説明

トルテロジン、中間体および代謝産物の短縮合成

尿失禁療法のための薬剤、特に2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノールおよびこのプロドラッグを調製するために使用できる中間体を調製するための方法について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿失禁療法のための薬剤、特に2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノールおよびこのプロドラッグを調製するために使用できる一般的中間体を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トルテロジン(3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミン)は、尿失禁を含む過活動膀胱を治療するためのムスカリン受容体アンタゴニストである。身体内では、トルテロジンは、同様に活性分子であるヒドロキシ代謝産物の2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノール(ヒドロキシトルテロジン、HT)へ変換させられる。
【0003】
【化1】

【0004】
【化2】

ヒドロキシトルテロジン(HT)は、最初は、WO94/011337に記載されたように、極めて長い合成において調製された。同様のアプローチはWO99/058478において繰り返され、WO07/138440、WO07/144097およびWO07/144091において最適化された。記載された合成法の変形は、一部の工程が、例えばグリニャール試薬およびアルミニウム水素化物などのルーチンの工業的方法においては望ましくない試薬を含む9から11工程でのブロモ置換ラクトン誘導体による合成法(ブロモ法)を含んでいる。
【0005】
ブロモ法は、3つの部分スキームで示される。
【0006】
【化3】

【0007】
【化4】

【0008】
【化5】

【0009】
最初に公表された方法を単純化する方法について、後になって幾つかのアプローチが開発されてきた。トルテロジンの調製から公知であるヒドロクマリン類を経由するアプローチ(ラクトン経路)は、様々なパラフェノール置換基を備える中間体に適用された。これらのアプローチは、矢印によって示される変換が多段階式である可能性があり、調製物は相互に、保護基を使用するもしくは削除することによって、異なるパラフェノール置換基R(COOR’、COOH、ハロ、Me、CHOH)によって相違する、および該工程において還元が実施されるスキーム4に要約した。これらの調製物については、限定はされないが、少なくともWO89/006644、WO01/096279、Org.Lett.7,2285(2005)、WO07/144097に記載されている。
【0010】
【化6】

【0011】
上述したラクトン法の最短修飾は、WO07/138440に記載されている。この方法では、ラクトールは、シンナムアルデヒドによって1工程で形成される。ラクトールは次に、さらにPd/Cの存在下でジイソプロピルアミンおよび水素ガスとの反応によってHTへ変換させられる。ラクトールの形成は、低収率および副生成物をもたらすため、方法をより長くさせるアミン類の使用および中間体のアミンエーテルの単離によって遂行されなければならない。この合成に関する主要な問題は、重金属および水素ガスの使用である。合成は、スキーム5に示す。
【0012】
【化7】

【0013】
一部の他の合成経路は、工業目的には余り一般的ではない試薬を使用する。このような経路は、WO94/011337およびWO02/004399に記載されている。前者は、この後に銅塩の存在下での有機リチウム結合および還元工程が続くHeck反応工程(Heck−銅酸化物法、スキーム6)を含んでいる。
【0014】
【化8】

【0015】
後者は、SnClの存在下でのフェニルアセチレンとの反応(フェニルアセチレン経路、スキーム7)およびBINAP/Pd触媒の存在下での一酸化炭素およびジイソプロピルアミンとの反応について記載している。どちらの方法も水素ガス、重金属ならびに毒性で潜在的に危険な試薬である強還元剤を使用する。
【0016】
【化9】

【0017】
また別の合成は、WO05/012227に記載されている。HTは、トルテロジンの酸化によって調製される。トルエンメチル基の酸化は容易ではなく、フェノール性ヒドロキシ基の保護を必要とし、これは本質的にHTの合成を延長させる。
【0018】
【化10】

【0019】
トルテロジンの最短合成は、WO07/017544およびWO07/147547に記載されており、スキーム9に示す。過剰のp−クレゾールが純粋または濃強酸、例えばメタンスルホン酸、臭化水素酸、硫酸、過塩素酸またはp−トルエンスルホン酸中でN,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミン(N,N−ジイソプロピルシンナミルアミン、DIPCA)と反応して、トルテロジンがたった1工程で得られた。
【0020】
【化11】

【0021】
当業者であれば、さらにこの合成アプローチのHTの調製への適用を試みることができる。しかし驚くべきことに、p−ヒドロキシベンジルアルコールとDIPCAとの反応は、完全に失敗する。さらに、この失敗は、ヒドロキシメチル基へ変換可能な基とパラ置換されたフェノール類、例えばp−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、p−シアノフェノールおよびp−ヒドロキシベンズアルデヒド、ならびにさらにこれらの対応するO−保護アナログとの反応を適用することにも見いだされた。この反応はハロ誘導体にしか適用できなかったが、ハロからヒドロキシメチル基への変換は、スキーム1から3に示したようなグリニャール反応およびフェノール基の保護を必要とし、合成を大幅に延長させる。
【0022】
一部の基からHTのヒドロキシメチル基への可能性のある変換については、下記に列挙し、スキーム10に要約した。
【0023】
a ハロゲン グリニャール反応、フェノールの保護、還元
b アルコキシカルボニル フェノールの保護、無水還元
c カルボキシ フェノールの保護、無水還元、場合によりエステルへの変換
d シアノ 二重還元または加水分解+還元
e ホルミル 非無水の一工程還元
【0024】
【化12】

【0025】
当業者であれば、3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミン(PHB)の還元によってHTを合成することを試みることができる。DIPCAおよびp−ヒドロキシベンズアルデヒドを強酸の存在下で反応させることによるPHBの合成は、WO07/147547に開示されている。しかし、PHBの前記合成の欠点は、極めて低い収率(例えば8%)である。
【0026】
このため、ヒドロキシトルテロジン(HT)の効率的合成のために、3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミン(PHB)の高い収率を備える短縮合成が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】国際公開第94/011337号
【特許文献2】国際公開第99/058478号
【特許文献3】国際公開第07/138440号
【特許文献4】国際公開第07/144097号
【特許文献5】国際公開第07/144091号
【特許文献6】国際公開第89/006644号
【特許文献7】国際公開第01/096279号
【特許文献8】国際公開第02/004399号
【特許文献9】国際公開第05/012227号
【特許文献10】国際公開第07/017544号
【特許文献11】国際公開第07/147547号
【発明の概要】
【0028】
本発明の目的は、3,3−ジフェニルプロピルアミン類のクラスに属する抗コリン作用薬を合成するために有用である重要な中間体を得るために、特にヒドロキシトルテロジン(HT)、各々容易に入手可能で場合により安価な市販の出発化合物からトルテロジンまたはフェソテロジンを調製するために、工業的に適用可能であり、経済的および許容される方法を提供することである。
【0029】
下記に箇条書きで要約した本発明の態様、有益な特徴および好ましい実施形態は、単独または組み合わせで、本発明のこの課題および他の課題を解決するために寄与する:
(1)式D:
【0030】
【化13】

(式中、Rは、H、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルから選択され、Rxは、HおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyは、C−Cアルキルから選択され、好ましくはRxおよびRyは、イソプロピルである。)
の化合物またはこの塩を調製する方法であって、
(a)式B
【0031】
【化14】

(式中、RxおよびRyは上記に規定したとおりである。)
の3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミンもしくはこの塩を、
式A
【0032】
【化15】

(式中、*はキラルC原子を意味し、Rは上記と同一であり、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’は、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択される。)である。)
によって表されるヒドロキシフェニルグリシンもしくはこの誘導体と、酸の存在下で反応させる工程、
(b)場合により、Hとは異なる場合はRおよびYを除去する工程、および
(c)酸化試薬の存在下での酸化的脱炭酸化工程
を含む方法。
【0033】
(2)式D’:
【0034】
【化16】

(式中、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyは、C−Cアルキルから選択され、好ましくはRxおよびRyは、イソプロピルである。)
の3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロピルアミン化合物またはこの塩を調製する方法であって、
(a)式B
【0035】
【化17】

