説明

マニュピレータ用粘着トレイ

【課題】粘着層にマニュピレータを圧接してその先端部を十分に埋没させ、粘着層に電子部品を適切に密着したり、電子部品のピックアップ不良を防止できるマニュピレータ用粘着トレイを提供する。
【解決手段】トレイ1に粘着性の粘着フィルム5を積層し、この粘着フィルム5の表面6に、マニュピレータ20の一対の保持爪21でピックアンドプレースされる複数の電子デバイス22を着脱自在に粘着保持する粘着トレイであり、トレイ1のトレイ本体3表面と粘着フィルム5の裏面との間に、200μm〜1mmの厚さを有する弾性のクッション層10を介在接着してその硬度をショアA硬度で70Hs以下とし、トレイ1の厚さ方向に真空回避孔4を穿孔し、クッション層10に通気性を付与してトレイ1の真空回避孔4からの空気を粘着フィルム5とクッション層10との界面11に導入可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等の電子部品を粘着保持するマニュピレータ用粘着トレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における粘着トレイは、図示しないが、剛性を有する平面矩形のトレイを備え、このトレイの表面に粘着性の粘着フィルムが接着されており、この粘着フィルムの表面に、マニュピレータでピックアンドプレースされる電子デバイスが着脱自在に粘着保持される(特許文献1、2、3、4、5、6参照)。
粘着フィルムは、所定の樹脂フィルムを使用して略50〜200μmの厚さに形成され、可撓性が付与されている。また、マニュピレータは、その先端部に少なくとも開閉可能な一対の保持爪を備え、この一対の保持爪に電子デバイスが挟持される。
【0003】
上記構成において、粘着トレイに電子デバイスを保持させる場合には、マニュピレータの一対の保持爪に電子デバイスを挟持させ、一対の保持爪を粘着トレイの粘着フィルムに接触させれば、粘着フィルムの表面に電子デバイスを粘着保持させることができる。この際、粘着フィルムの表面に電子デバイスを隙間なく密着させるため、粘着フィルムに一対の保持爪を圧接(圧力作用状態で接触する)し、粘着フィルムに各保持爪の先端部を多少埋没させることが必要となる。
【0004】
粘着トレイから電子デバイスをピックアップして取り外す場合には、マニュピレータの一対の保持爪に電子デバイスを挟持させ、マニュピレータを引き上げれば、粘着フィルムの表面に粘着している電子デバイスを剥離して取り外すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐231338号公報
【特許文献2】特開2008‐311377号公報
【特許文献3】特開2008‐91696号公報
【特許文献4】特開2007‐281503号公報
【特許文献5】特開2007‐273546号公報
【特許文献6】特開2002‐64135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来における粘着トレイは、以上のように構成され、粘着フィルムが略50〜200μm程度の薄さなので、粘着フィルムにマニュピレータの一対の保持爪を圧接すると、トレイの表面に各保持爪の先端部が衝突し、保持爪の先端部を十分に埋没させることができない。したがって、粘着フィルムの表面に電子デバイスを適切に押し付けて密着させることができず、電子デバイスのピックアップ不良が生じるという問題がある。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたもので、粘着層にマニュピレータを圧接してその先端部を十分に埋没させ、粘着層に電子部品を適切に密着したり、電子部品のピックアップ不良を防止することのできるマニュピレータ用粘着トレイを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては上記課題を解決するため、トレイに粘着性の粘着層を積層し、この粘着層の露出面に、マニュピレータでピックアンドプレースされる電子部品を着脱自在に粘着保持するものであって、
トレイと粘着層との間に、200μm〜1mmの厚さを有する弾性の緩衝層を介在し、この緩衝層の硬度をショアA硬度で70Hs以下としたことを特徴としている。
なお、トレイの厚さ方向に負圧回避孔を穿孔し、緩衝層に通気性を付与してトレイの負圧回避孔からの気体を少なくとも粘着層と緩衝層との界面に導入可能とすることができる。
