説明

アクリルポリマーの製造方法、塗料、接着剤及びシーリング材

【課題】アクリルポリマーを得た後に溶剤を揮発させて除去する余計な工程を行う必要がなく、さらに高圧反応容器などの特別な容器を用いずとも安全にアクリルモノマーを含むモノマーを重合することが可能なアクリルポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】アクリルモノマーを少なくとも含むモノマーに重合開始剤を段階的に添加し、モノマーを重合するアクリルポリマーの製造方法であって、重合開始剤として、モノマーの重合を開始する際の温度をXとしたときに、十時間半減期温度がX−5〜X+5℃の範囲にある重合開始剤Aを用いる、アクリルポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合開始剤を用いてモノマーを重合し、アクリルポリマーを製造する方法に関し、より詳細には、使用する重合開始剤の種類やその添加方法が改良されたアクリルポリマーの製造方法、並びに該アクリルポリマーの製造方法により得られたアクリルポリマーを含む塗料、接着剤及びシーリング材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリルモノマーなどの単量体を重合させて重合体を製造する場合、溶液重合法やバルク重合法が多く採用されていた。
【0003】
溶液重合法により重合体を製造する一例として、下記の特許文献1には、分子鎖として(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなり、シロキサン結合を形成することによって架橋しうる珪素含有官能基を有する重合体(A)成分の製造方法が開示されている。特許文献1では、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合する工程を含み、重合溶媒として芳香族系溶剤を含まない溶剤を用いている。重合溶媒としては、例えばアルコール系溶剤、カルボニル基含有溶剤、炭素数3〜4の脂肪族アルコール及びジアルキルカーボネートなどを用い得るとされている。
【特許文献1】特開2003−96106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、芳香族化合物を含有しておらず、環境負荷の小さい重合体(A)成分を得ることができる。しかしながら、特許文献1では、溶剤を用いる溶液重合法によって重合体を製造するため、重合体を得た後に、溶剤を脱揮する余計な工程を行う必要があった。よって、製造工程が煩雑であり、重合体を効率的に得ることができなかった。
【0005】
他方、バルク重合法により重合体を製造する場合には、製造中に粘度が高くなりすぎたり、ゲル化物が生成したり、重合反応により生じた熱を放熱することが困難であるという問題があった。特に、重合反応により生じた熱を十分に放熱することができないと、製造中に反応温度が上昇し、反応温度が単量体の沸点を超えてしまうおそれがある。よって、バルク重合を行う際には、例えば高圧反応容器を用いる必要があった。
【0006】
そこで、重合体を得た後に、従来の溶液重合法のように溶剤を脱揮する余計な工程を行う必要がなく、さらに従来のバルク重合法のように高圧反応容器などの特別な容器を用いることなく、安全に単量体を重合することができる重合体の製造方法が強く求められていた。
【0007】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、アクリルポリマーを得た後に溶剤を揮発させて除去する余計な工程を行う必要がなく、さらに高圧反応容器などの特別な容器を用いずとも安全にモノマーを重合することが可能なアクリルポリマーの製造方法、並びに該アクリルポリマーの製造方法により得られたアクリルポリマーを含む塗料、接着剤及びシーリング材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アクリルモノマーを少なくとも含むモノマーに重合開始剤を段階的に添加し、モノマーを重合するアクリルポリマーの製造方法であって、重合開始剤として、モノマーの重合を開始する際の温度をXとしたときに、十時間半減期温度がX−5〜X+5℃の範囲にある重合開始剤Aを用いることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るアクリルポリマーの製造方法のある特定の局面では、重合開始剤として、重合開始剤Aに加えて、十時間半減期温度が重合開始剤Aよりも低い重合開始剤Bをさらに用いて、モノマーに重合開始剤Aを段階的に添加し、モノマーの一部を重合した後、重合開始剤Bを段階的に添加し、さらにモノマーを重合している。
【0010】
