説明

アクリル系樹脂板の製造方法、アクリル系樹脂板、アクリル系樹脂積層体及び表示装置

【課題】透明性、耐衝撃性に優れたアクリル系樹脂板を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチル単独又はその単量体混合物100質量部中に、酢酸ビニル単位20〜38質量%(エチレン−酢酸ビニル共重合体中の全単量体単位を100質量%とする)を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体0.04〜0.45質量部を溶解させて得られた混合物を注型重合するアクリル系樹脂板の製造方法;メタクリル酸メチル単独重合体又は共重合体100質量部中に、酢酸ビニル単位20〜38質量%(エチレン−酢酸ビニル共重合体中の全単量体単位を100質量%とする)を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体0.04〜0.45質量部含有するアクリル系樹脂板;これを用いたアクリル系樹脂積層体;及び表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐衝撃性に優れたアクリル系樹脂板の製造方法、アクリル系樹脂板、アクリル系樹脂積層体及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系樹脂は透明性に優れるので、CRTや液晶テレビ等の各種ディスプレイの前面板に使用され、また工業用資材、建築用資材としても幅広く使用されている。ただしアクリル系樹脂は、衝撃強度が必ずしも十分ではない。
【0003】
耐衝撃性を向上させる方法として、例えば、エラストマー層を含む多段重合体のゴム粒子をメタクリル樹脂に添加し、これをキャスト重合する方法がある(特許文献1)。しかし、このようなゴム粒子を添加すると、耐熱性や弾性率が低下する傾向にある。
【0004】
また、メタクリル酸メチルにエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解し、これを鋳型重合する方法がある(特許文献2〜4)。しかし、従来の技術ではエチレン−酢酸ビニル共重合体成分が海相、メタクリル樹脂成分が島相の海島相構造を形成し易く、これにより透明性や鋳型からの離型性が低下する傾向にある。
【0005】
一方、メタクリル酸メチルにエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解した状態で予備重合を行い、相反転を起こした後に鋳型重合することで、エチレン−酢酸ビニル共重合体成分が島相、メタクリル樹脂成分が海相の海島相構造を形成する方法がある(特許文献5及び6)。しかし、エチレン−酢酸ビニル共重合体の添加量が多いので、透明性が不十分である、耐熱性が低く、また予備重合の反応の制御が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭55−27576号公報
【特許文献2】特公昭54−12518号公報
【特許文献3】特公昭43−2466号公報
【特許文献4】特公昭43−16848号公報
【特許文献5】特開昭60−144308号公報
【特許文献6】特開昭60−147407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の各課題を解決すべくなされたものである。すなわち、本発明の目的は、透明性、耐衝撃性に優れたアクリル系樹脂板の製造方法、アクリル系樹脂板、アクリル系樹脂積層体及び表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、メタクリル酸メチル単独又はメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物100質量部中に、酢酸ビニル単位20〜38質量%(エチレン−酢酸ビニル共重合体中の全単量体単位を100質量%とする)を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体0.04〜0.45質量部を溶解させて得られた混合物を注型重合するアクリル系樹脂板の製造方法である。
【0009】
また本発明は、メタクリル酸メチル単独重合体又はメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物の共重合体100質量部中に、酢酸ビニル単位20〜38質量%(エチレン−酢酸ビニル共重合体中の全単量体単位を100質量%とする)を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体0.04〜0.4質量部含有するアクリル系樹脂板である。
【0010】
また本発明は、上記のアクリル系樹脂板と、該アクリル系樹脂板の少なくとも一面に形成された硬化性組成物の硬化層とを有するアクリル系樹脂積層体である。
【0011】
また本発明は、上記のアクリル系樹脂積層体を表示部の保護部材として有する表示装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアクリル系樹脂板、アクリル系樹脂積層体、及び、表示装置の表示部の保護部材は、透明性、耐衝撃性に優れる。しかも、本発明のアクリル系樹脂板の製造方法は、成形物の鋳型からの剥離性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例3のアクリル系樹脂板断面の顕微鏡写真である。
