説明

アクティブ制振装置、アクティブ制振装置の制御方法

【課題】変位センサを不要としつつ適切な剛性減衰制御を行うことができ、アクチュエータの位相遅れに起因する無用な発振を防ぐことが可能なアクティブ制振装置を提供する。
【解決手段】アクチュエータ2により補助質量を駆動した際の反力で制振対象の振動を抑制するアクティブ制振装置Xとして、アクチュエータの誘導起電力をアクチュエータの推力定数で割ることでアクチュエータの動作速度を推定する速度推定部4と、アクチュエータの動作速度の不完全積分値であるアクチュエータの振動変位に剛性ゲインを乗じた値、及びアクチュエータの動作速度に減衰ゲインを乗じた値を含む剛性減衰制御信号をフィードバックする剛性減衰制御部5と、アクチュエータの位相遅れを補償するアクチュエータ位相補償部8とを備えたものを適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物や機器などの制振対象物に生じる振動を抑制するアクティブ制振装置、及びアクティブ制振装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、振動を抑制する制振装置として、錘等の補助質量とバネ要素とダンパ要素から構成された受動型動吸振器が知られている。受動型動吸振器は、簡単な構成でありながら、バネ要素のバネ定数やダンパ要素の減衰係数を調整することによって制振対象の振動を抑制することができるという利点がある。
【0003】
しかしながら、受動型動吸振器によって良好な制振性能を得るためには、バネ要素やダンパ要素のバネ定数や減衰係数を綿密に調整する作業が要求される。
【0004】
そこで、バネやダンパの作用をアクチュエータによって発生させることで、バネ要素自体あるいはダンパ要素自体に対する機械的な調整を要することなく、バネ定数や減衰係数の調整を容易にして所望の剛性特性及び減衰特性を発揮させることができるアクティブ制振装置が考えられ、実用化されている。本出願人も、往復運動を行うリニアアクチュエータによって補助質量を駆動した際の反力を利用して、制振対象の振動を抑制可能なアクティブ制振装置をこれまでに提案している。
【0005】
例えば、本出願人は、構造物の振動を抑制する手段の一つとして、錘などの補助質量を駆動するアクチュエータと、補助質量の相対変位量を検出する変位センサとを備え、変位センサ出力に基づいて剛性特性と減衰特性を制御するアクティブ制振装置によって、理想的なスカイフックダンパやフードダンパの実現を試みている(特許文献1及び特許文献2参照)。ここで、アクティブ制振装置をスカイフックダンパとして機能させる場合と、フードダンパとして機能させる場合とにおいて共通する制御仕様は、変位センサ出力に基づいて負の剛性を与えることにより補助質量を支持するバネ要素のバネ特性を0に近づけるように剛性特性を制御する点である。一方、アクティブ制振装置をスカイフックダンパとして機能させる場合と、フードダンパとして機能させる場合とでは減衰特性の制御が異なる。つまり、変位センサ出力の微分値に基づき負の減衰を与えることにより減衰特性を0に近づけるように制御するとともに、制御対象に取り付けた加速度センサの出力を積分することで得られる振動速度をフィードバックするアクティブ制振装置はスカイフックダンパとして機能し、変位センサ出力の微分値に基づいて減衰係数を最適減衰係数に近付けるように減衰特性を制御するアクティブ制振装置はフードダンパとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−285429号
【特許文献2】特開2007−285430号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のアクティブ制振装置では、剛性特性及び減衰特性を制御する際に必要な情報であるアクチュエータの変位を変位センサによって検出していた。また、従来のアクティブ制振装置では、アクチュエータの位相のずれが一定限度を超えた場合に、一定の周波数を出力し続ける状態となって不要な発振が生じてしまうことも考えられる。
【0008】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、変位センサを不要としつつ適切な剛性制御及び減衰制御を行うことができ、コストの削減及び構造の簡素化を図るとともに、アクチュエータの位相遅れに起因する無用な発振を防ぐことが可能なアクティブ制振装置、及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、補助質量と、補助質量を駆動し且つ駆動状態においてバネ力及び減衰力を発生させるアクチュエータとを備え、アクチュエータにより補助質量を駆動した際の反力を利用して、制振対象の振動を抑制するアクティブ制振装置に関するものである。ここで、「制振対象」とは、構造物や機器であるか否かを問わず、振動し得るものであればよい。また、「制振対象」が「構造物全体」や「機器全体」であったり、或いは「構造物や機器のうちある特定の領域や部分」であってもよい。制振対象としては、例えば、ロボットアームやマウンタ装置、露光装置などの半導体関連機器、半導体用搬送車、プラント配管類などの自己の振動を抑制する必要がある機器や構造物を挙げることができる。
【0010】
