説明

あと施工アンカー用樹脂組成物、あと施工アンカー用カプセル及びあと施工アンカー用注入カートリッジ

【課題】あと施工アンカー用途に使用するための流動性等の基本的性能を充分なものとしながら、固着強度が顕著に向上され、土木、建築、機械分野等に好適に使用することができるあと施工アンカー用樹脂組成物、あと施工アンカー用カプセル、及び、あと施工アンカー用カートリッジを提供する。
【解決手段】基礎部材にアンカー部材を埋め込むに際し、アンカー部材を基礎部材に設けられた孔内で固着するために用いられるあと施工アンカー用樹脂組成物であって、上記あと施工アンカー用樹脂組成物は、ラジカル重合性オリゴマー及びラジカル重合性単量体を含み、更にワックスを必須成分とするあと施工アンカー用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あと施工アンカー用樹脂組成物、あと施工アンカー用カプセル及びあと施工アンカー用注入カートリッジに関する。より詳しくは、土木、建築、機械分野等に好適に用いられるあと施工アンカー用樹脂組成物、あと施工アンカー用カプセル及びあと施工アンカー用注入カートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
打設し強度が発現されたコンクリート等の基礎部材に対し、アンカーボルトや差筋等のアンカー部材を埋めこむあと施工アンカー(あと施工アンカー工法)が、土木、建築、機械分野その他の分野等で広く使用されている。あと施工アンカーとしては、予め設けた孔とアンカー部材とのすき間を固着剤で充填し硬化させ、基礎部材孔壁の凹凸部とアンカー部材の凹凸部との間を固着剤で物理的に固着する接着系アンカーが多岐にわたって用いられている。
接着系アンカーに用いられるあと施工アンカー用樹脂組成物は、常温での硬化反応が可能なこと、作業性を確保するとともに、孔の内部に拡がり得るための流動性、基礎部材と強固に固着できる固着強度等が求められている。
【0003】
従来の接着系アンカー又はあと施工アンカー用樹脂組成物としては、特定の注入式カートリッジに用いるラジカル硬化型樹脂用硬化剤組成物(例えば、特許文献1等)やアンカー固着用カプセルの上部に溶融したパラフィンワックスを充填し、冷却、固化したパラフィンワックスにより封止するアンカーボルト固着用カプセル(例えば、特許文献2等)、コンクリート系構造物のコンクリート表面に、頭頂部に平板を有するアンカーを設け、更に金属板を当該平板を介してアンカー同士に接着するように設けるコンクリート系構造物の補強方法(例えば、特許文献3等)等が開示されている。あと施工アンカー用カプセルやあと施工アンカー用カートリッジは、作業効率がよく、周囲環境の汚染も少ない等の利点のため広範に用いられている。
【特許文献1】特開2003−313956号(第2、4頁)
【特許文献2】特許第3210902号明細書(第1、2頁)
【特許文献3】特許第3794791号明細書(第1、8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のあと施工アンカー用樹脂組成物においては、固着強度を更に優れたものとして、土木、建築、機械分野等に更に好適に用いられるものとするための工夫の余地があった。特に、重量看板の据付け及び取替えのためのアンカー、耐震補強増設壁接合用アンカー等に、利便性に優れるあと施工アンカーを適用するために、固着強度をより高めるという課題があった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、あと施工アンカー用途に使用するための流動性等の基本的性能を充分なものとしながら、固着強度が顕著に向上され、土木、建築、機械分野等に好適に使用することができるあと施工アンカー用樹脂組成物、あと施工アンカー用カプセル、及び、あと施工アンカー用カートリッジを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上述した特性を発揮することができるあと施工アンカー用樹脂組成物について種々検討したところ、あと施工アンカー用樹脂組成物がラジカル重合性オリゴマー及びラジカル重合性単量体を含み、更にワックスを必須成分とすると、アンカー部材の固着強度が顕著に優れたものとなることを見いだし、また固着強度が顕著に優れたあと施工アンカー用カプセル、及び、あと施工アンカー用カートリッジを得ることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。このようなあと施工アンカー用樹脂組成物は、上述した特性が要求される土木、建築、機械分野等の各種用途、特に、あと施工アンカー用途、例えばアンカーボルトの据付け替えによる重量看板取替え、耐震補強増設壁接合用アンカー等に好適に適用し得るものである。
【0006】
本発明の効果が発揮される理由としては、ワックスがラジカル重合性樹脂組成物を硬化させる際、ラジカル重合性樹脂組成物から形成される成型体の表面に析出し、空気との遮断膜を形成することにより、酸素に起因するラジカル重合性樹脂の重合阻害を抑制し、これに伴って固着強度が上昇することが考えられる。しかしながら、ラジカル重合性樹脂組成物を速硬化させ、成型体の表面にワックスを析出する時間を与えず、空気との遮断膜を形成しなかった場合でも固着強度は上昇する。
このようにワックスの空気乾燥性付与剤としての作用も一つの可能性ではあるが、それをはるかに上回る作用がワックスにはあることが考えられる。
本発明の技術分野における技術常識としては、本来ワックスを樹脂自体に添加しても樹脂硬化物の強度は下がるものである。また、ガラスを入れたFRP(繊維強化プラスチック)等においても、ワックスを入れることにより強度が上がることはない。密閉状態となる特殊なあと施工アンカー用途においても、樹脂硬化物自体の強度が上がるわけではないが、ワックスがラジカル重合性樹脂に作用することにより、アンカー部材を固着する強度は物理的に上昇することを見いだしたものである。
【0007】
すなわち本発明は、基礎部材にアンカー部材を埋め込むに際し、アンカー部材を基礎部材に設けられた孔内で固着するために用いられるあと施工アンカー用樹脂組成物であって、上記あと施工アンカー用樹脂組成物は、ラジカル重合性オリゴマー及びラジカル重合性単量体を含み、更にワックスを必須成分とするあと施工アンカー用樹脂組成物である。
本発明はまた、上述したあと施工アンカー用樹脂組成物を含むあと施工アンカー用カプセルであって、上記カプセルは、あと施工アンカー用樹脂組成物と硬化剤とが非混合状態で封入され、アンカー施工時に混合されるものであるあと施工アンカー用カプセルでもある。
