説明

ミトコンドリアの蛍光染色方法

【課題】本発明は、ミトコンドリアの蛍光染色剤や、ミトコンドリアの蛍光染色キットや、ミトコンドリアの蛍光染色方法を提供することを課題とする。
【解決手段】一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを併用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリアの蛍光染色剤や、ミトコンドリアの蛍光染色キットや、ミトコンドリアの蛍光染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、細胞内ミトコンドリアの染色には、生体染色色素が用いられている。例えば、胚形成初期精子のミトコンドリア細胞内挙動を観察するために、Rhodamine(登録商標)123(invitrogen社製;cat. R302, R22420)やMito Tracker(登録商標)(invitrogen社製; cat. M7512)によって染色し、蛍光顕微鏡下で観察することが行われている(例えば、非特許文献1〜4参照)。また、ミトコンドリアへのターゲット配列を、緑色蛍光タンパク質(GFP)に付加することにより、ミトコンドリアを可視化することも行われている(例えば、非特許文献5〜6参照)。
【0003】
しかし、前述の生体染色色素は、励起光により容易に退色してしまい、輝度が低下してしまう点、染色後においても色素が容易に解離してしまう点、色素によっては細胞を固定する必要がある点などの不十分な点があった。また、GFPを用いた前述のミトコンドリアの観察方法は、遺伝子組換え操作を伴うために煩雑であるなどの不十分な点があった。さらに、ミトコンドリアと機能的に深く関わる細胞小器官・生理活性物質をGFP標識する解析なども盛んに行われているが、そのような場合に、それらの細胞小器官等とミトコンドリアとを区別しつつ同時に観察するには、ミトコンドリアをGFP以外の波長特性をもつ蛍光タンパク質で標識する必要があった。
【0004】
5−アミノレブリン酸(5−ALA)は、アミノ酸の一種であり植物の葉緑素や動物の血液中のヘムなどに必須なポルフィリン類の唯一の原料となる物質である。5−アミノレブリン酸は、動物においては、順に、ポルフォビリノーゲン、ヒドロキシメチルビラン、ウロポルフィリノーゲンIII、コプロポルフィリンIII、プロトポルフィリノーゲンIX、プロトポルフィリンIXへと代謝され、プロトポルフィリンは鉄イオンを配位してヘムとなり、ヘムはグロビンと結合してヘモグロビンとなることが知られている。
【0005】
ABCG2(ATP-binding cassette, sub-family G, member 2)は、乳がん耐性タンパク質(breast cancer resistant protein:BCRP)とも呼ばれるが、ミトコンドリア膜に存在する、細胞膜貫通型のABC(ATP−binding cassette)トランスポーターの一つである。ABCG2は、プロトポルフィリンIXを基質の一つとしており、ABCG2を欠失させると、細胞内にプロトポルフィリンIXが蓄積することや(非特許文献7〜8参照)、プロトポルフィリンIXからヘムへの反応はミトコンドリア内で行われ、プロトポルフィリンIXはABCG2を介して細胞質へ排出され得ることも知られている(非特許文献9参照)。さらに、5−アミノレブリン酸は、細胞質内においてポルフォビリノーゲンを経由しコポルフォビリノーゲンIIIに代謝された後、ABCB6を介してミトコンドリア内に取り込まれることが知られている(非特許文献10参照)。また、非特許文献11には、ES細胞を、ABCG2インヒビターであるフミトレモルギンC(fumitremorgin C:FTC)で処理すると、細胞内のプロトポルフィリンIXが上昇することや、ES細胞を5−ALA処理して内因性のプロトポルフィリンIXを誘導した後のプロトポルフィリンIXの排出が、FTCの添加により低下したことが記載されている。また、非特許文献12には、膀胱癌細胞253JB−Vに、フェロキラターゼ阻害剤DFX(プロトポルフィリンIXからヘムを生成する酵素の阻害剤)を作用させると、5−ALAを介したプロトポルフィリンIXの細胞内への蓄積が高まることが記載されているが、この現象は正常細胞では見られなかった。
【0006】
以上のように、5−アミノレブリン酸とABCG2トランスポーター阻害剤を併用することによって、ミトコンドリアを非常に簡便かつ鮮明に染色し得ることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kaneda, H et al., (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 4542-4546.
【非特許文献2】Cummins, J. M et al., (1997) Zygote 5, 301-308.
【非特許文献3】Sutovsky, P. et al., (1996) Biol. Reprod. 55, 1195-1205.
【非特許文献4】Sutovsky, P. et al., (2000) Biol. Reprod. 63, 582-590.
