説明

ガラス板、その製造方法及び強化ガラス板

【課題】十分なイオン強化が可能なガラス板を提供する。
【解決手段】ガラス板1は、表層1a,1bにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層1cにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差が、1.0質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板、その製造方法及び強化ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などのタッチパネルなどとして、厚みの薄い強化ガラス板が用いられている。強化ガラス板は、ガラス板の表層に圧縮応力層が形成されたものである。この圧縮応力層によりガラス板の強度が高められている。
【0003】
ガラス板の表層に圧縮応力層を形成する方法としては、例えば、イオン強化法が挙げられる。イオン強化法では、ガラス板の表層でイオン交換が行われることにより、圧縮応力層が形成される。イオン強化法の具体例としては、ガラス板を硝酸カリウム溶融塩に浸漬することにより、ガラス板の表層に存在するNaイオンを硝酸カリウム溶融塩中のKイオンと交換し、圧縮応力層を形成する方法が挙げられる。
【0004】
厚みの薄い一般的なガラス板としては、フロート法、オーバーフローダウンドロー法などにより製造されるガラス板が挙げられる。
【0005】
フロート法では、ガラス板は、溶融した金属浴の上に浮かべられる。よって、ガラス板の金属浴側に位置する表面は、金属浴と接する。このとき、ガラス板の金属浴側に位置する表層から金属浴中にNaイオンが移動し、ガラス板の金属浴側に位置する表層におけるNaイオンの含有率が減少する。また、金属浴上のガラス板は、高温雰囲気下に晒される。このとき、ガラス板の金属浴とは反対側の表層からNa成分が揮発するため、ガラス板の金属浴とは反対側の表層におけるNa成分の含有率も減少する。
【0006】
また、オーバーフローダウンドロー法によりガラス板を製造する際にも、高温となったガラス板の表層からNa成分が揮発するため、ガラス板の表層におけるNa成分の含有率は減少する。
【0007】
従って、これらの製造方法で製造されたガラス板では、中央層に比べて両表層のNaイオンの含有率が低くなっている。このため、ガラス板の表層には、Kイオンと交換できるNaイオンが少なく、イオン強化法によってガラス板を十分に強化することができないという問題がある。
【0008】
例えば、特許文献1には、ガラス板を硝酸ナトリウム溶融塩に浸漬し、ガラス板の表層におけるNa成分の含有率を上昇させた後、硝酸カリウム溶融塩に浸漬して、Na成分とK成分とを交換する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平8−18850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、ガラス板を硝酸カリウム溶融塩に浸漬する工程の前に、硝酸ナトリウム溶融塩に浸漬する工程を設ける必要があるため、通常のイオン強化法に比べて、製造工程が多くなる。よって、この方法では、強化ガラス板の製造工程が煩雑になると共に、強化ガラス板の製造コストが上昇するため好ましくない。
【0011】
本発明は、十分なイオン強化が可能なガラス板を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガラス板は、表層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差が、1.0質量%以下である。
【0013】
なお、本発明において、中央層とは、ガラス板の板厚方向における中央部分に位置し、Naイオンの含有率が一様である層をいう。また、本発明において、表層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率とは、ガラス板の表面を蛍光X線分析して得られた値である。
【0014】
ガラス板の厚みは、0.5mm〜1.4mmであることが好ましい。
【0015】
ガラス板の表面は、未研磨であることが好ましい。
【0016】
本発明の強化ガラス板は、本発明のガラス板の表層がイオン強化されてなるものである。
【0017】
本発明のガラス板の製造方法は、表層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差が、1.0質量%以下となるように溶融及び成形を行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分なイオン強化が可能なガラス板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス板の略図的断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る強化ガラス板の略図的断面図である。
