説明

ごみ袋

【課題】より確実に耐カラス効果を発揮することのできるごみ袋を提供する。
【解決手段】ZnOを1.0〜7.0重量%、TiOを0.1〜3.0重量%含む合成樹脂フィルムから形成されたことを特徴とするごみ袋。合成樹脂フィルムは、L表色系におけるL値が30〜85、a値が−30〜0、b値が0〜50の関係を有すること、さらに鏡面光沢度〔Gs(60°)〕が5〜20%であることが好ましい。ZnO粒子は5〜100nmのナノレベルのものを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はごみ袋に関し、特に、ごみ袋内部に収容される食物残渣等がカラスから視認しにくいごみ袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国及び自治体の掲げたごみの減量とリサイクル推進のために、各自治体がごみの分別を細分化、徹底するようになった。この施策の実施にあたり、ごみ収集の現場でごみ袋の収納物が分別ルールに適合しいているか否かを見分けるために、従来から使用されていた中身の見えない黒いごみ袋から収集作業員が中身を確認できる透明・半透明のごみ袋の使用を義務付けるあるいは推奨するようになった。
【0003】
ところが、その一方で中身を容易に確認できるごみ袋は、ごみに含まれる食物残渣を狙ったカラスの標的となった。結果としてごみ収集場所はカラスの格好の餌場となり、ごみの散乱や糞害などごみ収集場所付近に環境衛生上の被害を与え、散乱ごみの後始末などの清掃作業を収集作業員や地域住民に強いることになった。
【0004】
こうした問題に対して様々な対策が検討されてきた。例えば動物のいやがる臭い成分などを、ごみ袋を形成する樹脂フィルムに含有又は塗布する、あるいはごみ袋の外側を光沢のある銀色にするなどの方法が検討された。しかし、忌避成分を含有させる方法では、カラスは嗅覚等の刺激ではなく視覚によって餌を認識して捕食行動をする特徴を持っているために大きな忌避効果が期待できないものであった。また、ごみ袋を銀色にする方法ではカラスからごみ袋の収納物を見えにくくするという効果を生み出す一方で、人が中身を認識できず分別の徹底を図る上で好ましい方法ではなかった。
【0005】
以上の問題点を解消したごみ袋が特許文献1、特許文献2に開示されている。
特許文献1は、全光線透過率が20%以上であって、300nm〜600nmの波長域の光線透過率の平均値が50%以下である合成樹脂フィルムからごみ袋を形成することを提案している。特許文献1には、全光線透過率が20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上であれば人が当該合成樹脂フィルムを介して物質を視認できる一方、300nm〜600nmの波長域の光線透過率の平均値が50%以下、好ましくは30%以下であれば、カラスは当該合成樹脂フィルムを介して物質を視認できない、と報告されている。
【0006】
また、特許文献2は、L表色系におけるL値が40〜80、a値が−40〜10、b値が−10〜40であり、且つ、a値及びb値が|a|+|b|≧5なる関係を満たす合成樹脂フィルムから形成されたごみ袋を提案している。そして、このごみ袋の好ましい態様として、合成樹脂フィルムの鏡面光沢度〔Gs(60°)〕を35%以上とすることを提案している。なお、L表色系は、1976年国際照明委員会(CIE)により推奨された3次元の表色の方法を意味し、JIS Z8729に規定される色の表示方法である。L値は明度を示す指標であり、大きくなると明るく、小さくなると暗くなる。a値が正になると赤色になり、負になると緑色になる。また、b値が正になると黄色になり、負になると青色になる。
カラスの網膜には、特定の色を感じる錐状体細胞が多くあり、その細胞の中には油球と呼ばれる色素を含んだ脂質の球が存在し、これが特定の色をより良く認識していることとが非特許文献1に開示されている。特許文献2の提案は、この非特許文献2の教示に基づいている。すなわち、明度と色相の二つの光学特性に着目して研究を重ねた結果、上記のように、明度及び色相を特定の範囲に限定することにより、人には視認できるがカラスには視認できない領域を特定することができたことが、特許文献2に述べられている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−200147号公報
【特許文献2】特開2006−76761号公報
