説明

X線CT装置

【課題】回転装置を設けることなく被検体に対して多方向からX線を照射してCT撮影を行うX線CT装置を提供する。
【解決手段】被検体HにX線100を照射し、被検体Hを透過したX線100を検出することにより被検体Hの内部状態を画像化するX線CT装置であって、電子銃と、被検体Hの周りに円環状に複数配置され、電子ビームBが入射すると被検体Hに向けてX線100を照射するターゲットコリメータ15と、電子銃から入射した電子ビームBを被検体Hの周りの円環軌道に沿って偏向すると共に、複数のターゲットコリメータ15の何れかに順次選択的に電子ビームBを照射する電子ビーム偏向装置とを具備するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に対して多方向からX線を照射してCT撮影を行うX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大型被検体であるコンテナ等を検査する大型X線検査装置では、コンテナに対し1方向あるいは2方向の固定方向からX線を照射してコンテナの内部を検査していた。
このような大型X線検査装置として特許文献1には、固定型のX線検査装置をコンテナ搬送経路上に複数台設けてコンテナを段階的にX線検査するコンテナ検査システムが開示されている。
【0003】
また、周知技術としては、中小型X線CT装置では上記固定方向からのX線照射に対して、X線を照射するX線管等を被検体の周りを回転させる、あるいは被検体を回転させることで、X線を被検体に対して多方向から照射するものが知られている。
当該X線CT装置は、例えば、医療分野では患者の患部を撮影する等の用途に用いられ、産業分野では中・小型工業製品、例えば、ゴム、プラスチック、ダイキャスト、鉄製の製品、電子部品や精密部品等の多岐の検査用途に用いられる。
【特許文献1】特開2004−203622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の大型X線検査装置では、X線CT装置のように多方向からX線を照射する手段を有しておらず、被検体を精密に検査できないという問題がある。
【0005】
X線発生源としてX線管を用いれば小型であるため被検体の回りを回転させることが可能であるが、コンテナのような大型被検体に対するCT撮影に必要な高エネルギーX線が発生できない。加速器(リニアック)を用いたX線発生源の場合は、高エネルギーX線は得られるが、X線CT装置に用いる場合は、回転装置が大型で複雑なものとなってしまう。また、回転する加速器と、それと接続される電源との配線接続も問題となる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、回転装置を設けることなく被検体に対して多方向からX線を照射してCT撮影を行うX線CT装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、被検体にX線を照射し、上記被検体を透過したX線を検出することにより上記被検体の内部状態を画像化するX線CT装置であって、電子ビーム発生手段と、上記被検体の周りに環状に複数配置され、電子ビームが入射すると上記被検体に向けてX線を照射するX線発生手段と、上記電子ビーム発生手段から入射した電子ビームを上記被検体の周りの環状軌道に沿って偏向すると共に、複数の上記X線発生手段の何れかに順次選択的に電子ビームを照射する電子線偏向手段とを具備するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、被検体の周りに環状に複数配置したX線発生手段に、電子線偏向手段を用いて電子ビームを順次入射させることによりX線を発生させて被検体に対してX線を多方向から照射することができる。
【0008】
また、本発明では、上記電子線偏向手段は、上記被検体の周りに環状に配置された複数の偏向磁石によって電子ビームを偏向するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、偏向磁石の磁場強度を変化させることで、電子ビームの偏向角を調整することができ、電子ビームの軌道制御を容易とさせることができる。
【0009】
また、本発明では、上記電子線偏向手段は、上記X線発生手段の外側に設定された環状軌道に沿って電子ビームを偏向するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、環状軌道にある電子ビームの軌道を内側に偏向させることで、X線発生手段に電子ビームを照射させることができる。
