説明

アシルコエンザイムAを用いるアシル基転移酵素反応方法

本発明はアシルコエンザイムAのアシル基をアシル基受容体に転移するアシル基転移酵素反応方法において、アシルチオエステルとの化学的チオエステル交換反応によって、コエンザイムAよりアシルコエンザイムAを反応系内で生成および/または再生させて反応することを特徴とするアシル基転移酵素反応方法に関する。本発明によれば、高価なアシルCoAが反応系内で非酵素的に再生されるため、少量のアシルCoAとアシル基供与体及び受容体を系に投じるだけでアシル基転移酵素反応が連続的に進行する。従って、本発明の方法は、有用な生体分子を含む種々の化合物の工業的製造方法やポリエステル等の高分子の合成に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アシルコエンザイムA(以下、コエンザイムAをCoAと表記することがある。)による種々の有機化合物へのアシル基転移酵素反応方法に関する。さらに詳しく言えば、本発明は、アシル基転移酵素を用いるアシル化合物の製造方法において、極めて高価なアシルCoAを追加添加することなく反応を継続的に行い、その生産性を飛躍的に改善することによってアシル基転移酵素を種々の化合物の工業的製法に利用することを可能ならしめた新規なアシル基転移酵素反応方法に関する。
さらに、本発明は化学的チオエステル交換反応をアシルCoA再生系としたCoA酵素カップリング法に関する。
また、本発明はCoA酵素を用いて、スフィンゴ脂質のごとき重要な生理活性物質を製造する方法に関する。
さらに、本発明は酵素反応による高分子化合物の製造方法に関する。さらに詳しく言えば、チオエステル交換反応と高分子重合酵素反応を共存させてアシルコエンザイム(アシルCoA)を反応系内で再生させてチオエステルから高分子化合物を一貫して合成することの出来る効率的な生分解性の高分子化合物、特にポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
CoAは全ての生物種でアシルキャリア/アシルアクティベーターとして機能する物質である。例えば、アセチルCoAはクエン酸回路を経由する脂肪酸・グルコース等主要な生体代謝のキー物質である他、ある種のアシルCoA誘導体はコレステロールや脂肪酸生合成においても重要な役割を果たしている。CoAはこれらの代謝に関わる酵素触媒反応(CoA酵素)の補助因子(補酵素)として必須であり、代替不可能な物質であり、下記式で表わされる。

(式中、ACYはアシル基である。)
CoA酵素には、転移させるアシル基の構造および基質(アシル基を導入する化合物)により種々のCoA酵素が存在する。従来、各種のCoA酵素を用いて物質を製造しようとする試みは多く成されており、例えば、抗生物質や医薬、ポリケチド合成経路を利用する各種化学物質の製造、アミノ酸類、ポリヒドロキシ酸などの製造例がある。
これらの方法ではアシルCoAは反応においてアシル基受容体と等モル消費される。従って、必要なアシルCoAを廉価に生産する必要がある。
上記の方法では、いずれも、発酵的に生産される生体内のアシルCoAを用いるか、生産系とは別個に製造したアシルCoAを用いている。発酵的に生産される生体内のアシルCoAを用いる場合は、生体内で生産されるアセチルCoAやマロニルCoAといった特定のアシルCoAしか利用し得ない。この課題を解決すべく、アセチルCoAと各種脂肪酸間で酵素的にエステル交換を行い、非生体的なアシルCoAを生産する技術も報告されている。生産系とは別個に製造したアシルCoAを用いる方法は、汎用性が有り一般的に取られる方法であるが、このようにして製造したアシルCoAは極めて高価であり、アシル基転移反応に使用するには等モル必要であることにかわりはない。
アシルCoAの製造方法としては、アシルクロライドによる化学合成法、酸無水物を用いる化学合成法、クロロ炭酸エチルとの混合酸無水物を用いる化学合成法、チオエステル交換による化学合成法(Z.Naturforsch 29C,469−474(1974)、Z.Naturforsch 30c,352−358(1975))、J.Am.Chem.Soc.,1953,75,2520、J.Biol.Chem.,1985,260,13181、その他多くの化学合成法が一般に用いられている。しかしながらこれらの化学的方法は一般にチオール基への選択性が低いものが多く、非選択的なアシル化反応により収量が低下する問題があった。これらの製法は現在も用いられるが、アシルCoAの実験室的調製法として用いられているにとどまっていた。
化学合成法の弱点を克服すべく、酵素的アシルCoAの製造法も精力的に研究されている。すなわち、アセチルCoA合成酵素を用いる方法や脂肪酸CoA合成酵素を用いる方法などが報告されている(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,40,699−709)が、これらの酵素反応法ではその触媒である酵素を必要量得ることが非常に困難である。
酵素を用いる製法に関しては、これらをアシルCoA再生系としてCoA酵素反応と協同させたカップリング法に関する研究も報告されている。すなわち、アシル基転移反応により消費されたアシルCoAを酵素反応により再生して再び反応に用いるものであり、ホスホトランスアセチラーゼを用いるカップリング法、カルニチンアセチルトランスフェラーゼを用いるカップリング法、アセチルCoA合成酵素を用いるカップリング法、α−ケトグルタル酸脱水素酵素を用いるカップリング法などである。これらの方法はチオール基への選択性が高く、特にアセチルCoA合成酵素は基質特異性が広く各種のアシルCoAを生成し得ることから有用である。
しかしながら、これらは酵素によりアシルCoAを再生しており、この様な酵素的再生系は反応速度が遅いこと、酵素が不安定であること、反応にATPや比較的高価な副成分を必要とすること、高濃度のCoAでは反応できないことなど、それぞれに課題が残されて一般に対象物の価格が余程高価で無い限り、アシルCoAを10,000回以上回転させなければコスト的に工業的製法とは成り得ないと言われており、上記の方法は工業的製造法として充分とは言えないものであった。ジメチルアミノピリジンのN−アセチル体を用い非酵素反応を利用してアセチルCoAを再生する試みもあるが(Bioorganic Chem.,1990,18,131−135)、大量の有機溶媒を使用し2相系であるため生成物の精製上問題があり、工業的製法には適していない。
