説明

β型鉄シリケート組成物及び窒素酸化物還元方法

【課題】 高機能な触媒又は吸着剤等として有用な組成物を提供する。
【解決手段】 鉄の全部又は一部をβ型骨格構造中に含有するβ型鉄シリケート、及び、固体酸性の多孔質無機酸化物を含む組成物を用いる。β型鉄シリケートと固体酸性質を有する多孔質無機酸化物とを複合化し、β型鉄シリケートのアルミニウムに由来する固体酸機能を、粒子単位で物理的に隔離された多孔質無機酸化物により補強又は補完せしめることを特徴とする。前記β型鉄シリケートは乾燥重量に対するフッ素の含有率が400ppm以下であり、かつ、前記β型鉄シリケートの結晶粒子が双四角錐台形状であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、吸着剤及び分離剤等として有用なβ型鉄シリケート組成物に関する。更に詳しくは、鉄の全部又は一部をβ型骨格構造中に含有するβ型鉄シリケートと、固体酸機能を有する多孔性無機酸化物とを複合化することによりその機能を高めた組成物である。更には、その組成物を含んだ窒素酸化物還元触媒、及びそれを用いた窒素酸化物還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性アルミノシリケートであるβ型ゼオライトは、触媒及び吸着剤等として広く利用されている。β型ゼオライトの機能向上のため、次のような複合化の試みが行われている。
【0003】
例えば特許文献1において、鉄元素を担持したβ型ゼオライト、セリウム元素を担持したβ型ゼオライト、及びプロトン型MFIゼオライトからなるゼオライト触媒と、貴金属元素の1種以上を担持した多孔質無機酸化物とを含むことを特徴とする、炭化水素を還元剤とする窒素酸化物還元触媒組成物が開示されている。
【0004】
特許文献1において、この窒素酸化物還元触媒組成物は、各種燃焼装置から排出される窒素酸化物に対して低温でも高い還元除去性能を発揮することが発明の効果として記載されている。また、この窒素酸化物還元触媒組成物を構成するβ型ゼオライトはシリカアルミナ比が低いものが好ましいことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2において、ペンタシル型ゼオライト及び1以上の固体の酸性クラッキング促進剤を含む触媒組成物が開示されている。
【0006】
特許文献2において、ペンタシル型ゼオライトは金属を結晶中に四面体の配位において有する結晶を含むことが発明を実施するための形態として記載されている。しかしながら、そのような実施形態に関連して具体的に検討されたゼオライト構造、及び、その結晶中に四面体配位した金属に関する記述はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−330856号公報
【特許文献2】特開2011−005489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の様に、従来、β型鉄シリケートと、多孔性無機酸化物とを複合化した組成物は知られていなかった。
【0009】
本発明の目的は、鉄の全部又は一部をβ型骨格構造中に含有するβ型鉄シリケートと、固体酸機能を有する多孔性無機酸化物とを複合化することにより得られる新規な組成物、及び、その組成物を含む耐久性の高い窒素酸化物還元触媒を提供することにある。更なる目的は、その窒素酸化物還元触媒を用いた窒素酸化物の還元除去率の高い窒素酸化物の還元方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは以上のような状況に鑑み、β型鉄シリケート単独及び多孔質無機酸化物単独でのそれぞれの物性と機能の関係を検討した。その結果、両者がその機能において相乗効果を発揮しうることを見出した。これにより、本発明の組成物、その組成物を含む窒素酸化物還元触媒、及び、その窒素酸化物還元触媒を用いた、アンモニア等を還元剤として使用する窒素酸化物の還元方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は鉄の全部又は一部をβ骨格構造中に含有するβ型鉄シリケート、及び、固体酸性の1種類以上の多孔質無機酸化物を含むことを特徴とする組成物である。
【0012】
すなわち、本発明は以下に関する。
【0013】
(1)鉄の全部又は一部をβ型骨格構造中に含有するβ型鉄シリケート、及び、固体酸性の多孔質無機酸化物を含む組成物。
【0014】
(2)前記β型鉄シリケートの乾燥重量に対するフッ素の含有率が400ppm以下であり、かつ、前記β型鉄シリケートの結晶粒子が双四角錐台形状である(1)に記載の組成物。
【0015】
(3)前記β型鉄シリケートのSiO/Alのモル比が300以上であり、かつ、前記β型鉄シリケートの乾燥重量に対する鉄の含有率が5.5重量%以上12重量%以下である(1)又は(2)に記載の組成物。
【0016】
(4)前記多孔質無機酸化物がゼオライト、アルミナ、及びシリカとアルミナの化合物又は複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の多孔質無機酸化物である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の組成物。
【0017】
(5)前記ゼオライトが、*BEA、FAU、MOR、MFI、FER、LTL、MWW、MTW、CHA、LEV及びSZRからなる群から選ばれる少なくとも1種類の結晶構造を有する(4)に記載の組成物。
【0018】
(6)前記ゼオライトがH型ゼオライトである(5)に記載の組成物。
【0019】
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の組成物を含む窒素酸化物還元触媒。及び
(8)(7)記載の窒素酸化物還元触媒の存在下、アンモニア、尿素、及び有機アミン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の還元剤と、窒素酸化物とを接触させることによって、前記窒素酸化物を選択的に還元することを含む窒素酸化物還元方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、鉄の全部又は一部をβ型骨格構造中に含有するβ型鉄シリケートと、固体酸機能を有する多孔性無機酸化物とを複合化することにより得られる新規な組成物、及び、その組成物を含む耐久性の高い窒素酸化物還元触媒を提供することができる。
