説明

ねじ山検査装置および方法

【課題】本発明は、限界ゲージおよび検査対象物のねじ山が摩擦により損傷することを防止するねじ山検査装置および方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ねじ部品Sに限界ゲージ11を螺合して、当該限界11ゲージに作用する回転負荷トルクとねじ込み量とを検出し、これら検出値に基づいてねじ部品Sのねじ山成形の良否を判定するものであって、限界ゲージ11とねじ部品Sとを螺合する過程あるいは当該螺合を解く過程では、限界ゲージ11の往復移動を停止して回転のみを付与する。これにより、これらねじ山の接触面には、ねじ部品Sの自重だけが摩擦抵抗として作用し、つまりゲージツール11本体の自重は作用しない。そのため、当該摩擦抵抗が低減されるので、限界ゲージ11およびねじ部品Sにおいて、これらねじ山の摩耗を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ部品のねじ山成形の良否を検査する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじ部品のねじ山成形の良否を検査する方法としては、非特許文献1(日本工業規格B0251)に示すメートルねじ用限界ゲージ(以下、限界ゲージという)を用いた検査がある。この限界ゲージには2つの寸法差を有する、通りゲージおよび止まりゲージがあり、検査方法としては、まず通りゲージがねじ部品に無理なくねじ込まれ、次に止まりゲージがねじ込まれない場合、当該ねじ部品を合格と判定する。しかしながら、この検査方法では、通りゲージが無理なくねじ込まれるか否かの判定が作業者個々の感覚に委ねられるため、検査精度にばらつきが生じていた。
【0003】
そこで、上記検査を自動化したねじ山検査装置としては、特許文献1(特許第3659748号公報)に示すものがある。このねじ山検査装置は、駆動源の駆動に伴い回転するとともに、ねじ部品に螺合可能な限界ゲージと、これを往復移動操作する手段とを備えている。また、この限界ゲージをねじ部品にねじ込む過程において回転負荷トルクを検出するとともに、限界ゲージの総回転角度を検出するように構成されている。ここで、良品のねじ部品においては、限界ゲージをねじ部品にねじ込む過程では、限界ゲージがスムーズにねじ込まれるので、回転負荷トルクが上昇する現象(トルクアップ)は発生しない。そのため、最終的にねじ込みが完了したとき、限界ゲージの先端がねじ部品に接触することで、初めてトルクアップが発生する。一方、不良品のねじ部品においては、限界ゲージがスムーズにねじ込まれないので、ねじ込み完了前にトルクアップが発生する。このように、トルクアップが発生したときの限界ゲージの総回転角度が所定の範囲内か否かに応じて、ねじ部品のねじ山成形の良否を判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本工業規格B0251(メートルねじ用限界ゲージ)
【0005】
【特許文献1】特許第3659748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ねじ山検査装置においては、限界ゲージにはツールの自重が作用するので、限界ゲージのねじ山と、ねじ部品のねじ山との間で摩擦抵抗が上昇する。そのため、当該摩擦の影響により、回転負荷トルクが上昇して、ねじ込み完了前にトルクアップする場合があり、検査判定精度に問題があった。さらに、限界ゲージおよびねじ部品のねじ山の摩耗が早まり、これらの耐久性にも問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて創成されたものであり、検査対象物のねじ部品に螺合可能な限界ゲージと、回転駆動源の駆動により限界ゲージを回転させるゲージツールと、このゲージツールを往復移動操作する往復移動手段と、限界ゲージをねじ部品にねじ込む過程で当該限界ゲージに作用する回転負荷トルクとねじ込み量とを検出し、これら検出値に基づいてねじ部品のねじ山成形の良否を判定する制御手段とを備えるねじ山検査装置であって、前記限界ゲージとねじ部品とが螺合する過程あるいは当該螺合を解く過程では、当該限界ゲージは、往復移動を停止して回転のみすることを特徴とする。
【0008】
また、前記ねじ部品が、その回転を規制され、かつ螺入によって進行する方向への移動を可能とした固定部材に固定されていることを特徴とする。
【0009】
また、前記限界ゲージが、ねじ部品と嵌合する方向にばねで付勢され、螺合開始時において所定の高さだけ嵌合が完了するまでは、当該ばねの付勢力がねじ部品に対して作用するように調整されていることを特徴とする。
【0010】
また、検査対象物のねじ部品に限界ゲージを螺合して、当該限界ゲージに作用する回転負荷トルクとねじ込み量とを検出し、これら検出値に基づいてねじ部品のねじ山成形の良否を判定するねじ山検査方法であって、前記限界ゲージとねじ部品とを螺合する過程あるいは当該螺合を解く過程では、当該限界ゲージの往復移動を停止させ、当該限界ゲージには回転のみを付与することを特徴とするねじ山検査方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ゲージツールの往復移動を停止した状態で限界ゲージを回転させて、ねじ部品を限界ゲージに螺合するように構成されている。これにより、これらねじ山の接触面には、ねじ部品の自重だけが摩擦抵抗として作用し、つまりゲージツールの自重は作用しない。そのため、当該摩擦抵抗が低減されるので、限界ゲージおよびねじ部品において、そのねじ山の摩耗を低減することができる。また、正確な回転負荷トルクの検出が可能となり、この回転負荷トルクに基づく合否判定においてはその判定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のねじ山検査装置の正面視一部切欠断面図である。
