説明

l−メントール含有乳化香料

【課題】糖衣を施した粒ガムなどの製造する際に、糖衣中に配合したl-メントールの結晶析出を防止することのできるl-メントール含有乳化香料を提供する。
【解決手段】d-ネオメントールを含有することでl-メントールの結晶析出を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチューインガムの糖衣部分やハードキャンディなどの食品などに使用されるl-メントール含有乳化香料、詳細にはd-ネオメントールを含有することを特徴とするl-メントール含有乳化香料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
l-メントールを含有する香料は、チューインガム、ハードキャンディ、錠菓などに広く用いられており、独特の強い清涼感による眠気覚ましや口臭予防などを目的として、大きな市場を形成している。
最近の傾向として、チューインガムの場合は板ガムよりも、ガムに糖衣掛けを施した粒ガムの方が主流となりつつあるが、糖衣掛けはチューインガムの芯部分に、糖アルコールなどのシロップを幾重にも掛けては乾燥を繰り返して糖衣膜を形成し、コーティングする技術であり、通常はこの糖衣部分にl-メントールなどの香料が付与される。
この際に使用される香料は、シロップ中に分散している必要があり、l-メントールのような油性香料を使用する場合は、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤とアルコールを混合し、シロップ中に分散させる方法を取ることがある。
しかしながら、このような方法ではシロップに香料を添加した際に、すぐにl-メントールが結晶化し、充分な力価の香気を発現できなかったばかりか、夏場など高温の状態ではl-メントールが糖衣から揮発し、これが冷えた際に包み紙などに付着し、糖衣中のl-メントール含量を低下させ、商品価値も低下させることに繋がっていた。
【0003】
このような課題を解決する方法として、l-メントールなどの油溶性香料を、中鎖脂肪酸トリグリセライドと共に乳化剤により乳化して、糖衣掛けシロップに加える方法が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、この方法はレモンやフルーツなどの常温(20℃付近)で液体状の香料では有効であるが、l-メントールは融点42〜44℃の結晶であり、常温では乳化香料が固化してしまうため有効ではなかった。
また、仮にl-メントールの融点を下げるために、中鎖脂肪酸トリグリセライドなどの油性物質を常温で固化しない濃度まで添加すると、l-メントールの香気が当該油性物質で薄まってしまい、シャープな香気が出ないだけでなく、力価の弱い乳化香料となってしまい、これを大量に糖衣シロップに添加すると,糖の結晶化が妨げられて糖衣の物性が変化してしまうという問題が新たに生じてくる。
【0004】
l-メントールの結晶析出を抑制するために、l-メントールをシクロデキストリンでコーティングする方法(特許文献2)、ポリビニルピロリドン類を配合する方法(特許文献3)、乾燥顆粒にl-メントールを含有し、HLB10〜16の乳化剤を用いた乳化香料を噴霧した顆粒を打錠する方法(特許文献4)、香料組成物中にプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ソルビトールの1種以上を、l-メントール重量の10%以上含有させる方法(特許文献5)、および菌体内にl-メントールを内包した酵母マイクロカプセル化香料製剤とする方法(特許文献6)などが知られている。
しかしながら、これらの方法ではl-メントールの結晶析出を十分に防止することができなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−160435号公報
【特許文献2】特開昭61−129138号公報
【特許文献3】特開2000−247870号公報
【特許文献4】特開平9−233999号公報
【特許文献5】特開2003−81798号公報
【特許文献6】特開2005−211024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、l-メントールの結晶析出を防止したl-メントール含有乳化香料を提供することを目的とするもので、チューインガムの糖衣部分やハードキャンディなどに用いた際に、常温で固化せず、l-メントールの結晶析出を防止し、香味発現が極めて強く、さらにl-メントールの揮発も防止したl-メントール含有乳化香料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の発明者らは鋭意研究の結果、l-メントールにその異性体であるd-ネオメントールを含有した乳化香料とすることにより、乳化香料中のl-メントールの結晶析出を防止することができることを見出して、この発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、l-メントールにその異性体であるd-ネオメントールを含有することにより、l-メントールの結晶析出を防止したl-メントール含有乳化香料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、以下の態様を有するl-メントール含有乳化香料、及び乳化香料中のl-メントールの結晶化防止方法に関するものである。
(l-メントール含有乳化香料)
項1.d-ネオメントールを含有することを特徴とするl-メントール含有乳化香料。
項2. l-メントール100重量部に対して、d-ネオメントールを2〜50重量部含有する項1記載のl-メントール含有乳化香料。
項3.乳化粒子の大きさが0.5μm以下である、項1又は項2記載のl-メントール乳化香料。
【0010】
(乳化香料中のl-メントールの結晶化防止方法)
項4.d-ネオメントールを含有することを特徴とする、乳化香料中のl-メントールの結晶化防止方法。
項5. l-メントール100重量部に対して、d-ネオメントールを2〜50重量部含有する項4記載の乳化香料中のl-メントールの結晶化防止方法。
【0011】
本発明のl-メントール含有乳化香料は、d-ネオメントールを含有することを特徴とする。