【非特許文献1】杉田昭栄著「カラスなぜ遊ぶ」集英社新書、2004年3月22日、114〜117頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、特許文献2の提案により、カラスがごみ袋をつつくことを防止する所定の効果(以下、耐カラス効果と称する)が得られることが確認できた。ところが、特許文献1、特許文献2が提案する上記条件を満足するごみ袋であっても、未だ耐カラス効果が不十分な場合があることを本発明者等は知見した。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、より確実に耐カラス効果を発揮することのできるごみ袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、種々の実験・観察を行った結果、ZnO及びTiOの両者含む合成樹脂フィルムから形成されたごみ袋が、高い耐カラス効果を発揮することを知見するに到った。すなわち本発明のごみ袋は、ZnOを1.0〜7.0重量%、TiOを0.1〜3.0重量%含む合成樹脂フィルムから形成されたことを特徴としている。
本発明のごみ袋は、合成樹脂フィルムが、L表色系におけるL値が30〜85、a値が−30〜0、b値が0〜50であることにより、より高い耐カラス効果を発揮することができる。
また、本発明のごみ袋は、合成樹脂フィルムの鏡面光沢度〔Gs(60°)〕が、5〜20%と比較的低い値であっても、十分に高い耐カラス効果を発揮できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ZnOを1.0〜7.0重量%、TiOを0.1〜3.0重量%含む合成樹脂フィルムから形成することにより、確実に耐カラス効果を発揮することのできるごみ袋を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明によるごみ袋は、ZnO(酸化亜鉛)を1.0〜7.0重量%及びTiO(酸化チタン)を0.1〜3.0重量%を含むことを特徴としている。理由は明らかとなっていないが、本発明者等の検討によれば、ZnO及びTiOの一方のみでは、耐カラス効果は不十分である。ZnO及びTiOはいずれも白色顔料として知られているが、後述する実施例の結果からすると、白色とすることが本発明の効果を得るための主たる要件とは言いがたい。ここで、ZnO及びTiOはともに紫外線をカット(又は散乱)する効果を有している。ところが、ZnO及びTiOでは、散乱させる紫外線に相違がある。すなわち、紫外線は、波長の長い順にUVA(紫外線A波;波長320〜400nm)、UVB(紫外線B波;波長280〜320nm)、UVC(紫外線C波)の3つに区分することができる。UVC波は地球に届く前にオゾン層で吸収され、地球上に届くのはUVAとUVBである。UVAのカットにはZnOが効果的であり、UVBのカットにはTiOが効果的であることが知られている。本発明のごみ袋に十分な耐カラス効果が付与されているのは、このようにUVA及びUVBのカットに各々効果のあるZnO及びTiOを複合で含有していることが関与している可能性がある。
【0012】
ZnOは、上述のように1.0〜7.0重量%とする。1.0重量%未満では耐カラス効果を得るのに不十分である。一方、7.0重量%を超えても耐カラス効果の効果が飽和すると解され、かつ、低コストで作製されるべきごみ袋の価格を必要以上に上昇させる。そこで、ZnOの含有量を1.0〜7.0重量%とする。好ましいZnOの含有量は1.5〜6.5重量%、より好ましいZnOの含有量は1.5〜3.0重量%である。
含有されるZnO粒子は5〜100nmのナノレベルのものから、顔料として一般的に用いられている0.1〜1μmの平均粒径のものが使用できる。ナノレベルのZnO粒子を使用すると、含有量が1.0〜3.0重量%と透明性を高くすることができ、人による内部視認性を必要以上に低下させないことが可能となる。なお、ZnOは、前述したように、UVAのカットに効果がある。
【0013】
次に、本発明のごみ袋は、TiOを0.1〜3.0重量%含む。TiOの含有量が0.1重量%未満では、十分な耐カラス効果を得ることが困難である。一方、3.0重量%を超えても耐カラス効果の効果が飽和すると解され、かつ、低コストで作製されるべきごみ袋の価格が必要以上に上昇する。特に、TiOはZnOよりも高価であることから、その上限をZnOよりも低くする。好ましいTiOの含有量は0.2〜1.5重量%、より好ましいTiOの含有量は0.3〜1.0重量%である。含有されるTiO粒子の粒径も、ZnOと同様に特に限定されない。