【図2】図1の倍率を更に拡大した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[アクリル系樹脂板の製造方法]
本発明においては、メタクリル酸メチル中にエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解させ、あるいは、メタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物中にエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解させる。
【0015】
メタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物は、メタクリル酸メチル以外の単量体であって、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体を含む。メタクリル酸メチル以外の単量体の含有量は、単量体混合物中50質量部以下が好ましい。
【0016】
メタクリル酸メチル以外の単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸フェンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体、酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン及びそれらの誘導体、メタクリルアミド、アクリロニトリル等の窒素含有単量体、(メタ)アクリル酸グリシジルアクリレート等のエポキシ基含有単量体、スチレン、α−メチルスチレン等の分子中にエチレン性不飽和結合を有する芳香族化合物が挙げられる。また、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能重合性化合物、エチレン系不飽和ポリカルボン酸を含む少なくとも1種の多価カルボン酸と少なくとも1種のジオール類とから誘導された不飽和ポリエステルプレポリマーも挙げられる。これらは単独であるいは2種以上を併用できる。なお、「(メタ)アクリレート」及び「(メタ)アクリル酸」は、各々アクリレートとメタクリレートの総称及びアクリル酸とメタクリル酸の総称である。
【0017】
本発明に用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、この共重合体中の全単量体単位100質量%中、酢酸ビニル単位を20〜38質量%、好ましくは25〜33質量%含む。これら各範囲の下限値は、溶解性の点で意義が有る。また上限値は、酢酸ビニルが分解して生成する酢酸による腐食の懸念を低減する点で意義が有る。
【0018】
エチレン−酢酸ビニル共重合体の添加量は、メタクリル酸メチル単独又はメタクリル酸メチルを主成分とする樹脂組成物100質量部に対して0.04〜0.45質量部である。この添加量が0.04質量部以上であれば、十分な耐衝撃性向上効果が得られる傾向にある。また、0.45質量部以下であれば、透明性を維持し易く、しかもアクリル系樹脂中にエチレン−酢酸ビニル共重合体が分散した相構造となるので、注型重合法における重合後の鋳型からの剥離性が向上する。
【0019】
本発明においては、以上のようにして得られた混合物を注型重合することによって、アクリル系樹脂板を製造する。注型重合とは、鋳型に前記混合物を注入し、塊状重合により重合硬化し、その硬化物を鋳型から剥離する方法である。このような注型重合法は、光学用途など透明性が要求される用途において特に好ましい方法である。
【0020】
注型重合の重合反応形式としては、ラジカル重合、アニオン重合など公知の形式を用いることができる。特に、製造条件の点からラジカル重合が好ましい。
【0021】
ラジカル重合を行う為に前記混合物に添加するラジカル重合開始剤は、特に制限されない。その具体例としては、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物系重合開始剤;が挙げられる。これらは1種を単独で、又は必要に応じて2種以上を併用できる。ラジカル重合開始剤の添加量は、単量体成分100質量部に対し、0.05〜1質量部が好ましい。
【0022】
また、ラジカル重合開始剤以外に、必要に応じて離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤等の添加剤を前記混合物に加えることもできる。
【0023】
注型用の鋳型は特に限定されず、公知の鋳型を用いることができる。板状の樹脂成形物を得る為の鋳型としては、例えば、無機ガラス、クロムメッキ金属板、ステンレス板等の板状体を軟質ガスケットを介して対向させて構成した鋳型や、同一方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトの相対する面とその両側辺部においてエンドレスベルトと同一速度で走行するガスケットで構成した鋳型が挙げられる。
【0024】
重合温度は特に制限されないが、好ましくは40〜180℃、より好ましくは50〜160℃である。重合時間は、重合硬化の進行に応じて適宜決定すればよい。
【0025】
[アクリル系樹脂板]
本発明のアクリル系樹脂板は、前記混合物を注型重合することによって得られる樹脂板であり、具体的には、メタクリル酸メチル単独重合体又はメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物の共重合体100質量部中に、酢酸ビニル単位20〜38質量%(エチレン−酢酸ビニル共重合体中の全単量体単位を100質量%とする)を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体0.04〜0.45質量部含有するアクリル系樹脂板である。