【0010】
また、本発明では、上記X線発生手段は環状に奇数個設けられるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、互いに対向する位置とは異なる位置にX線発生手段を配置することができるので、X線の照射と撮像を干渉なく行える。
【0011】
また、本発明では、上記電子ビーム発生手段から入射した電子ビームを加速して上記電子線偏向手段に出射する電子加速手段をさらに備えるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、電子加速手段を用い、高エネルギーX線照射を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検体にX線を照射し、上記被検体を透過したX線を検出することにより上記被検体の内部状態を画像化するX線CT装置であって、電子ビーム発生手段と、上記被検体の周りに環状に複数配置され、電子ビームが入射すると上記被検体に向けてX線を照射するX線発生手段と、上記電子ビーム発生手段から入射した電子ビームを上記被検体の周りの環状軌道に沿って偏向すると共に、複数の上記X線発生手段の何れかに順次選択的に電子ビームを照射する電子線偏向手段とを具備するという構成を採用することによって、被検体の周りに環状に複数配置したX線発生手段に、電子線偏向手段を用いて電子ビームを入射させることによりX線を発生させて被検体に対してX線を多方向から照射することができる。
したがって、本発明では、回転装置を設けることなく被検体に対して多方向からX線を順次照射してCT撮影を行うX線CT装置を提供することができる効果がある。
また、回転装置を設けることがないため、高エネルギー加速器を設ける設置スペースを確保でき、また、電源との接続関係の問題も解消され、高エネルギーX線によるCT撮影が可能となる。
さらに、高速の電子ビームを伝送させることで被検体に対して多方向からX線を照射することができるため、回転装置を用いてX線照射角度を変更してX線を照射する場合と比べてX線照射間隔を短縮でき、大型の被検体に対するCT撮影を高速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0014】
図1は、本実施形態におけるX線CT装置1の全体構成を示すブロック図である。
図2は、本実施形態におけるX線照射・検出装置10を説明する構成図である。
なお、図2において、符号Bは電子ビームを、符号Hは被検体を、符号100はX線を示すものとする。
【0015】
X線CT装置1は、被検体にX線を照射して透過したX線のデータを収集し、収集したデータを基に被検体の内部画像を構成するものである。このようなX線CT装置1は、図1に示すように、被検体にX線を照射して被検体を透過したX線のデータを収集するX線照射・検出装置10と、被検体をX線照射・検出装置10に搬送する搬送台2(図2において不図示)と、各種動作設定を行うと共に収集したX線のデータに基にX線断層画像を構成し表示する制御系3とを有する構成となっている。
【0016】
X線照射・検出装置10は、搬送台2によって中空部10aを、図1において紙面垂直方向に通過する被検体に対して多方向からX線を照射してCT撮影するものであり、被検体にX線を照射するX線照射装置20と、被検体を透過したX線を検出するX線検出装置16(図2参照)とを有する構成となっている。
【0017】
X線照射装置20は、図2に示すように、電子ビームの入射によりX線を発生させ、X線を被検体に対して照射するターゲットコリメータ(X線発生手段)15と、電子ビームを輸送するビーム輸送系30と、ビーム輸送系30に電子ビームを入射するリニアック12(直線加速器)とを有する構成となっている。
【0018】
リニアック12は、真空容器11(後述)内に高出力の電子ビームを入射するものであり、図1に示すように、電子銃(電子ビーム発生手段)12aから射出された電子ビームを加速させる加速管(電子加速手段)12bを有する構成となっている。加速管12bは、複数の空洞共振器で構成され、この共振器に高周波を供給して共振器内に時間的に変化する電界を生じさせ、この電界で電子ビームを加速する構成となっている。
【0019】
ビーム輸送系30は、リニアック12によって入射された電子ビームを偏向させ被検体の周りに円状の環状軌道(以下、円環軌道と称する)を形成するものであり、電子ビームが輸送される経路を形成する真空装置31と、電子ビームの軌道を偏向させる偏向磁石13とを有する構成となっている。
