVI方向から見た場合のターゲット傾斜面(焦点面)の各焦点の焦点軌道を説明する図である。
【図7】図7は従来構成の陰極を用いた場合の図6に相当する説明図である。
【図8】図8は本発明の他の例に係るX線管装置を示す概略図である。
【図9】図9は図8をIX方向から見た場合の陰極付近を示す図である。
【図10】図10は図8をX方向から見た場合の平面図である。
【図11】図11は図8をXI方向から見た場合の左側面図である。
【図12】図12は本発明の他の例に係るX線管装置を示す概略図である。
【図13】図13は本発明の他の例に係るX線管装置を示す概略図である。
【図14】図14は本発明の他の例に係るX線管装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態に係るX線管装置を図面に基づいて説明する。
【0022】
《第1実施形態》
図1に示すように、本実施形態に係るX線管装置1は、略円筒状の中空体である筐体2を有する。筐体2(X線管容器)は、直方体状または円筒形状をしており、鋼板やアルミニウム合金鋳物などで構成される。本実施形態では、筐体2には、所定強度のX線を所定方向に向けて放射可能なX線管4と、このX線管4の陽極46と陰極44との間に高電圧のX線管電圧を供給する高電圧電源(図示省略)と、X線管4の陰極44にカソードヒータの加熱電圧、その他各種電圧を供給する陰極電源(図示省略)と、X線管4の陽極を回転させるためのステータ6と、ステータ6を駆動するためのステータ電源(図示省略)と、X線管4をその内壁などに支持するためのX線管支持体(図示省略)と、X線管4や高電圧電源などを絶縁し冷却するために充填される絶縁油(図示省略)と、この絶縁油の膨張や収縮を緩衝するために取り付けられるベローズ(図示省略)などが収容されている。筐体2の円筒側面には、これに直接または近接してX線管4の放射窓43が配置されるように寸法調整されている。なお、筐体2の内壁面の少なくともX線管4に近接する部分には、防X線処置が施されている。
【0023】
ステータ6は、X線管4の一構成部材である陽極46のロータ464の外周付近に配置され、X線管支持体に支持されている。
【0024】
高電圧電源は、変圧器と整流回路などで構成され、X線管4の陽極46に供給する正電位の高電圧と陰極44に供給する負電位の高電圧を生成する。
【0025】
陰極電源は、陰極44のカソード(後述)のヒータを加熱するためのカソードヒータ電源(図示省略)や電圧電源などを含む。カソードヒータ電源は変圧器などで構成され、電圧電源は変圧器と整流回路、あるいは変圧器と整流回路と電圧調整回路などで構成される。陰極電源からの出力電圧は負の高電位に保持されるので、ここで使用される変圧器としては、通常、絶縁変圧器が用いられる。
【0026】
高電圧電源で生成した高電圧(X線管電圧)は高圧リード線(図示省略)によりX線管4の陽極46と陰極44に供給され、陰極電源で生成した各種電圧は高電圧電源からの負電位の高電圧と共に高圧リード線によりX線管4の陰極44に供給される。
【0027】
ステータ電源は、ステータ6の種別(単相か3相かなど)によりその構成は異なるが、例えば単相の場合には進相用コンデンサなどで構成される。ステータ電源からの出力電圧は低電圧であるので、低圧リード線(図示省略)を介してステータ6に供給される。
【0028】
ベローズは、例えば椀形の形状を持ち、ゴムなどで構成され、筐体2の内壁面に油密に取り付けられて絶縁油の膨張、収縮を緩衝する。
【0029】
なお、上記説明では、高電圧電源、陰極電源及びステータ電源を筐体2内に含める構成としたが、これらの電源の一部または全部は筐体2の外部に配置してもよい。その場合、高電圧を筐体2内に導入するための高電圧ケーブルやケーブルレセプタクルなどが必要となる。
【0030】
本実施形態に係るX線管4は、陰極44と、回転陽極(以下、陽極と略称する)46と、陰極44と陽極46を真空気密に内包し、絶縁支持する外囲器42とを含む。
【0031】
本実施形態の陰極44は、焦点寸法が例えば0.1mm未満の微小焦点(マイクロフォーカス)と、焦点寸法が例えば0.3mm超の大焦点との、各焦点を形成するためにビーム状の電子線(以下「電子ビーム」ともいう。)を生成し、この電子線を陽極46の円盤状のターゲット462の傾斜面462aに衝突させて所定波長のX線を発生させる。X線は外囲器42に設けられた開口(図示省略)から外囲器42の外部へ放射される。陰極44の詳細構造は後述する。
【0032】