【非特許文献5】Rizzuto, R et al., (1995) Curr. Biol. 5, 635-642.
【非特許文献6】Rizzuto, R et al., (1996) Curr. Biol. 6, 183-188.
【非特許文献7】J. W. Jonker et al., (2007) Am J Physiol Cell Physiol 292, C2204-C2212.
【非特許文献8】S. Zhou et al., (2005) Blood 105, 2571-2576.
【非特許文献9】Tamura, A et al., (2007) Drug Metabolism and Pharmacokinetics 22, No.6, 428-440.
【非特許文献10】Iqbal Hamza, (2006) ACS Chem. Biol., 1 (10), pp 627-629.
【非特許文献11】Susanto J. et al., (2008) PLoS ONE, vol. 3, issue 12, p. e4023
【非特許文献12】Inoue, K et al., (2009) Pathology 76, 303-314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ミトコンドリアの蛍光染色剤や、ミトコンドリアの蛍光染色キットや、ミトコンドリアの蛍光染色方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述のように、従来の生体染色色素は、励起光により容易に退色してしまい、輝度が低下してしまう点、染色後においても色素が容易に解離してしまう点、色素によっては細胞を固定する必要がある点などの不十分な点があった。また、GFPを用いた従来のミトコンドリアの観察方法は、遺伝子組換え操作を伴うために煩雑であるなどの不十分な点があった。そこで、本発明者らは、従来法の不十分な点を改善するべく鋭意検討を行ったところ、5−アミノレブリン酸と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを併用すると、5−アミノレブリン酸の代謝物質であるプロトポルフィリンIXがABCG2トランスポーターによりミトコンドリア外の細胞質に排出される量が著しく低減して、該プロトポルフィリンIXがミトコンドリア内に蓄積し、これにより、ミトコンドリアを非常に簡便かつ鮮明に蛍光染色することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、〔1〕一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを含むことを特徴とするミトコンドリアの蛍光染色剤や、
〔2〕ABCG2トランスポーター阻害剤が、レセルピン、トリプロスタチンA、フミトレモルギンC、ジピリダモール、ノボビオシン、エストロゲン、アンチエストロゲン、アクリロニトリル誘導体、GF120918、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンから選択されることを特徴とする上記〔1〕に記載のミトコンドリアの蛍光染色剤に関する。
【0011】
また、本発明は、〔3〕一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを含んでなることを特徴とするミトコンドリアの蛍光染色キットや、
〔4〕ABCG2トランスポーター阻害剤が、レセルピン、トリプロスタチンA、フミトレモルギンC、ジピリダモール、ノボビオシン、エストロゲン、アンチエストロゲン、アクリロニトリル誘導体、GF120918、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンから選択されることを特徴とする上記〔3〕に記載のミトコンドリアの蛍光染色キットに関する。
【0012】
さらに、本発明は、〔5〕一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを併用する工程を含むことを特徴とするミトコンドリアの蛍光染色方法や、
〔6〕次の(a)及び(b)の工程を含むことを特徴とする上記〔5〕に記載のミトコンドリアの蛍光染色方法;
(a)一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類、又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを、対象細胞に接触させる工程;
(b)プロトポルフィリンIXに対する励起光を、対象細胞に照射する工程;や、
〔7〕(c)工程(a)と工程(b)の間に、対象細胞を洗浄する工程をさらに含むことを特徴とする上記〔6〕に記載のミトコンドリアの蛍光染色方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ミトコンドリアを非常に簡便かつ鮮明に蛍光染色することができる。また、本発明の蛍光染色に用いる成分は細胞毒性がなく、生細胞に用いることができるため、観察するに際して細胞を固定する必要がない。また、本発明による蛍光染色は、原理的に色素の解離等を考慮する必要はないため、長時間にわたり、鮮明な蛍光が観察できる。