【0021】
また、その窒素酸化物還元触媒を用いた窒素酸化物の還元除去率の高い窒素酸化物の還元方法を提供することができる。
【0022】
β型鉄シリケートは高分散状態の鉄を含有することにより、例えばアンモニアを還元剤とする窒素酸化物還元触媒として用いたときに、200℃前後の低温を含む幅広い温度域で高い還元活性を示す。一方、本発明の組成物は前記触媒として用いたときに、β型鉄シリケートの高活性に加えて更に500℃前後の高温でも活性が大きく向上すると共に、β型鉄シリケートの混合比率が低い場合においても、計算により求められる性能水準よりも著しく高い低温活性を発揮する。すなわち、本発明の組成物を窒素酸化物還元触媒として利用すると、広範囲の温度域で有効に窒素酸化物を還元でき、自由度が高く高性能な触媒設計に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】合成例1のβ型鉄シリケート一次粒子の結晶形態を示す模式図である。
【図2】合成例1で得られたβ型鉄シリケートの電子スピン共鳴スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1〜3で得られた組成物における、β型ゼオライト、γ−アルミナ、又はZSM−5型ゼオライトの混合比率と、フレッシュ状態における200℃での窒素酸化物還元率との関係を示す図である。
【図4】実施例1〜3で得られた組成物における、β型ゼオライト、γ−アルミナ、又はZSM−5型ゼオライトの混合比率と、フレッシュ状態における500℃での窒素酸化物還元率との関係を示す図である。
【図5】実施例1〜3で得られた組成物における、β型ゼオライト、γ−アルミナ、又はZSM−5型ゼオライトの混合比率と、耐久処理後の状態における200℃での窒素酸化物還元率との関係を示す図である。
【図6】実施例1〜3で得られた組成物における、β型ゼオライト、γ−アルミナ、又はZSM−5型ゼオライトの混合比率と、耐久処理後の状態における500℃での窒素酸化物還元率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の組成物について説明する。
【0025】
本発明の組成物を構成するβ型鉄シリケートは、鉄の全部又は一部をβ型骨格構造中に含有する結晶性シリケートである。
【0026】
尚、β型骨格構造とは、β型結晶構造の三次元的幾何学構造を表す。
【0027】
β型鉄シリケートは、その結晶構造がβ型であり、酸素12員環からなる0.76×0.64nm及び0.55×0.55nmの細孔が交差した3次元細孔を有するメタロシリケートである。β型鉄シリケートの結晶構造は、以下の表1に示す格子面間隔d(オングストローム)とその回折強度で特徴づけられるX線回折パターンにより同定できる。
【0028】
【表1】

【0029】
β型鉄シリケートの化学組成は、以下の式で表される。
【0030】
(x+y)M(2/n)O・xFe・yAl・zSiO・wH
(但し、Mは陽イオン、nは陽イオンMの原子価、x、y、z、はそれぞれFe、Al、SiOのモル分率を表し、x+y+z=1である。wは0以上の数であり、z/yは特に限定されないが、300以上であることが好ましく、yは0であってもよい。x及びzは0より大きい数である。)
z/yの範囲は、300以上3000以下が好ましく、400以上2000以下がより好ましい。
【0031】
当該β型鉄シリケートは、鉄の全部又は一部が4配位構造の骨格原子として酸素原子と連結した構造である。そのため、β型鉄シリケートは、アルミノシリケートであるβ型ゼオライトと同様にシリケート骨格の電荷不足に由来する固体酸性質を有する。
【0032】
シリケート骨格とは、−Si−O−Si−O−のような結合の連続によって形作られる、ゼオライトの化学的な構造を表す。
【0033】
一般に、シリケートの有する固体酸強度はシリケート骨格中の金属種によって変化する。そのため、β型鉄シリケートはβ型ゼオライトとは異なる吸着特性及び触媒特性等が期待できる。
【0034】
また、鉄は吸着又は触媒等における活性金属として機能する。但し、β型鉄シリケートが含有する鉄は、必ずしもそのβ型鉄シリケートを構成している全ての骨格に存在する必要はない。その理由は、β型鉄シリケートを構成している骨格に存在する鉄は有機構造指向剤(Structure Directing Agent)(以下、SDAと称する。)除去のための焼成操作等の熱処理によって、その一部が脱離しうるからである。
【0035】
本発明のβ型鉄シリケートのSiO/Alのモル比は、特に限定されないが、水熱安定性からSiO/Alのモル比が300以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましい。
【0036】
SiO/Alのモル比の範囲は、300以上3000以下が好ましく、400以上2000以下がより好ましく、500以上1500以下が更に好ましい。
【0037】
本発明のβ型鉄シリケートは、結晶の乾燥重量に対する鉄の含有率が単体の鉄として5.5重量%以上12重量%以下であることが好ましい。
【0038】
ここで結晶の乾燥重量とは、β型鉄シリケートの結晶を構成する全元素の酸化物重量の和である。具体的には、結晶の乾燥重量は、β型鉄シリケートの結晶を空気中で600℃、30分間の熱処理を施した際のその結晶の重量を指す。
【0039】
本発明のβ型鉄シリケートの、結晶の乾燥重量に対する鉄の含有率の範囲は、結晶の乾燥重量に対して単体の鉄として5.5重量%以上であると窒素酸化物還元活性が高くなり、12重量%以下であると結晶性の良いβ型の構造を維持することができるため好ましく、6重量%以上10重量%以下がより好ましく、6.5重量%以上8重量%以下が更に好ましい。
【0040】
本発明のβ型鉄シリケートは、鉄の全部又は一部が4配位構造の骨格原子として酸素原子と連結した構造であるが、前記含有率で表される鉄とは、β型鉄シリケートの骨格内及び骨格外の両方に含まれる、β型鉄シリケート中の全ての鉄を意味する。
【0041】
