説明

し尿系汚水処理装置

【課題】 前反応手段において増殖した微生物を前反応手段に戻すことによって、前反応手段における微生物量を適切な量に制御でき、酸化処理を経ないし尿系汚水の一部を生物反応手段に導入することによって、有機物の補給を、大幅に削減できる。
【解決手段】 し尿系汚水を導入して無機凝集剤を添加混合する添加部1と、凝集処理されたし尿系汚水を導入して酸化処理する前反応手段2と、懸濁液を上澄み液と汚泥とに重力により固液分離する汚泥沈降槽3と、分離された汚泥を脱水する脱水手段4と、上澄み液を導入して硝化脱窒処理する生物反応手段5と、懸濁液を汚泥と処理液とに固液分離する膜分離手段6と、余剰汚泥を前反応手段2またはその前工程に返送する返送手段7とを有するし尿系汚水処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、し尿、浄化槽汚泥、雑排水、その他の有機性排水等のし尿系汚水の処理装置、特に、浄化槽汚泥を主な処理対象とするし尿系汚水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特許第3369915号公報)に、し尿系汚水処理装置の一例が開示されている。以下、この処理装置を従来処理装置といい、図面を参照しながら説明する。
【0003】
図3は、従来処理装置を示すブロック図である。
【0004】
図3において、1は、生し尿と浄化槽汚泥とを含むし尿系汚水を導入して無機凝集剤を添加混合する添加部、2は、添加部1により凝集処理されたし尿系汚水を導入して酸化処理する前反応手段、3は、前反応手段2により処理された懸濁液を上澄み液と汚泥とに重力により固液分離を行う汚泥沈降槽、4は、汚泥沈降槽3により分離された汚泥を脱水する脱水手段、5は、汚泥沈降槽3により分離された上澄み液を導入して硝化脱窒処理する生物反応手段、6は、生物反応手段5から送られる懸濁液を汚泥と処理液とに固液分離する膜分離手段、そして、7は、生物反応手段5内で発生する余剰汚泥を添加部1または、その前工程に返送する送泥手段である。
【0005】
上述のように構成されている従来処理装置によれば、し尿系汚水は、以下のように処理される。
【0006】
生し尿と浄化槽汚泥とは、それぞれ前処理手段8、9に送られ、砂、石、紙、繊維等の夾雑物が除去される。夾雑物が除去されたし尿系汚水は、添加部1に送られ、脱リン剤添加設備10から脱リン剤が添加され、シリカ系凝集剤添加設備11からシリカ系凝集剤が添加される。次いで、凝集処理されたし尿系汚水は、前反応手段2に送られ、エアーが混入されることによって酸化処理される。次いで、前反応手段2により処理された懸濁液は、汚泥沈降槽3に送られ、上澄み液と汚泥とに分離される。汚泥沈降槽3で分離された汚泥は、脱水手段4に送られ、脱水処理される。一方、汚泥沈降槽3で分離された上澄み液は、生物反応手段5に送られ、硝化脱窒処理される。なお、脱水手段4により分離された分離液は、生物反応手段5に送られ、再処理される。
【0007】
生物反応手段5内で発生する余剰汚泥は、返送手段7を介して添加部1または、その前工程に返送される。生物反応手段5からの懸濁液は、膜分離手段6に送られ、汚泥と処理液とに固液分離され、濃縮汚泥は、生物反応手段5に返送される。膜分離手段6により分離された透明液は、活性炭処理手段12に送られ、脱色処理された後、処理水は、再利用または放流される。
【0008】
上記従来処理装置によれば、生物反応手段5内で発生する余剰汚泥を添加部3または、その前工程に返送する返送手段7を有しているので、余剰汚泥の脱水と前処理で発生する浄化槽汚泥の脱水とを同時に行える。従って、脱水設備のコストを低減することができる。また、前反応手段2が設置されているので、有機物の酸化分解が促進され、この結果、生物反応手段5における硝化脱窒処理において有機物負荷が軽減され、粘性の上昇を招くことなく、安定した処理が可能となる。
【0009】
【特許文献1】特許第3369915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来処理装置は、以下のような問題があった。
【0011】
(1)前反応手段2では、生物反応手段5から発生する余剰汚泥とし尿系汚水とを混合して生物処理を行っているが、前反応手段2において大半の有機物が分解除去されるため、生物反応手段5における微生物の増殖量が少なく、余剰汚泥の発生量が少ない。このため、前反応手段2において反応に与かる微生物量が不足して、前反応手段2での微生物による反応に支障を来たす。
【0012】
(2)生物反応手段5では、生物学的な硝化脱窒反応が行われる。前反応手段2で酸化された硝酸態窒素と、前半の手段で残存したアンモニア態の窒素あるいは有機性の窒素を生物反応手段5で新たに酸化した硝酸態窒素とが有機物を栄養源として脱窒菌により脱窒処理される。この際、前半の前反応手段2で大半の有機物が酸化分解されるので、その残存量が大幅に減少する。このため、脱窒反応に必要な有機物が不足して、有機物の補給としてメタノールの添加が必要となる。
【0013】
