説明

α−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造方法

【課題】α−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造に際し、中和物を効果的に漂白し、淡色であるα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩水性ペーストを得る方法。
【解決手段】脂肪酸アルキルエステルをスルホン化し、スルホン化物を得る工程(1)と、前記工程(1)で得た反応生成物に低級アルコールを添加してエステル化する工程(2)と、前記工程(2)で得た反応生成物にアルカノールアミン水溶液を添加して、界面活性剤含量が25〜40質量%の中和物を得る工程(3)と、前記工程(3)で得た中和物を漂白する工程(4)を有することを特徴とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は界面活性剤として用いられ、特に洗浄力が高く、生分解性が良好で、環境に対する影響が少ないため、洗浄剤材料としての性能が高く評価されている。α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は、脂肪酸アルキルエステルをスルホン化ガスと接触させてスルホン化し、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルを製造し、これを中和してペースト状のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有物として得るのが一般的である。
【0003】
従来のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の製造方法の一例として、原料の脂肪酸アルキルエステルにスルホン化ガスを接触(ガス接触操作)させた後、低級アルコールを添加してエステル化(エステル化操作)してスルホン化物を得(以上、スルホン化工程)、次いで得られたスルホン化物をアルカリで中和し(中和工程)、得られた中和物を漂白して(漂白工程)、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を得る製造プロセスがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
スルホン化工程は、スルホン化ガスを導入し、脂肪酸メチルエステルをスルホン化する工程である。即ち、原料をスルホン化ガスと接触させると、以下の一般式(I)で示したように、初めにアルコキシ基にSOが挿入する反応がおこり、SO一分子付加体(以下、単に一分子付加体という)が生成し、さらにSOと反応してα位にスルホン基が導入され、SO二分子付加体(以下、単に二分子付加体という)が生成し、最後にアルコキシ基に挿入したSOが脱離してα−スルホ脂肪酸アルキルエステルが生成する。スルホン化工程には、必要に応じて、ガス接触操作の後に、熟成操作を設けることができる。
【0005】
【化1】



【0006】
熟成操作は、二分子付加体からのSOの脱離を促進する工程である。ガス接触操作において、スルホン化ガスと原料は、理論的には等モルで反応する。しかしながら、実際は気液反応であり、反応が逐次反応であるため、スルホン化ガスは等モルよりも過剰に用いられる。例えば、原料に対して1.2倍モルのSOを含むスルホン化ガスを用いる。そして、上述のように反応が逐次反応であるため、スルホン化ガスと接触させた反応物中には、一分子付加体、二分子付加体、未反応の脂肪酸アルキルエステル及びその他の副生物が含まれている。このため、熟成操作を設けて、二分子付加体からのSOの脱離を促進し、最終的に平衡状態とする。このように熟成操作によって平衡に達したスルホン化物中には、少なくとも原料に対して過剰分のSOのモル数に相当する二分子付加体が存在する。二分子付加体を中和すると洗浄効果に寄与しないα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩となるため、洗浄剤用途においては二分子付加体の含有量をできるだけ低下せしめる必要がある。
【0007】
そこで、熟成操作後に、低級アルコールを添加して、以下の一般式(II)で示した反応によって、二分子付加体をα−スルホ脂肪酸アルキルエステルとする。(II)式から判るように、二分子付加体をエステル化したα−スルホ脂肪酸アルキルエステルが生成するため、この処理をエステル化操作と称している。
【0008】
【化2】



【0009】
続く中和工程は、スルホン化工程で得られたα−スルホ脂肪酸アルキルエステルをアルカリで中和して中和物を得る工程である。
ここで、脂肪酸アルキルエステルのスルホン化においては、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルが着色するため、着色したα−スルホ脂肪酸アルキルエステルを中和して得られるα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を漂白する漂白工程を設ける。漂白工程では、過酸化水素水溶液等の漂白剤を添加し、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を漂白する。こうして得られたペースト状のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有物は、用途に応じて濃縮、さらには粉砕等の加工がなされる。