前記含有率は、β型鉄シリケートを酸で溶解して、その溶解液中の鉄量をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析法により定量して測定することができる。
【0042】
本発明のβ型鉄シリケートは、結晶の乾燥重量に対するフッ素の含有率が400ppm以下であることが好ましい。
【0043】
結晶の乾燥重量に対するフッ素の含有率が400ppm以下であるβ型鉄シリケートは、その触媒性能等にフッ素の悪影響がないため、好ましい。
【0044】
特に、β型鉄シリケート結晶の乾燥重量に対するフッ素の含有率は200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、検出限界以下であることが更に好ましく、0ppmであってもよい。
【0045】
本発明のβ型鉄シリケートは、結晶粒子が双四角錐台形状であることが好ましい。結晶粒子の形状は、走査型電子顕微鏡で観察することができる。
【0046】
一般に、水熱合成されたβ型ゼオライト結晶は0.1μm〜1.0μm程度の不規則な球状又は楕円球状の一次粒子の凝集体として得られやすい。一方、良好に成長したβ型ゼオライト結晶の一次粒子は、双四角錐台形状(truncated square bipyramidal morphology)を示すことが知られている(例えば、ZEOLITES、Vol.12(1992)、240〜250頁)。
【0047】
本発明のβ型鉄シリケートは、走査型電子顕微鏡にて観察される結晶の一次粒子が双四角錐台形状の結晶形態を示すものであることが好ましい。これは、良好に成長したβ型ゼオライト結晶と同様の結晶形態である。このような結晶形態は、明瞭な稜線を有し、先端部の欠けた双四角錐台形状を示す。
【0048】
この結晶形態のアスペクト比(双四角錐形状の底面を構成する一辺の長さと、底面に垂直な結晶軸の長さの比とする)は原料組成、反応温度や反応時間等の合成条件によって変化しうる。
【0049】
β型鉄シリケートの結晶粒子は、二つ以上の数の結晶粒子で構成された双晶や、一部に成長途上の結晶形態を含んでもよい。
【0050】
β型鉄シリケート骨格中に存在する鉄は、孤立状態であり、なおかつ高対称な四面体構造をとると考えられる。一方、β型鉄シリケート骨格外に存在する鉄は八面体構造をとると考えられる。前記β型鉄シリケート骨格中に存在する鉄とは、4配位構造の骨格原子として酸素原子と連結している鉄を意味し、前記β型鉄シリケート骨格外に存在する鉄とは、鉄が4配位構造の骨格原子として酸素原子と連結していない鉄を意味する。また、孤立状態とは、鉄が単量体であり、二量体、クラスター又は凝集体ではない状態である。
【0051】
ここで、常磁性の鉄イオン(Fe3+)は電子スピン共鳴測定において共鳴吸収を示し、その吸収ピークはg≒2.0、g≒4.3及びg>4.3の少なくとも3つの吸収ピークに帰属されることが知られている(Journal of Catalysis,249頁(2007)67巻他参照)。g≒2.0の吸収ピークは対称四面体構造(又は高対称な多配位構造)を有する孤立鉄イオンに帰属される。また、g≒4.3及びg>4.3の吸収ピークは、それぞれ歪んだ四面体構造及び歪んだ多配位構造を有する孤立鉄イオンに帰属される。このことから、β型鉄シリケートの骨格中の鉄の存在は、電子スピン共鳴測定におけるg≒2.0に存在する吸収ピーク若しくは吸収ショルダー等の共鳴吸収の存在によって確認できる。
【0052】
また、β型鉄シリケートのX線吸収スペクトル(XAFS)を解析することによって、β型鉄シリケートの骨格中の鉄の存在を確認することもできる。この場合、FeのK吸収端の前に現れるX線吸収スペクトルの吸収端に現れる小さなピーク、いわゆるプリエッジピーク(7110eV)が四面体構造の孤立鉄イオンに帰属される。
【0053】
本発明の組成物を構成する多孔質無機酸化物は、固体酸性質を有する多孔質無機酸化物(以下、単に「多孔質無機酸化物」と称する)である。多孔質無機酸化物が有する固体酸量及び固体酸強度は、目的とする反応や吸着物質等に応じて任意に選択可能である。そのため、多孔質無機酸化物は目的に応じて任意に選択可能である。
【0054】
多孔質無機酸化物の比表面積は100m/g以上であることが好ましい。前記比表面積の範囲は、吸着点又は活性点としての機能の観点から、100〜1000m/gが好ましく、150〜800m/gがより好ましい。
【0055】
多孔質無機酸化物として、アルミナ、ゼオライト、及びシリカとアルミナの化合物又は複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の多孔質無機酸化物であることが好ましく、ゼオライトがより好ましい。
【0056】
前記アルミナ(前記シリカとアルミナの化合物又は複合酸化物を構成するアルミナを除く)は、活性アルミナであることが好ましい。活性アルミナとしては、γ−アルミナが例示される。
【0057】
前記ゼオライトの結晶構造は任意に選択可能である。ゼオライトは、細孔構造、水熱安定性及び固体酸性質等の観点から、*BEA、FAU、MOR、MFI、FER、LTL、MWW、MTW、CHA、LEV及びSZRからなる群から選ばれる少なくとも1種類の結晶構造を有するゼオライトであることが好ましく、*BEA又はMFI構造を有するゼオライトであることがより好ましい。
【0058】
固体酸性質を発揮するため、前記ゼオライトはそのカチオンタイプがH型であることが好ましい。しかしながら、結晶中にアルカリ金属、アルカリ土金属、遷移金属、又は希土類金属等を含むゼオライトであっても良い。
【0059】
本発明の組成物は、β型鉄シリケートと多孔質無機酸化物とを含む。これによって、組成物の機能と水熱安定性が、それぞれが単独の場合よりも向上する。その詳細な理由は明らかではない。しかし、粒子単位で物理的に隔離された多孔質無機酸化物が、β型鉄シリケートのアルミニウムに由来する固体酸機能を補強又は補完していることが、ひとつの理由と考えられる。つまり、β型鉄シリケートのSiO/Alのモル比の値が小さい場合は、アルミニウムに由来する固体酸が存在するので、多孔質無機酸化物の固体酸により「補強」されて機能が向上する。β型鉄シリケートのSiO/Alのモル比が非常に大きい場合は、アルミニウムが実質的に0となり、アルミニウムに由来する固体酸が0となるので、多孔質無機酸化物の固体酸により「補完」されて機能が向上する。
