説明

がん自然転移抑制剤

【課題】がんの自然転移抑制作用を有する新規物質または成分を提供すること。
【解決手段】椿油、綿油およびオリーブ油ならびに癌転移抑制活性を有するそれらの画分からなる群より選ばれる1以上の油または画分を含む、メラノーマ等のがんの自然転移抑制剤、特にがんの肺への転移抑制剤;椿油、綿油およびオリーブ油ならびに癌転移抑制活性を有するそれらの画分からなる群より選ばれる1以上の油または画分を含む、補助栄養食品等の食品、食用油、スキンケア用品または医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん自然転移抑制剤などを提供する。
【背景技術】
【0002】
がんの転移はがん細胞の原発巣からの離脱、周辺組織への浸潤、転移組織での増殖という一連の過程を経る事象である。がんの転移には実験転移と自然転移に分類できる。実験転移は静脈などの血管にがん細胞を注入して肺などの臓器への転移であり、自然転移は移植して血管への浸潤を起してからの転移である。両者の大きな違いはがん細胞がin vivo において血管まで浸潤してゆく過程を静脈注射によって人為的にスキップする(実験転移)か、がん細胞にin vivo浸潤を起させるかに在る。実験転移をするがんは数多く知られており実験も簡便で短い時間(約二週間)で結果が得られる。一方、高効率で自然転移をするがんは種類が少なく、実験結果を得るまでに1〜2ケ月かかる。これらの理由により、従来のがん転移抑制薬剤の開発の多くは実験転移アッセイに頼っている。がんの実験転移を抑制する物質には、例えば、細胞接着阻害物質、細胞外マトリックス分解酵素阻害物質、血管新生阻害物質などが知られている。がんの自然転移を抑制する物質には、オレアミド類縁体が知られている(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特願2004-319630,発明の名称「コネキシン26阻害活性を有する二量体型オレアミド誘導体と、その癌治療等への応用」,発明者:野島 博、北泰行,出願人:科学技術振興機構(出願日:2004年(平成16年)11月2日)
【非特許文献1】Ito, A., Morita, N., Miura, D., Koma, Y.I., Kataoka T.R., Yamasaki , H., Kitamura, Y., Kita, Y. 及び Nojima, H. A derivative of oleamide potently inhibits the spontaneous metastasis of mouse melanoma BL6 cells. Carcinogenesis, 25(10):2015-2022 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、がんの自然転移抑制作用を有する新規物質または成分を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、椿油、綿油およびオリーブ油ならびにそれらの特定の画分が、がんの自然転移抑制作用を有することを見出し、以って本発明を完成するに至った。なお、ここに開示する実験結果はマウス・メラノーマBL6細胞を用いて得られた自然転移アッセイに関するものであるが、BL6細胞は高効率に自然転移するがん細胞のひとつであるため、ここで得られた結果は多くのヒトの自然転移する悪性度の高いがん細胞に成り立つと考えられる。
【0006】
即ち、本発明は下記の通りである:
(1)椿油、綿油およびオリーブ油ならびにがん転移抑制活性を有するそれらの画分からなる群より選ばれる1以上の油または画分を含む、がん自然転移抑制剤;
(2)綿油が綿実油である、上記(1)の剤;
(3)がん転移抑制活性を有する椿油、綿油およびオリーブ油の画分が蒸留画分である、上記(1)の剤;
(4)がんがメラノーマである、上記(1)の剤;
(5)肺へのがんの転移抑制剤である、上記(1)の剤;
(6)食品、食用油、スキンケア用品または医薬である、上記(1)の剤;
(7)食品が補助栄養食品である、上記(6)の剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の剤はがんの自然転移抑制作用を有し、例えば、補助栄養食品等の食品、食用油、スキンケア用品または医薬として有用であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、椿油、綿油およびオリーブ油ならびにがん自然転移抑制活性を有するそれらの画分からなる群より選ばれる1以上の油または画分を含む、がん自然転移抑制剤を提供する。
【0009】
本発明の剤が適用され得る動物は特に限定されず哺乳動物、鳥類が挙げられるが、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、例えばヒト、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターが挙げられるが、ヒトが好ましい。
【0010】
