説明

X線CT装置

【課題】X線CT装置において、被検体の構成元素の違いを映像化する。
【解決手段】X線源31は、電子源41に第1の電圧及び第2の電圧を印加する直流電源32と、第1の電圧によって電子源41から放出された電子を加速させる線形加速管42と、電子源41に第1・第2の電圧を印加する場合、線形加速管42に各々第1・第2の高周波電力を供給する高周波電源33と、線形加速管42から排出された電子を衝突させてX線を発生させるターゲット43と、スキャン中に、電子源41に印加する第1の電圧と第2の電圧とを交互に繰り返すように直流電源32及び高周波電源33を制御するコントローラ26と、コントローラ26からの制御信号に応じて、スキャンによって得られるデータが、第1の電圧又は第2の電圧によってターゲット43で発生されるX線に基づくものであるかを判断し、その判断に応じたデータ収集を行なうDAS24と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用X線CT(computed tomography)装置に関するもので、特に、エネルギー分布の異なるX線を切り替えながら行なうデュアルエナジースキャンに使用されるX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
診断用のX線CT装置では、スキャン中に低い管電圧(例えば、80[kV])と高い管電圧(例えば、140[kV])を高速に切り替えるデュアルエナジースキャンを実行し、異なったエネルギー分布をもつX線ビームによるデュアルエナジー画像を取得することができる。X線CT装置を用いて、デュアルエナジースキャンによって得られたデュアルエナジー画像を解析することによって、石灰化した組織部と造影剤による血管の像を分離しようという試みがある。X線の高電圧電源の出力電圧を切り替える方法としては、管電圧を設定する手段を2つ設け、データ収集装置(DAS:data acquisition system)とタイミングを合わせて低い管電圧と高い管電圧の設定信号を切り替えることで、高電圧電源の出力電圧を変化させる。
【0003】
図4は、従来のX線CT装置におけるX線発生器の構成を示すブロック図である。
【0004】
図4は、従来のX線CT装置のX線発生器101、コントローラ102、及びDAS103を示す。X線発生器101は、X線管111、管電圧設定器ユニット112(低い管電圧に対応する管電圧設定器112a、及び高い管電圧に対応する管電圧設定器112b)、スイッチ113、及び高電圧電源114を備える。X線管111は、内部が高真空に保持されたガラスバルブ121を有する。X線管111は、ガラスバルブ121内に、陽極122と、陰極123とを封入する。X線管111は、二極真空管(又は、図示しないグリッドを備えた三極真空管)を形成する。
【0005】
管電圧設定器112aは、低い管電圧を設定する一方、管電圧設定器112bは、高い管電圧を設定する。管電圧設定器112a,112bの出力は、管電圧設定器112a又は112bを選択可能なスイッチ113を介して高電圧電源114に接続される。高電圧電源114のプラス側出力は、X線管111の陽極122に電気的に接続されると共に、接地される。また、高電圧電源114のマイナス側出力は、X線管111の陰極123に電気的に接続される。
【0006】
コントローラ102は、スイッチ113の切換えを制御してデュアルエナジースキャンを実行させ、管電圧設定器112aによる低い管電圧を高電圧電源114から出力させるか、管電圧設定器112bによる高い管電圧を高電圧電源114から出力させるかを選択する。コントローラ102からの制御信号により、スイッチ113は、選択された管電圧設定信号を高電圧電源114に与える。
【0007】
コントローラ102からの制御信号はDAS103にも送られる。DAS103は、デュアルエナジースキャンによって収集したデータが、低い管電圧のX線照射によるものか、また、高い管電圧のX線照射によるものかを認識する。よって、従来のX線CT装置では、異なったエネルギーにより被検体を透過したX線を検出したデータから、被検体の構成元素の違いを映像化し、例えば、石灰化した組織部と造影剤による血管の像をある程度分離することができる。
【0008】
また、低い管電圧及び高い管電圧によって得られる各X線画像の濃度を一定にするために、高い管電圧によるX線照射時には低い管電圧によるX線照射時と比べて管電流を小さくし設定して、各X線照射において照射されるX線の線量を等しくする技術が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0009】
