説明

すべり支承装置の防水構造

【課題】すべり受け板のすべり面に水が付着することを抑制しつつ、すべり支承装置の点検作業を容易に行うことができるようにする。
【解決手段】建物基礎18上に設けられ、すべり面10Aを有するすべり受け板10と、建物24の下部に設けられ、すべり面10A上を摺動可能に構成されたすべり支承12と、建物基礎18上に、すべり受け板10の外周を囲むように設けられると共に、高さを部分的又は全体的に変更可能に構成された枠状部材14と、を有する。枠状部材14が、降水時にすべり受け板10が浸水することを抑制できる。すべり支承装置16の点検作業時には、枠状部材14の高さを適宜変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり支承装置の防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物基礎の台部上に固定されるベース板に、上面がすべり面とされたすべり受け板を配置する一方、建物の下部に固定された上板の下面に、弾性変形可能な積層ゴム体及び該積層ゴム体の下面に固定されたすべり部材からなるすべり支承を、すべり受け板のすべり面に接触させておくことで、建物基礎と建物の下部との水平方向の相対移動が許容されるようにしたすべり支承装置が開示されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−337283号公報
【特許文献2】特開2006−9496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来例のようなすべり支承装置は、建物側に固定されるすべり支承と、建物基礎側に固定されるすべり受け板との間の摩擦により、地震のエネルギーを減衰させる免震装置である。従って、すべり受け板のすべり面に水や異物が付着すると、所定の性能が発揮されない。このため、上記した従来例では、すべり面への水や異物の付着を防止するために、すべり支承やすべり受け板をカバーで覆っている。
【0005】
しかしながら、すべり支承装置に対しては、施工後の定期点検時に、すべり受け板の状態を確認したり、ゴム積層体の高さを測定したりする必要があり、すべり支承やすべり受け板がカバーで覆われていたのでは、点検作業の妨げとなる。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、すべり受け板のすべり面に水が付着することを抑制しつつ、すべり支承装置の点検作業を容易に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、建物基礎上に設けられ、すべり面を有するすべり受け板と、建物の下部に設けられ、前記すべり面上を摺動可能に構成されたすべり支承と、前記建物基礎上に、前記すべり受け板の外周を囲むように設けられると共に、高さを少なくとも前記すべり面よりも高く設定可能かつ該高さを部分的又は全体的に変更可能に構成された枠状部材と、を有している。
【0008】
請求項1に記載のすべり支承装置の防水構造では、すべり受け板の外周が枠状部材により囲まれ、該枠状部材の高さを少なくともすべり受け板のすべり面よりも高く設定可能であるので、降水時にすべり受け板が浸水することを抑制し、該すべり受け板のすべり面への水や異物の付着を抑制することができる。また枠状部材の高さは、部分的又は全体的に変更可能となっているので、すべり支承装置の点検作業時には、枠状部材の高さを適宜変更することで、当該点検作業を容易に行うことができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のすべり支承装置の防水構造において、前記枠状部材は、内圧が付与される中空の弾性体で構成されている。
【0010】
請求項2に記載のすべり支承装置の防水構造では、中空の弾性体に付与する内圧を高めることで枠状部材の高さを増加させることができ、該内圧を低めることで枠状部材の高さを減少させることができる。また中空の弾性体は、内圧を維持したまま部分的に変形可能であるので、枠状部材の高さを部分的に変更することができる。このため、すべり支承装置の点検作業時に枠状部材の高さを容易に変更することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のすべり支承装置の防水構造によれば、すべり受け板のすべり面に水が付着することを抑制しつつ、すべり支承装置の点検作業を容易に行うことができる、という優れた効果が得られる。
【0012】
請求項2に記載のすべり支承装置の防水構造によれば、すべり支承装置の点検作業時に枠状部材の高さを容易に変更することができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】すべり支承装置の防水構造において、起立した枠状部材により浸水を抑制している状態を示す断面図である。
【図2】すべり支承装置の防水構造において、枠状部材が起立した状態を示す斜視図である。
【図3】すべり支承装置の防水構造において、枠状部材の高さが減少した状態を示す断面図である。
【図4】すべり支承装置の防水構造において、枠状部材の高さが減少した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。図1において、本実施形態に係るすべり支承装置の防水構造Sは、すべり受け板10と、すべり支承12と、枠状部材14とを有している。これらのうち、すべり受け板10及びすべり支承12は、支承装置16を構成している。
【0015】
図1,図2に示されるように、すべり受け板10は、建物基礎18上に設けられ、すべり面10Aを有している。具体的には、建物基礎18上には台座部20が設けられ、該台座部20上にベース板22が固定されている。すべり受け板10は、該ベース板22上に、すべり面10Aが上面側となるように固定されている。台座部20、ベース板22及びすべり受け板10は、平面視で夫々例えば略四角形に形成されている。すべり面10Aは、すべり受け板10の中央部に、例えば略円形に形成されている。
【0016】
すべり支承12は、建物24の下部に設けられ、すべり面10A上を摺動可能に構成されている。建物24の下部には取付け凸部26が設けられており、該取付け凸部26の下面に上板28が固定されている。すべり支承12は、該上板28の下面に固定されている。すべり支承12の下面にはすべり板30が固定されている。このすべり板30は、すべり受け板10のすべり面10Aに接触している。なお、上板28とすべり面10Aとの摩擦が小さくなるようにするために、該上板28の下面に対して、例えばフッ素樹脂加工等の処理を施すことが望ましい。
