説明

ろう材、ろう材の接合方法及びろう材接合基板

【課題】高温で動作する半導体チップの使用温度に耐える耐熱性を有するとともに接合温度を低くできるろう材の接合方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るろう材の接合方法は、回路板11と半導体チップ13との間にAg−Alのろう材12を配置し、前記ろう材12を200℃〜500℃の温度に加熱することにより、回路板11と半導体チップ13を接合するろう材の接合方法であって、前記ろう材12の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう材、ろう材の接合方法及びろう材接合基板等に関し、より詳細には、高温で動作する半導体チップの使用温度に耐える耐熱性を有するとともに接合温度を低くできるろう材、ろう材の接合方法及びろう材接合基板等に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクスの発展の結果、これまで半導体素子が用いられなかった領域へもその適用が広がりつつある。その結果、例えばより高温環境、あるいは放射線照射下といった厳しい環境での使用を要求されるようになりつつある。
【0003】
このような要求に応えるべく、SiC、GaNなどの半導体チップが実用化されつつある。SiCはSiに比べてバンドギャップが2〜3倍、熱伝導度が3.5倍大きいことや、熱的・化学的に極めて安定な半導体であるため、高温、高放射線あるいは化学的に活性な場所(例えば高温で大気中)でも安定に動作する「耐環境性」素子材料として注目されている。また、GaN等の窒化物はバンドギャップが大きく、また高温で安定なため、高温素子材料として適している。
【0004】
しかし、現状では、高温で動作するこれらの半導体チップに十分に適した半田が開発されていないという課題がある。比較的高温で使用できる現状の高温半田はPbが多く、環境面で適しておらず、また熱伝導(放熱)が低く、強度、熱衝撃に対する信頼性に不安がある。また、Sn系のろう材は、高温に耐えることができない。
【0005】
また、Al系、Ag系、Cu系などのろう材や特許文献1に記載されたAg−Cu系のろう材は、融点が高すぎるため、高温でろう材を接合した場合に半導体チップが破壊されるおそれがある。さらに、これらの半田やろう材によってSiC又はGaNと電極を接合した場合に高い接合強度、高い信頼性を得ることは困難である。
【0006】
一方、SiC半導体チップにAg層を蒸着により形成し、このAg層を介して接合材で接合することも考えられる。しかし、Ag層の蒸着工程を追加することになり、工程数が増えて製造コストが増加するという課題が残る。
【0007】
また、Au系のろう材は接合強度を除けば特性は良いが、ろう材が高価でコストが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−23546号公報(段落0023〜0026)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、高温で動作する半導体チップの使用温度に耐える耐熱性を有するとともに接合温度を低くできるろう材、ろう材の接合方法及びろう材接合基板等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係るろう材は、回路板と半導体チップを接合するAg−Al系のろう材において、該ろう材の金属成分として、Al粉末が5〜65mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係るろう材は、回路板と半導体チップを接合するAg−Al−Si系のろう材において、該ろう材の金属成分として、Al粉末が5〜65mass%含有され、Si粉末が5〜15mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係るろう材において、前記半導体チップはSiC半導体チップ又はGaN半導体チップであり、前記回路板は銅板又はアルミニウム板であることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係るろう材の接合方法は、回路板と半導体チップとの間にAg−Al系のろう材を配置し、
前記ろう材を200℃〜500℃の温度に加熱することにより、回路板と半導体チップを接合するろう材の接合方法であって、
前記ろう材の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係るろう材の接合方法は、回路板と半導体チップとの間にAg−Al−Si系のろう材を配置し、
前記ろう材を200℃〜500℃の温度に加熱することにより、回路板と半導体チップを接合するろう材の接合方法であって、
前記ろう材の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、Si粉末が5〜15mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係るろう材接合基板は、回路板上にAg−Al系のろう材によって接合された半導体チップを有するろう材接合基板であって、
前記ろう材の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係るろう材接合基板は、回路板上にAg−Al−Si系のろう材によって接合された半導体チップを有するろう材接合基板であって、
前記ろう材の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、Si粉末が5〜15mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、高温で動作する半導体チップの使用温度に耐える耐熱性を有するとともに接合温度を低くできるろう材、ろう材の接合方法及びろう材接合基板等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態によるろう材の接合方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施形態によるろう材の作製方法は、平均粒子径が50nm以下、好ましくは1〜50nm、さらに好ましくは25nm以下のAg粉末に、平均粒子径が5〜100μmのAl粉末と所定量の有機物バインダー及び溶剤を入れて均一に乳鉢等で混ぜた後、三本ロールを通し、印刷用のペースト状のろう材を作製するものである。ペースト状となれば有機溶剤のみでも良い。Ag粉末とAl粉末を混合してから所定量の有機物バインダー及び溶剤を入れてペースト状のろう材を作っても良い。また、金属粉末の総量を100mass%としたとき、Al粉末は5〜65mass%含有され、残部にAg粉末が含有されていることが好ましい。また、上記のAg粉末とAl粉末にさらに平均粒子径が5〜100μmのSi粉末を加えても良い。このSi粉末は、5〜15mass%含有されることが好ましい。
【0020】