メントール〔5−メチル−2−(1−メチルエチル)シクロヘキサノール〕には、3つの不斉炭素があるので、4つの立体異性体(メントール、ネオメントール、イソメントール、ネオイソメントール)と、これらのそれぞれに対してd体、l体、dl体の光学異性体があるので、合計12の異性体が存在する。
一般的に、食品香料でメントールといえばl-メントールを指し、l-メントールは融点42〜44℃の結晶で、通常針状または柱状結晶として製品化されている。
d-ネオメントールは1位のエピマーであり、融点は約−20℃とメントールの異性体の中では最も低いことが知られている。
また、d-ネオイソメントールも融点が低く−10℃であるが、d-イソメントールは融点が約80℃と高い。
和種ハッカから得られた精油中のメントールには、l-メントールが70〜90%、d-ネオメントールが1%程度の割合で存在している。
【0012】
本発明のl-メントール含有乳化香料は、l-メントールに対してd-ネオメントールを用いることにより、l-メントールの結晶析出を防止することができる。
この効果は、l-ネオメントールを用いても十分に得ることができないことを実験で確認している。
そのため、比較的多量のl-メントールを使用しても常温で固化することなく、安定な乳化香料を得ることができる。
本発明のl-メントール含有乳化香料に用いられるl-メントールの含有量は、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは20〜40重量%である。
また、d-ネオメントールの含有量は、l-メントール100重量部に対して、d-ネオメントールを2〜50重量部、好ましくは2〜30重量部、さらに好ましくは3〜20重量部である。
l-メントール100重量部に対して、d-ネオメントール1重量部含有ではl-メントールの結晶析出防止効果が十分ではなく、2重量部以上含有することでl-メントールの結晶析出防止効果を十分に奏することを実験で確認している。
即ち、メントール100重量部に対して、d-ネオメントールの含有量が2重量部より少ないと、l-メントールの結晶析出防止効果が十分ではなく、また、上限量は特に限定されないが、50重量部を越えるとl-メントール本来の清涼感を損ねるため、好ましくない。
【0013】
本発明のl-メントール含有乳化香料に用いられる乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート、アラビアガム、ガティガムなどが挙げられるが、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
これらの乳化剤の添加量は、l-メントール含有乳化香料の1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%である。
【0014】
本発明のl-メントール含有乳化香料には、本発明の効果を妨げない範囲において、糖アルコール(例えば、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、ラクチトールなど)、中鎖脂肪酸トリグリセライド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、天然精油(例えば、ペパーミントオイル、スペアミントオイル、アニスオイルなど)、香料成分(例えば、メントン、メンチルアセテート、カンファー、ボルネオールなど)、抗酸化剤、キレート剤、色素、ビタミン類、増粘多糖類などを含有していても良い
【0015】
本発明のl-メントール含有乳化香料は、前述の糖アルコールに乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなど)を溶解し、水やエタノールなどを加えて水相溶液とし、一方でl-メントール、d-ネオメントール、中鎖脂肪酸トリグリセライド、乳化剤(レシチンなど)などを溶解して油相溶液とし、両者を撹拌混合して、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化して製造することができる。
【0016】
本発明のl-メントール含有乳化香料中の乳化粒子の平均粒子径は、0.5μm以下であり、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下である。
高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化して、乳化粒子の平均粒子径を上記の大きさにすることにより、チューインガム類からのl-メントールの香味発現を促進し、増強効果を高めることができる。なお、乳化粒子の平均粒子径は小さいほど、香味の増強効果が大きい。
【0017】
本発明のl-メントール含有乳化香料が適用される製品としては、当該乳化香料を含有する錠菓、チューインガム(粒ガム、板ガムなど)、チョコレート、キャンディ、グミキャンディ、ゼリーなどの菓子類、歯磨剤や洗口液(マウスウオッシュ)などの口腔内組成物、経口用の錠剤や顆粒剤などの医薬品などが挙げられる。
【0018】
これらの製品に糖衣掛けが必要な際には、本発明のl-メントール含有乳化香料は、糖衣用のシロップに分散されて使用される。
糖衣用のシロップは、糖アルコール、アラビアガム、水などで調製することができるが、使用する糖アルコールとしては、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、ラクチトールなどが挙げられ、マルチトール、キシリトール又はソルビトールを用いることが好ましい。
【0019】
本発明の乳化香料中のl-メントールの結晶化防止方法は、d-ネオメントールを含有することを特徴とする。
d-ネオメントールの含有量は、乳化香料に含有されるl-メントールの量によるが、前記したように、l-メントール100重量部に対して、d-ネオメントールを2〜50重量部、好ましくは2〜30重量部、さらに好ましくは3〜20重量部含有することで、l-メントールの結晶化を防止することができる。
l-メントール100重量部に対して、d-ネオメントールの含有量が2重量部%より少ないと、l-メントールの結晶析出防止効果が十分ではなく、50重量部を越えるとl-メントール本来の清涼感を損ねるため、好ましくない。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、以下の表1の処方中で、特に記載のない限り単位は質量部である。
