説明

アイオノマー樹脂組成物及びそれを用いた熱収縮チューブ

【課題】被着体であるリチウムイオン電池への被覆、収縮加工を自動機で行える剛性を有し、かつ120℃以下の低温で収縮加工が完了し、耐電解液性に優れる熱収縮チューブ及びこの熱収縮チューブの材料として好適に使用できるエチレン系アイオノマー樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】エチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを含有したアイオノマー樹脂組成物であって、前記有機化クレーの含有量がアイオノマー樹脂組成物全体の2重量%以上60重量%以下であることを特徴とするアイオノマー樹脂組成物。上記アイオノマー樹脂組成物をチューブ状に押出成形したことを特徴とするチューブ状成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアイオノマー樹脂組成物と、前記アイオノマー樹脂組成物を用いた押出成形品、及び前記アイオノマー樹脂組成物を用いた熱収縮チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べ、同じエネルギー量で小型で軽量であり、継ぎ足し充電を行っても電池の劣化がなく、また、低温特性が優れるなどの特徴があり、携帯型の電子機器などの電池として幅広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン電池は円筒型、角型など種々の形状を有している。円筒型の電池は2100〜2400mAhなどの大容量の製品が設計できることが特徴で、角型のものは薄い電池ができることが特徴である。円筒型のケースには鉄缶が用いられ、缶はマイナス極を兼ねる。一方、角型はアルミ缶が採用され、缶がプラス極を兼ねている。
【0004】
このため、円筒型や角型のリチウムイオン電池では缶の外周に電気的な絶縁、保護層、印刷層などを兼ねた熱収縮チューブが被覆されて使用される。リチウムイオン電池の電解質にはプロピレンカーボネートやジエチルカーボネートが使用されることから、リチウムイオン電池用の熱収縮チューブの素材としては、これらの電解液に対する耐薬品性が優れるエチレン系アイオノマー樹脂が広く使用されている。例えば特許文献1には、エチレンとアクリル酸もしくはメタクリル酸の共重合体の分子間が金属イオンで架橋された構造のアイオノマー樹脂に、可塑剤をアイオノマー樹脂に2〜20重量%含有する樹脂組成物からなる架橋チューブ及び熱収縮チューブが開示されている。
【0005】
上記の熱収縮チューブは、自動被覆加工機を用いてリチウムイオン電池に熱収縮チューブを挿入し、熱収縮させる作業を行うので、熱収縮チューブが口開きした状態で自立するだけの剛性を有していることが必要である。またリチウム電池に熱的ダメージを与えないように、収縮加工の温度を低温にすることが必要であり、一般には120℃以下の温度で収縮が完了することが求められている。
【0006】
更に熱収縮チューブは収縮加工時に径方向に収縮するだけでなく、長手方向にも収縮する傾向がある。長手方向の収縮率が大きいと、電池の端部が被覆されないといった不具合が生じるため、長手方向の収縮率が5%以下であることが求められている。また熱収縮チューブの薄肉化の要求も高く、被覆後の肉厚が100μm以下となる熱収縮チューブが求められている。
【0007】
しかし従来のエチレン系アイオノマー樹脂を用いた熱収縮チューブは、厚みを100μm以下にするとチューブの剛性が不足し、例えばチューブの片端のみを支持した状態でチューブを水平にするとチューブが曲がって口が閉じてしまい、自動被覆加工機では加工が困難となる問題があった。
【特許文献1】特開平8−259704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、被着体であるリチウムイオン電池への被覆、収縮加工を自動機で行える剛性を有し、かつ120℃以下の低温で収縮加工が完了し、耐電解液性に優れる熱収縮チューブ及びこの熱収縮チューブの材料として好適に使用できるエチレン系アイオノマー樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題について鋭意検討した結果、エチレン系アイオノマー樹脂に有機化クレーを分散させたアイオノマー樹脂組成物を用いた熱収縮チューブが、薄肉化しても自動被覆加工機で被覆、収縮加工できるだけの剛性を有し、かつ120℃以下で収縮が完了し、耐電解液性に優れることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、エチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを含有するアイオノマー樹脂組成物を提供する。有機化クレーをエチレン系アイオノマー樹脂に分散させることで、剛性の高い樹脂組成物が得られる。
【0011】
この場合において、前記有機化クレーの含有量がアイオノマー樹脂組成物全体の2重量%以上60重量%以下であると、剛性向上効果と押出加工性を両立でき、好ましい。また有機化クレーのインターカレーション用の有機化合物が塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムのいずれか一方又は両方であると、エチレン系アイオノマー樹脂の透明性を維持した状態で剛性が向上するという効果がある。