【0026】
すなわち、このアクリル系樹脂板は、アクリル系樹脂中に特定のエチレン−酢酸ビニル共重合体を特定量添加することにより前記共重合体が分散した相構造、すなわちアクリル系樹脂の海相とエチレン−酢酸ビニル共重合体の島相からなる海島相構造を有することを特徴とする。本発明のアクリル系樹脂板はこのような構造を有するものであればよく、先に説明した方法によって好適に製造できるが、必ずしもその製造方法に限定されるものではない。
【0027】
アクリル系樹脂中に分散したエチレン−酢酸ビニル共重合体(島相)の粒径は、好ましくは0.1〜3μm、より好ましくは0.1〜2μmの範囲内である。これら各範囲の下限値は、耐衝撃性の点で意義が有る。また上限値は、透明性の点で意義が有る。
【0028】
[アクリル系樹脂積層体]
本発明のアクリル系樹脂積層体は、前記アクリル系樹脂板と、このアクリル系樹脂板の少なくとも一面に形成された硬化性組成物の硬化層とを有する。この硬化層は、表面の耐擦傷性を更に向上させる為の層である。
【0029】
硬化層は、耐擦傷性をもたらす硬化性化合物を含む硬化性組成物を膜状に硬化させることによって得られる。
【0030】
硬化性組成物としては、後述する紫外線硬化性組成物のようなラジカル重合系の硬化性化合物を含む硬化性組成物や、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン等の縮重合系の硬化性化合物を含む硬化性組成物を用いることができる。これらは、例えば、電子線、放射線、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより硬化するか、或いは加熱により硬化する。また、これらの硬化性化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の硬化性を有する化合物を組み合わせて用いてもよい。場合によっては、活性エネルギー線重合系の硬化性化合物と熱重合系の硬化性化合物とを組み合わせてもよい。
【0031】
硬化層は、生産性、物性の観点から、紫外線硬化性組成物を紫外線によって硬化して得られる層であることが好ましい。紫外線硬化性組成物としては、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物及び光開始剤からなる組成物を用いることが、生産性の観点から好ましい。
【0032】
紫外線硬化性組成物に用いる分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物としては、例えば、1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物や、多価アルコールと多価カルボン酸又はその無水物と(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物が挙げられる。
【0033】
1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物の具体例としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキルジオールのジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の3官能以上のポリオールのポリ(メタ)アクリレート;が挙げられる。
【0034】
多価アルコールと多価カルボン酸又はその無水物と(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物において、その好ましい組合せとしては、例えば、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0035】
分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物のその他の具体例としては、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートの3量化により得られるポリイソシアネート1モル当たり、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の活性水素を有するアクリル系モノマー3モル以上を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート;エポキシポリ(メタ)アクリレート;ウレタンポリ(メタ)アクリレート;が挙げられる。
【0036】
紫外線硬化性組成物に用いる光開始剤の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等のリン化合物;が挙げられる。
【0037】
光開始剤の添加量は、紫外線硬化性組成物100質量部に対して、紫外線照射による硬化性の観点から0.1質量部以上が好ましく、紫外線による帯色の観点から10質量部以下が好ましい。また、光開始剤は2種類以上を併用してもよい。
【0038】
硬化性組成物は、硬化性組成物を含む塗料として使用することが好ましい。この塗料には、必要に応じて、レベリング剤、導電性物質、無機微粒子、光安定剤(紫外線吸収剤、HALS等)等の各種成分をさらに添加できる。積層体の透明性の観点から、その添加量は、硬化性組成物100質量%中10質量%以下が好ましい。
