説明

huTNFR1選択的拮抗剤

本発明は、ヒト腫瘍壊死因子1型受容体(huTNFR1)と特異的に結合するリガンドであって、人間においてリガンドの免疫原性応答を低減させることができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列と、huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数のアミノ酸配列とを含むリガンドに関する。本発明はさらに、前記リガンドをコードしている核酸、およびhuTNFR1に関係する障害を治療するための医薬組成物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト腫瘍壊死因子1型受容体(huTNFR1)と特異的に結合するリガンドであって、人間においてリガンドの免疫原性応答を低減させることができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列と、huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数のアミノ酸配列とを含むリガンドに関する。本発明はさらに、前記リガンドをコードしている核酸、およびhuTNFR1に関係する障害を治療するための医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
TNFは、炎症およびアポトーシスを調節する主要なサイトカインである。細胞種および環境状況に応じて、TNFは、相反する効果、すなわち免疫刺激または免疫抑制を有することができ、また、TNFはアポトーシスおよびアポトーシス耐性を媒介することができる(Locksley他、Cell、2001年、第104号、487〜501頁;Aggarwal B.B.、Nat.Rev.Immunol.、2003年、第3号、745〜756頁)。ヒトにおいて、TNFは自然免疫系および炎症反応の機能を全体的に調節する重要なサイトカインであるが、いくつかの慢性および急性疾患の中心的な病原性媒介物質としても認識されている。具体的には、関節リウマチ(RA)、クローン病および潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、乾癬、ならびにそれぞれTNFおよびTNFR1の過剰発現に関連するケルビム症および周期熱症候群などのいくつかの稀な遺伝性疾患(Chatzantoni K、Mouzaki A.、Curr.Top.Med.Chem.、2006年、第6号、1707〜1714頁;Ueki他、Cell、2007年、第128号、71〜83頁;Simon A.、Van der Meer J.W.、Am.J.Physiol.Regul.Integr.Comp.Physiol.2007年、第292号、R86〜R98頁)では、TNF系は病理学的に関連性のある媒介物質として同定されている。いわゆるサイトカイン症候群をもたらす劇症のウイルスまたは細菌感染症ではTNFが決定的に関連していることが知られており、敗血症性ショックおよび多臓器不全の媒介物質としてのその重大な役割は十分に記載されている。TNFはまた、いくつかの他の疾患、特に肥満症および2型糖尿病を含めた代謝性疾患(Hotamisligil G.S.、Nature、2006年、第444号、860〜867頁;Storz他、FEBS Lett.、1998年、第440号、41〜45頁)ならびにいくつかの形態の肝炎(Kusters他、Eur.J.Immunol.、1997年、第27号、2870〜2875頁)にも関連づけられている。さらに、TNFは、特定の癌の局所的治療においてその治療活性が知られているにもかかわらず、他の悪性疾患において、恐らくはNF−κB媒介性のアポトーシス耐性および他の生存経路を介する腫瘍促進因子とみなされている(Luo他、Antibody engineering methods and protocols、2004年、Humana Press、Towota、135〜159頁)。したがって、臨床治験では、特定の血液悪性疾患(例えばAML)の治療レジメンとしての抗TNF戦略も現在開発中である。機構的観点からは、TNFRノックアウトマウスを含めた数々のモデルにおいて、TNFR1がTNFの病理学的表現型の主要な媒介物質であることが実証されている(Locksley他、Cell、2001年、第104号、487〜501頁;Aggarwal他、Nat.Rev.Immunol.、2003年、第3号、745〜756頁)。
【0003】
いくつかの慢性炎症性疾患では、TNF中和試薬、具体的には抗TNF抗体および可溶性TNFR−Fc融合タンパク質が臨床的に幅広く適用されている。TNF作用と干渉する3つの薬物が認可されている:Remicade(VilcekおよびFeldmann、2004年)(Centocor/Tanabe)、Enbrel(Immunex/Wyeth)およびHumira(Celltech/Abbott)。これらの薬物はすべて、TNF自体を標的とする。薬物は、関節リウマチ(RA)、若年性RA、乾癬性関節炎、クローン病および強直性脊椎炎の治療に認可されている。TNFを標的とする薬物はRAに対して大きな成功を示しているが、治療効果は限定された期間のみであり、一部の患者は抗TNF抗体の治療に対して先天的に不応性であるか、または耐性を発生する。さらに、例えばクローン病におけるヒト化TNF特異的モノクローナル抗体であるCDP571を用いた臨床治験の結果は、予想よりも有望性が確実に低く、TNF/TNFR系を標的とする新しい概念および試薬の開発が要求されている。
【0004】
予想される全身的な免疫抑制の他に、認可された抗TNF薬は、抗dsDNA抗体の産生、ループスおよび神経炎症性疾患などの副作用もさらに示す。全身的なTNF遮断下にある患者の免疫抑制状態は、共生生物を含めた感染症の危険性の増加に関連している。「Lenercerpt study」(1999年)では、疾患状態が改善ではなく悪化したため、MSを治療するための抗TNF剤の臨床治験を中止しなければならなかった。当時は予想外の有害応答であったこのことの機構的背景は、現在ではより明確になっており、TNFR1シグナルが神経細胞死を伝播し、TNFR2シグナルがミエリンシートの再生を活性化するという、この疾患におけるTNFR1およびTNFR2の異なる役割に関連している。全体的に、以下に概要を示すように、TNF作用の受容体選択的標的化を目的とする新しい治療戦略が、多くの場合にTNFシグナル伝達の全身的な遮断よりも優位であるべきだという証拠が増えている。例えば、以下に詳述する一部の動物疾患モデルでは、TNF作用の矛盾する効果は、明確に異なる受容体、TNFR1およびTNFR2の異なる機能によって説明される。受容体レベルにおけるTNFの作用の機構に関して得られた知識は、現在実際に、受容体の一方の薬理学的遮断を目的とする新しい治療戦略を開き、したがって、より特異的な効果を潜在的にもたらす。
【0005】
例えば、網膜虚血は、網膜ニューロンがTNF誘発性のアポトーシスを受けて盲目を引き起こす糖尿病の合併症である。TNFR2ノックアウトマウスの網膜はアポトーシスの増加を示したが、TNFR1ノックアウトマウスの網膜は野生型と比較して低下したアポトーシスを示した(Fontaine他、J.Neurosci.、2002年、第22号、RC216)。
【0006】
同様に、EAEは多発性硬化症(MS)の動物モデルである。これは、ミエリンに対する初期の自己免疫炎症によって特徴づけられている。ミエリン特異的反応は後に鎮静するが、他のエピトープが自己免疫抗原として引き継がれる。TNFノックアウトマウスが示すミエリンに対する初期の炎症性反応はより弱いが、ミエリン特異的免疫反応は鎮静しない。TNFR1ノックアウトマウスでは、初期の炎症性反応は同等に低下しているが、その後鎮静し、このことは、TNFR2がTNFの長期的免疫抑制性機能を媒介するために十分である一方で、炎症性反応はTNFR1によって媒介されることを示している(Kassiotis G.、Kollias G.、J.Exp.Med.、2001年、第193号、427〜434頁;Kollias他、Curr.Dir.Autoimmun.、2002年、第5号、30〜50頁;Owens他、Nat.Med.、2001年、第7号、161〜166頁)。
【0007】
同様に、多発性硬化症(MS)の脱髄/再生期に似ている毒素(クプリゾン)誘発性の可逆的CNS脱髄のマウスモデルでは、毒素を取り除いた際の再ミエリン化プロセスがTNF依存性であり、オリゴデンドロサイト前駆体の増殖および成熟ミエリンシートへと分化してオリゴデンドロサイトを形成することを始動するTNFR2シグナル伝達が選択的に必要であるという、説得力のある証拠が存在する(Arnett他、Nat.Neurosci.、2001年、第4号、1116〜1122頁)。オリゴデンドロサイト再生のTNF依存性に関するこれらの発見は、MSに罹患しているヒトにおける状況を反映している。TNFR1−Fc融合タンパク質を用いてMSにおける完全なTNF遮断を目的とする臨床治験では、TNFの遮断は、治療上の利点ではなく疾患の悪化に関連しており、これは上述の動物モデルの結果と一致している。
【0008】
さらに、例えばマウスの皮質ニューロンは、神経伝達物質グルタミン酸によってNMDA受容体を明白に始動させた際に、興奮毒性死で死滅した。グルタミン酸は、脳卒中で起こるものなどの虚血状態(酸素欠乏)の際に、死滅する組織から放出される。ニューロンの初代培養は、P13K−AKT−NF−κB経路に関与するTNFR2依存性の様式で、興奮毒性死に対して完全に耐性であるように作製することができる。対照的に、TNFR1シグナルはグルタミン酸誘発性の細胞死を増大し(Marchetti他、J.Biol.Chem.、2004年、第279号、32869〜32881頁)、これは、CNSにおけるTNFR1およびTNFR2の異なる役割を示している。
