説明

アクティブ制振方法及び装置

【課題】 入力削減機構による絶対応答が制振対象構造物の固有振動数より高い周波域で一定値に収束しないようにする。
【解決手段】 基礎4上の剛柱5の頂部に設けたブラケット6に、梃子7の上端部を支点となるピン8で揺動可能に連結する。梃子7の支点近くに、制振対象構造物mに設けたブラケット9をピン10で揺動可能に連結する。梃子7の下端部に所要の質量mを取り付けて、入力削減機構を形成する。更に、基礎4上に設けたアクチュエータ11により所要の質量mと一緒に梃子7を揺動させることができるようにする。地震発生時に基礎4の変位に伴って制振対象構造物mが揺れるときに、梃子7の作用により入力を削減すると共に振動の長周期化を図り、更に、アクチュエータ11の制御力により所要の質量mと一緒に梃子7を揺動させて、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での入力削減特性を打ち消させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブ型の制振装置に関するもので、特に、基礎からの変位強制を受ける構造物の入力を削減できる入力削減機構を活用して制振対象構造物の振動の抑制を図るアクティブ制振方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の免震を図るために、基礎からの変位強制を受ける構造物の入力を削減するための手法として、梃子作用を利用した入力削減機構が知られている。
【0003】
この入力削減機構は、図7にその一例の概要を示す如く、基礎1に固定した支点2から張り出す梃子3の先端に所要の質量mを装着し、一方、上記梃子3における支点2に近い個所を、構造物mと剛に結合したものであり、上記構造物mが入力を受けると、梃子3が先端の質量mと一緒に振り子振動するようにしてある。
【0004】
上記入力削減機構を免震や制振に適用する試みは古くから知られており、該入力削減機構を用いると、上記構造物mへの入力が、梃子3の長手方向における支点2から構造物m側との接続個所までの距離をa、上記梃子3の支点2から上記質量mまでの距離をbとするときの梃子比λ(λ=b/a)、及び、質量比μ(μ=m/m)によって定まる(1+μλ)/(1+μλ)倍に削減されるようになる入力削減特性が得られること、及び、構造物mの固有周期が、√(1+μλ)倍に長くなるという長周期特性が得られるという長所が知られている。
【0005】
したがって、共振点で大きく励振されるような低減衰の構造物を制振対象となる構造物mとして、その制振を図る場合に有効であるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】国枝正春,「構造物の防振設計と免震設計」,日本機械学会誌,昭和51年4月,Vol.79,No.689,p.360−365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記図7に示した如き入力削減機能を適用して構造物の免震や制振を図る場合には、上記入力削減機構があるために、図8に一例を示すように、高周波域では絶対応答(振幅比)が一定値に収束してしまい、そのために、絶縁性能があまり期待できない欠点があることが判明してきた。
【0008】
したがって、上記入力削減機構を、そのまま免震装置等の振動絶縁装置として適用することは難しいというのが実状である。
【0009】
そこで、本発明は、上記入力削減機構の有する入力削減特性、及び、長周期特性を有効に活用して、制振対象構造物の共振ピークの低減、及び、制振対象構造物の固有周期の長周期化を図ることができ、且つ、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域の入力削減特性も改善できて、該高周波域であっても絶対応答が一定値に収束することを未然に防止できるアクティブ制振方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心に揺動し且つ上記支点の近くに上記制振対象構造物を揺動可能に連結した梃子と、該梃子の先端部に取り付けた所要の質量とを備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記梃子の先端部の所要の質量が拡大された変位量で揺動できるようにした入力削減機構を備え、且つ上記所要の質量を、アクチュエータにより往復駆動させて、上記入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域の入力削減特性を打ち消すようにするアクティブ制振方法とする。
【0011】
又、請求項2に対応して、基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心として回転可能な所要の質量と、上記制振対象構造物の揺れに伴う基礎に対する相対変位を上記所要の質量の回転に変換する変換機構を備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記所要の質量が拡大された回転変位量で正逆転できるようにした入力削減機構を備え、且つ上記所要の質量を、アクチュエータにより正逆転駆動させて、上記入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域の入力削減特性を打ち消すようにするアクティブ制振方法とする。
【0012】
更に、請求項3に対応して、基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心に揺動し且つ上記支点の近くに上記制振対象構造物を揺動可能に連結した梃子と、該梃子の先端部に取り付けた所要の質量とを備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記梃子の先端部の所要の質量が拡大された変位量で揺動できるようにし、更に、上記所要の質量を往復駆動するためのアクチュエータを備えてなる構成を有するアクティブ制振装置とする。
【0013】
更に又、請求項4に対応して、基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心として回転可能な所要の質量と、上記制振対象構造物の揺れに伴う基礎に対する相対変位を上記所要の質量の回転に変換する変換機構を備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記所要の質量が拡大された回転変位量で正逆転できるようにし、更に、上記所要の質量を正逆転駆動するためのアクチュエータを備えてなる構成を有するアクティブ制振装置とする。