以上のように、現在までCoA酵素を工業的製法として利用することを可能とするに充分な、アシルCoA再生系は知られていなかった。
スフィンゴ脂質は、スフィンゴシンのようなスフィンゴイド塩基に由来する脂質であり、動物、植物及び微生物の細胞膜に存在する。ヒトのスフィンゴ脂質の正確な機能はまだわかっていないが、この化合物群が、神経系の電気シグナル伝達および細胞膜の安定化に関与している。スフィンゴ糖脂質は、免疫系において機能を有し、特に特定のスフィンゴ糖脂質は細菌毒の受容体として、またおそらくは細菌及びウイルスの受容体としても機能することが示されている。
セラミドはスフィンゴシン、ジヒドロスフィンゴシンまたはフィトスフィンゴシンを塩基として含む、スフィンゴ脂質の特定のグループである。セラミドは、皮膚の上側層である角質層の主要脂質成分であり、重要な障壁機能を有している。セラミドのようなスフィンゴ脂質を含有する組成物の局所塗布は、例えば皮膚の障壁機能及び水分保持特性を改善することが知られている(Curatolo,Pharm.Res.,4:271−277(1987);Kerscherら,Eur.J.Dermatol.,1:39−43(1991))。
スフィンゴイド塩基それ自体は、シグナル伝達経路において重要な酵素であるプロテインキナーゼCの活性を阻害することによって、いくつかの生理的作用を媒介することがわかっている。更に、スフィンゴイド塩基は、化粧組成物またはそれらの抗炎症活性及び抗菌活性のための皮膚科用組成物に含まれる。
現在、化粧品用の異種スフィンゴ脂質調製物は、主に動物供給源から抽出されているが、産業的規模では比較的経費のかかる方法であるばかりでなく、例えばウシ海綿状脳症(BSE)の潜在性のため動物組織以外の供給源から入手できる純粋かつ構造の特定されたスフィンゴ脂質の新規供給源に関心が増している。
酵母Pichia ciferriiのような微生物は、スフィンゴ脂質、スフィンゴシン、フィトスフィンゴシン及び/またはそれらの誘導体を生成することが発見されている(Wickerham及びStodola,J.Bacteriol.,80:484−491(1960))。スフィンゴ脂質それ自身の供給源、及び他の商業的に価値のある化合物を生成するための出発材料の供給源を提供し、これらの化合物の動物性供給源の使用に対し実現可能な代用を与える。しかし微生物による生産は、スフィンゴイド塩基の微生物細胞に対する毒性のために、生産性の改善が困難であり(Pintoら、J.Bacteriol.,174:2565−2574(1992);Bibelら,J.Invest.Dermatol.,93:269−273(1992))、より効率的な製造方法の提供が切望されていた。
また、近年環境問題への意識の高まりから、従来主流を占めてきた合成高分子から環境に優しい生分解性高分子への関心が高まっている。
その一つであるポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと略記することがある。)は、一般には微生物の発酵生産により製造され、生分解性が高いことから注目を集めているポリエステルであり、90種以上の種類のものが知られている(FEMS Microbiol.Lett.,1995,128,219−228)。その中でもポリ(3−ヒドロキシブチレート)(以下、PHBと略記することがある。)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)(以下、PHVと略記することがある。)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレート)(以下、PHB−co−PHVと略記することがある。)は、その製造のしやすさ、及びその特性が良好であったことから研究開発が進んだ(特開昭57−150393号公報(米国特許第4393167号)、特開昭59−220192号公報(欧州特許公開第0114086号)、特開昭63−226291号公報(欧州特許公開第0274151号)、特開昭63−269989号公報)。しかし微生物の発酵生産では微生物体内にPHAを蓄積するためにその生産性は低く、また微生物を粉砕してPHAを抽出し、精製するためにコストもかかるなど問題点も多かった。
その後、発酵生産のメカニズムの解析が進んだことから微生物体内へのPHAの蓄積濃度が飛躍的に向上し、また、微生物体内へのPHAの蓄積状態の解析が進んだことから微生物からの抽出、精製コストも下がる結果となり、PHAの微生物的製造の実用化が始まった。
また、PHAを生産する微生物も多種に渡ることが次第に明らかになってきたことから、PHB、PHV、PHB−co−PHV以外のPHAへの研究開発も急速に進み、物性を改良するためコポリマーの研究開発もされている(特開昭63−269989号公報、特開昭64−48821号公報、特開平1−156320号公報、特開平1−222788号公報、特開平5−93049号公報)。
しかし、微生物の発酵生産によるPHAの製造方法では複雑な生物代謝経路を経るために必ずしも所望のPHAを作り出せるわけではなく、またPHAのバリエーションも限定される。また発酵生産の制御方法によっては所望のホモポリマーとならずにコポリマーになることもあり、また逆にコポリマー生産においても必ずしも所望の重合比の均質なコポリマーを生産できる訳ではない(FEMS Microbiol.Rev.,1992,103,207−214)。さらに精製工程においても多種の化合物を含む微生物菌体より所望のPHAを取り出すために、その純度の向上にも工業的生産においては限界がある。このように微生物発酵によるPHAの製造は様々な問題を抱えている。
一方、近年急速に進んだ遺伝子組換え技術により、PHAを重合する酵素であるポリヒドロキシアルカノエートシンターゼ(PHAS)の遺伝子が単離され、その発現を増強することによりPHAの生産の向上も図られるようになった(特開平7−265065号公報、特開平10−108682号公報、特表2001−516574号公報(WO99/14313))。