本発明は更に、上述したあと施工アンカー用樹脂組成物を含むあと施工アンカー用注入カートリッジであって、上記カートリッジは、あと施工アンカー用樹脂組成物と硬化剤とが非混合状態で充填され、注入時に混合されるものであるあと施工アンカー用注入カートリッジでもある。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物は、ラジカル重合性オリゴマー及びラジカル重合性単量体を含み、更にワックスを必須成分とするものである。
これにより、あと施工アンカー用樹脂組成物として用いるための流動性等の性能を充分なものとしながら、アンカーの固着強度を顕著に上昇させることができる。本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物は、例えば、従来品と比較して固着強度が約3割上昇することになる。この場合は、孔の深さを浅くすることが可能となる。これにより、特にあと施工アンカー用途において、アンカー施工時における作業工程、手間が大幅に低減され、作業性が向上することになり、これを工業的に適用した場合、例えば耐震補強工事において数千本ものアンカー部材を施工する際に、本発明の効果が顕著に発揮されることになる。
また、固着強度が約3割上昇することにより、アンカー部材を減らす事が可能となり、例えば耐震補強工事など、規模が大きくなる程、本発明の効果が顕著に発揮されることになる。
【0009】
上記固着強度は、固着剤のすき間を少なくすること、硬化収縮を抑えること、樹脂自体の接着力を高めること等により上昇するものである。例えば、ワックス又はラジカル重合性樹脂を後述する好ましい形態とすることにより、固着強度が更に上昇することになる。
【0010】
上記ワックスは、融点が40〜75℃であることが好ましい。40℃未満であると、本発明の効果が充分に発揮されなくなるおそれがある。75℃を超えると、樹脂組成物中にワックスが溶解しにくくなるおそれがある。より好ましくは、45〜70℃である。上限は、更に好ましくは、65℃である。
上記ワックスとしては、(1)天然ワックス、(2)合成ワックス、(3)その他のワックスが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。
上記(1)天然ワックスとしては、例えば、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油等の植物系ワックス;蜜蝋、ラノリン、鯨蝋等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス;パラフィンワックス115、パラフィンワックス120、パラフィンワックス130、パラフィンワックス140(いずれも商品名、日本精蝋株式会社製)等のパラフィンワックス、Hi−Mic−2045(商品名、日本精蝋株式会社製)等のマイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油ワックス等が挙げられる。
【0011】
上記(2)合成ワックスとしては、例えば、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素;モンタンワックス誘導体、NPS−9125、NPS−9210、NPS−6010、HAD−5080、NSP−8070、OX−020T、OX−1949(いずれも商品名、日本精蝋株式会社製)等のパラフィンワックス誘導体やマイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス;ダイヤモンドワックス(商品名、新日本理化社製)等の動植物油脂の誘導体;セラマー67、セラマー1608(いずれも商品名、東洋ペトロライト社製)等のカルボキシル基含有単量体とオレフィンとの共重合体;硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス;ステアリン酸、ドデカン酸、ステアリン酸オクタデシル等の炭素数12以上の脂肪酸及びその誘導体;ノニポール160(商品名、三洋化成工業社製)、エマルミン200(商品名、三洋化成工業社製)等のアルキルフェノールや高級アルコールに、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加したアルコール類等が挙げられる。
【0012】
上記(3)その他のワックスとしては、例えば、天然ワックスや合成ワックス等の配合ワックス等が挙げられる。
上記ワックスは、(1)天然ワックス及び/又は(2)合成ワックスであることが好ましい。より好ましくは、(1)天然ワックスである。更に好ましくは、品質の安定性及び防湿防水性の点で、石油ワックスであり、特に好ましくは、パラフィンワックス及び/又はマイクロクリスタリンワックスであり、最も好ましくは、変色及び変質の少ない点で、パラフィンワックスである。
【0013】
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物における上記ワックスの配合量としては、ラジカル重合性オリゴマーとラジカル重合性単量体との合計量(以下、樹脂成分の量ともいう)100質量%に対して、0.01〜5質量%であることが好ましい。0.01質量%未満であると、本発明の効果が充分に発揮されないおそれがある。5質量%を超えると、ワックスが析出・浮遊して見た目が悪化するおそれがあるとともに、固着強度の上昇が頭打ちとなるおそれがある。上限は、より好ましくは、3質量%であり、更に好ましくは、2質量%であり、特に好ましくは、1質量%である。下限は、より好ましくは、0.02質量%であり、更に好ましくは、0.03質量%である。
上記ワックスは、通常、ラジカル重合性単量体に溶解又は分散された形態で樹脂中に添加されることになるが、ワックスの添加量(配合量)は、ワックスそのものの添加量を示す。
【0014】
上記ラジカル重合性オリゴマーは、本発明の技術分野で用いられるものを用いることができる。
例えば、上記ラジカル重合性オリゴマーが、エポキシアクリレート(ビニルエステルともいう)、不飽和ポリエステル及びポリエステルアクリレート((メタ)アクリル変性ポリエステルともいう)からなる群より選択される少なくとも1種であることが、本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物における好ましい形態である。
なお、あと施工アンカー用樹脂組成物には、エポキシアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレートなどのラジカル重合性オリゴマーが使用されているが、それぞれ一長一短がある。エポキシアクリレートは、固着強度は比較的高いが、原料価格が高く、また、施工時の作業性において、低温での硬化性が劣る事より、冬場での使用や、低温の地域での使用は従来並みの固着強度が得られないという問題がある。
