説明

すべり軸受

【課題】 マルチボーリング加工に基づく油のリークを防止すること及び軸受への給油量を低減することという利点を維持しつつ異物の排出を効果的に行うことができるすべり軸受を提供する。
【解決方法】 上半割軸受2の主軸の回転先方向の端部内側及び該端部内側と対面する下半割軸受3の端部内側にC0.15mm〜C0.4mmの面取面積と同じ面積となるような切欠5,7を形成したので、油穴から半割軸受2,3に形成される油溝4内に供給される油によって流れてきた異物を速やかに切欠5,7からすべり軸受1の外部に排出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
内燃機関のクランクシャフトを支持するように半割形状に形成された半割軸受を上下2個組み合わせて円筒状とし且つ少なくとも上半割軸受の内周面に円周方向に沿った油溝が形成されたすべり軸受であって、前記半割軸受の内周面に円周方向に延びるボーリング加工による複数の溝を全域にわたって形成し、その複数の溝のうち前記円周方向の両端部の溝がクランクシャフトの回転時に荷重を主に受ける部分の溝に比べて断面積が大きくなるように形成されたすべり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模の環境問題により、自動車において、排気ガス改善、低燃費化等が強く求められている。これらの要求に対し、軸受部からのオイルリーク低減によりエンジンの低燃費化に貢献すべく、本出願人は、先に特開2002−188624号(以下、「特許文献1」という。)に示される技術を提案した。この特許文献1に記載される技術は、半割軸受の内周面にボーリング加工によって形成された溝のうち、円周方向両端部の溝を深溝とし、軸の回転時に荷重を主に受ける部分の浅溝に比べて断面積を大きく形成すること(以下、この技術を「マルチボーリング加工」という。)により、円周方向両端部の各深溝の突条部が軸との接触により早期になじみ摩耗し、この摩耗した部分がクラッシュリリーフの代わりとなって、クラッシュリリーフの機能を奏し、しかも油のリークを少なくし且つ軸受への給油量を低減することができるものである。
【特許文献1】特開2002−188624号公報(段落〔0014〕,〔0015〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示される技術においては、油のリークを防止すること及び軸受への給油量を低減することにおいて、優れた効果を奏するものの混入した異物の軸受外への排出については考慮されていなかった。特に近年のように、使用環境が厳しくなっている場合に、異物を軸受内に残存させておくことは短期間で充分な軸受機能を奏さなくなるおそれがある。
【0004】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、マルチボーリング加工に基づく油のリークを防止すること及び軸受への給油量を低減することという利点を維持しつつ異物の排出を効果的に行うことができるすべり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために採用された解決手段として、請求項1に係る発明は、内燃機関のクランクシャフトを支持するように半割形状に形成された半割軸受を上下2個組み合わせて円筒状とし且つ少なくとも上半割軸受の内周面に円周方向に沿った油溝が形成されたすべり軸受であって、前記半割軸受の内周面に円周方向に延びるボーリング加工による複数の溝を全域にわたって形成し、その複数の溝のうち前記円周方向の両端部の溝がクランクシャフトの回転時に荷重を主に受ける部分の溝に比べて断面積が大きくなるように形成されたすべり軸受において、前記上半割軸受の前記クランクシャフトの回転先方向の端部内側及び該端部内側と対面する下半割軸受の端部内側にC0.15mm〜C0.4mmの面取面積と同じ面積となるような切欠を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明においては、すべり軸受における油のリークは、主に2つの半割軸受の合わせ面の切欠の部分で起こるため、その合せ目付近の油の流れが相対的に速くなることが考えられ、このため、半割軸受に形成される油溝内を流れてきた異物を速やかに切欠からすべり軸受の外部に排出することができる。この場合、切欠がC0.15mmの面取面積と同じ面積未満では、充分な異物の排出効果を得ることができないと共にすべり軸受の背面温度が高くなってしまい、切欠がC0.4mmの面取面積と同じ面積を超える場合には、油のリーク量が多くなってしまうという欠点があるため、切欠の大きさは、C0.15mm〜C0.4mmの面取面積と同じ面積とし、望ましくは、C0.2mm〜C0.4mmの面取面積と同じ面積である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図4を参照して説明する。図1は、主軸を支持する2つの上半割軸受2と下半割軸受3からなるすべり軸受1の側面図(A)と、上半割軸受2と下半割軸受3の平面図(B)であり、図2は、クランクシャフト10に形成される軸油路11とコンロッドピン12への連絡油路13との関係を説明するための概念図であり、図3は、切欠5,7における異物の排出メカニズムを説明するための拡大図であり、図4は、上下の半割軸受2,3の内周面の構造を示す側面図(A)と断面図(B),(C)である。