さらに、乾電池で動作し、持ち運びが容易な超小型電子加速器に関する技術が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−115272号公報
【特許文献2】特開2007−165081号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20071022/pr20071022.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術によるデュアルエナジースキャンでは、管電圧に従って高電圧電源の出力電圧を変化させるため、低い管電圧と高い管電圧との切り替えに時間がかかり、かつ、その変化も連続的なものとなるため、1ビュー毎の管電圧の切り替えではその波形が三角波のようになってしまう。よって、X線ビームのエネルギー分布もそれに応じて連続的に変化するため、デュアルエナジー画像からの目的とする組織の分離が不完全なものになる。
【0013】
また、従来技術では、X線管の陰極が1つであり、かつ、その1つの陰極の管電流によって加熱を制御しているため、管電流の高速な切り替えはできず、管電圧を切り替えると、X線管のエミッション特性に応じて管電流が決まってしまう。よって、高い管電圧の場合に、低い管電圧のときよりも大きな管電流が流れることになる。しかしながら、管電圧を変化させても照射するX線の量は一定に保つことが、十分な診断画質を得ながら被検体のX線被曝を低減する上では重要である。
【0014】
ここで、X線管から照射されるX線の量は、管電流に比例し、管電圧の二乗に比例することが知られているので、従来技術の場合、低い管電圧、例えば80[kV]のときに必要とされる管電流を設定した場合、高い管電圧、例えば140[kV]のとき、必要な量の3倍以上のX線を照射していることになる。よって、十分な診断画質を得ながら被検体のX線被曝を低減することはできない。高い管電圧では低い管電圧に対して約1/3の管電流とすることができれば、照射するX線の量を両者間で一定に保つことが可能となる。
【0015】
本発明は、上述のような事情を考慮してなされたもので、被検体の構成元素の違いを映像化し、例えば、石灰化した組織部と造影剤による血管の像を十分に分離することができるX線CT装置を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、上述のような事情を考慮してなされたもので、十分な診断画質を得ながら被検体のX線被曝を低減することが可能なX線CT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るX線CT装置は、上述した課題を解決するために、電子を放出する電子源と、前記電子源に第1の電圧及び第2の電圧を印加可能な電子源電源と、前記第1の電圧によって前記電子源から放出された電子を加速させる加速器と、前記電子源に前記第1の電圧を印加する場合、前記加速器に第1の高周波電力を供給する一方、前記電子源に前記第2の電圧を印加する場合、前記加速器に第2の高周波電力を供給する加速器電源と、前記加速器から排出された電子を衝突させてX線を発生させるターゲットと、スキャン中に、前記電子源に印加する電圧を前記第1の電圧又は前記第2の電圧とし、前記第1の電圧によるX線の発生と前記第2の電圧によるX線の発生とを交互に繰り返すように前記電子源電源及び前記加速器電源を制御するスキャン制御手段と、前記スキャン制御手段からの制御信号に応じて、前記スキャンによって得られるデータが、前記第1の電圧によって前記ターゲットで発生されるX線に基づくものであるか、又は、前記第2の電圧によって前記ターゲットで発生されるX線に基づくものであるかを判断し、その判断に応じたデータ収集を行なうデータ収集手段と、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るX線CT装置によると、被検体の構成元素の違いを映像化し、例えば、石灰化した組織部と造影剤による血管の像を十分に分離することができる。
【0019】
また、本発明に係るX線CT装置によると、十分な診断画質を得ながら被検体のX線被曝を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態のX線CT装置を示すハードウェア構成図。