椿油、綿油およびオリーブ油としては、それぞれ椿、綿およびオリーブから抽出可能な油である限り特に限定されない。椿油、綿油およびオリーブ油は、自体公知の方法により調製できる。
【0011】
本発明ではまた、がん自然転移抑制活性を有する椿油、綿実油等の綿油およびオリーブ油の画分を用いてもよい。がん自然転移抑制活性を有する椿油、綿油およびオリーブ油の画分としては、がん自然転移抑制活性を有するように分画されたものである限り特に限定されない。例えば、椿油、綿油およびオリーブ油の画分としては、溜分(蒸留画分と同義。例、溜分上清、溜分結晶、溜分ろ過物、溜分残渣、溜分沈殿物)、残渣、沈殿物が挙げられる。詳細には、がん自然転移抑制活性を有する椿油の画分としては、椿油溜分、椿油残渣が挙げられるが、椿油溜分ろ過物、椿油溜分結晶等の椿油溜分が好ましい。がん自然転移抑制活性を有する綿実油等の綿油の画分としては、綿実油等の綿油のウインターリングロウ分が挙げられる。がん自然転移抑制活性を有するオリーブ油の画分としては、オリーブ油溜分および残渣が挙げられる。がん自然転移抑制活性を有する椿油、綿油およびオリーブ油の画分は、椿油、綿油およびオリーブ油から自体公知の方法により調製できる。
【0012】
本発明の剤により自然転移を抑制できるがんとしては、自然転移能を有するがんである限り特に限定されるものではなく、例えば、メラノーマ、胃癌、大腸癌、肝臓癌、腎臓癌、乳癌、口腔癌、膵臓癌、食道癌、膀胱癌、子宮癌、肺癌が挙げられるが、メラノーマがより好ましい。
【0013】
本発明の剤により自然転移が抑制される対象組織は特に限定されるものではなく、例えば、肺、胃、大腸、肝臓、腎臓、胸、口腔、膵臓、食道、膀胱、子宮、肺、脳が挙げられるが、肺、肝臓、脳が好ましく、肺がより好ましい。
【0014】
本発明の剤は、例えば、補助栄養食品等の食品、食用油、スキンケア用品または医薬として有用である。
【0015】
本発明の剤が食品である場合、本発明の食品としては、例えば、補助栄養食品(例、サプリメント、栄養ドリンク)、健康食品、一般食品(例、パン、牛乳、ヨーグルト、菓子、キャンデー、飴、チョコレート、ケーキ、飲料品、麺類)、ならびに厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品および栄養機能食品が挙げられる。なお、食品は固形物または液状物であり得る。
【0016】
本発明の剤が食用油である場合、本発明の食用油は、椿油、綿油およびオリーブ油ならびにがん自然転移抑制活性を有するそれらの画分からなる群より選ばれる1以上の油または画分由来の食用油と、別の食用油とが混合されたブレンド油であってもよい。混合され得る別の食用油としては、例えば、コーン油、ダイズ油、米糠油、サフラワー油、ヒマワリ油、ナタネ油、パーム油が挙げられる。
【0017】
本発明の剤がスキンケア用品である場合、本発明のスキンケア用品としては、例えば、化粧品、日焼け止めが挙げられる。
【0018】
本発明の剤が医薬である場合、椿油、綿油およびオリーブ油ならびにがん自然転移抑制活性を有するそれらの画分からなる群より選ばれる1以上の油または画分は、医薬の主要な有効成分として、または医薬の副次的な有効成分として使用できる。該油または画分が医薬の副次的な有効成分として使用される場合、該医薬は、有効成分として所定の薬物(例、抗がん薬、がんの転移抑制薬)を含むことができる。このような場合、本発明の剤は、がんまたはがんの転移の予防・治療剤として使用できる。
【0019】
本発明の剤が医薬である場合、本発明の医薬は、必要に応じて医薬上許容される担体(例えば、賦形剤、希釈剤等)などの必要な成分と適宜混合され、液状製剤、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、エアロゾル剤、座薬等の剤形に製剤化され得、経口的または非経口的に投与することができる。
【0020】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリジン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0021】
好ましくは、本発明の製剤は経口用、注射用、座薬または外用製剤である。経口投与に好適な製剤は、適切な希釈液に、有効量の油または画分を溶解させた液剤、有効量の該油または画分を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の該油または画分を懸濁させた懸濁液剤、有効量の該油または画分を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、舐めることで口腔内粘膜から吸収できる飴玉類等である。
【0022】
非経口的な投与に好適な製剤としては、座薬、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、肥厚剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。本発明の製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効量の油または画分および医薬上許容される担体を凍結乾燥(フリーズドライ)し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0023】