(式中、RxおよびRyは上記に規定したとおりである。)
の3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミンもしくはこの塩を、
式A’
【0036】
【化18】

(式中、*はキラルC原子を意味し、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’は、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択される。)である。)
によって表されるヒドロキシフェニルグリシンもしくはこの誘導体と、酸の存在下で反応させる工程、
(b)場合により、Hとは異なる場合はRおよびYを除去する工程、および
(c)酸化試薬の存在下での酸化的脱炭酸化工程
を含む方法。
【0037】
好ましい実施形態では、RxおよびRyは、イソプロピルである。
【0038】
(3)項目(1)または(2)による方法であって、ヒドロキシフェニルグリシンが工程(a)における反応にかけられる方法。
【0039】
(4)項目(1)から(3)による方法であって、工程(a)および(b)がワンポット反応で進行する方法。
【0040】
このような好ましい実施形態では、工程(a)および(b)を、該反応中に生成される何らかの中間化合物を単離する必要を伴わずに効率的に実施することが可能である。
【0041】
(5)項目(1)から(4)のいずれか1つによる方法であって、工程(a)における酸は無機酸および有機スルホン酸から選択される、好ましくは硫酸、過塩素酸、C−Cアルカンスルホン酸、フッ素化C−Cアルカンスルホン酸、アレーンスルホン酸から選択され、より好ましくはメタンスルホン酸および硫酸から選択される方法。
【0042】
(6)項目(1)から(5)のいずれか1つによる方法であって、該酸が水および/または脂肪酸で希釈され、好ましくは含水量は50(w/w)%未満である、より好ましくは30(w/w)%未満である方法。
【0043】
(7)項目(1)から(6)のいずれか1つによる方法であって、工程(a)のための反応溶液中に有機溶媒が含有されない、または加えられない方法。
【0044】
(8)項目(1)から(7)のいずれか1つによる方法であって、工程(c)の前に、工程(a)の酸反応溶液が5から9の範囲内、好ましくは6.5から7.5の範囲内のpHに調整され、次に水非混和性溶媒が加えられ、次に工程(c)が実施される方法。
【0045】
(9)項目(8)による方法であって、該水非混和性溶媒がエーテル類またはエステル類から、より好ましくは酸性エステル類から選択される方法。
【0046】
(10)項目(1)から(9)のいずれか1つによる方法であって、工程(c)は:
(i)反応性アルデヒド類およびケトン類から選択されるアミノ基転移試薬を使用する工程;
(ii)ラジカル触媒の存在下で酸素大気を使用する工程;
(iii)相当に高い酸化状態にある金属カチオン類および相当に高い酸化状態にあるアニオン類の塩から選択される無機酸化剤を使用する工程
のいずれか1つによって実施される方法。
【0047】
(11)項目(10)による方法であって、酸化が(i)に従って実施され、使用されるアミノ基転移試薬は糖類、好ましくはグルコース;キノン類、好ましくはベンゾキノン;およびα−ケト置換カルボニル化合物から、特にグリオキサル酸およびピルビン酸ならびにこれらの塩、エステル類およびアルデヒド類から選択される方法。
【0048】
(12)項目(11)による方法であって、α−ケト置換カルボニル化合物が使用される、最も好ましくはメチルグリオキサルを使用する方法。
【0049】
(13)項目(10)による方法であって、酸化は(ii)によって実施され、使用されるラジカル触媒は有機化合物、好ましくはアスコルビン酸もしくはイサチン、ならびに遷移金属カチオン類、好ましくは銅(II)塩類から選択される方法。
【0050】
(14)項目(10)による方法であって、酸化は(iii)によって実施され、使用される金属カチオンはFe3+である、または使用される高度に酸化されたアニオンは亜硝酸塩および過硫酸塩から選択される方法。
【0051】
(15)項目(14)による方法であって、好ましくはアルカリ金属ペルオキソ二硫酸塩から選択される無機過硫酸塩を使用する、または対応する硫酸塩および過酸化水素からインサイチューで調製されるペルオキソ二硫酸塩種を使用する方法。
【0052】
(16)項目(1)から(15)のいずれかによって式E
【0053】
【化19】

(式中、Rは、H、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルであり、Rxは、HおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyは、C−Cアルキル(Rは好ましくはHであり、独立してRxおよびRyは、好ましくはイソプロピルである。)から選択される。)
の化合物またはこの塩を調製するための方法であって、
該方法は:
式D
【0054】
【化20】

(式中、R、RxおよびRyは上記と同一である。)
の化合物を提供するために項目(1)から(15)のいずれか1つによる方法を実施する工程、および
ホルミル基の、好ましくは式Eの化合物を得るためのホウ化水素による選択的還元を含み;場合によりさらに式Eの化合物の塩を形成する工程をさらに含む方法。
【0055】
(17)項目(16)による方法であって、さらに式E(式中、Rがフェノール性ヒドロキシ基を規定するための水素である。)の化合物にフェノール性ヒドロキシ基をアシル化するための反応を受けさせ、場合により該アシル化生成物の塩を形成する工程を含む方法。
【0056】
(18)ヒドロキシトルテロジンもしくはこの塩を調製する方法であって:
項目(1)から(16)のいずれか1つによって3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミンを調製する工程、
ヒドロキシトルテロジン(HT)を得るために還元工程を実施する工程
を含む方法。
【0057】
(19)項目(18)による方法であって、該還元工程が還元剤として水素化アルミニウムもしくは水素化ホウ素を使用する方法。
【0058】
(20)項目(18)または(19)による方法であって、還元工程がアルコール中、好ましくはメタノール中の水素化ホウ素を使用する方法。
【0059】
(21)項目(18)から(20)のいずれか1つによる方法であって、ヒドロキシトルテロジン(HT)を得るための還元工程の後に、さらに該生成物(R)−HTから分離する工程、またはHTを(R)−HTに変換させる工程を含む方法。
【0060】
(22)項目(18)から(21)のいずれか1つによる方法であって、ヒドロキシトルテロジン(HT)または(R)−HTを得る工程の後に、さらに(HT)または(R)−HTの塩を形成する工程を含む方法。
【0061】
(23)項目(21)または(22)による方法であって、
(R)−HTが該生成物からキラルカラムクロマトグラフィーによって分離される、
または得られたヒドロキシトルテロジン(HT)がキラル有機酸、好ましくはキラル2−アセトキシ(フェニル)酢酸を用いる分別結晶によって(R)−HTへ変換させられる方法。
【0062】
(24)項目(1)から(16)による方法であって、さらに式G
【0063】
【化21】

(式中、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;RyはC−Cアルキルから選択される、およびRzはH、C−C−アルキルもしくはフェニルから選択される。)
の化合物またはこの塩を調製する工程をさらに含む方法であって、このとき式D’
【0064】
【化22】

(式中、RxおよびRyは上記と同一である。)
の化合物は、式F
【0065】
【化23】

(式中、Rx、RyおよびRzは上記と同一である。)
の中間体を得るためにアシル化にかけられ、および
ホルミル基の、好ましくは式Gの化合物を得るためのホウ化水素による選択的還元;場合によりさらに式Gの化合物の塩を形成する工程を含む方法。
【0066】
(25)アシル化ヒドロキシトルテロジンもしくはこの塩を調製する方法であって:
ヒドロキシトルテロジン(HT)またはこのキラル(R)−HTもしくは塩を項目(18)から(23)のいずれか1つによって調製する工程、および
HTもしくはキラル(R)−HTのフェノール性ヒドロキシ基のアシル化を直鎖状もしくは分枝状アルカン残基を有するアルカン酸によって実施する工程、
および場合により該アシル化ヒドロキシトルテロジンをこの塩に変換させる工程
を含む方法。
【0067】
(26)項目(25)による方法であって、該アシル化が酸塩化物および酸無水物から選択される反応性アルカン酸誘導体によって実施される方法。
【0068】
(27)項目(25)または(26)によるフェソテロジンもしくはこの塩を調製する方法であって、該アシル化がフェソテロジンを得るための塩化イソブチリルもしくはイソ酪酸無水物によって実施され、および場合によりフェソテロジンをこの塩、好ましくはフマレート塩に変換させる方法。
【0069】
(28)フェソテロジンもしくはこの塩を調製する方法であって:
(a)N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミンを式A’
【0070】
【化24】