不飽和ポリエステルは、低温での硬化性は比較的良好で原料価格も安いが、固着強度は比較的低いという問題がある。(ポリエステルアクリレートはその中間に位置する。すなわち、その固着強度、硬化性、原料価格がエポキシアクリレートと不飽和ポリエステルとの中間のものである。)
このため、それぞれのあと施工アンカー用樹脂組成物において、固着強度の上昇が求められているところであったが、本発明によって上記のような点も改善されることになる。
すなわち、本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物における固着強度を顕著に上昇させることができ、全体的に固着強度を優れたものとすることができる。例えば、冬場での使用や、低温の地域での使用においても充分に優れた固着強度を得ることができる。また、固着強度を顕著に上昇させることにより、上述したようにアンカー部材を減らすことができるため、コスト面においても有利なものとすることが可能である。本発明においては、固着強度が優れるという点において、エポキシアクリレートがより好ましい。
また、不飽和ポリエステルについても、固着強度を充分に上昇させることができ、全体的に固着強度を優れたものとすることができる。
更に、ポリエステルアクリレートについても、固着強度を充分に上昇させることができ、全体的に固着強度を優れたものとすることができる。
【0015】
上記エポキシアクリレートとは、エポキシ化合物に不飽和一塩基酸を付加させることによって得られるラジカル重合性オリゴマーである。
エポキシ化合物に不飽和一塩基酸を付加させる反応においては、エポキシ化合物のエポキシ基に対する不飽和一塩基酸のカルボキシル基の当量が0.8〜1.2となるような比率でエポキシ化合物と不飽和一塩基酸とを用いることが好ましい。より好ましくは、エポキシ化合物のエポキシ基に対する不飽和一塩基酸のカルボキシル基の当量が0.9〜1.1となるような比率でエポキシ化合物と不飽和一塩基酸とを用いることである。
また上記エポキシ化合物に不飽和一塩基酸を付加させる反応の反応温度としては、80〜150℃とすることが好ましい。より好ましくは、100〜130℃である。
【0016】
上記エポキシアクリレートに用いるエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂肪族型、脂環式、単環式エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物等が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物等が挙げられ、ノボラック型エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、臭素化ノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。脂肪族型エポキシ化合物としては、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物、プロピレングリコールポリグリシジルエーテル化合物等が挙げられ、脂環式エポキシ化合物としては、アリサイクリックジエポキシアセタール、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビニルヘキセンジオキシド、ビニルヘキセンジオキシド、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
これらのエポキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、これらのエポキシ化合物は、ビスフェノールA等のフェノール化合物、アジピン酸、セバチン酸、ダイマー酸、液状ニトリルゴム等の二塩基酸により変性したエポキシ化合物として用いてもよい。
【0017】
上記エポキシアクリレートに用いる不飽和一塩基酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸等のモノカルボン酸や、二塩基酸無水物と分子中に少なくとも一個の不飽和基を有するアルコールとの反応物等が挙げられる。二塩基酸無水物としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂肪族又は芳香族のジカルボン酸が挙げられる。不飽和基を有するアルコールの例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
上記エポキシアクリレートに用いるエポキシ化合物としては、分子中に、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物を含むものであれば、特に限定されるものではないが、機械的強度、耐食性、耐熱性に優れるビスフェノール型エポキシ化合物が好ましい。
また上記エポキシアクリレートに用いる不飽和一塩基酸としては、上述したものの中でも、耐熱性、耐薬品性の観点から炭素数が6以下のものが好ましい。より好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸である。
また上記エポキシアクリレートは、ウレタン変性されたものであってもよい。
【0019】
上記不飽和ポリエステルは、例えば、多塩基酸類と多価アルコール類とを脱水縮合することにより得ることができる。
上記多塩基酸類としては、α,β−不飽和二塩基酸を含むものが好ましく、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。中でも、無水マレイン酸及び/又はフマル酸が好ましい。また、飽和多塩基酸を含むものであってもよく、飽和多塩基酸としては、例えばマロン酸、コハク酸、アジピン酸、無水フタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘット酸等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記多価アルコール類としては、多価アルコール、エポキシ化合物が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。
