α−ガラクトシダーゼ
【課題】血液型B型およびAB型反応性血液製剤からB型抗原を、ならびに非ヒト動物組織からGalili抗原を酵素的に除去することで、これらを移植に適した非免疫原性の細胞および組織に変換するために使用される、α3グリコシダーゼの新規ファミリーを提供する。
【解決手段】特定される配列を含むポリペプチドを含み、アルファガラクトシダーゼの分岐基質特異性および中性の至適pHを示す、精製された酵素。血液製剤および組織上に存在する免疫優性の単糖の酵素的除去用の新規α-ガラクトシダーゼ。
【解決手段】特定される配列を含むポリペプチドを含み、アルファガラクトシダーゼの分岐基質特異性および中性の至適pHを示す、精製された酵素。血液製剤および組織上に存在する免疫優性の単糖の酵素的除去用の新規α-ガラクトシダーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血液製剤および組織上の免疫優性の単糖の除去に使用される、固有の基質特異性、および優れた動態学的特性を示す、α-ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドの新規ファミリーに関する。具体的には本発明は、血液型B型およびAB型に反応性の血液製剤からB型抗原を、ならびに非ヒト動物組織からGalili抗原を酵素的に除去することで、これらを移植に適切な非免疫原性の細胞および組織に変換するために使用される、α3グリコシダーゼの新規ファミリーを提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本明細書で用いる「血液製剤」という表現は、全血、ならびに赤血球(erythrocyte)(赤血球(red blood cell))および血小板を含む血液由来の細胞成分を含む。
【0003】
30種類を越える血液型(blood groupまたはblood type)の系が存在し、その最も重要な1つがABO式である。この系は、A型抗原および/またはB型抗原の有無に基づく。これらの抗原は、赤血球および血小板の表面上に、ならびに内皮細胞および大半の上皮細胞の表面上に存在する。輸血に使用される主な血液製剤は、主な機能が酸素の運搬であるヘモグロビンを含む赤血球(red blood cell)である赤血球(erythrocyte)である。A型の血液は、その赤血球上にA型抗原を含む。同様に、B型の血液は、その赤血球上に抗原Bを含む。AB型の血液は両方の抗原を含み、およびO型の血液は、いずれの抗原とも含まない。
【0004】
血液型の構造は、糖タンパク質または糖脂質であり、ならびに、A型およびB型の決定基、すなわち抗原を構成する特異的な構造を同定するために、多くの研究が行われている。ABH血液グループの特異性は、糖鎖の末端における単糖の性質および結合によって決定される。糖鎖は、細胞の細胞膜に結合する、ペプチドの主鎖(糖タンパク質)、または脂質の主鎖(スフィンゴ糖脂質)に結合されている。A型の特異性を決定する免疫優性の単糖は、末端のα1-3結合N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)であり、一方でB型特異性の対応する単糖は、α1-3結合ガラクトース(Gal)である。O型細胞は、オリゴ糖鎖の末端に、これらの単糖のいずれも欠き、末端はα1-2結合フコース(Fuc)残基で終わっている。
【0005】
極めて多様なABH式血液型の糖鎖構造が、ABH式の免疫優性の糖を有するオリゴ糖鎖の構造的多様性のために発見されている。表1に、ヒトで報告されている構造、およびヒト赤血球上に、または血液抽出物中に見出されている構造を挙げる。総説として、Clausen & Hakomori, Vox Sang 56(1): 1-20, 1989(非特許文献1)を参照されたい。赤血球は、N-結合糖タンパク質およびスフィンゴ糖脂質上にABH抗原を含むが、赤血球の糖タンパク質(主にグリコホリン)上のO-結合グリカンはシアル酸で終わっており、ABH抗原ではないと一般に考えられている。1型の鎖のスフィンゴ糖脂質は、赤血球の内因性の産物ではなく、むしろ血漿から吸収される。
【0006】
(表1)ヒト細胞の組織-血液型ABHの免疫反応性の決定基1
1Clausen and Hakomori, Vox Sang 56(1): 1-20, 1989(非特許文献1)を改変。記号:「?」は、現時点で報告されていない潜在的な糖脂質構造を意味する。
【0007】
血液型A型および血液型B型には、いくつかのサブタイプが存在する。血液型A型のサブタイプは最も多く存在し、および血液型A型には3つの主要なサブタイプが認識されている。これらのサブタイプは、A1、A intermediate(Aint)およびA2として知られている。これらには、3つのサブタイプを区別する量的および質的な差がある。量的には、A1赤血球は、A2赤血球より抗原性の強いA部位を有するAint赤血球より抗原性の強いA部位、すなわち末端のN-アセチルガラクトサミン残基を有する。質的には、A1赤血球は、スフィンゴ糖脂質のサブセット上に2回繰返しA構造(dual repeated A structure)を有し、A2細胞は、糖脂質の類似のサブセット上の内部A構造上にH構造を有する(Clausen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(4): 1199-203, 1985(非特許文献2)、Clausen et al., J. Biol. Chem. 261(3): 1380-7, 1986(非特許文献3))。A1と弱いAのサブタイプ間に見られる、これらの差は、A型抗原の形成に関与する血液型A型のアイソザイム異型の動態学的特性の差と関連すると考えられている(Clausen et al., J. Biol. Chem. 261(3): 1388-92, 1986(非特許文献4))。B型サブタイプとの間に見られる差は、量的な性質だけであると考えられている。
【0008】
A型の血液は、B型抗原に対する抗体を含む。逆にB型の血液は、A型抗原に対する抗体を含む。AB型の血液は、いずれの抗体とも含まず、およびO型の血液は両方の抗体を含む。血液型の抗原を決定する、これらの炭水化物および他の炭水化物に対する抗体は、関連する炭水化物構造を有する微生物に対する連続的な曝露によって誘導されると考えられている。血液が、抗A型抗体または抗B型抗体のいずれか(または両方)を含む個体は、対応する不適合性の抗原を含む輸血を受けられない。万が一、個体が不適合の血液型の輸血を受けると、輸血のレシピエントの抗体は、輸血された不適合血液型の赤血球をコーティングし、および輸血された赤血球を凝集させる(すなわちくっつける)。輸液反応および/または溶血(赤血球の破壊)は、このようにして生じる場合がある。
【0009】
A型血液型抗原およびB型血液型抗原に対する抗体に起因する重度の輸血反応を避けるために、ドナーおよびレシピエントの血液型は、輸血前にタイピング法でマッチされる。例えばA型のレシピエントには、適合する抗原を含むA型血液が安全に輸血可能であるが、レシピエントに有害な免疫応答を引き起こす恐れのあるB型の血液の輸血はできない。O型の血液は、A型抗原もB型抗原も含まないので、任意の血液型の任意のレシピエントに、すなわち血液型がA型、B型、AB型、またはO型のレシピエントに輸血可能である。したがってO型の血液は、「ユニバーサル」な血液であると見なされており、あらゆる輸血に使用可能である。したがって血液バンクにとっては、O型の血液を大量に確保しておくことが望ましい。しかしながら、血液型O型のドナーは不足している。したがって、ユニバーサルな血液製剤を大量に確保するためには、A型、B型、およびAB型の血球上の免疫優性のA抗原およびB抗原を除去することが望ましく、かつ有用である。
【0010】
O型血液の供給を増やすために、A型、B型、およびAB型の血液をO型血液に変換する方法が開発されている。B型とA型の両赤血球の酵素的変換は過去に成功しているが、このような従来の処理には、いくつかの短所があり、特に極めて大量の酵素が必要とされ、および複数のグリカン修飾酵素の特異性は、A型抗原またはB型抗原のみの切断に制限されない。
【0011】
後述するように本発明は、免疫優性抗原を欠く組織および血液製剤の作製に使用可能な、極めて優れた基質特異性、および良好な動態学的特性を有することで、例えば移植用のユニバーサルな(非免疫原性の)血液細胞、さらにはヒトへの異種移植用の動物組織を供給する、有効かつ費用効果に優れた市販の処理法を提供するポリペプチドファミリーを提供する。
【0012】
血液型B型細胞の変換:
精製されたか、または組換え型のコーヒー豆(Coffea canephora)α-ガラクトシダーゼを使用するB型血液の酵素的変換は、100〜200 U/mlを使用することで達成されている(米国特許第4,427,777号(特許文献1);Zhu et al., Arch Biochem Biophys 1996;327(2): 324-9(非特許文献5);Kruskall et al., Transfusion 2000;40(11): 1290-8(非特許文献6))。コーヒー豆α-ガラクトシダーゼの比活性は、p-ニトロフェニルα-D-Galを使用して32 U/mgと報告されている(1単位(U)は1分間に1μmoleの基質を加水分解する量と定義)(Zhu et al., Arch Biochem Biophys 1996;327(2): 324-9(非特許文献5))。酵素的変換は、pH 5.5で、ヘマトクリット値が80〜90%で、約6 mg/mlの酵素を使用して行われ、ならびに結果として得られた、変換O型細胞は輸血実験で正常に機能し、および有意な有害な臨床パラメータは観察されなかった(Kruskall et al., Transfusion 2000;40(11): 1290-8(非特許文献6))。このデータは、初期の報告とともに、酵素による赤血球の変換が可能であること、ならびにこのような酵素によるB型変換O型(B-ECO)細胞が機能可能であり、ならびに輸血医学における非処理細胞とマッチ可能なことを明瞭に示している。それにもかかわらず、これらの試験における変換に必要な酵素量は、組換えによる酵素の産生であっても、ECO細胞の作製法を、主に経済的な理由のために実用的としない。
【0013】
比活性が約200 U/mgの組換え型のダイズ(Glycine max)α-ガラクトシダーゼを使用する、改善されたB細胞変換のプロトコルに関するクレームでは、5〜10単位の酵素/ml血液(ヘマトクリット値は16%)を使用することが報告されている(米国特許第5,606,042号(特許文献2);第5,633,130号(特許文献3);第5,731,426号(特許文献4);第6,184,017号(特許文献5)を参照)。したがって、ダイズα-ガラクトシダーゼは、必要とされる酵素タンパク質の量の有意な低下(50〜200倍)を示す25〜50 μg/mlで使用された(Davis et al., Biochemistry and Molecular Biology International, 39(3): 471-485, 1996(非特許文献7))。この低下は部分的には、ダイズα-ガラクトシダーゼの、より高い比活性(約6倍)によるものであり、ならびに異なる方法が変換および評価に使用されたことによる。Kruskallらによる研究(Transfusion, 40(11): 1290-8, 2000(非特許文献6))で使用された200 U/mlの酵素は、完全な単位(約220 mlの濃厚細胞)が、80〜90%のヘマトクリット値における変換で機能しており、ならびに標準的な血液バンクタイピングによって、ならびに高感度のクロスマッチ解析によって詳しく解析されている。さらに変換の効率は、変換細胞の頻回の輸注を受けた患者における生存率および誘導免疫の解析によって評価された。酵素による変換は、試験管内で、mlスケールで、16%のヘマトクリット値で、ダイズα-ガラクトシダーゼを使用した米国特許第5,606,042号(特許文献2)(および第5,633,130号(特許文献3);第5,731,426号(特許文献4);第6,184,017号(特許文献5))に記載された手順で行われ、および変換効率は、クロスマッチ解析で評価されなかった。16%のヘマトクリット値における細胞の変換には、10 U/mlが必要であり、8%における変換には、5 U/mlが必要であったことから、高いヘマトクリット値における変換には、より多くの酵素が必要であることがわかるが、より高い細胞濃度については検討されていない。したがって、Kruskallらの文献(Transfusion 2000;40(11): 1290-8(非特許文献6))に記載されたプロトコルと比較して、必要とされる酵素タンパク質量の減少の一部は、変換に使用される細胞の濃度(ヘマトクリット値)と関連し、およびこれは5〜10倍を上回る可能性があるが、さらに実験を行うことなしには、直接の比較はできない。米国特許第5,606,042号(特許文献2)(および第5,633,130号(特許文献3);第5,731,426号(特許文献4);第6,184,017号(特許文献5))にはさらに、クエン酸ナトリウムおよびグリシンを弱酸性pH(好ましくはpH 5.8)で使用し、および安定化目的で追加のタンパク質をBSA(ウシ血清アルブミン)の状態で含める変換用緩衝液の改良について記載されている。興味深いことに、ダイズα-ガラクトシダーゼ用に開発された変換用緩衝液は、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼには応用できないことが判明した。B型細胞の変換における、ある程度の改善は、米国特許第5,606,042号(特許文献2)(および第5,633,130号(特許文献3);第5,731,426号(特許文献4);第6,184,017号(特許文献5))から得られる可能性があるが、開示されたプロトコルの使用時は、濃厚なB型赤血球1 mlあたり少なくとも0.5 mgを上回る酵素が必要なことは明らかである。標準的な血液バンクタイピングのプロトコルに使用される極めて高感度のタイピング手順によって、O型細胞に十分に変換された細胞を得るためは、これよりはるかに多くの酵素が必要な可能性が高い。さらに、このプロトコルでは、追加的な外来性タンパク質(BSAまたはヒト血清アルブミン)を導入すること、ならびに血液製剤を、かなり酸性のpHに曝露することが必要である。
【0014】
Bakuninaら(Bakunina et al., Biochemistry (Moscow) 1998, p1420(非特許文献8))は、海洋細菌Pseudoalteromonas属(KMM 701)から新規α-ガラクトシダーゼを同定および単離したと報告している。単離された酵素調製物は、9.8 U/mgの比活性になるように基質pNP-Galを使用して精製され、および見かけの分子量が、ゲル濾過で195 kDとなるように精製された。酵素調製物は、単糖基質pNP-Galを、0.29 mM pNP-Galに対する見かけのKmで効率的に切断し、ならびにメリビオースおよびGalα1-3Galを含む末端α-ガラクトースを含む複数の非分岐状の二糖を切断し、このため血液型B型に対して高い特異性を示さない。したがって同酵素は、直鎖状B型構造、ならびにP1抗原などの、末端にα-Galを有する非分岐状のオリゴ糖を切断する。同酵素は、中性の至適pH(すなわち約6.5〜約7.7の至適pH)を有し、および血液型B型細胞を24時間のインキュベーション反応時間で、O型細胞とタイピングされる細胞に変換すると報告されている。しかしながら、変換手順および酵素消費の詳細については記載されておらず、ならびにライセンスされたタイピング試薬による標準的なタイピング手順によって評価される変換効率は検討されていない。均一とするための精製、酵素のクローニングおよび組換え的な発現は、酵素による赤血球の変換に必要な酵素タンパク質の質および量を提供するために必要となる可能性が高い。
【0015】
発明者らは、血液型B型抗原に対して高い比活性および極めて限定的な基質特異性を有する新規α-ガラクトシダーゼ活性の同定および部分的な解析について開示している(U.S.S.N. 10/251,271(特許文献6))。この酵素活性は、2,400個を上回る細菌および真菌の分離株のスクリーニングによって同定され、ならびに数個の細菌でしか見つかっていない。同酵素は、ストレプトマイセス・グリセオプラヌス(Streptomyces griseoplanus)の株#2357(ATCC deposit No. PTA-4077)の細胞ライセートから部分的に精製されており、および部分的なアミノ酸配列情報が得られている。
【0016】
上記の事実から、この実際的で、かつ商業的に応用可能な手法を作製するためには、B型細胞の変換にさらなる改善が必要なことは明らかである。必要とされる改善は、好ましくは中性pHで、また外来性のタンパク質を添加することなく変換が起こることを可能とする、より効率が高くかつ特異性の高いα-ガラクトシダーゼ酵素を得ることを含む。
【0017】
αGALを切断するグリコシダーゼ活性を決定するためのアッセイ:
エキソ-グリコシダーゼをスクリーニング、同定、および解析する過去の方法は一般に、糖および潜在的な結合に対する特異性を同定するための基質として単純な単糖誘導体を使用することに依存している。誘導体化された単糖、またはまれにはオリゴ糖の基質は、p-ニトロフェニル(pNP)、ベンジル(Bz)、4-メチル-ウンベリフェリル(Umb)および7-アミノ-4-メチル-クマリン(AMC)を含むが、これらに限定されない。このような基質の使用は、グリコシダーゼ活性を同定し、ならびに酵素の多様な供給源の大規模スクリーニングを実際的に応用可能とするための、容易で、迅速で、および安価なツールを提供する。しかしながら、グリコシダーゼ酵素の動態学的特性および優れた基質特異性は必ずしも、このような単純な構造に関するアッセイに反映されていない可能性がある。複合オリゴ糖に対する特異性、および/または選択効率の程度が高く、かつ固有の複合糖質構造の新規酵素が存在する可能性もあるが、このような酵素は、解析法のために見過ごされ、また認識されていない可能性がある。したがって、特定の複合オリゴ糖または複合糖質の構造に対する最適なエキソ-グリコシダーゼを同定して選択するためには、このような複雑な構造を、酵素の供給源のスクリーニングに使用されるアッセイで使用することが好ましい。さらに、スクリーニングに使用される好ましいアッセイは、要求されるpH、および例えば細胞膜に結合する基質に対する機能などの、好ましい動態学的特性に対する選択を含む。
【0018】
過去の研究では、血液細胞のB型抗原およびA型抗原の除去に使用された全てのα-ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)およびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(EC 3.2.1.49)は、主にp-ニトロフェニル単糖誘導体を使用して同定され、解析されている。興味深いことに、過去の研究に使用された、このようなα-ガラクトシダーゼ酵素およびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ酵素の大半は、DNAおよびアミノ酸の配列の有意な類似性によって明らかな、進化的な相同体である。したがって、ヒトのα-ガラクトシダーゼおよびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼは近縁の相同体であり(Wang et al., J Biol Chem, 265: 21859-66, 1990(非特許文献9))、ならびにニワトリ肝臓のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、真菌アクレモニウム属のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、および細菌のα-ガラクトシダーゼを含む、血液細胞の変換に過去に使用された他の酵素は全て、有意な配列類似性を示す。既知の全てのO-グリコシドヒドロラーゼの配列解析では、配列解析を元に85の異なるファミリーに分類されており、ならびに上記のα-ガラクトシダーゼおよびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼは27番目のファミリーに分類されている(http://afmb.cnrs-mrs.fr/~pedro/CAZY/ghf_32.html)。これらの酵素は、触媒の作用機序を保持させながら、触媒性求核試薬にアスパラギン酸を使用して解析されている(Henrissat, Biochem Soc Trans, 26(2): 153-6, 1998(非特許文献10);Rye & Withers, Curr Opin Chem Biol, 4(5): 573-80, 2000(非特許文献11))。クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)に由来する細菌のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼの一次構造は、真核生物のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼと類似性がなく、かつ相同でないことが報告されており(Calcutt et al., FEMS Micro Lett 214:77-80, 2002(非特許文献12))、ならびにα-ガラクトシダーゼおよびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼも含む遠縁のグリコシダーゼファミリー36に分類されている(http://afmb.cnrs-mrs.fr/~pedro/CAZY/ghf_32.html)。この酵素群の触媒機構は、ファミリー27の酵素の触媒機構に似ていると推定されている。なぜなら、2つのファミリーの酵素間には、ある程度の配列類似性が存在するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第4,427,777号
【特許文献2】米国特許第5,606,042号
【特許文献3】米国特許第5,633,130号
【特許文献4】米国特許第5,731,426号
【特許文献5】米国特許第6,184,017号
【特許文献6】U.S.S.N. 10/251,271
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Clausen & Hakomori, Vox Sang 56(1): 1-20, 1989
【非特許文献2】Clausen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(4): 1199-203, 1985
【非特許文献3】Clausen et al., J. Biol. Chem. 261(3): 1380-7, 1986
【非特許文献4】Clausen et al., J. Biol. Chem. 261(3): 1388-92, 1986
【非特許文献5】Zhu et al., Arch Biochem Biophys 1996;327(2): 324-9
【非特許文献6】Kruskall et al., Transfusion 2000;40(11): 1290-8
【非特許文献7】Davis et al., Biochemistry and Molecular Biology International, 39(3): 471-485, 1996
【非特許文献8】Bakunina et al., Biochemistry (Moscow) 1998, p1420
【非特許文献9】Wang et al., J Biol Chem, 265: 21859-66, 1990
【非特許文献10】Henrissat, Biochem Soc Trans, 26(2): 153-6, 1998
【非特許文献11】Rye & Withers, Curr Opin Chem Biol, 4(5): 573-80, 2000
【非特許文献12】Calcutt et al., FEMS Micro Lett 214:77-80, 2002
【発明の概要】
【0021】
本発明は、血液型B型および血液型AB型に反応性の血液製剤からのB型抗原の酵素的除去のための組成物および方法を提供する。具体的には本発明は、血液型B抗原、すなわちα1,3-D-ガラクトースを特定する免疫優性の単糖の特異的な酵素的除去のための組成物および方法を提供する。
【0022】
1つの態様では本発明は、SEQ ID NO. 2と20%またはこれ以上の全体的なアミノ酸配列の同一性を有する相同なポリペプチドの新規ファミリーを提供する。このようなポリペプチドは、中性の至適pHでα-ガラクトシダーゼ活性を示し、ならびに血液型B型抗原またはGalili抗原の構造に対して高い基質特異性を示し、およびαGalまたはαGalNAc-pNP単糖基質に対して活性を示さないか、もしくは有意な活性を示さない。このファミリーの一部の成員は、直鎖状のα1-3結合Galに対して活性を示さないか、または有意な活性を示さない。同ファミリーの他のポリペプチドは、直鎖状構造を切断するが、P抗原およびGalα1-4結合に対して活性を示さないか、または有意な活性を示さない。本発明に開示された新規のポリペプチドおよび遺伝子ファミリーは、血液製剤中における細胞表面の真のA型およびB型の糖鎖抗原、ならびに動物組織に由来するGalili抗原に近縁な抗原などを、複合オリゴ糖標的から免疫優性の単糖であるαGalおよびGaliliを除去する際に応用される。
【0023】
別の局面では本発明は、B型およびAB型の細胞からの免疫優性のB型抗原の除去につながる、あらゆる血液型AB型およびB型赤血球の変換の方法を提供する。B型抗原の除去は例えば、血液バンクの標準的な血清学的タイピングによって判定可能である。本発明の方法に従って、B型抗原は、(i)血液型B型抗原に対して極めて限定的な特異性を有すること、(ii)血液型のオリゴ糖により中性pHで最適な機能を発揮すること;ならびに(iii)赤血球の変換に、わずかに酸性〜わずかに塩基性で、および好ましくは中性pH(約6〜約8のpH)で活性を示すことが記載されたポリペプチドを使用して除去される。このような方法は、以下の段階を含む:(a)血液製剤に、これらのポリペプチドの1種類もしくは複数を、ほぼ中性pH条件で、免疫優性のB型抗原を除去するのに十分な時間、接触させる段階、ならびに(b)ポリペプチドおよび消化された抗原断片を、変換された血液製剤から除去する段階。
【0024】
別の態様では本発明は、(i)血液型B型抗原に対して極めて限定的な特異性を有し;および(ii)ほぼ中性のpH範囲(約6〜約8のpH)で血液型オリゴ糖を有する赤血球の変換に活性を示すα-ガラクトシダーゼを使用して、B型またはAB型の赤血球から全ての検出可能なB型抗原を除去する方法を提供する。
【0025】
本発明の別の局面では、変換された赤血球が提供される。1つの態様では、変換された赤血球は、以下の特徴を有する:(i)B型またはAB型の赤血球から、本明細書に記載されたファミリーのポリペプチドを使用して変換された非B型赤血球(血液バンクの標準的な血清学的タイピングによって決定される、検出可能なB型抗原を有さない赤血球)への変換。
【0026】
さらに別の局面では本発明は、以下を含む、修飾された赤血球を含む:免疫優性のB型エピトープを欠くが、P1血液型抗原およびPk血液型抗原を含むα1-4Galエピトープを呈示するB型赤血球またはAB型赤血球。1つの態様では、血液細胞は、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される免疫優性のB型エピトープを実質的に欠き、および直鎖状のα1-3結合Gal構造も欠く。別の態様では、血液細胞は、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される免疫優性のB型エピトープを実質的に欠くが、直鎖状のα1-3結合Gal構造を保持する。
【0027】
さらに別の局面では本発明は、以下の段階を含む方法で調製された修飾された赤血球を含む:B型赤血球またはAB型赤血球を得る段階、赤血球を、ほぼ中性pH(約6のpH〜約8のpH)を有する緩衝液に懸濁する段階、および赤血球にアルファガラクトシダーゼのポリペプチドを接触させることで、赤血球から免疫優性のB型エピトープを実質的に切断する段階。さまざまな態様では、赤血球を処理するのに使用される酵素は、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、もしくはSEQ ID NO: 8によって特定されるポリペプチドの少なくとも10残基の隣接アミノ酸(またはこれをコードするヌクレオチド配列)を含む。ある態様では、酵素による赤血球の処理は、約6.0のpH〜約8.0のpH、好ましくは約6.5のpH〜約7.5のpH、または、より好ましくは約7.0のpH〜約7.5のpHで行われる。現在の好ましい態様では、酵素による赤血球の処理は、0.01〜1000μg酵素/ml血液細胞、好ましくは0.1〜500μg酵素/ml血液細胞、より好ましくは1〜100μg酵素/ml血液細胞を使用して行われる。最も好ましくは、酵素による、赤血球調製物由来抗原の処理は、1〜10μg酵素/ml血液細胞を使用して達成される。
【0028】
さらに別の局面では本発明は、以下の段階を含む、赤血球を修飾する方法を含む:B型またはAB型の赤血球を得る段階、これを、ほぼ中性のpHを有する緩衝液に懸濁する段階、およびこれに、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、もしくはSEQ ID NO: 8によって特定されるか、またはコードされるポリペプチド配列の少なくとも10残基の隣接アミノ酸を有する酵素を接触させることで、血清学的タイピングもしくは赤血球凝集アッセイによって決定される、B型もしくはAB型の赤血球上の免疫優性のB型エピトープを切断する段階。1つの態様では、血液細胞は、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される免疫優性のB型エピトープを実質的に欠き、および直鎖状のα1-3結合Gal構造も欠く。別の態様では、血液細胞は、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される免疫優性のB型エピトープを実質的に欠くが、直鎖状のα1-3結合Gal構造を保持する。
【0029】
さらに別の局面では本発明は、以下の段階を含む、対象を治療する方法を含む:A型、O型、またはAB型の血液を必要とする対象を同定する段階(対象は抗B型抗体に対して血清反応陽性);変換されたB型細胞の修飾された血液細胞調製物を得る段階、またはこれを、本明細書に記載された方法で得る段階、ならびに;修飾された血液細胞調製物を対象に注入する段階であって、対象は注入された血液細胞を免疫学的に拒絶しない、段階。
【0030】
さらに別の局面では本発明は、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8の配列の少なくとも10残基の隣接アミノ酸を有する、精製されたポリペプチドを含む(酵素はα3ガラクトシダーゼ活性および中性の至適pHを示す)。ある態様では、精製された酵素は、以下を含む:SEQ ID. NO: 2とのアラインメントにしたがって番号が付された、以下の配列の少なくとも10残基のアミノ酸を有するポリペプチドを含む:残基10におけるM;残基47におけるG;残基84におけるG;残基86におけるY;残基99におけるY;残基102におけるN;残基114におけるK;残基127におけるT;残基130におけるG;残基132におけるG;残基139におけるG;残基156におけるN;残基160におけるD;残基164におけるP;残基205におけるG;残基277におけるR;残基281におけるR;残基287におけるF;残基308におけるG;残基312におけるQ;残基317におけるI;残基333におけるR;残基340におけるD;残基346におけるG;残基349におけるG;残基360におけるG;残基363におけるD;残基364におけるD;残基367におけるN;残基369におけるH;残基370におけるG;残基371におけるT;残基396におけるG;残基462におけるE;残基463におけるN;残基465におけるT;残基467におけるT;残基468におけるP;残基483におけるR;残基484におけるG;残基486におけるL;残基489におけるT;残基498におけるN;残基508におけるI;残基513におけるD;残基517におけるW;残基519におけるE;残基521におけるG;残基525におけるD;残基528におけるI;残基531におけるN;残基533におけるF;残基549におけるI;残基553におけるP;残基573におけるI;残基590におけるA;残基595におけるG;残基601におけるN;および残基629におけるI(ポリペプチドはSEQ ID NO: 2と少なくとも20%の同一性を有し、およびポリペプチドはα3ガラクトシダーゼ活性も有する)。1つの態様ではポリペプチドは、分岐状のアルファガラクトース構造に対して特異性を示すが、直鎖状のアルファガラクトース構造には特異性を示さない。別の態様ではポリペプチドは、直鎖状のアルファガラクトース構造に対して特異性を示すが、α1-4Gal構造には特異性を示さない。1つの態様では、精製された酵素は、DD(P/A)(V/I)N(V/I)HGT(SEQ ID NO: 10)の配列を有する9残基の隣接アミノ酸を含むポリペプチドを含む。別の態様では、精製された酵素は、DXXXW(Y/F)E(S/T)GXXXD(L/V)(L/T)I(K/R)XNXF(SEQ ID NO: 11)の配列(Xは任意のアミノ酸)を有する21残基の隣接アミノ酸を含むポリペプチドを含む。1つの態様では、精製された酵素はα3ガラクトシダーゼ活性を有する、この機能的等価物を含む。ある態様では、ポリペプチドは、シグナル配列を含まない短縮型バリアントを含む。
【0031】
別の局面では本発明は、以下の段階を含む、組換え型酵素を作製する方法を含む:SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8をコードする核酸を得る段階:これをトランスフェクトした細胞で核酸を発現させる段階;酵素をコードする核酸の発現を誘導する段階;ならびに発現された酵素を細胞から精製する段階。さまざまな態様では本発明は、以下を含む非天然の原核細胞を含む:野生型の原核細胞には見られない発現ベクターであって、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8によって特定される配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を有する発現ベクター。遺伝暗号の縮重のために、当業者に一般に既知であるように、特定の宿主生物における発現に対して、組換え型酵素が最適化可能なことを理解されたい。
【0032】
現在の好ましい態様では、本発明は、α-ガラクトシダーゼのファミリーに関し、ならびに具体的には、B型赤血球およびAB型赤血球上の実質的に全ての免疫優性のB型抗原の除去を触媒するための、これらの使用に関する。最も好ましいα-ガラクトシダーゼは、中性pHで活性を示し、ならびにB型赤血球およびAB型赤血球上の免疫優性のB型抗原の除去を触媒するが、P1抗原(Galα1,4 Galβ1,4 GlcNAcβ1,3 Galβ1,4 Glcβ1セラミド)やPk抗原(Galα1,4 Galβ1,4 Glcβ1セラミド、グロボトリオシルセラミド(Gb3Cer)/CD77としても知られる)などの、他の脂質結合型の直鎖状糖鎖のαGalエピトープの除去は触媒しないガラクトシダーゼである。このファミリーの特定のα-ガラクトシダーゼは、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 1の断片、およびSEQ ID NO: 9のコンセンサス配列として以下に記載されている。
【0033】
さらに別の局面では本発明は、上記の好ましい固有の特徴を有する酵素のスクリーニングおよび選択の方法、ならびにこれらの酵素をコードする遺伝子のクローニングおよび発現に有用なアミノ酸の精製および配列決定の方法を提供する。これらの方法は、これらの好ましい酵素を産生する細菌分離株を提供する。本発明の、このような他の応用および特徴は、以下の詳細な説明によって明らかになる。
【0034】
さらに別の局面では本発明は、異種移植用組織などの組織上の免疫優性の単糖の酵素的除去のための組成物および方法を提供する。具体的には本発明は、非ヒト動物組織からGalili抗原を酵素的に除去することで、これらを移植に適切な非免疫原性の組織に変換するために使用される、α3-グリコシダーゼ(上述)の新規ファミリーを提供する。α3-ガラクトシダーゼの例は、SEQ ID NO: 2〜9の任意の配列を含むが、これらに限定されない。
【0035】
異種移植用組織の調製法は、非ヒト動物供給源から組織を得る段階、組織を、α3-ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドとインキュベートすることで、組織から免疫優性のα1-3結合末端ガラクトース残基を除去する段階、ならびに組織をポリペプチドおよび酵素的に除去されたガラクトースから単離することで、組織をヒトへの異種移植に適切なものとする段階、を含む。1つの態様では、非ヒト動物供給源に由来する組織はブタの結合組織である。別の態様では、ブタの結合組織は靱帯である。
【0036】
別の態様では、非ヒト動物供給源に由来する組織は、肝臓、腎臓、または心臓を含む器官である。さらに別の態様では、非ヒト動物供給源に由来する組織は、非免疫原性の注射可能なコラーゲン;骨の異種移植片;軟部組織およびプロテオグリカン低減(proteoglycan-reduced)軟部組織の異種移植片;異種移植心臓弁;半月板の異種移植片;ならびに組織マトリックスである(組織は、α3-ガラクトシダーゼで修飾されたα1,3-ガラクトース欠損組織である)。α3-ガラクトシダーゼの例は、SEQ ID NO: 2〜9の任意の配列を含むが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】AMC標識血液型B型四糖基質による、富栄養培地(剤形については表IIを参照)で成長させたストレプトマイセス・グリセオプラヌス(Streptomyces griseoplanus)の培養上清中のα-ガラクトシダーゼ活性のHPTLC解析を示す。発酵は、YM培地で1日間、およびBP培地で3日間、220 rpmで30℃の条件で行った。アッセイは、等量の培養上清と0.1 mM B-tetra(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を混合して室温で1時間インキュベートすることで実施した。各反応から1μLをサンプリングし、HPTLCに速やかにアプライした。記号:NE、酵素対照なし;Ctrl、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用した正の対照反応;CS、S.グリセオプラヌスの培養上清;S、基質、すなわちB型四糖;B-tetra、B型四糖;H-tri、H型三糖;起点:試料がアプライされたHPTLC上の位置。TLCプレートを、クロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。
【図2】AMC標識血液型B型四糖基質による、18種類の異なる炭素源が添加された最小培地で成長させた培養物から回収した、ストレプトマイセス・グリセオプラヌスの培養上清の酵素アッセイのHPTLC解析を示す。アッセイは、等量の各培養上清と0.025 mMのB-tetra(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を混合し、および室温でインキュベートすることで実施した。1時間の時点で各反応から1μLをサンプリングし、TLCプレート上にスポットした。パネルの上部に1〜18の番号で示す炭素源は、表IIIに示す、発酵に使用された18種類の異なる糖である。記号:B-tetra:B型四糖、基質;H-tri:H型三糖、α-ガラクトシダーゼ切断によるB-tetra基質の生成物(H-triを上回る早く移動した生成物は、H型の三糖の二糖および単糖へのさらなる分解を生じる、培養上清中におけるフコシダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼの存在を示す)。発酵:ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのクリオストックを溶解し、およびYM培地(約1:5〜10、v/v)に添加し、ならびに30℃で220 rpmで24時間インキュベートした。培養物をBP培地(約1:20、v/v)に植え継ぎ、および発酵を72時間、継続した。100 mLのBP培養物から遠心分離によって回収された菌糸を、基礎最小培地(炭素源、および微量金属/ビタミン添加物を欠く最小培地)で3回洗浄し、富栄養培地を可能な限り除去した。次にペレットを、100 mLの2X基礎最小培地に添加剤とともに再懸濁した。次に、菌糸懸濁物からアリコートを、50 mLのコニカルチューブに2.5 mL/本となるように採取した。次に、さまざまな炭素源および水を、最終濃度が0.5%および最終容量が5.5 mLとなるように添加した。各炭素源について2回の検討を行った。18種類の異なる炭素源を含む各5.5 mLの36の培養物を、30℃、220 rpmでインキュベートした。43時間および71時間の時点で、0.16 mLの培養物のアリコートを各チューブからサンプリングした。
【図3】AMC標識血液型B型四糖基質による、唯一の炭素源としてガラクトースまたは乳糖のいずれかが添加された最小培地で成長させたストレプトマイセス・グリセオプラヌスの培養上清の酵素アッセイのHPTLC解析を示す。アッセイは、等量の各培養上清と0.1 mMのB-tetra(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を混合し、室温でインキュベートすることで実施した。20分の時点で、各反応から1μLをサンプリングし、HPTLCプレートにアプライして解析した。記号:B-tetra:B型四糖、基質;H-tri:H型三糖、α-ガラクトシダーゼによる切断によるB-tetra基質の生成物(H-Triを上回る、速く動いた生成物は、H型の三糖の二糖および単糖へのさらなる分解を生じる、培養上清中におけるフコシダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼの存在を示す);炭素源:#4、ガラクトース;#7、乳糖;NE、酵素対照なし;Ctrl、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用した正の対照反応。
【図4】B-tetra基質による、CEXカラムまたはDEAEカラムを通過させた後のタンパク質溶液中におけるα-ガラクトシダーゼ活性の酵素アッセイのHPTLC解析を示す。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスの約450 mlの上清を、1リットルの発酵槽中で、ガラクトースが添加された最小培地で成長させた800 mLの培養物から回収し、-80℃で保存し、24時間かけて4℃で溶解し、および30分間、4℃、20,000 rpmで遠心分離した。回収した上清を、40 mM NaPO4、10 mM NaCl(pH 6.8)で事前に平衡化した15 mLの陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(CEX)(Macro-Prep High S Support, BioRad, Cat. #156-0031)に通過させた。酵素活性を含むフロースルーを回収した。カラムを、40 mlの平衡緩衝液、pHがわずかに高い(7.3)の40 mLの同緩衝液で連続的に洗浄した。フロースルーおよび洗浄液をプールし、ならびにCEX平衡緩衝液で事前に平衡化してた2.5 mLのDEAEカラム(DEAE Sepharose, Sigma, Cat. #DEF100)に直接ロードし、ならびにフロースルーを回収した。カラムを、50 mlのCEX平衡緩衝液で洗浄して、カラムから残存性酵素を除去した。DEAEフロースルーおよび洗浄液(約600 mL)の、プールされたタンパク質溶液を、Centricon Plus 80 Centrifugalフィルター装置(Millipore Cat. #UFC5LGC02)を使用して遠心分離し、ならびに同装置内で、最終容量が23 mLとなるように、緩衝液を10 mM NaPO4(pH 7.0)に交換した。
【図5】B-tetra基質による、ヒドロキシアパタイト段階に由来するさまざまなフラクションにおけるα-ガラクトシダーゼ活性のHPTLC解析を示す。10 mM NaPO4, pH 7.0中のタンパク質試料を、10 mM NaPO4(pH 7.0)で事前に平衡化した2.5 mLのヒドロキシアパタイトカラム(Bio-Gel HT Hydroxyapatite, Bio-Rad Cat. #130-0150)にロードした。カラムを平衡緩衝液で洗浄し、およびNaPO4の量を増やしながら(10〜100 mM)、段階的に洗浄/溶出した。フロースルー中に活性は検出されず、10 mM NaPO4(pH 7.0)の存在下で酵素がカラムに有効に結合したことがわかる。30 mM NaPO4による洗浄液中における酵素活性の出現、および100 mM NaPO4による洗浄液中における、活性のほぼ完全な消失は、30〜50 mM NaPO4(pH 7.0)を使用するだけで、ヒドロキシアパタイトカラムから酵素を簡単に溶出できることを意味する。記号:Pre、カラムにロードする前のタンパク質溶液;FT、フロースルー。
【図6】B-tetra基質による、Cibacron Blue 3GA段階で得られたフラクション中のα-ガラクトシダーゼ活性のHPTLC解析の結果を示す。ヒドロキシアパタイト段階でプールされた活性フラクションをH2Oで1:1に希釈し、および10 mM Tris(pH 7.5)で事前に平衡化した2.5 mLのCibacron Blueカラム(Cibacron Blue 3GA, Sigma, Cat. # C-1285)にアプライした。カラムを平衡緩衝液で洗浄し、さらに、パネルの下に示すように塩を増量しながら平衡緩衝液で洗浄/溶解した。酵素活性は、100〜400 mM NaCl洗浄液中に分布していた。記号:Pre、カラムにロードする前のタンパク質溶液;FT、フロースルー。
【図7】B-tetra基質による、AEX段階で得られた、さまざまなフラクション中におけるα-ガラクトシダーゼ活性のHPTLC解析を示す。Cibacron Blueに由来する酵素活性フラクションのプールを濃縮し、緩衝液を、最終容積が3.7 mLとなるように、40 mM Tris、10 mM NaCl(pH 8.5)に交換した。タンパク質溶液を、40 mM Tris、10 mM NaCl, pH 8.5で事前に平衡化した1 mLのAEXカラム(Macro-Prep High Q Support, Bio-Rad Cat. # 156-0051)にロードした。カラムを最初に平衡緩衝液で洗浄し、次に、パネルの下に示すように塩を増量しながら同緩衝液で洗浄/溶出した。記号:Pre、カラムにロードする前のタンパク質溶液;FT、フロースルー;洗浄/溶出液、カラムの洗浄試料および/または溶出試料;[NaCl](mM)、洗浄/溶出用緩衝液の塩濃度;フラクション#、各洗浄/溶出段階で回収されたフラクション;B-tetra、B型四糖、基質;H-tri、H型三糖、生成物(H-triより速く移動する生成物は、タンパク質試料中に、H型の三糖の二糖へのさらなる分解を引き起こすフコシダーゼ活性が混入していることを意味する)。
【図8】AEXで精製されたストレプトマイセス・グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼ活性を対象とした、SDS-NuPAGE(MOPS緩衝液を使用するNovex 4〜12% Bis-Tris Gel、SilverQuest Silver Stainingキットで染色、Mark12 Unstained Standard、いずれもInvitrogenの製品)による解析を示す。図7に示すAEX段階の各塩濃度における、洗浄/溶出試料のフラクション#3の酵素アッセイのHPTLC解析を、酵素活性とゲル上のタンパク質バンドの比較を容易にするために、ゲルの最上段に配置した。推定α-ガラクトシダーゼと記した、パネルの右側の矢印で示す約70 kDaの1本のタンパク質バンドを、ピークのα-ガラクトシダーゼ活性で示す。記号:B-tetra、B型四糖、基質;H-tetra、H型三糖、生成物。
【図9】B型四糖を使用し、HPTLCで解析した、SDS-NuPAGEおよび酵素活性アッセイで部分的に精製されたストレプトマイセス・グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼのS12クロマトグラフィーのフラクションの比較解析を示す。推定70 kDのα-ガラクトシダーゼのバンドを、Rainbow分子量マーカー(Amersham, Cat. # RPN800)を使用して、パネルの右側の矢印で示す。記号:Ctrl、既知濃度のNEB A-zyme;B-tetra、B型四糖、基質;H-tri、H型三糖、生成物。
【図10】ストレプトマイセス・グリセオプラヌスの新規α-ガラクトシダーゼの、HPLCで分画化したトリプシン消化物のエドマン配列決定法で得られたペプチド(SEQ ID NO: 1)と、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)に由来する推定タンパク質(GenBank access # BAC74979.1、GI:29610934、SEQ ID NO: 2)のアラインメントを示す。SEQ ID NO: 1のアミノ酸に対応するSEQ ID NO: 2のアミノ酸に下線を付す。アラインメントは、NCBI nrデータベースに対して、「search for short, nearly exact matches」を用いたペプチドのblast解析によって得た[(Score=51.5 bits (114)、Expect=3e-06;Identities=18/29(62%)、Positives=24/29(82%)、Gaps=0/29(0%)]。アミノ酸配列は、1文字コードで示す。同一の残基は太い大文字で示し、類似の残基は太字で示し、異なる残基は小文字で示す。
【図11】AMC標識血液型B型四糖および4-メチルウンベリフェリルα-D-ガラクトピラノシド(α-Gal pNP)基質による、YM培地(組成については表IIを参照)で成長させたストレプトマイセス・アベルミティリスの培養上清およびペレットライセートの酵素アッセイのHPTLC解析を示す。発酵は、3日間にわたって30℃、220 rpmで行った。アッセイを、等量の培養上清と0.1 mM B-tetraまたは0.5 mM α-Gal pNP(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を混合して行い、室温で一晩インキュベートした。各反応から1μLをサンプリングし、速やかにHPTLCにアプライした。記号:NE、酵素対照なし;Ctrl、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用した正の対照反応;CS、S.アベルミティリスの培養上清;PT、ペレットライセート;B-tetra、B型四糖;H-tri、H型三糖;MU、4-メチルウンベリフェロン、α-Gal pNPの切断生成物;起点:試料がアプライされたHPTLC上の位置。TLCプレートを、クロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。
【図12−1】NCBI nrデータベースに対するSEQ ID NO: 2のblast検索による、ストレプトマイセス・アベルミティリスに由来する新規の推定α-ガラクトシダーゼのタンパク質配列(SEQ ID NO: 2)と、複数の機能不明の第1のタンパク質ヒットとのアラインメントを示す。アラインメントは、CLUSTALWマルチアラインメント(NPS@: Network Protein Sequence Analysis, TIBS 2000: 25;147-150, Combet C., Blanchet C., Geourjon C. and Deleage G.)を使用して実施した。アラインメントデータ:アラインメント長:665;同一(*):59が8.87%;強く類似(:):86が12.93%;弱く類似(.):42が6.32%;異なる:478が71.88%。配列は以下の通り:SA(625残基のSEQ ID NO: 2);BTα(568残基のSEQ ID NO: 3);BFα1(605残基のSEQ ID NO: 4);BFα2(605残基のSEQ ID NO: 5);BFβ1(595残基のSEQ ID NO: 6);BFβ2(595残基のSEQ ID NO: 7);BTβ(615残基のSEQ ID NO: 8)。SEQ ID NO: 9は、配列SEQ ID NO: 2〜8のコンセンサス配列である。記号:SA、BT、およびBF、それぞれストレプトマイセス・アベルミティリスMA-4680、バクテロイデス・テタオタオミクロン(Bacteroides thetaotaomicron) VPI-5482、およびバクテロイデス・フラジリスに由来する推定α-ガラクトシダーゼ;αおよびβ:B.テタオタオミクロンVPI-5482に由来する2つの異なるコピーのα-ガラクトシダーゼ;α1およびβ1:B.フラジリスYCH46に由来する2つの異なるコピーのα-ガラクトシダーゼ;α2およびβ2:B.フラジリスNCTC 9343に由来する2つの異なるコピーのα-ガラクトシダーゼ。
【図12−2】図12-1の続きを示す図である。
【図13】AMC標識血液型B型四糖基質による、IPTGによって誘導された大腸菌クローン培養物(ストレプトマイセス・アベルミティリスに由来する組換えα-ガラクトシダーゼ遺伝子を発現するプラスミドを含む)に由来する細胞ペレットの全細胞ライセートの酵素活性のHPTLC解析を示す。抗生物質を含む1 mLのTB培地(培地1 Lあたり、48.2 gのEZmix Terrific Broth, Sigma T-91790、8 mLのグリセロール、34 mgのクロラムフェニコール、および30 mgのカナマイシン)を、1個のコロニーを含む寒天プラグを含む各1.5 mLのマイクロチューブに添加した。キャップを閉じて、インキュベーションを一晩、37℃、250 rpmで行った。0.5 mLの一晩培養物を、50 mLのコニカルチューブ中の10 mLの培地に添加し、インキュベーションを同条件で行った。細胞密度は、220 rpmの条件で約2時間でOD600nmが0.3〜0.6に達した。振盪器から培養物を取り出し、室温で約20分間維持した。一方、インキュベーターの温度を約26℃に低下させた。次にIPTGを各培養物に、0.1 mMの濃度で添加し、全培養物を振盪器内に再び入れ、220 rpmで攪拌してタンパク質の誘導を開始した。1時間後に、0.5 mLのアリコートを各チューブから無菌的に除去し、最高速度に設定した卓上遠心分離器で5分間かけて細胞ペレットを得た。20μlの溶解緩衝液(溶解緩衝液1 mlあたり、0.9 mLの40 mM NaPO4、10 mM NaCl, pH 6.8、0.1 mLのBugBuster 10X, Novagen 70921-4、1 mgリゾチーム/mL、および5μLのベンゾナーゼ(benzonase)、Novagen 70664-3)を各チューブに添加してペレットを懸濁し、および懸濁物を上下に数回ピペッティングして細胞を溶解した。溶解は5〜10分間で完了した。続いて、0.1 mM B-tetra(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を含む等量の基質溶液と混合することで、粗全ライセートのアリコート(2.2μL)を解析し、および室温でインキュベートした。10分後に、1μlの消化物を除去し、およびHPTLCプレート上にスポットした。記号:Ctrl、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用した正の対照反応;1および2:ストレプトマイセス・アベルミティリスに由来する完全長の新規ガラクトシダーゼを発現する同じコンストラクトの2個の個別のコロニーに由来する全ライセート;B-tetra、B型四糖;H-tri、H型三糖;起点:試料がアプライされたHPTLC上の位置。TLCプレートを、クロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。図14で、新規B-zymeが大腸菌で、封入体としてではあるが、効率的に発現され得ることが確認された。したがって、この新規B-zymeの応用には、発現が最適化される必要があるか、または効率的な再フォールディング法を開発する必要がある。
【図14】大腸菌で発現されたα-ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 2)のSDS-NuPAGE解析を示す(MOPS緩衝液によるNovex 4-12% Bis-Tris Gel、Colloidal Blue Stainingキットによる染色、Mark12 Unstained Standard、全てInvitrogenの製品)。各培養物に由来するライセートを、拡大したスケールで、図13の説明に記載された手順と同様に調製した。各全ライセートのアリコートを、14,000 gで5分間、RTで遠心分離した。上清を除去した。12μlの全ライセートまたは上清を、10%(v/v)のβ-メルカプトエタノールを添加した4μLの4X LDS緩衝液と混合した。ペレットを、2.5%(v/v)β-メルカプトエタノールを添加した1X LDS試料緩衝液に、16μLの試料緩衝液/12μLの全ライセートの比となるように懸濁した。SDS-NuPAGE解析用に、全ての試料を70℃で10分間加熱した。記号:WL、全ライセート;Sup、上清;PT、ペレット;U、非誘導培養物から調製した試料;I、誘導培養物から調製した試料。
【図15】縮重プライマーの設計に関して保存された領域を見極めるための、新規の推定α-ガラクトシダーゼファミリーを対象とした、Multiple ClustalW(BoxShade 3.21)によるタンパク質配列アラインメントを示す。同一の残基および保存された置換は、黒色および暗灰色で強調表示されている。アラインメントされた配列は、S.アベルミティリスMA-4680、B.テタオタオミクロンVPI-5482、およびS.フラジリスNCTC 9343に由来する。B.フラジリスNCTC 9343に由来する配列にほぼ同一な、B.フラジリスYCH624に由来する2つの配列は含めなかった。S.グリセオプラヌス2357に由来する部分的なα-ガラクトシダーゼ遺伝子をクローニングするための、一対の縮重プライマーを設計するために使用された保存領域を、フォワードプライマー(前向きの矢印)およびリバースプライマー(後向きの矢印)とともに示す。
【図16】S.グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼのタンパク質配列を、クローニング用プライマーに対応する領域を強調表示して示す。フォワードおよびリバースのプライマーをそれぞれ、灰色および薄い灰色で表示する。縮重プライマーに下線を付す。
【図17】さまざまな構造を有するオリゴ糖のパネルによる、精製された組換え型FragB α-ガラクトシダーゼの酵素アッセイのHPTLC解析を示す。反応を、0.25 mg/mLのBSAを添加した10μLの10 mM NaPO4, pH 6.8/2.5 mM NaClを溶媒として、10 nmoleの基質および21 ngの酵素を使用して室温で行った。望ましい時点で1μlの酵素アッセイを除去し、シリカゲルでコーティング済みのTLCプレート(EMD Chemicals, NJ)にスポットし、これをクロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:30/60/10)で15分間かけて展開し、生成物の展開をOrcinol/H2SO4による染色で検出した。記号:各基質に関する反応時間(左から右へ):0(酵素を含まない対照反応からサンプリング)、5分、10分、20分、40分、および80分。基質の詳細な構造は、表Vに示す。基質の切断の結果、B-tri、B-di、および直鎖状B型については移動が早くなったが、P1、Pk、およびA-triに関しては観察されなかったことから、切断が起こらなかったことがわかる。
【図18】異なるpHにおけるAMC-B-tetraによる、精製された組換え型FragB B-zymeの酵素アッセイのHPTLC解析を示す。反応は、1 nmoleの基質および約8 ngの酵素を、0.25 mg/mLのBSAを添加した10μLの緩衝液(pH 2.0〜9.0)を溶媒として使用して室温で実施した。望ましい時点で1μlの酵素アッセイを除去し、HPTLCプレートにスポットし、これをクロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。反応で使用した1X緩衝液は、以下の2X緩衝液に由来する:pH 2.0、0.1 Mクエン酸;pH 2.5〜5.5、0.1 Mクエン酸/0.2 M Na2HPO4;pH 6.0〜7.5、0.2 M NaH2PO4/0.2 M Na2HPO4;pH 8.0〜9.0、0.2 M Tris/HCl。アッセイ混合物を、5分(上のパネル)および10分(下のパネル)の時点でサンプリングした。記号:B-tetra、B型四糖;H-tri、H型三糖;起点:試料がアプライされたHPTLC上の位置。
【図19】色素生産性のパラ-ニトロフェニル誘導体Galα-pNPを使用した、異なるpHで使用における酵素活性の解析を示す。アッセイは、図17の説明に記載されているように、26℃で5分間、2.5 mMの基質、8.5μgの酵素を、pH 2.0〜9.0の400μlの緩衝液中で実施し、600μLの1.0 M Na2CO3を添加して終了し、および405 nmにおける読み値を記録した。18,300のモル吸光係数を使用して、放出されたニトロフェノールの量を計算した。1単位を、実験条件で1分間に1μmoleの基質を切断するのに必要とされる酵素の量と定義した。次に、各pHにおける比活性を計算し、およびpHに対してプロットした。
【図20】バクテロイデス・フラジリスのα-ガラクトシダーゼの基質特異性を示す。酵素アッセイを、酵素を使用せずに(-)、および約30 ngの酵素(+)、約1.0 mMの基質を、0.25 mg/mLのBSAを添加した10μlの10 mM NaPO4, pH 6.8、2.5 mM NaClを溶媒として使用して実施した。反応を、26℃でインキュベーション中にTLCでモニタリングし、および2時間の時点の結果を示す。BFα2(FragA)α-ガラクトシダーゼによる、分岐状の血液型B型三糖(B-tri)のH型二糖(H-di)への切断、およびBFβ1(FragB)α-ガラクトシダーゼによる全てのB型構造の切断は、5〜20分間で完了した(データは示さず)。一方で、2時間のインキュベーション後に、他のオリゴ糖基質の切断は認められなかった。TLCプレートを、クロロホルム/メタノール/水(30/60/10、v/v/v)で15分間かけて展開し、および0.05% Orcinol(溶媒は0.5 M H2SO4)で加熱して染色した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
本発明は、ほぼ中性のpH範囲において、血液型B型構造に対して好ましい特異性を有し、ならびに血液製剤および動物組織の酵素的変換に好ましい機能を有する新規α-ガラクトシダーゼのスクリーニングおよび選択の戦略の開発および応用に関する。表1に、血液細胞上に存在する抗原の複雑な構造を挙げる。
【0039】
本発明の目的で、血液型B型反応性オリゴ糖の誘導体を合成するか、または多様な基質からのαGalの酵素的除去によって作製した。さらに、構造3、構造6、構造21、および構造25を有するスフィンゴ糖脂質をヒト赤血球から精製するか、または文献(Clausen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(4): 1199-203, 1985、Clausen et al., J Biol Chem. 261(3): 1380-7, 1986, Clausen et al., Biochemistry 25(22): 7075-85, 1986、Clausen et al., J Biol Chem. 262(29): 14228-34, 1987)に記載されたグリコシダーゼ処理によって、これらから作製した。AMC誘導体またはスフィンゴ糖脂質からのαGalまたはαGalNAcの除去の量を決定するための薄層クロマトグラフィーアッセイを開発した。
【0040】
好ましいα-ガラクトシダーゼは、血液型B型の分岐状糖構造に対して高い基質特異性を有し、一般に中性の至適pHを有し、および細菌や酵母などの単細胞生物中で組換えタンパク質として、高い費用効果で作製可能である。発明者らの過去の特許出願(U.S.S.N. 10/251,271)では、B型四糖AMC誘導体基質を使用する、好ましい酵素活性に関するスクリーニングアッセイが開発され、および中性pHで酵素活性が測定された。さらに、複合基質に対する選択性または独占性の活性を同定する目的で、活性を、p-ニトロフェニル単糖誘導体を使用時の活性と比較した。同出願で発明者らは、細菌および真菌の分離株(3100)の大規模パネルを対象とした、このスクリーニングアッセイの使用を開示し、ならびにそこで発明者らは、A型またはB型の四糖AMC基質によって測定される、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ活性またはα-ガラクトシダーゼ活性を発現する複数の細菌分離株を同定したが、対応するp-ニトロフェニル単糖基質の使用時には、活性のレベルは認められないか、有意ではなかった。これらの各活性の1つをさらに、ストレプトマイセス株の場合と同様に、血清および遺伝子のタイピング後に解析した。株#8の解析では、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ活性を有することが判定され、活性が不溶性であり、および細胞重量と関連することがわかった。株#8は、2002年2月14日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託され、およびATCC Deposit No. PTA-4076が割り当てられた。これとは対照的に、株#2357は、α-ガラクトシダーゼ活性を有すると判定され、および活性は、フレンチプレスで溶解された形質転換細胞の上清中に見出され、可溶性であると判定された。株#2357は、2002年2月14日にAmerican Type Culture Collectionに寄託され、およびATCC Deposit No. PTA-4077が割り当てられた。可溶性のタンパク質を精製することは、かなり単純なので、発明者らは最初に、株#2357からタンパク質を精製して配列を決定することにした。
【0041】