【0020】
真空装置31は、図1に示すように、真空容器11と、真空排気装置14とから構成される。
真空容器11は、略円環リング状に形成されており内部に電子ビームが円環軌道を形成する構成となっている。また、真空容器11は、真空排気装置14と接続されて、管内部が常態で真空状態に保たれている。
【0021】
偏向磁石13は、電子ビームの軌道を偏向させて真空容器11内に電子ビームの円環軌道を形成するものであり、真空容器11に複数設置される。この偏向磁石13は、本実施形態では9つの偏向磁石13A〜13Iを用い、周方向に互いに等間隔で環状に配置される。本実施形態では、偏向磁石13は、電磁石から構成される。
また、偏向磁石13A〜13Iは各々、電源系6に接続されており、電源系6に接続する制御装置4の制御の下、それぞれの磁場の強さを調節できる構成となっている。なお、以下、これら偏向磁石13、電源系6及び制御装置4から構成されるものを電子ビーム偏向装置(電子線偏向手段)と称して説明する場合がある。
【0022】
ターゲットコリメータ15は、図2に示すように、中空部10a側の外部から真空容器11内部に径方向に挿通する形で複数(本実施形態ではターゲットコリメータ15A〜15Iの9つが)配置される構成となっている。これらターゲットコリメータ15は、偏向磁石13の配置と同心であって、その内側において周方向に互いに等間隔で配置される。より詳しくは、偏向磁石13の間に一つずつ配置されることとなる。
ターゲットコリメータ15は、電子ビームの衝突によりX線を発生させ被検体に向けて照射するものであり、X線を発生するターゲットと、発生したX線の照射範囲を制限するコリメータとが一体となったものである。ターゲットは、電子ビームの衝突によりX線を発生する部材(タングステン等)が用いられる。一方、コリメータは、スリットを設けた鉛等の部材から形成されており、ターゲットが発生するX線を当該スリットによりコリメートして被検体に照射させる構成となっている。
また、このような構成のターゲットコリメータ15は、円環軌道上の電子ビームを内側に偏向させた時に電子ビームが衝突し易くするために、電子ビームが伝送される伝送方向に対向するように傾斜する傾斜面15aを有している。
【0023】
X線検出装置16は、各ターゲットコリメータ15A〜15Iと中心部を挟み対向する位置でターゲットコリメータ15の径方向内側にそれぞれ設けられており、被検体を透過したX線を検出し、当該検出したデータを図1に示す制御装置4に伝送する構成となっている。なお、X線検出装置16は、隙間なく全周に配置することも可能である。
【0024】
制御系3は、X線CT装置1の動作全体を制御する制御装置4と、制御装置4に指令を与える操作装置5とから構成される。制御装置4は、X線検出装置16が検出したデータを記憶するデータ記憶部、データ記憶部に記憶されたデータを基にX線断層画像を構成する演算ユニット、及び各種動作設定を行い各装置の動作を制御する制御部(各装置の動作の制御については後述)等から構成されている。一方、操作装置5は、キーボード、マウス等の入力部と、各種情報及びX線断層画像を表示する表示部とが配備されるものであり、X線CT装置1を操作する操作者が各種入力、設定、検査を行う構成となっている。
【0025】
続いて、このような構成のX線CT装置1の動作及び当該動作中の電子ビーム偏向装置の作用について説明する。
始めに、X線CT装置1は、CT撮影を行うための初期設定を行う。なお、このとき、図1に示す搬送台2は、中空部10a外の所定の位置で待機している。
【0026】
先ず、制御装置4は、電子ビームの円環軌道を形成するための偏向磁石13の磁場強度の調整を行う。具体的に、制御装置4は、偏向磁石13のそれぞれに対し、真空容器11内において電子ビームを輸送する円環軌道を形成するために必要な電流の値を指令値として、それらが接続された電源系6に対して出力する。制御装置4から電源系6に入力された値の電流が電源系6より供給されることで各偏向磁石13は、それぞれ励磁され、電子ビームの軌道を円環軌道とする磁場を協働して形成することとなる(図2参照)。
なお、以下の説明で、偏向磁石13が、上記円環軌道を形成する磁場強度を有している状態を定常状態と称して説明する。
【0027】