【0014】
又、上記構成において、所要の質量として、ボールねじ機構のねじ軸と、該ボールねじ機構を駆動するアクチュエータとしてのモータの回転子を用いるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心に揺動し且つ上記支点の近くに上記制振対象構造物を揺動可能に連結した梃子と、該梃子の先端部に取り付けた所要の質量とを備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記梃子の先端部の所要の質量が拡大された変位量で揺動できるようにした入力削減機構を備え、且つ上記所要の質量を、アクチュエータにより往復駆動させて、上記入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域の入力削減特性を打ち消すようにするアクティブ制振方法及び装置としてあるので、パッシブ系の入力削減機構と同等以上の入力削減特性が得られると共に、パッシブ系の入力削減機構と同等の長周期特性を得ることができる。
(2)更に、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域であっても、絶対応答(振幅比)がパッシブ系の入力削減機構のように一定値に収束することはないため、該高周波域での絶縁特性を改善することができて、入力削減機構がない場合、すなわち、単純な一自由度系と同等の振動特性を達成することが可能になる。
(3)基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心として回転可能な所要の質量と、上記制振対象構造物の揺れに伴う基礎に対する相対変位を上記所要の質量の回転に変換する変換機構を備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記所要の質量が拡大された回転変位量で正逆転できるようにした入力削減機構を備え、且つ上記所要の質量を、アクチュエータにより正逆転駆動させて、上記入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域の入力削減特性を打ち消すようにするアクティブ制振方法及び装置とすることによっても、上記(1)(2)と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のアクティブ制振方法に用いる本発明のアクティブ制振装置の実施の一形態として、力学モデルを示す概略側面図である。
【図2】図1のアクティブ制振方法及び装置により、低周波域での入力削減特性を生かすと共に、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁特性の改善を図る場合の効果を示す、制振対象構造物の振幅比と周波数の相関を示すもので、(イ)は高周波域までを示す図、(ロ)は(イ)の低周波域を拡大して示す図である。
【図3】図1のアクティブ制振方法及び装置により、入力削減特性をあまり重視することなく、長周期特性のみを活用して入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁特性を積極的に改善する場合の効果を示す、制振対象構造物の振幅比と周波数の相関を示すもので、(イ)は高周波域までを示す図、(ロ)は(イ)の低周波域を拡大して示す図である。
【図4】本発明の実施の他の形態を示す概略側面図である。
【図5】図4のA−A方向矢視図である。
【図6】本発明の実施の更に他の形態を示す概略側面図である。
【図7】入力削減機構の一例の概要を示す側面図である。
【図8】図7の入力削減機構を適用した構造物における振幅比と周波数との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1乃至図3(イ)(ロ)は本発明のアクティブ制振方法及び装置の実施の一形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0019】
すなわち、本発明のアクティブ制振方法の実施に用いる本発明のアクティブ制振装置は、図1に力学モデルを示す如く、基礎4に、剛柱5を立設し、該剛柱5の上端部に一側に突出させて設けたブラケット6に、所要の長さ寸法を有する梃子7の上端部を、該梃子7の支点となるピン8を介して揺動可能に接続する。なお、上記基礎4は、地震発生時には地動により該基礎4自体に絶対変位xが生じるということを図示する便宜上、図1では、上記梃子7の揺動方向に沿う図上左右方向にコロを介して変位可能な状態で記載してある。
【0020】
上記梃子7の長手方向における上記支点となるピン8に近い所要個所に、制振対象構造物mの天井や屋根等の下面に一体に設けたブラケット9を、ピン10を介して揺動可能に接続する。
【0021】
上記梃子7の下端部に、所要の質量mを取り付けて入力削減機構を形成する。
【0022】
更に、上記基礎4上に、所要のアクチュエータ11を、上記梃子の揺動方向に沿って配置すると共に、該アクチュエータ11の両端部を、上記基礎4の所要個所と、上記所要の質量mにそれぞれ連結して、該アクチュエータ11により、上記梃子7と一緒に上記所要の質量mを揺動させることができるようにする。
【0023】
次に、以上の構成としてある本発明のアクティブ制振装置を用いた制振対象構造物mのアクティブ制振方法について説明する。
【0024】
上記図1に示した本発明のアクティブ制振装置の力学モデルにて、地震発生時における基礎4の上記梃子7の揺動方向に沿う方向の変位をx、基礎4に対する制振対象構造物mの上記梃子7の揺動方向に沿う方向の相対変位をxとし、該制振対象構造物mの構造自体の復元力、たとえば、制振対象構造物mを支持する2本の柱の復元力に伴うばね定数をk、減衰係数をcとし、上記梃子7の支点となるピン8の位置から制振対象構造物mに設けたブラケット9とのピン10を介した連結個所までの距離をa、上記梃子7の支点となるピン8の位置から該梃子7の下端部に連結した上記所要の質量mまでの距離をbとし、更に、上記アクチュエータとしてのボールねじ機構12による上記所要の質量mに対する制御力をfとすると、上記本発明のアクティブ制振装置の運動方程式は、次式で記述される。なお、上記x、x、fはいずれも図上右方向を正としてある。
【数1】