株#2357の可溶性フラクション中に発明者らが見出した酵素を部分的に精製した。部分的に精製されたα-ガラクトシダーゼの基質特異性の詳細な解析の結果、分岐状のB型血液型構造に対しては意外なほど高い特異性が存在するが、α1-3ガラクトース残基またはα1-4ガラクトース残基を末端に有する直鎖状構造は同酵素で切断されないことがわかった。その至適pHの解析の結果、5.5〜7.0のpHが好ましい条件であることが判明した。したがって、同定されたα-ガラクトシダーゼ活性は、その限定的な基質特異性、B型構造に対する高い比活性、および至適pHのために、従来技術で既知である酵素に対して極めて好ましい。結果として得られた、部分的に精製された粗抽出物のSDS-PAGE解析の結果、α-ガラクトシダーゼ活性を有する40〜80 kDaの領域に3〜4本のタンパク質のバンドの存在が明らかとなった。調製物のゲル濾過解析の結果、活性はBSAと同程度に移動することが判明し、分子量が約40〜80 kDaの球状タンパク質であることがわかった。1つの短い配列が得られた:Phe-Ala-Asn-Gly-Leu-Leu-Leu-Thr(SEQ ID NO: 1)。
【0042】
こうした検討に続き、および本発明に記載されているように、発明者らは、α-ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドの新しいファミリーを発見し、ならびにその誘導、精製、配列決定、およびクローニングの方法を発見した。後述するように、このポリペプチドファミリーは、株#2357から過去に部分的に精製されたタンパク質とは異なり、また注目すべきことに、同ファミリーの成員は、SEQ ID NO: 1で表される配列を含まない。新しい誘導戦略は、特定の炭素源および最小培地における適切な細菌の成長を含み、これはα-ガラクトシダーゼポリペプチドの産生の有意な上昇につながる。既知のα-ガラクトシド(一般に、酸性の至適pH、およびGalα-pNPまたは他の単純な単糖に対する基質特異性を有する)は、グリセオプラヌスおよび近縁のストレプトマイセス株では、これらの新規ポリペプチドを産生する同じ成長条件では分泌されない。
【0043】
したがって本発明は、あるα-ガラクトシドポリペプチドの組換え的発現および精製の新しい方法を提供する。新しい成長法および誘導法と組み合わせることで、この精製戦略は、アミノ酸の配列決定、ならびに血液製剤および組織の変換に関して十分な量のα-ガラクトシダーゼポリペプチドが見かけ上、均一となる、良好な精製につながった。
【0044】
見かけ上、均一になるまでの精製を達成するために、以下の連続的な段階を使用した:S.グリセオプラヌス#2357の培養物に由来する細胞ブロス上清を最初に、CEXカラムおよびDEAEカラムに連続的に非結合状態で通過させた(図4)。次に、活性を結合させ、ならびにヒドロキシアパタイトカラム(図5)、Cibacron Blueカラム(図6)、そして最後にAEXカラム(図7および図8)で連続的に溶出した。精製スキームの全体で、続けて、さまざまなフラクションにおける酵素活性に関してタンパク質の解析を行い;最終タンパク質生成物をSDS-NuPAGEでも解析した。α-ガラクトシダーゼタンパク質を、SDS-NuPAGE銀染色およびAEX、ならびにS12ゲル濾過クロマトグラフィーによるタンパク質のバンド出現パターンの比較によって同定した(図8〜9)。SDS-NuPAGEおよびS12ゲル濾過で、70 kDとして移動した唯一のバンドは、観察されたα-ガラクトシダーゼ活性と対応していた。記載された手順で同定されたタンパク質は最終的に、NuPAGEゲル電気泳動によって分離し、およびクーマシー染色された70 kDのバンドをゲルから切り出してアミノ酸配列解析を行った。内部アミノ酸配列に関する情報は、質量分析による解析(MALDI-TOF)、およびトリプシン消化後のエドマン分解によって得た。得られた短い配列のなかで、公共データベース(GenBank)に登録された既知の配列と高い同一性を示したものはなかった。30アミノ酸のペプチド(内部配列決定によって得られ、および「Search for short, nearly exact matches」を用いた、MS/MSによって確認された最長のペプチド配列)を対象としたBlastデータベース検索によって、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)のゲノム配列(GenBank access # BAC74979.1、GI:29610934)に由来するタンパク質(SEQ ID NO: 2)をコードすることが推定される推定オープンリーディングフレームが同定された。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスの完全なゲノムは得られておらず、および、この属に由来する関連配列はデータベース検索で同定されなかった。ストレプトマイセス・アベルミティリスおよびストレプトマイセス・グリセオプラヌスは極めて近縁である。したがって発明者らは、ストレプトマイセス・アベルミティリスも、多くのストレプトマイセス分離株を含む細菌分離株のなかで極めてまれなことが過去に証明されている、同定済みのα-ガラクトシダーゼ活性を含むか否かについて検討を行った。
【0045】
ストレプトマイセス・アベルミティリス(ATCC 31267)の培養上清を、分泌型のα-ガラクトシダーゼに関して調べたところ、図11に示されるように、B-tetraオリゴ糖基質の切断によって判定される、培養上清とペレットライセートの両方にα-ガラクトシダーゼ活性が存在することの明瞭な証拠が観察された。しかしながら、ストレプトマイセス・アベルミティリスの分泌型のα-ガラクトシダーゼによる単純な基質(α-Gal pNP)の切断は無視できた。これとは対照的に、α-Gal pNPの完全な切断が、細胞フラクションから得られたストレプトマイセス・アベルミティリスのα-ガラクトシダーゼに関して観察された。したがって、分泌型および細胞型のα-ガラクトシダーゼはおそらく同じものではない。分泌型ガラクトシダーゼの一部は、単純な(直鎖状の)基質より分岐状の基質を好む新規のα-ガラクトシダーゼである可能性が高い。一方で、全てではないが大半の細胞型α-ガラクトシダーゼ活性は、従来のグリコシダーゼ活性を有することが観察されている。培養ブロス中への分泌、推定分子量、およびS.グリセオプラヌスとの配列類似性に関して、S.グリセオプラヌス由来のα-ガラクトシダーゼとS.アベルミティリス(SEQ ID NO: 2)由来のポリペプチドが似ていることから、S.アベルミティリスのタンパク質が、当初同定されたS.グリセオプラヌス由来のα-ガラクトシダーゼの相同物であることがわかる。
【0046】
S.アベルミティリスから同定されたポリペプチド(SEQ ID NO: 2)は625アミノ酸からなり、および他の任意の既知のタンパク質との間で有意な類似性は認められなかった。SEQ ID NO: 2とのBack検索の結果、表1Aに示すような配列類似性を有する、もっぱら原核ゲノムに由来する複数の新規タンパク質配列(SEQ ID NO: 3〜8)が同定された:
【0047】
(表1A)S.アベルミティリスの酵素に対するBacteroidesのα-ガラクトシダーゼの同一性(全体に対する%)
【0048】
同定された全てのポリペプチドを、図12に示す多重配列アラインメントで解析した;コンセンサス配列をSEQ ID NO: 9に示す。これらのポリペプチドは、以下に詳述する固有の基質特異性を有し、およびほぼ中性の至適pHという共通の特性を有する新規α-ガラクトシダーゼの新しいファミリーである。
【0049】
このα-ガラクトシダーゼファミリーのこれらの成員の遺伝子配列によって、さまざまな原核細胞または真核細胞、および発現系を使用する、これらのポリペプチドの組換え発現系の開発が可能となっており、ならびに確立されたタンパク質の精製の手順(例えばHisタグ発現および精製系)を使用する、これらの酵素の組換え型の精製が可能となる。
【実施例】
【0050】
酵素アッセイ:
7-アミノ-4-メチル-クマリン誘導体などの、一連の複雑なABH式血液型のオリゴ糖構造からなる基質は、Alberta Chemical Research Councilによってカスタム合成された(U.S.S.N. 10/251,271を参照)。他の基質は、さまざまな供給業者(Sigma-Aldrich)から入手可能であった。使用した全ての試薬は、分析グレードまたはこれ以上のものとした。標準的な酵素アッセイを、さまざまな基質を使用して以下のように実施した。
【0051】
典型的なアッセイを以下の手順で実施した:タンパク質試料を、0.05 mMの濃度のAMC標識オリゴ糖と、0.25 mMの濃度のMU標識単糖とともに、50 mM NaPO4(pH 6.8)を溶媒とする2.2〜10μlの反応で、望ましい時間、26℃または室温でインキュベートした。1μlのアリコートを、さまざまな時点で回収してHPTLCにスポットした後に生成物を展開した。TLCプレートは、クロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。1単位の酵素活性は、実験条件で1分間に1μmoleの基質を切断するのに必要な酵素の量と定義される。
【0052】
発酵:
さまざまな培地の組成を表IIに示す。フラスコおよび50 mLのコニカルチューブ中における発酵を標準的な条件(30℃、220 rpmで望ましい時間)で行った。発酵は、pH 6.8、30℃、300〜600 rpm、DO=50%で実施した。
【0053】
(表II)α-ガラクトシダーゼポリペプチドの産生目的のストレプトマイセス・グリセオプラヌス成長用の培地1の組成
1.指定の成分を含まない全ての培地は、121℃で25分間かけて滅菌した。
2.成分を0.22μmで濾過して滅菌し、および滅菌後に所望のレシピに添加した。
【0054】
実施例1:ストレプトマイセス・グリセオプラヌスにおけるα-ガラクトシダーゼの発現の誘導
S.グリセオプラヌスは過去に、適切な培地で成長時に、分泌型の新規α-ガラクトシダーゼを産生可能なことが報告されているが、同酵素は均一となるまで精製されていなかった。この微生物のクリオストック(cryostock)を、5〜10容のYM培地に添加し、および30℃、220 rpmで24時間、振盪フラスコ中で、または培養の規模に応じて、50 mLのコニカルチューブ中で成長させた。次にYM培地を約20容のBP培地に添加し、ガラクトシダーゼの産生を誘導するために、続けて同条件でインキュベートした。培養物に関連する酵素活性は通常、3日以内にピークを迎える。酵素活性を含む培養上清を遠心分離して回収した。図1は、基質B-tetraによる、典型的な消費培地上清の酵素アッセイのHPTLC解析を示す。同定されたα-ガラクトシダーゼは、細胞の全ライセートの両方において、極めて低い容量収量(volumetric yield)で発現され、ならびに培地中に分泌された(一般的な方法に記載されたB-tetra AMC酵素アッセイで解析された約0.1 U/Lの培養物)。したがって、配列決定用に十分な量の純粋なタンパク質を単離することは、ほとんど不可能である(U.S.S.N. 10/251,271を参照)。所望のタンパク質の発現レベルが低いこと、富栄養培地が不均一であること、およびタンパク質を多く含むことは、タンパク質同定用の十分な活性の精製が困難であることの主要因であると見なされた。
【0055】
本研究では、開始時の比活性を高くするために、酵素の発現および分泌を誘導する戦略の開発が必要であると考えられた。その1つの方法は、グルコースではない別の炭素源を使用することであった。別の方法は、有機材料(特にタンパク質量)をわずかにしか含まない均一な培地、すなわち最小培地を使用することで、培地の複雑さを減ずることであった。そのような培地からの酵素活性の単離は容易であると考えられ、および各段階における酵素の収量は増えることが予想された。
【0056】
最小培地における微生物の成長が極めて緩やかであり、および成長培地組成に対するα-ガラクトシダーゼ産生の感度が高いことを考慮して、S.グリセオプラヌスを最初に富栄養培地で、次に標準的なプロトコル、すなわちYM培地で24時間、BP培地で72時間、成長させた。次に菌糸を、培養物から遠心分離によって回収した。残存する富栄養培地を可能な限り除去するために、ペレット状の菌糸を基礎最小培地(炭素源および添加物を含まない最小培地)で十分に洗浄した。次に菌糸のペレットを、図2に示すように炭素源のスクリーニングに容易に分布可能となる、炭素源を含まない最小培地に再懸濁した。小規模な試験管培養を、標準的な発酵条件で実施した。さまざまな時点で少量のアリコートをサンプリングし、およびα-ガラクトシダーゼ解析用に上清を回収した。表IIIに示すように、計18種類の炭素源を検討した。B-tetraによる、培養上清を対象とした酵素アッセイのHPTLC解析を図2に示す。レーン4およびレーン7における、70時間の発酵上清を使用時の基質の完全な消失は、α-ガラクトシダーゼの産生能力に関して、ガラクトースおよび乳糖と、他の炭素源で明瞭に異なる。25 pmolの基質/μLタンパク質試料、50 mM NaPO4(pH 6.8)、室温で1時間という現在のアッセイの条件では、α-ガラクトシダーゼ活性の容積収率は、以下の式で計算できる。
25 pmol/(1μl * 60分)≒0.4 mU/mLまたは0.4 U/L
この収率は、富栄養培地による培養物で得られる典型的な収率(約0.1 U/L)よりかなり高い。さらに、この収率はおそらく1時間より前における時点のデータが無いために、反応のエンドポイントを失ったことから、過小評価されている。予備的な結果は、α-ガラクトシダーゼの産生および精製を促進するために最小培地を使用することの大きな可能性を示している。
【0057】
最小培地使用時の顕著な観察の真偽を確認するために、発明者らは、新規α-ガラクトシダーゼを誘導するための主要炭素源であるガラクトースおよび乳糖の再評価を行った。図3は、ガラクトースおよび乳糖を炭素源として含む最小培地で成長させた、さまざまな時点で採取された発酵試料の反応アッセイのHPTLC解析を示す。基質の約90%は、3日間培養した試料によって20分以内に切断された。これは約4 U/Lの培養上清に相当する。したがって、図3に示すように、ガラクトース(レーン#4)、および驚くべきことに乳糖(レーン#7)が、かなりのα-ガラクトシダーゼ活性を誘導した。次に、上記の手順で同定されたガラクトース使用時の成長および誘導の条件を、酵素単離目的のストレプトマイセス株#2357の大規模発酵を開発するために、さらに最適化を行うことなく使用した。以下の例から明らかなように、このような条件は、U.S.S.N. 10/251,271に当初開示された酵素とは異なり、結果として得られるα-ガラクトシダーゼタンパク質の良好な単離および同定に関して不可欠であった。
【0058】
(表III)最小培地を使用するストレプトマイセス・グリセオプラヌスからの新規α-ガラクトシダーゼの誘導のスクリーニングに使用した炭素源
【0059】
実施例2:ストレプトマイセス・グリセオプラヌス株#2357で発現されたα-ガラクトシダーゼの精製
出発材料が、文献(U.S.S.N. 10/251,271を参照)に記載された部分的な精製に使用される材料とは実質的に異なるため、新規酵素用の新たな精製戦略を開発した。見かけ上、均一となるまで精製するために、以下の段階を使用した:実施例1に記載された手順で1 Lの発酵槽で行われた800 mlの培養物に由来する細胞ブロス上清(450 ml)を対象に、20,000 rpm、4℃で30分間の高速遠心分離を行った。上清を、40 mM NaPO4、10 mM NaCl(pH 6.8)で事前に平衡化した15 mlのCEXカラム(Macro-Prep High S support, BioRad, Cat. #156-0031)にアプライし、ならびに、それぞれ40 mlの平衡緩衝液および40 mM PO4、10 mM NaCl(pH 7.3)で洗浄した。α-ガラクトシダーゼ活性を含むフロースルーおよび2種類の洗浄液をプールし(図4、パネルA)、ならびに40 mM NaPO4、10 mM NaCl(pH 6.8)で事前に平衡化した2.5 mLのDEAE(DEAE Sepharose, Sigma, Cat. #DEF100)の第2のカラムにアプライした。次にカラムを、50 mlの平衡緩衝液で洗浄した。α-ガラクトシダーゼ活性を含む計600 mlをフロースルーおよび洗浄液から回収した(図4、パネルB)。これらをプールし、Centricon Plus 80 Centrifugalフィルター装置(Millipore Cat. #UFC5LGC02)で濃縮し、および同装置内で緩衝液を10 mM NaPO4(pH 7.0)に、最終容量が23 mLとなるように交換した。
【0060】
緩衝液を交換した23 mlの試料を、10 mM NaPO4(pH 7.0)で事前に平衡化した2.5 mlのヒドロキシアパタイトカラム(BioRad, Cat. #103-0150)にアプライした。このカラムを、5 mlの平衡緩衝液で洗浄し、およびα-ガラクトシダーゼ活性を、20〜100 mM(pH 7.0)のNaPO4の勾配緩衝液(10 mM/段階)で段階的に溶出した。α-ガラクトシダーゼ活性は、30〜50 mM NaPO4のフラクションに溶出された(図5)。活性フラクションをプールし、およびH2Oで1:1に希釈し、ならびに10 mM Tris(pH 7.5)で事前に平衡化した2.5 mlのCibacron Blueカラム(Sigma, Cat. # C-1285)にアプライした。カラムを、10 mlの10 mM Tris(pH 7.5)、および5 mlの10 mM Tris、80 mM NaCl(pH 7.5)で洗浄した。α-ガラクトシダーゼ活性を、塩量を増やしながら、10 mM Tris(pH 7.5)を含む25 mlの溶出用緩衝液で溶出した(図6)。酵素溶出液を濃縮し、および緩衝液を、Centricon YM 10遠心分離フィルター装置(Millipore Cat. #4205)を使用して、40 mM Tris、10 mM NaCl(pH 8.5)に、最終容量が3.7 mLとなるように交換した。そして最後に、緩衝液を交換した溶出液を、40 mM Tris、10 mM NaCl(pH 8.5)で事前に平衡化した1 mlのAEXカラム(BioRad, Cat. #156-0031)にアプライした。カラムを5 mlの平衡緩衝液で洗浄し、およびα-ガラクトシダーゼ活性をNaCl勾配(溶媒は40 mM Tris)で溶出した(図7)。
【0061】
AEXカラムの溶出フラクションの解析をSDS-NuPAGEで行い、および見かけの分子量が70 kDである1本のバンドが銀染色(SilverQuest, Invitrogen, Cat. #LC6070)後に観察された(図8)。単離されたα-ガラクトシダーゼのさらなる検証は、ゲル濾過クロマトグラフィーで行った。S12カラム(Superose 12(商標), Amersham, Cat. #17-5173-01)を平衡化し、150 mM酢酸アンモニウムとともに流した。上述の部分的に精製されたα-ガラクトシダーゼをアプライし(容量250μl)、および45のフラクション(1 mL/分の流速で0.5 ml/フラクション)を回収した(図9)。フラクション#19〜21は、主要なタンパク質ピーク(uv 280 nm)を含んでいた。フラクション19〜22を、B-tetra AMCによって、α-ガラクトシダーゼに関して解析し、ならびに各10μlを、10 ngおよび20 ngのNEB A-zymeを対照として使用した、4〜12%の勾配を設けたSDS-NuPAGEで解析した(レーン2および3)。図9からわかるように、ピークのα-ガラクトシダーゼ活性は、SDS-PAGEによる70 kDのバンドと十分に相関する。
【0062】
実施例3:ストレプトマイセス・グリセオプラヌス株#2357から精製したα-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列の決定
NuPAGEによって推定された、約1μgのα-ガラクトシダーゼタンパク質を、実施例2に記載された手順で調製した。タンパク質を4〜12%のNuPAGEで分離し、およびColloidal Blue染色キット(Invitrogen, Cat. #LC6025)で染色した。ゲルをH2Oで脱色後、染色された70 KDのバンドを切り出して、HPLCグレードのH2Oおよび50%アセトニトリル(溶媒はH2O)で洗浄した。切片化したゲルを対象に、ハーバード大学のHarvard Microchemistry Facilityで直接、配列解析が行われた。簡単に説明すると、ゲルの切片をDTTで還元し、およびヨードアセトアミドでアルキル化した後に、25 mM炭酸水素アンモニウム緩衝液中でトリプシン処理した。トリプシン消化物を、Finnigan LCQ DECA XP Plus四極子イオントラップ質量分析計で、ミクロキャピラリー逆相HPLCナノ-エレクトロスプレータンデム質量分析(μLC/MS/MS)で解析した。ペプチドの予備的な配列決定を、アルゴリズムSEQUESTとのデータベース相関によって速めた。次にMS/MSペプチド配列を、既知タンパク質とのコンセンサスに関して検討し、および結果の正確さを手計算で確認した。NCBI nrデータベースまたはestデータベース上の配列に、このデータと相関するものは見あたらなかった。
【0063】
配列決定情報を得るための、切断されなかったタンパク質のN末端配列を得る、いくつかの試みは失敗に終わっていることから、N末端がブロックされていることがわかる。内部配列に関する情報を得るために、約5μgの所望のタンパク質を含む、NuPAGEゲル切片のトリプシン消化物由来のペプチドを、0.3x150 mmのC18カラムによるHPLCで分画化した。ダイオードアレイ検出器を使用して、205 nm(アミド結合用)、277 nmおよび292 nm(芳香族アミノ酸であるTrpおよびTyr用)の3波長でモニタリングを行った。最高のピーク/フラクションのいくつかを対象に、MALDIによるスクリーニングを行って、エドマン配列決定用のピークを選択した。NCBI nrデータベースに対する、「search for short, nearly exact matches」を用いたBlastデータベース検索では、得られたペプチド配列と同一の配列は同定されなかった。しかしながら、得られた最長のペプチド配列であり、およびMS/MSによって確認されたSEQ ID NO: 12に示す30アミノ酸のペプチド配列を使用した検索では、得られたグリセオプラヌスのペプチド配列であるSEQ ID NO: 12に対する弱い配列類似性を示す、ストレプトマイセス・アベルミティリスのゲノム配列(GenBank access #BAC74979.1, GI:29610934)から推定される候補推定タンパク質(SEQ ID NO: 2)が同定された(図10)。
【0064】
ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのゲノムは得られておらず、および関連配列は、データベース検索で同定されなかった。注目すべきことに、この配列は、発明者らによる過去の開示(および本明細書のSEQ ID NO: 1)に記載されたα-ガラクトシダーゼと共通性がない。ストレプトマイセス・アベルミティリスおよびストレプトマイセス・グリセオプラヌスは極めて近縁である。したがって発明者らは、ストレプトマイセス・アベルミティリスも、新規α-ガラクトシダーゼを含むか否かを検証した。というのは、従来のα-ガラクトシダーゼは、検討されたストレプトマイセスのいくつかの分離株のなかで、極めてまれなことが報告されているからである(U.S.S.N. 10/251,271を参照)。
【0065】
ストレプトマイセス・アベルミティリス(ATCC 31267)をYM培地で培養し、および培養上清を対象に、分泌型のα-ガラクトシダーゼに関するアッセイを、AMC標識B型四糖および単糖α-Gal pNPを基質として使用して行った。図11に示すように、培養上清とペレットライセートの両方にα-ガラクトシダーゼ活性が存在することの明瞭な証拠が、B-tetraオリゴ糖による解析で明らかとなった。しかしながら、分泌型α-ガラクトシダーゼ活性による、単純な基質α-Gal pNPの切断は無視できる。これとは対照的に、細胞型α-ガラクトシダーゼでは、α-Gal pNPの完全な切断が観察された。
【0066】
同定された推定タンパク質は625アミノ酸(SEQ ID NO: 2)からなり、および任意の他の既知タンパク質に対する有意な同一性は認められなかった。同定されたタンパク質配列によるBack検索では、もっぱら原核ゲノムに由来する、配列類似性の低い、極めて少数のタンパク質配列が同定された。同定された全配列について、図12に示すように多重配列解析による解析を行った。
【0067】
実施例4:ストレプトマイセス・アベルミティリスに由来する、同定されたα-ガラクトシダーゼ遺伝子の組換え的発現および解析
625アミノ酸(全長)の推定タンパク質(SEQ ID NO: 2)をコードする、長さが1878塩基対の、同定されたストレプトマイセス・アベルミティリスの遺伝子の推定全コード配列を、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で、プライマー対
を使用して増幅し、NcoI/HindIII制限酵素(プライマー中の制限酵素切断部位を下線で示す)で切断し、および細菌発現ベクターpPET28(Novagen, Cat. No. 70777-3)のNcoI/HindIII部位にクローニングして、pZQ-B002aコンストラクトを得た。この遺伝子が内部の1490位にNcoI切断部位を有するという事実をふまえて、完全長の遺伝子コンストラクトの挿入を、2段階のクローニング手順で行った。発現コンストラクトの全配列を決定して確認した。作製された完全長の発現コンストラクトpZQ-B002aで大腸菌株Rosetta(BL21-DE3)pLysS(Novagen Cat. No.70956-3)を形質転換し、ならびにLB-寒天プレート上に、クロラムフェニコール(34μg/ml)およびカナマイシン(50μg/ml)の存在下でプレーティングした。
【0068】
タンパク質発現の最初の解析では、可溶性タンパク質の形成に好ましい条件である、低濃度の誘導物質(0.1 mM IPTG)による、一般的な37℃ではなく26℃で誘導を行った。誘導された細胞ペレットを、界面活性剤ベースの化学的な方法で溶解し、および全ライセートのアッセイを、明瞭でない新規B-zyme活性に関する標準的な条件で直接行った。図13に示すように、1時間だけ誘導された培養物から得られた粗ライセートを使用時のH型三糖の形成からわかるように、AMC標識血液型B型四糖基質の切断は容易に検出可能であった。この結果は、ストレプトマイセス・アベルミティリス由来のタンパク質(SEQ ID NO: 2)が実際に、このファミリーのタンパク質他の成員と共有する特徴的な活性である新規ガラクトシダーゼであることを明瞭に示している。図14で、SEQ ID NO: 2が、大腸菌では効率的に発現可能であるが、封入体中に回収されることが確認されている。したがって、変性、封入体からの酵素抽出、および再折りたたみが、このポリペプチドを大腸菌で産生させるために第一に必要である。
【0069】
実施例5:常用のタイピングプロトコルによって評価される、発現されたα-ガラクトシダーゼを使用したB型赤血球のO型表現型の細胞への酵素的変換
変換プロトコル1:酵素による変換反応を、図に示すように、30%の濃厚赤血球(pRBC)および酵素と、200 mMグリシン, pH 6.8、および3 mM NaClを含む1 mlの反応混合物中で行った。新鮮な全血を、Oklahoma Blood Institute(Oklahoma City, OK)から入手し、バフィーコートを除去した。RBCを、1:1および1:4(vol/vol)で変換用緩衝液で洗浄後に酵素を添加し、ならびに反応物を26℃でゆるやかに混合しながら60分間インキュベートし、続いて1:4(vol/vol)の生理食塩水で1,000 rpmの遠心分離による4回の洗浄サイクルを繰返し行った。洗浄後の酵素処理B-ECO RBCを対象に、さまざまな市販のモノクローナル抗体試薬((Immucor Gamma Anti-B(Gamma Biologicals/Immucor, Norcross, Ga.);Ortho Anti-B(Ortho Clinical Diagnostics, Raritan, N.J.);およびDiagast Anti-B)(Diagast Laboratories, France)を使用する標準的な血液バンキング法でABO式血液型を決定した。
【0070】
変換プロトコル2:B型赤血球(Beth Israel Deaconess Medical Center, Boston, MA)をEDTAチューブに採取し、および4℃で最長7日間保存し、ならびにPBS(リン酸緩衝食塩水、pH 7.4)で3回洗浄し、および10%になるようにPBSおよび7.5% PEG(pH 7.4)の溶液で再懸濁する。細胞を、組換え型α-ガラクトシダーゼ(10〜500 U/ml)で30℃で180分間、振盪しながら処理する。細胞を0.9%生理食塩水で3回洗浄し、およびタイピング用に、3〜5%となるように生理食塩水で再懸濁する。
【0071】
変換プロトコル3:B型赤血球(Beth Israel Deaconess Medical Center, Boston, MA)をEDTAチューブ中に採取し、および白血球を除去したB型赤血球(American Red Cross, New England Region, Dedham, MA)をGlycerolyte 57(Baxter Healthcare Corporation, Fenwal Division: Deerfield, IL)中で、AABB Technical Manual、第13版、Method 6.6に従って凍結し、および-70℃で保存する。酵素処理前に細胞を、9.0%生理食塩水、2.5%生理食塩水、および0.9%生理食塩水を使用して、グリセリンを除去し(American Red CrossのImmunohematology MethodsのMethod 125を参照)、次にヘマトクリット値が50%となるように、PBSおよび7.5% PEG(pH 7.4)の溶液に再懸濁し、ならびに組換え型α-ガラクトシダーゼ(200 U/ml)を添加する。反応物を37℃で振盪しながら4時間インキュベートした後に、0.9%生理食塩水で3回洗浄し、および最後に生理食塩水で3〜5%に懸濁してタイピングを行う。
【0072】
変換プロトコル4:細胞の起源および保存は、プロトコルBに記載されたものと同じである。グリセリンが除去された赤血球を、150 mM NaClを含むPCI(pH 7.4)で2回洗浄し、ヘマトクリット値が50%となるように、150 mM NaClを含むPCI(pH 7.4)で再懸濁する。細胞を、組換え型α-ガラクトシダーゼ(200 U/ml)で、37℃で振盪しながら4時間処理した後に0.9%生理食塩水で3回洗浄し、および最後に生理食塩水で3〜5%に懸濁してタイピングを行う。
【0073】
赤血球凝集アッセイに使用される承認済みのタイピング試薬は、Ortho Clinical Diagnostics, Raritan, NJ.;Gamma Biologicals/lmmucor, Norcross, Gaから入手可能なマウスモノクローナル抗体および植物レクチンである。FDA非承認の試薬は、H. Clausen (Clausen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(4): 1199-203, 1985、Clausen et al., J Biol Chem. 261(3): 1380-7, 1986、Clausen et al., Biochemistry 25(22): 7075-85, 1986、Clausen et al., J Biol Chem. 262(29): 14228-34, 1987)が作製したB型異型に対するマウスモノクローナル抗B型抗体を含む。タイピング試薬は、製造業者の推奨に従って使用し、および他のモノクローナル抗体は滴定によって決定される。
【0074】
赤血球凝集アッセイ(室温)
等張性の血液バンク生理食塩水を溶媒とする、洗浄済みの赤血球の3〜5%の懸濁物を調製する。1滴(約50μl)の抗B型抗体試薬を添加する。1滴(約50μl)の赤血球懸濁物を添加する。チューブを混合し、および3500 rpmで15秒間、遠心分離する。細胞を、緩やかに攪拌しながら再懸濁し、および凝集の程度を肉眼で調べた。凝集の程度を、AABB Technical Manual、第13版のMethod 1.8に従って決定する。
【0075】
上記の例に記載されているように、赤血球から血液型B型エピトープを除去するのに使用するのに好ましい酵素は、血液型B型抗原と似た、オリゴ糖基質に関する特に良好な動態学的特性を有する可能性が高い。このような好ましい動態学的特性は、血液型B型オリゴ糖に対する好ましいか、または排他的な基質特異性の場合があり、および単糖-pNP基質などの単純な単糖誘導体に対する活性は低いか、または活性がない場合がある。好ましい動態学的特性は、関連基質に対する特に低いKmによっても表される場合もある。さらに好ましい動態学的特性は、関連する血液型反応基質との反応に対する中性の至適pH、ならびに赤血球の完全性および機能と適合する他の反応条件からなる。サイズ、電荷、溶解性、および他の物理化学的特性などの、酵素の他の好ましい特性は、赤血球による酵素的変換に関する機能と関連する可能性もある。動態学的特性が改善された新規α-ガラクトシダーゼは、文献に記載されているように、さまざまな細菌株から同定されており、および赤血球の変換に優れた機能を示す上記の好ましい特徴を有する酵素を提供する。
【0076】
(表3A)FragAまたはFragBの組換え型α-ガラクトシダーゼによって変換されたヒト赤血球の凝集結果
【0077】
実施例6:ストレプトマイセス・グリセオプラヌス株#2357に由来するα-ガラクトシダーゼのクローニングおよびDNA配列決定、ならびにそのアミノ酸配列の推定
