説明

アクスルハウジング構造

【課題】軽量化を図りながら音響特性や作業性等を有効に向上するアクスルハウジング構造を提供する。
【解決手段】デファレンシャルギヤユニット100を収容するアクスルハウジング10において、デファレンシャルギヤユニット100とアクスルハウジング10との間を、補強部材15を介して連結する。補強部材15の一端をデファレンシャルユニット100のデファレンシャルキャップ14に結合し、補強部材15の他端をアクスルハウジング10のハウジング面に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前輪又は後輪のサスペンションの一部を構成する部品であって、駆動車軸及びデファレンシャルギヤユニット等を収容するアクスルハウジング(車軸ケース)の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクスルハウジングはデファレンシャルギヤ及び駆動軸(ドライブシャフト)、そして潤滑オイルを内包し、サスペンション部品として機能する。従って、デファレンシャルギヤケースとしての役割とサスペンション部材として車両を支持する役割を兼備している。先ず、デファレンシャルギヤケースとしての特性において、内部にデファレンシャルギヤを持つため、このデファレンシャルギヤが発生する音を外部に漏らさない、もしくはデファレンシャルギヤの振動(騒音)を増幅しないという特性が求められる。
【0003】
ところが、アクスルハウジングは特有の形状もしくは形態を持ち、特に車両後方側に比較的大きな面が形成され、その面が振動し易く、特定の周波数の振動にピークが生じる共振が起こり易い。騒音の原因として、デファレンシャルギヤの噛合によって生じる振動をその主な音源とするが、アクスルハウジングの共振周波数とデファレンシャルギヤ噛合周波数の倍数とが重なると、特定周波数の音が著しく大きくなる。つまり周波数ピークを持つ騒音となり、これは聴感上極めて不快なものとなり、そのままでは車両の特に騒音面等の品質に与える影響が大きい。
【0004】
なお、かかる騒音の問題は、主にアクスルハウジングの後側の面を振動し難くすることで改善を図ることができる。即ち、一般には板厚を厚くすることにより、そのような面の剛性が増し、振動し難くするというものである。
【0005】
一方、アクスルハウジングはサスペンション部材として、これがバネ下重量となることから軽量化の要請がある。しかしながら、軽量化を図るために板厚を薄くすると面の剛性が低下して振動し易くなり、聴感上の特性(音響特性)は悪化することとなる。つまり軽量化と音響特性を同時に満足させるのは極めて困難である。
【0006】
軽量化の観点からは溶接部を廃止し得る一体成形は極めて有効な手段であり、その場合更に、従来例えば特許文献1に記載のアクスルハウジングでは、左右の直管部とハウジングセンタとの境界部に金属製の環状部材を嵌合し、その近傍における振動による騒音を抑制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−213178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示す手法は、音響的に最も問題となるハウジングセンタ後側の面については、車両前側にデファレンシャルギヤを収容するための開口部を有するため環状部材の設置が極めて困難になる。仮に境界部からハウジングセンタ中心に向って環状部材を延長、大型化して設置しても、デファレンシャルギヤを挿入するための開口部を設けざるを得ないため、結果的に環状部材の剛性が著しく低下し、振動を抑制することが困難になる。また、振動抑制の観点からは、振動の大きな面の板厚を増加させる手法が考えられ、かかる目的のためにはアクスルハウジングを鋳造法で製造する方法も考えられるが、厚さ数mm以下の板厚とした場合、鋳造による成形は実質的に困難であり、このため塑性加工によらざるを得ない。しかしながら、板金加工では特定部位(アクスルハウジング中央部付近)を所望の厚さにするのは難しく、板厚による音響特性の改善は極めて困難になる。
また、アクスルハウジング内部に補強部材等を溶接により追加設置する手法があるが、アクスルハウジングを一体成形した場合では、デファレンシャルギヤを組み入れるための開口部側からしか設置することができない。このため溶接の方向が限定され、そのままでは組付け作業性を著しく悪化させてしまう。
【0009】