【図2】本実施形態のX線CT装置におけるX線発生器の構成例を示すブロック図。
【図3】本実施形態のX線CT装置におけるX線源の構造例を示す図。
【図4】従来のX線CT装置におけるX線発生器の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るX線CT装置の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
本実施形態のX線CT装置には、X線源とX線検出器とが1体として被検体の周囲を回転する回転/回転(ROTATE/ROTATE)タイプと、リング状に多数の検出素子がアレイされ、X線源のみが被検体の周囲を回転する固定/回転(STATIONARY/ROTATE)タイプ等様々なタイプがあり、いずれのタイプでも本発明を適用可能である。ここでは、現在、主流を占めている回転/回転タイプとして説明する。
【0022】
また、入射X線を電荷に変換するメカニズムは、シンチレータ等の蛍光体でX線を光に変換し更にその光をフォトダイオード等の光電変換素子で電荷に変換する間接変換形と、X線による半導体内の電子正孔対の生成及びその電極への移動すなわち光導電現象を利用した直接変換形とが主流である。
【0023】
加えて、近年では、X線源とX線検出器との複数のペアを回転リングに搭載したいわゆる多管球型のX線CT装置の製品化が進み、その周辺技術の開発が進んでいる。本実施形態のX線CT装置では、従来からの一管球型のX線CT装置であっても、多管球型のX線CT装置であってもいずれにも適用可能である。ここでは、一管球型のX線CT装置として説明する。
【0024】
図1は、本実施形態のX線CT装置を示すハードウェア構成図である。
図1は、本実施形態のX線CT装置1を示す。X線CT装置1は、大きくは、スキャナ装置11及び画像処理装置12から構成される。X線CT装置1のスキャナ装置11は、通常は検査室に設置され、被検体(人体)Oの撮影部位に関するX線の透過データを生成するために構成される。一方、画像処理装置12は、通常は検査室に隣接する制御室に設置され、透過データを基に投影データを生成して再構成画像の生成・表示を行なうために構成される。
【0025】
X線CT装置1のスキャナ装置11は、X線発生器21、X線検出器22、絞り23、DAS(data acquisition system)24、回転部25、コントローラ26、絞り駆動装置27、回転駆動装置28、天板29、及び天板駆動装置(寝台装置)30を設ける。
【0026】
X線発生器21は、大きくは、X線源31、直流電源32、及び高周波電源33(図2に図示)によって構成される。X線源31は、直流電源32から印加された電圧に応じて発生されたX線をX線検出器22に向かって照射する。X線源31から照射されるX線によって、ファンビームX線やコーンビームX線が形成される。直流電源32は、コントローラ26による制御によって、X線の照射に必要な電力をX線源31に供給する。なお、X線発生器21についての具体的な構成については後述する。
【0027】
X線検出器22は、チャンネル方向に複数行、スライス方向(列方向)に1列のX線検出素子を有する1次元アレイ型のX線検出器である。又は、X線検出器22は、マトリクス状、すなわち、チャンネル方向に複数行、スライス方向に複数列のX線検出素子を有する2次元アレイ型のX線検出器22(マルチスライス型検出器ともいう。)である。X線検出器22は、X線発生器21のX線源31から照射され、被検体Oを透過したX線を検出する。
【0028】
絞り23は、絞り駆動装置27によって、X線源31から照射されるX線のスライス方向の照射範囲を調整する。すなわち、絞り駆動装置27によって絞り23の開口を調整することによって、スライス方向のX線照射範囲を変更できる。
【0029】
DAS24は、X線検出器22の各X線検出素子が検出する透過データの信号を増幅してデジタル信号に変換する。DAS24の出力データは、画像処理装置12に供給される。
【0030】
回転部25は、スキャナ装置11の架台(図示しない)に収容され、X線発生器21のX線源31、X線検出器22、絞り23及びDAS24を一体として保持する。回転部25は、X線源31とX線検出器22とを対向させた状態で、X線源31、X線検出器22、絞り23及びDAS24を一体として被検体Oの周りに回転できるように構成されている。
【0031】
