説明

ねじ軸装置のナット構造

【課題】バネを用いることなく所定の予圧がなし得るねじ軸装置のナット構造を提供する。
【解決手段】第1ナット部材10と第2ナット部材20とを備えるねじ軸装置のナット構造Kであって、前記第2ナット部材20が駆動部30を備え、前記駆動部30が、第2ナット部材20の本体22に形成された着磁領域31と、前記着磁領域31の外周に配設された駆動磁界生成体32とを備え、第2ナット部材20の螺進退がステップモータの原理を応用してなされるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はねじ軸装置のナット構造に関する。さらに詳しくは、ステップモータの動作原理を応用してなるねじ軸装置のナット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ねじ軸に直接あるいはボールを介してナットを螺合させた滑りねじ軸装置やボールねじ軸装置が、回転運動を直線運動やその逆に直線運動を回転運動に変換できるところから、リフト機構や産業用ロボットの走行機構などに用いられている。
【0003】
しかるに、この種の滑りねじ軸装置やボールねじ軸装置において、その回転運動と直線運動との間の変換を精度よくなすためには、ねじ軸とナットとの螺合部におけるバックラッシュを取り除く必要がある。
【0004】
このバックラッシュを除去する手法として、螺合部に所定の予圧を付与することがなされている。
【0005】
例えば、回転駆動用のナット回転用部材と、このナット回転用部材に予圧を付与する予圧付与部材とからナットを構成し、これら一対のナット部材の間には凹部とこの凹部に嵌合して係止する凸部とからなり、一方のナット部材から他方のナット部材に回転駆動力を伝達する嵌合部を形成するとともに、これら一対のナット部材の間に押圧スプリングを介装し、この押圧スプリングで各ナット部材を離れる方向に押圧し、これによってねじ軸とナットとの螺合部に予圧を付与するようにしたものが知られている。
【0006】
しかしながら、前記手法によるものは、ねじ軸とナット(一対のナット部材)との間に付与される予圧が、これら一対のナット部材間の隙間寸法と押圧スプリングの押圧力とによって一義的に決まってしまい、この予圧を調整することができず、用途に応じて要求される予圧に対応できない、という問題がある。
【0007】
かかる従来のナット構造の問題を解決すべく、特許文献1には、図3に示すように、一対のナット部材101には、いずれか一方のナット部材102側にそのナット円周方向に形成された多数の係止部105からなる係止手段104を形成するとともに、他方のナット部材102側には前記係止部105に噛み合う少なくとも一つの係合部107からなる係合手段106を形成し、これら係止部105と係合部107とをバネ部材108により所定の加圧下に噛み合わせるとともに、一方のナット部材101に対して他方のナット部材102を正方向に回転させた際には前記係止部105と係合部105とが係止して回転駆動力を伝達し、また、一方のナット部材101に対して他方のナット部材102を逆方向に回転させた際には係止部105と係合部107との噛み合い位置が移動して前記バネ部材108による付勢力が変化するようにしてなる、ねじ軸装置のナット構造100が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に係るナット構造100においてはバネ部材108を用いているところから、バネ部材108の経年変化により付勢力が変化して位置ずれが生ずるという問題がある。
【特許文献1】特開平10−9362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑みなされたものであって、バネを用いることなく所定の予圧がなし得るねじ軸装置のナット構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のねじ軸装置のナット構造は、第1ナット部材と第2ナット部材とを備えるねじ軸装置のナット構造であって、前記第2ナット部材が、前記第1ナット部材に螺進退可能に螺合され、前記第2ナット部材の螺進退量が、ステップモータの駆動原理を応用して調整されるようにされてなることを特徴とする。
【0011】
本発明のねじ軸装置のナット構造は、具体的には、第2ナット部材が駆動部を備え、前記駆動部が、第2ナット部材の本体に形成された着磁領域と、前記着磁領域の外周に配設された駆動磁界生成体とを備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第2ナット部材の螺進退量を調整することにより、ねじ軸とナット部材との螺合部の予圧を調整するようにしているので、経年変化による位置決め精度の劣化を生じないという優れた効果が得られる。
【0013】
また、ナット部材の移動時にねじ軸とナット部材との螺合部の予圧を解除できるので、ねじ軸とナット部材との磨耗による損傷を低減できるという優れた効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施形態に基づいて説明するが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
図1に、本発明の一実施形態に係るねじ軸装置のナット構造(以下、単にナット構造という)を概略図で示す。
【0016】
ナット構造Kは、図1に示すように、同一のねじ軸Sに螺合された第1ナット部材10と第2ナット部材20とを備えてなるものとされる。