【0025】
上記式(1)を、質量比μ(μ=m/m)と梃子比(アーム比)λ(λ=b/a)を用いて整理すると、
【数2】

となる。
【0026】
ここで、アクティブ制御の目的は、制振対象構造物mの共振ピークの低減と、前記した入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁性能の改善である。このことに鑑みて、上記制振対象構造物mの共振ピークの低減をフィードバック制御、又、絶縁性能の改善をフィードフォワード制御によって実現させるものとする。
【0027】
そこで、制御力fを次式のように書き、絶対応答フィードバック制御と地動加速度のフィードフォワード制御を施す。
【数3】

ここで、
【数4】

であり、前者はフィードバック制御力、後者はフィードフォワード制御力である。又、k、k及びkffは、それぞれ速度フィードバックゲイン、変位フィードバックゲイン及びフィードフォワードゲインである。なお、フィードバック制御は、変位の絶対量をフィードバックすることよって、共振ピークを低減させると共に、高周波域での絶縁性能が優れたスカイフック系とするものとしてある。
【0028】
上記式(3)を式(2)に代入し、絶対変位の伝達関数を求めると、次式を得る。
【数5】

【0029】
上記において、フィードバックゲインk及びkは、LQ制御理論等から求めることができるが、古典制御的な手法や、ダンパのみを想定した速度フィードバックのみ等、その算出方法は限定されない。一方、フィードフォワードゲインkffは、上記式(4)の分子におけるsの項を消去する条件
【数6】

