ろう材、金属部材の接合構造、および、金属部材の接合方法
【課題】同種金属部材の接合構造と略同程度の強度を有する異種金属部材の接合構造を得ることができるろう材および金属部材の接合方法、ならびに、それにより得られる金属部材の接合構造を提供する。
【解決手段】Fe系金属部材とAl系金属部材との接合では、それら部材間にZn−Si系ろう材を介在させることにより、接合構造体10が得られる。接合構造体10の接合部4は、そのFe系金属部材1側の境界部40に、ろう材層41、反応層42、および、Si濃縮層43を有する。Si濃縮層43は、Siを主成分として含有し、AlのFe系金属部材1への流入およびFeのろう材層41への流入を防止するので、Fe系材料(Fe系金属部材1および反応層42)とろう材層41との間には、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されず、Fe系材料とろう材層41は直接接合する。
【解決手段】Fe系金属部材とAl系金属部材との接合では、それら部材間にZn−Si系ろう材を介在させることにより、接合構造体10が得られる。接合構造体10の接合部4は、そのFe系金属部材1側の境界部40に、ろう材層41、反応層42、および、Si濃縮層43を有する。Si濃縮層43は、Siを主成分として含有し、AlのFe系金属部材1への流入およびFeのろう材層41への流入を防止するので、Fe系材料(Fe系金属部材1および反応層42)とろう材層41との間には、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されず、Fe系材料とろう材層41は直接接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう材、金属部材の接合構造、および、金属部材の接合方法に係り、特に金属部材としてFe系金属部材とAl系金属部材を用いた異種金属部材の接合に適用されるろう材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
各種継手等の金属部材の接合構造は、異種金属部材の接合により製造されている。異種金属部材の接合では、それら金属部材の間に介在させたろう材をレーザ照射で加熱することによりブレージング(ろう付)を行っている。これにより、異種金属部材の間に接合部を形成することにより、金属部材の接合構造を製造している。
【0003】
たとえば、異種金属部材として、Fe系材料からなるFe系金属部材およびAl系材料からなるAl系金属部材を用いる場合、ろう材としてZn−Al系ろう材が用いられている(たとえば特許文献1参照)。Znは化合物層を形成せず、広い範囲で、低融点母材であるAl系金属部材のAlと共晶組織を形成するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3740858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Fe系金属部材と接合部との境界部では、ろう付け金属部の組織が、共晶融解したAl系金属部材のAlを含むZn−Al系組織となっているため、そのろう付け部のAlとFe系金属部材とでFe−Al系の金属間化合物層を形成してしまい、そのFe−Al系の金属間化合物層が脆弱であるため、そこで破断が生じる虞があった。その結果、異種金属部材の接合構造の強度は、同種金属部材の接合構造のものより非常に低下していた。
【0006】
したがって、本発明は、同種金属部材の接合構造と略同程度の強度を有する異種金属部材の接合構造を得ることができるろう材およびそれを用いた金属部材の接合方法、ならびに、それにより得られる金属部材の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、金属部材としてFe系金属部材とAl系金属部材を用いた異種金属接合に適用されるろう材について鋭意研究を重ねた。従来では、ZnにSiを添加した場合、図9(A)に示すように、その材料の融点が、Siの添加に従い上昇して600〜900℃程度と高くなるため、SiはZn系ろう材の添加元素として検討されていなかった。Zn系ろう材の添加元素として通常用いられているのは、図9(B)に示すように、Znとの共晶によりろう材の融点を低下させるAlである。なお、図9(A)はZnSiの2元平衡状態図、(B)はZnAlの2元平衡状態図である(出典: Binary Alloy Phase Diagrams、ASM International, Materials Park)。
【0008】
これに対して、本発明者は、添加元素としてSiを含有させたZn−Si系ろう材を用いることにより、Fe系金属部材と接合部との境界部にFe−Al系の金属間化合物層が形成されないことを見出した。すなわち、本発明のろう材は、Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との接合に用いられるろう材であって、Zn、Si、および、不可避不純物からなることを特徴としている。
【0009】
本発明のろう材では、添加元素としてSiを含有させたZn−Si系ろう材を用いることにより、Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との異種金属部材接合を行うので、Fe系金属部材と接合部との境界部にFe−Al系の金属間化合物層が形成されない。従来では、Fe系金属部材と接合部との境界部のFe−Al系の金属間化合物層が脆弱であるため、接合構造体の強度低下を招いていたが、本発明では、Fe系金属部材と接合部との境界部にSiを主成分として含有する層が形成され、その層によってAlのFe系金属部材への流入およびFeのろう材層への流入が防止されるから、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されない。したがって、Fe系金属部材と接合部との境界部の強度を図ることができるので、同種金属部材接合と略同等の接合強度を得ることができる。
【0010】
本発明のろう材は種々の構成を用いることができる。たとえば、Si:0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなることができる。この態様では、接合強度(特にピール強度)をさらに向上させることができる。
【0011】
本発明の金属部材の接合方法は、本発明のろう材を用いる。すなわち、本発明の金属部材の接合方法は、Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との間にろう材を介在して、Fe系金属部材とAl系金属部材とを接合する接合方法であって、ろう材は、Zn、Si、および、不可避不純物からなることを特徴としている。本発明の金属部材の接合方法は、本発明のろう材を用いるので、本発明のろう材による効果と同様な効果を得ることができる。
【0012】
本発明の金属部材の接合方法は種々の構成を用いることができる。たとえば、被接合部のFe系金属部材をFe系材料の融点以上の温度で加熱を行うことができる。この態様では、Fe系材料からなるFe系金属部材の被接合部をFe系材料の融点以上の温度で加熱するので、接合時にFe系金属部材の被接合部にキーホールを形成することができる。なお、キーホールとは、金属部材が溶融することにより形成される空洞部のことである。また、被接合部とは、Fe系金属部材とAl系金属部材との接合予定部のことを表し、接合部とは、接合後の接合予定部のことを表している。
【0013】
レーザ照射による加熱では、キーホール内でレーザビームが多重反射するから、キーホール内でエネルギー密度が高くなり、キーホール内の上側から下側までの全表面が略均一に加熱される。これにより、被溶接部の加熱後、キーホール内に入り込んだ溶融Zn−Si系ろう材は、キーホール内の全表面と一様に反応することができる。したがって、Fe系金属部材と接合部との境界部の強度をさらに高めることができるので、接合構造体の接合強度の向上をさらに図ることができる。
【0014】
また、Zn系材料およびFe−Zn系材料は蒸気化する。これにより、GAメッキ、GIメッキなどのメッキの種類に関係なく、Fe系材料に施されたメッキ部分が蒸気化するから、メッキの種類に関係なく、良好な接合部を得ることができる。さらに、Fe系材料表面の酸化被膜を過熱による溶融および蒸気化の際の蒸気圧で除去するから、フラックスを用いなくても、異材金属部材接合を良好に行うことができる。
【0015】