陽極46は、本実施形態では回転陽極で構成されており、円盤状のターゲット462と、このターゲット462を支持するロータ464と、ロータ464を支持する回転軸(図示省略。ロータ464の内側に含まれている)と、回転軸を回転自在に支持する軸受(図示省略。ロータ464の内側に含まれている)と、軸受の外輪を固定する固定部(図示省略。ロータ464のターゲット462とは反対側の端部に接続されている)などで構成されている。軸受けとしては、玉軸受、すべり軸受、流体軸受などが使用可能である。
【0033】
ロータ464は、ステータ6からの回転磁界を受けて回転駆動力を発生する。
【0034】
ターゲット462は、傘型の円盤状をしており、通常、タングステンやタングステン合金などの高原子番号で高融点の金属材料で構成される。ターゲット462の熱容量が大きい場合には、ターゲット462の軽量化のために、X線の発生源となる傾斜面462aの表面層以外の部分は、比熱の大きい高融点の、金属材料(モリブデンなど)や非金属材料(グラファイトなど)に置換される場合もある。ターゲット462は、陽極46の中心軸mを回転中心軸として回転する。ターゲット462の傾斜面(焦点面とも言う。)462aに陰極44からの電子線が衝突すると、その衝突部分がX線源(焦点)となり、その焦点からX線が放射される。この焦点は、ターゲット462が回転しているため、逐次回転移動し、全体とし円軌道を形成する。この円軌道は焦点軌道10(図6,7参照)と呼ばれる。
【0035】
外囲器42は、陽極46のターゲット462及び陰極44を囲む大径部422と、陽極46の陽極端424を絶縁支持する陽極絶縁部426などで構成されている。大径部422の陰極44を囲む部分は、陰極44を絶縁支持する陰極絶縁部を含む。大径部422は、円筒部422aを有し、例えばステンレス鋼や銅などの耐熱性が比較的高い金属材料などで構成される。円筒部422a側面におけるターゲット462上の焦点に近接する部分には、円形の開口(図示省略)が設けられ、この開口には放射窓43が取り付けられている。放射窓43はX線透過性のよいベリリウムなどで構成され、窓枠(図示省略)などを介して溶接またはろう付けによって前記開口に結合されている。この放射窓43は、上述したように、筐体2の円筒側面に直接または近接して配置されるように寸法調整されているため、発生したX線は、この放射窓43を通じて筐体2の外部へと放射される。
【0036】
陽極絶縁部426は、一端がコーン状に広がった円筒形状をしており、そのコーン状に広がった部分に円筒部422aの開口端部が接続されている。陽極絶縁部426は耐熱性ガラスやセラミックなどの絶縁材料で構成される。
【0037】
図1〜図4に示すように、陰極44は、その背面が支持部材48により支持されている。支持部材48は、円筒状で電気絶縁性の陰極保持体48aを有しており、この陰極保持体48aを介して外囲器42の内側の所定位置に陰極44が固定されている。
【0038】
本実施形態の陰極44は、熱電子を発生するカソード(電子発生源)と、発生した熱電子を集束させ、焦点を形成するための電子ビームとする集束系と、カソード及び集束系を絶縁支持し、両者に給電するための高圧リード線(前出。図示省略)を備えた支持部材48などで構成されている。
【0039】
支持部材48は、例えばガラスやセラミックなどの絶縁物で構成され、この絶縁物に給電用の高圧リード線が埋め込まれている。この支持部材48は、集束系としての集束体442を支持する部分と外囲器42と接続する部分とを有する。高圧リード線には外部電源(高電圧電源、陰極電源など)から陰極側の高電圧と、カソードヒータ(図示省略)を加熱するための電圧などが供給される。
【0040】
集束系の一つとしての集束体442は、カソード及び該カソードを加熱するヒータなどが封入されている。集束体442は、陽極46に対して後方(図2の上方)に凹む断面略矩形状の集束溝443〜445を複数(本実施形態では3つ)備えている。各集束溝443〜445には、それぞれ、高温に加熱された熱電子を発生、放出するカソードが配置してある。カソードとしては、例えばコイル状フィラメント、酸化物カソード、含浸型カソードなどが挙げられるが、本実施形態では、直熱型のコイル状フィラメントを用いる場合を例示する。各フィラメント446〜448を各集束溝443〜445の中に配置することで、高電圧電源(図示省略)から高電圧が印加され、加熱されたフィラメント446〜448で発生し陽極46へ向かう電子ビームの放射領域が制御される。
【0041】
集束体442の陽極46側には、もう一つの集束体としての集束電極449が接続されている。集束電極449は、図5に示すように、陽極46上の所定位置に各焦点(大焦点、微小焦点)を形成するための電界を作り出すことが可能な形状としてある。特に集束電極449は、透視撮影に用いられる微小焦点を形成するために有効なものとして使用される。
