説明

めっき方法及びめっき装置

【課題】ピンホール欠陥を減少し、防食性を向上させるめっき方法及びめっき装置を提供する。
【解決手段】本実施例に係るめっき装置10Aは、被めっき体11Aを無電解めっき液12に浸漬させて、被めっき体11Aの表面に無電解Ni−Pめっき層を形成するめっき装置であって、無電解めっき液12を収容するめっき槽13と、めっきを開始し、被めっき体11Aに無電解Ni−Pめっき層が形成される際に発生する水素ガスG量が一定状態になるまで被めっき体11Aを振動させる振動モータ14と、被めっき体11Aと振動モータ14とを連結する振動伝達部材15と、振動モータ14が発生する振動の振幅を調整するコイルバネ16とを有する。発生する水素ガスG量が一定状態となるまで被めっき体11Aに振動を与え、被めっき体11Aに吸着された水素ガスの離脱を促進することで、無電解めっき層にピンホール欠陥が発生するのを防止し、防食性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2圧縮機部品など腐食環境で使用される機械部品の表面に形成する無電解めっき層のめっき方法及びめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、腐食環境で使用される機械部品として、例えば気体を圧縮する圧縮機のインペラやダイヤフラム、ケーシング等の圧縮機の部材は、流通するガスに接触するため、それら気体の成分、例えばCO2、H2S、H2Oのほか、ガス中に含まれるCl、NaCl、NaOH等の腐食性成分による腐食環境に曝され、気体に接触する部材が腐食作用を受ける。
【0003】
このため、従来では、無電解メッキ液に被メッキ物を浸漬させて、該被メッキ物の表面に無電解めっき層を形成する無電解メッキ方法が知られており、例えば、CO2圧縮機内部品など腐食環境で使用される機械部品などの表面の防食コーティング用に採用されている。
【0004】
CO2圧縮機内部品などの腐食性成分を含んだガス等に接する部材の製造時施工する防食コーティングの無電解めっき層として、例えば無電解Ni−Pめっき、無電解Ni−Bめっきを例えば10〜75μm程度施し、防食するようにしている。また、無電解めっきにおいては、その性質上Ni単体めっきではなく、Ni−Pめっきまたは無電解Ni−Bめっきとすることで、Niの防食性に加えPやBの作用により非晶質めっきとなって耐食性を向上させている。
【0005】
ここで、無電解Ni-Pめっき層を施した場合、基材の汚れや基材の欠陥等の影響で、無電解Ni-Pめっき層を貫通し基材まで到達した穴であって、直径10〜100μm程度のピンホール欠陥や、ピットが発生する。無電解Ni-Pめっき層にピンホール欠陥、又はピットが発生した状態を示す概略断面図を図8、9に示す。図8に示すように、基材101に設けた無電解Ni-Pめっき層102にピンホール欠陥103が発生し、ピンホール欠陥103のある基材101の表面101aでは腐食104が起きる。また、図9に示すように、無電解Ni-Pめっき層102にピット105が発生する。
【0006】
ピンホール欠陥103は、無電解Ni-Pめっき開始の初期段階(例えばめっき開始から10分間)で、めっき反応により発生する水素ガスが、被めっき体(ワーク)である基材101の表面101aに吸着する。そして、この水素ガスが基材101から離脱しないことで水素ガスの吸着している基材101の表面101aは不活性状態となり、めっき析出が妨害されることにより、ピンホール欠陥103が発生するものである。
【0007】
この水素ガスは、めっき析出過程で必ず発生し、通常の基材状態(機械加工状態)であれば、吸着した水素ガスが成長し、浮力により離脱するが、例えば図10に示すような基材101の表面101aに欠陥106が存在したり、図11に示すような基材101の表面101aに汚れ107が存在していると、その欠陥106や汚れ107に吸着した水素ガス108は離脱できず、図8に示すような無電解Ni-Pめっき層102にピンホール欠陥103を発生することなる。
【0008】
こうしたピンホール欠陥103の発生を防止する方法として種々検討されており、例えば以下のような方法がある。
図12に示すような、めっき槽110内のめっき液111中にプレート112から吊り下げた被めっき体113を浸漬させた後、図示しない揺動装置で上下方向又は左右方向に被めっき体113を揺動させ、発生した水素ガス108を被めっき体113から離脱させる方法がある。このとき、例えば被めっき体113を0.05〜0.2Hzで揺動させ、100〜200mmの振幅で行っている。
【0009】
また、図13に示すような、めっき槽110内のめっき液111中に被めっき体113を浸漬させた後、攪拌子114によりめっき液111を攪拌させてめっき液111を流動させ、発生した水素ガス108を被めっき体113から離脱させる方法がある。
【0010】
また、図14に示すような、めっき槽110内のめっき液111中に浸漬させた被めっき体113の下側に気泡発生装置115を設け、めっき液111中に供給された空気116によりめっき液111を攪拌させて、発生した水素ガス108を被めっき体113から離脱させる方法がある。
【0011】
更には、図15に示すような、めっき槽110の側面に超音波振動発生装置118を設け、超音波によりめっき液11を振動させ、発生した水素ガス108を被めっき体113から離脱させる方法がある。このとき、例えば20〜50kHzの超音波でめっき液11を振動させるようにしている(特許文献1)。
【0012】
【特許文献1】特開平6−212441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、例えば図16に示すような圧縮機の入口に設けられるガイド部材117のように大型で複雑な形状のものをめっきするような場合においては、上述のような発生した水素ガス108を離脱させる種々の方法を用いても、発生した水素ガス108をガイド部材117から十分に離脱できない、という問題がある。
【0014】
そのため、大型で複雑な形状のものでは、図8に示すような無電解Ni-Pめっき層102のピンホール欠陥103が減少しないため、防食性が低下する、という問題がある。
【0015】
本発明は、前記問題に鑑み、ピンホール欠陥を減少し、防食性を向上させるめっき方法及びめっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、被めっき体を無電解めっき液に浸漬させて、前記被めっき体の表面に無電解めっき層を形成するめっき方法であって、めっきを開始し、前記被めっき体に前記無電解めっき層が形成される際に発生するガス量が一定状態になるまで前記被めっき体に振動を与え、前記被めっき体に吸着されたガスの離脱を促進することを特徴とするめっき方法にある。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記被めっき体を5〜20Hzの周波数で振動させることを特徴とするめっき方法にある。
【0018】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記被めっき体を1〜3mmの振幅で振動させることを特徴とするめっき方法にある。
【0019】
第4の発明は、第1乃至3の発明の何れか一つにおいて、前記被めっき体を連続的又は間欠的に振動させることを特徴とするめっき方法にある。
【0020】
第5の発明は、第4の発明において、前記被めっき体を間欠的に振動させる際、前記被めっき体の振動時間が2〜5秒であることを特徴とするめっき方法にある。
【0021】
第6の発明は、被めっき体を無電解めっき液に浸漬させて、前記被めっき体の表面に無電解めっき層を形成するめっき装置であって、無電解めっき液を収容するめっき槽と、めっきを開始し、前記被めっき体に無電解めっき層が形成される際に発生するガスが発生しなくなる定常状態になるまで前記被めっき体を振動させる振動発生装置と、前記被めっき体と前記振動発生装置とを連結する振動伝達手段と、該振動発生装置が発生する振動の振幅を調整する振幅調整手段と、を有することを特徴とするめっき装置にある。
【0022】
第7の発明は、第6の発明において、前記被めっき体を5〜20Hzの周波数で振動させることを特徴とするめっき装置にある。
【0023】
第8の発明は、第6又は7の発明において、前記被めっき体を1〜3mmの振幅で振動させることを特徴とするめっき装置にある。
【0024】
第9の発明は、第6乃至8の発明の何れか一つにおいて、前記被めっき体を連続的又は間欠的に振動させることを特徴とするめっき装置にある。
【0025】
第10の発明は、第9の発明において、前記被めっき体を間欠的に振動させる際、前記被めっき体の振動時間が2〜5秒であることを特徴とするめっき装置にある。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、被めっき体を無電解めっき液に浸漬させて、無電解めっきを開始し、前記被めっき体に前記無電解めっき層が形成される際に発生するガスが発生しなくなる定常状態になるまで前記被めっき体に振動を与え、前記被めっき体に吸着されたガスの離脱を促進することで、前記無電解めっき層にピンホール欠陥が発生するのを防止することができるため、前記無電解めっき層の防食性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0028】