また、プロトポルフィリンIXの最大蛍光波長は635nmであり、GFPの最大蛍光波長(509nm)と重複しないため、ミトコンドリアと機能的に深く関わる細胞小器官・生理活性物質をGFP標識したときであっても、本発明によりミトコンドリアを蛍光染色すれば、それらの細胞小器官等とミトコンドリアとを区別しつつ同時に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を蛍光染色した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す図である。図1左上パネル:HUVEC(ALA)をNAOにて染色した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。図1中央上パネル:HUVEC(ALA)に5−アミノレブリン酸(ALA)を添加した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。図1右上パネル:図1左上パネルと図1中央上パネルを重ね合わせた結果を示す。図1左下パネル:HUVEC(ALA+レセルピン)をNAOにて染色した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。図1中央下パネル:HUVEC(ALA+レセルピン)に5−アミノレブリン酸(ALA)及びレセルピンを添加した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。図1右下パネル:図1左下パネルと図1中央下パネルを重ね合わせた結果を示す。
【図2】不死化サル腎線維芽細胞(COS細胞)を蛍光染色した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す図である。図2左上パネル:COS細胞(ALA)をNAOにて染色した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。図2中央上パネル:COS細胞(ALA)に5−アミノレブリン酸(ALA)を添加した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。図2右上パネル:図2左上パネルと図2中央上パネルを重ね合わせた結果を示す。図2左下パネル:COS細胞(ALA+レセルピン)をNAOにて染色した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。図2中央下パネル:COS細胞(ALA+レセルピン)に5−アミノレブリン酸(ALA)及びレセルピンを添加した後、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。図2右下パネル:図2左下パネルと図2中央下パネルを重ね合わせた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.本発明のミトコンドリアの蛍光染色剤
本発明のミトコンドリアの蛍光染色剤(以下、単に「本発明の蛍光染色剤」とも表示する。)としては、上記の一般式(1)で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩(以下、「本発明における5−アミノレブリン酸類等」とも表示する。)と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを含んでいる限り特に制限されず、本発明の蛍光染色剤の対象となるミトコンドリアとしては、生細胞中のミトコンドリアである限り特に制限されない。本発明の蛍光染色剤を利用すると、5−アミノレブリン酸の代謝物質であるプロトポルフィリンIXがABCG2トランスポーターによりミトコンドリア外の細胞質に排出される量が著しく低減して、該プロトポルフィリンIXがミトコンドリア内に蓄積し、これにより、ミトコンドリアを非常に簡便かつ鮮明に蛍光染色することが可能となる。
【0016】
上記の一般式(1)中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。
【0017】
上記アルキル基としては、炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜18のアルキル基、特に炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。かかる炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。
【0018】
上記アシル基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルカノイル基、アルケニルカルボニル基又はアロイル基が好ましく、特に炭素数1〜6のアルカノイル基が好ましい。かかるアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。
【0019】
上記アルコキシカルボニル基としては、総炭素数2〜13のアルコキシカルボニル基が好ましく、特に炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が好ましい。かかるアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。
【0020】
上記アリール基としては、炭素数6〜16のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0021】
上記アラルキル基としては、炭素数6〜16のアリール基と上記炭素数1〜6のアルキル基とからなる基が好ましく、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