次に、制御装置4は、リニアック12の調整を行う。制御装置4は、リニアック12に対して、電子ビームに印加する電圧、周波数、位相等の指令値を出力する(図1参照)。指令値が入力されたリニアック12は、加速管12bにより、電子ビームが所望のエネルギーを得る状態となるように加速させる電界を形成した状態で待機する。
【0028】
次に、制御装置4は、定常状態にある偏向磁石13A〜13Iの磁場強度を順次変えて、ターゲットコリメータ15A〜15Iのそれぞれに対して、電子ビームを伝送・衝突させる軌道を形成するための磁場強度の調整を行う。なお、被検体が無い状態で、リニアック12から試験的に電子ビームを入射し、実際にX線を発生させて調整設定を行っても良い。
【0029】
ここで、偏向磁石13A〜13Iはターゲットコリメータ15A〜15Iに対応するようにそれぞれ9つ配置されており、制御装置4は、例えば、ターゲットコリメータ15Aに対しては偏向磁石13Aの磁場強度を定常状態から増加させることで、また、ターゲットコリメータ15Bに対しては偏向磁石13Bの磁場強度を定常状態から増加させることで、電子ビームの偏向角を、円環軌道を形成する偏向角より内側に調整し、選択されたターゲットコリメータ15に電子ビームを衝突させる軌道を形成する(図2参照)。
具体的には、制御装置4は、選択されたターゲットコリメータ15に対して電子ビームを伝送・衝突させるために必要な電流の値を、選択されたターゲットコリメータ15に対応する特定の偏向磁石13に接続された電源系6に指令値として出力し、特定の偏向磁石13に供給する電流の大きさを変化させることで磁場強度を増大させ、電子ビームの偏向角を調整することとなる。
なお、以下の説明で、偏向磁石13が、対応するターゲットコリメータ15に電子ビームを衝突させる軌道を形成する磁場強度を有している状態を強磁状態と称して説明する。
【0030】
次に、上記のように初期設定されたX線CT装置1の動作について説明する。
操作者は、操作装置5を操作して制御装置4にCT撮影開始の指令を与える。CT撮影開始の指令を受けた制御装置4は、搬送台2を移動させCT撮影開始位置(中空部10a内の所定位置)まで被検体を搬送させる。
【0031】
次に、制御装置4は、X線照射装置20を操作し、搬送された被検体に対して多方向からX線を照射させる。制御装置4には、ターゲットコリメータ15A〜15Iのいずれかから順にX線を照射させるX線照射パターンが予め記憶されており、当該X線照射パターンに基づいて、X線照射装置20を操作し、選択的にX線を照射させることとなる。なお、本実施形態では、当該X線照射パターンは、円周順に、各ターゲットコリメータ15から順次X線を被検体に対して照射するように設定されている。
【0032】
先ず、制御装置4は、X線照射パターンに基づいて、ターゲットコリメータ15A〜15Iのいずれか一つを選択し、X線の照射開始位置を決定する。次に、制御装置4は、選択されたターゲットコリメータ15に対応する特定の偏向磁石13のみを強磁状態とし、それ以外の偏向磁石13を定常状態とする。
【0033】
偏向磁石13の磁場調整の後、制御装置4は、リニアック12の電子銃12aに対し電子ビーム射出指令を出力する。電子ビーム射出指令が入力された電子銃12aは、電子ビームを射出して電子ビームを加速管12bに伝送する。
【0034】
電子ビームは、加速管12bによって加速され、所望のエネルギーを得た状態で加速管12bの長さ方向の先に接続された真空容器11内に入射される。
真空容器11内に入射した電子ビームは、定常状態にある各偏向磁石13の磁場により偏向し、円環軌道に沿って偏向しつつ強磁状態にある特定の偏向磁石13まで輸送される(図2参照)。例えば、特定の偏向磁石13が、偏向磁石13Dである場合、電子ビームは、偏向磁石13A、偏向磁石13B、偏向磁石13Cを経て、偏向磁石13Dが設けられる位置まで円環軌道に沿って輸送されることとなる。
【0035】
そして、電子ビームは、強磁状態にある特定の偏向磁石13が形成する磁場によって円環軌道より内側に偏向され、選択されたターゲットコリメータ15の傾斜面15aに衝突する。
ターゲットコリメータ15は、電子ビームの衝突によりX線を発生して被検体に向けてX線を照射する。当該X線は、リニアック12によって加速された電子ビームによって発生するものであるため、高エネルギー及び十分な線量を有し高透過性を備えることとなる。
被検体に向けて照射され、被検体を透過することで一部が減衰したX線は、被検体を挟みターゲットコリメータ15と対向する位置に設けられたX線検出装置16によって検出される。そして、X線を検出したX線検出装置16は、当該検出データを制御装置4に伝送することとなる(図1参照)。