本発明による実施例に係るめっき装置について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明による実施例に係るめっき装置の構成を示す概念図である。
図1に示すように、本発明による実施例に係るめっき装置10Aは、被めっき体11Aを無電解めっき液12に浸漬させて、被めっき体11Aの表面に無電解Ni−Pめっき層を形成するめっき装置であって、無電解めっき液12を収容するめっき槽13と、めっきを開始し、被めっき体11Aに前記無電解Ni−Pめっき層が形成される際に発生する水素ガスGが発生しなくなる定常状態になるまで被めっき体11Aを振動させる振動発生装置である例えば振動モータ14と、被めっき体11Aと振動モータ14とを連結する振動伝達部材15と、振動モータ14が発生する振動の振幅を調整する振幅調整手段である例えばコイルバネ16と、を有するものである。
【0029】
また、本実施例では、定常状態は、無電解めっき反応により生じた水素ガスの発生量が一定となる状態を指し、ガスの発生量を目視で判断する。無電解めっき反応により、無電解Ni−Pめっき層を形成する際、めっき開始時は水素ガスが多く発生するが、ある程度めっきすると面全体に無電解Ni−Pめっき層が形成され、反応が落ち着くことで、水素の発生量が減少するためである。
【0030】
本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、無電解めっき層として前記無電解Ni−Pめっき層を形成するため、無電解めっき液12として無電解Ni−Pめっき層を形成する無電解Ni−Pめっき液を用いている。
【0031】
また、本実施例においては、被めっき体11Aに前記無電解Ni−Pめっき層を形成するため、無電解Ni−Pめっき液を無電解めっき液12として用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、Ni−B無電解めっき層など形成する無電解めっき層に応じて無電解めっき液12を調整するようにすればよい。
【0032】
また、本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、振動モータ14により被めっき体11Aを5〜20Hzの周波数で振動させるのが好ましく、更には10Hzの周波数で振動させるのがより好ましい。これは、後述するように、被めっき体11Aを5Hz以下の周波数で振動させても、無電解めっきを行ったときに発生した水素ガスGが被めっき体11Aから離脱しないためである。また、20Hz以上の周波数で振動させる場合では、発生する水素ガスGの離脱は可能であるが、例えば1tonを超える被処理物では振動装置が大型し、現実的ではないためである。
【0033】
また、本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、振動モータ14により被めっき体11Aを1〜3mmの振幅で振動させるのが好ましく、1〜2mmの振幅で振動させるのがより好ましく、更には1mm程度の振幅で振動させるのが好ましい。これは、後述するように、被めっき体11Aを1mm以下の振幅で振動させても、無電解めっきを行ったときに発生した水素ガスGが被めっき体11Aから離脱しないためである。また、10Hzの周波数の場合、2mmの振幅で振動させれば水素ガスGを被めっき体11Aから離脱するのに十分だからである。
【0034】
また、本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、振動モータ14により被めっき体11Aを連続的に振動させることに限定されることなく、間欠的に振動させるようにしてもよい。
【0035】
また、被めっき体11Aを間欠的に振動させる際には、被めっき体11Aの振動時間は2〜5秒とするのが好ましい。これは、被めっき体11Aの大きさや形状等により異なるが、無電解めっき反応により発生し、被めっき体11Aに付着した水素ガスが脱離するのに十分な時間だからである。
【0036】
また、本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、めっきを開始してから約10〜20分程度、被めっき体11Aに振動を与えるのが好ましい。これは、めっきを開始した後、前記定常状態となるまで振動モータ14により被めっき体11Aに振動を与えるようにしているが、被めっき体11Aの形状、大きさ等に応じ、めっきを開始してから約10〜20分程度で定常状態に落ちつくからである。
【0037】
また、本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、コイルバネ16は土台17に設置し、プレート18を支持するようにしている。これにより、振動モータ14から被めっき体11Aに振動を伝達すると同時に、被めっき体11Aを振幅することができる。
