説明

アクリル酸製造用触媒および該触媒を用いたアクリル酸の製造方法

【課題】
アクロレインの接触気相酸化により、工業的規模で長期に渡って安定して高収率でアクリル酸を製造できる方法を提供する。
【解決手段】
モリブデン−バナジウム系酸化物触媒であって、コバルトを必須成分として含み、かつコバルトとバナジウムの原子比(Co/V)が0.01/1〜0.5/1であるアクリル酸製造用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを気相にて分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより酸化してアクリル酸を製造するための触媒およびこの触媒を用いたアクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固定床多管式反応器にアクリル酸製造用触媒を充填し、アクロレインを分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクリル酸を製造することは広く工業的に実施されている。そのための触媒として従来用いられている大部分は、モリブデンとバナジウムを主成分とするものであるが、目的とするアクリル酸の収率や寿命等の触媒性能は必ずしも充分なものではなく、触媒性能の改善を目的として各社から様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、2層以上に分割して設けた複数の反応帯に活性の異なる複数個の触媒を原料ガス入口側から出口側に向けて活性が高くなるよう充填してアクリル酸を製造する方法が提案され、その際、使用する触媒としてMo(モリブデン)、V(バナジウム)、W(タングステン)、Cu(銅)を必須成分とし、Sb(アンチモン)やCo(コバルト)などを任意成分として含む触媒が開示されている。特許文献2には、触媒成分を担体上に担持するにあたり、液状結合剤として、水20〜90重量%及び、常圧(1atm)での沸点又は昇華温度が>100℃である有機化合物10〜80重量%からなる溶液を使用する製造方法において、Mo、Vを必須成分とし、W、Cu、Sb、Coなどを任意成分として含む触媒が開示されている。特許文献3には、Mo、V、W、Cu、Sbを必須成分とし、Coなどを任意成分として含む触媒において、Sb原料として酢酸Sbを用いた触媒が開示されている。また、特許文献4には、Mo、Sbを必須成分とし、V、W、Cu,Coなどを任意成分として含む触媒において、Sbの供給源として熱処理されたSb−Y−Si−C−Oで示される複合酸化物を用い、かつそのSiおよびCの供給源が炭化ケイ素である触媒が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−336060号公報
【特許文献2】特開平8−252464号公報
【特許文献3】特開2001−79408号公報
【特許文献4】特開2003−190799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アクリル酸は現在数百万トン/年の規模で生産されており、更に、吸水性樹脂の原料としてその需要は伸びている。このような状況下、工業的規模で0.1%でもアクリル酸の収率が向上すれば経済的に非常に大きな意味を持つことになる。前記した触媒はいずれも目的とするアクリル酸の収率や寿命等の触媒性能の改善は見られているものの、なお工業的な規模から見て改善の余地を残すものである。
【0006】
特許文献1および2に記載の触媒では、反応初期のアクリル酸収率は比較的高いが、あくまで反応当初の性能であり、触媒寿命に関する関する評価はされていない。特に、特許文献1では、複数種の触媒を積層して用いた場合は高いアクリル酸収率を示しているものの、特許文献1の比較例に見られるように単一の触媒では十分な性能はいえない。
【0007】
また、特許文献3の実施例で開示されているアクリル酸収率は高いレベルではあるが、使用される触媒量が高々30mlの実験室レベルでの評価に過ぎず、寿命に関する評価も全くされていない。特許文献4についても、確かに実施例に記載されているアクリル酸収率は高いが、その評価は、20〜28メッシュに粉砕し、整粒した触媒0.45gを内径4mmの反応管に充填し、空間速度9900/hrで行われた反応、いわゆるマイクロリアクターでの評価であり、なおかつ反応原料ガス中のアクロレイン濃度が3.4%と非常に低濃度で反応を行っており、工業的規模とは全く異なる条件での反応結果である。また、その触媒寿命に関する評価もされていない。したがって、これら特許文献においては、工業的規模でアクリル酸を製造するに際しての長期間反応を継続した場合の触媒性能に関して、実用化という点から十分な評価がなされているとはいえない。
【0008】
かくして、本発明の目的は、工業的規模で、長期に渡って安定して高収率でアクリル酸を製造できる触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため、アクロレインの分子状酸素を用いた気相接触酸化によるアクリル酸を製造するためのモリブデン−バナジウム系酸化物触媒について構成元素の効果について鋭意検討を行った結果、コバルトを必須成分として含み、コバルトとバナジウムの原子比(以下、「Co/V比」という)が0.01/1〜0.5/1の範囲であるとき、長期間、触媒性能の劣化も少なく、高収率で安定してアクリル酸を製造することができることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の触媒を用いることで、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを気相にて分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより酸化してアクリル酸を製造する方法において、アクリル酸を安定かつ長期間に渡り高収率を維持して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明にかかるアクリル酸製造用触媒および該触媒を用いたアクリル酸の製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。
【0012】
本発明の触媒は、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクリル酸を製造するための触媒であって、触媒活性成分の組成が、下記一般式(1):