Ag粉末の平均粒子径の上限を50nmとした理由は、50nmを超えると接合性が劣るおそれがあるためである。また、Ag粉末の平均粒子径の下限を1nmとした理由は、平均粒子径を1nmより小さくすると粉のコスト(価格)が高くなりすぎるためである。
【0021】
Al粉末の含有量を5〜65mass%とした理由は、Al粉末が5mass%未満あるいは65mass%を超えると接合強度が低下するおそれがあるためである。また、Al粉末のより好ましい含有量は30〜60mass%である。Al粉末のより好ましい含有量の下限を30mass%とした理由は、高価なAg粉の使用を抑制することができ、接合強度や信頼性も保持されるからである。また、Al粉末の平均粒子径をナノ粉(100nm以下)としていない理由は、ろう材のコスト(原料費)を削減するためである。また、Al粉末のより好ましい平均粒子径は5〜50μmである。このように5〜50μmの範囲とした理由は、平均粒子径が5μmより小さいとAl粉末の原料代が高くなるためであり、平均粒子径が50μmより大きいと所望するろう材ペーストの厚さが形成しにくい場合があるからである。
【0022】
Si粉末の含有量を5〜15mass%とした理由は、Siの添加することでコストを下げながら、この範囲内であれば接合強度また信頼性を保持することができるためである。また、Si粉末の平均粒子径をナノ粉(100nm以下)としていない理由は、ろう材のコスト(原料費)を削減するためである。また、Si粉末のより好ましい平均粒子径は5〜50μmである。このように5〜50μmの範囲とした理由は、平均粒子径が5μmより小さいとSi粉末の原料代が高くなるためであり、平均粒子径が50μmより大きいと所望するろう材ペースの厚さが形成しにくい場合があるからである。
【0023】
図1は、上記のろう材を用いてSiC又はGaNの半導体チップをセラミックス回路基板に実装する実装方法を説明するための断面図である。
【0024】
まず、セラミックス基板10として例えば窒化アルミニウム(AlN)基板を用意し、このセラミック基板10の表面上に溶湯接合法によりアルミニウム膜を接合する。なお、本実施形態では、セラミックス基板10として窒化アルミニウム基板を用いているが、他のセラミックス基板、例えばアルミナ基板や窒化珪素基板等を用いることも可能である。また、本実施形態では、金属板としてアルミニウム膜を用いているが、他の金属板、例えばAl合金板や銅板等を用いることも可能である。また、本実施形態では、溶湯接合法を用いているが、他の接合法、例えばろう接や直接接合法等を用いることも可能である。
【0025】
次いで、このアルミニウム膜にインクレジスト(図示せず)を回路パターン形状にスクリーン印刷する。次いで、このインクレジストに紫外線を照射することによりインクレジストを硬化させる。なお、インクレジストは、プリント回路用に一般的に市販されている印刷用のUVインク(紫外線硬化型インク)が好ましい。
【0026】
この後、このインクレジストをマスクとしてアルミニウム膜をエッチングする。詳細には、インクレジストをマスクとしたアルミニウム膜に例えば塩化鉄を含む溶液などのエッチング液をスプレーで噴射して供給することにより、アルミニウム膜の不要部分がエッチング除去される。次いで、インクレジストを例えば水酸ナトリウム水溶液で剥離する。これにより、セラミックス基板10上にはアルミニウム膜からなる回路板11が形成される。
【0027】
次に、回路板11の上に前記の方法で作製したAg−Al系又はAg−Al−Si系のろう材12をスクリーン印刷により形成し、所定の温度に加熱し、乾燥させる。このろう材12の上にSiC又はGaNの半導体チップ13を配置する。ろう材12の厚さは、20〜200μmが好ましく、より好ましくは20〜100μmである。このようにろう材を形成することにより、被接合部材である回路板12及び半導体チップ13それぞれの接合面の凹凸に追従させることができ、接合欠陥(ボイド)の発生を抑制することができる。また、ろう材を薄くすることで、ろう材の原材料コストを低減できる。
【0028】
次いで、半導体チップ13に所定の荷重を負荷し、ろう材12を200℃〜500℃に加熱して所定時間保持することにより、ろう材12からなる接合層を形成し、この接合層を介して回路板11に半導体チップ13の電極を接合する。
【0029】
その後、セラミックス基板10の裏面にフィン(図示せず)を取り付ける。
【0030】
上記実施形態によれば、平均粒子径が50nm以下のAg粉末のナノパウダーを用いたAg−Al又はAg−Al−Siのろう材12を作製しているため、このろう材12による回路板11と半導体チップ13との接合温度を200℃〜500℃程度の温度に下げることができる。これにより、製造コストを低減することができる。
【0031】
また、Ag−Al系又はAg−Al−Si系のろう材12を用いることにより、例えば500℃の高温で動作する半導体チップの使用温度に耐える耐熱性及び熱衝撃に対する信頼性と優れた熱伝導性を確保することができる。また、Pbレスのろう材とすることにより環境面にも適している。
【0032】
また、ろう材12はAl粉末を5〜65mass%含有するとともにSi粉末を5〜15mass%含有するため、ろう材12の接合強度を向上させることができる。
【0033】
また、回路板11にアルミニウム膜又は銅膜を用い、半導体チップにSiC又はGaNを用いた場合、両者の熱膨張差から応力が発生するが、ろう材12を20〜200μmと厚く形成することにより応力を緩和することができる。
【0034】
また、29.5mass%Ag−Al合金の共晶温度566℃であるが、50nm以下の平均粒子径を有するAg粉末を所定の量とすることで、共晶温度より低い温度で接合することができる。50nm以下のナノAg粉は、表面が非常に活性な状態となっており、低温でも焼結が進むと考えられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
一方の被接合材として厚さ1mm、縦横2mm角の大きさのSiC半導体チップを用意する。
他方の被接合材としてAl−AlN接合基板を用意する。このAl−AlN接合基板は、厚さ0.6mmのAlN基板上に溶湯接合法により厚さ0.4mmのアルミニウム膜を接合したものである。
【0036】
粒子径が16nm以下、平均粒子径8.8nmのAg粉末と、平均粒子径が7μmのAl粉末(粒径37μm以下、#350)と、テレピネオールを用意する。80mass%のAg粉末と20mass%のAl粉末を混合した混合粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、80Ag−20Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0037】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に80Ag−20Alのペースト状のろう材をチップと同じ長さと幅で厚さ100μmになるように印刷し、大気中において80℃で30分加熱し、ろう材を乾燥する。このろう材の上にSiC半導体チップを配置し、10−5torrの真空中において400℃で30分加熱し、ろう接を行うことにより、Al−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0038】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を評価した結果、その接合強度は30MPa以上であった。この際の評価方法は、下記のとおりである。
