説明

アイドルストップ車のエンジン始動制御装置

【課題】余分な燃料消費を抑制するとともに、過剰補正や補正不足による始動不良や発進不良を抑制し、且つアイドルストップ解除後のエンジン再始動から発進までにおいて、車両の状況に応じたエンジンのトルク量に対する最適な始動時燃料量が制御するエンジン始動制御装置を得る。
【解決手段】エンジンの始動制御装置は、エンジンのトルク量に対応する再始動時の基本燃料量を演算する手段と、エンジンの回転抵抗に関連する第1の関連量を推定する第1の関連量推定手段と、トランスミッションの回転抵抗に関連する第2の関連量を推定する第2の関連量推定手段と、第1の関連量と第2の関連量との差に基づいて、基本燃料量の補正の必要性を判断する手段と、補正が必要なとき差に対応する燃料補正量を演算し、燃料補正量により補正された基本燃料量を、補正が不必要と判断されたときに基本燃料量を再始動時燃料量として設定する手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯車噛み合い式の始動装置でエンジンの始動を行うアイドルストップ車のエンジン始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無駄な燃料の消費を抑える手段として、アイドルストップ機能を備えたアイドルストップ車がある。アイドルストップ機能は、走行している車両が停止した際に、所定の停止条件を満たすと、エンジンの運転を停止させ、その後、車両を発進させようとした場合、所定の発進条件を満たすとエンジンを再始動させる機能をいう。
【0003】
通常、エンジンの始動には、リダクション歯車式などの歯車伝動機構を介して動力をエンジンに伝達するスタータが始動装置として用いられる。
一般にスタータには、出力軸にピニオンギヤを組付けたスタータモータが用いられる。そして、スタータモータのピニオンギヤをエンジンのフライホイールの外周部にあるリングギヤに噛み合わせ、スタータモータからフライホイールへ動力を伝えることにより、エンジンを始動し、エンジン始動後にピニオンギヤをリングギヤから離脱するようにしてある。
【0004】
アイドルストップ車は、こうしたスタータにより自動的にエンジンの再始動が行われる。ところで、冷態時にエンジンを始動させる場合、このときのエンジンの回転抵抗に関連する関連量(フリクション)の増大により、始動に求められるトルク量は、温態時よりもかなり大きい。
そこで、アイドルストップ車は、回転抵抗に関連する関連量(フリクション)の大小が温度に相関関係があるという物理的現象を利用して、エンジンの冷却水の温度情報に基づき、間接的にエンジンの潤滑油の粘度を推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載のアイドルストップ車では、エンジンの冷却水の温度情報から回転抵抗に関連する関連量(フリクション)の大小を推定して、アイドルストップ解除後の再始動時の燃料量を設定している。
ところで、車両が冷態時より発進し走行と停車を繰り返した場合、エンジンの冷却水の温度上昇よりもトランスミッションの潤滑油の温度上昇が遅い傾向にある。
【0006】
また、エンジンの冷却水の温度上昇は、停車時のアイドルストップの有無に関係なく同じであるが、トランスミッションにおいては、停車時のアイドルストップの有無で潤滑油の温度上昇傾向に違いが発生する。トランスミッションの潤滑油の温度上昇は、停車時にアイドルストップを実施しない場合に比べ、アイドルストップを実施する場合の方が更に遅くなる傾向にある。
すなわち、車両が冷態時から発進して走行と停車を繰り返した場合、エンジンの回転抵抗に関連する関連量(フリクション)とトランスミッションの回転抵抗に関連する関連量(フリクション)にフリクションの差が発生し、アイドルストップを実施することでその差が更に大きくなる。
【0007】
よって、特許文献1に記載のアイドルストップ車のようにトランスミッションの回転抵抗に関連する関連量(フリクション)を考慮せずに、エンジンの回転抵抗に関連する関連量(フリクション)のみの推定だけでは、トランスミッションの暖機が完了していない場合において、アイドルストップ解除後の再始動から発進時にエンジンのトルク量の不足で、燃焼不良による発進不良や排ガスが悪化する可能性がある。
【0008】
この問題の解決手段として、トランスミッションの回転抵抗に関連する関連量(フリクション)に関係なく、如何なる車両の状況においても、エンジンの再始動から発進までに必要なエンジンのトルク量を満足するように、予め再始動時の燃料量を増量しておく。
【0009】