【0008】
図1(A)に示すように、内燃機関のクランクシャフトを支持するすべり軸受1は、半割形状に形成された半割軸受2,3を上下2個組み合わせて円筒状となるように形成されている。この半割軸受2,3の軸受内面は、非焼付性など半割軸受2,3の軸受特性を満足するために、例えば、鋼裏金に銅系合金、アルミニウム合金、錫系合金の摺動材がライニングされており、必要に応じて錫系合金や合成樹脂系のオーバーレイが施されている。
【0009】
また、図1(B)に示すように、半割軸受2,3のうち上半割軸受2の軸受内面には、半割軸受2,3と半割軸受2,3に支持されるクランクシャフト10(図2,3参照)との間に潤滑油を供給するための油溝4が、片側端部から円周方向に沿って形成されている。この油溝4は、所定の範囲に亘って一定の深さ、若しくは深さを漸減するように形成される。また、油溝4には、外部から油の供給を受ける油穴4aが形成されている。
【0010】
ところで、本実施形態におけるすべり軸受1を構成する上半割軸受2及び下半割軸受3の上記した油溝4を除く内周面は、図4に示すように、ボーリング加工によって円周方向に沿って複数の溝が形成され、その溝のうち、円周方向両端部の溝の深さ(例えばb=5μm)が深い深溝8bとし、軸の回転時に荷重を主に受ける中央部分の溝の深さ(例えばa=1.5μm)が浅い浅溝8aとし、深溝8bは浅溝8aに比べて断面積を大きく形成したマルチボーリング加工が施されている。このマルチボーリング加工により、円周方向両端部の各深溝8bの突条部がクランクシャフト10との接触により早期になじみ摩耗し、この摩耗した部分がクラッシュリリーフの代わりとなって、クラッシュリリーフの機能を奏し、しかも油のリークを少なくし且つすべり軸受1への給油量を低減することができるものである。
【0011】
更に、本実施形態に係るすべり軸受1を構成する上下の半割軸受2,3の特徴的な構成は、図1に示すように、半割軸受2,3の端部内側にそれぞれ切欠5,7を形成したことである。この切欠5,7は、C0.15mm〜C0.4mmの面取面積と同じ面積となるように切欠形成されているものである。より詳しくは、切欠5,7は、半割軸受2,3の端部からの軸受内周面の円周方向への長さが1mm未満となるように形成することが好ましく、特には0.4mm以下が好ましい。なお、図示の実施形態では、半割軸受2,3の両端部内側に切欠5,7を形成したが、少なくとも上半割軸受2のクランクシャフト10の回転先方向の端部内側及び該端部内側と対面する下半割軸受3の端部内側の切欠5,7(図1の右側の切欠5,7)が形成されておればよい。また、切欠5,7の切取面積は、面取のように直角二等辺三角形状ではなく、直角三角形であってC0.15mm〜C0.4mmの面取面積と同じ面積となるように切欠形成されていれば、後述する異物排出効果を充分奏することを出願人は確認している。
【0012】
上記のように構成されるすべり軸受1において、クランクシャフト10を支持したときに、上下の半割軸受2,3のうち、最大荷重を受ける軸受は、下半割軸受3であり、上半割軸受2においては、図3に示すように、クランクシャフト10と上半割軸受2との間にクリアランス15がある。しかして、クランクシャフト10が回転しているときには、すべり軸受1における油のリークは、主に2つの半割軸受2,3の合わせ面の切欠5,7部で起こるため、その合せ目付近の油の流れが相対的に速くなり、このため、油穴4aを介して外部より供給される油と共に上半割軸受2に形成される油溝4に流れてきた異物(破線矢印で示している。)を速やかに切欠5,7からすべり軸受1の外部(図3の紙面に対して垂直方向)に排出することができる。この場合、切欠5又は7がC0.15mmの面取面積と同じ面積未満では、切欠部分における充分な異物の排出効果を得ることができないと共にすべり軸受1の背面温度が高くなってしまい、切欠5又は7がC0.4mmの面取面積と同じ面積を超える場合には、油のリーク量が多くなってしまうという欠点がある。このように、本実施形態に係るすべり軸受1においては、すべり軸受1を構成する上下の半割軸受2,3の端部内側に切欠5,7を形成することにより、すべり軸受1の内部に存在する異物を下半割軸受3に巻き込むことなくスムーズに排出することができる。