【図3】実施例及び比較例におけるガラス板の中央層と表層のアルカリ含有量(質量%)の差と、強化ガラス板の圧縮応力値(MPa)及び圧縮応力深さ(μm)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0021】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0022】
ガラス板1の表層1a,1bにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層1cにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差は、1.0質量%以下である。表層1a,1bにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層1cにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差は、0.8質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
ガラス板1の中央層1cにおけるNaイオンの含有率は、NaO換算で、通常4.0質量%〜20.0質量%程度であり、8.0質量%〜18.0質量%程度であることが好ましく、10.0質量%〜16.0質量%程度であることが好ましい。
【0024】
ガラス板1の中央層1cにおけるNaイオンの含有率をx質量%とし、ガラス板1の表層1a,1bにおけるNaイオンの含有率をy質量%とした場合に、式:(y/x)×100により求められる値は、通常50.0%〜100.0%程度であり、87.5%〜100.0%程度であることが好ましく、90.0%〜100.0%程度であることがより好ましい。
【0025】
ガラス板1の厚みは、例えば0.5mm〜1.4mm程度とすることができる。
【0026】
ガラス板1の少なくとも一方側の主面における表面は、未研磨であってもよく、両表面が未研磨であってもよい。
【0027】
ガラス板1は、フロート法、オーバーフローダウンドロー法などにより製造されるガラス板である。詳細には、フロート法、オーバーフローダウンドロー法などにより、ガラス板1の表層1a,1bにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層1cにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差が、1.0質量%以下となるようにガラス原料の溶融及びガラス板1の成形を行う。
【0028】
例えば、フロート法によって、ガラス板1を製造する場合、以下のような条件で製造すればよい。
【0029】
まず、ガラス原料を溶融窯で溶融して、溶融ガラスを得る。次に、溶融ガラスを金属浴上に浮かべ、フロートバスの自由内部体積1mにつき水素が0.2Nm/hr〜1.0Nm/hr程度、窒素濃度が8.0Nm/hr〜10.0Nm/hr程度の雰囲気下、金属浴上に8〜12分間程度滞在させて板状のガラスとする。次に、金属浴上から取り出した板状のガラスに600℃〜700℃の雰囲気下、5.0L/min〜10.0L/minのSOをガラス表面に噴霧し、徐冷することでガラス板1を得る。
【0030】
強化ガラス板2は、ガラス板1の表層部分がイオン強化され、圧縮応力層2a,2bが形成されたガラス板である。ここで、圧縮応力層2a,2bとなるガラス板1の表層部分には、ガラス板1の表層1a,1bに加えて、中央層1cにおける表層1a,1b側の一部が含まれることがある。
【0031】
イオン強化の方法は、特に限定されず、例えば、ガラス板1を硝酸カリウム溶融塩に浸漬し、ガラス板の表層部分に存在するNaイオンをKイオンと交換することにより行うことができる。
【0032】
強化ガラス板2の表層に形成された圧縮応力層2a,2bの圧縮応力値は、通常750MPa〜900MPa程度であり、800MPa〜850MPa程度であることが好ましい。
【0033】
また、強化ガラス板2の表層に形成された圧縮応力層2a,2bの深さは、通常40μm〜60μm程度であり、45μm〜50μm程度であることが好ましい。
【0034】
なお、本発明において、強化ガラス板2の表層部分に形成された圧縮応力層2a,2bの圧縮応力値とその深さは、それぞれ、表面応力計を用い、干渉縞の本数及びその間隔から測定した値である。
【0035】
