説明

α,β−不飽和カルボニル化合物の製造方法

【課題】 高収率でα,β−不飽和カルボニル化合物を製造する。
【解決手段】 プロパルギルアルコールと二酸化炭素を、極性溶媒中、遷移金属触媒および塩基の存在下で反応させることにより、対応のα,β−不飽和カルボニル化合物に効率的に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,β−不飽和カルボニル化合物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパルギルアルコールからα,β−不飽和カルボニル化合物を合成する方法は、Meyer−Schuster反応として従来から知られており、この方法は2つの反応ステップ:
(1)プロパルギルアルコールの水酸基を活性化し、離脱させ、カチオン性の中間体を形成させるステップ、
(2)この中間体に酸素求酸剤を付加し、アレン−エノラート中間体を経由してα,β−不飽和カルボニル化合物を生成させるステップ
から構成されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ステップ(1)を行うためには、例えばプロトン酸を作用させる方法が知られている。しかし、この方法では中間に生成するカルボカチオン中間体が副反応(Rupe転位)を起こし、別の構造のα,β−不飽和カルボニル化合物を生成するという問題がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
そこで、中間にカルボカチオンを生成させずに、分子内転位反応として一挙にステップ(2)まで行わせてしまおうという検討が行われた。そのために、オキソメタル反応剤を用いて、メタル酸のエステルとして水酸基を活性化し、一方の酸素原子で求核攻撃を行うという戦略が取られた。例えば、バナジウム、チタン、モリブデンなどの酸化物を用い、一定の成果が得られている(例えば、非特許文献3および4参照)。
【0005】
しかし、この方法では次の点が問題として指摘されている:
i)適用可能な基質群が、第三級プロパルギルアルコールに限定されてしまう点、
ii)アセチレン部が末端アセチレンに限定されてしまう点、および
iii)反応温度が一般に高温条件を必要とする点。
【0006】
このことから、幅広い適用範囲と温和な反応条件の実現を目指して、レニウム酸化物を反応剤に用いることが検討された。この方法では、室温程度の反応条件で、しかも末端アルキンの他の内部アルキンにも適用可能であることが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。
ただし、依然として次の点が問題として挙げられている。
i)触媒量が多い点、
ii)Rupe転位による副生物が見られる点、
iii)フェニルアセチレン誘導体では収率が低い点、
iv)第二級プロパルギルアルコールでは収率が十分ではない点、および
v)第一級プロパルギルアルコールでは全く反応しない点。
【0007】
最近では、別の観点から、この反応の効率化が図られている。すなわち、ステップ(2)のアセチレン部分の活性化を効果的に行わせることにより、全体の反応の効率を上げようとする検討である。金やルテニウムなどの貴金属触媒は、アセチレンなどのπ結合を効果的に活性化することが知られていることから、これを利用する研究が報告されている。これらの方法は、基質により反応温度の低下を実現するが、高価な貴金属触媒を用いることなどから、完全な合成法とは言えない(例えば、非特許文献6および7参照)。
【非特許文献1】Meyer, K. H.; Schuster, K. Chem. Ber. 1922, 55, 819-823.
【非特許文献2】Smith, M. B.; March, J. March's Advanced Organic Chemistry, 5th ed; John Wiley & Sons; New York, 2001; p 423.
【非特許文献3】Lorber, C. Y.; Osborn, J. A. Tetrahedron Lett. 1996, 37, 853-856.
【非特許文献4】Titanium alkoxide: Chabardes, P. Tetrahedron Lett. 1988, 29, 6253-6256.
【非特許文献5】Under mild reaction conditions using a rhenium salt: Narasaka, K.; Kusama, H.; Hayashi, Y. Chem. Lett. 1991, 1413-1416.
【非特許文献6】Cadierno,V.; Garcia-Garrido,S.E.;Gimeno, J. Adv. Synth. Catal. 2006, 348, 101-110.
【非特許文献7】Lopez, S. S.; Engel, D. A.; Dudley, G. B. Synlett 2007, 6, 949-953.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術における問題を解決する、高収率のα,β−不飽和カルボニル化合物の新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、極性溶媒中での種々のプロパルギルアルコールと二酸化炭素を反応させることにより、対応するα,β−不飽和カルボニル化合物が高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下のとおりである:
1.式(1)
【化1】

(式中、
1およびR2は、同一または異なって、水素原子または有機基であり、
3は、直接または酸素を介して結合する、水素原子または有機基である)
で表されるプロパルギルアルコールと二酸化炭素を、極性溶媒中、遷移金属触媒および塩基の存在下で反応させることによる、式(2):
【化2】

(式中、R1、R2およびR3は上記と同義である)
で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物の製造方法。
【0011】
2.式(1)
【化3】

