説明

はんだ付け組成物および電子部品

【課題】電子部品の内部に用いられてきた高温はんだ合金は、Pb主成分のものであった。しかしながらPb入りの高温はんだ合金は、鉛公害の問題があるため鉛フリーの高温はんだ合金が要望されるようになってきている。従来の鉛フリー高温はんだ合金は、耐熱性、脆性、或いは固相線温度と液相線温度間の凝固範囲に問題があった。
【解決手段】はんだ付け部の組成が、Sbが10〜40質量%、Cuが0.5〜10質量%、残部Snからなるはんだ組成物によって、耐熱性、脆性、或いは固相線温度と液相線温度間の凝固範囲の問題が解決される。さらに機械的強度を向上させるために、Co、Fe、Mo、Cr、Ag、Biの元素のいずれか1種または2種以上を添加し、酸化抑制元素としてGe、Gaのいずれか1種以上を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含有しない高温のはんだ合金、特に電子部品内部のはんだ付けに使用するに適した高温はんだ合金および該はんだ合金を用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器類のプリント基板に実装される電子部品には、その内部をはんだ合金ではんだ付けしてあるものがある。この電子部品をプリント基板に実装する際にもはんだ合金が用いられるため、電子部品内部のはんだ合金は、実装に用いるはんだ合金よりも融点が高く、しかも耐熱性に優れた高温はんだ合金である必要がある。つまりプリント基板にはんだ付けする際に、高温はんだ合金は、電子部品内部のはんだ付け部を確実に保持していなければならないものである。ここで高温はんだ合金とは、固相線温度が183℃以上である合金をいう。
【0003】
従来の高温はんだ合金は、Pb−5Sn、Pb−10Sn等のPb主成分とするPb−Sn系であり、実装用はんだ合金はSn−Pb共晶(63Sn−Pb)近傍の融点の低いはんだ合金が使用されていた。
【0004】
ところで近年、一般にAV機器やコンピューター等の電子機器類は、故障したり機能が低下したりした場合、修理や機能アップ等をせずに廃棄処分されていた。特にプリント基板は、樹脂に銅箔を接着したものであり、しかも該銅箔にははんだが金属的に付着していて、それらを分離することができないため、焼却処分ができず、廃棄は埋め立て処分となっていた。この埋め立て処分されたプリント基板に酸度の高い酸性雨が接触すると、はんだ中のPbが溶出し、それが地下水に混入する。そしてPb成分を含んだ地下水を人間や家畜が飲用すると長年月の間にPb成分が体内に蓄積されて鉛中毒を起こすことが懸念されている。そこで電子機器業界からはPbの含まない所謂鉛フリーはんだが要求されてきている。
【0005】
現状では、鉛フリーはんだ合金は、Snを主成分とし、Cu、Ag、Bi、Zn、In、Sb等の金属元素を添加したものが主流であり、Sn−0.7Cu(融点:227℃)、Sn−3.5Ag(融点:221℃)、Sn−58Bi(融点:139℃)、Sn−9Zn(融点:199℃)等の二元合金の他、用途に応じて、これらに金属元素を適宜添加して三元以上にしたものがある。
【0006】
鉛フリーはんだ合金としては、電子部品をプリント基板にはんだ付けする際に使用することを主としているため、いずれも融点が従来のSn−Pb共晶合金に近いことが望ましいものである。このSn−Pb共晶はんだの融点に近い鉛フリーはんだの組成としてはSn−9Zn合金があるが、該鉛フリーはんだ合金は、はんだ付け時の濡れ性が著しく悪い。
さらにZnは非常に酸化やすい成分であるため、特に大気中でのはんだ付け作業を考慮すると、はんだ付け作業に困難をきたし、実用性に乏しい。またSn−58Bi合金はSn−Pb共晶合金よりも低い融点であるが、Biが多いため、脆く、しかも融点が低すぎて耐熱性がないことから接合部の信頼性に問題がある。従って、現在、電子部品の実装に多く使用される鉛フリーはんだは、Sn−Pb共晶はんだよりも融点が少し高いSn−3.5Ag(融点221℃)、Sn−0.7Cu(融点:227℃)、Sn−3Ag−0.5Cu(融点:217℃)等である。
【0007】
また、コイルや半導体などの機能性素子を有する電子部品の内部には、高温はんだ合金が使用されている。例えば、巻き線を用いたコイルを有する部品では、磁性材料等の支持体に導体線が巻かれ、導体線の端部は、外部接続端子に高温はんだ合金を用いて接続される。そして、外部接続端子と基板をはんだ付けすることによりコイル部品を基板に接続、固定される。従って、このような電子部品の端子と基板とをはんだ付けする際の温度に対して、接合を保つ必要がある。