(式中、*はキラルC原子を意味し、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’は、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択される。)である。)
によって表されるヒドロキシフェニルグリシンもしくはこの誘導体と酸の存在下で反応させる工程;
(b)場合により、Hとは異なる場合はRおよびYを除去する工程;
(c)酸化剤の存在下での3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミンを得るための酸化的脱炭酸化工程;
(d)ヒドロキシトルテロジン(HT)を得るために該形成された3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミンを還元させる工程;
(e)該得られたHTを(R)−HTに変換させる工程;および
(f)フェソテロジンを得るために工程(d)において得られた(R)−HTのフェノール性ヒドロキシ基のアシル化を塩化イソブチリルもしくはイソ酪酸無水物によって実施する工程;
(g)場合によりフェソテロジンをこの塩に、好ましくはフマレート塩に変換させる工程;または
工程(d)から(F)が:
(d’)工程(c)において得られた3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミンのフェノール性ヒドロキシ基のアシル化を塩化イソブチリルもしくはイソ酪酸無水物によって実施する工程;
(e’)この後にホルミル基の選択的還元が行われる工程;
によって置換され、
このとき場合により工程(d)から(g)または(d’)から(e’)の化合物のいずれかはエナンチオマーに分離され、好ましくは各(R)−エナンチオマーが単離される工程
を含む方法。
【0071】
(29)項目(28)による方法であって、
工程(d)において得られたHTがキラル有機酸、好ましくは(R)−アセトキシ(フェニル)酢酸を用いる分別結晶によって(R)−HTへ変換させられる方法。
【0072】
(30)項目(28)または(29)による方法であって、フェノール性ヒドロキシ基のアシル化が工程(b)の後に実施される方法。
【0073】
(31)式C
【0074】
【化25】

(式中、RはH、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルであり、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’はC−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択され、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyはC−Cアルキルから選択される。)である。)
の化合物またはこの塩。
【0075】
好ましい実施形態では、R、RおよびYはHであり、これらからは独立してRxおよびRyは、好ましくはイソプロピルである。
【0076】
(32)式F
【0077】
【化26】

(式中、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;RyはC−Cアルキルから選択され、およびRzはH、C−C−アルキルもしくはフェニルから選択される。)
の化合物またはこの塩。
【0078】
(33)項目(32)による化合物であって、Rx、RyおよびRzはイソプロピルである化合物。
【0079】
(34)医薬品、好ましくは尿失禁または過活動膀胱を治療するための抗コリン作用薬を調製するための方法における項目(31)から(33)のいずれか1つに記載の化合物の使用。
【0080】
(35)場合によりエナンチオマー純粋形にあるヒドロキシトルテロジン、トルテロジンまたはフェソテロジン、および場合によりこれらの塩を調製するための項目(31)から(33)のいずれか1つに規定された化合物の使用。
【0081】
(36)項目(34)または(35)による使用であって、ヒドロキシトルテロジン、トルテロジンまたはフェソテロジンがエナンチオマー純粋形、好ましくはこの(R)−配置で調製される使用。
【0082】
(37)ヒドロキシトルテロジン、トルテロジンもしくはフェソテロジンまたはこれらの塩を活性医薬成分として含む医薬組成物を調製するための方法であって、
活性医薬成分としてヒドロキシトルテロジン、トルテロジンもしくはフェソテロジンまたはこれらの塩を、項目(18)から(30)のいずれか1つによる方法または項目(34)から(36)のいずれか1つによる使用を含むことによって提供する工程、および
該医薬組成物を調製するために該活性医薬成分を医薬的に許容される担体を用いて調製する工程を含む方法。
【発明を実施するための形態】
【0083】
本発明は、式D:
【0084】
【化27】

(式中、Rは、H、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルから選択され、Rxは、HおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyは、C−Cアルキルから選択され、好ましくはRxおよびRyは、イソプロピルである。)
の化合物またはこの塩の合成に関し、
式B
【0085】
【化28】

(式中、RxおよびRyは上記に規定したとおりである。)
の3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミンもしくはこの塩を、式A
【0086】
【化29】

(式中、*はキラルC原子を意味し、RはH、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルから選択され、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’はC−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシ、好ましくは2−アミノ−2−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸(ヒドロキシフェニルグリシン)からなる群から選択される。)である。)
によって表されるヒドロキシフェニルグリシンもしくはこの誘導体と酸の存在下で反応させる工程、
この後の式Dの対応するアルデヒドを得るために酸化試薬の存在下で酸化的脱水酸化工程
を含む。
【0087】
式D(式中、R、R、YはHであり、Rx、Ryはイソプロピルである。)の好ましい実施例では、化合物3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミン(PHB)は、市販のp−ヒドロキシフェニルグリシンおよびN,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミン(DIPCA)から調製される。驚くべきことに、DIPCAとp−ヒドロキシフェニルグリシンとの反応によるPHBの収率が20%より高い、好ましくは30%より高いことが見いだされた。キラルC原子が存在するために、式Aの化合物は(R)−もしくは(S)−配置にあってよい、またはこれらの混合であってよい。本発明の重要な合成工程によって提供される該得られたPHBにおけるホルミル基の変換は、極めて容易であり、工業目的のために効率的である。例えば、および好ましくは、該アルデヒドPHBは次に還元工程においてヒドロキシトルテロジン(HT)へ変換させることができ、好ましくはさらにキラル(R)−HTへ変換させることができ、さらに場合によりHTまたは(R)−HTをこれらの塩に変換させることができる。有益には、キラル(R)−HTへの変換は、たった1つの化学工程および1つのキラル分離工程を含む方法によって実施することができる。
【0088】
1つの実施形態では、3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミン(PHB)の効率的な合成は、HTまたはこの塩を合成するために重要な中間体を得るために提供される。HTは、ムスカリン阻害剤の効率的阻害剤として使用することができ、好ましくは、HTはさらに有用な治療薬を得るために修飾することができる。例えば、HTは、尿失禁を治療するためのプロドラッグを生成するためにアシル化できる。
【0089】
詳細には、本発明は、PHBが適切にはHTを介して、最終的にはフェソテロジンまたはこれらの塩に変換される実施形態に関する。変換は、公知のプロトコールを使用して3工程だけで実施できる。これらの工程には、好ましくは水素化ホウ素ナトリウムを使用した還元、該生成物の(R)−異性体への(R)−2−アセトキシ(フェニル)酢酸を用いたジアステレオマー塩形成による分解およびこの後のフェソテロジンへのエステル化が含まれる。フェソテロジンは、最後にこの塩に、好ましくはこのフマレート塩にフマル酸との反応によって変換させることができる。
【0090】
本発明の好ましい実施形態では、3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)は、2−アミノ−2−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸(ヒドロキシフェニルグリシン)とN,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミン(DIPCA)との、酸の存在下、好ましくは80から150℃での2−アミノ−2−(3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシフェニル)酢酸(HFG)を得るための反応、および適切な酸化剤との、好ましくは30から105℃の水中でPHBを得るためのまた別の反応を含めて合成される。中間化合物HFGは、単離することができる。しかし有益には、および好ましくは、DIPCAからPHBへの合成は、HFGの中間単離を行わずにワンポット内で実施することができる。
【0091】
この手順をスキーム11の上方の列に略図で示す。
【0092】
【化30】

