説明

β晶核剤およびβ晶構造が形成された結晶性樹脂組成物

【課題】結晶性樹脂にβ晶構造を形成させることができるβ晶核剤を提供する。
【解決手段】β晶核剤を、フェノール化合物、特に、フルオレン骨格を有するフェノール化合物[例えば、9,9−ビス(モノ乃至トリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]で構成する。このようなβ晶核剤と、結晶性樹脂(特に、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂)とを溶融混合することにより、結晶性樹脂にβ晶構造を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性樹脂にβ晶構造を形成可能な結晶核剤(β晶核剤)、このβ晶核剤を用いてβ晶構造が形成された結晶性樹脂を製造する方法、前記β晶核剤を含む結晶性樹脂組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性樹脂のうち、脂肪族ポリエステル樹脂は、生分解性が高い場合が多く、また、植物や微生物由来であるため、地球環境の保護や、資源の有効利用(再資源化)、廃棄物処理の問題などの点から、注目されている樹脂である。特に、脂肪族ポリエステル樹脂の中でも、ポリ乳酸は、耐熱性などに優れ、コスト的にも利用価値が高い。そして、このような脂肪族ポリエステル樹脂において、強度、弾性などの特性においてより一層改善することが求められている。
【0003】
このようなポリ乳酸の特性を改善する方法として、例えば、特開2003−293221号公報(特許文献1)には、L体またはD体のポリ乳酸分子鎖が単独で3らせん構造を形成しており、ウースター斑が2%以下であるポリ乳酸繊維が開示されている。この文献には、通常、α晶構造を有するポリ乳酸分子に、β晶類似のパターンが観測されたことから、3らせん構造が形成されていることを確認したこと、そして、この3らせん構造を有しているため、引っ張りに対し強い抵抗力を発揮し、室温だけでなく90℃以上の高温下でも充分な力学特性を示すことが記載されている。そして、この文献には、前記特定のポリ乳酸繊維は、重量平均分子量10万〜30万のホモPLLAを紡糸温度210〜250℃で口金より吐出し、冷却風により糸を冷却固化させた後、繊維用油剤を付与し高速で引き取り、そのまま巻き取る際に、巻き取ったポリ乳酸繊維の(200)面方向の結晶サイズが6nm以上および/または結晶配向度が0.90以上、U%が2.0%以下となるように引き取り速度(紡糸速度)等の紡糸条件を決定することにより得られることも記載されている。
【0004】
なお、ポリ乳酸には、α、β、γ結晶系が存在することが知られているが、従来、主にα結晶系のポリ乳酸が研究されており、β晶のポリ乳酸についての報告は、前記特許文献1を含むごくわずかな例だけである。そして、β晶構造を有するポリ乳酸は、3/1へリックス構造を有し、α晶構造のポリ乳酸よりもコンパクトな構造を有しており、前記特許文献1にも記載されているように、α晶のポリ乳酸に比べて、強度などの点で優れていることが知られているものの、特許文献1のように、高速での紡糸や高延伸などの特殊な工程を経なければ得られないのが現状である。
【0005】
なお、特開2005−290258号公報(特許文献2)には、樹脂成分と樹脂添加剤とを含有する組成物であって、前記樹脂成分が少なくとも脂肪族ポリエステル系樹脂を含んでおり、前記樹脂添加剤がフルオレン骨格を有する化合物で構成されている脂肪族ポリエステル系樹脂組成物が開示されている。この文献には、フルオレン骨格を有する化合物は、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類又はその誘導体[アルキレンオキシド付加体、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類又はそのアルキレンオキシド付加体のグリシジルエーテル、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類又はそのアルキレンオキシド付加体の(メタ)アクリレートなど]、9,9−ビス(アミノフェニル)フルオレン類又はその誘導体、このような化合物を樹脂の単量体成分として含む樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂など)などを使用できることが記載されている。そして、この文献には、前記樹脂添加剤を脂肪族ポリエステル樹脂に添加することにより、難燃性や耐熱性、成形性の高い脂肪族ポリエステル系樹脂組成物及び成形体が得られることが記載されている。
【0006】
しかし、この文献には、フルオレン骨格を有する化合物と脂肪族ポリエステル樹脂の結晶構造との関係について何ら開示されておらず、また、実施例において、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類などのフェノール性ヒドロキシ基を有するフルオレン化合物そのものを脂肪族ポリエステル樹脂に添加した例についても一切開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−293221号公報(特許請求の範囲、段落番号[0012]〜[0014]、[0026])
【特許文献2】特開2005−290258号公報(特許請求の範囲、段落番号[0026]、[0033]、[0041]、[0048]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、結晶性樹脂(例えば、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂)にβ晶構造を形成させることができる核剤(β晶核剤)、このβ晶核剤を含む樹脂組成物(結晶性樹脂組成物)、およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、α晶構造などの他の結晶構造を有する結晶性樹脂であっても、β晶構造を容易に形成(又はβ晶構造に転移又は変換)できる核剤(β晶核剤)、このβ晶核剤を含む樹脂組成物(結晶性樹脂組成物)、およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、結晶性樹脂にβ晶構造を形成できるとともに、結晶性樹脂の難燃性や耐熱性、さらには成形性などの特性を向上又は改善できる核剤、このβ晶核剤を含む樹脂組成物(結晶性樹脂組成物)、およびその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、簡便にβ晶構造を有する結晶性樹脂を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フェノール化合物[特に、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類などのフルオレン骨格を有するフェノール化合物]が、意外にも、結晶性樹脂(特に、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂)にβ晶構造を形成させることができること、また、このようなβ晶構造を有する結晶性樹脂は、結晶性樹脂と前記フェノール化合物とを溶融混合するという簡便な方法により得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明のβ晶核剤は、結晶性樹脂にβ晶構造を形成させる[又は結晶性樹脂の結晶構造(の一部又は全部)をβ晶構造に変換する、又は結晶性樹脂を構成する結晶構造におけるβ晶構造の割合を増大させる]ためのβ晶核剤であって、フェノール化合物で構成されている。
【0014】
このようなフェノール化合物は、特に、フルオレン骨格を有していてもよく、このようなフルオレン骨格を有するフェノール化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、Zは芳香族炭化水素環、Eは酸素原子又は硫黄原子、Rは炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す)、−(OR−OH(式中、Rは二価の炭化水素基、qは1以上の整数を示す)、−SR(式中、Rは前記と同じ)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基、Rはシアノ基、ハロゲン原子又は炭化水素基、mは0以上の整数、nは0〜4の整数、pは1以上の整数を示す。]