S.グリセオプラヌス2357に由来する内因性のα-ガラクトシダーゼの単離および精製は、実施例2に記載されている。30アミノ酸のペプチドを生じた、精製済みのα-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列の部分的な決定については、実施例3に記載されている。このペプチドを使用した、「nr」データベース(GenBank)に対するBlast検索によって、推定α-ガラクトシダーゼのファミリーが同定された。5α-ガラクトシダーゼの配列を、EMBL/GenBank/DDBJデータベースに寄託して以下のアクセッション番号が割り当てられた:AM109953(ストレプトマイセス・アベルミティリス)、AM109954およびAM109955(バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis))、AM109956およびAM109957(バクテロイデス・テタオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron))。推定α-ガラクトシダーゼの多重配列アラインメントによって、少数の保存された領域が同定された(図15)。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスに由来する推定α-ガラクトシダーゼをコードするオープンリーディングフレームを、ゲノム末端の5'および3'を対象とした速やかな増幅(RAGE)を元にクローニングした。最初の縮重プライマーは、推定α-ガラクトシダーゼ配列の多重配列アラインメントで決定された保存領域を元にした。縮重性のセンスおよびアンチセンスのプライマー
(X=イノシン、およびK=GまたはT)を使用して、ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのゲノムDNAから、1つの185 bpのBZyme特異的なDNA断片をPCR増幅した。PCR産物をpCR4ベクター(Invitrogen)にクローニングし、および配列を決定してpCR4-dAVER7/9を得た。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼに特異的なプライマーGRIS10
およびGRIS11
はpCR4-dAVER7/9に由来する。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのゲノムDNAをエンドヌクレアーゼで処理して、制限エンドヌクレアーゼHaeIIによって完了し、0.8%アガロースゲル電気泳動によってサイズに従って分画化し、および2〜3 kbpの分画化されたDNAを、Qiagel精製(Qiagen)によって精製した。精製後のDNAを、T7結合部位(下線部)、およびHaeII制限酵素オーバーハング(斜体字で表示)をコードする2本鎖HaeIIアダプターEBRETTE3
に連結した。アダプター結合DNAを、10 ngのアダプター結合DNAであるT7/GRIS11を使用した5'RAGE、または10 ngのT7/GRIS10を使用した3'RAGEに使用した。生じた5'RAGE産物および3'RAGE産物をpCR4にクローニングして、5'-T7/GRIS11-pCR4および3'-T7/GRIS10-pCR4を得て、全配列を決定した。重複する5'-T7/GRIS11-pCR4および3'-T7/GRIST10-pCR4の配列は、BZymeの遺伝子配列を完全に含む1593 bpである。残りの5'および3'の配列は、分画化されたBamHI切断済みのストレプトマイセス・グリセオプラヌスのゲノムDNAである、連結されたBamHIアダプターEBRETTE3/6
を対象としたRAGEを繰り返すことで得られた(BamHIオーバーハングを斜体字で示す)。完全な5'配列を、10 ngのアダプター結合DNAおよびT7/GRIS22
を使用して得た。また3'配列を、T7/GRIS24
を使用して得た。生じた5'RAGE生成物および3'RAGE生成物をpCR4にクローニングし、5'-T7/GRIS22-pCR4および3'-T7/GRIS24-pCR4を得て、全配列を決定した。5'-T7/GRIS22-pCR4は、推定開始メチオニンを含んでおり、および3'-T7/GRIS24-pCR4は、727アミノ酸のα-ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 25)をコードするストレプトマイセス・グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼ遺伝子(SEQ ID NO: 24)の完全な2184 bpのコード配列を完成する、終止コドンを同じフレームで含んでいた。この配列をGenBankに寄託した(アクセッション番号AM259273)。プライマーが由来する、α-ガラクトシダーゼのタンパク質配列の領域を図16に示す。
【0078】
実施例7:バクテロイデス・フラジリスに由来する同定されたα-ガラクトシダーゼ遺伝子の組換え的発現および解析
FragB α-ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 6)の発現コンストラクトを、細菌のゲノムDNAからPCRでクローニングした。推定アミノ末端シグナルペプチド1〜24をコードする領域を欠くFragB α-ガラクトシダーゼ遺伝子を、バクテロイデス・フラジリスのゲノムDNA(ATCC 25285D)から、プライマーBFRAGB2
を使用したPCRで抜き出し、およびPfu Ultraポリメラーゼ(Stratagene)を使用して増幅した。上記プライマー中におけるBamHIおよびHindIIIの制限酵素オーバーハングに下線を付す。BamHIおよびHindIIIによる切断後に、増幅されたポリヌクレオチド産物を、細菌発現ベクターpET28(Novagen)に、同じフレームで、6xHisタグをコードするプラスミドの下流に挿入してプラスミドpZQ-B006aを得た。非タグ発現ベクターの構築に関しては、pET28ベクター中の6xHisタグをNcoI/BamHIで切断して除去した後に、2本鎖オリゴであるPETNCBAF
を挿入し、プラスミドpET28-δHisを得た。Hisタグタンパク質をコードする上記のFragBコンストラクトを、pET28-δHisのBamHI/HindIII部位にサブクローニングし、非タグFragB α-ガラクトシダーゼ発現用のプラスミドpZQ-B006cを得た。全てのコンストラクトの全配列を、377 ABI Prism装置(Applied Biosystems)で決定した。タンパク質の発現に関しては、pZQ-B006cで大腸菌Rosetta2(DE3)(Invitrogen)を形質転換した。大腸菌クローンは、34μg/mLのクロラムフェニコールおよび50μg/mLのカナマイシンを添加した1X Terrific Broth(Sigma)で37℃、220 rpmで、OD600が約0.6となるまで成長させ、ならびにIPTGを0.5 mMとなるように添加して、標的タンパク質の発現を誘導した。3時間後に、3000 xgで30分間、遠心分離して培養物を回収した。細胞ペレットを-20℃で保存した。350 mlの培養物から回収した細胞ペレットを、25 mM NaOAc, pH 5.5/10 mM NaClを溶媒とする1X BugBuster(Invitrogen)を使用して溶解し、5μLのベンゾナーゼ(Benzonase)(Invitrogen)を添加して室温で1時間攪拌した。全ライセートを40,000 x gで5℃で30分間、遠心分離して清澄化した。90%以上の酵素活性を含む細胞デブリを、10 mM NaPO4, pH 6.8/400 mM NaClに再懸濁して室温で30分間、攪拌した。高速遠心分離を繰り返し、酵素活性を含む上清を回収した。結果として得られた上清を、10 mM NaPO4, pH 7.0で事前に平衡化した5 mlのヒドロキシアパタイトカラムにロードした。カラムを20 mlの平衡用緩衝液で洗浄後に、10〜400 mMのNaPO4勾配、pH 7.0を使用して溶出した。200〜400 mMのNaPO4, pH 7.0に溶出された酵素活性をプールし、濃縮し、および緩衝液を、Amicon(Grace)遠心分離装置Plus 70内で、10 mlの40 mM Tris、400 mM NaCl/pH 7.5と交換した。タンパク質溶液を、透析用緩衝液で事前に平衡化した5 mlのPhenyl Sepharose High Performanceカラム(Amersham)を通過させ、およびローディング後にカラムを、10 mLの透析用緩衝液で洗浄した。フロースルーおよび洗浄液をプールし、1 M TrisでpH 8.5に調整し、等量のH2Oで希釈した。結果として得られたタンパク質溶液を対象に、別のカラムを通過させる段階を、40 mM Tris, pH 8.5/10 mM NaClで事前に平衡化した2.3 mLのMacro-Prep High Qで行い、およびカラムを、10 mLの平衡用緩衝液で洗浄した。フロースルーおよび洗浄液をプールし、ならびに緩衝液を、7 mlの10 mM NaPO4, pH 6.8/50 mM NaClに交換した。タンパク質濃度を、PierceのBCA Protein Assayキットで決定した。
【0079】
精製されたFragB α-ガラクトシダーゼの評価を、標準的な条件(1 nmoleの基質を10μLの100 mM NaPO4, pH 6.8/50 mM NaCl中で)における分岐状の糖鎖基質B-tetraの切断能力を元に行ったところ、精製された酵素は、B-tetra基質に対して極めて高い比活性(約5〜10 U/mg)を有することがわかった。精製されたFragB α-ガラクトシダーゼの至適pHをB-tetra-AMC基質によって、2.0〜9.0のpH範囲で評価し、得られた結果を図17に示す。FragB酵素は、4.5〜7.5に広い最適なpH範囲を有する。より高い感度/定量的な比色アッセイによる解析では、図18に示す結論と類似の結論が得られているが、酵素の活性は、検討pH範囲の低い方で見られ、すなわち活性は約4.2以下のpHで観察された。これは、TLCベースのAMC-B-tetraアッセイで検出不能な活性とは、わずかに異なる。したがって、この新規酵素は、酸性条件〜中性条件で、およびさらには、やや塩基性の条件、すなわち約4〜約7.4またはこれ以上のpHで良好に使用可能である。現在の好ましい態様では、同酵素は、約6.0〜約7.5のpH範囲で、およびより好ましくは約6.5〜約7.5のpH範囲で使用されている。新規酵素に関する現在の最も好ましいpH範囲は、血液細胞そのものに対するpHの作用を最小限に抑えるために、またpHが酵素の活性および機能を制限しないことから、循環性の動脈血または静脈血の生理学的pHと類似の条件である。
【0080】
FragA α-ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 5)を、FragB α-ガラクトシダーゼの場合と同様に、同じゲノムDNAからPCRでクローニングし、およびRosetta(DE3)pLysS(Novagen)中で、N末端にHis6タグを有するタンパク質の場合と同様に発現させた。発現された可溶性タンパク質を、連続的な固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、陽イオン交換クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーによって、均一になるまで精製した。精製タンパク質は、分岐状基質に対する比活性、基質特異性、および至適pHに関して、S.グリセオプラヌス(株2357)の内因性のα-ガラクトシダーゼと似ていることが判明した。2〜9のpH範囲における血液型B型四糖-AMC基質との活性の解析の結果、酵素が5〜7.5の広い至適pHを有することが判明した。FragA α-ガラクトシダーゼの基質特異性は、オリゴ糖構造のさまざまなパネルを使用して決定し、および分岐状の血液型B型構造中のα1-3結合ガラクトースに対して顕著に頑健な特異性が検出された(図20)。同酵素は、P1血液型抗原およびPk血液型抗原に見出されるα4Gal結合を切断せず、またフコースの非存在下では、直鎖状B型構造中のα3Gal結合も切断しなかった。
【0081】
実施例8:バクテロイデス・フラジリスのα-ガラクトシダーゼは、直鎖状B型オリゴ糖を中性pHで効率的に切断する
組換え型の精製されたFragB α-ガラクトシダーゼの基質特異性をさらに解析した結果、驚くべきことに、この酵素は、(S.グリセオプラヌスに由来する初期の精製されたα-ガラクトシダーゼとは対照的に)、Galα-pNP基質に低い活性を示すことがわかった(100 mM NaPO4, pH 6.8/50 mM NaClの緩衝液系の使用時に約1.6 U/ml)(表IV)。
【0082】
(表IV)FragB α-ガラクトシダーゼとコーヒー豆α-ガラクトシダーゼの比活性(U/mg)の比較
1本研究。
2Zhu, A., Monahan, C., Zhang, Z., Hurst, R., Leng, L. & Goldstein, J. (1995) Arch Biochem Biophys 324, 65-70による。
3決定せず。
4米国特許出願第20050208655号による。
【0083】
この結果を受けて発明者らは、さまざまなα1-3Gal結合およびα1-4Gal結合を有する基質使用時の基質特異性を検討することにした。図19に示すように、FragBは、血液型B型オリゴ糖構造に加えて、直鎖状のα1-3Gal結合(B-diおよび直鎖状B型)に高い活性を示した。興味深いことに、Galα1-3Gal二糖に対するFragBの活性は極めて高く(pH 6.8で約12 U/mg)、同酵素が、Galili抗原としても知られる直鎖状B型抗原(Galα1-3Galβ1-4GlcNAcβ1-R、Rは任意のオリゴ糖構造)の効率的な切断に適切なことが示唆される(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。Galili抗原は、旧世界ザルおよびヒトを除く大半の動物組織に存在する主要な異種移植障壁抗原である(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。例えばブタの組織および細胞のヒトへの異種移植は、主にヒトにおけるGalili抗原に対する高力価のIgG抗体の存在に起因する超急性拒絶を生じる。現時点では、酸性の至適pHを有するコーヒー豆由来の酵素などの反応性の広いα-ガラクトシダーゼが、細胞および組織からのGalili抗原の切断に使用されている。これは、無視できない問題となる可能性がある。というのは、全ての動物細胞は多量の、例えばgloboseriesのPk糖脂質構造(Galα1-4Galβ1-4Glcβ1-セラミド)を発現するからである。本明細書に記載されたような、より高い効率、特異性、および中性の至適pHを有するα-ガラクトシダーゼ酵素を使用することが、より望ましい。
【0084】
FragB α-ガラクトシダーゼはα1-3Gal結合に特異的であり、ならびに複数のα1-4Gal結合(P1およびPk)の有意な切断は観察されなかった。これは、S.グリセオプラヌスから得られたα-ガラクトシダーゼと類似しているが、コーヒー豆由来の酵素を含む他の任意の既知のα-ガラクトシダーゼとは異なる性質を示している。結果を表Vに要約する。
【0085】
(表V)α-ガラクトシダーゼの基質特異性
1US patent 20050208655 (Ref.)、およびZhu, A., Monahan, C, Zhang, Z., Hurst, R., Leng, L. & Goldstein, J. (1995) Arch Biochem Biophys 324, 65-70による。
2本研究。
3該当なし。
4アッセイの条件で容易に検出可能な活性。
5アッセイの条件で容易に検出可能でない活性。
【0086】
FragB α-ガラクトシダーゼが、直鎖状B型(Galiliエピトープ)の切断に関して効率の高い新規酵素である可能性があるという意外な知見を受けて、発明者らは、同酵素の、このようなエピトープの細胞表面からの除去に関する適合性および有効性に関する検討を行うことにした。ウサギの赤血球は、ヒト赤血球に類似の糖脂質および糖タンパク質のオリゴ糖鎖を含むが、ヒト赤血球中のオリゴ糖鎖の末端は、血液型に依存してABH構造であり、ウサギ赤血球のオリゴ糖の末端は、直鎖状B型(Galiliエピトープ)構造(Galβ1-3Galβ1-4GlcNAc)である。レクチンBandeeira(Griffonia) simplicifolia IB4は一般に、直鎖状B型(Galiliエピトープ)構造を検出するために使用されており(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)、および表VIに示されるように、このレクチンは、ウサギの赤血球を強く凝集するが、ヒトの赤血球を凝集しない。
【0087】
(表VI)IB4レクチンおよび常用モノクローナルAnti-Bタイピング試薬によるヒトおよびウサギの赤血球の凝集
【0088】
したがって、ウサギの赤血球は、直鎖状B型(Galiliエピトープ)構造の細胞表面からの免疫優性のα1-3Gal残基の除去におけるα-ガラクトシダーゼの効率を解析するための優れたモデルとなる。発明者らは過去に、精製済みのC.メニンゴセプティカム(meningosepticum)のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ酵素を、グリシンpH 6.8緩衝液系を任意に使用して使用した、血液細胞からの免疫優性のA型抗原の除去に有効な変換過程を開発しているので、発明者らは、ヒト血液型B型の赤血球との比較に、FragBによるウサギ赤血球の切断に関する同じ条件を検討した。表VIIに示すように、FragBは効率的に、ウサギ赤血球のIB4レクチン凝集を、FragBによる血液型B型のヒト赤血球からの切断における必要量にほぼ匹敵する、極めて低用量で除去する。IB4レクチンによるウサギ赤血球の凝集は、10g/mlの酵素用量で酵素処理することで、ほぼ完全に消失し、極めてわずかな読み値(M+)のみを生じた。より高い濃度の酵素、またはより長いインキュベーションによって、反応性は完全に消失する。しかしながら、相同遺伝子であるFragAは、血液型Bをヒト赤血球から切断するだけである。
【0089】
(表VII)FragAグリカン修飾酵素またはFragBグリカン修飾酵素によって消化されたヒトおよびウサギの赤血球の凝集の結果
【0090】
この結果から、本明細書に新規のα-ガラクトシダーゼ遺伝子ファミリーの一部であると記載された、精製済みのFragBポリペプチドのイソ型が、ストレプトマイセスで観察される関連遺伝子を含む、同ファミリーの他の複数の成員とは異なる、固有の基質特異性を有することがわかる。さらに、記載されたFragBポリペプチドは、赤血球からの免疫優性の血液型B型抗原の酵素的除去に、ならびに血液細胞からの異種移植Galili抗原の除去に適している。したがって、精製済みのFragBポリペプチドは、その至適pH(最も好ましくはpH 6.5〜pH 7.5)、Galα1-3結合に対するその限定的な基質特異性、およびその観察される高い比活性に関して、他の従来の既知酵素より優れている。
【0091】
Galili抗原の免疫優性のα1-3結合末端ガラクトースの酵素的除去は、異種移植の領域における重要な応用である。Galili抗原は、動物からヒトへの器官、組織、腱、靱帯、および細胞の異種移植に極めて重要な障壁であり、ならびに超急性拒絶反応の主要因である(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。正常な健康な個人の血清IgGの約10%は、Galili抗原に対する抗体である。末端ガラクトース残基の酵素的除去によって、超急性拒絶を抑制する可能性のある、ヒトに存在する共通の構造が曝露される(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。
【0092】
細胞が洗浄され、および適切な緩衝液中で中性pHで一定の時間、FragB α-ガラクトシダーゼとともにインキュベートされる、ウサギ細胞上のGalili抗原の酵素的除去に関して、記載された過程によって、Galiliエピトープが効率的に除去される(表VII)。動物の器官、組織、腱、靱帯、および細胞に応用される類似の過程によって、曝露されたGalili抗原が効率的に除去される。
【0093】
好ましい過程は、動物の組織または細胞に、FragB α-ガラクトシダーゼ(または類似の酵素活性を有する遺伝子ファミリーの相同な成員)を、生理食塩水、グリシンなどの適切な緩衝液中で、または本明細書に記載された他の類似の緩衝液系中で、5.5〜8.0の中性pHで、およびより好ましくは6.5〜7.5のpHで接触させる段階を含む。免疫優性のα1-3結合末端ガラクトースの酵素的除去に必要とされる酵素の用量および時間は一般に、血液細胞に関して上述した切断パラメータに従うが、IB4レクチンなどの適切なレクチン、またはGaliliエピトープと反応する適切なモノクローナル抗体を使用する、免疫細胞学的手法、免疫組織学的手法、およびELISAなどの、レクチンおよび抗体ベースの免疫アッセイで決定されるように、実験的に評価される(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。反応終了後は、酵素によって修飾された動物の器官、組織、腱、靱帯、または細胞を、適切な緩衝液(生理食塩水など)で洗浄して、酵素溶液を除去する。動物の組織または細胞は、免疫優性のGalili抗原を含まないので、現在は、移植を必要とするヒト対象への適切な異種移植片として使用可能である。この例は、ヒト患者の断裂した前十字靭帯の再生に使用される、抗原的に修飾されたブタの靱帯である。これについては例えば、米国特許第6,402,783号を参照されたい。
【0094】
処理に先立ち、異種移植片の外表面に任意で穴を開けることで、異種移植片を実質的に非免疫原性とするために使用される薬剤の透過性を高めることができる。18ゲージのニードルなどの滅菌済みの外科用ニードルを使用して、この穿孔段階を実施することができるほか、複数の針を含む、くし型の装置を使用することができる。穿孔は、異種移植片の内部への望ましいアクセスを確立するために、さまざまなパターンで、およびさまざまな穴の間隔を設けて実施できる。穿孔は、レーザーを使用して実施することもできる。本発明の1つの態様では、1個、もしくは約3 mm離れた直線状に並んだ複数の穴が、異種移植片の外表面の周囲に開けられる。
【0095】
埋め込みに先だって、本発明の靱帯の異種移植片を、組織の柔軟性を高めるために、フィシンやトリプシンなどのタンパク質分解酵素で限定的に消化して処理するか、または抗石灰化剤、抗血栓コーティング剤、抗生物質、成長因子、もしくはレシピエントの膝関節への異種移植片の取り込みを促進する可能性のある他の薬剤でコーティングすることができる。本発明の靱帯の異種移植片をさらに既知の方法で、例えばグルタルアルデヒドまたはホルムアルデヒドによる追加的な処理、酸化エチレンによる滅菌、酸化プロピレンによる滅菌などで無菌化することができる。異種移植片は、使用時まで凍結保存が可能である。
【0096】
当業者であれば、本発明の靱帯の異種移植片、またはこの断片を、損なわれたヒト膝関節に、関節鏡を使用する既知の外科的手法で埋め込むことができる。靱帯移植片の正確かつ再現性のある留置を確実なものとする、関節鏡を使用する手法専用の装置は当業者に既知である。最初に、膝関節を対象とした、診断目的の一通りの関節鏡検査が既知の方法で行われる。ひどく損なわれた靱帯を、手術用シェーバーで除去する。靱帯用の解剖学的な挿入部位を同定し、および骨プラグを収容するための穴をドリルで開ける。骨プラグのサイズは、幅が約9〜10 mm、奥行きが約9〜10 mm、長さが約20〜40 mmとすることができる。異種移植靱帯をドリル穴に通して、締まり嵌めねじで固定する。閉鎖は常用の手順で行われる。
【0097】
したがって、本発明のポリペプチドを使用することで、本明細書に記載された修飾手順による、多種多様な組織タイプからのGalili抗原の除去が可能となり、および当業者によって、提供された内容を考慮して、特定の組織にも応用される。このように修飾された組織は、以下に記載されるような、非免疫原性の異種移植が必要な、さまざまな移植手順に使用される:例えば、実質的に非免疫原性の注射可能なコラーゲンの作製(米国特許第7,064,187号を参照);骨の異種移植片の作製(米国特許第6,972,041号を参照);軟部組織およびプロテオグリカン低減軟部組織の異種移植片の作製(米国特許第6,758,865号および第6,455,309号を参照);異種移植心臓弁の作製(米国特許第6,383,732号を参照);ならびに半月板の異種移植片の作製(米国特許第6,093,204号および第5,984,858号を参照)。
【0098】
他の特に好ましい態様では本発明は、組織マトリックス、好ましくはα1,3-ガラクトース欠損組織から作製されたマトリックスを提供する(米国特許第6,933,326号および米国特許出願第20050159822号および第20050028228号を参照)。このような組織マトリックスの作製法および使用法は、上記の特許および特許出願に記載されており、ならびに組織の脱ガラクトシル化は、本明細書に記載された新規のα3ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 2〜9、またはこの活性断片もしくは機能的等価物)を使用することで達成される。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血液製剤および組織上の免疫優性の単糖の除去に使用される、固有の基質特異性、および優れた動態学的特性を示す、α-ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドの新規ファミリーに関する。具体的には本発明は、血液型B型およびAB型に反応性の血液製剤からB型抗原を、ならびに非ヒト動物組織からGalili抗原を酵素的に除去することで、これらを移植に適切な非免疫原性の細胞および組織に変換するために使用される、α3グリコシダーゼの新規ファミリーを提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本明細書で用いる「血液製剤」という表現は、全血、ならびに赤血球(erythrocyte)(赤血球(red blood cell))および血小板を含む血液由来の細胞成分を含む。
【0003】
30種類を越える血液型(blood groupまたはblood type)の系が存在し、その最も重要な1つがABO式である。この系は、A型抗原および/またはB型抗原の有無に基づく。これらの抗原は、赤血球および血小板の表面上に、ならびに内皮細胞および大半の上皮細胞の表面上に存在する。輸血に使用される主な血液製剤は、主な機能が酸素の運搬であるヘモグロビンを含む赤血球(red blood cell)である赤血球(erythrocyte)である。A型の血液は、その赤血球上にA型抗原を含む。同様に、B型の血液は、その赤血球上に抗原Bを含む。AB型の血液は両方の抗原を含み、およびO型の血液は、いずれの抗原とも含まない。
【0004】
血液型の構造は、糖タンパク質または糖脂質であり、ならびに、A型およびB型の決定基、すなわち抗原を構成する特異的な構造を同定するために、多くの研究が行われている。ABH血液グループの特異性は、糖鎖の末端における単糖の性質および結合によって決定される。糖鎖は、細胞の細胞膜に結合する、ペプチドの主鎖(糖タンパク質)、または脂質の主鎖(スフィンゴ糖脂質)に結合されている。A型の特異性を決定する免疫優性の単糖は、末端のα1-3結合N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)であり、一方でB型特異性の対応する単糖は、α1-3結合ガラクトース(Gal)である。O型細胞は、オリゴ糖鎖の末端に、これらの単糖のいずれも欠き、末端はα1-2結合フコース(Fuc)残基で終わっている。
【0005】
極めて多様なABH式血液型の糖鎖構造が、ABH式の免疫優性の糖を有するオリゴ糖鎖の構造的多様性のために発見されている。表1に、ヒトで報告されている構造、およびヒト赤血球上に、または血液抽出物中に見出されている構造を挙げる。総説として、Clausen & Hakomori, Vox Sang 56(1): 1-20, 1989(非特許文献1)を参照されたい。赤血球は、N-結合糖タンパク質およびスフィンゴ糖脂質上にABH抗原を含むが、赤血球の糖タンパク質(主にグリコホリン)上のO-結合グリカンはシアル酸で終わっており、ABH抗原ではないと一般に考えられている。1型の鎖のスフィンゴ糖脂質は、赤血球の内因性の産物ではなく、むしろ血漿から吸収される。
【0006】
(表1)ヒト細胞の組織-血液型ABHの免疫反応性の決定基1
1Clausen and Hakomori, Vox Sang 56(1): 1-20, 1989(非特許文献1)を改変。記号:「?」は、現時点で報告されていない潜在的な糖脂質構造を意味する。
【0007】
血液型A型および血液型B型には、いくつかのサブタイプが存在する。血液型A型のサブタイプは最も多く存在し、および血液型A型には3つの主要なサブタイプが認識されている。これらのサブタイプは、A1、A intermediate(Aint)およびA2として知られている。これらには、3つのサブタイプを区別する量的および質的な差がある。量的には、A1赤血球は、A2赤血球より抗原性の強いA部位を有するAint赤血球より抗原性の強いA部位、すなわち末端のN-アセチルガラクトサミン残基を有する。質的には、A1赤血球は、スフィンゴ糖脂質のサブセット上に2回繰返しA構造(dual repeated A structure)を有し、A2細胞は、糖脂質の類似のサブセット上の内部A構造上にH構造を有する(Clausen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(4): 1199-203, 1985(非特許文献2)、Clausen et al., J. Biol. Chem. 261(3): 1380-7, 1986(非特許文献3))。A1と弱いAのサブタイプ間に見られる、これらの差は、A型抗原の形成に関与する血液型A型のアイソザイム異型の動態学的特性の差と関連すると考えられている(Clausen et al., J. Biol. Chem. 261(3): 1388-92, 1986(非特許文献4))。B型サブタイプとの間に見られる差は、量的な性質だけであると考えられている。
【0008】
A型の血液は、B型抗原に対する抗体を含む。逆にB型の血液は、A型抗原に対する抗体を含む。AB型の血液は、いずれの抗体とも含まず、およびO型の血液は両方の抗体を含む。血液型の抗原を決定する、これらの炭水化物および他の炭水化物に対する抗体は、関連する炭水化物構造を有する微生物に対する連続的な曝露によって誘導されると考えられている。血液が、抗A型抗体または抗B型抗体のいずれか(または両方)を含む個体は、対応する不適合性の抗原を含む輸血を受けられない。万が一、個体が不適合の血液型の輸血を受けると、輸血のレシピエントの抗体は、輸血された不適合血液型の赤血球をコーティングし、および輸血された赤血球を凝集させる(すなわちくっつける)。輸液反応および/または溶血(赤血球の破壊)は、このようにして生じる場合がある。
【0009】
A型血液型抗原およびB型血液型抗原に対する抗体に起因する重度の輸血反応を避けるために、ドナーおよびレシピエントの血液型は、輸血前にタイピング法でマッチされる。例えばA型のレシピエントには、適合する抗原を含むA型血液が安全に輸血可能であるが、レシピエントに有害な免疫応答を引き起こす恐れのあるB型の血液の輸血はできない。O型の血液は、A型抗原もB型抗原も含まないので、任意の血液型の任意のレシピエントに、すなわち血液型がA型、B型、AB型、またはO型のレシピエントに輸血可能である。したがってO型の血液は、「ユニバーサル」な血液であると見なされており、あらゆる輸血に使用可能である。したがって血液バンクにとっては、O型の血液を大量に確保しておくことが望ましい。しかしながら、血液型O型のドナーは不足している。したがって、ユニバーサルな血液製剤を大量に確保するためには、A型、B型、およびAB型の血球上の免疫優性のA抗原およびB抗原を除去することが望ましく、かつ有用である。
【0010】
O型血液の供給を増やすために、A型、B型、およびAB型の血液をO型血液に変換する方法が開発されている。B型とA型の両赤血球の酵素的変換は過去に成功しているが、このような従来の処理には、いくつかの短所があり、特に極めて大量の酵素が必要とされ、および複数のグリカン修飾酵素の特異性は、A型抗原またはB型抗原のみの切断に制限されない。
【0011】
後述するように本発明は、免疫優性抗原を欠く組織および血液製剤の作製に使用可能な、極めて優れた基質特異性、および良好な動態学的特性を有することで、例えば移植用のユニバーサルな(非免疫原性の)血液細胞、さらにはヒトへの異種移植用の動物組織を供給する、有効かつ費用効果に優れた市販の処理法を提供するポリペプチドファミリーを提供する。
【0012】
血液型B型細胞の変換:
精製されたか、または組換え型のコーヒー豆(Coffea canephora)α-ガラクトシダーゼを使用するB型血液の酵素的変換は、100〜200 U/mlを使用することで達成されている(米国特許第4,427,777号(特許文献1);Zhu et al., Arch Biochem Biophys 1996;327(2): 324-9(非特許文献5);Kruskall et al., Transfusion 2000;40(11): 1290-8(非特許文献6))。コーヒー豆α-ガラクトシダーゼの比活性は、p-ニトロフェニルα-D-Galを使用して32 U/mgと報告されている(1単位(U)は1分間に1μmoleの基質を加水分解する量と定義)(Zhu et al., Arch Biochem Biophys 1996;327(2): 324-9(非特許文献5))。酵素的変換は、pH 5.5で、ヘマトクリット値が80〜90%で、約6 mg/mlの酵素を使用して行われ、ならびに結果として得られた、変換O型細胞は輸血実験で正常に機能し、および有意な有害な臨床パラメータは観察されなかった(Kruskall et al., Transfusion 2000;40(11): 1290-8(非特許文献6))。このデータは、初期の報告とともに、酵素による赤血球の変換が可能であること、ならびにこのような酵素によるB型変換O型(B-ECO)細胞が機能可能であり、ならびに輸血医学における非処理細胞とマッチ可能なことを明瞭に示している。それにもかかわらず、これらの試験における変換に必要な酵素量は、組換えによる酵素の産生であっても、ECO細胞の作製法を、主に経済的な理由のために実用的としない。