{式中、
1およびR2は、同一または異なって、水素原子、C1-6アルキル基[該C1-6アルキル基は、無置換であるか、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている]、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)であるか、または
1とR2が互いに結合してC3-8シクロアルキルであり、
3は、水素原子、ヒドロキシル基、C1-6アルキル基[該C1-6アルキル基は、無置換であるか、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換され
ている]、C6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基(該C1-6アルコキシ基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、またはC6-12アリールオキシ基(該C6-12アリールオキシ基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)である}
で表されるプロパルギルアルコールと二酸化炭素を、極性溶媒中、遷移金属触媒および塩基の存在下で反応させることによる、式(2):
【化4】

(式中、R1、R2およびR3は上記と同義である)
で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物の製造方法。
【0012】
3.R1およびR2が、同一または異なって、C1-6アルキル基であるか、または
1とR2が互いに結合してC3-8シクロアルキルである、
上記1.または2.記載の製造方法。
【0013】
4.R1およびR2が、同一または異なって、無置換のC1-6アルキル基であるか、または
1とR2が互いに結合してC3-8シクロアルキルである、
上記1.〜3.のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
5.R3が、水素原子、C1-6アルキル基、またはC1-6アルコキシ基である、上記1.〜4.のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
6.R3が、水素原子、C1-6アルキル基[該C1-6アルキル基は、無置換であるか、またはフェニル基(該フェニル基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)で置換されている]、または無置換のC1-6アルコキシ基である、上記1.〜5.のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
7.R3が、水素原子、C1-6アルキル基(該C1-6アルキル基は、無置換であるか、または無置換のフェニル基で置換されている)、または無置換のC1-6アルコキシ基である、上記1.〜6.のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
8.R1およびR2が、同一または異なって、無置換のC1-6アルキル基であるか、または
1とR2が互いに結合してC3-8シクロアルキルであり、
3が、水素原子、C1-6アルキル基(該C1-6アルキル基は、無置換であるか、または無置換のフェニル基で置換されている)、または無置換のC1-6アルコキシ基である、上記1.〜7.のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
9.用いる極性溶媒がホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン、および塩化ベンゼンからなる群より選択される上記1.〜8.のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
10.用いる極性溶媒がホルムアミド、ジメチルホルムアミド、またはジメチルアセトアミドである上記9.に記載の製造方法。
【0020】
11.用いる触媒がメタンスルホン酸銀(I)、塩化金(I)、塩化金(III)、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物、クロロトリフェニルホスフィン金、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、水銀トリフラート(II)、塩化白金(II)、塩化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、塩化銅(I)、過塩素酸銀(I)、シアン化銀(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I)、炭酸銀(I)、テトラフルオロホウ酸銀(I)、フッ化銀(I)、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(I)、酢酸銀(I)、p−トルエンスルホン銀(I)からなる群より選択される上記1.〜10.のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
12.用いる触媒がメタンスルホン酸銀(I)または塩化金(III)である上記11.に記載の製造方法。
【0022】
13.用いる塩基がジイソプロピルエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、または1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネンである上記1.〜12.のいずれかに記載の製造方法。
【0023】
14.反応温度が室温から60℃である上記1.〜13.のいずれかに記載の製造方法。
【0024】
15.二酸化炭素圧が0.1MPa〜2MPaである上記1.〜14.のいずれかに記載の製造方法。
【0025】
16.上記1.〜15.のいずれかに記載の製造方法により製造される、以下からなる群より選択される化合物:
5−メチル−1−フェニル−4−ヘキセン−3−オン;
5−エチル−1−フェニル−4−ヘプテン−3−オン;
5−イソプロピル−6−メチル−1−フェニル−4−ヘプテン−3−オン;
1−シクロペンチリデン−4−フェニル−2−ブタノン;
1−シクロヘキシリデン−4−フェニル−2−ブタノン;
1−シクロヘプチリデン−4−フェニル−2−ブタノン;
1,5−ジフェニル−4−ヘキセン−3−オン;
1,1−ジフェニル−1−ヘキセン−3−オン;
1−フェニル−4−ヘキセン−3−オン;
1−フェニル−4−ヘプテン−3−オン;
1−フェニル−4−ペンテン−3−オン;
2−メチル−2−デセン−4−オン;
エチル3−メチル−5−フェニルペンタ−2−エノエート;および
エチル5−フェニルペンタ−2−エノエート。
【発明の効果】
【0026】
本発明の方法は、新規な反応に基づくものである。本発明の方法によれば、従来法に比べて格段に温和な反応条件下、高収率で、α,β−不飽和カルボニル化合物を製造することができ、また、適用可能な基質の幅が大幅に広がり、種々のカルボニル化合物を製造することができる。しかも、安価で取り扱いが容易な無毒の二酸化炭素ガス、および金属触媒として遷移金属触媒、特に安価で安定性の高い銀触媒を利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明は、以下のスキームにより示される反応機構によるものと考えられる。
【化5】