さらに遺伝子組換え技術を使うことでPHASの大量分離精製もできるようになり、微生物発酵を用いないPHBのインビトロ(in vitro)重合方法が開発され、均質で高純度なPHBが生産できるようになった(Proc.Natl.Acad.Sci.,1995,92,6279−6283、Int.Symp.Bacterial.Polyhydroxyalkanoates,1996,28−35、Eur.J.Biochem.,1994,226,71−80、Appl.Microbiol.Biotechnol.,1998,49,258−266、Macromolecules,2000,33,229−231)。
その後、PHB以外のPHAも同様のインビトロ(in vitro)重合方法で合成できることが示され、微生物発酵法では達成できなかったPHAのバリエーションの制限が無くなり、PHAのバリエーションが格段に広がることが示唆された(Biomacromolecules,2000,1,433−439、Appl.Microbiol.Biotechnol.,2001,56,131−136、Macromolecules,2001,34,6889−6894)。この方法ではホモポリマー以外にコポリマーをも合成することが可能である。
しかし、インビトロ(in vitro)重合方法では反応出発物質にアシルCoAを使用しなければならないが、上述の通り、その合成には種々の問題がある。
そのためアシルCoAの使用量を極めて少量に抑えることや、工業的に容易に合成可能な他の化合物を出発物質として用いる高分子化合物の製造方法の開発が望まれている。
一方、インビトロ(in vitro)重合方法では、酵素の基質としてアシルCoAを用い、酵素が反応してPHAが重合されると共に、反応系内には遊離したCoAが放出される(下記式)。

(式中、RはR−SHがCoAを表わす有機基であり、Rは任意のアルキレン、nは重合度に相当する整数である。)
このように、アシルCoAからのアシル基転移反応が1回起こる度に繰り返し単位が1単位ずつ付加され、CoAが1分子放出される。
インビトロ(in vitro)重合方法ではこのCoAは遊離状態のまま反応系内に留まり蓄積されるのみであり、高分子重合反応の収率は反応系内に投入したアシルCoAの当量を超えることはない。このためPHAの生産性は極めて低く、インビトロ(in vitro)重合方法で作製したPHAのコストは非常に高価にならざるを得ない。更に重合が進むにつれて反応系内のCoA濃度が高まることで、酵素反応への阻害効果も懸念される。
なお、この遊離して反応系内に高濃度で存在するCoAの有効利用方法としてリサイクリングする試みもなされている(FEMS Microbiology Letters,1998,168,319−324)。これは重合酵素反応液中に酢酸とアセチルCoAシンセターゼとATPを共存させることで重合反応後に遊離してくるCoAをアセチルCoAに変換し、さらにプロピオニルCoAトランスフェラーゼと3−ヒドロキシブチレートも共存させることで重合酵素の基質となる3−ヒドロキシブチレートCoAを得るものである。しかしこの方法では精製が困難な酵素を3種類も使用し、さらに極めて高価であるATPも必須であることから工業的な生産方法に適用することは極めて難しい。
このようにインビトロ重合方法では、その反応基質にアシルCoAを使わなければならず、アシルCoAは非常に高価であることから、これを反応基質に用いたままPHAを工業的に生産するのではPHAの製造コストを下げることが極めて困難であると言わざるを得ない。またCoAをアシルCoAにリサイクリングするにも取得が困難な酵素が多種必要であり、かつ、ATPのような高価な化合物が必要である。さらにPHAの生物、特に微生物を用いた製造方法では、PHAのバリエーションは限定され、更に生物体内での代謝により共重合体が重合される可能性が非常に高く、所望のPHAのみを製造するのは難しいと言える。これらのことからPHAのバリエーションが多く、かつ、その生産において簡易に合成できる化合物を出発物質に用いて、PHAの製造コストが下がるような製造方法の開発が望まれていた。
【発明の開示】
本発明は、アシルCoA再生系でCoA酵素を用いる工業的なアシル基転移酵素反応方法、特に生体物質等の生理活性物質の生産に有用なアシル基転移酵素反応方法を提供することを課題とする。
また、本発明の課題は、酵素反応で有用なスフィンゴイド塩基類を製造する全く新しい半合成製造方法を提供することにある。さらにはその製造の際に、触媒量の補酵素(CoA)で効率的に製造できる経済的な方法を提供することにある。
さらに、本発明の課題は、酵素反応で有用な生分解性の高分子化合物を製造する際に、触媒量の補酵素(CoA)で効率的に製造できる方法を提供することにある。
本発明者らは、アシルCoAの再生系について、効率、速度、コスト、選択性および酵素反応とのカップリング可否に関し鋭意研究した結果、これまで調製にのみ用いられていた化学合成法の一つであるチオエステル交換反応を酵素反応系とカップリングし得ることを突き止め、本発明を完成するに至った。
このチオエステル交換反応は中性〜弱塩基性域の系で進行すること、アシル基の基質特異性が極めて広いことから、チオエステル交換反応が起こり得る領域で反応性を示すCoA酵素の何れともカップリングが可能である。
さらに、本発明者らは、このカップリング法をスフィンゴ脂質生合成経路におけるキー酵素であるセリン・C−パルミトイルトランスフェラーゼに適用し、チオフェニル脂肪酸とセリンから、CoAを介した脂肪酸鎖の脱カルボキシ的転移反応により、重要な生理活性物質であるスフィンゴイド塩基類を生成する方法等を確立することに成功した。
さらに、本発明者らは高効率なPHAの製造方法を開発すべく、有機化合物からPHAに関連する種々の化合物について新たにな合成経路を見出すべく鋭意検討を行った結果、インビトロ重合方法にチオエステル交換反応を組み合わせることで、反応出発物質を容易に合成可能なチオフェニルエステルに代替することが出来、さらに重合反応で必須であるアシルCoAについてもその再生反応を同一反応液系内で行うことが可能であり、CoAの濃度を抑えつつ、アシルCoA消費量を劇的に減少させることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のアシル基転移酵素反応方法に関する。