【0013】
そこで、本実施形態に係るすべり軸受1(マルチボーリング品)と、各半割軸受の内周面にボーリング加工により浅溝を形成し且つ円周方向の両端部にクラッシュリリーフを形成し且つ内周面の端部内側に面取りを行ったすべり軸受(ボーリング品)とを用いて、面圧40MPa、油圧0.1MPa、給油温度80℃の試験条件で試験機を用いて一定油圧下での軸受給油量の試験を行った。その試験結果を図5に示す。従来のボーリング品(図5中、黒丸折れ線グラフ)及び本発明に係る本実施形態に係るマルチボーリング品(図5中、白丸折れ線グラフ)において、ともに面取りをC0.2mmとした場合は、本実施形態に係るマルチボーリング品の各周速における軸受給油量が、従来のボーリング品の軸受給油量の約半分である。また、従来のボーリング品(図5中、黒四角折れ線グラフ)及び本発明に係る本実施形態に係るマルチボーリング品(図5中、白四角折れ線グラフ)おいて、ともに面取りをC0.4mmとした場合は、本実施形態に係るマルチボーリング品の各周速における軸受給油量が、従来のボーリング品の軸受給油量の約75%であり、面取をC0.2mmとした従来のボーリング品に比べても、高周速側(約10m/min以上)では軸受給油量が少なくなる。このように、本実施形態に係るすべり軸受1においては、従来のボーリング品に比べて、マルチボーリング加工の利点である軸受給油量を抑制するという効果は保持されており、しかも、本実施形態に係るすべり軸受1を試験後に調べた所、内部の異物の残存量が極めて少なく、異物が切欠5,7によって効率的に外部に排出されたことが確認された。なお、出願人は、面取をC0.15mmとしたマルチボーリング品についても、上記の試験機で試験したが、その試験結果は、軸受給油量として上記のC0.2mmとしたマルチボーリング品の軸受給油量とほぼ同じ給油量(僅かに小さな値を示した)の値を示したことを確認している(ただし、すべり軸受1の背面温度が若干高くなっていた)。
【0014】
上記したように、本実施形態に係るすべり軸受1は、マルチボーリング加工に基づく油のリークを防止すること及び軸受への給油量を低減することという利点を維持しつつ異物の排出を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】クランクシャフトを支持する2つの上半割軸受と下半割軸受からなるすべり軸受の側面図(A)と、上半割軸受2と下半割軸受3の平面図(B)である。
【図2】クランクシャフトの軸油路とコンロッドピンへの連絡油路との関係を説明するための概念図である。
【図3】切欠における異物の排出メカニズムを説明するための拡大図である。
【図4】上下の半割軸受の内周面の構造を示す側面図(A)と断面図(B),(C)である。
【図5】本実施形態に係るすべり軸受(マルチボーリング品)と、各半割軸受の内周面にボーリング加工により浅溝を形成し且つ円周方向の両端部にクラッシュリリーフを形成し且つ内周面の端部内側に面取りを行ったすべり軸受(ボーリング品)とを用いた試験結果を表すグラフ図である。
【符号の説明】
【0016】
1 すべり軸受
2 上半割軸受
3 下半割軸受
4 油溝
4a 油穴
5 切欠
7 切欠
8a 浅溝
8b 深溝
10 クランクシャフト
11 軸油路
12 コンロッドピン
13 連絡油路
15 クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトを支持するように半割形状に形成された半割軸受を上下2個組み合わせて円筒状とし且つ少なくとも上半割軸受の内周面に円周方向に沿った油溝が形成されたすべり軸受であって、前記半割軸受の内周面に円周方向に延びるボーリング加工による複数の溝を全域にわたって形成し、その複数の溝のうち前記円周方向の両端部の溝がクランクシャフトの回転時に荷重を主に受ける部分の溝に比べて断面積が大きくなるように形成されたすべり軸受において、
前記上半割軸受の前記クランクシャフトの回転先方向の端部内側及び該端部内側と対面する下半割軸受の端部内側にC0.15mm〜C0.4mmの面取面積と同じ面積となるような切欠を形成したことを特徴とするすべり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−82355(P2008−82355A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259855(P2006−259855)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】