すなわち、本発明の反応では、まずプロパルギルアルコールと二酸化炭素が反応して、カーボネート中間体が生成し、次にそのβ−炭素がアタックされて、[3,3]−シグマトロピー転位が進み、α,β−不飽和カルボニル化合物が生成するものと考えられる。
【0028】
上記反応機構は、C182を用いた同位体実験により支持される。この同位体実験によると、通常の二酸化炭素雰囲気下における反応では、MW.188のα,β−不飽和ケトンが得られたが、C182を用いた場合には、MW.190のα,β−不飽和ケトンが得られ、また、窒素雰囲気下での反応は全く進行しなかった。これらのことから、本発明における反応機構は、二酸化炭素により促進され、水または炭酸アニオンの分子間付加ではなく、分子内の[3,3]−シグマトロピー転位で反応が進行することが示唆された。
【0029】
本発明において、「n」はノルマルを、「i」はイソを、「s」はセカンダリーを、「t」又は「tert」はターシャリーを、「c」はシクロを、「m」はメタを、「p」はパラを、「Ms」はメタンスルホニル基を、「Ac」はアセチル基を、「Ph」はフェニル基を、「Et」はエチル基を、「rt」は室温を意味する。
【0030】
本発明の反応は、広範囲の基質について適用可能であり、すなわち、本発明において原料として用いられるプロパルギルアルコールは、式(1)
【化6】

(式中、
1およびR2は、同一または異なって、水素原子または有機基であり、
3は、直接または酸素を介して結合する、水素原子または有機基である)
で表されるプロパルギルアルコールである。
【0031】
さらに具体的には、式(1)
【化7】