【0022】
上記の一般式(1)中、Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。
【0023】
上記アルコキシ基としては、炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜16のアルコキシ基、特に炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。かかるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0024】
上記アシルオキシ基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルカノイルオキシ基が好ましく、特に炭素数1〜6のアルカノイルオキシ基が好ましい。かかるアシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等が挙げられる。
【0025】
上記アルコキシカルボニルオキシ基としては、総炭素数2〜13のアルコキシカルボニルオキシ基が好ましく、特に総炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基が好ましい。かかるアルコキシカルボニルオキシ基としては、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0026】
上記アリールオキシ基としては、炭素数6〜16のアリールオキシ基が好ましく、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、前記アラルキル基を有するものが好ましく、例えば、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)中、R及びRとしては水素原子が好ましい。Rとしてはヒドロキシ基、アルコキシ基又はアラルキルオキシ基が好ましく、ヒドロキシ基又は炭素数1〜12のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基又はヘキシルオキシ基が特に好ましい。
【0028】
一般式(1)中、R及びRが水素原子であり、Rがヒドロキシ基である化合物は5−アミノレブリン酸であり、特に好ましく挙げられる。5−アミノレブリン酸以外の5−アミノレブリン酸類(すなわち、5−アミノレブリン酸誘導体)の好適な例として、5−アミノレブリン酸メチルエステル、5−アミノレブリン酸エチルエステル、5−アミノレブリン酸プロピルエステル、5−アミノレブリン酸ブチルエステル、5−アミノレブリン酸ペンチルエステル、5−アミノレブリン酸ヘキシルエステル等の5−アミノレブリン酸エステルが挙げられ、特に5−アミノレブリン酸メチルエステル又は5−アミノレブリン酸ヘキシルエステルが好ましく挙げられる。
【0029】
5−アミノレブリン酸類の塩としては、特に制限されないが、薬学的に許容される無機酸又は有機酸の酸付加塩が好ましい。無機酸の付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等、有機酸の付加塩としては、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、アスコルビン酸塩等が挙げられ、特に5−アミノレブリン酸塩酸塩又は5−アミノレブリン酸リン酸塩が好ましい。これらの塩は、化学合成、微生物や酵素を用いる方法のいずれの方法によっても製造できる。例えば、特開平4−9360号公報、特表平11−501914号公報、特開2006−182753号公報、特開2005−314361号公報、特開2005−314360号公報記載の方法が挙げられる。
【0030】
本発明の蛍光染色剤に含まれるABCG2トランスポーター阻害剤としては、ABCG2トランスポーターがプロトポルフィリンIXをミトコンドリア内から細胞質へと排出する活性(以下、単に「ABCG2トランスポーターの排出活性」とも表示する。)を阻害する物質である限り特に制限されず、該活性を競争的に阻害する物質であってもよいし、非競争的に阻害する物質であってもよい。ABCG2トランスポーター阻害剤の例としては、レセルピン((3β,20α)‐11,17α‐ジメトキシ‐18β‐[(3,4,5‐トリメトキシベンゾイル)オキシ]ヨヒンバン‐16β‐カルボン酸メチル)、トリプロスタチンA((8aα)‐ヘキサヒドロ‐3β‐[[2‐(3‐メチル‐2‐ブテニル)‐6‐メトキシ‐1H‐インドール‐3‐イル]メチル]ピロロ[1,2‐a]ピラジン‐1,4‐ジオン)、フミトレモルギンC((1S)‐1α‐イソブテニル‐2,3α‐[カルボニル[(2S)‐ピロリジン‐2α,1‐ジイル]カルボニル]‐7‐メトキシ‐1,2,3,4‐テトラヒドロ‐β‐カルボリン)、ジピリダモール(N,N,N′,N′‐テトラキス(2‐ヒドロキシエチル)‐4,8‐ジピペリジノピリミド[5,4‐d]ピリミジン‐2,6‐ジアミン)、ノボビオシン(N‐[7‐[(3‐O‐カルバモイル‐4‐O,5‐C‐ジメチル‐6‐デオキシ‐β‐L‐lyxo‐ヘキソピラノシル)オキシ]‐4‐ヒドロキシ‐8‐メチル‐2‐オキソ‐2H‐1‐ベンゾピラン‐3‐イル]‐4‐ヒドロキシ‐3‐(3‐メチル‐2‐ブテニル)ベンズアミド)、エストロゲン、アンチエストロゲン、アクリロニトリル誘導体(WO/2009/072267の一般式(1)で表されるアクリロニトリル誘導体)、GF120918(N−(4−[2−(1,2,3,4−テトラヒドロ−6,7−ジメトキシ−2−イソキノリニル)エチル]−フェニル)−9,10−ジヒドロ−5−メトキシ−9−オキソ−4−アクリジンカルボキサミド)、メトトレキサート(N‐[4‐[[(2,4‐ジアミノ‐6‐プテリジニル)メチル](メチル)アミノ]ベンゾイル]‐L‐グルタミン酸)、ミトキサントロン(5,8‐ジヒドロキシ‐1,4‐ビス[[2‐[(2‐ヒドロキシエチル)アミノ]エチル]アミノ]‐9,10‐アントラキノン)、ダウノルビシン((8S)‐8‐アセチル‐10α‐[(3‐アミノ‐2,3,6‐トリデオキシ‐α‐L‐lyxo‐ヘキソピラノシル)オキシ]‐7,8,9,10‐テトラヒドロ‐6,8α,11‐トリヒドロキシ‐1‐メトキシ‐5,12‐ナフタセンジオン)、ドキソルビシン((8S,10S)‐10‐[(3‐アミノ‐2,3,6‐トリデオキシ‐α‐L‐lyxo‐ヘキソピラノシル)オキシ]‐8‐グリコロイル‐7,8,9,10‐テトラヒドロ‐6,8,11‐トリヒドロキシ‐1‐メトキシ‐5,12‐ナフタセンジオン)、ビスアントレン(ビス(2−イミダゾレン−2−イルヒドラゾン)−9,10−アントラセンジカルボキシアルデヒド)、エトポシド((5R)‐9α‐[4‐O,6‐O‐[(R)‐エチリデン]‐β‐D‐グルコピラノシルオキシ]‐5,8,8aβ,9‐テトラヒドロ‐5β‐(4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジメトキシフェニル)フロ[3′,4′:6,7]ナフト[2,3‐d]‐1,3‐ジオキソール‐6(5aαH)‐オン)、ゲフィチニブ(N‐(3‐クロロ‐4‐フルオロフェニル)‐7‐メトキシ‐6‐(3‐モルホリノプロポキシ)‐4‐キナゾリンアミン)、イマチニブ(N‐[3‐[[4‐(3‐ピリジニル)ピリミジン‐2‐イル]アミノ]‐4‐メチルフェニル]‐4‐[(4‐メチルピペラジン‐1‐イル)メチル]ベンズアミド)、イリノテカン((4S)‐4α,11‐ジエチル‐4β‐ヒドロキシ‐9‐[(4‐ピペリジノピペリジノ)カルボニルオキシ]‐1H‐ピラノ[3′,4′:6,7]インドリジノ[1,2‐b]キノリン‐3,14(4H,12H)‐ジオン)、トポテカン(4α‐エチル‐4β,9‐ジヒドロキシ‐10‐[(ジメチルアミノ)メチル]‐1H‐ピラノ[3′,4′:6,7]インドリジノ[1,2‐b]キノリン‐3,14(4H,12H)‐ジオン)、SN−38(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)、フラボピリドール(rel‐5,7‐ジヒドロキシ‐2‐(2‐クロロフェニル)‐8‐(1‐メチル‐3α‐ヒドロキシピペリジン‐4α‐イル)‐4H‐1‐ベンゾピラン‐4‐オン)、CI1033(6−アクリルアミド−N−(3−クロロ−4−フルオロフェニル)−7−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン−4−アミン)、タモキシフェン(2‐[p‐[(Z)‐1,2‐ジフェニル‐1‐ブテニル]フェニルオキシ]‐N,N‐ジメチルエタンアミン)、それらの誘導体、及び、それらの塩が好ましく挙げられ、中でも、レセルピン、トリプロスタチンA、フミトレモルギンC、ジピリダモール、ノボビオシン、エストロゲン、アンチエストロゲン、アクリロニトリル誘導体、GF120918、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンがより好ましく挙げられ、中でも、レセルピン、トリプロスタチンA、フミトレモルギンC、ジピリダモール、ノボビオシン、エストロゲン、アンチエストロゲン、アクリロニトリル誘導体、GF120918、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンがさらに好ましく挙げられる。前述のABCG2トランスポーター阻害剤のうち、ABCG2トランスポーターの排出活性を競争的に阻害する物質として、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェン等の抗がん剤や、レセルピンを例示することができ、非競争的に阻害する物質として、トリプロスタチンA、フミトレモルギンC、ジピリダモール、ノボビオシン、エストロゲン、アンチエストロゲン、アクリロニトリル誘導体、GF120918を例示することができる。
【0031】
本発明の蛍光染色剤に含まれる、本発明における5−アミノレブリン酸類等の含有量としては、ミトコンドリアを蛍光染色し得る限り特に制限されないが、例えば、本発明の蛍光染色剤の全量に対して例えば0.0001〜99.9999質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜50質量%、さらに好ましくは0.005〜20質量%を好適に例示することができ、本発明の蛍光染色剤に含まれるABCG2トランスポーター阻害剤の含有量としては、ミトコンドリアを蛍光染色し得る限り特に制限されないが、例えば、本発明の蛍光染色剤の全量に対して例えば0.00001〜99.99999質量%、好ましくは0.0001〜60質量%、より好ましくは0.0001〜30質量%、さらに好ましくは0.0005〜10質量%を好適に例示することができる。また、本発明の蛍光染色剤に含まれる、本発明における5−アミノレブリン酸類等とABCG2トランスポーター阻害剤とのモル比率としては、1000:1〜1:1000、好ましくは500:1〜1:100、より好ましくは500:1〜1:1、さらに好ましくは200:1〜10:1を好適に例示することができる。