コントローラ26は、CPU(central processing unit)、及びメモリによって構成される。コントローラ26は、画像処理装置12から入力された制御信号に基づいて、X線発生器21、DAS24、絞り駆動装置27、回転駆動装置28、及び天板駆動装置30等の制御を行なって、エネルギー分布の異なるX線を切り替えながら行なうデュアルエナジースキャン等のスキャンを実行させる。
【0032】
絞り駆動装置27は、コントローラ26による制御によって、絞り23におけるX線のスライス方向の照射範囲を調整する。
回転駆動装置28は、コントローラ26による制御によって、回転部25がその位置関係を維持した状態で空洞部の周りを回転するように回転部25を回転させる。
天板29は、被検体Oを載置可能である。
【0033】
天板駆動装置30は、コントローラ26による制御によって、天板29をz軸方向に沿って移動させる。回転部25の中央部分は開口を有し、その開口部の天板29に載置された被検体Oが挿入される。なお、回転部25の回転中心軸と平行な方向をz軸方向、そのz軸方向に直交する平面をx軸方向、y軸方向で定義する。
【0034】
X線CT装置1の画像処理装置12は、コンピュータをベースとして構成されており、病院基幹のLAN(local area network)等のネットワークNと相互通信可能である。画像処理装置12は、図示しないが、CPU、メモリ、HDD(hard disc drive)、入力装置、及び表示装置等の基本的なハードウェアから構成される。
【0035】
画像処理装置12は、スキャナ装置11のDAS24から入力された生データに対して対数変換処理や、感度補正等の補正処理(前処理)を行なって投影データを生成する。また、画像処理装置12は、前処理された投影データに対して散乱線の除去処理を行なう。画像処理装置12は、X線照射範囲内の投影データの値に基づいて散乱線の除去を行なうものであり、散乱線補正を行なう対象の投影データ又はその隣接投影データの値の大きさから推定された散乱線を、対象となる投影データから減じて散乱線補正を行なう。画像処理装置12は、補正された投影データを基に再構成画像を生成する。
【0036】
図2は、本実施形態のX線CT装置1におけるX線発生器21の構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、X線発生器21は、X線源31、直流電源32、及び高周波電源33を備える。
【0037】
X線発生器21のX線源31は、電子源(エミッタ)41、線形加速管42、及びターゲット(回転陽極)43を備える。
【0038】
電子源41は、直流電源32によって電圧が印加されることで、電子eを放出する。電子源41としては、フィラメントを加熱して熱電子を放出させる熱電子放出型、又は、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノ構造体(CNX)に電界を加えて、電子を放出させる電界放射型が挙げられる。
【0039】
線形加速管42は、中央に穴の開いた3枚の銅板と、銅板の間にある、電子eの進行方向に2段の絶縁筒(共振器)とによって構成される。線形加速管42は、線形加速管42内を進行する電子eの進行方向がターゲット43の回転軸Rとほぼ平行になるように配置される。線形加速管42は、両端の2枚の銅板を接地電位とする。線形加速管42は、高周波電源33によって高周波電力が供給されることで、管内に進行波を発生させ、電子源41から取り出した電子eの進行軌道を曲げずに電子eを直線的に加速させる。なお、図2では、線形加速管42が電子eの進行方向に2段の絶縁筒を備える場合について説明するが、その場合に限定されるものではく、絶縁筒の段数を増やすことにより、電子eの加速エネルギーを増大させることもできる。
【0040】
ターゲット43は、円盤形状であり、X線を発生する際に回転軸Rを中心に回転することで、高温にさらされる電子eの衝突面を常に移動させて衝突面の実面積を増大させることで、自身の溶解を防ぐ構造を有する。ターゲット43は、一般的には、タングステン金属の板によって形成される。ターゲット43は、線形加速管42で加速された電子eを衝突させ、制動X線を発生させる。なお、ターゲット43は、回転陽極に限定されるものではなく、固定陽極であってもよい。
【0041】
直流電源32は、コントローラ26による制御の下、電子源41及び線形加速管42の一端の電極との間に印加される直流電圧を切り替え、電子源41から線形加速管42に進入する電子eの量を切り替える。線形加速管42側を接地電位とし、電子源41にマイナスの電圧を印加すると、線形加速管42側は、電子源41に対してプラス電位となり、電子源41から電子eを取り出すことができる。電子eの量は、電子源41に印加する電圧によって制御することができる。