で表されるプロパルギルアルコールであって、式中、
1およびR2は、同一または異なって、水素原子、C1-6アルキル基[該C1-6アルキル基は、無置換であるか、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている]、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)であるか、または
1とR2が互いに結合して3〜8員環であり、
3は、水素原子、ヒドロキシル基、C1-6アルキル基[該C1-6アルキル基は、無置換であるか、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換され
ている]、C6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基(該C1-6アルコキシ基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、またはC6-12アリールオキシ基(該C6-12アリールオキシ基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)である。
【0032】
1、R2、R3におけるC1-6アルキル基とは炭素数1〜6の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、c−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、c−ブチル、1−メチル−c−プロピル、2−メチル−c−プロピル、n−ペンチル、1−メチル−n−ブチル、2−メチル−n−ブチル、3−メチル−n−ブチル、1,1−ジメチル−n−プロピル、1,2−ジメチル−n−プロピル、2,2−ジメチル−n−プロピル、1−エチル−n−プロピル、c−ペンチル、1−メチル−c−ブチル、2−メチル−c−ブチル、3−メチル−c−ブチル、1,2−ジメチル−c−プロピル、2,3−ジメチル−c−プロピル、1−エチル−c−プロピル、2−エチル−c−プロピル、n−ヘキシル、1−メチル−n−ペンチル、2−メチル−n−ペンチル、3−メチル−n−ペンチル、4−メチル−n−ペンチル、1,1−ジメチル−n−ブチル、1,2−ジメチル−n−ブチル、1,3−ジメチル−n−ブチル、2,2−ジメチル−n−ブチル、2,3−ジメチル−n−ブチル、3,3−ジメチル−n−ブチル、1−エチル−n−ブチル、2−エチル−n−ブチル、1,1,2−トリメチル−n−プロピル、1,2,2−トリメチル−n−プロピル、1−エチル−1−メチル−n−プロピル、1−エチル−2−メチル−n−プロピル、c−ヘキシル、1−メチル−c−ペンチル、2−メチル−c−ペンチル、3−メチル−c−ペンチル、1−エチル−c−ブチル、2−エチル−c−ブチル、3−エチル−c−ブチル、1,2−ジメチル−c−ブチル、1,3−ジメチル−c−ブチル、2,2−ジメチル−c−ブチル、2,3−ジメチル−c−ブチル、2,4−ジメチル−c−ブチル、3,3−ジメチル−c−ブチル、1−n−プロピル−c−プロピル、2−n−プロピル−c−プロピル、1−i−プロピル−c−プロピル、2−i−プロピル−c−プロピル、1,2,2−トリメチル−c−プロピル、1,2,3−トリメチル−c−プロピル、2,2,3−トリメチル−c−プロピル、1−エチル−2−メチル−c−プロピル、2−エチル−1−メチル−c−プロピル、2−エチル−2−メチル−c−プロピルおよび2−エチル−3−メチル−c−プロピル等の基が代表的である。本発明における好ましいアルキル基は、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基およびエチル基である。
【0033】
また、R1とR2とが互いに結合して3〜8員環を形成してもよい。このような環構造の例としては、例えばシクロペンタン環、シクロヘキサン環、ピロリジン環、ピペリジン環等が挙げられる。これらの環は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基等の前記と同様の基が挙げられる。本発明におけるR1とR2が形成する好ましい環構造は、C3-8シクロアルキルであり、具体的はシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルが挙げられる。さらに好ましい構造はC5-6シクロアルキルであり、具体的はシクロペンチル、シクロヘキシルである。
【0034】
1、R2、R3におけるC6-12アリール基とは、炭素数6〜12の芳香族基であり、例えばフェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等の置換または非置換の芳香族基が代表的である。本発明における好ましいC6-12アリール基としてはフェニル基が挙げられる。
【0035】
1、R2、R3におけるC1-6アルコキシ基とは炭素数1〜6の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルコキシ基であり、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、c−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、c−ブトキシ、1−メチル−c−プロポキシ、2−メチル−c−プロポキシ、n−ペンチルオキシ、1−メチル−n−ブトキシ、2−メチル−n−ブトキシ、3−メチル−n−ブトキシ、1,1−ジメチル−n−プロポキシ、1,2−ジメチル−n−プロポキシ、2,2−ジメチル−n−プロポキシ、1−エチル−n−プロポキシ、c−ペンチルオキシ、1−メチル−c−ブトキシ、2−メチル−c−ブトキシ、3−メチル−c−ブトキシ、1,2−ジメチル−c−プロポキシ、2,3−ジメチル−c−プロポキシ、1−エチル−c−プロポキシ、2−エチル−c−プロポキシ、n−ヘキシルオキシ、1−メチル−n−ペンチルオキシ、2−メチル−n−ペンチルオキシ、3−メチル−n−ペンチルオキシ、4−メチル−n−ペンチルオキシ、1,1−ジメチル−n−ブトキシ、1,2−ジメチル−n−ブトキシ、1,3−ジメチル−n−ブトキシ、2,2−ジメチル−n−ブトキシ、2,3−ジメチル−n−ブトキシ、3,3−ジメチル−n−ブトキシ、1−エチル−n−ブトキシ、2−エチル−n−ブトキシ、1,1,2−トリメチル−n−プロポキシ、1,2,2−トリメチル−n−プロポキシ、1−エチル−1−メチル−n−プロポキシ、1−エチル−2−メチル−n−プロポキシ、c−ヘキシルオキシ、1−メチル−c−ペンチルオキシ、2−メチル−c−ペンチルオキシ、3−メチル−c−ペンチルオキシ、1−エチル−c−ブトキシ、2−エチル−c−ブトキシ、3−エチル−c−ブトキシ、1,2−ジメチル−c−ブトキシ、1,3−ジメチル−c−ブトキシ、2,2−ジメチル−c−ブトキシ、2,3−ジメチル−c−ブトキシ、2,4−ジメチル−c−ブトキシ、3,3−ジメチル−c−ブトキシ、1−n−プロピル−c−プロポキシ、2−n−プロピル−c−プロポキシ、1−i−プロピル−c−プロポキシ、2−i−プロピル−c−プロポキシ、1,2,2−トリメチル−c−プロポキシ、1,2,3−トリメチル−c−プロポキシ、2,2,3−トリメチル−c−プロポキシ、1−エチル−2−メチル−c−プロポキシ、2−エチル−1−メチル−c−プロポキシ、2−エチル−2−メチル−c−プロポキシおよび2−エチル−3−メチル−c−プロポキシ等の基が挙げられる。本発明における好ましいアルコキシ基は、C1-3アルコキシ基であり、さらに好ましくはメトキシ基である。
【0036】