Mo12CuSbCo (1)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Sbはアンチモン、Coはコバルト、Aはニッケル、鉄、鉛、ビスマス、ニオブおよびスズから選ばれる少なくとも1種の元素、Bはシリコン、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Cはアルカリ金属から選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、e、f、g、hおよびxはそれぞれ、V、W、Cu、Sb、Co、A、B、CおよびOの原子比を表し、1≦a≦14、0.05≦b≦10、0.02≦c≦6、0.01≦d≦7、0.01≦e≦7、0≦f≦30、0≦g≦60、0≦h≦6であり、xは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)
で表され、かつCo/V比が0.01/1〜0.5/1である酸化物触媒である。好ましくはCo/V比が0.03/1〜0.4/1、より好ましくは0.05/1〜0.2/1である触媒が好適である。Co/V比が0.01/1より小さいと触媒の性能劣化が早く、0.5/1より大きいと触媒の燃焼活性が高くなり、結果として目的とするアクリル酸の収率が大きく低下する。その理由については明らかではないが、コバルトがバナジウムの酸化状態や結合状態に何らかの影響を与えているものと推測される。
さらに、Sb/V比が0.01/1〜0.5/1、好ましくは0.03/1〜0.4/1、より好ましくは0.05/1〜0.2/1であればアクリル酸収率がより高くなり特に好ましい。コバルト同様に、アンチモンがバナジウムの酸化状態や結合状態に何らかの影響を与えているものと推測される。
【0013】
上記触媒成分元素の出発原料については特段の制限はなく、一般にこの種の触媒に用いられる物質を使用することができる。例えば、各元素の酸化物、水酸化物、ならびにアンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩などの塩類や、それらの水溶液、ゾルなど、あるいは、複数の元素を含む化合物またはこれらの混合物の組み合わせなどが使用可能である。中でもアンモニウム塩、硝酸塩、硫酸塩および酸化物が好適に用いられる。
【0014】
上記出発原料の混合液(以下、出発原料混合液)は、この種の触媒に一般的に用いられている方法であればよく、例えば、上記出発原料を順次水に添加して水溶液あるいは水性スラリーとなるようにする方法や、出発原料の種類に応じて複数の水溶液または水性スラリーを調製した場合はこれらを順次混合すれ方法などがある。中でも出発原料を水に溶解もしくは懸濁させて行うことが好適である。その際、混合順序、温度、圧力、pH等については特に制限はなく、出発原料などにより適宜選択できる。また、別途アンモニア水や硝酸、硫酸、有機酸などを適宜添加することも可能である。
【0015】
次に、得られた出発原料混合液を、加熱や減圧など各種方法により乾燥させて触媒前駆体とする。加熱による乾燥方法としては、例えば、スプレードライヤー、ドラムドライヤー等を用いて粉末状の触媒前駆体を得ることもできるし、箱型乾燥機、トンネル型乾燥機等を用いて気流中で加熱してブロック状またはフレーク状の触媒前駆体を得ることもできる。また、一旦、出発原料の混合液を濃縮、蒸発乾固してケーキ状の固形物を得て、この固形物をさらに上記加熱処理する方法も採用できる。減圧による乾燥方法としては、例えば、真空乾燥機を用いて、ブロック状または粉末状の触媒前駆体を得ることができる。
【0016】
得られた乾燥物は、必要に応じて適当な粒度の粉体を得るための粉砕工程や分級工程を経て、続く成形工程に送られる。場合によっては、得られた乾燥物を一旦焼成した後に成形工程に送ってもよい。なお、上記触媒前駆体の粉体の粒度は、特に限定されないが、成型性に優れる点で200μm以下以下に粉砕することが好ましい。
【0017】
触媒の成形方法としては、従来からよく知られている活性成分を一定の形状に成形する押し出し成形法や打錠成形法、活性成分を一定の形状を有する任意の不活性担体上に担持する担持法があり、好ましくは、担持法である。触媒活性成分を不活性担体に担持する方法としては、一般に用いられている、例えば、回転ドラム式担持装置、転動造粒機や回転揺動型混合装置を用いて行うことができる。本発明の触媒は、転動造粒機や回転揺動型混合装置を用いた造粒法によって得られる、担体の表層に触媒活性成分を担持させたいわゆるエッグシェル(Egg Shell)構造の担持型触媒が最も好適である。
【0018】
押し出し成形法や打錠成形法等の場合、その形状に特に制限はなく、球状、円柱状、リング状、不定形などのいずれの形状でもよい。もちろん球状の場合、真球である必要はなく実質的に球状であればよく、円柱状およびリング状についても同様である。
【0019】
また、担持法においてもその形状に特に制限はなく、球状、円柱状、リング状などいずれの形状でもよい。不活性担体としては、一般的に不活性担体として知られている、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、マグネシア、ステアタイト、シリカ−マグネシア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ゼオライト等を用いることができる。
【0020】
上記成形工程においては、触媒成分の前駆体となる乾燥物を成形するにあたり、成形性を向上させるために成形補助剤やバインダー、触媒に適度な細孔を形成させるために気孔形成剤など、一般に触媒の製造においてこれらの効果を目的として使用されている各種物質を用いることができる。具体例としては、水、エチレングリコール、グリセリン、プロピオン酸、マレイン酸、ベンジルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ポリビニールアルコール、硝酸、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、セルロース、メチルセルロース、でんぷんやこれらの水溶液などが使用できる。これらの成形補助剤、バインダー、気孔形成剤などは、触媒成分に含ませておいたり、担持法であれば予め担体に吸収させておくこともできる。
【0021】
また、別に触媒の機械強度を向上させる目的で、補強剤を用いることもできる。具体例としては、補強剤として一般的に知られているグラスファイバー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、セラミックファイバーなどが挙げられる。補強剤は、触媒前駆体の調製工程の途中で添加しても、調製された触媒前駆体に配合してもよい。
【0022】