上記多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等のアルキル置換アルキレングリコール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等のアルキレングリコール類の縮合物;ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノール類等;トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル等のアリル基含有アルコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3価以上のアルコール類等が挙げられる。
上記エポキシ化合物としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ) アクリレート、ビスフェノールAのグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0021】
上記不飽和ポリエステルの合成反応は、当該技術分野において通常用いられる方法を適宜用いることができ、例えば、不活性ガス雰囲気下に、トルエンやキシレン等の水共沸用溶剤、シュウ酸スズ等のエステル化触媒の存在下又は非存在下に、120〜250℃の温度範囲に加熱し、所望の酸価又は粘度(分子量)となるまで脱水縮合する方法が好ましい。上記温度範囲は、より好ましくは、150〜220℃である。
上記不飽和ポリエステルの重量平均分子量は、1000〜3000が好ましい。
【0022】
上記ポリエステルアクリレートは、例えば(1)不飽和ポリエステルのヒドロキシル基に、不飽和一塩基酸をエステル結合させたポリエステル(メタ)アクリレート、及び、(2)不飽和ポリエステルのカルボキシル基に、グリシジル(メタ)アクリレートを反応させたポリエステル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物は、本発明の技術分野において通常用いられる樹脂において効果が得られるものであり、例えば、エポキシアクリレート樹脂(ビニルエステル樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂((メタ)アクリル変性ポリエステル樹脂)のいずれにも効果が得られるものである。
【0024】
本発明におけるラジカル重合性単量体は、ワックスを溶解又は分散するものであれば当該技術分野において通常用いられるものを適宜使用することができる。
上記ラジカル重合性単量体は、固着剤の一部として、本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物の粘度を調整することができ、また、硬化反応に寄与して高い固着力を発揮することができる。
上記ラジカル重合性単量体としては、具体的には、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族系モノマー;酢酸ビニル;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(ジ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して使用することができる。中でも、芳香族系モノマー、更に好ましくは、スチレン及び/又はビニルトルエンであり、更に好ましくは、スチレンである。
【0025】
上記ラジカル重合性単量体が(メタ)アクリレート類のみである場合は、これをワックスが充分に溶解しないため本発明の効果は、ある程度得られるものの、その効果が充分でなくなるおそれがある。(メタ)アクリレート類のラジカル重合性単量体を用いる場合、(メタ)アクリレート類以外のラジカル重合性単量体とを併用することにより、固着強度上昇の効果がより発揮されることになる。
上記ラジカル重合性単量体の好ましい形態は、上述した通りである。
【0026】
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物におけるラジカル重合性オリゴマーとラジカル重合性単量体との比率は、ラジカル重合性オリゴマーとラジカル重合性単量体との合計量(樹脂成分の量)を100質量%とした場合に、ラジカル重合性単量体を20〜80質量%とすることが好ましい。20質量%未満であると、固着剤として必要な流動性が充分でなくなるおそれがある。80質量%を超えると、硬化収縮が大きくなるおそれがある。
好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは25〜65質量%であり、更に好ましくは25〜65質量%である。
【0027】
本発明におけるアンカー部材は、通常、節が付いたものを用いる。この節の凹凸が引っ掛かりとなり、また表面積も大きなものとなるため、アンカー部材の固着強度を上昇させることができる。
上記アンカー部材としては、アンカーボルトや差筋等を好適に使用することができる(例えば、図1参照)。なお、図1に示したアンカー部材は、後述する先端加工されたアンカー部材であり、アンカー部材を回転打撃を与えて埋め込むために、アンカー部材がネジボルト3の場合は、通常ダブルナット及びワッシャーを取り付ける。異形鉄筋4の場合は、通常異形鉄筋にナット一個分のねじ切りを施し、ナットを取り付ける。
上記基礎部材は、建築、改築等の施工における打設され強度が発現されたコンクリート、モルタル、その他のものであって、いわゆるあと施工アンカー工法において用いられる、アンカーが埋め込まれる部材である。中でも、コンクリートが好ましい。
【0028】
上記あと施工アンカー工法においては、固着剤を使用してアンカー部材を固着させることになる。
上記固着剤とは、本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物及び硬化剤を含むものである。
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物は、上述したようにラジカル重合性オリゴマー及びラジカル重合性単量体を含み、更にワックスを必須成分とするものであるが、更に添加剤を含むことができる。
上記硬化剤は、重合開始剤として作用して樹脂組成物を硬化させるものである。これにより、アンカー部材を固着することができる。
【0029】
上記硬化剤は、例えばベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオクトエート等の有機過酸化物が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。中でも、ベンゾイルパーオキサイドが好ましい。
上記硬化剤は、溶剤に溶解して溶液状にした形態で使用してもよい。このとき用い得る溶剤は、シリコーンオイル、ジメチルフタレート等のフタレート類、炭化水素、流動パラフィン等である。また、硬化剤に、揺変剤や硫酸カルシウム、炭酸カルシウム等の無機充填材を添加した形態で使用してもよい。