【0009】
また、緩衝層に、トレイの負圧回避孔からの気体を粘着層と緩衝層との界面に流通させる流通部を形成することができる。
また、流通部には、緩衝層の裏面に形成されてトレイの負圧回避孔に連通する流通溝と、緩衝層の厚さ方向に設けられて負圧回避孔や流通溝に連通する流通孔とを含めることもできる。
さらに、緩衝層を、ウレタンゴムと、気泡を有するスポンジ材のいずれかにより形成することが可能である。
【0010】
ここで、特許請求の範囲におけるトレイ、粘着層、緩衝層は、必要に応じ、平面矩形、多角形、円形、楕円形等に形成することができる。トレイの負圧回避孔は、単数複数を特に問うものではない。また、トレイの緩衝層に対向する対向面は、負圧回避孔からの気体を流通させる観点から、凹凸に形成することができる。同様に、緩衝層のトレイに対向する対向面も、気体を流通させるため、凹凸に形成することができる。
【0011】
粘着層の緩衝層に対向する対向面は、負圧回避孔からの気体流通の観点から、凹凸に形成することが可能である。同様に、緩衝層の粘着層に対向する対向面も、気体流通のため、凹凸に形成することが可能である。粘着層と緩衝層との対向面は、少なくとも周縁部等の一部が接着(粘着含む)されていることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、マニュピレータ用粘着トレイに電子部品を保持させる場合には、マニュピレータに電子部品を保持させ、マニュピレータをトレイの粘着層に強く接触させることにより、粘着層の露出面に電子部品を粘着保持させる。この際、粘着層の厚さ方向に厚い緩衝層が位置してマニュピレータの埋没に必要な埋没代を確保するので、粘着層にマニュピレータを強く接触させてその先端部を十分に埋没させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粘着層にマニュピレータを圧接してその先端部を十分に埋没させることができ、この十分な埋没により、粘着層に電子部品を適切に密着したり、電子部品のピックアップ不良を防止することができるという効果がある。
【0014】
また、請求項2記載の発明によれば、トレイの負圧回避孔により真空状態の発生を防止することができるので、少なくとも粘着層を適切に変形復元させ、電子部品の剥離等に支障を来たすのを防ぐことができる。
また、請求項3記載の発明によれば、トレイの負圧回避孔に流入した気体を流通部により粘着層と緩衝層との界面に確実に導くことができるので、粘着層を変形させたり、変形した粘着層を元の状態に復元することができる。
【0015】
また、請求項4記載の発明によれば、緩衝層をウレタンゴムにより形成するので、緩衝層にマニュピレータの先端部が突き刺さり、粘着層からマニュピレータの先端部を引き離すのに支障を来たしたり、粘着層や緩衝層が損傷するのを防止することが可能になる。さらに、緩衝層をスポンジ材により形成すれば、緩衝層の少なくとも大部分に気体を流通させることができるので、流通部を省略して構成の簡素化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るマニュピレータ用粘着トレイの実施形態を模式的に示す全体斜視図である。
【図2】本発明に係るマニュピレータ用粘着トレイの実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図3】本発明に係るマニュピレータ用粘着トレイの実施形態における粘着フィルムにマニュピレータの保持爪を圧接した状態を模式的に示す断面説明図である。
【図4】本発明に係るマニュピレータ用粘着トレイの第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態におけるマニュピレータ用粘着トレイは、図1ないし図3に示すように、トレイ1に積層された粘着フィルム5に、マニュピレータ20の一対の保持爪21でピックアンドプレースされる電子デバイス22を粘着保持する粘着トレイであり、トレイ1と粘着フィルム5との間に弾性のクッション層10を介在し、このクッション層10に通気性を付与してトレイ1の真空回避孔4からの空気を粘着フィルム5とクッション層10との界面11に導入するようにしている。
【0018】
トレイ1は、図1ないし図3に示すように、握持操作可能な平面枠形の枠フレーム2を備え、この枠フレーム2の内周面に平坦な平面矩形のトレイ本体3が一体的な状態で水平に架設されており、このトレイ本体3の周縁部を除く表面にクッション層10と粘着フィルム5とが順次積層される。