また、別の解決手段として、発進からトランスミッションの暖機が完了するまで、環境温度変化によらず、安定した走行操作性を確保するために、エンジンの冷却水の温度情報に基づくエンジンの目標トルクとトランスミッションの潤滑油の温度情報に基づくトランスミッションの目標トルクと基本目標トルクとを加算して算出された最終目標トルクに基づいて、目標吸入空気量相当となるようにスロットル開度を開き側に制御し、吸入空気量の増量補正を介して燃料量を増量補正してエンジンのトルク量を補正したり、トランスミッションの潤滑油温に基づいて、点火時期を進角側に制御し、エンジンのトルク量を補正
する技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0010】
また、別の解決手段として、歯車噛み合い式の始動装置以外の始動装置を使う方法がある。エンジンに組付けているオルタネータの代わりに、モータ・ジェネレータを設けて、このモータ・ジェネレータから出力される動力を、ベルトを介して(ベルト伝動機構)、エンジンのクランクシャフトへ伝え、歯車の噛み合いのない始動装置である。
この始動装置のベルト伝動機構を利用して、エンジンのトルク不足を補う為に、エンジン回転速度が安定するまでアシストする技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
再始動時における最終目標トルクの算出方法は、始動時フリクション、基本目標トルク、エンジンフリクション(水温補正トルク)、トランスミッションフリクション(作動油温補正トルク)の4つのパラメータを演算して、それぞれの演算値を加算することで求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−42572号公報
【特許文献2】特開2007−332775号公報
【特許文献3】特開2001−304007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献2に記載のアイドルストップ車では、アイドルストップ車特有のアイドルストップ解除後の再始動において、最終目標トルクの算出方法に問題がある。
すなわち、それぞれのパラメータの演算値には数%の演算誤差が考えられ、それぞれのパラメータを加算することで演算誤差が増大する。そして、パラメータの演算誤差が増大することにより、最終目標トルクが過剰補正または補正不足となる。過剰補正の場合は、始動時のエンジンの吹け上がりや発進時に車両の飛び出し感が増すことでドライバビリティに悪影響を与えたり、補正不足の場合は、始動不良によるエンストや発進時のもたつきなどが発生したりする可能性がある。
【0014】
また、始動時フリクション、基本目標トルク、エンジンフリクション、トランスミッションフリクションの4つのパラメータを予め実機で実験的にマッチングしておく必要がある。
【0015】
また、特許文献3に記載のアイドルストップ車の始動装置は、歯車噛み合い式の始動装置に比べ、システム構成が複雑でコストが高くなる欠点がある。
【0016】
この発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、余分な燃料消費を抑制するとともに、過剰補正や補正不足による始動不良や発進不良を抑制し、且つアイドルストップ解除後のエンジン再始動から発進までにおいて、車両の状況に応じたエンジンのトルク量に対する最適な始動時燃料量が制御するエンジン始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係るアイドルストップ車のエンジン始動制御装置は、歯車噛み合い式の始動装置を制御する始動制御装置において、エンジンの再始動から発進までに必要とする上記エンジンのトルク量に対応する再始動時の基本燃料量を演算する手段と、エンジンの回転抵抗に関連する第1の関連量を推定する第1の関連量推定手段と、トランスミッションの回転抵抗に関連する第2の関連量を推定する第2の関連量推定手段と、上記第1の関連量と上記第2の関連量との関連量の差に基づいて、上記基本燃料量の補正の必要性を判断する手段と、補正が必要と判断されたときに上記関連量の差に対応する燃料補正量を演算し、該燃料補正量により補正された上記基本燃料量を再始動時燃料量として設定する手段と、補正が不必要と判断されたときに上記基本燃料量を再始動時燃料量として設定する手段とを備えている。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係るアイドルストップ車のエンジン始動制御装置では、エンジンのトルク量に対して、再始動時の基本燃料量への補正の有無が判断でき、そのフリクションの差に応じた再始動から発進までに必要なエンジンのトルク量が満足できる最適な燃料量を設定することで、エンジンの始動性の向上や燃焼不良による発進不良および排ガスの悪化を抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンジン始動制御装置で始動されるエンジンおよびその周辺の構造を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態によるエンジン始動制御装置の概略的な構成を示す回路図である。