【0010】
ところで、陰イオン界面活性剤の水性スラリー粘度は、活性剤濃度が低い範囲においては活性剤濃度の増加に正比例するが、ある程度濃度が大きくなると、特定濃度範囲で粘度が低下し、この濃度範囲よりも大きくなると粘度が上昇するという特有の挙動を示す。このため、製造効率と粘度低下の観点から、前記中和物は、低粘度を示す活性剤濃度(AI濃度)に調整される。例えばα−スルホ脂肪酸アルキルエステルナトリウム塩の場合、一般的に60〜80重量%で低粘度を示すことが知られており、この濃度範囲において、続く漂白工程が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−64248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一方、近年液体洗剤組成物の需要が高まっている。α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を液体洗剤に配合する場合、水への低温溶解性の観点からナトリウム塩よりもアルカノールアミン塩が適していると考えられるが、本発明者らの検討によれば、該アルカノールアミン塩は、ナトリウム塩と比較して、粘度低下領域における漂白性が劣る。
そのため、アルカノールアミン塩の製造に際し、中和物を効果的に漂白できる技術が求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造に際し、中和物を効果的に漂白し、淡色であるα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩水性ペーストを得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、脂肪酸エステルをスルホン化した後、低級アルコールを添加してエステル化し、反応生成物にアルカノールアミン水溶液を添加して、界面活性剤含量が25〜40質量%の中和物を得た後、漂白することにより、効果的に漂白できることを見出し、本発明を完成した。
上記課題を解決する本発明は、脂肪酸アルキルエステルをスルホン化し、スルホン化物を得る工程(1)と、
前記工程(1)で得た反応生成物に低級アルコールを添加してエステル化する工程(2)と、
前記工程(2)で得た反応生成物にアルカノールアミン水溶液を添加して、界面活性剤含量が25〜40質量%の中和物を得る工程(3)と、
前記工程(3)で得た中和物を漂白する工程(4)を有することを特徴とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中和物を効果的に漂白する淡色のα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造方法は、スルホン化工程と、中和工程と、漂白工程とを有するものである。
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
[工程(1)]
工程(1)は、脂肪酸アルキルエステルをスルホン化する工程である。
スルホン化工程は、脂肪酸アルキルエステルにスルホン化ガスを接触させ(ガス接触操作)、脂肪酸アルキルエステルをスルホン化してα−スルホ脂肪酸アルキルエステルを含むスルホン化物を得る工程である。スルホン化は、例えば、以下の方法により行う。まず、反応槽内に脂肪酸アルキルエステルと、必要に応じて着色抑制剤を仕込み、加熱し、原料液相とする。次いで、この原料液相に、スルホン化ガスを、好ましくは一定流速で導入し、ガススパージャーから複数の気泡を発生させると共に撹拌機の回転によって原料液相中に分散させる。この回転によって着色抑制剤の粒子が原料液相中に均一に分散する。
【0017】
脂肪酸アルキルエステルは、典型的には下記(III)式に表される物質である。
【0018】
【化3】

【0019】
前記(III)中、Rは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、炭素数8〜20であり、炭素数10〜18が好ましく、炭素数10〜16がより好ましい。前記(III)式中、Rは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、炭素数1〜6であり、炭素数1〜3が好ましい。
【0020】
脂肪酸アルキルエステルは、牛脂、魚油、ラノリン等から誘導される動物系油脂;ヤシ油、パ−ム油、大豆油等から誘導される植物系油脂;α−オレフィンのオキソ法から誘導される合成脂肪酸アルキルエステル等のいずれでもよく、特に限定はされない。具体的には、ラウリン酸メチル、エチル又はプロピル;ミリスチン酸メチル、エチル又はプロピル;パルミチン酸メチル、エチル又はプロピル;ステアリン酸メチル、エチル又はプロピル;硬化牛脂脂肪酸メチル、エチル又はプロピル;硬化魚油脂肪酸メチル、エチル又はプロピル;ヤシ油脂肪酸メチル、エチル又はプロピル;パ−ム油脂肪酸メチル、エチル又はプロピル;パ−ム核油脂肪酸メチル、エチル又はプロピル等を例示することができ、これらは単独、あるいは2種以上混合して用いることができる。また、ヨウ素価は、低い方が色調と臭気の両観点において望ましく、好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.2以下とされる。