【0009】
したがって、急性および慢性両方の神経変性、網膜虚血、脳卒中モデルならびに多発性硬化症の様々なモデルにおいて、TNFの完全な遮断は明らかな治療効果は有さず、むしろ直接的に有害であるか、または患部組織の再生能力を低下させる。したがって、炎症性TNFRであるTNFR1の特異的遮断およびTNFR2機能の維持が、これらの疾患の有望な治療手法を表す。
【0010】
同様に、関節リウマチ(RA)、乾癬、ならびにそれぞれTNFおよびTNFR1の過剰発現に関連するケルビム症および周期熱症候群などのより稀な遺伝性疾患のいずれにおいても、TNFR1は、病理学的に関連性のある受容体としてみなされているか、または明白にそのように同定されている。TNFR1および2の異なる役割は、患者の一部分のみが抗TNF治療学に応答するクローン病およびSLE(Komata他、Tissue Antigens、1999年、第53号、527〜533頁)においても明らかとなり、それぞれ治療に対する耐性および疾患罹患率が、どちらもTNFR2の突然変異(複数可)に関連している。
【0011】
したがって、TNFR1を標的とするために受容体選択的抗体を使用することが、これらの慢性炎症性疾患における確立された抗TNF戦略の代替方法を表す。これは、治療サイクルを繰り返した際に抗TNF試薬に対して不応性となる患者において、特に関連度が高いと考えられる。さらに、全体的かつ継続的なTNFの遮断が自然免疫および獲得免疫の応答の機能不全に関連しているため、感染症による合併症の危険性はこれらの患者において相当に増加している。TNFR1との選択的干渉がTNFR2を介したTNF応答を維持し、このことは、患者の全体的な免疫能にとって利点となるであろう。
【0012】
強力な治療レジメンとしての選択的TNFR1遮断の裏付けは、ヒトTNFR1に特異的な拮抗性マウスモノクローナル抗体(mab)H398のin vitroおよびin vivo機能の、本発明者らの以前の研究による(Thoma他、J.Exp.Med.、1990年、第172号、1019〜1023頁;Grell他、Cell、1995年、第83号、793〜802頁;Moosmayer他、Ther.Immunol.、1995年、第2号、31〜40頁)。このマウス抗体およびその組換えマウスscFv誘導体は、TNFとヒトTNFR1との結合の競合的阻害によって、広範囲のTNF活性をin vitroで中和することができる。mabは、ヒヒにおける細菌誘導性致死的ショック症候群の予防に有効であることが示され、H398がこの種のTNFR1と交差反応性を示す。TNF依存性の慢性疾患における抗体H398の治療上の有効性は、抗体がマウス由来であり、治療サイクルを繰り返した際にマウス抗体に対する急性の有害反応および/または免疫応答の急速な発生の危険性があるため、臨床治験で評価することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Locksley他、Cell、2001年、第104号、487〜501頁
【非特許文献2】Aggarwal B.B.、Nat.Rev.Immunol.、2003年、第3号、745〜756頁
【非特許文献3】Chatzantoni K、Mouzaki A.、Curr.Top.Med.Chem.、2006年、第6号、1707〜1714頁
【非特許文献4】Ueki他、Cell、2007年、第128号、71〜83頁
【非特許文献5】Simon A.、Van der Meer J.W.、Am.J.Physiol.Regul.Integr.Comp.Physiol.2007年、第292号、R86〜R98頁
【非特許文献6】Hotamisligil G.S.、Nature、2006年、第444号、860〜867頁
【非特許文献7】Storz他、FEBS Lett.、1998年、第440号、41〜45頁
【非特許文献8】Kusters他、Eur.J.Immunol.、1997年、第27号、2870〜2875頁
【非特許文献9】Luo他、Antibody engineering methods and protocols、2004年、Humana Press、Towota、135〜159頁
【非特許文献10】VilcekおよびFeldmann、2004年
【非特許文献11】「Lenercerpt study」(1999年)
【非特許文献12】Fontaine他、J.Neurosci.、2002年、第22号、RC216
【非特許文献13】Kassiotis G.、Kollias G.、J.Exp.Med.、2001年、第193号、427〜434頁
【非特許文献14】Kollias他、Curr.Dir.Autoimmun.、2002年、第5号、30〜50頁
【非特許文献15】Owens他、Nat.Med.、2001年、第7号、161〜166頁
【非特許文献16】Arnett他、Nat.Neurosci.、2001年、第4号、1116〜1122頁
【非特許文献17】Marchetti他、J.Biol.Chem.、2004年、第279号、32869〜32881頁
【非特許文献18】Komata他、Tissue Antigens、1999年、第53号、527〜533頁
【非特許文献19】Thoma他、J.Exp.Med.、1990年、第172号、1019〜1023頁
【非特許文献20】Grell他、Cell、1995年、第83号、793〜802頁
【非特許文献21】Moosmayer他、Ther.Immunol.、1995年、第2号、31〜40頁
【非特許文献22】Jones他、1986年、Nature、321、522〜525頁
【非特許文献23】Kashmiri他、2005年、Methods、36、25〜34頁
【非特許文献24】Roguska他、1994年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、91、969〜973頁
【非特許文献25】Hwang他、2005年、Methods、36、35〜42頁
【非特許文献26】Hellendorn他、2004年、Cancer Cell International、4(補遺I)、20頁
【非特許文献27】Boado他、2007年、Bioconjug.Chem.、印刷前の電子出版
【非特許文献28】Sambrook他、1989年
【非特許文献29】Kontermann他、1997年
【非特許文献30】Urlaub他、1983年
【非特許文献31】Jespers他、1994年、Biotechnology
【非特許文献32】WhiteleggおよびRees、2000年、WAM−an improved algorithm for modelling antibodies on the Web.Prot.Eng.13、819〜824頁
【非特許文献33】http://vbase.mrc−cpe.cam.ac.uk/
【非特許文献34】O’Brien S.、Jones T.、Antibody engineering,a lab manual、Springer、2001年、567〜590頁
【非特許文献35】Lo B.K.C.、Antibody engineering,methods and protocols、Humana Press、2004年、135〜159頁
【非特許文献36】Martin A.C.R.、Antibody engineering,a lab manual、Springer、2001年、422〜439頁
【非特許文献37】Martin A.C.R.、Antibody engineering,a lab manual、Springer、2001年、567〜590頁
【非特許文献38】Grell他、EMBO J.、1999年、第18号、3034〜3043頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、患者においてTNF拮抗剤としてヒトTNFR1(huTNFR1)と有効かつ特異的に相互作用し、人間に投与した際に免疫原性応答が低減する(すなわち耐性になる)新規物質の必要性が存在する。
【0015】
したがって、本発明の根底にある技術的問題は、様々なTNF媒介性障害を治療するための治療剤として人間における適用に適したTNF作用の拮抗剤としての新規の低免疫原性huTNFR1−リガンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、上述の問題は、(i)ヒトにおいて前記huTNFR1−リガンドの免疫原性応答を低減させることができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列と、(ii)huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数の非ヒト由来アミノ酸配列とを有するタンパク質構築物を含むhuTNFR1−リガンドを提供することによって解決される。
【0017】
本明細書中では、用語「huTNFR1−リガンド」とは、ヒトTNF1型受容体(huTNFR1)と選択的に結合することができ、同時に、人間に投与した場合に低減された免疫原性応答を示す、任意の分子または分子群を意味する。huTNFR1と結合することによって、前記huTNFR1−リガンドは、TNFおよびとりわけTNFR1の天然リガンドであるリンフォトキシンα(LTα)に対する拮抗剤として作用する。
【0018】
本明細書中で使用する用語「huTNFR1」は、ヒトTNF1型受容体自体に関連するだけでなく、huTNFR1に構造的および/または機能的に関連する、その任意の一部分または任意の他の受容体も含まれる。
【0019】
表現「低減された免疫原性応答」とは、もっぱら非ヒト由来アミノ酸配列だけを含むhuTNFR1−リガンドの免疫原性応答と比較して低減された免疫原性応答を意味する。もっぱら非ヒト由来アミノ酸配列だけを含むhuTNFR1−リガンドの例には、げっ歯類由来などの非ヒト哺乳動物由来のペプチド、タンパク質および核酸、例えばマウス抗体が含まれる。