1、R2、R3における保護基としては、C1-4アルコキシメチル基[例えばMOM(メトキシメチル)基、MEM(2−メトキシエトキシメチル)基、エトキシメチル基、n−プロポキシメチル基、i−プロポキシメチル基、n−ブトキシメチル基、iBM(イソブチルオキシメチル)基、BUM(t−ブトキシメチル)基、POM(ピバロイルオキシメチル)基およびSEM(トリメチルシリルエトキシメチル)基等が挙げられ、好ましくはMOM(メトキシメチル)基、MEM(2−メトキシエトキシメチル)基、POM(ピバロイルオキシメチル)基等が挙げられる]、アリールオキシメチル基[例えばBOM(ベンジルオキシメチル)基、PMBM(p−メトキシベンジルオキシメチル)基およびp−AOM(p−アニシルオキシメチル)基等が挙げられ、好ましくはベンジルオキシメチル基等が挙げられる]、C1-4アルキルアミノメチル基(例えばジメチルアミノメチル基等が挙げられる)、置換アセタミドメチル基[例えばAcm(アセタミドメチル)基およびTacm(トリメチルアセタミドメチル)基等が挙げられる]、置換チオメチル基[例えばMTM(メチルチオメチル)基、PTM(フェニルチオメチル)基、Btm(ベンジルチオメチル)基等が挙げられる]、カルボキシル基、C1-7アシル基[例えばホルミル基、アセチル基、フルオロアセチル基、ジフルオロアセチル基、トリフルオロアセチル基、クロロアセチル基、ジクロロアセチル基、トリクロロアセチル基、プロピオニル基、Pv(ピバロイル)基およびチグロイル基等が挙げられる]、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル基、p−ブロモベンゾイル基、p−ニトロベンゾイル、2,4−ジニトロベンゾイル基、ベンゾイルホルミル基、ベンゾイルプロピオニル基、3−フェニルプロピオニル基等が挙げられる)、C1-4アルコキシカルボニル基[例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、i−ブトキシカルボニル基、BOC(t−ブトキシカルボニル)基、AOC(t−アミルオキシカルボニル)基、VOC(ビニルオキシカルボニル)基、AOC(アリルオキシカルボニル)基、Teoc(2−(トリメチルシリル)エトキシカルボニル)基、Troc(2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル)基等が挙げられ、好ましくはBOC基等が挙げられる]、アリールオキシカルボニル基[例えばZ(ベンジルオキシカルボニル)基、p−ニトロベンジルオキシカルボニル基、MOZ(p−メトキシベンジルオキシカルボニル)基等が挙げられる]、C1-4アルキルアミノカルボニル基[例えばメチルカルバモイル基、Ec(エチルカルバモイル)基、n−プロピルカルバモイル基等が挙げられる]、アリールアミノカルボニル基(例えばフェニルカルバモイル基等が挙げられる)、トリアルキルシリル基[例えばTMS(トリメチルシリル)基、TES(トリエチルシリル)基、TIPS(トリイソプロピルシリル)基、DEIPS(ジエチルイソプロピルシリル)基、DMIPS(ジメチルイソプロピルシリル)基、DTBMS(ジ−t−ブチルメチルシリル)基、IPDMS(イソプロピルジメチルシリル)基、TBDMS(t−ブチルジメチルシリル)基、TDS(テキシルジメチルシリル)基等が挙げられ、好ましくはTBDMS(t−ブチルジメチルシリル)基等が挙げられる]、トリアルキルアリールシリル基[例えばDPMS(ジフェニルメチルシリル)基、TBDPS(t−ブチルジフェニルシリル)基、TBMPS(t−ブチルジメトキシフェニルシリル)基、TPS(トリフェニルシリル)基、ジメチルフェニルシリル等が挙げられる]、アルキルスルホニル基[例えばMs(メタンスルホニル)基、エタンスルホニル基、ベンジルスルホニル基等が挙げられる]およびアリールスルホニル基[例えばベンゼンスルホニル基、Ts(p−トルエンスルホニル)基、p−クロロベンゼンスルホニル基、MBS(p−メトキシベンゼンスルホニル)基、m−ニトロベンゼンスルホニル基、iMds(2,6−ジメトキシ−4−メチルベンゼンスルホニル)基、Mds(2,6−ジメチル−4−メトキシベンゼンスルホニル)基、Mtb(2,4,6−トリメトキシベンゼンスルホニル)基、Mte(2,3,5,6−テトラメチル−4−メトキシベンゼンスルホニル)基、Mtr(2,3,6−トリメチル−4−メトキシベンゼンスルホニル)基、Mts(2,4,6−トリメチルベンゼンスルホニル)基、Pme(ペンタメチルベンゼンスルホニル)基等が挙げられる]等が挙げられる。また、その他に、1−メチル−1−メトキシエチル基、1−エトキシエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、2−トリメチルシリルエトキシ基、t−ブチル基、アリル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、2,4−ジニトロフェニル基、p−クロロフェニル基、p−メトキシフェニル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基等が挙げられる。好ましい保護基としては、トリアルキルシリル基、トリアルキルアリールシリル基またはテトラヒドロピラニル基が挙げられ、さらに好ましくは、ジメチルフェニルシリルまたはテトラヒドロピラニル基である。
ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。
【0037】
本発明において使用される極性溶媒は、使用されるプロパルギルアルコール、二酸化炭素および塩基と反応しないものであれば特に制限はなく、例えばホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジクロロメタン、塩化メチル、塩化ベンゼンが挙げられる。好ましくはDMF、DMA、ホルムアミドが挙げられ、さらに好ましくはホルムアミドである。これらは単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。極性溶媒の使用量としては、原料であるプロパルギルアルコールに対して質量比で0.5〜100、好ましくは10〜100、さらに好ましくは50〜100の範囲で添加することができる。
【0038】
本発明において使用される遷移金属触媒には、遷移金属、その塩及び錯体がある。遷移金属としては、例えば銀、金、銅、パラジウム、白金、水銀、ロジウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。触媒の具体例としては、メタンスルホン酸銀(I)(AgOMs)、塩化金(I)、塩化金(III)、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物(NaAuCl4(2H2O))、クロロトリフェニルホスフィン金((Ph3P)AuCl)、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、水銀トリフラート(II)、塩化白金(II)、塩化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、塩化銅(I)、過塩素酸銀(I)、シアン化銀(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I)、炭酸銀(I)、テトラフルオロホウ酸銀(I)、フッ化銀(I)、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(I)、酢酸銀(I)、p−トルエンスルホン銀(I)等が挙げられる。好ましい触媒は、AgOMs、塩化金(I)、塩化金(III)、NaAuCl4(2H2O)、(Ph3P)AuClであり、特に好ましい触媒はAgOMs、塩化金(III)である。遷移金属触媒の使用量は、通常式(I)の化合物1モルに対して0.01〜100モル%であり、好ましくは0.1〜20モル%、さらに好ましくは0.5〜10モル%である。
【0039】