本発明に係るアクリルポリマーの製造方法の他の特定の局面では、モノマーが重合禁止剤を含有し、モノマーの重合を開始する前に、重合禁止剤を消費する量の重合開始剤Bを添加し、重合禁止剤を消費した後、モノマーを重合している。
【0011】
本発明に係るアクリルポリマーの製造方法のさらに他の特定の局面では、常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、溶剤を含まない無溶剤の条件で、モノマーを重合している。
【0012】
本発明のさらに他の特定の局面では、溶剤および/又は可塑剤を含有する塗料、接着剤またはシーリング材に用いられるアクリルポリマーの製造方法であって、モノマーを重合した後、塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤および/又は可塑剤を添加している。
【0013】
本発明に係るアクリルポリマー製造方法の別の特定の局面では、常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、アクリルポリマーを得た後に実質的に溶剤を除去する脱溶剤工程が不要な量の溶剤を含む条件で、モノマーを重合している。
【0014】
本発明に係るアクリルポリマーの製造方法のさらに別の特定の局面では、常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、モノマーを重合する際の温度で実質的に揮発性を有しない溶剤および/又は可塑剤を含む条件で、モノマーを重合している。
【0015】
本発明の他の特定の局面では、溶剤を含有する塗料、接着剤またはシーリング材に用いられるアクリルポリマーの製造方法であって、常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤を含む条件で、モノマーを重合している。
【0016】
本発明に係る塗料は、本発明に従って構成されたアクリルポリマーを含有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る接着剤は、本発明に従って構成されたアクリルポリマーを含有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係るシーリング材は、本発明に従って構成されたアクリルポリマーを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るアクリルポリマーの製造方法では、重合開始剤として、モノマーの重合を開始する際の温度をXとしたときに、十時間半減期温度がX−5〜X+5℃の範囲にある重合開始剤Aを用いて、モノマーに重合開始剤を段階的に添加し、モノマーを重合するため、重合開始剤が急激に分解することがなく、モノマーの重合時における反応温度の上昇を抑制することができる。よって、高圧反応容器などの特別な容器を用いずとも安全にモノマーを重合することができる。
【0020】
さらに、モノマーを重合する際に、溶剤を用いる必要がなく、また用いたとしても少量の溶剤を用いるだけでよいため、アクリルポリマーを得た後に溶剤を揮発させて除去する余計な工程を行う必要がない。よって、アクリルポリマーの製造効率を高めることができる。
【0021】
重合開始剤として、重合開始剤Aに加えて、十時間半減期温度が重合開始剤Aよりも低い重合開始剤Bをさらに用いて、モノマーに重合開始剤Aを段階的に添加し、モノマーの一部を重合した後、重合開始剤Bを段階的にさらに添加し、さらにモノマーを重合する場合には、反応初期において、モノマーの重合時における反応温度の上昇を抑制することができる。さらに、モノマーの一部を重合した後の例えば反応後半において、重合開始剤Aよりも分解し易い重合開始剤Bを用いるため、アクリルポリマーの製造効率をより一層高めることができる。
【0022】
モノマーが重合禁止剤を含有し、モノマーの重合を開始する前に、重合禁止剤を消費する量の重合開始剤Bを添加し、重合禁止剤を消費した後、モノマーを重合する場合には、重合開始剤Aよりも分解し易い重合開始剤Bを用いていることによって、重合禁止剤を速やかに消費することができる。よって、重合禁止剤を速やかに消費して、モノマーの重合をより一層早く開始することができる。さらに、1回目の重合開始剤Aの添加した際に、安全にかつ確実にモノマーの重合を進行させることができる。
【0023】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、溶剤を含まない無溶剤の条件で、モノマーを重合する場合には、アクリルポリマーを得た後に、溶剤を除去する脱溶剤工程を行う必要がない。
【0024】
モノマーを重合した後、塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤および/又は可塑剤を添加する場合には、塗料、接着剤またはシーリング材として用いることが可能なアクリルポリマーを提供することができる。