1. アシルコエンザイムA(アシルCoA)のアシル基を転移するアシル基転移酵素反応において、チオール化合物のアシルエステルであるアシル基供与体との化学的チオエステル交換反応によって、コエンザイムAよりアシルコエンザイムAを反応系内で生成および/または再生させて反応させることを特徴とするアシル基転移酵素反応方法。
2. 反応系内にアシル基供与体、アシル基受容体、コエンザイムA、及びアシル基転移酵素を同時に含み、アシル基供与体のアシル基を化学的チオエステル交換反応によってコエンザイムAに転移させてアシルコエンザイムAとし、アシルコエンザイムAのアシル基をアシル基受容体に転移させる前項1に記載のアシル基転移酵素反応方法。
3. アシル基供与体のアシル基でアシルコエンザイムAを生成および/または再生しながら行う前項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
4. チオール化合物が芳香族チオールである前項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
5. 芳香族チオールが置換基を有していてもよいチオフェノールである前項4に記載のアシル基転移酵素反応方法。
6. アシル基受容体がアミノ酸および/またはその誘導体である前項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
7. アシル基受容体がセリンおよび/またはその誘導体である前項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
8. アシル基転移酵素がセリン C−パルミトイルトランスフェラーゼである前項1または2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
9. セリン C−パルミトイルトランスフェラーゼがスフィンゴモナス(Sphingomonas)属細菌由来のものである前項8に記載のアシル基転移酵素反応方法。
10. アシル基転移酵素がスフィンゴシン N−アシルトランスフェラーゼである前項1または2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
11. 反応系内にアシル基供与体、アシル基受容体、コエンザイムA、及びアシル基転移酵素を同時に含み、アシル基供与体のアシル基を化学的チオエステル交換反応によってコエンザイムAに転移させてアシルコエンザイムAとし、アシルコエンザイムAのアシル基をアシル基受容体に転移させる反応において、アシル基転移酵素が高分子重合酵素であり、高分子化合物を合成する前項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
12. アシルコエンザイムAまたはアシル基転移酵素反応による生成物をアシル基受容体としてアシル基転移酵素反応を繰り返すことにより高分子化合物を生成する前項11に記載のアシル基転移酵素反応方法。
13. アシルチオエステルが芳香族チオールのアシルエステルである前項11に記載のアシル基転移酵素反応方法。
14. 芳香族チオールのアシルエステルがヒドロキシアルカノエートチオフェニルエステルである前項13に記載のアシル基転移酵素反応方法。
15. ヒドロキシアルカノエートチオフェニルエステルが3−ヒドロキシアルカノエートチオフェニルエステルである前項14に記載のアシル基転移酵素反応方法。
16. 3−ヒドロキシアルカノエートチオフェニルエステルが3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルである前項15に記載のアシル基転移酵素反応方法。
17. 高分子重合酵素がポリヒドロキシアルカノエートシンターゼである前項11に記載のアシル基転移酵素反応方法。
18. ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼがラルストニア(Ralstonia)属由来である前項17に記載のアシル基転移酵素反応方法。
19. ラルストニア(Ralstonia)属がラルストニア・ユートロファ(Ralstoniaeutropha)である前項18に記載のアシル基転移酵素反応方法。
20. ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)がラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)ATCC17699である前項19に記載のアシル基転移酵素反応方法。
21. 前項7乃至9のいずれかに記載のアシル基転移酵素反応を用いるスフィンゴイド塩基類の製造方法。
22. スフィンゴイド塩基類が3−ケトジヒドロスフィンゴシンである前項21に記載の製造方法。
23. 前項10に記載のアシル基転移酵素反応を用いるセラミド類の製造方法。
24. 前項11乃至20のいずれかに記載のアシル基転移酵素反応を用いる高分子化合物の製造方法であって、高分子化合物がポリエステル類であるポリエステル類の製造方法。
25. ポリエステル類がポリヒドロキシアルカノエートである前項24に記載のポリエステル類の製造方法。
26. ポリヒドロキシアルカノエートがポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)である前項25に記載のポリエステル類の製造方法。
27. ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)がポリ(3−ヒドロキシブチレート)である前項26に記載のポリエステル類の製造方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明によるチオエステル交換によるアシルCoA再生系とのカップリング反応を示すスキームである。
発明の詳細な説明