上述の通り、従来のフロート法、オーバーフローダウンドロー法などによって得られたガラス板は、表層におけるNa成分の含有率が中央層におけるNa成分の含有率よりも非常に小さい。よって、これらの方法によって得られたガラス板1を十分にイオン強化して、強度の高い強化ガラス板を得ることは困難である。
【0036】
フロート法、オーバーフローダウンドロー法などにより得られたガラス板の表面を研磨し、Naイオンの含有率が低下した表層を取り除くことにより、十分にイオン強化可能なガラス板とすることも考えられる。しかしながら、ガラス板の表面を研磨すると、マイクロクラックが形成される場合がある。この場合、薄いガラス板にイオン強化を行うと、マイクロクラックを起点として強化ガラス板が自己破壊する虞がある。
【0037】
これに対して、本発明者は、ガラス板1の表層1a,1bにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層1cにおけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差を、1.0質量%以下とすれば、表層1a,1bと中央層1cとの間にNaイオン含有率の差がある場合であっても、フロート法、オーバーフローダウンドロー法などにより得られたガラス板1を十分にイオン強化できることを見いだした。
【0038】
ガラス板1は、未研磨であってもイオン強化が可能であるため、例えばガラス板1の厚みが0.5mm〜1.4mm程度と薄くても、強度の高い強化ガラス板2とすることができる。よって、ガラス板1は、特に薄型の強化ガラス板2の製造に好適に使用できる。
【0039】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0040】
(実施例1)
組成が、質量%表示で、SiO:60.0%、Al:12.0%、MgO:2.0%、CaO:1.0%、ZrO:5.0%、NaO:15.0%、KO:5.0%、であり、厚みが1.0mm、50mm角であるガラス板1をフロート法により作製した。フロート法の各条件は、以下の通りである。
【0041】
フロートバスの自由内部体積1mにおける水素量を0.2Nm/hr〜1.0Nm/hr、窒素量を8.0Nm/hr〜10.0Nm/hrに調整し、金属浴上に8〜12分間程度滞在させて板状のガラスとした。次に、金属浴上から取り出した板状のガラスの表面に600℃〜700℃の雰囲気下、5.0L/min〜10.0L/minのSOを噴霧した。
【0042】
得られたガラス板1の表層1a,1bと中央層1cに含まれるNaOの量(質量%)は、それぞれ蛍光X線分析により測定した。中央層1cに含まれるNaOの量(質量%)は、ガラス板1の表層1a,1bを10μm研磨して測定した値である。これらの値から、ガラス板1の表層1a,1bと中央層1cに含まれるNaOの量の差(質量%)を算出した。表層1a,1bと中央層1cに含まれるNaOの量(質量%)の差は、0.4質量%であった。
【0043】
次に、硝酸カリウム溶融塩を450℃に加熱し、ここにガラス板1を6時間浸漬して、ガラス板1をイオン強化し、強化ガラス板2を得た。
【0044】
表面応力計(FMS−60000)を用い、干渉縞の本数とその間隔から、得られた強化ガラス板の圧縮応力値と圧縮応力層の深さを測定した。なお、これらの測定に際し、強化ガラス板2の屈折率は1.52、光弾性定数は28(nm/cm)/MPaとした。ガラス板1の中央層1cと表層1a,1bのアルカリ含有量(質量%)の差と、強化ガラス板2の圧縮応力値(MPa)及び圧縮応力深さ(μm)との関係を示すグラフを図3に示す。
【0045】
(実施例2)
組成が、質量%表示で、SiO:60.0%、Al:12.0%、MgO:2.0%、CaO:1.0%、ZrO:5.0%、NaO:15.0%、KO:5.0%であり、厚みが1.0mm、50mm角であるガラス板1をフロート法により作製した。フロート法の各条件は、以下の通りである。
【0046】
フロートバスの自由内部体積1mにおける水素量を0.2Nm/hr〜1.0Nm/hr、窒素量を8.0Nm/hr〜10.0Nm/hrに調整し、金属浴上に8〜12分間程度滞在させて板状のガラスとした。次に、金属浴上から取り出した板状のガラスの表面に600℃〜700℃の雰囲気下、5.0L/min〜10.0L/minのSOを噴霧した。
【0047】
得られたガラス板1の表層1a,1bと中央層1cに含まれるNaOの量の差(質量%)を実施例1と同様にして算出した。表層1a,1bと中央層1cに含まれるNaOの量(質量%)の差は、0.8質量%であった。
【0048】
次に、実施例1と同様にして、ガラス板1をイオン強化し、強化ガラス板2を得た。
【0049】