【0025】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、アクリルポリマーを得た後に実質的に溶剤を除去する脱溶剤工程が不要な量の溶剤を含む条件で、モノマーを重合する場合には、アクリルポリマーを得た後に、溶剤を除去する脱溶剤工程を行う必要がないので、アクリルポリマーを効率よく製造することができる。
【0026】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、モノマーを重合する際の温度で実質的に揮発性を有しない溶剤および/又は可塑剤を含む条件で、モノマーを重合する場合には、モノマーの重合時における溶剤や可塑剤の揮発を確実に防止することができる。よって、常圧反応容器を用いて、安全にモノマーを重合することができる。
【0027】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤を含む条件で、モノマーを重合する場合には、アクリルポリマーを得た後に、溶剤を除去する脱溶剤工程を行なわなくても、塗料、接着剤またはシーリング材として用いることが可能なアクリルポリマーを提供することができる。
【0028】
本発明の製造方法に従って構成されたアクリルポリマーは、塗料、接着剤またはシーリング材の原材料として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0030】
本願発明者らは、アクリルモノマーを少なくとも含むモノマーに重合開始剤を段階的に添加し、モノマーを重合する際に、重合開始剤として、モノマーの重合を開始する際の温度をXとしたときに、十時間半減期温度がX−5〜X+5℃の範囲にある重合開始剤Aを用いれば、上記課題を達成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0031】
モノマーを溶液重合する場合には、一般に沸点まで溶液を加熱して沸点重合する方法、もしくは温度調節器を用いて溶液を冷却しつつ、溶液の沸点以下の温度で定温重合する方法が行なわれている。従来の溶液重合法では、モノマー溶液に重合開始剤を添加した直後に、溶液の温度は急激に上昇するが、上記沸点重合の場合には、重合開始剤の添加直後に冷却管で冷やされる溶剤蒸気量が著しく増加するという問題があった。他方、上記定温重合の場合には、温度上昇を抑制するために、温度上昇に応じて即座に作動する冷却装置を用いる必要があった。
【0032】
また、例えば十時間半減期温度が比較的低い重合開始剤を用いると、モノマーを早く重合させることができるが、反応温度が上昇しすぎて反応温度が単量体の沸点を超えてしまうおそれがあった。よって、十時間半減期温度が比較的低い重合開始剤を用いる場合には、反応温度が高くなりすぎでも安全性を確保し得るように、例えば高圧反応容器などの特別な容器を用いる必要があった。
【0033】
そこで、本発明では、モノマーを重合する際に、溶剤を用いる必要がなく、また用いたとしても少量の溶剤を用いるだけでモノマーもしくはモノマー溶液の反応温度が急激に上昇することなくモノマーを重合し得るように、さらに高圧反応容器などの特別な容器を用いずとも安全にモノマーを重合し得るように、重合開始剤として、十時間半減期温度がX−5〜X+5℃の範囲にある重合開始剤Aを用いている。
【0034】
モノマーの重合の際に、X−5〜X+5℃の範囲の重合開始剤Aを用いて、かつモノマーに重合開始剤Aを段階的に添加することによって、例えばバルク重合であっても反応温度が高くなりすぎることがなく、安全にモノマーを重合することができる。
【0035】
重合開始剤Aの十時間半減期温度がX−5℃未満であると、重合開始剤Aの添加時にモノマーが激しく反応することがある。重合開始剤Aの十時間半減期温度がX+5℃を超えると、重合開始剤Aの分解速度が遅すぎて効率的にモノマーが反応しなかったり、重合開始剤Aを多く用いる必要があったり、分解していない重合開始剤Aが系中に大量に残存することがある。
【0036】
なお、重合開始剤の十時間半減期温度とは、ある一定の温度に重合開始剤を保持したときに、重合開始剤の濃度が半減するのに十時間を要する温度である。重合開始剤の十時間半減期温度は、例えば、不活性溶媒に溶かした重合開始剤溶液を窒素置換したガラス容器中に入れ一定温度に保った状態で熱分解させることで実験的に測定することができる。
【0037】
上記重合開始剤Aはモノマーに段階的に添加される。重合開始剤Aの1回目の添加量としては、モノマーの分子量や反応性などにも影響されるが、モノマー全量100重量部に対して、0.0001〜0.01重量部の範囲であることが好ましい。重合開始剤Aの1回目の添加量がこの範囲であると、熱的に安定にモノマーの重合を開始することができる。
【0038】