【0042】
図1〜図4に戻る。集束体442は例えば純鉄などで構成され、集束電極449は例えばステンレス鋼などの耐熱性金属で構成される。
【0043】
本実施形態では、各フィラメント446〜448が、一般撮影用の大焦点用フィラメントと、透視撮影用の微小焦点用フィラメントに振り分けられ、別々に配置されている。特に、大焦点用フィラメントとしてフィラメント446,448を、微小焦点用フィラメントとしてフィラメント447を用いる場合、すなわち微小焦点用のフィラメント447を中央に配置し、その両側に大焦点用のフィラメント446,448を配置している。
【0044】
本実施形態では、大焦点用のフィラメント446,448は、微小焦点用のフィラメント447と比較して、コイルの巻き数を多くし、及び/又は、コイル線径を太くして構成することが望ましい。
【0045】
また、大焦点用のフィラメント446,448が配置される集束溝443,445は、集束体442の中心付近に向けて溝切りされている(図3参照)。
【0046】
次に、動作を説明する。
図1〜図5に示すX線管装置1においては、ステータ電源を通じてステータ6が駆動されると、当該ステータ6からの回転磁界を受けてロータ464が所定速度で回転し、これに伴ってターゲット462も回転する。この状態で陰極44から放射された電子ビームがターゲット462の傾斜面(焦点面)462aに衝突すると、その衝突部分(焦点)から所定波長のX線が出力される。出力されたX線は、外囲器42の円筒部422aの所定位置に設けられた放射窓43を通じて筐体2の外部へ放射される。
【0047】
本実施形態では、微小焦点用のフィラメント447を中心とし、これと対称となるように、大焦点用のフィラメント446,448を配置することにより、ターゲット462の、微小焦点における焦点面の中心と大焦点における焦点面の中心とのズレを生じないようにすることができる。大焦点用のフィラメントを複数備えることで、ターゲット462における微小焦点と大焦点の焦点面中心のズレを生じなくできるのは、ターゲット462に向けて陰極44の複数方向から電子ビームが衝突してくることにより、ターゲット462における大焦点用の焦点軌道10の偏りが防止され、オーバーラップする領域Aを作ることができることによる(図6参照)。図6に示すように、領域Aの中心点が大焦点の焦点面の中心Cb1となり、これは微小焦点の焦点面の中心Cs1と一致する。
【0048】
また、図3に示すように、集束体442の中心付近に向けて溝切りされるように集束溝443,445を形成することで、より一層、ターゲット462の、大焦点における焦点面の中心と、微小焦点における焦点面の中心との間でズレが生じないようにすることができる。
【0049】
なお、従来構成では、X線管装置の陰極内に大焦点用のフィラメントと微小焦点用のフィラメントを有する場合であっても、大焦点用のフィラメントは単一で設けられていた。こうした構成では、ターゲットに向けて陰極の一方向からしか電子ビームが放射されず、大焦点用の焦点軌道に偏りを生じる。その結果、ターゲットの、微小焦点における焦点面の中心Cs2と大焦点における焦点面の中心Cb2との間にズレを生じていた(図7参照)。
【0050】
《第2実施形態》
図1〜図4に示すように、大焦点用のフィラメント446,448と微小焦点用のフィラメント447とを単一の集束体442の中に設ける場合を例示した第1実施形態とは異なり、本実施形態では支持部材48上に複数の集束体を設け、その一方を大焦点用に、他方を微小焦点用に用いる場合を例示する。なお、以降のすべての実施形態において、第1実施形態と同一の部材については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0051】
図8及び図9に示すように、本実施形態に係るX線管装置1aは、第1実施形態とは異なる構造の陰極44aを有する。具体的に陰極44aは、支持部材48の所定位置に配置された第1の集束体442a及び第2の集束体442bを有する。第2の集束体442bは、陽極46の中心軸mを中心に、第1の集束体442aから約90°離間して配置されている。なお、両集束体442a,442bの配置はこの90°に限定されず、例えば30°〜150°の範囲で適宜決定することもできる。
【0052】
各集束体442a,442bには、それぞれ、カソードと、このカソードを加熱するヒータなどが封入されている。
【0053】