【0014】
本発明に用いるごみ袋を形成する合成樹脂フィルムは広く熱可塑性樹を用いることができ、一般的にごみ袋の用途に供されるPE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)などを広く使用することが可能である。合成樹脂フィルムの厚みは、ごみ袋の使用用途や容量サイズに応じて10〜100μm、好ましくは10〜50μm程度であり、この設定に応じてZnO及びTiOの含有量の調整が必要になる。
【0015】
本発明に用いる合成樹脂フィルムは、ZnO(酸化亜鉛)を1.0〜7.0重量%及びTiO(酸化チタン)を0.1〜3.0重量%を含むことを必須とするものの、人間の目視による色相は、ごみ袋として従来からよく使用されている黄色系、黄緑色系、緑色系、青色系であることが好ましい。この色相をJIS Z8729に規定される知覚色度指数であるa値及びb値で特定すると、a値及びb値で特定すると、a値が−40〜10、b値が−10〜50である。上記色相の中では、緑色系及び黄色系が特に好ましく、a値及びb値で特定すると、a値が−30〜0、b値が0〜50である。緑色系の場合、好ましくはa値が−15〜−5、b値が0〜5である。黄色系の場合、好ましくはa値が−5〜0、b値が30〜50である。a値及びb値の絶対値について、5≦|a|+|b|≦70であることが好ましく、さらに10≦|a|+|b|≦50であることが好ましい。以上の外観色を備えるためには、常法にしたがって、顔料、染料を単独、複合で使用すればよい。通常、顔料はマスターバッチの形態として使用される。ただし、人間がごみ袋内を視認する必要があるため、合成樹脂フィルムは、JIS Z8729に規定されるL値(明度)は30〜60であることが好ましく、30〜40がより好ましい。
【0016】
本発明に用いる合成樹脂フィルムは、その表面の鏡面光沢度〔Gs(60°)〕を、35%未満とすることができる。これまで、カラスにとって人工物、天然物の簡易な判断基準と考えられる光沢度が高ければ高いほどカラスが忌避する傾向を示す、とされていた。ところが、後述する実施例に示すように、具体的には5〜20%の鏡面光沢度〔Gs(60°)〕であっても、十分な耐カラス効果を具現することができるという、新規な知見を得ることができた。光沢度の低いフィルムは自然光の乱反射が少ないという点で、光の反射による人による内部収納物の視認性の低さという問題を克服できるあるいはごみ収集場所の美観を損ねにくいという利点がある。
【0017】
以上の要件を備えた合成樹脂フィルムは、ZnO粒子及びTiO粒子を添加して作製すればよいが、ZnO粒子及びTiO粒子を塗布剤中に含ませて、これを合成樹脂フィルム表面に塗布してもよい。また、本発明のごみ袋は、作製された合成樹脂フィルムを袋状に加工することにより製造される。ただし、具体的な製造方法を本発明は限定するものではない。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
(1)基礎実験
<その1>
カラスにとって内容物の視認を妨げることが重要となる。その方法としては、カラスの認識光波長の撹乱が考えられる。この基礎実験は、紫外線カット(以下、UVカット)機能を有する合成樹脂フィルム、赤、緑、青などのカラーフィルムのカラス視覚撹乱の効果を調べることを目的として行われた。
UVカットごみ袋の内側中段にドッグフード(日本ペットフード(株)製「ビタワン」)を3粒、横に均等の間隔になるようにセロハンテープで貼り付けた。同様に下段中央に1粒貼り付けた。中段の3粒をそれぞれ覆うように赤、緑、青のカラーフィルムを1色ずつ、外側からセロハンテープで貼り付けた。各色の場所はランダムとした。下段の1粒の位置には何も覆わなかった。UVカットごみ袋内には、新聞紙を詰めて膨らませ、口をビニール紐で結んだ。
【0019】
ハシブトガラス1羽が入っているケージの内壁に、実験袋を1つ、カラーフィルムの面がカラスに見えるようにビニール紐で括り付け、30分間放置した。この試行を28回繰り返した。
なお、使用したUVカットごみ袋、各カラーフィルムは、以下の通りである。なお、厚さはいずれも30μmであり、後述するカラスケージ実験、フィールド実験においても同様である。
【0020】
*UVカット袋(酸化チタン配合UVカット袋)