上記硬化剤は、樹脂成分100質量部に対し、1〜20質量部が好ましい。より好ましくは、3〜10質量部である。
【0030】
上記添加剤としては、例えば、硬化促進剤、重合禁止剤、骨材、揺変剤、顔料、紫外線吸収剤、界面活性剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記硬化促進剤は、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ナフテン酸コバルト、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ヒドロキシプロピル−p−トルイジン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、N,N−ジメチルアセトアセタミド等が挙げられる。硬化促進剤は、樹脂成分の量100質量部に対し、0.001〜5質量部が好ましい。より好ましくは0.005〜4質量部、更に好ましくは0.01〜3質量部である。
上記重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン等のハイドロキノン類、ベンゾキノン、メチル−p−ベンゾキノン等のベンゾキノン類、t−ブチルカテコール等のカテコール類、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4−メトキシフェノール等のフェノール類、フェノチアジン等が好ましい。重合禁止剤は、樹脂成分の量100質量部に対し、0.001〜3質量部が好ましい。より好ましくは0.005〜2質量部、更に好ましくは0.01〜1質量部である。
上記骨材としては、充填材、石英等の天然石の破砕物、マグネシアリンカー、ガラス、セラミック、プラスチック等を用いることが好ましい。充填材としては、石英砂、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ポリマーバルーン、ガラスバルーン、シリカバルーン等が挙げられる。中でも、珪砂、炭酸カルシウムが好ましい。より好ましくは、珪砂である。骨材の好ましい量は、本発明のあと施工アンカー用カプセルとあと施工アンカー用注入カートリッジにおいて異なる場合があるので、本発明のあと施工アンカー用カプセルとあと施工アンカー用注入カートリッジのそれぞれの説明において記載する。
上記揺変剤(チクソトロピー性付与剤)としては、微粉シリカ、ベントナイト等が挙げられる。揺変剤は、樹脂成分の量100質量部に対して、0.3〜7質量部が好ましい。より好ましくは、1〜3質量部である。
【0031】
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物は、種々の基礎部材を上述した用途に好適に適用することが可能であり、また、上述した本発明の固着強度上昇効果により、同じ固着強度を発現させるためのアンカー部材の埋め込む深さをより浅いものとすることができ、穿孔する際の手間が軽減され、作業性を優れたものとすることができる。
なお、あと施工アンカー(工法)とは、打設され強度が発現したコンクリート等の基礎部材に孔あけし、当該孔内でアンカー部材を固着する工法を意味する。
【0032】
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物は、例えばあと施工アンカー用カプセル、あと施工アンカー用注入カートリッジのいずれにも使用することができる。
すなわち、本発明は、以下に説明するあと施工アンカー用カプセル及び/又はあと施工アンカー用注入カートリッジも包含する。
【0033】
なお、あと施工アンカー用カプセルとあと施工アンカー用カートリッジは用途等に応じて適宜使い分けされるものであり、カプセルは、現場において簡便に施工でき、また、固着剤の添加量を調整する必要がなく、現場での作業性により優れるものである。また、カプセルが封じられているためにラジカル重合性単量体等に起因する臭気が充分に防止されたものである。
一方、カートリッジは、その点では有利ではないが、真っ直ぐでないアンカー部材を用いる場合等のカプセルではあと施工できない場合、現場において固着剤量を調整する必要がある場合等において、好適に使用することができるものである。また、回転打撃を付与するための機械、打ち込みのためのハンマー等が通常不要である。更に、孔のサイズに応じて製品を用意する必要がなく、単一種類のあと施工アンカー用注入カートリッジを各種用途に適用することができ、使用者等にとって便利である。
【0034】
本発明はまた、本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物を含むあと施工アンカー用カプセルであって、上記カプセルは、あと施工アンカー用樹脂組成物と硬化剤とが非混合状態で封入され、アンカー施工時に混合されるものであるあと施工アンカー用カプセルでもある。
本発明のあと施工アンカー用カプセルは、あと施工アンカー用樹脂組成物と硬化剤とが非接触状態で封入されている形態が好ましい。例えば、カプセル(の外容器)に、ラジカル硬化性オリゴマー、ラジカル硬化性モノマー及び必要に応じて骨材等が封入され、更に、硬化剤(硬化促進剤)を封入した小さな別のカプセル(の内容器)が封入されている形態がより好ましい(例えば、図2参照)。
【0035】
本発明のあと施工アンカー用カプセル(の外容器及び内容器)は、アンカー施工時に破砕されてその後骨材として作用するものであればよく、例えばガラス、プラスチック等が好ましい。より好ましくは、ガラスである。カプセル(の外容器)の大きさ、形状等は、用いられるアンカー部材に応じて、適宜決定すればよい。
【0036】
本発明のあと施工アンカー用カプセルにおいては、樹脂成分の量を100質量%とした場合、ラジカル重合性単量体量の好ましい範囲は、本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物において上述した通りであるが、中でもあと施工アンカー用カプセルとして使用する場合は、20〜60質量%であることが好ましい。20質量%未満であると、粘度が高すぎてカプセル破砕後に孔内へ硬化性樹脂を拡げるための流動性が不充分となるおそれがある。60質量%を超えると、流動性が大きく、樹脂だれを起こすおそれがある。より好ましくは、25〜50質量%である。
【0037】
本発明のあと施工アンカー用カプセルにおいては、上記ラジカル重合性オリゴマーとラジカル重合性単量体のみを混合した硬化性樹脂としての粘度の上限は、3000mPa・sであることが好ましい。3000mPa・sを超えると、カプセル破砕後に孔内へ硬化性樹脂を拡げるための流動性が不充分となるおそれがある。上限は、より好ましくは、2500mPa・sである。下限は、1000mPa・sであることが好ましい。