【0036】
次に、制御装置4は、他の方向からX線を被検体に照射するため、X線照射パターンに基づいて次のターゲットコリメータ15を選択する。制御装置4は、次に選択されたターゲットコリメータ15に対応する特定の偏向磁石13のみを強磁状態とし、それ以外の偏向磁石13を定常状態とすることで、上記のように電子ビームを次に選択されたターゲットコリメータ15に導き、被検体に対するX線照射角度を変更することとなる。
このように、制御装置4は、強磁状態にある偏向磁石13を順次切り替えて円周順にX線を発生させることで、多方向(本実施形態では9方向)からX線を照射する。
【0037】
そして、制御装置4は、搬送装置2を移動させつつ多方向からX線を被検体に対して照射し、検出したX線データをデータ記憶部により記憶する。そして、演算ユニットによりデータ記憶部に記憶されたデータを基にX線断層画像を構成して当該X線断層画像を操作装置5の表示部に表示させる。そして、操作者は、表示部をモニターすることにより被検体の内部を検査することとなる。
【0038】
したがって、上述した本実施形態によれば、被検体にX線を照射し、上記被検体を透過したX線を検出することにより上記被検体の内部状態を画像化するX線CT装置1であって、電子銃12aと、上記被検体の周りに円環状に複数配置され、電子ビームが入射すると上記被検体に向けてX線を照射するターゲットコリメータ15と、電子銃12aから入射した電子ビームを上記被検体の周りの円環軌道に沿って偏向すると共に、複数のターゲットコリメータ15の何れかに順次選択的に電子ビームを照射する電子ビーム偏向装置とを具備するという構成を採用することによって、被検体の周りに環状に複数配置したターゲットコリメータ15に、電子ビーム偏向装置を用いて電子ビームを入射させることによりX線を発生させて被検体に対してX線を多方向から照射することができる。
したがって、本実施形態では、回転装置を設けることなく被検体に対して多方向からX線を照射してCT撮影を行うX線CT装置1を提供することができる効果がある。
また、回転装置を設けることがないため、加速管12bを設ける設置スペースを確保でき、また、電源とX線発生源との接続関係の問題も解消され、高エネルギーX線によるCT撮影が可能となる。
さらに、高速の電子ビームを伝送させることで被検体に対して多方向からX線を照射することができるため、回転装置を用いてX線照射角度を変更してX線を照射する場合と比べてX線照射間隔を短縮でき、大型の被検体に対するCT撮影を高速に行うことができる。
【0039】
また、本実施形態では、上記電子ビーム偏向装置は、上記被検体の周りに円環状に配置された複数の偏向磁石13によって電子ビームを偏向するという構成を採用することによって、偏向磁石13に対して供給する電流の大きさ変化させることで、電子ビームの偏向角を調整することができ、電子ビームの軌道制御を容易とさせることができる。
【0040】
また、本実施形態では、上記電子ビーム偏向装置は、ターゲットコリメータ15の外側に設定された円環軌道に沿って電子ビームを偏向するという構成を採用することによって、円環軌道にある電子ビームの偏向角を調整し電子ビームを内側に偏向させることで、ターゲットコリメータ15に電子ビームを入射させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、ターゲットコリメータ15は環状に奇数個設けられるという構成を採用することによって、互いに対向する位置とは異なる位置にターゲットコリメータ15を配置することができる。したがって、ターゲットコリメータ15とX線検出装置16とを、被検体を挟み対向する位置に設置することができ、照射したX線の検出を容易とさせることができる。
【0042】
また、本実施形態では、電子銃12aから入射した電子ビームを加速して上記電子ビーム偏向装置に出射する加速管12bをさらに備えるという構成を採用することによって、加速管12bを用い、高エネルギーX線照射を行うことができる。したがって、コンテナ等の大型被検体に対するCT撮影が可能となる。
【0043】
以上、図面を参照しながら本実施形態の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0044】
例えば、上述した本実施形態において、電子ビーム偏向装置は、偏向磁石13及び電源系6と接続した制御装置4とから構成され、円環軌道を形成する偏向磁石13の磁場強度を増加させることで偏向角を調整し、電子ビームをターゲットコリメータ15に衝突させると説明したが、本発明は、上記構成に限定されるものではない。