【0020】
本明細書中で使用する表現「タンパク質構築物」は、特に限定されず、1つまたは複数のペプチド結合、好ましくはペプチド配列を含み、huTNFR1と結合する一方で、人間において低減された免疫原性応答を示す、任意の分子または分子群を意味する。本発明によるタンパク質構築物は、核酸ならびに糖または脂肪酸などの有機および無機化合物をさらに含み得る。さらに、タンパク質構築物は、融合タンパク質などの、共有または非共有結合によって独立して会合している分子群を含み得る。本発明の別の実施形態によれば、タンパク質構築物は、さらなる分子、例えば、ポリエチレングリコールまたはメトキシポリエチレングリコールとさらにカップリングしていてもよく、すなわち、PEG化されていてもよい。
【0021】
本発明によるhuTNFR1−リガンドおよび/またはタンパク質構築物は、例えば、適切なプラスミドまたはベクターの構築および微生物もしくは任意の高等生物中での発現を含む組換え方法、または固相ペプチド合成などの自動ペプチド合成などの、当業者に知られている任意の適切な方法によって産生し得る。
【0022】
本明細書中で使用する表現「ヒト由来アミノ酸配列」とは、人体内で見つけることができるアミノ酸配列を意味する。しかし、この表現は、厳密に人体内で見つけることができるアミノ酸配列だけには限定されず、ヒトアミノ酸配列と50%以上の類似度を有するアミノ酸配列も含まれる。ヒト由来アミノ酸配列の具体的な例は、ヒト抗体に含まれるアミノ酸配列またはその断片である。
【0023】
さらに、本明細書中で使用する表現「非ヒト由来アミノ酸配列」とは、非ヒト哺乳動物などの非ヒト動物中で見つけることができる任意のアミノ酸配列を意味する。例えば、非ヒト由来アミノ酸配列は、非ヒト抗体、例えばマウス抗体の配列であり得る。
【0024】
本発明のタンパク質構築物では、例えば患者における免疫原性の危険性を低下させるヒト由来アミノ酸配列の利点を、例えばマウス抗体H398で見つかるものなどの、非ヒト由来アミノ酸配列のhuTNFR1に対する選択性と組み合わせる。
【0025】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドの別の実施形態によれば、タンパク質構築物は、ヒト化抗体または少なくとも1つのその断片を含む。
【0026】
本明細書中で使用する用語「抗体」とは、抗体を、人間に対する免疫原性応答が低減した状態で人間に投与することができる限りは、天然抗体、突然変異抗体および(半)合成抗体を含めた、抗原と結合することができる任意の種類の抗体を意味する。好ましい実施形態では、抗体またはその断片は、例えば組換え核酸技術によって得ることができるヒト化抗体(「ヒト化組換え抗体」)もしくは少なくとも1つのその断片または抗体様組換えタンパク質である。例として、それだけには限定されないが、断片は、ダイアボディ、scFv−Fc融合タンパク質、およびscFv−CH3融合タンパク質などの抗体様組換えタンパク質中に含まれていてもよい。
【0027】
抗体もしくは少なくとも1つのその断片、または抗体様組換えタンパク質は、huTNFR1との相互作用に負の効果を与えない限りは、付加、欠失または置換されたアミノ酸または核酸などの1つまたは複数の突然変異または変異を含み得る。さらに、抗体もしくは少なくとも1つのその断片、または抗体様組換えタンパク質は、huTNFR1の相互作用に正の効果を与え、前記分子の拮抗活性を向上させる、付加、欠失または置換されたアミノ酸または核酸などの1つまたは複数の突然変異または変異を含み得る。具体的には、そのような突然変異した変異体は、より良好な親和性および/またはより良好な阻害活性を有する。
【0028】
本発明によれば、用語「断片」とは、1つ(一価)または2つ(二価)の抗原(huTNFR1)結合部位を介して所望の抗原と結合する能力を有する限りは、上記に定義した抗体の任意の一部分を意味する。さらに、本発明の断片は、前記抗体からのいくつかの異なる部分を含み得る。タンパク質分解または組換えによって産生した抗体の一価断片の例には、抗原結合断片(Fab)、単鎖可変断片(scFv)、可変断片(Fv)、ジスルフィド安定化Fv(dsFv)、免疫グロブリン重鎖の可変ドメイン(VH)、免疫グロブリン軽鎖の可変ドメイン(VL)、相補性決定領域(CDR)、およびその組合せが含まれる。タンパク質分解処理したまたは組換えの本発明の二価断片の例には、F(ab)、ダイアボディ、scFv−Fc融合タンパク質、およびscFv−CH3融合タンパク質が含まれる。
【0029】
例えば、抗体または少なくとも1つのその断片は、マウス抗体H398に由来するヒト化抗体または少なくとも1つのその断片であり得る。
【0030】
抗体が所望の抗原と結合する限りは、抗体のヒト化の技術に制限はない。ヒト化の例には、それだけには限定されないが、相補性決定領域移植(CDR移植)(Jones他、1986年、Nature、321、522〜525頁)、特異性決定残基移植(SDR移植)(Kashmiri他、2005年、Methods、36、25〜34頁)、可変ドメインの再表面化(Roguska他、1994年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、91、969〜973頁)、構造に基づく選択およびCDR移植によるヒト化(Hwang他、2005年、Methods、36、35〜42頁)、ならびに脱免疫化戦略(Hellendorn他、2004年、Cancer Cell International、4(補遺I)、20頁)が含まれる。
【0031】
本明細書中で使用する表現「ヒト化抗体」とは、タンパク質工学を用いて、例えば、げっ歯類抗体の定常領域および/または可変ドメインフレームワークまたはフレームワーク残基をヒト抗体中で見つかる配列と交換することによって、外来(「非ヒト」)タンパク質配列の量を減らした任意の抗体を意味する。
【0032】
本発明の具体的な実施形態では、上記に定義したhuTNFR1−リガンドのタンパク質構築物は、ヒト由来および非ヒト、例えばげっ歯類由来のアミノ酸配列を含むヒト化抗体であり得る。
【0033】
本明細書中で使用する用語「scFv」とは、例えば、セリン、グリシン、または任意の他の天然もしくは非天然のアミノ酸からなるペプチドなどのリンカーで一緒に連結された、任意の免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域の融合体を意味する。
【0034】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドのさらなる実施形態では、少なくとも1つの断片は、Fab領域、scFv、前記断片の遺伝子操作または翻訳後プロセシングされた組換え誘導体、および前記断片の化学修飾された誘導体からなる群から選択される。
【0035】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドの具体的な実施形態によれば、少なくとも1つの断片は、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含むscFvである。
【0036】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドのさらなる実施形態では、タンパク質構築物は、huTNFR1との結合をもたらす、配列番号1〜6からなる群から選択される相補性決定領域(CDR)のうちの1つもしくは複数、またはその一部分を含み、前記CDRは、上記のタンパク質構築物の(ii)に概要を示すように、好ましくはhuTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数の非ヒト由来アミノ酸配列内に含まれる。
【0037】
配列番号1〜6のものなどの、上記に定義したhuTNFR1−リガンドのCDRは、任意の組合せで存在してもよく、例えば前記CDRのうちの2つ、3つ、4つ、5つまたは6つが存在し得る。さらに、リガンドがヒトTNFR1に対して十分な親和性を示し、人間に投与した場合に低減された免疫原性応答を可能にする限りは、CDRのうちの任意のものの複数コピーまたは遺伝的変異体が本発明のhuTNFR1−リガンド中に存在し得る。
【0038】
huTNFR1−リガンドの具体的な実施形態によれば、タンパク質構築物は、重鎖の可変ドメイン(VH)として配列番号7に記載のアミノ酸配列および軽鎖の可変ドメイン(VL)として配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む。
【0039】
本発明のさらに別の実施形態では、上記に定義したhuTNFR1−リガンドは、生物学的に許容される化合物との特異的相互作用を可能にするさらなるタグを含む。huTNFR1−リガンドとhuTNFR1との結合または人間に投与した場合の免疫原性応答に対する負の効果が存在しないか、または許容できるものである限りは、本発明で使用可能なタグに関して明確な制限はない。適切なタグの例には、Hisタグ、Mycタグ、FLAGタグ、Strepタグ、カルモジュリンタグ、GSTタグ、MBPタグ、およびSタグが含まれる。
【0040】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドの別の実施形態では、タンパク質構築物は、翻訳後化学結合または組換え遺伝子技術によってそれと非共有結合したまたはそれと共有結合した、生物学的に許容される化合物をさらに含む。
【0041】