【0038】
また、本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、振動モータ14により被めっき体11Aに与える振動は、振動伝達部材15に設けた加速度センサ21で振動を検知するようにしている。そして、加速度センサ21で検知した振動の出力信号はアンプ22で電圧信号に変換し、例えば計測器のような記録装置23に記録する。そして、記録装置23で記録された被めっき体11Aの振動の値に基づいて水素ガスが被めっき体11Aから脱離しているかを確認し、振動モータ14から被めっき体11Aに与える振動量を調整するようにする。例えば、記録装置23で記録された振動、振幅の量では、被めっき体11Aから発生した水素ガスが離脱していない場合には、振動モータ14で発生する振動量、コイルバネ16による振幅量を調整し、被めっき体11Aから水素ガスを離脱させるようにする。
【0039】
よって、本実施例に係るめっき装置10Aを用いれば、被めっき体11Aに前記定常状態になるまで被めっき体11Aを振動させる振動モータ14と、被めっき体11Aと振動モータ14とを連結する振動伝達部材15と、振動モータ14が発生する振動の振幅を調整するコイルバネ16とを有しているため、被めっき体11Aを無電解めっき液12に浸漬させ、無電解めっきを開始し、前記定常状態になるまで被めっき体11Aに振動を与え、被めっき体11Aに吸着された水素ガスの離脱を促進することで、前記無電解めっき層にピンホール欠陥が発生するのを防止することができ、前記無電解めっき層の防食性を向上させることができる。
【0040】
また、本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、振動モータ14を振動発生装置として用い、モーターに偏芯したマス(おもり)をつけて回転し、その遠心力によって振動を発生させるアンバランスマス型を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ピストンを油圧によって駆動し、振動を発生させる油圧型、磁界中でコイルに電流を流すことにより起きる力を利用し、振動を発生させる動電型、ピストンを空気圧によって駆動し、振動を発生させる空気圧型などを用いるようにしてもよい。
【0041】
また、本実施例に係るめっき装置10Aにおいては、被めっき体11Aの形状、大きさ等に応じて図2に示すようなめっき装置10Bを用い、被めっき体11Bに無電解Ni−Pめっき層を形成するようにしてもよい。
【0042】
以下、本実施例に係るめっき方法について具体的に説明する。
<めっき方法>
図3は、本発明による実施例に係るめっき方法の工程を示す工程図である。
また、本実施例では、無電解めっき層として無電解Ni−Pめっき層を用いて説明する。
図3に示すように、本実施の形態に係るめっき方法は、被めっき体を無電解めっき液に浸漬させて、前記被めっき体の表面に無電解めっき層を形成するめっき方法であって、前記定常状態になるまで前記被めっき体に振動を与え、前記被めっき体に吸着されたガスの離脱を促進するものである。
【0043】
即ち、本実施の形態に係るめっき方法は、以下の前処理工程と無電解Ni−Pめっき層形成工程とからなり、以下の(a)〜(m)工程からなる。
<A.前処理工程>
(a)被めっき体11Aをトリクロロエチレン(トリクレン)を用いて洗浄を行う蒸気洗浄工程(S11)。
(b)蒸気洗浄工程S11後、被めっき体11Aに残っているトリクロロエチレンを除去する第一の水洗工程(S12)。
(c)第一の水洗工程S12後、アルカリ溶液中に被めっき体11Aを浸漬し、アルカリ洗浄を行うアルカリ洗浄工程(S13)。
(d)アルカリ洗浄工程S13後、被めっき体11Aに残っているアルカリ溶液を除去する第二の水洗工程(S14)。
(e)第二の水洗工程S14後、硫酸とフッ酸との混合溶液に被めっき体11Aを浸漬し、酸洗浄する酸洗工程(S15)。
(f)酸洗工程S15後、被めっき体11Aに残っている前記混合溶液を除去する第三の水洗工程(S16)。
(g)第三の水洗工程S16後、5%硫酸溶液中に被めっき体11Aを浸漬し、酸洗浄する希硫酸酸洗工程(S17)。
(h)希硫酸酸洗工程S17後、被めっき体11Aに残っている5%硫酸溶液を除去する第四の水洗工程(S18)。
【0044】
<B.無電解Ni−Pめっき層形成工程>
(i)第四の水洗工程S18後、被めっき体11Aの表面に無電解Ni−Pめっき層を形成する無電解Ni−Pめっき工程(S19)。
(j)無電解Ni−Pめっき工程S19後、無電解Ni−Pめっき層を形成した被めっき体11Aに残っている無電解Ni−Pめっき液を除去する第五の水洗工程(S20)。