【0021】
スルホン化工程で得られるα−スルホ脂肪酸アルキルエステルは、典型的には下記(IV)式に表される物質である。
【0022】
【化4】

【0023】
スルホン化ガスとしては、例えば、SOガスや発煙硫酸又はこれらを脱湿した空気で希釈したものが挙げられる。
スルホン化ガスの添加量は、脂肪酸アルキルエステルに対して、等倍モル以上であり、1.0〜2.0倍モルが好ましく、1.1〜1.5倍モルがより好ましい。
【0024】
着色抑制剤としては、一価の金属イオンを有し、平均粒径250μm以下の無機硫酸塩又は有機酸塩が好適である。無機硫酸塩は、一価の金属イオンを有する粉末状の無水塩であれば特に限定されず、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム等が例示される。無機硫酸塩は、着色抑制効果が高く、安価なものが多く、さらに洗浄剤に配合される成分なので、最終的にα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩(製品)から除去する必要がない。また、有機酸塩としては蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、酢酸ナトリウム等が好ましい。
着色抑制剤の添加量は、原料の脂肪酸アルキルエステルに対して0.1〜30質量%、好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは2〜20質量%である。0.1質量%未満の場合は添加効果が得られない。30質量%を超えて添加しても、着色抑制効果が飽和し、もはや着色抑制効果の向上が図れない場合がある。
【0025】
スルホン化工程のガス接触操作における反応温度は、脂肪酸アルキルエステルが流動性を有する温度とされ、脂肪酸アルキルエステルの融点以上であり、好ましくは融点以上であって、融点より70℃高い温度までの範囲で決定することが好ましい。
スルホン化工程におけるスルホン化ガスの導入時間は、10〜240分程度とされる。
【0026】
スルホン化の方法としては、流下薄膜式スルホン化法、回分式スルホン化法等のいずれのスルホン化法であってもよい。また、スルホン化反応方式としては槽型反応、フィルム反応、管型気液混相反応等の方式が用いられる。着色抑制剤を原料中に均一に分散させた状態でスルホン化ガスと接触させることが好ましいため、特に回分式スルホン化法においては、槽反応方式が好適である。
【0027】
<熟成操作>
スルホン化工程には、ガス接触操作の後、必要に応じて熟成操作を設けることができる。α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の収率向上の観点からは、熟成操作を設けることが好ましい。
熟成操作は、スルホン化工程の後、所定の温度に維持して、スルホン化工程で生成した二分子付加体からのSOの脱離を促進する工程である。
熟成操作は、例えば、原料液層とスルホン化ガスとを接触させた反応槽内で、攪拌して熟成することができる。また、例えば、スルホン化工程にフィルム式反応、管型気液混相反応等を用いた場合には、スルホン化物を他の槽型反応器に移して、熟成操作を行う。
【0028】
熟成操作における反応温度(熟成温度)は、例えば、70〜100℃の範囲で決定することができる。熟成温度が70℃未満であると反応が速やかに進行しにくく、100℃を超えると着色が著しくなるためである。
熟成操作における反応時間(熟成時間)は、例えば、1〜120分間の範囲で決定することが好ましい。
【0029】
[工程(2)]
工程(2)は、前記工程(1)で得た反応生成物に低級アルコールを添加してエステル化する工程(2)である。
エステル化操作は、ガス接触操作、さらには熟成操作を経て得られたスルホン化物に、低級アルコールを添加し、エステル反応を進行させるものである。エステル化操作は、例えば、スルホン化物に低級アルコールを添加し、所定の温度に維持しながら攪拌するものが挙げられる。
【0030】
エステル化操作で用いる低級アルコールとは、炭素数1〜6のものである。中でも、低級アルコールは、その炭素数が原料の脂肪酸アルキルエステルのアルコール残基の炭素数と等しいものが好ましい。
低級アルコールの添加量は二分子付加体に対して0.5〜50倍モルであり、好ましくは0.8〜2.0倍モルである。
【0031】
エステル化操作における反応温度は、50〜100℃であり、好ましくは50〜90℃である。
エステル化操作における反応時間は、5〜120分間の範囲で決定することが好ましい。
【0032】
[工程(3)]
工程(3)は、前記工程(2)で得た反応生成物にアルカノールアミン水溶液を添加して、界面活性剤含量が25〜40質量%の中和物を得る中和工程である。