*カラーフィルム・赤:高密度ポリエチレン(以下、基材)に、顔料として、東洋インキ製造(株)製 ポリエチレン一般フィルム用マスターバッチ(以下、MB) カラーガイド第2版、COLOR No.83;TET F 4MA819 RED−FDを4.0重量%添加
*カラーフィルム・緑:基材に、顔料として、同上、COLOR No.68;TET F 5MA878 GRN−FDを4.0重量%添加
*カラーフィルム・青:基材に、顔料として、同上、COLOR No.102:TET F 7MA934 BLU−FDを4.0重量%添加
【0021】
以上の結果、カラーフィルムを被せていない下段に配置された1粒のドッグフードは、全試行(28回)においてカラスに食べられた。この時、食べられるまでの時間は、ほとんどの場合で数秒であった。
カラーフィルムを被せた中段3粒のドッグフードについて、全てが残っていた場合を「Pass」、1つでも食べられていた場合を「Fail」とすると、全試行(28回)のうち20回が「Pass」であった。Passの回数はFailの回数より有意に多かった。
以上の結果より、UVカット素材だけではカラスの視覚を妨げることは困難であるが、使用カラーフィルムとUVカットフィルムを重ねることにより、カラスの視覚を大きく妨げる効果があると言える。
【0022】
<その2>
えさ箱の開口部を覆う蓋を、次の5種類のフィルムで作製した。
*UVカットフィルム+カラーフィルム・赤
*UVカットフィルム+カラーフィルム・緑Xフィルム
*カラーフィルム・緑Xフィルムのみ
*カラーフィルム・緑Yフィルムのみ
*カラーフィルム・緑Zフィルムのみ
UVカットごみ袋の文字が無い部分を切り取り、正方形のシート(A)にした。また、長方形のカラーフィルムを2つ並べ、中心をセロハンテープで張り合わせて正方形にした(B)。「UVカット+赤」と「UVカット+緑」は、シート(A)とシート(B)とを重ね、その周囲をセロハンテープでとめた。他の、「**のみ」と記載されたシートは、シート(B)単体からなる。これら5種類のシートを、えさ箱の開口部を覆う蓋として使用した。
【0023】
なお、使用したフィルムは、以下の通りである。
*UVカットフィルム:酸化チタン配合UVカット袋
*カラーフィルム・赤:基材に、顔料として、東洋インキ製造(株)製 ポリエチレン一般フィルム用マスターバッチ(以下、MB) カラーガイド第2版、COLOR No.83:TET F 4MA819 RED−FDを4.0重量%添加
*カラーフィルム・緑X:基材に、顔料として、同上、COLOR No.68;TET F 5MA878 GRN−FD(以下、「顔料No.68」)を4.0重量%添加
*カラーフィルム・緑Y:基材に、顔料として、同上、COLOR No.100;TET F 5MA885 GRN−FD(以下、「顔料No.100」)を4.0重量%添加
*カラーフィルム・緑Z:基材に、顔料として、同上、COLOR No.101;TET F 5MA886 GRN−FD(以下、「顔料No.101」)を4.0重量%添加
なお、顔料No.101は、粒径0.21〜0.25μmのTiO粒子を21.0重量%含有
【0024】
えさ箱を2つ用意し、一方には何も入れず、他方には上述のドッグフードを入れた。この2つのえさ箱に同じ種類のフィルムからなる蓋をし、ハシブトガラス1羽が入っているケージ内に2つ同時に置いた。カラスが最初に突付いたえさ箱を、選択されたえさ箱とした。カラスがどちらかのえさ箱を選択したならば、新しい蓋に換えて試行を繰り返した。
【0025】
ドッグフードを入れたえさ箱を選択した場合を「成功」、逆の場合を「失敗」として、実験の結果を表1に示す。表1に示すように、各フィルムからなる蓋ともに成功率は50%に近くなった。この中では、UVカットフィルムとカラーフィルムを積層したフィルムを蓋にした場合、カラスがフィルムを透かして内容物を視認するのを妨げる効果が大きいといえる。ただし、使用したカラーフィルム単独においても、視認を妨げる効果がある。
【0026】
【表1】

【0027】
(2)カラスケージ実験
基礎実験の結果から、耐カラス効果の期待できそうな紫外線カット剤と顔料を選定してごみ袋を作製し、カラスケージでの実験を行なった。
<その1>
7種類のフィルムに上述したドックフードを包み、これらをケージ内に一度にばら撒きカラスが捕食する順番を調べ、ドックフードの視認性或いは色に対する嗜好性を確認する実験を行った。