本発明はかかる実情に鑑み、軽量化を図りながら音響特性や組付け作業性等を有効に向上するアクスルハウジング構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるアクスルハウジング構造は、デファレンシャルギヤユニットを収容するアクスルハウジング構造であって、前記デファレンシャルギヤユニットと前記アクスルハウジングとの間を、補強部材を介して連結したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明によるアクスルハウジング構造において、前記補強部材の一端を前記デファレンシャルユニットのデファレンシャルキャップに結合し、前記補強部材の他端を前記アクスルハウジングのハウジング面に結合することを特徴とする。
また、本発明によるアクスルハウジング構造において、前記アクスルハウジングの略中央部にて、少なくとも2つの前記補強部材が配置されることを特徴とする。
また、本発明によるアクスルハウジング構造において、前記アクスルハウジングは一体成形されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アクスルハウジングにおける振動抑制効果が最も大きい部位に補強部材を配置し、これにより音響特性を大幅に改善することができる。また、この補強部材はアクスルハウジングの外側から固定することができるため、良好な組付け作業性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるアクスルハウジング構造の実施形態を示す概観斜視図である。
【図2】本発明によるアクスルハウジング構造の実施形態を示す一部破断斜視図である。
【図3】本発明によるアクスルハウジング構造の実施形態を示す平面図である。
【図4】本発明によるアクスルハウジング構造に係るデファレンシャルギヤユニットの要部構成を模式的に示す平面図である。
【図5】本発明によるアクスルハウジング構造の実施形態におけるロッドまわりの具体的構成例を示す図である。
【図6】図5のA部拡大図である。
【図7】本発明によるアクスルハウジング構造の変形におけるロッドまわりの具体的構成例を示す図及びその拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき、本発明によるアクスルハウジング構造における好適な実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るアクスルハウジング10の例を示している。先ず、本発明を適用したアクスルハウジング10について概略説明する。ここでは例えば後輪駆動車の例とし、典型的にはプロペラシャフトを介して車両前部に搭載したエンジンの出力を後輪に伝達するものとする。なお、以下の説明中で用いる各図において、必要に応じて車両の前方を矢印Frにより、車両の後方を矢印Rrにより示し、また、車両の側方右側を矢印Rにより、車両の側方左側を矢印Lにより示す。
本明細書においては上下、前後、左右等の記載は、一般的なFR車、即ちフロントにエンジンを搭載する後輪駆動車の車体を基準とする方向及び位置関係を示すものとする。従って軸方向とは、アクスルハウジングの軸方向を意味し、上記の車体幅方向と略同一である。四輪駆動車等でフロントにアクスルハウジングを搭載する場合には、前後が逆の関係となる。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては同一の符号を付すことにより重複説明を省略する。
【0015】
アクスルハウジング10は図1に示されるように左右方向に配置され、センタ部10A(中央部)の左右両側に軸直管部10Bが延出する。センタ部10Aは図示のように全体として膨張した形態を有し、このセンタ部10Aの内部に図2に示されるようにデファレンシャルギヤユニット100が収容される。
【0016】
ここで、図4を参照してデファレンシャルギヤユニット100について概略説明する。図4(平面図)は、デファレンシャルギヤユニット100の要部構成を模式的に示している。デファレンシャルギヤユニット100の支持方法等に関する具体的構造については、ここではその詳細な説明を省略するが、デファレンシャルギヤユニット100はドライブギヤ101、リングギヤ102、ピニオンギヤ103及びサイドギヤ104を含んでいる。先ず、車両前部に搭載したエンジンからトランスミッション等を介してプロペラシャフト1が後方へ延出し、プロペラシャフト1はドライブギヤ101に結合する。このドライブギヤ101はリングギヤ102と噛合し、これを回転駆動する。
【0017】
リングギヤ102には一対のピニオンギヤ103が回転可能に支持され、これらのピニオンギヤ103はそれぞれ左右一対のサイドギヤ104と噛合する。各サイドギヤ104には左右の車軸2が結合し、これらの車軸2にはそれぞれ左右の車輪3(後輪)が連結される。プロペラシャフト1の回転でデファレンシャルギヤユニット100を介して左右の車軸2を回転させ、これにより車輪3が回転駆動される。