本発明の金属部材の接合構造は、本発明の金属部材の接合方法により製造される接合構造である。すなわち、本発明の金属部材の接合構造は、Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材とがZn、Si、および、不可避不純物からなるろう材により接合されて形成される金属部材の接合構造であって、Fe系金属部材とAl系金属部材との間には接合部が形成され、接合部は、Al系金属部材に隣接するとともに、Znを主成分として含有し、残部にAlが含有される第1層と、Fe系金属部材に隣接するとともに、Feを主成分として含有し、残部にZnが含有される第2層と、第1層と第2層との間に形成されるとともに、Siを主成分として含有する第3層とを有していることを特徴としている。
【0016】
本発明の金属部材の接合構造では、接合部におけるFe系金属部材との境界部には、Siを主成分として含有し、上記のようにAlのFe系金属部材への流入およびFeの第1層(ろう材層)への流入を防止する第3層が形成されているので、Fe系材料(Fe系金属部材および第2層)と第1層との間に、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されず、Fe系材料とろう材層は直接接合する。したがって、上記のように接合強度の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のろう材、金属部材の接合構造、あるいは、金属部材の接合方法によれば、Fe系金属部材と接合部との境界部に脆弱なFe−Al系の金属間化合物層が形成されないから、Fe系金属部材と接合部との境界部の強度を図ることができ、その結果、接合構造体は、同種金属部材接合と略同等の接合強度を得ることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る一実施形態の金属部材の接合方法により接合構造体を製造する状態の概略構成を表し、(A)は斜視図、(B)は側面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態の金属部材の接合時にキーホールが形成された被接合部の構成を表す断面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の金属部材の接合方法により得られた接合構造体の一例を表し、(A)は断面構成図、(B)は(A)の部分拡大図である。
【図4】(A)は、Zn−Si系ろう材(Si含有量1.0wt%)を用いて得られた接合構造体の接合部のSEM写真(左側写真)およびその写真におけるFe系金属部材と接合部との境界部の拡大SEM写真(右側写真)であり、(B)は、(A)の拡大写真で示された境界部のEPMAマップ分析写真である。
【図5】Fe系金属部材と接合部との境界部のSEM写真であり、(A)は3000倍のSEM写真、(B)は15000倍のSEM写真である。
【図6】(A)は、Fe系金属部材と接合部との境界部の拡大SEM写真であり、(B)は、(A)の枠Xで示される部分の拡大SEM写真であり、(C)は、(B)の拡大SEM写真で示された部分のEPMAマップ分析写真である。
【図7】(A)〜(E)は、図6(C)で示された部分の各元素のEPMAマップ分析写真であり、(A)はO、(B)はAl、(C)はSi、(D)はFe、(E)はZnのEPMAマップ分析写真である。
【図8】Zn−Si系ろう材(Si含有量1.0wt%)を用いて得られた接合構造体の接合部のSEM写真である。
【図9】図8の枠Yで示される部分のTEM写真(倍率:30000倍)である。
【図10】図8の枠Yで示される部分の拡大TEM写真(倍率:150000倍)である。
【図11】(A),(B)は、フレア引張強度試験およびピール強度試験の手法を説明するための接合構造体の概略断面構成図である。
【図12】フレア引張強度試験で得られた各試料の強度を表すグラフである。
【図13】ピール強度試験で得られた各試料の強度を表すグラフである。
【図14】(A)はZnSiの2元平衡状態図、(B)はZnAlの2元平衡状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る一実施形態の金属部材の接合方法を用いて接合を行っている状態の概略構成を表し、(A)は概略斜視図、(B)は正面図である。
【0020】
金属部材の接合方法は、たとえばフレア継手を製造する配置を用いている。金属部材として、Fe系材料からなるFe系金属部材1およびAl系材料からなるAl系金属部材2を用いている。Fe系金属部材1,Al系金属部材2は湾曲部11,12を有している。Fe系金属部材1およびAl系金属部材2の配置では、湾曲部11,12どうしが対向し、それら湾曲部11,12により開先形状13を形成している。この場合、Fe系金属部材1とAl系金属部材2との対向部に段差を設けている。
【0021】
本実施形態の金属部材の接合方法では、開先形状13の中心部に、ワイヤガイド101を通じてワイヤ状のZn−Si系ろう材3を送出しながら、Zn−Si系ろう材3の先端部にレーザビーム102を照射する。Zn−Si系ろう材3は、Zn、Si、および、不可避不純物からなる。この場合、Siが0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなることが好適である。
【0022】
レーザビーム102の照射では、Fe系金属部材1およびAl系金属部材2の被接合部をFe系材料の融点以上の温度で加熱することが好適である。図2は、Fe系金属部材1とAl系金属部材2との接合時にキーホール5が形成された被接合部の概略構成を表す断面図である。被接合部では、加熱により材料の溶融・蒸発が起こり、蒸発した材料による蒸発反力(図中の矢印)によってキーホール5が形成される。この場合、溶融しているZn−Si系ろう材は、レーザ照射部の周囲に存在している。このようなキーホール5内ではレーザビーム102が、図中の点線で示すように多重反射するから、キーホール5内ではエネルギー密度が高くなり、キーホール5内の上側から下側までの全表面が略均一に加熱される。これにより、レーザビーム102の通過後、キーホール5内に入り込む溶融Zn−Si系ろう材は、キーホール5内の全表面と一様に反応することができる。
【0023】
このようなレーザビーム102の照射による加熱を開先形状13の延在方向に沿って図1の手前側から奥側に行うことにより、図3(A),(B)に示すように、Fe系金属部材1とAl系金属部材2との接合構造体10を製造することができる。図3(A)は接合構造体10の断面構成図、(B)は(A)に示す接合部4におけるFe系金属部材1側の境界部40の部分拡大図である。
【0024】
接合構造体10は、Fe系金属部材1とAl系金属部材2とを備え、Fe系金属部材1とAl系金属部材2の間には接合部4が形成されている。接合部4は、図3(B)に示すように、Al系金属部材2に隣接するろう材層41(第1層)、Fe系金属部材1に隣接する反応層42(第2層)、ろう材層41と反応層42との間に形成されたSi濃縮層43(第3層)を有する。ろう材層41は、Znを主成分として含有し、残部にAlを含有している。反応層42は、Feを主成分として含有し、残部にZnを含有している。Si濃縮層43は、Siを主成分として含有している。Si濃縮層43は、AlのFe系金属部材1への流入およびFeのろう材層41への流入を防止するので、Fe系材料(Fe系金属部材1および反応層42)とろう材層41との間には、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されず、Fe系材料とろう材層41は直接接合する。
【0025】
接合部4では、Si粒がマトリックス中に散在し、その粒径が小さい方が好適である。具体的には、Siの粒径は、Znの有する機械的伸びを阻害しないサイズ(たとえば10μm以下)が好適である。Si粒の微粒化は、ろう材の製造における押し出し工程時の結晶粒の切断により行われるものと推察される。
【0026】
本実施形態では、Zn−Si系ろう材3を用いて、Fe系金属部材1とAl系金属部材2との異種金属部材接合を行うので、Fe系金属部材と接合部との境界部にSiを主成分として含有する層が形成され、その層によってAlのFe系金属部材への拡散が防止されるから、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されない。したがって、Fe系金属部材1と接合部4との境界部の強度向上を図ることができるので、接合構造体10は、同種金属部材接合と略同等の接合強度を得ることができる。特に、Zn−Si系ろう材3として、Si:0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなるろう材を用いているので、接合強度(特にピール強度)をさらに向上させることができる。