そして、本発明に係るアクティブ制振装置は、推定したアクチュエータの誘導起電力をアクチュエータの推力定数で割ることでアクチュエータの動作速度を推定する速度推定部と、速度推定部で推定したアクチュエータの動作速度を積分または不完全積分することで推定可能なアクチュエータの振動変位に剛性ゲインを乗じた値、及び速度推定部で推定したアクチュエータの動作速度に減衰ゲインを乗じた値を含む剛性減衰制御信号をフィードバックすることにより、アクティブ制振装置の剛性特性及び減衰特性を制御する剛性減衰制御部と、アクチュエータの位相遅れを補償するアクチュエータ位相補償部とを備え、剛性減衰制御部が、アクティブ制振装置の固有振動数を制振対象の振動の周波数よりも小さくなるように剛性ゲインを設定したものであることを特徴としている。
【0011】
このような本発明のアクティブ制振装置であれば、推定したアクチュエータの誘導起電力をアクチュエータの推力定数で割ることでアクチュエータの動作速度を推定し、この推定した動作速度を積分または不完全積分することによってアクチュエータの振動変位を算出するように構成しているため、変位センサが不要となり、また速度センサも必須ではなくなり、構造の簡素化及び低コスト化を図ることができる。そして、本発明のアクティブ制振装置では、その算出した振動変位に剛性ゲインを乗じた値と、速度推定部で推定したアクチュエータの動作速度に減衰ゲインを乗じた値とを含む剛性減衰制御信号をフィードバックすることによって剛性特性及び減衰特性を制御する剛性減衰制御部において、アクティブ制振装置の固有振動数を制振対象の振動の周波数よりも十分に小さくなるように剛性ゲインを設定しているため、この剛性減衰制御信号に基づいてアクチュエータを駆動させた場合、少なくともアクティブ制振装置のバネ要素(アクチュエータの構成部品であるバネ要素)の影響をなくした状態で好適に制振対象の振動を好適に抑制することができる。
【0012】
さらに、本発明のアクティブ制振装置では、アクチュエータの位相遅れを補償するアクチュエータ位相補償部を備えているため、アクチュエータの位相遅れに起因する不要な発振を防止・抑制することができる。
【0013】
また、本発明のアクティブ制振装置であれば、剛性減衰制御部により、剛性特性を上述した特性(アクティブ制振装置の固有振動数を制振対象の振動の周波数よりも十分に小さくなるように設定した剛性ゲインをアクチュエータの振動変位に乗じた値)に制御するとともに、減衰特性を、アクティブ制振装置自体の共振を起こさせない程度に制御することによって理想的なスカイフックダンパを実現することができる。また、剛性減衰制御部により、剛性特性を上述した特性に制御するとともに、減衰特性を、アクティブ制振装置の最適減衰係数に近付けるように制御することによって理想的なフードダンパを実現することができる。
【0014】
特に、剛性減衰制御部が、速度推定部で推定したアクチュエータの動作速度を不完全積分することによって推定可能なアクチュエータの動作速度に剛性ゲインを乗じた値を含む剛性減衰制御信号をフィードバックするものであれば、出力が飽和してしまうという不具合を防止できる。
【0015】
また、本発明では、推定したアクチュエータの動作速度の微分値をフィードバックすることにより、アクティブ制振装置の慣性特性を制御する慣性制御部を備えたアクティブ制振装置とすることもできる。このようなアクティブ制振装置であれば、アクチュエータの質量が増加または減少したような特性とすることが可能になる。
【0016】
さらに、本発明では、制振対象の加速度信号をフィードバックする制振対象加速度信号フィードバック部を備えたアクティブ制振装置とすることもできる。このような態様であれば、加速度信号から算出可能な制振対象の絶対速度をフィードバックすることができ、絶対速度に比例した力を与えるように制御することにより、良好なスカイフックダンパ特性を得ることができる。
【0017】
また、本発明のアクティブ制振装置の制御方法は、補助質量を駆動し且つ駆動状態においてバネ力及び減衰力を発生させるアクチュエータとを備え、当該アクチュエータにより前記補助質量を駆動した際の反力を利用して、制振対象の振動を抑制する方法であって、推定したアクチュエータの誘導起電力をアクチュエータの推力定数で割ることでアクチュエータの動作速度を推定する速度推定ステップと、速度推定ステップで推定したアクチュエータの動作速度を積分または不完全積分することで推定可能なアクチュエータの振動変位に剛性ゲインを乗じた値、及び速度推定ステップで推定したアクチュエータの動作速度に減衰ゲインを乗じた値を含む剛性減衰制御信号をフィードバックすることにより、当該アクティブ制振装置の剛性特性及び減衰特性を制御する剛性減衰制御ステップと、アクチュエータの位相遅れを補償するアクチュエータ位相補償ステップとを有し、剛性制御ステップにおいて、当該アクティブ制振装置の固有振動数を制振対象の振動の周波数よりも小さくなるように剛性ゲインを設定することを特徴としている。
【0018】