【0060】
また、β型鉄シリケートのSiO/Alのモル比が大きい場合は、多孔質無機酸化物の固体酸により「補完」されて機能が向上するだけでなく、β型鉄シリケートの安定性が向上する。
【0061】
目的とする反応や吸着物質等に応じて、本発明の組成物中のβ型鉄シリケートと多孔質無機酸化物の混合比率は任意に設定可能である。本発明の組成物に占める多孔質無機酸化物の混合比率は、本発明の組成物全体の乾燥重量に対して、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。また、その混合比率は好ましくは95重量%以下、より好ましくは60重量%以下であれば、本発明の組成物が高い還元除去特性を有することができる。
【0062】
本発明の組成物に占める多孔質無機酸化物の混合比率の範囲は、本発明の組成物全体の乾燥重量に対して、5重量%以上95重量%以下であることが好ましく、10重量%以上90重量%以下であることがより好ましく、10重量%以上60重量%以下であることが更に好ましい。
【0063】
次に、本発明の組成物の製造方法について説明する。
【0064】
本発明の組成物は、β型鉄シリケートと多孔質無機酸化物が複合化されていれば、特にその製造方法に限定は無い。前記複合化とは、十分に混合された状態である。
【0065】
本発明の組成物に含まれるβ型鉄シリケートの製造方法は特に限定されない。本発明の製造方法では、一般的な製造方法で得られたβ型鉄シリケート、例えば、β型ゼオライト骨格を有するゼオライトの後処理によって鉄を挿入したβ型鉄シリケートや、鉄を含む原料から水熱合成されたβ型鉄シリケートを用いることが好ましい。
【0066】
後処理によってアルミノシリケートであるβ型ゼオライト骨格に鉄を挿入するβ型鉄シリケートの製造方法としては、β型ゼオライト及び鉄塩を含む水性スラリーを水熱処理する方法、若しくは当該水性スラリーのpHを変化させる方法を含む液相処理方法、又は、鉄を含むキャリアーガスとβ型骨格を有するゼオライトを接触させる気相処理方法等を用いることができる。
【0067】
鉄を含む原料からβ型鉄シリケートを水熱合成する際、その原料混合物としては、ケイ素源、鉄源、SDA、アルカリ金属源、及び水、並びに所望によりアルミニウム源を用いることができる。また、その仕込み組成は合成処方に従って任意に設定できる。
【0068】
これらの原料は、他の成分と十分均一に混合できるものが好ましい。
【0069】
ケイ素源としてはコロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、又は鉄シリケートゲルなどを用いることができる。
【0070】
鉄源としては硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、又は金属鉄などを用いることができる。
【0071】
SDAは、ゼオライトや鉄シリケートを特定の結晶構造にするために、合成時に添加する物質である。
【0072】
本発明のSDAとしてはテトラエチルアンモニウムカチオンを有するテトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、更にはオクタメチレンビスキヌクリジウム、α,α’−ジキヌクリジウム−p−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−m−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−o−キシレン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,3,3,N,N−ペンタメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタン又はN,N−ジエチル−1,3,3−トリメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタンカチオンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用することができる。
【0073】
アルカリ金属源としては水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、又は酢酸カリウムなどを用いることができる。
【0074】
アルミニウム源としては硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミノシリケートゲル、又は金属アルミニウムなどを用いることができる。
【0075】
本発明の製造方法において、β型鉄シリケートは以下の仕込み組成を有する原料混合物から製造されたものがより好ましい。
【0076】
aMO・SiO・bFe・cAl・dSDA・eH
ここで、
M = Na又はK
a = 0.075〜0.50であり、好ましくは0.10〜0.25、
b = 0.01〜0.05であり、好ましくは0.01〜0.03、
c = 0.01以下であり、好ましくは0.003以下、更に好ましくは0.002以下であり、0であってもよく、
d = 0.10〜0.35であり、好ましくは0.10〜0.30、
e = 7〜15であり、好ましくは9〜13である。
【0077】
また、種晶などの結晶化促進作用を有する成分を添加してもよい。
【0078】
Oは原料混合物のpHを上昇させるため、鉄を含む原料の溶解及びβ型鉄シリケートの結晶化を促進する。更に、MOはケイ素の溶解を促進し、生成するβ型鉄シリケートの結晶に導入される鉄の割合を増加させる。
【0079】
本発明における好ましいβ型鉄シリケートの原料混合物の仕込み組成において、HOに対するMOの割合(a/e)は0.008以上であることが好ましく、0.009以上であることがより好ましく、0.010以上であることが更に好ましい。MOの割合が高いほど原料混合物のpHが上昇し、鉄を含む原料の溶解とβ型鉄シリケートの結晶化が促進する。
【0080】
本発明における好ましいβ型鉄シリケートの原料混合物の仕込み組成において、アルミニウムはできるだけ少ないことが好ましい。しかしながら、アルミニウムは原料の不純物として持ち込まれる。そのため、原料混合物を構成する原料はできるだけアルミニウムを含まないものを使用するのが好ましい。そのため、上記のc値は小さいことが好ましく、c値は0.01以下であり、好ましくは0.003以下、更に好ましくは0.002以下であり、0であってもよい。
