説明

n−1,n−4系及び/又はn−7系不飽和脂肪酸類を含む脂質及びその製造方法

【課題】有用生理機能の可能性が大きい新規なn-4PUFAやn-7PUFAを含む脂質及びその製造方法を提供すること。
【解決方法】Calyptogena属二枚貝(cold-seep clam)、ナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformis)、シロウリガイ(Calyptogena soyoae)、スルガシロウリガイ(Calyptogena fausta)、シマイシロウリガイ(Calyptogena okutanii)の肉片を細かく粉砕し、クロロホルム−メタノール混合溶液により脂質成分を抽出して、新規なn-1PUFA、n-4PUFAやn-7PUFAを含む脂質を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品素材、化粧品素材、食品素材や研究用試薬としてのn-1,n-4およびn-7不飽和脂肪酸を含む脂質、及び該脂質を軟体動物等から抽出して得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水産脂質に多量に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n-3)やイコサペンタエン酸(EPA、20:5n-3)は、n-3不飽和脂肪酸(n-3PUFA)の一種で、ヒトの健康によい効果をもたらすことが明らかとなり、EPAは医薬品として認可され、DHAは特定保健用食品素材として利用されている。また、それらの前駆体であるα―リノレン酸(18:3n-3)は、大豆などの食物に含まれ、一連のこれらn-3PUFAは、有する生理機能から需要が急速に拡大しつつある。
【0003】
一方、リノール酸(18:2n-6)などのn-6不飽和脂肪酸(n-6PUFA)もヒトに必須とされ、特にアラキドン酸(20:4n-6)は、重要な脂肪酸で、自然界に純粋なものは少ないため、その供給源が探索されている。
【0004】
さらに、AckmanやMeadらは、n-7不飽和脂肪酸(n-7PUFA)の、n-6PUFAやn-3PUFAの代償機能を推定している(非特許文献1)。このように、n-4、n-7PUFAの生理機能はまだ明らかとなっていないが、n-3やn-6不飽和脂肪酸に類似する、あるいは異なる新規の有用機能が推定される。n-4PUFAやn-7PUFAのヒトに対する有用生理機能の可能性は非常に大きい。
【0005】
n-4、n-7不飽和脂肪酸の生成方法としては、アラキドン酸生産能を有する微生物を、バルミトレイン酸もしくはその誘導体、又はこれらを構成成分として含有する油脂を添加した培地で培養し、培養物からn-4、n-7不飽和脂肪酸を含む脂質を得る方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
このように、微生物によって一部のn-4、n-7不飽和脂肪酸が生産されることは知られていたが、他の種々のn-4、n-7不飽和脂肪酸は自然界にほとんど存在しないと考えられていた。
【0007】
脂質は、細胞を構成する基本物質として重要で、細胞膜を主にホスファチジルエタノールアミン(PE)やホスファチジルコリン(PC)などのリン脂質を中心とする極性脂質の二重層からなる。細胞膜脂質は、様々な重要な役割を担っており、特に、外界との境界として細胞の安定化に寄与し、ホメオスタシスに関与する。
これらの脂質は、種々の脂肪酸を主成分とし、なかでも、ポリエン酸(PUFA)は、PEやPCに含まれる最も重要な脂肪酸で、細胞膜流動性などの生命維持にかかわる重要な役割を担っている。
【0008】
また、表層から深海までの海洋のすべての動物は、有機物の生産者である表層の植物プランクトンの栄養に依存しているとされる。これらの栄養成分は、沈降物や動物プランクトンなどの日周鉛直移動により、表層から深海へもたらされている(非特許文献2)。海洋のすべての栄養は、光合成を行なう植物プランクトンやその共生微生物によって、直接・間接的に支えられている。
【0009】
脂質成分も同様で、海洋動物の殆どの種は、表層の一次生産者由来のドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n-3)やイコペンタエン酸(EPA、20:5n-3)などのn-3PUFAを相当量有している(非特許文献3)。これらのn-3PUFAは、食物連鎖の結果、上位の動物に受け渡され(非特許文献4)、脊椎動物をはじめ、甲殻類、軟体動物などの無脊椎動物に至るまで、ほとんどの海洋動物は、様々な種類のn-3PUFAを蓄積している。その上、n-3PUFAは、魚類や甲殻類に必須とされている。
DHAやEPAは、魚類を初めとする種々の海洋生物において。最重要脂肪酸であり、特にそれらの細胞膜脂質の主成分であることが明らかにされている(非特許文献1)。
【0010】
