説明

アザ−ペプチド

少なくとも1つのアザアミノ酸を含み、βシート破壊能力を有するペプチドが提供される。このペプチドは、たとえば、アルツハイマー病、拳闘家痴呆(頭部外傷を含む)、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)およびアミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆のような、疾病の治療および予防において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、βシート破壊ペプチド、特にアルツハイマー病、拳闘家痴呆(頭部外傷を含む)、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)およびアミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆などのような疾病の治療におけるその使用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、バイエルンの精神科医アロイス・アルツハイマー(Alois Alzheimer)によって1907年に最初に報告されたもので、短期記憶喪失で始まり、進行性の認知機能および行動における減退が特徴である進行性神経障害である。この疾病の病状が進行すると、見当識障害や、判断、論理性、注意力および会話力に障害が起こり、最後には痴呆に至る。この疾病の経過では通常、発症後4〜12年の間に、衰弱して寝たきり状態となって、死亡する。ADは、65歳以上の人口の内の5〜11パーセント、85歳を超えると47パーセントが罹患しているであろうと推定されている。ADを管理するための社会的コストは非常に高いものになるが、その主たる理由は、AD患者を保護するだけでも、広汎な介護が必要だからである。ADの生理病理学を理解することを目的とした努力が積み重ねられてはいるが、この疾病の進行を顕著に抑制する治療法は、現在のところ無い。
【0003】
病理学的には、ADの特徴は、患者の脳に明瞭な病変が存在することで、これは剖検により明らかになる。それらの脳の病変としては、神経原繊維変化(NTF)と呼ばれる異常な細胞内線維や、老人斑またはアミロイド斑の中のアミロイド形成性タンパク質の細胞外沈着、などが挙げられる。アミロイド沈着物はさらに、AD患者の脳血管壁にも存在する。アミロイド斑の主たるタンパク質成分は、4.3キロダルトンのペプチドと同定され、これは、βアミロイドペプチド(Aβ)と呼ばれている[1]。Aβのびまん性沈着物は、健常な成人の脳において観察されることも多いが、それに対してADでの脳組織は、もっと堅く締まった、中心部の密度が高いβ−アミロイド斑であることが特徴である[2]。これらの観察から、Aβの沈着が進行して、ADにおいて発生するニューロンの破壊に寄与していると推論される[3]。βアミロイドが培養、in vivoのいずれにおいても、成熟ニューロンに対して毒性を有することが示されることによって、Aβが直接的に病原性の役割を果たしていることがさらに立証された[4]。
【0004】
大脳皮質および脳血管系の内部にびまん性βアミロイドの沈着物があることが特徴の、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)の患者は、点突然変異を有していて、それがAβの内部でのアミノ酸置換につながっていることが証明された[5]。
【0005】
Aβはさらに、アミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆[6]および拳闘家痴呆[7]にも関係があるとされてきた。
【0006】
天然のAβは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれるもっと大きなタンパク質から、タンパク質分解により誘導される[8]。APP遺伝子は第21染色体に位置づけられ、それによって、第21染色体のトリソミーが原因で、ダウン症候群を持つ個人が若年において、βアミロイドが沈着することについての説明が与えられる[9]。
【0007】
APPのタンパク質分解により誘導される、天然のAβは、長さが39〜43のアミノ酸残基であって、その長さはカルボキシル末端終末点によって決まり、それが異質性を示す。AD患者および健常成人のいずれでも、血液および脳脊髄液中で流れているAβの形は主として、Aβ1−40である[10]。しかしながら、Aβ1−42およびAβ1−43は、β−アミロイド斑の中にも見出される[11]。
【0008】
Aβの病原性は、タンパク質の高次構造の変化の結果であるということについて、かなりの証拠が蓄積されてきた[12]。アルツハイマー病、アミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆およびHCHWA−Dにおける症状に導く決定的な事象は、天然で非病原性のタンパク質が再折りたたみされて、病原性の形態が生じることであると考えられている。この再折りたたみは、タンパク質の一次構造は変化させずに、その二次および三次構造を変化させる。
【0009】
アミロイドとは、共通的な構造モチーフ、βプリーツシートコンホメーションを有する線維性凝集物に与えられる一般的な用語である[13]。これらの凝集物は特殊な染色性を示して、たとえば、コンゴーレッドを用いた染色により緑色の複屈折光を発光する能力や、蛍光色素のチオフラビンSと結合する能力を有している[14]。これらの染色性が、βアミロイド沈着物を検出するために使用されるアッセイの基礎となっている。
【0010】
アルツハイマー病の治療および予防のための1つのアプローチは、アミロイド形成に含まれると考えられる天然タンパク質の配列といくつかの同じ配列相同性を有するが、βプリーツシートコンホメーションの形成に不利な、あるいは不安定化させる1または複数のアミノ酸を有する、短鎖のペプチドを開発しようとするものである[15]。そのペプチドが、βアミロイドの凝集を妨げ、それによって、細胞毒性効果を防止する。このアプローチは、アルツハイマー病や、プリオン関連障害において提案され[16][17][18]、そして、中でも、下記のβシート破壊ペプチド[19]が導かれた:
【化1】

【0011】
米国特許第6,319,498号明細書(プラエシス・ファーマシューティカルズ(Praecis Pharmaceuticals))では、Aβに基づくβシート破壊ペプチドが提案され、その例としてアミノ末端ビオチン化ペプチドが挙げられている。米国特許第6,303,567号明細書(プラエシス・ファーマシューティカルズ(Praecis Pharmaceuticals))では、βシート破壊ペプチドとして、βアミロイドペプチドに基づくが、完全にD−アミノ酸からなる、ペプチドが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これら公知のβシート破壊ペプチドは貴重な情報を与え、アルツハイマー病の治療にも用いられてはきたが、ペプチド医薬品の開発は、天然のペプチドは腸内、肝臓内および血液循環において分解や、急速な代謝を受けやすいという事実があるために、厳しい限界がある。さらに、多くのアミロイド関連障害の治療のための望ましい作用部位が脳内であるために、ペプチドが、他の多くの分子と同様に、血液脳関門を通過するのが困難である。脳そのものの中にも、ペプチド分子を分解させるペプチダーゼで満ちあふれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、改良された薬理学的特性を有するβシート破壊ペプチドを提供することである。
【0014】
第1の態様において、本発明は一般式Iの化合物を提供する:
【化2】

式中:
1は、H、任意に置換されたC2〜C6アシルおよび任意に置換されたC1〜C6アルキルから選択され;
2、R3、R4およびR5は独立して、Hおよび任意に置換されたC1〜C6アルキルから選択され;
6は、OHおよびNR78から選択されるが、ここでR7およびR8は独立して、Hまたは任意に置換されたC1〜C6アルキルから選択され;
1、X2、X3、X4およびX5は独立して、CR9またはNから選択され、ここでR9はHおよび任意に置換されたC1〜C6アルキルから選択されるが、ただしX1、X2、X3、X4およびX5の内の少なくとも1つはNであるという条件を満たす必要がある;
【0015】
第2の態様において、本発明は、医薬品として使用するための一般式Iの化合物を提供する;
【0016】
第3の態様において、本発明は、式Iの化合物を製薬上許容できる賦形剤または担体と共に含む、医薬組成物を提供する。
【0017】
第4の態様において、本発明は、アルツハイマー病、拳闘家痴呆(頭部外傷を含む)、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)およびアミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆から選択される疾病または状態を治療または予防するための医薬品を調製するための、式Iの化合物の使用を提供する。
【0018】
第5の態様において、本発明は、アルツハイマー病、拳闘家痴呆(頭部外傷を含む)、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)およびアミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆から選択される疾病または状態を治療または予防するための、式Iの化合物の使用を提供する。
【0019】
第6の態様において、本発明は、患者の必要に応じて患者に式Iの化合物の有効量を投与することを含む、アルツハイマー病、拳闘家痴呆(頭部外傷を含む)、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)およびアミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆を治療するための方法を提供する。
【0020】
第7の態様において、本発明は、タンパク質が異常に折りたたまれてアミロイドおよびアミロイド様沈着物となることに伴う疾病を治療するための、医薬品を調製するための式Iの化合物の使用を提供する。
【0021】
第8の態様において、本発明は、タンパク質が異常に折りたたまれてアミロイドおよびアミロイド様沈着物となることに伴う疾病を治療するための、式Iの化合物の使用を提供する。
【0022】
第9の態様において、本発明は、患者の必要に応じて患者に式Iの化合物の有効量を投与することを含む、タンパク質が異常に折りたたまれてアミロイドおよびアミロイド様沈着物となることに伴う疾病を治療するための方法を提供する。
【0023】
第10の態様において、本発明は、式(II)のアザ−アミノ酸構成単位を、アミノ酸、アザ−アミノ酸、ペプチド、アザ−ペプチドまたはアザチドと反応させて、アザ−ペプチドカップリングを介してアザ−ペプトイド結合を形成させる工程を少なくとも含む方法を用いた、アザ−ペプチドを調製するための方法を提供する:
【化3】

式中:
Rは、HおよびC1〜C6アルキルから選択されるが、好ましくはHであり;
Aは、任意に保護基によって保護されていてもよいアミノ酸の任意の官能基であり;
そしてRおよびAは、任意に置換されたC3〜C6−ヘテロシクロアルキル環、好ましくはピラゾリジニル−、ジアゼチジン−、ヘキサヒドロピリダジン−、1,2−ジアゼパン−、または1,2−ジアゾオクタン基を形成することもできる。
【0024】
第11の態様において、本発明は、III、IV、VおよびVIから選択される式を有するアザ−ペプチド構成単位を提供する:
【化4】