スキーム11の手順は、式E
【0093】
【化31】

(式中、Rは、H、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルであり、Rxは、HおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyは、C−Cアルキルから選択される(RxおよびRyは、好ましくはイソプロピルである。)。)
の化合物を調製するためのより一般的な方法の、特別であるが限定されない実施例である。
【0094】
出発DIPCAはWO07/147547の公知の手順に従って塩化シンナミルから、または当業者には公知の方法によってシンナムアルデヒドもしくはシンナミルアルコールのような他のシンナミル誘導体から調製することができる。同様に、他のN−置換シンナムアミン類が調製される。
【0095】
ヒドロキシフェニルグリシンは、半合成β−ラクタム系抗生物質の調製において公知で使用されている安価な市販の出発材料である。
【0096】
好ましい実施形態では、DIPCAは、0.9から2、より好ましくは1から1.4モル当量の、上記に規定した式A、好ましくは
【0097】
【化32】

(式中、C*は、(R)もしくは(S)配置またはこれらの混合物を有し、RはH、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルであり、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’はC−Cアルキル、C−Cアルコキシもしくはベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシ、フルオレニルオキシである。)である。)
のヒドロキシフェニルグリシン化合物と、濃強酸中で反応させられる。好ましくは、R、RおよびYは、Hである。強酸は、無機酸、例えば硫酸、過塩素酸もしくは有機スルホン酸、例えばC−Cアルカンスルホン酸、フッ素化C−Cアルカンスルホン酸、アレーンスルホン酸から選択され、好ましくは、該強酸はメタンスルホン酸および硫酸から選択される。強酸は、場合により水で好ましくは50(w/w)%未満、最も好ましくは30(w/w)%未満に、および/または脂肪酸、例えば酢酸を用いて希釈される。この反応は、50から200℃、好ましくは80から150℃、最も好ましくは110から130℃で、2から72時間、好ましくは8から48時間、最も好ましくは20から24時間にわたって実施される。好ましくは、有機溶媒は工程(a)のための反応溶液中には含有されない、または加えられないが、これは工程(a)の反応のより高い変換率およびより高い収率のために有益であるからである。
【0098】
式Cの中間生成物は、水を用いた希釈、水溶液のpHの5から9への、好ましくは約7への調整および場合により抽出によって単離することができる。単離は、得られた化合物を特徴付けるためにカラムクロマトグラフィーを用いた精製によって実施することができる。
【0099】
従って、本発明は、また別の態様では、式C
【0100】
【化33】

(式中、RはH、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルであり、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’はC−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択され、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyはC−Cアルキルから選択される。)(好ましくは、Rは水素であり、RxおよびRyはイソプロピル、式C’
【0101】
【化34】

である。)である。)
の化合物またはこの塩の提供に関する。
【0102】
本発明の最も好ましい分子としてのHFG(式C’(式中、R、YはHである。))は、式A’(式中、RおよびYは、Hとは異なる。)のより一般的な出発化合物からさえ酸性状態下での縮合反応中の不安定なRおよびY基の同時開裂によって形成することができる。さもなければ、HFGの調製は、当業者にとってはルーチンであるRおよびY基開裂の追加の反応によって実施することができる。式Cの化合物は、従って医薬品、特に尿失禁または過活動膀胱を治療するための抗コリン作用薬を調製する方法において有用である。化合物HFGの好ましい使用は、ヒドロキシトルテロジン、トルテロジンまたはフェソテロジンを場合によりエナンチオマー純粋形として、およびさらに場合により塩の形態で調製するための使用である。
【0103】
本発明の好ましい実施形態では、中間生成物HFGの単離は必要ではなく、省かれる。この実施形態では、HFGは、この後の目的、例えばこの後の反応工程のための有用な中間体として最終的に使用される溶液中、場合により反応溶液中もしくは任意のワークアップ溶液中で提供することができる。
【0104】
HFGの単離を行わないこの後の加工処理においては、pHの5から9へ、好ましくは約7への調整後に、エーテル類もしくはエステル類、好ましくは酢酸エステル類から選択される水非混和性溶媒が加えられ、中間体はさらに該中間体をアルデヒドPHBへ変換させる試薬に接触させられる。
【0105】
化合物CまたはC’、特にHFGの酸化的脱炭酸化は、各化合物C、C’または特にHFGの形成と同時に、しかし好ましくは形成後に実施することができる。より詳細には、アミノ酸化合物HFGからアルデヒドPHBへの変換は、機構的には3工程反応である。第1工程では、アミノ基が酸化剤の処理によってイミノ化合物へ酸化される。該イミノ中間体は、水性媒体中でα−ケト酸へ同時に加水分解し、α−ケト酸は高温ではさらに標題アルデヒドへ脱炭酸化する。
【0106】
【化35】

【0107】
複雑な機構にもかかわらず、シンナミルアミンDIPCAの本発明の特殊条件下での4つの機構的工程による変換は、驚くべきことにアルデヒドPHBへの50%を超える全変換率を生じさせる。
【0108】
反応スキーム12には式C(式中、R、YおよびRは、各々Hであり、RxおよびRyはイソプロピルである。)の例示した化合物としてHFGだけが図示されているが、示したように異なるR、RxおよびRy置換基を備える他の化合物もまた同様に使用できる。
【0109】
本発明の1つの実施形態では、酸化/脱アミノ化工程は反応性アルデヒド類および糖類(好ましくは、アルドース類、例えばグルコース)、キノン類(例えばベンゾキノン)から選択されるケトン類から選択されるアミノ基転移試薬によって実施されるが、好ましくは、アミノ基転移試薬はα−ケト置換カルボニル化合物、より好ましくはこれらのC−Cアナログ、例えばグリオキサル酸、ピルビン酸、塩類、エステル類およびアルデヒド、最も好ましくはメチルグリオキサルから選択される。
【0110】
本発明のまた別の実施形態では、酸化は、有機化合物、例えばアスコルビン酸もしくはイサチンから選択される触媒量のラジカル触媒の存在下で酸素大気によって、または好ましくは銅(II)塩類から選択される遷移金属カチオン類によって実施される。酸素の導入は、大気環境内での強力な攪拌によって実施されるが、場合により大量が使用される場合は、導入は反応媒体中への大気または酸素を直接的に吹き込むことによって実施される。
【0111】
また別の実施形態では、アミノ酸は高い酸化状態にある(相当に高い酸化状態にある。)金属カチオン類を含む塩類(つまり、典型的には相当に高い酸化状態にある金属カチオン(異なる低い、および高い酸化状態において自然に発生する。)を使用して)、例えばFe3+、または高度に酸化されたアニオン類(つまり、典型的には相当に高い酸化状態にあるアニオン(異なる低い、および高い酸化状態において自然に発生する。)を使用して)、例えば硝酸塩類および過硫酸塩類を含む塩類から選択される無機酸化剤によって酸化される。最も好ましい選択肢は、好ましくはアルカリ金属ペルオキソ二硫酸塩から選択される無機過硫酸塩の使用、または対応する硫酸塩および過酸化水素からインサイチューで調製されるペルオキソ二硫酸塩種を使用することである。好ましくは、ペルオキソ二硫酸カリウムまたはペルオキソ二硫酸ナトリウムが使用される。ケト酸化剤とは対照的に、無機酸化剤は酸化工程中に有機副生成物に変換されないので、精製方法にとって有益である。無機残留物は水によって単純に洗浄され、この場合には精製中の生成物の消失は収率の10から15%以下である。
【0112】
酸化的脱アミノ化/脱炭酸化の反応は、室温以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは還流温度(約100℃、例えば105℃まで)で各々0.5から24時間、好ましくは2から10時間にわたって実施される。冷却後、相は分離し、生成物は従来法によって単離および精製される。この方法は限定されない1つの実施例によって例示できるが、この実施例では、有機相が塩酸溶液で抽出され、水相は7より高いpHへアルカリ化され、生成物は水非混和性溶媒または溶媒混合液によって再抽出され、場合によりこの後にカラムクロマトグラフィー精製が行われる。このため、ホルミル中間体PHBは、グリニャール試薬および水素化物試薬を使用せずにワンポット法で安価なヒドロキシフェニルグリシン誘導体およびDIPCAから調製される。さらに、この変換にはフェノール基の保護は必要とされない。
【0113】
基本的に、アミノ酸からアルデヒドへの酸化的脱炭酸化は、当業者には公知であり、例えば、Ganesa et al.(J.Org.Chem.vol.50,1985;p.1206−1212)に記載されている。
【0114】
PHBは次に所望の化合物、特に抗コリン作用性化合物へ適切な合成工程によってさらに変換させることができる。
【0115】
1つの実施形態では、PHBは、ヒドロキシトルテロジンへ還元によって、好ましくは水素化アルミニウムもしくは水素化ホウ素を還元剤として使用することによって、より好ましくは例えばメタノールなどのアルコール中で水素化ホウ素ナトリウムを用いて変換させることができ、該生成物は、スキーム11(右上から右下側への工程)から明らかなように、従来法によって単離することができる。本発明の方法によって調製されたHTは、典型的に、ほとんどはラセミ形である。しかし式Aのキラル化合物、例えばキラル(R)または(S)ヒドロキシフェニルグリシンを使用すると、わずかに、典型的には多くとも20%のエナンチオマー過剰を達成することができた。このようなラセミ形HTまたはこのようなエナンチオマー過剰を有するHTを使用すると、(R)エナンチオマーの分離は、キラル有機酸、好ましくは(R)−2−アセトキシ(フェニル)酢酸を用いた結晶化によって実施することができるが、このとき(R)−HTは、WO07/138440に記載されたように、高度に強化されたアッセイにおいてアルカリ化後に沈殿したジアステレオ異性体塩から単離される。または、および場合により、エナンチオマーはキラルカラムクロマトグラフィーによって、または当業者には公知の他のエナンチオマー分離法によって分離することができる。
【0116】
HT、好ましくはこのエナンチオマー形である(R)−HTは、天然分子として固体状態で単離できる、または医薬上許容される塩に変換させることができる。好ましい塩は、マンデレートである。さらに、(R)−HTはプロドラッグ分子へ、アルカン酸の反応性誘導体によるフェノール性ヒドロキシ基のアシル化によって変換させることができるが、好ましくは、(R)−HTは、塩化イソブチリルもしくはイソ酪酸無水物によってイソ酪酸化プロドラッグへアシル化させることができる。好ましくは、フェソテロジンは、この塩に、好ましくはフマレート塩に変換させられる。
【0117】
フェソテロジンまたはこの塩(このフマレート塩によって例示された。)を調製する好ましい実施形態は、下記のスキーム13に表すことができる。この合成スキームは、PHBまたはHTから開始され、各々フェソテロジンを得るために3または2つの工程しか含んでいない。
【0118】
【化36】