【0017】
第1ナット部材10は、図1に示すように、フランジ付ナットとされ、第2ナット部材20と面する面に第2ナット部材20との係合部11が突出させて形成されている。なお、フランジ部12は、図示しない移動テーブルなどの被駆動体に設けられた相フランジと係合される。
【0018】
この係合部11には、第2ナット部材20の係合部21が嵌合される嵌合凹部13が形成され、その内側面にはねじ軸Sより大きいねじ径とれさた雌めじが形成されている。つまり、嵌合凹部13は雌めじ体とされている。
【0019】
第2ナット部材20は、図1に示すように、フランジ無しナットとされ、第1ナット部材10と面する面に第1ナット部材10との係合部21が突出させて形成されるとともに、後部の本体22に駆動部30が設けられている。
【0020】
係合部21には、嵌合凹部13に形成された雌めじと螺合する雄ねじが形成されている。
【0021】
駆動部30は、ステップモータの駆動原理を応用して第2ナット部材20を第1ナット部材10に対して螺進退させ、ねじ軸SとナットNとの螺合部に所定の予圧を付与するものとされている。
【0022】
駆動部30は、図2に示すように、ステップモータのロータと同様に機能する、第2ナット部材20の本体22に形成された着磁領域31と、ステップモータのステーターと同様に機能する、着磁領域31の外周に配設され駆動磁界を生成する磁界生成部32aを有する駆動磁界生成体32とを備えてなるものとされる。なお、図2に示す例においては、磁極数は4とされているが、磁極数は適宜とすることができる。
【0023】
駆動磁界生成体32は、第1ナット部材10に保持手段33を介してねじ軸方向にスライド可能に支持されている。なお、第2ナット部材20の螺進退量がわずかであると想定されるところから、駆動磁界生成体32は保持手段33にスライド不自在に保持されてもよい。
【0024】
駆動部30がかかる構成とされていることにより、駆動磁界生成体32により生成される駆動磁界を適宜調整し、例えば、第2ナット部材20を時計回り方向に回転させることにより、ねじ軸SとナットNとの螺合部に所定の予圧を与えることができる一方、第2ナット部材20を反時計回り方向に回転させることにより、ねじ軸SとナットNとの螺合部に付与されている予圧を解除することができる。
【0025】
なお、所定の予圧を与えるための回転量は、あらかじめ実験などにより求めておくものとされる。
【0026】
このように、本実施形態のナット構造Kにおいては、第2ナット部材20を第1ナット部材10に螺合し、その螺進退量を適宜調整することにより、螺合部に予圧を付与したりその予圧を解除したりしているので、位置決めを高精度になし得る。また、バネを用いていないので、バネの経年変化により劣化に起因する位置決め精度の劣化も生じない。さらに、ナット部材10,20の移動時には螺合部に付与されている予圧を解除できるので、ナット部材10,20およびねじ軸Sの磨耗による損傷を軽減できる。また、ナット部材10,20の移動も軽負荷の状態でなし得る。
【0027】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではなく、種々改変が可能である。
【0028】
例えば、本実施形態では、第1ナット部材10に嵌合凹部13を形成しその内周面に雌ねじを形成する一方、第2ナット部材20の係合部21に雄ねじを形成して両者を螺合するようにしているが、その逆としてもよい。すなわち、第2ナット部材20に係合部21に嵌合凹部を形成しその内周面に雌ねじを形成する一方、第1ナット部材10の係合部11に雄ねじを形成して両者を螺合するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、ねじ軸装置のナット構造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るナット構造の概略図である。
【図2】同ナット構造の駆動部の概略図である。
【図3】特許文献1の提案に係るナット構造の概略図である。
【符号の説明】
【0031】
10 第1ナット部材
11 係合部
12 フランジ
13 嵌合凹部
20 第2ナット部材
21 係合部
22 本体
30 駆動部
31 着磁領域
32 駆動磁界生成体
32a 磁界生成部
33 保持手段
K ナット構造
S ねじ軸
N ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ナット部材と第2ナット部材とを備えるねじ軸装置のナット構造であって、
前記第2ナット部材が、前記第1ナット部材に螺進退可能に螺合され、
前記第2ナット部材の螺進退量が、ステップモータの駆動原理を応用して調整されるようにされてなる
ことを特徴とするねじ軸装置のナット構造。
【請求項2】
第2ナット部材が駆動部を備え、前記駆動部が、第2ナット部材の本体に形成された着磁領域と、前記着磁領域の外周に配設された駆動磁界生成体とを備えてなることを特徴とする請求項1記載のねじ軸装置のナット構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−168053(P2009−168053A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3858(P2008−3858)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(395018251)マッスル株式会社 (15)
【Fターム(参考)】