より、
【数7】

が得られる。
【0030】
振動絶縁の改善に用いるフィードフォワード制御の適用には、二つの方法が考えられ、第1の方法は、低周波域での入力削減特性をできるだけ生かしつつ、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁特性を改善する方法であり、第2の方法は、入力削減特性は殺し、長周期特性のみを生かして、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁特性を積極的に改善する方法である。
【0031】
上記した第1及び第2の各方法により数値計算した効果を、図2(イ)(ロ)と図3(イ)(ロ)に振幅比(入力に対する制振対象構造物mの振動)と周波数の相関としてそれぞれ示す。なお、図2(ロ)と図3(ロ)は、それぞれ、図2(イ)と図3(イ)の低周波域を拡大して示したものである。
【0032】
計算の条件は、いずれも、制振対象構造物mの質量を20000ts/m、梃子比λ=30、質量比μ=1/1000、減衰比ζ=0.01であり、制振対象構造物mの固有振動数を0.2Hzに設定してある。
【0033】
図2(イ)(ロ)は、上記第1の方法に基き、共振点での入力削減機構をできるだけ生かすように、フィードフォワード制御はハイパスフィルタを通すことにより、高周波側のみに作用させるようにした場合の結果が実線で示してある。ここで、ハイパスフィルタには、一次のものを適用し、カットオフ周波数を0.5Hzに設定するようにしてある。
【0034】
比較として、図2(イ)(ロ)に、入力削減機構がない場合の結果を二点鎖線で、又、パッシブ系の入力削減機構が設けてある場合の結果が破線でそれぞれ示してある。なお、比較に用いたパッシブ系は、振り子先端部での減衰比ζを0.1に設定してある。
【0035】
図2(イ)(ロ)の結果より、ピーク値が、入力削減機構がない場合、更には、パッシブ系の入力削減機構を設けた場合に比して低下していることから、本発明のアクティブ制振方法及び装置によれば、パッシブ系の入力削減機構と同等以上の入力削減特性が得られること、又、ピーク位置が、入力削減機構がない場合に比して、パッシブ系の入力削減機構を設けた場合と同様に低周波数側にシフトしていることから、本発明のアクティブ制振方法及び装置によれば、パッシブ系の入力削減機構と同等の長周期特性が得られることが判明した。
【0036】
更に、高周波域であっても、絶対応答(振幅比)がパッシブ系の入力削減機構のように一定値に収束することはなく、入力削減機構がない場合により近くなっていることから、フィードフォワード制御によって入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域における絶縁効果が現れてきていることが分かる。
【0037】
しかし、勾配はそれほど大きくない。これは、ハイパスフィルタの影響である。
【0038】
図3(イ)(ロ)は、上記第2の方法に基き、入力削減特性は捨てて、フィードフォワード制御を低周波域から適用し、長周期特性のみを活用した場合の結果が実線で示してある。なお、ハイパスフィルタのカットオフ周波数は0.01Hzとしてある。
【0039】
比較として、図3(イ)(ロ)に、入力削減機構がない場合の結果を二点鎖線で、又、パッシブ系の入力削減機構が設けてある場合の結果が破線でそれぞれ示してある。なお、比較に用いたパッシブ系は、図2(イ)(ロ)の場合と同様に、振り子先端部での減衰比ζ2を0.1に設定してある。
【0040】
図3(イ)(ロ)の結果から、ピーク値が、入力削減機構がない場合、更には、パッシブ系の入力削減機構を設けた場合に比して低下していることから、この場合は、本発明のアクティブ制振方法及び装置により、パッシブ系の入力削減機構と同等以上の入力削減特性が得られること、又、ピーク位置が、入力削減機構がない場合に比して、パッシブ系の入力削減機構を設けた場合のように低周波数側にシフトしていることから、本発明のアクティブ制振方法及び装置により、パッシブ系の入力削減機構と同等の長周期特性が得られることが判明した。
【0041】
更に、固有振動数は低く抑えながら、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域であっても、絶対応答(振幅比)がパッシブ系の入力削減機構のように一定値に収束することはなく、該高周波域での絶縁特性を大幅に改善することができて、入力削減機構がない場合、すなわち、単純な一自由度系と同等の振動特性を達成することが可能であることが分かる。
【0042】
なお、実際の装置では、機構上、梃子比λには自ずから限界があり、大きく取れない可能性がある。したがって、このように梃子比λを大きく取れない場合は、上記第2の方法の方がより実用的になると推察される。