第2の集束体442bは、陽極46に対して後方(図8の右方、図9の奥方)に凹む断面略矩形状の集束溝443a,445aを複数(本実施形態では2つ)備えている。各集束溝443a,445aには、それぞれ、第1実施形態と同様の、カソードとしての大焦点用に用いるコイル状フィラメント446,448が配置してある。
【0054】
第1の集束体442aは、陽極46に対して後方に凹む断面略矩形状の集束溝444aを備えている。集束溝444aには、第1実施形態と同様の、カソードとしての微小焦点用に用いるコイル状フィラメント445が配置してある。
【0055】
第1の集束体442aの陽極46側には、透視撮影に用いられる微小焦点を形成するために有効な集束電極449aが接続されている。集束電極449aは、陽極46上の所定位置に微小焦点を形成するための電界を作り出すことが可能な形状としてある。
【0056】
本実施形態の陰極44aは、第1実施形態の陰極44(図1〜図5参照)とは異なり、大焦点用の電子ビームを発生するフィラメント446,448と、微小焦点用の電子ビームを発生するフィラメント447とが、上述したように離間して配置されているので、フィラメント446,448による大焦点用の電子ビームと、フィラメント447による微小焦点用の電子ビームとは、ターゲット462上に、別々の焦点を形成する。
【0057】
そこで本実施形態では、図10に示すように、外囲器42の円筒部422aの所定位置には、第1の開口(図示省略)が設けられ、この開口には、フィラメント446,448からの電子ビームに基づいて生成される一般撮影用(大焦点用)のX線を出力させるための放射窓43aを形成することとしている。また、同じく外囲器42の円筒部422aの所定位置には、第1の開口とは別の、第2の開口(図示省略)が設けられ、この開口には、フィラメント447からの電子ビームに基づいて生成される透視撮影用(微小焦点用)のX線を出力させるための放射窓43bを形成することとしている。放射窓43bは、概ね、陽極46の中心軸mを中心に、放射窓43aから約90°離間した円筒部422a側面の所定位置に形成される。
【0058】
これに伴ってX線管装置1aは、筐体2の外部へと放射されるX線の種類を切り替える撮影切替手段を備える。この切替手段によって、撮影用途に応じた適切なX線を筐体2の外部へ放射することが可能となる。
【0059】
本実施形態の撮影切替手段は、図8、図10及び図11に示すように、筐体2の外部に設置された筐体回転装置100で構成してあり、陽極46の中心軸mを中心に筐体2を回転させることができるように構成される。具体的には筐体回転装置100は、例えば、歯車などのギヤ102やベルト103などを備え、これらを駆動手段としてのモータ104を用いロッド106を通じて駆動力を伝達し、筐体2を中心軸mを中心に回転可能となるように構成されている。なお、筐体回転装置100は、上記位置合わせを可能とするための、筐体2の回転角度認識センサー107も備えている。
【0060】
センサー107で検知された情報は、モータ104の駆動を制御する制御装置(図示省略)へと送出され、ここでモータ104の作動開始、停止が制御される。具体的には制御装置による制御は、筐体2が所定の角度だけ回転すると自動的にモータ104の駆動を停止するようになっている。筐体2には、センサー107が筐体2の回転を検知するためのマーカー(図示省略)が取り付けられている。このマーカーは凹凸や反射板などで構成され、筐体2の回転角度を正確に検知するためのものである。
【0061】
こうした構成のX線管装置1aでは、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、陰極44aにおいて、一般撮影に必要な大電流を可能にすべくこの複数の電子発生源(フィラメント446,448)で形成されるX線源を大焦点用に利用し、残りの電子発生源(フィラメント447)で形成されるX線源を微小焦点用に利用するので、微小焦点における透視撮影とその他の一般撮影とで切り替えることにより、大電流化を可能とすることができる。
【0062】
なお、筐体回転装置100は、本実施形態のように筐体2の近傍に取り付ける場合の他、X線管装置1aのシステム内に組み込むこともできる。また、筐体回転装置100に代えて、コイル(ステータ)による磁界で筐体2を回転させる筐体回転装置(図示省略)を用いることもできる。
【0063】
《第3実施形態》
図8、図10及び図11に示すように、撮影切替手段として、筐体2の外部に設置され、陽極46の中心軸mを中心に筐体2を回転させる筐体回転装置100を用いる場合を例示した第2実施形態とは異なり、本実施形態では、撮影切替手段として、筐体2内のX線管4を回転させるX線管回転装置100aを用いる場合を例示する。