7種類の袋から10cm×10cmのシートを切り出し、このシートにドッグフードを飴玉様に包み、一箇所で絞りセロハンテープでとめた。包みのとめ口に個別の帯状色紙7種類を取り付けて、カラスケージ内に一度に任意にばら撒いた。カラスがケージ内のとまり木から下りて捕食する順番を色紙の色で判断し記録した。その結果を表2に示す。なお、7種類のフィルムは、以下に示す通りである。
【0028】
*炭酸カルシウム(炭カル):東京都推奨ごみ袋炭酸カルシウム配合の半透明ごみ袋
*緑68−1:基材に対して、顔料No.68を4.0重量%、酸化亜鉛MBを21.0重量%添加
*緑68−2:基材に対して、顔料No.68を4.0重量%、酸化亜鉛MBを6.0重量%添加
*緑68−3:基材に対して、顔料No.68を4.0重量%、有機材MBを1.0重量%添加
*緑101−1:基材に対して、顔料No.101を4.0重量%、酸化亜鉛MBを21.0重量%添加
*緑101−2:基材に対して、顔料No.101を2.5重量%、酸化亜鉛MBを6.0重量%添加
*緑101−3:基材に対して、顔料No.101を2.0重量%、有機材MBを1.0重量%添加
【0029】
*酸化亜鉛MB:昭和電工(株)製 ナノマックス(ZnO;30.0重量%,粒径20〜200nm)
*有機材MB:大日本インキ化学工業(株)UVE−3046(紫外線カット材)
【0030】
表2において、獲得順位累計は、カラスに捕食された順位(獲得順位)を単純に加算した値である。この値が小さいほど先にカラスに捕食されることを意味する。また、表2において、平均順位は、獲得順位を加算した数値を試行数(16)で除した値である。
本実験は、ドックフードを含有した被検体の位置、カラスの飛来容易さなどが関係する。したがって、順位の獲得率が、30%以下の範囲の結果を除いて考察するのが妥当である。そこで、順位の獲得率が30%以上について検討すると、緑68−1〜緑68−3は、獲得順位が5位以内のケースが多く、カラスにとって内容物の視認は容易と解される。一方、緑101−1、緑101−2は、獲得順位が6〜7位であるケースが多く、カラスにとって内容物を視認しづらいものと評価できる。また、獲得順位1〜2位は、最初に述べたように、ごみ袋の場所、飛来の容易さに影響されるので、むしろ順位1〜2位は参考程度に考えるのが望ましい。
【0031】
【表2】

【0032】
<その2>
同じ仕様のごみ袋を2つ用意した。一方のごみ袋には上述したドッグフードを入れ、他方のごみ袋にはドックフードを入れずに、カラスケージ内に並べて設置し、カラスがどれだけ正確にドックフードを見つけることができるかを確認する実験を行った。
ごみ袋内には、以下のようにしてドッグフードを入れた。新聞紙を1/4頁大に切り広げその中央に新聞紙の小さい塊(盛り台)を付け、その周りにドッグフード6粒をセロハンテープで貼り付ける。これをごみ袋内側に取り付け、さらに新聞紙を丸めて詰め込んだ。ドックフードを貼り付けていない以外は、以上と同様のごみ袋を用意した。2つのごみ袋を、カラスケージの壁に並べて設置した。どちらの袋を先につつくか(先行アタック;PA)、また、ドックフードを正確にピンポイントでつつく(ピンポイントアタック;PPA)か、を調査した。ただし、ドックフードあり(餌あり)のごみ袋とドックフードなし(餌なし)のごみ袋は1回ごとに左右入れ替えて観察した。その結果を表3に示す。表3に示すように、実際のごみ袋を使用した実験でも、緑101−1、緑101−2の優位性が確認された。
【0033】
【表3】

【0034】
(3)フィールド実験
前述のカラスケージ実験の結果から、緑101−1及び緑101−2を用い、実験用の飼育されたカラスではなく、野外にて自然や都市部で捕食行動を行なっている野性のカラスへの効果を検証した。
カラスから既に被害を受けているごみ集積場所管内に仮想のごみステーションを設置し、内部に餌となるドッグフードを配した袋を置いて数日間カラスに捕食させ、カラス被害のあるごみ集積所と同じ状況を作った。その場所で、少し離れた2つの領域の一方に前述の緑101−1からなるごみ袋を配置し、他方に前述の炭カルからなるごみ袋を配置して、カラスからの被害を観察した。
無色透明な袋(透明袋)の表裏両面に前述したドッグフードを20個(片面10個ずつ)ずつ貼り付け、その袋の中におもり(PETボトル;2リットル)と丸めた新聞紙をいれる。この透明袋を前述の緑101−1からなるごみ袋、炭カルからなるごみ袋の中に封入した。このごみ袋を各領域に5つずつ配置した。