本発明の剤の摂取または投与量は、用いる様式(例、食品)、油の種類、摂取または投与様式(例、経口、非経口)、動物種、体重、年齢、感受性等によって異なり一概に云えないが、通常、1日あたり約1mg/kg〜約0.5g/kgである。
【0024】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0025】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0026】
(方法)
【0027】
1.細胞培養
B16メラノーマBL6細胞はトリプシン-EDTA液を用いて回収し、1×105cells/mLの濃度で培養液(Dulbecco's Modified Eagle's Medium (SIGMA D6546)+ 10% (v/v) Fetal Bovine Serum (Cell Culture Technologies CC 3008-502)+ 1% (v/v) Penicillin-Streptomycin Solution (SIGMA P0781))に懸濁し、60mmφディッシュに播種した。細胞培養はCO2インキュベーターHERAcell(Heraeus社)を用いて、37°C、5%CO2の条件で培養した。
【0028】
2.ギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)能の測定
各種被験物で処理し、1日(24時間)間培養を行ったB16メラノーマBL6細胞株について、各群50細胞ずつ5% Luciffer Yellow溶液(溶媒:0.33M LiCl - 0.03% Brij35水溶液)をマイクロインジェクションした。5分間で色素が移行した細胞数の平均を求め、生理食塩液処理群の色素移行数と比較することにより被験物処理群の細胞間コミュニケーション能を調べた。
【0029】
3.肺自然転移実験
3.1.動物
B16メラノーマを担がんさせるにはC57/BL6系統が適していることから、日本エスエルシー株式会社より生後4週(日齢差3日以内)の雄C57/BL6マウスを購入し、実験に用いた。1週間の検疫・馴化期間をおいて、生後5週に担がんさせ、各種被験物を担がん翌日から投与した。
【0030】
3.2.動物の飼育
動物の飼育環境は、23±3°C(実施例3)または温度24.5±2.5°C(実施例4、5)、湿度55±20%、換気回数18回/hr.、照明12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)とした。自動給水装置を取り付けたMicro-IsolatorTM System(Lab Products Inc.)ラックを使用し、飼育ケージに床敷き(ALPHA-driTM:Shepherd Specialty Papers, Inc.)を入れ、動物を1匹ずつ収容した。給餌・給水は、放射線滅菌ラット、マウス固形飼料CRF-1(オリエンタル酵母工業株式会社)および水道水を自由に摂取させた。
【0031】
3.3.B16メラノーマBL6細胞の移植
培養終了時に回収したB16メラノーマBL6細胞を5×106cells/mLの濃度で日本薬局方生理食塩液に懸濁し、1個体当たり50 μLを左後肢の足底部(Foot Pad)皮下に移植した。
【0032】
3.4.被験物の投与方法
投与は、経口または腹腔内投与のいずれかにより行なった。投与容量は体重1 g当たり0.01 mLとし、毎日1回投与した。投与期間は担がん翌日から脚切断後28日が経過するまでとした。
【0033】
3.5.担がん部位の腫瘍径測定
腫瘍径は、腫瘍が5 mm程度になった個体からノギスを用い、1日1回測定した。腫瘍の大きさを各個体でそろえるため、腫瘍径が7 mmを超えた個体からその都度担がん側の脚を縫合糸で結紮した後、膝関節より膝下リンパ節とともに切断した。脚部切断術は1 mg/kgドミトール(R)(明治製菓株式会社)+ 75 mg/kg動物用ケタラール(R)50(三共株式会社)の混合麻酔下で実施し、術後1 mg/kgアンチセダン(R)(明治製菓株式会社)で速やかに覚醒させた。また、術時の止血剤としてボスミン(R)注(第一製薬株式会社)を用いた。
【0034】
3.6.肺自然転移腫瘍数の測定
解剖時にB16メラノーマBL6細胞株の肺への自然転移数を測定した。但し、自然転移巣が多すぎて数え切れない場合は>100個とした。なお、解剖は、腫瘍の直径が7mmに達した日、すなわち12−27日目に行った。
【0035】
3.7.生存率の測定
生存率は、脚切断後28日が経過した時点での生存率を測定した。
【0036】
実施例1:被験物の調製
実験に用いた各種被験物は、以下の通りである。