【0018】
アクスルハウジング10は、かかるデファレンシャルギヤユニット100を収容し、デファレンシャルギヤユニット100を介してエンジンの動力を車輪3へ伝達させるため、高い剛性強度が必要となる。また、前述したように作動音等に関連して品質上、良好な音響特性が要求される。
【0019】
なお、この実施形態においてアクスルハウジング10はハイドロフォーム加工により一体成形することができ、ここでその成形方法を概略説明する。ハイドロフォーム加工において、上型及び下型内に金属素管を挟み込み、この金属素管内に作動流体を注入して充満させる。そして作動流体の充満後、金属素管内に圧力をかけながら軸押しシリンダヘッドにて金属素管の端部から中心に向けて軸方向に押し、金属素管を所望の形状、即ちアクスルハウジング形状に仕上げる。
【0020】
更に図3等を参照して、アクスルハウジング10のセンタ部10Aの前側には開口(図示せず)が形成されており、この開口を介してデファレンシャルギヤユニット100をアクスルハウジング10内に組み込むようになっている。この開口の周辺にはリング状のフランジ11が固着し、フランジ11に対して複数のボルト12によってベース13が固定される。ベース13側には左右に隔置された一対のデファレンシャルキャップ14が取り付けられ、このデファレンシャルキャップ14によって左右の車軸2の内側端部が回転自在に支持される。デファレンシャルギヤユニット100は、左右のデファレンシャルキャップ14の内側に配置される。
【0021】
さて、本発明において特に、デファレンシャルギヤユニット100とアクスルハウジング10との間が、補強部材を介して連結される。この実施形態では図2及び図3に示すように補強部材としてロッド15を有し、左右のデファレンシャルキャップ14それぞれとアクスルハウジング10のハウジング面(内面)との間にロッド15が介装されるかたちの連結構造となっている。この例では2つのロッド15が配置される。
【0022】
図5及び図6は、ロッド15まわりの具体的な構成例を示している。ロッド15は典型的には円柱状部材であってよく、その一端がデファレンシャルキャップ14に結合し、その他端がアクスルハウジング10のハウジング面に結合する。ここで、デファレンシャルキャップ14は、ベース13から突設(実車では車両後方側)された基部14Aとこの基部14Aに重ね合わさるように結合する上半部14Bとにより2分割構成され、両者は両側の一対のボルト16によって相互に締結固定される。
【0023】
この場合、ロッド15の一端側にはネジ部17(雄ネジ)を形成し、上半部14Bの中央部にはネジ部17が螺合するネジ部18(雌ネジ)を形成する。なお、ネジ部18の周囲にはボス状に突起させた座部19を設けてもよい。また、ロッド15の他端側にはネジ部20(雌ネジ)を形成すると共に、ネジ部20に対してアクスルハウジング10の外側からボルト21を螺合させる。なお、アクスルハウジング10にはボルト21を挿通させるための挿通孔(図示せず)が開設されているものとする。また、ボルト21(ボルトヘッド)とアクスルハウジング10の間にワッシャ22が装着される。
【0024】
本発明のアクスルハウジング構造において、デファレンシャルギヤユニット100等を組み付ける場合、先ずベース13上にデファレンシャルキャップ14及びデファレンシャルギヤユニット100等をユニット化した状態で支持しておき、アクスルハウジング10の前側に形成された開口からアクスルハウジング10内に組み入れる。その際、ロッド15のネジ部17をネジ部18に螺着させることで、予めデファレンシャルキャップ14の上半部14Bに取り付けておく。アクスルハウジング10内部に配置されているロッド15のネジ部20に、アクスルハウジング10の外側からボルト21を螺合させることで、図3等に示すようにデファレンシャルギヤユニット100とアクスルハウジング10との間が、補強部材としてのロッド15を介して連結される。
【0025】
上記のようにアクスルハウジング10内部に補強部材としてのロッド15を配置し、これによりアクスルハウジング10の後面を固定する構造とし、特に後側の面振動を有効に抑制することが可能となる。そして、かかる面振動の抑制効果により、騒音のピークを下げあるいは周波数をずらすことによって、音響特性を大幅に改善することができる。この場合、ロッド15の設置部位は、アクスルハウジング10の後面とデファレンシャルギヤユニット100の間の空間に設定される。即ち、振動抑制効果が最も大きい部位に適用することで、高い振動抑制効果を得ることができる。
【0026】