このようなアクティブ制振装置の制御方法であれば、剛性減衰制御ステップにおいて、推定(算出)したアクチュエータの振動変位に所定の剛性ゲインを乗じた値を少なくとも含む剛性減衰制御信号を出力するように構成しているため、変位センサが不要であり、構造の簡素化及び低コスト化を図ることができる。そして、本発明に係るアクティブ制振装置の制御方法では、剛性減衰制御ステップにおいて、アクティブ制振装置の固有振動数を制振対象の振動の周波数よりも十分に小さくなるように剛性ゲインを設定することにより、アクティブ制振装置のバネ要素の影響を排除することができ、良好な制振機能を得ることができる。さらに、本発明のアクティブ制振装置の制御方法であれば、アクチュエータの位相遅れを補償するアクチュエータ位相補償ステップを有するため、アクチュエータの位相遅れに起因する不要な発振を防止・抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、変位センサが不要でありながらも、制振対象の振動を好適に抑制することができるとともに、アクチュエータの位相遅れに起因する不要な発振を防止・抑制することが可能なアクティブ制振装置、及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るアクティブ制振装置の機能ブロック図。
【図2】同実施形態に係るアクティブ制振装置を制振対象に装着した状態の動作原理図。
【図3】同状態のブロック線図。
【図4】同実施形態におけるアクチュエータの模式図。
【図5】同アクチュエータの動作原理図。
【図6】同アクチュエータの動作原理図。
【図7】同実施形態における電流フィードバック回路制御部の一例を示すブロック線図。
【図8】同電流フィードバック回路制御部の他の一例を示すブロック線図。
【図9】同実施形態に係るアクティブ制振装置単体のブロック線図。
【図10】不完全積分特性と積分特性とを比較して示す図。
【図11】同実施形態における制振対象加速度信号フィードバック部のフィルタ部の一例を示すブロック線図。
【図12】同フィルタ部の他の一例を示すブロック線図。
【図13】同実施形態に係るアクティブ制振装置のフローチャート。
【図14】同実施形態に係るアクティブ制振装置の剛性減衰制御による作用効果を示す図。
【図15】同実施形態に係るアクティブ制振装置の一変形例の図3対応図。
【図16】同実施形態に係るアクティブ制振装置の他の一変形例の図3対応図。
【図17】同実施形態における電流位相補償回路部の一例を示すブロック線図。
【図18】同電流位相補償回路部の他の一例を示すブロック線図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係るアクティブ制振装置X(以下、「制振装置X」と称する場合もある)は、図1及び図2に示すように、補助質量1と、補助質量1を駆動するアクチュエータ2とを備え、アクチュエータ2により補助質量1を駆動した際の反力を利用して、制振対象Tの振動を抑制するものである。
【0023】
このような制振装置Xを制振対象Tに固定(装着)し、制振対象Tに生じている振動を補助質量1及びアクチュエータ2を駆動させた状態では、その状態をモデル化した模式図である図2、及びその状態のブロック線図である図3に示すように、制振対象Tの振動系(以下「制振対象主系T1」と称する)、及び制振装置Xの振動系(「以下「制振装置機械系X1」と称する」が形成され、制振装置Xは、制振対象Tの振動を打ち消す方向に補助質量1をアクチュエータ2で動かすことによって制振効果を発揮する。このような制振装置Xは、アクティブ動吸振器(Active dynamic damper)とも称される。なお、図2及び図3の「m」「k」「c」は、それぞれ制振対象Tの質量(主系質量)、制振対象主系T1のバネ定数、制振対象主系T1の減衰係数を意味し、「m」「k」「c」は、それぞれ補助質量1、制振装置機械系X1のバネ定数、制振装置機械系X1の減衰係数を意味する。また、図3における符号2はアクチュエータのうち特に電気系を示す。
【0024】
本実施形態では、制振装置Xを例えばロボットアームやマウンタ装置、露光装置などの半導体関連機器、半導体用搬送車、プラント配管類などの自己の振動を抑制する必要がある機器や構造物などの制振対象Tに装着することができ、アクチュエータ2に制振力(加振力)を発生させて、制振対象Tに発生する上下方向(重力方向)の振動を制振装置Xによって抑制できるように構成している。
【0025】
補助質量1は、例えば錘等であり、図2に示すように、バネ要素k及び減衰要素cによって支持(保持)されている。本実施形態では、アクチュエータ2(後述するレシプロモータM)を構成する部材がバネ要素kや減衰要素cとして機能する。
【0026】
本実施形態に係る制振装置Xは、図1に示すように、補助質量1及びアクチュエータ2に加えて、アクチュエータ2を駆動する電流(駆動電流)を検出する電流検出部3と、電流検出部3から出力される電流値I等に基づいてアクチュエータ2の動作速度(移動速度)を推定する速度推定部4と、速度推定部4の出力値である推定速度値を不完全積分処理「1/Ts+1」した値に剛性ゲインk1aを乗じた値、及び推定速度値に減衰ゲインc1aを乗じた値を剛性減衰制御信号としてフィードバックすることにより制振装置機械系X1の剛性特性及び減衰特性を所望の特性に制御する剛性減衰制御部5と、剛性減衰制御部5から出力される剛性減衰制御信号等に基づき、アクチュエータ2に発生させるべき力に応じてアクチュエータ2に印加するべき電流の指令値を求めて出力する印加電流指令生成部6と、印加電流指令生成部6の出力値(電流指令値)に応じたアクチュエータ2を駆動するための電流をアクチュエータ2に供給するパワーアンプ7とを備えたものである。
