説明

アクリロニトリル合成用触媒

【課題】 従来の触媒に比べて高い収率でアクリロニトリルを合成することができるアクリロニトリル合成用触媒を提供する。
【解決手段】 下記一般式で表される組成を有するアクリロニトリル合成用触媒。
MoaBibFecCrdCeeNifMggCohMnijRbklmn(SiO2p
(AはLi、Na、CsまたはTl、BはCu、Zn、Ca、Sr、Ba、Ti、V、W、Ag、Al、P、B、Sn、Pb、Ga、Ge、As、Sb、Nb、Ta、Zr、In、S、Se、TeまたはLaを表し、a=12のとき、0.1≦b≦5、0.1≦c≦10、0.1≦d≦5、0.1≦e≦5、0.1≦f≦10、0.1≦g≦10、0.1≦h≦10、0.1≦i≦10、0.01≦j≦3、0.01≦k≦3、0≦l≦3、0≦m≦20、10≦p≦200、nは各元素の原子価を満足する酸素の原子比である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンを分子状酸素およびアンモニアにより気相接触アンモ酸化してアクリロニトリルを合成するための触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンを分子状酸素およびアンモニアにより気相接触アンモ酸化して、アクリロニトリルを合成するための触媒に関しては、これまで数多くの提案がなされている。例えば、特許文献1〜5等には、モリブデン、ビスマスおよび鉄を主成分とし、さらに多様な金属成分を複合させた触媒が開示されている。
しかしながら、これらの触媒は、アクリロニトリル収率の点でまだ不充分であり、工業的見地から触媒のさらなる改良が望まれている。
【特許文献1】米国特許第5212137号明細書
【特許文献2】米国特許第5834394号明細書
【特許文献3】特許第3214975号公報
【特許文献4】特許第3534431号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0106817号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、従来の触媒に比べて高い収率でアクリロニトリルを合成することができるアクリロニトリル合成用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、モリブデン、ビスマスおよび鉄を含むアクリロニトリル合成用触媒に関して鋭意検討した結果、これらの成分にさらに特定の金属成分を複合させることでアクリロニトリル収率の高い触媒となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明のアクリロニトリル合成用触媒は、下記一般式で表される組成を有することを特徴とする。
MoaBibFecCrdCeeNifMggCohMnijRbklmn(SiO2p
(式中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Crはクロム、Ceはセリウム、Niはニッケル、Mgはマグネシウム、Coはコバルト、Mnはマンガン、Kはカリウム、Rbはルビジウム、Oは酸素、Aはリチウム、ナトリウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Bは銅、亜鉛、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、タングステン、銀、アルミニウム、リン、ホウ素、スズ、鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルルおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、SiO2 はシリカを表し、a、b、c、d、e、f、g、h、i、j、k、l、mおよびpは各元素(シリカの場合はケイ素)の原子比を表し、a=12のとき、0.1≦b≦5、0.1≦c≦10、0.1≦d≦5、0.1≦e≦5、0.1≦f≦10、0.1≦g≦10、0.1≦h≦10、0.1≦i≦10、0.01≦j≦3、0.01≦k≦3、0≦l≦3、0≦m≦20、10≦p≦200であり、nは前記各元素(ケイ素は除く)の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。)
【発明の効果】
【0006】
本発明のアクリロニトリル合成用触媒によれば、従来の触媒に比べて高い収率でアクリロニトリルを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のアクリロニトリル合成用触媒は、下記一般式で表される組成を有する触媒である。
MoaBibFecCrdCeeNifMggCohMnijRbklmn(SiO2p
【0008】
式中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Crはクロム、Ceはセリウム、Niはニッケル、Mgはマグネシウム、Coはコバルト、Mnはマンガン、Kはカリウム、Rbはルビジウム、Oは酸素、Aはリチウム、ナトリウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Bは銅、亜鉛、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、タングステン、銀、アルミニウム、リン、ホウ素、スズ、鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルルおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、SiO2 はシリカを表す。
【0009】
