説明

α型サイアロン蛍光体とそれを用いた照明器具

【課題】発光効率に優れる白色LED、特に青色LEDまたは紫外LEDを光源とする発光効率に優れる白色LEDを提供する
【解決手段】一般式:(M1)X(M2)Y(Si,Al)12(O,N)16(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3<X+Y<1.5、0<Y<0.7)で示されるα型サイアロンからなる粉末状蛍光体であって、当該粉末を構成する一次粒子の平均アスペクト比が3以下であり、しかも前記一次粒子の80%(個数百分率)以上のものの直径が3〜10μmであることを特徴とする蛍光体であり、好ましくは、フッ素を5〜300ppm、及び/又はホウ素を10〜3000ppm含有している前記蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線乃至青色光で励起され、可視光線を発するα型サイアロン蛍光体と、それを利用した照明器具、特に白色LEDに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体として、母体材料にケイ酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩、硫化物を用い発光中心に遷移金属もしくは希土類金属を用いたものが広く知られている。一方、白色LEDについては、紫外線乃至は青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて可視光線を発するものが注目され、開発が進んでいる。しかしながら、前記した従来の蛍光体では、励起源に曝される結果として、蛍光体の輝度が低下するという問題がある。輝度低下の少ない蛍光体として、最近、結晶構造が安定で、励起光や発光を長波長側にシフトできる材料であることから、窒化物や酸窒化物蛍光体が注目されている。
【0003】
窒化物、酸窒化物蛍光体として、特定の希土類元素が付活されたα型サイアロンは、有用な蛍光特性を有することが知られており、白色LED等への適用が検討されている(特許文献1〜5、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−363554号公報
【特許文献2】特開2003−336059号公報
【特許文献3】特開2003−124527号公報
【特許文献4】特開2003−206481号公報
【特許文献5】特開2004−186278号公報
【非特許文献1】J.W.H.van Krebel“On new rare―earth doped M―Si―Al―O―N materials”,TU Eindhoven,The Netherlands,p.145−161(1998)
【0004】
また、希土類元素を付活したCa(Si、Al)やCaSiAlNやβ型サイアロンも同様の蛍光特性を有することが見いだされている(特許文献6、非特許文献2,3参照)。
【特許文献6】特開2004−244560号公報
【非特許文献2】第65回応用物理学会学術講演会講演予稿集(2004年9月、東北学院大学)No.3 p.1282〜1284
【非特許文献3】第52回応用物理学関係連合講演会講演予稿集(2005年3月、埼玉大学)No.3 p.1615
【0005】
他にも、窒化アルミニウム、窒化ケイ素マグネシウム、窒化ケイ素カルシウム、窒化ケイ素バリウム、窒化ガリウム、窒化ケイ素亜鉛、等の窒化物や酸窒化物を母体材料とした蛍光体が提案されている。
【0006】
α型サイアロンは、α型窒化ケイ素の固溶体であり、結晶格子間に特定の元素(Ca、並びにLi、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属)が格子内に侵入固溶し、電気的中性を保つために、Si−N結合が部分的にAl−N結合とAl―O結合で置換されている構造を有している。侵入固溶する元素の一部を発光中心となる希土類元素とすることにより蛍光特性が発現する。
【0007】
α型サイアロンは、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、必要に応じて酸化アルミウム、及び侵入固溶する元素の酸化物等からなる混合粉末を窒素中の高温で焼成することにより得られる。窒化ケイ素とアルミニウム化合物との比率と、侵入固溶させる元素の種類、並びに発光中心となる元素の割合等により、多様な蛍光特性が得られる。
【0008】
ところで、現在までに得られている白色LEDは、発光効率が蛍光ランプに及ばないという事情がある。蛍光ランプよりも発光効率に優れるLED、特に白色LEDが産業上で省エネルギーの観点から強く要求されている。
【0009】