【0043】
次いで、図4及び図5は本発明の実施の他の形態として、図1乃至図3(イ)(ロ)の実施の形態を具現化する場合の構成例を示すもので、以下のようにしてある。
【0044】
すなわち、図1に示したと同様の構成において、所要のアクチュエータ11を、駆動モータ13と、その出力軸に連結したねじ軸14と、該ねじ軸14に螺合させたナット部材15とを具備してなるアクチュエータとしてのボールねじ機構12として、該ボールねじ機構12を、基礎4上に、梃子7の揺動方向に沿って設置すると共に、ボールねじ機構12の上記ナット部材15に、上記所要の質量mを結合する。これにより、上記ボールねじ機構12の駆動モータ13による上記ねじ軸14の正逆転駆動により上記ナット部材15と一緒に上記所要の質量mをねじ軸14の軸心方向に沿って往復移動させることができるようにしてある。
【0045】
なお、上記梃子7の下端部に取り付けてある所要の質量mは、該梃子7の揺動に伴い高さ位置が変化するようになる。そのために、上記ボールねじ機構12のナット部材15と、上記所要の質量mとの結合部には、両者の水平方向の相対変位は拘束する一方、上下方向の相対変位は許容できるようにしたガイド機構16を備えるようにしてある。
【0046】
具体的には、上記ガイド機構16は、たとえば、上記ナット部材15の上に上下方向に延びるガイドバー17の下端部を取り付け、且つ該ガイドバー17の上端部を、上記所要の質量mの下面側に設けたベアリング19を備えた上下方向のガイド穴18に嵌合させてなる構成としてある。又、上記梃子7の揺動に伴って上記所要の質量mのガイド穴18の向きが傾かないようにするために、上記所要の質量mは、上記梃子7の下端部にピン20を介して梃子7の揺動方向に沿って揺動可能に取り付けた構成としてある。これにより、上記ボールねじ機構12におけるナット部材15のねじ軸14の軸心方向に沿う動きを、該ナット部材15に取り付けたガイドバー17より上記所要の質量mのガイド穴18へ伝えることで、該所要の質量mを上記ナット部材15と一緒にねじ軸14の軸心方向へ往復移動させることができるようにしてあり、この際、上記ガイドバー17の周りで上記ガイド穴18が設けてある所要の質量mが上下方向にスライドすることで、該所要の質量mに高さ位置の変化を伴う揺動を行わせることができるようにしてある。
【0047】
上記基礎4には、地震発生時等における該基礎4自体の絶対変位(揺れ)を地動加速度として検出するための加速度センサ21を設ける。更に、上記制振対象構造物mに加速度センサ22を設けて、該加速度センサ22により、上記制振対象構造物mの絶対応答(基礎4の変位の影響を受けない空中の或る1点に対する相対変位)の加速度を検出することができるようにしてある。
【0048】
更に又、上記各加速度センサ21,22から入力される加速度信号を基に、上記アクチュエータとしてのボールねじ機構12の駆動モータ13へ駆動指令を与える制御器23を備えた構成としてある。したがって、上記制御器23では、上記基礎4に設けた加速度センサ21による検出信号を基に積分を行うことで、該基礎4が絶対変位する際の速度と変位xを算出できるようにしてあると共に、上記制振対象構造物mに設けた加速度センサ22の加速度信号を基に積分を行うことで、制振対象構造物mの絶対応答の速度と変位を算出でき、更には、上記制振対象構造物mの絶対応答と、上記基礎4の絶対変位との変位の差から、該制振対象構造物mの上記基礎4に対する相対的な変位(応答)xを検出できるようにしてある。
【0049】
その他の構成は図1に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0050】
以上の構成としてある本実施の形態のアクティブ制振装置を用いた制振対象構造物mのアクティブ制振方法について説明する。
【0051】
ここで、上記図1に示した本発明のアクティブ制振装置の力学モデルの構成は、梃子7による入力削減機構のみを備えた形式としてあるが、本実施の形態のアクティブ制振装置では、所要の質量mを梃子7と共に揺動させるためのアクチュエータとして、駆動モータ13によるねじ軸14の回転駆動により上記所要の質量mに連結したナット部材15を往復動させる形式のボールねじ機構12を用いた構成としてあるために、該ボールねじ機構12における上記ねじ軸14のリードによっても入力削減機構の梃子比を稼ぐことができる。
【0052】
したがって、本実施の形態のアクティブ制振装置の運動方程式は、入力削減機構の別の所要の質量となる上記ボールねじ機構12におけるねじ軸14と駆動モータ13の回転子の慣性モーメントをm、上記ねじ軸14のリードをLとすると、前記した式(1)の左辺の第一項の係数を、
【数8】