フェノール化合物は、上記式(1)において、Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、Eが酸素原子であり、Rがアルキル基であり、Rがアルキル基又はアリール基であり、mが0〜2であり、nが0〜1であり、pが1〜3である化合物であってもよい。
【0017】
代表的な前記フェノール化合物は、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンから選択された少なくとも1種であってもよい。
【0018】
前記結晶性樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂(結晶性脂肪族ポリエステル樹脂、例えば、ポリ乳酸など)であってもよい。このような脂肪族ポリエステル樹脂(特にポリ乳酸)は、β晶構造を形成させる方法に乏しく、特に、本発明のβ晶核剤を適用する結晶性樹脂として有用である。
【0019】
本発明には、結晶性樹脂と、前記β晶核剤とで構成された樹脂組成物も含まれる。このような樹脂組成物は、β晶核剤と結晶性樹脂との単純混合物(又はドライブレンド物)であってもよく、結晶性樹脂とβ晶核剤との溶融混合物であってもよい。このような溶融混合物では、前記結晶性樹脂にβ晶構造が形成されている。このような樹脂組成物において、β晶核剤の割合は、例えば、結晶性樹脂100質量部に対して0.05〜30質量部程度であってもよい。
【0020】
前記のように、結晶性樹脂の前記β晶核剤との溶融混合により結晶性樹脂にβ晶構造が形成される。そのため、本発明には、結晶性樹脂と前記β晶核剤とを溶融混合し、β晶構造を有する結晶性樹脂を製造する方法(又は前記結晶性樹脂にβ晶構造を形成させる方法又はβ晶構造が形成された結晶性樹脂および前記β晶核剤を含む樹脂組成物を製造する方法)も含まれる。このような方法では、結晶性樹脂に容易にβ晶構造を形成できる。なお、確実にβ晶構造を形成させるためには、溶融混合後の溶融混合物(冷却後の溶融混合物)を、さらに、熱処理(及び/又は延伸処理)してもよい。
【0021】
さらに、本発明には、前記樹脂組成物で形成された成形体(繊維など)も含まれる。
【0022】
なお、本明細書中、「フェノール」とは、チオフェノールを含む意味に用いる場合がある。
【発明の効果】
【0023】
本発明の核剤は、結晶性樹脂にβ晶構造を形成させることができる結晶核剤(β晶核剤)として有用である。特に、このような本発明のβ晶核剤は、α晶構造などの他の結晶構造を有する結晶性樹脂であっても、β晶構造を容易に形成(又はβ晶構造に転移又は変換)できる。すなわち、本発明のβ晶核剤は、結晶性樹脂に添加し、溶融混合するという簡便な方法で、簡便にβ晶構造を有する結晶性樹脂を製造できる。そのため、このようなβ晶核剤は、従来、特殊な工程を経ることなくβ晶構造を形成させることができなかったポリ乳酸などの結晶性樹脂にβ晶を形成させるための核剤として特に有用である。
【0024】
また、本発明のβ晶核剤は、フルオレン骨格を有する化合物などで構成されているため、結晶性樹脂にβ晶構造を形成できるとともに、結晶性樹脂の難燃性、耐熱性や、成形性などの特性を向上又は改善できる。しかも、フルオレン骨格を有する化合物などで構成すると、顔料などを高い分散性で結晶性樹脂に分散でき、顔料などの取り込み能力を向上できる。さらに、本発明のβ晶核剤により、結晶性樹脂の反応性や反応による架橋性を向上でき、これに伴う結晶性樹脂の強度の向上も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[β晶核剤]
本発明のβ晶核剤(単に、核剤などということがある)は、フェノール化合物で構成されている。フェノール化合物(チオフェノール化合物を含む)としては、フェノール類[例えば、フェノール、アルキルフェノール(例えば、クレゾール、キシレノールなどのC1−4アルキルフェノール)など]、ナフトール類[例えば、ナフトール(1−ナフトール、2−ナフトール)、アルキルナフトール(メチルナフトールなどのC1−4アルキルナフトールなど)など]などのモノフェノール化合物(1つのフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物)であってもよいが、通常、2以上のフェノール基(フェノール性ヒドロキシル基及び/又はチオフェノール性メルカプト基)を有する化合物(フェノール化合物)を好適に使用できる。また、フェノール化合物としては、フルオレン骨格を有するフェノール化合物も好ましい。
【0026】
2以上のフェノール基を有する化合物としては、例えば、アレーンジオール類{例えば、ジヒドロキシベンゼン類[例えば、ジヒドロキシベンゼン(1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジヒドロキシベンゼンなど)、アルキルジヒドロキシベンゼン[ジヒドロキシトルエン(4−メチルカテコールなど)、ジヒドロキシキシレン(2,6−ジヒドロキシ−p−キシレンなどなどのモノ又はジC1−6アルキル−ジヒドロキシベンゼン)など]、ナフタレンジオール類[例えば、ジヒドロキシナフタレン(例えば、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレンなどのジヒドロキシナフタレン)など]など}、ビスフェノール類{例えば、ビフェノール(例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−4アルカン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンなどのビス(モノC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)C1−4アルカン]、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィドなど]など}などの2つのフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物;アレーントリオール類{例えば、トリヒドロキシベンゼン類[例えば、トリヒドロキシベンゼン(1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼンなど)など]、トリヒドロキシナフタレン類[例えば、トリヒドロキシナフタレン(例えば、1,2,4−トリヒドロキシナフタレン、1,3,8−トリヒドロキシナフタレンなど)など]など}、トリスフェノール類{例えば、トリ(ヒドロキシアリール)アルカン[例えば、4,4’−(2−ヒドロキシベンジリデン)ビス(2,3,6−トリメチルフェノール)などのトリ(ヒドロキシC6−14アリール)アルカン、好ましくはトリ(ヒドロキシC6−12アリール)C1−8アルカン、さらに好ましくはトリ(ヒドロキシC6−10アリール)C1−4アルカン]など}、テトラキスフェノール類{例えば、ジ(ヒドロキシアラルキル−ヒドロキシアリール)アルカン[例えば、2,2’−メチレンビス[6−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−p−クレゾール]などのジ[(ヒドロキシC6−14アリールC1−6アルキル)ヒドロキシC6−14アリール]アルカン、好ましくはジ[(ヒドロキシC6−12アリールC1−4アルキル)ヒドロキシC6−12アリール]C1−8アルカン、さらに好ましくはジ[(ヒドロキシC6−10アリールC1−2アルキル)−ヒドロキシC6−10アリール]C1−4アルカンなどの3以上(例えば、3〜8、好ましくは3〜6、さらに好ましくは3〜4)のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物、これらに対応するチオフェノール化合物(これらの化合物においてヒドロキシル基をメルカプト基に置換した化合物)などが挙げられる。
【0027】