従って、この発明の目的は、前反応手段において増殖した微生物を前反応手段に戻すことによって、前反応手段における微生物量を適切な量に制御でき、また、前反応手段において酸化処理を経ないし尿系汚水の一部を生物反応手段に導入することによって、有機物の補給手段としてのメタノールの添加が不要になるか、大幅に削減できるし尿系汚水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0015】
請求項1記載の発明は、少なくとも生し尿と浄化槽汚泥とを含むし尿系汚水を導入して無機凝集剤を添加混合する添加部と、前記添加部により凝集処理されたし尿系汚水を導入して酸化処理する前反応手段と、前記前反応手段により処理された懸濁液を上澄み液と汚泥とに重力により固液分離する汚泥沈降槽と、前記汚泥沈降槽により分離された汚泥を脱水する脱水手段と、前記汚泥沈降槽により分離された上澄み液を導入して硝化脱窒処理する生物反応手段と、前記生物反応手段から送られる懸濁液を汚泥と処理液とに固液分離する膜分離手段と、前記生物反応手段内で発生する余剰汚泥を前記前反応手段またはその前工程に返送する返送手段とを有するし尿系汚水処理装置において、前記汚泥沈降槽により分離された前記汚泥を前記脱水手段に送る配管から分岐して送泥手段が設けられ、前記送泥手段から前記汚泥の一部が前記前反応手段に送られることに特徴を有するものである。
【0016】
請求項2記載の発明は、少なくとも生し尿と浄化槽汚泥とを含むし尿系汚水を導入して無機凝集剤を添加混合する添加部と、前記添加部により凝集処理されたし尿系汚水を導入して酸化処理する前反応手段と、前記前反応手段により処理された懸濁液を上澄み液と汚泥とに重力により固液分離する汚泥沈降槽と、前記汚泥沈降槽により分離された汚泥を脱水する脱水手段と、前記汚泥沈降槽により分離された上澄み液を導入して硝化脱窒処理する生物反応手段と、前記生物反応手段から送られる懸濁液を汚泥と処理液とに固液分離する膜分離手段と、前記生物反応手段内で発生する余剰汚泥を前記前反応手段またはその前工程に返送する返送手段とを有するし尿系汚水処理装置において、前記添加部により凝集処理された懸濁液を前記前反応手段に送る配管から分岐して送泥手段が設けられ、前記送泥手段から前記懸濁液の一部が前記生物反応手段に送られることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、以下のような効果がもたらされる。
【0018】
(1)汚泥沈降槽により分離された汚泥を脱水手段に送る配管から分岐して、汚泥の一部を前反応手段に送る送泥手段を設けることによって、前反応手段内の微生物量を補うことができる。従って、生物反応手段で発生した余剰汚泥の投入量だけでは前反応手段における微生物量が不足しがちであったものが、この微生物量を適切な量に制御できるように改善できる。
【0019】
(2)添加部により凝集処理された懸濁液を前反応手段に送る配管から分岐して、懸濁液の一部を生物処理手段へ送る送泥手段を設けることによって、前反応手段において酸化処理を経ないし尿系汚水の一部を生物反応手段に導入することができる。この懸濁液は、酸化処理を受けていないために有機物が豊富であり、生物反応手段における硝化脱窒処理において不足がちとなる脱窒菌の栄養源となる。この結果、通常必要となる有機物の補給手段としてのメタノールの添加が不要になるか、または大幅に削減できる。また、この混合液は、無機凝集剤による凝集処理を受けているので、溶解性のリン酸態のリンの脱リン効果を妨げることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明のし尿系汚水処理装置の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、この発明のし尿系汚水処理装置を示すブロック図である。
【0022】
図1において、図3に示す従来処理装置と同一番号は、同一物である。すなわち、1は、生し尿と浄化槽汚泥とを含むし尿系汚水を導入して無機凝集剤を添加混合する添加部、2は、添加部1により凝集処理されたし尿系汚水を導入して酸化処理する前反応手段、3は、前反応手段2により処理された懸濁液を上澄み液と汚泥とに重力により固液分離を行う汚泥沈降槽、4は、汚泥沈降槽3により分離された汚泥を脱水する脱水手段、5は、汚泥沈降槽3により分離された上澄み液を導入して硝化脱窒処理する生物反応手段、6は、生物反応手段5から送られる懸濁液を汚泥と処理液とに固液分離する膜分離手段、7は、生物反応手段5内で発生する余剰汚泥を前反応手段2(または、その前工程)に返送する返送手段、そして、13は、送泥手段であり、汚泥沈降槽3により分離された汚泥を脱水手段4に送る配管3Aから分岐して設けられている。
【0023】
上述のように構成されている、この発明の処理装置によれば、し尿系汚水は、以下のように処理される。
【0024】
生し尿と浄化槽汚泥とは、それぞれ前処理手段8、9に送られ、砂、石、紙、繊維等の夾雑物が除去される。夾雑物が除去されたし尿系汚水は、添加部1に送られ、脱リン剤添加設備10から脱リン剤が添加され、シリカ系凝集剤添加設備11からシリカ系凝集剤が添加される。次いで、凝集処理されたし尿系汚水は、前反応手段2に送られ、エアーが混入されることによって酸化処理される。次いで、前反応手段2により処理された懸濁液は、汚泥沈降槽3に送られ、上澄み液と汚泥とに分離される。汚泥沈降槽3で分離された汚泥は、脱水手段4に送られ、脱水処理される。一方、汚泥沈降槽3で分離された上澄み液は、生物反応手段5に送られ、硝化脱窒素処理される。なお、脱水手段4により分離された分離液は、生物反応手段5に送られ、再処理される。
