説明

β−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質及びその利用

【課題】酵母の生育温度、酸性条件下で高いβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質を提供する。
【解決手段】30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、Thermotoga由来の特定のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの同条件化のβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有する、β−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規なβ―グルコシダーゼ活性を有するタンパク質及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物系バイオマスの有効利用の観点から、植物系バイオマス資源の廃棄物や未利用資源に多く含まれるセルロースを利用してアルコールを発酵生産させたり、生分解性プラスチックの原料である乳酸を発酵生産させたりする試みがなされている。例えば、L−乳酸やD−乳酸の脱水素酵素遺伝子を酵母サッカロマイセス・セレビシエ属に導入して、セルロースの糖化により得られるグルコースから乳酸を生産する試みに関しては多数の報告がなされている。
【0003】
ここで、セルロースの糖化には、β−D−グルコピラノシド結合を加水分解するセルラーゼの存在が必要になる。このセルラーゼとしては、高分子のセルロースをエキソ形式で加水分解するセロビオヒドラーゼ(エキソグルカナーゼともいう)やエンド形式で加水分解するエンドグルカナーゼ、セロビオヒドラーゼやエンドグルカナーゼによってある程度オリゴマー化されたものをD−グルコースにまで分解可能なβ―グルコシダーゼなどがある。このうち、β―グルコシダーゼとしては、例えば、サーモアナエロバクター・セルロリティカス(Thermoanaerobacter cellulolyticus)由来の耐熱性に優れたβ―グルコシダーゼが報告されている(特許文献1)。このβ―グルコシダーゼは、至適pHがpH5.0〜pH6.0で、pH4.0〜8.0の範囲で安定である。温度安定性については、80℃まで安定である。また、耐熱性の低いβ―グルコシダーゼの遺伝子の一部を由来の異なる耐熱性の高いβ―グルコシダーゼの遺伝子の一部に組換えることにより、前者のβ―グルコシダーゼの耐熱性を向上させたものも報告されている(特許文献2)。このβ―グルコシダーゼは、至適pHが6.0で、pH4〜9の範囲で安定である。また、至適温度は40〜45℃で、25〜35℃の範囲で安定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−52274号
【特許文献2】特開平8−131168号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロースから乳酸などの有機酸やアルコールを生産する際、製造装置や製造プロセスの煩雑さを低減してこれらを効率的に生産するためには、セルロースを分解し同時に有機酸やアルコールを発酵生産することが好ましい。しかしながら、同時発酵により有機酸を生産しようとすると、発酵が進行するにつれて培地中に有機酸が増加し、この有機酸によってβ―グルコシダーゼなどのセルラーゼが酸性条件下に晒されることになる。このため、酸性条件下で高活性を有するセルラーゼが求められている。ところが、このように耐酸性を備えるβ−グルコシダーゼは未だ見出されていなかった。また、セルロースから有機酸を生産するにあたり、酵母を用いる場合を考慮すると、酵母の生育温度(例えば30℃)で高い酵素活性を有するセルラーゼが必要になる。しかしながら、β−グルコシダーゼについては、耐熱性の向上は検討されていたものの酵母の生育温度近隣での活性は検討されていない。そこで、本発明は、このようなタンパク質を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの同条件下のβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有する、β―グルコシダーゼ活性を有するタンパク質が提供される。このタンパク質においては、pH4.0において、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの至適pHにおけるβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有することが好ましい態様である。さらに、pH3.0において、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの至適pHにおけるβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有することが好ましい。
【0007】
また、本発明のタンパク質においては、30℃における至適pHが5.0以下であるβ−グルコシダーゼ活性を有することが好ましい態様である。
【0008】
さらに、本発明のタンパク質においては、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの同条件下のβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有し、配列番号1に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸配列が置換、欠失、付加及び挿入された配列を有するものであり、前記β−グルコシダーゼの活性中心近傍において1又は数個のアミノ酸残基がより酸性のアミノ酸残基で置換されていることが好ましい態様であり、さらに前記タンパク質において、配列番号1に記載のアミノ酸配列において第169位に対応するバリンが酸性アミノ酸で置換されていることが好ましく、より好ましくは前記酸性アミノ酸はアスパラギン酸である。
【0009】
さらにまた、上記いずれかのタンパク質においては、前記β−グルコシダーゼの表面近傍において1又は数個のアミノ酸がより極性のアミノ酸で置換されていることが好ましい態様であり、前記タンパク質において、配列番号1に記載のアミノ酸配列において第130位及び/又は第382位もしくは第385位に対応するアミノ酸残基が極性アミノ酸で置換されていることが好ましく、より好ましくは前記極性アミノ酸は中性アミノ酸から選択されおり、さらに好ましくは前記極性アミノ酸はグルタミン又はトレオニンである。
【0010】
あるいは、本発明のタンパク質は、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの同条件下のβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有し、配列番号2に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸配列が置換、欠失、付加及び挿入された配列を有するものであり、前記タンパク質において、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第161位に対応するシステイン残基がシステイン以外の極性かつ中性アミノ酸残基で置換されていることが好ましい態様であり、前記極性かつ中性アミノ酸はセリンであることが好ましい。
【0011】
また、上記いずれかのタンパク質においては、前記配列番号1又は2に記載のタンパク質は、耐熱性β−グルコシダーゼであることが好ましい態様である。
【0012】
本発明の他の一つの形態によれば、上記いずれかに記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持する細胞が提供される。この細胞においては、前記タンパク質を細胞表層提示型タンパク質又は分泌型タンパク質として発現可能であることが好ましい態様である。また、有機酸生産に関連する1種又は2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持することが好ましく、より好ましくは前記有機酸は乳酸であり、前記酵素は乳酸脱水素酵素である。あるいは、エタノール生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持することが好ましい態様である。また、前記細胞は酵母であることが好ましい態様である。