本明細書中で使用する表現「生物学的に許容される化合物」は、特に限定されず、生きた生物などの生物学的環境で使用可能な任意の化合物を意味し、前記生物学的に許容される化合物の製薬上の許容も含まれる。本発明の生物学的に許容される化合物の例は、それだけには限定されないが、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、ならびに他の有機および無機化合物である。生物学的に許容される化合物は、好ましくは、さらなる正の効果、例えば、溶解度の増強、安定性の延長、拮抗活性の向上、ならびにin vivo半減期の増加、組織浸透の増加、血液脳関門の通過および毒性の低下などの薬物動態学的特性の向上等の、生化学的/生物物理学的特性の向上を発揮する。
【0042】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドの薬物動態学的特性の向上を目的とする具体的な一実施形態によれば、生物学的に許容される化合物は、血清タンパク質からなる群から選択される。
【0043】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドの別の実施形態では、生物学的に許容される化合物はアルブミンである。具体的な実施形態によれば、生物学的に許容される化合物はヒト血清アルブミン(HSA)である。
【0044】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドのさらなる実施形態では、生物学的に許容される化合物は、アルブミン結合ドメイン(例えば細菌由来)、天然もしくは非天然のアミノ酸からなるアルブミン結合ペプチド、アルブミン結合活性を有する1つもしくは複数のアシル鎖、ポリエチレングリコールまたはメトキシポリエチレングリコールを含む。上記に定義したhuTNFR1−リガンドのさらなる実施形態では、生物学的に許容される化合物は、血清成分(例えばアルブミン)と結合する、血清タンパク質成分または天然もしくは合成のリガンドに特異的な別の抗体またはその断片を含む。
【0045】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドの薬物動態学的特性の向上を目的とするさらなる具体的な実施形態では、生物学的に許容される化合物は、細胞表面分子または細胞外マトリクス成分を標的とする別の抗体を含む。例として、抗HIR(ヒトインスリン受容体)または抗TR(トランスフェリン受容体)抗体が、血液脳関門を介した能動輸送および化合物の脳内への送達に使用されている(Boado他、2007年、Bioconjug.Chem.、印刷前の電子出版)。
【0046】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドの機能的活性の向上を目的とするさらなる具体的な実施形態では、生物学的に許容される化合物は、上記に定義したhuTNFR1リガンドによって認識されるものとは明確に異なるTNFR1の別のエピトープと結合することで、全体的な結合(結合力)およびこの二重特異性試薬の選択性を増加させる抗体を含む。
【0047】
上記に定義したhuTNFR1−リガンドの別の具体的な実施形態によれば、タンパク質構築物は配列番号10に記載の融合タンパク質を含む。
【0048】
本出願のさらなる態様は、上記に定義したhuTNFR1−リガンドをコードしている核酸に関する。
【0049】
本発明による核酸は、特に限定されず、DNAまたはRNAを含み得る。核酸は、例えば蛍光標識またはHisタグなどの、検出または単離手順で使用する配列をさらに含み得る。核酸は、人工のDNA、RNAまたはPNA構成単位などの人工の構成単位をさらに含み得る。さらに、本発明による核酸は、組換えまたは固相合成などの化学合成等の任意の適切な方法で産生し得る。
【0050】
本発明の別の態様は、上記に定義した核酸配列を含むベクターに関する。本発明のベクターは、適切な宿主細胞の形質移入に使用することができ、異種遺伝子発現に適している限りは、特に限定されない。
【0051】
ベクターを構築するために使用する方法は当業者に周知であり、様々な出版物に記載されている。具体的には、プロモーター、エンハンサー、終結およびポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製起点、スプライシングシグナル、およびリーダー配列などの機能的構成要素の説明を含めた、適切なベクターを構築するための技術は、(Sambrook他、1989年)およびそれ中に引用される参考文献にかなり詳細に総説されている。ベクターには、それだけには限定されないが、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体(例えばACE)、MARベクター、またはバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、バクテリオファージなどのウイルスベクターが含まれ得る。原核発現に適したベクターの例にはpAB1が含まれる(Kontermann他、1997年)。真核発現ベクターはまた、典型的には、細菌内での選択のための複製起点および抗生物質耐性遺伝子などの、細菌内でのベクターの増殖を促進する原核配列も含み得る。1つまたは複数のポリヌクレオチドをその内に作動可能に連結させることができるクローニング部位を含む様々な真核発現ベクターが当分野で周知であり、その一部は、Stratagene、カリフォルニア州、La Jolla;Invitrogen、カリフォルニア州、Carlsbad;Promega、ウィスコンシン州、Madison;BD Biosciences Clontech、カリフォルニア州、Palo Alto;Lonza Biologics PLC、英国、Berkshire州、Sloughなどの企業から市販されている。真核ベクターの例は、pCDNA3、pSecTag、およびpEE6.4である。
【0052】
好ましい実施形態では、発現ベクターは、目的のペプチド/ポリペプチド/タンパク質をコードしているヌクレオチド配列の転写および翻訳に必要な調節配列である少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0053】
本発明のさらなる態様は、上記に定義した核酸または上記に定義したベクターを含む宿主細胞に関する。本発明の宿主細胞は、特に限定されず、huTNFR1−リガンドおよび/またはタンパク質構築物もしくはその一部分の産生に使用可能なすべての細胞が含まれる。本発明に適した宿主細胞の例には、様々な種由来の酵母、植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞などの真核細胞および原核細胞、ならびにトランスジェニック生物全体(トランスジェニック植物、トランスジェニック動物)が含まれる。原核細胞の例には、大腸菌、TG1、およびシュードモナス種が含まれる。動物細胞の例には、ハムスター細胞、好ましくは、BHK21、BHK TK−、CHO、CHO−K1、CHO−DUKX、CHO−DUKX B1、およびCHODG44細胞またはそのような細胞系の任意のものの誘導体/子孫が含まれる。本発明のさらなる実施形態では、宿主細胞は、ネズミ骨髄腫細胞、好ましくは、NS0およびSp2/0細胞またはそのような細胞系の任意のものの誘導体/子孫である。本発明によるhuTNFR1リガンドの発現に使用できる哺乳動物細胞の例を表1に要約する。
【0054】
【表1】

【0055】
宿主細胞は、樹立させ、適応させ、無血清条件下、必要に応じてすべての動物由来のタンパク質/ペプチドを含まない培地中で完全に培養した場合が最も好ましい。ハムF12(Sigma、ドイツ、Deisenhofen)、RPMI−1640(Sigma)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Sigma)、最小必須培地(MEM;Sigma)、イスコブ変法ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)、CD−CHO(Invitrogen、カリフォルニア州、Carlsbad)、CHO−S−Invtirogen)、無血清CHO培地(Sigma)、およびタンパク質を含まないCHO培地(Sigma)などの市販の培地が、例示的な適切な栄養液である。どの培地にも、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、表皮成長因子、インスリン様成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコースまたは他の同等のエネルギー源、抗生物質ならびに微量元素を例とした、様々な化合物を添加し得る。任意の他の必要な添加物も、当業者に知られている適切な濃度で含め得る。本発明では、無血清培地の使用が好ましいが、適切な量の血清を添加した培地も宿主細胞の培養に使用することができる。選択可能な遺伝子を発現する遺伝子改変した細胞の増殖および選択には、適切な選択剤を培地に加える。
【0056】
さらに、治療上有効な量の上記に定義したhuTNFR1−リガンドと、必要に応じて、製薬上許容される担体、製薬上許容される塩、補助剤、安定化剤、希釈剤および溶媒、またはその任意の組合せからなる群から選択される1つまたは複数の追加の成分とを含む、医薬組成物を提供する。
【0057】
別の実施形態によれば、上記に定義した医薬組成物は、関節リウマチ、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎ならびに他の慢性炎症性および/または自己免疫疾患、急性の劇症のウイルスまたは細菌感染症、代謝性疾患、急性神経変性疾患、好ましくは多発性硬化症、パーキンソン病およびアルツハイマー病から選択される慢性神経変性疾患、好ましくは周期熱症候群およびケルビム症から選択される、TNF/TNFR1が原因の病理媒介物質である遺伝性疾患、ならびに癌の治療に使用可能である。
【0058】
本発明のhuTNFR1−リガンドは、上述したものなどの任意のTNF関連障害を治療するための医薬品の調製にさらに使用し得る。
【0059】