【0013】
比活性が約200 U/mgの組換え型のダイズ(Glycine max)α-ガラクトシダーゼを使用する、改善されたB細胞変換のプロトコルに関するクレームでは、5〜10単位の酵素/ml血液(ヘマトクリット値は16%)を使用することが報告されている(米国特許第5,606,042号(特許文献2);第5,633,130号(特許文献3);第5,731,426号(特許文献4);第6,184,017号(特許文献5)を参照)。したがって、ダイズα-ガラクトシダーゼは、必要とされる酵素タンパク質の量の有意な低下(50〜200倍)を示す25〜50 μg/mlで使用された(Davis et al., Biochemistry and Molecular Biology International, 39(3): 471-485, 1996(非特許文献7))。この低下は部分的には、ダイズα-ガラクトシダーゼの、より高い比活性(約6倍)によるものであり、ならびに異なる方法が変換および評価に使用されたことによる。Kruskallらによる研究(Transfusion, 40(11): 1290-8, 2000(非特許文献6))で使用された200 U/mlの酵素は、完全な単位(約220 mlの濃厚細胞)が、80〜90%のヘマトクリット値における変換で機能しており、ならびに標準的な血液バンクタイピングによって、ならびに高感度のクロスマッチ解析によって詳しく解析されている。さらに変換の効率は、変換細胞の頻回の輸注を受けた患者における生存率および誘導免疫の解析によって評価された。酵素による変換は、試験管内で、mlスケールで、16%のヘマトクリット値で、ダイズα-ガラクトシダーゼを使用した米国特許第5,606,042号(特許文献2)(および第5,633,130号(特許文献3);第5,731,426号(特許文献4);第6,184,017号(特許文献5))に記載された手順で行われ、および変換効率は、クロスマッチ解析で評価されなかった。16%のヘマトクリット値における細胞の変換には、10 U/mlが必要であり、8%における変換には、5 U/mlが必要であったことから、高いヘマトクリット値における変換には、より多くの酵素が必要であることがわかるが、より高い細胞濃度については検討されていない。したがって、Kruskallらの文献(Transfusion 2000;40(11): 1290-8(非特許文献6))に記載されたプロトコルと比較して、必要とされる酵素タンパク質量の減少の一部は、変換に使用される細胞の濃度(ヘマトクリット値)と関連し、およびこれは5〜10倍を上回る可能性があるが、さらに実験を行うことなしには、直接の比較はできない。米国特許第5,606,042号(特許文献2)(および第5,633,130号(特許文献3);第5,731,426号(特許文献4);第6,184,017号(特許文献5))にはさらに、クエン酸ナトリウムおよびグリシンを弱酸性pH(好ましくはpH 5.8)で使用し、および安定化目的で追加のタンパク質をBSA(ウシ血清アルブミン)の状態で含める変換用緩衝液の改良について記載されている。興味深いことに、ダイズα-ガラクトシダーゼ用に開発された変換用緩衝液は、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼには応用できないことが判明した。B型細胞の変換における、ある程度の改善は、米国特許第5,606,042号(特許文献2)(および第5,633,130号(特許文献3);第5,731,426号(特許文献4);第6,184,017号(特許文献5))から得られる可能性があるが、開示されたプロトコルの使用時は、濃厚なB型赤血球1 mlあたり少なくとも0.5 mgを上回る酵素が必要なことは明らかである。標準的な血液バンクタイピングのプロトコルに使用される極めて高感度のタイピング手順によって、O型細胞に十分に変換された細胞を得るためは、これよりはるかに多くの酵素が必要な可能性が高い。さらに、このプロトコルでは、追加的な外来性タンパク質(BSAまたはヒト血清アルブミン)を導入すること、ならびに血液製剤を、かなり酸性のpHに曝露することが必要である。
【0014】
Bakuninaら(Bakunina et al., Biochemistry (Moscow) 1998, p1420(非特許文献8))は、海洋細菌Pseudoalteromonas属(KMM 701)から新規α-ガラクトシダーゼを同定および単離したと報告している。単離された酵素調製物は、9.8 U/mgの比活性になるように基質pNP-Galを使用して精製され、および見かけの分子量が、ゲル濾過で195 kDとなるように精製された。酵素調製物は、単糖基質pNP-Galを、0.29 mM pNP-Galに対する見かけのKmで効率的に切断し、ならびにメリビオースおよびGalα1-3Galを含む末端α-ガラクトースを含む複数の非分岐状の二糖を切断し、このため血液型B型に対して高い特異性を示さない。したがって同酵素は、直鎖状B型構造、ならびにP1抗原などの、末端にα-Galを有する非分岐状のオリゴ糖を切断する。同酵素は、中性の至適pH(すなわち約6.5〜約7.7の至適pH)を有し、および血液型B型細胞を24時間のインキュベーション反応時間で、O型細胞とタイピングされる細胞に変換すると報告されている。しかしながら、変換手順および酵素消費の詳細については記載されておらず、ならびにライセンスされたタイピング試薬による標準的なタイピング手順によって評価される変換効率は検討されていない。均一とするための精製、酵素のクローニングおよび組換え的な発現は、酵素による赤血球の変換に必要な酵素タンパク質の質および量を提供するために必要となる可能性が高い。
【0015】
発明者らは、血液型B型抗原に対して高い比活性および極めて限定的な基質特異性を有する新規α-ガラクトシダーゼ活性の同定および部分的な解析について開示している(U.S.S.N. 10/251,271(特許文献6))。この酵素活性は、2,400個を上回る細菌および真菌の分離株のスクリーニングによって同定され、ならびに数個の細菌でしか見つかっていない。同酵素は、ストレプトマイセス・グリセオプラヌス(Streptomyces griseoplanus)の株#2357(ATCC deposit No. PTA-4077)の細胞ライセートから部分的に精製されており、および部分的なアミノ酸配列情報が得られている。
【0016】
上記の事実から、この実際的で、かつ商業的に応用可能な手法を作製するためには、B型細胞の変換にさらなる改善が必要なことは明らかである。必要とされる改善は、好ましくは中性pHで、また外来性のタンパク質を添加することなく変換が起こることを可能とする、より効率が高くかつ特異性の高いα-ガラクトシダーゼ酵素を得ることを含む。
【0017】
αGALを切断するグリコシダーゼ活性を決定するためのアッセイ:
エキソ-グリコシダーゼをスクリーニング、同定、および解析する過去の方法は一般に、糖および潜在的な結合に対する特異性を同定するための基質として単純な単糖誘導体を使用することに依存している。誘導体化された単糖、またはまれにはオリゴ糖の基質は、p-ニトロフェニル(pNP)、ベンジル(Bz)、4-メチル-ウンベリフェリル(Umb)および7-アミノ-4-メチル-クマリン(AMC)を含むが、これらに限定されない。このような基質の使用は、グリコシダーゼ活性を同定し、ならびに酵素の多様な供給源の大規模スクリーニングを実際的に応用可能とするための、容易で、迅速で、および安価なツールを提供する。しかしながら、グリコシダーゼ酵素の動態学的特性および優れた基質特異性は必ずしも、このような単純な構造に関するアッセイに反映されていない可能性がある。複合オリゴ糖に対する特異性、および/または選択効率の程度が高く、かつ固有の複合糖質構造の新規酵素が存在する可能性もあるが、このような酵素は、解析法のために見過ごされ、また認識されていない可能性がある。したがって、特定の複合オリゴ糖または複合糖質の構造に対する最適なエキソ-グリコシダーゼを同定して選択するためには、このような複雑な構造を、酵素の供給源のスクリーニングに使用されるアッセイで使用することが好ましい。さらに、スクリーニングに使用される好ましいアッセイは、要求されるpH、および例えば細胞膜に結合する基質に対する機能などの、好ましい動態学的特性に対する選択を含む。
【0018】
過去の研究では、血液細胞のB型抗原およびA型抗原の除去に使用された全てのα-ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)およびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(EC 3.2.1.49)は、主にp-ニトロフェニル単糖誘導体を使用して同定され、解析されている。興味深いことに、過去の研究に使用された、このようなα-ガラクトシダーゼ酵素およびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ酵素の大半は、DNAおよびアミノ酸の配列の有意な類似性によって明らかな、進化的な相同体である。したがって、ヒトのα-ガラクトシダーゼおよびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼは近縁の相同体であり(Wang et al., J Biol Chem, 265: 21859-66, 1990(非特許文献9))、ならびにニワトリ肝臓のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、真菌アクレモニウム属のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、および細菌のα-ガラクトシダーゼを含む、血液細胞の変換に過去に使用された他の酵素は全て、有意な配列類似性を示す。既知の全てのO-グリコシドヒドロラーゼの配列解析では、配列解析を元に85の異なるファミリーに分類されており、ならびに上記のα-ガラクトシダーゼおよびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼは27番目のファミリーに分類されている(http://afmb.cnrs-mrs.fr/~pedro/CAZY/ghf_32.html)。これらの酵素は、触媒の作用機序を保持させながら、触媒性求核試薬にアスパラギン酸を使用して解析されている(Henrissat, Biochem Soc Trans, 26(2): 153-6, 1998(非特許文献10);Rye & Withers, Curr Opin Chem Biol, 4(5): 573-80, 2000(非特許文献11))。クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)に由来する細菌のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼの一次構造は、真核生物のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼと類似性がなく、かつ相同でないことが報告されており(Calcutt et al., FEMS Micro Lett 214:77-80, 2002(非特許文献12))、ならびにα-ガラクトシダーゼおよびα-N-アセチルガラクトサミニダーゼも含む遠縁のグリコシダーゼファミリー36に分類されている(http://afmb.cnrs-mrs.fr/~pedro/CAZY/ghf_32.html)。この酵素群の触媒機構は、ファミリー27の酵素の触媒機構に似ていると推定されている。なぜなら、2つのファミリーの酵素間には、ある程度の配列類似性が存在するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第4,427,777号
【特許文献2】米国特許第5,606,042号
【特許文献3】米国特許第5,633,130号
【特許文献4】米国特許第5,731,426号
【特許文献5】米国特許第6,184,017号
【特許文献6】U.S.S.N. 10/251,271
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Clausen & Hakomori, Vox Sang 56(1): 1-20, 1989
【非特許文献2】Clausen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(4): 1199-203, 1985
【非特許文献3】Clausen et al., J. Biol. Chem. 261(3): 1380-7, 1986
【非特許文献4】Clausen et al., J. Biol. Chem. 261(3): 1388-92, 1986
【非特許文献5】Zhu et al., Arch Biochem Biophys 1996;327(2): 324-9
【非特許文献6】Kruskall et al., Transfusion 2000;40(11): 1290-8
【非特許文献7】Davis et al., Biochemistry and Molecular Biology International, 39(3): 471-485, 1996
【非特許文献8】Bakunina et al., Biochemistry (Moscow) 1998, p1420
【非特許文献9】Wang et al., J Biol Chem, 265: 21859-66, 1990
【非特許文献10】Henrissat, Biochem Soc Trans, 26(2): 153-6, 1998
【非特許文献11】Rye & Withers, Curr Opin Chem Biol, 4(5): 573-80, 2000
【非特許文献12】Calcutt et al., FEMS Micro Lett 214:77-80, 2002
【発明の概要】
【0021】
本発明は、血液型B型および血液型AB型に反応性の血液製剤からのB型抗原の酵素的除去のための組成物および方法を提供する。具体的には本発明は、血液型B抗原、すなわちα1,3-D-ガラクトースを特定する免疫優性の単糖の特異的な酵素的除去のための組成物および方法を提供する。
【0022】
1つの態様では本発明は、SEQ ID NO. 2と20%またはこれ以上の全体的なアミノ酸配列の同一性を有する相同なポリペプチドの新規ファミリーを提供する。このようなポリペプチドは、中性の至適pHでα-ガラクトシダーゼ活性を示し、ならびに血液型B型抗原またはGalili抗原の構造に対して高い基質特異性を示し、およびαGalまたはαGalNAc-pNP単糖基質に対して活性を示さないか、もしくは有意な活性を示さない。このファミリーの一部の成員は、直鎖状のα1-3結合Galに対して活性を示さないか、または有意な活性を示さない。同ファミリーの他のポリペプチドは、直鎖状構造を切断するが、P抗原およびGalα1-4結合に対して活性を示さないか、または有意な活性を示さない。本発明に開示された新規のポリペプチドおよび遺伝子ファミリーは、血液製剤中における細胞表面の真のA型およびB型の糖鎖抗原、ならびに動物組織に由来するGalili抗原に近縁な抗原などを、複合オリゴ糖標的から免疫優性の単糖であるαGalおよびGaliliを除去する際に応用される。
【0023】
別の局面では本発明は、B型およびAB型の細胞からの免疫優性のB型抗原の除去につながる、あらゆる血液型AB型およびB型赤血球の変換の方法を提供する。B型抗原の除去は例えば、血液バンクの標準的な血清学的タイピングによって判定可能である。本発明の方法に従って、B型抗原は、(i)血液型B型抗原に対して極めて限定的な特異性を有すること、(ii)血液型のオリゴ糖により中性pHで最適な機能を発揮すること;ならびに(iii)赤血球の変換に、わずかに酸性〜わずかに塩基性で、および好ましくは中性pH(約6〜約8のpH)で活性を示すことが記載されたポリペプチドを使用して除去される。このような方法は、以下の段階を含む:(a)血液製剤に、これらのポリペプチドの1種類もしくは複数を、ほぼ中性pH条件で、免疫優性のB型抗原を除去するのに十分な時間、接触させる段階、ならびに(b)ポリペプチドおよび消化された抗原断片を、変換された血液製剤から除去する段階。
【0024】
別の態様では本発明は、(i)血液型B型抗原に対して極めて限定的な特異性を有し;および(ii)ほぼ中性のpH範囲(約6〜約8のpH)で血液型オリゴ糖を有する赤血球の変換に活性を示すα-ガラクトシダーゼを使用して、B型またはAB型の赤血球から全ての検出可能なB型抗原を除去する方法を提供する。
【0025】
本発明の別の局面では、変換された赤血球が提供される。1つの態様では、変換された赤血球は、以下の特徴を有する:(i)B型またはAB型の赤血球から、本明細書に記載されたファミリーのポリペプチドを使用して変換された非B型赤血球(血液バンクの標準的な血清学的タイピングによって決定される、検出可能なB型抗原を有さない赤血球)への変換。
【0026】
さらに別の局面では本発明は、以下を含む、修飾された赤血球を含む:免疫優性のB型エピトープを欠くが、P1血液型抗原およびPk血液型抗原を含むα1-4Galエピトープを呈示するB型赤血球またはAB型赤血球。1つの態様では、血液細胞は、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される免疫優性のB型エピトープを実質的に欠き、および直鎖状のα1-3結合Gal構造も欠く。別の態様では、血液細胞は、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される免疫優性のB型エピトープを実質的に欠くが、直鎖状のα1-3結合Gal構造を保持する。
【0027】
さらに別の局面では本発明は、以下の段階を含む方法で調製された修飾された赤血球を含む:B型赤血球またはAB型赤血球を得る段階、赤血球を、ほぼ中性pH(約6のpH〜約8のpH)を有する緩衝液に懸濁する段階、および赤血球にアルファガラクトシダーゼのポリペプチドを接触させることで、赤血球から免疫優性のB型エピトープを実質的に切断する段階。さまざまな態様では、赤血球を処理するのに使用される酵素は、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、もしくはSEQ ID NO: 8によって特定されるポリペプチドの少なくとも10残基の隣接アミノ酸(またはこれをコードするヌクレオチド配列)を含む。ある態様では、酵素による赤血球の処理は、約6.0のpH〜約8.0のpH、好ましくは約6.5のpH〜約7.5のpH、または、より好ましくは約7.0のpH〜約7.5のpHで行われる。現在の好ましい態様では、酵素による赤血球の処理は、0.01〜1000μg酵素/ml血液細胞、好ましくは0.1〜500μg酵素/ml血液細胞、より好ましくは1〜100μg酵素/ml血液細胞を使用して行われる。最も好ましくは、酵素による、赤血球調製物由来抗原の処理は、1〜10μg酵素/ml血液細胞を使用して達成される。
【0028】
さらに別の局面では本発明は、以下の段階を含む、赤血球を修飾する方法を含む:B型またはAB型の赤血球を得る段階、これを、ほぼ中性のpHを有する緩衝液に懸濁する段階、およびこれに、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、もしくはSEQ ID NO: 8によって特定されるか、またはコードされるポリペプチド配列の少なくとも10残基の隣接アミノ酸を有する酵素を接触させることで、血清学的タイピングもしくは赤血球凝集アッセイによって決定される、B型もしくはAB型の赤血球上の免疫優性のB型エピトープを切断する段階。1つの態様では、血液細胞は、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される免疫優性のB型エピトープを実質的に欠き、および直鎖状のα1-3結合Gal構造も欠く。別の態様では、血液細胞は、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される免疫優性のB型エピトープを実質的に欠くが、直鎖状のα1-3結合Gal構造を保持する。
【0029】
さらに別の局面では本発明は、以下の段階を含む、対象を治療する方法を含む:A型、O型、またはAB型の血液を必要とする対象を同定する段階(対象は抗B型抗体に対して血清反応陽性);変換されたB型細胞の修飾された血液細胞調製物を得る段階、またはこれを、本明細書に記載された方法で得る段階、ならびに;修飾された血液細胞調製物を対象に注入する段階であって、対象は注入された血液細胞を免疫学的に拒絶しない、段階。
【0030】
さらに別の局面では本発明は、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8の配列の少なくとも10残基の隣接アミノ酸を有する、精製されたポリペプチドを含む(酵素はα3ガラクトシダーゼ活性および中性の至適pHを示す)。ある態様では、精製された酵素は、以下を含む:SEQ ID. NO: 2とのアラインメントにしたがって番号が付された、以下の配列の少なくとも10残基のアミノ酸を有するポリペプチドを含む:残基10におけるM;残基47におけるG;残基84におけるG;残基86におけるY;残基99におけるY;残基102におけるN;残基114におけるK;残基127におけるT;残基130におけるG;残基132におけるG;残基139におけるG;残基156におけるN;残基160におけるD;残基164におけるP;残基205におけるG;残基277におけるR;残基281におけるR;残基287におけるF;残基308におけるG;残基312におけるQ;残基317におけるI;残基333におけるR;残基340におけるD;残基346におけるG;残基349におけるG;残基360におけるG;残基363におけるD;残基364におけるD;残基367におけるN;残基369におけるH;残基370におけるG;残基371におけるT;残基396におけるG;残基462におけるE;残基463におけるN;残基465におけるT;残基467におけるT;残基468におけるP;残基483におけるR;残基484におけるG;残基486におけるL;残基489におけるT;残基498におけるN;残基508におけるI;残基513におけるD;残基517におけるW;残基519におけるE;残基521におけるG;残基525におけるD;残基528におけるI;残基531におけるN;残基533におけるF;残基549におけるI;残基553におけるP;残基573におけるI;残基590におけるA;残基595におけるG;残基601におけるN;および残基629におけるI(ポリペプチドはSEQ ID NO: 2と少なくとも20%の同一性を有し、およびポリペプチドはα3ガラクトシダーゼ活性も有する)。1つの態様ではポリペプチドは、分岐状のアルファガラクトース構造に対して特異性を示すが、直鎖状のアルファガラクトース構造には特異性を示さない。別の態様ではポリペプチドは、直鎖状のアルファガラクトース構造に対して特異性を示すが、α1-4Gal構造には特異性を示さない。1つの態様では、精製された酵素は、DD(P/A)(V/I)N(V/I)HGT(SEQ ID NO: 10)の配列を有する9残基の隣接アミノ酸を含むポリペプチドを含む。別の態様では、精製された酵素は、DXXXW(Y/F)E(S/T)GXXXD(L/V)(L/T)I(K/R)XNXF(SEQ ID NO: 11)の配列(Xは任意のアミノ酸)を有する21残基の隣接アミノ酸を含むポリペプチドを含む。1つの態様では、精製された酵素はα3ガラクトシダーゼ活性を有する、この機能的等価物を含む。ある態様では、ポリペプチドは、シグナル配列を含まない短縮型バリアントを含む。
【0031】
別の局面では本発明は、以下の段階を含む、組換え型酵素を作製する方法を含む:SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8をコードする核酸を得る段階:これをトランスフェクトした細胞で核酸を発現させる段階;酵素をコードする核酸の発現を誘導する段階;ならびに発現された酵素を細胞から精製する段階。さまざまな態様では本発明は、以下を含む非天然の原核細胞を含む:野生型の原核細胞には見られない発現ベクターであって、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8によって特定される配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を有する発現ベクター。遺伝暗号の縮重のために、当業者に一般に既知であるように、特定の宿主生物における発現に対して、組換え型酵素が最適化可能なことを理解されたい。
【0032】
現在の好ましい態様では、本発明は、α-ガラクトシダーゼのファミリーに関し、ならびに具体的には、B型赤血球およびAB型赤血球上の実質的に全ての免疫優性のB型抗原の除去を触媒するための、これらの使用に関する。最も好ましいα-ガラクトシダーゼは、中性pHで活性を示し、ならびにB型赤血球およびAB型赤血球上の免疫優性のB型抗原の除去を触媒するが、P1抗原(Galα1,4 Galβ1,4 GlcNAcβ1,3 Galβ1,4 Glcβ1セラミド)やPk抗原(Galα1,4 Galβ1,4 Glcβ1セラミド、グロボトリオシルセラミド(Gb3Cer)/CD77としても知られる)などの、他の脂質結合型の直鎖状糖鎖のαGalエピトープの除去は触媒しないガラクトシダーゼである。このファミリーの特定のα-ガラクトシダーゼは、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 1の断片、およびSEQ ID NO: 9のコンセンサス配列として以下に記載されている。
【0033】
さらに別の局面では本発明は、上記の好ましい固有の特徴を有する酵素のスクリーニングおよび選択の方法、ならびにこれらの酵素をコードする遺伝子のクローニングおよび発現に有用なアミノ酸の精製および配列決定の方法を提供する。これらの方法は、これらの好ましい酵素を産生する細菌分離株を提供する。本発明の、このような他の応用および特徴は、以下の詳細な説明によって明らかになる。
【0034】
さらに別の局面では本発明は、異種移植用組織などの組織上の免疫優性の単糖の酵素的除去のための組成物および方法を提供する。具体的には本発明は、非ヒト動物組織からGalili抗原を酵素的に除去することで、これらを移植に適切な非免疫原性の組織に変換するために使用される、α3-グリコシダーゼ(上述)の新規ファミリーを提供する。α3-ガラクトシダーゼの例は、SEQ ID NO: 2〜9の任意の配列を含むが、これらに限定されない。
【0035】
異種移植用組織の調製法は、非ヒト動物供給源から組織を得る段階、組織を、α3-ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドとインキュベートすることで、組織から免疫優性のα1-3結合末端ガラクトース残基を除去する段階、ならびに組織をポリペプチドおよび酵素的に除去されたガラクトースから単離することで、組織をヒトへの異種移植に適切なものとする段階、を含む。1つの態様では、非ヒト動物供給源に由来する組織はブタの結合組織である。別の態様では、ブタの結合組織は靱帯である。
【0036】
別の態様では、非ヒト動物供給源に由来する組織は、肝臓、腎臓、または心臓を含む器官である。さらに別の態様では、非ヒト動物供給源に由来する組織は、非免疫原性の注射可能なコラーゲン;骨の異種移植片;軟部組織およびプロテオグリカン低減(proteoglycan-reduced)軟部組織の異種移植片;異種移植心臓弁;半月板の異種移植片;ならびに組織マトリックスである(組織は、α3-ガラクトシダーゼで修飾されたα1,3-ガラクトース欠損組織である)。α3-ガラクトシダーゼの例は、SEQ ID NO: 2〜9の任意の配列を含むが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】AMC標識血液型B型四糖基質による、富栄養培地(剤形については表IIを参照)で成長させたストレプトマイセス・グリセオプラヌス(Streptomyces griseoplanus)の培養上清中のα-ガラクトシダーゼ活性のHPTLC解析を示す。発酵は、YM培地で1日間、およびBP培地で3日間、220 rpmで30℃の条件で行った。アッセイは、等量の培養上清と0.1 mM B-tetra(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を混合して室温で1時間インキュベートすることで実施した。各反応から1μLをサンプリングし、HPTLCに速やかにアプライした。記号:NE、酵素対照なし;Ctrl、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用した正の対照反応;CS、S.グリセオプラヌスの培養上清;S、基質、すなわちB型四糖;B-tetra、B型四糖;H-tri、H型三糖;起点:試料がアプライされたHPTLC上の位置。TLCプレートを、クロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。
【図2】AMC標識血液型B型四糖基質による、18種類の異なる炭素源が添加された最小培地で成長させた培養物から回収した、ストレプトマイセス・グリセオプラヌスの培養上清の酵素アッセイのHPTLC解析を示す。アッセイは、等量の各培養上清と0.025 mMのB-tetra(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を混合し、および室温でインキュベートすることで実施した。1時間の時点で各反応から1μLをサンプリングし、TLCプレート上にスポットした。パネルの上部に1〜18の番号で示す炭素源は、表IIIに示す、発酵に使用された18種類の異なる糖である。記号:B-tetra:B型四糖、基質;H-tri:H型三糖、α-ガラクトシダーゼ切断によるB-tetra基質の生成物(H-triを上回る早く移動した生成物は、H型の三糖の二糖および単糖へのさらなる分解を生じる、培養上清中におけるフコシダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼの存在を示す)。発酵:ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのクリオストックを溶解し、およびYM培地(約1:5〜10、v/v)に添加し、ならびに30℃で220 rpmで24時間インキュベートした。培養物をBP培地(約1:20、v/v)に植え継ぎ、および発酵を72時間、継続した。100 mLのBP培養物から遠心分離によって回収された菌糸を、基礎最小培地(炭素源、および微量金属/ビタミン添加物を欠く最小培地)で3回洗浄し、富栄養培地を可能な限り除去した。次にペレットを、100 mLの2X基礎最小培地に添加剤とともに再懸濁した。次に、菌糸懸濁物からアリコートを、50 mLのコニカルチューブに2.5 mL/本となるように採取した。次に、さまざまな炭素源および水を、最終濃度が0.5%および最終容量が5.5 mLとなるように添加した。各炭素源について2回の検討を行った。18種類の異なる炭素源を含む各5.5 mLの36の培養物を、30℃、220 rpmでインキュベートした。43時間および71時間の時点で、0.16 mLの培養物のアリコートを各チューブからサンプリングした。
【図3】AMC標識血液型B型四糖基質による、唯一の炭素源としてガラクトースまたは乳糖のいずれかが添加された最小培地で成長させたストレプトマイセス・グリセオプラヌスの培養上清の酵素アッセイのHPTLC解析を示す。アッセイは、等量の各培養上清と0.1 mMのB-tetra(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を混合し、室温でインキュベートすることで実施した。20分の時点で、各反応から1μLをサンプリングし、HPTLCプレートにアプライして解析した。記号:B-tetra:B型四糖、基質;H-tri:H型三糖、α-ガラクトシダーゼによる切断によるB-tetra基質の生成物(H-Triを上回る、速く動いた生成物は、H型の三糖の二糖および単糖へのさらなる分解を生じる、培養上清中におけるフコシダーゼおよびβ-ガラクトシダーゼの存在を示す);炭素源:#4、ガラクトース;#7、乳糖;NE、酵素対照なし;Ctrl、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用した正の対照反応。
【図4】B-tetra基質による、CEXカラムまたはDEAEカラムを通過させた後のタンパク質溶液中におけるα-ガラクトシダーゼ活性の酵素アッセイのHPTLC解析を示す。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスの約450 mlの上清を、1リットルの発酵槽中で、ガラクトースが添加された最小培地で成長させた800 mLの培養物から回収し、-80℃で保存し、24時間かけて4℃で溶解し、および30分間、4℃、20,000 rpmで遠心分離した。回収した上清を、40 mM NaPO4、10 mM NaCl(pH 6.8)で事前に平衡化した15 mLの陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(CEX)(Macro-Prep High S Support, BioRad, Cat. #156-0031)に通過させた。酵素活性を含むフロースルーを回収した。カラムを、40 mlの平衡緩衝液、pHがわずかに高い(7.3)の40 mLの同緩衝液で連続的に洗浄した。フロースルーおよび洗浄液をプールし、ならびにCEX平衡緩衝液で事前に平衡化してた2.5 mLのDEAEカラム(DEAE Sepharose, Sigma, Cat. #DEF100)に直接ロードし、ならびにフロースルーを回収した。カラムを、50 mlのCEX平衡緩衝液で洗浄して、カラムから残存性酵素を除去した。DEAEフロースルーおよび洗浄液(約600 mL)の、プールされたタンパク質溶液を、Centricon Plus 80 Centrifugalフィルター装置(Millipore Cat. #UFC5LGC02)を使用して遠心分離し、ならびに同装置内で、最終容量が23 mLとなるように、緩衝液を10 mM NaPO4(pH 7.0)に交換した。