(k)第五の水洗工程S20後、無電解Ni−Pめっき層を形成した被めっき体11Aをエッチングするエッチング工程(S21)。
(l)エッチング工程S21後、シャワー洗浄し、上述のエッチング工程S21において5%硫酸溶液中に浸漬し、引上げる操作を3回繰返し、無電解Ni−Pめっき層を形成した被めっき体11Aに残っている5%硫酸溶液を除去する第六の水洗工程(S22)。
(m)第六の水洗工程S22後、無電解Ni−Pめっき層を形成した被めっき体11Aを乾燥させる乾燥工程(S23)。
を含む工程。
【0045】
「A.前処理工程」の被めっき体11Aの洗浄方法について説明する。
蒸気洗浄工程S11では、被めっき体11Aをトリクロロエチレンを用いて脱脂し洗浄する。
そして、第一の水洗工程S12では、被めっき体11Aをシャワー洗浄、又はスコッチブライト等を用いて被めっき体11Aをこすりながら洗浄する。これにより、被めっき体11Aに塗布したトリクロロエチレンを除去し、被めっき体11Aを洗浄する。
【0046】
そして、アルカリ洗浄工程S13では、一般的には50〜60℃のアルカリ溶液に被めっき体11Aを例えば20分程度、浸漬し、被めっき体11Aを洗浄する。また、アルカリ溶液中で超音波を付与することで、更に洗浄効果を高めることができる。また、アルカリ溶液は市販の薬剤を水に溶解させた液を用いることができ、例えばアサヒクリーナーNo.800を使用することができる。
【0047】
そして、第二の水洗工程S14では、アルカリ洗浄工程S13後、再度被めっき体11Aをシャワー洗浄、又はスコッチブライト等を用いて被めっき体11Aをこすりながら洗浄し、アルカリ溶液を除去し、被めっき体11Aを洗浄する。
【0048】
そして、酸洗工程S15では、第二の水洗工程S14後、硫酸とフッ酸との混合溶液に被めっき体11Aを3分程度、浸漬し、被めっき体11Aを洗浄する。
【0049】
そして、第3の水洗工程S16では、酸洗工程S15後、再度被めっき体11Aをシャワー洗浄、又はスコッチブライト等を用いて被めっき体11Aをこすりながら洗浄し、硫酸とフッ酸との混合溶液を除去し、被めっき体11Aを洗浄する。
【0050】
そして、希硫酸酸洗工程S17では、第三の水洗工程S16後、5%硫酸溶液に被めっき体11Aを1分程度、浸漬し、被めっき体11Aを洗浄する。
【0051】
そして、第四の水洗工程S18では、希硫酸酸洗工程S17後、再度被めっき体11Aをシャワー洗浄し、硫酸溶液を除去し、被めっき体11Aを洗浄する。
【0052】
「B.無電解Ni−Pめっき層形成工程」の無電解Ni−Pめっき層の形成方法について説明する。
無電解Ni−Pめっき工程S19では、第四の水洗工程S18後、被めっき体11Aを無電解Ni−Pめっき浴に浸漬し、被めっき体11Aの表面に例えば膜厚が25μm程度の無電解Ni−Pめっき層を形成する。このとき、無電解Ni−Pめっき浴の温度は90℃程度とする。
また、無電解Ni−Pめっきは市販の無電解Ni−Pめっき液を用いることができ、例えばニムデンSX(製品名;上村工業社製)の無電解Ni−Pめっき液を使用することができる。
【0053】
また、被めっき体11Aを無電解めっきを開始した時から10分間振動を加える。この時の周波数は10Hz以上とし、振動を与える時間は約1分間隔とし、振動時間は約5秒とする。
【0054】
そして、第五の水洗工程S20では、無電解Ni−Pめっき工程S19後、再度被めっき体11Aをシャワー洗浄し、無電解Ni−Pめっき液を除去し、被めっき体11Aを洗浄する。
【0055】
そして、エッチング工程S21では、第五の水洗工程S20後、5%硫酸溶液に被めっき体11Aを5分程度、浸漬し、エッチングする。
【0056】
そして、第六の水洗工程S22では、エッチング工程S21後、被めっき体11Aをシャワー洗浄し、5%硫酸溶液を洗い落とす。そして、5%硫酸溶液に被めっき体11Aを浸漬し引上げた後、シャワー洗浄する工程を3回繰返し行なう。また、本実施例では、5%硫酸溶液に被めっき体11Aを浸漬し引上げた後、シャワー洗浄する工程を3回繰返し行なうようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、被めっき体11Aの洗浄具合に応じて何回行なうようにしてもよい。
【0057】
そして、乾燥工程S23では、第六の水洗工程S22後、シャワー洗浄した被めっき体11Aをエアブローにより乾燥させた。
【0058】
<水素ガス脱離範囲>
また、発生した水素ガスが脱離するために適正な振動条件について検討した結果について説明する。
図4は、周波数と振幅とその時に水素ガスが離脱する関係を表す図である。
また、この試験結果は、上述のめっき方法に基づいて行ったものであり、振動時間は5秒として行った。