【0064】
図12に示すように、本実施形態に係るX線管装置1bは、筐体2の外部へと放射されるX線の種類を切り替える撮影切替手段を備える。本実施形態の撮影切替手段は、筐体2の内部に設置されたX線管回転装置100aで構成してあり、陽極46の中心軸mを中心にX線管4を回転させることができるように構成される。具体的にはX線管回転装置100aは、例えば、歯車などのギヤ102aやベルトなどを備え、これらを駆動手段としてのモータ104aを用いロッド106aを通じて駆動力を伝達し、X線管4を中心軸mを中心に回転可能となるように構成されている。なお、X線管回転装置100aは、上記位置合わせを可能とするための、X線管4の回転角度認識センサー107aも備えている。
【0065】
センサー107aで検知された情報は、モータ104aの駆動を制御する制御装置(図示省略)へと送出され、ここでモータ104aの作動開始、停止が制御される。具体的には制御装置による制御は、X線管4が所定の角度だけ回転すると自動的にモータ104aの駆動を停止するようになっている。X線管4には、センサー107aがX線管4の回転を検知するためのマーカー(図示省略)が取り付けられている。このマーカーは、X線管4の回転角度を正確に検知するためのものである。なお、X線管回転装置100aに代えて、図13に示すように、ステータ6aによる磁界でX線管4を回転させるX線管回転装置100bを用いることもできる。
【0066】
なお、図12に戻り、X線管4の外囲器42の陽極端424には、X線管4が筐体2内で回転可能となるように、X線管4の回転軸を回転自在に支持する軸受の外輪を固定する固定部5が設けられている。軸受けとしては、玉軸受、すべり軸受、流体軸受などが使用可能である。
【0067】
このような構成のX線管装置1bによっても、上述した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0068】
《第4実施形態》
図12及び図13に示すように、撮影切替手段として、筐体2の内部に設置され、陽極46の中心軸mを中心にX線管4を回転させるX線管回転装置100a,100bを用いる場合を例示した第3実施形態とは異なり、本実施形態では、撮影切替手段として、X線管4内の陰極44aを回転させる陰極回転装置100cを用いる場合を例示する。
【0069】
図14に示すように、本実施形態に係るX線管装置1cは、筐体2の外部へと放射されるX線の種類を切り替える撮影切替手段を備える。本実施形態の撮影切替手段は、ステータ6bによる磁界でX線管4内の陰極44aを回転させる陰極回転装置100cで構成されている。陰極回転装置100cは、上記位置合わせを可能とするための、X線管4の回転角度認識センサー107bも備えている。
【0070】
なお、陰極回転装置100cに代えて、例えば、歯車などのギヤやベルトなどを備え、これらを駆動手段としてのモータを用いロッド106bを通じて駆動力を伝達し、陰極44aを中心軸mを中心に回転可能となるように構成された陰極回転装置(図示省略)を用いることもできる。この場合、センサー107bで検知された情報は、モータの駆動を制御する制御装置(図示省略)へと送出され、ここでモータの作動開始、停止が制御される。具体的には制御装置による制御は、陰極44aが所定の角度だけ回転すると自動的にモータの駆動を停止するように構成する。
【0071】
このような構成のX線管装置1cによっても、上述した実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0072】
上述した各実施形態のX線管装置1,1a,1b,1cは、いずれも、被検体の検査または診断を行うX線装置に搭載されて用いられる。X線管装置を搭載したX線装置は、医療の分野ではX線透視装置やX線撮影装置などに利用することが可能である。また工業用の分野では、種々の製品の欠陥検査や異物検査などに利用することが可能である。
【0073】
以上説明した実施形態は、上記発明の理解を容易にするために記載されたものであって、上記発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、上記発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0074】
1,1a,1b,1c…X線管装置
2…筐体(X線管容器)
22…放射窓
4…X線管
42…外囲器
422…大径部
422a…円筒部