【0033】
α−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩は、典型的には下記(V)式に表される物質である。
【0034】
【化5】

【0035】
中和反応は、たとえば、反応槽内に前記エステル化物を投入し、所定の温度に維持したまま、アルカノールアミン水溶液を添加・混合することにより実施できる。
またループ中和方式により中和を行ってもよい。この方式では、ループ状の配管(リサイクルループ)内で、中和処理した中和物の一部(リサイクル中和物)を循環させ、過激な中和反応を裂け、極力マイルドな中和反応を行うことができ、生成したα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の加水分解と、それに伴う副生物の生成を防止できる。
【0036】
中和温度は、30〜140℃が好ましく、50〜140℃がより好ましく、50〜80℃がさらに好ましい。中和温度が低すぎると、中和物の粘度が上昇し、移送や攪拌等の製造適正が悪化するおそれがある。中和温度が高すぎると、得られるアルカノールアミン塩が加水分解されやすくなり、色調劣化や副生物の増加が生じやすくなる。
中和時間は5〜60分間が好ましく、20〜60分間がより好ましい。
【0037】
中和時のpHは、4〜7が好ましい。pH4未満であると、中和物を保管する際の安定性が劣り、保管中に副生物のジ塩が増加しやすい。pH7を超えると、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は加水分解されやすくなり、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩よりも洗浄力が低いジ塩が増加する傾向にあり好ましくない。加えて、中和物を保管する際の安定性が劣り、保管中に副生物のジ塩が増加しやすくなる。
【0038】
また、上記中和物中には、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩およびα−スルホ脂肪酸アルキルエステルのほか、副生物であるα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩)が含まれることがある。ジ塩としては、たとえば下記一般式(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化6】

【0040】
α−スルホ脂肪酸アルキルエステルやジ塩も、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩と同様、界面活性剤としての機能を有している。
したがって、本発明において、AI濃度は、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩と、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルと、α−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩との合計の濃度として求められる。
中和物のAI濃度は、25〜40質量%が好ましい。25質量%以上であると製造効率が向上し、40質量%以下であると本発明の効果に優れる。中和物のAI濃度は、水の添加量、供給量により調節できる。
【0041】
中和剤として用いるアルカノールアミンとしては、たとえば、アンモニア(NH)の水素原子の1〜3個が炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基で置換されたものが挙げられ、特にモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミンが好ましい。
アルカノールアミン水溶液の添加量は、中和物の目的のpH、アルカノールアミンのモル濃度等を考慮して適宜調整すればよい。
【0042】
中和物のAI濃度は、中和物を濃縮することにより、調整してもよい。
濃縮は、公知の方法により実施でき、たとえば該中和物を常圧下、又は減圧下加熱することにより可能である。
加熱温度は、30〜120℃以下が好ましく、50〜110℃以下がより好ましく、70〜100℃以下がさらに好ましい。該温度が高すぎると、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の分解や色調の劣化が生じるおそれがある。該温度が低すぎると、濃縮に時間がかかり製造効率が低下する。
加熱は、公知の加熱装置、濃縮機等を用いて実施できる。たとえば加熱装置としては、ホットプレート、薄膜蒸発機、リサイクルフラッシュ、エバポレータ、蒸発皿等が挙げられる。
濃縮は、得られる濃縮物(水性ペースト)の水分量が40〜70質量%となるように行うことが好ましい。該水分量は、50〜60質量%がより好ましい。水分量が上記範囲内であると、ハンドリング性が良好である等の利点がある。
【0043】
[工程(4)]
工程(4)は、前記工程(3)で得た中和物を漂白する工程である。
(漂白工程)
漂白工程は、前記中和工程で得られる中和物を漂白して漂白物を得る工程である。