式中:
Rは、HおよびC1〜C6アルキルから選択されるが、好ましくはHであり;
Zは−CH2−CH=CH2および−tert−ブチルから選択される。
【0025】
第12の態様において、本発明は、式Iのアザ−ペプチドを調製するための方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の化合物は、公知のβシート破壊ペプチドよりも改良された薬理学的特性を有するβシート破壊ペプチドである。
【0027】
βシート破壊活性は、たとえばin vitroアッセイを用いて検出することができるが、たとえばソト(Soto)らによる記述に従って[14]、アミロイド線維の形成を防止する試験化合物の性能を測定する。
【0028】
アミロイド線維は、アポトーシスによる細胞死を含めて、細胞毒性を有している[20]。本発明の化合物は、アミロイド線維によって誘発される細胞死を防止するそれらの能力について、試験することができる。結果は、実施例において報告する。
【0029】
改良された薬理学的特性を有する化合物とは、公知の化合物に比較して、本明細書に記載するin vitroアッセイの、血漿中および/または脳ホモジネート中のいずれかまたは両方における安定性の向上により測定されるようなin vitro活性の向上、または、in vivoでのラットの脳におけるアミロイドの沈着の防止性する性能の向上をもたらす化合物と考えられる。「改良された」という用語には、これらのパラメーターのいずれか1つ、または2つ以上において向上が認められる化合物を包含する。その改良は、統計的に有意なものであるのが好ましく、たとえば確率の値が、0.05未満であるのが好ましい。結果が統計的に有意であるかどうかを決める方法については、よく知られており、当業者の間でのテキストや他の適切な方法を使用すればよい。
【0030】
式Iの化合物において好ましい基として、R1は、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、アミノアセチル、メチルアミノアセチル、ジメチルアミノアセチル、アミノエチル、メチルアミノエチル、ジメチルアミノエチルおよびメチルから選択される。特に好ましいR1としては、アセチル、メチルアミノアセチル、ジメチルアミノアセチルから選択され、最も好ましいのはアセチルである。
【0031】
式Iの化合物においてまた別な好ましい基として、R6はNHMeまたはNH2、特に好ましくはNH2である。
【0032】
式Iの化合物においてまた別な好ましい基として、R2、R3、R4およびR5は、H、メチルおよびエチルから選択されるが、特に好ましくはHまたはメチルである。化合物において特に好ましい基は、R2、R3、R4およびR5がHである。化合物においてまた別の特に好ましい基は、R3がメチルである。化合物において特に好ましい基は、R3がメチルで、R2、R4およびR5がHである。
【0033】
式Iの化合物においてまた別な好ましい基として、X1、X2、X3、X4およびX5が独立して、CR9またはNから選択されるが、ここでR9は好ましくはHまたはメチルであるが、ただしX1、X2、X3、X4およびX5の内の少なくとも1つはNであるという条件を満たす必要がある;
【0034】
式Iの化合物においてまた別な好ましい基として、X1、X3、X4およびX5が独立して、−CHまたはNから選択され、X2がNである;
【0035】
式Iの化合物においてまた別な好ましい基として、X1、X2、X4およびX5が−CHまたはNから選択され、X3がNである;
【0036】
式Iの化合物においてまた別な好ましい基として、X1、X4およびX5が−CHまたはNから選択され、X2およびX3がNである;
【0037】
本発明の化合物は塩として単離し、精製することができる。そのような塩も本発明の範囲に含まれる。患者に投与するという目的から、それらの塩が製薬上許容できるものであるのが望ましい。
【0038】
本発明の化合物は塩として投与することができる。そのような塩の例としては、本発明のペプチドのカルボキシル基の塩またはアミノ基の酸付加塩などが挙げられる。カルボキシル基の塩は、当業者公知の手段を用いて形成させることができ、無機塩の、たとえば、ナトリウム、カルシウム、アンモニウム、第二鉄または亜鉛塩など、および有機塩基との塩の、たとえば、アミン、たとえばトリエタノールアミン、アルギニンまたはリシン、ピペリジン、プロカインなどとから形成されるものなどが挙げられる。酸付加塩としては、たとえば、鉱酸、たとえば塩酸または硫酸との塩や、有機酸、たとえば酢酸またはシュウ酸との塩などが挙げられる。
【0039】
「アザ−アミノ酸」は、アミノ酸のα−炭素を窒素原子で置き換えることによって形成される、ペプチドミメティック(peptidomimetic)部分と定義される。ペプチド配列中に挿入された場合、このアザ−アミノ酸が、α−炭素が置換された位置において「アザ−ペプトイド」結合を形成する。
【0040】
「アザ−ペプチド」は、1つまたは複数のアザ−アミノ酸を含むペプチドと定義される。
【0041】
「アザチド(Azatide)」は、「純粋な」アザ−ペプチド、すなわち、アザ−アミノ酸だけで構成されているペプチドと定義される。
【0042】
「通常のアミノ酸」は、アミノ酸のα−炭素が窒素で置き換えられていないアミノ酸と定義される。
【0043】
「ペプトイド単位」とは、アザ−ペプチド骨格を構成するアミノ酸またはアザ−アミノ酸のいずれかを指す。アザ−ペプチド中のペプトイド単位の総数が、アザ−ペプチドの長さを決める。たとえば、ジアザ−ペプチドは全長で2個のペプトイド単位を含み、ペンタ−アザペプチドは、5個のペプトイド単位を含む。それを拡張して、アザチドの場合も、ペプトイド単位の数が、その配列中のアザ−アミノ酸の全数に対応する。
【0044】
「アザ−ペプチドカップリング」とは、他のアミノ酸、他のアザ−アミノ酸、ペプチド、アザ−ペプチド、またはアザチドに対してペプチド結合または「アザ−ペプトイド」結合を形成することによる、アミノ酸のカップリングまたはアザ−アミノ酸のカップリングのことを指す。
【0045】
アミノ酸の「官能基」とは、それぞれ個々のアミノ酸に特有の側鎖を指す。たとえば、フェニルアラニンの官能基はベンジルであり、ロイシンのそれはイソブチルである。
【0046】
「キラル誘導体」とは、通常のアミノ酸(L−鏡像異性体)を、対応するD−鏡像異性体に各種の置き換えをしたものを指す。
【0047】
アミノ酸は、それらに対応する一文字表記で表し、すなわちDがアスパラギン酸、Fがフェニルアラニン、Lがロイシン、Pがプロリンである。
【0048】
一文字表記の後に付けた添字の「a」は、アザ−アミノ酸結合であることを表す。
【0049】
「C1〜C6−アルキル」とは、1〜6個の炭素原子を有する、1価の分岐状または非分岐状のアルキル基を指す。この用語の基の例を挙げれば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどがある。
【0050】
「C1〜C5−アルキル」とは、1〜5個の炭素原子を有する、1価の分岐状または非分岐状のアルキル基を指す。この用語の基の例を挙げれば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、プロピル、ペンチルなどがある。
【0051】
「C2〜C6アシル」は、−C(O)R基を指し、ここでRには「C1〜C5−アルキル」基が含まれる。
【0052】
「C3〜C6−ヘテロシクロアルキル」は、3〜6個の原子を有し、少なくとも2個のNを含む飽和または部分的に不飽和な環を指す。例を挙げれば、ピラゾリジニル−、ジアゼチジン−、ヘキサヒドロピリダジン−、ジアゼパン−およびジアゾオクタンなどがある。
【0053】
「製薬上許容できる塩」は、所望の生物活性を維持する、式Iの化合物の塩を指す。そのような塩の例を、非限定的に挙げれば、無機酸(たとえば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)とから形成される付加塩、および、有機酸たとえば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモ酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、およびポリガラクツロン酸とから形成される塩などがある。前記化合物は、当業者には公知の製薬上許容できる4級塩として投与することができるが、その具体例としては、式−NRR’R”+-の4級アンモニウム塩などが挙げられ、ここでR、R’、R”は独立して、水素、アルキル、またはベンジルであり、Zは対イオンであるが、たとえば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、アルコキシド、トルエンスルホン酸イオン、メチルスルホン酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン、またはカルボン酸イオン(たとえば、安息香酸イオン、コハク酸イオン、酢酸イオン、グリコール酸イオン、マレイン酸イオン、リンゴ酸イオン、フマル酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、アスコルビン酸イオン、ケイ皮酸イオン、マンデル酸イオン、およびジフェニル酢酸イオンなどが挙げられる。
【0054】
医薬品として用いる場合には、本発明の化合物は典型的には、医薬組成物の形態で投与される。そのような組成物は、医薬品業界では公知の方法で調製することができ、少なくとも1つの有効化合物を含む。一般に本発明の化合物は、薬剤的有効量で投与される。実際に投与される化合物の量は、典型的には、医師が関連の環境を配慮しながら決めるが、配慮すべきこととしては、治療を受ける状況、選択する投与経路、実際に投与される化合物、個々の患者の年齢、体重およびレスポンス、患者の症状の重篤度などがある。
【0055】
本発明の医薬組成物は、各種の経路で投与することができるが、たとえば、経口、経直腸、経皮、クモ膜下、皮下、静脈内、筋肉内、および鼻孔内などの経路が挙げられる。本発明の化合物は、皮下、筋肉または静脈への注射または注入により投与するのが好ましい。
【0056】
本発明の好ましい実施態様においては、本発明の化合物が、血液脳関門(「BBB」)を超えるのを促進する担体分子、ペプチドまたはタンパク質に融合させる。このことは、CNSがその疾病に含まれているような場合には、作用部位に対して、その分子を適切に向かわせるのに役立つ。BBBを通過しての薬物送達の様式は、浸透圧の手段を用いるか、あるいはブラジキニンのような血管作動性物質を使用した生化学的な方法を用いるかのいずれかによる、BBBの突破を伴う。BBBを通過させるためのまた別の戦略は、受動拡散の利用、および内因性輸送システムの使用を伴うものであってもよく、そのようなものとしては、グルコースおよびアミノ酸担体のような担体介在輸送体;インスリンまたはトランスフェリンのための受容体介在経細胞輸送;吸着体介在経細胞輸送などが挙げられる。BBBの向こう側への薬物送達のための戦略には脳内移植などがさらに挙げられる。
【0057】
目的とする送達経路に合わせて、それらの化合物を、注射用または経口用組成物の配合とすることができる。経口投与のための組成物は、バルク液剤もしくは懸濁剤、またはバルク散剤の形態をとることができる。しかしながらより一般的には、組成物は、正確な投与量を与えるために、単位剤形の形で提供する。「単位剤形」という用語は、ヒトの対象者およびその他の哺乳類にとっての単位用量として適している物理的に分割した単位であって、それぞれの単位には、所望の治療効果を与えるよう計算された活性物質の予め定めた量と、それと共に適切な医薬品添加物とが含まれている。典型的な単位剤形としては、液状組成物のプレフィルド、プレメジャードアンプルまたはシリンジや、固形組成物の場合の、丸剤、錠剤、カプセル剤などが挙げられる。そのような組成物の中では、本発明の化合物は通常微量成分(約0.1〜約50重量%、好ましくは約1〜約40重量%)であって、残りは、様々な賦形剤または担体や、所望の剤形を形成させるのに有用な加工助剤などである。
【0058】
経口投与に適した液状の形態には、緩衝剤、懸濁剤および分配剤、着色剤、付香剤などを含む適切な水系または非水系ビヒクルが含まれていてもよい。固形の形態には、たとえば下記の成分や類似の特性を有する化合物など各種のものが含まれていてもよい:結合剤、たとえば微結晶セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチン;賦形剤、たとえばデンプンまたはラクトース;崩壊剤、たとえばアルギン酸、プリモゲル剤、またはコーンスターチ;滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウム;潤滑剤、たとえばコロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、たとえばスクロースまたはサッカリン;または、付香剤、たとえばペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料。
【0059】
注射剤組成物は典型的には、注射用無菌生理食塩水もしくはリン酸緩衝生理食塩水、またはその他当業者公知の注射剤用キャリアをベースとする。
【0060】
経口投与または注射剤投与のための上述の成分は、単に代表的なものを挙げたにすぎない。さらなる原料や、加工技術などは、当業熟練者には公知である[21]。
【0061】
本発明の化合物を、徐放性の形態で、または徐放性薬物送達システムから投与することもまた可能である。代表的な徐放性材料についての記述は、当業熟練者には公知である[22][23][24]。
【0062】
本発明の化合物は、アルツハイマー病、拳闘家痴呆(頭部外傷を含む)、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)およびアミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆の発症および病状の進行にともなう、Aβの凝集を防止する。これらの化合物を使用する方法では、化合物を、定期的な間隔を置きながらの、注射または注入するのが好ましい。本発明の化合物の投与は、患者において何かの症状が認められるより前に始めるのが好ましく、またその後も継続するのが好ましい。アルツハイマー病、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)およびアミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆の症状が現れるハイリスクな患者としては、それらの疾病の家族歴を有する患者が挙げられる。
【0063】
さらに、本発明の態様としては、アザ−ペプチドを調製するための方法があるが、それに含まれる工程は:
a)式(II)のアザ−アミノ酸構成単位を、アミノ酸、アザ−アミノ酸、ペプチド、アザ−ペプチドまたはアザチドと反応させて、アザ−ペプチドカップリングを介してアザ−ペプトイド結合を形成させる工程;
【化5】

