説明

むくみ症状の予防又は改善剤

【課題】むくみ症状及びそれに伴う怠さ、重量感、疲労感等の愁訴に極めて有効で副作用の少ないむくみ症状の予防又は改善剤を提供する。
【解決手段】ビタミンB1誘導体を含有することを特徴とするむくみ症状の予防又は改善剤。あるいは、ビタミンB1誘導体及びユビデカレノンを含有することを特徴とするむくみ症状の予防又は改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB1誘導体を有効成分とし、日常生活の中で生じる種々のむくみ症状の予防又は改善に有効な経口剤に関し、医薬品、医薬部外品及び食品の分野に応用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
むくみとは、細胞間質液(組織液)が局所的又は全身的に過剰に貯留した状態であり、外観的に容積の増加が観察される病態を示す。体内に含まれる水分は体重の約60%に相当し、細胞内にその3分の2が、血管内(血漿として)にその12分の1が、細胞間質にその4分の1(体重の15%)が分布し、通常、平衡状態が維持されている。この平衡の維持に関与している因子は、末梢循環におけるスターリング力(Starling force:毛細血管壁を挟んで血液側と組織間液側との水の出入りが平衡状態にあるとき、毛細血管内圧と組織側圧との差は血漿の浸透圧と組織間液の浸透圧の差に等しい)と血管透過性の2つである。この2因子は健常人ではほぼ一定し、毛細血管の漏出―再吸収と、リンパ系を通じた排出により、血管内外の水移動については動的平衡が保たれている。しかしながら、何らかの原因によりスターリング力の変動(血漿膠質浸透圧の減少、組織内膠質浸透圧の上昇、末梢血管系における静水圧の上昇)や壁透過性の亢進等が生じ、平衡が細胞間液増加の方向に転じると、やがてむくみ状態を呈するようになる(非特許文献1参照)。
【0003】
むくみ症状にも種々の態様があるが、重度のむくみ症状には、心臓(うっ血性心不全)、肝臓(肝硬変)、腎臓(急性腎炎、慢性腎不全、ネフローゼ症候群)、内分泌系(甲状腺機能低下による粘液水腫、クッシング症候群)や栄養状態に起因するものがある。この重度のむくみ症状は全身に及び、病態発生の予兆でもあり、根本的な治癒にはむくみ症状の原因となっている病因を取り除くことが必要になる。
【0004】
一方、多くの人々は上記疾患がないにも関わらず、日常的にむくみ症状を感じ、マッサージや睡眠時に脚の位置を高くする等の処置を施している。この種のむくみ症状は、一過性で、軽度のものがほとんどであるが、QOLの妨げともなる。こうした日常的に起こる軽度のむくみ症状は、ヒトが立位もしくは座位で生活するためであるとされている。つまり、4足歩行の動物は全血液の70%が心臓より上部に分布しているのに対して、人は横にならない限り、全血液の70%が心臓より下部に分布し、末梢血管に持続的な圧力がかかり続けるため、むくみが生じる。これに対し、通常、下肢の筋肉と静脈弁が末梢に貯留した血液を重力に反して末梢から心臓に戻すための筋ポンプとして働き、むくみの発生を防いでいる(非特許文献2参照)。しかしながら、立ち仕事やデスクワーク、車や飛行機の長時間移動等において長時間同じ姿勢を持続することや長時間の歩行などによって、筋ポンプが十分に機能しなくなると、血行不良や静水圧の上昇が引き起こされ、その結果、水分分布の不均衡が生じ、むくみ症状を訴える。このむくみ症状は,視覚的に足の容積あるいは周囲長が増大するだけでなく、そのむくみの発症に伴い、足が張る、足が怠い、足が重い、足に違和感を感じる等の種々の愁訴を有していることが知られており、むくみ症状と主観的疲労感の間には相関関係があることも報告されている(非特許文献3参照)。
【0005】
軽度のむくみ症状の改善方法としては、マッサージ、半身浴、むくみ対応弾力性ストッキングや靴下等の着用や、メリロートやぶどう葉が配合された製品、防已黄耆湯、五苓散等の漢方製剤の服用等が知られているが、その効果は未だ十分なものではない。
【0006】