なお、本明細書中、粘度は25℃でB型粘度計で測定した値である。
【0038】
本発明のあと施工アンカー用カプセルにおいては、0.5〜5mm程度の骨材を添加することが好ましい。カプセルの破砕に役立つと共に、固着剤を孔内へ拡げることができるためである。また、上述したように、カプセル容器自体も、破砕後に骨材として作用する。骨材(容器も含めて)は、硬化性樹脂、硬化剤等を封入した後のカプセルの全質量中、50〜90質量%となるように調整することが好ましい。より好ましくは、70〜85質量%である。
【0039】
あと施工アンカー用カプセルとして用いる場合は、例えば図3に示されるように、穿孔(必要に応じて、ドリルには穿孔深さが確認できるようにマーキングを施す)、切粉除去(ブロアー、バキューム等を使用して孔内に残った切粉を取り除く)、ブラッシング(孔壁面をブラシで充分にこする)、再切粉除去、深さ確認(必要に応じて、穿孔深さが確認できるようにボルトにマーキングする)、孔内へのカプセル挿入、アンカー部材挿入(回転打撃を与えるための機械、又は、打ち込みのためのハンマー等を用いる)、硬化養生の各工程を経てあと施工することになる。アンカー部材としては、通常、埋込側先端を斜め45°にカットして先端加工したネジボルト、又は、当該先端加工した異形鉄筋等を用いることができる。
【0040】
本発明はまた、本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物を含むあと施工アンカー用注入カートリッジであって、上記カートリッジは、あと施工アンカー用樹脂組成物と硬化剤とが非混合状態で充填され、注入時に混合されるものであるあと施工アンカー用注入カートリッジでもある。
本発明のあと施工アンカー用注入カートリッジは、あと施工アンカー用樹脂組成物と硬化剤とが非混合状態で充填され、注入時に混合されるものであればよい。中でも、本発明の樹脂組成物が充填された樹脂組成物充填部と、これと別体の硬化剤成分充填部とを備え、これらが一体化されたものであることが好ましい。
本発明のあと施工アンカー用注入カートリッジは、例えば図4に示されるように、通常、先端に先細ノズルを装着してディスペンサーに取り付けて中身を押し出すことで、ノズル内で樹脂組成物と硬化剤とを混合するものである。
上記硬化剤は、本発明のあと施工アンカー用カプセルにおいて上述したものを用いることができ、溶剤に溶解して溶液状で充填しておくことができる。溶剤は、上述したものを用いることができる。本発明の技術分野における技術は、本発明のあと施工アンカー用注入カートリッジに適宜適用することができる。
【0041】
本発明のあと施工アンカー用注入カートリッジは、樹脂成分の量を100質量%とした場合、ラジカル重合性単量体量の好ましい範囲は、本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物において上述した通りであるが、より好ましくは、30〜80質量%である。30質量%未満であると、無機充填材等を配合した後に高粘度となって(コンパウンド化ともいう)、カートリッジから吐出しにくくなるおそれがある。80質量%を超えると、流動性が大きすぎ、樹脂だれを起こすおそれがある。更に好ましくは、40〜70質量%である。
【0042】
本発明のあと施工アンカー用注入カートリッジにおいては、上記ラジカル重合性オリゴマーとラジカル重合性単量体のみを混合した硬化性樹脂としての粘度の上限は、500mPa・sであることが好ましい。500mPa・sを超えると、無機充填材等を配合した後に高粘度となって、カートリッジから吐出しにくくなるおそれがある。上限は、より好ましくは、400mPa・sである。下限は、30mPa・sであることが好ましい。
【0043】
本発明のあと施工アンカー用注入カートリッジにおいては、珪砂や炭酸カルシウム等の骨材ば、ノズルから吐出可能な大きさのものであればよい。骨材の添加により、上を向いて施工する際に問題となる液だれ現象の防止に効果的である。この場合、骨材は、樹脂成分100質量部に対し、100〜500質量部添加することが好ましい。本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物は液だれ性に優れているので、揺変剤や骨材を適量添加することで、優れた耐液だれ性を発揮する。耐液だれ性(チクソトロピー性)の指標としては、回転粘度計で、回転数20rpmのときの粘度η20と2rpmの粘度η2を測定する方法がある。η2/η20が5を超えると、チクソトロピー性に優れ、充分に液だれしないものとすることができる。η20は、30〜120mPa・sが好ましく、η2は、300mPa・s以上が好ましい。
【0044】
あと施工アンカー用注入カートリッジとして用いる場合は、例えば、図5に示されるように、穿孔(必要に応じて、ドリルには穿孔深さが確認できるようにマーキングを施す)、切粉除去(ブロアー、バキューム等を使用して孔内に残った切粉を取り除く)、ブラッシング(孔壁面をブラシで充分にこする)、再切粉除去、樹脂注入、アンカー部材挿入(通常、ドリル等の機械は用いなくてよい)、硬化養生の各工程を経てあと施工することになる。
上記アンカー部材としては、あと施工アンカー用カプセルにおいて上述した先端加工したネジボルト、先端加工した異形鉄筋の他、先端加工していない真っ直ぐなネジボルト若しくは異形鉄筋、J型鉄筋、L型鉄筋、コの字型等をも用いることができる。中でも、先端加工していない真っ直ぐなネジボルト若しくは異形鉄筋、J型鉄筋、L型鉄筋が好ましい。
【0045】
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物、あと施工アンカー用カプセル及びあと施工アンカー用注入カートリッジは、土木、建築、機械分野等で、既設コンクリート等の基礎部材に対し、後からアンカー部材を固着する際に固着強度を上昇させることができ、好適である。特に、アンカーボルトの据付け替えによる重量看板取替え、耐震補強増設壁接合用アンカー等に好適に適用することができる。なお、岩盤等に対しても適用可能である。
【発明の効果】
【0046】
本発明のあと施工アンカー用樹脂組成物、あと施工アンカー用カプセル、あと施工アンカー用注入カートリッジは、上述の構成よりなり、あと施工アンカー用途に用いるための基本的性能を充分なものとしながら、固着強度が顕著に向上されたものとすることができ、土木、建築、機械分野等の用途に好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0048】