【0013】
本発明の他の一つの形態によれば、上記いずれかに記載された細胞を用いて有機酸を生産する工程、を備える、有機酸の生産方法が提供される。また、さらに他の一つの形態によれば、上記いずれかに記載された細胞を用いてエタノールを生産する工程、を備える、エタノールの生産方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における改変酵素Aのβ−グルコシダーゼ活性のpH依存性を示すグラフであり、本発明のタンパク質のβ−グルコシダーゼ活性を示す図。
【図2】実施例1における改変酵素Aのアミノ酸配列を示す図。
【図3】実施例1における変異体V169D及びL130Qのβ−グルコシダーゼ活性のpH依存性を示すグラフであり、本発明のタンパク質のβ−グルコシダーゼ活性を示す図。
【図4】実施例2における改変酵素Bのβ−グルコシダーゼ活性の測定結果を示すグラフであり、本発明のタンパク質のβ−グルコシダーゼ活性を示す図。
【図5】実施例2における改変酵素Bのβ−グルコシダーゼ活性のpH依存性を示すグラフであり、本発明のタンパク質のβ−グルコシダーゼ活性を示す図。
【図6】実施例2における改変酵素Bのアミノ酸配列を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のβ―グルコシダーゼ活性を有するタンパク質は、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの同条件下のβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有することを特徴としている。本発明のβ−グルコシダーゼを用いることで、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなる既知のβ−グルコシダーゼに比べてセルロースの糖化をより効率的に行うことができる。
【0016】
また、本発明のタンパク質を微生物で発現可能にした場合には、培地を低pHにして微生物を生育させたとしても、他の雑菌によるコンタミネーションを効果的に防止することができる。
【0017】
また、本発明のタンパク質は、好熱性真正細菌であるサーモトガ・マリチマ(Thermotoga maritima)由来の耐熱性β−グルコシダーゼの1又は2以上のアミノ酸による置換、欠失、付加及び挿入から選択されたいずれかの変異と称するアミノ酸配列を有するものである。このため、種々の理化学的条件に対する耐性が強いと推定され、植物系バイオマスとしてのセルロースからグルコースを工業的生産するのに利用するときにも好適である。
【0018】
さらに、本発明のタンパク質と有機酸生産に関連する酵素とを発現可能な細胞では、この細胞により構成される微生物を用いて有機酸を生産する際、生産物である有機酸によって培地のpHが低くなった場合にも、セルロースの糖化を効率的に行うことができる。また、有機酸の生産過程において酸を用いた処理をより積極的に行うことができる。
【0019】
以下、本発明のタンパク質について説明するとともに、該タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持する細胞について説明する。
【0020】
(配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼ)
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼは、好熱性真正細菌であるサーモトガ・マリチマ(Thermotoga maritima)由来のβ−グルコシダーゼである。このβ−グルコシダーゼは、糖質関連酵素のアミノ酸配列を解析することにより区分されたタンパク質構造的分類であるglycosyl hydrolase family(GHF)によれば、β−グルコシダーゼの属する3ファミリーのうちGH1ファミリーに分類される。また、このβ−グルコシダーゼの理化学的性質としては、30℃での至適pHはpH6.2であり、至適温度は85℃である。
【0021】
(配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼ)
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼは、好熱性真正細菌であるサーモトガ・マリチマ(Thermotoga maritima)由来のβ−グルコシダーゼである。このβ−グルコシダーゼは、glycosyl hydrolase family(GHF)によれば、β−グルコシダーゼの属する3ファミリーのうちGH3ファミリーに分類される。また、このβ−グルコシダーゼの理化学的性質としては、30℃での至適pHはpH5であり、至適温度は65〜85℃である。
【0022】
配列番号1及び2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼが作用する基質は、短鎖長のセロオリゴ糖、セロビオース及びβ−グルコシド並びにこれらの誘導体から選択される1種又は2種以上の糖類であり、動物由来であっても植物由来であってもよい。これらの糖類は、植物由来の場合には、植物系バイオマス資源の糖質材料を構成するセルロース及びヘミセルロースの加水分解により得られる。なお、セロオリゴ糖等の誘導体としては、ガラクツロン酸、グルクロン酸などのウロン酸や、水酸基がエステル化されたエステル誘導体、水酸基がメチル化等されたアルキル誘導体を構成単糖類として含むものが挙げられる。
【0023】
なお、本明細書において、ヘミセルロースは、植物細胞壁をセルロースとともに構成する多糖類あるいは植物細胞壁を構成するセルロース以外の多糖類であって、ホモ多糖類あるいはヘテロ多糖類を総称するものとする。ヘミセルロースとしては、例えば、マンナン、グルコマンナン、グルコキシラン、ガラクタン、キシラン、アラビナン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、ペクチン、キチン、ガラクトグルコマンナン、クロノキシラン、キシログルカン等が挙げられる。
【0024】
(本発明のタンパク質のpH及びβ−グルコシダーゼ活性)
本発明のタンパク質は、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなる既知のβ−グルコシダーゼの同条件下におけるβ−グルコシダーゼ活性よりも高いβ−グルコシダーゼ活性を有するものである。このタンパク質によれば、例えば、これを用いてセルロースから乳酸を生産する場合、生成する乳酸によって培養液中のpHが低下しても、セルロースの糖化を効率的に行うことができる。配列番号1又は2のβ−グルコシダーゼよりも高いβ−グルコシダーゼ活性となるpHとしては、pH5.0以下の範囲のうち、他の雑菌によるコンタミネーションも効果的に防止することができる点において好ましくはpH4.0以下のいずれかのpHである。また、セルロースから乳酸を生産する際において生成する乳酸を中和するための工程が不要になることからより好ましくは3.0以下のいずれかのpHである。また、配列番号1又は2のβ−グルコシダーゼに対する活性の比率は、2.0倍以上が好ましく、より好ましくは2.5倍以上であり、さらに好ましくは3.0倍以上である。
【0025】
また、β−グルコシダーゼ活性は、30℃、pH4.0において、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなる既知のβ−グルコシダーゼの至適pHにおけるβ−グルコシダーゼ活性よりも高いことが好ましく、より好ましくは1.2倍以上である。あるいは、pH3.0において、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなる既知のβ−グルコシダーゼの至適pHにおけるβ−グルコシダーゼ活性よりも高いことが好ましく、より好ましくは1.3倍以上である。
【0026】
なお、取得したタンパク質のβ−グルコシダーゼ活性は、当業者において公知の発色基質を用いた糖加水分解酵素活性測定により確認することもできる。発色基質としては、発色物質と短鎖長のグルコシドとがβ−D−グルコピラノシド結合により結合した公知の化合物を用いることができ、例えば、p−ニトロフェニル基、o−ニトロフェニル基、フェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、p−クロロフェニル基、6−ブロム−2−ナフチル基などの発色基を有するβ−グルコシドや、フェノールフタレイン、8−ヒドロキシキノリン、8−ヒドロキシキノリンなどの発色物質とβ−グルコシドとが結合したもの等を挙げることができる。このうち、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシドを発色基質として用いる場合、p−ニトロフェノールの吸光度、例えば405nmにおける吸光度を測定することにより、酵素活性を測定することができる。この他、4−メチルウンベリフェリル−β−D−グルコシド等の蛍光基質を用いて酵素活性を測定する方法、グルコースの定量が可能なグルコスタット(Glucostat)試薬を用いて基質から生産されたグルコース量により酵素活性を測定する方法等が挙げられる。