【0019】
トレイ1は、所定の材料、例えばアルミ、ステンレス、ニッケル、ガラエポ、ガラス基板等により形成され、トレイ本体3の中心部厚さ方向に、気体である空気(図2や図3の矢印参照)を下方から上方に流通させる真空回避孔4が貫通して穿孔されており、この真空回避孔4が電子デバイス22のピックアップ時に真空状態が発生するのを回避するよう機能する。
【0020】
粘着フィルム5は、例えばポリプロピレン系エラストマーやポリオレフィン系エラストマー等により平面矩形に形成され、略50〜200μmの薄さにされて粘着性を有しており、露出した弱粘着性の表面6に複数の電子デバイス22が着脱自在に粘着保持される。この粘着フィルム5の材料は、電子デバイス22と良好に密着するものであれば、特に限定されるものではないが、耐熱性や耐薬品性等に優れる安価で柔軟なポリプロピレン系エラストマーの選択が好ましい。粘着フィルム5の裏面は、平坦でも良いが、図2や図3に示すように、クッション層10との接着度等を向上させる観点から、中央部がやや薄肉で周縁部がやや厚肉でも良い。
【0021】
クッション層10は、図2や図3に示すように、所定の弾性材料を使用して粘着フィルム5と略同じ大きさの平面矩形に形成され、トレイ本体3の表面に接着されるとともに、粘着フィルム5の裏面に接着されており、トレイ本体3の真空回避孔4からの空気を粘着フィルム5とクッション層10との界面11に流通させる流通部12が形成される。
【0022】
クッション層10を形成する所定の弾性材料としては、限定されるものではないが、例えばウレタンゴム、シリコーンゴム、気泡を有するスポンジ材、発泡材等があげられる。但し、マニュピレータ20の保持爪21が突き刺さる事態を回避するため、耐突き刺し性に優れるウレタンゴムの採用が望ましい。
【0023】
クッション層10の厚さは、保持爪21の先端部が適切に埋没する厚さ、具体的には、200μm〜1mmの範囲に調整される。これは、クッション層10の厚さが200μm未満の場合には、電子デバイス22を十分に押さえることができず、逆にクッション層10の厚さが1mmを越える場合には、顕著な効果の増大が期待できず、しかも、電子デバイス22の搭載面積の減少を招くおそれがあるからである。
【0024】
クッション層10の硬度は、ショアA硬度で70Hs以下に設定される。これは、クッション層10のショアA硬度が70Hsを越える場合には、硬すぎてマニュピレータ20の保持爪21が適切に埋没せず、電子デバイス22に十分な押し付け力を付与できないおそれがあるという理由に基づく。
【0025】
クッション層10の表面は、粘着フィルム5裏面の少なくとも一部と接着されるが、粘着フィルム5の裏面と隙間なく密着しなくても良い。例えば、クッション層10の表面周縁部をやや薄肉にして粘着フィルム5の裏面周縁部と接着し、クッション層10の表面中央部を粘着フィルム5の裏面中央部に僅かな空隙を介して対向させたり、単に接触する関係としても良い。クッション層10の接着に際しては、各種の接着剤、粘着剤、粘着シート等が適宜使用される。
【0026】
流通部12は、例えば、クッション層10の裏面に切り欠かれてトレイ本体3の真空回避孔4に連通する必要数の流通溝13と、クッション層10の厚さ方向に穿孔されて流通溝13に連通する複数の流通孔14とを備えて形成される。流通溝13は、例えばクッション層10の裏面中心部から外方向に放射状に伸びるよう形成される。
【0027】
上記構成において、マニュピレータ用粘着トレイに電子デバイス22を保持させる場合には、マニュピレータ20の一対の保持爪21に電子デバイス22を挟持させ、一対の保持爪21をトレイ1の粘着フィルム5に圧接すれば、粘着フィルム5の表面6に電子デバイス22を粘着保持させることができる。
【0028】
この際、薄い粘着フィルム5の直下に厚いクッション層10が位置して保持爪21の埋没代を確保するので、粘着フィルム5に一対の保持爪21を圧接しても、トレイ1の表面に各保持爪21の先端部が衝突して停止することがなく、各保持爪21の先端部を十分に埋没させることができる(図3参照)。したがって、粘着フィルム5の表面6に電子デバイス22を適切に押し付けて密着させることができ、電子デバイス22のピックアップ不良を有効に防止し、生産性の向上を図ることが可能になる。
【0029】