ここに、ビタミンB1はリン酸エステル化されたチアミン二リン酸エステル(TPP)やチアミン三リン酸エステル(TTP)として機能している。TPPはピルビン酸脱水素酵素やα−ケトグルタル酸脱水素酵素の補酵素として、ミトコンドリア内の糖、脂質代謝に重要な役割を担っている(非特許文献4参照)。このビタミンB1が不足するとATP産生が滞り、全身的に疲労倦怠感が現れ(非特許文献5参照)、更に不足状態が強くなると脚気やウェルニッケ脳症といった疾患を引き起こす。また、ビタミンB1は運動、発熱、妊娠授乳期に消費されやすいビタミンでもある。そのため、ビタミンB1の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な場合(例えば、消耗性疾患、妊産婦、授乳婦、激しい肉体疲労時等)の補給やウェルニッケ脳炎、脚気衝心、神経痛・関節痛・末梢神経炎・末梢神経麻痺等の予防・改善にビタミンB1誘導体が用いられている。
【0007】
ユビデカレノンはCoQ10、補酵素Q10、ユビキノンとも称される体内成分であり、ミトコンドリア内膜上に多く存在し、電子伝達系のフラボプロテインとチトクロームC1の間に介在し、ミトコンドリアにおけるATP産生の律速因子である非特許文献4参照)。このユビデカレノンは20代をピークに加齢と共に体内の臓器中(心臓、腎臓、肝臓、肺)、表皮中の濃度が低下することが知られており、食事も含め体外から補給すべき体内成分とされている。虚血による心筋障害の改善作用、低下した心拍出量の改善作用、アルドステロンによるNa貯留の拮抗作用等が知られ、軽度および中等度のうっ血性心不全による浮腫(むくみ)、肺うっ血、肝腫脹、狭心症状等の改善に用いられている。
【0008】
なお、特開平10−287560号公報には、ユビデカレノン及びビタミンB1誘導体を配合した医薬組成物が開示されているが(特許文献1参照)、むくみ症状の予防又は改善に有効であるとの記載はない。
【0009】
【特許文献1】特開平10−287560号公報
【非特許文献1】河原克雅、腎臓、24、36(2001)。河原克雅、腎臓、24、102(2001)。
【0010】
【非特許文献2】南山求、CURRENT THERAPY、12、9(1994)。
【0011】
【非特許文献3】川野常夫ら、バイオエンジニアリング学術講演会・秋期セミナー講演論文集、13、83(2002)
【非特許文献4】最新栄養学第7版 Ziegler E.E.、Filer L.J Jr.、木村修一・小林修平翻訳監修:157−162。
【0012】
【非特許文献5】Thiamine.Monograph.Altern.Med.Rev.、 8、59−62(2003)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、むくみを改善し、むくみ症状に伴う怠さ、重量感、疲労感等のむくみの諸症状に有効で、副作用の少ない経口用の薬剤、組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、ビタミンB1誘導体単独、あるいは、ビタミンB1誘導体にユビデカレノンを併用して経口投与することにより、むくみ症状が改善することを見出した。
【0015】
かかる知見に基づく発明の態様の一つは、ビタミンB1誘導体を含有することを特徴とするむくみ症状の予防又は改善剤である。
【0016】
本発明の他の態様は、ビタミンB1誘導体及びユビデカレノンを含有することを特徴とするむくみ症状の予防又は改善剤である。
【0017】
本発明の他の態様は、ビタミンB1誘導体が塩酸ジセチアミンである前記むくみ症状の予防又は改善剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、むくみ症状を改善し、それに伴って生じる怠さ、重量感、疲労感等の予防又は改善に有効な医薬品等を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ビタミンB1(チアミン)誘導体としては、チアミン、ジセチアミン、フルスルチアミン、チアミンジスルフィド、ビスベンチアミン、ビスイブチチアミン、ベンフォチアミン、シコチアミン、オクトチアミン及びプロスルチアミンが挙げられる。ビタミンB1誘導体は塩であってもよい。塩としては、塩酸塩、硝酸塩等が挙げられる。むくみ改善の点から最も好ましいのは、塩酸ジセチアミンである。
