説明

アクアポリン3産生促進剤

【課題】有効成分が単体であり保存安定性が高く、皮膚の乾燥に伴う肌荒れや保湿、肌のはりの向上、肌のバリア機能の低下の予防又は改善などの作用に関与するアクアポリン3の産生を促進する優れたアクアポリン3産生促進剤の提供。
【解決手段】グリチルリチン酸ジカリウムを有効成分として含有するアクアポリン3産生促進剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクアポリン3産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚細胞では、水チャンネルとして知られるアクアポリン(aquaporin:AQP)が細胞膜上に発現して、細胞間隙の水をはじめとする低分子物質を細胞内へ取り込む役割を担っていることが知られている。ヒトでは、13種類のアクアポリン(AQP0〜AQP12)の存在が知られている。表皮細胞においては、主としてAQP3が存在しており、水に加えて、水分保持作用に関与するグリセロールや尿素等の低分子化合物をも取り込む役割を担っていると考えられている。
【0003】
AQP3遺伝子欠損マウスの皮膚では、角層水分量、皮膚粘弾性、バリア機能回復の低下が認められ、アクアポリン3が皮膚物性及び皮膚生理機能に深く関与していることが示されている(非特許文献1参照)。したがって、アクアポリンの産生を促進することにより、皮膚の乾燥を抑え、はりを整え、バリア機能を強化することが期待できる。
【0004】
しかし、アクアポリン3は加齢とともに減少し、このことが水分保持機能の低下の一因であることが示唆されていることから、アクアポリン3の発現を促進することにより、加齢による水分保持能やバリア機能等を制御することが可能であると考えられる(非特許文献2参照)。
【0005】
このような考えに基づき、アクアポリン3発現促進作用を有するものとして、例えば、ノウゼンハレン科植物、金不換、ヒメハギ、小花遠志、アスパラサスリネアリス、コガネバナ、カンゾウ、ドクダミ、チョウジ、マロニエ、マチルスオドラチシマ、ヘチマ、アヤメ科クロッカス属サフラン、バラ科のイチゴ属などの植物抽出物が知られている(特許文献1〜5参照)。
【0006】
しかし、これらの植物抽出物のアクアポリン3の産生促進作用は十分満足できるものではない点で問題であった。
また、植物抽出物には特有のにおいや色があり、化粧料への添加には不向きであった。更に抽出物は混合物の状態であるため、抽出物中の種々の成分が反応することがあり保存安定性が悪い点でも問題であった。
【0007】
したがって、有効成分が単体であり保存安定性が高く、皮膚の乾燥に伴う肌荒れや保湿、肌のはりの向上、肌のバリア機能の低下の予防又は改善などの作用に関与するアクアポリン3の産生を促進する優れたアクアポリン3産生促進剤の提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−168732号公報
【特許文献2】特開2009−46465号公報
【特許文献3】特開2009−256271号公報
【特許文献4】特開2005−343882号公報
【特許文献5】特開2009−298765号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hara M et al., J Biol Chem, 2002, 277(48), 46616−21
【非特許文献2】「フレグランスジャーナル」, 2006, Vol.34, No.10, p.19−23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、有効成分が単体であり保存安定性が高く、皮膚の乾燥に伴う肌荒れや保湿、肌のはりの向上、肌のバリア機能の低下の予防又は改善などの作用に関与するアクアポリン3の産生を促進する優れたアクアポリン3産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> グリチルリチン酸ジカリウムを有効成分として含有することを特徴とするアクアポリン3産生促進剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、有効成分が単体であり保存安定性が高く、皮膚の乾燥に伴う肌荒れや保湿、肌のはりの向上、肌のバリア機能の低下の予防又は改善などの作用に関与するアクアポリン3の産生を促進する優れたアクアポリン3産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(アクアポリン3産生促進剤)
本発明のアクアポリン3産生促進剤は、グリチルリチン酸ジカリウムを有効成分として含有し、必要に応じて更にその他の成分を含有する。
【0014】
<グリチルリチン酸ジカリウム>
グリチルリチン酸ジカリウムは、C426016で表される分子量899.1の化合物である。
グリチルリチン酸ジカリウムを入手する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリチルリチン酸と、水酸化カリウム(KOH)などとを反応させて得る方法、市販品を用いる方法などが挙げられる。
【0015】
前記グリチルリチン酸を入手する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品を用いる方法、グリチルリチン酸を含有する植物抽出物から単離及び精製の少なくともいずれかの方法により得る方法などが挙げられる。
前記グリチルリチン酸を含有する植物抽出物は、グリチルリチン酸を含有する植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれであってもよい。
【0016】
前記グリチルリチン酸を含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。グリチルリチン酸を含有する植物としては、例えば、甘草などが挙げられる。
前記甘草としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Glychyrrhiza glabra、Glychyrrhiza inflata、Glychyrrhiza uralensisなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用しもよい
【0017】
前記抽出原料として使用し得る植物の構成部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、根部が好ましい。
前記抽出原料の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、採取したそのままの大きさ、切断した所望の大きさ、微粉(パウダー)化された大きさなどが挙げられる。
前記抽出原料として使用する植物の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、採取したそのままの状態、乾燥した状態などが挙げられる。これらの中でも、乾燥した状態が好ましい。
前記乾燥した状態にする方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天日で乾燥する方法、通常使用される乾燥機を用いて乾燥する方法などが挙げられる。
【0018】
前記グリチルリチン酸を含有する植物抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することが好ましい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0019】
抽出溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水、親水性有機溶媒等の極性溶媒が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記抽出時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、室温又は溶媒の沸点以下の温度で行うことが好ましい。
【0020】
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水などが挙げられる。また、これらの水に各種処理を施したものを用いてもよい。
水に施す処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化などが挙げられる。
したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などが含まれる。