のように置き換えればよく、
【数9】

とおくと、前記した式(2)に代わって、
【数10】

となる。
【0053】
上記式(7)に前記した式(3)を代入すると、
【数11】

となり、したがって、
【数12】

となる。
【0054】
上記式(8)をラプラス変換すると、
【数13】

となる。
【0055】
ここで、上記式(9)における左辺の{ }内における第2項の係数をa、第3項の係数をaとし、右辺の{ }内における、第1項の係数をb、第2項の係数をb、第3項の係数をbとおくと、絶対変位の伝達関数は、以下のようになる。
【数14】

ここで、
【数15】

であるから、
【数16】

となる。
【0056】
上記式(10)で、フィードフォワードゲインkffは、分子のsの項を消去する条件
【数17】

より、
【数18】

となる。
【0057】
よって、本実施の形態においても、上記実施の形態と同様にして、振動絶縁の改善に用いるフィードフォワード制御として、低周波域での入力削減特性をできるだけ生かしつつ、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁特性を改善する第1の方法を適用することで、該高周波域の絶縁効果を得ることができ、又、入力削減特性は殺し、長周期特性のみを生かして、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁特性を積極的に改善する第2の方法を適用することにより、固有振振動数は低く抑えながら、該高周波域での絶縁特性を大幅に改善する効果を得ることができる。
【0058】
次いで、図6は本発明の実施の更に他の形態を示すもので、以下のようにしてある。
【0059】
すなわち、上記各実施の形態の本発明のアクティブ制振装置の構成は、いわゆる梃子7による入力削減機構を採用した形式の構成例を示したものであるが、図4及び図5の実施の形態で述べたように、アクチュエータとしてボールねじ機構12を用いる場合は、該ボールねじ機構12のねじ軸14のリードによって梃子比を稼ぐことができることに着目して、本実施の形態のアクティブ制振装置は、ボールねじ機構12のねじ軸14のリードによって梃子比を稼ぐようにした形式の入力削減機構のみを備えてなる形式としたものである。
【0060】
具体的には、図6に示すように、制振対象構造物mにおける天井や屋根等の下面における所要間隔を隔てた2個所に、互いに対向する斜め下方向に延びる斜材24a、24bの上端部をそれぞれ取り付けると共に、該各斜材24aと24bの下端部同士を、連結部材25を介して連結する。
【0061】
更に、上記連結部材25の下方となる基礎4上に、図4に示したと同様のボールねじ機構12を、上記各斜材24a,24bが配置された鉛直面に沿わせて設置し、且つ該ボールねじ機構12のナット部材15の上側に、上記連結部材25を一体に取り付けた構成とする。これにより、上記制振対象構造物mの基礎4に対する相対変位に伴い、制振対象構造物mに2本の斜材24a,24bと、上記連結部材25を介して連結されたボールねじ機構12のナット部材が上記制振対象構造物mと一緒に変位すると、該ボールねじ機構12のねじ軸14と駆動モータ13の回転子が回転させられるようになる入力削減機構を形成するようにしてあると同時に、上記駆動モータ13により、該駆動モータの回転子と上記ねじ軸14を一体に回転駆動できるようにしてある。
【0062】
その他、図4に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0063】
以上の構成としてある本実施の形態のアクティブ制振装置の運動方程式は、次式のようになる。なお、上記ボールねじ機構12におけるねじ軸14と駆動モータ13の回転子の慣性モーメントをm、上記ねじ軸14のリードをLとしてある。
【数19】