さらに、関節リウマチ、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎ならびに他の慢性炎症性および/または自己免疫疾患、急性の劇症のウイルスまたは細菌感染症、代謝性疾患、急性神経変性疾患、好ましくは多発性硬化症、パーキンソン病およびアルツハイマー病から選択される慢性神経変性疾患、好ましくは周期熱症候群およびケルビム症から選択される、TNF/TNFR1が原因の病理媒介物質である遺伝性疾患、ならびに癌から選択される疾患に罹患している患者を治療する方法であって、治療上有効な量の上記に定義したhuTNFR1−リガンドを、それを必要としている患者に投与するステップを含む方法を提供する。
【0060】
本発明によれば、上記に定義したhuTNFR1−リガンドは、機能的に等価なhuTNFR1特異的抗体をヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリから単離することで前記試薬の潜在的な免疫原性をさらに最小限にするための、現況技術(Jespers他、1994年、Biotechnology)に従った誘導選択手順に使用し得る。
【0061】
したがって、本発明の別の態様によれば、上記に定義したタンパク質構築物を鋳型として使用した誘導選択によって得ることができる、(i)ヒトにおいてhuTNFR1−リガンドの免疫原性応答を低減させることができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列と、(ii)huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数のアミノ酸配列とを有するタンパク質構築物を含むhuTNFR1−リガンドを提供する。
【0062】
さらに、人間に投与した場合に低減した免疫原性応答を有するhuTNFR1−リガンドを産生する方法であって、(a)上記に定義したタンパク質構築物を提供するステップと、(b)前記タンパク質構築物のアミノ酸配列、特に非ヒト由来アミノ酸配列のうちの1つまたは複数を鋳型として使用した誘導選択によって、huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列を同定するステップと、(c)ステップ(b)で同定したアミノ酸配列のうちの少なくとも1つまたは複数を含む前記リガンドを構築するステップとを含む方法を提供する。
【0063】
本発明の別の態様は、本質的にヒト由来またはヒト由来のみであるアミノ酸配列を含む別の低免疫原性huTNFR1−リガンドの同定および構築における誘導選択の鋳型としての、(i)ヒトにおいて前記huTNFR1−リガンドの免疫原性応答を低減させることができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列と、(ii)huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数の非ヒト由来アミノ酸配列とを有するタンパク質構築物を含むhuTNFR1−リガンドの使用に関する。
【0064】
図は、以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】V(VH1−69=1−e=DP−88)およびV(A3=DPK15)の最も近いヒト生殖系列配列であるマウスモノクローナル抗体H398のVおよびV配列、ならびにCDR移植によって作製したヒト化VおよびV配列(IZI−06.1 VH、IZI−06.1 VL)のアラインメントを示す図である。H398とヒト生殖系列配列との間で異なるアミノ酸にアスタリスクで印を付けた。フレームワーク領域(FR)および相補性決定領域(CDR)を示す。
【図2】コドン最適化したIZI−06.1 VHおよびIZI−06.1 VL(上列)ならびに対応するアミノ酸(下列)のDNA配列を示す図である。それぞれのアミノ酸配列の最初と終わりの斜体の文字は、IZI−06.1 VHおよびIZI−06.1 VLに属さず、クローニング/プロセシングに使用されるアミノ酸配列に関連し、特定の制限酵素の切断部位を含む。
【図3】H398 Fv(薄い灰色)およびIZI−06.1 Fv(濃い灰色)の主鎖の重ね合わせモデル構造を示す図である。a)2つのモデル構造の側面図。b)CDR領域H1〜H3およびL1〜L3の上面図。モデルはWAM(WhiteleggおよびRees、2000年)WAM−an improved algorithm for modelling antibodies on the Web.Prot.Eng.13、819〜824頁)で作成した。構造はPymol(DeLano Scientific、米国カリフォルニア州San Carlos)で可視化した。
【図4】Fab断片を発現させる細菌ベクターを作製するためのクローニング戦略を示す図である。
【図5a】IMAC(1)調製後に非還元12%ゲルを用いたSDS PAGE後の、ニトロセルロース上のウエスタンブロットを示す図である。抗ヒトFab−APによる検出、標準手順に従ったAP染色、15μL試料をゲルに適用した。略記:PP=ペリプラズム抽出物、DL=IMACのフロースルー、W=洗浄画分、F=画分。
【図5b】12%ゲル上でのSDS PAGE後の、IMAC(1)精製のクマシー染色を示す図である。マーカーの左側は非還元ゲルを表し、右側は還元条件下のゲルを表す。試料体積は15μLであった。
【図6】受容体陽性細胞と結合するIZI−06.1−Fabの飽和結合曲線および誘導したスキャッチャードプロットを示す図である。非特異的結合は差し引いた。生じたデータにより、IZI−06.1−FabとTNFR1−Fasとの結合は飽和性かつ特異的であり、見かけの親和性がK=0.778nMであることが示される。
【図7】TNFR1の細胞外ドメイン(ED)および細胞死受容体Fasの細胞質ドメインからなるキメラ受容体、TNFR1−Fas(A)、またはTNFR2−EDおよびFasからなるキメラ受容体(TNFR2−Fas)(B)、またはTNFR1のシステインに富んだドメイン(CRD)1が欠失したキメラ受容体、ΔCRD1−TNFR1−Fas(CおよびD)、またはTNFR2のCRD1を含むTNFR1−Fas分子からなるCRD1交換突然変異体、CRD1TNFR2−TNFR1−Fas(EおよびF)を安定して発現するマウス胚性線維芽細胞のフローサイトメトリー分析を示す図である。これらの形質移入体を、氷上で2時間、2.5μg/mlのIZI−06.1−Fab(A〜C、E、白いヒストグラム)、TNFR1に特異的な抗体mAb225(DおよびF、白いヒストグラム)、TNFR2に特異的な抗体80M2(B、白+太字のヒストグラム)と共にインキュベーションしたか、または対照として二次抗体のみで処理した(灰色のヒストグラム)。インキュベーション緩衝液はPBA(PBS+0.05%のウシ血清アルブミン+0.02%のNaN3)であった。細胞をFITCで標識した二次抗体(80M2およびmAb225:ヤギ抗ネズミIgG;IZI−06.1 Fab:ヤギ抗HISタグ)と共にインキュベーションし、細胞をフローサイトメトリーによって分析した。生細胞について細胞にゲートをかけ、合計蛍光強度(MnX)をそれぞれの抗体について示す。(Con=対照値)。
【図8】IZI−06.1によるTNFR1阻害に関連する図を示す。処理の前日にKym I細胞を96ウェルプレートに播種した(10,000個の細胞/ウェル、RPMI1640+5%のFCS中)。翌日、細胞を3倍希釈ステップで100ng/mlのhuTNFを用いて処理した。対照はPBSの滴定であった。16時間後、細胞をクリスタルバイオレットアッセイによって分析した。OD吸光度を550nmで測定した。結果は対照(PBSで処理した細胞)の%として示す。上パネル:1.25ng/mlのhuTNFが最大毒性を誘発するために十分な用量であると推定された。下パネル:すべて3倍ステップで希釈した25μg/mlのH398、H398−Fabまたはヒト化H398−Fabと共に60分間プレインキュベーションした後、一定量の1.25ng/mlのhuTNF−を適用した。16時間後、細胞をクリスタルバイオレットアッセイによって分析した。OD吸光度を550nmで測定した。結果は対照の%として示す。
【図9】V−V(a)およびV−V(b)構成ならびにscFv−アルブミン融合タンパク質(c)におけるscFv IZI−06.1の組成を示す図である。すべての構築物は可溶性発現のためのN末端リーダー配列およびヘキサヒスチジルタグ(His6)を含み、scFv分子の場合はmycタグも含む。リンカー配列は黒いバーとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
本発明によるhuTNFR1−リガンドは高い特異性でヒトTNFR1と結合し、この受容体のCRD1と相互作用する。予想外に、huTNFR1−リガンドは非常に高い親和性でTNFR1と結合し、マウス抗体H398の親和性を有利に上回る。したがって、上述のヒトTNFR1リガンドは、天然に存在するリガンドのTNFR1、TNFおよびLTαに対する作用および生物活性を非常に効率的に妨げ、従来技術に記載のネズミH398抗体に対するその拮抗活性がより優れている。ヒト由来アミノ酸配列(複数可)の含有率により、このリガンドの免疫原性は有利に低い。したがって、本発明のhuTNFR1−リガンドは、リガンドに対する急性の有害反応および/または免疫応答の急速な発生の危険性がない一方で、同時にhuTNFR1に対する非ヒト由来アミノ酸配列の高い選択性および遮断効率から利点を得る、TNFR1に関係する障害に罹患している患者の治療を可能にする。
【0067】
本発明を以下の実施例でさらに例示するが、それだけには限定されない。
【実施例】
【0068】
[実施例1]
マウスモノクローナル抗体H398配列およびヒト生殖系列IgV遺伝子配列に基づいた抗TNF受容体1拮抗剤のin silico作製