フルオレン骨格を有するフェノール化合物において、フルオレン骨格としては限定されず、フルオレンであってもよいが、9,9−ビスアリールフルオレン骨格が好ましい。
【0028】
このような9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフェノール化合物(9,9−ビスアリールフルオレン化合物などということがある)としては、1つのフェノール基を有するフェノール化合物{例えば、9−ヒドロキシアリール−9−アリールフルオレン類[例えば、9−ヒドロキシフェニル−9−フェニルフルオレン[例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−フェニルフルオレンなど]、9−ヒドロキシフェニル−9−アルキルフェニルフルオレン[例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−(4−メチルフェニル)フルオレンなどの9−ヒドロキシフェニル−9−(C1−4アルキル−フェニル)フルオレン]などの特開2009−13096号公報に記載の化合物など}であってもよいが、2以上のフェノール基を有する化合物が好ましい。
【0029】
このような2以上のフェノール基を有する9,9−ビスアリールフルオレン化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が含まれる。
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、Zは芳香族炭化水素環、Eは酸素原子又は硫黄原子、RおよびRはそれぞれ置換基、mは0以上の整数、nは0〜4の整数、pは1以上の整数を示す。)
上記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環としては、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン環、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式炭化水素環などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素環としては、ナフタレン環が挙げられる。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0032】
好ましい環Zには、ベンゼン環およびナフタレン環(特にベンゼン環)が含まれる。
【0033】
前記式(1)において、Eは酸素原子又は硫黄原子であるが、同一の環Zにおいて、pが複数(2以上)である場合、Eは互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、Eは同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。好ましいEは酸素原子(−O−)である。また、好ましい置換数pは、1〜6、好ましくは1〜4(例えば、1〜3)、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。なお、異なる環Zにおいて、置換数pは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0034】
環Zに置換する置換基Rとしては、通常、非反応性置換基、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−12アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などの基−OR[式中、Rは炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];ヒドロキシアルコキシ基(メチロール基、2−ヒドロキシエトキシ基などのヒドロキシC1−12アルコキシ基、好ましくはヒドロキシC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはヒドロキシC1−6アルコキシ基など)などの基−(OR−OH[式中、Rは二価の炭化水素基(例えば、C2−4アルキレン基などのアルキレン基などの前記例示の炭化水素基に対応する2価基)、qは1以上の整数(例えば、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基などのC1−12アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(C5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(C6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(C6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などの基−SR(式中、Rは前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。なお、基−OR−OHにおいて、前記Rには、通常、芳香族炭化水素基は含まれない場合が多い。
【0035】
これらのうち、代表的には、基Rは、炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す。)、−(OR−OH(式中、Rは二価の炭化水素基、qは1以上の整数を示す)、−SR(式中、Rは前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基であってもよい。
【0036】
好ましい基Rとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。特に、Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などの炭化水素基であるのが好ましい。
【0037】
なお、同一の環Zにおいて、mが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、好ましい置換数mは、0〜8、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2、特に0〜1(0又は1)であってもよい。なお、異なる環Zにおいて、置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0038】
基Rとしては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基(前記前記例示の炭化水素基など)などの非反応性置換基が挙げられ、特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−12アルキル基(例えば、C1−8アルキル基、特にメチル基などのC1−4アルキル基)などが例示できる。なお、nが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数nは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数nは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0039】
具体的な前記式(1)で表される化合物(又は2以上のフェノール基を有する9,9−ビスアリールフルオレン化合物)には、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(メルカプトフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類、9,9−ビス(メルカプトナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0040】