また別の態様における本発明は、式G
【0119】
【化37】

(式中、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;RyはC−Cアルキルから、およびRzはH、C−C−アルキルもしくはフェニルから選択される。)
の化合物またはこの塩の調製に関し、式D’
【0120】
【化38】

(式中、RxおよびRyは上記と同一である。)
の化合物を、式RzCOX
(式中、Rzは上記と同一であり、Xは、Cl、BrもしくはIから選択されるハロゲンから選択される離脱基である。)、
OCORq(式中、RqはC−Cハロゲン化アルキルから選択される、またはRzと同一である。)、
OSORw(式中、RwはC−Cアルキル、C−C置換アルキル、フェニルもしくは置換フェニルである。)
(好ましくは、XはClもしくはOCOiPrである。)
の化合物を用いてアシル化し、式F
【0121】
【化39】

(式中、Rx、RyおよびRzは上記と同一である。)
の中間体を得る工程、
この後に式Gの化合物を得るために、好ましくは水素化ホウ素によるホルミル基の選択的還元が行われる工程
を含む。
【0122】
好ましい実施形態では、Rx、RyおよびRzは、イソプロピルである。フェソテロジン(式G;Rx、RyおよびRzは、イソプロピルである。)は、スキーム14に示したように調製されるが、このときいずれかの工程の化合物は、場合により、好ましくは(R)−エナンチオマーを単離して、キラル酸を用いたジアステレオ異性体塩の選択的沈殿によって、またはキラルカラムクロマトグラフィーによってエナンチオマーに分離される。
【0123】
【化40】

従って、また別の態様における本発明は、式F
【0124】
【化41】

(式中、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;RyはC−Cアルキルから選択され、RzはH、C−C−アルキルもしくはフェニルから選択される。)
の化合物に関する。
【0125】
FSTALD(式F’、Rx、RyおよびRzはイソプロピルである。)は、本発明の最も好ましい分子である。式Fの化合物は、医薬品、特に尿失禁または過活動膀胱を治療するための抗コリン作用薬を調製する方法において有用である。化合物FSTALDの好ましい使用は、ヒドロキシトルテロジン、トルテロジンまたはフェソテロジンを場合によりエナンチオマー純粋形として、およびさらに場合により塩の形態で調製するための使用である。
【0126】
HT、またはHTの塩類もしくはフェストテロジンは、ムスカリン受容体阻害に関連する疾患を治療するため、例えば尿失禁または過活動膀胱を治療するための抗コリン作用薬として使用できる。従って、トルテロジン、HTもしくはフェソテロジンまたはこれらのいずれかの塩類は、本明細書に開示したように得られ、引き続いて当業者には公知の医薬上許容される担体を用いて活性医薬成分として、例えば錠剤、カプセル剤、ペレット剤、顆粒剤および坐剤ならびにこれらの結合形にある医薬組成物を調製するために製造される。抗コリン薬、特にトルテロジン、HTもしくはフェソテロジンまたはこれらのいずれかの塩類の上述した活性医薬成分としての量は、ムスカリン受容体阻害を実行するため、および特に尿失禁または過活動膀胱を治療するために有効であるように適切に選択される。本発明による医薬組成物は、本明細書に開示したように得られたトルテロジン、HTもしくはフェソテロジンまたはこれらのいずれかの塩類の即時放出または調節放出のために適合する可能性がある。固体医薬組成物は、例えばペレット成形性を増加させる、または錠剤崩壊もしくは吸収を調節する目的でコーティングすることができる。
【0127】
医薬上許容される賦形剤は、結合剤、希釈剤、崩壊剤、安定剤、保存料、潤滑剤、香料、矯味剤、甘味料および製薬技術に分野において公知の他の賦形剤からなる群から選択することができる。好ましくは、担体および賦形剤は、ラクトース、微結晶セルロース、セルロース誘導体(例えばヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム)、ポリアクリレート類、炭酸カルシウム、デンプン、コロイド状二酸化ケイ素、グリコール酸デンプンナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよび製薬技術の分野において公知の他の賦形剤からなる群から選択することができる。
【実施例】
【0128】
実験方法
[実施例1]
N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミン(DIPCA)の調製
【0129】
【化42】

標題化合物は、WO2007/147547に記載の方法を使用して調製した。
【0130】
塩化シンナミル(905mL、6.5mol)、ジイソプロピルアミン(1.37L、9.75mol)、炭酸カリウム(0.90kg、6.5mol)、ヨウ化カリウム(54g、0.325mol)、トルエン(2.1L)およびメタノール(0.50L)の混合液を還流温度で20時間にわたり攪拌した。この混合液を25℃へ冷却し、水(5.2L)を加えた。相を分離させ、有機相を食塩液で抽出した。有機相を減圧(50℃)下で濃縮し、次に水(10.4L)およびトルエン(2.6L)を加え、pHを濃塩酸(約500mL)の添加によって2へ調整した。生じた混合液を15分間攪拌し、相を分離させた。水相をトルエン(2×2.6L)で2回再抽出した。次に水相のpHを8Mの水酸化ナトリウム水溶液(750mL)の添加によって12へ調整した。生じた白色懸濁液にヘプタン(5.2L)を加え、この混合液を15分間にわたり攪拌した。相を分離させ、水相をヘプタン(2×2.6L)で2回再抽出した。結合有機相をNaSOで脱水し、濃縮し、1.32kg(収率93%)のDIPCAを得た。
【0131】
[実施例2]
2−アミノ−2−(3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシフェニル)酢酸(HFG)の調製
【0132】
【化43】