【0027】
また、本発明のタンパク質の30℃における至適pHは、配列番号1のβ−グルコシダーゼの至適pHよりも酸性側にシフトしていることからpH5.0以下が好ましい。また、配列番号2のβ−グルコシダーゼの至適pHよりも酸性側にシフトしていることからpH4.0以下が好ましい。また、pH安定性は、例えば、本発明のタンパク質を用いてセルロースから乳酸を生産する場合、生成する乳酸によって培養液中のpHが低下してもセルロースの糖化を効率的に行うことができることからpH2.5以上で安定であることが好ましく、より好ましくはpH2.0以上である。
【0028】
本発明のβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質としては、具体的には以下のタンパク質が挙げられる。
【0029】
一つのタンパク質としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸による置換、欠失、付加及び挿入から選択されるいずれか又はこれらを組み合わせた変異を有するアミノ酸配列を有するものが挙げられる。このようなタンパク質は、例えば、変異PCR法やDNAシャッフリングなどの分子進化学的手法に基づくスクリーニングによって得られる。また、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードするDNA又はその一部をプローブとして、一般的なハイブリダイゼーション技術(Southern, EM., J Mol Biol, 1975,98,503.)により得たDNAから合成することができる。また、かかるタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードするDNAに特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCR技術(Saiki, RK.Science,1985,230,1350., et al.,Saiki, RK.et al.,Science,1988,239,487 )により得たDNAから合成することもできる。なお、ハイブリダイゼーション条件としてストリンジェンシーの低い条件を選択すれば、塩基の変異を容易に導入することもできる。
【0030】
さらに、Site−directed mutagenesis法(Kramer, W.& Fritz,HJ.,Method Enzymol.,1987,154,350)によって、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードするDNAに人工的に変異を導入することによっても得ることができる。
【0031】
なお、配列番号1に記載のアミノ酸との相同性は、単離されたタンパク質において80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。
【0032】
配列番号1に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸による置換、欠失、付加及び挿入から選択されるいずれか又はこれらを組み合わせた変異を有するアミノ酸配列を有し且つβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質としては、配列番号1のβ−グルコシダーゼの活性中心近傍において1又は数個のアミノ酸がより酸性のアミノ酸で置換されているものが好ましい。ここで、「β−グルコシダーゼの活性中心」とは、具体的には、配列番号1における第166位及び第351位をいう。また、「活性中心近傍」とは、β−グルコシダーゼの立体構造に基づいて推定される活性中心のアミノ酸残基に隣接又は近接した位置にあるアミノ酸残基をいい、例えば、活性中心のアミノ酸残基に対して、共有結合、イオン性相互作用、イオン−双極子間相互作用、双極子−双極子間相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、静電気相互作用、疎水性相互作用等に関与する領域としてもよい。このようなアミノ酸残基としては、具体的には、第169位のアミノ酸(バリン)が好ましい。なお、β−グルコシダーゼの立体構造及び活性中心は、タンパク質の3次元構造を解析するための公知のコンピュータ・プログラムであるInsightII(アクセルリス社)などによって求めることができる。また、タンパク質の電荷はDelphiソフト(アクセルリス社)などによって求めることができる。
【0033】
また、「より酸性のアミノ酸」とは、置換の対象となるアミノ酸よりも等電点が低いアミノ酸をいう。配列番号1における第169位のアミノ酸(バリン)を「より酸性のアミノ酸」に置換する場合、このようなアミノ酸として、具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、グルタミン、セリン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなどを挙げることができ、好ましくは酸性アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸であり、より好ましくはアスパラギン酸である。
【0034】
さらに、配列番号1に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸による置換、欠失、付加及び挿入から選択されるいずれか又はこれらを組み合わせた変異を有するアミノ酸配列を有し且つβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質としては、配列番号1のβ−グルコシダーゼの表面近傍において1又は数個のアミノ酸がより極性のアミノ酸で置換されていることが好ましい。ここで、「β−グルコシダーゼの表面近傍」とは、β−グルコシダーゼの立体構造に基づいて表面又はその付近に位置すると推定されるアミノ酸をいい、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列における第130位(ロイシン)及び/又は第382位(アラニン)もしくは第385位(アラニン)のアミノ酸残基が好ましい。
【0035】
また、「より極性のアミノ酸」とは、置換の対象となるアミノ酸が極性アミノ酸である場合にはより極性の高いアミノ酸をいい、置換の対象となるアミノ酸が非極性アミノ酸である場合には極性を有するアミノ酸又は側鎖により疎水性の低い基を有するアミノ酸をいう。このようなアミノ酸として、具体的には、ロイシンに対しては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、リシン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの極性アミノ酸の他、メチオニンなどの疎水性アミノ酸を挙げることができ、アラニンに対しては、上記の極性アミノ酸を挙げることができる。このうち、好ましくは極性アミノ酸であり、より好ましくは中性アミノ酸であるグリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジンから選択されたものであり、さらに好ましくはグルタミン又はトレオニンである。特に、第130位(ロイシン)をグルタミンに置換し、第382位(アラニン)又は第385位(アラニン)をトレオニンに置換したものが好ましい。
【0036】
こうしたタンパク質としては、配列番号3〜9のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。本発明のタンパク質は、これらのタンパク質の他、他の微生物などの塩基配列又はその一部に基づいて上記したハイブリダイゼーション技術やPCR技術を利用することにより得られ且つ同等のβ−グルコシダーゼ活性を有するこれらのタンパク質の相同体を含んでいる。
【0037】