【0032】
本発明の蛍光染色剤は、ミトコンドリアを蛍光染色し得る限り、本発明における5−アミノレブリン酸類等及びABCG2トランスポーター阻害剤の他に、ミトコンドリア内へのプロトポルフィリンIXの蓄積を促進する物質(例えば、フェロキラターゼ)などの任意成分を含んでいてもよい。
【0033】
本発明における5−アミノレブリン酸類等やABCG2トランスポーター阻害剤は、常法によって適宜の製剤とすることができる。製剤の剤型としては散剤、顆粒剤などの固形製剤であってもよいが、簡便に使用し得る観点からは、溶液剤、乳剤、懸濁剤などの液剤とすることが好ましい。前述の液剤の製造方法としては、例えば本発明における5−アミノレブリン酸類等とABCG2トランスポーター阻害剤とを溶剤と混合する方法や、さらに懸濁化剤や乳化剤を混合する方法を好適に例示することができる。以上のように、本発明における5−アミノレブリン酸類等やABCG2トランスポーター阻害剤を製剤とする場合には、製剤上の必要に応じて、適宜の担体、例えば、賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、吸着剤、甘味剤、希釈剤などの任意成分を配合することができる。
【0034】
本発明の蛍光染色剤は、生細胞中のミトコンドリアである限り、インビトロの系であってもインビボの系であっても、該ミトコンドリアを蛍光染色することができる。本発明の蛍光染色剤をインビトロの系で用いる場合の方法としては、(a)対象細胞に本発明の蛍光染色剤を接触させる工程、及び、(b)プロトポルフィリンIXに対する励起光を、対象細胞に照射する工程を含む方法を例示することができ、上記工程(a)としては、(a1)対象細胞を本発明の蛍光染色剤に接触させた状態で、一定時間(好ましくは5分間〜20時間、より好ましくは10分間から10時間、さらに好ましくは2時間〜4時間、より好ましくは3時間)培養する工程を好適に例示することができ、(a2)対象細胞を本発明の蛍光染色剤に接触させた状態で、一定時間(好ましくは5分間〜20時間、より好ましくは10分間から10時間、さらに好ましくは2時間〜4時間、より好ましくは3時間)培養した後、対象細胞を洗浄する工程をより好適に例示することができ、(a3)対象細胞を本発明の蛍光染色剤に接触させた状態で、一定時間(好ましくは5分間〜20時間、より好ましくは10分間から10時間、さらに好ましくは2時間〜4時間、より好ましくは3時間)培養した後、対象細胞を洗浄し、次いで、対象細胞を一定時間(好ましくは1分間〜30分間、より好ましくは5分間〜20分間、さらに好ましくは8分間〜15分間、より好ましくは10分間)インキュベートする工程をより好適に例示することができる。
【0035】
また、本発明の蛍光染色剤をインビボの系で用いる場合の方法としては、(A)対象に本発の蛍光染色剤を投与する工程、(B)プロトポルフィリンIXに対する励起光を、対象に照射する工程を含む方法を例示することができ、上記工程(A)としては、(A1)対象に本発の蛍光染色剤を投与してから、一定時間(好ましくは20分間〜20時間、より好ましくは10分間から10時間、さらに好ましくは2時間〜4時間、より好ましくは3時間)経過させる工程を好適に例示することができる。
【0036】
上記工程(A)における対象への投与方法としては、対象のミトコンドリアを蛍光染色し得る限り特に制限されず、静脈内、筋肉内、動脈内等への注射投与;経口投与;経皮投与;経粘膜投与;経直腸投与;経腔投与;脳等への局所投与を例示することができ、中でも、静脈内、筋肉内、動脈内等への注射投与;経口投与;経皮投与を好適に例示することができる。
【0037】
本発明の蛍光染色剤の対象への投与量は、投与方法や対象の体重等によっても異なるが、例えば経口投与の場合、本発明における5−アミノレブリン酸類等換算で、1回に体重1kg当たり0.001mg〜10g、好ましくは0.01mg〜5g、より好ましくは0.1〜1000mg、さらに好ましくは1〜600mgを好適に例示することができ、
ABCG2トランスポーター阻害剤換算で、1回に体重1kg当たり0.00002mg〜200mg、好ましくは0.0002mg〜100mg、より好ましくは0.002〜20mg、さらに好ましくは0.02〜12mgを好適に例示することができる。
【0038】
上記工程(b)や工程(B)における「プロトポルフィリンIXに対する励起光」としては、プロトポルフィリンIXが励起する限り特に制限されないが、405nmの励起光を好適に例示することができる。かかる励起光は、市販の励起光源を利用して、対象細胞や対象に照射することができる。
【0039】
上記の対象細胞の由来や、対象の生物種としては、哺乳動物を好適に例示することができ、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等を好適に例示することができ、中でもヒトをより好適に例示することができる。
【0040】
2.本発明のミトコンドリアの蛍光染色キット
本発明のミトコンドリアの蛍光染色キット(以下、単に「本発明の蛍光染色キット」とも表示する。)としては、本発明における5−アミノレブリン酸類等と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを含んでなる限り特に制限されず、例えば、本発明における5−アミノレブリン酸類等と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを別々に製剤化して含むものを好適に例示することができる。