9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン]などの9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類;9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレンなど]などの9,9−ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン類などが挙げられる。また、9,9−ビス(メルカプトフェニル)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類において、ヒドロキシル基をメルカプト基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(メルカプトフェニル)フルオレン[9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレンなど];9,9−ビス(アルキル−メルカプトフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3−メチル−4−メルカプトフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−メルカプトフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はC1−4ジアルキル−メルカプトフェニル)フルオレン]などが挙げられる。
【0041】
9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類には、前記9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(モノヒドロキシナフチル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシナフチル)]フルオレン、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシナフチル)]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン}、9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシナフチル)フルオレン類などが挙げられる。また、9,9−ビス(メルカプトナフチル)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類において、ヒドロキシル基をメルカプト基に置換した化合物などが含まれる。
【0042】
好ましいフェノール化合物には、アレーンポリオール類(例えば、ジヒドロキシベンゼン、アルキルジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレンなど)、前記式(1)で表される化合物などが含まれる。これらの中でも、前記式(1)において、Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、Eが酸素原子であり、Rがアルキル基であり、Rがアルキル基又はアリール基であり、mが0〜2であり、nが0〜1であり、pが1〜3である化合物[例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなど]などが好ましい。このようなフルオレン骨格を有するフェノール化合物を使用すると、少ない割合でも、結晶性樹脂に確実にβ晶構造を形成させることができる。
【0043】
フェノール化合物は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0044】
なお、本発明のβ晶核剤は、前記フェノール化合物のみで構成してもよく(すなわち、前記フェノール化合物のみからなるβ晶核剤であってもよく)、適用する結晶性樹脂の種類に応じて、他のβ晶核剤と組み合わせて構成してもよい。
【0045】
このような他のβ晶核剤としては、例えば、カルボン酸塩又はエステル(例えば、コハク酸マグネシウム、1,2−ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、フタル酸マグネシウムなどの脂肪族又は芳香族カルボン酸アルカリ又はアルカリ土類金属塩)、スルホン酸塩又はエステル(例えば、ベンゼンスルホン酸ナトリウムなど)、アミド化合物(例えば、アジピン酸ジアニリドなどの脂肪族カルボン酸と芳香族アミンとのジ乃至テトラアミド;N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド、N,N’,N’’−トリシクロヘキシル−1,3,5−ベンゼントリカルボキサミドなどの芳香族ポリカルボン酸の脂環族アミンとのジ乃至テトラアミドなど)、顔料(フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料など)などが含まれる。なお、このような他のβ晶核剤は、ポリプロピレンのβ晶核剤として知られる化合物である。他のβ晶核剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0046】
本発明のβ晶核剤において、前記フェノール化合物と他のβ晶核剤とを組み合わせる場合、これらの割合は、例えば、前者/後者(質量比)=99/1〜10/90、好ましくは95/5〜30/70、さらに好ましくは90/10〜50/50程度であってもよい。
【0047】
[結晶性樹脂]
本発明のβ晶核剤は、結晶性樹脂にβ晶構造を形成させるための成分(添加剤)として使用できる。結晶性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂{例えば、エチレン系樹脂(ポリエチレンなど)、プロピレン系樹脂[ポリプロピレン、プロピレンを主成分(例えば、90モル%以上)とするコポリマー(プロピレン−エチレン共重合体)など]など}、ハロゲン系樹脂(塩化ビニリデン樹脂など)、ポリエステル樹脂{例えば、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂[例えば、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンテレフタレート)、ポリアルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレートなどのポリC2−4アルキレンナフタレート)などのポリアルキレンアリレートホモポリエステル、アルキレンアリレート単位の含有量が80モル%以上のコポリエステル、液晶性芳香族ポリエステルなど)など}、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミドなど)、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが例示できる。これらの結晶性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0048】
なお、結晶性樹脂にβ晶核剤を添加することにより、前記β晶核剤を構成するフェノール化合物のフェノール基が、結晶性樹脂の極性部位[例えば、極性基(カルボニル基、エステル基など)や、分岐による極性部位など]に水素結合するためか、β晶構造が形成される。なお、水素結合の形成は吸収スペクトル法[NIR(近赤外吸収)スペクトル法など]などの分析手段により確認できる。
【0049】
そのため、これらの結晶性樹脂のうち、極性基(例えば、エステル基、アミド基などのカルボニル基を含む基)、特に、エステル基を有する結晶性樹脂(例えば、ポリエステル樹脂など)が好ましく、ポリエステル樹脂の中でも、脂肪族ポリエステル樹脂を好適に使用できる。
【0050】
脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分との重縮合により得られるポリエステル、脂肪族オキシカルボン酸成分の重縮合により得られるポリオキシカルボン酸、ラクトンの開環重合により得られるポリラクトン、これらの成分を組み合わせて重合したポリエステル(例えば、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分と脂肪族オキシカルボン酸成分との重縮合により得られるポリエステル、脂肪族オキシカルボン酸成分とラクトンとの重縮合により得られたポリエステルなど)などが含まれる。これらの脂肪族ポリエステル樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0051】