H398重鎖可変ドメイン(V)および軽鎖可変ドメイン(V)のアミノ酸配列(Moosmayer他、Ther.Immunol.、1995年、第2号、31〜40頁)を用いて、Vベースデータベース(http://vbase.mrc−cpe.cam.ac.uk/)およびIgBlastを使用して類似のヒト生殖系列Vセグメントを検索した。この検索により、61.2〜62.2%の全体的な類似度を有するいくつかのV生殖系列配列(DP75、DP8、DP88)および80.0〜81.0%の類似度を有するいくつかのV生殖系列配列(DPK15、DPK13、DPK27、DPK28)が同定された。同定された配列をH398のVおよびVとアラインメントし、CDRのコンホメーションに重大なアミノ酸、V/V界面および微調整(Vernier)領域を記載されているように同定した(O’Brien S.、Jones T.、Antibody engineering,a lab manual、Springer、2001年、567〜590頁;Lo B.K.C.、Antibody engineering,methods and protocols、Humana Press、2004年、135〜159頁)。カバット、コチア、AbMおよびコンタクトの定義を使用してCDR領域を割り当てた(Martin A.C.R.、Antibody engineering,a lab manual、Springer、2001年、422〜439頁)。さらに、L1〜L3およびH1〜H2のカノニカルクラスは以下のように決定された:L1−4、L2−1、L3−1、H1−1、H2−3(Martin A.C.R.、Antibody engineering,a lab manual、Springer、2001年、567〜590頁)。CDR置換には、CDRは以下のように定義された:アミノ酸L24〜L34(CDRL1)、L46〜L56(CDRL2)、L89〜L97(CDRL3)、H26〜H35(CDRH1)、H47〜H65(CDRH3)、およびH95〜H102(CDRH33)。ヒトアクセプター配列として、本発明者らはV生殖系列セグメントVH1−69(1−e、DP88)およびV生殖系列セグメントA3(DPK15)を選択した。6つのCDRのすべてを、これらのヒト可変生殖系列セグメント内に挿入した(図1)。生じた独特の配列を、それぞれIZI−06.1 VH(配列番号7)およびIZI−06.1 VL(配列番号8)と命名した。
【0069】
[実施例2]
IZI−06.1 VHおよびIZI−06.1 VLのDNA配列の合成
2つのヒト化可変ドメイン(IZI−06.1 VH(配列番号7)、IZI−06.1 VL(配列番号8))をコードしているコドン最適化したDNAを、GeneArt(ドイツ、Regensburg)によって、適切なクローニング部位を付加して合成した(図2)。
【0070】
[実施例3]
H398およびIZI−06.1 Fv断片のモデル構造
ウェブ抗体モデリングサーバ(WAM)を使用して、H398およびIZI−06.1 Fvのモデル構造を作成した(Whitelegg N.R.J.、Rees A.R.、Web.Prot.Eng.、2000年、第13号、819〜824頁)。2つのモデル構造のアラインメントにより、わずかな歪みを示すCDRH3を例外として、CDRを含めたタンパク質の主鎖および側鎖のコンホメーションの高い一致が明らかとなった(図3)。したがって、H398モデルおよびIZI−06.1モデルのCDRH3の先端のAsp96は、抗原結合ポケットから外に約0.38nm移動している。
【0071】
[実施例4]
IZI−06.1のクローニングおよび一価Ig断片(Fabフォーマット)の構築
抗体IZI−06.1の可変重鎖および軽鎖ドメイン(V、V)をコードしている遺伝子をGeneArtによって合成し、適切なクローニング部位を含むベクターpPCR−Script(pPCR−Script−IZI−06.1−V、pPCR−Script−IZI−06.1−V)内に提供する。Fd断片(V−C1)(=構築物pAB1−IZI−06.1−Fd)のクローニングでは、プラスミドpPCR−Script−IZI−06.1−Vを制限酵素SfiIおよびXhoIで消化し、生じた断片を、同じ酵素で消化したベクターpAB1−C1(ヒト免疫グロブリンγ1重鎖のC1ドメインの遺伝子を含む)内にクローニングする。軽鎖(V−C)(=構築物pAB1−IZI−06.1−L)のクローニングには、プラスミドpPCR−Script−IZI−06.1−Vを制限酵素SfiIおよびAscIで消化し、生じた断片を、同じ酵素で消化したベクターpAB1−C1(ヒトCドメインの遺伝子を含む)内にクローニングする。ベクターにコードされているリボソーム結合部位(RBS)およびpelBリーダー配列が含まれる軽鎖遺伝子を、プラスミドpAB1−IZI−06.1−Lから、プライマーA(5’−GAC CAT GAT TAC GCC AAG CTT TCC ACG GCA TGC AAA TTC−3’)(配列番号11)およびB(5’−ACG ACG GCC AGT TCT AGA TTA ACA CTC TCC CCT GTT GAA−3’)(配列番号12)を用いて、PCRによって増幅する。このステップで、HindIIIおよびXbaI部位をそれぞれ5’および3’末端に導入する。PCR産物を制限酵素HindIIIおよびXbaIで消化し、同じ酵素で消化したプラスミドpAB1−IZI−06.1−Fd内にクローニングする。これにより、Fd断片のC末端にヘキサヒスチジルタグが含まれる抗体IZI−06.1のFab断片をコードしている、最終的な細菌発現プラスミドpAB1−IZI−06.1−Fabがもたらされる。
【0072】
[実施例5]
発現系
ベクター:pAB1(Kontermann他、1997年)
細胞:大腸菌TG1(Stratagene、米国、La Jolla)
基本原理:IZI−06.1 Fabの発現はPLacの制御下にあり、標準手順に従ってIPTGによって誘導する。選択はアンピシリン(bla−Gen)を添加することによって達成する。
【0073】
N末端peLBリーダー配列により標的遺伝子産物のペリプラズム発現が可能となり、前者はペリプラズム内でのタンパク質分解性プロセシングによって標的タンパク質から除去される。標的タンパク質(IZI−06.1)は、EDTAおよびリゾチームを用いて細菌細胞壁を不安定化した際に可溶性タンパク質として単離される。残りの細菌細胞を、細胞溶解を回避するためにサッカロース/MgSO緩衝液を用いてスフェロブラストとして浸透圧的に安定化させ、細胞を遠心分離によって分離する。
【0074】
発現:
手順:バッチの振盪フラスコ培養。
【0075】
前培養:50mLのLB培地+100μg/mLのアンピシリンおよび1%のグルコース、単一の大腸菌コロニーを接種。30℃、揺動プラットフォーム上(125rpm)で終夜インキュベーション。
【0076】
主培養:1LのLB培地+100μg/mLのアンピシリンおよび0.1%のグルコース、5%(V/V)の前培養物を接種。30℃、揺動プラットフォーム上(125rpm)でインキュベーション。OD600(約3時間のインキュベーション時間)で、IPTG(1mMの最終濃度)の添加によってタンパク質発現の誘導。発現時間は25℃で3.5時間であった。
【0077】
抽出:培養物を10分間、4000gで遠心。ペレットを50mLのペリプラズマ可溶化緩衝液PPA(PPA:30mMのトリス−HCl、1mMのEDTA、20%のサッカロース)に再懸濁。50μg/mLのリゾチームを加え、懸濁液を氷上で30分間インキュベーション。その後、18,000gで遠心分離することによってスフェロブラストを除去した。上清(ペリプラズマ抽出物)を200倍体積のPBSで終夜透析。
【0078】
この発現/抽出プロトコルの典型的な収量は、約1〜2mgのFab IZI−06.1/1Lの培養物である。
【0079】
[実施例6]
精製
基本原理:2回の連続的なIMACの実行、続いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による、3ステップの精製プロトコル。IZI−06.1はC末端のmyc−Hisタグを保有する(pAB1、クローニング戦略参照)。第1および第2の精製ステップはIMAC(固定金属イオンアフィニティークロマトグラフィー)である。Hisタグ内のヒスチジン残基は、セファロースマトリックス上のリガンドとキレート化したNiイオンと、特異的に結合する。第2のIMACステップは生成物を濃縮するためのものである。SECは、FPLC(ドイツ、Pharmacia)を用いて半調製様式で行う。このステップは、見かけ上の分子量に応じて分離し、標的タンパク質のより高分子の凝集体の分離、ならびにより高分子やより低分子のタンパク質および非タンパク質汚染物質の分離を可能にする。具体的には、折り畳みが誤ったおよび/またはプロセシングされていない標的タンパク質IZI−06.1は、SECでより高い見かけの分子量を示し、正しく折り畳まれた生物活性のある生成物から分離することができる。
【0080】
IMAC(1):
カラム:HiTrap 5mL(Niイオンキレート化)(Amersham Pharmacia)。
【0081】
適用:4×50mLのペリプラズム抽出物(透析)。
【0082】
流速:0.5〜1.0mL/分
洗浄画分:25mMのナトリウム−リン酸−緩衝液、pH8.0;0.5MのNaCl;25mMのイミダゾール、5倍体積(カラム)
溶出:25mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH8.0;0.5MのNaCl;500mMのイミダゾール
画分:8×3.5mL
IZI−06.1は主に画分2および3で溶出される(図5a、5b)。画分2〜4をプールし、500倍体積のPBSに対して透析した。生じた透析物を第2のIMACステップ(IMAC2)によって濃縮する。