【0027】
本実施形態のアクティブ制振装置Xでは、アクチュエータ2として、補助質量1を往復運動させるリニアアクチュエータを適用している。リニアアクチュエータとして、ボイスコイルモータを適用することもできるが、本実施形態では、電磁力を利用したレシプロモータMを適用している。
【0028】
このレシプロモータMは、図4乃至図6に示すように、制振対象Tに固定される固定子21と、固定子21に対して往復動可能な可動子22と、固定子21及び可動子22の同一軸心上に配置され可動子22と一体に往復動可能な軸23と、自らが弾性変形することにより可動子22及び軸23を固定子21に対して往復動可能に支持する板バネ24とを備えたものである。固定子21は、内部に可動子22の移動を許容する空間を有する筒状をなし、軸23の長手方向(軸方向)にリング状の鋼板を積層した積層コア21aと、積層コア21aのうち可動子22に対面し得る領域に配置した永久磁石21bと、積層コア21aの所定部分に巻回したコイル21cとを有する(図5参照)。ここで、軸方向に隣り合う永久磁石21b同士の極、及び可動子22を挟んで対向する永久磁石21b同士の極が相互に異なるように配置設定している。また、可動子22は、リング状の鋼板を積層したものであり、適宜の手段で軸23に固定されている。本実施形態では、可動子22と補助質量1とを軸23で接合し、制振対象Tの抑制するべき振動の方向と可動子22の往復動方向(推力方向)とが一致するように、固定子21を制振対象Tに固定している(図4参照)。
【0029】
そして、コイル21cに所定方向(正方向)の電流を流した場合、コイル21c及び永久磁石21b等の作用により、図5に矢印φ1で示す磁束経路が形成され、可動子22は重力に逆らう方向(上方向、矢印F1方向)に移動し、コイル21cに所定方向とは逆方向(負方向)の電流を流した場合、図6に矢印φ2で示す磁束経路が形成され、可動子22は重力方向(下方向、矢印F2方向)に移動する。このように、可動子22に作用する推力の方向F1,F2は、コイル21cに流す電流の方向により決定される。そのため、コイル21cに正方向及び負方向の電流を交互に流すことにより可動子22を軸方向に沿った一直線上で往復駆動(振動)させることが可能となる。これにより、軸23を介して板バネ24で保持している補助質量1を往復駆動させることができる。
【0030】
可動子22が受ける推力の大きさは、コイル21cに流す電流の大きさに比例し、本実施形態の制振装置Xでは、印加電流指令生成部6からパワーアンプ7に出力する電流指令値に基づいて可動子22及び補助質量1の加速度を制御することにより、制振対象Tの振動を低減するように構成している。なお、図4に示すようなリニアアクチュエータ2は、軸23を滑らせて往復動可能に支持するのではなく、板バネ24が、可動子22を軸23の上端側及び下端側の2箇所で保持し、自ら弾性変形することによって可動子22を軸方向に往復動可能に支持するため、可動子22には摩耗も摺動抵抗も生じず、長期に亘る使用を経た後でも軸23を支持する精度が低下することがなく、高い信頼性を得ることができるとともに、摺動抵抗に起因する消費電力の損失がなく性能の向上を図ることができる。
【0031】
電流検出部3は、例えば電流センサを用いて構成したものであり、パワーアンプ7からアクチュエータ2に供給される電流Iを検出する。その検出値I*を速度推定部4に出力している。また、本実施形態の制振装置Xは、電流検出部3で検出した電流値I*をパワーアンプ7の入力側に戻す電流フィードバック制御部8を備え、この電流フィードバック制御部に電流フィードバック回路制御部Gを設けている。この電流フィードバック回路制御部Gは、図7に示すように比例要素kcPで構成したり、図8に示すように比例要素kcPと積分要素1/sとの組み合わせによって構成することができる。このような電流フィードバック回路制御部Gからの出力値(電流フィードバック指令値)をパワーアンプ7の入力側に戻す電流フィードバック制御を行うことにより、高い周波数でも十分な応答性を得ることができ、アクチュエータの位相遅れを補償することができる。すなわち、この電流フィードバック制御部8が本発明のアクチュエータ位相補償部として機能する。
【0032】
速度推定部4は、制振装置X単体のブロック線図である図9に示すように、誘導起電力e*に基づいてアクチュエータ2の動作速度v*を推定するものである。本実施形態では、アクチュエータ2のコイル電流及び指令電圧から誘導起電力e*を推定し、この誘導起電力e*をアクチュエータ2の推力定数K*で割ることでアクチュエータ2の動作速度v*を推定するように構成している。指令電圧は、パワーアンプ7に入力される電流指令値にパワーアンプゲインGPA*を乗じることによって求めることができる。なお、アクチュエータ2の端子電圧を検出する電圧検出部を別途設け、この電圧検出部で検出した電圧値を利用して誘導起電力e*を推定するようにしてもよい。一方、アクチュエータ2のコイル端子電圧は、アクチュエータ2に供給される電流(本実施形態では電流検出部3で検出した電流値I*)にコイル21cの逆特性「L*S+R*」を乗じることによって求めることができる。そして、この速度推定部4は、推定した推定速度値v*を剛性減衰制御部5に出力する。
【0033】