【0025】
生物反応手段5内で発生する余剰汚泥を前反応手段2(または、その前工程)に返送する返送手段7を有しているので、余剰汚泥の脱水と汚泥沈降槽3で発生する汚泥の脱水とを同時に行える。従って、脱水設備のコストを低減することができる。また、前反応手段2が設置されているので、有機物の酸化分解が促進され、この結果、生物反応手段5における硝化脱窒素処理槽において有機物負荷が軽減され、粘性の上昇を招くことなく、安定した処理が可能となる。
【0026】
この発明の特徴は、汚泥沈降槽3により分離された汚泥を脱水手段4に送る配管3Aから分岐して送泥手段13が設けられていることにある。送泥手段13が設けられることによって、汚泥沈降槽3により分離された汚泥の一部が前反応手段2に送られる。これによって、前反応手段2内の微生物量を補うことができる。従って、生物反応手段5で発生した余剰汚泥の投入量だけでは前反応手段2における微生物量が不足しがちであったものが、微生物量を適切な量に制御できる。
【0027】
図2に、この発明の別のし尿系汚水処理装置を示す。図2において、図3に示す従来処理装置と同一番号は、同一物であり、説明は省略する。
【0028】
この発明の特徴は、添加部1により凝集処理された懸濁液を前反応手段2に送る配管1Aから分岐して送泥手段14が設けられていることにある。送泥手段14が設けられることによって、添加部1により凝集処理された懸濁液の一部が生物反応手段5に送られる。この懸濁液は、酸化処理を受けていないために有機物が豊富であり、生物反応手段5における硝化脱窒処理において不足がちとなる脱窒菌の栄養源となる。この結果、通常必要となる有機物の補給手段としてのメタノールの添加が不要になるか、または大幅に削減できる。また、この混合液は、無機凝集剤による凝集処理を受けているので、溶解性のリン酸態のリンの脱リン効果を妨げることがない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明のし尿系汚水処理装置を示すブロック図である。
【図2】この発明の別のし尿系汚水処理装置を示すブロック図である。
【図3】従来処理装置の例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0030】
1:添加部
1A:配管
2:前反応手段
3:汚泥沈降槽
3A:配管
4:脱水手段
5:生物反応手段
6:膜分離手段
7:返送手段
8:前処理手段
9:前処理手段
10:脱リン剤添加設備
11:シリカ系凝集剤添加設備
12:活性炭処理手段
13:送泥手段
14:送泥手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも生し尿と浄化槽汚泥とを含むし尿系汚水を導入して無機凝集剤を添加混合する添加部と、前記添加部により凝集処理されたし尿系汚水を導入して酸化処理する前反応手段と、前記前反応手段により処理された懸濁液を上澄み液と汚泥とに重力により固液分離する汚泥沈降槽と、前記汚泥沈降槽により分離された汚泥を脱水する脱水手段と、前記汚泥沈降槽により分離された上澄み液を導入して硝化脱窒処理する生物反応手段と、前記生物反応手段から送られる懸濁液を汚泥と処理液とに固液分離する膜分離手段と、前記生物反応手段内で発生する余剰汚泥を前記前反応手段またはその前工程に返送する返送手段とを有するし尿系汚水処理装置において、
前記汚泥沈降槽により分離された前記汚泥を前記脱水手段に送る配管から分岐して送泥手段が設けられ、前記送泥手段から前記汚泥の一部が前記前反応手段に送られることを特徴とするし尿系汚水処理装置。
【請求項2】
少なくとも生し尿と浄化槽汚泥とを含むし尿系汚水を導入して無機凝集剤を添加混合する添加部と、前記添加部により凝集処理されたし尿系汚水を導入して酸化処理する前反応手段と、前記前反応手段により処理された懸濁液を上澄み液と汚泥とに重力により固液分離する汚泥沈降槽と、前記汚泥沈降槽により分離された汚泥を脱水する脱水手段と、前記汚泥沈降槽により分離された上澄み液を導入して硝化脱窒処理する生物反応手段と、前記生物反応手段から送られる懸濁液を汚泥と処理液とに固液分離する膜分離手段と、前記生物反応手段内で発生する余剰汚泥を前記前反応手段またはその前工程に返送する返送手段とを有するし尿系汚水処理装置において、
前記添加部により凝集処理された懸濁液を前記前反応手段に送る配管から分岐して送泥手段が設けられ、前記送泥手段から前記懸濁液の一部が前記生物反応手段に送られることを特徴とするし尿系汚水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−255604(P2006−255604A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77348(P2005−77348)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】