【図5】B-tetra基質による、ヒドロキシアパタイト段階に由来するさまざまなフラクションにおけるα-ガラクトシダーゼ活性のHPTLC解析を示す。10 mM NaPO4, pH 7.0中のタンパク質試料を、10 mM NaPO4(pH 7.0)で事前に平衡化した2.5 mLのヒドロキシアパタイトカラム(Bio-Gel HT Hydroxyapatite, Bio-Rad Cat. #130-0150)にロードした。カラムを平衡緩衝液で洗浄し、およびNaPO4の量を増やしながら(10〜100 mM)、段階的に洗浄/溶出した。フロースルー中に活性は検出されず、10 mM NaPO4(pH 7.0)の存在下で酵素がカラムに有効に結合したことがわかる。30 mM NaPO4による洗浄液中における酵素活性の出現、および100 mM NaPO4による洗浄液中における、活性のほぼ完全な消失は、30〜50 mM NaPO4(pH 7.0)を使用するだけで、ヒドロキシアパタイトカラムから酵素を簡単に溶出できることを意味する。記号:Pre、カラムにロードする前のタンパク質溶液;FT、フロースルー。
【図6】B-tetra基質による、Cibacron Blue 3GA段階で得られたフラクション中のα-ガラクトシダーゼ活性のHPTLC解析の結果を示す。ヒドロキシアパタイト段階でプールされた活性フラクションをH2Oで1:1に希釈し、および10 mM Tris(pH 7.5)で事前に平衡化した2.5 mLのCibacron Blueカラム(Cibacron Blue 3GA, Sigma, Cat. # C-1285)にアプライした。カラムを平衡緩衝液で洗浄し、さらに、パネルの下に示すように塩を増量しながら平衡緩衝液で洗浄/溶解した。酵素活性は、100〜400 mM NaCl洗浄液中に分布していた。記号:Pre、カラムにロードする前のタンパク質溶液;FT、フロースルー。
【図7】B-tetra基質による、AEX段階で得られた、さまざまなフラクション中におけるα-ガラクトシダーゼ活性のHPTLC解析を示す。Cibacron Blueに由来する酵素活性フラクションのプールを濃縮し、緩衝液を、最終容積が3.7 mLとなるように、40 mM Tris、10 mM NaCl(pH 8.5)に交換した。タンパク質溶液を、40 mM Tris、10 mM NaCl, pH 8.5で事前に平衡化した1 mLのAEXカラム(Macro-Prep High Q Support, Bio-Rad Cat. # 156-0051)にロードした。カラムを最初に平衡緩衝液で洗浄し、次に、パネルの下に示すように塩を増量しながら同緩衝液で洗浄/溶出した。記号:Pre、カラムにロードする前のタンパク質溶液;FT、フロースルー;洗浄/溶出液、カラムの洗浄試料および/または溶出試料;[NaCl](mM)、洗浄/溶出用緩衝液の塩濃度;フラクション#、各洗浄/溶出段階で回収されたフラクション;B-tetra、B型四糖、基質;H-tri、H型三糖、生成物(H-triより速く移動する生成物は、タンパク質試料中に、H型の三糖の二糖へのさらなる分解を引き起こすフコシダーゼ活性が混入していることを意味する)。
【図8】AEXで精製されたストレプトマイセス・グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼ活性を対象とした、SDS-NuPAGE(MOPS緩衝液を使用するNovex 4〜12% Bis-Tris Gel、SilverQuest Silver Stainingキットで染色、Mark12 Unstained Standard、いずれもInvitrogenの製品)による解析を示す。図7に示すAEX段階の各塩濃度における、洗浄/溶出試料のフラクション#3の酵素アッセイのHPTLC解析を、酵素活性とゲル上のタンパク質バンドの比較を容易にするために、ゲルの最上段に配置した。推定α-ガラクトシダーゼと記した、パネルの右側の矢印で示す約70 kDaの1本のタンパク質バンドを、ピークのα-ガラクトシダーゼ活性で示す。記号:B-tetra、B型四糖、基質;H-tetra、H型三糖、生成物。
【図9】B型四糖を使用し、HPTLCで解析した、SDS-NuPAGEおよび酵素活性アッセイで部分的に精製されたストレプトマイセス・グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼのS12クロマトグラフィーのフラクションの比較解析を示す。推定70 kDのα-ガラクトシダーゼのバンドを、Rainbow分子量マーカー(Amersham, Cat. # RPN800)を使用して、パネルの右側の矢印で示す。記号:Ctrl、既知濃度のNEB A-zyme;B-tetra、B型四糖、基質;H-tri、H型三糖、生成物。
【図10】ストレプトマイセス・グリセオプラヌスの新規α-ガラクトシダーゼの、HPLCで分画化したトリプシン消化物のエドマン配列決定法で得られたペプチド(SEQ ID NO: 1)と、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)に由来する推定タンパク質(GenBank access # BAC74979.1、GI:29610934、SEQ ID NO: 2)のアラインメントを示す。SEQ ID NO: 1のアミノ酸に対応するSEQ ID NO: 2のアミノ酸に下線を付す。アラインメントは、NCBI nrデータベースに対して、「search for short, nearly exact matches」を用いたペプチドのblast解析によって得た[(Score=51.5 bits (114)、Expect=3e-06;Identities=18/29(62%)、Positives=24/29(82%)、Gaps=0/29(0%)]。アミノ酸配列は、1文字コードで示す。同一の残基は太い大文字で示し、類似の残基は太字で示し、異なる残基は小文字で示す。
【図11】AMC標識血液型B型四糖および4-メチルウンベリフェリルα-D-ガラクトピラノシド(α-Gal pNP)基質による、YM培地(組成については表IIを参照)で成長させたストレプトマイセス・アベルミティリスの培養上清およびペレットライセートの酵素アッセイのHPTLC解析を示す。発酵は、3日間にわたって30℃、220 rpmで行った。アッセイを、等量の培養上清と0.1 mM B-tetraまたは0.5 mM α-Gal pNP(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を混合して行い、室温で一晩インキュベートした。各反応から1μLをサンプリングし、速やかにHPTLCにアプライした。記号:NE、酵素対照なし;Ctrl、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用した正の対照反応;CS、S.アベルミティリスの培養上清;PT、ペレットライセート;B-tetra、B型四糖;H-tri、H型三糖;MU、4-メチルウンベリフェロン、α-Gal pNPの切断生成物;起点:試料がアプライされたHPTLC上の位置。TLCプレートを、クロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。
【図12−1】NCBI nrデータベースに対するSEQ ID NO: 2のblast検索による、ストレプトマイセス・アベルミティリスに由来する新規の推定α-ガラクトシダーゼのタンパク質配列(SEQ ID NO: 2)と、複数の機能不明の第1のタンパク質ヒットとのアラインメントを示す。アラインメントは、CLUSTALWマルチアラインメント(NPS@: Network Protein Sequence Analysis, TIBS 2000: 25;147-150, Combet C., Blanchet C., Geourjon C. and Deleage G.)を使用して実施した。アラインメントデータ:アラインメント長:665;同一(*):59が8.87%;強く類似(:):86が12.93%;弱く類似(.):42が6.32%;異なる:478が71.88%。配列は以下の通り:SA(625残基のSEQ ID NO: 2);BTα(568残基のSEQ ID NO: 3);BFα1(605残基のSEQ ID NO: 4);BFα2(605残基のSEQ ID NO: 5);BFβ1(595残基のSEQ ID NO: 6);BFβ2(595残基のSEQ ID NO: 7);BTβ(615残基のSEQ ID NO: 8)。SEQ ID NO: 9は、配列SEQ ID NO: 2〜8のコンセンサス配列である。記号:SA、BT、およびBF、それぞれストレプトマイセス・アベルミティリスMA-4680、バクテロイデス・テタオタオミクロン(Bacteroides thetaotaomicron) VPI-5482、およびバクテロイデス・フラジリスに由来する推定α-ガラクトシダーゼ;αおよびβ:B.テタオタオミクロンVPI-5482に由来する2つの異なるコピーのα-ガラクトシダーゼ;α1およびβ1:B.フラジリスYCH46に由来する2つの異なるコピーのα-ガラクトシダーゼ;α2およびβ2:B.フラジリスNCTC 9343に由来する2つの異なるコピーのα-ガラクトシダーゼ。
【図12−2】図12-1の続きを示す図である。
【図13】AMC標識血液型B型四糖基質による、IPTGによって誘導された大腸菌クローン培養物(ストレプトマイセス・アベルミティリスに由来する組換えα-ガラクトシダーゼ遺伝子を発現するプラスミドを含む)に由来する細胞ペレットの全細胞ライセートの酵素活性のHPTLC解析を示す。抗生物質を含む1 mLのTB培地(培地1 Lあたり、48.2 gのEZmix Terrific Broth, Sigma T-91790、8 mLのグリセロール、34 mgのクロラムフェニコール、および30 mgのカナマイシン)を、1個のコロニーを含む寒天プラグを含む各1.5 mLのマイクロチューブに添加した。キャップを閉じて、インキュベーションを一晩、37℃、250 rpmで行った。0.5 mLの一晩培養物を、50 mLのコニカルチューブ中の10 mLの培地に添加し、インキュベーションを同条件で行った。細胞密度は、220 rpmの条件で約2時間でOD600nmが0.3〜0.6に達した。振盪器から培養物を取り出し、室温で約20分間維持した。一方、インキュベーターの温度を約26℃に低下させた。次にIPTGを各培養物に、0.1 mMの濃度で添加し、全培養物を振盪器内に再び入れ、220 rpmで攪拌してタンパク質の誘導を開始した。1時間後に、0.5 mLのアリコートを各チューブから無菌的に除去し、最高速度に設定した卓上遠心分離器で5分間かけて細胞ペレットを得た。20μlの溶解緩衝液(溶解緩衝液1 mlあたり、0.9 mLの40 mM NaPO4、10 mM NaCl, pH 6.8、0.1 mLのBugBuster 10X, Novagen 70921-4、1 mgリゾチーム/mL、および5μLのベンゾナーゼ(benzonase)、Novagen 70664-3)を各チューブに添加してペレットを懸濁し、および懸濁物を上下に数回ピペッティングして細胞を溶解した。溶解は5〜10分間で完了した。続いて、0.1 mM B-tetra(溶媒は100 mM NaPO4(pH 6.8))を含む等量の基質溶液と混合することで、粗全ライセートのアリコート(2.2μL)を解析し、および室温でインキュベートした。10分後に、1μlの消化物を除去し、およびHPTLCプレート上にスポットした。記号:Ctrl、コーヒー豆α-ガラクトシダーゼを使用した正の対照反応;1および2:ストレプトマイセス・アベルミティリスに由来する完全長の新規ガラクトシダーゼを発現する同じコンストラクトの2個の個別のコロニーに由来する全ライセート;B-tetra、B型四糖;H-tri、H型三糖;起点:試料がアプライされたHPTLC上の位置。TLCプレートを、クロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。図14で、新規B-zymeが大腸菌で、封入体としてではあるが、効率的に発現され得ることが確認された。したがって、この新規B-zymeの応用には、発現が最適化される必要があるか、または効率的な再フォールディング法を開発する必要がある。
【図14】大腸菌で発現されたα-ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 2)のSDS-NuPAGE解析を示す(MOPS緩衝液によるNovex 4-12% Bis-Tris Gel、Colloidal Blue Stainingキットによる染色、Mark12 Unstained Standard、全てInvitrogenの製品)。各培養物に由来するライセートを、拡大したスケールで、図13の説明に記載された手順と同様に調製した。各全ライセートのアリコートを、14,000 gで5分間、RTで遠心分離した。上清を除去した。12μlの全ライセートまたは上清を、10%(v/v)のβ-メルカプトエタノールを添加した4μLの4X LDS緩衝液と混合した。ペレットを、2.5%(v/v)β-メルカプトエタノールを添加した1X LDS試料緩衝液に、16μLの試料緩衝液/12μLの全ライセートの比となるように懸濁した。SDS-NuPAGE解析用に、全ての試料を70℃で10分間加熱した。記号:WL、全ライセート;Sup、上清;PT、ペレット;U、非誘導培養物から調製した試料;I、誘導培養物から調製した試料。
【図15】縮重プライマーの設計に関して保存された領域を見極めるための、新規の推定α-ガラクトシダーゼファミリーを対象とした、Multiple ClustalW(BoxShade 3.21)によるタンパク質配列アラインメントを示す。同一の残基および保存された置換は、黒色および暗灰色で強調表示されている。アラインメントされた配列は、S.アベルミティリスMA-4680、B.テタオタオミクロンVPI-5482、およびS.フラジリスNCTC 9343に由来する。B.フラジリスNCTC 9343に由来する配列にほぼ同一な、B.フラジリスYCH624に由来する2つの配列は含めなかった。S.グリセオプラヌス2357に由来する部分的なα-ガラクトシダーゼ遺伝子をクローニングするための、一対の縮重プライマーを設計するために使用された保存領域を、フォワードプライマー(前向きの矢印)およびリバースプライマー(後向きの矢印)とともに示す。
【図16】S.グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼのタンパク質配列を、クローニング用プライマーに対応する領域を強調表示して示す。フォワードおよびリバースのプライマーをそれぞれ、灰色および薄い灰色で表示する。縮重プライマーに下線を付す。
【図17】さまざまな構造を有するオリゴ糖のパネルによる、精製された組換え型FragB α-ガラクトシダーゼの酵素アッセイのHPTLC解析を示す。反応を、0.25 mg/mLのBSAを添加した10μLの10 mM NaPO4, pH 6.8/2.5 mM NaClを溶媒として、10 nmoleの基質および21 ngの酵素を使用して室温で行った。望ましい時点で1μlの酵素アッセイを除去し、シリカゲルでコーティング済みのTLCプレート(EMD Chemicals, NJ)にスポットし、これをクロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:30/60/10)で15分間かけて展開し、生成物の展開をOrcinol/H2SO4による染色で検出した。記号:各基質に関する反応時間(左から右へ):0(酵素を含まない対照反応からサンプリング)、5分、10分、20分、40分、および80分。基質の詳細な構造は、表Vに示す。基質の切断の結果、B-tri、B-di、および直鎖状B型については移動が早くなったが、P1、Pk、およびA-triに関しては観察されなかったことから、切断が起こらなかったことがわかる。
【図18】異なるpHにおけるAMC-B-tetraによる、精製された組換え型FragB B-zymeの酵素アッセイのHPTLC解析を示す。反応は、1 nmoleの基質および約8 ngの酵素を、0.25 mg/mLのBSAを添加した10μLの緩衝液(pH 2.0〜9.0)を溶媒として使用して室温で実施した。望ましい時点で1μlの酵素アッセイを除去し、HPTLCプレートにスポットし、これをクロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。反応で使用した1X緩衝液は、以下の2X緩衝液に由来する:pH 2.0、0.1 Mクエン酸;pH 2.5〜5.5、0.1 Mクエン酸/0.2 M Na2HPO4;pH 6.0〜7.5、0.2 M NaH2PO4/0.2 M Na2HPO4;pH 8.0〜9.0、0.2 M Tris/HCl。アッセイ混合物を、5分(上のパネル)および10分(下のパネル)の時点でサンプリングした。記号:B-tetra、B型四糖;H-tri、H型三糖;起点:試料がアプライされたHPTLC上の位置。
【図19】色素生産性のパラ-ニトロフェニル誘導体Galα-pNPを使用した、異なるpHで使用における酵素活性の解析を示す。アッセイは、図17の説明に記載されているように、26℃で5分間、2.5 mMの基質、8.5μgの酵素を、pH 2.0〜9.0の400μlの緩衝液中で実施し、600μLの1.0 M Na2CO3を添加して終了し、および405 nmにおける読み値を記録した。18,300のモル吸光係数を使用して、放出されたニトロフェノールの量を計算した。1単位を、実験条件で1分間に1μmoleの基質を切断するのに必要とされる酵素の量と定義した。次に、各pHにおける比活性を計算し、およびpHに対してプロットした。
【図20】バクテロイデス・フラジリスのα-ガラクトシダーゼの基質特異性を示す。酵素アッセイを、酵素を使用せずに(-)、および約30 ngの酵素(+)、約1.0 mMの基質を、0.25 mg/mLのBSAを添加した10μlの10 mM NaPO4, pH 6.8、2.5 mM NaClを溶媒として使用して実施した。反応を、26℃でインキュベーション中にTLCでモニタリングし、および2時間の時点の結果を示す。BFα2(FragA)α-ガラクトシダーゼによる、分岐状の血液型B型三糖(B-tri)のH型二糖(H-di)への切断、およびBFβ1(FragB)α-ガラクトシダーゼによる全てのB型構造の切断は、5〜20分間で完了した(データは示さず)。一方で、2時間のインキュベーション後に、他のオリゴ糖基質の切断は認められなかった。TLCプレートを、クロロホルム/メタノール/水(30/60/10、v/v/v)で15分間かけて展開し、および0.05% Orcinol(溶媒は0.5 M H2SO4)で加熱して染色した。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
本発明は、ほぼ中性のpH範囲において、血液型B型構造に対して好ましい特異性を有し、ならびに血液製剤および動物組織の酵素的変換に好ましい機能を有する新規α-ガラクトシダーゼのスクリーニングおよび選択の戦略の開発および応用に関する。表1に、血液細胞上に存在する抗原の複雑な構造を挙げる。
【0039】
本発明の目的で、血液型B型反応性オリゴ糖の誘導体を合成するか、または多様な基質からのαGalの酵素的除去によって作製した。さらに、構造3、構造6、構造21、および構造25を有するスフィンゴ糖脂質をヒト赤血球から精製するか、または文献(Clausen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(4): 1199-203, 1985、Clausen et al., J Biol Chem. 261(3): 1380-7, 1986, Clausen et al., Biochemistry 25(22): 7075-85, 1986、Clausen et al., J Biol Chem. 262(29): 14228-34, 1987)に記載されたグリコシダーゼ処理によって、これらから作製した。AMC誘導体またはスフィンゴ糖脂質からのαGalまたはαGalNAcの除去の量を決定するための薄層クロマトグラフィーアッセイを開発した。
【0040】
好ましいα-ガラクトシダーゼは、血液型B型の分岐状糖構造に対して高い基質特異性を有し、一般に中性の至適pHを有し、および細菌や酵母などの単細胞生物中で組換えタンパク質として、高い費用効果で作製可能である。発明者らの過去の特許出願(U.S.S.N. 10/251,271)では、B型四糖AMC誘導体基質を使用する、好ましい酵素活性に関するスクリーニングアッセイが開発され、および中性pHで酵素活性が測定された。さらに、複合基質に対する選択性または独占性の活性を同定する目的で、活性を、p-ニトロフェニル単糖誘導体を使用時の活性と比較した。同出願で発明者らは、細菌および真菌の分離株(3100)の大規模パネルを対象とした、このスクリーニングアッセイの使用を開示し、ならびにそこで発明者らは、A型またはB型の四糖AMC基質によって測定される、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ活性またはα-ガラクトシダーゼ活性を発現する複数の細菌分離株を同定したが、対応するp-ニトロフェニル単糖基質の使用時には、活性のレベルは認められないか、有意ではなかった。これらの各活性の1つをさらに、ストレプトマイセス株の場合と同様に、血清および遺伝子のタイピング後に解析した。株#8の解析では、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ活性を有することが判定され、活性が不溶性であり、および細胞重量と関連することがわかった。株#8は、2002年2月14日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託され、およびATCC Deposit No. PTA-4076が割り当てられた。これとは対照的に、株#2357は、α-ガラクトシダーゼ活性を有すると判定され、および活性は、フレンチプレスで溶解された形質転換細胞の上清中に見出され、可溶性であると判定された。株#2357は、2002年2月14日にAmerican Type Culture Collectionに寄託され、およびATCC Deposit No. PTA-4077が割り当てられた。可溶性のタンパク質を精製することは、かなり単純なので、発明者らは最初に、株#2357からタンパク質を精製して配列を決定することにした。
【0041】
株#2357の可溶性フラクション中に発明者らが見出した酵素を部分的に精製した。部分的に精製されたα-ガラクトシダーゼの基質特異性の詳細な解析の結果、分岐状のB型血液型構造に対しては意外なほど高い特異性が存在するが、α1-3ガラクトース残基またはα1-4ガラクトース残基を末端に有する直鎖状構造は同酵素で切断されないことがわかった。その至適pHの解析の結果、5.5〜7.0のpHが好ましい条件であることが判明した。したがって、同定されたα-ガラクトシダーゼ活性は、その限定的な基質特異性、B型構造に対する高い比活性、および至適pHのために、従来技術で既知である酵素に対して極めて好ましい。結果として得られた、部分的に精製された粗抽出物のSDS-PAGE解析の結果、α-ガラクトシダーゼ活性を有する40〜80 kDaの領域に3〜4本のタンパク質のバンドの存在が明らかとなった。調製物のゲル濾過解析の結果、活性はBSAと同程度に移動することが判明し、分子量が約40〜80 kDaの球状タンパク質であることがわかった。1つの短い配列が得られた:Phe-Ala-Asn-Gly-Leu-Leu-Leu-Thr(SEQ ID NO: 1)。
【0042】
こうした検討に続き、および本発明に記載されているように、発明者らは、α-ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドの新しいファミリーを発見し、ならびにその誘導、精製、配列決定、およびクローニングの方法を発見した。後述するように、このポリペプチドファミリーは、株#2357から過去に部分的に精製されたタンパク質とは異なり、また注目すべきことに、同ファミリーの成員は、SEQ ID NO: 1で表される配列を含まない。新しい誘導戦略は、特定の炭素源および最小培地における適切な細菌の成長を含み、これはα-ガラクトシダーゼポリペプチドの産生の有意な上昇につながる。既知のα-ガラクトシド(一般に、酸性の至適pH、およびGalα-pNPまたは他の単純な単糖に対する基質特異性を有する)は、グリセオプラヌスおよび近縁のストレプトマイセス株では、これらの新規ポリペプチドを産生する同じ成長条件では分泌されない。
【0043】
したがって本発明は、あるα-ガラクトシドポリペプチドの組換え的発現および精製の新しい方法を提供する。新しい成長法および誘導法と組み合わせることで、この精製戦略は、アミノ酸の配列決定、ならびに血液製剤および組織の変換に関して十分な量のα-ガラクトシダーゼポリペプチドが見かけ上、均一となる、良好な精製につながった。
【0044】
見かけ上、均一になるまでの精製を達成するために、以下の連続的な段階を使用した:S.グリセオプラヌス#2357の培養物に由来する細胞ブロス上清を最初に、CEXカラムおよびDEAEカラムに連続的に非結合状態で通過させた(図4)。次に、活性を結合させ、ならびにヒドロキシアパタイトカラム(図5)、Cibacron Blueカラム(図6)、そして最後にAEXカラム(図7および図8)で連続的に溶出した。精製スキームの全体で、続けて、さまざまなフラクションにおける酵素活性に関してタンパク質の解析を行い;最終タンパク質生成物をSDS-NuPAGEでも解析した。α-ガラクトシダーゼタンパク質を、SDS-NuPAGE銀染色およびAEX、ならびにS12ゲル濾過クロマトグラフィーによるタンパク質のバンド出現パターンの比較によって同定した(図8〜9)。SDS-NuPAGEおよびS12ゲル濾過で、70 kDとして移動した唯一のバンドは、観察されたα-ガラクトシダーゼ活性と対応していた。記載された手順で同定されたタンパク質は最終的に、NuPAGEゲル電気泳動によって分離し、およびクーマシー染色された70 kDのバンドをゲルから切り出してアミノ酸配列解析を行った。内部アミノ酸配列に関する情報は、質量分析による解析(MALDI-TOF)、およびトリプシン消化後のエドマン分解によって得た。得られた短い配列のなかで、公共データベース(GenBank)に登録された既知の配列と高い同一性を示したものはなかった。30アミノ酸のペプチド(内部配列決定によって得られ、および「Search for short, nearly exact matches」を用いた、MS/MSによって確認された最長のペプチド配列)を対象としたBlastデータベース検索によって、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)のゲノム配列(GenBank access # BAC74979.1、GI:29610934)に由来するタンパク質(SEQ ID NO: 2)をコードすることが推定される推定オープンリーディングフレームが同定された。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスの完全なゲノムは得られておらず、および、この属に由来する関連配列はデータベース検索で同定されなかった。ストレプトマイセス・アベルミティリスおよびストレプトマイセス・グリセオプラヌスは極めて近縁である。したがって発明者らは、ストレプトマイセス・アベルミティリスも、多くのストレプトマイセス分離株を含む細菌分離株のなかで極めてまれなことが過去に証明されている、同定済みのα-ガラクトシダーゼ活性を含むか否かについて検討を行った。
【0045】
ストレプトマイセス・アベルミティリス(ATCC 31267)の培養上清を、分泌型のα-ガラクトシダーゼに関して調べたところ、図11に示されるように、B-tetraオリゴ糖基質の切断によって判定される、培養上清とペレットライセートの両方にα-ガラクトシダーゼ活性が存在することの明瞭な証拠が観察された。しかしながら、ストレプトマイセス・アベルミティリスの分泌型のα-ガラクトシダーゼによる単純な基質(α-Gal pNP)の切断は無視できた。これとは対照的に、α-Gal pNPの完全な切断が、細胞フラクションから得られたストレプトマイセス・アベルミティリスのα-ガラクトシダーゼに関して観察された。したがって、分泌型および細胞型のα-ガラクトシダーゼはおそらく同じものではない。分泌型ガラクトシダーゼの一部は、単純な(直鎖状の)基質より分岐状の基質を好む新規のα-ガラクトシダーゼである可能性が高い。一方で、全てではないが大半の細胞型α-ガラクトシダーゼ活性は、従来のグリコシダーゼ活性を有することが観察されている。培養ブロス中への分泌、推定分子量、およびS.グリセオプラヌスとの配列類似性に関して、S.グリセオプラヌス由来のα-ガラクトシダーゼとS.アベルミティリス(SEQ ID NO: 2)由来のポリペプチドが似ていることから、S.アベルミティリスのタンパク質が、当初同定されたS.グリセオプラヌス由来のα-ガラクトシダーゼの相同物であることがわかる。
【0046】
S.アベルミティリスから同定されたポリペプチド(SEQ ID NO: 2)は625アミノ酸からなり、および他の任意の既知のタンパク質との間で有意な類似性は認められなかった。SEQ ID NO: 2とのBack検索の結果、表1Aに示すような配列類似性を有する、もっぱら原核ゲノムに由来する複数の新規タンパク質配列(SEQ ID NO: 3〜8)が同定された:
【0047】
(表1A)S.アベルミティリスの酵素に対するBacteroidesのα-ガラクトシダーゼの同一性(全体に対する%)
【0048】
同定された全てのポリペプチドを、図12に示す多重配列アラインメントで解析した;コンセンサス配列をSEQ ID NO: 9に示す。これらのポリペプチドは、以下に詳述する固有の基質特異性を有し、およびほぼ中性の至適pHという共通の特性を有する新規α-ガラクトシダーゼの新しいファミリーである。
【0049】
このα-ガラクトシダーゼファミリーのこれらの成員の遺伝子配列によって、さまざまな原核細胞または真核細胞、および発現系を使用する、これらのポリペプチドの組換え発現系の開発が可能となっており、ならびに確立されたタンパク質の精製の手順(例えばHisタグ発現および精製系)を使用する、これらの酵素の組換え型の精製が可能となる。
【実施例】
【0050】
酵素アッセイ:
7-アミノ-4-メチル-クマリン誘導体などの、一連の複雑なABH式血液型のオリゴ糖構造からなる基質は、Alberta Chemical Research Councilによってカスタム合成された(U.S.S.N. 10/251,271を参照)。他の基質は、さまざまな供給業者(Sigma-Aldrich)から入手可能であった。使用した全ての試薬は、分析グレードまたはこれ以上のものとした。標準的な酵素アッセイを、さまざまな基質を使用して以下のように実施した。
【0051】
典型的なアッセイを以下の手順で実施した:タンパク質試料を、0.05 mMの濃度のAMC標識オリゴ糖と、0.25 mMの濃度のMU標識単糖とともに、50 mM NaPO4(pH 6.8)を溶媒とする2.2〜10μlの反応で、望ましい時間、26℃または室温でインキュベートした。1μlのアリコートを、さまざまな時点で回収してHPTLCにスポットした後に生成物を展開した。TLCプレートは、クロロホルム-メタノール-水(vol/vol/vol:60/35/8)で展開した。プレートを、Quantity One-4.1.1ソフトウェアを搭載したBio-Rad Fluor-S MultiImagerでスキャンして写真を撮影した。1単位の酵素活性は、実験条件で1分間に1μmoleの基質を切断するのに必要な酵素の量と定義される。
【0052】
発酵:
さまざまな培地の組成を表IIに示す。フラスコおよび50 mLのコニカルチューブ中における発酵を標準的な条件(30℃、220 rpmで望ましい時間)で行った。発酵は、pH 6.8、30℃、300〜600 rpm、DO=50%で実施した。
【0053】
(表II)α-ガラクトシダーゼポリペプチドの産生目的のストレプトマイセス・グリセオプラヌス成長用の培地1の組成
1.指定の成分を含まない全ての培地は、121℃で25分間かけて滅菌した。
2.成分を0.22μmで濾過して滅菌し、および滅菌後に所望のレシピに添加した。
【0054】
実施例1:ストレプトマイセス・グリセオプラヌスにおけるα-ガラクトシダーゼの発現の誘導