また、式中、a、b、c、d、e、f、g、h、i、j、k、l、mおよびpは各元素(シリカの場合はケイ素)の原子比を表し、a=12のとき、0.1≦b≦5(好ましくは0.2≦b≦2)、0.1≦c≦10(好ましくは0.5≦c≦3)、0.1≦d≦5(好ましくは0.15≦d≦2)、0.1≦e≦5(好ましくは0.2≦e≦2)、0.1≦f≦10(好ましくは3≦f≦9)、0.1≦g≦10(好ましくは0.2≦g≦7)、0.1≦h≦10(好ましくは0.2≦h≦7)、0.1≦i≦10(好ましくは0.15≦i≦6)、0.01≦j≦3(好ましくは0.02≦j≦0.45)、0.01≦k≦3(好ましくは0.01≦k≦0.45)、0≦l≦3、0≦m≦20、10≦p≦200(好ましくは30≦p≦80)であり、nは前記各元素(ケイ素は除く)の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0010】
本発明のアクリロニトリル合成用触媒としては、触媒活性および/またはアクリロニトリル選択性の点、すなわちアクリロニトリル収率の点で、上記一般式で表される組成が下記の(i)〜(iv)の条件のうち、少なくとも1つを満足するものが好ましい。
(i)h<fである。
(ii)2b<cである。
(iii)0.1<j+k+l<0.5である。
(iv)0.2<i<5である。
【0011】
本発明において、アクリロニトリル合成用触媒の組成とは、触媒のバルク組成を指すが、著しく揮発性の高い成分を用いない限りは、触媒を構成する各元素の原料の仕込み量から触媒の組成(原子比)を計算してもよい。
【0012】
本発明のアクリロニトリル合成用触媒の形状および大きさは、特に制限されるものではないが、形状としては球形が特に好ましい。また、その外径は1〜200μmが好ましく、5〜100μmが特に好ましい。
【0013】
本発明のアクリロニトリル合成用触媒の調製方法としては、特に限定はないが、触媒を構成する各元素の原料を含む水性スラリーを調合し、得られた水性スラリーを乾燥し、得られた乾燥物を500〜750℃の温度で焼成する方法が特に好ましい。
水性スラリーには、触媒を構成する所望の元素のすべてが、所望の原子比で含まれていることが好ましい。
各元素の原料としては、特に限定されず、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等が挙げられる。これらは、複数を組み合わせてもよい。
【0014】
モリブデン成分の原料としては、パラモリブデン酸アンモニウム、二モリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等が挙げられる。
ビスマス成分の原料としては、酸化ビスマス、硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、次炭酸ビスマス等が挙げられる。
鉄成分の原料としては、硝酸鉄(III)、酸化鉄(III)、四三酸化鉄、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)等が挙げられる。また、金属鉄を硝酸等に溶解して用いてもよい。
クロム成分の原料としては、硝酸クロム、酸化クロム(III)、無水クロム酸、塩化クロム(III)、塩化クロム(II)等が挙げられる。
セリウム成分の原料としては、硝酸セリウム、酸化セリウム(IV)、炭酸セリウム(III)、塩化セリウム(III)等が挙げられる。
ニッケル成分の原料としては、硝酸ニッケル、酸化ニッケル(II)、水酸化ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられる。
マグネシウム成分の原料としては、硝酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。
コバルト成分の原料としては、硝酸コバルト、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、水酸化コバルト、塩化コバルト等が挙げられる。
マンガン成分の原料としては、硝酸マンガン、酸化マンガン、塩化マンガン等が挙げられる。
カリウム成分の原料としては、硝酸カリウム、水酸化カリウム、重炭酸カリウム、塩化カリウム等が挙げられる。
ルビジウム成分の原料としては、硝酸ルビジウム、炭酸ルビジウム、塩化ルビジウム等が挙げられる。
【0015】
シリカ原料としては、コロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、市販のものから適宜選択して用いればよい。コロイダルシリカにおけるコロイド粒子の大きさ(直径)は、特に限定はないが、2〜100nmが好ましく、5〜50nmが特に好ましい。また、コロイダルシリカは、コロイド粒子の大きさが均一のものであってもよく、数種類の大きさのコロイド粒子が混ざったものであってもよい。
【0016】
水性スラリーの乾燥方法としては、特に限定はないが、得られる乾燥物の形状として球形が好ましいこと、また、粒径の調節が比較的容易であることから、スプレー乾燥機、特に、回転円盤型スプレー乾燥機、圧力ノズル型スプレー乾燥機、二流体ノズル型スプレー乾燥機等を用いた方法が好ましい。
【0017】
得られた乾燥物を500〜750℃の範囲の温度で焼成することにより、望ましい触媒活性構造が形成される。焼成の時間は、特に限定はないが、短すぎると良好な触媒が得られないため、1時間以上が好ましい。焼成の方法についても、特に制限はなく、汎用の焼成炉を用いることができる。焼成炉としては、ロータリーキルン、流動焼成炉等が特に好ましい。
【0018】
焼成に際しては、乾燥物を即座に500〜750℃の範囲の温度で焼成してもよいが、一旦250〜400℃の温度および/または400〜490℃の温度で1〜2段階の予備焼成を行った後、500〜750℃の範囲の温度での焼成を行うことがより好ましい。
【0019】
本発明のアクリロニトリル合成用触媒を用いて、プロピレンを分子状酸素(以下、単に酸素と記す。)およびアンモニアにより気相接触アンモ酸化してアクリロニトリルを合成するに際しては、流動床反応器を用いることが好ましい。
気相接触アンモ酸化を行う際の酸素源としては、空気が工業的には有利である。酸素源としては、必要に応じて純酸素を加えることによって酸素を富化した空気でもよい。
【0020】
原料ガス中のプロピレンの濃度は、広い範囲で変えることができ、1〜20容量%が適当であり、特に3〜15容量%が好ましい。
原料ガス中のプロピレンと酸素とのモル比(プロピレン:酸素)は、1:1.5〜1:3が好ましい。また、反応ガス中のプロピレンとアンモニアとのモル比(プロピレン:アンモニア)は、1:1〜1:1.5が好ましい。