424…陽極端
426…陽極絶縁部
43…放射窓
44,44a…陰極
442…集束体(集束系)
442a…第1の集束体(集束系)
442b…第2の集束体(集束系)
443〜445,443a〜445a…集束溝
446〜448…カソード、フィラメント(電子発生源)
449,449a…集束電極(集束系)
46…陽極
462…ターゲット
464…ロータ
48…支持部材
5…固定部
6,6a,6b…ステータ
10…焦点軌道
100…筐体回転装置(撮影切替手段)
100a,100b…X線管回転装置(撮影切替手段)
100c…陰極回転装置(撮影切替手段)
102,102a…ギア
103…ベルト
104,104a…モータ
106,106a,106b…ロッド
107,107a,107b…回転角度認識センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管を含むX線管容器を備えたX線管装置において、
前記X線管は、電子を放出する3つ以上の電子発生源及び前記電子発生源から放出された電子を細いビーム状の電子線に集束させる集束系を含む陰極と、
前記陰極と対向して配置され、その対向面上に前記電子線が衝突してX線を放射するX線源を形成するターゲットを有する陽極と、
前記陰極及び前記陽極を真空気密に封入する外囲器とを有し、
2つ以上の前記電子発生源により前記ターゲット上に大焦点用のX線源を形成するとともに、1つ以上の前記電子発生源により前記ターゲット上に微小焦点用のX線源を形成するように構成したことを特徴とするX線管装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線管装置において、
前記陰極の前記集束系は、前記陽極に対して後方に凹む集束溝が前記電子発生源の数と同一数だけ形成された集束体と、
前記集束体の前記陽極側端に接続された集束電極を有し、
複数の前記集束溝のうち中央側の溝には、微小焦点を形成するための第1のカソードが配置してあり、前記中央側の溝を挟んで対称となる位置の溝には、大焦点を形成するための第2のカソードがそれぞれ配置してあることを特徴とするX線管装置。
【請求項3】
請求項1記載のX線管装置において、
前記陰極の前記集束系は、前記陽極に対して後方に凹む単一の集束溝が形成された第1の集束体と、前記第1の集束体の前記陽極側端に接続された集束電極と、前記陽極に対して後方に凹む複数の集束溝が形成された第2の集束体とを有し、
前記第1の集束体に形成された単一の溝には、微小焦点を形成するための第1のカソードが配置してあり、前記第2の集束体に形成された複数の溝には、それぞれ大焦点を形成するための第2のカソードが配置してあることを特徴とするX線管装置。
【請求項4】
請求項3記載のX線管装置において、
前記第2の集束体は、前記陽極の中心軸を中心に、前記第1の集束体から約90°離間した位置に配置されていることを特徴とするX線管装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載のX線管装置において、
前記各集束体と対向する前記X線管容器のそれぞれの位置には、前記ターゲットの前記X線源から放射されるX線を外部に照射可能な放射窓が設けてあり、
前記放射窓から前記X線管容器の外部へと照射されるX線の種類を切替可能な撮影切替手段を有することを特徴とするX線管装置。
【請求項6】
請求項5記載のX線管装置において、
前記撮影切替手段は、前記X線管容器を、前記陽極の中心軸を中心に回転可能なX線管容器回転装置で構成されていることを特徴とするX線管装置。
【請求項7】
請求項5記載のX線管装置において、
前記撮影切替手段は、前記X線管を、前記陽極の中心軸を中心に回転可能なX線管回転装置で構成されていることを特徴とするX線管装置。
【請求項8】
請求項5記載のX線管装置において、
前記撮影切替手段は、前記X線管内の陰極を、前記陽極の中心軸を中心に回転可能な陰極回転装置で構成されていることを特徴とするX線管装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項記載のX線管装置を搭載したX線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−100637(P2011−100637A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254838(P2009−254838)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】