白色は、単色光とは異なり複数の色の組み合わせが必要であり、一般的な白色LEDは、紫外LED又は青色LEDとそれらの光を励起源とし、可視光を発する蛍光体との組み合わせにより構成されている。従って、白色LEDの効率向上のためには、紫外LED又は青色LEDのLED自体の発光効率向上と共に、そこに用いられる蛍光体の効率向上、更には、発せられた光を外部に取り出す効率の向上が必要である。白色LEDの一般照明用まで含めた用途拡大のためには、これら全ての効率向上が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術においては、α型サイアロン蛍光体の発光効率改善は、主として結晶の骨格となるα型窒化ケイ素へのAl−N、Al−O結合の置換量や結晶格子内へ侵入固溶する元素の種類、量、割合といった固溶組成に着目して進められてきており、組成以外の要因についてはあまり検討されていない。
【0011】
また、白色LED用蛍光体は、一般的に、エポキシ樹脂等の封止材料中にミクロンサイズの粒子として分散して使用される。樹脂中への分散性や発色のバラツキといった観点からも粒子サイズを決める必要がある。α型サイアロン蛍光体は、細かな一次粒子が複数個焼結した二次粒子から構成されている。通常、粒度分布測定で得られる粒度情報はこの二次粒子に関するものであり、蛍光体への適用に際して前記二次粒子について検討されてはいるが、一次粒子に関しては着目されていなかった。
【0012】
本発明は、α型サイアロン蛍光体に関していろいろ検討し、550〜600nmの範囲の波長にピークを持ち、発光効率に優れる白色LED、特に青色LEDまたは紫外LEDを光源とする発光効率に優れる白色LEDを提供することを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、α型サイアロンを母体材料とする蛍光体について検討を行い、α型サイアロンの組成とその一次粒子のサイズと形状が特定のものにおいて、550〜600nmの範囲の波長にピークを持ち、発光効率に優れる蛍光体が得られ、これを用いて優れた発光特性の照明器具が得られることを見いだし、本発明に至ったものである。加えて、本発明者は、前記の特定のα型サイアロン蛍光体に於いて、微量のフッ素不純物やホウ素不純物の存在によって更に蛍光特性が改善できるとの知見を得て、本発明に至ったものである。
【0014】
即ち、本発明のα型サイアロン蛍光体は、一般式:(M1)X(M2)Y(Si,Al)12(O,N)16(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3<X+Y<1.5、0<Y<0.7)で示されるα型サイアロンからなる粉末状蛍光体であって、当該粉末を構成する一次粒子の平均アスペクト比が3以下であり、しかも前記一次粒子の80%(個数百分率)以上のものの直径が3〜10μmであることを特徴とする。また、本発明のα型サイアロン蛍光体は、好ましくは、フッ素を5〜300ppm、及び/又はホウ素を10〜3000ppm含有している。
【0015】
更に、本発明の蛍光体は、好ましくは、M1が少なくともCaを含み、M2が少なくともEuを含み、しかも、0.01<Y/(X+Y)<0.3であり、100〜500nmの波長を持つ紫外線又は可視光を励起源として照射することにより、550〜600nmの範囲の波長域にピークを持つ発光特性を示す。
【0016】
本発明は、発光光源と蛍光体から構成される照明器具において、少なくとも前記蛍光体を用いることを特徴とする照明器具であって、好ましくは、M1が少なくともCaを含み、M2が少なくともEuを含み、しかも、0.01<Y/(X+Y)<0.3であり、100〜500nmの波長を持つ紫外線又は可視光を励起源として照射することにより550〜600nmの範囲の波長にピークを持つ発光する前記蛍光体と、100〜500nmの波長を持つ紫外線又は可視光を励起源として照射することにより500〜550nmの範囲の波長にピークを持つ発光特性を有する蛍光体とを用いることを特徴とする照明器具である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光体は、100〜500nmの波長を持つ紫外線又は可視光を励起源として照射することにより550〜600nmの範囲の波長域にピークを持つ発光特性を示すので、青色LED又は紫外LEDを光源とする白色LEDに好適である。また、本発明の照明器具は、前記蛍光体を用いているので、優れた発光特性を有し、従ってエネルギー効率が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
α型サイアロンは、α型窒化ケイ素におけるSi−N結合の一部がAl−N結合及びAl−O結合に置換し、電気的中性を保つために、特定の陽イオンが格子内に侵入した固溶体であり、一般式:M(Si,Al)12(O,N)16で表される。ここで、Mは格子内への侵入可能な元素であり、Li、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)である。Mの固溶量Z値は、Si−N結合のAl−N結合及びAl−O結合の置換率により決まる数値である。