【0133】
DIPCA(10.9g、50mmol)、(R)−2−アミノ−2−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸(10.0g、60mmol)およびメタンスルホン酸(26mL、0.40mol)の混合液を120℃で20時間にわたり攪拌した。この溶液を冷却させ、水(50mL)を加えた。次にこの溶液のpHを8Mの水酸化ナトリウム水溶液(約45mL)の添加によって7へ調整し、水を加えると、最終容量は150mLとなった。この溶液の3mLアリコートを取り出し、クロマトグラフィー(Biotage C18HS 25+Mカラム;10mMのNaHPO水溶液を用いた溶出:アセトニトリル 100:0→0:100)にかけ、370mg(収率96%)のHFGを無色固体(ジアステレオ異性体の混合物)として得た。H NMR(DO):δ0.99(m,12H),2.28(m,2H),2.66−2.87(m,2H),3.37(m,2H),4.17(m,1H),4.51(2s,1H),6.71(m,1H),6.95−7.09(m,2H),7.11−7.22(m,5H).13C NMR(DO):δ18.66,18.72,20.4,20.5,34.56,34.63,43.8,44.2,48.9,49.0,57.8,60.67,60.74,119.0,119.1,128.86,128.89,129.5,129.7,130.1,130.5,130.6,130.7,131.3,131.60,131.62,133.3,133.4,145.1,145.3,156.96,157.03,176.0,176.2.
【0134】
[比較例3]
3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)を4−ヒドロキシベンズアルデヒドから調製する試み
【0135】
【化44】

【0136】
DIPCA(1.09g、5mmol)、4−ヒドロキシベンズアルデヒド(2.44g、20mmol)およびメタンスルホン酸(1.2mL、18mol)の混合液を100℃で3時間にわたり攪拌した。この時間中に、反応混合液はゴム状のゲルの形態で固化する。この混合物を室温に冷却させ、16時間放置した。HPLC分析により、95面積%の4−ヒドロキシベンズアルデヒド、3面積%のDIPCAおよび15種を超える微量の生成物が明らかになった。
【0137】
[実施例4]
3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)をDIPCAからワンポット法で調製する反応
【0138】
【化45】

【0139】
DIPCA(10.9g、50mmol)、(R)−2−アミノ−2−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸(10.0g、60mmol)およびメタンスルホン酸(26mL、0.40mol)の混合液を120℃で20時間にわたり攪拌した。この溶液を冷却させ、水(50mL)を加えた。次にこの溶液のpHを8Mの水酸化ナトリウム水溶液(約45mL)の添加によって7へ調整し、水を加えると、最終容量は150mLとなった。この溶液の3mLのアリコートを取り出し、水で希釈した(下記の表を参照されたい。)。この溶液に必要であれば選択した試薬および触媒(下記の表を参照)を加え、この混合液を選択した温度で攪拌した。下記の表に記載した時間後、サンプルを取り出し、HPLC分析にかけた。結果を下記の表に要約する。
【0140】
【表1】

【0141】
[実施例5]3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)の調製
【0142】
【化46】

【0143】
DIPCA(10.9g、50mmol)、(R)−2−アミノ−2−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸(10.0g、60mmol)およびメタンスルホン酸(26mL、0.40mol)の混合液を130℃で23時間にわたり攪拌した。この溶液を冷却させ、水(250mL)を加えた。この溶液のpHを8Mの水酸化ナトリウム水溶液(約45mL)の添加によって7へ調整した。この溶液に水(200mL)、酢酸イソプロピル(200mL)およびペルオキソ二硫酸カリウム(18.9g、70mmol)を加え、この混合液を還流温度(78℃)で4時間攪拌した。この混合液を25℃へ冷却させ、相を分離させた。有機相を10mM塩酸水溶液(100mL)で抽出した。水相を結合し、pHを8Mの水酸化ナトリウム水溶液の添加によって9へ調整した。この混合液をジクロロメタン:メタノール(8:2)混合液(4×300mL)を用いて4回抽出した。濃縮後、この生成物をクロマトグラフィー(シリカゲル;ジクロロメタン:メタノール=10:1を用いた溶出)によって精製し、6.33g(収率37%)のPHBを得た。H NMR(CDCl):δ1.11(d,6H,J=6.5Hz),1.18(d,6H,J=6.6Hz),2.16(m,1H),2.42(m,2H),2.78(m,1H),3.34(hept,2H,J=6.6Hz),4.53(dd,1H,J=4.5Hz,J=11.0Hz),6.84(d,1H,J=8.4Hz),7.07(br s,1H),7.14−7.31(m,5H),7.52(m,1H),9.55(s,1H).13C NMR(CDCl):δ18.8,19.3,32.6,39.5,42.6,49.4,118.8,126.4,126.8,128.3,128.4,130.7,130.8,132.8,143.7,166.8,190.7.
【0144】
[実施例6]
3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)の調製
DIPCA(10.9g、50mmol)、(R)−2−アミノ−2−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸(10.0g、60mmol)および70%硫酸(19g)の混合液を105℃で44時間にわたり攪拌した。この混合液を冷却させ、水(250mL)を加えた。この溶液のpHを8Mの水酸化ナトリウム水溶液(約50mL)の添加によって8へ調整した。この溶液に水(200mL)、酢酸イソプロピル(200mL)およびペルオキソ二硫酸ナトリウム(19.0g、80mmol)を加え、この混合液を還流温度(76℃)で4時間攪拌した。この混合液を25℃へ冷却させ、相を分離させた。有機相を10mM塩酸水溶液(2×50mL)で2回抽出した。水相を結合し、pHを8Mの水酸化ナトリウム水溶液の添加によって9へ調整した。この混合液をジクロロメタン:メタノール(8:2)混合液(4×300mL)を用いて4回抽出した。濃縮後、この生成物をクロマトグラフィー(シリカゲル;ジクロロメタン:メタノール=10:1を用いた溶出)によって精製し、5.19g(収率31%)のPHBを得た。
【0145】
[実施例7]
3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)の調製
実施例6による方法に従ったが、DIPCA(10.9g、50mmol)および(S)−2−アミノ−2−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸(10.0g、60mmol)を使用した。PHBの収量:5.6g(33%)。
【0146】
[実施例8]
3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)の調製
実施例6による方法に従ったが、DIPCA(10.9g、50mmol)およびラセミ形2−アミノ−2−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸(10.0g、60mmol)を使用した。PHBの収量:3.9g(25%)。
【0147】
[実施例9]
2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノール(HT)の調製
【0148】
【化47】