式中、Rは、HおよびC1〜C6アルキルから選択され;
Aは、任意に保護基によって保護されていてもよいアミノ酸の任意の官能基であり;
RおよびAは、任意に置換されたC3〜C6−ヘテロシクロアルキル環、好ましくはピラゾリジニル−、ジアゼチジン−、ヘキサヒドロピリダジン−、1,2−ジアゼパン−、または1,2−ジアゾオクタン基を形成することも可能である:
b)パラ−ニトロカルボベンジルオキシ基を除去する工程、である。
【0064】
上記の方法の工程a)のための、アザ−ペプチドカップリングにとっての好適な条件は、典型的には、低温でアザ−アミノ酸を予備活性化させるためのたとえばDIEAのような3級塩基の存在下に、トリホスゲンのようなカルボニル放出剤を使用するものである。
【0065】
上記の方法(工程b)のパラ−ニトロカルボベンジルオキシ基を除去するのに好適な条件は、典型的には、塩化スズ(II)二水和物、亜ジチオン酸ナトリウムおよび触媒としてのパラジウム存在下の水素ガスから選択される還元剤を使用するものである。SnCl2×2H2Oを使用するのが、最も好ましい。
【0066】
本発明のまた別な態様は、上述の方法であって、工程b)における少なくとも1つのアザ−アミノ酸構成単位が、式III、IV、VおよびVIから選択されるものである:
【化6】

式中、Rは、HおよびC1〜C6アルキルから選択されるが、好ましくはHであり;
Zは−CH2−CH=CH2および−tert−ブチルから選択される。
【0067】
本発明のまた別な好ましい実施態様は、全配列の長さが2〜10、好ましくは2〜5、最も好ましくは5ペプトイド単位のアザ−ペプチドを調製するための、上述の方法からなる。
【0068】
本発明のまた別な好ましい実施態様は、2〜10個、好ましくは2〜5、最も好ましくは1または2個のアザ−アミノ酸を有するアザ−ペプチドを調製するための、上述の方法からなる。
【0069】
本発明のまた別な好ましい実施態様は、式Iのアザ−ペプチドを調製するための上述の方法からなる。
【0070】
本発明のさらなる態様は、式III〜VIから選択される式を有する合成アザ−ペプチド構成単位である。
【0071】
式Iの化合物を調製するための典型的または好適な実験条件(すなわち、反応温度、時間、試薬のモル数、溶媒など)がわかれば、特に断らない限り、その他の実験条件を使用することも可能であることは、理解されたい。最適な反応条件は、使用する特定の反応剤または溶媒によって変化するが、そのような条件は、当業者ならば、日常的な最適化手順によって求めることができる。
【0072】
本発明の化合物は、当業熟練者には公知であるペプチド合成方法を使用して調製することが可能である[25]、[26]。好ましい実施態様においては、本発明の化合物は、固相反応方法を使用して合成される。
【0073】
本発明の化合物を目的とした好適な経路は、スキーム3に示しているが、具体的には、以下の実施例の項において説明する。
【0074】
略号
本明細書においては以後、付属の実施例において以下の略号を使用する:
min(分)、hr(時間)、g(グラム)、mmol(ミリモル)、m.p.(融点)、eq(当量)、mL(ミリリットル)、μL(マイクロリットル)、ACN(アセトニトリル)、All(アリル)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、Boc(ブトキシカルボニル)、Cbz(カルボキシベンジル)、DCM(ジクロロメタン)、DIEAまたはDIPEA(ジイソプロピルエチルアミン)、DMAP(4−ジメチルアミノ−ピリジン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、EtOAc(酢酸エチル)、Et2O(ジエチルエーテル)、Fmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)、HATU(0−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、rt(室温)、TEA(トリエチルアミン)、TFA(トリフルオロ−酢酸)、THF(テトラヒドロフラン)、NMP(N−メチル−ピロリドン)、cpm(カウント/分)、Ci(キュリー)。
【0075】
本発明の化合物の合成:
本発明の化合物は、容易に入手可能な出発物質から、以下の一般的な方法および手順を使用して調製することができる。典型的または好適な実験条件(すなわち、反応温度、時間、試薬のモル数、溶媒など)がわかれば、特に断らない限り、その他の実験条件を使用することも可能であることは、理解されたい。最適な反応条件は、使用する特定の反応剤または溶媒によって変化する。そのような条件は、当業者ならば、日常的な最適化手順によって求めることができる。
【0076】
一般的なプロトコル:
一般式(I)に従うアザ−ペプチド/アザチド誘導体は一般に、ペプチドカップリング工程に関するかぎり、溶液中、固相のいずれの方法でも、標準的なペプチド合成テクニックを使用して合成することができる。いずれのアプローチでも、典型的なカップリング試薬を使用するが、それらについては、当業者には公知である。アザペプチドの合成例はガンテ(Gante)によって与えられている[27]。
【0077】
ここでもまた、典型的または好適な実験条件(すなわち、反応温度、時間、試薬のモル数、溶媒など)がわかれば、特に断らない限り、その他の実験条件を使用することも可能であることは、理解されたい。最適な反応条件は、使用する特定の反応剤または溶媒によって変化するが、そのような条件は、当業者のよく知るところである。一般的な合成経路を下記のスキーム1に示す。
【0078】
アザ−ペプチド配列中で希望するアザ−アミノ酸の位置と数に従って、本発明のアザ−ペプチドを、スキーム1の左側(アザ−アミノ酸のカップリング)に従うか、またはスキーム1の右側(通常のアミノ酸のカップリング)に従って合成することができるが、これを(アザ)ペプチド配列全体にわたって繰り返す。
【0079】
スキーム1において与えた一般的な例では、第1の(アザ)アミノ酸(A)に第2の(アザ)アミノ酸をカップリングさせて、ジ−(アザ)ペプチド(B)を合成している。
【化7】

【0080】
式Iのアザ−ペプチドは、スキーム1の左側のプロトコルを使用し、少なくとも1回のカップリング工程を行うことにより合成される。
【0081】
アザチドは、それぞれのカップリング工程でスキーム1の左側だけを使用することにより、得られる。
【0082】
アザ−アミノ酸のカップリング工程は、対応する式VIIのN1−保護−N2アルキル化ヒドラジン誘導体(構成単位)を使用し、カルボニル−放出剤(プレアクチベーター)および塩基の存在下で実施する(スキーム1、工程1、左側プロトコル)。
【化8】

ここでヒドラジン上での「アルキル化」は、対応するアミノ酸の側鎖を表し(たとえば、アルキル化=ベンジル(Bn)は、アザ−アミノ酸、すなわち、アザ−フェニルアラニンに対応する);
ヒドラジンの「保護基」はアミノ保護基であって、最終的には、構造を損なうことなく開裂させることが可能である(ブッツ・アンド・グリーン(Wuts and Greene)第3版)。好適な保護基は、tert−ブチルオキシ−カルボニル、4−ニトロベンジルオキシ−カルボニル(p−NO2−Z)である。Rは、窒素基の側鎖である。
【0083】
通常のアミノ酸のカップリング工程は、対応する式VIIIの通常のアミノ酸を使用し、古典的なペプチド合成法を用いて実施する(スキーム1、工程1、右側プロトコル)。
【化9】

【0084】
好ましい実施態様においては、式(I)のアザ−ペプチドは、上記のスキーム1の記述に従って、固相支持体の上で合成することができる。
【0085】
次のスキーム2において与えた一般的な例では、樹脂に結合された第1の(アザ)アミノ酸(A)に第2の(アザ)アミノ酸をカップリングさせて、ジ−(アザ)ペプチド(B)を与えている。
【化10】