【0027】
また、Fe系金属部材1の被接合部に形成されたキーホール5内へ加熱後に入り込んだ溶融Zn−Si系ろう材は、キーホール5内の全表面と一様に反応することができるので、Fe系金属部材1と接合部4との境界部の強度をさらに高めることができる。その結果、接合構造体10の接合強度の向上をさらに図ることができる。
【0028】
また、Zn系材料およびFe−Zn系材料は蒸気化する。これにより、GAメッキ、GIメッキなどのメッキの種類に関係なく、Fe系材料に施されたメッキ部分が蒸気化するから、メッキの種類に関係なく、良好な接合部を得ることができる。さらに、Fe系材料表面の酸化被膜を過熱による溶融および蒸気化の際の蒸気圧で除去するから、フラックスを用いなくても、異材金属部材接合を良好に行うことができる。
【実施例】
【0029】
以下、具体的な実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【0030】
実施例では、図1に示す配置形態と同様にFe系金属部材およびAl系金属部材を配置し、それら金属部材の湾曲部により開先形状を形成した。そして、その開先形状の中心部に、ワイヤ状のZn−Si系ろう材をワイヤガイドを通じて送出しながら、Zn−Si系ろう材の先端部にレーザビームを照射した。これによりフレア継手形状の金属部材の接合構造体を製造した。
【0031】
接合条件については、レーザビームの集光径を1.8mm、レーザ出力を1.4kW、接合速度を1m/min、ワイヤ速度を3.2m/minとした。Fe系金属部材として、鋼板(JAC270、板厚1.0mm、図1での縦方向長さ200mm、横方向長さ80mm)を用い、Al系金属部材として、Al板(A6022-T4、板厚が1.2mm、図1での縦方向長さを200mm、横方向長さを80mm)を用いた。
【0032】
以上のような金属部材の接合では、Siの含有量の異なる(Si含有量が0.25wt%、1.0wt%、2.5wt%)Zn−Si系ろう材を用意し、各Zn−Si系ろう材を用いて金属部材の接合を行い、各Zn−Si系ろう材に対応する金属部材の接合構造体を得た。そして、接合方向に直交する方向で各接合構造体を短冊状に切断し、複数のテストピースを得た。なお、全てのZn−Si系ろう材のワイヤ径を1.2mmとした。以上のような接合構造体のテストピースを用いて、各種評価を行った。
【0033】
[Fe系金属部材と接合部との境界部の元素分析および観察]
(1)低倍率元素分析およびSEM観察
まず、Fe系金属部材と接合部との境界部について低倍率で元素分析および観察を行った。Si含有量が1.0wt%のZn−Si系ろう材を用いて得られた接合構造体のテストピースについて、電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)により低倍率で元素分析を行った。図4(A)は、接合構造体の接合部のSEM写真(左側写真)およびその写真におけるFe系金属部材と接合部との境界部の拡大SEM写真(右側写真)であり(B)は、(A)の拡大SEM写真で示された境界部のEPMAマップ分析写真(Zn、Al、Fe、Si)である。
【0034】
また、同一の接合構造体のテストピースについて、走査型電子顕微鏡(SEM)によりFe系金属部材と接合部との境界部の観察を行った。その結果を図5に示す。図5は、Fe系金属部材と接合部との境界部のSEM写真であり、(A)は3000倍のSEM写真、(B)は15000倍のSEM写真である。
【0035】
図4(A)に示すように、本実施例のFe系金属部材と接合部との境界部には、従来の接合構造体で形成されていたFe−Al系の金属間化合物層が観察されず、図4(B)に示すEPMA元素マップ分析では、Siが一様に散在するとともに、FeとZnの界面(すなわち、Fe系金属部材と接合部との界面)が明瞭に観察された。Alは、Al系金属部材のAlが溶接により接合部に固溶拡散したものである。また、図5(A)の3000倍のSEM写真、図5(B)の15000倍のSEM写真に示すように、SEM観察での倍率を高くしても、本実施例のFe系金属部材と接合部との境界部には、従来の接合構造体で形成されていたFe−Al系の金属間化合物層が観察されなかった。
【0036】
以上のようなEPMA元素マップ分析およびSEM観察の結果、本発明の実施例のFe系金属部材と接合部との境界部には、従来の接合構造体(Zn−Al系ろう材により接合された接合構造体)で形成されていた脆弱なFe−Al系の金属間化合物層が存在しないことを確認した。
【0037】
(2)高倍率元素分析およびTEM観察
次に、Fe−Al系の金属間化合物層が存在しないFe系金属部材と接合部との境界部について詳細に調べるために、Fe系金属部材と接合部との境界部について高倍率で元素分析および観察を行った。Si含有量が1.0wt%のZn−Si系ろう材を用いて得られた接合構造体のテストピースについて、EPMAにより高倍率で元素分析を行った。図6(A)は、Fe系金属部材と接合部との境界部のSEM写真、図6(B)は、図6(A)の枠Xで示される部分の拡大SEM写真であり、図6(C)は、図6(B)の拡大SEM写真で示された部分のEPMAマップ分析写真である。図6(B)中の赤色部分はFe、緑色部分はZn、黄色部分はSi、水色部分はAlを示している。図7(A)〜(E)は、図6(C)で示された部分の各元素のEPMAマップ分析写真であり、(A)はO、(B)はAl、(C)はSi、(D)はFe、(E)はZnのEPMAマップ分析写真である。
【0038】
EPMA元素マップ分析から判るように、Al系金属部材側にはZnとAlを含有する層(ろう材層)が観察され、Fe系金属部材側にはFeとZnを含有する層(反応層)が観察され、ろう材層と反応層との間にはSiを含有する層(Si濃縮層)が観察された。Si濃縮層の幅は、50〜200nm程度であった。Si濃縮層は、図7(B),(C),(E)に示されるように、Zn,Alを含有せずに、Siを高濃度で含有していることを確認し、Alは、図7(B)に示されるように、Si濃縮層だけではなく、反応層にも含有されていないことを確認した。ろう材層について、図6(B)に示すポイントP11において透過型電子顕微鏡(TEM)により得られた各種データの解析により組成比、材質、結晶構造を表1に示すように得た。
【0039】
【表1】
【0040】
以上のようにSi濃縮層が形成されているFe系金属部材と接合部との境界部について詳細に調べるために、Si含有量が1.0wt%のZn−Si系ろう材を用いて得られた接合構造体のテストピースについて、TEMによりFe系金属部材と接合部との境界部の観察を行った。図8は、接合構造体の接合部のSEM写真、図9は、図8の枠Yで示される部分のTEM写真(倍率:30000倍)、図10は、図9の接合部の拡大TEM写真(倍率:150000倍)である。
【0041】
図9のTEM写真(倍率:30000倍)におけるポイントP21〜25で示す部分において、TEMで得られた各種データの解析により組成比、材質、結晶構造を得た。その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
ろう材層におけるポイントP21の部分はhcp構造のZnであった。ろう材層におけるポイントP22の部分はfcc構造のZn−Alであった。反応層におけるポイントP23の部分はbcc構造のαFe(固溶体)、ポイントP24の部分はbcc構造のFe3Zn10(Znめっき)であった。反応層は、従来の問題点であった脆弱なFe−Al系の金属間化合物層(たとえば斜方晶格子のFe2Al5からなる層)とは異なり、Fe(固溶体)とZnめっきとの微細混合層であり、全て金属格子結合で形成されている層であることが判った。反応層の幅は、1μm程度であった。Fe系金属部材におけるポイントP25の部分はbcc構造のFeであった。この場合、Feは、圧延組織ではなく、結晶が微細化されたものであることが判った。
【0044】
以上のような30000倍のTEM解析では、Siの存在を確認することができなかったから、Siの存在を調べるために、150000倍の倍率でTEM写真(図10)を得た。図10のTEM写真におけるポイントP31〜33で示す部分において、TEM解析により得られた組成比を表3に示す。なお、ポイントP33については、重量濃度(wt%)に加えて、原子濃度(at%)を併記している。
【0045】