本発明によると、図1に示すように、アシル基供与体、アシル基受容体、CoA、及びアシル基転移酵素(CoA酵素)を一つの系に存在させ、反応進行により消費されるアシルCoAが、酵素反応と同系内においてアシル基供与体とコエンザイムAとの化学的チオエステル交換反応により生成・再生されるカップリング反応によってアシル基転移反応を行うことができる。
本発明の一つの態様においては、反応進行により消費されるアシルCoAを化学的チオエステル交換反応により生成・再生させる。この結果、高価なアシルCoAを少量のみ反応系に存在させるだけで効率的なアシル基転移反応を実現できる。
また、本発明の別の態様においては、アシルCoAまたはアシル基転移反応による生成物をさらにアシル基受容体とする。この結果、アシル基転移反応の繰り返しにより効率的な重合体生成反応を実現できる。
上記第2の態様(重合体生成反応)は上記第1の態様(高効率アシル基転移反応)の一部であるが、以下、便宜上、第1の態様(高効率アシル基転移反応)と第2の態様(重合体生成反応)に分けて説明する。
(1)高効率アシル基転移反応
(1−1)CoA酵素
この態様において使用するCoA酵素には、アシルCoAを補足因子(補酵素)とするものである以外に特に制限は無い。これらの酵素の例としては、アセチルグルタミン酸シンターゼ(EC 2.3.1.1)、アセトアセチルCoAチオラーゼ(EC 2.3.1.9)、セリン C−パルミトイルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.50)等、「EC 2.3.1.x」シリーズに属するトランスフェラーゼ類が挙げられる。これらの酵素類は既に多くの生物に存在することが明らかにされており、各種の生物から分離精製がなされている(Enzyme Nomenclature,178−199,Academic Press,INC.(1992))。中でも、中性〜弱塩基性域に至適pHを示す酵素がさらに好適である。これらCoA酵素は精製酵素であってもよいが、CoA酵素活性を有する触媒菌体あるいはその処理物を用いることもできる。但し、この場合は、アシルCoAを補欠因子とする目的以外の酵素の影響を、欠損変異株の使用、活性阻害、失活処理等により回避することが望ましい。
(1−2)アシル基供与体
本発明による高効率アシル基転移において使用するアシル基供与体は、CoAと非触媒的にチオエステル交換反応が起こり得るチオール化合物のアシルエステル(本願において単に「アシルチオエステル」ともいう。)であれば制限は無いが、芳香族チオールのアシルエステルが好ましい。芳香族チオールの例としては、チオフェノール、メチルチオフェノール、クロロチオフェノール、2−メルカプトチアゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトトリアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトピリジン等を挙げることができる。特に好適な例として、チオフェノールのアシルエステル類(フェニル基が置換基を有する場合も含め、本願において単に「チオフェニルエステル」ともいう。)が挙げられる。
アシルエステルのチオールに対応するアシル基としては、基本的に制限無く使用することができる。例えば、アセチル(CHCO−)、プロピオニル(CHCHCO−)、ブチリル(CHCHCHCO−)、イソブチリル((CHCHCO−)、アクリロイル(CH=CH−CO−)、メタクリロイル(CH=C(CH)−CO−)、パルミトイル(CH−[CH14−CO−)、ステアロイル(CH−[CH16−CO−)、オレオイル(CH−[CH−CH=CH−[CH−CO−))等のC2〜C20の飽和または不飽和の脂肪族アシル基、ベンゾイル等の芳香族アシル基などが挙げられる。もっとも、これらは例示であり、例えば、脂肪族アシル基のアルキル鎖は置換されていてもよく、一部または全部が環状でもよい。芳香族アシル基の芳香環は炭素環でもヘテロ環でも縮合環でもよく任意に置換されていてもよい。置換基の例としては、水酸基、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、塩素、臭素等のハロゲン等が挙げられる。
(1−3)アシル基受容体
また、本発明による高効率アシル基転移反応において使用するアシル基受容体は、上記CoA酵素の基質としうる限り制限は無い。酵素の基質特異性を反応条件によって変化させることや、タンパク質工学的に基質特異性を変化させた変異体などを用いることにより、酵素の通常の好適な基質でない物質をもアシル基受容体とし得る。
好ましいアシル基受容体は、アミノ酸、アミノ酸誘導体であり、天然アミノ酸、非天然アミノ酸が特に好ましい。例えば、アミノ酸がセリンで酵素がセリン C−パルミトイルトランスフェラーゼである場合、3−ケトジヒドロスフィンゴシンの効率的合成反応となる。また、アシル基受容体がアミノ酸誘導体であるスフィンゴシンで酵素がスフィンゴシン N−アシルトランスフェラーゼである場合、セラミドの効率的合成反応となる。なお、アシル基転移反応における生成物は、転移したアシル基をそのまま有するとは限らず、反応条件下で脱炭酸や転位等を経てもよく、一般的には用いる酵素と基質により定まる。
(1−4)反応条件
本発明による高効率アシル基転移反応において使用するCoAは、化学合成法、半合成法、生物発酵法などいずれの方法で製造されたものでもよく、CoAとして機能し得るものであれば良い。
本発明による高効率アシル基転移反応において、使用する反応系は、アシル基供与体とCoAのエステル交換反応と、用いるCoA酵素によるアシルCoAからアシル基受容体へのアシル基転移反応が同時に進行する系である限り制限は無く、水均一系、有機溶媒均一系、あるいは有機溶媒−水二層系等を用いることができる。
本発明の反応は、CoA酵素の安定性が確保され、反応が進行する温度であればよい。通常10℃〜45℃であり、好ましくは、20℃〜40℃である。
本発明の反応は、濃度に関してもCoA酵素の安定性が確保され、反応が進行するならば、特に制限はない。
反応系は開放型でも密閉型でも良く、臭気等が問題になる場合には密閉系において反応を行えば良い。
(2)高分子生成反応
(2−1)高分子化合物