配列番号3〜9のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のうち、配列番号3,6及び9のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第169位のアミノ酸(バリン)がより酸性のアミノ酸であるアスパラギン酸に置換されている点において好ましい。この変異により、至適pHが配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼよりも酸性側にシフトすると考えられるからである。また、配列番号4〜9のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第130位のアミノ酸(ロイシン)がより極性のアミノ酸であるグルタミンに置換されている点において好ましい。この変異により、至適温度が低下したと考えられるからである。また、配列番号4,5,7,8及び9のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第382位のアミノ酸(アラニン)がより極性のアミノ酸であるトレオニンに置換され、配列番号3又は6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の第385位のアミノ酸(アラニン)がより極性のアミノ酸であるトレオニンに置換されている点において好ましい。この場合にも、タンパク質表面のアミノ酸が疎水性から親水性へと変換されることにより、至適温度が低下したと考えられるからである。
【0038】
配列番号3〜9のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のうち、特に、配列番号6又は9に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質においては、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質における第169位のアミノ酸がより酸性のアミノ酸に置換されているとともに第130位のアミノ酸がより極性のアミノ酸に置換されており、至適pHの低下と至適温度の低下との両方の効果が得られる点において好ましい。また、このタンパク質においては、さらに第382位のアミノ酸又は第385位のアミノ酸がより極性のアミノ酸に置換されており、酸性下でのβ−グルコシダーゼ活性が高く好ましい。
【0039】
他のタンパク質としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸による置換、欠失、付加及び挿入から選択されるいずれか又はこれらを組み合わせた変異を有するアミノ酸配列を有するものが挙げられる。このようなタンパク質は、上記したタンパク質の分子進化学的手法に基づくスクリーニングのほか、ハイブリダイゼーション技術やPCR技術を利用することにより得たDNAから合成することもできる。なお、ハイブリダイゼーション条件としてストリンジェンシーの低い条件を選択すれば、塩基の変異を容易に導入することもできる。さらに、上記したSite−directed mutagenesis法によって、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするDNAに人工的に変異を導入することによっても得ることができる。
【0040】
なお、配列番号2に記載のアミノ酸との相同性は、単離されたタンパク質において80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。
【0041】
配列番号2に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸による置換、欠失、付加及び挿入から選択されるいずれか又はこれらを組み合わせた変異を有するアミノ酸配列を有し且つβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第161位に対応するシステイン残基がシステイン以外の極性かつ中性アミノ酸残基で置換されているものが好ましい。ここで、「システイン以外の極性かつ中性アミノ酸」としては、具体的には、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジンなどを挙げることができ、好ましくはセリンである。
【0042】
こうしたタンパク質としては、配列番号10〜15のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。本発明のタンパク質は、これらのタンパク質の他、他の微生物などの塩基配列又はその一部に基づいて上記したハイブリダイゼーション技術やPCR技術を利用することにより得られ且つ同等のβ−グルコシダーゼ活性を有するこれらのタンパク質の相同体を含んでいる。
【0043】
配列番号10〜15のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のうち、配列番号10〜14のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列の第161位のアミノ酸(システイン)がシステイン以外の極性かつ中性アミノ酸であるセリンに置換されている点において好ましい。また、配列番号10〜13のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列の第345位のアミノ酸(ロイシン)がより極性であるヒスチジンに置換され、第420位のアミノ酸(トリプトファン)がより極性であるアルギニンに置換され、第492位のアミノ酸(リシン)がより酸性のアミノ酸であるグルタミン酸に置換されている点において好ましい。さらに、配列番号10〜12のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列の第89位のアミノ酸(セリン)に変異が導入されていない点において好ましい。
【0044】
上記のβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質は、遺伝子組換えにより細胞に発現させることができる。「遺伝子組換えにより」とは、宿主とする細胞に対して上記タンパク質をコードする外来性のポリヌクレオチドを導入するための各種の方法を用いることを意味している。ポリヌクレオチドは、例えば、配列番号1又は2のタンパク質をコードするポリペプチドの一部を変異させるようにしてPCR法により取得することができる他、当業者に公知の各種の方法により目的のポリヌクレオチドを取得することができる。セルロース等の糖化が促進されるよう遺伝子組換えにより改変された細胞としては、好ましくは、染色体上において上述のポリヌクレオチドが導入された形質転換体であることが好ましい。
【0045】
外来性のポリヌクレオチドを導入するための各種の方法としては、具体的には、適当な宿主細胞に、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法、パーティクルガン法、リン酸カルシウム沈殿法、アグロバクテリウム法、PEG法、直接マイクロインジェクション法などの各種の適切な手段のいずれかにより本発明のβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入するものを挙げることができる。これにより、本発明の細胞を得ることができる。本発明のβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入後、その宿主細胞は選択培地で選択される。
【0046】
遺伝子導入の宿主となる細胞は特に限定しないが、Eshrichia coli、Bacillus subtilisなどの細菌、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)などのサッカロマイセス属酵母、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母、sf9、sf21等の昆虫細胞、COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)などの動物細胞、サツマイモ、タバコなどの植物細胞などとすることができ、好ましくは酵母である。酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエなどのサッカロマイセス属を始めとする酵母を挙げることができ、具体的には、サッカロマイセス・セレビシエIFO2260株や同YPH株を例示できる。
【0047】