【0012】
さらに本発明は、上記のアイオノマー樹脂組成物を押出成形したことを特徴とする押出成形品を提供する。本発明により、剛性が高く、かつ耐電解液性に優れる押出成形品が得られる。また前記アイオノマー樹脂組成物をチューブ状に押出成形することにより、上記の特性を持つチューブ状成形品が得られる。
【0013】
さらに本発明は、前記チューブ状成形品を加熱条件下で径方向に膨張し、その形状を冷却固定したことを特徴とする熱収縮チューブを提供する。このような熱収縮チューブは、薄肉化しても自動被覆加工機で被覆、収縮加工できるだけの剛性を有し、かつ120℃以下で収縮が完了する。
【0014】
また前記チューブ状成形品に電離放射線を照射して該アイオノマー樹脂組成物を架橋した後、加熱条件下で径方向に膨張し、その形状を冷却固定したことを特徴とする熱収縮チューブは、耐熱性に優れ、さらに収縮加工時の長手方向の収縮が少ないという効果がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、剛性が高く、かつ耐電解液性に優れた押出成形品を得ることができる。また本発明の熱収縮チューブは、チューブを薄肉化しても自動被覆加工機で収縮加工できるだけの剛性を有し、また耐電解液性に優れ、更に120℃以下の温度で収縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明の樹脂組成物について説明する。本発明に使用するエチレン系アイオノマー樹脂とは、エチレン−メタクリル酸共重合体あるいはエチレン−アクリル酸共重合体等のエチレン共重合体の分子間を、亜鉛イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン等の金属イオンで疑似架橋した樹脂である。このようなエチレン系アイオノマー樹脂は、サーリン、ハイミラン等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0017】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、上記のエチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを混合して得られるもののみでなく、分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体と金属塩及び有機化クレーを混合して得られる樹脂組成物も含まれる。カルボキシル基を有するエチレン共重合体と金属塩とを混合すると、カルボキシル基は金属イオンによって中和されてカルボン酸イオンとなり、金属イオンとの塩を形成する。複数のカルボン酸イオンが金属イオンと会合することでエチレン共重合体同士が疑似架橋し、アイオノマー樹脂となる。
【0018】
分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体としては、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基を有するアクリル系モノマーとエチレンとの共重合体、無水マレイン酸等の酸無水物モノマーとエチレンとの共重合体などが例示される。これらの共重合体の製造は共重合法、グラフト重合法等の既知の方法で行うことができ、各種の特性を向上させる目的で、更に他のモノマーを適宜共重合させることも可能である。
【0019】
前記分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体において、カルボキシル基含量の好ましい範囲は0.5〜50mol%、より好ましくは1〜30mol%である。0.5mol%未満では樹脂組成物の剛性や押出加工性が低下し、50mol%を超えると耐電解液性が低下する。
【0020】
アイオノマー樹脂組成物中のカルボン酸の一部又は全部は、金属塩又は有機化クレー中の金属イオンによって中和される。アイオノマー樹脂組成物中のカルボキシル基の55%以上が中和されていると、剛性が高くなり好ましい。なおカルボキシル基の中和度は、アイオノマー樹脂組成物中のカルボキシル基の総量に対するイオン化したカルボキシル基(カルボン酸イオン)量の割合であり、赤外吸収スペクトル(IR)測定で求めることができる。カルボキシル基は1700cm−1付近にC=O伸縮吸収ピークを持つが、金属イオンで中和されてカルボン酸イオンとなるとこのピークは消失する。また金属イオンで中和されたカルボン酸イオンを強酸である塩酸で処理すると、金属イオンが脱離して元のカルボキシル基に戻り、C=O伸縮吸収ピークが復活する。アイオノマー樹脂組成物のC=O伸縮吸収ピークを測定することでイオン化していないカルボキシル基が定量でき、塩酸処理したアイオノマー樹脂組成物のC=O伸縮吸収ピークを測定することでアイオノマー樹脂組成物全体のカルボキシル基が定量できる。両者を測定することで中和度が求められ、具体的には以下の式で算出する。
【0021】
中和度(%)=(1−A/A)×100