【0081】
原料組成物にフッ素を使用してβ型鉄シリケートを合成しても良い。しかしながら、フッ素を使用して合成した場合、SDAの除去焼成後においてもフッ素が残存しやすくなる。これにより、触媒性能等に悪影響を与える可能性がある。そのため、原料組成物にフッ素を使用することなくβ型鉄シリケートを合成することが好ましい。
【0082】
ケイ素源、鉄源、SDA、アルカリ金属源、及び水、並びに所望によりアルミニウム源を含む原料混合物を密閉式圧力容器中で、100℃〜180℃の温度で処理することで、β型鉄シリケートを結晶化させることができる。
【0083】
結晶化の際、原料混合物は混合攪拌された状態でもよく、静置した状態でもよい。結晶化終了後、十分放冷し、固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃〜150℃の温度で乾燥してβ型鉄シリケートが得られる。
【0084】
乾燥後のβ型鉄シリケートはSDAを含んでいるため、これを除去しても良い。SDAの除去処理は、酸性溶液やSDA分解成分を含んだ薬液を用いた液相処理、レジンなどを用いた交換処理、又は熱分解処理を用いることができる。また、これらの処理を組み合わせても良い。
【0085】
更には、β型鉄シリケートのイオン交換能を利用してβ型鉄シリケートのカチオンをH型やNH型に変換しても良い。
【0086】
β型鉄シリケートのカチオンをH型やNH型に変換する方法としては、β型鉄シリケートを酸やアンモニア水に浸漬して、イオン交換する方法が例示される。
【0087】
β型鉄シリケートには更に活性な金属種を担持させてもよい。担持させる金属種は特に限定されないが、鉄、コバルト、パラジウム、イリジウム、白金、銅、銀、及び金からなる群から選ばれる1種以上の金属種が好ましい。
【0088】
金属の担持方法として、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法、又は物理混合法等の方法を用いることができる。金属担持に用いる原料は硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物、又は複合酸化物などを使用することができる。
【0089】
金属の担持量は限定されないが、結晶の乾燥重量に対して0.1重量%〜10重量%の範囲が好ましい。
【0090】
本発明の組成物を構成する多孔質無機酸化物は文献情報等に従って合成したものを用いることができる他、市販のものを用いることができる。
【0091】
多孔質無機酸化物としてゼオライトを用いる場合、例えば国際ゼオライト学会がウェブサイト(www.iza−online.org)において開示している文献情報等の合成方法を参照して、ゼオライトを合成することができる。
【0092】
ゼオライトの合成方法を開示している文献としては、例えば、米国特許第3702886号又は米国特許第3308069号などが挙げられる。
【0093】
本発明の組成物はβ型鉄シリケートと多孔質無機酸化物との混合により、複合化することが好ましい。
【0094】
混合によりβ型鉄シリケートと多孔質無機酸化物とを複合化する方法は、両者の十分な混合が可能であればその方法は限定されない。複合化の方法として、ミキサー又はブレンダー等による乾式混合、湿式混合、混練混合、又はスラリー状態にて両者を混合してスプレードライヤー等により乾燥する方法等を例示することができる。
【0095】
本発明の多孔質無機酸化物がゼオライトであって、β型鉄シリケート又はゼオライトが有機構造指向剤を含有する場合、SDAを除去した後に複合化することができる。これ以外にも、β型鉄シリケート又はゼオライトがSDAを含有した状態で両者を混合し、その後、焼成等の操作によりSDAを除去して複合化しても良い。
【0096】
本発明の多孔質無機酸化物がゼオライト以外の物質であって、β型鉄シリケートが有機構造指向剤を含有する場合、β型鉄シリケートのSDAを除去した後に複合化できる。これ以外にも、β型鉄シリケートがSDAを含有した状態で両者を混合し、その後、焼成等の操作によりSDAを除去して複合化してもよい。
【0097】
目的とする反応や吸着物質等に応じて、β型鉄シリケートと多孔質無機酸化物との混合比率は任意に設定可能である。本発明の組成物に占める多孔質無機酸化物の混合比率は、本発明の組成物全体の乾燥重量に対して、5重量%以上95重量%以下であることが好ましく、10重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。
【0098】
本発明の組成物は窒素酸化物還元触媒として用いることができる。
【0099】
すなわち、本発明の別の側面としては、前記組成物の窒素酸化物還元触媒としての使用に関する。本発明のまた別の側面としては、窒素酸化物還元触媒として使用するための前記組成物に関する。
【0100】
本発明の組成物には活性金属である鉄が含まれている。そのため、そのままでも窒素酸化物還元触媒として用いることができる。しかしながら、本発明の組成物に更に活性な金属種を担持させて窒素酸化物還元触媒として用いてもよい。
【0101】
担持させる金属種は特に限定されない。例えば8族、9族、10族、又は11族の元素を挙げることができる。担持させる金属種は、鉄、コバルト、パラジウム、イリジウム、白金、銅、銀、及び金からなる群から選ばれる1種以上の金属種が好ましく、鉄、パラジウム、白金、銅、及び銀からなる群から選ばれる1種以上の金属種がより好ましい。
【0102】
活性な金属種を担持させる場合の担持方法は特に限定されない。担持方法として、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法、又は物理混合法等の方法を採用することができる。金属担持に用いる原料は、担持させる金属種の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物、又は複合酸化物などが好ましい。
【0103】
金属種の担持量は限定されないが、組成物の乾燥重量に対して0.1重量%〜10重量%の範囲が好ましい。
【0104】