なお、目的のポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、あるいは染色体上の所望の部位に目的のポリヌクレオチドが導入されたか否かの確認は、PCR法やサザンハイブリダイゼーション法により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、導入部位特異的プライマーによりPCRを行い、PCR産物について、電気泳動において予期されるバンドを検出することによって確認できる。あるいは蛍光色素などで標識したプライマーでPCRを行うことでも確認できる。これらの方法は、当業者において周知である。
【0048】
こうして遺伝子組み換えにより作製された細胞においては、上記β−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質を保持可能になる。したがって、この細胞を用いれば、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいてセルロースの糖化を効率的に行うことができる。
【0049】
また、上記した細胞を用いてβ−D−グルコースを生産する場合には、酸を用いた処理を行うことができる。例えば、セルロース又はセルロースを含む植物バイオマス資源からβ−D−グルコースを直接に生産する場合、β−グルコシダーゼ等のセルラーゼの存在下、セルロースの非晶質化を目的として硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの酸を添加することによりセルロースの部分加水分解を行うことが可能になる。したがって、セルロースからβ−D−グルコースを生産する場合における操作の簡略化を図ることができる。
【0050】
本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質が細胞表層提示型タンパク質又は分泌型タンパク質として発現可能に備えられていることが好ましい。特に、本発明のタンパク質は細胞表層に保持されることが好ましい。β-グルコシダーゼが細胞表層において保持されて細胞表層にてセロオリゴ糖等を分解することで、この細胞は速やかにセロオリゴ糖等を利用することができる。β-グルコシダーゼの分泌又は細胞表層提示のためには、ポリヌクレオチドはβ-グルコシダーゼのコード領域のほか、用いる微生物の種類に応じた分泌タンパク質や、分泌タンパク質と細胞表層にタンパク質を保持させるためのタンパク質とをコードする領域を備えていることが好ましい。なお、所望のタンパク質を細胞表層提示する技術は、WO 01/79483号公報や、藤田らの文献(藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212および藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141.)、村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.に開示されており、これらの記載に基づいて行うことができる。
【0051】
分泌タンパク質としては、例えば、Rhizopus oryzaeのグルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナルなどが挙げられる。また、細胞表層に保持可能とするタンパク質としては、凝集性タンパク質あるいはその一部が挙げられ、例えば、性凝集素タンパク質であるα−アグルチニンをコードするSAG1遺伝子の5’領域の320アミノ酸残基からなるペプチドがある。
【0052】
このような本発明のβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質を発現可能な細胞においては、有機酸生産に関連する酵素(有機酸生成酵素)やエタノール生産に関連する酵素(エタノール生成酵素)をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持していることが好ましい。細胞において有機酸生成酵素が発現される場合、本発明のβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質によりセルロース等からβ−D−グルコースが生産され且つ該有機酸生成酵素によりβ−D−グルコースが分解されることで、セルロース等から直接に有機酸を生産することができる。これにより、多糖類の酵素や発酵等による糖化工程を省略することができ、製造装置や製造プロセスの複雑さが低減される。また、本発明のβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質であれば、セルロース等の糖化に際し、有機酸の生産量が増大し培地が酸性側にシフトしたときにも、良好なβ−グルコシダーゼ活性を発揮することができる。
【0053】
また、細胞においてエタノール生成酵素が発現される場合には、本発明のβ−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質によりセルロース等からβ−D−グルコースが生産され且つ該エタノール生成酵素によりD−グルコースが分解されることで、セルロース等から直接にエタノールを生産することができる。
【0054】
本明細書において、「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸あるいはその塩である。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボン酸基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。「有機酸」は好ましくは、乳酸である。乳酸は、生分解プラスチックの原料である他、各種医薬、食品、飼料原料として有用である。有機酸生成酵素としては、前記有機酸が生成する過程において作用する酵素を意味し、例えば、ピルビン酸から乳酸を生成する乳酸脱水素酵素、コハク酸からフマル酸を生成するコハク酸脱水素酵素などの脱水素酵素や、オキサロ酢酸からクエン酸を生成するクエン酸シンターゼなどが挙げられる。有機酸生成酵素は、由来など特に限定しないで各種生物由来の有機酸生成酵素を用いることができる。これらの有機酸生成酵素は、得ようとする有機酸の種類や用いる微生物の種類により、必要に応じ1種あるいは2種以上が組み合わされる。
【0055】
エタノール生成酵素としては、前記エタノールが生成する過程において作用する酵素を意味し、ピルビン酸からアセトアルデヒドを生成するピルビン酸脱炭酸酵素やアセトアルデヒドからエタノールを生成するアルコール脱水素酵素が挙げられる。エタノール生成酵素は、由来など特に限定しないで各種生物由来のエタノール生成酵素を用いることができる。これらのエタノール生成酵素は、用いる微生物の種類により、必要に応じ1種あるいは2種以上が組み合わされる。
【0056】
なお、各種有機酸生成酵素又はエタノール生成酵素としては、有機酸生成酵素又はエタノール生成酵素のアミノ酸配列において1あるいは2以上のアミノ酸残基を、置換、欠失、挿入及び/又は付加することによって変異させて改変されたものを同様に用いることができる。
【0057】
以上説明したような本発明の細胞は、周知の遺伝子工学的手法により取得することができる。例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い実施できる。なお、目的のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための組換え用DNA構築物は、特に限定しないで、線状等のDNA断片、プラスミド(DNA)、ウイルス(DNA)、レトロトランスポゾン(DNA)、人工染色体(YAC)を、外来遺伝子の導入形態(染色体外あるいは染色体内)等に応じて選択してベクターとしての形態をとることができる。
【0058】
なお、DNA構築物には、上記したポリヌクレオチドのほか、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素遺伝子プロモーター(TDHプロモーター)やピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子プロモーター(PDCプロモーター)などのプロモーターやCYC1ターミネーターやTDH3ターミネーターなどのターミネーターの他、必要に応じてエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)を連結することができる。選択マーカーとしては、特に限定しないで、薬剤抵抗性遺伝子、栄養要求性遺伝子などを始めとする公知の各種選択マーカー遺伝子を利用できる。