上記成形工程で得られた成形体あるいは担持体は、続く焼成工程に送られる。焼成温度としては、350℃〜450℃が好ましく、更に好ましくは380℃〜420℃であり、焼成時間としては好ましくは1〜10時間である。また、焼成時の雰囲気についても、空気雰囲気下、空気流通下、あるいは、不活性ガス雰囲気下など適宜選択できる。また、成型工程で使用したバインダーなどの除去を目的に、一旦乾燥させた後に焼成することもできる。焼成炉としては、特に制限はなく、一般的に使用される箱型焼成炉あるいはトンネル型焼成炉等を用いればよい。
【0023】
本発明における、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスの存在下で接触気相酸化してアクリル酸を製造するのに用いられる反応器については特段の制限はなく、固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器のいずれも用いることができるが、通常、固定床反応器が用いられる。
【0024】
なお、本発明の触媒は、反応器にただ一種の触媒を充填して使用しても十分な触媒性能を示すが、例えば、活性の異なる複数種の触媒を用い、これらを活性の異なる順に充填したり、触媒の一部を不活性担体などで希釈したりするなど複数種の触媒を積層、混合して使用することもできる。
【0025】
また、本発明における反応条件には特に制限は無く、この種の反応に一般に用いられている条件であればいずれも実施することが可能である。例えば、反応原料ガスとして1〜15容量%、好ましくは4〜12容量%のアクロレイン、0.5〜25容量%、好ましくは2〜20容量%の分子状酸素、0〜30容量%、好ましくは0〜25容量%の水蒸気、残部が窒素などの不活性ガスからなる混合ガスを200〜400℃の温度範囲で0.1〜1.0MPaの圧力下、300〜5,000h−1(STP)の空間速度で酸化触媒に接触させればよい。
【0026】
原料アクロレインとしては、精製されたアクロレインはもちろんのこと、グリセリンの脱水反応やプロパンおよび/またはプロピレンの酸化反応によって得られるアクロレイン含有ガスなども使用可能である。反応原料ガスとしては、このアクロレインまたはアクロレイン含有ガスに必要に応じ、空気または酸素などの分子状酸素含有ガス、水蒸気、窒素などの不活性ガスを添加した混合ガスが使用される。また、その際、反応リサイクルガスも使用することもできる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。アクロレイン転化率、アクリル酸選択率およびアクリル酸収率は次式によって求めた。
アクロレイン転化率(モル%)
=(反応したアクロレインのモル数)/(供給したアクロレインのモル数)×100
アクリル酸選択率(モル%)
=(生成したアクリル酸のモル数)/(反応したアクロレインのモル数)×100
アクリル酸収率(モル%)
=(生成したアクリル酸のモル数)/(供給したアクロレインのモル数)×100
<実施例1>
〔触媒調製〕
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム112部、パラタングステン酸アンモニウム155部を溶解した。別に水400部を加熱攪拌しながら、硝酸銅92.5部、硝酸コバルト18.6部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン37.2部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmのシリカ−アルミナ球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら徐々に投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒1を得た。この触媒の担持率は約30質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒1:Mo121.8Cu1.2Sb0.8Co0.2
なお、担持率は、下記式により求めた。
担持率(質量%)=担持された触媒粉体の質量(g)/用いた担体の質量(g)×100
〔反応器〕
全長3200mm、内径25mmのSUS製反応管およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる反応器を鉛直方向に用意した。反応管上部より触媒1を落下させて、層長が3000mmとなるように充填した。
〔酸化反応〕
熱媒体温度(反応温度)を265℃に保ち、触媒を充填した反応管に、アクロレイン7.5容量%、酸素9.5容量%、水蒸気32容量%、窒素51容量%の混合ガスを空間速度1800hr−1(STP)で導入し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例2>
実施例1同様にして得られた触媒粉体に成形補助剤として20質量%の硝酸アンモニウム水溶液を添加して、外径6mm、内径2mm、長さ6mmのリング状に押出し成型した。次いで、この成型体を空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして実施例1と同じ金属元素組成の複合酸化物触媒2を得た。得られた触媒を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<比較例1>
実施例1において、硝酸コバルト、の量を2.32部に変更した以外は、実施例1と同様に調製し、触媒3を得た。この触媒の担持率は約31%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒3:Mo121.8Cu1.2Sb0.8Co0.025
得られた触媒3を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<比較例2>
実施例1において、硝酸コバルトを加えなかった点以外は、実施例1と同様に調製し、触媒4を得た。この触媒の担持率は約30%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒4:Mo121.8Cu1.2Sb0.8
得られた触媒4を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<比較例3>
実施例1において、三酸化アンチモンを加えなかった点以外は、実施例1と同様に調製し、触媒5を得た。この触媒の担持率は約30%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒5:Mo121.8Cu1.2Co0.03
得られた触媒5を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例3>