【0020】
蛍光特性を発現させるためには、Mの一部を固溶可能で発光中心となる元素とする必要があり、可視光発光の蛍光体を得るためにはCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erを使用することが好ましい。格子内に侵入固溶する元素の内、発光に寄与しない元素をM1、発光中心となる元素をM2とすると、一般式は(M1)X(M2)Y(Si,Al)12(O,N)16となる。ここで、α型サイアロン単相を得ると共に蛍光特性を発現させるためには、0.3<X+Y<1.5、0<Y<0.7の範囲にあることが好ましい。
【0021】
一般的にα型サイアロンは、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び侵入固溶する元素の化合物からなる混合粉末を高温の窒素雰囲気中で加熱して反応させることにより得られる。昇温の過程で、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、これらの表面酸化物、更に固溶元素の化合物が形成する液相を介して、物質の移動が起こり、α型サイアロンが生成する。そのために、合成後のα型サイアロンは、複数の一次粒子が焼結して二次粒子、更に塊状物を形成するので、それを粉砕等することにより、粉末状とする。
【0022】
本発明者は、発光特性と粒子形態との関係を検討した結果、一次粒子のサイズと分布及び形状が発光特性と密接に結びついているという知見を得て、本発明に至ったものである。即ち、本発明の蛍光体においては、前記組成に加えて、蛍光体の粉末を構成する一次粒子について、平均のアスペクト比が3以下であること、更に、個数百分率で80%以上のものの直径が3〜10μmを有することが選択される。
【0023】
一次粒子のアスペクト比ついては、例えばLED用封止樹脂への分散性やLEDとしての発光強度、更に色調のバラツキの観点から、異方性が小さい方が好ましいが、本発明者検討に基づけば、一次粒子の平均アスペクト比が3以下であれば実用上問題がなく使用できる。一次粒子の平均アスペクト比については、走査型電子顕微鏡(SEM)により、少なくとも500個以上の一次粒子についてアスペクト比(長軸径/短軸径)を測定し、算術平均すれば良い。
【0024】
一次粒子の大きさについては、その分布がシャープであることが好ましい。一次粒子のサイズ分布が幅広い場合、当該蛍光体を使用するときに、発光強度及び色調のバラツキを生じることがある。一方、一次粒子があまりに小さいと、散乱により光の吸収率が低下するとともに、粒子間の焼結が強固に進行するため粉末(二次粒子)として所定の粒度を得るためには過度な粉砕処理が必要となり、粒子表面の欠陥生成により発光特性が悪くなったり、ハンドリング性が悪くなる等の不具合が生じる。上記の理由から本発明に於いては、一次粒子の大きさについて、直径が3〜10μmを有するものが個数百分率で80%以上であることが選択される。尚、個数百分率は、後述する通りに、走査型電子顕微鏡(SEM)により、少なくとも500個以上の一次粒子について円相当径を測定し、その百分率をもって定めれば良い。
【0025】
また、本発明に於いて、本発明者がα型サイアロン蛍光体の微量添加元素と発光特性の関係を調べたところ、フッ素を5〜300ppm、或いはホウ素を10〜3000ppm含有する場合に、一層良好な発光特性が得られることを見いだしたものである。この現象は、フッ素については5ppm以上で、ホウ素については10ppm以上で顕著となるが、前者では300ppm、後者では3000ppmを越えた場合にはそれ以上の効果が得られなくなる。
【0026】
フッ素やホウ素の微量添加方法は特に限定されないが、フッ素については、原料の一部にフッ化物を使用し合成中に過剰のフッ素を揮発させる方法が、ホウ素については、合成の際に原料混合粉末を充填する坩堝に六方晶窒化ホウ素製のものを使用し高温中に坩堝より微量生成するホウ素含有揮発物を利用する方法が、微量且つ均一に添加する手法として好ましい。
【0027】
また、α型サイアロン中のフッ素含有量は、後述する加熱処理に於いて、揮発性のフッ素含有物として原料中のフッ素化合物の一部を揮発せることにより制御できるし、また、加熱処理後に、塩酸や硫酸などの酸により処理することで、残留フッ素化合物を除去することによっても制御できる。
【0028】
α型サイアロンの結晶格子内に固溶する元素としてM1にCa、M2にEuを選択する場合には、100〜500nmの波長を持つ紫外線又は可視光を励起源として照射することにより550〜600nmの範囲の波長域にピークを持ち、黄〜橙色の発光を示す蛍光体が得られる。この蛍光体は、例えば、励起源として青色LEDを使用すると蛍光体から発光する黄色光と励起光の混合により白色LEDが得られることから、白色LED等を初めとする白色光を放つ照明器具を提供できるので好ましい。