このような電子部品の内部に使用される高温はんだ合金についても鉛フリー化が要求されてきている。従来より高温鉛フリーはんだ合金として、Auを主成分としてSnを20質量%添加したAu−20Sn高温鉛フリーはんだ合金や、Snを主成分として、これにSbを25〜44重量%添加したSn−Sb高温鉛フリーはんだ(特許文献1)がある。そして、Sbを11.0〜20.0質量%、Pを0.01〜0.2質量%および残部がSnおよび不可避不純物からなるダイボンディング用はんだ材料が開示されている。さらに、Sbを11.0〜20.0質量%、Pを0.01〜0.2質量%、Cu及びNiの少なくとも1種を0.005〜5.0質量%および残部がSnおよび不可避不純物からなるダイボンディング用はんだ材料が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−151591号公報
【特許文献2】特開2001−284792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、Au−20Sn高温鉛フリーはんだ合金は、高価なAuを主成分としているため、低価格な電子部品や電子機器のはんだ付けに用いるには経済的に好ましいものではない。また、従来のSn−Sb高温鉛フリーはんだ合金は、Sbを10質量%以上と大量に添加することで良好な耐熱性を得ることができるが、このようにSbが大量に添加されていたため非常に脆く、高所から落下させただけで容易に破壊してしまうものであった。さらに、このSn−Sb高温鉛フリーはんだ合金は、固相線温度と液相線温度との間が大きく開いているため、はんだ付け後、溶融はんだが固化するまでに時間がかかり、その間に振動や衝撃がはんだ付け部に加わると、はんだ付け部にヒビ割れやクラックが入ることがあった。本発明は、安価であり、しかも従来のSn−Sb高温鉛フリーはんだ合金よりも脆さがないばかりでなく、固相線温度と液相線温度との間が比較的狭いという高温鉛フリーはんだ合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題は以下の(1)乃至(9)のいずれかの本発明により解決される。
(1) Sbが10〜40質量%、Cuが0.5〜10質量%、残部Snからなることを特徴とする高温鉛フリーはんだ合金。
(2) (1)記載の高温鉛フリーはんだ合金に、さらに機械的強度改善元素を含有する高温鉛フリーはんだ合金。
(3) 前記機械的強度改善元素として、Ni、Co、Fe、Mo、Cr、Mnの元素のいずれか1種または2種以上を合計で0.5質量%以下含有することを特徴とする(2)に記載の高温鉛フリーはんだ合金。
(4) 前記機械的強度改善元素は、Ag、Biのいずれか1種以上を合計で1質量%以下含有することを特徴とする(2)または(3)に記載の高温鉛フリーはんだ合金。
(5) (1)乃至(4)のいずれか一項に記載の高温鉛フリーはんだ合金に、さらに酸化抑制元素を含有することを特徴とする高温鉛フリーはんだ合金。
(6) 前記酸化抑制元素として、P、Ge、Gaのいずれか1種または2種以上を合計で1質量%以下含有することを特徴とする(5)に記載の鉛フリーはんだ合金。
(7) 機能性素子と外部接続端子とが高温はんだ合金を用いたはんだ付けにより接合された電子部品であって、前記高温はんだ合金は、Sbが10〜40質量%、Cuが0.5〜10質量%、残部Snからなる組成を有することを特徴とする電子部品。
(8) 前記高温はんだ合金は、機械的強度改善元素および/または酸化抑制元素を含有することを特徴とする(7)に記載の電子部品。
(9) 前記機能性素子は、コイル素子である(7)または(8)に記載の電子部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のはんだ合金は、固相線温度が240℃近辺であるにもかかわらず、260℃でほとんど凝固しているため、本発明のはんだ合金で電子部品内部のはんだ付けを行った場合、二度目に行う電子部品のはんだ付け温度が260℃以下であるならば、電子部品内部のはんだ付け部を確実に保持できるという信頼性に優れたはんだ付け部が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】示差走査線熱量分析装置により測定して得られる本発明合金系の曲線モデル(DSC曲線)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