前記ポリエステルにおいて、脂肪族ジカルボン酸成分(通常、飽和脂肪族ジカルボン酸成分)としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などのC2−12脂肪族ジカルボン酸、好ましくはC2−8脂肪族ジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸の反応性誘導体(例えば、酸無水物、メチルエステルなどのC1−3アルキルエステル、酸クロライドなどの酸ハライドなど)などが挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジカルボン酸成分のうち、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸などのC2−6アルカンジカルボン酸成分が好ましい。
【0052】
脂肪族ジオール成分(通常、飽和脂肪族ジオール成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタメチレングリコール、ドデカメチレングリコールなどのC2−12脂肪族ジオール、好ましくはC2−8脂肪族ジオールなどが挙げられる。これらのジオール成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジオール成分のうち、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−6アルカンジオールが好ましい。
【0053】
前記ポリオキシカルボン酸において、脂肪族オキシカルボン酸成分(通常、飽和脂肪族オキシカルボン酸成分)としては、例えば、脂肪族オキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、オキシプロピオン酸、オキシ酪酸などのC2−10脂肪族オキシカルボン酸、好ましくはC2−8脂肪族オキシカルボン酸)、脂肪族オキシカルボン酸の反応性誘導体(例えば、酸無水物、メチルエステルなどのC1−3アルキルエステル、酸クロライドなどの酸ハライドなど)であってもよい。これらのオキシカルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのオキシカルボン酸のうち、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、オキシ酪酸などのヒドロキシC2−6アルカン酸が好ましい。
【0054】
前記ラクトンにおいて、ラクトンとしては、例えば、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンなどのC3−12ラクトンが挙げられる。これらのラクトンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのラクトンのうち、プロピオラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトンなど)などのC3−10ラクトンが好ましい。
【0055】
これらの脂肪族ポリエステル樹脂は、通常、生分解性であってもよい。また、脂肪族ポリエステル樹脂は、合成ポリエステル系樹脂であってもよく、特に、天然ポリエステル樹脂(例えば、ポリオキシ酪酸などの微生物産生ポリエステルなど)や、天然物由来の原料から製造されたポリエステル(例えば、トウモロコシなどの植物由来の乳酸を重縮合したポリエステルなど)であってもよい。また、脂肪族ポリエステル系樹脂は、リサイクル利用によって再生された樹脂であってもよい。
【0056】
具体的な脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリアルキレンサクシネート(例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリネオペンチレンサクシネートなどのポリC2−6アルキレンサクシネート)、ポリアルキレンアジペート(例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチレンアジペートなどのポリC2−6アルキレンアジペート)、ポリブチレンアジペートサクシネートなどのアルカンジオール(例えば、C2−6アルカンジオール)とアルカンジカルボン酸(例えば、C2−10アルカンジカルボン酸)とのポリエステル(コポリエステルを含む)、ポリオキシカルボン酸(例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリオキシ酪酸、ポリリンゴ酸などのポリヒドロキシC2−6アルカン酸)、ポリラクトン(例えば、ポリプロピオラクトン、ポリカプロラクトンなど)などが挙げられる。
【0057】
これらの脂肪族ポリエステル樹脂の中でも、特に、ポリ乳酸は、β晶構造を形成させにくいため、本発明のβ晶核剤を好適に適用できる。ポリ乳酸(ポリ乳酸系樹脂)には、例えば、D−乳酸成分[D−乳酸およびその反応性誘導体(前記例示の誘導体の他、ラクチドなど)]およびL−乳酸成分[L−乳酸およびその反応性誘導体(前記例示の誘導体の他、錯チドなど)]から選択された少なくとも1種を重合成分とするポリマーが含まれ、例えば、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸などが含まれる。なお、光学純度が低い(すなわち、D−乳酸成分又はL−乳酸成分の割合が低い)ポリ乳酸は、結晶性が低い。
【0058】
ポリD−乳酸は、D−乳酸成分を主成分とするポリマーであればよく、D−乳酸の単独重合体、D−乳酸成分と共重合成分との共重合体が含まれる。このような共重合体において、D−乳酸成分の割合は、例えば、全構成モノマーの70モル%以上(例えば、75〜99.5モル%程度)、好ましくは80モル%以上(例えば、85〜99モル%程度)、さらに好ましは90モル%以上(例えば、92〜98モル%程度)であってもよい。D−乳酸成分と共重合可能な共重合成分としては、L−乳酸成分の他、ジオール成分(前記例示の脂肪族ジオール成分など)、ジカルボン酸成分(前記例示の脂肪族ジカルボン酸成分など)、ラクトン(前記例示の成分など)、環状エーテル(例えば、テトラヒドロフランなど)などが挙げられる。これらの共重合成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0059】
また、ポリL−乳酸は、ポリD−乳酸の場合と同様であり、ポリL−乳酸には、L−乳酸の単独重合体、L−乳酸成分と共重合成分との共重合体が含まれ、共重合体におけるL−乳酸成分の割合も前記と同様である。また、L−乳酸成分と共重合可能な共重合成分としては、D−乳酸成分の他、前記例示の共重合成分(ジオール成分、ジカルボン酸成分、ラクトン、環状エーテル)などが挙げられる。これらの共重合成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0060】
なお、結晶性樹脂(特に、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂)の重量平均分子量は、例えば、100〜1000000(例えば、500〜700000)、好ましくは1000〜500000(例えば、3000〜400000)、さらに好ましくは5000〜300000(例えば、10000〜250000)程度であってもよく、通常5000〜5000000(例えば、10000〜400000、好ましくは20000〜300000、さらに好ましくは30000〜250000)程度であってもよい。
【0061】
結晶性樹脂の結晶化度は、例えば、10〜85%、好ましくは20〜80%、さらに好ましくは30〜70%程度であってもよい。また、結晶性樹脂の結晶構造は、その種類にもよるが、通常、α晶構造(α結晶)を主たる結晶構造とする結晶性樹脂である場合が多い。
【0062】
結晶性樹脂におけるα晶構造の割合は、結晶構造(結晶領域)全体に対して、例えば、30%以上(例えば、40〜100%程度)、好ましくは50%以上(例えば、60〜99%程度)、さらに好ましくは70%以上(例えば、80〜95%程度)であってもよい。なお、結晶性樹脂は、結晶(結晶領域)を形成可能な樹脂であればよく、本発明のβ晶核剤との組み合わせにおいてβ晶を形成する樹脂であれば、必ずしも結晶領域(結晶部分)を有していなくてもよい[又は結晶領域が少なくてもよい(例えば、結晶化度10%未満程度でもよい)]。