【0021】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられる。
【0022】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1容量部〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1容量部〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10容量部〜90容量部を混合することが好ましい。
【0023】
抽出処理方法としては、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り、特に制限はなく、常法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、抽出原料の5倍量〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物を更に乾燥すると乾燥物が得られる。
【0024】
前記植物抽出物からグリチルリチン酸を単離及び精製のいずれかを行う方法としては、特に制限はなく、常法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、植物抽出物を、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、水、アルコールの順で溶出させ、アルコールで溶出される画分としてグリチルリチン酸を得る方法などが挙げられる。
【0025】
カラムクロマトグラフィーにて溶出液として使用し得るアルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール又はそれらの水溶液などが挙げられる。
【0026】
更に、カラムクロマトグラフィーにより得られたアルコール画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液−液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0027】
このようにして得られるグリチルリチン酸を、常法により水酸化カリウム(KOH)などと反応させることで、グリチルリチン酸ジカリウムを得ることができる。
【0028】
前記アクアポリン3の産生促進剤におけるグリチルリチン酸ジカリウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記アクアポリン3の産生促進剤は、グリチルリチン酸ジカリウムそのものであってもよい。
【0029】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、水、デンプン等の薬理学的に許容され得る担体などが挙げられる。
また、皮膚化粧料などに一般に使用される収斂剤、殺菌剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、細胞賦活剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料などを含有してもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記アクアポリン3の産生促進剤における、前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
<用途>
前記アクアポリン3産生促進剤は、有効成分が単体であり保存安定性が高く、皮膚の乾燥に伴う肌荒れや保湿、肌のはりの向上、肌のバリア機能の低下の予防又は改善などの作用に関与するアクアポリン3の産生を促進するため、皮膚などへの適用性が良好であり、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤、アストリンゼント等の皮膚化粧料に好適に利用可能である。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0032】
(試験例1〜2)
グリチルリチン酸ジカリウム(丸善製薬株式会社製)を用い、以下の方法でアクアポリン3産生促進作用について試験した。
前記グリチルリチン酸ジカリウムは、正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(Epilife−KG2、倉敷紡績株式会社製)により0.625μg/mL(試験例1)及び2.5μg/mL(試験例2)に調製した。
【0033】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte;NHEK、倉敷紡績株式会社製)を80cmフラスコでEpilife−KG2において、37℃、5%COの条件下にて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。
【0034】
回収した細胞を35mmシャーレ(FALCON社製)に40×10細胞/2mLずつ播種し、37℃、5%COの条件下で、Epilife−KG2を用いて一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、Epilife−KG2で溶解したグリチルリチン酸ジカリウム溶液(試験例1:0.625μg/mL、試験例2:2.5μg/mL)を各シャーレに2mLずつ添加し、5%COの条件下にて24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(Cat.No.311−02501、ニッポンジーン株式会社製)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計(日本分光株式会社製)にて測定し、200μg/mLになるように総RNAを調製した。
【0035】
この総RNAを鋳型として、アクアポリン3及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出は、PCR装置Takara PCR Thermal CyclerMP(タカラバイオ株式会社製)及びリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社製)を用いて、TaKaRa SYBER Prime Script RT−PCR kit(Perfect Real Time,code No. RR063A)によるリアルタイム2 Step RT−PCR反応により行った。
アクアポリン3のmRNAの発現量は、「グリチルリチン酸ジカリウム無添加」及び「グリチルリチン酸ジカリウム添加」でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、更に「グリチルリチン酸ジカリウム無添加」の補正値を100としたときの「グリチルリチン酸ジカリウム添加」の補正値を算出した。
【0036】
アクアポリン3 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
前記式において、Aは「グリチルリチン酸ジカリウム添加時の補正値」を表し、Bは「グリチルリチン酸ジカリウム無添加時の補正値」を表す。
上記試験の結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、グリチルリチン酸ジカリウムは、優れたアクアポリン3産生促進作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアクアポリン3産生促進剤は、有効成分が単体であり保存安定性が高く、皮膚の乾燥に伴う肌荒れや保湿、肌のはりの向上、肌のバリア機能の低下の予防又は改善などの作用に関与するアクアポリン3の産生を促進するため、皮膚などへの適用性が良好であり、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤、アストリンゼント等の皮膚化粧料に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチン酸ジカリウムを有効成分として含有することを特徴とするアクアポリン3産生促進剤。

【公開番号】特開2011−148732(P2011−148732A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11167(P2010−11167)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】