前述のように、本発明は、高分子生成反応としても有用であり、具体的にはチオエステル交換反応と高分子重合酵素反応を共存させた溶液中でチオエステルから高分子化合物を合成する高分子化合物の製造方法に関するものである。
本発明において合成される高分子化合物としては、チオエステル交換反応と高分子重合酵素反応を共存させた溶液中でチオエステルから合成される高分子化合物であれば制限はないが、例としては、これまで主に微生物の発酵生産により製造されることが報告されているポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を挙げることが出来る。その種類は90種以上が知られている(FEMS Microbiol.Lett.,1995,128,219)。更に具体的には、側鎖にC2以上のアルキル鎖を持つもの、その中にはC6以上、更にはC10以上の長鎖アルキル基を有するもの、側鎖に分岐したアルキル基を持つもの、側鎖にフェニル環を持つもの、その中にはフェニル環に修飾基を有するもの、側鎖にフェノキシ環を有するもの、その中にはフェノキシ環に修飾基を有するもの、側鎖に二重結合あるいは三重結合を有するもの、その中には良好な重合性を示すもの、側鎖にハロゲン元素を有するもの、側鎖にシクロ環を有するもの、側鎖にエポキシ環を有するものなどがある。これらのPHAはホモポリマーであることもあれば、2種類以上のユニットからなるコポリマーも含まれる。
具体的には、アルキル基についてはInt.J.Biol.Macromol.,1990,12,92−101など、フェニル環についてはMacromol.Chem.,1990,191,1957−1965、Macromolecules,1991,24,5256−5260、Macromolecules,1996,29,1762−1766など、フェノキシ環についてはMacromolecules,1996,29,3432−3435、Macromol.Chem.Phys.,1994,195,1665−1672など、二重結合についてはAppl.Environ.Microbiol.,1988,54,2924−2932、Int.J.Biol.Macromol.,1990,12,85−91、J.Polym.Sci.,Part A,1995,33,1367−1374、Macromolecules,1994,27,1675−1679、Macromolecules,1998,31,1480−1486など、三重結合についてはMacromolecules,1998,31,4760−4763など、ハロゲン元素についてはMacromolecules,1990,23,3705−3707、J.Chem.Soc.Polym.Commun.,1990,31,404−406、Macromolecules,1992,25,1852−1857、Macromolecules,1996,29,4572−4581などエポキシ環についてはMacromolecules,1999,32,7389−7395などに示されたPHAも含まれ、炭素数も多様である。
高分子化合物の具体例としては、主に生物、特に微生物の発酵生産により製造されることがよく知られているポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)やポリ(4−ヒドロキシアルカノエート)を挙げることが出来る。更に、具体的には特にポリ(3−ヒドロキシブチレート)を挙げることができる。もっとも、これらは例示であり、本発明の方法によって高分子を形成し得る重合単位を含む高分子化合物はすべて含まれる。また、複数の種類の重合単位の組み合わせを含んでもよい。重合度は酵素反応が進行する限りにおいて特に制限はない。
本発明に利用できるの高分子重合酵素反応は制限はないが、例としてはアシルコエンザイムAとしてヒドロキシアルカノエートコエンザイムAを用いる反応を挙げることが可能であり、その場合は高分子化合物としてPHAが生成する。
(2−2)CoA酵素
本発明で使用する高分子重合酵素としては、本発明のチオエステル交換反応で生成する物質を基質として高分子化合物を合成する高分子重合酵素であればよい。例えば、ヒドロキシアルカノエートCoAを基質とし、PHAとする場合、酵素であるポリヒドロキシアルカノエートシンターゼ(PHAS)を用いることが出来る。高分子重合酵素の取得方法は生物細胞から抽出精製する方法、あるいは生物培養物から抽出精製する方法など多種多様の方法が使われるが、例としてはPHASは微生物細胞から抽出精製することが出来る。しかし通常の抽出精製方法では取得出来る酵素量が極めて少量に限られることから、近年は遺伝子組換え技術を利用してPHASの遺伝子を単離し(J.Biol.Chem.,1989,264,15298−15303、J.Bacteriol.,1988,170,4431−4436、J.Bacteriol.,1988,170,5837−5847)、高発現させることで高分子重合酵素を大量に分離精製できる(J.Biochemistry,1994,33,9311−9320、Protein Expression Purif.,1996,7,203−211)。また本発明の高分子重合反応で使用される酵素は、そのまま用いる場合のほかに、固定化酵素などの手法で修飾した酵素を用いることもできる。
本発明で用いる高分子重合酵素の由来に生物種としては特に制限はないが、例としてはPHAの生産がよく知られているラルストニア(Ralstonia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、クロマチウム(Chromatium)属、エクトチオロドスピラ(Ectothiorhodospira)属をはじめ多くの微生物を挙げることが出来る。またこれらの生物由来の高分子重合酵素遺伝子を供与体として有する遺伝子組換え体から高分子重合酵素を取得することも可能である。例としてはラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)ATCC17699のPHASの遺伝子を単離し、その組換え体エシェリキア コリ(Escherichia coli)を作製して培養し、その培養産物から所望のPHASを抽出精製して、高分子重合反応の触媒として用いることが可能である。
(2−3)アシル基供与体