本漂白工程を設けることにより、中和工程までに生じた着色物を漂白し、良好な色調のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を得ることができる。
漂白工程は、たとえば、中和物に漂白剤を添加してα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩を漂白するものが挙げられる。
【0044】
漂白剤には、たとえば過酸化水素の水溶液が好適に用いられる。
漂白剤中の過酸化水素の濃度は、漂白工程における水分量、反応時間(漂白時間)又は漂白工程における反応時間(漂白温度)を勘案して決定することができる。
漂白剤の添加量は、中和物中のアニオン界面活性剤(α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩とα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩))100質量部に対して、漂白剤の純分で0.1〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることがさらに好ましい。
【0045】
漂白温度は、漂白剤中の過酸化水素の濃度、漂白剤の添加量、漂白時間を勘案して決定することができ、例えば、50〜120℃の範囲で決定することが好ましく、60〜90℃の範囲で決定することがより好ましい。50℃未満では、漂白物の粘度が上昇し、移送や撹拌等の製造適正が悪化する。120℃を超えるとα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩は加水分解されやすくなり、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩の色調劣化が生じると共に、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩よりも洗浄力が低いジ塩が増加する傾向にあり好ましくない。
漂白時間は、漂白剤中の過酸化水素の濃度、漂白剤の添加量、漂白温度を勘案して決定することができ、例えば、30〜600分間の範囲で決定することが好ましく、60〜480分間の範囲で決定することがより好ましい。
【0046】
漂白工程における漂白方法としては、例えば、反応槽内に中和物を投入し、所定の温度に維持したまま、漂白剤を添加・混合する方法が挙げられる。
また、例えば、反応槽で得られた漂白物の一部を再び反応槽に戻す循環系を設け、該循環系に中和物を添加し、次いで漂白剤を添加する方法が挙げられる。
また、ループ方式の漂白も挙げられ、具体的には、循環ラインに、漂白剤と混合された中和物の一部を循環させながら、そこへ中和物と漂白剤をそれぞれ添加する方法が挙げられる。
さらに、漂白剤を添加・混合した後、流通管方式によって漂白反応を進行させてもよい。
【0047】
上記のようにして得られた、α−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の水性ペーストは、色調の良好なものである。
該水性ペーストは、そのまま製品としてもよく、液体洗剤組成物等の界面活性剤含有組成物の調製に用いてもよい。また、さらに、成形、造粒等の加工を施してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
【0049】
(測定方法)
<アニオン界面活性剤濃度の測定>
試料0.3gを200mLメスフラスコに正確に量り取り、イオン交換水(蒸留水)を標線まで加えて超音波で溶解させた。溶解後、約25℃まで冷却し、この中から5mLをホールピペットで滴定瓶にとり、MB指示薬(メチレンブルー)25mLとクロロホルム15mLを加え、さらに0.004mol/L塩化ベンゼトニウム溶液を5mL加えた後、0.002mol/Lアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム溶液で滴定した。滴定は、その都度滴定瓶に栓をして激しく振とうした後静置し、白色板を背景として両層が同一色調になった点を終点とした。同様に空試験(試料を使用しない以外は上記と同じ試験)を行い、滴定量の差からアニオン界面活性剤濃度を算出した。
【0050】
<色調測定>
試料をアニオン界面活性剤濃度5質量%の溶液とし、該水溶液について40mm光路長、No.42ブルーフィルターを用いてクレットサマーソン光電光度計(Klett−Summerson Photoelectric Colorimeter、model 900−3)で測定した。スルホン化物の測定の場合は溶媒にエタノール(関東化学製 鹿1級)を使用し、中和物等のα−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩含有ペーストの場合は水を使用した。色調の測定結果は、数値が小さいほど白色に近く、過酸化水素水添加後24hr測定値が100以下であれば良好な淡色であると判断する。
【0051】
(実施例1〜4、比較例1〜5、参考例1)