【0063】
[樹脂組成物]
本発明のβ晶核剤は、前記結晶性樹脂にβ晶構造を形成させることができる。そのため、本発明には、前記β晶核剤と、前記結晶性樹脂とを含む組成物(樹脂組成物)も含まれる。このような樹脂組成物において、β晶核剤の割合は、結晶性樹脂100質量部に対して、例えば、0.05〜30質量部、好ましくは0.1〜25質量部(例えば、0.5〜20質量部)、さらに好ましくは1〜15質量部(例えば、2〜10質量部)程度であってもよい。特に、本発明のβ晶核剤では、結晶性樹脂100質量部に対して、10質量部以下(例えば、0.1〜10質量部、好ましくは0.3〜8質量部、さらに好ましくは0.5〜7質量部、特に1〜6質量部程度)の少量であっても、結晶性樹脂にβ晶構造を形成させることができる。なお、β晶核剤の割合を調整することにより、結晶性樹脂に形成するβ晶構造の割合を調整することもできる。特に、結晶性樹脂の種類にもよるが、十分な割合でβ晶構造を含む結晶性樹脂を得るためには、β晶核剤の割合を、結晶性樹脂100質量部に対して1質量部以上[例えば、1〜20質量部、好ましくは1.5〜15質量部(例えば、2〜10質量部)、特に3〜9質量部(例えば、4〜8質量部)]としてもよい。
【0064】
前記樹脂組成物は、β晶核剤と結晶性樹脂とを混合することにより得ることができる。特に、β晶核剤と結晶性樹脂とを溶融混合することにより、前記結晶性樹脂にβ晶構造が形成されるため、前記樹脂組成物は、結晶性樹脂とβ晶核剤との溶融混合物(すなわち、結晶性樹脂にβ晶構造が形成されている樹脂組成物)であってもよい。なお、本発明の樹脂組成物には、β晶核剤と結晶性樹脂との単純混合物(又はドライブレンド物)[すなわち、結晶性樹脂にβ晶構造が形成されていない樹脂組成物(又は前駆体)]も含まれる。このような単純混合物は、結晶性樹脂(およびβ晶核剤)を溶融させることなく、結晶性樹脂とβ晶核剤とを混合することにより得られ、結晶性樹脂にβ晶構造を形成させる前の前駆体としての樹脂組成物などとして使用可能である。
【0065】
溶融混合は、結晶性樹脂の種類に応じて、結晶性樹脂の融点以上の温度で行うことができる。溶融混合において、混合温度(混練温度)は、結晶性樹脂の融点をT℃とするとき、例えば、T℃〜T+60℃、好ましくはT+5℃〜T+50℃、さらに好ましくはT+10℃〜T+30℃程度であってもよい。具体的な混合温度は、例えば、100〜400℃、好ましくは120〜350℃(例えば、130〜300℃)、さらに好ましくは150〜250℃程度であってもよい。特に、結晶性樹脂が、脂肪族ポリエステル樹脂(ポリ乳酸など)である場合、混合温度は、130〜250℃、好ましくは160〜230℃、さらに好ましくは180〜220℃程度であってもよい。
【0066】
なお、溶融混合においては、例えば、押出機(1軸押出機、2軸押出機など)、ロールニーダー、バンバリーミキサーなどの混練機(混合機)を用いることができる。これらの混練機は、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0067】
そして、溶融混合により得られた溶融物を冷却することにより前記溶融混合物が得られる。なお、このような溶融混合物(冷却後の溶融混合物)は、さらに、熱処理や延伸処理(ガラス転移点温度以上での延伸処理)に供してもよい。熱処理において、温度(加熱温度、熱処理温度)は、例えば、90〜150℃、好ましくは100〜140℃、さらに好ましくは110〜130℃程度であってもよい。また、熱処理において、時間(加熱時間、熱処理時間)は、十分に結晶化可能な時間であればよく、例えば、1分以上(例えば、1分〜3時間)、好ましくは2分以上(例えば、2分〜1時間)、好ましくは3分以上(例えば、3〜30分)程度であってもよい。熱処理、延伸処理は単独で行ってもよく、組み合わせて行ってもよい。通常、結晶性樹脂のβ晶構造は、前記溶融混合(およびその後の冷却)のみでは形成されない(又は形成されにくい)が、このような溶融混合後の後処理により、確実に結晶性樹脂にβ晶構造を形成できる。いずれにしても、このような処理は、本発明のβ晶核剤を使用しない場合において、β晶構造の形成のために要求される高延伸処理のような高度又は煩雑な処理ではなく、本発明では、容易に結晶性樹脂にβ晶構造を形成できる。
【0068】
すなわち、結晶性樹脂とβ晶核剤とを溶融混合し、β晶構造を有する結晶性樹脂(又はβ晶構造を有する結晶性樹脂およびβ晶核剤とを含む樹脂組成物)を製造できる。このようなβ晶構造が形成された結晶性樹脂において、β晶構造の割合は結晶構造全体の100%であってもよく、前記のように、使用するβ晶核剤の割合に応じて、適宜調整する(例えば、結晶構造全体に対して、例えば、10〜99%、好ましくは30〜95%、さらに好ましくは50〜90%程度とする)こともできる。また、このようなβ晶構造が形成された結晶性樹脂において、β晶構造とα晶構造との割合は、前者/後者=100/0〜10/90、好ましくは100/0〜30/70、さらに好ましくは100/0〜50/50程度であってもよい。なお、β晶構造が形成された結晶性樹脂において、結晶化度は、例えば、10〜85%、好ましくは20〜80%、さらに好ましくは30〜70%程度であってもよい。
【0069】
なお、結晶性樹脂のβ晶構造の形成は、結晶性樹脂において公知のパラメータ(融点、結晶化温度、X線回折(広角X線回折など)における所定のピーク、NMRにおける所定のピークなど)を利用して確認できる。例えば、ポリL−乳酸(単独重合体)では、β晶構造の融点はα晶構造の融点より数℃〜十数℃異なることが知られている(例えば、Macromolecules, vol.23,642(1990)などに記載されている)。そのため、オリジナルのポリL−乳酸の融点の値が低温側へシフトするかどうかでポリL−乳酸にβ晶構造が形成されたか否かを確認することができる。また、これらの融点に対応する融解エンタルピーのピーク強度などからβ晶構造の割合を算出することもできる。
【0070】
なお、本発明では、前記β晶核剤が、結晶性樹脂と何らかの相互作用(例えば、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルを構成するカルボニル基と、β晶核剤のフェノール基との相互作用など)によりβ晶構造を形成するようであるが、市販の結晶性樹脂(例えば、ポリ乳酸樹脂)などは、通常、純粋な結晶性樹脂ではない場合が多い。そのため、このような結晶性樹脂は、結晶性部分と非結晶性部分である程度変動があり、このような変動が得られるβ晶構造の融点の値に極めて細かい変化を与えることがあるが、このような値の差はごくわずかであり、β晶構造が形成されたか否かの確認に影響を及ぼすレベルではない。
【0071】
なお、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を害しない程度であれば、添加剤、例えば、安定剤(老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤など)、難燃剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、変性剤、着色剤、カップリング剤、防腐剤、防カビ剤などが含まれていてもよい。
【0072】
[成形体]
本発明の成形体は、前記樹脂組成物で形成されている。成形体の形状は、用途に応じて選択でき、特に限定されず、例えば、繊維状、フィルム状、シート状、板状、管状、棒状、チューブ状、中空状などが挙げられる。このような成形体は、前記樹脂組成物を慣用の方法により成形することに製造できる。成形法としては、成形体の種類に応じて、例えば、押出成形法、射出成形法、熱成形法(ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プレス成形法など)、カレンダ加工法、発泡成形法、圧縮成形法などを利用できる。
【0073】