一方、1980年代から、世界中の深海に予想に反して高い密度の生物群集が発見されてきた。それらは、有しゅ動物、環形動物、節足動物などの多様性に富む種々の生物種からなる大きな群集である。それらの群集の栄養が徐々に明らかにされ、多くの種で、硫黄細菌やメタン細菌などの化学合成菌を共生させ、それらから栄養を得ていることが明らかとなった。この硫黄細菌やメタン細菌は、太陽エネルギーと全く関係なく、地球内部を由来とする湧水中の硫化水素などの化学成分やエネルギーを利用していることもわかってきたが、これら共生系の有する生体内化学成分に関しては、ほとんど明らかにされていなかった。
【特許文献1】特開2006−340733号公報
【非特許文献1】Ackman, R. G. [Ed.] 1989. Marine Biogenic Lipids, Fats, and OilsVol. I. CRC Press Inc.
【非特許文献2】Raymont, J. E. G. 1983. Vertical migration of zooplankton, p. 489-524. In J. E. G. Raymont, [Ed.], Plankton and Productivity in the Oceans Vol. 2, 2nd Ed. Pergamon Press Ltd.
【非特許文献3】Saito, H. et al. (1999) Influence of diet on fatty acids of three subtropical fish, subfamily Caesioninae(Caesio diagramma and C. tile) and family Siganidae (Siganus canaliculatus), Lipids., 34, 1073-1082..
【非特許文献4】Saito, H. et al. 2005. High docosahexaenoic acid levels in both neutral and polar lipids of a highly migratory fish: Thunnus tonggol Bleeker. Lipids, 40, 941-953.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、硫黄酸化細菌を共生する二枚貝である、Calyptogena属二枚貝(cold-seep clam)、ナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformis)、シロウリガイ(Calyptogena soyoae)、スルガシロウリガイ(Calyptogena fausta)、シマイシロウリガイ(Calyptogena okutanii)が、多種類のn-1PUFA,n-4PUFAやn-7PUFAを含む脂質を蓄積していることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
したがって、本発明の課題は、有用生理機能の可能性が大きい新規なn-1PUFA,n-4PUFAやn-7PUFAを含む脂質及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、硫黄酸化細菌を共生する二枚貝である、Calyptogena属二枚貝(cold-seep clam)、ナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformis)、シロウリガイ(Calyptogena soyoae)、スルガシロウリガイ(Calyptogena fausta)、シマイシロウリガイ(Calyptogena okutanii)の肉片を細かく粉砕し、クロロホルム−メタノール混合溶液により脂質成分を抽出し、得られた粗製全脂質をカラムクロマトグラフィーで分画して精製した。精製脂質の成分比率は、核磁気共鳴スペクトル法により定量した。
【0014】
このようにして得られた粗製全脂質と精製脂質を、メチルエステル化後、ガスクロマトグラフィー分析を行いそれぞれの脂肪酸組成を明らかにし、未知の脂肪酸はジメチルオキサゾリン(DMOX)誘導化し、GCMSによって化学構造を決定した。
なお、本願明細書では脂肪酸を国際生化学連合の表記法に準じた表記で表す。
例えば、9,12−オクタデカンジエン酸は、 『18:2n-6,9』 と表記する。
【0015】
その結果、上記二枚貝から抽出された脂質には、下記に示す新規なモノエン酸やPUFAを含んでいることが判明した。
[非メチレン中断型ジエン酸]
17:2n-4,8
19:2n-7,14
19:2n-6,14
19:2n-5,14
19:2n-4,8
20:2n-5,15
20:2n-4,15
20:2n-4,8
21:2n-8,16
21:2n-5,16
21:2n-1,16
22:2n-5,15
[非メチレン中断型ポリエン酸]
20:5n-1,4,7,10,15
21:4n-1,4,7,16
22:3n-7,10,15
22:3n-4,7,15
22:4n-4,7,10,17
22:4n-1,4,7,15
[メチレン中断型ジエン酸]
18:2n-4,7
20:2n-7,10
22:2n-7,10
24:2n-7,10
[モノエン酸]
17:1n-6
19:1n-14
19:1n-6
21:1n-8
24:1n-8