1試行ごとの実験開始時間と、1羽目のカラスが飛来しどちらかの袋(緑101−1又は炭カル)をつつき始める時間を記録した。同時につつき始めてから20分間の1分ごとのカラスの飛来数、及び20分後にごみ袋がつつかれた穴の数(≒ドックフードを捕られた数)を記録した。ただし、1袋のドックフードは20個に限られているので、ごみ袋がボロボロになっている場合やドックフードが1つも発見できない場合はドックフードの捕られた数を20とカウントした。
以上の観察を、10試行行った。なお、1試行ごとに、緑101−1からなるごみ袋、炭カルからなるごみ袋を配置する領域を交互に替えた。その結果を表4に示す。また、緑101−2からなるごみ袋と炭カルからなるごみ袋とを、異なる領域に配置して上記と同様の観察を行った。その結果を表5に示す。表4及び表5より、緑101−1及び緑101−2からなるごみ袋が、フィールド実験においても高い耐カラス効果を有することが実証された。
【0035】
黄色のゴミ袋(黄−1)を作製し、上記と同様のフィールド実験を行った。なお、黄−1の仕様は以下の通りである。
*黄−1:基材に、顔料として、東洋インキ製造(株)製 ポリエチレン一般フィルム用マスターバッチ(以下、MB) 2YB418Zを4重量%添加するとともに、酸化亜鉛MBを8.0重量%添加。なお、上記顔料は、粒径0.21〜0.25μmのTiO粒子を含有している。
フィールド実験の結果を表6に示すが、黄−1からなるごみ袋も高い耐カラス効果を有することが実証された。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
(4)光学特性等
表7に、以上の実験・観察に用いたごみ袋の光学特性(光線透過率(全光線透過率、拡散透過率、平行光線透過率)、鏡面光沢度、色測定(L))、ごみ袋に含まれるZnO及びTiO量を示した。なお、光学特性の測定法方は以下の通りである。
【0040】
(a)光線透過率(全光線透過率、拡散透過率、平行光線透過率)
JIS K7105に規定される方法に従い、50mm×50mmの試験片について、スガ試験機(株)製のタッチパネル式ヘーズコンピュータ HZ−2を用いて測定した。
(b)鏡面光沢度〔Gs(60°)〕(%)
JIS Z8741に規定される方法に従い、スガ試験機(株)製のデジタル変角光沢計 UGV−5Kを用いて測定した。
(c)色測定(L
JIS Z8730に準拠し、以下により測定した。
測定方法の種類:分光側色方法
等色関数の種類:XYZ表色系
測定用イルミナントの種類:補助イルミナントC
照明及び受光の幾何学的条件:条件c(d−0)
三刺激値の計算方法:波長間隔5nm
測定孔:30mmφ
使用試験機:スガ試験機(株)製 多光源分光側色計 MSC−IS−2DH
【0041】
表7に示すように、耐カラス効果の高かった緑101−1、緑101−2及び黄−1は、ZnOとTiOの両者を包含している点で他のごみ袋と相違している。前述したように、ZnOとTiOは、波長の異なる紫外線に対してカット効果を有しており、さらにTiOが有する白色顔料としての隠蔽性の相乗効果によって、高い耐カラス効果が付与されていると考えられる。
また、表7において、耐カラス効果の高かった緑101−1、緑101−2及び黄−1は、鏡面光沢度〔Gs(60°)〕が20%以下と低い。これは前述した、光沢度が高ければ高いほどカラスが忌避する傾向を示すとの従来の知見と相違しており、興味深い結果である。
【0042】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOを1.0〜7.0重量%、TiOを0.1〜3.0重量%含む合成樹脂フィルムから形成されたことを特徴とするごみ袋。
【請求項2】
前記合成樹脂フィルムは、
表色系における
値が30〜85、
値が−30〜0、
値が0〜50の関係を有することを特徴とする請求項1に記載のごみ袋。
【請求項3】
前記合成樹脂フィルムは、
鏡面光沢度〔Gs(60°)〕が、5〜20%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のごみ袋。

【公開番号】特開2008−214100(P2008−214100A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225014(P2007−225014)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(391030468)日本グリーンパックス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】