【0041】
本発明の蛍光染色キットにおける5−アミノレブリン酸類等と、ABCG2トランスポーター阻害剤とは、混合してから使用してもよいし、ミトコンドリアを蛍光染色し得る限り、混合せずに別々に使用してもよい。
【0042】
3.本発明のミトコンドリアの蛍光染色方法
本発明のミトコンドリアの蛍光染色方法(以下、単に「本発明の蛍光染色方法」とも表示する。)としては、本発明における5−アミノレブリン酸類等と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを併用する工程を含む限り特に制限されないが、(a)本発明における5−アミノレブリン酸類等と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを、対象細胞に接触させる工程;及び、(b)プロトポルフィリンIXに対する励起光を、対象細胞に照射する工程を含む方法を好適に例示することができ、さらに、(c)工程(a)と工程(b)の間に、対象細胞を洗浄する工程を含む方法をより好適に例示することができる。
【0043】
また、本発明の蛍光染色方法はインビボにおいても適用することができる。その場合は、(A)本発明における5−アミノレブリン酸類等と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを、対象に投与する工程;及び、(B)プロトポルフィリンIXに対する励起光を、対象に照射する工程を含む方法を例示することができる。
【0044】
なお、5−アミノレブリン酸は、疾患(特に悪性腫瘍)の光線力学療法(PDT)に好適に用いられている。というのも、5−アミノレブリン酸は、正常細胞内ではヘムまで代謝されるのに対し、悪性腫瘍細胞内では好気呼吸が低下して嫌気的条件となっているためプロトポルフィリンIXまでしか代謝されない結果、プロトポルフィリンIXが悪性腫瘍細胞特異的に蓄積するからである。5−アミノレブリン酸を投与した患者にレーザー光等を照射すると、悪性腫瘍細胞に蓄積したプロトポルフィリンIXが活性酸素種や活性ラジカル種を発生させ、悪性腫瘍細胞特異的に細胞の活動や増殖を阻害させて、治療効果を得ることが可能となる。本発明者らのこれまでの研究で、悪性腫瘍細胞に対するその治療効果が、アポトーシスやネクローシスによるものであることを明らかにしている(Cell Biochem Funct. 2009 27(8), 503-515参照)。また、本発明者らは、同文献において、5−アミノレブリン酸からプロトポルフィリンIXが合成された当初はプロトポルフィリンIXがミトコンドリアに分布し、その状態でPDTを行うとアポトーシスを誘導するが、合成されて長時間経過するとプロトポルフィリンIXは細胞質から細胞膜に移動し、その状態でPDTを行うとネクローシスを誘導することも明らかにしている。本発明者らは、本発明により、5−アミノレブリン酸類等とABCG2トランスポーター阻害剤とを併用することにより、顕著な量のプロトポルフィリンIXをミトコンドリア内に蓄積させ得ることを示した。本発明者らは、これらの知見から、5−アミノレブリン酸類等とABCG2トランスポーター阻害剤とを併用することにより、悪性腫瘍にネクローシスではなくアポトーシスを特異的に誘導させ得ると考えている。ネクローシスを生じさせた場合は、治療後の傷跡が残る場合があるのに対し、アポトーシスを生じさせた場合は、治療後の傷跡が残りにくいため、本発明における5−アミノレブリン酸類等とABCG2トランスポーター阻害剤と含む悪性腫瘍治療剤(アポトーシス誘導剤)は、特に外部から見える部位の悪性腫瘍に対し非常に有利な治療剤となると考えられる。
【実施例1】
【0045】
[ミトコンドリアの蛍光染色実験1]
本発明の蛍光染色方法により、生細胞内のミトコンドリアを蛍光染色し得るかどうかを確認するために、以下の実験を行った。
【0046】
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用意した。このHUVECを、1mM 5−アミノレブリン酸(ALA)及び20μM レセルピン(ABCG2トランスポーター阻害剤)存在下で3時間培養した。次いで、HUVECをFBS培地にて洗浄した後、10分間インキュベートを行った。その後、このHUVEC(ALA+レセルピン)を、405nmの励起光下で蛍光顕微鏡観察した。その結果を図1の中央下パネルに示す。なお、405nmの励起光により観察される蛍光は、プロトポルフィリンIXの蛍光である。
【0047】
また、コントロールとして、レセルピンを用いなかったこと以外は上記と同様の方法で培養、洗浄、インキュベートしたHUVEC(ALA)を、405nmの励起光下で蛍光顕微鏡観察した。その結果を図1の中央上パネルに示す。
【0048】
また、別のコントロールとして、前述のHUVEC(ALA+レセルピン)をミトコンドリア染色試薬 Nonyl Acridine Orange(NAO)にて染色して蛍光顕微鏡観察した結果を図1の左下パネルに示す。同様に、前述のHUVEC(ALA)をNAOにて染色して蛍光顕微鏡観察した結果を図1の左上パネルに示す。
【0049】
また、図1の左上パネルと図1の中央上パネルを重ね合わせたものを、図1の右上パネルに示し、図1の左下パネルと図1の中央下パネルを重ね合わせたものを、図1の右下パネルに示す。