チップが接合されたAl−AlN接合基板をプル試験機(小型の引張試験機)の台に水平に固定し、チップの側面をプル試験機のチャックではさみ、プル試験機を作動させ鉛直方向に引っ張った。そのときにチップが接合基板から剥がされたときの荷重(破壊荷重)をチップの面積で除し、接合強度とした。
【0039】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップにヒートサイクル試験を行った結果、ヒートサイクル性が良好であることが確認された。この際のヒートサイクル試験方法は、下記のとおりである。
チップが接合されたAl−AlN基板をヒートサイクル試験機に投入し、100サイクル(1サイクル:室温→−40℃×30分→室温×10分→125℃×30分→室温×10分、大気中)終了後、ヒートサイクル試験機から取り出した。そのときに、チップが剥がれていない場合をヒートサイクル性良好とした。
【0040】
(実施例2)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0041】
実施例1と同様のAg粉末とAl粉末とビヒクルを用意する。70mass%のAg粉末と30mass%のAl粉末を混合した混合粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、70Ag−30Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0042】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に70Ag−30Alのペースト状のろう材を実施例1と同様の厚さ100μmになるように印刷し、実施例1と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0043】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は30MPa以上であった。
【0044】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、ヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0045】
(実施例3)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0046】
実施例1と同様のAg粉末とAl粉末とビヒクルを用意する。60mass%のAg粉末と40mass%のAl粉末を混合した混合粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、60Ag−40Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0047】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に60Ag−40Alのペースト状のろう材を実施例1と同様の厚さ100μmになるように印刷し、実施例1と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0048】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は30MPa以上であった。
【0049】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、ヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0050】
(実施例4)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0051】
実施例1と同様のAg粉末とAl粉末とビヒクルを用意する。40mass%のAg粉末と60mass%のAl粉末を混合した混合粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、40Ag−60Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0052】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に40Ag−60Alのペースト状のろう材を実施例1と同様の厚さ100μmになるように印刷し、実施例1と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0053】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は30MPa以上であった。
【0054】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、ヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0055】
(実施例5)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0056】
実施例1と同様のAg粉末とAl粉末とビヒクルと、平均粒子径が7μmのSi粉末(粒径37μm以下、#350)を用意する。40mass%のAg粉末と50mass%のAl粉末と10mass%のSi粉末を混合した混合粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、40Ag−50Al−10Siの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0057】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に40Ag−50Al−10Siのペースト状のろう材を実施例1と同様の厚さ100μmになるように印刷し、実施例1と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0058】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は40MPa以上であった。
【0059】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、ヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0060】
(実施例6)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0061】