【0064】
上記式(11)を、
【数20】

を用いて変形すると、
【数21】

となる。
【0065】
したがって、本実施の形態のアクティブ制振装置によれば、制振対象構造物mに対する入力は、{1/(1+μλ)}倍に削減されるようになる。
【0066】
上記式(12)に前記した式(3)の制御力を施すと、
【数22】

【0067】
よって、
【数23】

であるから、絶対変位の伝達関数は次式のようになる。
【数24】

となる。
【0068】
フィードフォワードゲインは、上記式(13)のsの項が0になる条件として、
【数25】

となる。
【0069】
したがって、本実施の形態においても、上記各実施の形態と同様にして、振動絶縁の改善に用いるフィードフォワード制御として、低周波域での入力削減特性をできるだけ生かしつつ、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁特性を改善する第1の方法を適用することにより、該高周波域の絶縁効果を得ることができ、又、入力削減特性は殺し、長周期特性のみを生かして、入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域での絶縁特性を積極的に改善する第2の方法を適用することにより、固有振振動数は低く抑えながら、該高周波域での絶縁特性を大幅に改善する効果を得ることができる。
【0070】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、図1乃至図3(イ)(ロ)の実施の形態におけるアクチュエータ11は、所要の質量mと共に梃子7を揺動させることができるようにしてあれば、任意のアクチュエータ11を用いるようにしてよい。
【0071】
入力削減機構としては、上記した運動方程式として式(2)又は式(7)又は式(12)のいずれかが成立する範囲内で、構成を適宜変更してもよい。
【0072】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
4 基礎
7 梃子
8 ピン(支点)
11 アクチュエータ
12 ボールねじ機構
13 駆動モータ
14 ねじ軸
制振対象構造物
所要の質量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心に揺動し且つ上記支点の近くに上記制振対象構造物を揺動可能に連結した梃子と、該梃子の先端部に取り付けた所要の質量とを備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記梃子の先端部の所要の質量が拡大された変位量で揺動できるようにした入力削減機構を備え、且つ上記所要の質量を、アクチュエータにより往復駆動させて、上記入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域の入力削減特性を打ち消すようにすることを特徴とするアクティブ制振方法。
【請求項2】
基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心として回転可能な所要の質量と、上記制振対象構造物の揺れに伴う基礎に対する相対変位を上記所要の質量の回転に変換する変換機構を備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記所要の質量が拡大された回転変位量で正逆転できるようにした入力削減機構を備え、且つ上記所要の質量を、アクチュエータにより正逆転駆動させて、上記入力削減機構が有する制振対象構造物の固有振動数より高い周波域の入力削減特性を打ち消すようにすることを特徴とするアクティブ制振方法。
【請求項3】
基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心に揺動し且つ上記支点の近くに上記制振対象構造物を揺動可能に連結した梃子と、該梃子の先端部に取り付けた所要の質量とを備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記梃子の先端部の所要の質量が拡大された変位量で揺動できるようにし、更に、上記所要の質量を往復駆動するためのアクチュエータを備えてなる構成を有することを特徴とするアクティブ制振装置。
【請求項4】
基礎と該基礎からの変位強制を受ける制振対象構造物との間に、基礎側に固定された支点を中心として回転可能な所要の質量と、上記制振対象構造物の揺れに伴う基礎に対する相対変位を上記所要の質量の回転に変換する変換機構を備えて、上記基礎と制振対象構造物との相対変位により上記所要の質量が拡大された回転変位量で正逆転できるようにし、更に、上記所要の質量を正逆転駆動するためのアクチュエータを備えてなる構成を有することを特徴とするアクティブ制振装置。
【請求項5】
所要の質量として、ボールねじ機構のねじ軸と、該ボールねじ機構を駆動するアクチュエータとしてのモータの回転子を用いるようにした請求項4記載のアクティブ制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−255261(P2010−255261A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105704(P2009−105704)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】