粘着トレイ1から電子デバイス22をピックアップして取り外す場合には、粘着フィルム5にマニュピレータ20の一対の保持爪21を圧接し、この一対の保持爪21に粘着状態の電子デバイス22を挟持させた後、マニュピレータ20を引き上げれば、粘着フィルム5の表面6に粘着した電子デバイス22を剥離して取り外すことができる。
【0030】
この際、空気がトレイ1の真空回避孔4に流入して流通部12の流通溝13と流通孔14とを順次経由し、粘着フィルム5とクッション層10との界面11に導入されるので、真空状態の発生を防止することができる。したがって、少なくとも粘着フィルム5が適切に変形復元し、電子デバイス22の剥離に支障を来たすことが全くない。
【0031】
次に、図4は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、クッション層10をウレタンゴムではなく、気泡が連続した柔軟なスポンジ材により形成し、クッション層10の全体に空気を流通させて粘着フィルム5とクッション層10との界面11等に空気を導入するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0032】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、クッション層10を、通気性を有するスポンジ材により形成するので、流通部12を敢えて形成する必要がない。したがって、流通溝13と流通孔14とを省略して構成の簡素化を図ることができるのは明らかである。
【0033】
なお、上記実施形態では枠フレーム2の内周面にトレイ本体3が架設されたトレイ1を示したが、トレイ1を断面皿形に形成してその内部にクッション層10と粘着フィルム5とを積層接着して収納しても良い。この場合、トレイ1の内周面やクッション層10の周面に必要数の流出溝を切り欠き、この流出溝を流通部12の流通溝13や流通孔14に連通させても良い。
【0034】
また、流通部12の流通孔14は単数でも良い。また、上記実施形態ではマニュピレータ20の一対の保持爪21を示したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、保持爪21を3本、4本等の複数にしたり、各保持爪21を先細りの形状やピン等とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係るマニュピレータ用粘着トレイは、回路部品、ガラス部品、半導体デバイス等の各種電子部品を取り扱う分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 トレイ
3 トレイ本体
4 真空回避孔(負圧回避孔)
5 粘着フィルム(粘着層)
6 表面
10 クッション層(緩衝層)
11 界面
12 流通部
13 流通溝
14 流通孔
20 マニュピレータ
21 保持爪
22 電子デバイス(電子部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレイに粘着性の粘着層を積層し、この粘着層の露出面に、マニュピレータでピックアンドプレースされる電子部品を着脱自在に粘着保持するマニュピレータ用粘着トレイであって、
トレイと粘着層との間に、200μm〜1mmの厚さを有する弾性の緩衝層を介在し、この緩衝層の硬度をショアA硬度で70Hs以下としたことを特徴とするマニュピレータ用粘着トレイ。
【請求項2】
トレイの厚さ方向に負圧回避孔を穿孔し、緩衝層に通気性を付与してトレイの負圧回避孔からの気体を少なくとも粘着層と緩衝層との界面に導入可能とした請求項1記載のマニュピレータ用粘着トレイ。
【請求項3】
緩衝層に、トレイの負圧回避孔からの気体を粘着層と緩衝層との界面に流通させる流通部を形成した請求項2記載のマニュピレータ用粘着トレイ。
【請求項4】
緩衝層を、ウレタンゴムと、気泡を有するスポンジ材のいずれかにより形成した請求項1、2、又は3記載のマニュピレータ用粘着トレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−105779(P2013−105779A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246531(P2011−246531)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】