【0059】
(有機酸及びエタノールの生産方法)
本発明の細胞を、セルロースを炭素源の少なくとも一部として含有する培地を用いて培養することにより、有機酸又はエタノールを生産することができる。このとき、本発明の細胞として有機酸生産に関連する1種又は2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持する細胞を用いれば有機酸を生産することができ、エタノール生産に関連する1種又は2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持する細胞を用いればエタノールを生産することができる。本発明の細胞の培養にあたっては、細胞の種類に応じて培養条件を選択することができる。有機酸の生産にあたっては、必要に応じて産物である有機酸等の中和を行うか、あるいは、連続的に有機酸又はエタノールを除去する等の処理を行うこともできる。細胞を培養する培地としては、本発明の細胞に対応したセルロースの他、窒素源、無機塩類等を含有し、本細胞の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも使用することができる。
【0060】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物の他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等を用いることができる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムなどを用いることができる。
【0061】
炭素源としては、植物バイオマス資源から分離あるいは抽出されたフラクションを含むことが好ましい。ここで、植物バイオマス資源とは、植物に由来する有機性資源であって化石資源を除いたものを意味している。また、植物バイオマス資源には、廃棄物や未利用資源も含まれる。なかでも、本発明においては、糖質系の植物バイオマス資源を用いることが好ましく、糖質系植物バイオマス資源としては、例えば、針葉樹や広葉樹などの木本植物材料、ケナフ、麻、綿の他、サトウキビなどのキビ類、イモ類などの各種作物植物などを含む草本植物材料、各種海藻を含む藻類、海草などの海洋植物材料などのほか、これらを利用するにあたって排出される廃棄物、未利用物が挙げられる。廃棄物および未利用物としては、廃棄される紙、紙加工品、おがくず、チップなどの製材工場廃材、建設廃材、バガス、イネワラ、ムギワラ、モミガラなどの農業廃棄物、茶ガラや野菜くずなどの食品廃棄物、間伐材や被害木などの林地残材が挙げられる。これらの糖質系植物バイオマス資源を本発明の炭素源に用いる場合には、これらに含まれる多糖類等がβ−グルコシダーゼなどの分解酵素により分解されやすくなっていることが好ましく、糖質を含むように分離されあるいは抽出されたフラクションであることが好ましい。
【0062】
また、セルロース又はセルロースを含む植物バイオマス資源では、セルロースが結晶構造を有して存在していることが多いため、セルロースを非晶質化しておくことが好ましい。セルロースの非晶質化は同時に低分子化を伴うことが多い。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸による酸性条件下、セルロースを部分加水分解することにより、セルロースの非晶質化あるいは低分子化できる。この他、超臨界水、アルカリ、加圧熱水などの処理によってもセルロースの非晶質化又は低分子化を行うことができる。
【0063】
また、培養工程においては、炭素源の一部としてセルロース又はセルロースから分解酵素により生成されるオリゴ糖類又は単糖類を添加することができる。こうすることで、特に培養開始時から培養初期において微生物に効果的に単糖類を供給できる。なお、糖類は、分解酵素を抑制しない程度に添加され、好ましくは培養開始時から培養初期(培養開始から2〜10時間以内程度)まで一定期間にのみ糖類を添加するようにする。
【0064】
なお、培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができ、嫌気条件下または微好気条件下、30℃〜35℃で6〜72時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
【0065】
培養工程終了後、培養物から有機酸又はエタノールを分離する工程を実施することにより、有機酸又はエタノールを得ることができる。なお、本発明において培養物とは、培養上清の他、培養細胞あるいは菌体、細胞若しくは菌体の破砕物を包含している。
【0066】
培養物から有機酸又はエタノールを分離するには、有機酸又はエタノールを含有する粗抽出画分を得たのち、一般的な精製手段を使用することができる。例えば、微生物内に有機酸又はエタノールが生産された場合は、常法により菌体を超音波破壊処理、摩砕処理、加圧破砕などで細胞を破壊して、細胞構成成分から分離された有機酸含有粗抽出画分を得ることができる。この場合、必要に応じてプロテアーゼを添加する。また、菌体外に有機酸又はエタノールが生産された場合には、この培養液等を、ろ過、遠心分離などにより固形分を除去して有機酸又はエタノールの含有粗抽出画分を得ることができる。これらの含有粗抽出画分につき、従来公知の各種精製分離法等を利用して、有機酸又はエタノールを精製することができる。また、必要に応じて、当該粗抽出画分及びその精製物に対してエステル化等を行うことにより、各種の有機酸誘導体を得ることができる。生産しようとする有機酸が乳酸の場合、エステル化を行うことによりポリ乳酸の前駆体を得ることができる。
【0067】
以上説明したように、本発明の有機酸又はエタノールの生産方法によれば、所定の微生物を用いてセルロースから直接有機酸又はエタノールを得ることができる。このため、従来に比して効率的にセルロースから有機酸又はエタノールを得ることができるとともに、炭素資源のCOへの変換を抑制してよりよい循環利用が可能となる。
【0068】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ない、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。また、PCRによる遺伝子増幅は、特に述べない限り、KOD plus DNA polymerase(TOYOBO)を用い、添付のプロトコルに従って行った。PCR増幅装置はGene Amp PCR system 9700(PE Applied Biosystems)を使用した。ライゲーション反応にはLigaFast Rapid DNA Ligation System(Promega)を用いた。酵母のゲノムDNAの調製はFast DNA Kit(Bio 101)を用い、添付のプロトコルに従って行った。酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。
【実施例1】
【0069】
(改変酵素Aの第1スクリーニング)
配列番号1で表されるThermotoga maritima 由来のβ−グルコシダーゼ遺伝子bglA(GH1ファミリー、Genebank:X74163)をerror-prone PCR(10mM Tris-HCl pH9.0,50mM KCl,0.1% TritonX-100,2-6mM MaCl2,0.2-0.6mM MnCl2、0.2mM dATP,0.2mM dGTP,1mMdCTP,1mM dTTP,1-100ng/μl MnP,0.3μM primer,25 mU/μl Promega Taq DNA polymerase)により増幅し、100塩基当たり平均1個の変異(error率 1%)をランダムに導入したライブラリーを作製した。このerror-prone PCRによる増幅反応は95℃で3分間の熱処理を行った後、94℃で30秒と60℃で30秒と72℃でX分(X:増幅遺伝子の大きさが1kbにつき1分とした)との3つの温度変化を1サイクルとし、これを20サイクル繰り返し、最後に4℃とした。ライブラリーにpH3.0,4.0,6.5となるようにそれぞれ調製した酵素活性測定液80μl(2mM p-nitrophenyl β- D-glucopyranosideを含む100mM乳酸ナトリウムバッファー)を添加し、30℃で60分間incubateした後、分解されて生成するp-nitrophenolの発色の有無を405nmの吸光度を測定することにより確認し、30℃かつpH3.0,4.0,6.5でも高い活性を示すものをスクリーニングした。その結果、2つのクローン(それぞれLib1-33,Lib1-91と称する)を得た。