原料ガスは、不活性ガス、水蒸気等で希釈してもよい。
【0021】
気相接触アンモ酸化を行う際の反応圧力は、常圧ないし数気圧である。
気相接触アンモ酸化を行う際の反応温度は、400〜500℃の範囲が好ましい。
【実施例】
【0022】
本発明の効果を実施例により示す。ただし、下記実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。
触媒の活性試験は以下の要領で実施した。
(1)触媒の活性試験
プロピレンのアンモ酸化によるアクリロニトリル合成反応を塔径2インチの流動床反応器を用いて実施した。
この際、プロピレン/アンモニア/空気/水蒸気=1/1.2/9.5/0.5(モル比)の混合ガスをガス線速度18cm/秒で反応器内に導入し、反応温度は430℃、反応圧力は200KPaとした。
反応試験分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
【0023】
また、接触時間、プロピレンの転化率、アクリロニトリルの選択率およびアクリロニトリルの収率は以下のように定義される。
接触時間(秒)=かさ密度基準の触媒容積(L)/反応条件に換算した供給ガス流量(L/秒)
プロピレンの転化率(%)=Q/P×100
アクリロニトリルの選択率(%)=R/Q×100
アクリロニトリルの収率(%)=R/P×100
ここで、Pは供給したプロピレンのモル数、Qは反応したプロピレンのモル数、Rは生成したアクリロニトリルのモル数を表す。
【0024】
[実施例1]
30質量%シリカゾル8333.8部に、攪拌下、パラモリブデン酸アンモニウム2059.5部を水4500部に溶解したものを加え、45℃に加温した(A液)。
これとは別に、17質量%硝酸2100部に、硝酸ビスマス235.8部を溶解し、この液に硝酸鉄(III)589.1部、硝酸クロム233.4部、硝酸セリウム253.3部、硝酸ニッケル1130.5部、硝酸マグネシウム498.5部、硝酸コバルト141.4部、硝酸マンガン111.6部、硝酸カリウム5.9部および硝酸ルビジウム14.3部を順次加え、45℃に加温した(B液)。
攪拌下、A液にB液を加え、スラリー状物を得た。
【0025】
得られたスラリー状物を回転ディスク型スプレー乾燥機にて、熱風の導入口における温度を280℃、出口における温度を150℃にコントロールしながら乾燥した。
得られた乾燥物を、300℃で2時間、次いで440℃で2時間予備焼成した後、590℃で3時間流動焼成炉にて焼成することで触媒1を得た。
こうして得られた触媒1の組成は、原料の仕込み量から以下のように算出される。
Mo12Bi0.5Fe1.5Cr0.6Ce0.6Ni4Mg2Co0.5Mn0.40.06Rb0.1x(SiO242.8
ここで、xは、他の各元素(ケイ素を除く)の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。
【0026】
触媒1について、接触時間3.2秒にて活性試験を行ったところ、プロピレンの転化率は98.1%、アクリロニトリルの選択率は84.7%、アクリロニトリルの収率は83.1%であった。
【0027】
[実施例2〜5および比較例1〜5]
表1に示す組成の触媒を実施例1の方法に準じて製造した。すなわち、所望の触媒組成に従って各元素の原料の仕込み量を調整した上で、実施例1と同様な方法にて各々の触媒を製造した。ただし、比較例4におけるセシウム成分の原料としては、硝酸セシウムを用いた。
得られたそれぞれの触媒について実施例1と同様にして活性試験を行った。それらの結果を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のアクリロニトリル合成用触媒によれば、プロピレンを気相接触アンモ酸化してアクリロニトリルを合成するに際し、高いアクリロニトリル収率を達成できる。この触媒を使用することによって、合理的にアクリロニトリルを製造できるので、その工業的価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表される組成を有するアクリロニトリル合成用触媒。
MoaBibFecCrdCeeNifMggCohMnijRbklmn(SiO2p
(式中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Crはクロム、Ceはセリウム、Niはニッケル、Mgはマグネシウム、Coはコバルト、Mnはマンガン、Kはカリウム、Rbはルビジウム、Oは酸素、Aはリチウム、ナトリウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Bは銅、亜鉛、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、バナジウム、タングステン、銀、アルミニウム、リン、ホウ素、スズ、鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルルおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、SiO2 はシリカを表し、a、b、c、d、e、f、g、h、i、j、k、l、mおよびpは各元素(シリカの場合はケイ素)の原子比を表し、a=12のとき、0.1≦b≦5、0.1≦c≦10、0.1≦d≦5、0.1≦e≦5、0.1≦f≦10、0.1≦g≦10、0.1≦h≦10、0.1≦i≦10、0.01≦j≦3、0.01≦k≦3、0≦l≦3、0≦m≦20、10≦p≦200であり、nは前記各元素(ケイ素は除く)の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比である。)

【公開番号】特開2006−326440(P2006−326440A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151381(P2005−151381)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】