一般に使われるSn主成分の鉛フリーはんだ合金は、液相線温度が210〜220℃であり、はんだ付け温度は240〜260℃となる。従って、これらの鉛フリーはんだ合金を電子部品とプリント基板のはんだ付けに使用する場合、該はんだ合金でのはんだ付け温度で溶融しない高温はんだ合金としては、固相線温度が260℃以上であることが好ましいが、Sn主成分として、これに常用の金属元素を添加した鉛フリーはんだ合金では固相線温度を260℃以上にすることはできない。しかしながら、例え固相線温度が260℃以下であっても、260℃においてはんだ付け部のはんだがほとんど凝固していれば、接合状態を維持でき使用可能である。つまり260℃で接合状態を維持できれば、次のSn主成分の鉛フリーはんだ合金で電子部品をはんだ付けするときに耐熱性を有することになる。
【0014】
本発明者らは、SnにSbを大量に添加した合金は、固相線温度が240近辺であるが、Sn主成分の実装用鉛フリーはんだ合金のはんだ付け温度である260℃では、ほとんど凝固状態となっていること、そしてSn−Sb合金にCuを添加するとSn−Sb合金の脆性を改善でき、しかも固相線温度と液相線温度間を狭められること等を見い出し本発明を完成させた。
【0015】
本発明の高温鉛フリー合金は、Sbが10〜40質量%、Cuが0.5〜10質量%、残部Snからなることを特徴とする高温鉛フリーはんだ合金である。
【0016】
Sn−Sb高温鉛フリーはんだ合金において、Sbが10質量%よりも少ないと必要とする耐熱性が得られず、しかるに40質量%を超えるとはんだ付け性が悪くなってしまう。
【0017】
CuはSn−Sb合金の脆性を改善し、液相線温度を下げる効果がある。またCuはDSC曲線において、合金の吸収熱量が高温領域で増加させる効果も有している。即ちSn−Sb系合金にCuを添加すると、はんだの溶融にはより多くの熱量が必要となって、さらに耐熱性が向上することになる。Sn−Sb合金におけるCuの添加量が、0.5質量%よりも少ないと液相線温度の低下、脆性改善、そして耐熱性向上等の効果が得られず、しかるにCuの添加量が10質量%よりも多くなると液相線温度が400℃以上となり、はんだ付け作業に影響が生じてしまう。
【0018】
図1は示差熱走査熱量分析装置により得られたSn−30Sb−3Cu合金の曲線モデル(DSC曲線)である。ベースライン(点線)と、このDSC曲線で囲まれる面積が、はんだが完全溶融に必要とする熱量である。合金の耐熱性が良好であるためには、固体成分が液体成分の量を上回るか、若しくは液体成分の流動を抑制することが必要である。このため260℃(A)を境界線とした場合、この熱分析ではんだの溶融時の単位重量あたりの吸収熱量において、260℃以上の熱量(図中Aより右方)が全体の熱量の50%以上となるような曲線を描く合金であれば、その耐熱性の効果が期待される。また液相線温度は、作業性を考慮すると400℃以下でなければならない。図1のSn−30Sb−3Cuの示差熱分析では、260℃以上の熱量が全体の熱量の80%以上であり、260℃以上で充分耐熱性を有していることが分かる。
【0019】
本発明の高温鉛フリー合金は、機械的強度改善元素を添加することもできる。このような機械的強度改善元素を添加することで、機械的強度が要求される部位をはんだ付けするような場合であっても十分な信頼性を得ることができる。このような機械的強度改善元素は、Ag、Bi、Ni、Co、Fe、Mo、Cr、Mn等の金属のいずれか1種または2種以上が好ましい。これらいずれの元素もSnに固溶、或いは金属間化合物を形成して機械的強度を向上させる。しかし、Ni、Co、Fe、Mo、Cr、Mnは、その添加量が多いと、はんだの流動性を阻害する。このため、Ni、Co、Fe、Mo、Cr、Mnについては、その合計量がはんだ全量の0.5質量%以下にすることが好ましい。Ag、Biは、その添加量が多いと固相線の低下をもたらす。Ag、Biについては、その合計量がはんだ全量の1質量%以下にすることが好ましい。
【0020】
そして、本発明の高温鉛フリーはんだ合金は、酸化抑制元素を含有することもできる。酸化抑制元素を添加することで電子部品の製造時にはんだ合金の酸化を抑制することができる。特に液相線温度が350℃以上のはんだ合金は、はんだ付け作業の際に酸化することがあり、酸化抑制元素を添加することが好ましい。
酸化抑制元素は、P、Ga、Geのいずれか1種または2種以上が好ましい。P、Ga、Geが多いとはんだ付け性を阻害する。このため、P、Ga、Geは、その添加量がはんだ全量に対して0.5質量%以下であることが好ましい。
機械的強度改善元素および酸化抑制元素は、用途により添加しなくても良いが、必要に応じてどちらか一方のみ、或いは両方とも添加すれば良い。
【0021】
また、本発明の高温鉛フリーはんだ合金は、コイルや半導体などの機能性素子を有する電子部品に用いることができる。すなわち、このような電子部品の内部の、機能性素子と外部接続端子とを接合する高温はんだ合金として好適に用いることができる。本発明の電子部品は、機能性素子と外部接続端子とが高温はんだ合金と用いたはんだ付けにより接合された電子部品であって、前記高温はんだ合金は、Sbが10〜40質量%、Cuが0.5〜10質量%、残部Snからなる組成を有することを特徴とする。