【0039】
硬化層の厚さは、表面硬度と外観の点から、好ましくは1μm〜100μm、より好ましくは1μm〜30μmである。
【0040】
アクリル系樹脂板上に硬化層を積層形成する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、アクリル系樹脂板上に硬化性組成物を塗布・硬化することで硬化層を積層する方法や、内面に硬化層が積層された鋳型で注型重合を行い、重合後に鋳型から剥離する際に硬化層を転写する方法がある。
【0041】
アクリル系樹脂積層体は、アクリル系樹脂板の表面や、アクリル系樹脂板と硬化層との間や、硬化層の表面にその他の機能層を有していてもよい。その他の機能層の具体例としては、アクリル系樹脂基材上又は硬化層の表面に設けられる反射防止層、防汚層及び帯電防止層や、各層間に設けられる帯電防止性能、飛散防止性能等を有する中間層が挙げられる。
【0042】
[表示装置]
本発明の表示装置は、以上説明したアクリル系樹脂積層体を表示部の保護部材(前面板等)として有する。通常、耐擦傷性に優れた硬化層を外側にして設ける。表示装置の具体例としては、情報表示部を有するCRT、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、プロジェクションテレビ等の各種ディスプレイ及び携帯電話、携帯ミュージックプレイヤー、モバイルパソコン等の情報端末及びタッチパネルが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を説明する。以下の記載において、「部」は「質量部」を示す。また、実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下の通りである。
・「MMA」:メタクリル酸メチル
・「V523」:エチレン−酢酸ビニル共重合体(商品名エバフレックスV523、酢酸ビニル単位含有量33%、三井デュポンポリケミカル株式会社製)
・「EV450」:エチレン−酢酸ビニル共重合体(商品名エバフレックスEV450、酢酸ビニル単位含有量19%、三井デュポンポリケミカル株式会社製)
・「DQDJ−3269」:エチレン−酢酸ビニル共重合体(商品名DQDJ−3269、酢酸ビニル含有量28%、日本ユニカー株式会社製)
・「C6DA」:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート
・「TAS」:コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合混合物
・「BEE」:ベンゾインエチルエーテル。
【0044】
実施例及び比較例における測定及び評価は以下の方法に従い実施した。
【0045】
(1)全光線透過率及びヘーズ:
日本電色工業(株)製のHAZE METER NDH2000(商品名)を用いてJIS K7136の測定法に準拠して、全光線透過率及びヘーズ値を測定した。
【0046】
(2)落球試験(耐衝撃性評価):
サンプルとして一辺50mmの正方形に切断した樹脂板を用い、支持台として直径20mmの円形の穴が空いた5mm厚のアクリル板を用い、支持台の穴がサンプル中央の下になるようにサンプルを設置し、サンプルの左右2辺をセロハンテープでサンプル支持台に固定した。23℃、相対湿度50%の条件下、ステンレス製球(球径20.0mmφ、質量35.9g)を樹脂板中央に落下させ、JIS K6734の規格に準拠して50%破壊高さを測定し、耐衝撃性を評価した。
【0047】
(3)相構造の観察及び分散粒径の測定:
アクリル系樹脂板の断面をウルトラミクロトーム(EM−ULTRACUTUCT、ライカ製)で切り出して観察用サンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(JEM−1011、日本電子株式会社製)又は透過型微分干渉顕微鏡((株)Nikon製)を用いて相構造の観察及び分散したエチレン−酢酸ビニル共重合体の粒径(分散粒径)を測定した。
【0048】
(4)耐擦傷性:
#000のスチールウールを装着した直径25.4mmの円形パッドをアクリル系樹脂積層体の表面上に置き、9.8Nの荷重下で、20mmの距離を100回往復させて擦傷処理し、擦傷前と擦傷後のヘーズ値の差(Δヘーズ)を下式(1)より求め、耐擦傷性を評価した。
[Δヘーズ(%)]=[擦傷後ヘーズ値(%)]−[擦傷前ヘーズ値(%)] (1)
(5)剥離性:
重合後のアクリル系樹脂板と鋳型との剥離性を以下の基準により評価した。
「○」:容易に剥離する。
「×」:剥離時にアクリル系樹脂板が割れる、又はアクリル系樹脂板の一部が鋳型に残る。
【0049】
<実施例1>
二枚のステンレス(SUS304)板を対向させ、その周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じ、注型重合用の鋳型を作製した。この鋳型内に、メタクリル酸メチル100部にV523を0.05部溶解した混合液、t−ヘキシルパーオキシピバレート0.2部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.01部を含有する混合物を注入し、対向するステンレス板の間隔を1.6mmに調整した。次いで、この鋳型を80℃の水浴中で1時間、更に130℃の空気炉で1時間加熱することにより、鋳型内の混合物を重合硬化させた。その後鋳型を冷却し、ステンレス板から板状の重合硬化物を剥離して、厚さ1mmのアクリル系樹脂板を得た。その評価結果を表1に示す。
【0050】
<実施例2〜5>