【表3】
【0046】
ろう材層におけるポイントP31の部分はhcp構造のZnであった。反応層におけるポイントP32の部分はbcc構造のαFe(固溶体)であった。Si濃縮層におけるポイントP33の部分では、Siが濃縮されて存在していることが判った。Si濃縮層の幅は50nm程度であった。Si濃縮層は、Fe系材料(Fe系金属部材および反応層)とろう材層との間に形成されていることから、それら材料に対する反応障壁としての作用(=AlのFe系金属部材への流入およびFeのろう材層への流入を防止する作用)を有していると推察され、これによりFe系材料とろう材層との間に、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されず、Fe系材料とろう材層が直接接合したと考えられる。なお、表3に示すように、ポイントP33の部分で示されるSi濃縮層には、図7(B),(C),(E)に示したEPMAマップ分析とは異なり、Alが多く含有されているが、これは次の理由による。すなわち、TEM解析による各部分の化学組成分析では、テストピースを切断しているが、層の幅が狭いSi濃縮層の部分については、それに隣接するろう材層の部分を含んで解析したため、Si濃縮層の化学組成分析において、Alが多く検出されたものと考えられる。
【0047】
[金属接合構造体の接合強度評価]
Si含有量が0.25wt%、1.0wt%、2.5wt%のZn−Si系ろう材を用いて得られた各接合構造体のテストピースについて、フレア引張強度試験およびピール強度試験を行った。テストピースとしては、接合構造体の中央部側の2ピースおよび両端部側の4ピースを用い、それらを各強度試験用に配分し、フレア引張強度試験およびピール強度試験のそれぞれで中央部側の1ピースおよび両端部側の2ピース(計3ピース)を用いた。
【0048】
フレア引張強度試験では、図11(A)に示すように、接合部23が形成された面側でT字状をなすFe系金属部材21およびAl系金属部材22の横方向延在部に対して、互いに反対方向の力を加えた。フレア引張強度試験では、矢印A,Bが指示する部分で応力が最もかけられる。
【0049】
その結果(フレア引張強度値および破断箇所)を表4および図12に示す。表4では、Si含有量が0.25wt%、1.0wt%、2.5wt%のZn−Si系ろう材に対応する接合構造体のテストピースの試験結果を試料11〜13としている。表4には比較試料11,12の結果を併記している。比較試料11は、ろう材として、Alの添加量が6wt%のZn−Al系ろう材を用いて得られたFe系金属部材とAl系金属部材との接合構造体のテストピースである。比較試料12は、ろう材として、市販のろう材を用いて得られたAl系金属部材どうしの接合構造体のテストピースである。比較試料11,12のテストピースは、得られた接合構造体を試料11〜13と同様に短冊状に切断したものである。図12では、各試料のフレア引張強度の平均値および破断箇所を併記している。
【0050】
フレア引張強度試験の強度基準値(図12の一点鎖線)は、次のように設定している。スポット溶接の1打点と等価の連続溶接の継手長を20mmに設定し、JIS Z3140のなかのAlどうしのスポット溶接を基準とした。これにより、Alの板厚が1.2mmであるスポット溶接の引張強度基準は1.86kN/20mmとなる。
【0051】
【表4】
【0052】
表4および図12に示すように、異種金属部材の接合構造体である本発明の試料11〜13の引張強度が、その強度基準値を上回った。しかも、本発明の試料11〜13の引張強度は、異種金属部材の接合構造体である比較試料11の引張強度よりも高いのはもちろんのこと、同種金属部材の接合構造体である比較試料12の引張強度よりも高かった。そして、少量のSi含有量(0.25wt%)で引張強度が大幅に向上したことを確認した。また、本発明の試料11〜13では、Fe系金属部材と接合部の境界部で破断した比較試料11と異なり、Al系金属部材で破断したことを確認した。
【0053】
ピール強度試験では、図11(B)に示すように、接合部23が形成された面とは反対側の面でT字状をなすFe系金属部材21およびAl系金属部材22の横方向延在部に対して互いに反対方向の力を加えた。このようなピール強度試験では、接合境界部(矢印Cで指示される箇所)に高い応力を集中させることにより、接合境界部の強度を測定することができる。
【0054】
その結果(ピール引張強度値および破断形態)を表5および図13に示す。表5では、Si含有量が0.25wt%、1.0wt%、2.5wt%のZn−Si系ろう材に対応する接合構造体のテストピースの試験結果を試料21〜23としている。表5には比較試料21,22の結果を併記している。比較試料21は、ろう材としてAlの含有量が6wt%のZn−Al系ろう材を用いて得られたFe系金属部材とAl系金属部材との接合構造体のテストピースである。比較試料22は、ろう材として市販のろう材を用いて得られたAl系金属部材どうしの接合構造体のテストピースである。比較試料21,22のテストピースは、得られた接合構造体を試料21〜23と同様に短冊状に切断したものである。図13では、各試料のピール強度の平均値および破断箇所を併記している。
【0055】
ピール強度試験の強度基準値(図13の一点鎖線)は、市販のろう材を用いて得られた同種金属部材の接合構造体である比較試料22(Al系金属部材の接合構造体)のテストピースのピール強度値の8割としている。
【0056】
【表5】
【0057】
表5および図13に示すように、異種金属部材の接合構造体である本発明の試料21〜23では、ピール強度が強度基準を上回った。しかも、本発明の試料21〜23のピール強度は、異種金属部材の接合構造体である比較試料11との比較により、少量のSi含有量(0.25wt%)でピール強度が大幅に向上したことを確認した。また、本発明の試料21,22では、Fe系金属部材と接合部の境界部で破断した比較試料21と異なり、同種金属部材の接合構造体である比較試料22と同様、Al系金属部材で破断したことを確認した。なお、本発明の試料23では、ぬれ性に低下による接合境界部幅の減少のため、本発明の試料21,22と比較してピール強度が若干低下し、Fe系金属部材と接合部の境界部で破断したものと推察される。
【0058】
以上のようにSi含有量が0.25wt%〜2.5wt%のZn−Si系ろう材を用いた異種金属部材の接合構造体である本発明の試料では、その強度が強度基準値を上回った。しかも、本発明の試料の強度は、同じ異種金属部材の接合構造体である比較試料との比較により、少量のSi含有量(0.25wt%)で強度が大幅に向上することが判った。特に、Si含有量が0.25wt%〜1.0wt%のZn−Si系ろう材を用いた異種金属部材の接合構造体である本発明の試料では、Fe系金属部材と接合部の境界部で破断せず、Al系金属部材で破断したことから、同種金属部材の接合構造体のような強固な接合構造体を得ることができることが判った。
【符号の説明】
【0059】
1…Fe系金属部材、2…Al系金属部材、3…Zn−Si系ろう材、4…接合部、5…キーホール、40…境界部(接合部におけるFe系金属部材側の境界部)、41…ろう材層(第1層)、42…反応層(第2層)、43…Si濃縮層(第3層)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう材、金属部材の接合構造、および、金属部材の接合方法に係り、特に金属部材としてFe系金属部材とAl系金属部材を用いた異種金属部材の接合に適用されるろう材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
各種継手等の金属部材の接合構造は、異種金属部材の接合により製造されている。異種金属部材の接合では、それら金属部材の間に介在させたろう材をレーザ照射で加熱することによりブレージング(ろう付)を行っている。これにより、異種金属部材の間に接合部を形成することにより、金属部材の接合構造を製造している。
【0003】
たとえば、異種金属部材として、Fe系材料からなるFe系金属部材およびAl系材料からなるAl系金属部材を用いる場合、ろう材としてZn−Al系ろう材が用いられている(たとえば特許文献1参照)。Znは化合物層を形成せず、広い範囲で、低融点母材であるAl系金属部材のAlと共晶組織を形成するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3740858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Fe系金属部材と接合部との境界部では、ろう付け金属部の組織が、共晶融解したAl系金属部材のAlを含むZn−Al系組織となっているため、そのろう付け部のAlとFe系金属部材とでFe−Al系の金属間化合物層を形成してしまい、そのFe−Al系の金属間化合物層が脆弱であるため、そこで破断が生じる虞があった。その結果、異種金属部材の接合構造の強度は、同種金属部材の接合構造のものより非常に低下していた。