本発明において使用される塩基としては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン(i−Pr2NEt)、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン等のアルキルアミン類、N−トリメチルシリルジメチルアミン、N−トリエチルシリルジメチルアミン、N−tert−ブチルメチルシリルジメチルアミン、N−トリメチルシリルジエチルアミン、N−トリエチルシリルジエチルアミン、N−tert−ブチルジメチルシリルジエチルアミン、N−トリメチルシリル−n−プロピルアミン、N−トリエチルシリルジ−n−プロピルアミン、N−tert−ブチルジメチルシリルジ−n−プロピルアミン、N−トリメチルシリルジイソプロピルアミン、N−トリエチルシリルジイソプロピルアミン、N−tert−ブチルジメチルシリルジイソプロピルアミン等のアルキルシリルアミン類、トリメチルアミン−N−オキシド、トリエチルアミン−N−オキシド、トリ−n−プロピルアミン−N−オキシド、トリイソプロピルアミン−N−オキシド等のアルキルアミン−N−オキシド類、アニリン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、N−n−プロピルアニリン、N−イソプロピルアニリン、ジメチルフェニルアミン、エチルメチルフェニルアミン、ジエチルフェニルアミン、ジフェニルアミン、ジフェニルメチルアミン、ジフェニルエチルアミン、n−プロピルジフェニルアミン、イソプロピルジフェニルアミン、トリフェニルアミン等のアリールアミン類、N−トリメチルシリルジフェニルアミン、N−トリエチルシリルジフェニルアミン、N−tert−ブチルジメチルシリルジフェニルアミン等のアリールシリルアミン類、ジメチルフェニルアミン−N−オキシド、エチルメチルフェニルアミン−N−オキシド、ジエチルフェニルアミン−N−オキシド、ジフェニルメチルアミン−N−オキシド、ジフェニルエチルアミン−N−オキシド、n−プロピルジフェニルアミン−N−オキシド、イソプロピルジフェニルアミン−N−オキシド、トリフェニルアミン−N−オキシド等のアリールアミン−N−オキシド類、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2−エチルピリジン、3−エチルピリジン、4−エチルピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−メトキシピリジン、4−シアノピリジン等のピリジン類、ピリジン−N−オキシド、2−メチルピリジン−N−オキシド、3−メチルピリジン−N−オキシド、4−メチルピリジン−N−オキシド、2−エチルピリジン−N−オキシド、3−エチルピリジン−N−オキシド、4−エチルピリジン−N−オキシド、4−ジメチルアミノピリジン−N−オキシド、4−メトキシピリジン−N−オキシド、4−シアノピリジン−N−オキシド等のピリジン−N−オキシド類、ピロール、2−メチルピロール、3−メチルピロール、N−メチルピロール、2−エチルピロール、3−エチルピロール、N−エチルピロール、N−トリメチルシリルピロール、N−トリエチルシリルピロール、N−tert−ブチルジメチルシリルピロール等のピロール類、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール、N−n−プロピルイミダゾール、N−イソプロピルイミダゾール、N−n−ブチルイミダゾール、N−トリメチルシリルイミダゾール、N−トリエチルシリルイミダゾール、N−tert−ブチルジメチルシリルイミダゾール等のイミダゾール類、トリアゾール、N−メチルトリアゾール、1,3−ジメチルトリアゾール、1,5−ジメチルトリアゾール、N−エチルトリアゾール、N−n−プロピルトリアゾール、N−イソプロピルトリアゾール、N−トリメチルシリルトリアゾール、N−トリエチルシリルトリアゾール、N−tert−ブチルジメチルシリルトリアゾール等のトリアゾール類、テトラゾール、N−メチルテトラゾール、1,5−ジメチルテトラゾール、N−エチルテトラゾール、N−n−プロピルテトラゾール、N−イソプロピルテトラゾール、N−トリメチルシリルテトラゾール、N−トリエチルシリルテトラゾール、N−tert−ブチルジメチルシリルテトラゾール等のテトラゾール類、オキサゾール、2−メチルオキサゾール、4−メチルオキサゾール、5−メチルオキサゾール、2,4−ジメチルオキサゾール、2,5−ジメチルオキサゾール、2,4,5−トリメチルオキサゾール、2−エチルオキサゾール、4−エチルオキサゾール、5−エチルオキサゾール等のオキサゾール類、イソオキサゾール、3−メチルイソオキサゾール、4−メチルイソオキサゾール、5−メチルイソオキサゾール、3,4−ジメチルイソオキサゾール、3,5−ジメチルイソオキサゾール、3,4,5−トリメチルイソオキサゾール、3−エチルイソオキサゾール、4−エチルイソオキサゾール、5−エチルイソオキサゾール等のイソオキサゾール類、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N−n−プロピルモルホリン、N−イソプロピルモルホリン、N−n−ブチルモルホリン、N−sec−ブチルモルホリン、N−tert−ブチルモルホリン等のモルホリン類、N−トリメチルシリルモルホリン、N−トリエチルシリルモルホリン、N−tert−ブチルジメチルシリルモルホリン等のN−シリルモルホリン類、N−メチルモルホリン−N−オキシド、N−エチルモルホリン−N−オキシド等のモルホリン−N−オキシド類、ジアザビシクロウンデセン(DBU(登録商標))、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)等の環状有機強塩基類等が挙げられる。特に好ましい塩基は、i−Pr2NEt、DBU(登録商標)、DBN等の超強塩基である。塩基の使用量は、通常式(1)の化合物1モルに対して1〜300モル%であり、好ましくは20〜300モル%、さらに好ましくは20〜100モル%である。
【0040】
本発明において用いる二酸化炭素の使用量に特に制限はないが、通常二酸化炭素雰囲気下、もしくは二酸化炭素加圧条件下で反応を行う。このうち、好ましい二酸化炭素圧は0.1MPa〜10MPaであり、好ましくは0.1MPa〜5MPa、さらに好ましくは0.1MPa〜2MPaの範囲である。また、窒素やアルゴン等の反応に顕著な影響を与えない不活性ガスと二酸化炭素との混合ガス下で反応を行うこともできる。
【0041】
反応温度は、0℃〜90℃であり、特に室温から60℃が好ましい。「室温」とは15℃〜30℃の温度を意味する。
反応時間は、反応条件により異なるが、通常0.1〜200時間である。
上記の方法にしたがって、式(1)で表されるプロパルギルアルコールを、二酸化炭素と、極性溶媒中、遷移金属触媒および塩基の存在下で反応させることにより、式(2)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物を得ることができる。この反応により生成した式(2)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物は、公知の方法、例えばカラムクロマトグラフィー等により精製、単離することができる
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1
ホルムアミド(0.5mL)に2−メチル−6−フェニル−3−へキシン−2−オール(41.7mg,0.25mmol)を溶解させ、メタンスルホン酸銀(5.1mg,0.025mmol)およびDBU(7.5mg,0.050mmol)を加え、1.0MPaの二酸化炭素雰囲気下、60℃で8時間撹拌した。反応終了後、混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン,1:50)で精製すると、無色油状物として5−メチル−1−フェニル−4−ヘキセン−3−オンが収率89%で得られた。
【0043】
実施例2
種々の溶媒を用い、α,β−不飽和カルボニル化合物の合成を行った。
この反応は、種々の溶媒(0.5mL)に2−メチル−6−フェニル−3−へキシン−2−オール(0.25mmol)を溶解させ、メタンスルホン酸銀(10mol%)、およびDBU(0.25mmol)を加え、1.0MPaの二酸化炭素雰囲気下、室温で行った。
【表1】