【0083】
IMAC(2):
カラム:HisTrap 1mL(Niイオンキレート化)(Amersham Pharmacia)。
【0084】
適用:2×3mLのIMAC(1)の透析した画分(2回の実行)。
【0085】
流速:0.5〜1.0mL/分
洗浄画分:25mMのナトリウム−リン酸−緩衝液、pH8.0;0.5MのNaCl;25mMのイミダゾール、5倍体積(カラム)
溶出:25mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH8.0;0.5MのNaCl;500mMのイミダゾール
画分:8×1.0mL
SEC/FPLC:
カラム:Superdex 200(Pharmacia)
溶出液:PBS(滅菌濾過)
適用:200μLのIMAC(2)の画分2または3
流速:0.25mL/分
画分:Nr.1〜5:1mL、Nr.5〜35:0.5mL
IZI−06.1 Fabは、主に画分24/25(バイオアッセイによる活性なFab)、小量で画分20/21(活性のより低いFab、恐らくは主に折り畳みが誤ったタンパク質)中に存在する。
【0086】
[実施例7]
IZI−06.1 Fabの機能的活性
平衡結合研究による結合特徴、結合親和性の決定:
TNFR1に対する親和性を決定するために、放射標識したIZI−06.1 Fabを用いた飽和結合研究を4℃で行う。クロラミンT法を用いて、抗体を125ヨウ素で標識する。手短に述べると、10μgの精製したタンパク質を、リン酸緩衝液(pH7.4)中、室温で、3.7×10ベクレルのNa125IおよびクロラミンTと共にインキュベーションする。反応を二亜硫酸Naで停止させ、過剰のNaIおよび標識されたタンパク質を、PD10カラム(Pharmacia)を用いたゲル濾過によって分離する。1ml画分が収集される。タンパク質は画分2および3に溶出され、遊離125Iは画分7〜9で検出される。生じたタンパク質濃度は2.7μg/mlであり、放射活性は120,000cpm/ngである。生物活性物質は、一定量の標識したIZI−06.1 Fabを漸増する数のTNFR1−Fasを発現するマウス線維芽細胞と共にインキュベーションすることによって決定する。生じた双曲線を用いて、直線回帰によって1部位結合方程式を当てはめ、外挿された最大結合値(Bmax)は生物活性物質の%を表す(約10%)。この分析からのデータを用いて、以下の実験で適用された抗体の濃度を計算する。
【0087】
IZI−06.1 Fabの親和性(K値)を決定するために、200,000個のTNFR1−Fas陽性細胞を氷上で3時間、漸増濃度の標識したIZI−06.1(全体積150μl中に2.5〜50ng)と共にインキュベーションする。結合緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水+2%のウシ胎児血清+0.02%のNaNを使用する。非特異的結合は、細胞を180倍の相対濃度の標識していないIZI−06.1と共に同時インキュベーションすることによって決定する。結合した125I−Fabをγ線計数器で測定し、生じたデータを用いて、飽和結合定数Kを含む1部位結合双曲線に当てはめた:
結合=(Bmax×[IZIFab])/([IZIFab]+K
データの適合度は、スキャッチャードプロットとしても知られる線形化変換を行うことによって評価する。生じたデータにより、IZI−06.1とTNFR1との結合は飽和性かつ特異的であり、見かけの親和性がK=0.778nMであることが示される。
【0088】
受容体ドメインの交換/欠失およびFACS分析による結合特徴、TNFR1の選択性およびエピトープマッピング:
Hisタグの陽性IZI−06.1−Fabを用いて、TNFR1結合またはTNFR1−Fas結合のそれぞれの特異性、および抗体誘導体によって認識されるエピトープの特徴づけを決定する。図7Aは、間接免疫蛍光フローサイトメトリー分析を示す。IZI−06.1−Fabは、陰性対照と比較して、TNFR1−Fasキメラを発現する細胞を陽性に染色する(検出試薬:FITCで標識したHisに特異的な抗体。TNFR1特異的mab225を用いた間接IFと比較した、比較的低い染色強度(図7D)は、主に使用した二次検出試薬が異なること(Hisタグ特異的検出抗体対抗マウス−Ig検出抗体)によることが知られている。陰性対照と比較してTNFR2−Fasを発現する細胞上で特異的結合は起こらず、TNFR2に特異的な抗体80M2が陽性対照として役割を果たした(図7B)。膜遠位のシステインに富んだドメイン(CRD)1が除去されている、TNFR1−Fas構築物に対して陽性の細胞で特異的な染色は起こらなかった(図7C)。しかし、この構築物は、別のTNFR1に特異的なmabであるmab225によって容易に検出される(図7D)。さらに、膜遠位のCRD1がTNFR2のそれによって置き換えられている、機能的(シグナルコンピテント)TNFR1−Fas構築物を発現する細胞上で特異的な染色は起こらなかった(図7E)。ここでも、この受容体キメラは、TNFR1とCRD1外で結合することが知られているmab225によって容易に検出される。したがって、図7C〜Fに示すデータから、IZI−06.1はTNFR1のCRD1を認識すると結論することができる。本発明者らは、CRD1が、CRD2のコンホメーションに影響を与えることによってTNF結合に決定的に関与しており、後者がCRD3と一緒になって直接リガンド接触部位のうちの1つを提供することを知っている(本発明者らの未発表データ)。
【0089】
TNF作用の阻害:
精製したIZI−06.1 Fabを、TNF感受性が高く(100pg/mL sTNF未満のLD50、タンパク質合成の阻害は必要ない)、TNFR1およびTNFR2の両方を介して応答する(後者のシグナル経路は、NF−κBのシグナル伝達によって内在性TNF発現を誘発し、続いてTNFR1によって膜発現TNFのアポトーシスの自己向性シグナル伝達(autotropic signaling)を誘発することが、以前に示されている(Grell他、EMBO J.、1999年、第18号、3034〜3043頁))Kym−1ヒト横紋筋肉腫細胞系モデルにおいて、拮抗活性について試験する。IZI−06.1 Fabの拮抗活性を、マウスmab H398およびH398から酵素的に調製したFabと比較する。図8は、H398 Fabと比較して2〜4倍低い濃度での、IZI−06.1 FabによるKym−1細胞に対するTNFに媒介される細胞毒性作用の効率的かつ完全な遮断を示す。以前の結果から予想されるように、完全長mabは、一価Fabと比較してより低い濃度でより高い中和活性を示し、これは恐らく、二価試薬の解離速度(off rate)がより低い(結合力がより高い)ことが原因である。重要なことに、mab H398は、高濃度で拮抗剤から部分アゴニストへと変換されるため、この高感度なin vitroアッセイにおいてTNF活性の完全な遮断に達しない。このことは、TNFRの架橋結合が用量依存的に増加し、リガンドに依存しない機能的なTNFRシグナル伝達複合体が潜在的に形成されることによって説明される(Moosmayer他、Ther.Immunol.、1995年、第2号、31〜30頁も参照)
要約すると、本発明によれば、驚くべきかつ予想外の主要な特長の1つは、TNFR1特異的拮抗剤IZI−06.1 Fabが同じ特異性の既存のマウスFabと比較して、より優れたTNFR1遮断活性を示し、また、受容体架橋結合能力を完全に欠くために完全長mabよりも優れている、すなわち、IZI−06.1 Fabはすべての内在性のシグナル伝達潜在性を欠き、したがってTNFR1の真の拮抗剤であることである。
【0090】
[実施例8]
単鎖Fv IZI−06.1およびその誘導体
scFv IZI−06.1(V−V)のクローニングおよび発現:
scFv IZI−06.1(V−V)は、2ステップでファージミドベクターpHEN2内にクローニングして、ベクターにコードされている15残基のリンカー(GGGGSGGGGSGGSAQ)(配列番号13)、N末端のpelBリーダー配列ならびにC末端のmycタグおよびヘキサヒスチジルタグ(His6)を導入することによって作製する。可溶性発現には、scFvのコード配列は、pHEN2−scFv IZI−06.1(V−V)プラスミドDNAを制限酵素SfiIおよびNotIで消化し、生じた断片を同じ酵素で消化した発現ベクターpAB1内にクローニングすることによって得られる。発現および精製は以下のように行う。2Lの2×TY、100μg/mLのアンピシリン、0.1%のグルコースに、形質転換させたTG1の20mlの終夜培養物を接種し、対数期(OD600=0.8)まで37℃で増殖させた。1mMのIPTGを添加することによってタンパク質発現を誘導し、細菌をさらに3時間、室温で増殖させた。細胞を遠心分離によって収集し、100mlの30mMのトリス−HCl、pH8.0、1mMのEDTA、20%のスクロースに再懸濁させた。5mgのリゾチームを加えた後、細胞を氷上で15〜30分間インキュベーションする。10mMのMgSOを加えた後、細胞を10,000gで30分間、4℃で遠心分離する。上清をPBSに対して透析し、50mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5、500mMのNaCl、20mMのイミダゾールで平衡化したNi−NTAカラム(Qiagen、ドイツ、Hilden)上に添加する。洗浄ステップ(50mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5、500mMのNaCl、35mMのイミダゾール)の後、Hisタグ付けされた組換え抗体断片を、50mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5、500mMのNaCl、100mMのイミダゾールで溶出させる。タンパク質画分をプールし、PBSに対して透析する。タンパク質濃度を分光光度計によって決定し、それぞれのタンパク質で計算されたe値を用いて計算する。