:アイオノマー樹脂組成物のC=O伸縮吸収ピーク高さ
:塩酸処理したアイオノマー樹脂組成物のC=O伸縮吸収ピーク高さ
【0022】
分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体を中和する金属塩は金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩等を使用でき、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が例示できる。カルボキシル基を中和する金属イオンが亜鉛イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種であると、樹脂組成物の透明性に優れるため好ましい。また金属塩の混合量は、カルボキシル基を有するエチレン共重合体100重量部に対して1重量%以上10重量%以下とすると、透明性が良好となり好ましい。
【0023】
本発明で使用する有機化クレーとは、モンモリロナイト等の層状珪酸塩(クレー)において、層状に積層した珪酸塩平面の層間に有機化合物がインターカレーションしたものである。層状に積層した珪酸塩平面の間には、ナトリウムイオンやカルシウムイオンのような中間層カチオンが存在して層状の結晶構造を保っている。この中間層カチオンを有機カチオンとイオン交換することで、有機化合物が珪酸塩平面の表面に化学的に結合して層間に導入(インターカレーション)される。
【0024】
有機化クレーは、層間に有機化合物がインターカレーションすることにより珪酸塩平面間の層間距離が大きくなり、有機物への分散性が向上する。また未処理のクレーでは、有機溶剤中で層間距離が変化することはないが、有機化クレーは有機溶剤中で層間距離がさらに広がり、膨潤する性質を持つため、更に分散性が向上する。このような有機化クレーとしては、Nanofil、エスベン等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0025】
層間にインターカレーションされる有機化合物としては、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム等の4級アンモニウムイオンが挙げられるが、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム又は塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムでインターカレーションした有機化クレーはエチレン系アイオノマー樹脂への分散性に優れており、エチレン系アイオノマー樹脂の透明性を維持しつつ剛性が向上するという効果がある。エチレン系アイオノマー樹脂の透明性が維持されることから、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム又は塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムででインターカレーション処理した有機化クレーはナノメートルオーダーで微分散しているものと考えられる。
【0026】
また上記の有機化クレーにおいて、剛性の向上と透明性の維持を両立するという効果が見られるのはエチレン系アイオノマー樹脂において特に顕著である。ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート等、アイオノマー構造を有しないエチレン系樹脂に有機化クレーを分散させても剛性の向上効果がほとんど見られず、また透明性は低下することがわかった。
【0027】
有機化クレーの含有量は、アイオノマー樹脂組成物全体の2重量%以上60重量%以下とすることが好ましい。2重量%よりも少ないと剛性向上効果が少なくなり、チューブを薄肉化した場合、自動収縮加工機での加工が難しくなる。また60重量%を超えると、アイオノマー樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、押出加工性が悪くなる。更に好ましい有機化クレー含有量の範囲は2重量%以上40重量%以下である。
【0028】
さらに、本発明のアイオノマー樹脂組成物には、必要に応じて、トリメチロールプロパントリメタクリレートやトリアリルイソシアヌレート等の多官能性モノマーや、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、着色剤等の各種添加剤を混合することができる。これらの材料はオープンロール、加圧ニーダー、単軸混合機、2軸混合機等の既知の混合装置を用いて混合することができ、エチレン系アイオノマー樹脂の融点以上の温度で溶融混合することが好ましい。
【0029】
分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体と金属塩及び有機化クレーを混合してアイオノマー樹脂組成物を製造する場合は、これらの材料を一括して溶融混合することが好ましい。例えば分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体と金属塩を溶融混合した後、さらに有機化クレーを溶融混合したものに比べると、一括して溶融混合した樹脂組成物は剛性が高く、薄肉での押出加工性に優れる。