【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規化合物を含む脂質を簡単且つ大量に得ることができ、得られた脂質は、適切なカラムを使用することにより分画が可能であり、医薬品素材や研究用試薬、機能性食材としての利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明でいう「硫黄酸化細菌」とは、当該二枚貝と共生するもの(属種未同定)をいう。
【0018】
本発明でいう「硫黄酸化細菌を共生している二枚貝」とは、シロウリガイ類(非特許文献)をいう。
【0019】
本発明でいう「硫黄酸化細菌を共生している二枚貝」としては、Calyptogena属二枚貝(cold-seep clam)、ナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformis)、シロウリガイ(Calyptogena soyoae)、スルガシロウリガイ(Calyptogena fausta)、シマイシロウリガイ(Calyptogena okutanii)などが挙げられるが、硫黄酸化細菌を共生している二枚貝であれば本発明に含まれる。
【0020】
本発明の新規脂肪酸を得るための原料である二枚貝は、まず貝殻を分離して剥き身とし、細かく粉砕する。
粉砕手段としては、脂質の酸化劣化を伴わないものであれば種類を問わず、ポリトロンホモジナイザーなどが好適に利用できる。
【0021】
抽出法は、Folch et al法(1957)に準じて行なうことが望ましいが、これに限定されるものではない。
抽出に使用する有機溶媒は、脂質に影響を与えるものでなければ種類を問わず、ヘキサン、ジエチルエーテル、エタノールなどが例示されるが、クロロホルム−メタノール混合溶液が脂質の溶出効率の点で好ましい。
【実施例1】
【0022】
ナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseol iformis)、平均殻長11.6cm、平均殻高3.0cm、平均体重39.7g)9個体の軟体部をそれぞれクロロホルム−メタノール1/2混液、約50mLに浸せきし、ホモジナイザーにより破砕した。約200mLの飽和食塩水を加え、ジクロルメタン50mLで3回抽出し、減圧下濃縮し、粗製全脂質を得た。この粗製全脂質をメチルエステル化、4,4’-ジメチルオキサゾリン(DMOX)誘導体化し、DMOX体を得て、それぞれガスクロマトグラフィー−マススペクトル検出器に供し、定量分析および化学構造の解析を行った。その結果、種々の新規n-1、n-4およびn-7不飽和脂肪酸(非メチレン中断型ジエン酸類)を得た。
【0023】
以下に、代表的なそれぞれの脂肪酸について、化学構造の決め手となったDMOX誘導体のマススペクトルを示す。

17:1n-6では分子イオンピークM+-321, 以下306, 292, 278, 264, 250, 236, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-11 (n-6)の二重結合を反映するM-236とM-224がある。(図1)

17:2n-4,8では分子イオンピークM+-319, 以下304, 290, 276, 262, 250, 236, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-13 (n-4)の二重結合を反映するM-236とM-224、Δ-9 (n-8)の二重結合を反映するM-236とM-224がある。(図2)

18:2n-4,7では分子イオンピークM+-333, 以下318, 304, 290, 276, 264, 250, 236, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-14 (n-4)の二重結合を反映するM-276とM-264、およびΔ-11 (n-7)の二重結合を反映するM-236とM-224がある。(図3)