【0021】
実施例1
表1の処方に従い、マルチトールシロップにグリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルを溶解し、水とエタノールを加えて均一に混合して50℃に加熱した(水相)。
これを攪拌下、l-メントール、d-ネオメントール及びレシチンを60℃に加熱溶解し(油相)、上記水相に添加し攪拌混合した。
次いでAPV Gaulin社製の高圧ホモジナイザー15MR-8TAを用いて、圧力450kg/cm2で4回処理を行い、平均粒子径0.2μmのl-メントール含有乳化香料を得た。
【0022】
実施例2
l-メントールの配合量を30%にし、油相成分としてMCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)を2%加え、マルチトールシロップを減量した以外は実施例1と同様にして、平均粒子径0.2μmのl-メントール含有乳化香料を得た。
【0023】
比較例1
d-ネオメントールをl-メントールに置き換えて、d-ネオメントールを配合しない以外は実施例1と同様にして、平均粒子径0.2μmのl-メントール含有乳化香料を得た。
【0024】
比較例2
マルチトールシロップにグリセリン脂肪酸エステルを溶解し、水とエタノールを加えて均一に混合して50℃に加熱した(水相)。
これを攪拌下、l-メントールとMCTを60℃に加熱溶解し(油相)、水相に添加し攪拌混合した。次いでAPV Gaulin社製の高圧ホモジナイザー15MR-8TAを用いて、圧力450kg/cm2で4回処理を行い、平均粒子径0.3μmのl-メントール含有乳化香料を得た。
【0025】
比較例3
ホモジナイザー処理を行なわず、攪拌のみにて平均粒子径を1.2μmとした以外は実施例1と同様の配合組成、調製方法にてl-メントール含有乳化香料を得た。
【0026】
比較例4
エタノールにショ糖脂肪酸エステルとl-メントールを溶解して、l-メントール含有乳化香料を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
実験例1
実施例1〜2及び比較例1〜4で調製したl-メントール含有乳化香料を、20℃で2週間及び1ヶ月間静置保存し、保存後の状態を評価した。
結果を次の表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
比較例1は、20℃、2週間の保存でl-メントールの結晶化により、完全に乳化組成物が固まってしまった。
また、比較例2は、2週間保存ではl-メントールの結晶化は認められなかったが、1ヶ月保存で液中に細かなl-メントール結晶が認められた。
一方、実施例1、2及び比較例3、4は、20℃、1ヶ月の保存後も、l-メントールの結晶化が起こらないなど、状態に何ら変化は認められなかった。
実施例1、2及び比較例1、2との比較から、d-ネオメントールを配合することにより、l-メントールの結晶化を防止できることがわかる。
【0031】
実験例2
実施例1〜2及び比較例1〜4で調製したl-メントール含有乳化香料を、l-メントール配合量が1%となるように、マルチトールシロップ65部、アラビアガム5部、水35部からなる糖衣掛けシロップに添加し、コーティングパンを用いて粒型チューインガム100重量部に対し、糖衣掛けシロップ60重量部の割合で糖衣掛けを行い、糖衣チューインガムを製造した。
これを専門パネル8名にて、香味の強さ、香味発現の特徴、糖衣の質についてそれぞれ評価した。
結果を次の表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例1及び実施例2のl-メントール含有乳化香料を用いた糖衣チューインガムは、香味が非常に強く、早くシャープに香味が発現し、糖衣の質もパリパリとした歯ざわりで上質であった。
比較例1のl-メントール含有乳化香料を用いた糖衣チューインガムは、香味の強さ、発現は良好であったが、糖衣の質にはl-メントールの結晶化によるざらつきが見られた。
比較例2のl-メントール含有乳化香料を用いた糖衣チューインガムは、香味もやや弱く、トップ立ちの弱さが感じられた。また、糖衣の質はやや柔らかめの傾向にあった。
比較例3のl-メントール含有乳化香料を用いた糖衣チューインガムは、香味の強さ、香味発現の特徴、糖衣の質とも概ね良好であったが、実施例1や2の乳化香料を用いた糖衣チューインガムには及ばなかった。
比較例4のl-メントール含有乳化香料を用いた糖衣チューインガムは、実施例1、2の乳化香料を用いた糖衣チューインガムに比べると香味も弱く、遅めに発現し、メリハリのない香調で、糖衣の質もやや柔らかめの傾向にあった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、l-メントールの結晶析出を防止することのできるl-メントール含有乳化香料を提供することができ、糖衣を施した粒ガムなどの食品の製造などに利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
d-ネオメントールを含有することを特徴とするl-メントール含有乳化香料。
【請求項2】
l-メントール100重量部に対して、d-ネオメントールを2〜50重量部含有する請求項1記載のl-メントール含有乳化香料。
【請求項3】
乳化粒子の大きさが0.5μm以下である、請求項1又は2記載のl-メントール含有乳化香料。
【請求項4】
d-ネオメントールを含有することを特徴とする乳化香料中のl-メントールの結晶化防止方法。
【請求項5】
l-メントール100重量部に対して、d-ネオメントールを2〜50重量部含有する請求項4記載の乳化香料中のl-メントールの結晶化防止方法。

【公開番号】特開2010−51246(P2010−51246A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220048(P2008−220048)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】