【図3】エンジンの最終目標トルクの算出方法を示す図である。
【図4】アイドルストップの有無における所定の走行パターンを走行した場合のエンジンの冷却水の温度とトランスミッションの潤滑油の温度との温度推移図である。
【図5】本発明の実施の形態によるエンジン始動制御装置の再始動時の制御を概略的に示すブロック図である。
【図6】エンジンの冷却水の温度と再始動時基本燃料量との関係を示すマップである。
【図7】エンジンの冷却水の温度とエンジンのフリクションとの関係を示すマップである。
【図8】トランスミッションの潤滑油の温度とトランスミッションのフリクションとの関係を示すマップである。
【図9】エンジンとトランスミッションとのフリクションの差に応じた再始動時の燃料補正量を示すマップである。
【図10】エンジン始動制御装置の再始動時の制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のエンジン始動制御装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るエンジン始動制御装置で始動されるエンジンおよびその周辺の構造を示す構成図である。
本発明の実施の形態1に係るエンジン始動制御装置は、ATまたはCVTを採用したアイドルストップ機能付き車両(以下、アイドルストップ車と称す)に搭載されている。
アイドルストップ車に搭載される走行用のエンジン1は、例えば多気筒のレシプロエンジンであり、例えば電子制御燃料噴射式のガソリンエンジンである。つまり、エンジン1は、気筒内に収められたピストンが往復運動することにより、所定の燃焼サイクル、例えば吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程が繰り返し行われ、ピストンが連結されたクランクシャフト1aから動力を出力する。そして、このエンジン1のクランクシャフト1aにトランスミッション2が接続され、トランスミッション2に走行輪が接続され、走行輪に走行に必要な回転動力が出力される。
【0021】
エンジン1の後側(出力側)の側部には、通常、使用される始動装置としてのスタータ4が設けられ、スタータ4から例えばリダクション歯車式など歯車式伝動機構3を介して回転動力がエンジン1に伝達される。
スタータ4のスタータモータ4aの出力軸にはピニオンギヤが組付けられている。一方、ピニオンギヤと噛み合い可能な歯車式伝動機構3としてのリングギヤが、クランクシャフト1aの後端に有るフライホイールの外周部に設けられている。つまり、スタータ4は、ピニオンギヤをエンジン1のリングギヤに突入して噛み合わせ、スタータモータ4aからフライホイールへ回転動力を伝えることにより、エンジン1の始動が行えるようにしてある。なお、エンジン始動後、ピニオンギヤをリングギヤから離脱する。
【0022】
エンジン1に設けられている水温センサ8からの出力をECU19(例えば、マイクロコンピュータを有して構成されるコントロールユニット)に入力することで、エンジン1の冷却水の温度状態をECU19が判断することができる。
また、トランスミッション2に設けられている油温センサ9からの出力をECU19に入力することで、トランスミッション2の潤滑油の温度状態をECU19が判断することができる。
【0023】
図2は、スタータ4を用いたエンジン1の始動制御装置18の構成を概略的に示す図である。
次に、エンジン1の始動制御装置18について説明する。
スタータモータ4aは、車載のバッテリ10を介装した電源回路11に接続されている。
また、スタータモータ4aのS端子から延びる信号ライン12には、スタータ用の入切り部としての常開式のリレー13とイグニッション用のリレー14が介装されている。
リレー13は、例えば、開閉端子13a、開閉端子13aを閉じるソレノイド駆動の接片13b、および、接片13bを移動するソレノイド13cを有する。
リレー14は、開閉端子14a、開閉端子14aを閉じるソレノイド駆動の接片14b、および、接片14bを移動するソレノイド14cを有する。
【0024】
スタータモータ4aのS端子は、信号ライン12を介してリレー13の開閉端子13aの一方の接点に接続される。リレー13の開閉端子13aの他方の接点は、信号ライン12を介してリレー14の開閉端子14aの一方の接点に接続される。リレー14の開閉端子14aの他方の接点は、信号ライン16を介してコントロール用電源回路15に接続される。
【0025】
リレー14のソレノイド14cの一端は、図示しないイグニッションキーで操作されるイグニッションスイッチ17に接続され、イグニッションキーをスタート位置まで操作すると、イグニッションスイッチ17がオンされ、リレー14が閉成される。リレー14が閉成されると、リレー13に制御電圧Vbが供給される。
そして、イグニッションスイッチ17がオンされ、リレー13が閉成されると、スタータモータ4aのS端子に制御電圧Vbが入力され、スタータモータ4aが作動する。