特に、本発明の樹脂組成物は、β晶構造の結晶性樹脂で構成されているため、強度、耐熱性などの特性に優れており、繊維(繊維状成形体)を形成するのに適している。繊維状成形体としては、例えば、マルチフィラメント、モノフィラメント、フラットヤーン、ステープルファイバー、不織布などが挙げられる。このような繊維状成形体は、例えば、溶融紡糸法(エクストルーダー式溶融紡糸法など)によって得ることができる。
【0074】
溶融紡糸法において、前記樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、成形温度で、例えば、0.1〜10g/10分、好ましくは0.3〜8g/10分、さらに好ましくは0.5〜7g/10分程度であってもよい。なお、溶融紡糸のように、溶融させて成形する場合、樹脂組成物は必ずしも前記のような溶融混合物(既にβ晶構造が形成された結晶性樹脂)を使用する必要はないが、確実に繊維にβ晶構造を形成させるためには、前記溶融混合物を樹脂組成物として使用して溶融成形(溶融紡糸など)してもよい。なお、前記のように、β晶核剤を使用することなく、結晶性樹脂(例えば、ポリ乳酸など)にβ晶構造を形成させる場合には、高速延伸や二段延伸などの特別な処理が必要であるが、本発明のβ晶核剤を使用すると、このような処理を要することなく簡便に結晶性樹脂にβ晶構造を形成させることができる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0076】
なお、実施例および参考例において、コンパウンド又はペレットの熱物性は、示差重量熱分析機(RIGAKU社製、DSC 8230)により測定した。熱物性の測定において使用したサンプル量は10mgとし、温度25〜250℃、昇温速度10K/分の条件で測定を行った。
【0077】
また、繊維の物性は、万能試験機((株)島津製作所製、EZGraph)により、引張治具を使用して測定し、繊維直径は、光学顕微鏡((株)ニコン(株)製 OPTIPHOT)で測定した。
【0078】
(実施例1)
フルオレン骨格を有するフェノール化合物としての9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、融点=210℃、以後、BCFという)と、ポリL−乳酸(Natureworks(株)製、「6400D」、融点=168℃、Mw=180000)とを、前者/後者(質量比)=1/99でドライブレンドし、二軸押出機(テクノベル社製、KZW15−30MG)にて、温度180〜200℃で溶融混練したのち、空冷によりペレット化し、さらに、温度120℃で5分間熱処理してコンパウンドを得た。なお、得られたペレットは透明であった。
【0079】
(実施例2)
実施例1において、BCFとポリL乳酸との割合を、前者/後者(質量比)=3/97に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。なお、得られたペレットは透明であった。
【0080】
(実施例3)
実施例1において、BCFとポリL乳酸との割合を、前者/後者(質量比)=5/95に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。なお、得られたペレットは透明であった。
【0081】
(実施例4)
実施例3において、BCFに代えて2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(融点=139℃)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【0082】
(実施例5)
実施例3において、BCFに代えて4,4’−(2−ヒドロキシベンジリデン)ビス(2,3,6−トリメチルフェノール)(融点=206℃)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【0083】
(実施例6)
実施例3において、BCFに代えて2,2’−メチレンビス[6−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−p−クレゾール](融点=195℃)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【0084】
(参考例1)
実施例1において、BCFに代えて、フェノール化合物でない9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、融点162℃、以後、「BPEF」という)を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてペレット化してコンパウンドを得た。なお、得られたペレットは透明であった。
【0085】
(参考例2)
実施例2において、BCFに代えてBPEFを使用したこと以外は、実施例2と同様にしてペレット化してコンパウンドを得た。なお、得られたペレットは透明であった。
【0086】
(参考例3)
実施例3において、BCFに代えてBPEFを使用したこと以外は、実施例3と同様にしてペレット化してコンパウンドを得た。なお、得られたペレットは透明であった。
【0087】
(比較例1)
実施例1において、BCFを用いなかった(すなわち、ポリL乳酸単独で溶融混練した)こと以外は、実施例1と同様にしてペレット化してコンパウンドを得た。なお、得られたペレットは透明であった。
【0088】
そして、実施例1〜6、参考例1〜3および比較例1で得られたコンパウンドの熱物性(熱的特性)を測定した。結果を表1に示す。なお、表1において、「PLLA」はポリL−乳酸、「A1」はBCF、「A2」は2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、「A3」は4,4’−(2−ヒドロキシベンジリデン)ビス(2,3,6−トリメチルフェノール)、「A4」は2,2’−メチレンビス[6−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−p−クレゾール]、「B」はBPEFを示し、「Tg」はガラス転移温度、「Tm1」はβ結晶の融点、「Tm2」はα結晶の融点、「Tm3」は添加剤(A1〜A4、B)の融点であり、「ΔHm1」はTm1における融解エンタルピー、「ΔHm2」はTm2における融解エンタルピーの値を示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1から明らかなように、BCF(A1)を添加したポリL−乳酸(実施例1〜3)では、α晶の融点(168℃)だけでなく、この融点とは異なるβ晶の融点(163℃)も示し、β晶構造を有していることが判明した。そして、このβ晶構造の割合は、BCFの添加割合を増大させるにつれて大きくなり、5質量%の割合で添加した場合には、コンパウンド全体がβ晶構造を有するポリL−乳酸となっていることが判明した。しかも、実施例1〜3では、BCFの融点(210℃)が確認されず、BCFは、ポリL−乳酸との相互作用が強いためか、有効にポリL乳酸の結晶構造をβ晶に変える効果があることが判明した。また、比較例1との対比から明らかなように、BCFの添加により、Tgが向上することも確認された。
【0091】
なお、このようなβ晶の形成は、広角X線回折によっても確認できた。また、NIRスペクトルより、β晶構造の形成によるものと思われる水素結合も確認できた。
【0092】
一方、BPEFは、BCFと同様の9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有しているが、ポリL乳酸の結晶構造をβ晶に変えることができないことが判明した。すなわち、参考例1〜3では、BPEFをポリL−乳酸に添加しても、β晶の融点が確認されず、α晶の融点およびBPEFそのものの融点のみが確認された。また、BPEFを添加しても、あまりTgを向上させる効果がないことが判明した。
【0093】
また、フルオレン骨格を有しないフェノール化合物(A2、A3およびA4)をポリL−乳酸に添加した場合においても、β晶構造を形成できることがわかった。そして、構造的にフレキシブルなフェノール化合物よりも、剛直な構造を有するフェノール化合物の方が、より有効にβ晶構造を形成できるようであることがわかった。
【0094】
(実施例3−2)