標題化合物は、WO2007/147547に記載の方法を使用して調製した。
【0149】
メタノール(40mL)中のPHB(6.33g、18.6mmol)の溶液を0℃に冷却させた。冷却した溶液に水素化ホウ素ナトリウムを少しずつ加え、この溶液を2時間にわたり攪拌した。この溶液を減圧下で濃縮させ、ジクロロメタン(50mL)および1Mの塩酸水溶液(30mL)を加えた。この混合液を5分間攪拌し、pHを1Mの水酸化ナトリウム水溶液を用いて8へ調整した。相を分離させ、水相をジクロロメタン(4×30mL)で4回再抽出した。結合有機相を濃縮させ、生成物をクロマトグラフィー(シリカゲル;ジクロロメタン:メタノール=1:1)によって精製し、5.44g(収率86%)のHTを得た。H NMR(CDCl):δ1.09(d,6H,J=6.7Hz),1.15(d,6H,J=6.7Hz),2.10(m,1H),2.37(m,2H),2.74(m,1H),3.25(hept,2H,J=6.7Hz),4.42(s,2H),4.52(dd,1H,J=3.5Hz,J=11.0Hz),6.74(d,1H,J=2.1Hz),6.90(d,1H,J=8.2Hz),7.06(dd,1H,J=2.1Hz,J=8.2Hz),7.19−7.36(m,5H).13C NMR(CDCl):δ19.5,19.9,33.1,39.4,41.9,47.9,65.3,118.5,126.2,126.5,127.5,128.3,128.5,132.5,132.8,144.4,155.5.
【0150】
[実施例10]
(R)−2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノール((R)−HT)の調製
【0151】
【化48】

【0152】
t−アミルアルコール(82mL)中のHT(5.12g、15mmol)の溶液を70℃へ加熱し、t−アミルアルコール(20mL)中の(R)−アセトキシ(フェニル)酢酸(1.36g、7mmol)の溶液を1時間かけて加えた。生じた混合液を25℃へ徐々に冷却させ、一晩攪拌した。生じたスラリーを濾過し、ケーキをt−アミルアルコール(2×20mL)で2回洗浄した。白色固体を40℃の減圧下で乾燥させ、3.17g(収率85%)の(R)−2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノール(R)−アセトキシ(フェニル)アセテートを得た。
【0153】
この塩の一部(2.16g、4.0mmol)をトルエン(22mL)中に懸濁させ、50℃へ加熱し、炭酸カリウム(25mL)の8%水溶液を加えた。生じた混合液を50℃で強力に1時間攪拌し、相を分離させた。有機相を水(4mL)で洗浄し、減圧下で濃縮させ、1.3g(収率81%)の(R)−HTを得た。
【0154】
[実施例11](R)−2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノール(S)−マンデレート((R)−HT(S)−MA)の調製
【0155】
【化49】

【0156】
2−プロパノール中の(R)−HT(1.11g、3.25mmol)の溶液に2−プロパノール中の(S)−マンデル酸(0.48g、3.0mmol)の溶液を加えた。無水ジエチルエーテル(2.5g)を加え、生じた溶液を25℃で2時間にわたり攪拌した。生じた白色沈殿物を濾過し、2−プロパノール/ジエチルエーテル(1:1)混合液(2×5mL)で2回洗浄し、40℃の減圧下で乾燥させ、1.39g(収率94%)の(R)−2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノール(S)−マンデレートを得た。
【0157】
[実施例12]
2−[3−(N,N−ジイソプロピルアミノ)−1(R)−フェニルプロピル]−4−(ヒドロキシメチル)フェニル 2−メチルプロピオネートヒドロフマル酸塩の調製
【0158】
【化50】

【0159】
ジクロロメタン(10mL)中の(R)−HT(0.85g、2.5mmol)およびトリエチルアミン(0.37mL、2.65mmol)の溶液を0℃に冷却し、ジクロロメタン中の塩化イソブチリル(0.28mL、2.5mmol)の溶液を滴下した。この溶液を0℃で15分間および25℃で30分間攪拌した。水(4mL)を加え、相を分離させた。有機相を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(4mL)で洗浄し、減圧下で濃縮させると、0.99g(収率96%)のイソブチリル化生成物(R)−BHTが得られた。
【0160】
2−ブタノン(1.8mL)中の事前に調製した中間体(0.84g、2.04mmol)の溶液を50℃へ加熱し、フマル酸(0.24g、2.04mmol)を加えた。攪拌を10分間継続し、シクロヘキサン(0.4mL)を加えた。この混合液を25℃で18時間および0℃で3時間攪拌した。生じたスラリーを濾過し、固体をシクロヘキサン/2−ブタノン(1mL;9:1(v/v))混合液で洗浄した。固体を30℃の減圧下で乾燥させ、0.86g(収率80%)の標題化合物を得た。
【0161】
[実施例13]
2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ホルミルフェニルイソブチレート(FSTALD)の調製
【0162】
【化51】

【0163】
ジクロロメタン(105mL)中のPHB(9.0g、26.6mmol)の氷温(−15℃)溶液にトリエチルアミン(4.43mL、32mmol)およびジクロロメタン(32mL)中の塩化イソブチリル(3.2mL、29mmol)の溶液を10分間かけて滴下した。この溶液を0℃で20分間および20から25℃で60分間攪拌した。水(40mL)を加え、相を分離させた。有機相を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(40mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて脱水し、濾過し、減圧下で濃縮させ、10.8g(収率100%)の2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ホルミルフェニルイソブチレート(FSTALD)を得た。H NMR(CDCl):δ0.92(m,12H),1.29(d,3H,J=7.1Hz),1.34(d,3H,J=7.0Hz),2.19(m,2H),2.37(m,2H),2.82(m,1H),2.99(m,2H),4.23(t,1H,J=7.7Hz),7.15−7.29(m,6H),7.75(dd,1H,J=2.0Hz,J=8.2Hz),7.93(d,1H,J=1.8Hz),9.96(s,1H).
【0164】
[実施例14]
2−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェニルイソブチレートの調製
【0165】
【化52】

【0166】
2−プロパノール(20mL)中のFSTALD(2.05g、5mmol)の氷温(0℃)溶液に水素化ホウ素ナトリウム(284mg、7.5mmol)を加え、生じた混合液を0℃で3時間にわたり攪拌した。トルエン(50mL)を加え、次に飽和リン酸二水素カリウム水溶液(10mL)を加えた。相を分離させ、有機相を水(2×10mL)を用いて2回、およびこの後に食塩液(10mL)を用いて洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムを用いて脱水し、濾過し、濃縮させ、1.90g(収率92%)のフェソテロジンを油として得た。
【0167】
[比較例(WO2007/147547、実施例12)]:
3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)の調製
2.04gのN,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミンを4.76gのp−ヒドロキシベンズアルデヒドおよび3.1gのメタンスルホン酸に加え、130℃へ23時間にわたり加熱した。固体の塊が得られた。フラスコを壊し、生じた固体を乳鉢内で崩壊させた。粉末状になった塊に水(40mL)およびトルエン(400mL)を加え、NaCOを用いてpHを9.5へ調整した。トルエン層を単離し、水(40mL)で洗浄した。トルエン相の濃縮は、150gの油性の塊(ある程度の固体物質を含む。)を生じさせた。
【0168】
この残留物のHPLCは、3−(3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(PHB)を生じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式D:
【化1】

(式中、Rは、H、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルから選択され、Rxは、HおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyは、C−Cアルキルから選択される。)
の化合物またはこの塩を調製する方法であって、
(a)式B
【化2】

(式中、RxおよびRyは上記に規定したとおりである。)
の3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミンもしくはこの塩を、式A
【化3】

(式中、*はキラルC原子を意味し、Rは上記と同一であり、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’は、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択される。)
によって表されるヒドロキシフェニルグリシンもしくはこの誘導体と、酸の存在下で反応させる工程、
(b)場合により、Hとは異なる場合はRおよびYを除去する工程、および
(c)酸化試薬の存在下での酸化的脱炭酸化工程
を含む方法。
【請求項2】
式D’:
【化4】

(式中、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyは、C−Cアルキルから選択される。)
の3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロピルアミン化合物またはこの塩を調製する方法であって、
(a)式B
【化5】

(式中、RxおよびRyは上記に規定したとおりである。)
の3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミンもしくはこの塩を、式A’
【化6】