以下に合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
樹脂A:合成例
温度計、攪拌機、ガス導入管及び冷却管を備えた反応器にフマル酸100モル、ネオペンチルグリコール75モル、ビスフェノールA 2EO(エチレンオキサイド)付加物75モルを仕込んで反応溶液とした。この反応溶液を、窒素ガス気流下、200℃まで加熱し、生成する縮合水を系外に取り除きながら、酸価が20mgKOH/gとなるまで8時間エステル化反応を行った。
その後、反応器内の反応溶液を100℃まで冷却し、不飽和ポリエステルを得た。次いで、この不飽和ポリエステルに重合禁止剤としてのハイドロキノン50ppmとラジカル重合性単量体としてのスチレンを投入し、混合することにより、スチレン含有率25%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。
この不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して、硬化促進剤としてN,N−ジメチルアニリンを0.5質量%、N,N−ジエチルアニリンを0.5質量%、重合禁止剤としてパラベンゾキノンを0.1質量%添加し、樹脂Aとした。
【0049】
樹脂B:合成例
温度計、攪拌機、ガス導入管及び冷却管を備えた反応器に無水マレイン酸50モル、無水フタル酸50モル、プロピレングリコール75モル、ジエチレングリコール30モルを仕込んで反応溶液とした。この反応溶液を、窒素ガス気流下、200℃まで加熱し、生成する縮合水を系外に取り除きながら、酸価が35mgKOH/gとなるまで8時間エステル化反応を行った。その後、反応器内の反応溶液を100℃まで冷却し、不飽和ポリエステルを得た。次いで、この不飽和ポリエステルに重合禁止剤としてのハイドロキノン50ppmとラジカル重合性単量体としてのビニルトルエンを投入し、混合することにより、ビニルトルエン含有率35%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。
この不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して、硬化促進剤としてN,N−ジメチルアニリンを0.5質量%、N,N−ジメチル−p−トルイジンを0.5質量%、重合禁止剤としてパラベンゾキノンを0.1質量%添加し、樹脂Bとした。
【0050】
樹脂C:合成例
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器に、樹脂Bを100部、グリシジルメタクリレート0.6部加え、80℃に昇温した。酸価が5mgKOH/gとなるまで2時間反応を行い不飽和ポリエステル樹脂を得た。
この不飽和ポリエステル樹脂100質量%に対して、硬化促進剤としてN,N−ジエチルアニリンを1.0質量%、アセト酢酸エチルを0.5質量%、重合禁止剤としてパラベンゾキノンを0.1質量%添加し、樹脂Cとした。
【0051】
樹脂D:合成例
温度計、攪拌機、ガス導入管及び冷却管を備えた反応器に、重合禁止剤としてジ−t−ブチル−p−クレゾール1000ppmと、反応触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド1000ppmを入れ、ビスフェノールA型エポキシ樹脂748部とメタクリル酸344部を加えて、115℃で酸価が5mgKOH/gとなるまで反応を行った。その後、反応器内の反応溶液を80℃まで冷却し、エポキシアクリレートを得た。次いで、このエポキシアクリレートに重合禁止剤としてのジ−t−ブチル−p−クレゾール1000ppmとラジカル重合性単量体としてのスチレンを投入し、混合することにより、スチレン含有率35%のビニルエステル樹脂を得た。
このビニルエステル樹脂100質量%に対して、硬化促進剤としてN,N−ジメチルアニリンを0.5質量%、N,N−ジメチル−p−トルイジンを0.5質量%、重合禁止剤としてパラベンゾキノンを0.1質量%添加し、樹脂Dとした。
【0052】
樹脂E:合成例
ラジカル重合性単量体として、1,6−へキサンジオールジメタクリレートを使用した事以外は樹脂Dと同様にして、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート含有率45%のビニルエステル樹脂を得た。
このビニルエステル樹脂100質量%に対して、硬化促進剤としてN,N−ジエチルアニリンを1.0質量%、N,N−ジメチル−p−トルイジンを0.1質量%、重合禁止剤としてパラベンゾキノンを0.1質量%、2,4−ジニトルフェノールを0.05質量%添加し、樹脂Eとした。
【0053】
下記表中、「ワックス」におけるa、b、c、d、eは、それぞれ以下を表す。
a;パラフィンワックス120(商品名;日本精蝋株式会社製、融点49℃)
b;パラフィンワックス130(商品名;日本精蝋株式会社製、融点55℃)
c;Hi−Mic−2045(商品名;日本精蝋株式会社製、融点64℃)
d;NPS−9125(商品名:日本精蝋株式会社製、融点63℃)
e;パラフィンワックス140(商品名:日本精蝋株式会社製、融点61℃)
(注)ワックスの添加量は、ワックスそのものの添加量を示す。実際はラジカル重合性単量体に溶解又は分散し、添加した。
下記表中、「配合量(部)」は、ラジカル重合性オリゴマー及びラジカル重合性単量体、並びに、追加ラジカル重合性単量体の合計量に対する量である。
【0054】
性能評価
(1)カプセルタイプ(実施例1〜17、比較例1〜5)
カプセルに適用する場合の性能を評価するために、硫酸カルシウムで30%濃度に希釈したベンゾイルパーオキサイドを、外径5mm、長さ80mmのガラス製内容器に入れて密封し、さらに、外径13mm、長さ100mmのガラス製外容器に収容し、さらに直径1.0〜3.0mmの珪砂8グラムと、下記表1、2に示した樹脂4グラム、及び、ワックスをそれぞれ充填し、密封してカプセルを試作した。
【0055】
長さ1000×横1000×高さ350(mm)、圧縮強度21N/mmのコンクリートブロックに、14.5mmφ、長さ100mmの孔をドリルで開け、切削粉をきれいに除去した後、上記カプセルを穿孔内へ入れた。続いて、先端45度にカットされた全ネジM12mmボルト(材質SNB7)を電動ハンマードリルで、回転打撃を与えながら孔底まで挿入し、24時間放置した後、引張試験機でボルトの引き抜き試験を行った。結果を下記表1、2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
(2)注入式カートリッジタイプ(実施例18〜30、比較例6〜9)