【0006】
したがって、本発明は、同種金属部材の接合構造と略同程度の強度を有する異種金属部材の接合構造を得ることができるろう材およびそれを用いた金属部材の接合方法、ならびに、それにより得られる金属部材の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、金属部材としてFe系金属部材とAl系金属部材を用いた異種金属接合に適用されるろう材について鋭意研究を重ねた。従来では、ZnにSiを添加した場合、図9(A)に示すように、その材料の融点が、Siの添加に従い上昇して600〜900℃程度と高くなるため、SiはZn系ろう材の添加元素として検討されていなかった。Zn系ろう材の添加元素として通常用いられているのは、図9(B)に示すように、Znとの共晶によりろう材の融点を低下させるAlである。なお、図9(A)はZnSiの2元平衡状態図、(B)はZnAlの2元平衡状態図である(出典: Binary Alloy Phase Diagrams、ASM International, Materials Park)。
【0008】
これに対して、本発明者は、添加元素としてSiを含有させたZn−Si系ろう材を用いることにより、Fe系金属部材と接合部との境界部にFe−Al系の金属間化合物層が形成されないことを見出した。すなわち、本発明のろう材は、Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との接合に用いられるろう材であって、Zn、Si、および、不可避不純物からなることを特徴としている。
【0009】
本発明のろう材では、添加元素としてSiを含有させたZn−Si系ろう材を用いることにより、Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との異種金属部材接合を行うので、Fe系金属部材と接合部との境界部にFe−Al系の金属間化合物層が形成されない。従来では、Fe系金属部材と接合部との境界部のFe−Al系の金属間化合物層が脆弱であるため、接合構造体の強度低下を招いていたが、本発明では、Fe系金属部材と接合部との境界部にSiを主成分として含有する層が形成され、その層によってAlのFe系金属部材への流入およびFeのろう材層への流入が防止されるから、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されない。したがって、Fe系金属部材と接合部との境界部の強度を図ることができるので、同種金属部材接合と略同等の接合強度を得ることができる。
【0010】
本発明のろう材は種々の構成を用いることができる。たとえば、Si:0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなることができる。この態様では、接合強度(特にピール強度)をさらに向上させることができる。
【0011】
本発明の金属部材の接合方法は、本発明のろう材を用いる。すなわち、本発明の金属部材の接合方法は、Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との間にろう材を介在して、Fe系金属部材とAl系金属部材とを接合する接合方法であって、ろう材は、Zn、Si、および、不可避不純物からなることを特徴としている。本発明の金属部材の接合方法は、本発明のろう材を用いるので、本発明のろう材による効果と同様な効果を得ることができる。
【0012】
本発明の金属部材の接合方法は種々の構成を用いることができる。たとえば、被接合部のFe系金属部材をFe系材料の融点以上の温度で加熱を行うことができる。この態様では、Fe系材料からなるFe系金属部材の被接合部をFe系材料の融点以上の温度で加熱するので、接合時にFe系金属部材の被接合部にキーホールを形成することができる。なお、キーホールとは、金属部材が溶融することにより形成される空洞部のことである。また、被接合部とは、Fe系金属部材とAl系金属部材との接合予定部のことを表し、接合部とは、接合後の接合予定部のことを表している。
【0013】
レーザ照射による加熱では、キーホール内でレーザビームが多重反射するから、キーホール内でエネルギー密度が高くなり、キーホール内の上側から下側までの全表面が略均一に加熱される。これにより、被溶接部の加熱後、キーホール内に入り込んだ溶融Zn−Si系ろう材は、キーホール内の全表面と一様に反応することができる。したがって、Fe系金属部材と接合部との境界部の強度をさらに高めることができるので、接合構造体の接合強度の向上をさらに図ることができる。
【0014】
また、Zn系材料およびFe−Zn系材料は蒸気化する。これにより、GAメッキ、GIメッキなどのメッキの種類に関係なく、Fe系材料に施されたメッキ部分が蒸気化するから、メッキの種類に関係なく、良好な接合部を得ることができる。さらに、Fe系材料表面の酸化被膜を過熱による溶融および蒸気化の際の蒸気圧で除去するから、フラックスを用いなくても、異材金属部材接合を良好に行うことができる。
【0015】
本発明の金属部材の接合構造は、本発明の金属部材の接合方法により製造される接合構造である。すなわち、本発明の金属部材の接合構造は、Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材とがZn、Si、および、不可避不純物からなるろう材により接合されて形成される金属部材の接合構造であって、Fe系金属部材とAl系金属部材との間には接合部が形成され、接合部は、Al系金属部材に隣接するとともに、Znを主成分として含有し、残部にAlが含有される第1層と、Fe系金属部材に隣接するとともに、Feを主成分として含有し、残部にZnが含有される第2層と、第1層と第2層との間に形成されるとともに、Siを主成分として含有する第3層とを有していることを特徴としている。
【0016】
本発明の金属部材の接合構造では、接合部におけるFe系金属部材との境界部には、Siを主成分として含有し、上記のようにAlのFe系金属部材への流入およびFeの第1層(ろう材層)への流入を防止する第3層が形成されているので、Fe系材料(Fe系金属部材および第2層)と第1層との間に、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されず、Fe系材料とろう材層は直接接合する。したがって、上記のように接合強度の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のろう材、金属部材の接合構造、あるいは、金属部材の接合方法によれば、Fe系金属部材と接合部との境界部に脆弱なFe−Al系の金属間化合物層が形成されないから、Fe系金属部材と接合部との境界部の強度を図ることができ、その結果、接合構造体は、同種金属部材接合と略同等の接合強度を得ることができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る一実施形態の金属部材の接合方法により接合構造体を製造する状態の概略構成を表し、(A)は斜視図、(B)は側面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態の金属部材の接合時にキーホールが形成された被接合部の構成を表す断面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の金属部材の接合方法により得られた接合構造体の一例を表し、(A)は断面構成図、(B)は(A)の部分拡大図である。
【図4】(A)は、Zn−Si系ろう材(Si含有量1.0wt%)を用いて得られた接合構造体の接合部のSEM写真(左側写真)およびその写真におけるFe系金属部材と接合部との境界部の拡大SEM写真(右側写真)であり、(B)は、(A)の拡大写真で示された境界部のEPMAマップ分析写真である。
【図5】Fe系金属部材と接合部との境界部のSEM写真であり、(A)は3000倍のSEM写真、(B)は15000倍のSEM写真である。