また、希土類金属、チタン、又はジルコニアなどの助触媒成分を付加的に加えることもできる。
【0105】
本発明の組成物は窒素酸化物還元触媒として用いる場合、その形状は特に限定されない。
【0106】
本発明の組成物は、更にシリカ、アルミナ及び粘土鉱物等のバインダーと混合及び成形し、成形体として使用することもできる。成形する際に用いられる粘土鉱物として、カオリン、アタパルガイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン、又はセピオライトが例示できる。
【0107】
前記成形体の製造方法としては、β型鉄シリケート100重量部に対し、10〜30重量部のバインダー及び適当量の水を加えて、押し出し成形機を使用して直径2mm程度の球状に成形する方法が例示される。
【0108】
また、コージェライト製あるいは金属製のハニカム基材にウォッシュコートして使用することもできる。
【0109】
本発明の第一の態様としては、鉄の全部又は一部をβ型骨格構造中に含有するβ型鉄シリケート、及び、固体酸性の1種類以上の多孔質無機酸化物を含む組成物であって、前記β型鉄シリケートの乾燥重量に対するフッ素の含有率が100ppm以下であり、前記β型鉄シリケートの結晶粒子が双四角錐台形状であり、前記β型鉄シリケートのSiO/Alのモル比が500以上1500以下であり、前記β型鉄シリケートの乾燥重量に対する鉄の含有率が6.5重量%以上8重量%以下であり、前記多孔質無機酸化物が、H型かつ*BEA構造を有するゼオライト、H型かつMFI構造を有するゼオライト、又はγ−アルミナであり、前記組成物に占める前記多孔質無機酸化物の混合比率が、組成物全体の乾燥重量に対して、10重量%以上90重量%以下である組成物が挙げられる。
【0110】
本発明の組成物を窒素酸化物還元触媒として用い、本発明の組成物の存在下、アンモニア、尿素、及び有機アミン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の還元剤と、窒素酸化物とを接触させることによって、ディーゼルエンジン等から排出される排ガス中の窒素酸化物を選択的に還元することができる。
【0111】
前記還元剤としては、アンモニア又は尿素が好ましい。
【0112】
本発明の第二の態様としては、鉄、パラジウム、白金、銅及び銀からなる群から選ばれる1種以上の金属種を担持した前記第一の態様の組成物を含む窒素酸化物還元触媒であって、前記金属種の担持量が、前記組成物の乾燥重量に対して0.1重量%〜10重量%である前記触媒が挙げられる。
【0113】
本発明の第三の態様としては、前記第一の態様の組成物の存在下、還元剤、特に好ましくはガス状の還元剤と窒素酸化物とを接触させることによって、前記窒素酸化物を選択的に還元することを含む窒素酸化物還元方法が挙げられる。
【0114】
本発明で還元される窒素酸化物は、例えば一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、一酸化二窒素、及びそれらの混合物が例示される。好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、及びこれらの混合物であり、より好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素、及びこれらの混合物である。ここで、本発明が処理可能な排ガスの窒素酸化物濃度は限定されるものではない。
【0115】
還元剤の添加方法は特に限定されず、還元成分をガス状で直接添加する方法、水溶液などの液状を噴霧し気化させる方法、又は噴霧熱分解させる方法等を採用することができる。これらの還元剤の添加量は、十分に窒素酸化物が還元できるように任意に設定することができる。
【0116】
また、排ガスには窒素酸化物以外の成分が含まれていてもよい。例えば、炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素、酸素、硫黄酸化物、又は水が排ガスに含まれていても良い。具体的には、本発明の方法ではディーゼル自動車、ガソリン自動車、ボイラー、又はガスタービン等の多種多様の排ガスに含まれる窒素酸化物を還元することができる。
【0117】
本発明の窒素酸化物の還元方法において、本発明の組成物を含む窒素酸化物還元触媒と排ガスを接触させる際の空間速度は特に限定されない。好ましくは体積基準で500〜50万hr−1、より好ましくは2,000〜30万hr−1である。
【実施例】
【0118】
以下、本発明を実施例で説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0119】
(電子スピン共鳴測定)
測定装置に電子スピン共鳴装置((株)日本電子製JES−TE200)を用いた。測定条件としては測定温度77°K、マイクロ波出力は1.0mW、観測範囲は0〜1000ミリテスラ、変調幅は0.32ミリテスラ、及び時定数は0.3秒とした。
【0120】
測定は、試料の約10mgを石英製試料管に秤取し、液体窒素温度測定用デュアに挿入して行った。
【0121】
(結晶中のフッ素含有率の測定方法)
β型鉄シリケート中のフッ素の含有率はランタンアリザリンコンプレキソン吸光光度法で定量した。ランタンアリザリンコンプレキソンとして、市販のアルフッソン((株)同仁化学研究所)を用いた。
【0122】
分析の前処理として、試料をアルカリ溶解、濃縮及び蒸留後に、アルフッソンを添加した後、pH調整をして波長620nmの吸光度を測定した。
【0123】
(窒素酸化物の還元試験方法)
試料をプレス成形後、破砕して12メッシュ〜20メッシュに整粒した。整粒した試料粉末1.5ccを常圧固定床流通式反応管に充填した。触媒層に表2の組成のガスを1500cc/分で流通させながら、200℃又は500℃で定常的な窒素酸化物の還元率を測定した。
【0124】
【表2】

【0125】
窒素酸化物還元除去率は、下式で求めた。
【0126】
NOx={([NOx]in−[NOx]out)/[NOx]in}×100
ここで、XNOxは窒素酸化物の還元率(%)、[NOx]inは入ガス(反応管へ入るガス)の窒素酸化物濃度、[NOx]outは出ガス(反応管から出るガス)の窒素酸化物濃度を示す。
【0127】