このような組成の高温鉛フリーはんだ合金により、機能性素子と外部接続端子とをはんだ付けで接合することで、外部接合端子と基板とを一般的に使われるSn主成分の鉛フリーはんだを用いて、240〜260℃の温度ではんだ付けをした場合であっても機能性素子と外部接続端子との接合状態を維持することができる。すなわち、このような組成の高温はんだ合金を用いることで、電子部品を基板にはんだ付けするときに十分な耐熱性を得ることができる。
【0022】
また、本発明の電子部品は、内部に用いられる高温はんだ合金として、機械的強度改善元素を含有しても良い。このような機械的強度改善元素を添加することで、機械的強度が要求される部位をはんだ付けするような場合であっても十分な信頼性を得ることができる。
また、本発明の電子部品は、内部に用いられる高温はんだ合金として、酸化抑制元素を含有しても良い。このような酸化抑制元素を含有することで電子部品の製造時にはんだ合金の酸化を抑制することができる。
【0023】
本発明の電子部品は、例えばコイルを機能性素子としたコイル部品である。また、機能性部品を半導体素子とした電子部品としても良い。
【実施例】
【0024】
表1は本発明の実施例および比較例である。
【表1】

【0025】
表1におけるNo1〜16は、固相線温度が240℃近辺であるが、260℃以上での吸収熱量が50%以上となっている。また引張試験における破断伸びも0.3%以上であり、十分にはんだとして使用できるものである。一方、比較例は260℃以上での吸収熱量が50%より少なかったり、260℃以下で完全に液状化したりする等、260℃以上において耐熱性に劣っていた。
次に本実施例のNo.1〜16の高温鉛フリーはんだ合金を用いて、内部のコイル素子と外部接続端子とを接合したコイル部品を各々100個作製し、基板に対する実装実験を行った。コイル部品は、外部接続端子と基板とをSn−0.7Cu鉛フリーはんだを用いて、260℃の温度ではんだ付け接合した。基板に実装後、コイル部品の導通を確認したが、いずれも良好な導通を維持し、導通不良を生じることはなかった。すなわち、コイルと外部接続端子との接合が良好な耐熱性を有していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだ付け部のはんだ組成が、
Sbが10〜40質量%、Cuが0.5〜10質量%、残部Snからなることを特徴とするはんだ付け組成物。
【請求項2】
前記はんだ付け部のはんだ組成に、さらにNi、Fe、Mo、Cr、Mnの元素のいずれか1種または2種以上を合計で0.5質量%以下添加されたことを特徴とする請求項1記載のはんだ付け組成物。
【請求項3】
前記はんだ付け部のはんだ組成に、さらにGe、Gaのいずれか1種以上を合計で1質量%以下添加されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のはんだ付け組成物。
【請求項4】
機能性素子と外部接続端子とがはんだ付け組成物によって接合された電子部品であって、
前記はんだ付け組成物が、
Sbが10〜40質量%、Cuが0.5〜10質量%、残部Snからなる組成を有することを特徴とする電子部品。
【請求項5】
前記はんだ付け組成物に、さらにNi、Fe、Mo、Cr、Mnの元素のいずれか1種または2種以上を合計で0.5質量%以下添加されたことを特徴とする請求項4に記載の電子部品。
【請求項6】
前記はんだ付け組成物に、さらにGe、Gaのいずれか1種以上を合計で1質量%以下添加されたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の電子部品。
【請求項7】
前記機能性素子は、コイル素子である請求項4ないし6のいずれか1項に記載の電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−255176(P2009−255176A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171526(P2009−171526)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【分割の表示】特願2003−95499(P2003−95499)の分割
【原出願日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【出願人】(000199197)千住金属工業株式会社 (101)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】