【図6】(A)は、Fe系金属部材と接合部との境界部の拡大SEM写真であり、(B)は、(A)の枠Xで示される部分の拡大SEM写真であり、(C)は、(B)の拡大SEM写真で示された部分のEPMAマップ分析写真である。
【図7】(A)〜(E)は、図6(C)で示された部分の各元素のEPMAマップ分析写真であり、(A)はO、(B)はAl、(C)はSi、(D)はFe、(E)はZnのEPMAマップ分析写真である。
【図8】Zn−Si系ろう材(Si含有量1.0wt%)を用いて得られた接合構造体の接合部のSEM写真である。
【図9】図8の枠Yで示される部分のTEM写真(倍率:30000倍)である。
【図10】図8の枠Yで示される部分の拡大TEM写真(倍率:150000倍)である。
【図11】(A),(B)は、フレア引張強度試験およびピール強度試験の手法を説明するための接合構造体の概略断面構成図である。
【図12】フレア引張強度試験で得られた各試料の強度を表すグラフである。
【図13】ピール強度試験で得られた各試料の強度を表すグラフである。
【図14】(A)はZnSiの2元平衡状態図、(B)はZnAlの2元平衡状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る一実施形態の金属部材の接合方法を用いて接合を行っている状態の概略構成を表し、(A)は概略斜視図、(B)は正面図である。
【0020】
金属部材の接合方法は、たとえばフレア継手を製造する配置を用いている。金属部材として、Fe系材料からなるFe系金属部材1およびAl系材料からなるAl系金属部材2を用いている。Fe系金属部材1,Al系金属部材2は湾曲部11,12を有している。Fe系金属部材1およびAl系金属部材2の配置では、湾曲部11,12どうしが対向し、それら湾曲部11,12により開先形状13を形成している。この場合、Fe系金属部材1とAl系金属部材2との対向部に段差を設けている。
【0021】
本実施形態の金属部材の接合方法では、開先形状13の中心部に、ワイヤガイド101を通じてワイヤ状のZn−Si系ろう材3を送出しながら、Zn−Si系ろう材3の先端部にレーザビーム102を照射する。Zn−Si系ろう材3は、Zn、Si、および、不可避不純物からなる。この場合、Siが0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなることが好適である。
【0022】
レーザビーム102の照射では、Fe系金属部材1およびAl系金属部材2の被接合部をFe系材料の融点以上の温度で加熱することが好適である。図2は、Fe系金属部材1とAl系金属部材2との接合時にキーホール5が形成された被接合部の概略構成を表す断面図である。被接合部では、加熱により材料の溶融・蒸発が起こり、蒸発した材料による蒸発反力(図中の矢印)によってキーホール5が形成される。この場合、溶融しているZn−Si系ろう材は、レーザ照射部の周囲に存在している。このようなキーホール5内ではレーザビーム102が、図中の点線で示すように多重反射するから、キーホール5内ではエネルギー密度が高くなり、キーホール5内の上側から下側までの全表面が略均一に加熱される。これにより、レーザビーム102の通過後、キーホール5内に入り込む溶融Zn−Si系ろう材は、キーホール5内の全表面と一様に反応することができる。
【0023】
このようなレーザビーム102の照射による加熱を開先形状13の延在方向に沿って図1の手前側から奥側に行うことにより、図3(A),(B)に示すように、Fe系金属部材1とAl系金属部材2との接合構造体10を製造することができる。図3(A)は接合構造体10の断面構成図、(B)は(A)に示す接合部4におけるFe系金属部材1側の境界部40の部分拡大図である。
【0024】
接合構造体10は、Fe系金属部材1とAl系金属部材2とを備え、Fe系金属部材1とAl系金属部材2の間には接合部4が形成されている。接合部4は、図3(B)に示すように、Al系金属部材2に隣接するろう材層41(第1層)、Fe系金属部材1に隣接する反応層42(第2層)、ろう材層41と反応層42との間に形成されたSi濃縮層43(第3層)を有する。ろう材層41は、Znを主成分として含有し、残部にAlを含有している。反応層42は、Feを主成分として含有し、残部にZnを含有している。Si濃縮層43は、Siを主成分として含有している。Si濃縮層43は、AlのFe系金属部材1への流入およびFeのろう材層41への流入を防止するので、Fe系材料(Fe系金属部材1および反応層42)とろう材層41との間には、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されず、Fe系材料とろう材層41は直接接合する。
【0025】
接合部4では、Si粒がマトリックス中に散在し、その粒径が小さい方が好適である。具体的には、Siの粒径は、Znの有する機械的伸びを阻害しないサイズ(たとえば10μm以下)が好適である。Si粒の微粒化は、ろう材の製造における押し出し工程時の結晶粒の切断により行われるものと推察される。
【0026】
本実施形態では、Zn−Si系ろう材3を用いて、Fe系金属部材1とAl系金属部材2との異種金属部材接合を行うので、Fe系金属部材と接合部との境界部にSiを主成分として含有する層が形成され、その層によってAlのFe系金属部材への拡散が防止されるから、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されない。したがって、Fe系金属部材1と接合部4との境界部の強度向上を図ることができるので、接合構造体10は、同種金属部材接合と略同等の接合強度を得ることができる。特に、Zn−Si系ろう材3として、Si:0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなるろう材を用いているので、接合強度(特にピール強度)をさらに向上させることができる。
【0027】
また、Fe系金属部材1の被接合部に形成されたキーホール5内へ加熱後に入り込んだ溶融Zn−Si系ろう材は、キーホール5内の全表面と一様に反応することができるので、Fe系金属部材1と接合部4との境界部の強度をさらに高めることができる。その結果、接合構造体10の接合強度の向上をさらに図ることができる。
【0028】
また、Zn系材料およびFe−Zn系材料は蒸気化する。これにより、GAメッキ、GIメッキなどのメッキの種類に関係なく、Fe系材料に施されたメッキ部分が蒸気化するから、メッキの種類に関係なく、良好な接合部を得ることができる。さらに、Fe系材料表面の酸化被膜を過熱による溶融および蒸気化の際の蒸気圧で除去するから、フラックスを用いなくても、異材金属部材接合を良好に行うことができる。
【実施例】
【0029】
以下、具体的な実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【0030】
実施例では、図1に示す配置形態と同様にFe系金属部材およびAl系金属部材を配置し、それら金属部材の湾曲部により開先形状を形成した。そして、その開先形状の中心部に、ワイヤ状のZn−Si系ろう材をワイヤガイドを通じて送出しながら、Zn−Si系ろう材の先端部にレーザビームを照射した。これによりフレア継手形状の金属部材の接合構造体を製造した。
【0031】
接合条件については、レーザビームの集光径を1.8mm、レーザ出力を1.4kW、接合速度を1m/min、ワイヤ速度を3.2m/minとした。Fe系金属部材として、鋼板(JAC270、板厚1.0mm、図1での縦方向長さ200mm、横方向長さ80mm)を用い、Al系金属部材として、Al板(A6022-T4、板厚が1.2mm、図1での縦方向長さを200mm、横方向長さを80mm)を用いた。
【0032】
以上のような金属部材の接合では、Siの含有量の異なる(Si含有量が0.25wt%、1.0wt%、2.5wt%)Zn−Si系ろう材を用意し、各Zn−Si系ろう材を用いて金属部材の接合を行い、各Zn−Si系ろう材に対応する金属部材の接合構造体を得た。そして、接合方向に直交する方向で各接合構造体を短冊状に切断し、複数のテストピースを得た。なお、全てのZn−Si系ろう材のワイヤ径を1.2mmとした。以上のような接合構造体のテストピースを用いて、各種評価を行った。
【0033】
[Fe系金属部材と接合部との境界部の元素分析および観察]
(1)低倍率元素分析およびSEM観察