重合開始剤Aはモノマーに段階的に添加されるが、2〜5回に分けて添加されることが好ましい。重合開始剤Aの2回目以降の添加量としては、モノマーの分子量や反応性などにも影響されるが、モノマー全量100重量部に対して、それぞれ0.0001〜0.1重量部の範囲であることが好ましい。
【0039】
本発明では、重合開始剤として、重合開始剤Aに加えて、十時間半減期温度が重合開始剤Aよりも低い重合開始剤Bをさらに用いることが好ましい。そして、モノマーに重合開始剤Aを段階的に添加し、モノマーの一部を重合した後、重合開始剤Bを段階的にさらに添加し、さらにモノマーを重合することが好ましい。
【0040】
この場合、反応初期において重合開始剤Aを用いるため、比較的穏やかな条件でモノマーを重合することができる。よって、モノマーの反応温度が上昇しすぎることがなく、高圧反応容器などの特別な容器を用いずとも、熱的に安定にモノマーを重合することができる。
【0041】
さらに、モノマーが減少した例えば反応後半において、重合開始剤Aよりも分解し易い重合開始剤Bを用いるため、重合開始剤Aのみを用いる場合よりも、モノマーを効率的に重合することができる。すなわち、重合開始剤Bを添加する際には、一部が重合してモノマーの量が減少しており、かつ重合したアクリルポリマーがモノマー同士の反応速度を低減するように作用する。よって、重合開始剤Aよりも分解し易い重合開始剤Bを用いたとしても、モノマーの反応が急激に進行し難く、熱的に安定してモノマーを重合することができる。
【0042】
上記重合開始剤Bの十時間半減期温度は、重合開始剤Aよりも低い十時間半減期温度を有するが、モノマーの重合を開始する際の温度をXとしたときに、X−50〜X−20℃の範囲であることがより好ましい。重合開始剤Bの十時間半減期温度がX−50℃未満であると、重合開始剤Bの添加時に反応温度が上昇しすぎることがある。重合開始剤Bの十時間半減期温度がX−20℃を超えると、重合開始剤Bの分解速度が遅すぎて効率的にモノマーが反応しなかったり、重合開始剤Bを多く用いる必要があったり、分解していない重合開始剤Bが系中に大量に残存することがある。
【0043】
上記重合開始剤Bはモノマーに段階的に添加される。重合開始剤Bの1回目の添加量としては、モノマーの分子量や反応性などにも影響されるが、モノマー全量100重量部に対して、0.0001〜0.01重量部の範囲であることが好ましい。重合開始剤Bの1回目の添加量がこの範囲であると、熱的に安定にモノマーを重合することができる。
【0044】
重合開始剤Bはモノマーに段階的に添加されるが、2〜10回に分けて添加されることが好ましい。重合開始剤Bの2回目以降の添加量としては、モノマーの分子量や反応性、目的とする反応率などにも影響されるが、モノマー全量100重量部に対して、それぞれ0.0001〜2重量部の範囲であることが好ましい。
【0045】
重合開始剤Aと重合開始剤Bとを併用する場合、安全にかつ効率よくモノマーを重合し得るので、重合開始剤Aと重合開始剤Bとの使用割合は、重量比で1/1000:1〜1/100:1の範囲であることが好ましい。
【0046】
上記重合開始剤A及び重合開始剤Bとしては、特に限定されないが、例えば過酸化物系、アゾ系の重合開始剤の中から適した十時間半減期温度を持つものを選択して用いることができる。
【0047】
重合開始剤としては、具体的には、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物系重合開始剤;2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ系重合開始剤等のラジカル重合開始剤が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0048】
モノマーが重合禁止剤を含有する場合には、モノマーの重合を開始する前に、重合禁止剤を消費する量の重合開始剤Bを添加し、重合禁止剤を消費した後、モノマーを重合することが好ましい。重合開始剤Aを用いて重合禁止剤を消費する場合には、重合禁止剤を消費するのに重合開始剤Aを多く用いる必要があったり、重合禁止剤を消費するのに長時間を要することがある。一方、重合開始剤Aよりも分解し易い重合開始剤Bを用いると、重合禁止剤を速やかに消費することができる。よって、重合禁止剤を速やかに消費した後に、モノマーの重合をより一層早く開始することができる。
【0049】
上記重合禁止剤の含有量はモノマーによって異なり、使用するモノマーから、重合禁止剤を消費するための重合開始剤Bの添加量が定められる。重合禁止剤を消費する重合開始剤Bの添加量としては、重合開始剤Bの純度や反応性などにも影響され特に限定されないが、具体的には、重合禁止剤の1/3〜2/3当量の範囲であることが好ましい。
【0050】