エチレン−酢酸ビニル共重合体の種類及び添加量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてアクリル系樹脂板を作製した。その評価結果を表1に示す。また、図1は実施例3のアクリル系樹脂板断面の顕微鏡写真であり、図2はその倍率を更に拡大した顕微鏡写真である。図1の写真中の黒い部分がエチレン−酢酸ビニル共重合体である。これにより、アクリル系樹脂中にエチレン−酢酸ビニル共重合体が分散した相構造、すなわちアクリル系樹脂の海相とエチレン−酢酸ビニル共重合体の島相からなる海島相構造であることが確認できた。
【0051】
<比較例1〜3>
エチレン−酢酸ビニル共重合体の種類及び添加量を表1に示す組成に変更したこと以外は実施例1と同様にしてアクリル系樹脂板を作製した。その評価結果を表1に示す。
【0052】
比較例1では、エチレン−酢酸ビニル共重合体の添加量が少な過ぎるので耐衝撃性が低かった。比較例2では、エチレン−酢酸ビニル共重合体の添加量が多過ぎるので透明性が低かった。特に比較例では、重合後のステンレス板(鋳型)からの剥離性も悪かった。比較例3では、エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル成分の含有量が少な過ぎるので透明性が悪かった。
【0053】
<実施例6>
まずステンレス板上に、TAS50部、C6DA50部及びBEE2部を含む紫外線硬化性組成物を塗布した。この塗膜上に、厚さ12μmのPETフィルムを重ね、JIS硬度40°のゴムロールを用いて、塗膜の厚みが15μmとなるように過剰な紫外線硬化性組成物をしごき出しながら気泡を含まないように圧着させた。なお、この塗膜の厚みは、紫外線硬化性組成物の供給量及び展開面積から算出した。このPETフィルム側を上にして、出力40Wの蛍光紫外線ランプ(東芝(株)製、商品名FL40BL)の下20cmの位置を0.3m/minのスピードで通過させることによりPETフィルムを介して塗膜に紫外線を照射し、重合硬化させた。
【0054】
その後、PETフィルムを剥離し、塗膜側を上にして、出力9.6kWの高圧水銀灯の下20cmの位置を3.0m/minのスピードで通過させることにより塗膜に紫外線を照射し、さらに重合硬化させた。これにより、ステンレス板上に厚さ13μmの硬化層を積層形成できた。なお、この硬化層の厚さは、得られた製品の断面の微分干渉顕微鏡写真から測定して求めた。
【0055】
この硬化層が積層形成されたステンレス板を2枚用意し、硬化層が内側になるように二枚のステンレス板を対向させ、周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じ、注型重合用の鋳型を作製した。この鋳型を用いたこと以外は実施例2と同様にして注型重合を行い、両面に硬化層を有する板厚1mmのアクリル系樹脂積層体を得た。その評価結果を表1に示す。また、アクリル系樹脂積層体の表面にクロスカット試験(JIS K5600−5−6)を行ったところ、硬化層の剥離は無く、アクリル系樹脂板と硬化層の密着性も良好であった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアクリル系樹脂板及びアクリル系樹脂積層体は、例えば、CRT、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、プロジェクションテレビ等の各種ディスプレイの前面板、携帯電話、携帯ミュージックプレイヤー、モバイルパソコン等の情報端末の情報表示部の前面板、タッチパネルの保護板等に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単独又はメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物100質量部中に、酢酸ビニル単位20〜38質量%(エチレン−酢酸ビニル共重合体中の全単量体単位を100質量%とする)を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体0.04〜0.45質量部を溶解させて得られた混合物を注型重合するアクリル系樹脂板の製造方法。
【請求項2】
メタクリル酸メチル単独重合体又はメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物の共重合体100質量部中に、酢酸ビニル単位20〜38質量%(エチレン−酢酸ビニル共重合体中の全単量体単位を100質量%とする)を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体0.04〜0.45質量部含有するアクリル系樹脂板。
【請求項3】
分散したエチレン−酢酸ビニル共重合体の粒径が0.1〜3μmの範囲内である請求項2記載のアクリル系樹脂板。
【請求項4】
請求項2記載のアクリル系樹脂板と、該アクリル系樹脂板の少なくとも一面に形成された硬化性組成物の硬化層とを有するアクリル系樹脂積層体。
【請求項5】
請求項4記載のアクリル系樹脂積層体を表示部の保護部材として有する表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−241033(P2012−241033A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109455(P2011−109455)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】