なお、速度推定部4として、誘導起電力を指令電圧とアクチュエータ2の端子電圧とから求め、この誘導起電力からアクチュエータ2(可動子22)の動作速度を推定するように構成したものを用いることもできる。
【0034】
剛性減衰制御部5は、図9に示すように、速度推定部4の出力値である推定速度値v*の不完全積分値である振動変位の推定値x*(アクチュエータ2の振動変位xの推定値)に剛性ゲインk1aを乗算した値、推定速度値v*に減衰ゲインc1aを乗算した値とを剛性減衰制御信号としてフィードバックすることにより、制振装置Xの剛性特性及び減衰特性を調整するものである。具体的に、この剛性減衰制御部5は、制振装置機械系X1の固有振動数を制振対象Tの振動の周波数ωよりも低くなるようにし、且つ減衰を打ち消し得るように剛性ゲインk1a及び減衰ゲインc1aを設定し、これら設定した剛性ゲインk1a及び減衰ゲインc1aに基づく剛性減衰制御信号を印加電流指令生成部6に出力する。なお、剛性減衰制御部5には制振対象Tの周波数情報(制振対象Tの振動の周波数情報)が予め入力されている。また、本実施形態では、推定速度値を不完全積分処理することで剛性ゲインk1aを乗算する対象値である振動変位を求めているようにしているため、図10に示すように、積分処理であれば生じ得る不具合、つまり単独の積分回路にわずかな直流電流成分が入力されると、回路の電圧制限や積分演算時の有効桁数の制限によって飽和してしまい、必要な交流電流成分を出力することができないという不具合を防止することができる。
【0035】
そして、本実施形態の剛性減衰制御部5は、剛性ゲイン「k1a」及び減衰ゲインをそれぞれ次の値に設定している。
−k≦k1a ・・・式1
−c≦c1a ・・・式2
ここで、式1におけるkは制振装置機械系X1のバネ定数を意味し、式2におけるcは制振装置機械系X1の減衰係数を意味する。
【0036】
このように、本実施形態では、アクティブ制振装置Xのバネ要素と減衰要素の影響をなくすように剛性特性及び減衰特性を制御している。
【0037】
そして、本実施形態の制振装置Xは、このような剛性減衰制御部5により、剛性ゲインk1aに制振装置機械系X1の振動変位を乗じた値、及び減衰ゲインc1aに制振装置機械系X1(アクチュエータ2)の動作速度を乗じた値の加算値を、アクチュエータ2に発生させる推力を指令する推力指令値(「剛性減衰制御信号」に相当し、以下では「力指令値」と称する場合もある)として出力する。
【0038】
印加電流指令生成部6は、アクチュエータ2に印加するべき電流の指令値を、剛性減衰制御部5からの出力値である力指令値をアクチュエータ2の推力定数K*で割った値を、さらに濾波器61を通して得られる剛性減衰制御電流指令値から生成するものである。濾波器61は、バンドパスフィルタやハイパスフィルタなどを用いて構成することができる。
【0039】
そして、この印加電流指令生成部6は、生成した電流指令値をパワーアンプ7に出力する。ここで、図2及び図9に示すように、上述した電流フィードバック制御部8は、印加電流指令生成部6の一部として捉えることができる。すなわち、印加電流指令生成部6は、アクチュエータ2に印加するべき電流の指令値を求めるに際して、電流フィードバック制御部8からの出力値である電流フィードバック指令値を反映させ、この反映させた電流指令値をパワーアンプ7に向かって出力するように構成している。
【0040】
また、本実施形態に係る制振装置Xは、図3に示すように制振対象Tの速度信号をフィードバックする制振対象加速度信号フィードバック部9を備えている。本実施形態では、制振対象Tの速度を制振対象Tの質量mに力が作用することで発生する加速度αの検出値α*をフィルタ部91に通してパワーアンプ7の入力側に戻し、アクチュエータ2に印加するべき電流の指令値を求めるに際して、制振対象加速度信号フィードバック部9からの出力値である加速度信号フィードバック値を反映させ、この反映させた加速度信号フィードバック値をパワーアンプ7に向かって出力するように構成している。なお、制振対象Tの速度は、適宜箇所に設けた速度センサ(図示省略)や、加速度信号α*を積分等の処理をすることで検出することができる。
【0041】
フィルタ部91は、比例要素のみで構成する第1態様、積分要素又は直流成分に対する積分機能を有しない不完全積分要素によって構成する第2態様、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタで構成する第3態様、これら3つの態様の何れかで構成したり、あるいは組み合わせで構成することができる。ここで、第2態様の積分要素としては、図11に示すように、加速度信号を速度信号に変換するものや、加速度信号を変位信号に変換するものを挙げることができ、不完全積分要素としては、図12に示すように、加速度信号を振動速度信号に変換するものや、加速度信号を振動変位信号に変換するものを挙げることができる。
【0042】
パワーアンプ7は、アクチュエータ2に発生させるべき力に応じた電流をリニアアクチュエータ2に供給するものである。本実施形態のパワーアクチュエータ7は、印加電流指令生成部6の出力値である電流指令値に電流フィードバック指令値及び加速度信号フィードバック値を減算処理して得られる値に、所定のパワーアンプゲインGPAを乗じ、その乗算値である指令電圧をアクチュエータ2に出力するように構成している。