リレー13のソレノイド13cの一端は、ECU19に接続され、ソレノイド13cの他端は、コントロール用電源回路15に接続される。
【0026】
ECU19は、車両走行中に所定の停止条件が満たされたとき、燃料噴射系や点火系を制御して、エンジン1の運転を停止させるアイドルストップ機能を有している。所定の停止条件は、例えばATあるいはCVTの変速レバーのポジションを検出するシフトポジションセンサがDポジションを検出することと、車速センサが車速0km/hを検出することと、ブレーキセンサがブレーキペダルが踏込まれている状態を検出することが全て満たされていることである。
【0027】
また、ECU19は、アイドルストップ後、所定の再始動条件が満たされたとき、スタータ4によりエンジン1を再始動する再始動機能を有している。所定の再始動条件は、例えばシフトポジションセンサがDポジションを検出することと、ブレーキセンサがブレーキペダルの戻りを示す信号を検出することが共に満たされていることである。
【0028】
この再始動機能では、車両の状況に応じてエンジン1の再始動時に要求される最適な燃料量を求めている。すなわち、エンジンの始動に要求される燃料量は、エンジン1およびトランスミッション2の回転抵抗に関連する関連量(以下、「フリクション」と称す。)の大小に相関している。つまり、エンジン1およびトランスミッション2は、フリクションが小さければ、再始動に必要とする始動トルクは小さくてすみ、フリクションが大きければ、再始動に必要とする始動トルクは大きくなければならない。
また、エンジン1のフリクションが小さく、トランスミッション2のフリクションが大きい場合は、再始動に要求される始動トルクは大きくなる。そのため、フリクションの差に応じてエンジン1の再始動時に必要なエンジン1のトルク量を満足する燃料量を設定している。
【0029】
図3は、再始動時におけるエンジン1の最終目標トルクの算出方法において、従来の算出方法と本発明の算出方法について示している。
従来の算出方法では、始動時フリクション、基本目標トルク、エンジンフリクション(水温補正トルク)、トランスミッションフリクション(作動油温補正トルク)の4つのパラメータを演算して、それぞれの演算値を加算することでエンジン1の最終目標トルクが求められる。
本発明の算出方法では、再始動時基本燃料量と再始動時燃料補正量の2つのパラメータを演算して、それぞれの演算値を加算することでエンジン1の最終目標トルクが求められる。
【0030】
再始動時基本燃料量は、始動時フリクション、基本目標トルク、エンジンフリクションの3つを合わせたフリクションが、再始動時に必要なエンジン1のトルク量を満足する燃料量である。
再始動時燃料補正量は、トランスミッションフリクションがエンジンフリクションより大きい場合に、そのフリクションの差に応じて不足した燃料を補正する燃料量である。
【0031】
各パラメータの演算値には、±1%程度の演算誤差が考えられ、従来の算出方法では、4つのパラメータを加算するため、±4%程度の演算誤差が発生する。
それに対して、本発明の算出方法では、2つのパラメータを加算するため、±2%程度の演算誤差に低減できる。
【0032】
図4は、アイドルストップ機能が有無の車両を所定の走行パターンで走行した場合のエンジン1の冷却水の温度とトランスミッション2の潤滑油の温度の温度推移について示している。
例えば、車両が冷態時より発進して所定の走行パターンを走行した場合、エンジン1の冷却水の温度上昇よりもトランスミッション2の潤滑油の温度上昇が遅い傾向にある。
また、エンジン1の冷却水の温度上昇は、アイドルストップの有無に関係なく同じであるが、トランスミッション2は、アイドルストップの有無で潤滑油の温度上昇傾向に違いが発生する。
トランスミッション2の潤滑油の温度上昇は、停車時にアイドルストップを実施しない場合に比べ、アイドルストップを実施する場合の方が更に遅くなる傾向にある。すなわち、車両が冷態時から発進して走行と停車を繰り返した場合、エンジン1のフリクションとトランスミッション2のフリクションにフリクションの差が発生し、アイドルストップを実施することでその差が更に大きくなることを示している。
【0033】
図5は、この発明の実施の形態1に係るエンジン始動制御装置での再始動時制御を概略的に示すブロック図である。
この発明の実施の形態1に係るエンジン始動制御装置は、ECU19に含まれるコンピュータがROMに記憶されているプログラムの命令に従って水温センサ8および油温センサ9から入力される水温および油温のデータを用いて記憶装置に記憶されているマップを検索して必要なデータを抽出する。