【0044】
実施例3
種々の塩基および反応条件において、α,β−不飽和カルボニル化合物の合成を行った。
この反応は、ホルムアミド(0.5mL)に基質(0.25mmol)を溶解させ、メタンスルホン酸銀(10mol%)および種々の塩基(括弧内は基質に対する当量)を加え、1.0MPaの二酸化炭素雰囲気下、室温または60℃で行った。
【表2】

【0045】
実施例4
種々のプロパルギルアルコールを用い、α,β−不飽和カルボニル化合物の合成を行った。
この反応は、ホルムアミド(0.5mL)に基質(0.25mmol)を溶解させ、メタンスルホン酸銀(10mol%)およびDBUを加え、1.0MPaの二酸化炭素雰囲気下で行った。
ただし、例4〜7および13はi−Pr2NEtを塩基として用いた。また、例8および12は極性溶媒としてDMFを用いた。
表3中の条件の欄のA〜Cは、それぞれ、以下の反応条件を意味している。
条件A:基質に対して0.2当量のDBUを用い、60℃で反応させた。
条件B:基質に対して1.0当量のDBUを用い、室温で反応させた。
条件C:基質に対して3.0当量のDBUを用い、60℃で反応させた。
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
【表8】

【0052】
実施例5
触媒として種々の金塩を用い、α,β−不飽和カルボニル化合物の合成を行った。
この反応は、塩化メチル(0.5mL)に2−メチル−6−フェニル−3−へキシン−2−オール(0.25mmol)を溶解させ、AuX(10mol%)およびDBU(基質に対して1.2当量)を加え、0.1MPaの二酸化炭素雰囲気下、室温で行った。ただし、例4は塩化メチル(1mL)、2.0MPaの二酸化炭素雰囲気下、60℃で、例5はトルエン(1mL)、2.0MPaの二酸化炭素雰囲気下、60℃で行った。
単離収率は、GC分析により測定した。
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によって得られるα,β−不飽和カルボニル化合物は、医薬品などの生理活性化合物の合成中間体または原体、有機溶剤またはポリカーボネート樹脂製造の原料モノマーとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、
1およびR2は、同一または異なって、水素原子または有機基であり、
3は、直接または酸素を介して結合する、水素原子または有機基である)
で表されるプロパルギルアルコールと二酸化炭素を、極性溶媒中、遷移金属触媒および塩基の存在下で反応させることによる、式(2):
【化2】