まず、Fe系金属部材と接合部との境界部について低倍率で元素分析および観察を行った。Si含有量が1.0wt%のZn−Si系ろう材を用いて得られた接合構造体のテストピースについて、電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)により低倍率で元素分析を行った。図4(A)は、接合構造体の接合部のSEM写真(左側写真)およびその写真におけるFe系金属部材と接合部との境界部の拡大SEM写真(右側写真)であり(B)は、(A)の拡大SEM写真で示された境界部のEPMAマップ分析写真(Zn、Al、Fe、Si)である。
【0034】
また、同一の接合構造体のテストピースについて、走査型電子顕微鏡(SEM)によりFe系金属部材と接合部との境界部の観察を行った。その結果を図5に示す。図5は、Fe系金属部材と接合部との境界部のSEM写真であり、(A)は3000倍のSEM写真、(B)は15000倍のSEM写真である。
【0035】
図4(A)に示すように、本実施例のFe系金属部材と接合部との境界部には、従来の接合構造体で形成されていたFe−Al系の金属間化合物層が観察されず、図4(B)に示すEPMA元素マップ分析では、Siが一様に散在するとともに、FeとZnの界面(すなわち、Fe系金属部材と接合部との界面)が明瞭に観察された。Alは、Al系金属部材のAlが溶接により接合部に固溶拡散したものである。また、図5(A)の3000倍のSEM写真、図5(B)の15000倍のSEM写真に示すように、SEM観察での倍率を高くしても、本実施例のFe系金属部材と接合部との境界部には、従来の接合構造体で形成されていたFe−Al系の金属間化合物層が観察されなかった。
【0036】
以上のようなEPMA元素マップ分析およびSEM観察の結果、本発明の実施例のFe系金属部材と接合部との境界部には、従来の接合構造体(Zn−Al系ろう材により接合された接合構造体)で形成されていた脆弱なFe−Al系の金属間化合物層が存在しないことを確認した。
【0037】
(2)高倍率元素分析およびTEM観察
次に、Fe−Al系の金属間化合物層が存在しないFe系金属部材と接合部との境界部について詳細に調べるために、Fe系金属部材と接合部との境界部について高倍率で元素分析および観察を行った。Si含有量が1.0wt%のZn−Si系ろう材を用いて得られた接合構造体のテストピースについて、EPMAにより高倍率で元素分析を行った。図6(A)は、Fe系金属部材と接合部との境界部のSEM写真、図6(B)は、図6(A)の枠Xで示される部分の拡大SEM写真であり、図6(C)は、図6(B)の拡大SEM写真で示された部分のEPMAマップ分析写真である。図6(B)中の赤色部分はFe、緑色部分はZn、黄色部分はSi、水色部分はAlを示している。図7(A)〜(E)は、図6(C)で示された部分の各元素のEPMAマップ分析写真であり、(A)はO、(B)はAl、(C)はSi、(D)はFe、(E)はZnのEPMAマップ分析写真である。
【0038】
EPMA元素マップ分析から判るように、Al系金属部材側にはZnとAlを含有する層(ろう材層)が観察され、Fe系金属部材側にはFeとZnを含有する層(反応層)が観察され、ろう材層と反応層との間にはSiを含有する層(Si濃縮層)が観察された。Si濃縮層の幅は、50〜200nm程度であった。Si濃縮層は、図7(B),(C),(E)に示されるように、Zn,Alを含有せずに、Siを高濃度で含有していることを確認し、Alは、図7(B)に示されるように、Si濃縮層だけではなく、反応層にも含有されていないことを確認した。ろう材層について、図6(B)に示すポイントP11において透過型電子顕微鏡(TEM)により得られた各種データの解析により組成比、材質、結晶構造を表1に示すように得た。
【0039】
【表1】
【0040】
以上のようにSi濃縮層が形成されているFe系金属部材と接合部との境界部について詳細に調べるために、Si含有量が1.0wt%のZn−Si系ろう材を用いて得られた接合構造体のテストピースについて、TEMによりFe系金属部材と接合部との境界部の観察を行った。図8は、接合構造体の接合部のSEM写真、図9は、図8の枠Yで示される部分のTEM写真(倍率:30000倍)、図10は、図9の接合部の拡大TEM写真(倍率:150000倍)である。
【0041】
図9のTEM写真(倍率:30000倍)におけるポイントP21〜25で示す部分において、TEMで得られた各種データの解析により組成比、材質、結晶構造を得た。その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
ろう材層におけるポイントP21の部分はhcp構造のZnであった。ろう材層におけるポイントP22の部分はfcc構造のZn−Alであった。反応層におけるポイントP23の部分はbcc構造のαFe(固溶体)、ポイントP24の部分はbcc構造のFe3Zn10(Znめっき)であった。反応層は、従来の問題点であった脆弱なFe−Al系の金属間化合物層(たとえば斜方晶格子のFe2Al5からなる層)とは異なり、Fe(固溶体)とZnめっきとの微細混合層であり、全て金属格子結合で形成されている層であることが判った。反応層の幅は、1μm程度であった。Fe系金属部材におけるポイントP25の部分はbcc構造のFeであった。この場合、Feは、圧延組織ではなく、結晶が微細化されたものであることが判った。
【0044】
以上のような30000倍のTEM解析では、Siの存在を確認することができなかったから、Siの存在を調べるために、150000倍の倍率でTEM写真(図10)を得た。図10のTEM写真におけるポイントP31〜33で示す部分において、TEM解析により得られた組成比を表3に示す。なお、ポイントP33については、重量濃度(wt%)に加えて、原子濃度(at%)を併記している。
【0045】
【表3】
【0046】
ろう材層におけるポイントP31の部分はhcp構造のZnであった。反応層におけるポイントP32の部分はbcc構造のαFe(固溶体)であった。Si濃縮層におけるポイントP33の部分では、Siが濃縮されて存在していることが判った。Si濃縮層の幅は50nm程度であった。Si濃縮層は、Fe系材料(Fe系金属部材および反応層)とろう材層との間に形成されていることから、それら材料に対する反応障壁としての作用(=AlのFe系金属部材への流入およびFeのろう材層への流入を防止する作用)を有していると推察され、これによりFe系材料とろう材層との間に、従来技術の問題であったFe−Al系の金属間化合物層が形成されず、Fe系材料とろう材層が直接接合したと考えられる。なお、表3に示すように、ポイントP33の部分で示されるSi濃縮層には、図7(B),(C),(E)に示したEPMAマップ分析とは異なり、Alが多く含有されているが、これは次の理由による。すなわち、TEM解析による各部分の化学組成分析では、テストピースを切断しているが、層の幅が狭いSi濃縮層の部分については、それに隣接するろう材層の部分を含んで解析したため、Si濃縮層の化学組成分析において、Alが多く検出されたものと考えられる。
【0047】
[金属接合構造体の接合強度評価]
Si含有量が0.25wt%、1.0wt%、2.5wt%のZn−Si系ろう材を用いて得られた各接合構造体のテストピースについて、フレア引張強度試験およびピール強度試験を行った。テストピースとしては、接合構造体の中央部側の2ピースおよび両端部側の4ピースを用い、それらを各強度試験用に配分し、フレア引張強度試験およびピール強度試験のそれぞれで中央部側の1ピースおよび両端部側の2ピース(計3ピース)を用いた。
【0048】
フレア引張強度試験では、図11(A)に示すように、接合部23が形成された面側でT字状をなすFe系金属部材21およびAl系金属部材22の横方向延在部に対して、互いに反対方向の力を加えた。フレア引張強度試験では、矢印A,Bが指示する部分で応力が最もかけられる。
【0049】
その結果(フレア引張強度値および破断箇所)を表4および図12に示す。表4では、Si含有量が0.25wt%、1.0wt%、2.5wt%のZn−Si系ろう材に対応する接合構造体のテストピースの試験結果を試料11〜13としている。表4には比較試料11,12の結果を併記している。比較試料11は、ろう材として、Alの添加量が6wt%のZn−Al系ろう材を用いて得られたFe系金属部材とAl系金属部材との接合構造体のテストピースである。比較試料12は、ろう材として、市販のろう材を用いて得られたAl系金属部材どうしの接合構造体のテストピースである。比較試料11,12のテストピースは、得られた接合構造体を試料11〜13と同様に短冊状に切断したものである。図12では、各試料のフレア引張強度の平均値および破断箇所を併記している。
【0050】