【0043】
次に、本実施形態に係る制振装置Xの動作及び制振方法、並びに作用を図3、図9及び図13を参照して説明する。
【0044】
図9に示すように、制振装置機械系X1を制振対象Tに装着していない状態でアクチュエータ2に作用する推力fによって可動子22及び補助質量1を駆動させた場合、制振装置機械系X1の動作速度v(推力fを質量m(補助質量1)で割った値)に比例する力、具体的には制振装置機械系X1の動作速度vに減衰係数cを乗じた値に相当する力が減衰力として発生するとともに、制振装置機械系X1の振動変位x(速度の積分値)に比例した力、具体的には制振装置機械系X1の振動変位xにバネ定数kを乗じた値に相当する力がバネ力として発生し、これらバネ力及び減衰力がアクチュエータ2の推力fを小さくする(下げる)方向に作用する。
【0045】
また、制振対象主系T1は、制振装置Xが装着されていない状態で加振周波数成分の振動(加振力f)が生じた場合、制振対象主系T1の変位xに比例したバネ力(制振対象主系T1の変位xにバネ定数kを乗じた値に相当する力)が発生するとともに、制振対象主系T1の動作速度vに比例する減衰力(制振対象主系T1の動作速度vに減衰係数cを乗じた値に相当する力)が発生し、これらバネ力及び減衰力が振動fを小さくする(下げる)方向に作用する。
【0046】
このような制振対象Tに本実施形態の制振装置Xを装着した場合、図3に示すように、アクチュエータ2の推力f及びアクチュエータ2の推力fによって生じるバネ力及び減衰力が制振対象Tにも作用する。
【0047】
ここで、制振装置X(制振装置機械系X1)の補助質量1とバネ定数kとによって決まる制振装置X(制振装置機械系X1)の固有振動数を制振対象Tの固有周波数ωよりも低くするとともに、制振装置X(制振装置機械系X1)の減衰係数cを制振装置X自体の共振を起こさせない程度に設定し、さらに、制振対象Tの絶対速度に比例した力を与えるように制御すれば良好なスカイフックダンパ特性を発揮し、制振対象Tの振動を抑制することができる。
【0048】
上記の点を考慮し、本実施形態の制振装置Xは、通電状態においてアクチュエータ2によって補助質量1を往復駆動させている場合(図13のS1;Y)、先ず、電流検出部3でパワーアンプ7からアクチュエータ2に供給される電流を検出し、その検出値I*を速度推定部4に出力する(電流検出ステップS2)。次いで、本実施形態の制振装置Xは、速度推定部4において、指令電圧と電流検出部3からの出力値(電流値I)とから誘導起電力e*を推定し、この誘導起電力e*をアクチュエータ2の推力定数K*で割ることでアクチュエータ2の動作速度を推定する(動作速度推定ステップS3)。
【0049】
ここで、制振装置機械系X1の動作速度に応じてアクチュエータ2には誘導起電力e(制振装置機械系X1の動作速度をアクチュエータ2の推力定数Kで割った値)が生じ、その分だけアクチュエータ2の端子電圧は下がるが、制振装置Xを制振対象Tに取り付けた場合、図3に示すように、制振装置機械系X1の動作速度vには制振対象主系T1の動作速度vも含まれることになる。したがって、アクチュエータ2に実際に生じる誘導起電力eは、制振装置機械系X1の動作速度vから制振対象主系T1の動作速度vを引いた値(v−v)に応じた値となる。そして、本実施形態の速度推定部4(動作速度推定ステップS3)では、この誘導起電力eと同等の誘導起電力e*に基づいてアクチュエータ2単体の動作速度を推定するように構成しているため、速度推定部4で推定して剛性減衰制御部5に出力する値は、制振装置機械系X1の動作速度vから制振対象主系T1の動作速度vを引いた値「v−v」となる。
【0050】
引き続いて、本実施形態の制振装置Xは、予め剛性減衰制御部5に入力されている制振対象Tの振動周波数情報に基づいて、剛性減衰制御部5により、制振装置Xの固有振動数が制振対象の振動の周波数ωよりも十分低くなるように剛性特性を制御するとともに、且つ制振装置機械系X1の減衰cを打ち消す減衰特性となるように、上記式1及び式2に基づいて剛性ゲインk1a,減衰ゲインc1aを設定し、設定した剛性ゲインk1aに速度推定部4からの出力値(アクチュエータ2の動作速度v−v)の不完全積分値を乗じた値と、設定した減衰ゲインc1aに速度推定部4からの出力値(アクチュエータ2の動作速度v−v)を乗じた値とを力指令値として印加電流指令生成部6に出力する(剛性減衰制御ステップS4)。
【0051】
次いで、本実施形態の制振装置Xは、印加電流指令生成部6により、剛性減衰制御部5からの出力値である力指令値をアクチュエータ2の推力定数K*で除した値を濾波器61に通して得られる剛性減衰制御電流指令値に基づいて、対パワーアンプ供給電流指令値を生成する(印加電流指令生成ステップS5)。本実施形態では、印加電流指令生成部6(印加電流指令生成ステップS5)において、さらに、対パワーアンプ供給電流指令値と電流フィードバック指令値と加速度信号フィードバック値とを対応付け、この対応付けた電流指令値をパワーアンプ7に向かって出力する(電流指令値出力ステップS6)。ここで、電流指令値出力ステップS7では、対パワーアンプ供給電流指令値と電流フィードバック指令値とを対応付けてアクチュエータ2の位相遅れを補償していることから、本発明のアクチュエータ位相補償ステップと捉えることができる。また、電流指令値出力ステップS7では、対パワーアンプ供給電流指令値と加速度信号フィードバック値とを対応付けていることから、制振対象の加速度信号をフィードバックする制振対象加速度信号フィードバックステップと捉えることができる。