【0017】
すべり受け板10の大きさ及びすべり面10Aの範囲は、地震発生時におけるすべり支承12の相対移動量を考慮して設定される。これに伴い、すべり面10Aは、上板28よりも平面視にて大きく形成されており、すべり支承12がすべるための十分な面積が確保されている。
【0018】
図示は省略するが、すべり支承12は、厚み方向に所定の間隙をあけて積層された複数の内部鋼鈑と、これらの間に配置されたゴム板と、該内部鋼板及びゴム板の周囲を覆って保護する被覆ゴムとで、柱状に構成されている。なお、すべり支承12の構造はこれに限られるものではなく、例えば内部鋼板を有しない構造であってもよい。
【0019】
枠状部材14は、建物基礎18上に、すべり受け板10の外周を囲むように設けられると共に、高さを少なくとも前記すべり面よりも高く設定可能かつ該高さを部分的又は全体的に変更可能に構成されている。具体的には、枠状部材14は、例えば台座部20上に、すべり受け板10及びベース板22の四方を囲むように固定されている。枠状部材14の外側から内側への水の浸入を防ぐために、枠状部材14は、例えば全周に渡って台座部20上に密着している。
【0020】
枠状部材14は、内圧が付与される中空の弾性体、例えば断面略四角形の環状のゴムチューブで構成されている。この枠状部材14に内圧を付与するためには、空気等の流体を封入してもよいし、また枠状部材14に流体の出入り口、例えばバルブ(図示せず)を設けて、該バルブを介して空気等の流体を供給するようにしてもよい。枠状部材14に流体の出入り口を設けた場合には、出入り口から流体を抜くことで枠状部材14の内圧を減少させることも可能となる。
【0021】
図1,図2に示されるように、枠状部材14は、通常時には、すべり受け板10のすべり面10Aよりも高い位置まで起立している。枠状部材14が中空の弾性体であって伸縮性を有する場合、付与する内圧によって枠状部材14の高さを調節可能である。枠状部材14が弾性体でなく伸張性を有しない場合には、該枠状部材14を構成する基材の大きさ(膨張時の断面形状)で高さが定まる。
【0022】
なお、建物24としては、本実施形態のすべり支承装置16を介して支持される構造物であればよく、例えば、オフィスビル、病院、集合住宅、美術館、公会堂、学校、庁舎、神社仏閣、橋梁、競技場、照明灯等を挙げることができる。また、建物基礎18としては、本実施形態のすべり支承装置16を介して上記の建物24を支持するものであればよく、建物の土台、地盤等、及びこれらの上に設けられる各種部材をも含む。
【0023】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1において、本実施形態に係るすべり支承装置16では、すべり板30とすべり支承12とのすべりによって、建物基礎18と建物24との水平方向(矢印A方向)の相対移動が許容されている。地震発生時には、建物24の水平運動に伴うすべり支承12とすべり受け板10との間の摩擦と、該すべり支承12のせん断変形とにより、地震のエネルギーを減衰させることができる。
【0024】
また本実施形態に係るすべり支承装置の防水構造Sでは、すべり受け板10の外周が、枠状部材14により囲まれているので、図1に示されるように、降水時に枠状部材14の周囲に水32がたまっても、該枠状部材14が堰となり、すべり受け板10が浸水することが抑制される。このため、すべり受け板10のすべり面10Aへの水や異物の付着を抑制することができる。
【0025】
次に、すべり支承装置16の点検作業時には、枠状部材14に作業者(図示せず)の体重が作用することで、図2の二点鎖線で示されるように、該枠状部材14の内圧を維持したまま、該枠状部材14を部分的に変形させ、局所的に高さが低い凹部14Aを形成することができる。また枠状部材14に流体の出入り口(図示せず)を設けた場合には、図3,図4に示されるように、枠状部材14の内圧を低めることで、枠状部材14の高さを全体的に減少させることが可能である。
【0026】
このように、本実施形態に係るすべり支承装置の防水構造Sでは、枠状部材14の高さを容易に変更することができるので、通常時にすべり受け板10のすべり面10Aに水が付着することを抑制しつつ、すべり受け板10の状態の確認やすべり支承12の高さの測定といった、すべり支承装置16の点検作業を容易に行うことができる。またこれによって、すべり支承装置16の免震性能を長期にわたって維持することができる。
【0027】
(他の実施形態)
枠状部材14を、断面略四角形のゴムチューブとしたが、断面形状はその他の多角形や円形、半円形等であってもよく、またゴムと比較して伸張性の少ない材質で構成されたチューブであってもよい。また枠状部材14を環状のものとしたが、該枠状部材14の内部を複数のチャンバに区画し、各々のチャンバに内圧を付与しておくと、仮に一部のチャンバの内圧が減少した場合でも、他のチャンバの内圧によって枠状部材14の高さの減少を抑制することができる。
【0028】
更に枠状部材14を、内圧が付与される中空の弾性体で構成されるものとしたが、これに限られず、すべり受け板10の浸水を抑制することができ、かつ高さを部分的又は全体的に変更可能なものであれば、どのような部材であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 すべり受け板
10A すべり面
12 すべり支承
14 枠状部材
18 建物基礎
24 建物
S すべり支承装置の防水構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物基礎上に設けられ、すべり面を有するすべり受け板と、
建物の下部に設けられ、前記すべり面上を摺動可能に構成されたすべり支承と、
前記建物基礎上に、前記すべり受け板の外周を囲むように設けられると共に、高さを少なくとも前記すべり面よりも高く設定可能かつ該高さを部分的又は全体的に変更可能に構成された枠状部材と、
を有するすべり支承装置の防水構造。
【請求項2】
前記枠状部材は、内圧が付与される中空の弾性体で構成されている請求項1に記載のすべり支承装置の防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−184545(P2012−184545A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46370(P2011−46370)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】