図4に示すように、周波数が6Hz程度の時には、振幅が3.2程度で発生した水素ガスが離脱され(図4中、黒丸)、周波数が増加するに従って水素ガスを離脱するために要する振幅は減少していった。そして、図4中、破線Aで示すように、周波数が8〜10Hzで、振幅が1.0〜2.0の範囲では発生した水素ガスが離脱されるのが確認された。
一方、周波数が6Hz程度の時、振幅が2以下の場合や、周波数が8〜10Hz程度の時、振幅が1以下では、水素ガスが離脱されなかったのが確認された(図4中、×印)。
【0059】
よって、周波数が10Hz前後では、振幅が1.0〜2.0で発生した水素ガスを離脱することができる。
【0060】
<ピンホール欠陥の数の比較>
また、無電解Ni−Pめっき層に発生したピンホール欠陥の数を従来と比較して検討した結果について説明する。
このピンホール欠陥の数を測定する際、ピンホール欠陥検査法はフェロキシル試験により行った。
また、フェロキシル試験は、「JIS H 8617」に準じて試験を行い、基材として鉄素材からなるものを用いて行った。
フェロキシル試験は、図5に示すように、基材31に施した無電解Ni−Pめっき層32の上に指示液としても用いられるフェロキシル液33を染み込ませたろ紙34を無電解Ni−Pめっき層32の上面にのせた。そして、無電解Ni−Pめっき層32にピンホール欠陥35があると、ピンホール欠陥35を介してFe系素材の基材31とフェロキシル液33が反応し、図6に示すように、フェロシアンブルーの青色斑点36がろ紙34に沈着する。この青色斑点36の数を数えることにより、無電解Ni−Pめっき層32上のピンホール欠陥35の数を確認することができる。
【0061】
図7は、本発明のめっき方法と従来のめっき方法とで発生するピンホール欠陥の数を比較した図である。
また、このとき、本発明のめっき方法の条件は、周波数を10Hzとし、振幅を1mmとし、振動時間を5秒とし、振動を与える振動間隔を30秒ごととした。
また、従来のめっき方法として、図15に示すような超音波によりめっき液を振動させ、発生した水素ガスを被めっき体から離脱させる超音波法と、図12に示すような上下方向に被めっき体を揺動させ、発生した水素ガスを被めっき体から離脱させる上下搖動法を用いた。
図7に示すように、本発明のめっき方法を用いた場合の方が、図15に示すような超音波法や図12に示すような搖動法を用いた従来のめっき法よりもピンホール欠陥の数が減少したのが確認された。
【0062】
よって、本実施例に係るめっき方法を用いれば、図15に示すような超音波法や図12に示すような搖動法のように従来のめっき法を用いて無電解めっきをする場合よりも水素ガスが基材31から離脱するのを促進することができるため、ピンホール欠陥35の数を減らし、無電解Ni−Pめっき層32の防食性を向上させることができる。
【0063】
このように、本実施例によれば、被めっき体11Aを無電解めっき液12に浸漬させて、無電解めっきを開始し、前記定常状態になるまで被めっき体11Aに振動を与え、被めっき体11Aに吸着された水素ガスの離脱を促進することで、前記無電解めっき層にピンホール欠陥が発生するのを防止することができるため、前記無電解めっき層の防食性を向上させることができる。
【0064】
従って、本発明のめっき装置を用いることで、基材の信頼性と保守性が向上し、この基材を用いた圧縮機の運転の安定性、安全性、効率を向上させることができる。
【0065】
本発明のめっき装置及びめっき方法は、圧縮機に限定されるものではなく、蒸気タービン等の回転機械、基板や封止材等の電子部品、絶縁ワニス、耐食構造材料、耐食コーティング膜等にも用いるのにも有用なものである。
【0066】
また、化学プラント等の腐食性環境で使用される圧縮機等の回転機械の流通する気体中の腐食性成分に直接接する部位等にも用いることができ、回転機械の信頼性と効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明に係るめっき装置及びめっき方法は、被めっき体の表面に無電解Ni−Pめっき層を形成する無電解めっきを開始し、前記被めっき体に前記無電解めっき層が形成される際に発生する水素ガス量が一定状態になるまで前記被めっき体に振動を与え、前記被めっき体に吸着された水素ガスの離脱を促進することで、前記無電解めっき層にピンホール欠陥が発生するのを防止することができるため、従来より防食性を向上させためっきを行うのに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による実施例に係るめっき装置の構成を示す概念図である。
【図2】本発明による実施例に係るめっき装置の他の構成を示す概念図である。
【図3】本発明による実施例に係るめっき方法の工程を示す工程図である。