上記重合禁止剤を消費する量とは、後に1回目の重合開始剤Aを添加した際に、重合禁止剤によりモノマーの重合が阻害されず、モノマーの重合を開始し得ることを可能とする量であることを意味する。重合禁止剤が消費されたか否かについては、例えばモノマーに重合開始剤Bを少量ずつ添加しながら、重合禁止剤の減少量をガスクロマトフラフィーまたは液体クロマトグラフィーなどを用いて測定したり、系中の反応温度を測定することにより、確認することができる。
【0051】
本発明で用いられるモノマーとしては、アクリルモノマーを少なくとも含むモノマーであれば、特に限定されない。
【0052】
上記アクリルモノマーとしては、特に限定されないが、アクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル等が挙げられる。アクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステルとしては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等が挙げられる。
【0053】
アクリルモノマー以外のモノマーとしては、アクリルモノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に限定されない。アクリルモノマー以外のモノマーとしては、特に限定されず、ビニルエステルモノマー、スチレン系モノマーが挙げられる。
【0054】
上記ビニルエステルモノマーとしては、特に限定されず、酢酸ビニル、蟻酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、n−カプロン酸ビニル、イソカプロン酸ビニル、オクタン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、ピバル酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられる。
【0055】
上記スチレン系モノマーとしては、特に限定されず、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−クロロメチルスチレン、p−(2−クロロエチル)スチレンなどが挙げられる。
【0056】
アクリルポリマーを得た後に、溶剤を除去する脱溶剤工程を行う必要がないので、常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、溶剤を含まない無溶剤の条件で、モノマーを重合することが好ましい。
【0057】
モノマーを重合した後、塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤および/又は可塑剤を添加することが好ましい。この場合、塗料、接着剤またはシーリング材として用いることが可能なアクリルポリマーを提供することができる。
【0058】
塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤としては、特に限定されないが、アルコール類、エステル類などを挙げることができる。
【0059】
塗料、接着剤またはシーリング材に含有される可塑剤としては、特に限定されないが、分子量数百から数千のポリアクリル酸エステル、ポリエステルなどを挙げることができる。
【0060】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、アクリルポリマーを得た後に実質的に溶剤を除去する脱溶剤工程が不要な量の溶剤を含む条件で、モノマーを重合することが好ましい。この場合、アクリルポリマーを得た後に、溶剤を除去する脱溶剤工程を行う必要がないので、アクリルポリマーを効率的に製造することができる。
【0061】
実質的に溶剤を除去する脱溶剤工程が不要な量とは、得られたアクリルポリマーが溶剤を含んでいても、アクリルポリマーの実使用上問題のない範囲のわずかの量の溶剤量であることを意味する。具体的には、実質的に溶剤を除去する脱溶剤工程が不要な溶剤量としては、モノマー全量100重量部に対して、1〜25重量部の範囲であることが好ましい。
【0062】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、モノマーを重合する際の温度で実質的に揮発性を有しない溶剤および/又は可塑剤を含む条件で、モノマーを重合する場合には、モノマーの重合時における溶剤や可塑剤の揮発を確実に防止することができ、安全にモノマーを重合することができる。
【0063】
上記揮発性を有しない溶剤としては、モノマーを重合する際の温度によって影響され、特に限定されないが、脂肪酸エステル、高級アルコールなどを挙げることができ、好ましく用いられる。
【0064】
上記揮発性を有しない可塑剤としては、モノマーを重合する際の温度によって影響され、特に限定されないが、分子量数百から数千のポリアクリル酸エステル、ポリエステルなどを挙げることができ、好ましく用いられる。