植物油であるオリーブ油(olive oil:Oo)、椿油(camellia oil:Cm)、綿実油(cotton seed oil:Cs)としては市販品を用いた。
溜分(distillate)は、250℃/0.01-0.02mmHgの蒸留条件で、流下薄膜式分子蒸留器(神鋼バンデックス社製)を用いて、上記の植物油から得た。溜分として、椿油溜分(camellia oil distillate:CmD)、オリーブ油溜分(olive oil distillate:Od)を調製した。
溜分結晶(crystalline distillate:CD)は、8℃/24時間の晶析条件で、上記の溜分から得た。溜分結晶として、オリーブ油溜分結晶(olive oil crystalline distillate:OoCD)、椿油溜分結晶(camellia oil crystalline distillate:CmCD)、綿実油ウインターリング結晶(綿実ステアリンという製品名で市販されている)(cotton seed oil wintering:CsC)を調製した。
溜分ろ過物(filtered distillate:FD)は、桐山濾紙No5A(7ミクロン)を用いてろ過することにより、上記の溜分から得た。溜分ろ過物としては、椿油溜分ろ過物(camellia oil filtered distillate:CmFD)を調製した。
溜分上清は、以下の通り調製した。先ず、250℃/0.01-0.02mmHgの蒸留条件で、流下薄膜式分子蒸留器(神鋼バンデックス社製)を用いて、上記の植物油から溜分を得た。上記の通り植物油から得た溜分(distillate)を8℃で放置して、沈殿物と上澄みに分離した後、オリーブ油溜分上清(olive oil distillate supernatant:OsP)を調製した。
沈殿物は、上記の通り溜分上清から得た沈殿物を、オリーブ油溜分沈殿物(olive oil distillate sediment:Osd)として調製した。
残渣は、以下の通り調製した。先ず、250℃/0.01-0.02mmHgの蒸留条件で、流下薄膜式分子蒸留器(神鋼バンデックス社製)を用いて、上記の植物油から溜分を得た。残りを蒸留残渣とし、オリーブ油残渣(olive oil residue:OoR)、椿油溜分残渣(camellia oil residue:CmR)を調製した。
【0037】
実施例2:ギャップ結合細胞間コミュニケーション能の測定
各種被験物で処理し、培養を行ったB16メラノーマBL6細胞株におけるギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)能を測定した。
被験物としては、それぞれ以下を用いた。
・実験1(図1A参照)
1% DMSO (コントロール:Ct)
100mg/ml オリーブ油 (Oo)
80mg/ml オリーブ油溜分 (Od)
100mg/ml オリーブ油残渣 (Or)
100mg/ml オリーブ油溜分上清 (Osp)
50mg/ml オリーブ油溜分沈殿物 (Osd)
100mg/ml 椿油 (Cm)
100mg/ml 綿実油 (Cs)
100mg/ml オリーブ油沈殿物(Oos)
・実験2(図1B参照)
1% DMSO (コントロール:Ct)
100 mg/ml 椿油 (Cm)
100 mg/ml 椿油溜分 (CmD)
50 mg/ml 椿油溜分結晶 (CmCD)
100 mg/ml 椿油溜分ろ過物 (CmFD)
80 mg/ml 椿油溜分残渣 (CmR)
20 mg/ml オリーブ油溜分結晶 (OoCD)
30 mg/ml 綿実油ウインターリング結晶 (CsC)
その結果、椿油、綿実油、オリーブ油およびそれらの蒸留画分はB16メラノーマBL6細胞株のGJICを抑制した(図1A、B)。また、非蒸留画分である椿油溜分残渣もGJICを抑制した(図1B)。
【0038】
実施例3:肺自然転移実験A
肺自然転移実験において肺自然転移腫瘍数を測定した。試験群の構成は以下の表1の通りである。
【0039】
【表1】

【0040】
なお、生理食塩液、オリーブ油溜分、椿油および綿実油は原液を投与した。オリーブ油溜分は、投与開始から3日間は原液を、4日目以降は50mg/mLとなるように生理食塩液中に超音波で分散させたものを投与液とした。
その結果、オリーブ油画分、椿油および綿実油では、肺自然転移腫瘍数の減少傾向が認められた(図2)。
【0041】
実施例4:肺自然転移実験B
肺自然転移実験における肺自然転移腫瘍数および脚切断後28日が経過した時点での生存率を測定した。試験群の構成は以下の表2の通りである。
【0042】
【表2】

【0043】
その結果、CmFD投与群、CmCD経口投与群では、対照群と比較して肺自然転移腫瘍数が低かった(図3A)。また、脚切断後28日が経過した時点での生存率は、Sa処置群(対照)が50.0%であったのに対し、CmFD投与群が70.0%、CmCD腹腔内投与群が60.0%、CmCD経口投与群が80.0%と延命効果が認められた(図3B)。
【0044】
実施例5:肺自然転移実験C
肺自然転移実験における肺自然転移腫瘍数および脚切断後28日が経過した時点での生存率を測定した。試験群の構成は以下の表3の通りである。