また、ロッド15は最終的にアクスルハウジング10内部に配置されるが、アクスルハウジング10の後面外側からボルト21によって固定される。このようにアクスルハウジング10の外側から固定することができるため、良好な組付け作業性が得られる。例えば溶接等によってアクスルハウジング10の内部に固定する場合、スペースや溶接の方向の点で作業性が悪化せざるを得ない。
【0027】
ここで、本発明の具体的な適用例において、先ずロッド15を有しない場合、アクスルハウジング10のモーダル解析により振動解析を行った。その解析結果として、デファレンシャルキャップ14に対応するアクスルハウジング10の後面部位にて、650Hz付近で振動することが判明した。これに対して、ロッド15を設置した本発明のアクスルハウジング構造によれば、80〜100km/h走行時の650Hz付近にピークを持つ騒音を2dB以上改善することができた。
【0028】
更に図7は、本発明の変形例を示している。この例では、デファレンシャルキャップ14の基部14A及び上半部14Bを締結するためのボルト16の対応位置にそれぞれ、ロッド23が配置される。このロッド23は、ボルト16の締結機能を兼備し、即ちその一端側の先端にはネジ部24(雄ネジ)を形成し、一方、基部14Aにはネジ部24が螺合するネジ部25(雌ネジ)を形成する。ロッド23の他端側にはロッド15の場合と同様に、ネジ部20(雌ネジ)を形成すると共に、ネジ部20に対してアクスルハウジング10の外側からボルト21を螺合させる。なお、ロッド23の外周部適所にDカット26等を形成し、この部位を利用してネジ部24の螺合の際に回転トルクを付与するようにしてもよい。
【0029】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
ロッド15の固定方法として、例えばロッド15の一端及び他端共に雄ネジを形成し、アクスルハウジング10に形成してあるボルト挿通孔にその雄ネジを、アクスルハウジング10内部から外側に挿通する。そして、外側に突出したその雄ネジにナットを螺合させることでロッド15を固定してもよい。また、以上の例のようにボルト及びナットを用いる場合の他、接着やカシメ等の方法も可能である。
【0030】
更にデファレンシャルキャップ14を鋳造あるいは鍛造で製造する場合、ロッド15に対応する部位もしくは形状を一体成形することも可能である。その場合、その部位の先端をアクスルハウジング10内部から外部へ貫通させ、且つその先端部を潰してカシメ加工を行ってもよい。
【0031】
また、補強部材としてのロッド15を車両前後方向に沿って配置する例を説明したが、前後方向に対して左右方向あるいは上下方向に適度に傾斜角度を持たせて配置することも可能であり、この場合を含めいずれの変形例においても上記実施形態と実質的に同様な作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 プロペラシャフト、2 車軸、3 車輪、10 アクスルハウジング、10A センタ部、11 フランジ、13 ベース、14 デファレンシャルキャップ、15 ロッド(補強部材)、16 ボルト、17,18,20 ネジ部、21 ボルト、100 デファレンシャルギヤユニット、101 ドライブギヤ、102 リングギヤ、103 ピニオンギヤ、104 サイドギヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デファレンシャルギヤユニットを収容するアクスルハウジング構造であって、
前記デファレンシャルギヤユニットと前記アクスルハウジングとの間を、補強部材を介して連結したことを特徴とするアクスルハウジング構造。
【請求項2】
前記補強部材の一端を前記デファレンシャルユニットのデファレンシャルキャップに結合し、前記補強部材の他端を前記アクスルハウジングのハウジング面に結合することを特徴とする請求項1に記載のアクスルハウジング構造。
【請求項3】
前記アクスルハウジングの略中央部にて、少なくとも2つの前記補強部材が配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載のアクスルハウジング構造。
【請求項4】
前記アクスルハウジングは一体成形されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクスルハウジング構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−225086(P2011−225086A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96288(P2010−96288)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】