【0030】
上記のアイオノマー樹脂組成物を、既知の溶融押出成形機を用いて押出成形し、押出成形品を得ることができる。また上記のアイオノマー樹脂組成物を、チューブ状に押出成形することで、チューブ状の押出成形品を得ることができる。
【0031】
また上記チューブ状成形品を融点以上の温度に加熱した状態で、チューブ内に圧縮空気を導入する等の方法により所定の外径に膨張した後、冷却して形状を固定することで熱収縮チューブを得ることができる。更に上記チューブ状成形品に電離線放射線を照射してアイオノマー樹脂組成物を架橋した後に、同様の工程を行って熱収縮チューブを得ることができる。電離放射線の照射を行った熱収縮チューブは耐熱性に優れ、高温にさらされた場合でも溶融することがない。また収縮加工時の長手方向の収縮が少なく、更に耐電解液性も向上するという効果がある。
【0032】
電離放射線源としては、加速電子線やガンマ線、X線、α線、紫外線等が例示できるが、線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度等工業的利用の観点から加速電子線が最も好ましく利用できる。
【0033】
加速電子線の加速電圧は、チューブの肉厚によって適宜設定すれば良い。例えば厚み50μm〜200μmのチューブでは、加速電圧は50〜300kVの間で選定される。照射線量としては30〜500kGyで充分な架橋度が得られる。
【0034】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0035】
[実施例1〜6]
(アイオノマー樹脂組成物ペレットの作製)
表1に示す配合処方でエチレン系アイオノマー樹脂、有機化クレー、酸化防止剤を溶融混合した。二軸混合機(30mmΦ、L/D=30)を使用し、バレル温度160℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混合した後、ストランドカットペレダイザでペレットを作製した。
【0036】
(チューブ状成形品の作製)
上記のアイオノマー樹脂組成物を、単軸溶融押出機(45mmΦ、L/D=24)を用いて、内径10mmΦ、肉厚0.1mmのチューブ状に押出成形した。
【0037】
(熱収縮チューブの作製)
得られたチューブ状成形品を120℃の恒温槽内で加熱し、圧縮空気をチューブ内部に導入して内径20mmΦに膨張し、圧縮空気を導入した状態で恒温槽より取り出し、冷却して熱収縮チューブを得た。また上記の内径10mmΦ、肉厚0.1mmのチューブに加速電圧300kVの加速電子線を照射してアイオノマー樹脂組成物を架橋した後、140℃の恒温槽内で加熱し、圧縮空気をチューブ内部に導入して内径200mmΦに膨張し、圧縮空気を導入した状態で恒温槽より取り出し、冷却して架橋タイプの熱収縮チューブを得た。
【0038】
(熱収縮チューブの評価:収縮温度)
得られた熱収縮チューブを50℃のギヤオーブン中に3分間放置してチューブ内径を測定する。その後10℃ずつ温度を上昇させて3分間放置し、内径(A)を測定する。
収縮率(%)=100×(1−(A−B)/(C−B))
A:加熱後の内径(mm)
B:押出チューブの内径(mm)
C:膨張後の押出チューブの内径(mm)
で定義される収縮率が80%になる温度を収縮温度とし、収縮温度が110℃以下のものを良好と判定した。
【0039】
(熱収縮チューブの評価:弾性率)
熱収縮チューブを10cm長さに切断し、引張速度=100mm/分、標線間距離=20mmで引張試験を行い、応力−伸び曲線から弾性率を求めた。
【0040】
(熱収縮チューブの評価:剛性試験)
熱収縮チューブを70mm長さに切断し、チューブが水平になるように片端を支持した状態にしたときに、チューブが口開きした状態で自立できるものを良好と判定した。
【0041】
(熱収縮チューブの評価:長手方向収縮率)
得られた熱収縮チューブを10cm長さに切断し、150℃で10分間加熱して加熱前後の長さを測定し、以下の式により長手方向収縮率を求めた。長手方向収縮率5%以下のものを良好と判定した。
【0042】
(熱収縮チューブの評価:耐電解液性)
熱収縮チューブをプロピレンカーボネートに室温で一日浸漬した後、重量増加率を測定し、重量増加率10%未満のものを良好と判定した。また同様の操作をジエチルカーボネートについても行った。
【0043】
(熱収縮チューブの評価:耐熱試験)
熱収縮チューブを300℃で5分間加熱し、チューブ形状を維持しているものを良好とした。
【0044】
(熱収縮チューブの評価:透明性)
熱収縮チューブを13mmΦの金属棒に収縮被覆し、金属棒に印刷された2mm×2mmの文字が判別できるものを良好と判定した。以上の結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1〜6]
表2に示す配合処方を持つ樹脂組成物を用いたこと以外は実施例1〜6と同様にして熱収縮チューブを作製し、一連の評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
(脚注)
(*1)エチレン系アイオノマー樹脂:三井デュポンポリケミカル(株)製、ハイミラン(登録商標)1707