19:1n-14では分子イオンピークM+-349, 以下334, 320, 306, 292, 278, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-5 (n-14)の二重結合を反映するM-153-136がある。(図4)

19:1n-6では分子イオンピークM+-349, 以下334, 320, 306, 292, 278, 264, 252, 238, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-13 (n-6)の二重結合を反映するM-264とM-252がある。(図5)

19:2n-7,14では分子イオンピークM+-347, 以下332, 318, 304, 290, 276, 262, 248, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-12 (n-7)の二重結合を反映するM-248とM-236、およびΔ-5 (n-14)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図6)

19:2n-6,14では分子イオンピークM+-347, 以下332, 318, 304, 290, 276, 262, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-13 (n-6)の二重結合を反映するM-262とM-250、およびΔ-5 (n-14)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図7)

19:2n-5,14では分子イオンピークM+-347, 以下332, 318, 304, 290, 276, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-14 (n-5)の二重結合を反映するM-276とM-264、およびΔ-5 (n-14)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図8)

19:2n-4,8では分子イオンピークM+-347, 以下332, 318, 304, 290, 278, 264, 250, 236, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-15 (n-4)の二重結合を反映するM-290とM-278、およびΔ-8 (n-11)の二重結合を反映するM-236とM-224がある。(図9)

20:2n-7,10では分子イオンピークM+-361, 以下346, 332, 318, 304, 290, 276, 262, 250, 236, 222, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-13 (n-7)の二重結合を反映するM-262とM-250、およびΔ-10 (n-10)の二重結合を反映するM-222とM-210がある。(図10)

20:2n-5,15では分子イオンピークM+-361, 以下346, 332, 318, 304, 290, 278, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-15 (n-5)の二重結合を反映するM-290とM-278、およびΔ-5 (n-15)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図11)

20:2n-4,15では分子イオンピークM+-361, 以下346, 332, 318, 304, 292, 278, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-16 (n-4)の二重結合を反映するM-304とM-292、およびΔ-5 (n-15)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図12)

20:2n-4,8では分子イオンピークM+-361, 以下346, 332, 318, 304, 292, 278, 264, 250, 238, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-16 (n-4)の二重結合を反映するM-304とM-292、およびΔ-12 (n-8)の二重結合を反映するM-250とM-238がある。(図13)

20:5n-1,4,7,10,15では分子イオンピークM+-355, 以下340, 328, 314, 300, 288, 274, 260, 248, 234, 220, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-19 (n-1), Δ-16 (n-4), Δ-13 (n-7), Δ-10 (n-10)の二重結合を反映するM-340とM-328、M-300とM-288、M-260とM-248、M-220とM-208、およびΔ-15 (n-5)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図14)

21:1n-8では分子イオンピークM+-377, 以下362, 348, 334, 320, 306, 292, 278, 264, 252, 238, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-17 (n-4), Δ-14 (n-7), Δ-11 (n-10),の二重結合を反映するピークM-264とM-252がある。(図15)

21:2n-8,16では分子イオンピークM+-375, 以下360, 346, 332, 318, 304, 290, 276, 262, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-13 (n-8)の二重結合を反映するピークM-262とM-250およびΔ-5 (n-16)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図16)

21:2n-5,16では分子イオンピークM+-375, 以下360, 346, 332, 318, 304, 292, 278, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-15 (n-6)の二重結合を反映するピークM-304とM-292およびΔ-5 (n-16)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図17)

21:2n-1,16では分子イオンピークM+-375, 以下360, 348, 334, 320, 306, 292, 278, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-20 (n-1)の二重結合を反映するピークM-360とM-348およびΔ-5 (n-16)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図18)

21:4n-7,10,13,16では分子イオンピークM+-371, 以下356, 342, 328, 314, 300, 286, 272, 260, 246, 232, 220, 206, 192, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-14 (n-7), Δ-11 (n-10), Δ-14 (n-13),の二重結合を反映するピークM-272とM-260、M-232とM-220、M-192とM-180、およびΔ-5 (n-16)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図19)