脂肪酸メチルエステルとして、パーム核油、ヤシ油、パーム油をエステル化し蒸留したパステルM−16(商品名、ライオン株式会社製)と、パステルM−180(商品名、ライオン株式会社製)とを質量比8:2に混合した後、さらに水添処理してヨウ素価を0.05以下に低減した脂肪酸メチルエステル混合物を用いた。
水添処理は常法に従い、水添触媒として、SO−850(商品名、堺化学株式会社製)を、脂肪酸メチルエステルに対して0.1質量%添加し、170℃、1時間の条件で行った。なお、水添処理の後、濾過により触媒を除去した。スルホン化ガスは、サルファン(商品名、日曹金属工業製)を加熱して気化させ、そこへ窒素ガスを導入して調製したもの(スルホン化ガス濃度:8vol%)を用いた。着色抑制剤は、微粉芒硝(工業グレード、粒径40〜50μm、四国化成株式会社製)を使用した。
槽型スルホン化反応器に、脂肪酸メチルエステル混合物100質量部と微粉芒硝5質量部とを投入し、スルホン化ガスを反応モル比(SO/脂肪酸メチルエステル)=1.2で添加し、脂肪酸メチルエステル混合物をスルホン化(80℃、120分)し(ガス接触操作)、熟成(80℃、30分)し(熟成操作)、さらにα−スルホ脂肪酸アルキルエステル100質量部に対しメタノール(関東化学製 鹿1級)3質量部を添加し、エステル化(80℃、30分)して(エステル化操作)、スルホン化物を得た(以上、スルホン化工程)。得られたスルホン化物の色調は640であった。
【0052】
次いで、上述のスルホン化工程で得られたスルホン化物を3つの1Lポリ容器に取り分け、それらをジェットアジター(商品名、島崎製作所製)で激しく撹拌しながら、50〜60℃に加温したアルカリ剤を添加し、中和反応を行った。なおアルカリ剤として、参考例1では2質量%NaOH(鶴見ソーダ製フレーク苛性ソーダ)水溶液(0.05mol%)、実施例1〜2及び比較例1〜3では3.05質量%モノエタノールアミン水溶液(0.05mol%;関東化学製 鹿1級から調製したもの)、実施例3〜4及び比較例4〜5では7.46質量%トリエタノールアミン水溶液(0.05mol%;関東化学製 2,2′2″−ニトリロトリエタノール 鹿1級から調製したもの)を使用した。pHの計測には横河電気製のpH計(本体型式PH71、ガラス電極型式PH72SN−11)を使用し、校正には中性りん酸塩pH標準液(pH6.86)とフタル酸塩pH標準液(pH4.01)を使用した。pH計を溶液に入れたまま、アルカリ剤を慎重に添加し、pHを徐々に上げていき、それぞれpH6のナトリウム塩中和物、モノエタノールアミン塩中和物、及びトリエタノールアミン塩中和物を得た。1日室温に放置した後、中和時に添加したものと同じアルカリ水溶液を用いてpHを再度6に調整した。得られた濃度約15質量%のα−スルホ脂肪酸アルキルエステルの各塩の水溶液を、それぞれ水浴上にセットした蒸発皿に移し、水浴のヒーターを入れると共に、上から赤外線ランプを照射し濃縮を行った。そして界面活性剤濃度が約25〜90質量%のα−スルホ脂肪酸アルキルエステルのナトリウム塩(MES−Na)スラリー、モノエタノールアミン塩(MES−MEA)スラリー、及びトリエタノールアミン塩(MES−TEA)スラリーを得た。これらをイオン交換水とジェットアジターを用いて表1記載の界面活性剤濃度の水溶液またはスラリーを調製した。これらの調製直後の色調を表1に示す(漂白時間 0hrの行)。
それぞれのスラリーをガラス瓶に移し、そこにHをアニオン界面活性剤(α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩とα−スルホ脂肪酸ジアルカリ塩(ジ塩))に対して1質量%となるように35質量%H水溶液を滴下し、充分に混合した。H添加後時々攪拌しながら、スラリー中のアニオン界面活性剤濃度が変わらぬようガラス瓶に蓋をし、80℃に保持した。24hr、48hr、72hr経過したときの色調を表1に併記する。
【0053】
【表1】

【0054】
以上の結果から、本発明のα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造方法である実施例1〜4では、淡色なα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩が得られており、本手法により中和物を効果的に漂白できることが判った。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸アルキルエステルをスルホン化し、スルホン化物を得る工程(1)と、
前記工程(1)で得た反応生成物に低級アルコールを添加してエステル化する工程(2)と、
前記工程(2)で得た反応生成物にアルカノールアミン水溶液を添加して、界面活性剤含量が25〜40質量%の中和物を得る工程(3)と、
前記工程(3)で得た中和物を漂白する工程(4)を有することを特徴とするα−スルホ脂肪酸アルキルエステルアルカノールアミン塩の製造方法。


【公開番号】特開2011−121892(P2011−121892A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280191(P2009−280191)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】