【図2】本発明のねじ山検査装置に用いる、ワーク固定部材の平面図である。
【図3】本発明のねじ山検査装置の動作説明図であり、ゲージツールの待機状態を示す図である。
【図4】本発明のねじ山検査装置の動作説明図であり、ゲージツールの下降状態を示す図である。
【図5】本発明のねじ山検査装置の動作説明図であり、限界ゲージがねじ部品に当接した状態を示す図である。
【図6】本発明のねじ山検査装置の動作説明図であり、限界ゲージの螺合開始を示す図である。
【図7】本発明のねじ山検査装置の動作説明図であり、限界ゲージの螺合完了を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1において、1はねじ山検査装置であり、検査対象物の一例であるねじ部品Sに螺合可能な限界ゲージ11と、この限界ゲージ11を先端に備え、これを回転させるゲージツール10と、このゲージツール10を昇降させることにより往復移動操作する往復移動手段20と、これらゲージツール10および往復移動手段20の駆動制御、並びにねじ部品Sのねじ山成形の良否判定を行う制御手段30とから構成されている。
【0015】
前記ゲージツール10は、回転駆動用モータ12の駆動軸12aに連結されて回転する入力軸13と、この入力軸13にカップリング14を介して連結されて回転するシリンダシャフト17と、このシリンダシャフト17を保持するフローティング機構16と、前記シリンダシャフト17の下方に連結される前記限界ゲージ11とから構成されている。
【0016】
前記フローティング機構16は、エアの吸排によってシリンダシャフト17の保持具合を調整可能に構成されており、フローティング機構16内にエアが供給された場合(ロック時)にはシリンダシャフト17が拘持される。一方、エアが排出された場合(ロック解除時)には、当該シリンダシャフト17が延びる方向(以下、鉛直方向という)に対して直交する方向(以下、水平方向という)に所定量移動可能に構成されており、従って当該シリンダシャフト17に連結される限界ゲージ11も水平方向に所定量移動可能に構成されている。この構成により、万一、軸芯がずれた状態で限界ゲージ11の先端がねじ部品Sとの螺合位置まで下降しても、限界ゲージ11をねじ部品Sの中心に整合させることができる。
【0017】
前記往復移動手段20は、エアシリンダ21と、このエアシリンダ21のシリンダロッド21aに連結される連結部材22とから構成されている。この連結部材22には前記ゲージツール10が取付けられ、エアシリンダ21の作動により、当該ゲージツール10が昇降するように構成されている。
【0018】
前記限界ゲージ11は、図3に示すように、シリンダシャフト17に挿入されるピストンシャフト11aと、このピストンシャフト11aの先端に取付けられてねじ部品Sに螺合可能なゲージ部11bとから構成されている。また、シリンダシャフト17にはその周面の一部を切り欠いて切欠部17aが形成される一方、ピストンシャフト11aには当該切欠部17aに嵌合するピン18が取付けられている。この構成により、ピストンシャフト11aがシリンダシャフト17内を往復移動するとき、当該ピストンシャフト11aの移動範囲が切欠部17aの長さに制限される。さらに、ピストンシャフト11にはばね19が挿入されており、ピストンシャフト11aがシリンダシャフト17内に挿入する方向へ移動すると、当該ばね19が伸縮する。このばね19により、限界ゲージ11はねじ部品Sと嵌合する方向に付勢される。
【0019】
また、検査対象物の一例であるねじ部品Sは、ねじ部S1と、六角形の頭部S2とを備えており、図1および図2に示すように、その頭部S2が固定部材40で固定される。この固定部材40は、ねじ部品Sの頭部S2の側面に対して所定の隙間を設けて固定するように構成されている。そのため、ねじ部品Sにおいては、その回転が規制される一方、螺入によって進行する方向であって、つまり鉛直方向への移動は可能に構成されている。
【0020】
前記制御手段30は、ゲージツール10の回転駆動用モータ12に正逆転駆動指令、並びに往復移動手段20のエアシリンダ21に昇降指令を発し、当該ゲージツール10を往復移動操作するように構成されている。また、回転駆動用モータ12の駆動軸12aの総回転角度を検出するように構成されている。そのため、限界ゲージ11の総回転角度も検出可能であり、従って、限界ゲージ11に対するねじ部品Sのねじ込み量を検出可能に構成されている。さらに、回転駆動用モータ12の回転負荷トルクが基準値を超えたとき(トルクアップ)、当該回転駆動用モータ12に停止指令を発するように構成されており、限界ゲージ11の総回転角度が所定の角度に達するまでに、トルクアップしたか否かによって良否を判定するように構成されている。
【0021】
以下、図3ないし図7に基づいて本発明のねじ山検査装置1の動作を説明する。
【0022】