記憶装置には、図6にマップとして示されたエンジン1の冷却水の温度と再始動時基本燃料量との関係、図7にマップとして示されたエンジン1の冷却水の温度とエンジン1のフリクションとの関係、図8にマップとして示されたトランスミッション2の潤滑油の温度とトランスミッション2のフリクションとの関係、図9にマップとして示されたエンジン1のフリクションとトランスミッション2のフリクションとの差と再始動時燃料補正量との関係が予め実機で実験的に求められて記憶されている。
【0034】
ECU19内の再始動時基本燃料量演算手段20は、水温センサ8から水温を取得し、記憶装置からエンジン1の冷却水の温度と再始動時基本燃料量との関係のマップを取り出し、取得した水温をエンジン1の冷却水の温度として用いてマップを検索して対応する再始動時基本燃料量を抽出する。
【0035】
ECU19内のエンジンのフリクション推定手段21は、水温センサ8から水温を取得し、記憶装置からエンジン1の冷却水の温度とエンジン1のフリクションとの関係のマップを取り出し、取得した水温をエンジン1の冷却水の温度として用いてマップを検索して対応するエンジン1のフリクションを抽出する。
【0036】
ECU19内のトランスミッションフリクション推定手段22は、油温センサ9から油温を取得し、記憶装置からトランスミッション2の潤滑油の温度とトランスミッション2のフリクションとの関係のマップを取り出し、取得した油温をトランスミッション2の潤滑油の温度として用いてマップを検索してトランスミッション2のフリクションを抽出する。
【0037】
ECU19内のエンジンとトランスミッションのフリクションの比較手段23は、エンジンフリクション推定手段21で抽出されたエンジン1のフリクションと、トランスミッションフリクション推定手段22で抽出されたトランスミッション2のフリクションとの差を算出する。
【0038】
ECU19内のフリクションの差に応じた再始動時燃料補正量の演算手段24は、記憶装置からエンジン1のフリクションとトランスミッション2のフリクションとの差と再始動時燃料補正量との関係のマップを取り出し、フリクション比較手段23で算出されたフリクションの差をフリクションの差として用いてマップを検索して対応する再始動時燃料補正量を抽出する。
【0039】
ECU19内の再始動時最終燃料量の演算手段25は、再始動時基本燃料量演算手段20で抽出された再始動時基本燃料量に、再始動時燃料補正量演算手段24で抽出された再始動時燃料補正量を加算して再始動時最終燃料量を演算する。
【0040】
図10は、アイドルストップしたエンジン1を再始動制御する手順を示すフローチャートである。
次に、アイドルストップしたエンジン1を再始動する制御について説明する。尚、ECU19は所定の周期でエンジン1を再始動する制御を開始する。
ステップS1において、ECU19は、車速センサ、ブレーキセンサ、シフトポジションセンサが検出したデータに基づいて再始動条件が成立しているか判断する。ECU19は、再始動条件が未成立と判断した場合にはステップS2に進み、ECU19は、再始動条件が成立と判断した場合にはステップS3に進む。
ステップS2において、ECU19は、アイドルストップ状態を継続して再始動制御を終了する。
【0041】
ステップS3において、ECU19は、エンジン1の水温センサ8からのエンジン1の冷却水の温度情報を用いて、記憶装置に記憶されているエンジン1の冷却水の温度と再始動時基本燃料量との関係を示すマップを検索して、対応する再始動時基本燃料量を抽出する。
次に、ステップS4において、ECU19は、エンジン1の水温センサ8からのエンジン1の冷却水の温度情報を用いて、エンジン1の冷却水の温度とエンジン1のフリクションとの関係を示すマップを検索して、エンジン1のフリクションをエンジン1の回転抵抗に関連する関連量(Feug)とする。
【0042】
次に、ステップS5において、ECU19は、トランスミッション2の油温センサ9からのトランスミッション2の潤滑油の温度情報を用いて、トランスミッション2の潤滑油の温度とトランスミッション2のフリクションとの関係を示すマップを検索して、トランスミッション2のフリクションをトランスミッション2の回転抵抗に関連する関連量(Ftrans)とする。
次に、ステップS6において、ECU19は、ステップS4において求めたトランスミッション2の回転抵抗に関連する関連量(Ftrans)がステップS3において求めたエンジン1の回転抵抗に関連する関連量(Feng)を超えているか否かを判断し、超えている場合ステップS7に進み、以下の場合ステップS10に進む。
【0043】
ステップS7において、ECU19は、トランスミッション2の回転抵抗に関連する関連量(Ftrans)からエンジン1の回転抵抗に関連する関連量(Feng)を減算してフリクション差を求める。
次に、ステップS8において、ECU19は、記憶装置に記憶されているエンジン1のフリクションとトランスミッション2のフリクションとの差と再始動時燃料補正量との関係を示すマップをフリクションの差によって検索して対応する再始動時燃料補正量を抽出する。