【0052】
そして、本実施形態の制振装置Xは、電流指令値出力ステップS6で出力した電流指令値に、パワーアンプ7によって所定のパワーアンプゲインGPAを乗じた指令電圧をアクチュエータ2に出力する(電圧指令出力ステップS7)。これにより、アクチュエータ2の可動子22に、指令電圧に応じた電流を推力定数Kで乗じた値である推力fが作用する。この推力fを受けて往復動する可動子22により補助質量1を往復駆動させ、その反力を用いて制振対象Tの振動を低減することができる。この際、制振装置機械系X1のバネ定数k及び減衰係数cはそれぞれ剛性減衰制御部5で設定した剛性ゲインk1a及び減衰ゲインc1aによって調整されたものであるため、アクチュエータ2の可動子22及び補助質量1(制振装置機械系X1)は制振対象Tの振動の周波数ωよりも十分に低い固有振動数で振動し、また、減衰を0に近付けて制振装置X自体の共振を起こさせない程度に設定していることから、制振対象Tの振動を0に近付けることができ、良好な制振効果を得ることができる。また、本実施形態に係る制振装置Xは、制振対象Tの絶対速度をフィードバックして、絶対速度に比例した力を与えるように構成しているため、理想的なスカイフックダンパとして作用する。
【0053】
ここで、図14には、本実施形態に係る制振装置Xにより剛性減衰制御を行った場合のゲインと周波数との関係を相対的に太い線で示し、比較例として剛性減衰制御を行わない場合のゲインと周波数との関係を相対的に細い線で示している。同図から把握できるように、本実施形態に係る制振装置Xでは、剛性減衰制御部5によってアクチュエータ2の共振特性を調整することができる。具体的には、上述した剛性制御を行うことによって制振装置Xの固有振動数を低下させて、共振周波数を低く設定することによってゲイン特性の平坦な領域が同図におけるP2とP1との差だけ広がり、加速度信号フィードバック部9での制御可能周波数帯域が拡大する。また、上述した減衰制御を行うことによってアクチュエータ2の減衰特性を調整することができ、外乱に対する共振特性の調整も可能になる。
【0054】
そして、本実施形態の制振装置Xは、アクチュエータ2による補助質量1の往復駆動が停止すれば上述の処理を停止し(図13のS8;Y)、アクチュエータ2による補助質量1の往復駆動が継続している間は、上述した電流検出ステップS2から電圧指令出力ステップS6を継続して繰り返す(図13のS8;N)ことにより、制振対象Tの振動を効果的に抑制することができる。ここで、補助質量1の往復駆動が停止する場合としては、電源Pからアクチュエータ2への通電状態が切断された場合や、通電状態において抑制すべき振動が生じていない場合、或いは制振モードが選択されていない場合等を挙げることができる。
【0055】
また、本実施形態の制振装置Xは、電流検出部3によって検出した電流値Iやパワーアンプ7に入力される指令電圧に基づいて動作速度推定部4によりアクチュエータ2(制振装置機械系X1)の動作速度を推定するように構成しているため、アクチュエータ2の固定子21に対する補助質量1の相対値(変位、速度、加速度)を検出する各種センサ(変位センサ、速度センサ、加速度センサ)が不要となり、コストの削減を図ることができる。しかも、本実施形態では、アクチュエータ2の位相遅れを補償することができるように電流フィードバック制御を採用しており、この電流フィードバック制御を行うに際して必須となる電流検出部3を利用してアクチュエータ2(制振装置機械系X1)の動作速度を推定するように構成しているため、部品の共用化を好適に図ることができる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した制振装置が、スカイフックダンパとして機能するスカイフックダンパ制御と、フードダンパとして機能するフードダンパ制御とで切替可能に構成されたものであってもよい。スカイフックダンパ制御時には、上述した制御方法を採用すればよい。一方、フードダンパ制御を行う場合には、制振装置Xの減衰係数cを最適減衰係数に近付けるように減衰ゲインc1aを設定するとともに、加速度信号フィードバック部9のフィルタ部91を通る経路を使用しないようにして、制振対象Tの相対速度に比例する力を与えるように制御する。このような制御を採用することにより、理想的なフードダンパとして機能する制振装置を実現できる。
【0057】
また、図15に示すように、推定したアクチュエータ2の動作速度の微分値をフィードバックすることによりアクティブ制振装置の慣性特性を制御する慣性制御部10を備えた制振装置にすることも可能である。このような慣性制御部10を備えた制振装置であれば、アクチュエータ2の可動部の質量が増加または減少したような特性とすることも可能になる。
【0058】
さらに、上述した実施形態では、アクチュエータの位相遅れを補償するアクチュエータ位相補償部として、電流フィードバック部を用いて構成した態様を例示したが、図16に示すように、微分回路または不完全微分回路を有する電流位相補償回路Gdによってアクチュエータ位相補償部を構成することもできる。電流位相補償回路Gdは、図17に示すように、比例要素Kdpと微分要素sとの組み合わせで実現したり、図18に示すように、比例要素Kdpと不完全微分要素「s/(Ti3s+1)」との組み合わせで実現することができる。