【0029】
α型サイアロンの結晶格子内に固溶する元素に関して、発光中心となるEuの原子量比としては、0.01<Y/(X+Y)<0.3の範囲にあることが好ましい。Y/(X+Y)が0.01以上ならば発光中心が少ないために発光輝度が低下することもないし、0.3未満ならば固溶しているEuイオン間の干渉により濃度消光を起こすことにより発光輝度が低下することもない。
【0030】
以下、本発明の蛍光体を得る方法として、CaとEuとが固溶したα型サイアロンの合成方法について例示するが、製造方法はこれに限定されるものではない。
【0031】
窒化ケイ素、窒化アルミニウム、カルシウム含有化合物及び酸化ユーロピウムの粉末を原料として使用する。これらの原料の中でフッ素源としては、フッ化物の沸点が比較的高いことからフッ化カルシウムを使用することが好ましい。しかし、カルシウム源を全てフッ化カルシウムとした場合にはα型サイアロン単相が得難くなるので、炭酸カルシウム等の加熱後に酸化カルシウムとなる化合物と混合することが好ましい。
【0032】
前記した各原料を混合する方法については、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。尚、混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル等が好適に使用される。
【0033】
所望組成となるように混合して得た粉末(以下、単に原料粉末という)を、少なくとも当該原料粉末が接する面が窒化ホウ素からなる坩堝等の容器内に充填し、窒素雰囲気中で1600〜1800℃の温度範囲で所定時間加熱することによりα型サイアロンを得る。容器材質に窒化ホウ素を使用するのは、原料各成分との反応性が非常に低いだけでなく、容器から発生するホウ素含有微量揮発成分がα型サイアロンの一次粒子の結晶成長を促進する効果があるためである。尚、原料混合粉末の容器内への充填は、加熱中に粒子間焼結を抑制する観点から、できるだけ嵩高くすることが好ましい。具体的には、原料混合粉末の合成容器への充填率を40体積%以下とすることが好ましい。
【0034】
加熱処理の温度が1600℃以上の場合には未反応生成物が多く存在したり、一次粒子の成長が不十分であったりすることがないし、1800℃以下であれば粒子間の焼結が顕著となったりすることもない。
【0035】
加熱処理における加熱時間ついては、未反応物が多く存在したり、一次粒子が成長不足であったり、或いは、粒子間の焼結が生じてしまったりという不都合が生じない時間範囲が選択され、本発明者の検討に拠れば、2〜24時間程度が好ましい範囲である。
【0036】
上述した操作で得られるα型サイアロンは塊状なので、これを解砕、粉砕、及び場合によっては分級処理と組み合わせて所定のサイズの粉末にし、いろいろな用途へ適用される粉末状蛍光体となる。
【0037】
白色LED用蛍光体として好適に使用するためには、一次粒子が複数個焼結してできた二次粒子の平均粒径が3〜20μmにすることが好ましい。平均粒径が3μm以上であれば発光強度が低くなることもなく、平均粒径が20μm以下であればLEDを封止する樹脂への均一分散が容易で、発光強度及び色調のバラツキを生じることもなく、実用上使用可能である。
【0038】
上述した製法で得られたα型サイアロンからなる塊状物は、比較的易粉砕性に優れ、乳鉢等で容易に所定粒度に粉砕できる特徴を示すが、ボールミルや振動ミル、ジェットミル等の一般的な粉砕機を使用することも当然許容される。
【0039】
本発明の蛍光体は、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を有し、可視光を発光することから、照明器具に好適である。特に、α型サイアロンの結晶格子内への侵入元素としてCaとEuとを選択して得られる蛍光体は、ピーク波長が550〜600nmの黄〜橙色光の高輝度発光特性を有している。従い、青色LEDとの組み合わせにより、容易に白色光が得られると言う特徴がある。また、α型サイアロンは、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れている。
【0040】
本発明の照明器具は、少なくとも発光光源と本発明の蛍光体を用いて構成される。本発明の照明器具としては、LED照明器具、蛍光ランプなどが含まれ、例えば、特開平5−152609号公報、特開平7−99345号公報、特許第2927279号公報などに記載されているような公知の方法により、本発明の蛍光体を用いてLED照明器具を製造することができる。尚、この場合において、発光光源は350〜500nmの波長の光を発する紫外LED又は青色LEDが好ましく、これらの発光素子としては、GaNやInGaNなどの窒化物半導体からなるものがあり、組成を調整することにより所定の波長の光を発する発光光源となりうる。