【0086】
この場合は、式VIIのヒドラジンの「保護基」は、アミノ保護基であって、これは最終的には構造を損なったりあるいは樹脂から対応する生成物を放出したりすることなく、開裂させることができる(ブッツ・アンド・グリーン(Wuts and Greene)第3版)。
【0087】
この合成は、たとえば、C末端アミドを導くのに好適なリンク−アミド(Rink−Amide)樹脂を使用して実施することができる。樹脂の上でC−アミノ化アザ−ペプチドの全合成を実施するための好適な保護基は、アザ−アミノ酸の場合には、4−ニトロベンジル−オキシカルボニル(p−NO2−Z)である。
【0088】
このパラ−ニトロカルボベンジルオキシ基は、塩化スズ(II)二水和物、亜ジチオン酸ナトリウムおよび触媒としてのパラジウム存在下の水素ガスから選択される還元剤を使用することによって、好適に除去される。SnCl2×2H2Oを使用するのが、最も好ましい[28]。
【0089】
一般式Iに従うペンタ−アザ−ペプチドを調製するために好ましい経路を(ここでR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、X1、X2、X3、X4およびX5は先に定義したもの)下記のスキーム3に示す:
【化11】

【0090】
アザ−アミノ酸のカップリングに使用されるカルボニル−放出剤は、脱離基に隣接したカルボニル基を含む化学物質で、たとえば、カルボニルジイミダゾール、ビス(4−ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2,4−ジニトロフェニル)カーボネート、(ビス(トリクロロメチル)カーボネート)、ビス(ペンタフルオロフェニル)カーボネート、4−ニトロフェニルクロロフォーメート、クロロギ酸、トリクロロメチルエステルなどがあるが、好ましくはクロロギ酸−トリクロロメチルエステル、最も好ましくはビス(トリクロロメチル)カーボネート(トリホスゲン)である。
【0091】
アザアミノ酸のカップリングに使用される塩基としては、放出されてくるプロトン性の脱離基を捕捉することが可能な、各種のタイプの第三級アミン、たとえばN−Me−ピロリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、または類似のpKaを有する各種3級塩基を用いることができる。
【0092】
典型的には、アザ−アミノ酸のカップリング反応は次のようにして実施する。すなわち、式VIIのヒドラジン誘導体(ペプチド、アザ−ペプチドまたはアザチドに対して1.5〜2当量)を、不活性溶媒、たとえばテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム中、好ましくはテトラヒドロフラン中で、−50℃〜−10℃、好ましくは−20℃で、カルボニル−放出剤(ヒドラジン誘導体に対して1〜1.2当量)を用いて、不活性雰囲気下で15分〜2時間かけて予備活性化する。
【0093】
次いでこの混合物を、N末端の遊離のアミノ酸、ペプチド、アザ−ペプチドまたはアザチドに添加して、2〜15時間、好ましくは3時間撹拌する。
【0094】
アミノ酸、ペプチド、アザ−ペプチドまたはアザチドが、樹脂に結合している場合には、その樹脂を、予備活性化ヒドラジン構成単位を添加する前に5分間、DCM中に5%濃度のN−Me−ピロリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンまたは同様のpKaを有する各種の第三級塩基を用いて洗浄する。
【0095】
次いでその反応混合物を、典型的には固相有機合成に使用される別な有機溶媒を用いて慎重に洗浄する。
【0096】
アザ−アミノ酸をカップリングさせるために使用するN1−保護−N2アルキル化ヒドラジン誘導体は式(VII)で表されるものであるが、ここでその「アルキル化」は−CHRsであり、ここで−CHRsは、その対応するアミノ酸の側鎖を表し、また式(VII’)でも表される。
【0097】
これらのN1−保護−N2アルキル化ヒドラジン誘導体は、対応する式(IX)のヒドラゾン誘導体から、スキーム4に示すような当業者公知の、パラジウム触媒を用いた水素化手順により、誘導される:
【化12】

【0098】
典型的には、対応する式(IX)のN1−保護−N2アルキル−ヒドラゾン誘導体を水素化に適した有機溶媒中に溶解させ、次いで、スキーム4に示したように、活性炭担持パラジウムまたはパラジウムを添加する。この混合物を水素化試験装置中で撹拌し、その試験装置に水素を充填して2〜15バールとする。水素の化学量論的な吸収をモニターする。
【0099】
対応する式(IX)のヒドラゾンそれ自体は、対応する式(X)のN1−保護−ヒドラジンを、所望のアルキル部分を担持する式(XI)のアルキルカルボニル誘導体と反応させることにより、誘導される(スキーム4)。典型的には、式(X)のN1−保護−ヒドラジンを、不活性溶媒たとえばアセトン、テトラヒドロフランまたはその他の当業者が使用する各種溶媒の中で、対応する式(XI)のカルボニル誘導体と混合する。典型的には、ヒドラゾンがその溶媒混合物から沈殿する。
【0100】
所望のアルキル部分が最後の水素化工程に適していないような場合には、式(X)のN1−保護−ヒドラジンを直接アルキル化することも用いてもよい(スキーム5参照)。
【化13】

【0101】
典型的には、N1−保護−ヒドラジン(X)を、捕捉剤としての塩基の存在下で、対応する式(XII)のアルキル−ハライド(ここでXはハロゲン)と反応させる。過剰アルキル化を防止するために、N1−保護−ヒドラジンを1.2〜5当量過剰に使用する。こうして得られる、式(VII’’)または式(VII)のN1−保護−N2アルキル化ヒドラジン誘導体(ここで「アルキル化」は−Rsであり、この−Rsは対応するアミノ酸の側鎖を表す)を、標準的なクロマトグラフィー技術を用いて精製する。
【0102】
アザプロリン誘導体は、式(XIII)のN1,N2−ビス−保護−ヒドラジンから合成することができるが、それを下記のスキーム6に示す:
【化14】

【0103】
環化工程は、式(XIV)の1,3−ビス−ハロゲン−プロパン誘導体(ここでXはハロゲン)を使用して、強塩基、たとえばKH、K−OtBu、好ましくはNaHの存在下、不活性溶媒たとえば、THF、ジオキサン、DMF、DMAまたはNMPの中、−20℃〜20℃で、実施することができる。
【0104】
典型的には、第1の工程でジ−アニオン種が発生し、次いで式(XIV)の1,3−ビス−ハロゲン−プロパン誘導体を添加すると、式(XV)のN1,N2−ビス−保護−アザプロリン誘導体の式(XV)が生成する。1つの保護基を適当に除去することで、対応する式(VII’’’)または式(II)のN1−保護−アザプロリン誘導体が生成するが、ここでRと「アルキル化」部分が一緒になって、ピラゾリジニル環を形成する。
【0105】
アミノ酸、ペプチド、アザ−ペプチドまたはアザチドが溶液中にある場合には、その反応混合物を標準的な手順を用いて処理し、その粗製物を、フラッシュ−クロマトグラフィーを用いて精製する。
【0106】
N末端の脱保護−カップリング−脱保護−カップリングのサイクルを実施して、本発明のペンタペプチドとする場合、最後の脱保護工程に続けて、本発明の所望の化合物N末端をブロックする場合には、N末端のアシル化を行うことができる。この工程は、遊離のN末端を持つ本発明の化合物の場合には省略する。
【0107】
次いで、樹脂から開裂させることによって、本発明のペプチドのC末端の最後の脱保護を行うと、アミノ化C末端を有する本発明の化合物が得られる。
【0108】
精製は次のようにして実施する:分取用HPLC;ウォーターズ・プレップ・LC4000・システム(Waters Prep LC 4000 System)、カラム;プレップ・ノバ・パック(Prep Nova−Pak)(商標)HR C18、6μm、60Å、40×30mm(最大100mg)または40×300mm(最大1g)。精製はすべて、MeCN/H2O0.09%TFAのグラジエントをかけて実施した。
【0109】
遊離のC末端アザ−ペプチドの合成をするには、ワング(Wang)またはサスリン(Sasrin)(商標)樹脂が好ましい。その方法は、先に述べた方法と類似している。
【0110】
それぞれのカップリング工程においてアザ−アミノ酸のみのカップリングを繰り返すと、アザチドが得られる。
【0111】
アザチドは、アザ−アミノ酸のための保護基として好ましくはt−ブチルオキシカルボニルを使用して、好ましくは溶液中で合成することができる。アザチドは、公知のプロトコルに従って、液相で合成することも可能であるが、その1例が、ハン(Han)およびジャンダ(Janda)によって示されている[29]。
【0112】
次のような構成単位が、スイス国のベイケム(Bachem)またはノババイオケム(Novabiochem)から市販されている:Fmoc−L−フェニルアラニン、Fmoc−L−プロリン、Fmoc−L−ロイシンおよびFmoc−D(OAll)−OH。
【0113】
NO2−Z−NH−NH−Bn(N1−(4−ニトロベンジルオキシ−カルボニル)−N2−ベンジル−ヒドラジン)、NO2−Z−アザ−プロリン(ピラゾリジン−1−カルボン酸−(4−ニトロベンジル)エステル)、NO2−Z−NHNH−イソブチル(アザ−ロイシン)、N1−(4−ニトロベンジルオキシ−カルボニル)−N2−イソブチル−ヒドラジン、NO2−Z−NH−NH−CH2COOH(アザ−アスパラギン酸)、[N’−(4−ニトロ−ベンジルオキシカルボニル)−ヒドラジノ]−酢酸は、市販の原料から下記に引用する方法により調製した。
【0114】
カップリング試薬は、スイス国のノババイオケム(Novabiochem)から市販されている。
【実施例】
【0115】
実施例1〜7の化合物は、本発明の好ましい実施態様である:
【0116】
実施例1:構成単位:N1−(4−ニトロベンジルオキシ−カルボニル)−N2−ベンジル−ヒドラジン(1):
実施例1の化合物は、式(III)の化合物で、RがHであるもので、以下のスキーム4〜5に従って合成することができる:
1)N1−(4−ニトロベンジルオキシ−カルボニル)−N2−(tert−ブチルオキシ−カルボニル)−ヒドラジン(1a):
【化15】