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム149部、パラタングステン酸アンモニウム129部を溶解した。別に水400部を加熱攪拌しながら、硝酸銅100部、硝酸コバルト65.0部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン46.5部、酸化スズ19.2部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmのシリカ−アルミナ球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒6を得た。この触媒の担持率は約30質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒6:Mo121.5Cu1.3SbCo0.7Sn0.4
得られた触媒6を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<比較例4>
実施例3において、硝酸コバルトおよび三酸化アンチモンの量をそれぞれ195部、46.5部に変更した以外は、実施例3と同様に調製し、触媒7を得た。この触媒の担持率は約30%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒7:Mo121.5Cu1.3SbCo2.1Sn0.4
得られた触媒7を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例4>
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム149部、パラタングステン酸アンモニウム147部を溶解した。別に水600部を加熱攪拌しながら、硝酸銅116部、硝酸コバルト15.8部、硝酸鉄77.4部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン1.40部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmのシリカ−アルミナ球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒8を得た。この触媒の担持率は約31質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒8:Mo121.7Cu1.5Sb0.03Co0.17Fe0.6
得られた触媒8を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例5>
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム149部、パラタングステン酸アンモニウム138部を溶解した。別に水500部を加熱攪拌しながら、硝酸銅116部、硝酸コバルト167部、硝酸カリウム2.26部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン2.33部、酸化ニオブ42.4部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmの炭化ケイ素球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒9を得た。この触媒の担持率は約30質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒9:Mo121.6Cu1.5Sb0.05Co1.8Nb0.07
得られた触媒9を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例6>
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム168部、パラタングステン酸アンモニウム129部を溶解した。別に水400部を加熱攪拌しながら、硝酸銅100部、硝酸コバルト55.7部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン102部、酸化スズ24.0部、チタニア30.6部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmのステアタイト球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒10を得た。この触媒の担持率は約30質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒10:Mo124.51.5Cu1.3Sb2.2Co0.6Sn0.5Ti1.2
得られた触媒10を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例7>
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム168部、パラタングステン酸アンモニウム155部を溶解した。別に水600部を加熱攪拌しながら、硝酸銅123部、硝酸コバルト186部、硝酸カリウム1.29部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、三酸化アンチモン107部、酸化ニオブ17.0部を添加し、さらに20質量%のシリカゾル57.5部を加え懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmのシリカ−アルミナ球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒11を得た。この触媒の担持率は約29質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒11:Mo124.51.8Cu1.6Sb2.3CoNb0.4Si0.60.04
得られた触媒11を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例8>
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム224部、パラタングステン酸アンモニウム112部を溶解した。別に水400部を加熱攪拌しながら、硝酸銅154部、硝酸コバルト6.50部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、三酸化アンチモン69.8部、酸化ジルコニウム39.3部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmのアルミナ球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒12を得た。この触媒の担持率は約31質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒12:Mo121.3CuSb1.5Co0.07Zr