本発明において、製造した組成物の状態をフレッシュ状態(耐久処理前の状態)とした。また、組成物3ccを常圧固定床流通式反応管に充填し、700℃で20時間、HO=10体積%を含む空気を300cc/分で流通させて処理(耐久処理)して得られた組成物の状態を耐久処理後の状態とした。窒素酸化物の還元率測定は、フレッシュ状態及び耐久処理後の状態のいずれの組成物についても行なった。
【0128】
合成例1(β型鉄シリケートの合成)
3号珪酸ソーダ(SiO;30%、NaO;9.1%、Al;0.01%、残部は水)、98%硫酸、水及び硝酸鉄九水和物の所定量を混合することによりゲルを生成させた。生成したゲルを固液分離した後、純水により洗浄した。
【0129】
洗浄後のゲルに所定量の水、35%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(以下、「TEAOH」と称す)及び48%NaOHを加えて十分に撹拌混合して、反応混合物を得た。
【0130】
反応混合物の組成比はSiO:0.015Fe:0.00046Al:0.20NaO:0.15TEAOH:10HOであった。
【0131】
この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、回転条件下150℃で90時間加熱してβ型鉄シリケートを結晶化した。結晶化後のβ型鉄シリケートは白色であった。
【0132】
得られたβ型鉄シリケートの結晶の乾燥重量に対するフッ素の含有率は分析の定量限界100ppmを下回り検出限界以下であった。
【0133】
β型鉄シリケートについてX線回折測定した。得られたβ型鉄シリケートのX線回折チャートは、上記の表1に記載の位置に回折ピークを有するX線回折チャートであった。
【0134】
また、誘導結合プラズマ発光分析法分析の結果、β型鉄シリケートは結晶の乾燥重量に対して6.7重量%の鉄を含有しており、SiO/Alのモル比は860であった。
【0135】
得られたβ型鉄シリケート結晶粒子の走査型電子顕微鏡での観察結果を図1に示す。結晶の一次粒子は良好に成長した明瞭な稜線を有する双四角錐台形状の結晶形態であった。
【0136】
また、得られたβ型鉄シリケートについて電子スピン共鳴測定を実施した。
【0137】
得られたβ型鉄シリケートの測定により得られたスペクトルを図2に示す。得られたスペクトルにおいて、g≒2.0の大きな共鳴吸収ピークが観測された。これにより、β型鉄シリケート骨格中に存在する対称四面体構造を有する孤立鉄イオンの存在が確認された。
【0138】
一方、g≒4.3及びg>4.3の吸収は小さかった。これにより、合成例1のβ型鉄シリケートは歪んだ四面体構造及び歪んだ多配位構造を有する孤立鉄イオンが少ない事が明らかとなった。
【0139】
実施例1
合成例1において得られたβ型鉄シリケートを600℃で焼成し、SDAを除去した。SDA除去後のβ型鉄シリケートと、SiO/Alのモル比が28のβ型ゼオライト(結晶構造:*BEA構造、H型)を秤量した。乳鉢を用いてこれらを十分に混合して組成物を得た。
【0140】
組成物は、組成物に占めるβ型ゼオライトの混合比率が、組成物全体の乾燥重量に対して、それぞれ10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、70重量%、及び、90重量%となるように7種類を得た。
【0141】
実施例2
合成例1において得られたβ型鉄シリケートを600℃で焼成し、SDAを除去した。SDA除去後のβ型鉄シリケートと、市販のγ−アルミナ(STREM CHEMICALS,INC製)を秤量した。乳鉢を用いてこれらを十分に混合して組成物を得た。
【0142】
前記組成物は、組成物に占めるγ−アルミナの混合比率が、組成物全体の乾燥重量に対して20重量%となるように調製した。
【0143】
実施例3
合成例1において得られたβ型鉄シリケートを600℃で焼成し、SDAを除去した。SDA除去後のβ型鉄シリケートと、SiO/Alのモル比が28のZSM−5型ゼオライト(結晶構造:MFI構造、H型)を秤量した。乳鉢を用いてこれらを十分に混合して組成物を得た。
【0144】
前記組成物は、組成物に占めるZSM−5型ゼオライトの混合比率が、組成物全体の乾燥重量に対して20重量%となるように調製した。
【0145】
(窒素酸化物の還元試験)
実施例1で用いたβ型鉄シリケート及びβ型ゼオライトの単体、並びに実施例1〜実施例3で得られた組成物について窒素酸化物の還元試験を実施した。
【0146】
実施例1の組成物を構成するβ型ゼオライトの混合比率と、フレッシュ状態における200℃での窒素酸化物還元率との関係を図3に示す。β型鉄シリケート及びβ型ゼオライトのそれぞれ単独で測定された窒素酸化物還元率を基に、計算により求めた混合後のβ型ゼオライト含有率と窒素酸化物還元率との関係を図3中に点線で示した。
【0147】
実施例1の組成物は、β型ゼオライトの混合比率10重量%〜30重量%まで、β型鉄シリケート(β型ゼオライトの混合比率=0重量%)と比較してほとんど窒素酸化物還元率に変化がなく、いずれの測定においても図3の点線を上回る窒素酸化物還元率を示した。
【0148】
実施例2の組成物を構成するγ−アルミナの混合比率と、フレッシュ状態における200℃での窒素酸化物還元率との関係を図3に示す。実施例2の組成物は、これと同様の混合比率(20重量%)である実施例1の組成物と同等の窒素酸化物還元率を示した。
【0149】
実施例3の組成物を構成するZSM−5型ゼオライトの混合比率と、フレッシュ状態における200℃での窒素酸化物還元率との関係を図3に示す。実施例3の組成物は、これと同様の混合比率(20重量%)である実施例1の組成物と同等の窒素酸化物還元率を示した。
【0150】
実施例1の組成物を構成するβ型ゼオライトの混合比率と、フレッシュ状態における500℃での窒素酸化物還元率との関係を図4に示す。実施例1の組成物はβ型ゼオライトの混合比率の増加に従って窒素酸化物還元率が向上した。
【0151】
実施例2の組成物を構成するγ−アルミナの混合比率と、フレッシュ状態における500℃での窒素酸化物還元率との関係を図4に示す。実施例2の組成物は、これと同様の混合比率(20重量%)である実施例1の組成物と同等の窒素酸化物還元率を示した。
【0152】