【0050】
図1の左下パネル、中央下パネル及び右下パネルの結果から分かるように、図1の左下パネルの蛍光と、中央下パネルの蛍光は重なり合っていたことから、プロトポルフィリンIXの蛍光(赤色蛍光)は、ミトコンドリア部位に特異的に観察されることが分かった。また、図1の中央上パネル及び中央下パネルの結果から分かるように、レセルピン(ABCG2トランスポーター阻害剤)を欠いていると、プロトポルフィリンIXの蛍光はかなり不鮮明であり、ミトコンドリアを明確に染色することはできなかった。さらに、図1の左下パネル及び中央下パネルの結果を比較すると分かるように、5−アミノレブリン酸(ALA)と、レセルピン(ABCG2トランスポーター阻害剤)とを併用すると(図1の中央下パネル)、従来のNAOを用いた場合(図1の左下パネル)よりも著しく鮮明にミトコンドリアを染色できることが示された。
【実施例2】
【0051】
[ミトコンドリアの蛍光染色実験2]
本発明の蛍光染色方法が、HUVEC以外の細胞でも用い得るかどうかを確認するために、HUVECに代えてCOS細胞(不死化サル腎線維芽細胞)を用いた点、FBS培地に代えてPBSを用いた点、洗浄後のインキュベートを行わなかった点以外は、上記実施例1の蛍光染色実験と同じ方法で蛍光染色実験を行った。その結果を図2に示す。より詳細には、COS細胞(ALA+レセルピン)を、405nmの励起光下で蛍光顕微鏡観察した結果を図2の中央下パネルに示し、COS細胞(ALA+レセルピン)をNAOにて染色して蛍光顕微鏡観察した結果を図2の左下パネルに示し、COS細胞(ALA)を、405nmの励起光下で蛍光顕微鏡観察した結果を図2の中央上パネルに示し、COS細胞(ALA)をNAOにて染色して蛍光顕微鏡観察した結果を図2の左上パネルに示す。また、図2の左上パネルと図2の中央上パネルを重ね合わせたものを、図2の右上パネルに示し、図2の左下パネルと図2の中央下パネルを重ね合わせたものを、図2の右下パネルに示す。
【0052】
図2の結果から分かるように、COS細胞を用いた場合も、図1の結果と同様の結果が示された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、ミトコンドリアの蛍光染色の分野に好適に利用することができる。



























【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを含むことを特徴とするミトコンドリアの蛍光染色剤。
【請求項2】
ABCG2トランスポーター阻害剤が、レセルピン、トリプロスタチンA、フミトレモルギンC、ジピリダモール、ノボビオシン、エストロゲン、アンチエストロゲン、アクリロニトリル誘導体、GF120918、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンから選択されることを特徴とする請求項1に記載のミトコンドリアの蛍光染色剤。
【請求項3】
一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを含んでなることを特徴とするミトコンドリアの蛍光染色キット。
【請求項4】
ABCG2トランスポーター阻害剤が、レセルピン、トリプロスタチンA、フミトレモルギンC、ジピリダモール、ノボビオシン、エストロゲン、アンチエストロゲン、アクリロニトリル誘導体、GF120918、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェンから選択されることを特徴とする請求項3に記載のミトコンドリアの蛍光染色キット。
【請求項5】
一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを併用する工程を含むことを特徴とするミトコンドリアの蛍光染色方法。
【請求項6】
次の(a)及び(b)の工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のミトコンドリアの蛍光染色方法;
(a)一般式(1)
NCHCOCHCHCOR (1)
[式中、R及びRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基又はアラルキル基を示し;Rはヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基又はアミノ基を示す。]
で表される5−アミノレブリン酸類、又はそれらの塩と、ABCG2トランスポーター阻害剤とを、対象細胞に接触させる工程;
(b)プロトポルフィリンIXに対する励起光を、対象細胞に照射する工程。
【請求項7】
(c)工程(a)と工程(b)の間に、対象細胞を洗浄する工程をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載のミトコンドリアの蛍光染色方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−237192(P2011−237192A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106490(P2010−106490)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(508123858)SBIアラプロモ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】