【0065】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤を含む条件で、モノマーを重合する場合には、アクリルポリマーを得た後に、溶剤を除去する脱溶剤工程を行なわなくても、塗料、接着剤またはシーリング材として用いることが可能なアクリルポリマーを提供することができる。
【0066】
塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤としては、塗料、接着剤またはシーリング材に一般的に含有される上述した溶剤が適宜用いられる。塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤を含む条件で、モノマーを重合する際の溶剤の含有量としては、塗料、接着剤またはシーリング材に一般的に含有される溶剤量、すなわちモノマー全量100重量部に対して、1〜25重量部の範囲であることが好ましい。
【0067】
本発明の製造方法に従って構成されたアクリルポリマーは、塗料、接着剤またはシーリング材などの原材料として好適に用いることができる。本発明の製造方法に従って構成されたアクリルポリマーを含有する塗料、接着剤、シーリング材もまた本発明の1つである。
【0068】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げることにより本発明の効果を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(使用した材料)
ブチルアクリレート(アクリルモノマー、日本触媒社製、重合禁止剤15ppm含む)
DMAEA(アクリルモノマー、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、興人社製、重合禁止剤2000ppm含む)
n−DDM(連鎖移動剤、n−ドデシルメルカプタン、和光純薬社製)
ソルミックAP−7(溶剤、工業用アルコール、日本アルコール社製、沸点約80℃)
リックサイザーC−401(溶剤、脂肪酸エステル、伊藤製油社製)
パーヘキサTMH(重合開始剤A、日本油脂社製、十時間半減期温度86.7℃)
パーヘキシルPV(重合開始剤B、日本油脂社製、十時間半減期温度53.2℃)
パーヘキシルZ(重合開始剤A、日本油脂社製、十時間半減期温度99.4℃)
パーヘキシルO(重合開始剤A、日本油脂社製、十時間半減期温度69.9℃)
【0070】
(実施例1)
常圧で反応を行う常圧反応容器としてのフラスコに、ブチルアクリレート100重量部とn−DDM5重量部とを入れた後、フラスコ内を窒素置換した。しかる後、90℃のウォーターバス中にフラスコを入れ、90℃までフラスコ内を加温した。
【0071】
次に、重合反応の開始時及び反応開始から下記表1に示す時間が経過した後に、下記表1に示す量の重合開始剤AとしてのパーヘキサTMHをそれぞれ添加し、アクリルモノマーの一部を重合した。重合開始剤Aを添加した後、反応開始から下記表1に示す時間が経過した後に、下記表1に示す量の重合開始剤BとしてのパーヘキシルPVをそれぞれ添加し、さらにアクリルモノマーを重合した。
【0072】
反応開始から7時間が経過した後、フラスコを冷却し、重合反応を終了した。
【0073】
(実施例2〜4及び比較例1,2)
使用した材料の種類及び配合量と、重合開始剤A、Bの添加温度、添加時期及び添加量と、フラスコ冷却時間及び反応終了時間とを下記表1〜3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてアクリルモノマーを重合した。
【0074】
(実施例及び比較例の評価)
〔アクリルモノマーの重合率〕
ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、カラム:PEG1500)を用いて、n−ヘプタンを内部標準として、アクリルモノマー重合率を測定した。
【0075】
重合開始剤Aを全て添加した後、第1回目の重合開始剤Bを添加する直前のフラスコ内のアクリルモノマーの重合率を求めた。さらに、重合開始剤Bを全て添加し、重合反応を終了した後のアクリルモノマーの重合率を求めた。
【0076】
〔アクリルポリマーの分子量〕
重合開始剤Bを全て添加し、重合反応を終了した後に、得られたアクリルポリマーの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、ウォーターズ社製、カラム:昭和電工社製、ポリスチレンゲルLF−804、溶媒:THF、流速:1mL/分)を用いて、ポリスチレン換算で測定した。
【0077】
さらに、測定された重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比である分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0078】