フレア引張強度試験の強度基準値(図12の一点鎖線)は、次のように設定している。スポット溶接の1打点と等価の連続溶接の継手長を20mmに設定し、JIS Z3140のなかのAlどうしのスポット溶接を基準とした。これにより、Alの板厚が1.2mmであるスポット溶接の引張強度基準は1.86kN/20mmとなる。
【0051】
【表4】
【0052】
表4および図12に示すように、異種金属部材の接合構造体である本発明の試料11〜13の引張強度が、その強度基準値を上回った。しかも、本発明の試料11〜13の引張強度は、異種金属部材の接合構造体である比較試料11の引張強度よりも高いのはもちろんのこと、同種金属部材の接合構造体である比較試料12の引張強度よりも高かった。そして、少量のSi含有量(0.25wt%)で引張強度が大幅に向上したことを確認した。また、本発明の試料11〜13では、Fe系金属部材と接合部の境界部で破断した比較試料11と異なり、Al系金属部材で破断したことを確認した。
【0053】
ピール強度試験では、図11(B)に示すように、接合部23が形成された面とは反対側の面でT字状をなすFe系金属部材21およびAl系金属部材22の横方向延在部に対して互いに反対方向の力を加えた。このようなピール強度試験では、接合境界部(矢印Cで指示される箇所)に高い応力を集中させることにより、接合境界部の強度を測定することができる。
【0054】
その結果(ピール引張強度値および破断形態)を表5および図13に示す。表5では、Si含有量が0.25wt%、1.0wt%、2.5wt%のZn−Si系ろう材に対応する接合構造体のテストピースの試験結果を試料21〜23としている。表5には比較試料21,22の結果を併記している。比較試料21は、ろう材としてAlの含有量が6wt%のZn−Al系ろう材を用いて得られたFe系金属部材とAl系金属部材との接合構造体のテストピースである。比較試料22は、ろう材として市販のろう材を用いて得られたAl系金属部材どうしの接合構造体のテストピースである。比較試料21,22のテストピースは、得られた接合構造体を試料21〜23と同様に短冊状に切断したものである。図13では、各試料のピール強度の平均値および破断箇所を併記している。
【0055】
ピール強度試験の強度基準値(図13の一点鎖線)は、市販のろう材を用いて得られた同種金属部材の接合構造体である比較試料22(Al系金属部材の接合構造体)のテストピースのピール強度値の8割としている。
【0056】
【表5】
【0057】
表5および図13に示すように、異種金属部材の接合構造体である本発明の試料21〜23では、ピール強度が強度基準を上回った。しかも、本発明の試料21〜23のピール強度は、異種金属部材の接合構造体である比較試料11との比較により、少量のSi含有量(0.25wt%)でピール強度が大幅に向上したことを確認した。また、本発明の試料21,22では、Fe系金属部材と接合部の境界部で破断した比較試料21と異なり、同種金属部材の接合構造体である比較試料22と同様、Al系金属部材で破断したことを確認した。なお、本発明の試料23では、ぬれ性に低下による接合境界部幅の減少のため、本発明の試料21,22と比較してピール強度が若干低下し、Fe系金属部材と接合部の境界部で破断したものと推察される。
【0058】
以上のようにSi含有量が0.25wt%〜2.5wt%のZn−Si系ろう材を用いた異種金属部材の接合構造体である本発明の試料では、その強度が強度基準値を上回った。しかも、本発明の試料の強度は、同じ異種金属部材の接合構造体である比較試料との比較により、少量のSi含有量(0.25wt%)で強度が大幅に向上することが判った。特に、Si含有量が0.25wt%〜1.0wt%のZn−Si系ろう材を用いた異種金属部材の接合構造体である本発明の試料では、Fe系金属部材と接合部の境界部で破断せず、Al系金属部材で破断したことから、同種金属部材の接合構造体のような強固な接合構造体を得ることができることが判った。
【符号の説明】
【0059】
1…Fe系金属部材、2…Al系金属部材、3…Zn−Si系ろう材、4…接合部、5…キーホール、40…境界部(接合部におけるFe系金属部材側の境界部)、41…ろう材層(第1層)、42…反応層(第2層)、43…Si濃縮層(第3層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との接合に用いられるろう材において、
Zn、Si、および、不可避不純物からなることを特徴とするろう材。
【請求項2】
Si:0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載のろう材。
【請求項3】
Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材とがZn、Si、および、不可避不純物からなるろう材により接合されて形成される金属部材の接合構造において、
前記Fe系金属部材とAl系金属部材との間には接合部が形成され、
前記接合部は、
前記Al系金属部材に隣接するとともに、Znを主成分として含有し、残部にAlが含有される第1層と、
前記Fe系金属部材に隣接するとともに、Feを主成分として含有し、残部にZnが含有される第2層と、
前記第1層と前記第2層との間に形成されるとともに、Siを主成分として含有する第3層とを有していることを特徴とする金属部材の接合構造。
【請求項4】
Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との間にろう材を介在して、前記Fe系金属部材と前記Al系金属部材とを接合する接合方法において、
前記ろう材は、Zn、Si、および、不可避不純物からなることを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項5】
Si:0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項4に記載の金属部材の接合方法。
【請求項6】
前記Fe系金属部材の被接合部を前記Fe系材料の融点以上の温度で加熱を行うことを特徴とする請求項4または5に記載の金属部材の接合方法。
【請求項1】
Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との接合に用いられるろう材において、
Zn、Si、および、不可避不純物からなることを特徴とするろう材。
【請求項2】
Si:0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載のろう材。
【請求項3】
Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材とがZn、Si、および、不可避不純物からなるろう材により接合されて形成される金属部材の接合構造において、
前記Fe系金属部材とAl系金属部材との間には接合部が形成され、
前記接合部は、
前記Al系金属部材に隣接するとともに、Znを主成分として含有し、残部にAlが含有される第1層と、
前記Fe系金属部材に隣接するとともに、Feを主成分として含有し、残部にZnが含有される第2層と、
前記第1層と前記第2層との間に形成されるとともに、Siを主成分として含有する第3層とを有していることを特徴とする金属部材の接合構造。
【請求項4】
Fe系材料からなるFe系金属部材とAl系材料からなるAl系金属部材との間にろう材を介在して、前記Fe系金属部材と前記Al系金属部材とを接合する接合方法において、
前記ろう材は、Zn、Si、および、不可避不純物からなることを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項5】
Si:0.25〜2.5重量%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項4に記載の金属部材の接合方法。
【請求項6】
前記Fe系金属部材の被接合部を前記Fe系材料の融点以上の温度で加熱を行うことを特徴とする請求項4または5に記載の金属部材の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−99739(P2010−99739A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218947(P2009−218947)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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