例えば、電子ビームの円環軌道の形成には永久磁石を用い、電子ビームのターゲットコリメータ15への衝突軌道の形成には偏向磁石13を用いるといった構成であっても良い。
また、例えば、本発明は、上述したように電磁偏向により電子ビームを偏向させる構成に限定されるものでなく、例えば、静電偏向によって電子ビームを偏向させる構成であっても良い。
また、偏向磁石13により電子ビームの円環軌道を形成すると説明したが、本発明は、円環軌道を形成する構成に限定されるものではなく、例えば、楕円状や多角形状等の環状軌道を形成する構成であってもよい。
【0045】
また、例えば、上述した本実施形態において、ターゲットコリメータ15は、周方向に互いに等間隔で9つ配置されると説明したが、当該数に限定されるものではない。さらに複数のターゲットコリメータ15を加えて設ける構成であれば、X線断層画像の解像度を上げることができるため有効である。また、ターゲットコリメータ15が奇数個である構成に限定されず、偶数個であっても良い。
また、ターゲットコリメータ15の数が偶数である場合、ターゲットコリメータ15がX線の照射先に配置されることとなりX線検出装置16と重なるように配置されて、X線検出装置16の裏に配置されるターゲットコリメータ15のX線照射が遮られてしまうときは、X線検出装置16の一部を欠切させてターゲットコリメータ15のX線照射経路を確保する穴部を形成するといった手段を用いても良い。
【0046】
また、例えば、上述した本実施形態において、加速管12bを有するリニアック12を設けると説明したが、本発明は、上記構成に限定されるものでは無く、他の方式、例えば、静電加速器や円形加速器等であっても良い。また、真空容器11内に加速器を設けて、真空容器11内で電子ビームを加速させる構成であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態におけるX線CT装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるX線照射・検出装置の構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1…X線CT装置、4…制御装置、12a…電子銃(電子ビーム発生手段)、12b…加速管(電子加速手段)、13…偏向磁石、15…ターゲットコリメータ(X線発生手段)、100…X線、B…電子ビーム、H…被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にX線を照射し、前記被検体を透過したX線を検出することにより前記被検体の内部状態を画像化するX線CT装置であって、
電子ビーム発生手段と、
前記被検体の周りに環状に複数配置され、電子ビームが入射すると前記被検体に向けてX線を照射するX線発生手段と、
前記電子ビーム発生手段から入射した電子ビームを前記被検体の周りの環状軌道に沿って偏向すると共に、複数の前記X線発生手段の何れかに順次選択的に電子ビームを照射する電子線偏向手段と
を具備することを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
前記電子線偏向手段は、前記被検体の周りに環状に配置された複数の偏向磁石によって電子ビームを偏向することを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記電子線偏向手段は、前記X線発生手段の外側に設定された環状軌道に沿って電子ビームを偏向することを特徴とする請求項1または2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記X線発生手段は環状に奇数個設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のX線CT装置。
【請求項5】
前記電子ビーム発生手段から入射した電子ビームを加速して前記電子線偏向手段に出射する電子加速手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−236541(P2009−236541A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80071(P2008−80071)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】