【0042】
高周波電源33は、コントローラ26による制御の下、線形加速管42に供給される高周波電力を切り替える。高周波電源33は、線形加速管42に供給する高周波電力を切り替えることで、線形加速管42内に発生する進行波の速度を切り替え、電子eの加速エネルギーを切り替える。
【0043】
次に、図2を用いて、デュアルエナジースキャン中に発生するX線のエネルギー分布を切り替える方法について説明する。
【0044】
デュアルエナジースキャン中、コントローラ26による制御の下、直流電源32が電子源41にマイナスの第1の電圧を印加することで、電子源41から電子eが取り出される。また、高周波電源33が線形加速管42に第1の高周波電力を供給することで、電子源41から放出された電子eが電子エネルギー80[keV]まで加速される。線形加速管42から排出された電子eがターゲット43に衝突すると、ターゲット43で制動X線が発生される。発生されたX線のエネルギー分布は、X線源31に代用されるX線管に80[kV]の管電圧を印加する場合に発生されるX線と同じものである。
【0045】
続いて、デュアルエナジースキャン中、コントローラ26による制御の下、電子源41に印加される第1の電圧を、電子源41から取り出す電子eの量を第1の電圧を印加する場合と比較して1/3に減らすような、第1の電圧より低いマイナスの第2の電圧に切り替える。直流電源32が電子源41に第2の電圧を印加することで、電子源41から電子eが取り出される。また、高周波電源33が線形加速管42に第2の高周波電力を供給することで、電子源41から放出される電子eが電子ネルギー140[keV]まで加速される。線形加速管42から排出された電子eがターゲット43に衝突することで、ターゲット43で制動X線が発生される。発生されたX線のエネルギー分布は、X線源31に代用されるX線管に140[kV]の管電圧を印加する場合に発生されるX線と同じものである。
【0046】
さらに続いて、デュアルエナジースキャン中、コントローラ26による制御の下、電子源41に印加される第2の電圧を、第1の電圧に切り替える。
【0047】
以上のように電子源41に印加される電圧を繰り返し切り替えることで、デュアルエナジースキャンが実行される。デュアルエナジースキャン中、コントローラ26による制御の下、直流電源32によって印加される電圧と、高周波電源33によって供給される高周波電力とを切り替えることで、ターゲット43で発生するX線のエネルギー分布と量を高速に切り替えることができる。よって、この制御により、デュアルエナジースキャンの1view毎にX線のエネルギー分布を切り替えることができ、被検体Oを構成する元素を分離して映像化することができる。
【0048】
なお、上記の例では、電子eの加速エネルギーを80[keV]と140[keV]としたが、これに限ったものではなく、分離したい元素の性質にあわせ、変化させることができる。また、1view毎の電子eの加速エネルギーは2種類に限ったものではなく、3種類以上とし、複数の元素の分離した画像を得ることもできる。
【0049】
直流電源32、及び高周波電源33に対するコントローラ26の制御信号(切替信号)は、DAS24にも送られる。よって、DAS24は、デュアルエナジースキャンによって収集したデータが、電子源41に対する第1の電圧によってX線源31から照射されたX線に基づくものか、また、電子源41に対する第2の電圧によってX線源31から照射されたX線に基づくものかを判断可能である。したがって、画像処理装置12では、異なったエネルギーにより被検体Oを透過したX線を検出したデータから、被検体Oの構成元素の違いを映像化し、例えば、石灰化した組織部と造影剤による血管の像をある程度分離することができる。
【0050】
図3は、X線源31の構造例を示す図である。
線形加速管42をターゲット43の回転軸Rと平行に配置すると、回転部25(図1に図示)の厚みが増してしまう。これは、ターゲット43を支持するベアリングの強度の関係で、ターゲット43の回転軸Rと回転部25の回転軸とを平行にする必要があるからである。
【0051】
そこで、図3に示すX線源31は、線形加速管42内を進行する電子eの進行方向がターゲット43面とほぼ平行になるように線形加速管42を配置し、また、線形加速管42から排出された電子eを曲げてターゲット43に衝突するように偏向磁石44を配置する。偏向磁石44は、電磁石で実現し、図示しない電源によって励磁させ、偏向量を調節できるように構成してもよい。