【0117】
1.23g(9.28mmol)のtert−ブチル−カルバゼートと3.2mL(15.55mmol)のdipeaを、50mLのDCMに溶解させた。この溶液に、50mLのDCMに2g(9.28mmol)の4−ニトロベンジルクロロホーメートを溶解させた溶液を滴下により加えた。
【0118】
その混合物をマグネチックスターラーで1時間撹拌した。その溶液を0.1NのHClを用いて洗浄し、硫酸マグネシウムを用いてその有機相を乾燥させ、真空下で濃縮すると、黄みがかった固形物が得られ、そのものは、化合物1aであった(2.45g、収率86%)。LC−MS;(M−Boc+1)+=212;(M−1)-=310.2。 1H−NMR:(CDCl3、300Mz)、δ:1.47(s、9H);5.32(s、2H);6.45(bs、1H);6.82(bs、1H);7.02;(d、2H)、8.23(d、2H)。 13C−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:28.50;66.46;82.505;121.16;128.56;143.41;148.10;154.00;170.30。
【0119】
2)N1−(4−ニトロベンジルオキシ−カルボニル)−ヒドラジン(1b):
【化16】

2.4gの化合物1aを10mLのDCM/TFA(25%)に溶解させた。その混合物を2時間撹拌してから、溶媒を蒸発させ、5mLのジエチルエーテルを添加すると、目的の生成物が結晶化した(化合物1b)。その結晶を濾過し、エーテルを用いて洗浄した。LC−MS;(M+)+=212;(M−1)-=210.26。
【0120】
3)N1−(4−ニトロベンジルオキシ−カルボニル)−N2−ベンジル−ヒドラジン(1):
【化17】

5.2gの化合物1bと、6.9mLのdipeaを120mLのエタノールに溶解させた。その溶液に、2.4mLのベンジルブロミドを50mLのエタノールに溶解させた溶液を添加した。その混合物を一夜還流させてから、溶媒を真空下で蒸発させ、150mLの酢酸エチルを添加した。白色の固形物を濾過し、濾液を濃縮してから、フラッシュクロマトグラフィーでシクロヘキサン:酢酸エチル(8:2)を溶出液として用い、精製した。4.4g(72%)の目的とするモノアルキル化生成物(1)を単離することができた。1H−NMR:(DMSO、300Mz)、δ:3.38(bs、1H);4.13(s、2H);5.1(s、2H);7.58(d、2H);8.25;(b、7H);8.48(bs、1H)。
【0121】
実施例2:構成単位:ピラゾリジン−1−カルボン酸−(4−ニトロベンジル)エステル(2):
実施例2の化合物は、式(VI)の化合物または式(VII’’’)の化合物であるが、ここでProt1は4−NO2−Cbzであって、次のスキーム6に従って合成することができる:
【0122】
1)N1−tert−ブチルオキシ−カルボニル−N2−ベンジルオキシ−カルボニル−ヒドラジン(2a):
【化18】

10gの市販のtert−ブチル−カルバゼートを400mLのDCMに溶解させ、それに対して、25.9mLのDIPEAを100mLのDCMに溶解させた溶液を滴下により添加し、その後で、11.88mLのベンジルオキシカルボニルクロリドを100mLのDCMに溶解させた溶液を添加した。この混合物をマグネチックスターラーで一夜撹拌した。その後、0.1NのHClと塩水を用いてその溶液を洗浄した。硫酸マグネシウムを用いてその有機相を乾燥させてから、真空下で濃縮すると、黄色の油状物(2a)が得られた(20.2g、99%)。LC−MS;(M−1)-=265.22。1H−NMR:(DMSO、300Mz)δ:1.48(s、9H);5.19(s、2H);6.39(bs、1H);6.63(bs、1H);7.37(m、5H)。13C−NMR:(DMSO、300Mz)δ:28.51;68.156;82.24;128.94;136.00;158.40。
【0123】
2)ピラゾリジン−1,2−ジカルボン酸1−ベンジルエステル2−tert−ブチルエステル(2b):
【化19】

充分に乾燥させた500mLの3口フラスコの中で、100mLのDMF中に1.5gのNaH(60%)を懸濁させた。その混合物を0℃に冷却した。3.9gのtert−ブチルカルバゼート(2a)を100mLのDMFに溶解させた溶液を滴下により添加した。混合物の色が赤色に変化した。1.91mLの1,3−ジブロモプロパンを100mLのDMFに溶解させた溶液を添加し、その反応物を0℃で30分間撹拌してから、室温で一夜撹拌した。
【0124】
溶媒を蒸発させて乾固させ、酢酸エチル(100mL)を用いてその固形物を洗浄した。白色の粉体を濾過で除き、塩水(3×50mL)を用いて有機層を洗浄してから、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させると、黄色の油状の残分(5.4g)が得られたので、それを最終的にフラッシュ−クロマトグラフィーにより精製した(2b)。LC−MS;(M−Boc+1)+=207;(M−56−1)-=265。1H−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:1.35(s、9H);1.97(m、2H);3.20(m、2H);3.85(m、2H);5.10(m、2H);7.27(m、5H)。13C−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:14.58;28.46;68.15;46.66;60.78;81.96;128.45;136.60;157.15;174.10。
【0125】
3)ピラゾリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(Boc−アザプロリン)(2c):
【化20】

ピラゾリジン−1,2−ジカルボン酸1−ベンジルエステル−2−tert−ブチルエステル(2b)をMeOH中に溶解させた。110psiの水素圧をかけて、一夜反応器を撹拌させた。得られた組成物は、その後の反応をさせるには充分な純度のものであった(収率60%)(2c)。
1H−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:1.42(s、9H);1.95(m、2H);3.00(m、2H);3.36(m、2H);3.75(bs、1H)。13C−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:28.41;28.85;45.96;48.17;80.57;155.45。
【0126】
4)ピラゾリジン−1,2−ジカルボン酸1−(4−ニトロベンジル)エステル2−tert−ブチルエステル(2d):
【化21】

化合物(2d)の合成は、化合物(2a)を得るための工程1)におけるのと同一のプロトコルに従って実施し、先に示したようにして、化合物(2c)を4−ニトロベンジルオキシカルボニルクロリドの存在下で反応させた。その粗製物を、シリカゲルで、溶出液としてシクロヘキサン:THF(60:40)を用いて精製すると、収率43%で、化合物(2d)が得られた。LC−MS;(M+1)+=352.22。1H−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:1.39(s、9H);2.00(m、2H);3.25(m、2H);3.88(m、2H);5.20(m、2H)、7.47(d、2H)、8.14(d、2H)。13C−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:26.00;28.50;46.53;47.51;66.52;82.27;124.06;128.52;41;144.10;147.95;156.48,156.59。
【0127】
5)ピラゾリジン−1−カルボン酸−(4−ニトロベンジル)エステル(2):
【化22】