(式中、*はキラルC原子を意味し、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’は、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択される。)
によって表されるヒドロキシフェニルグリシンもしくはこの誘導体と、酸の存在下で反応させる工程、
(b)場合により、Hとは異なる場合はRおよびYを除去する工程、および
(c)酸化試薬の存在下での酸化的脱炭酸化工程
を含む方法。
【請求項3】
RxおよびRyが、イソプロピルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)および(b)がワンポット反応で進行する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)における酸が、無機酸および有機スルホン酸から選択され、好ましくは硫酸、過塩素酸、C−Cアルカンスルホン酸、フッ素化C−Cアルカンスルホン酸、アレーンスルホン酸から選択され、より好ましくはメタンスルホン酸および硫酸から選択され、場合により前記酸は、水および/または脂肪酸を用いて希釈され、好ましくは前記含水量は50(w/w)%未満、より好ましくは30(w/w)%未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)のための反応溶液中に有機溶媒が含有されない、または加えられない、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)の前に、工程(a)の酸反応溶液が5から9の範囲内のpHに調整され、次に水非混和性溶媒が加えられ、次に工程(c)が実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(c)が、
(i)反応性アルデヒド類およびケトン類から選択されるアミノ基転移試薬を使用する工程;
(ii)ラジカル触媒の存在下で酸素大気を使用する工程;
(iii)相当に高い酸化状態にある金属カチオン類および相当に高い酸化状態にあるアニオン類の塩から選択される無機酸化剤を使用する工程
のいずれか1つによって実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(c)における酸化が、ベンゾキノン、グリオキサル酸およびピルビン酸ならびにこれらの塩およびエステル、無機過硫酸塩からなる群からなる任意の酸化剤を使用して、または対応する硫酸塩および過酸化水素からインサイチューで調整されるペルオキソ二硫酸塩種を使用して実施される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
式E
【化7】

(式中、Rは、H、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルであり、Rxは、HおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyは、C−Cアルキルから選択される(Rは、好ましくはHであり、独立してRxおよびRyは、好ましくはイソプロピルである。)。)
の化合物またはこの塩を調製する工程をさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法であって、
このとき式DもしくはD’(式中、R、RxおよびRyは、上記と同一である。)の化合物は式Eの化合物を得るためにホルミル基の選択的還元にかけられ;場合により、さらに式Eの化合物の塩を形成する工程を含む方法。
【請求項11】
式E(式中、Rはフェノール性ヒドロキシ基を規定するための水素である。)の化合物に前記フェノール性ヒドロキシ基をアシル化するための反応を受けさせ、および場合により前記アシル化生成物の塩を形成する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項3から9のいずれか一項に記載の、ヒドロキシトルテロジンまたはこの塩を調製する方法であって:
3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミンを調製する工程、
ヒドロキシトルテロジン(HT)を得るために還元工程を実施する工程、および
場合によりHTをキラル(R)−HTに変換させる、またはHTもしくは(R)−HTをこれらの塩に変換させる工程
を含む方法。
【請求項13】
調整されたヒドロキシトルテロジン(HT)もしくはキラル(R)−HTまたはこれらの塩がHTもしくはキラル(R)−HTのフェノール性ヒドロキシ基のアルカン酸によるアシル化にかけられる、および場合によりアシル化ヒドロキシトルテロジンもしくはこの塩を調製するために前記アシル化ヒドロキシトルテロジンがこの塩に変換させられる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アシル化がフェソテロジンを得るための塩化イソブチリルもしくはイソ酪酸無水物によって実施され、および場合によりフェソテロジンをこの塩、好ましくはフマレート塩に変換させる、フェソテロジンもしくはこの塩を調製するための請求項13に記載の方法。
【請求項15】
式G
【化8】

(式中、Rxは、HおよびC−Cアルキルから選択される;RyはC−Cアルキルから選択される、およびRzはH、C−C−アルキルもしくはフェニルから選択される。)
の化合物またはこの塩を調製する工程をさらに含む、請求項2から9のいずれか一項に記載の方法であって、
このとき式D’
【化9】

(式中、RxおよびRyは上記と同一である。)
の化合物が、アシル化にかけられ、式F
【化10】

(式中、Rx、RyおよびRzは上記と同一である。)
の中間体を得る工程、および
式Gの化合物を得るためのホルミル基の選択的還元工程;場合によりさらに式Gの化合物の塩を形成する工程を含む方法。
【請求項16】
フェソテロジンまたはこの塩を調製する方法であって:
(a)N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロプ−2−エン−1−アミンを
式A’
【化11】

(式中、*はキラルC原子を意味し、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’は、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択される。)である。)
によって表されるヒドロキシフェニルグリシンもしくはこの誘導体と、酸の存在下で反応させる工程;
(b)場合により、Hとは異なる場合はRおよびYを除去する工程;
(c)この後の、酸化剤の存在下で3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミンを得るための酸化的脱炭酸化工程;
(d)形成された3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミンを還元させ、ヒドロキシトルテロジン(HT)を得る工程;および
(e)工程(d)において得られたフェノール性ヒドロキシ基HTもしくは(R)−HTのアシル化を塩化イソブチリルもしくはイソ酪酸無水物によって実施し、フェソテロジンを得る工程;
(f)場合によりフェソテロジンをこの塩に、好ましくはフマレート塩に変換させる工程;または
工程(d)から(e)が:
(d’)工程(c)において得られた3−(5−ホルミル−2−ヒドロキシフェニル)−N,N−ジイソプロピル−3−フェニルプロピルアミンのフェノール性ヒドロキシ基のアシル化を塩化イソブチリルもしくはイソ酪酸無水物によって実施する工程;
(e’)この後にホルミル基の選択的還元が行われる工程;
の工程によって置換され、
このとき場合により工程(d)から(e)または(d’)から(e’)の化合物のいずれかがエナンチオマーに分離され、好ましくは各(R)−エナンチオマーを単離する工程
を含む方法。
【請求項17】

【化12】

(式中、RはH、C−Cアルキル、アリール置換C−Cアルキル、C−C−アルキル置換シリルであり、Rは水素、C−Cアルキルもしくはアリール−C−C−アルキルであり、Yは水素もしくはCOR’(式中、R’はC−Cアルキル、C−Cアルコキシ、ベンジルオキシ、p−置換ベンジルオキシおよびフルオレニルオキシからなる群から選択され、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;およびRyはC−Cアルキルから選択される。)である。)
の化合物またはこの塩。
【請求項18】
R、RおよびYが水素であり、RxおよびRyがイソプロピルである、請求項17に記載の化合物。
【請求項19】

【化13】

(式中、RxはHおよびC−Cアルキルから選択される;RyはC−Cアルキルから選択され、およびRzはH、C−C−アルキルもしくはフェニルから選択される。)
の化合物またはこの塩。
【請求項20】
Rx、RyおよびRzが、イソプロピルである、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
医薬品を調製するための方法における、請求項17から20のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項22】
ヒドロキシトルテロジン、トルテロジンまたはフェソテロジンを調製するための、場合によりエナンチオマー純粋形で調整するための、および場合によりこれらの塩を調製するための、請求項17から20のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項23】
ヒドロキシトルテロジン、トルテロジンまたはフェソテロジンが、エナンチオマー純粋形、好ましくはこの(R)−配置で調製される、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
ヒドロキシトルテロジン、トルテロジンもしくはフェソテロジンまたはこれらの塩を活性医薬成分として含む医薬組成物を調製するための方法であって、
活性医薬成分としてヒドロキシトルテロジン、トルテロジンもしくはフェソテロジンまたはこれらの塩を提供するための請求項12から16のいずれか一項に記載の方法または請求項21から23のいずれか一項に記載の使用を実施する工程、および
前記医薬組成物を調製するために前記活性医薬成分を医薬的に許容される担体を用いて調製する工程を含む方法。

【公表番号】特表2013−521321(P2013−521321A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556486(P2012−556486)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053465
【国際公開番号】WO2011/110556
【国際公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(504359293)レツク・フアーマシユーテイカルズ・デー・デー (60)
【Fターム(参考)】