本発明による高分子生成反応において使用するアシル基供与体は、アシル基が高分子の構造単位となり得るものであるという点を除いて、前述の高効率アシル基転移反応と同様であり、芳香族チオールのアシルエステルが好ましい。芳香族チオールの例は、前記の通りである。
チオエステルの製法は例えば、J.Am.Chem.Soc.,1973,22,5829に記載されている。
このチオエステルはアルカリ条件でCoA塩と共存させることで容易にCoAのチオエステルであるアシルCoAへと変換するチオエステル交換反応が可能である(Int.Symp.Bacterial.Polyhydroxyalkanoates,1996,28−35)。

(2−4)アシル基受容体
インビトロ重合方法では酵素の基質としてCoAチオエステルを用い、酵素が反応してPHAが重合されると共に、反応系内には遊離したCoAが放出される。CoAチオエステルは反応当初に投入されるものと反応の進行により生じたものの両者が含まれるが、いずれにせよ、生成物は重合体とCoAである(下記式)。

(式中、RはR−SHがCoAを表わす有機基であり、Rは任意のアルキレン、nは重合度に相当する整数である。)
本発明は、上記2つの反応、つまりチオエステル交換反応と高分子重合反応の2つの反応を組み合わせて、これらを1つの反応系内で共存させて実施することにより高分子化合物を製造する。つまり、重合反応後には反応系内に遊離されてこれまでは再び利用されることのなかったCoAを、反応系内に投入したチオエステルと反応させて、再びCoAのチオエステルを合成せしめ、これを重合反応の基質として再び用いるものである(下記式)。

これにより反応系内に投入したCoAの当量以上の高分子化合物を生成物として得ることができるようになる。特にこのCoAがチオエステル化と遊離を繰り返すことの反応回転数が多くなればなるほど、高分子化合物の工業的なコストを飛躍的に低価格化させることが可能となる。
また、重合が進むにつれて反応系内のCoA濃度が高まることで酵素反応への阻害効果をもたらすことがあるが、本発明では、その濃度を抑えることでPHAの生産性を高めるのに非常に有効である。このように本発明は、高効率にPHAを製造する方法である。
本発明の反応条件としては特に制限がなく、高効率アシル基転移反応と同様であるが、例としては酵素反応が促進される条件として、温度としては0℃から60℃、好ましくは10℃から50℃、さらに好ましくは20℃から40℃で行うことが望ましい。簡便には室温下で反応を行うことも可能である。pHは3から12、好ましくは5から10、さらに好ましくは7から9の間で行うことが望ましい。
なお、チオエステル交換反応と高分子重合反応が共存する状態とは、チオエステル交換反応と高分子重合反応が同一の水溶液、有機溶媒、あるいはその混合溶液中に存在すること、あるいは同一反応容器内において一種の溶液、あるいは複数の溶液が混合状態あるいは分離状態で存在している状況である。分離状態は、層状の場合、油滴状に存在、あるいは目視的に懸濁した状態などが含まれる。いずれにおいても、チオエステル交換反応と高分子重合反応に必要な状態が一体化して確保されていればよい。そしてその出発物質としては工業的に効率的に製造可能なチオエステルを用いて、これを反応系内でCoAのチオエステル化して重合反応の基質とし高分子化合物を製造する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1:アシルチオフェノール(チオフェニルパルミテート)の合成
よく乾燥させて窒素置換したフラスコに無水ジクロロメタン6mLを添加し、氷上で冷やしながらよく撹拌した。そこに2Mトリメチルアルミニウム2mLをゆっくりと添加した。さらにチオフェノールをゆっくりと添加した。室温で1時間30分撹拌を続けた後、無水ジクロロメタン6mLに溶解したパルミチン酸エチルエステルをゆっくりと添加して反応させた。反応はTLCでモニターした。反応終了後、反応液にジクロロメタン20mLを加え、更に気泡発生が無くなるまで3%塩酸水溶液を添加した。この溶液を分液漏斗に移して、3%塩酸水溶液で3回、飽和食塩水で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過して硫酸マグネシウムを除去した後、エバポレーションで濃縮し、濃黄色のオイル状溶液を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)によって分離精製してチオフェニルパルミテートを得た。
実施例2:セリン C−パルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)の調製
Sphingomonas属由来の上記酵素を大腸菌にクローン化した形質転換体からSPT粗酵素抽出液を得た。本形質転換体の作成法、SPT精製法はIkushiro,H.らによる「The Journal of Biological Chemistry 276,18249−18256(2001)」の記載に従った。
まず、上記SPTの全塩基配列から、N末端配列とC末端配列をコードするプライマー(配列番号1及び配列番号2)を作成し、Sphingomonaspaucimobilisの染色体DNAを鋳型として、以下の条件でPCRによりSPTコード領域に相当するDNA断片を作成した。このとき、N末端用プライマーにはベクターへの接続のためNcoIサイトを、C末端用プライマーにはHindIIIサイトを設けた。
[プライマー]

[反応液組成]
LA Taqポリメラーゼ(Polymerase)、
同酵素添付の標準緩衝液、
鋳型染色体 <1μg、
プライマー 各1μM、
dNTP 各200μM、
液量 25μL〜100μL。
[反応条件]
変成温度 94℃、30秒、
アニール温度 40+0.25℃/サイクル、30秒、
伸張温度 72℃、90秒。
作成したPCR断片をアガロースゲル電気泳動した後ゲルより抽出し、カラムにより回収した。この断片を制限酵素NcoI−HindIIIで処理し、プラスミドpET21dのNcoI−HindIII断片とライゲーションし、宿主大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