21:4n-1,4,7,16では分子イオンピークM+-371, 以下356, 344, 330, 316, 304, 290, 276, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-20 (n-1), Δ-17 (n-4), Δ-14 (n-7),の二重結合を反映するピークM-356とM-344、M-316とM-304、M-276とM-264、およびΔ-5 (n-16)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図20)

22:2n-5,15では分子イオンピークM+-389, 以下374, 360, 346, 332, 318, 306, 292, 278, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 168, 166, 153, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-17 (n-5)の二重結合を反映するM-318とM-306およびΔ-7 (n-15)の二重結合を反映するM-168とM-166がある。(図21)

22:2n-7,10では分子イオンピークM+-389, 以下374, 360, 346, 332, 318, 304, 290, 278, 264, 250, 238, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-15 (n-7), Δ-12 (n-10)の二重結合を反映するM-290とM-278、M-250とM-238がある。(図22)

22:3n-7,10,15では分子イオンピークM+-387, 以下372, 358, 344, 330, 316, 302, 288, 276, 262, 248, 236, 222, 208, 194, 180, 168, 166, 153, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-15 (n-7), Δ-12 (n-10)の二重結合を反映するM-288とM-276、M-248とM-236、およびΔ-7 (n-15)の二重結合を反映するM-168とM-166がある。(図23)

22:3n-4,7,15では分子イオンピークM+-387, 以下372, 358, 344, 330, 318, 304, 290, 278, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 168, 166, 153, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-18 (n-4), Δ-15 (n-7)の二重結合を反映するM-330とM-318、M-290とM-278、およびΔ-7 (n-15)の二重結合を反映するM-168とM-166がある。(図24)

22:4n-4,7,10,17では分子イオンピークM+-385, 以下370, 356, 342, 328, 316, 302, 288, 276, 262, 248, 236, 222, 208, 194, 180, 166, 153, 140, 136, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-18 (n-4), Δ-15 (n-7), Δ-12 (n-10)の二重結合を反映するM-328とM-316、M-288とM-276、M-248とM-236、およびΔ-7 (n-15)の二重結合を反映するM-153とM-136がある。(図25)

22:4n-1,4,7,15では分子イオンピークM+-385, 以下370, 358, 344, 330, 318, 304, 290, 278, 264, 250, 236, 222, 208, 194, 180, 168, 166, 153, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-21 (n-1), Δ-18 (n-4), Δ-15 (n-7)の二重結合を反映するM-370とM-358、M-330とM-318、M-290とM-278、およびΔ-5 (n-17)の二重結合を反映するM-168とM-166がある。(図26)

24:1n-8では分子イオンピークM+-419, 以下404, 390, 376, 362, 348, 334, 320, 306, 294, 280, 266, 252, 238, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中に、Δ-16 (n-8)の二重結合を反映するM-306とM-294がある。(図27)

24:2n-7,10では分子イオンピークM+-417, 以下402, 388, 374, 360, 346, 332, 318, 306, 292, 278, 266, 252, 238, 224, 210, 196, 182, 168, 154, 140, 126, 113 (ベースピーク), この中にΔ-17 (n-7), Δ-14 (n-10)の二重結合を反映するM-318とM-306、M-278とM-266がある。(図28)