実施例3で得られたコンパウンドを用いて、モノフィラメントの紡糸を行った。すなわち、一軸溶融押出機(テクノベル社製、SZW15−24MG)にて180〜200℃の温度でコンパウンドを溶融し、口径1.2mmの口金より吐出したのち、室温で冷却し(空気中で自然冷却し)、1000rpmの巻き取り機で冷却したモノフィラメントを回収した。回収したフィラメントは、透明で十分な硬度を有し、フレキシブルであった。
【0095】
(比較例1−2)
実施例3−2において、実施例3で得られたコンパウンドに変えて、比較例1で得られたコンパウンドを使用したこと以外は、実施例3−2と同様にして、モノフィラメントを回収した。回収したフィラメントは、透明で十分な硬度を有し、フレキシブルであった。
【0096】
そして、実施例3−2および比較例1−2で得られたモノフィラメントの繊維物性[直径、強度、弾性率、伸び率(破断伸度)]を測定した。結果を表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
表2から明らかなように、BCFを添加したポリ乳酸を使用すると、α晶構造のポリ乳酸と同様の紡糸プロセスを経て、α晶構造のポリ乳酸よりも強度および弾性率に優れた繊維が得られることがわかった。このことからも、BCFはポリ乳酸のβ晶核剤として有効に作用し、β晶ポリ乳酸の形成により高強度の繊維が得られたことがわかる。
【0099】
(実施例7)
実施例1において、BCFとポリL乳酸との割合を、前者/後者(質量比)=10/90に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。なお、得られたペレットは透明であった。
【0100】
(実施例8)
実施例3において、BCFに代えて9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、融点=229℃)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【0101】
(実施例9)
実施例3において、BCFに代えて9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、融点=290℃)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【0102】
(実施例10)
実施例3において、BCFに代えて9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、融点=267℃)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【0103】
(実施例11)
実施例3において、BCFに代えて9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、融点=264℃)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【0104】
(実施例12)
実施例3において、BCFに代えて9,9−ビスカテコールフルオレン(又は9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製、融点=240℃)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【0105】
(実施例13)
実施例3において、BCFに代えてビスフェノールA(東京化成(株)製、融点=158℃)を使用し、混練温度を150〜170℃に代えたこと以外は、実施例3と同様にして、ペレット化してコンパウンドを得た。得られたペレットは、透明であった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のβ晶核剤は、結晶性樹脂、特に、特殊な工程を経ることなくβ晶を形成できなかったポリ乳酸などの樹脂にβ晶構造を形成させるための添加剤として有用である。そして、このようなβ晶構造が形成された結晶性樹脂(前記樹脂組成物)は、β晶構造に由来して、強度、耐熱性、伸びなどの機械的特性にも優れているため、各種成形体、例えば、射出成型体(自動車などの輸送車両などを構成する部材及び装備品、パーソナルコンピュータ、ディスプレイ、複写機、プリンタなどのオフィス・オートメーション(OA)機器、テレビや冷蔵庫などの家電製品、壁材や床材などの建築資材、各種器具(ハウジング、ケーシング、パーツなど))、押出成形体(シート、真空成形体、圧空成形体、発泡容器)、ブロー成形体(飲料容器、化粧品容器、薬容器など)、インフレーション成形体(ゴミ袋、農業用シート等)、また、繊維状成形体は、優れた生分解性を有しているため、生分解性の成形体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂にβ晶構造を形成させるためのβ晶核剤であって、フェノール化合物で構成されたβ晶核剤。
【請求項2】
フェノール化合物が、フルオレン骨格を有する請求項1記載のβ晶核剤。
【請求項3】
フェノール化合物が、下記式(1)で表される化合物である請求項1記載のβ晶核剤。
【化1】

[式中、Zは芳香族炭化水素環、Eは酸素原子又は硫黄原子、Rは炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す)、−(OR−OH(式中、Rは二価の炭化水素基、qは1以上の整数を示す)、−SR(式中、Rは前記と同じ)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基、Rはシアノ基、ハロゲン原子又は炭化水素基、mは0以上の整数、nは0〜4の整数、pは1以上の整数を示す。]
【請求項4】
式(1)において、Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、Eが酸素原子であり、Rがアルキル基であり、Rがアルキル基又はアリール基であり、mが0〜2であり、nが0〜1であり、pが1〜3である請求項3記載のβ晶核剤。
【請求項5】
フェノール化合物が、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(モノ又はジC6−10アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン、及び9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンから選択された少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載のβ晶核剤。
【請求項6】
結晶性樹脂が脂肪族ポリエステル樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載のβ晶核剤。
【請求項7】
結晶性樹脂がポリ乳酸である請求項1〜6のいずれかに記載のβ晶核剤。
【請求項8】
結晶性樹脂と、請求項1〜7のいずれかに記載のβ晶核剤とで構成された樹脂組成物。
【請求項9】
β晶核剤の割合が、結晶性樹脂100質量部に対して0.05〜30質量部である請求項8記載の樹脂組成物。
【請求項10】
結晶性樹脂とβ晶核剤との溶融混合物であって、前記結晶性樹脂にβ晶構造が形成されている請求項8又は9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
結晶性樹脂と請求項1〜7のいずれかに記載のβ晶核剤とを溶融混合し、β晶構造を有する結晶性樹脂を製造する方法。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された成形体。
【請求項13】
繊維である請求項12記載の成形体。

【公開番号】特開2011−21083(P2011−21083A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166035(P2009−166035)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年6月22日 インターネットアドレス「http://oasys2.confex.com/acs/238nm/techprogram/P1299239.HTM」に掲載
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】