【0020】
本発明におけるユビデカレノンはCoQ10、補酵素Q10、ユビキノンとも称される体内成分である。
【0021】
本発明に係るむくみ症状の予防又は改善剤は、むくみ症状及びそれに伴う怠さ、重量感、疲労感等の愁訴の予防又は改善に用いられ、経口投与により効果を発揮する。
【0022】
本発明におけるビタミンB1誘導体の有効投与量については、塩酸チアミンに換算し、成人で1日10mg〜150mgであり、好ましくは30mg〜120mgである。特に、塩酸ジセチアミンでは、成人1日当たり15〜200mgであり、好ましくは45〜150mgである。
【0023】
本発明におけるユビデカレノンの有効投与量は、成人で1日あたり5mg〜600mgであり、好ましくは15mg〜300mgである。
【0024】
ビタミンB1誘導体及びユビデカレノンを含有するむくみ症状の予防又は改善剤におけるユビデカレノンの配合(含有)量は、ビタミンB1誘導体を塩酸チアミン量に換算し、その1質量部に対して0.02〜10質量部であり、好ましくは0.05〜2質量部である。また、塩酸ジセチアミンの1質量部に対しては、0.05〜10質量部であり、好ましくは0.1〜3質量部である。
【0025】
なお、ビタミンB1誘導体とユビデカレノンを含有する経口用製剤を個別に調製し、それらをほぼ同時に、または、一方の製剤を服用後、その効き目が持続している間に他方の薬剤を服用すれば、本発明の意図するむくみ症状の予防又は改善効果が得られる。よって、ビタミンB1誘導体含有経口用製剤とユビデカレノン含有経口用製剤のキット等も本発明の範囲に含まれる。
【0026】
本発明のむくみ症状の予防又は改善剤は、例えば、ビタミンB1誘導体あるいはビタミンB1誘導体及びユビデカレノンを配合し、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を混合して常法により、顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、液剤等の経口用製剤として提供することができる。
【0027】
本発明のむくみ症状の予防又は改善剤には、必要に応じて他の生理活性成分、カリウム等のミネラル、ビタミンE、カルニチン、パントテン酸やニコチン酸等のビタミン、バリン、ロイシン、イソロイシン等のアミノ酸、ホルモン、栄養成分、カフェイン等のキサンチン誘導体、香料等を混合することにより、嗜好性をもたせることもできる。また、生薬としては、エゾウコギ(刺五加、五加皮)、何首烏、葛根、甘草、枳実、桂皮、紅参、山帰来、西洋山査子、山薬、地黄、熟地黄、川キュウ、蒼朮、大棗、沢瀉、陳皮、当帰、杜仲、人参、反鼻、白朮、茯苓、ブドウ葉、ムイラプアマ、メリーロート、ローヤルゼリー等を配合することができる。
【実施例】
【0028】
以下に試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
【0029】
試験例1
[実験試料]塩酸ジセチアミン
[実験動物]SD系雄性ラット(8週令、チャールズリバーから購入)
[実験方法]水浸飼育誘発によるむくみ測定試験
ラットの後肢にむくみを発生させるためには、ラットを自主的、かつ、持続的に立位状態とさせることを要し、渡辺らの方法(田中雅彰、渡辺恭良ら、Neurosci Lett.、352、159、2003)を用いて検討した。ラットの後肢の足容積を測定し、平均足容積を同等になるように群構成したラットを、水を深さ1.0cm(水温:22±1℃)まで満たした透明小型飼育ケージ(30×20×12cm、クリーンケージ,夏目製作所)において、6日間水浸飼育した。検体は0.5%カルボキシルメチルセルロース・ナトリウムに溶解させ、1.0mL/100gの投与容量にて、水浸飼育初日より、1日1回5日間連続経口投与を行い、最終実験日(足容積測定日)は投与しなかった.足容積は、室町機械(株)製足容積測定装置を用い、水浸飼育前及び水浸飼育終了日に、ラット右後肢を測定し、薬物の有効性は正常ラットと水浸飼育負荷ラットの平均足容積の差を100とした際のむくみ率で比較した。