次に、ステップS9において、ECU19は、ステップS8において求めた再始動時基本燃料量にステップS7において求めた再始動時燃料補正量を加算して再始動時最終燃料量を算出してステップS11に進む。
ステップS10において、ECU19は、エンジン1のフリクションに必要なエンジンのトルク量が満足できる再始動時基本燃料量を再始動時最終燃料量と設定してステップS11に進む。
ステップS11において、ECU19は、リレー13をオンして、スタータ4を作動させてエンジン1を再始動時最終燃料量に基づいて再始動する。
【0044】
この発明の実施の形態1に係るエンジン1の始動制御装置は、車両の状況に応じたエンジン1のトルク量に対する最適な始動時燃料量が算出されるので、アイドルストップ解除後のエンジン再始動から発進までの始動性および発進性を向上することができる。
【0045】
また、システム構成が簡素な歯車噛み合い式の始動装置であり、エンジン1の冷却水の温度情報とトランスミッション2の潤滑油の温度情報より、エンジン1およびトランスミッション2のフリクションを推定し、推定されたフリクションを比較することで車両の状況を判断し、比較結果から得られたフリクションの差により再始動から発進までに必要とされるエンジンのトルク量を推定し、フリクションの差に応じた最適な再始動時の燃料量を設定することが可能となり、従来のように始動性および発進性を確保するために、予め再始動時の燃料量を増量設定しておく必要はないため、余分な燃料消費を抑制できる。
【0046】
また、再始動時に必要なエンジンの最終目標トルクに応じて、予め実機で実験的にマッチングした再始動時基本燃料量へ、トランスミッション2のフリクションがエンジン1のフリクションより大きい場合のみ、再始動時基本燃料量へフリクションの差に応じた再始動燃料補正量を加算して、最終的な再始動時の燃料量を設定している。すなわち、再始動時に演算するパラメータは、再始動時基本燃料量とフリクションの差に応じて加算する再始動時燃料補正量の2つであるため、パラメータを加算した際の演算誤差が従来に比べ低減でき、過剰補正や補正不足による始動不良や発進不良を抑制させることが可能な始動制御装置を提供する。
【0047】
また、予め実機で実験的に求めておくパラメータが、再始動時基本燃料量、再始動時燃料補正量の2つであるため、マッチングの工数についても低減できる。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン、1a クランクシャフト、2 トランスミッション、3 歯車式伝動機構、4 スタータ、4a スタータモータ、8 水温センサ、9 油温センサ、10 バッテリ、11 電源回路、12 信号ライン、13 リレー、13a 開閉端子、13b 接片、13c ソレノイド、14 リレー、14a 開閉端子、14b 接片、14c ソレノイド、15 コントロール用電源回路、16 信号ライン、17 イグニッションスイッチ、18 始動制御装置、19 ECU、20 再始動時基本燃料量演算手段、21 エンジンフリクション推定手段、22 トランスミッションフリクション推定手段、23 フリクション比較手段、24 再始動時燃料補正量演算手段、25 再始動時最終燃料量演算手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車噛み合い式の始動装置を制御する始動制御装置において、
エンジンの再始動から発進までに必要とする上記エンジンのトルク量に対応する再始動時の基本燃料量を演算する手段と、
エンジンの回転抵抗に関連する第1の関連量を推定する第1の関連量推定手段と、
トランスミッションの回転抵抗に関連する第2の関連量を推定する第2の関連量推定手段と、
上記第1の関連量と上記第2の関連量との関連量の差に基づいて、上記基本燃料量の補正の必要性を判断する手段と、
補正が必要と判断されたときに上記関連量の差に対応する燃料補正量を演算し、該燃料補正量により補正された上記基本燃料量を再始動時燃料量として設定する手段と、
補正が不必要と判断されたときに上記基本燃料量を再始動時燃料量として設定する手段と
を備えていることを特徴とするアイドルストップ車のエンジン始動制御装置。
【請求項2】
上記再始動時の基本燃料量を演算する手段は、予め実機で実験的に求められた上記エンジンの冷却水の温度と再始動時基本燃料量との関係を示すマップを水温センサからの水温により検索して上記基本燃料量を演算することを特徴とする請求項1に記載のアイドルストップ車のエンジン始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−67726(P2012−67726A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215397(P2010−215397)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】