【0041】
照明器具において、本発明の蛍光体を単独で使用する方法以外に、他の発光特性を持つ蛍光体と併用することによって、所望の色を発する照明器具を構成することができる。特に青色LEDを励起源とした場合、本発明の蛍光体とピーク波長が500〜550nmの緑〜黄色光の発光を示す蛍光体との組み合わせるときに、幅広い色温度の白色発光が可能となる。この様な蛍光体としては、Euが固溶したβ型サイアロンが挙げられる。また、更に、CaSiAlN:Eu等の赤色蛍光体と組み合わせることにより、演色性の向上が達成される。
【実施例1】
【0042】
次に、実施例、比較例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。
【0043】
(実施例1)原料粉末として、電気化学工業(株)社製α型窒化ケイ素粉末(NP200グレード)、トクヤマ(株)社製窒化アルミニウム粉末(Fグレード)、関東化学(株)社製炭酸カルシウム粉末(特級試薬)、和光純薬(株)社製フッ化カルシウム粉末(特級試薬)、信越化学工業(株)社製酸化ユーロピウム粉末(RUグレード)を用いて、合成後にα型サイアロン単相となる様に、表1に示す配合とした。
【0044】
【表1】

【0045】
配合した原料用粉末を、イソプロピルアルコールを溶媒として、プラスチック製ポットと窒化ケイ素質ボールを用いて、湿式ボールミル混合を行い、ロータリーエバポレータによる溶媒除去を行い、混合粉末を得た。
【0046】
前記混合粉末約50gを内径80mm、高さ50mmの十分に緻密な窒化ホウ素質るつぼ(電気化学工業(株)社製、N−1グレード)にかさ密度がおおよそ0.3g/cmとなる様に充填した。このるつぼに同材質の蓋をし、カーボンヒーターの電気炉内において、窒素大気圧雰囲気中で加熱処理を行った。加熱時の最高温度及び保持時間を表1に示す。得られた試料は、目開き75μmの篩を通過するまで、瑪瑙乳鉢を用いて解砕した。
【0047】
上記操作で得られた粉末に対して、X線回折(XRD)法による結晶相の同定及びリートベルト解析による結晶相の定量評価、並びにレーザー回折散乱法による二次粒子の粒度分布測定を行った。また、走査型電子顕微鏡(SEM)により、粉末の観察を行い、得られた観察像から一次粒子の円相当径及びアスペクト比(長軸径/短軸径)を測定し、円相当径の分布(3〜10μmの円相当径の一次粒子個数が全一次粒子個数に占める割合)及び平均アスペクト比を算出した。尚、評価は少なくとも500個以上の一次粒子に対して行った。
【0048】
また、分光蛍光光度計を用いて、青色光励起(波長460nm)における蛍光スペクトルを測定し、スペクトルのピーク強度とピーク波長を求めた。尚、ピーク強度は測定装置や条件によって変化するため、単位は任意単位であり、同一条件で測定した実施例及び比較例での比較を行った。
【0049】
合成粉末中のホウ素量はICP発光分析法により測定し、フッ素量は次の方法により測定した。試料0.5gを1200℃の反応管内に導入し、95〜96℃の水蒸気で加水分解し、発生ガスを0.05質量%NaOH溶液10mlに吸収したのち、イオンクロマトグラフ法により測定した。上記の評価結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
XRD測定の結果、合成粉末はα型サイアロン単相であり、平均粒径(二次粒子)は10μmであった。SEM観察の結果、粒子形態はミクロンサイズの比較的等軸状の一次粒子が複数個焼結していた。一次粒子のうち、円相当径が3〜10μmに含まれる割合は92%であり、平均アスペクト比は1.5であった。ホウ素含有量は590ppmで、フッ素含有量は40ppmであった。波長460nmの青色光で励起するとピーク波長587nmの黄橙色発光を示した。
【0052】
(実施例2、3)実施例1と同様の手法、手順に基づいて、実施例2と3を行った。原料粉末配合組成及び合成条件を表1に、合成品の評価結果を表2に示す。
【0053】
(比較例1〜3)実施例1と同様の手法、手順に基づいて、比較例1〜3を行った。但し、比較例2では、実施例1の原料粉末以外に和光純薬(株)社製酸化ホウ素粉末を外割で1質量%添加した。
【0054】
比較例1では、合成粉末を構成する一次粒子のサイズはサブμm〜数μmと幅広く、円相当径で3〜10μmに含まれる一次粒子の割合は40%であった。発光スペクトルのピーク波長は590nmと実施例1に近いが、発光強度は約半分であった。比較例2では、ホウ素含有量が4520ppmであり、発光スペクトルのピーク波長は、588nmであるが、発光強度は実施例1の約70%であった。比較例3では、フッ素含有量が1200ppmであり、X線回折の結果、α型サイアロン以外に、未反応の窒化ケイ素、窒化アルミニウム並びにユーロピウムの酸フッ化物の存在が確認された。SEM観察の結果、一次粒子は少数のミクロンサイズの粒子と多数のサブミクロン粒子から構成されており、円相当径が3〜10μmに含まれる一次粒子の割合は20%と低い。発光強度は実施例1の約60%であった。