[実験結果]通常に飼育した正常ラットの平均足容積は1.59±0.03cmであったのに対して、水浸飼育ラット(対照)の平均足容積は2.20±0.04cmであり、有意に足容積が増加し、むくみ症状が観察された。このときの足の腫脹をむくみ率100%とし、塩酸ジセチアミ30mg/kg、100mg/kg、300mg/kg、1000mg/kgを投与した場合の作用を検討したところ、それぞれのむくみ率は93.8±3.8%、81.1±13.7%、62.8±8.2%、56.9±10.0%であり、このむくみ症状の発現に対して、塩酸ジセチアミンは300mg/kg以上の投与量において有意なむくみ症状抑制作用を示した(図1参照)。
【0030】
試験例2
[実験試料]塩酸ジセチアミン及びユビデカレノン
[実験動物]SD系雄性ラット(8週令、チャールズリバーから購入)
[実験方法]水浸飼育誘発によるむくみ測定試験
試験例1と同様の実験方法で実施した。
[実験結果]通常に飼育した正常ラットの平均足容積は1.58±0.02cmであったのに対し、水浸飼育したラットの平均足容積は2.03±0.06cmであった。このときの足の腫脹をむくみ率100%とし、試験例1においてむくみ症状の発現を抑制しない投与量であった塩酸ジセチアミン100mg/kgにユビデカレノンを3mg/kg、10mg/kg及び30mg/kgの投与量にて併用投与した。その結果、塩酸ジセチアミン100mg/kg単独投与群のむくみ率が88.5±13.2%であったのに対して、塩酸ジセチアミン100mg/kgにユビデカレノン3mg/kg、10mg/kg、30mg/kgを併用投与すると、むくみ率は、それぞれ、70.4±7.3%、49.5±15.3%、24.4±9.6%に低下し、塩酸ジセチアミン100mg/kgに対して、ユビデカレノンを10mg/kg以上の投与量で併用することにより、有意なむくみ抑制作用を示した。さらに、このときの効果を図1に示した塩酸ジセチアミン1000mg/kgの効果と比較すると、塩酸ジセチアミン100mg+ユビデカレノン10mg/kgでは同程度の効果を有し、塩酸ジセチアミン100mg+ユビデカレノン30mg/kgの効果は上回っており、ユビデカレノンは塩酸ジセチアミンのむくみの改善効果を10倍以上に高めることが確認された。なお、塩酸ジセチアミン100mg/kg及びユビデカレノン30mg/kg(むくみ率95.5±8.0%)の単独投与群に比較し、併用投与群のむくみ率は有意な低値を示しており、このことから、むくみの発現に対して塩酸ジセチアミンとユビデカレノンは有意な併用効果を示すことが明らかとなった(図2参照)。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】水浸飼育誘発によるむくみ症状に対する塩酸ジセチアミン単独投与時の作用を示すグラフである。
【図2】水浸飼育誘発によるむくみ症状に対する塩酸ジセチアミン及びユビデカレノンの併用投与時の作用を示すグラフである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明により、副作用が少なく、長期間の経口投与に適したむくみ症状及びそれに伴う怠さ、重量感、疲労感等の愁訴の予防又は改善に有効な医薬品、医薬部外品及び食品の開発が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB1誘導体を含有することを特徴とするむくみ症状の予防又は改善剤。
【請求項2】
ビタミンB1誘導体及びユビデカレノンを含有することを特徴とするむくみ症状の予防又は改善剤。
【請求項3】
ビタミンB1誘導体が塩酸ジセチアミンである請求項1又は2に記載のむくみ症状の予防又は改善剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−91683(P2007−91683A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286027(P2005−286027)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】