(*2)エチレン系アイオノマー樹脂:三井デュポンポリケミカル(株)製、ハイミラン(登録商標)1706
(*3)低密度ポリエチレン樹脂:三井住友ポリオレフィン(株)製、スミカセン(登録商標)C215
(*4)エチレン−酢酸ビニル共重合体:住友化学(株)製、エバテート(登録商標)D2010F
(*5)ポリ塩化ビニルコンパウンド:プラス・テク(株)製、ポリビン(登録商標)コンパウンド4018
(*6)ポリスチレン樹脂:日本ポリスチレン(株)製、日本ポリスチ(登録商標)G690N
(*7)有機化クレー(インターカレーション用有機化合物:塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、粒径25μm):Sud-Chemie社製、Nanofil 15、
(*8)有機化クレー(インターカレーション用有機化合物:塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム、粒径8μm):Sud-Chemie社製、Nanofil 9
(*9)酸化防止剤:チバスペシャリティケミカルズ(株)製、イルガノックス1010
【0049】
表1より、本発明のアイオノマー樹脂組成物を用いた熱収縮チューブは収縮温度、剛性試験、長手方向収縮率、耐電解液性、透明性のいずれの特性も良好であることがわかる。実施例1は電子線照射を行わなかったものである。300℃×5分間の耐熱性試験では溶融したが、その他の評価項目についてはいずれも良好であった。
【0050】
比較例1は有機化クレー量が1重量%のエチレン系アイオノマー樹脂組成物を用いた熱収縮チューブである。剛性試験ではチューブが曲がってしまい不合格であったが、その他の評価項目についてはいずれも良好であった。また比較例2は有機化クレー量を65重量%としたアイオノマー樹脂組成物であるが、溶融粘度が高くなりすぎ、チューブ押出が困難であった。
【0051】
比較例3は低密度ポリエチレンと有機化クレーを混合した樹脂組成物を用いた熱収縮チューブである。低密度ポリエチレンでは有機化クレーを微分散することができず、透明性が悪い。また剛性向上効果もみられず、剛性試験ではチューブが折れ曲がってしまい不合格となった。
【0052】
比較例4はエチレン−酢酸ビニル共重合体と有機化クレーを混合した樹脂組成物を用いた熱収縮チューブである。比較例3と同様、有機化クレーを微分散することができず、透明性及び剛性試験が不合格となった。
【0053】
比較例5,6はそれぞれポリ塩化ビニルコンパウンドとポリスチレンを用いた熱収縮チューブである。これらの材料は透明性及び剛性は優れるが、耐熱性、耐電解液性、長手方向収縮率が不合格となった。
【0054】
[実施例7〜20、比較例7、8]
(アイオノマー樹脂組成物ペレットの作製)
表3、4に示す配合処方でエチレン系アイオノマー樹脂、エチレン共重合体、金属塩、有機化クレー、酸化防止剤を溶融混合した。二軸混合機(26mmΦ、L/D=30)を使用し、バレル温度200℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混合した後、ストランドカットペレダイザでペレットを作製した。
【0055】
(アイオノマー樹脂組成物ペレットの評価:中和度)
得られたアイオノマー樹脂組成物の赤外吸収スペクトルをATR法で測定した。測定誤差を少なくするため、1700cm−1(C=O伸縮)のピーク高さを2915cm−1(CH2伸縮)のピーク高さで割り、規格化した数値をAとした。またアイオノマー樹脂組成物を塩酸処理した試料についても同様に赤外吸収スペクトルを測定し、てAを求め、以下の式によりアイオノマー樹脂組成物の中和度を算出した。
中和度(%)=(1−A/A)×100
【0056】
(アイオノマー樹脂組成物の評価:押出線速)
作製したアイオノマー樹脂組成物を、単軸溶融押出機(45mmΦ、L/D=24)を用いて、内径10mmΦ、肉厚0.1mmのチューブ状に押出成形した。押出速度を徐々に上げていき、安定成形が可能となった時の巻き取り速度を測定した。
【0057】
(熱収縮チューブの作製、評価)
実施例1〜6と同様に熱収縮チューブを作製し、一連の評価を行った。なお伸びの評価は弾性率測定と同様に引張試験で行い、引張破断伸びを3点の試料で測定し、それらの平均値を求めた。結果を表3、4に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
(脚注)
(*10)エチレン−メタクリル酸共重合体:三井デュポンポリケミカル(株)製、ニュクレル(登録商標)N1525
(*11)エチレン−メチルメタクリレート共重合体:住友化学(株)製、アクリフト(登録商標)WH401
(*12)エチレン−アクリル酸共重合体:ダウケミカル(株)製、プリマコール(登録商標)5980I
(*13)有機化クレー(インターカレーション用有機化合物:塩化ジメチルジステアリルベンジルジメチルステアリルアンモニウム、粒径8μm):Sud-Chemie社製、Nanofil 5
(*14)有機化クレー(インターカレーション用有機化合物:塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム、粒径30μm):Sud-Chemie社製、Nanofil 32