【実施例2】
【0024】
シロウリガイ(Calyptogena soyoae)、平均殻長9.2cm、平均殻高4.9cm、平均体重75.9g)7個体の軟体部をそれぞれクロロホルム−メタノール1/2混液、約50mLに浸せきし、ホモジナイザーにより破砕した。約200mLの飽和食塩水を加え、ジクロルメタン50mLで3回抽出し、減圧下濃縮し、粗製全脂質を得た。この粗製全脂質をメチルエステル化、ジメチルオキサゾリン(DMOX)誘導体化し、DMOX体を得て、それぞれガスクロマトグラフィー−マススペクトル検出器に供し、定量分析および化学構造の解析を行った。その結果、種々の新規n-4およびn-7不飽和脂肪酸(モノエン酸17:1n-6、ジエン酸18:2n-4,7、19:2n-7,14、ポリエン酸20:5n-1,4,7,10,15、21:4n-1,4,7,16、22:3n-4,7,15で表される脂肪酸等)類を得た。
【実施例3】
【0025】
ナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformis、平均殻長12.7cm、平均殻高3.2cm、平均体重59.7g)39個体の軟体部をそれぞれクロロホルム−メタノール1/2混液、約50mLに浸せきし、ホモジナイザーにより破砕した。約200mLの飽和食塩水を加え、ジクロルメタン50mLで3回抽出し、減圧下濃縮し、粗製全脂質を得た。この粗製全脂質をメチルエステル化、ジメチルオキサゾリン(DMOX)誘導体化し、DMOX体を得て、それぞれガスクロマトグラフィー−マススペクトル検出器に供し、定量分析および化学構造の解析を行った。その結果、種々の新規n-1、n-4およびn-7不飽和脂肪酸(モノエン酸17:1n-6、19:1n-14、19:1n-6、21:1n-8、24:1n-8、ジエン酸17:2n-4,8、18:2n-4,7、19:2n-7,14、19:2n-6,14、19:2n-5,14、19:2n-4,8、20:2n-7,10、20:2n-5,15、20:2n-4,15、20:2n-4,8、21:2n-8,16、21:2n-5,16、21:2n-1,16、22:2n-5,15、22:2n-7,10、24:2n-7,10、ポリエン酸20:5n-1,4,7,10,15、21:4n-1,4,7,16、21:5n-1,4,7,10,16、22:3n-4,7,15、22:3n-7,10,15、22:4n-4,7,10,17、22:4n-1,4,7,15で表される脂肪酸等)類を得た。
【実施例4】
【0026】
シマイシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformis、平均殻長12.9cm、平均殻高6.3cm、平均体重213.6g)29個体の軟体部をそれぞれクロロホルム−メタノール1/2混液、約50mLに浸せきし、ホモジナイザーにより破砕した。約200mLの飽和食塩水を加え、ジクロルメタン50mLで3回抽出し、減圧下濃縮し、粗製全脂質を得た。この粗製全脂質をメチルエステル化、ジメチルオキサゾリン(DMOX)誘導体化し、DMOX体を得て、それぞれガスクロマトグラフィー−マススペクトル検出器に供し、定量分析および化学構造の解析を行った。その結果、種々の新規n-1、n-4およびn-7不飽和脂肪酸(モノエン酸17:1n-6、ジエン酸18:2n-4,7、ポリエン酸20:5n-1,4,7,10,15、21:4n-1,4,7,16、22:3n-4,7,15で表される脂肪酸等)類を得た。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】17:1n-6 のマススペクトル
【図2】17:2n-4,8 のマススペクトル
【図3】18:2n-4,7 のマススペクトル
【図4】19:1n-14 のマススペクトル
【図5】19:1n-6 のマススペクトル
【図6】19:2n-7,14 のマススペクトル
【図7】19:2n-6,14 のマススペクトル
【図8】19:2n-5,14 のマススペクトル
【図9】19:2n-4,8 のマススペクトル
【図10】20:2n-7,10 のマススペクトル
【図11】20:2n-5,15 のマススペクトル
【図12】20:2n-4,15 のマススペクトル
【図13】20:2n-4,8 のマススペクトル
【図14】20:5n-1,4,7,10,15 のマススペクトル
【図15】21:1n-8 のマススペクトル
【図16】21:2n-8,16 のマススペクトル
【図17】21:2n-5,16 のマススペクトル
【図18】21:2n-1,16 のマススペクトル
【図19】21:4n-7,10,13,16 のマススペクトル
【図20】21:4n-1,4,7,16 のマススペクトル
【図21】22:2n-5,15 のマススペクトル