次に、実施例1と同様にして、強化ガラス板2の圧縮応力値(MPa)及び圧縮応力深さ(μm)を測定した。結果を図3に示す。
【0050】
(比較例1)
組成が、質量%表示で、SiO:60.0%、Al:12.0%、MgO:2.0%、CaO:1.0%、ZrO:5.0%、NaO:15.0%、KO:5.0%であり、厚みが1.0mm、50mm角であるガラス板をフロート法により作製した。フロート法の各条件は、以下の通りである。
【0051】
フロートバスの自由内部体積1mにおける水素量を1.0Nm/hr〜1.5Nm/hr、窒素量を6.0Nm/hr〜8.0Nm/hrに調整し、金属浴上に12〜15分間程度滞在させて板状のガラスとした。次に、金属浴上から取り出した板状のガラスの表面に700℃〜720℃の雰囲気下、15.0L/min〜20.0L/minのSOを噴霧した。
【0052】
得られたガラス板の表層と中央層に含まれるNaOの量の差(質量%)を実施例1と同様にして算出した。表層と中央層に含まれるNaOの量(質量%)の差は、1.2質量%であった。
【0053】
次に、実施例1と同様にして、ガラス板をイオン強化し、強化ガラス板を得た。
【0054】
次に、実施例1と同様にして、強化ガラス板の圧縮応力値(MPa)及び圧縮応力深さ(μm)を測定した。結果を図3に示す。
【0055】
(比較例2)
組成が、質量%表示で、SiO:60.0%、Al:12.0%、MgO:2.0%、CaO:1.0%、ZrO:5.0%、NaO:15.0%、KO:5.0%であり、厚みが1.0mm、50mm角であるガラス板をフロート法により作製した。フロート法の各条件は、以下の通りである。
【0056】
フロートバスの自由内部体積1mにおける水素量を1.0Nm/hr〜1.5Nm/hr、窒素量を6.0Nm/hr〜8.0Nm/hrに調整し、金属浴上に12〜15分間程度滞在させて板状のガラスとした。次に、金属浴上から取り出した板状のガラスの表面に700℃〜720℃の雰囲気下、15.0L/min〜20.0L/minのSOを噴霧した。
【0057】
得られたガラス板の表層と中央層に含まれるNaOの量の差(質量%)を実施例1と同様にして算出した。表層と中央層に含まれるNaOの量(質量%)の差は、1.4質量%であった。
【0058】
次に、実施例1と同様にして、ガラス板をイオン強化し、強化ガラス板を得た。
【0059】
次に、実施例1と同様にして、強化ガラス板の圧縮応力値(MPa)及び圧縮応力深さ(μm)を測定した。結果を図3に示す。
【0060】
図3に示されるように、表層1a,1bと中央層1cに含まれるNaOの量(質量%)の差が、それぞれ0.4質量%、0.8質量%である実施例1及び実施例2においては、イオン強化により、それぞれ800MPa以上の圧縮応力値を有する圧縮応力層が表層2a,2bに形成され、圧縮応力層の深さは共に45μmと深かった。
【0061】
一方、表層と中央層に含まれるNaOの量(質量%)の差が1.2質量%、1.4質量%である比較例1及び比較例2においては、イオン強化により形成された圧縮応力値は、それぞれ740MPa、700MPa、圧縮応力層の深さは、それぞれ38μm、30μmに止まった。
【符号の説明】
【0062】
1…ガラス板
1a,1b…表層
1c…中央層
2…強化ガラス板
2a,2b…圧縮応力層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差が、1.0質量%以下である、ガラス板。
【請求項2】
前記ガラス板の厚みが0.5mm〜1.4mmである、請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
表面が未研磨である、請求項1または2に記載のガラス板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス板の表層がイオン強化されてなる、強化ガラス板。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス板の製造方法であって、
表層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率と、中央層におけるNaO換算でのNaイオンの含有率との差が、1.0質量%以下となるように溶融及び成形を行う、ガラス板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−86989(P2013−86989A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226570(P2011−226570)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】