得られた触媒12を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<比較例5>
実施例8において、硝酸コバルトおよび三酸化アンチモンを加えなかった点以外は、実施例8と同様に調製し、触媒13を得た。この触媒の担持率は約30%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒13:Mo121.3CuZr
得られた触媒13を、実施例1と同様にアクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例9>
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム224部、パラタングステン酸アンモニウム129部を溶解した。別に水600部を加熱攪拌しながら、硝酸銅193部、硝酸コバルト214部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン60.5部、酸化スズ28.9部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmのシリカ−アルミナ球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒14を得た。この触媒の担持率は約30質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒14:Mo121.5Cu1.3SbCo0.7Sn0.4
得られた触媒14を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
<実施例10>
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、その中にパラモリブデン酸アンモニウム676部、メタバナジン酸アンモニウム187部、パラタングステン酸アンモニウム155部を溶解した。別に水600部を加熱攪拌しながら、硝酸銅154部、硝酸コバルト228部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、三酸化アンチモン27.9部、酸化ジルコニウム27.5部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、空気雰囲気下392℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を200μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径4.5mmのシリカ−アルミナ球形担体を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒15を得た。この触媒の担持率は約30質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒15:Mo121.8CuSb0.6Co2.45Zr0.7
得られた触媒15を、実施例1と同様に充填し、アクロレイン酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
<実施例11および12>
それぞれ実施例3および6において、アクロレイン酸化反応を、アクロレイン転化率がほぼ一定になるように反応温度を変更しつつ8000時間継続して行った。8000時間経過時の触媒性能を表2に示す。
<比較例6および7>
それぞれ比較例1および4において、アクロレイン酸化反応を、アクロレイン転化率がほぼ一定になるように反応温度を変更しつつ8000時間継続して行った。8000時間経過時の触媒性能を表2に示す。
【0030】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクリル酸を製造するための触媒であって、触媒活性成分が、下記一般式(1)
Mo12CuSbCo (1)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Sbはアンチモン、Coはコバルト、Aはニッケル、鉄、鉛、ビスマス、ニオブおよびスズから選ばれる少なくとも1種の元素、Bはシリコン、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Cはアルカリ金属から選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、e、f、g、hおよびxはそれぞれ、V、W、Cu、Sb、Co、A、B、CおよびOの原子比を表し、1≦a≦14、0.05≦b≦10、0.02≦c≦6、0.01≦d≦7、0.01≦e≦7、0≦f≦30、0≦g≦60、0≦h≦6であり、xは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。)で表される酸化物であり、かつバナジウムに対するコバルトの原子比(Co/V)が0.01/1〜0.5/1であることを特徴とするアクリル酸製造用触媒。
【請求項2】
前記触媒活性成分において、バナジウムに対するアンチモンの原子比(Sb/V)が0.01/1〜0.5/1であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
触媒活性成分を、不活性担体に担持させてなる請求項1または2に記載のアクリル酸製造用触媒。
【請求項4】
アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを気相にて分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより酸化してアクリル酸を製造する接触気相酸化反応において、請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒の存在下で行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−131776(P2009−131776A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309687(P2007−309687)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】