(式中、R1、R2およびR3は上記と同義である)
で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物の製造方法。
【請求項2】
式(1)
【化3】

{式中、
1およびR2は、同一または異なって、水素原子、C1-6アルキル基[該C1-6アルキル基は、無置換であるか、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている]、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)であるか、または
1とR2が互いに結合してC3-8シクロアルキルであり、
3は、水素原子、ヒドロキシル基、C1-6アルキル基[該C1-6アルキル基は、無置換であるか、またはC6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている]、C6-12アリール基(該C6-12アリール基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、C1-6アルコキシ基(該C1-6アルコキシ基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)、またはC6-12アリールオキシ基(該C6-12アリールオキシ基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)である}
で表されるプロパルギルアルコールと二酸化炭素を、極性溶媒中、遷移金属触媒および塩基の存在下で反応させることによる、式(2):
【化4】

(式中、R1、R2およびR3は上記と同義である)
で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物の製造方法。
【請求項3】
1およびR2が、同一または異なって、C1-6アルキル基であるか、または
1とR2が互いに結合してC3-8シクロアルキルである、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
1およびR2が、同一または異なって、無置換のC1-6アルキル基であるか、または
1とR2が互いに結合してC3-8シクロアルキルである、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
3が、水素原子、C1-6アルキル基、またはC1-6アルコキシ基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
3が、水素原子、C1-6アルキル基[該C1-6アルキル基は、無置換であるか、またはフェニル基(該フェニル基は、無置換であるか、またはC1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲン原子、もしくは保護された水酸基で置換されている)で置換されている]、または無置換のC1-6アルコキシ基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
3が、水素原子、C1-6アルキル基(該C1-6アルキル基は、無置換であるか、または無置換のフェニル基で置換されている)、または無置換のC1-6アルコキシ基である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
1およびR2が、同一または異なって、無置換のC1-6アルキル基であるか、または
1とR2が互いに結合してC3-8シクロアルキルであり、
3が、水素原子、C1-6アルキル基(該C1-6アルキル基は、無置換であるか、または無置換のフェニル基で置換されている)、または無置換のC1-6アルコキシ基である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
用いる極性溶媒がホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン、および塩化ベンゼンからなる群より選択される請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
用いる極性溶媒がホルムアミド、ジメチルホルムアミド、またはジメチルアセトアミドである請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
用いる触媒がメタンスルホン酸銀(I)、塩化金(I)、塩化金(III)、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム二水和物、クロロトリフェニルホスフィン金、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、水銀トリフラート(II)、塩化白金(II)、塩化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、塩化銅(I)、過塩素酸銀(I)、シアン化銀(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I)、炭酸銀(I)、テトラフルオロホウ酸銀(I)、フッ化銀(I)、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(I)、酢酸銀(I)、p−トルエンスルホン銀(I)からなる群より選択される請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
用いる触媒がメタンスルホン酸銀(I)または塩化金(III)である請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
用いる塩基がジイソプロピルエチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、または1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネンである請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
反応温度が室温から60℃である請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
二酸化炭素圧が0.1MPa〜2MPaである請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の製造方法により製造される、以下からなる群より選択される化合物:
5−メチル−1−フェニル−4−ヘキセン−3−オン;
5−エチル−1−フェニル−4−ヘプテン−3−オン;
5−イソプロピル−6−メチル−1−フェニル−4−ヘプテン−3−オン;
1−シクロペンチリデン−4−フェニル−2−ブタノン;
1−シクロヘキシリデン−4−フェニル−2−ブタノン;
1−シクロヘプチリデン−4−フェニル−2−ブタノン;
1,5−ジフェニル−4−ヘキセン−3−オン;
1,1−ジフェニル−1−ヘキセン−3−オン;
1−フェニル−4−ヘキセン−3−オン;
1−フェニル−4−ヘプテン−3−オン;
1−フェニル−4−ペンテン−3−オン;
2−メチル−2−デセン−4−オン;
エチル3−メチル−5−フェニルペンタ−2−エノエート;および
エチル5−フェニルペンタ−2−エノエート。

【公開番号】特開2009−29733(P2009−29733A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194032(P2007−194032)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月12日 社団法人日本化学会発行の「第87春季年会2007年講演予稿集II」に発表(平成19年3月26日 社団法人日本化学会主催の「日本化学会第87春季年会2007年」において文書をもって発表)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】