【0045】
【表3】

【0046】
その結果、Cm投与群では、無処置群と比較して肺自然転移腫瘍数が統計学的に有意に低かった(図4A)。また、脚切断後28日が経過した時点での生存率は、無処置群が47.4%であったのに対し、Cm投与群が68.4%と延命効果が認められた(図4B)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の剤は、がんの自然転移抑制作用またはがんにおける延命効果を有し、例えば、補助栄養食品等の食品、食用油、スキンケア用品または医薬として有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】各種被験物で処理した場合における、ギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)能の測定結果を示す図である。 用いた各種被験物は、以下の通りである。 Ct:1% DMSO、Oo:オリーブ油(100mg/ml)、Od:オリーブ油溜分(80mg/ml)、Or:オリーブ油残渣(100mg/ml)、Osp:オリーブ油溜分上清(100mg/ml)、Osd:オリーブ油溜分沈殿物(50mg/ml)、Cm:椿油(100mg/ml)、Cs:綿実油(100mg/ml)、Oos:オリーブ油沈殿物(100mg/ml)
【図1B】各種被験物で処理した場合における、ギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)能の測定結果を示す図である。 用いた各種被験物は、以下の通りである。 Ct:1% DMSO、Cm:椿油(100 mg/ml)、CmD:椿油溜分(100 mg/ml)、CmCD:椿油溜分結晶(50 mg/ml)、CmFD:椿油溜分ろ過物(100 mg/ml)、CmR:椿油溜分残渣(80 mg/ml)、OoCD:オリーブ油溜分結晶(20 mg/ml)、CsC:綿実油ウインターリング結晶(30 mg/ml)
【図2】肺自然転移実験における肺自然転移腫瘍数の測定結果を示す図である。 用いた各種被験物は、以下の通りである。 Sa:生理食塩液(原液)、Od:オリーブ油溜分(原液)、Or:オリーブ油残渣(投与開始から3日間は原液,4日目以降は50 mg/mL)、Cm:椿油(原液)、Cs:綿実油(原液)
【図3A】肺自然転移実験における肺自然転移腫瘍数の測定結果を示す図である。 用いた各種被験物は、以下の通りである。 Sa:生理食塩液(10 mL/kg)、CmFD:椿油溜分濾過物(原液)、CmCD:椿油溜分結晶(300 mg/kg,腹腔)、CmCD:椿油溜分結晶(500 mg/kg,経口)
【図3B】肺自然転移実験における脚切断後28日が経過した時点での生存率の測定結果を示す図である。 用いた各種被験物は、以下の通りである。 Sa:生理食塩液(10 mL/kg)、CmFD:椿油溜分濾過物(原液)、CmCD:椿油溜分結晶(300 mg/kg,腹腔)、CmCD:椿油溜分結晶(500 mg/kg,経口)
【図4A】肺自然転移実験における肺自然転移腫瘍数の測定結果を示す図である。被験物として椿油(Cm)を用いた。
【図4B】肺自然転移実験における脚切断後28日が経過した時点での生存率の測定結果を示す図である。被験物として椿油(Cm)を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椿油、綿油およびオリーブ油ならびにがん転移抑制活性を有するそれらの画分からなる群より選ばれる1以上の油または画分を含む、がん自然転移抑制剤。
【請求項2】
綿油が綿実油である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
がん転移抑制活性を有する椿油、綿油およびオリーブ油の画分が蒸留画分である、請求項1記載の剤。
【請求項4】
がんがメラノーマである、請求項1記載の剤。
【請求項5】
肺へのがんの転移抑制剤である、請求項1記載の剤。
【請求項6】
食品、食用油、スキンケア用品または医薬である、請求項1記載の剤。
【請求項7】
食品が補助栄養食品である、請求項6記載の剤。




【図3B】
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【図4B】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図4A】
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【公開番号】特開2007−22978(P2007−22978A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209467(P2005−209467)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(599139028)
【出願人】(391010471)岡村製油株式会社 (7)
【Fターム(参考)】