(*15)有機化クレー(インターカレーション用有機化合物:塩化トリメチルステアリルアンモニウム):(株)ホージュン製、エスベン(登録商標)E
(*16)ハクスイテック(株)製、亜鉛華1種
(*17)平均粒径0.8μm、合成水酸化マグネシウム
【0061】
表3に示すように、エチレン系アイオノマー樹脂100重量部に対して有機化クレーを2〜60重量部の割合で混合したアイオノマー樹脂組成物で作製した熱収縮チューブ(実施例7〜10)は、収縮温度110℃以下を保ちながら、長手方向へはほとんど収縮せず、また剛性試験に合格するほどの高い弾性率、及び高い初期伸びを有する。さらに耐電解液性及び透明性も良好であった。また粒径やインターカレーション用の有機化合物の異なる有機化クレーを使用しても同様に各種特性を満たすことがわかる(実施例11、12)。
【0062】
エチレン系アイオノマー樹脂に対して有機化クレー及び金属塩(酸化亜鉛、水酸化マグネシウム)を混合して中和度を高めた実施例13、14では弾性率が向上し、さらに押出線速が向上した。
【0063】
実施例15〜19はカルボキシル基を有するエチレン共重合体と有機化クレー及び金属塩を混合して作製したアイオノマー樹脂組成物及び熱収縮チューブである。表4に示すように、有機化クレー及び金属塩をカルボキシル基を有するエチレン共重合体と混合することで高い中和度を達成でき、各種特性を満たすことがわかる。金属塩を当量以上加えた実施例18、19では透明性は失われるが、その他の特性は満たしている。
【0064】
インターカレーション用の有機化合物が塩化トリメチルステアリルアンモニウムである有機化クレーを使用した実施例20では、有機化クレーの層間距離が十分に取れないため、塩化ジメチルジステアリルアンモニウムや塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムを用いたものよりも弾性率が若干低くなる。剛性試験は合格するが、試験後数秒たつとチューブが自立しなくなり、剛性がやや低い結果となった。
【0065】
カルボン酸部位がメチル化して不活性化したエチレン−メチルメタクリレート共重合体を使用した比較例7、及び、金属塩を混合せずカルボン酸部位が中和されていないエチレン−メタクリル酸共重合体を使用した比較例8では、樹脂組成物はアイオノマー化せず、特性を満たさなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系アイオノマー樹脂と有機化クレーを含有したアイオノマー樹脂組成物であって、前記有機化クレーの含有量が、アイオノマー樹脂組成物全体の2重量%以上60重量%以下であることを特徴とするアイオノマー樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機化クレーのインターカレーション用の有機化合物が、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムのいずれか一方又は両方であることを特徴とする請求項1に記載のアイオノマー樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン系アイオノマー樹脂は分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体からなり、アイオノマー樹脂組成物中のカルボキシル基の一部又は全部が金属イオンによって中和されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアイオノマー樹脂組成物。
【請求項4】
アイオノマー樹脂組成物中のカルボキシル基の55%以上が金属イオンによって中和されていることを特徴とする、請求項3に記載のアイオノマー樹脂組成物。
【請求項5】
前記金属イオンは、亜鉛イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3に記載のアイオノマー樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアイオノマー樹脂組成物を押出成形したことを特徴とする押出成形品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかにに記載のアイオノマー樹脂組成物をチューブ状に押出成形したことを特徴とするチューブ状成形品。
【請求項8】
請求項7に記載のチューブ状成形品を加熱条件下で径方向に膨張し、その形状を冷却固定したことを特徴とする熱収縮チューブ。
【請求項9】
請求項7に記載のチューブ状成形品に電離放射線を照射して該アイオノマー樹脂組成物を架橋した後、加熱条件下で径方向に膨張し、その形状を冷却固定したことを特徴とする熱収縮チューブ。

【公開番号】特開2007−204729(P2007−204729A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196405(P2006−196405)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】