【0070】
(第1スクリーニングによる結果物を親株とした第2スクリーニング)
次に、得られた2種類のクローン遺伝子を等量ずつ混合したものを鋳型として、再度ランダム変異2次ライブラリーを作製した。スクリーニングの結果、pH4.0での活性が野生株(Wild)の至適pHでの活性よりも高いクローンが得られた。その代表的な5クローンをそれぞれLib2-3,Lib2-12,Lib2-26,Lib2-30,Lib2-93と称する。
【0071】
(pH依存性の確認)
第1スクリーニングにより得られたクローンLib1-33,Lib1-91及び第2スクリーニングの結果得られたクローンLib2-3,Lib2-12,Lib2-26,Lib2-30,Lib2-93について30℃でのpH依存性を調べた。その結果を図1に示す。図1に示すように、Lib1-91では、野生株(Wild)と比較して30℃かつpH3.0,4.0,6.5のそれぞれにおいてβ−グルコシダーゼ活性が約2倍に向上した。Lib1-33では、野生株(Wild)と比較して至適pHがpH5.5〜6からpH5へと酸性側にシフトしていた。また、第2スクリーニングにより得られたクローンLib2-3,Lib2-12,Lib2-26,Lib2-30,Lib2-93のうち、Lib2-12,Lib2-26,Lib2-30,Lib2-93では、至適pHが酸性側にシフトしていた。このうち、Lib2-12,Lib2-26,Lib2-93では、至適pHでの比活性も野生株(Wild)の2.5倍程度上昇していた。
【0072】
(アミノ酸配列の決定)
これらの変異体のアミノ酸配列の決定を行った。その結果を図2及び配列番号:3〜9に示す。なお、第2スクリーニングでは、第1スクリーニングで得られた変異体(Lib1-33,Lib1-91)を親株として変異を導入しているため、図2中にどちらの変異体を由来としているのかを示した。すなわち、Lib1-33を親株とするものはLib2-12であり、Lib1-91を親株とするものはLib2-3,Lib2-26,Lib2-30,Lib2-93である。また、図2のうちアミノ酸の種類を表すアルファベットが記載されていないセルは、野生株(wild)と同じアミノ酸であることを表す。図1のpH依存性の確認で良好な結果が得られたLib2-12,Lib2-26,Lib2-93について見ると、まず、Lib1-33由来の変異体Lib2-12は、Lib1-91と同じ変異が導入されており、130番目のアミノ酸残基がロイシン(L)からグルタミン(Q)に変異されていることがわかった。また、Lib1-91由来の変異体Lib2-93では、Lib1-33と同じ位置に変異が導入されており(169番目のアミノ酸残基がバリン(V)からアスパラギン酸(D)に変異)、Lib2-26でも169番目のアミノ酸残基がバリン(V)からアラニン(A)に変異していることがわかった。これらのことから、共通して変異が導入されていた2カ所のアミノ酸(130番目と169番目)が耐酸性に寄与していると推測される。さらに、Lib2-93では382番目のアミノ酸残基がアラニン(A)からトレオニン(T)に変異し、Lib2-12では385番目のアミノ酸残基がアラニン(A)からトレオニン(T)に変異していることがわかった。また、他のクローン(Lib1-33,Lib1-91,Lib2-3,Lib2-26,Lib2-30)においてもこのいずれかの変異が見られた。このことから、382番目又は385番目のアミノ酸についても耐酸性に寄与していると推測される。
【0073】
(変異体V169D及びL130Qの作製と活性の測定)
160番目のバリン(V)をアスパラギン酸(D)へ変換した変異体(以下、V169Dと称する)と、130番目のロイシン(L)をグルタミン(Q)へ変換した変異体(以下、L130Qと称する)とを作製し、30℃でのpH3.0,pH4.0,pH6.5における活性を測定した。その結果を図3に示す。V169Dでは、pH6.5よりもpH4.0での活性が向上しており、至適pHの酸性側へのシフトに直接関与していることが示された。また、L130Qでは、全体的に活性が野生株よりも向上しており、至適温度低下に寄与していると考えられた。
【0074】
(タンパク質の立体構造のモデリング)
アミノ酸配列と立体構造との関係を考察するために、野生型酵素のPDB(10DO)データを参照とし、得られた改変酵素AのうちLib2-93についてInsightIIソフトによる変異体の立体構造モデリングを行った。また、活性中心近傍の電荷をDelphiソフトにより評価した。立体構造モデリングの結果から、169番目のアミノ酸はポケット内部に位置し、130番目のアミノ酸は分子表面に位置していることがわかった。このうち、169番目のアミノ酸は活性中心のアミノ酸(166番目のグルタミン酸(E)と351番目のグルタミン酸(E))の隣で、酸性のアスパラギン酸(D)に変異することで活性中心の表面電荷が酸性側にシフトしていると推測された。これにより、至適pHが低下した可能性が示唆される。130番目のアミノ酸については、分子表面に位置しており、また130番目のアミノ酸が変異しかつ169番目のアミノ酸が変異していない変異体(Lib1-91,Lib2-3)では比活性の向上は認められたが至適pHのシフトが認められないことから、表面のアミノ酸が疎水性から親水性へと変換されていたことにより、至適温度低下に影響した可能性があると示唆される。また、382番目及び385番目のアミノ酸についても分子表面に位置していたことから、130番目のアミノ酸と同様、至適温度低下に影響した可能性があると示唆される。
【実施例2】
【0075】
(改変酵素Bのスクリーニング)
配列番号2で表されるThermotoga maritima 由来のβ−グルコシダーゼ遺伝子bglB(GH3ファミリー、Genebank:AE001690)をerror-prone PCR(10mM Tris-HCl pH9.0,50mM KCl,0.1% TritonX-100,2-6mM MaCl2,0.2-0.6mM MnCl2、0.2mM dATP,0.2mM dGTP,1mMdCTP,1mM dTTP,1-100ng/μl MnP,0.3μM primer,25 mU/μl Promega Taq DNA polymerase)により増幅し、100塩基当たり平均2個の変異(error率 2%)をランダムに導入したライブラリーを作製した。このerror-prone PCRによる増幅反応は95℃で3分間の熱処理を行った後、94℃で30秒と60℃で30秒と72℃でX分(X:増幅遺伝子の大きさが1kbにつき1分とした)との3つの温度変化を1サイクルとし、これを20サイクル繰り返し、最後に4℃とした。ライブラリーにpH2.5,3.5,6.5となるようにそれぞれ調製した酵素活性測定液80μl(2mM p-nitrophenyl β-D-glucopyranosideを含む100mM乳酸ナトリウムバッファー)を添加し、30℃で60分間incubateした後、分解されて生成するp-nitrophenolの発色の有無を405nmの吸光度を測定することにより確認し、30℃かつpH2.5,3.5,6.5でも高い活性を示すものをスクリーニングした。その結果、野生株(Wild)と比較して酸性側での活性が向上した6クローン(Lib1-14,Lib1-16,Lib1-20,Lib1-24,Lib1-25,Lib1-32と称する)を得た。
【0076】
(pH依存性の確認)
スクリーニングにより得られたLib1-14,Lib1-16,Lib1-20,Lib1-24,Lib1-25,Lib1-32について30℃でのpH依存性を確認した。その結果を図4及び図5に示す。なお、図4は、各クローンにおけるpH2.5,3.5,6.5でのBGL活性を示すものであり、図5は、各クローンにおけるpH依存性を示すものである。得られたクローンのうち、Lib1-24では、野生株に比べてpH2.5での活性が3倍弱、pH3.5での活性が3.5倍程度向上していた。また、至適pHについては、野生株の至適pHがpH5.0であるのに対し、このLib1-24では至適pHがpH4.0へと酸性側にシフトしていた。また、Lib1-32では、pH2.5での活性はほとんど変わらないがpH5.0での活性が約2倍に向上し、Lib1-16では、pH5.0での活性が約5倍に向上した。
【0077】
(アミノ酸配列の決定)