【0055】
(実施例4)実施例1で得られたα型サイアロン蛍光体10gを水100gにエポキシシランカップリング剤(信越シリコーン(株)社製、KBE402)1.0gと共に加え、撹拌しながら一晩放置した。その後、ろ過乾燥したシランカップリング剤で処理されたα型サイアロン蛍光体の適量をエポキシ樹脂(サンユレック(株)社製NLD−SL−2101)10gに混練し、発光波長460nmの青色LEDの上にポッティングし、真空脱気し、110℃で前記樹脂を加熱硬化し、表面実装LEDを作製した。
【0056】
図1に前記白色LEDの概略構造図を示す。この表面実装LEDに10mAの電流を流して発生する光の発光スペクトルを測定した。発光特性及び平均演色評価数を表3に示す。高輝度で相関色温度の低い(電球色)照明器具が得られた。
【0057】
(実施例5)蛍光体として、実施例1のものと波長460nm励起でピーク波長が535nmの黄緑色発光を示すEuをドープしたβ型サイアロンの二種類を適量混合し、実施例4と同様の手法により、表面実装LEDを作製した。発光特性及び平均演色評価数を表3に示す。昼光色で、実施例4よりも演色性の高い照明器具が得られた。
【0058】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の蛍光体は、100〜500nmの波長を持つ紫外線又は可視光を励起源として照射することにより550〜600nmの範囲の波長域にピークを持つ発光特性を示すので、青色LED又は紫外LEDを光源とする白色LEDに好適である。また、本発明の照明器具は、前記蛍光体を用いているので、優れた発光特性を有しエネルギー効率が高い、また、優れた演色特性を有しているので、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例4に係る照明器具(表面実装LED)の概略説明図。
【符号の説明】
【0061】
1. 青色LEDチップ
2. 蛍光体
3. ワイヤーボンド
4. 樹脂層
5. 容器
6、7. 導電性端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(M1)X(M2)Y(Si,Al)12(O,N)16(但し、M1はLi、Mg、Ca、Y及びランタニド金属(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の元素であり、M2はCe、Pr、Eu、Tb、Yb、Erから選ばれる1種以上の元素で、0.3<X+Y<1.5、0<Y<0.7)で示されるα型サイアロンからなる粉末状蛍光体であって、当該粉末を構成する一次粒子の平均アスペクト比が3以下であり、しかも前記一次粒子の80%(個数百分率)以上のものの直径が3〜10μmであることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
フッ素を5〜300ppm含有していることを特徴とする請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
ホウ素を10〜3000ppm含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蛍光体。
【請求項4】
M1が少なくともCaを含み、M2が少なくともEuを含み、しかも、0.01<Y/(X+Y)<0.3であり、100〜500nmの波長を持つ紫外線又は可視光を励起源として照射することにより550〜600nmの範囲の波長域にピークを持つ発光特性を示すことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の蛍光体。
【請求項5】
発光光源と蛍光体から構成される照明器具において、少なくとも請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光体を用いることを特徴とする照明器具。
【請求項6】
発光光源と蛍光体から構成される照明器具において、100〜500nmの波長を持つ紫外線又は可視光を励起源として照射することにより500〜550nmの範囲の波長にピークを持つ発光特性を有する蛍光体と、請求項4記載の蛍光体とを用いることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【公開番号】特開2006−321921(P2006−321921A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146917(P2005−146917)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】