【図22】22:2n-7,10 のマススペクトル
【図23】22:3n-7,10,15 のマススペクトル
【図24】22:3n-4,7,15 のマススペクトル
【図25】22:4n-4,7,10,17 のマススペクトル
【図26】22:4n-1,4,7,15 のマススペクトル
【図27】24:1n-8 のマススペクトル
【図28】24:2n-7,10 のマススペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄酸化細菌を共生している二枚貝の肉塊(軟体部)を有機溶剤で抽出することにより得られる非メチレン中断型ポリエン酸を含む脂質。
【請求項2】
硫黄酸化細菌を共生している二枚貝の肉塊を有機溶剤で抽出することにより得られる、17:1n-6、17:2n-4,8、18:2n-4,7、19:1n-14、19:1n-6、19:2n-7,14、19:2n-6,14、19:2n-5,14、19:2n-4,8、20:2n-7,10、20:2n-5,15、20:2n-4,15、20:2n-4,8、20:5n-1,4,7,10,15、21:1n-8、21:2n-8,16、21:2n-5,16、21:2n-1,16、21:4n-1,4,7,16、22:2n-5,15、22:2n-7,10、22:3n-4,7,15、22:3n-7,10,15、22:4n-4,7,10,17、22:4n-1,4,7,15、24:1n-8、24:2n-7,10、で表される脂肪酸の少なくとも一種からなる脂肪酸を含む脂質。
【請求項3】
硫黄酸化細菌を共生している二枚貝が、Calyptogena属二枚貝(cold-seep clam)、ナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformis)、シロウリガイ(Calyptogena soyoae)、スルガシロウリガイ(Calyptogena fausta)、シマイシロウリガイ(Calyptogena okutanii)からなる群の何れかであることを特徴とする請求項1又は2記載の脂質。
【請求項4】
有機溶剤がクロロホルムーメタノール混合溶液である請求項1ないし3の何れかに記載の脂質。
【請求項5】
硫黄酸化細菌を共生している二枚貝の肉塊を粉砕し、有機溶剤で抽出することを特徴とする非メチレン中断型ポリエン酸を含む脂質の製造方法。
【請求項6】
硫黄酸化細菌を共生している二枚貝の肉塊を粉砕し、有機溶剤で抽出することを特徴とする、モノエン酸17:1n-6、19:1n-14、19:1n-6、21:1n-8、24:1n-8、ジエン酸17:2n-4,8、18:2n-4,7、19:2n-7,14、19:2n-6,14、19:2n-5,14、19:2n-4,8、20:2n-7,10、20:2n-5,15、20:2n-4,15、20:2n-4,8、21:2n-8,16、21:2n-5,16、21:2n-1,16、22:2n-5,15、22:2n-7,10、24:2n-7,10、ポリエン酸20:5n-1,4,7,10,15、21:4n-1,4,7,16、21:5n-1,4,7,10,16、22:3n-4,7,15、22:3n-7,10,15、22:4n-4,7,10,17、22:4n-1,4,7,15で表される脂肪酸の少なくとも一種からなる脂肪酸を含む脂質の製造方法。
【請求項7】
硫黄酸化細菌を共生している二枚貝が、Calyptogena属二枚貝(cold-seep clam)、ナギナタシロウリガイ(Calyptogena phaseoliformis)、シロウリガイ(Calyptogena soyoae)、スルガシロウリガイ(Calyptogena fausta)、シマイシロウリガイ(Calyptogena okutanii)からなる群の何れかであることを特徴とする請求項5又は6記載の脂質の製造方法。
【請求項8】
有機溶剤がクロロホルムーメタノール混合溶液である請求項5ないし7の何れかに記載の脂質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2009−197195(P2009−197195A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43099(P2008−43099)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年(平成19年)8月31日 ウェブサイト上で公開されたLIMNOLOGY AND OCEANOGRARHY社発行の「LIMNOLOGY AND OCEANOGRAPHY 52(5)」にて発表
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】