【図4】周波数と振幅とその時に水素ガスが離脱する関係を表す図である。
【図5】本実施例に係るめっき装置を用いてめっきした無電解Ni−Pめっき層と基材の断面概略図である。
【図6】ろ紙上に青色斑点が着色した状態を表す図である。
【図7】本発明のめっき方法と従来のめっき方法とで発生するピンホール欠陥の数を比較した図である。
【図8】無電解Ni-Pめっき層にピンホール欠陥が発生した状態を示す概略断面図である。
【図9】無電解Ni-Pめっき層にピットが発生した状態を示す概略断面図である。
【図10】基材の表面に欠陥が存在した状態を示す概略断面図である。
【図11】基材の表面に汚れが存在した状態を示す概略断面図である。
【図12】揺動法を用いて無電解めっきを行う様子を示す図である。
【図13】めっき液を流動させて無電解めっきを行う様子を示す図である。
【図14】空気でめっき液を攪拌させて無電解めっきを行う様子を示す図である。
【図15】超音波振動法を用いて無電解めっきを行う様子を示す図である。
【図16】圧縮機の入口に設けられるガイド部材の構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
10A、10B めっき装置
11A、11B 被めっき体
12 無電解めっき液
13 めっき槽
14 振動モータ(振動発生装置)
15 振動伝達部材
16 コイルバネ(振幅調整手段)
17 土台
18 プレート
21 加速度センサ
22 アンプ
23 記録装置
31 基材
32 無電解Ni−Pめっき層
33 フェロキシル液
34 ろ紙
35 ピンホール欠陥
36 青色斑点
G 水素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき体を無電解めっき液に浸漬させて、前記被めっき体の表面に無電解めっき層を形成するめっき方法であって、
めっきを開始し、前記被めっき体に前記無電解めっき層が形成される際に発生するガス量が一定状態になるまで前記被めっき体に振動を与え、前記被めっき体に吸着されたガスの離脱を促進することを特徴とするめっき方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記被めっき体を5〜20Hzの周波数で振動させることを特徴とするめっき方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記被めっき体を1〜3mmの振幅で振動させることを特徴とするめっき方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一つにおいて、
前記被めっき体を連続的又は間欠的に振動させることを特徴とするめっき方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記被めっき体を間欠的に振動させる際、
前記被めっき体の振動時間が2〜5秒であることを特徴とするめっき方法。
【請求項6】
被めっき体を無電解めっき液に浸漬させて、前記被めっき体の表面に無電解めっき層を形成するめっき装置であって、
無電解めっき液を収容するめっき槽と、
めっきを開始し、前記被めっき体に無電解めっき層が形成される際に発生するガスが発生しなくなる定常状態になるまで前記被めっき体を振動させる振動発生装置と、
前記被めっき体と前記振動発生装置とを連結する振動伝達手段と、
該振動発生装置が発生する振動の振幅を調整する振幅調整手段と、
を有することを特徴とするめっき装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記被めっき体を5〜20Hzの周波数で振動させることを特徴とするめっき装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記被めっき体を1〜3mmの振幅で振動させることを特徴とするめっき装置。
【請求項9】
請求項6乃至8の何れか一つにおいて、
前記被めっき体を連続的又は間欠的に振動させることを特徴とするめっき装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記被めっき体を間欠的に振動させる際、
前記被めっき体の振動時間が2〜5秒であることを特徴とするめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−138221(P2009−138221A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314680(P2007−314680)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】