まず、往復移動手段20を作動させて、ゲージツール10を図3に示す待機位置から、図4に示すように、限界ゲージ11がねじ部品Sに当接する位置まで下降させる。さらにこの位置から、ゲージツール10を下降させると、図5に示すように、限界ゲージ11がねじ部品Sに押圧されるので、ばね19が縮む。このばね19の縮み量が所定の値に到達するとゲージツール10の下降は停止するが、このとき、限界ゲージ11はねじ部品Sを押圧する方向にばね19により付勢される。なお、ゲージツール10の下降停止位置は、ばね19の縮み量がねじ部S1の1リード分程度に設定されるのが望ましい。
【0023】
続いて、図6に示すように、ゲージツール10の昇降を停止した状態で、ゲージツール10の回転駆動用モータ12を正転駆動させて限界ゲージ11を正回転させると、限界ゲージ11とねじ部品Sとが、まず1リード分、嵌合する。このように、限界ゲージ11がばね19に付勢されてねじ部品Sを押圧しているので、ゲージツール10の昇降が停止した状態にもかかわらず、限界ゲージ11とねじ部品Sとを嵌合させることができる。そして、ゲージツール10の昇降を停止した状態で、さらに限界ゲージ11は回転を継続する。すると、ねじ部品Sにおいては、固定部材40によって回転が規制されているので、限界ゲージ11に対して空転することなく限界ゲージ11にねじ込まれて上昇する。
【0024】
最後に、図7に示すように、ねじ部品Sは螺入により上昇を続け、当該ねじ部品Sが着座する直前で、限界ゲージ11はその回転を停止する。ここで、ねじ込み開始から着座直前までの総回転角度が、前述した限界ゲージ11の総回転角度の所定値である。このように、ねじ込み開始から所定の総回転角度に到達時(つまり、着座直前)において、良品のねじ部品Sでは、トルクアップが発生しない。一方、不良品のねじ部品Sにおいては、所定の総回転角度到達前に、トルクアップが発生する。つまり、トルクアップ発生時における限界ゲージ11の回転角度に基づいて良否判定が行われる。この良否判定が行われた後、ゲージツール10の昇降を停止した状態で、回転駆動用モータ12を逆転駆動させて限界ゲージ11を逆転させると、螺合が解かれる。そして、往復移動手段20の駆動により、ゲージツール10を上昇させて終了する。
【0025】
上記ねじ山検査装置1によれば、限界ゲージ11およびねじ部品Sのねじ山の接触面には、ねじ部品Sの自重だけが摩擦抵抗として作用し、つまりゲージツール10本体の自重は作用しない。そのため、当該摩擦抵抗が低減されるので、限界ゲージ11およびねじ部品Sにおいて、そのねじ山の摩耗を低減することができる。そればかりか、摩擦抵抗の低減作用により、回転負荷トルクの検出精度が向上するため、良否の判定精度も向上する。
【符号の説明】
【0026】
1 ねじ山検査装置
10 ゲージツール
11 限界ゲージ
11a ピストンシャフト
11b ゲージ部
12 回転駆動用モータ
12a 駆動軸
13 入力軸
14 カップリング
16 フローティング機構
17 シリンダシャフト
17a 切欠部
18 ピン
19 ばね
20 往復移動手段
21 エアシリンダ
21a シリンダロッド
22 連結部材
30 制御手段
40 固定部材
S ねじ部品
S1 ねじ部
S2 頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物のねじ部品に螺合可能な限界ゲージと、回転駆動源の駆動により限界ゲージを回転させるゲージツールと、このゲージツールを往復移動操作する往復移動手段と、限界ゲージをねじ部品にねじ込む過程で当該限界ゲージに作用する回転負荷トルクとねじ込み量とを検出し、これら検出値に基づいてねじ部品のねじ山成形の良否を判定する制御手段とを備えるねじ山検査装置であって、
前記限界ゲージとねじ部品とが螺合する過程あるいは当該螺合を解く過程では、当該限界ゲージは、往復移動を停止して回転のみすることを特徴とするねじ山検査装置。
【請求項2】
前記ねじ部品が、その回転を規制され、かつ螺入によって進行する方向への移動を可能とした固定部材に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のねじ山検査装置。
【請求項3】
前記限界ゲージが、ねじ部品と嵌合する方向にばねで付勢され、螺合開始から所定のリード分だけ嵌合が完了するまでは、当該ばねの付勢力がねじ部品に対して作用するように調整されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のねじ山検査装置。
【請求項4】
検査対象物のねじ部品に限界ゲージを螺合して、当該限界ゲージに作用する回転負荷トルクとねじ込み量とを検出し、これら検出値に基づいてねじ部品のねじ山成形の良否を判定するねじ山検査方法であって、
前記限界ゲージとねじ部品とを螺合する過程あるいは当該螺合を解く過程では、当該限界ゲージの往復移動を停止させ、当該限界ゲージには回転のみを付与することを特徴とするねじ山検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−33540(P2011−33540A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181757(P2009−181757)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)
【Fターム(参考)】