3.2gのピラゾリジン−1,2−ジカルボン酸−1−(4−ニトロベンジル)エステル−2−tert−ブチルエステル(2d)を15mLのDCMに溶解させ、それに5mLのTFAを滴下により添加した。その反応混合物を2時間撹拌してから、150mLのエチルエーテルを添加すると、白色の固形物(2)が得られた。LC−MS;(M+1)+=252.33。1H−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:2.13(m、2H);3.26(m、2H);3.58(m、2H);5.32(m、2H);7.67(d、2H);8.23(d、2H);9.3(bs、1H)。13C−NMR:(CDCl3、300Mz)δ:25.69;46.35;46.78;66.22;123.87;128.67;144.29;147.48;153.76。
【0128】
実施例3:構成単位:N1−(4−ニトロベンジルオキシ−カルボニル)−N2−イソブチル−ヒドラジン(3):
実施例3の化合物は、式(IV)の化合物で、RがHのものであり、化合物(1)の場合に述べたスキーム4〜5に従って合成することができる。
【0129】
実施例4:構成単位:[[N1−(4−ニトロ−ベンジルオキシカルボニル)−ヒドラジノ]−酢酸tert−ブチルエステル(4):
実施例4の化合物は、式(V)の化合物で、RがH、Rzが−tert−ブチルのものである。このものは、化合物(1)の場合に述べたスキーム4〜5に従って合成することができる。
【0130】
実施例5:Ac−L−P−Fa−F−D−NH2(5)
実施例5の化合物はスキーム3に従って合成するが、それぞれ、第1のカップリング工程では右側のカップリングプロトコルに従い、次いで、第2のカップリングでは左側のプロトコル、次いで残りの2つのカップリングでは、右側のプロトコルに従う。合成条件は以下の通りである:
【0131】
1)樹脂への最後のアミノ酸の結合:Pol−D(All)−Fmoc(5a)の形成:
本発明のアザ−ペプチドの最後のアミノ酸を、以下のようにして、まず樹脂に結合させて、スキーム3(式5a)における式Aの、樹脂に結合したアミノ酸を形成させる:
【0132】
500mLの固相反応器の中で、11.7gのリンク(Rink)樹脂のノバシン(NOVASYN)(商標)TGR樹脂LL(0.23mmol/g)を、5分間、200mLのDMFを用いて2回、DCMを用いて2回振盪させた。
【0133】
試験管の中で、樹脂ビーズを数個、カイザー・テスト(KAISER TEST)キットのそれぞれの試薬を3滴入れて、120℃で5分間加熱したときに、青色の生成物があれば陽性と判定した。
【0134】
250mLの固相反応器中で、11gの樹脂を100mLのNMPの中に懸濁させた。1.8g(1.5eq)のFmoc−D(OAll)−OH、2.05g(2.0eq)のHATU、および1.74g(5eq)のDIPEAを100mLのNMPに溶解させて、樹脂懸濁物の中に加えた。
【0135】
その混合物を2時間揺動させてから、樹脂(式5a)をDMF(3×200mL)とDCM(3×200)を用いて洗浄したが、それぞれの洗浄の時間は5分とした。(カイザー・テスト(Kaiser Test)陰性)。
【0136】
2)アミンの脱保護:Pol−D(All)NH2(5b)の形成
上述の樹脂(5a)を、300mLのピペリジン(DMF中25%)の中で2時間振盪させ、次いで、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(5b)が得られる。
【0137】
3)第4のアミノ酸のカップリング:Pol−D(All)−F−Fmoc(5c)の形成:
1.56gのFmoc−L−フェニルアラニン、2.05のHATU、および1.745gのDIPEAを100mLのNMPに溶解させた、新たに調製した溶液を、(5b)を11.74g含む懸濁液に添加し、その混合物を1h振盪させた。樹脂を、DMF(3×200mL)とDCM(3×200)を用いて、各5分ずつ洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(5c)が得られる(スキーム3における化合物C)。
【0138】
4)アミンの脱保護:Pol−D(All)−F−NH2(5d)の形成:
上述の樹脂(5c)を、300mLのピペリジン(DMF中25%)の中で2時間振盪させ、次いで、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(5d)が得られる。
【0139】
5)アザ−フェニルアラニン(Fa)のカップリング:Pol−D(All)−F−Fa−(NO2)Z(5e)の形成:
50mLの乾燥THF中に350mgのトリホスゲンを溶解させた冷却溶液(−20℃)に、1gのNO2−Z−NH−NH−Bn(化合物1)と2mLのDIEAを25mLのTHFに溶解させた溶液を添加した。この混合物をN2雰囲気下で2時間撹拌し、次いで、7gの(5d)の懸濁液を添加した。その反応溶液を徐々に加温して室温とし、5h撹拌した。洗浄:DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(5e)が得られる。(アリコートの開裂後、5mLTFA95%、2h)、LC−MS、室温、1.98min;(M+1)+=646.93;(M−1)-=644.79。
【0140】
6)還元的開裂:Pol−D(All)−F−Fa−NH2(5f)の形成:
樹脂(5e)をDMFに膨潤させ、100mLのSnCl2(2MのSnCl2;1.6mMのAcOH;0.01Mのフェノール)のDMF溶液で、各2時間ずつ3回処理し、NO2−Z保護基を除去した。次いでその樹脂を、順にDMF、DCM:TEA(9:1)、DMF、最後にDCM(2×100mL)を用いて各5分ずつ洗浄した;LC−MS;(M+1)+=468.27;(M−1)-=466.19。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。化合物(5f)が得られる(スキーム3における化合物C)。
【0141】
7)第2のアミノ酸のカップリング:Pol−D(All)−F−Fa−P−Fmoc(5g)の形成:
樹脂(5f)を200mLのNMPの中で膨潤させた。Fmoc−L−プロリン(1.5eq)、HATU(2.0eq)および1.9mL(5.0eq)のDIEAを200mLのNMPに溶解させたフレッシュな溶液を添加した。その反応物を2時間振盪させ、順にDMF、DCM3×100mLを用いて、各5分洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(5g)が得られる。
【0142】
8)アミンの脱保護:Pol−D(All)−F−Fa−P−NH2(5h)の形成:
上述の樹脂(5g)を、200mLのピペリジン(DMF中25%)の中で2時間振盪し、次いで、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(5h)が得られる(スキーム3における化合物D)。
【0143】
9)第1のアミノ酸のカップリング:Pol−D(All)−F−Fa−P−L−Fmoc(5i)の形成:
樹脂(5h)(8.5g)を200mLのNMPの中で膨潤させた。Fmoc−L−ロイシン(1.21g、1.5eq)、HATU(1.74g、2.0eq)および1.95mL(5.0eq)のDIEAを100mLのNMPに溶解させた新たな溶液を添加した。その混合物を2時間振盪させ、順にDMF、3×100mLのDCMを用いて、各5分洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(5i)が得られる。
【0144】
10)アミンの脱保護:Pol−D(All)−F−Fa−P−L−NH2(5j)の形成:
上述の樹脂(5i)を、200mLのピペリジン(DMF中25%)の中で2時間振盪し、次いで、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(5j)が得られる。
【0145】
11)N末端のアシル化:Pol−D(All)−F−Fa−P−L−Ac(5k)の形成:
8gの上述の樹脂(5j)を、1.6mLのDIEAを150mLのDCMに溶解させた溶液で処理した。この懸濁液に、2.16mLの無水酢酸を50mLのDCMに溶解させた溶液を添加した。その混合物を3時間撹拌してから、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(5k)が得られる。
【0146】
12)C末端アミノ酸の脱保護:Pol−D−F−Fa−P−L−Ac(5l)の形成:
上述の樹脂(8.5g、0.27mmol/g)(5k)を、80mLのDCMと5.6mLのPhSiH3(4.9g、20eq)からなる溶液を用いて、窒素雰囲気下で5分間処理した。この懸濁液に、530mg(0.2eq)のPd(PPh34を80mLのDCMに溶解させたものを添加した。その混合物を20分間振盪させた。このサイクルを4回繰り返してから、樹脂をDMF:水(9:1)3×150mL、DMF3×150mL、DCM3×150mLを用いて、各5分ずつ洗浄した。樹脂(5l)が得られる。
【0147】
13)樹脂からの開裂:Ac−L−P−Fa−F−D−NH2(5)の形成:
樹脂(5l)を、150mLのTFAと共に3時間振盪させ、次いで、3×150mLのDCMを用いて洗浄した。濾液を集めて、真空下で濃縮した。その粗製物を、溶出液としてアセトニトリル/水を用いて分取用HPLCにより精製すると、式Iの化合物(5)が白色の粉末として得られた。LC−MS、室温、1.24min;(M+1)+=680.40;(M−1)-=678.10。
【0148】
実施例6:Ac−L−Pa−F−F−D−NH2(6)
実施例6の化合物はスキーム3に従って合成するが、それぞれ、2つの第1のカップリング工程では右側のカップリングプロトコルに従い、次いで、第3のカップリングでは左側のプロトコル、次いで残りの最後のカップリングでは、もう一度右側のプロトコルに従う。合成条件は以下の通りである:
【0149】
1)Pol−D(All)−F−NH2(5d)の合成:
Pol−D(All)−F−NH2は、化合物(5)の中間体(5d)を得るのに使用した、カップリング工程のプロトコルに従って合成した(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。
【0150】
2)第3のアミノ酸のカップリング:Pol−D(All)−F−F−Fmoc(6a)の形成:
1.56gのFmoc−L−フェニルアラニン、2.05のHATU、および1.745gのDIPEAを100mLのNMPに溶解させた新たな溶液を、(5d)を11.74g含む懸濁液に添加し、その混合物を1h振盪させた。樹脂を、DMF(3×200mL)とDCM(3×200)を用いて、各5分ずつ洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(6a)が得られる。
【0151】
3)アミンの脱保護:Pol−D(All)−F−F−NH2(6b)の形成:
上述の樹脂(6a)を、300mLのピペリジン(DMF中25%)の中で2時間振盪し、次いで、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(6b)が得られる(スキーム3における化合物C)。
【0152】
4)アザ−プロリン(Pa)のカップリング:Pol−D(All)−F−F−Pa−(NO2)Z(6c)の形成:
433mgのトリホスゲンを15mLのTHFに溶解させた冷却溶液(−20℃)に、1.6gのピラゾリジン−1−カルボン酸−4−ニトロ−ベンジルエステルトリフルオロアセテート((NO2)Z−アザ−プロリン × TFA)(化合物2)および800マイクロリットルのDIEAを10mLのTHFに溶解させた溶液を添加した。その混合物を窒素雰囲気下で2時間撹拌してから、上述の樹脂(6b)の懸濁液(1%DIEA/THF、250mL中9g樹脂)に添加した。その溶液を徐々に加温して室温とし、5h撹拌した。洗浄:DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。部分開裂:LC−MS:室温、2.09、(M+1)+=745.5;(M−1)-=742.81。樹脂(6c)が得られる。
【0153】
5)還元的開裂およびアミンの脱保護:Pol−D(All)−F−F−Pa−NH2(6d)の形成:
樹脂(6c)をDMFに膨潤させ、100mLのSnCl2(2MのSnCl2;1.6mMのAcOH;0.01Mのフェノール)のDMF溶液で、各2時間ずつ3回処理し、NO2−Z保護基を除去した。次いでその樹脂を、順にDMF、DCM:TEA(9:1)、DMF、最後にDCM(2×100mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(6d)が得られる(スキーム3における化合物D)。
【0154】
6)第1のアミノ酸のカップリング:Pol−D(All)−F−F−Pa−L−Fmoc(6e)の形成:
樹脂(6d)(8.5g)を200mLのNMPの中で膨潤させた。Fmoc−L−ロイシン(1.21g、1.5eq)、HATU(1.74g、2.0eq)および1.95mL(5.0eq)のDIEAを100mLのNMPに溶解させた新たな溶液を添加した。その混合物を2時間振盪させ、順にDMF、3×100mLのDCMを用いて、各5分洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(6e)が得られる。
【0155】
7)アミンの脱保護:Pol−D(All)−F−F−Pa−L−NH2(6f)の形成:
上述の樹脂(6e)を、200mLのピペリジン(DMF中25%)の中で2時間振盪させ、次いで、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(6f)が得られる。
【0156】
8)N末端のアシル化:Pol−D(All)−F−F−Pa−L−Ac(6g)の形成:
8gの上述の樹脂(6f)を、1.6mLのDIEAを150mLのDCMに溶解させた溶液で処理した。この懸濁液に、2.16mLの無水酢酸を50mLのDCMに溶解させた溶液を添加した。その混合物を3時間撹拌してから、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(6g)が得られる。
【0157】
9)C末端アミノ酸の脱保護:Pol−D−F−F−Pa−L−Ac(6h)の形成:
上述の樹脂(8.5g、0.27mmol/g)(6g)を、80mLのDCMと5.6mLのPhSiH3(4.9g、20eq)からなる溶液を用いて、窒素雰囲気下で5分間処理した。この懸濁液に、530mg(0.2eq)のPd(PPh34を80mLのDCMに溶解させたものを添加した。その混合物を20分間振盪させた。このサイクルを4回繰り返してから、樹脂をDMF:水(9:1)3×150mL、DMF3×150mL、DCM3×150mLを用いて、各5分ずつ洗浄した。樹脂(6h)が得られる。
【0158】
10)樹脂からの開裂:Ac−L−Pa−F−F−D−NH2(6)の形成:
樹脂(6h)を、150mLのTFAと共に3時間振盪させ、次いで、DCM3×150mLを用いて洗浄した。濾液を集めて、真空下で濃縮した。その粗製物を、溶出液としてアセトニトリル/水を用いて分取用HPLCにより精製すると、式Iの化合物(6)が白色の粉末として得られた(純度95%)。LC−MS:室温、1.35、(M+1)+=679.99;(M−1)-=677.99。
【0159】
実施例7:Ac−L−Pa−Fa−F−D−NH2(7)
実施例7の化合物はスキーム3に従って合成するが、それぞれ、2つの第1のカップリング工程では右側のカップリングプロトコルに従い、次いで、第3および第4のカップリングでは左側のプロトコル、次いで残りの最後のカップリングでは、もう一度右側のプロトコルに従う。合成条件は以下の通りである:
【0160】
1)Pol−D(All)−F−Fa−NH2(5f)の合成:
Pol−D(All)−F−Fa−NH2は、化合物(5)の中間体(5f)を得るのに使用した、カップリング工程のプロトコルに従って合成した(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。
【0161】
2)アザ−プロリン(Pa)のカップリング:Pol−D(All)−F−Fa−Pa−(NO2)Z(7a)の形成:
433mgのトリホスゲンを15mLのTHFに溶解させた冷却溶液(−20℃)に、1.6gのピラゾリジン−1−カルボン酸−4−ニトロ−ベンジルエステルトリフルオロアセテート((NO2)Z−アザ−プロリン × TFA)(化合物2)および800マイクロリットルのDIEAを10mLのTHFに溶解させた溶液を添加した。その混合物を窒素雰囲気下で2時間撹拌してから、上述の樹脂(5f)の懸濁液(1%DIEA/THF、250mL中9g樹脂)に添加した。その溶液を徐々に加温して室温とし、5時間撹拌した。洗浄:DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。部分開裂:LC−MS:室温、2.09、(M+1)+=745.5;(M−1)-=742.81。樹脂(7a)が得られる。
【0162】
3)還元的開裂およびアミンの脱保護:Pol−D(All)−F−Fa−Pa−NH2(7b)の形成:
樹脂(7a)をDMFに膨潤させ、100mLのSnCl2(2MのSnCl2;1.6mMのAcOH;0.01Mのフェノール)のDMF溶液で、各2時間ずつ3回処理し、NO2−Z保護基を除去した。次いでその樹脂を、順にDMF、DCM:TEA(9:1)、DMF、最後にDCM(2×100mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(7b)が得られる(スキーム3における化合物D)。
【0163】
4)第1のアミノ酸のカップリング:Pol−D(All)−F−Fa−Pa−L−Fmoc(7c)の形成:
樹脂(7b)(8.5g)を200mLのNMPの中で膨潤させた。Fmoc−L−ロイシン(1.21g、1.5eq)、HATU(1.74g、2.0eq)および1.95mL(5.0eq)のDIEAを100mLのNMPに溶解させた新たな溶液を添加した。その混合物を2時間振盪させ、順にDMF、DCM3×100mLを用いて、各5分洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(7c)が得られる。
【0164】
5)アミンの脱保護:Pol−D(All)−F−Fa−Pa−L−NH2(7d)の形成:
上述の樹脂(7c)を、200mLのピペリジン(DMF中25%)の中で2時間振盪し、次いで、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陽性)。樹脂(7d)が得られる。
【0165】
6)N末端のアシル化:Pol−D(All)−F−Fa−Pa−L−Ac(7e)の形成:
8gの上述の樹脂(7d)を、1.6mLのDIEAを150mLのDCMに溶解させた溶液で処理した。この懸濁液に、2.16mLの無水酢酸を50mLのDCMに溶解させた溶液を添加した。その混合物を3時間撹拌してから、DMF(3×200mL、各5分)およびDCM(3×200mL、各5分)を用いて洗浄した。(カイザー・テスト(Kaiser test)陰性)。樹脂(7e)が得られる。
【0166】
7)C末端アミノ酸の脱保護:Pol−D−F−Fa−Pa−L−Ac(7f)の形成:
上述の樹脂(8.5g、0.27mmol/g)(7e)を、80mLのDCMと5.6mLのPhSiH3(4.9g、20eq)からなる溶液を用いて、窒素雰囲気下で5分間処理した。この懸濁液に、530mg(0.2eq)のPd(PPh34を80mLのDCMに溶解させたものを添加した。その混合物を20分間振盪させた。このサイクルを4回繰り返してから、樹脂をDMF:水(9:1)3×150mL、DMF3×150mL、DCM3×150mLを用いて、各5分ずつ洗浄した。樹脂(7f)が得られる。
【0167】
8)樹脂からの開裂:Ac−L−Pa−Fa−F−D−NH2(7)の形成:
樹脂(7f)を、150mLのTFAと共に3h振盪させ、次いで、DCM3×150mLを用いて洗浄した。濾液を集めて、真空下で濃縮した。その粗製物を、溶出液としてアセトニトリル/水を用いて分取用HPLCにより精製すると、式Iの化合物(7)が白色の粉末として得られた(純度95%)。LC−MS:室温、1.35、(M+1)+=679.99;(M−1)-=677.99。
【0168】
実施例8:
比較例8
次の化合物が、国際公開第01/34631号パンフレット(アクソニックス・インコーポレーテッド(Axonyx Inc.))において開示されており、参照化合物として挙げる。
【化23】