S.グリセオプラヌスは過去に、適切な培地で成長時に、分泌型の新規α-ガラクトシダーゼを産生可能なことが報告されているが、同酵素は均一となるまで精製されていなかった。この微生物のクリオストック(cryostock)を、5〜10容のYM培地に添加し、および30℃、220 rpmで24時間、振盪フラスコ中で、または培養の規模に応じて、50 mLのコニカルチューブ中で成長させた。次にYM培地を約20容のBP培地に添加し、ガラクトシダーゼの産生を誘導するために、続けて同条件でインキュベートした。培養物に関連する酵素活性は通常、3日以内にピークを迎える。酵素活性を含む培養上清を遠心分離して回収した。図1は、基質B-tetraによる、典型的な消費培地上清の酵素アッセイのHPTLC解析を示す。同定されたα-ガラクトシダーゼは、細胞の全ライセートの両方において、極めて低い容量収量(volumetric yield)で発現され、ならびに培地中に分泌された(一般的な方法に記載されたB-tetra AMC酵素アッセイで解析された約0.1 U/Lの培養物)。したがって、配列決定用に十分な量の純粋なタンパク質を単離することは、ほとんど不可能である(U.S.S.N. 10/251,271を参照)。所望のタンパク質の発現レベルが低いこと、富栄養培地が不均一であること、およびタンパク質を多く含むことは、タンパク質同定用の十分な活性の精製が困難であることの主要因であると見なされた。
【0055】
本研究では、開始時の比活性を高くするために、酵素の発現および分泌を誘導する戦略の開発が必要であると考えられた。その1つの方法は、グルコースではない別の炭素源を使用することであった。別の方法は、有機材料(特にタンパク質量)をわずかにしか含まない均一な培地、すなわち最小培地を使用することで、培地の複雑さを減ずることであった。そのような培地からの酵素活性の単離は容易であると考えられ、および各段階における酵素の収量は増えることが予想された。
【0056】
最小培地における微生物の成長が極めて緩やかであり、および成長培地組成に対するα-ガラクトシダーゼ産生の感度が高いことを考慮して、S.グリセオプラヌスを最初に富栄養培地で、次に標準的なプロトコル、すなわちYM培地で24時間、BP培地で72時間、成長させた。次に菌糸を、培養物から遠心分離によって回収した。残存する富栄養培地を可能な限り除去するために、ペレット状の菌糸を基礎最小培地(炭素源および添加物を含まない最小培地)で十分に洗浄した。次に菌糸のペレットを、図2に示すように炭素源のスクリーニングに容易に分布可能となる、炭素源を含まない最小培地に再懸濁した。小規模な試験管培養を、標準的な発酵条件で実施した。さまざまな時点で少量のアリコートをサンプリングし、およびα-ガラクトシダーゼ解析用に上清を回収した。表IIIに示すように、計18種類の炭素源を検討した。B-tetraによる、培養上清を対象とした酵素アッセイのHPTLC解析を図2に示す。レーン4およびレーン7における、70時間の発酵上清を使用時の基質の完全な消失は、α-ガラクトシダーゼの産生能力に関して、ガラクトースおよび乳糖と、他の炭素源で明瞭に異なる。25 pmolの基質/μLタンパク質試料、50 mM NaPO4(pH 6.8)、室温で1時間という現在のアッセイの条件では、α-ガラクトシダーゼ活性の容積収率は、以下の式で計算できる。
25 pmol/(1μl * 60分)≒0.4 mU/mLまたは0.4 U/L
この収率は、富栄養培地による培養物で得られる典型的な収率(約0.1 U/L)よりかなり高い。さらに、この収率はおそらく1時間より前における時点のデータが無いために、反応のエンドポイントを失ったことから、過小評価されている。予備的な結果は、α-ガラクトシダーゼの産生および精製を促進するために最小培地を使用することの大きな可能性を示している。
【0057】
最小培地使用時の顕著な観察の真偽を確認するために、発明者らは、新規α-ガラクトシダーゼを誘導するための主要炭素源であるガラクトースおよび乳糖の再評価を行った。図3は、ガラクトースおよび乳糖を炭素源として含む最小培地で成長させた、さまざまな時点で採取された発酵試料の反応アッセイのHPTLC解析を示す。基質の約90%は、3日間培養した試料によって20分以内に切断された。これは約4 U/Lの培養上清に相当する。したがって、図3に示すように、ガラクトース(レーン#4)、および驚くべきことに乳糖(レーン#7)が、かなりのα-ガラクトシダーゼ活性を誘導した。次に、上記の手順で同定されたガラクトース使用時の成長および誘導の条件を、酵素単離目的のストレプトマイセス株#2357の大規模発酵を開発するために、さらに最適化を行うことなく使用した。以下の例から明らかなように、このような条件は、U.S.S.N. 10/251,271に当初開示された酵素とは異なり、結果として得られるα-ガラクトシダーゼタンパク質の良好な単離および同定に関して不可欠であった。
【0058】
(表III)最小培地を使用するストレプトマイセス・グリセオプラヌスからの新規α-ガラクトシダーゼの誘導のスクリーニングに使用した炭素源
【0059】
実施例2:ストレプトマイセス・グリセオプラヌス株#2357で発現されたα-ガラクトシダーゼの精製
出発材料が、文献(U.S.S.N. 10/251,271を参照)に記載された部分的な精製に使用される材料とは実質的に異なるため、新規酵素用の新たな精製戦略を開発した。見かけ上、均一となるまで精製するために、以下の段階を使用した:実施例1に記載された手順で1 Lの発酵槽で行われた800 mlの培養物に由来する細胞ブロス上清(450 ml)を対象に、20,000 rpm、4℃で30分間の高速遠心分離を行った。上清を、40 mM NaPO4、10 mM NaCl(pH 6.8)で事前に平衡化した15 mlのCEXカラム(Macro-Prep High S support, BioRad, Cat. #156-0031)にアプライし、ならびに、それぞれ40 mlの平衡緩衝液および40 mM PO4、10 mM NaCl(pH 7.3)で洗浄した。α-ガラクトシダーゼ活性を含むフロースルーおよび2種類の洗浄液をプールし(図4、パネルA)、ならびに40 mM NaPO4、10 mM NaCl(pH 6.8)で事前に平衡化した2.5 mLのDEAE(DEAE Sepharose, Sigma, Cat. #DEF100)の第2のカラムにアプライした。次にカラムを、50 mlの平衡緩衝液で洗浄した。α-ガラクトシダーゼ活性を含む計600 mlをフロースルーおよび洗浄液から回収した(図4、パネルB)。これらをプールし、Centricon Plus 80 Centrifugalフィルター装置(Millipore Cat. #UFC5LGC02)で濃縮し、および同装置内で緩衝液を10 mM NaPO4(pH 7.0)に、最終容量が23 mLとなるように交換した。
【0060】
緩衝液を交換した23 mlの試料を、10 mM NaPO4(pH 7.0)で事前に平衡化した2.5 mlのヒドロキシアパタイトカラム(BioRad, Cat. #103-0150)にアプライした。このカラムを、5 mlの平衡緩衝液で洗浄し、およびα-ガラクトシダーゼ活性を、20〜100 mM(pH 7.0)のNaPO4の勾配緩衝液(10 mM/段階)で段階的に溶出した。α-ガラクトシダーゼ活性は、30〜50 mM NaPO4のフラクションに溶出された(図5)。活性フラクションをプールし、およびH2Oで1:1に希釈し、ならびに10 mM Tris(pH 7.5)で事前に平衡化した2.5 mlのCibacron Blueカラム(Sigma, Cat. # C-1285)にアプライした。カラムを、10 mlの10 mM Tris(pH 7.5)、および5 mlの10 mM Tris、80 mM NaCl(pH 7.5)で洗浄した。α-ガラクトシダーゼ活性を、塩量を増やしながら、10 mM Tris(pH 7.5)を含む25 mlの溶出用緩衝液で溶出した(図6)。酵素溶出液を濃縮し、および緩衝液を、Centricon YM 10遠心分離フィルター装置(Millipore Cat. #4205)を使用して、40 mM Tris、10 mM NaCl(pH 8.5)に、最終容量が3.7 mLとなるように交換した。そして最後に、緩衝液を交換した溶出液を、40 mM Tris、10 mM NaCl(pH 8.5)で事前に平衡化した1 mlのAEXカラム(BioRad, Cat. #156-0031)にアプライした。カラムを5 mlの平衡緩衝液で洗浄し、およびα-ガラクトシダーゼ活性をNaCl勾配(溶媒は40 mM Tris)で溶出した(図7)。
【0061】
AEXカラムの溶出フラクションの解析をSDS-NuPAGEで行い、および見かけの分子量が70 kDである1本のバンドが銀染色(SilverQuest, Invitrogen, Cat. #LC6070)後に観察された(図8)。単離されたα-ガラクトシダーゼのさらなる検証は、ゲル濾過クロマトグラフィーで行った。S12カラム(Superose 12(商標), Amersham, Cat. #17-5173-01)を平衡化し、150 mM酢酸アンモニウムとともに流した。上述の部分的に精製されたα-ガラクトシダーゼをアプライし(容量250μl)、および45のフラクション(1 mL/分の流速で0.5 ml/フラクション)を回収した(図9)。フラクション#19〜21は、主要なタンパク質ピーク(uv 280 nm)を含んでいた。フラクション19〜22を、B-tetra AMCによって、α-ガラクトシダーゼに関して解析し、ならびに各10μlを、10 ngおよび20 ngのNEB A-zymeを対照として使用した、4〜12%の勾配を設けたSDS-NuPAGEで解析した(レーン2および3)。図9からわかるように、ピークのα-ガラクトシダーゼ活性は、SDS-PAGEによる70 kDのバンドと十分に相関する。
【0062】
実施例3:ストレプトマイセス・グリセオプラヌス株#2357から精製したα-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列の決定
NuPAGEによって推定された、約1μgのα-ガラクトシダーゼタンパク質を、実施例2に記載された手順で調製した。タンパク質を4〜12%のNuPAGEで分離し、およびColloidal Blue染色キット(Invitrogen, Cat. #LC6025)で染色した。ゲルをH2Oで脱色後、染色された70 KDのバンドを切り出して、HPLCグレードのH2Oおよび50%アセトニトリル(溶媒はH2O)で洗浄した。切片化したゲルを対象に、ハーバード大学のHarvard Microchemistry Facilityで直接、配列解析が行われた。簡単に説明すると、ゲルの切片をDTTで還元し、およびヨードアセトアミドでアルキル化した後に、25 mM炭酸水素アンモニウム緩衝液中でトリプシン処理した。トリプシン消化物を、Finnigan LCQ DECA XP Plus四極子イオントラップ質量分析計で、ミクロキャピラリー逆相HPLCナノ-エレクトロスプレータンデム質量分析(μLC/MS/MS)で解析した。ペプチドの予備的な配列決定を、アルゴリズムSEQUESTとのデータベース相関によって速めた。次にMS/MSペプチド配列を、既知タンパク質とのコンセンサスに関して検討し、および結果の正確さを手計算で確認した。NCBI nrデータベースまたはestデータベース上の配列に、このデータと相関するものは見あたらなかった。
【0063】
配列決定情報を得るための、切断されなかったタンパク質のN末端配列を得る、いくつかの試みは失敗に終わっていることから、N末端がブロックされていることがわかる。内部配列に関する情報を得るために、約5μgの所望のタンパク質を含む、NuPAGEゲル切片のトリプシン消化物由来のペプチドを、0.3x150 mmのC18カラムによるHPLCで分画化した。ダイオードアレイ検出器を使用して、205 nm(アミド結合用)、277 nmおよび292 nm(芳香族アミノ酸であるTrpおよびTyr用)の3波長でモニタリングを行った。最高のピーク/フラクションのいくつかを対象に、MALDIによるスクリーニングを行って、エドマン配列決定用のピークを選択した。NCBI nrデータベースに対する、「search for short, nearly exact matches」を用いたBlastデータベース検索では、得られたペプチド配列と同一の配列は同定されなかった。しかしながら、得られた最長のペプチド配列であり、およびMS/MSによって確認されたSEQ ID NO: 12に示す30アミノ酸のペプチド配列を使用した検索では、得られたグリセオプラヌスのペプチド配列であるSEQ ID NO: 12に対する弱い配列類似性を示す、ストレプトマイセス・アベルミティリスのゲノム配列(GenBank access #BAC74979.1, GI:29610934)から推定される候補推定タンパク質(SEQ ID NO: 2)が同定された(図10)。
【0064】
ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのゲノムは得られておらず、および関連配列は、データベース検索で同定されなかった。注目すべきことに、この配列は、発明者らによる過去の開示(および本明細書のSEQ ID NO: 1)に記載されたα-ガラクトシダーゼと共通性がない。ストレプトマイセス・アベルミティリスおよびストレプトマイセス・グリセオプラヌスは極めて近縁である。したがって発明者らは、ストレプトマイセス・アベルミティリスも、新規α-ガラクトシダーゼを含むか否かを検証した。というのは、従来のα-ガラクトシダーゼは、検討されたストレプトマイセスのいくつかの分離株のなかで、極めてまれなことが報告されているからである(U.S.S.N. 10/251,271を参照)。
【0065】
ストレプトマイセス・アベルミティリス(ATCC 31267)をYM培地で培養し、および培養上清を対象に、分泌型のα-ガラクトシダーゼに関するアッセイを、AMC標識B型四糖および単糖α-Gal pNPを基質として使用して行った。図11に示すように、培養上清とペレットライセートの両方にα-ガラクトシダーゼ活性が存在することの明瞭な証拠が、B-tetraオリゴ糖による解析で明らかとなった。しかしながら、分泌型α-ガラクトシダーゼ活性による、単純な基質α-Gal pNPの切断は無視できる。これとは対照的に、細胞型α-ガラクトシダーゼでは、α-Gal pNPの完全な切断が観察された。
【0066】
同定された推定タンパク質は625アミノ酸(SEQ ID NO: 2)からなり、および任意の他の既知タンパク質に対する有意な同一性は認められなかった。同定されたタンパク質配列によるBack検索では、もっぱら原核ゲノムに由来する、配列類似性の低い、極めて少数のタンパク質配列が同定された。同定された全配列について、図12に示すように多重配列解析による解析を行った。
【0067】
実施例4:ストレプトマイセス・アベルミティリスに由来する、同定されたα-ガラクトシダーゼ遺伝子の組換え的発現および解析
625アミノ酸(全長)の推定タンパク質(SEQ ID NO: 2)をコードする、長さが1878塩基対の、同定されたストレプトマイセス・アベルミティリスの遺伝子の推定全コード配列を、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で、プライマー対
を使用して増幅し、NcoI/HindIII制限酵素(プライマー中の制限酵素切断部位を下線で示す)で切断し、および細菌発現ベクターpPET28(Novagen, Cat. No. 70777-3)のNcoI/HindIII部位にクローニングして、pZQ-B002aコンストラクトを得た。この遺伝子が内部の1490位にNcoI切断部位を有するという事実をふまえて、完全長の遺伝子コンストラクトの挿入を、2段階のクローニング手順で行った。発現コンストラクトの全配列を決定して確認した。作製された完全長の発現コンストラクトpZQ-B002aで大腸菌株Rosetta(BL21-DE3)pLysS(Novagen Cat. No.70956-3)を形質転換し、ならびにLB-寒天プレート上に、クロラムフェニコール(34μg/ml)およびカナマイシン(50μg/ml)の存在下でプレーティングした。
【0068】
タンパク質発現の最初の解析では、可溶性タンパク質の形成に好ましい条件である、低濃度の誘導物質(0.1 mM IPTG)による、一般的な37℃ではなく26℃で誘導を行った。誘導された細胞ペレットを、界面活性剤ベースの化学的な方法で溶解し、および全ライセートのアッセイを、明瞭でない新規B-zyme活性に関する標準的な条件で直接行った。図13に示すように、1時間だけ誘導された培養物から得られた粗ライセートを使用時のH型三糖の形成からわかるように、AMC標識血液型B型四糖基質の切断は容易に検出可能であった。この結果は、ストレプトマイセス・アベルミティリス由来のタンパク質(SEQ ID NO: 2)が実際に、このファミリーのタンパク質他の成員と共有する特徴的な活性である新規ガラクトシダーゼであることを明瞭に示している。図14で、SEQ ID NO: 2が、大腸菌では効率的に発現可能であるが、封入体中に回収されることが確認されている。したがって、変性、封入体からの酵素抽出、および再折りたたみが、このポリペプチドを大腸菌で産生させるために第一に必要である。
【0069】
実施例5:常用のタイピングプロトコルによって評価される、発現されたα-ガラクトシダーゼを使用したB型赤血球のO型表現型の細胞への酵素的変換
変換プロトコル1:酵素による変換反応を、図に示すように、30%の濃厚赤血球(pRBC)および酵素と、200 mMグリシン, pH 6.8、および3 mM NaClを含む1 mlの反応混合物中で行った。新鮮な全血を、Oklahoma Blood Institute(Oklahoma City, OK)から入手し、バフィーコートを除去した。RBCを、1:1および1:4(vol/vol)で変換用緩衝液で洗浄後に酵素を添加し、ならびに反応物を26℃でゆるやかに混合しながら60分間インキュベートし、続いて1:4(vol/vol)の生理食塩水で1,000 rpmの遠心分離による4回の洗浄サイクルを繰返し行った。洗浄後の酵素処理B-ECO RBCを対象に、さまざまな市販のモノクローナル抗体試薬((Immucor Gamma Anti-B(Gamma Biologicals/Immucor, Norcross, Ga.);Ortho Anti-B(Ortho Clinical Diagnostics, Raritan, N.J.);およびDiagast Anti-B)(Diagast Laboratories, France)を使用する標準的な血液バンキング法でABO式血液型を決定した。
【0070】
変換プロトコル2:B型赤血球(Beth Israel Deaconess Medical Center, Boston, MA)をEDTAチューブに採取し、および4℃で最長7日間保存し、ならびにPBS(リン酸緩衝食塩水、pH 7.4)で3回洗浄し、および10%になるようにPBSおよび7.5% PEG(pH 7.4)の溶液で再懸濁する。細胞を、組換え型α-ガラクトシダーゼ(10〜500 U/ml)で30℃で180分間、振盪しながら処理する。細胞を0.9%生理食塩水で3回洗浄し、およびタイピング用に、3〜5%となるように生理食塩水で再懸濁する。
【0071】
変換プロトコル3:B型赤血球(Beth Israel Deaconess Medical Center, Boston, MA)をEDTAチューブ中に採取し、および白血球を除去したB型赤血球(American Red Cross, New England Region, Dedham, MA)をGlycerolyte 57(Baxter Healthcare Corporation, Fenwal Division: Deerfield, IL)中で、AABB Technical Manual、第13版、Method 6.6に従って凍結し、および-70℃で保存する。酵素処理前に細胞を、9.0%生理食塩水、2.5%生理食塩水、および0.9%生理食塩水を使用して、グリセリンを除去し(American Red CrossのImmunohematology MethodsのMethod 125を参照)、次にヘマトクリット値が50%となるように、PBSおよび7.5% PEG(pH 7.4)の溶液に再懸濁し、ならびに組換え型α-ガラクトシダーゼ(200 U/ml)を添加する。反応物を37℃で振盪しながら4時間インキュベートした後に、0.9%生理食塩水で3回洗浄し、および最後に生理食塩水で3〜5%に懸濁してタイピングを行う。
【0072】
変換プロトコル4:細胞の起源および保存は、プロトコルBに記載されたものと同じである。グリセリンが除去された赤血球を、150 mM NaClを含むPCI(pH 7.4)で2回洗浄し、ヘマトクリット値が50%となるように、150 mM NaClを含むPCI(pH 7.4)で再懸濁する。細胞を、組換え型α-ガラクトシダーゼ(200 U/ml)で、37℃で振盪しながら4時間処理した後に0.9%生理食塩水で3回洗浄し、および最後に生理食塩水で3〜5%に懸濁してタイピングを行う。
【0073】
赤血球凝集アッセイに使用される承認済みのタイピング試薬は、Ortho Clinical Diagnostics, Raritan, NJ.;Gamma Biologicals/lmmucor, Norcross, Gaから入手可能なマウスモノクローナル抗体および植物レクチンである。FDA非承認の試薬は、H. Clausen (Clausen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(4): 1199-203, 1985、Clausen et al., J Biol Chem. 261(3): 1380-7, 1986、Clausen et al., Biochemistry 25(22): 7075-85, 1986、Clausen et al., J Biol Chem. 262(29): 14228-34, 1987)が作製したB型異型に対するマウスモノクローナル抗B型抗体を含む。タイピング試薬は、製造業者の推奨に従って使用し、および他のモノクローナル抗体は滴定によって決定される。
【0074】
赤血球凝集アッセイ(室温)
等張性の血液バンク生理食塩水を溶媒とする、洗浄済みの赤血球の3〜5%の懸濁物を調製する。1滴(約50μl)の抗B型抗体試薬を添加する。1滴(約50μl)の赤血球懸濁物を添加する。チューブを混合し、および3500 rpmで15秒間、遠心分離する。細胞を、緩やかに攪拌しながら再懸濁し、および凝集の程度を肉眼で調べた。凝集の程度を、AABB Technical Manual、第13版のMethod 1.8に従って決定する。
【0075】
上記の例に記載されているように、赤血球から血液型B型エピトープを除去するのに使用するのに好ましい酵素は、血液型B型抗原と似た、オリゴ糖基質に関する特に良好な動態学的特性を有する可能性が高い。このような好ましい動態学的特性は、血液型B型オリゴ糖に対する好ましいか、または排他的な基質特異性の場合があり、および単糖-pNP基質などの単純な単糖誘導体に対する活性は低いか、または活性がない場合がある。好ましい動態学的特性は、関連基質に対する特に低いKmによっても表される場合もある。さらに好ましい動態学的特性は、関連する血液型反応基質との反応に対する中性の至適pH、ならびに赤血球の完全性および機能と適合する他の反応条件からなる。サイズ、電荷、溶解性、および他の物理化学的特性などの、酵素の他の好ましい特性は、赤血球による酵素的変換に関する機能と関連する可能性もある。動態学的特性が改善された新規α-ガラクトシダーゼは、文献に記載されているように、さまざまな細菌株から同定されており、および赤血球の変換に優れた機能を示す上記の好ましい特徴を有する酵素を提供する。
【0076】
(表3A)FragAまたはFragBの組換え型α-ガラクトシダーゼによって変換されたヒト赤血球の凝集結果
【0077】
実施例6:ストレプトマイセス・グリセオプラヌス株#2357に由来するα-ガラクトシダーゼのクローニングおよびDNA配列決定、ならびにそのアミノ酸配列の推定
S.グリセオプラヌス2357に由来する内因性のα-ガラクトシダーゼの単離および精製は、実施例2に記載されている。30アミノ酸のペプチドを生じた、精製済みのα-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列の部分的な決定については、実施例3に記載されている。このペプチドを使用した、「nr」データベース(GenBank)に対するBlast検索によって、推定α-ガラクトシダーゼのファミリーが同定された。5α-ガラクトシダーゼの配列を、EMBL/GenBank/DDBJデータベースに寄託して以下のアクセッション番号が割り当てられた:AM109953(ストレプトマイセス・アベルミティリス)、AM109954およびAM109955(バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis))、AM109956およびAM109957(バクテロイデス・テタオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron))。推定α-ガラクトシダーゼの多重配列アラインメントによって、少数の保存された領域が同定された(図15)。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスに由来する推定α-ガラクトシダーゼをコードするオープンリーディングフレームを、ゲノム末端の5'および3'を対象とした速やかな増幅(RAGE)を元にクローニングした。最初の縮重プライマーは、推定α-ガラクトシダーゼ配列の多重配列アラインメントで決定された保存領域を元にした。縮重性のセンスおよびアンチセンスのプライマー
(X=イノシン、およびK=GまたはT)を使用して、ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのゲノムDNAから、1つの185 bpのBZyme特異的なDNA断片をPCR増幅した。PCR産物をpCR4ベクター(Invitrogen)にクローニングし、および配列を決定してpCR4-dAVER7/9を得た。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼに特異的なプライマーGRIS10
およびGRIS11
はpCR4-dAVER7/9に由来する。ストレプトマイセス・グリセオプラヌスのゲノムDNAをエンドヌクレアーゼで処理して、制限エンドヌクレアーゼHaeIIによって完了し、0.8%アガロースゲル電気泳動によってサイズに従って分画化し、および2〜3 kbpの分画化されたDNAを、Qiagel精製(Qiagen)によって精製した。精製後のDNAを、T7結合部位(下線部)、およびHaeII制限酵素オーバーハング(斜体字で表示)をコードする2本鎖HaeIIアダプターEBRETTE3
に連結した。アダプター結合DNAを、10 ngのアダプター結合DNAであるT7/GRIS11を使用した5'RAGE、または10 ngのT7/GRIS10を使用した3'RAGEに使用した。生じた5'RAGE産物および3'RAGE産物をpCR4にクローニングして、5'-T7/GRIS11-pCR4および3'-T7/GRIS10-pCR4を得て、全配列を決定した。重複する5'-T7/GRIS11-pCR4および3'-T7/GRIST10-pCR4の配列は、BZymeの遺伝子配列を完全に含む1593 bpである。残りの5'および3'の配列は、分画化されたBamHI切断済みのストレプトマイセス・グリセオプラヌスのゲノムDNAである、連結されたBamHIアダプターEBRETTE3/6
を対象としたRAGEを繰り返すことで得られた(BamHIオーバーハングを斜体字で示す)。完全な5'配列を、10 ngのアダプター結合DNAおよびT7/GRIS22
を使用して得た。また3'配列を、T7/GRIS24
を使用して得た。生じた5'RAGE生成物および3'RAGE生成物をpCR4にクローニングし、5'-T7/GRIS22-pCR4および3'-T7/GRIS24-pCR4を得て、全配列を決定した。5'-T7/GRIS22-pCR4は、推定開始メチオニンを含んでおり、および3'-T7/GRIS24-pCR4は、727アミノ酸のα-ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 25)をコードするストレプトマイセス・グリセオプラヌスのα-ガラクトシダーゼ遺伝子(SEQ ID NO: 24)の完全な2184 bpのコード配列を完成する、終止コドンを同じフレームで含んでいた。この配列をGenBankに寄託した(アクセッション番号AM259273)。プライマーが由来する、α-ガラクトシダーゼのタンパク質配列の領域を図16に示す。
【0078】
実施例7:バクテロイデス・フラジリスに由来する同定されたα-ガラクトシダーゼ遺伝子の組換え的発現および解析
FragB α-ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 6)の発現コンストラクトを、細菌のゲノムDNAからPCRでクローニングした。推定アミノ末端シグナルペプチド1〜24をコードする領域を欠くFragB α-ガラクトシダーゼ遺伝子を、バクテロイデス・フラジリスのゲノムDNA(ATCC 25285D)から、プライマーBFRAGB2
を使用したPCRで抜き出し、およびPfu Ultraポリメラーゼ(Stratagene)を使用して増幅した。上記プライマー中におけるBamHIおよびHindIIIの制限酵素オーバーハングに下線を付す。BamHIおよびHindIIIによる切断後に、増幅されたポリヌクレオチド産物を、細菌発現ベクターpET28(Novagen)に、同じフレームで、6xHisタグをコードするプラスミドの下流に挿入してプラスミドpZQ-B006aを得た。非タグ発現ベクターの構築に関しては、pET28ベクター中の6xHisタグをNcoI/BamHIで切断して除去した後に、2本鎖オリゴであるPETNCBAF
を挿入し、プラスミドpET28-δHisを得た。Hisタグタンパク質をコードする上記のFragBコンストラクトを、pET28-δHisのBamHI/HindIII部位にサブクローニングし、非タグFragB α-ガラクトシダーゼ発現用のプラスミドpZQ-B006cを得た。全てのコンストラクトの全配列を、377 ABI Prism装置(Applied Biosystems)で決定した。タンパク質の発現に関しては、pZQ-B006cで大腸菌Rosetta2(DE3)(Invitrogen)を形質転換した。大腸菌クローンは、34μg/mLのクロラムフェニコールおよび50μg/mLのカナマイシンを添加した1X Terrific Broth(Sigma)で37℃、220 rpmで、OD600が約0.6となるまで成長させ、ならびにIPTGを0.5 mMとなるように添加して、標的タンパク質の発現を誘導した。3時間後に、3000 xgで30分間、遠心分離して培養物を回収した。細胞ペレットを-20℃で保存した。350 mlの培養物から回収した細胞ペレットを、25 mM NaOAc, pH 5.5/10 mM NaClを溶媒とする1X BugBuster(Invitrogen)を使用して溶解し、5μLのベンゾナーゼ(Benzonase)(Invitrogen)を添加して室温で1時間攪拌した。全ライセートを40,000 x gで5℃で30分間、遠心分離して清澄化した。90%以上の酵素活性を含む細胞デブリを、10 mM NaPO4, pH 6.8/400 mM NaClに再懸濁して室温で30分間、攪拌した。高速遠心分離を繰り返し、酵素活性を含む上清を回収した。結果として得られた上清を、10 mM NaPO4, pH 7.0で事前に平衡化した5 mlのヒドロキシアパタイトカラムにロードした。カラムを20 mlの平衡用緩衝液で洗浄後に、10〜400 mMのNaPO4勾配、pH 7.0を使用して溶出した。200〜400 mMのNaPO4, pH 7.0に溶出された酵素活性をプールし、濃縮し、および緩衝液を、Amicon(Grace)遠心分離装置Plus 70内で、10 mlの40 mM Tris、400 mM NaCl/pH 7.5と交換した。タンパク質溶液を、透析用緩衝液で事前に平衡化した5 mlのPhenyl Sepharose High Performanceカラム(Amersham)を通過させ、およびローディング後にカラムを、10 mLの透析用緩衝液で洗浄した。フロースルーおよび洗浄液をプールし、1 M TrisでpH 8.5に調整し、等量のH2Oで希釈した。結果として得られたタンパク質溶液を対象に、別のカラムを通過させる段階を、40 mM Tris, pH 8.5/10 mM NaClで事前に平衡化した2.3 mLのMacro-Prep High Qで行い、およびカラムを、10 mLの平衡用緩衝液で洗浄した。フロースルーおよび洗浄液をプールし、ならびに緩衝液を、7 mlの10 mM NaPO4, pH 6.8/50 mM NaClに交換した。タンパク質濃度を、PierceのBCA Protein Assayキットで決定した。
【0079】
精製されたFragB α-ガラクトシダーゼの評価を、標準的な条件(1 nmoleの基質を10μLの100 mM NaPO4, pH 6.8/50 mM NaCl中で)における分岐状の糖鎖基質B-tetraの切断能力を元に行ったところ、精製された酵素は、B-tetra基質に対して極めて高い比活性(約5〜10 U/mg)を有することがわかった。精製されたFragB α-ガラクトシダーゼの至適pHをB-tetra-AMC基質によって、2.0〜9.0のpH範囲で評価し、得られた結果を図17に示す。FragB酵素は、4.5〜7.5に広い最適なpH範囲を有する。より高い感度/定量的な比色アッセイによる解析では、図18に示す結論と類似の結論が得られているが、酵素の活性は、検討pH範囲の低い方で見られ、すなわち活性は約4.2以下のpHで観察された。これは、TLCベースのAMC-B-tetraアッセイで検出不能な活性とは、わずかに異なる。したがって、この新規酵素は、酸性条件〜中性条件で、およびさらには、やや塩基性の条件、すなわち約4〜約7.4またはこれ以上のpHで良好に使用可能である。現在の好ましい態様では、同酵素は、約6.0〜約7.5のpH範囲で、およびより好ましくは約6.5〜約7.5のpH範囲で使用されている。新規酵素に関する現在の最も好ましいpH範囲は、血液細胞そのものに対するpHの作用を最小限に抑えるために、またpHが酵素の活性および機能を制限しないことから、循環性の動脈血または静脈血の生理学的pHと類似の条件である。