これらの変異体のアミノ酸配列の決定を行った。その結果を図6及び配列番号:10〜15に示す。なお、図6のうちアミノ酸の種類を表すアルファベットが記載されていないセルは、野生株(wild)と同じアミノ酸であることを表す。図4のpH依存性の確認で良好な結果が得られたLib1-16Lib1-24,Lib1-25について見ると、161番目のアミノ酸残基がシステイン(C)からセリン(S)に変異し、345番目のアミノ酸残基がロイシン(L)からヒスチジン(H)に変異し、420番目のアミノ酸残基がトリプトファン(W)がアルギニン(R)に変異し、492番目のアミノ酸残基がリシン(K)からグルタミン酸(E)に変異していることがわかった。なお、Lib1-14についても同様の変異が導入されているが、このLib1-14のみにおいて89番目のセリン(S)がプロリン(P)に変異しており、この変異がβ−グルコシダーゼ活性の低下につながったと推測される。
【実施例3】
【0078】
(改変酵素A,Bの酵母表層への提示)
実施例1及び2で得られた変異体をコードするDNAをTDC3プロモーターで発現させるためにpB7-TDH3pベクターに導入し、これをL乳酸合成酵素を発現するよう形質転換された特願2002-362891号公報に記載の酵母T165株にインテグレーションすることによりβ―グルコシダーゼを細胞表層に発現する株(以下、TmBGLB変異体と称する)を作製した。形質転換体は、YPDクロラムフェニコール培地を用いて選抜した。また、形質転換体がβ−グルコシダーゼ活性を発現していることを以下の方法で確認した。YPD培地で一晩培養したあと滅菌水で洗浄した菌体をリン酸バッファー(50mM リン酸ナトリウム、pH5.0)に懸濁して菌体液とした。リン酸バッファー中に2mM p-nitrophenyl β-D-glucopyranoside及び菌体液をOD600=0.5となるように懸濁し、30℃で10分間反応させた後1M Na2CO3を添加して反応を停止させた。15,000rpmで5分間遠心分離して菌体を取り除いた上澄の波長405nmの吸光度を測定した。その結果、TmBGLB変異体においても、実施例1及び2において野生株と比較してβ−グルコシダーゼ活性が向上したのと同等のpH依存性が見られることが確認された。
【配列表フリーテキスト】
【0079】
配列番号3〜15:β-グルコシダーゼ変異体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの同条件下のβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有する、β−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
pH4.0において、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの至適pHにおけるβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有する、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
pH3.0において、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの至適pHにおけるβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有する、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項4】
30℃における至適pHが5.0以下であるβ−グルコシダーゼ活性を有する、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項5】
前記タンパク質は、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの同条件下のβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有し、配列番号1に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸配列が置換、欠失、付加及び挿入された配列を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項6】
前記β−グルコシダーゼの活性中心近傍において1又は数個のアミノ酸残基がより酸性のアミノ酸残基で置換されている、請求項5に記載のタンパク質。
【請求項7】
前記タンパク質において、配列番号1に記載のアミノ酸配列において第169位に対応するバリンが酸性アミノ酸で置換されている、請求項6に記載のタンパク質。
【請求項8】
前記酸性アミノ酸はアスパラギン酸である、請求項7に記載のタンパク質。
【請求項9】
前記β−グルコシダーゼの表面近傍において1又は数個のアミノ酸がより極性のアミノ酸で置換されている、請求項5〜8のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項10】
前記タンパク質において、配列番号1に記載のアミノ酸配列において第130位及び/又は第382位もしくは第385位に対応するアミノ酸残基が極性アミノ酸で置換されている、請求項9に記載のタンパク質。
【請求項11】
前記極性アミノ酸は中性アミノ酸から選択される、請求項10に記載のタンパク質。
【請求項12】
前記極性アミノ酸はグルタミン又はトレオニンである、請求項11に記載のタンパク質。
【請求項13】
前記タンパク質は、30℃、pH5.0以下のいずれかのpHにおいて、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼの同条件下のβ−グルコシダーゼ活性以上の活性を有し、配列番号2に記載のアミノ酸配列の1又は2以上のアミノ酸配列が置換、欠失、付加及び挿入された配列を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項14】
前記タンパク質において、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第161位に対応するシステイン残基がシステイン以外の極性かつ中性アミノ酸残基で置換されている、請求項13に記載のタンパク質。
【請求項15】
前記極性かつ中性アミノ酸はセリンである、請求項14に記載のタンパク質。
【請求項16】
前記配列番号1又は2に記載のタンパク質は、耐熱性β−グルコシダーゼである、請求項1〜15のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持する細胞。
【請求項18】
前記タンパク質を細胞表層提示型タンパク質又は分泌型タンパク質として発現可能である、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
有機酸生産に関連する1種又は2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持する、請求項17又は18に記載の細胞。
【請求項20】
前記有機酸は乳酸であり、前記酵素は乳酸脱水素酵素である、請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
エタノール生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をコードするポリヌクレオチドを発現可能に保持する、請求項17又は18に記載の細胞。
【請求項22】
前記細胞は酵母である、請求項17〜21のいずれかに記載の細胞。
【請求項23】
請求項19又は20に記載された細胞を用いて有機酸を生産する工程、を備える、有機酸の生産方法。
【請求項24】
請求項21に記載された細胞を用いてエタノールを生産する工程、を備える、エタノールの生産方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−224022(P2011−224022A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173356(P2011−173356)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【分割の表示】特願2006−91513(P2006−91513)の分割
【原出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、課題設定型産業技術開発費助成「バイオプロセス実用化開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】