【0169】
実施例9:生物学的アッセイ
ペプチドの安定性のin vitroアッセイ
本発明の化合物の安定性は、参照化合物(実施例8)と比較しながら、試験をすることができる。
【0170】
ペプチドは、1μg/μLの水溶液として調製した。20μLのペプチド溶液を、フレッシュなヒト血漿または10%ラット脳ホモジネート(PBS中で調製)の80μLに加えて希釈した。得られた溶液を37℃で時間を変えてインキュベートしたが、その反応は、プロテアーゼインヒビターのコンプリート・カクテル(complete cocktail)を添加することによって停止させた。血漿および脳タンパク質のバルク(ペプチドを含まない)を、冷メタノール(混合物/MeOH=4/5(v/v))中で、1時間、−20℃で沈殿させた。この沈殿タンパク質を、遠心分離(10000g、10min、4℃)により、ペレット化した。ペプチドを含む上清を、真空下で5回濃縮し、逆相HPLCにより分離した。無損傷ペプチドに相当するピーク面積を測定し、PBS中でインキュベートした同等のサンプルの場合と比較した。その結果を表1に、37℃で24時間のインキュベーションの後における、ヒト血漿中およびラット脳ホモジネート中での無損傷ペプチドのパーセントとして示す。それらの数値は、実施例8の参照化合物において得られた値に比較すれば、優れている。
【0171】
【表1】