【0080】
FragA α-ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 5)を、FragB α-ガラクトシダーゼの場合と同様に、同じゲノムDNAからPCRでクローニングし、およびRosetta(DE3)pLysS(Novagen)中で、N末端にHis6タグを有するタンパク質の場合と同様に発現させた。発現された可溶性タンパク質を、連続的な固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、陽イオン交換クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーによって、均一になるまで精製した。精製タンパク質は、分岐状基質に対する比活性、基質特異性、および至適pHに関して、S.グリセオプラヌス(株2357)の内因性のα-ガラクトシダーゼと似ていることが判明した。2〜9のpH範囲における血液型B型四糖-AMC基質との活性の解析の結果、酵素が5〜7.5の広い至適pHを有することが判明した。FragA α-ガラクトシダーゼの基質特異性は、オリゴ糖構造のさまざまなパネルを使用して決定し、および分岐状の血液型B型構造中のα1-3結合ガラクトースに対して顕著に頑健な特異性が検出された(図20)。同酵素は、P1血液型抗原およびPk血液型抗原に見出されるα4Gal結合を切断せず、またフコースの非存在下では、直鎖状B型構造中のα3Gal結合も切断しなかった。
【0081】
実施例8:バクテロイデス・フラジリスのα-ガラクトシダーゼは、直鎖状B型オリゴ糖を中性pHで効率的に切断する
組換え型の精製されたFragB α-ガラクトシダーゼの基質特異性をさらに解析した結果、驚くべきことに、この酵素は、(S.グリセオプラヌスに由来する初期の精製されたα-ガラクトシダーゼとは対照的に)、Galα-pNP基質に低い活性を示すことがわかった(100 mM NaPO4, pH 6.8/50 mM NaClの緩衝液系の使用時に約1.6 U/ml)(表IV)。
【0082】
(表IV)FragB α-ガラクトシダーゼとコーヒー豆α-ガラクトシダーゼの比活性(U/mg)の比較
1本研究。
2Zhu, A., Monahan, C., Zhang, Z., Hurst, R., Leng, L. & Goldstein, J. (1995) Arch Biochem Biophys 324, 65-70による。
3決定せず。
4米国特許出願第20050208655号による。
【0083】
この結果を受けて発明者らは、さまざまなα1-3Gal結合およびα1-4Gal結合を有する基質使用時の基質特異性を検討することにした。図19に示すように、FragBは、血液型B型オリゴ糖構造に加えて、直鎖状のα1-3Gal結合(B-diおよび直鎖状B型)に高い活性を示した。興味深いことに、Galα1-3Gal二糖に対するFragBの活性は極めて高く(pH 6.8で約12 U/mg)、同酵素が、Galili抗原としても知られる直鎖状B型抗原(Galα1-3Galβ1-4GlcNAcβ1-R、Rは任意のオリゴ糖構造)の効率的な切断に適切なことが示唆される(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。Galili抗原は、旧世界ザルおよびヒトを除く大半の動物組織に存在する主要な異種移植障壁抗原である(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。例えばブタの組織および細胞のヒトへの異種移植は、主にヒトにおけるGalili抗原に対する高力価のIgG抗体の存在に起因する超急性拒絶を生じる。現時点では、酸性の至適pHを有するコーヒー豆由来の酵素などの反応性の広いα-ガラクトシダーゼが、細胞および組織からのGalili抗原の切断に使用されている。これは、無視できない問題となる可能性がある。というのは、全ての動物細胞は多量の、例えばgloboseriesのPk糖脂質構造(Galα1-4Galβ1-4Glcβ1-セラミド)を発現するからである。本明細書に記載されたような、より高い効率、特異性、および中性の至適pHを有するα-ガラクトシダーゼ酵素を使用することが、より望ましい。
【0084】
FragB α-ガラクトシダーゼはα1-3Gal結合に特異的であり、ならびに複数のα1-4Gal結合(P1およびPk)の有意な切断は観察されなかった。これは、S.グリセオプラヌスから得られたα-ガラクトシダーゼと類似しているが、コーヒー豆由来の酵素を含む他の任意の既知のα-ガラクトシダーゼとは異なる性質を示している。結果を表Vに要約する。
【0085】
(表V)α-ガラクトシダーゼの基質特異性
1US patent 20050208655 (Ref.)、およびZhu, A., Monahan, C, Zhang, Z., Hurst, R., Leng, L. & Goldstein, J. (1995) Arch Biochem Biophys 324, 65-70による。
2本研究。
3該当なし。
4アッセイの条件で容易に検出可能な活性。
5アッセイの条件で容易に検出可能でない活性。
【0086】
FragB α-ガラクトシダーゼが、直鎖状B型(Galiliエピトープ)の切断に関して効率の高い新規酵素である可能性があるという意外な知見を受けて、発明者らは、同酵素の、このようなエピトープの細胞表面からの除去に関する適合性および有効性に関する検討を行うことにした。ウサギの赤血球は、ヒト赤血球に類似の糖脂質および糖タンパク質のオリゴ糖鎖を含むが、ヒト赤血球中のオリゴ糖鎖の末端は、血液型に依存してABH構造であり、ウサギ赤血球のオリゴ糖の末端は、直鎖状B型(Galiliエピトープ)構造(Galβ1-3Galβ1-4GlcNAc)である。レクチンBandeeira(Griffonia) simplicifolia IB4は一般に、直鎖状B型(Galiliエピトープ)構造を検出するために使用されており(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)、および表VIに示されるように、このレクチンは、ウサギの赤血球を強く凝集するが、ヒトの赤血球を凝集しない。
【0087】
(表VI)IB4レクチンおよび常用モノクローナルAnti-Bタイピング試薬によるヒトおよびウサギの赤血球の凝集
【0088】
したがって、ウサギの赤血球は、直鎖状B型(Galiliエピトープ)構造の細胞表面からの免疫優性のα1-3Gal残基の除去におけるα-ガラクトシダーゼの効率を解析するための優れたモデルとなる。発明者らは過去に、精製済みのC.メニンゴセプティカム(meningosepticum)のα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ酵素を、グリシンpH 6.8緩衝液系を任意に使用して使用した、血液細胞からの免疫優性のA型抗原の除去に有効な変換過程を開発しているので、発明者らは、ヒト血液型B型の赤血球との比較に、FragBによるウサギ赤血球の切断に関する同じ条件を検討した。表VIIに示すように、FragBは効率的に、ウサギ赤血球のIB4レクチン凝集を、FragBによる血液型B型のヒト赤血球からの切断における必要量にほぼ匹敵する、極めて低用量で除去する。IB4レクチンによるウサギ赤血球の凝集は、10g/mlの酵素用量で酵素処理することで、ほぼ完全に消失し、極めてわずかな読み値(M+)のみを生じた。より高い濃度の酵素、またはより長いインキュベーションによって、反応性は完全に消失する。しかしながら、相同遺伝子であるFragAは、血液型Bをヒト赤血球から切断するだけである。
【0089】
(表VII)FragAグリカン修飾酵素またはFragBグリカン修飾酵素によって消化されたヒトおよびウサギの赤血球の凝集の結果
【0090】
この結果から、本明細書に新規のα-ガラクトシダーゼ遺伝子ファミリーの一部であると記載された、精製済みのFragBポリペプチドのイソ型が、ストレプトマイセスで観察される関連遺伝子を含む、同ファミリーの他の複数の成員とは異なる、固有の基質特異性を有することがわかる。さらに、記載されたFragBポリペプチドは、赤血球からの免疫優性の血液型B型抗原の酵素的除去に、ならびに血液細胞からの異種移植Galili抗原の除去に適している。したがって、精製済みのFragBポリペプチドは、その至適pH(最も好ましくはpH 6.5〜pH 7.5)、Galα1-3結合に対するその限定的な基質特異性、およびその観察される高い比活性に関して、他の従来の既知酵素より優れている。
【0091】
Galili抗原の免疫優性のα1-3結合末端ガラクトースの酵素的除去は、異種移植の領域における重要な応用である。Galili抗原は、動物からヒトへの器官、組織、腱、靱帯、および細胞の異種移植に極めて重要な障壁であり、ならびに超急性拒絶反応の主要因である(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。正常な健康な個人の血清IgGの約10%は、Galili抗原に対する抗体である。末端ガラクトース残基の酵素的除去によって、超急性拒絶を抑制する可能性のある、ヒトに存在する共通の構造が曝露される(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。
【0092】
細胞が洗浄され、および適切な緩衝液中で中性pHで一定の時間、FragB α-ガラクトシダーゼとともにインキュベートされる、ウサギ細胞上のGalili抗原の酵素的除去に関して、記載された過程によって、Galiliエピトープが効率的に除去される(表VII)。動物の器官、組織、腱、靱帯、および細胞に応用される類似の過程によって、曝露されたGalili抗原が効率的に除去される。
【0093】
好ましい過程は、動物の組織または細胞に、FragB α-ガラクトシダーゼ(または類似の酵素活性を有する遺伝子ファミリーの相同な成員)を、生理食塩水、グリシンなどの適切な緩衝液中で、または本明細書に記載された他の類似の緩衝液系中で、5.5〜8.0の中性pHで、およびより好ましくは6.5〜7.5のpHで接触させる段階を含む。免疫優性のα1-3結合末端ガラクトースの酵素的除去に必要とされる酵素の用量および時間は一般に、血液細胞に関して上述した切断パラメータに従うが、IB4レクチンなどの適切なレクチン、またはGaliliエピトープと反応する適切なモノクローナル抗体を使用する、免疫細胞学的手法、免疫組織学的手法、およびELISAなどの、レクチンおよび抗体ベースの免疫アッセイで決定されるように、実験的に評価される(Galili U (2005) Immunol Cell Biol 83:674-86)。反応終了後は、酵素によって修飾された動物の器官、組織、腱、靱帯、または細胞を、適切な緩衝液(生理食塩水など)で洗浄して、酵素溶液を除去する。動物の組織または細胞は、免疫優性のGalili抗原を含まないので、現在は、移植を必要とするヒト対象への適切な異種移植片として使用可能である。この例は、ヒト患者の断裂した前十字靭帯の再生に使用される、抗原的に修飾されたブタの靱帯である。これについては例えば、米国特許第6,402,783号を参照されたい。
【0094】
処理に先立ち、異種移植片の外表面に任意で穴を開けることで、異種移植片を実質的に非免疫原性とするために使用される薬剤の透過性を高めることができる。18ゲージのニードルなどの滅菌済みの外科用ニードルを使用して、この穿孔段階を実施することができるほか、複数の針を含む、くし型の装置を使用することができる。穿孔は、異種移植片の内部への望ましいアクセスを確立するために、さまざまなパターンで、およびさまざまな穴の間隔を設けて実施できる。穿孔は、レーザーを使用して実施することもできる。本発明の1つの態様では、1個、もしくは約3 mm離れた直線状に並んだ複数の穴が、異種移植片の外表面の周囲に開けられる。
【0095】
埋め込みに先だって、本発明の靱帯の異種移植片を、組織の柔軟性を高めるために、フィシンやトリプシンなどのタンパク質分解酵素で限定的に消化して処理するか、または抗石灰化剤、抗血栓コーティング剤、抗生物質、成長因子、もしくはレシピエントの膝関節への異種移植片の取り込みを促進する可能性のある他の薬剤でコーティングすることができる。本発明の靱帯の異種移植片をさらに既知の方法で、例えばグルタルアルデヒドまたはホルムアルデヒドによる追加的な処理、酸化エチレンによる滅菌、酸化プロピレンによる滅菌などで無菌化することができる。異種移植片は、使用時まで凍結保存が可能である。
【0096】
当業者であれば、本発明の靱帯の異種移植片、またはこの断片を、損なわれたヒト膝関節に、関節鏡を使用する既知の外科的手法で埋め込むことができる。靱帯移植片の正確かつ再現性のある留置を確実なものとする、関節鏡を使用する手法専用の装置は当業者に既知である。最初に、膝関節を対象とした、診断目的の一通りの関節鏡検査が既知の方法で行われる。ひどく損なわれた靱帯を、手術用シェーバーで除去する。靱帯用の解剖学的な挿入部位を同定し、および骨プラグを収容するための穴をドリルで開ける。骨プラグのサイズは、幅が約9〜10 mm、奥行きが約9〜10 mm、長さが約20〜40 mmとすることができる。異種移植靱帯をドリル穴に通して、締まり嵌めねじで固定する。閉鎖は常用の手順で行われる。
【0097】
したがって、本発明のポリペプチドを使用することで、本明細書に記載された修飾手順による、多種多様な組織タイプからのGalili抗原の除去が可能となり、および当業者によって、提供された内容を考慮して、特定の組織にも応用される。このように修飾された組織は、以下に記載されるような、非免疫原性の異種移植が必要な、さまざまな移植手順に使用される:例えば、実質的に非免疫原性の注射可能なコラーゲンの作製(米国特許第7,064,187号を参照);骨の異種移植片の作製(米国特許第6,972,041号を参照);軟部組織およびプロテオグリカン低減軟部組織の異種移植片の作製(米国特許第6,758,865号および第6,455,309号を参照);異種移植心臓弁の作製(米国特許第6,383,732号を参照);ならびに半月板の異種移植片の作製(米国特許第6,093,204号および第5,984,858号を参照)。
【0098】
他の特に好ましい態様では本発明は、組織マトリックス、好ましくはα1,3-ガラクトース欠損組織から作製されたマトリックスを提供する(米国特許第6,933,326号および米国特許出願第20050159822号および第20050028228号を参照)。このような組織マトリックスの作製法および使用法は、上記の特許および特許出願に記載されており、ならびに組織の脱ガラクトシル化は、本明細書に記載された新規のα3ガラクトシダーゼ(SEQ ID NO: 2〜9、またはこの活性断片もしくは機能的等価物)を使用することで達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清学的タイピングによって判定される、免疫優性のB型エピトープを欠くB型赤血球またはAB型赤血球を含む、修飾された赤血球。
【請求項2】
血液細胞が、免疫優性のB型エピトープを欠くが、α1,3Galエピトープまたはα1,4Galエピトープのいずれかを保持する、請求項1記載の修飾された赤血球。
【請求項3】
以下の段階を含む方法で調製される、修飾された赤血球:B型赤血球またはAB型赤血球を得る段階、赤血球を中性pHの緩衝液に懸濁する段階、ならびに赤血球に、α3ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドを接触させることで、赤血球から免疫優性のB型エピトープを実質的に切断するが、α1,3Galエピトープまたはα1,4Galエピトープを切断しない段階。
【請求項4】
赤血球の処理に使用される酵素が、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、もしくはSEQ ID NO: 9によって特定される酵素のポリペプチド配列、またはこれをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項3記載の修飾された赤血球。
【請求項5】
赤血球の酵素的処理が約6.0〜8.0のpHで行われる、請求項4記載の修飾された赤血球。
【請求項6】
赤血球の酵素的処理が約6.5〜7.5のpHで行われる、請求項5記載の修飾された赤血球。
【請求項7】
赤血球の酵素的処理が約7.0〜7.5のpHで行われる、請求項5記載の修飾された赤血球。
【請求項8】
赤血球の酵素的処理が、血液細胞1 mlあたり1〜10μgの酵素を使用して行われる、請求項5記載の修飾された赤血球。
【請求項9】
以下の段階を含む、赤血球を修飾する方法:B型またはAB型の赤血球を得る段階、これを中性pHの緩衝液に懸濁する段階、ならびにこれに、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、もしくはSEQ ID NO: 9によって特定される配列を有するポリペプチドを接触させることで、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される、B型またはAB型の赤血球上の分岐状の免疫優性のB型エピトープを切断する段階。
【請求項10】
以下の段階を含む、対象を治療する方法:抗B型抗体に対して血清反応陽性である、血液を必要とするヒト対象を同定する段階;請求項1記載の修飾された血液細胞調製物、または請求項3記載の方法で得られた血液細胞調製物を得る段階、ならびに;血液細胞調製物を対象に輸血する段階であって、対象は輸血された血液細胞を免疫学的に拒絶しない、段階。
【請求項11】
SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、またはSEQ ID NO: 9によって特定される配列を含むポリペプチドを含み、アルファガラクトシダーゼの分岐基質特異性および中性の至適pHを示す、精製された酵素。
【請求項12】
以下を含む、精製された酵素:
(a)SEQ ID. NO: 2とのアラインメントに従って番号が付された、以下の配列中の少なくとも10アミノ酸を有するポリペプチド:
残基10におけるM;残基47におけるG;残基84におけるG;残基86におけるY;残基99におけるY;残基102におけるN;残基114におけるK;残基127におけるT;残基130におけるG;残基132におけるG;残基139におけるG;残基156におけるN;残基160におけるD;残基164におけるP;残基205におけるG;残基277におけるR;残基281におけるR;残基287におけるF;残基308におけるG;残基312におけるQ;残基317におけるI;残基333におけるR;残基340におけるD;残基346におけるG;残基349におけるG;残基360におけるG;残基363におけるD;残基364におけるD;残基367におけるN;残基369におけるH;残基370におけるG;残基371におけるT;残基396におけるG;残基462におけるE;残基463におけるN;残基465におけるT;残基467におけるT;残基468におけるP;残基483におけるR;残基484におけるG;残基486におけるL;残基489におけるT;残基498におけるN;残基508におけるI;残基513におけるD;残基517におけるW;残基519におけるE;残基521におけるG;残基525におけるD;残基528におけるI;残基531におけるN;残基533におけるF;残基549におけるI;残基553におけるP;残基573におけるI;残基590におけるA;残基595におけるG;残基601におけるN;および残基629におけるI;
(b)ポリペプチドは、SEQ ID NO: 2と少なくとも20%の同一性を有し、ならびにα3ガラクトシダーゼ活性を有する。
【請求項13】
配列DD(P/A)(V/I)N(V/I)HGTを有する9個の隣接アミノ酸を含む、α3ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドを含む、精製された酵素。
【請求項14】
配列:
(Xは任意のアミノ酸)を有する21個の隣接アミノ酸を含む、α3ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドを含む、精製された酵素。
【請求項15】
機能的等価物をさらに含む、請求項11、12、13、または14の精製された酵素。
【請求項16】
シグナル配列を含まない短縮型バリアントを含む、請求項15記載の精製された酵素。
【請求項17】
請求項12、13、14、15、または16のアルファガラクトシダーゼ酵素を使用して、赤血球が酵素的に処理され、免疫優性のB型エピトープが除去される、請求項3記載の修飾された赤血球。
【請求項18】
以下の段階を含む、組換え酵素を作製する方法:SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8をコードする核酸を得る段階;核酸を、それをトランスフェクトした細胞で発現させる段階;酵素をコードする核酸の発現を誘導する段階;ならびに、発現された酵素を細胞から精製する段階であって、酵素はα3ガラクトシダーゼ活性を有する、段階。
【請求項19】
以下を含む、非天然の原核細胞:野生型の原核細胞中には見られない発現ベクターであって、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、またはSEQ ID NO: 9によって特定される配列を含む、α3ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列を有する発現ベクター。
【請求項20】
Galα1-3結合の切断に対しては限定的な特異性を有するが、Galα1-4結合の切断に対しては有さない、請求項11または請求項12の精製された原核生物α-ガラクトシダーゼ。
【請求項21】
血液型B型構造におけるような、分岐状Galα1-3結合の切断に対する特異性を有する、請求項20記載の精製された原核生物α-ガラクトシダーゼ。
【請求項22】
直鎖状B型構造および血液型B型構造におけるような、直鎖状および分岐状のGalα1-3結合の切断に対する特異性を有する、請求項20記載の精製された原核生物α-ガラクトシダーゼ。
【請求項23】
直鎖状および分岐状のGalα1-3結合を5.0〜7.5のpH範囲で切断する、請求項11、12、20、および22の精製された原核生物α-ガラクトシダーゼ。
【請求項24】
以下の段階を含む、異種移植用の組織を調製する方法:非ヒト動物供給源から組織を得る段階;組織を、α3-ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドとともにインキュベートすることで、免疫優性のα1-3結合末端ガラクトース残基を組織から除去する段階;ならびに、ポリペプチドおよび酵素的に除去されたガラクトースから組織を単離することで、組織をヒトへの異種移植に適切な状態にする段階。
【請求項25】
組織がブタの結合組織である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
ブタの結合組織が靱帯である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
組織が、肝臓、腎臓、または心臓を含む器官である、請求項24記載の方法。
【請求項28】
組織が、非免疫原性の注射可能なコラーゲン;骨の異種移植片;軟部組織およびプロテオグリカン低減軟部組織の異種移植片;異種移植心臓弁;半月板の異種移植片;ならびに組織マトリックスであって、SEQ ID NO: 2〜9のいずれかのα3ガラクトシダーゼを使用して修飾されたα1,3-ガラクトース欠損組織である、請求項24記載の方法。
【請求項1】
血清学的タイピングによって判定される、免疫優性のB型エピトープを欠くB型赤血球またはAB型赤血球を含む、修飾された赤血球。
【請求項2】
血液細胞が、免疫優性のB型エピトープを欠くが、α1,3Galエピトープまたはα1,4Galエピトープのいずれかを保持する、請求項1記載の修飾された赤血球。
【請求項3】
以下の段階を含む方法で調製される、修飾された赤血球:B型赤血球またはAB型赤血球を得る段階、赤血球を中性pHの緩衝液に懸濁する段階、ならびに赤血球に、α3ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドを接触させることで、赤血球から免疫優性のB型エピトープを実質的に切断するが、α1,3Galエピトープまたはα1,4Galエピトープを切断しない段階。
【請求項4】
赤血球の処理に使用される酵素が、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、もしくはSEQ ID NO: 9によって特定される酵素のポリペプチド配列、またはこれをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項3記載の修飾された赤血球。
【請求項5】
赤血球の酵素的処理が約6.0〜8.0のpHで行われる、請求項4記載の修飾された赤血球。
【請求項6】
赤血球の酵素的処理が約6.5〜7.5のpHで行われる、請求項5記載の修飾された赤血球。
【請求項7】
赤血球の酵素的処理が約7.0〜7.5のpHで行われる、請求項5記載の修飾された赤血球。
【請求項8】
赤血球の酵素的処理が、血液細胞1 mlあたり1〜10μgの酵素を使用して行われる、請求項5記載の修飾された赤血球。
【請求項9】
以下の段階を含む、赤血球を修飾する方法:B型またはAB型の赤血球を得る段階、これを中性pHの緩衝液に懸濁する段階、ならびにこれに、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、もしくはSEQ ID NO: 9によって特定される配列を有するポリペプチドを接触させることで、血清学的タイピングまたは赤血球凝集アッセイによって決定される、B型またはAB型の赤血球上の分岐状の免疫優性のB型エピトープを切断する段階。
【請求項10】
以下の段階を含む、対象を治療する方法:抗B型抗体に対して血清反応陽性である、血液を必要とするヒト対象を同定する段階;請求項1記載の修飾された血液細胞調製物、または請求項3記載の方法で得られた血液細胞調製物を得る段階、ならびに;血液細胞調製物を対象に輸血する段階であって、対象は輸血された血液細胞を免疫学的に拒絶しない、段階。
【請求項11】
SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、またはSEQ ID NO: 9によって特定される配列を含むポリペプチドを含み、アルファガラクトシダーゼの分岐基質特異性および中性の至適pHを示す、精製された酵素。
【請求項12】
以下を含む、精製された酵素:
(a)SEQ ID. NO: 2とのアラインメントに従って番号が付された、以下の配列中の少なくとも10アミノ酸を有するポリペプチド:
残基10におけるM;残基47におけるG;残基84におけるG;残基86におけるY;残基99におけるY;残基102におけるN;残基114におけるK;残基127におけるT;残基130におけるG;残基132におけるG;残基139におけるG;残基156におけるN;残基160におけるD;残基164におけるP;残基205におけるG;残基277におけるR;残基281におけるR;残基287におけるF;残基308におけるG;残基312におけるQ;残基317におけるI;残基333におけるR;残基340におけるD;残基346におけるG;残基349におけるG;残基360におけるG;残基363におけるD;残基364におけるD;残基367におけるN;残基369におけるH;残基370におけるG;残基371におけるT;残基396におけるG;残基462におけるE;残基463におけるN;残基465におけるT;残基467におけるT;残基468におけるP;残基483におけるR;残基484におけるG;残基486におけるL;残基489におけるT;残基498におけるN;残基508におけるI;残基513におけるD;残基517におけるW;残基519におけるE;残基521におけるG;残基525におけるD;残基528におけるI;残基531におけるN;残基533におけるF;残基549におけるI;残基553におけるP;残基573におけるI;残基590におけるA;残基595におけるG;残基601におけるN;および残基629におけるI;
(b)ポリペプチドは、SEQ ID NO: 2と少なくとも20%の同一性を有し、ならびにα3ガラクトシダーゼ活性を有する。
【請求項13】
配列DD(P/A)(V/I)N(V/I)HGTを有する9個の隣接アミノ酸を含む、α3ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドを含む、精製された酵素。
【請求項14】
配列:
(Xは任意のアミノ酸)を有する21個の隣接アミノ酸を含む、α3ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドを含む、精製された酵素。
【請求項15】
機能的等価物をさらに含む、請求項11、12、13、または14の精製された酵素。
【請求項16】
シグナル配列を含まない短縮型バリアントを含む、請求項15記載の精製された酵素。
【請求項17】
請求項12、13、14、15、または16のアルファガラクトシダーゼ酵素を使用して、赤血球が酵素的に処理され、免疫優性のB型エピトープが除去される、請求項3記載の修飾された赤血球。
【請求項18】
以下の段階を含む、組換え酵素を作製する方法:SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、またはSEQ ID NO: 8をコードする核酸を得る段階;核酸を、それをトランスフェクトした細胞で発現させる段階;酵素をコードする核酸の発現を誘導する段階;ならびに、発現された酵素を細胞から精製する段階であって、酵素はα3ガラクトシダーゼ活性を有する、段階。
【請求項19】
以下を含む、非天然の原核細胞:野生型の原核細胞中には見られない発現ベクターであって、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 5、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8、またはSEQ ID NO: 9によって特定される配列を含む、α3ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列を有する発現ベクター。
【請求項20】
Galα1-3結合の切断に対しては限定的な特異性を有するが、Galα1-4結合の切断に対しては有さない、請求項11または請求項12の精製された原核生物α-ガラクトシダーゼ。
【請求項21】
血液型B型構造におけるような、分岐状Galα1-3結合の切断に対する特異性を有する、請求項20記載の精製された原核生物α-ガラクトシダーゼ。
【請求項22】
直鎖状B型構造および血液型B型構造におけるような、直鎖状および分岐状のGalα1-3結合の切断に対する特異性を有する、請求項20記載の精製された原核生物α-ガラクトシダーゼ。
【請求項23】
直鎖状および分岐状のGalα1-3結合を5.0〜7.5のpH範囲で切断する、請求項11、12、20、および22の精製された原核生物α-ガラクトシダーゼ。
【請求項24】
以下の段階を含む、異種移植用の組織を調製する方法:非ヒト動物供給源から組織を得る段階;組織を、α3-ガラクトシダーゼ活性を有するポリペプチドとともにインキュベートすることで、免疫優性のα1-3結合末端ガラクトース残基を組織から除去する段階;ならびに、ポリペプチドおよび酵素的に除去されたガラクトースから組織を単離することで、組織をヒトへの異種移植に適切な状態にする段階。
【請求項25】
組織がブタの結合組織である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
ブタの結合組織が靱帯である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
組織が、肝臓、腎臓、または心臓を含む器官である、請求項24記載の方法。
【請求項28】
組織が、非免疫原性の注射可能なコラーゲン;骨の異種移植片;軟部組織およびプロテオグリカン低減軟部組織の異種移植片;異種移植心臓弁;半月板の異種移植片;ならびに組織マトリックスであって、SEQ ID NO: 2〜9のいずれかのα3ガラクトシダーゼを使用して修飾されたα1,3-ガラクトース欠損組織である、請求項24記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−268794(P2010−268794A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125715(P2010−125715)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【分割の表示】特願2008−538088(P2008−538088)の分割
【原出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(506041648)ベリコ メディカル インコーポレイティッド (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【分割の表示】特願2008−538088(P2008−538088)の分割
【原出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(506041648)ベリコ メディカル インコーポレイティッド (9)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]