【0059】
また、上述した実施形態では、アクチュエータに生じる誘導起電力を基にアクチュエータ(制振装置機械系)の動作速度を推定する態様を示したが、アクチュエータの固定子に対する補助質量の速度または加速度を検出する各センサ(速度センサ、加速度センサ)のうち少なくとも1つを備え、センサの検出値を基にアクチュエータ(制振装置機械系)の動作速度を検出又は推定する構成であっても構わない。また、剛性減衰制御部(剛性減衰制御ステップ)において剛性ゲインを乗じる対象値であるアクチュエータ(制振装置機械系)の変位は、速度センサや加速度センサによるセンシング値(検出値)を基に所定の演算処理によって推定(算出)した値であってもよい。同様に、剛性減衰制御部(剛性減衰制御ステップ)において減衰ゲインを乗じる対象値であるアクチュエータ(制振装置機械系)の動作速度は、速度センサや加速度センサによるセンシング値(検出値)を基に所定の演算処理によって推定(算出)した値であってもよい。
【0060】
さらに、剛性減衰制御部が、速度推定部で推定したアクチュエータの動作速度を、不完全積分処理ではなく、積分処理することで推定可能なアクチュエータの振動変位に剛性ゲインを乗じた値を含む剛性減衰制御信号をフィードバックすることにより、アクティブ制振装置の剛性特性を制御するものであってもよい。
【0061】
また、電流フィードバック制御を採用していない制振装置であってもよい。
【0062】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…補助質量
2…アクチュエータ(リニアアクチュエータ、レシプロモータ)
4…速度推定部
5…剛性減衰制御部
8…アクチュエータ位相補償部(電流フィードバック制御部)
9…制振対象加速度信号フィードバック部
10…慣性制御部
1a…減衰ゲイン
1a…剛性ゲイン
T…制振対象
X…アクティブ制振装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助質量と、当該補助質量を駆動し且つ駆動状態においてバネ力及び減衰力を発生させるアクチュエータとを備え、当該アクチュエータにより前記補助質量を駆動した際の反力を利用して、制振対象の振動を抑制するアクティブ制振装置であり、
推定した前記アクチュエータの誘導起電力を当該アクチュエータの推力定数で割ることで前記アクチュエータの動作速度を推定する速度推定部と、
前記速度推定部で推定した前記アクチュエータの動作速度を積分または不完全積分することで推定可能な前記アクチュエータの振動変位に剛性ゲインを乗じた値、及び前記速度推定部で推定した前記アクチュエータの動作速度に減衰ゲインを乗じた値を含む剛性減衰制御信号をフィードバックすることにより、当該アクティブ制振装置の剛性特性及び減衰特性を制御する剛性減衰制御部と、
前記アクチュエータの位相遅れを補償するアクチュエータ位相補償部とを備え、
前記剛性減衰制御部が、当該アクティブ制振装置の固有振動数を前記制振対象の振動の周波数よりも小さくなるように前記剛性ゲインを設定したものであることを特徴とするアクティブ制振装置。
【請求項2】
前記制振対象の加速度信号をフィードバックする制振対象加速度信号フィードバック部を備えている請求項1に記載のアクティブ制振装置。
【請求項3】
推定した前記アクチュエータの動作速度の微分値をフィードバックすることにより、当該アクティブ制振装置の慣性特性を制御する慣性制御部を備えている請求項1又は2に記載のアクティブ制振装置。
【請求項4】
補助質量と、前記補助質量を駆動し且つ駆動状態においてバネ力及び減衰力を発生させるアクチュエータとを備え、当該アクチュエータにより前記補助質量を駆動した際の反力を利用して、制振対象の振動を抑制するアクティブ制振装置の制御方法であって、
推定した前記アクチュエータの誘導起電力を当該アクチュエータの推力定数で割ることで前記アクチュエータの動作速度を推定する速度推定ステップと、
前記速度推定ステップで推定したアクチュエータの動作速度を積分または不完全積分することで推定可能なアクチュエータの振動変位に剛性ゲインを乗じた値、及び前記速度推定ステップで推定したアクチュエータの動作速度に減衰ゲインを乗じた値を含む剛性減衰制御信号をフィードバックすることにより、当該アクティブ制振装置の剛性特性及び減衰特性を制御する剛性減衰制御ステップと、
前記アクチュエータの位相遅れを補償するアクチュエータ位相補償ステップとを有し、
前記剛性制御ステップにおいて、当該アクティブ制振装置の固有振動数を制振対象の振動の周波数よりも小さくなるように剛性ゲインを設定することを特徴とするアクティブ制振装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−7460(P2013−7460A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141335(P2011−141335)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】