【0172】
活性のin vitroアッセイ
本発明の化合物が凝集原線維の形成を阻害する活性は、アミロイド線維に対する親和性を有するフルオロフォアの蛍光シグナルにおける変化を追跡することによって試験することができる。
【0173】
アミロイドの形成は、アミロイド線維に結合したチオフラビンT(ThT)の蛍光発光から定量的に評価することが可能であるが、これについては、レバイン(Levine)[30]およびソト(Soto)ら[31]の報告がある。このアッセイにおいては、0.1Mトリス中で0.5mg/mLの濃度に調製し、pHが7.4のAβ1−42(アルツハイマー患者の脳の中のアミロイド斑における沈着物と同じ配列を持つ合成ペプチド)のアリコートを、それらの化合物の非存在下、または各種の濃度での存在下で、ロータリー振盪機上で穏やかに旋回させながら、37℃で5日間インキュベートする。そのインキュベーション期間が終わったら、50mMのグリシン、pHが9.2で2μMのThTを、最終的な容積が2mLになるように添加する。パーキン・エルマー(Perkin Elmer)LS50B型蛍光分光計を用いて、励起435nm、発光485nmにおける蛍光を測定する。分析試験法[32]を使用することで、本発明の化合物によってもたらされる、原線維生成の阻害パーセントを計算することができる。
【0174】
活性の細胞アッセイ
アミロイド線維は、アポトーシスによる細胞死を含めて、細胞毒性を有している[18]。本発明の化合物がアミロイド形成を防止する能力は、細胞アッセイにおける細胞毒性の阻害を測定することによって、評価することが可能である。
【0175】
0.1Mトリス中で0.5mg/mLの濃度に調製し、pHが7.4のAβ1−42のアリコートを、単独または、各種の濃度の化合物の存在下で、ロータリー振盪機上で穏やかに旋回させながら、37℃で36時間インキュベートした。インキュベーション期間が終わったら、その溶液のアリコートをPC12細胞の培地に加えて、Aβの最終的な濃度が5.5μMになるようにした。その細胞を24hインキュベートしてから、その細胞生存度を、MTTキット(ドイツ国マンハイム(Manheim,Germany)のロシェ(Roche))を使用し、メーカーの指示に従って評価した。本発明の化合物は、実施例8の化合物の阻害活性と同等の、アミロイド細胞毒性に対する阻害活性を示す。
【0176】
血液脳関門の透過性の検討
本発明の化合物がBBBを通過できる能力は、キャピラリー・ディプリーション(capillary depletion)実験によって調べることが可能であり、その脳内への移行の動力学を測定することが可能である。
【0177】
a)キャピラリー・ディプリーションおよび血液の洗い出し(washout)
キャピラリー・ディプリーションを用いて、本発明の化合物の脳内への移行を評価することができる。「洗い出し」工程では、脳から血液を取り除くので、脳実質内に存在する本発明の化合物のレベルを測定することができる。
【0178】
キャピラリー・ディプリーションの検討[32]は、雄性CD−1マウス(28〜36g)で実施することができる。ウレタン(40%)を用いてマウスに腹腔内麻酔をかけ、左頸静脈を露出させる。トリチウムでラベル化した本発明のペプチドを経静脈で注入する。動物を屠殺する前に、血液を、頸動脈から(グループ1)または下行大動脈から(グループ2)採取する。血液試料を採取してから、グループ1のマウスを屠殺するか、または、20mLの乳酸リンゲル液(7.19g/LのNaCl、0.3g/LのKCl、0.28のCaCl2、2.1g/LのNaHCO3、0.16g/LのKH2PO4、0.37g/LのMgCl2・6H2O、0.99g/LのD−グルコース、10g/Lのウシ血清アルブミン、pHが7.4)を心臓の左室に30秒間で注入することにより血液を除去したが、それにより、脳内の血管容量の95%超が除去される(血液脳洗い出し、グループ2)。
【0179】
脳/血清比率(μL/g)は、次式により求める:脳/血清比率=(cpm/g脳)/(cpm/μL血清)。大脳皮質を秤量し、生理緩衝液(10mMのHEPES、140mMのNaCl、4mMのKCl、2.8mMのCaCl2、1mMのMgSO4、1mMのNaH2PO4、および10mMのD−グルコース、pHが7.4)の中でホモジナイズする。次いで、デキストラン溶液(1.6mL、26%溶液)をそのホモジネートに加える。遠心分離(5,400g、15min、4℃)にかけて、脳脈管構造(ペレット)と実質(上清み)を分離し、それぞれのフラクションについて放射能を測定することができる。
【0180】
b)血液脳関門透過性の検討:
本発明の化合物の脳内への移行の動力学は、血液脳関門透過性の実験から評価することができる。次いで、脳内で見出される注入したペプチドのパーセントを計算することができる。
【0181】
ウレタン(40%)を用いてマウスに腹腔内麻酔をかけ、左頸静脈を露出させる。1%のBSAとトリチウムラベル化ペプチド(「ホット」)を含む、0.2mLの乳酸リンゲル溶液(7.19g/LのNaCl、0.3g/LのKCl、0.28のCaCl2、2.1g/LのNaHCO3、0.16g/LのKH2PO4、0.37g/LのMgCl2・6H2O、0.99g/LのD−グルコース、10g/Lのウシ血清アルブミン、pHが7.4)を注入する。ラベル化ペプチドを注入した後、タイムポイントを変えながら右頚動脈から動脈血を採取する。血清は遠心分離(4800g、10min、4℃)により得る。動脈血のサンプル採取の後、マウスを断頭し、松果体と下垂体を除く脳全体を採取し、秤量する。TS−2溶液(イリノイ州マウント・プロスペクト(Mount Prospect,IL)のRPI)中への可溶化工程を一夜40℃で行った後で、脳および血清中の放射能の量を測定することができる。全放射能の脳血清比率を、注入してからの時間について求めることができる。次いで、脳対血清の比率(μL/g)は、次式から推定することが可能である:脳/血清比率=(cpm/g脳)/(cpm/μL血清)。
【0182】
脳対血清の比率を時間に対してプロットすれば、流入速度Ki(傾き)と、分布容積(Y切片)Viとを誘導することができる。流入速度(Ki、μL(血清)/g(組織重量)・min)は、化合物が血液循環から脳へと移行した速度を表す。分布容積(Vi、μL(血清)/g(組織重量))は、時間ゼロのところでの、脳実質に分布している物質の見かけの容積である。
【0183】
大脳Aβ沈着の動物モデルを用いたin vivo検討
化合物はさらに、Aβ1−42を注入された動物の脳内でのアミロイド沈着の、本発明の化合物による阻害を測定する、in vivoアッセイを用いた試験をすることもできる。
【0184】
本発明の化合物が有する、アミロイド沈着物形成に対する阻害活性は、本発明のペプチドの存在下および非存在下で、抗Aβ1−42抗体と共に大脳組織切片を染色することによって、in vivoで可視化することができる。
【0185】
雄性フィッシャー(Fischer)−344ラットは、体重250〜300gで、受け入れ時で月齢3〜4月である。それらの動物はケージに2匹ずつ入れ、食物と水は自由に与えながら、12時間の明暗サイクル内に維持し、2〜3週間かけて環境に馴化させてから、手術を行う。手術は、ナトリウムペントバルビタール(50mg/kg、腹腔内)麻酔下で実施する。
【0186】
動物に麻酔をかけてから、硫酸アトロピン(0.4mg/kg)およびアンピシリンナトリウム塩(50mg/kg)を皮下注射する。Aβ1−42をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、さらに水で希釈してDMSOの濃度を16.7%とする。動物に対して、インシサー・バー・セット(incisor bar set)を有するコップ(Kopf)定位脳手術装置を用いることにより、両耳ライン(interaural line)より下3.3mmでそれぞれの口蓋扁桃の中へ、5.0nmolのAβ1−42を両側注入する。ブレグマおよび頭蓋表面から測定される注入座標(AP−3.0、mL±4.6、DV−8.8)は、パキシノス(Paxinos)およびワトソン(Watson)のアトラスから経験的に決めることができる。CMA/100マイクロシリンジポンプを用い、5.0nmolのAβ1−42の溶液の容積3.0μLを、6分かけて投与する(流速0.5μL/min)。注入後2分間はカニューレをその位置のまま放置し、次いで、それを0.2mmだけ引き抜いて3分間放置、次いでこの5分の経過後に、カニューレをゆっくりと抜き取る。手術の後では、立ち直り反射が得られるまで、動物を電気パッドの上で温めてやる。次いでそれらの動物を本発明の化合物を用いて処置する。濃度4.4mMで0.9%のNaCl中で可溶化させたペプチドを、7週間半の間、1週間に4回、皮下注射により投与(注入は毎回0.5mL)する。
【0187】
化合物を用いた処置が終わったら、ナトリウムペントバルビタール(150mg/kg、腹腔内)大動脈経由で灌流させて、過剰投与することにより、動物を屠殺する。組織学的検査のため、脳の連続冠状断面(40μm)を切り出し、染色するまでは、エチレングリコール凍結保護剤の中に浸漬し、−20℃で貯蔵しておく。組織の切片は、公知の方法で、抗−Aβ1−42抗体を用いて染色する。画像解析システムを用いて、アミロイド沈着物の大きさを測定する。それらのデータは、二元分散分析(ANOVA)により、さらに、事後解析のための、ニューマン・カールス(Newman−Keuls)の多重検定により解析することができる。
【0188】
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[2]マスターズ(Masters),C.ら、プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・サイエンス・オブ・USA(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第82巻、1985年、p.4245〜4249
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[16]国際公開第96/39834号パンフレット(ニューヨーク大学(New York University))
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[25]『プリンシプルズ・オブ・ペプチド・シンセシス(Principles of Peptide Synthesis)(シュプリンガー・ラボラトリー(Springer Laboratory))』、ミクロス・ボダンスキー(Miklos Bodanszky)、ミルコス・ボダンスキー(Milkos Bodanszky)改訂第2版、シュプリンガー・フェルラーク(Springer Verlag)
[26]『Fmoc・ソリッド・フェース・ペプチド・シンセシス:ア・プラクティカル・アプローチ(Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach)』、ウェン・C・チャン(Weng C.Chan)編、ピーター・D・ホワイト(Peter D. White)編、オックスフォード・ユニバーシティ・プレス(Oxford University Press)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iの化合物であって:
【化1】

式中、R1が、H、C2〜C6アシルおよびC1〜C6アルキルから選択され;
2、R3、R4およびR5が独立して、HおよびC1〜C6アルキルから選択され;
6が、OHおよびNR78から選択されるが、ここでR7およびR8は独立して、HおよびC1〜C6アルキルから選択され;
1、X2、X3、X4およびX5が独立して、CR9またはNから選択され、ここでR9はHおよびC1〜C6アルキルから選択されるが、ただしX1、X2、X3、X4およびX5の内の少なくとも1つがNであるという条件を満たす、
化合物、および、それらの各種キラル誘導体。
【請求項2】
1がC2〜C6アシルであり、R6がNR78であるが、ここでR7およびR8は独立して、HおよびC1〜C6アルキルから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
1、X2、X3、X4およびX5が、独立してCHおよびNから選択されるが、ただしX1、X2、X3、X4およびX5の内の少なくとも1つがNであるという条件を満たす、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
2、R3、R4およびR5がHであり、R1が−C(O)CH3であり、R6がNH2であり;X1、X2、X3、X4およびX5が、独立してCHおよびNから選択されるが、ただしX1、X2、X3、X4およびX5の内の少なくとも1つがNであるという条件を満たす、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
2がNである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
3がNである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
以下の群:
Ac−L−P−Fa−F−D−NH2
Ac−L−Pa−F−F−D−NH2;および
Ac−L−Pa−Fa−F−D−NH2
から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
医薬品として使用するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物および、製薬上許容できる賦形剤、希釈剤または担体を含む、医薬組成物。
【請求項10】
アルツハイマー病、拳闘家痴呆(頭部外傷を含む)、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)(HCHWA−D)およびアミロイドアンジオパシーを伴う血管性痴呆から選択される疾病または状態を治療または予防するための医薬品を生産するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項11】
前記疾病がアルツハイマー病である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
異常タンパク質のアミロイドへの折りたたみおよびアミロイド様沈着物に伴う疾病の治療のための医薬品を調製するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
工程:
a)式(II)のアザ−アミノ酸構成単位を、アミノ酸、アザ−アミノ酸、ペプチド、アザ−ペプチドまたはアザチドと反応させて、アザ−ペプチドカップリングを介してアザ−ペプトイド結合を形成させる工程であって;
【化2】

式中、Rが、HおよびC1〜C6アルキルから選択され;
Aがアミノ酸の任意の官能基であり;
RおよびAが、C3〜C6ヘテロシクロアルキル環を形成することが可能な工程、および、
b)パラ−ニトロカルボベンジルオキシ基を除去する工程、
を含む方法により得ることができるアザ−ペプチドを調製するための方法。
【請求項14】
前記ライブラリーの工程a)における少なくとも1つのアザ−アミノ酸構成単位が、式III、IV、VおよびVIから選択されるものであり:
【化3】

式中、Rが、HおよびC1〜C6アルキルから選択され;
Zが−CH2−CH=CH2および−tert−ブチルから選択される、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
RがHである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
全配列が2〜10ペプトイド単位の長さを有するアザ−ペプチドを調製するための、請求項13または15に記載の方法。
【請求項17】
全配列が2〜5単位のペプトイド単位の長さを有するアザ−ペプチドを調製するための、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
2〜10個のアザ−アミノ酸を有するアザ−ペプチドを調製するための、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
2〜5個のアザ−アミノ酸を有するアザ−ペプチドを調製するための、請求項13〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
式Iのアザ−ペプチドを調製するための、請求項13〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
式III、IV、VおよびVIから選択される式を有する、合成アザ−ペプチド構成単位。
【請求項22】
RがHである、請求項21に記載の合成アザ−ペプチド構成単位。

【公表番号】特表2006−520321(P2006−520321A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556312(P2004−556312)
【出願日】平成15年12月1日(2003.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2003/015033
【国際公開番号】WO2004/050689
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(599177396)アプライド リサーチ システムズ エーアールエス ホールディング ナームロゼ フェンノートシャップ (70)
【Fターム(参考)】