【0052】
図3に示すような線形加速管42とターゲット43との位置関係をとることで、回転部25の厚みを薄くすることができ、ひいては、スキャナ装置11の架台の厚みを薄くすることができる。架台の厚みを薄くすることは、被検体Oに圧迫感をあたえないため、また、X線CT装置1自体の設置面積を少なくするために重要である。
【0053】
本実施形態のX線CT装置1によると、X線発生器21に、高周波電源33及び線形加速管42を備えることで、高電圧を切り替える必要がない。よって、本実施形態のX線CT装置1によると、X線源31で発生するX線のエネルギーを高速に切り替えることができるので、被検体Oの構成元素の違いを映像化し、例えば、石灰化した組織部と造影剤による血管の像を十分に分離することができる。
【0054】
また、本実施形態のX線CT装置1によると、高周波電源33及び線形加速管42を備え、また、電子源41から放出される電子eの量を制御することで、X線源31から照射されるX線の量を電子的に制御できる。よって、X線CT装置1によると、エネルギー分布の異なるX線を発生させるデュアルエナジースキャンを必要最小限のX線照射で行なうことができ、被検体Oに照射するX線の量を一定に保つことができるので、十分な診断画質を得ながら被検体OのX線被曝を約1/2と大幅に低減することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 X線CT装置
11 スキャナ装置
12 画像処理装置
21 X線発生器
24 DAS
31 X線源
32 直流電源
33 高周波電源
41 電子源
42 線形加速管
43 ターゲット
44 偏向磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する電子源と、
前記電子源に第1の電圧及び第2の電圧を印加可能な電子源電源と、
前記第1の電圧によって前記電子源から放出された電子を加速させる加速器と、
前記電子源に前記第1の電圧を印加する場合、前記加速器に第1の高周波電力を供給する一方、前記電子源に前記第2の電圧を印加する場合、前記加速器に第2の高周波電力を供給する加速器電源と、
前記加速器から排出された電子を衝突させてX線を発生させるターゲットと、
スキャン中に、前記電子源に印加する電圧を前記第1の電圧又は前記第2の電圧とし、前記第1の電圧によるX線の発生と前記第2の電圧によるX線の発生とを交互に繰り返すように前記電子源電源及び前記加速器電源を制御するスキャン制御手段と、
前記スキャン制御手段からの制御信号に応じて、前記スキャンによって得られるデータが、前記第1の電圧によって前記ターゲットで発生されるX線に基づくものであるか、又は、前記第2の電圧によって前記ターゲットで発生されるX線に基づくものであるかを判断し、その判断に応じたデータ収集を行なうデータ収集手段と、
を有することを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
前記加速管内を進行する前記電子の進行方向が前記ターゲット面と略平行となるように前記加速管を配置し、
前記加速管から排出された前記電子を前記ターゲットに偏向する磁石をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記ターゲットは、前記電子の衝突面が回転するように回転する構成とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記加速管は、前記ターゲットの回転軸と略平行に配置されるように構成されることを特徴とする請求項3に記載のX線CT装置。
【請求項5】
前記電子源は、熱電子放出型又は電界放射型の構成を有し、
前記電子源電源は、前記電子源と前記加速器との間に前記第1の電圧又は前記第2の電圧を印加することにより、前記電子源が放出する前記電子の量を制御することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−167467(P2011−167467A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36430(P2010−36430)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】