カートリッジに適用する場合の性能を評価するために、攪拌装置に、それぞれ、樹脂及びワックスと、揺変剤として微粉シリカ(商品名「アエロジル#200」;日本アエロジル社製)を加えてよく攪拌し、さらに、骨材を添加混合して、樹脂組成物を調製した。当該樹脂組成物の組成を下記表3、4に示す。
別途、ベンゾイルパーオキサイド(40%ペースト)10部に対し、炭酸カルシウム5部と、上記アエロジル0.01部を添加して硬化剤とした。
【0059】
長さ1000×横1000×高さ350(mm)、圧縮強度21N/mmのコンクリートブロックに、14.5mmφ、長さ100mmの孔をドリルで開け、切削粉をきれいに除去した後、前記樹脂組成物10部に対し、硬化剤1部の割合で混合した固着剤を穿孔の内部に注入した。注入量は9ミリリットルとした。注入後直ぐに、M12mmボルト(材質SNB7)を挿入し、24時間放置した後、引張試験機でボルトの引き抜き試験を行った。結果を下記表3、4に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
上記表1〜4から、以下のことが明らかとなった。
あと施工アンカー用カプセルにおいては、樹脂Aを用いた本発明の実施例1〜6と比較例1とを比較すると、実施例1〜6は、引抜き最大荷重(kN)が57.2〜67.2と充分大きく、ワックスを使用しなかった比較例1(50.1kN)と比べて固着強度が大きく改善されている。樹脂Bを用いた実施例7〜9及び比較例2、樹脂Cを用いた実施例10〜12及び比較例3、樹脂Dを用いた実施例13〜15及び比較例4もまた、同様に固着強度が大きく改善されている。また、樹脂Eを用いた実施例16、17及び比較例5は、ラジカル重合性単量体として(メタ)アクリレート類である1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートのみを用いるものであるが、引抜き最大荷重(kN)が63.9から67.5〜68.0と、上述したラジカル重合性単量体として(メタ)アクリレート類以外のものを用いた場合と比べてその程度は小さいものの、改善されている。
【0063】
また、あと施工アンカー用注入カートリッジにおいては、本発明の実施例18〜20の引抜き最大荷重(kN)が58.0〜63.3と充分大きく、ワックスを使用しなかった比較例6(49.0kN)と比べて固着強度が大きく改善されている。樹脂Bを用いた実施例21〜23及び比較例7、樹脂Cを用いた実施例24〜26及び比較例8、樹脂Dを用いた実施例27〜29及び比較例9もまた、同様に固着強度が大きく改善されている。
【0064】
上述した実施例及び比較例では、ワックスとして天然ワックスであるパラフィンワックス若しくはマイクロクリスタリンワックス、又は、合成ワックスであるパラフィンワックス誘導体を用いているが、あと施工アンカー用樹脂組成物がラジカル重合性オリゴマー及びラジカル重合性単量体を含み、更にワックスを必須成分とする形態である限り、本発明の効果を生じさせる作用機構は同様である。すなわち、このようなラジカル重合性オリゴマー、ラジカル重合性単量体及びワックスを含有するところに本発明の一つの特徴があり、それら3成分が同様の化学的特徴を有するものであれば、この実施例で示されるような効果を奏することになる。したがって、本発明における必須成分によって構成されるあと施工アンカー用樹脂組成物とすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、ワックスが天然ワックス又は合成ワックスである形態においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、あと施工アンカー工程に用いられるアンカー部材を示す図である。
【図2】図2は、本願発明のあと施工アンカー用カプセルの好ましい形態を示す図である。
【図3】図3は、本願発明のあと施工アンカー用カプセルを用いたあと施工アンカー工程を示す図である。
【図4】図4は、本願発明のあと施工アンカー用注入カートリッジの好ましい形態を示す図である。
【図5】図5は、本願発明のあと施工アンカー用注入カートリッジを用いたあと施工アンカー工程の好ましい形態を示す工程図である。
【符号の説明】
【0066】
1:ナット
2:ワッシャー
3:ネジボルト
4:異形鉄筋
5:内容器
6:外容器
7:ラジカル硬化性樹脂
8:骨材
9:硬化剤
10:注入ノズル
11:カートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎部材にアンカー部材を埋め込むに際し、アンカー部材を基礎部材に設けられた孔内で固着するために用いられるあと施工アンカー用樹脂組成物であって、
該あと施工アンカー用樹脂組成物は、ラジカル重合性オリゴマー及びラジカル重合性単量体を含み、更にワックスを必須成分とすることを特徴とするあと施工アンカー用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ラジカル重合性オリゴマーは、エポキシアクリレート、不飽和ポリエステル及びポリエステルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のあと施工アンカー用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のあと施工アンカー用樹脂組成物を含むあと施工アンカー用カプセルであって、該カプセルは、あと施工アンカー用樹脂組成物と硬化剤とが非混合状態で封入され、アンカー施工時に混合されるものであることを特徴とするあと施工アンカー用カプセル。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のあと施工アンカー用樹脂組成物を含むあと施工アンカー用注入カートリッジであって、該カートリッジは、あと施工アンカー用樹脂組成物と硬化剤とが非混合状態で充填され、注入時に混合されるものであることを特徴とするあと施工アンカー用注入カートリッジ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−13902(P2010−13902A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177154(P2008−177154)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(398034319)エヌパット株式会社 (7)
【出願人】(503090980)ジャパンコンポジット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】