実施例5と同様のAg粉末とAl粉末とSi粉末とビヒクルを用意する。60mass%のAg粉末と30mass%のAl粉末と10mass%のSi粉末を混合した混合粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、60Ag−30Al−10Siの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0062】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に60Ag−30Al−10Siのペースト状のろう材を実施例1と同様の厚さ100μmになるように印刷し、実施例1と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0063】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は40MPa以上であった。
【0064】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、ヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0065】
(実施例7)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0066】
実施例5と同様のAg粉末とAl粉末とSi粉末とビヒクルを用意する。80mass%のAg粉末と10mass%のAl粉末と10mass%のSi粉末を混合した混合粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、80Ag−10Al−10Siの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0067】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に80Ag−10Al−10Siのペースト状のろう材を実施例1と同様の厚さ100μmになるように印刷し、実施例1と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0068】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は40MPa以上であった。
【0069】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、ヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0070】
実施例5〜7によれば、ろう材12はAl粉末を10〜50mass%含有するとともにSi粉末を10mass%含有するため、ろう材12の接合強度を向上させることができる。
【0071】
(実施例8)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0072】
実施例3と同様の60Ag−40Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0073】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に60Ag−40Alのペースト状のろう材を厚さ50μmになるように印刷し、大気中において80℃で30分加熱し、ろう材を乾燥する。このろう材の上にSiC半導体チップを配置し、常圧のAr雰囲気において400℃で3時間加熱し、ろう接を行うことにより、Al−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0074】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は30MPa以上であった。
【0075】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、ヒートサイクル性が良好であることが確認された。また、ろう材の厚さが100μmのものと比べて、原料粉末代が半分となるメリットがある。
【0076】
(実施例9)
実施例8と同様の被接合材を用意する。
【0077】
実施例8と異なる平均粒子径が100nm以下のAg粉末と、実施例8と同様のAl粉末とビヒクルを用意する。実施例8と同様の混合粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、実施例8と同様の60Ag−40Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0078】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に60Ag−40Alのペースト状のろう材を実施例8と異なる厚さ200μmになるように印刷し、実施例8と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0079】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は実施例8と同様の30MPa以上であった。
【0080】
また、接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、実施例8と同様にヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0081】
(実施例10)
実施例1と同様に、一方の被接合材として厚さ1mm、縦横2mm角の大きさのSiC半導体チップを用意する。
実施例1と異なり、他方の被接合材としてCu−AlN接合基板を用意する。このCu−AlN接合基板は、AlN基板上にAg−Cu−Ti系のろう材により銅膜を接合したものである。
【0082】
実施例8と同様の60Ag−40Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0083】
次に、Cu−AlN接合基板の銅膜上に60Ag−40Alのペースト状のろう材を実施例1と同様の厚さ100μmになるように印刷し、実施例8と同様の接合条件によりCu−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0084】
このようにして接合したCu−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は30MPa以上であった。
【0085】
また、接合したCu−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、実施例8と同様にヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0086】
(実施例11)
実施例10と同様の被接合材を用意する。
【0087】
実施例10と同様の60Ag−40Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0088】