実施例3の組成物を構成するZSM−5型ゼオライトの混合比率と、フレッシュ状態における500℃での窒素酸化物還元率との関係を図4に示す。実施例3の組成物は、これと同様の混合比率(20重量%)である実施例1の組成物と同等の窒素酸化物還元率を示した。
【0153】
実施例1の組成物を構成するβ型ゼオライトの混合比率と、耐久処理後の状態における200℃での窒素酸化物還元率との関係を図5に示す。β型鉄シリケート及びβ型ゼオライトのそれぞれ単独で測定された窒素酸化物還元率を基に、計算により求めた混合後のβ型ゼオライト含有率と窒素酸化物還元率との関係を図5中に点線で示した。実施例1の組成物は、β型ゼオライトの混合比率10重量%〜20重量%まで、β型鉄シリケート(β型ゼオライトの混合比率=0重量%)と比較してほとんど窒素酸化還元率に変化がなく、いずれの測定においても図5の点線を上回る窒素酸化物還元率を示した。
【0154】
実施例2の組成物を構成するγ−アルミナの混合比率と、耐久処理後の状態における200℃での窒素酸化物還元率との関係を図5に示す。実施例2の組成物は、これと同様の混合比率(20重量%)である実施例1の組成物と同等の窒素酸化物還元率を示した。
【0155】
実施例3の組成物を構成するZSM−5型ゼオライトの混合比率と、耐久処理後の状態における200℃での窒素酸化物還元率との関係を図5に示す。実施例3の組成物は、これと同様の混合比率(20重量%)である実施例1の組成物と同等の窒素酸化物還元率を示した。
【0156】
実施例1の組成物を構成するβ型ゼオライトの混合比率と、耐久処理後の状態における500℃での窒素酸化物還元率との関係を図6に示す。実施例1の組成物はβ型ゼオライトの混合比率の増加に従って窒素酸化物還元率が向上した。
【0157】
実施例2の組成物を構成するγ−アルミナの混合比率と、耐久処理後の状態における500℃での窒素酸化物還元率との関係を図6に示す。実施例2の組成物は、これと同様の混合比率(20重量%)である実施例1の組成物と同等の窒素酸化物還元率を示した。
【0158】
実施例3の組成物を構成するZSM−5型ゼオライトの混合比率と、耐久処理後の状態における500℃での窒素酸化物還元率との関係を図6に示す。実施例3の組成物は、これと同様の混合比率(20重量%)である実施例1の組成物と同等の窒素酸化物還元率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の組成物は、例えば窒素酸化物の還元触媒として使用可能であり、自動車の排ガスの浄化等に適用される。
【符号の説明】
【0160】
図面に用いられる符号の意味するところは以下の通りである。
【0161】
□:実施例1の組成物のフレッシュ状態における200℃での窒素酸化物還元率
◆:実施例2の組成物のフレッシュ状態における200℃での窒素酸化物還元率
×:実施例3の組成物のフレッシュ状態における200℃での窒素酸化物還元率
■:実施例1の組成物のフレッシュ状態における500℃での窒素酸化物還元率
◇:実施例2の組成物のフレッシュ状態における500℃での窒素酸化物還元率
−:実施例3の組成物のフレッシュ状態における500℃での窒素酸化物還元率
○:実施例1の組成物の耐久処理後の状態における200℃での窒素酸化物還元率
▲:実施例2の組成物の耐久処理後の状態における200℃での窒素酸化物還元率
*:実施例3の組成物の耐久処理後の状態における200℃での窒素酸化物還元率
●:実施例1の組成物の耐久処理後の状態における500℃での窒素酸化物還元率
△:実施例2の組成物の耐久処理後の状態における500℃での窒素酸化物還元率
+:実施例3の組成物の耐久処理後の状態における500℃での窒素酸化物還元率
点線:β型鉄シリケート及びβ型ゼオライトの単独での窒素酸化物還元率を基に求めた、β型ゼオライト含有率と窒素酸化物還元率との直線関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄の全部又は一部をβ型骨格構造中に含有するβ型鉄シリケート、及び、固体酸性の多孔質無機酸化物を含む組成物。
【請求項2】
前記β型鉄シリケートの乾燥重量に対するフッ素の含有率が400ppm以下であり、かつ、前記β型鉄シリケートの結晶粒子が双四角錐台形状である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記β型鉄シリケートのSiO/Alのモル比が300以上であり、かつ、前記β型鉄シリケートの乾燥重量に対する鉄の含有率が5.5重量%以上12重量%以下である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記多孔質無機酸化物がゼオライト、アルミナ、及びシリカとアルミナの化合物又は複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の多孔質無機酸化物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ゼオライトが、*BEA、FAU、MOR、MFI、FER、LTL、MWW、MTW、CHA、LEV及びSZRからなる群から選ばれる少なくとも1種類の結晶構造を有する請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ゼオライトがH型ゼオライトである請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物を含む窒素酸化物還元触媒。
【請求項8】
請求項7記載の窒素酸化物還元触媒の存在下、アンモニア、尿素、及び有機アミン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の還元剤と、窒素酸化物とを接触させることによって、前記窒素酸化物を選択的に還元することを含む窒素酸化物還元方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−254921(P2012−254921A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−113770(P2012−113770)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】