【0091】
scFv IZI−06.1−アルブミン融合タンパク質のクローニングおよび発現:
scFv IZI−06.1(V−V)ヒトアルブミン融合タンパク質(配列番号10)は、プラスミドpAB1からのscFv IZI−06.1(V−V)をコードしているDNAを、SfiI−NotI断片として、ヒトアルブミンをコードしているcDNAを含むプラスミドpSecTagA−HSA内にクローニングすることによって作製する。プラスミドDNAを、Lipofectamin(商標)2000(Invitrogen、ドイツ、Karlsruhe)を用いてHEK293細胞内に形質移入した。安定な形質移入体は、ゼオシン(300μg/mL)で選択することによって作製される。細胞を、RPMI、5%のFCS中で、90%コンフルエントになるまで拡大増殖させる。タンパク質産生には、細胞をOpti−MEM(Invitrogen、ドイツ、Karlsruhe)中で培養し、培地を3日毎に3〜4回交換する。上清をプールし、タンパク質を硫安塩析(60%飽和)によって濃縮した後、Ni−NTAカラム(Qiagen、ドイツ、Hilden)上に添加する。IMACによる精製を上述のように行う。
【配列表フリーテキスト】
【0092】
配列番号7:IZI−06.1VH−ヒト化抗体断片
配列番号8:IZI−06.1VL−ヒト化抗体断片
配列番号9:scFv IZI−06.1 VH−VL−ヒト化抗体断片
配列番号10:scFv IZI−06.1ヒト血清アルブミン融合タンパク質
配列番号11:プライマーA
配列番号12:プライマーB
配列番号13:リンカー
配列番号14:IZI−06.1VH−ヒト化抗体断片VH
配列番号15:IZI−06.1VL−ヒト化抗体断片
配列番号16:scFv IZI−06.1−ヒト化抗体断片
配列番号17:scFv IZI−06.1ヒト血清アルブミン融合タンパク質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ヒトにおいてhuTNFR1−リガンドの免疫原性応答を低減させることができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列と、
(ii)huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数の非ヒト由来アミノ酸配列と
を有するタンパク質構築物を含むhuTNFR1−リガンド。
【請求項2】
タンパク質構築物がヒト化抗体または少なくとも1つのその断片を含む、請求項1に記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項3】
少なくとも1つの断片が、Fab領域、scFv、前記断片の遺伝子操作または翻訳後プロセシングされた組換え誘導体、および前記断片の化学修飾された誘導体からなる群から選択される、請求項2に記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項4】
少なくとも1つの断片が配列番号9に記載のアミノ酸配列を含むscFvである、請求項3に記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項5】
タンパク質構築物が、huTNFR1との結合をもたらす、配列番号1〜6からなる群から選択される相補性決定領域(CDR)のうちの1つもしくは複数、またはその一部分を含む、請求項1から4のいずれかに記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項6】
タンパク質構築物が、重鎖の可変ドメイン(VH)として配列番号7に記載のアミノ酸配列および軽鎖の可変ドメイン(VL)として配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1から5のいずれかに記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項7】
生物学的に許容される化合物との特異的相互作用を可能にするさらなるタグを含む、請求項1から6のいずれかに記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項8】
タンパク質構築物が、翻訳後化学結合または組換え遺伝子技術によってそれと非共有結合したまたはそれと共有結合した、生物学的に許容される化合物をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項9】
生物学的に許容される化合物が、血清タンパク質からなる群から選択される、請求項8に記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項10】
生物学的に許容される化合物がアルブミンである、請求項8または9に記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項11】
タンパク質構築物が、配列番号10に記載のヒト血清アルブミンとの融合タンパク質を含む、請求項8から10のいずれかに記載のhuTNFR1−リガンド。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のhuTNFR1−リガンドをコードしている核酸。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項14】
請求項12に記載の核酸または請求項13に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項15】
治療上有効な量の請求項1から11のいずれかに記載のhuTNFR1−リガンドと、必要に応じて、製薬上許容される担体、製薬上許容される塩、補助剤、安定化剤、希釈剤および溶媒、またはその任意の組合せからなる群から選択される1つまたは複数の追加の成分とを含む医薬組成物。
【請求項16】
関節リウマチ、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎ならびに他の慢性炎症性および/または自己免疫疾患、急性の劇症のウイルスまたは細菌感染症、代謝性疾患、急性神経変性疾患、好ましくは多発性硬化症、パーキンソン病およびアルツハイマー病から選択される慢性神経変性疾患、好ましくは周期熱症候群およびケルビム症から選択される、TNF/TNFR1が原因の病理媒介物質である遺伝性疾患、ならびに癌を治療するための、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
関節リウマチ、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎ならびに他の慢性炎症性および/または自己免疫疾患、急性の劇症のウイルスまたは細菌感染症、代謝性疾患、急性神経変性疾患、好ましくは多発性硬化症、パーキンソン病およびアルツハイマー病から選択される慢性神経変性疾患、好ましくは周期熱症候群およびケルビム症から選択される、TNF/TNFR1が原因の病理媒介物質である遺伝性疾患、ならびに癌から選択される疾患に罹患している患者を治療する方法であって、治療上有効な量の請求項1から11のいずれかに記載のhuTNFR1−リガンドを、それを必要としている患者に投与するステップを含む方法。
【請求項18】
請求項1から11のいずれか一項に記載のタンパク質構築物を鋳型として使用した誘導選択によって得ることができる、
(i)ヒトにおいて前記huTNFR1−リガンドの免疫原性応答を低減させることができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列と、
(ii)huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数のアミノ酸配列と
を有するタンパク質構築物を含むhuTNFR1−リガンド。
【請求項19】
人間に投与した場合に免疫原性応答が低減するhuTNFR1−リガンドを産生する方法であって、
(a)請求項1から11のいずれか一項に記載のタンパク質構築物を提供するステップと、
(b)タンパク質構築物のアミノ酸配列のうちの1つまたは複数をマトリックスとして使用した誘導選択によって、huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列を同定するステップと、
(c)ステップ(b)で同定したアミノ酸配列のうちの少なくとも1つまたは複数を含むリガンドを構築するステップと
を含む方法。
【請求項20】
本質的にヒト由来アミノ酸配列のみを含む別の低免疫原性huTNFR1−リガンドの同定および構築における誘導選択のマトリックスとしての、
(i)ヒトにおいて前記huTNFR1−リガンドの免疫原性応答を低減させることができる1つまたは複数のヒト由来アミノ酸配列と、
(ii)huTNFR1と選択的に結合することができる1つまたは複数の非ヒト由来アミノ酸配列と
を有するタンパク質構築物を含むhuTNFR1−リガンドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−521508(P2010−521508A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553952(P2009−553952)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002033
【国際公開番号】WO2008/113515
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(503096638)ユニヴェルシテート シュトゥットガルト (1)
【Fターム(参考)】