次に、Cu−AlN接合基板の銅膜上に60Ag−40Alのペースト状のろう材を実施例10と同様に、厚さ100μmになるように印刷し、大気中において80℃で30分加熱し、ろう材を乾燥する。このろう材の上にSiC半導体チップを配置し、実施例10と同様に常圧のAr雰囲気において実施例10と異なる温度である500℃で3時間加熱し、ろう接を行うことにより、Cu−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。
【0089】
このようにして接合したCu−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は実施例10と同様の30MPa以上であった。
【0090】
また、接合したCu−AlN接合基板とSiC半導体チップに実施例1と同様の方法でヒートサイクル試験を行った結果、実施例10と同様にヒートサイクル性が良好であることが確認された。
【0091】
(比較例1)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0092】
実施例1と同様のAg粉末とビヒクルを用意する。100mass%のAg粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、100Agの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0093】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合強度は20MPa以下であった。
【0094】
(比較例2)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0095】
実施例1と同様のAl粉末とビヒクルを用意する。100mass%のAg粉末に一定量のテレピネオールを加えて自動乳鉢で混合した後、三本ロールを3回通し、100Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0096】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に100Alのペースト状のろう材を実施例1と同様の厚さ100μmになるように印刷し、実施例1と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合した結果、Al−AlN接合基板にSiC半導体チップが接合しなかった。
【0097】
(比較例3)
実施例1と同様の被接合材を用意する。
【0098】
実施例4と同様の組成の40Ag−60Alの印刷用のペースト状のろう材を作製する。
【0099】
次に、Al−AlN接合基板のアルミニウム膜上に60Ag−40Alのペースト状のろう材を実施例と異なる厚さ20μmになるように印刷し、実施例8と同様の接合条件によりAl−AlN接合基板にSiC半導体チップを接合する。なお、ろう材中のAg粉末の粒径(1〜37μm)は大きくナノ粉末ではない。
【0100】
このようにして接合したAl−AlN接合基板とSiC半導体チップの接合強度を実施例1と同様の方法で評価した結果、その接合しなかった。
【0101】
上記実施例1〜11及び比較例1〜3によれば、平均粒子径が100nm以下のAg粉末のナノパウダーを用いたAg−Al又はAg−Al−Siのろう材を作製しているため、このろう材によるAl−AlN接合基板とSiC半導体チップとの接合温度を500℃以下に下げることができる。これにより、製造コストを低減することができる。
【0102】
また、上記実施例1〜11及び比較例1〜3では、Ag−Al又はAg−Al−Siのろう材を用いることにより、高温で動作する半導体チップの使用温度に耐える耐熱性及び熱衝撃に対する信頼性と優れた熱伝導性を確保することができる。
【0103】
尚、本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0104】
10 セラミックス基板
11 回路板
12 ろう材
13 半導体チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路板と半導体チップを接合するAg−Al系のろう材において、該ろう材の金属成分として、Al粉末が5〜65mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とするろう材。
【請求項2】
回路板と半導体チップを接合するAg−Al−Si系のろう材において、該ろう材の金属成分として、Al粉末が5〜65mass%含有され、Si粉末が5〜15mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とするろう材。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記半導体チップはSiC半導体チップ又はGaN半導体チップであり、前記回路板は銅板又はアルミニウム板であることを特徴とするろう材。
【請求項4】
回路板と半導体チップとの間にAg−Al系のろう材を配置し、
前記ろう材を200℃〜500℃の温度に加熱することにより、回路板と半導体チップを接合するろう材の接合方法であって、
前記ろう材の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とするろう材の接合方法。
【請求項5】
回路板と半導体チップとの間にAg−Al−Si系のろう材を配置し、
前記ろう材を200℃〜500℃の温度に加熱することにより、回路板と半導体チップを接合するろう材の接合方法であって、
前記ろう材の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、Si粉末が5〜15mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とするろう材の接合方法。
【請求項6】
回路板上にAg−Al系のろう材によって接合された半導体チップを有するろう材接合基板であって、
前記ろう材の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とするろう材接合基板。
【請求項7】
回路板上にAg−Al−Si系のろう材によって接合された半導体チップを有するろう材接合基板であって、
前記ろう材の金属成分は、Al粉末が5〜65mass%含有され、Si粉末が5〜15mass%含有され、残部に平均粒子径が50nm以下のAg粉末が含有されていることを特徴とするろう材接合基板。

【図1】
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【公開番号】特開2010−234401(P2010−234401A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84797(P2009−84797)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】