結果を下記表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
比較例1の製造方法では、パーヘキシルZの十時間半減期温度が高いので、重合開始剤を多く用いる必要があった。また、比較例2の製造方法では、パーヘキシルOの十時間半減期温度が低いので、モノマーが激しく反応するのを防止するために、重合開始剤を少量ずつ添加する必要があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルモノマーを少なくとも含むモノマーに重合開始剤を段階的に添加し、前記モノマーを重合するアクリルポリマーの製造方法であって、
前記重合開始剤として、前記モノマーの重合を開始する際の温度をXとしたときに、十時間半減期温度がX−5〜X+5℃の範囲にある重合開始剤Aを用いることを特徴とする、アクリルポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記重合開始剤として、前記重合開始剤Aに加えて、十時間半減期温度が前記重合開始剤Aよりも低い重合開始剤Bをさらに用いて、
前記モノマーに前記重合開始剤Aを段階的に添加し、前記モノマーの一部を重合した後、前記重合開始剤Bを段階的に添加し、さらに前記モノマーを重合することを特徴とする、請求項1に記載のアクリルポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記モノマーが重合禁止剤を含有し、
前記モノマーの重合を開始する前に、前記重合禁止剤を消費する量の前記重合開始剤Bを添加し、前記重合禁止剤を消費した後、前記モノマーを重合することを特徴とする、請求項2に記載のアクリルポリマーの製造方法。
【請求項4】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、溶剤を含まない無溶剤の条件で、前記モノマーを重合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリルポリマーの製造方法。
【請求項5】
溶剤および/又は可塑剤を含有する塗料、接着剤またはシーリング材に用いられるアクリルポリマーの製造方法であって、
前記モノマーを重合した後、前記塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤および/又は可塑剤を添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリルポリマーの製造方法。
【請求項6】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、アクリルポリマーを得た後に実質的に溶剤を除去する脱溶剤工程が不要な量の溶剤を含む条件で、前記モノマーを重合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリルポリマーの製造方法。
【請求項7】
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、モノマーを重合する際の温度で実質的に揮発性を有しない溶剤および/又は可塑剤を含む条件で、前記モノマーを重合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリルポリマーの製造方法。
【請求項8】
溶剤を含有する塗料、接着剤またはシーリング材に用いられるアクリルポリマーの製造方法であって、
常圧で反応を行う常圧反応容器を用いて、前記塗料、接着剤またはシーリング材に含有される溶剤を含む条件で、前記モノマーを重合することを特徴とする、請求項1〜3、6、7のいずれか1項に記載のアクリルポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクリルポリマーの製造方法により得られたアクリルポリマーを含有することを特徴とする、塗料。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクリルポリマーの製造方法により得られたアクリルポリマーを含有することを特徴とする、接着剤。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクリルポリマーの製造方法により得られたアクリルポリマーを含有することを特徴とする、シーリング材。

【公開番号】特開2007−308535(P2007−308535A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136708(P2006−136708)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】