作成した形質転換体をアンピシリン50ppmを含むLB培地5mLで、35℃、16時間培養した後、菌体を遠心分離して回収し、生理食塩水で洗浄した。洗浄菌体をSPT用緩衝液(20mMリン酸緩衝液(pH6.5,0.1mM EDTA,5mM DTT,0.1mM AEBSF(プロテアーゼ阻害剤),0.02mM PLPを含む))2mLに再懸濁し、氷冷しながら超音波破砕機で約10分間破砕した後、未破砕物を遠心分離(12,000rpm×10分間)して除去し粗酵素抽出液を得た。
実施例3:エステル交換反応とCoA酵素反応のカップリング(水均一系)
CoAナトリウム塩2mgとL−セリン1mgを100mM HEPES−NaOH緩衝液(10μM PLPを含む、pH8.0)5mLに溶解し、マグネチックスターラーでよく撹拌した。そこにチオフェニルパルミテート3.5mgをアセトニトリル0.1mLで溶解させた溶液を混合した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落としてSPT粗酵素液0.5mLを添加し、24時間、37℃で反応させた。この溶液を2Nアンモニア溶液1mLでアルカリ性とした後、クロロホルム/メタノール(2:1(v/v))5mLで溶液中の生成物を抽出、回収した。抽出液をフィルターろ過した後適当に濃縮し、下記の分析法に従って3−ケトジヒドロスフィンゴシンを定量したところ、生成量は約1.0mgであった。
[スフィンゴシン類の分析法]
Tanaka,M.らによるJournal of Chromotography 284,433−440(1984)に記載の方法に従いTLC−FID(Iatroscan)を用いてスフィンゴシン類の定量分析を行った。すなわち、標準試料として1〜10mgのジヒドロスフィンゴシン(スフィンガニン)または3−ケトジヒドロスフィンゴシンをメタノール1mLに溶解した溶液1μLを、クロマトロッドS II(シリカゲル)に供し、一次展開液(クロロホルム−メタノール−15Nアンモニア溶液=60:10:1で展開した。展開後のロッドをIATROSCAN TH−10TLC/FID Analyser(IATRON社製)に供することでスフィンゴシン類を検出定量した。
さらに詳細なスフィンゴイド塩基類の定量分析は、文献(Analytical Biochemistry,298(2001)283−292)などを参考にし、生成物を蛍光誘導体化した後高速液体クロマトグラフィーによって分離分析した。
後述の反応液75μLを取り、70.6mM トリエチルアミン/エタノール溶液425μLを添加し撹拌した。5分間遠心して沈殿を除き、上清をHPLCサンプルバイアル(300μL微量インサート)に100μLを取り、AQC試薬(Waters社製)溶液20μLを添加し、直ちに撹拌した。室温で40分以上反応した後、下記のHPLC条件で分析した。
本体:LC−VPシリーズ(島津製作所)(ポンプLC−10ADVP、カラムオーブンCTO−10ACVP、オートサンプラーSIL−10AF、システムコントローラーSCL−10AVP)
検出器:蛍光検出器821−FP(日本分光)Ex.244nm,Em.398nm、Gain x100
カラム:SHODEX F−511A,35℃
溶離液:アセトニトリル/メタノール/水/トリメチルアミン=480/320/190/7、1.5ml/min。
カラム再生方法:文献法の再生法はカラム圧が高くなりすぎエラーが出やすいため、下記の通り変更した。


分析サイクル:試料分析毎にカラム再生系を入れる。再生時はサンプル注入しない。
比較例1:カップリング系を用いないCoA酵素反応
パルミトイルCoA10mgとL−セリン1mgを100mM HEPES−NaOH緩衝液(10μM PLPを含む、pH8.0)5mLに溶解し、マグネチックスターラーでよく撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落としてSPT粗酵素液0.5mLを添加し、24時間、37℃で反応させた。この溶液を2Nアンモニア溶液1mLでアルカリ性とした後、クロロホルム/メタノール(2:1(v/v))5mLで溶液中の生成物を抽出、回収した。抽出液をフィルターろ過した後適当に濃縮し、実施例3と同様に分析した結果、3−ケトジヒドロスフィンゴシンの生成量は約0.02mgであった。
実施例4:エステル交換反応とCoA酵素反応のカップリング(油水二層系)
CoAナトリウム塩2mgとL−セリン1mgを100mM HEPES−NaOH緩衝液(10μM PLPを含む、pH8.0)5mLに溶解し、マグネチックスターラーでよく撹拌した。そこにチオフェニルパルミテート3.5mgをヘキサン5mLで溶解させた溶液を混合した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落としてSPT粗酵素液0.5mLを添加し、24時間、37℃で反応させた。この溶液を2Nアンモニア溶液1mLで酸性化した後、クロロホルム/メタノール(2:1(v/v))5mLで溶液中の生成物を抽出、回収した。抽出液をフィルターろ過した後適当に濃縮し、実施例3と同様にして3−ケトジヒドロスフィンゴシンを定量分析したところ、生成量は約2.2mgであった。
以下、本発明による高分子化方法の例を挙げる。
参考例1(1):3−オキソブチレートエチルエステルの合成
氷上で、乾燥したフラスコ中で3.9gのメルドラム酸を18mlの脱水ジクロロメタンに溶かして撹拌したところへ、18mlの脱水ジクロロメタンに溶解した4.3gのピリジンと2.2gのアセチルクロライドの溶液を窒素気流下でゆっくりと添加した。撹拌は0℃で1時間の後、室温で2時間行った。混合液を分液漏斗に移し、3%塩酸溶液で2回、飽和食塩水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下でエバポレーションして、ゆっくりと固化する濃オレンジ色でオイル状の3.6gの粗アシル化メルドラム酸を得た。この粗アシル化メルドラム酸を80mlの脱水エタノール中で還流した。この時二酸化炭素の発生が観察された。溶媒をエバポレーションで取り除き、赤色オイル状の1.3gの粗3−オキソブチレートエチルエステルを得た。これをシリカゲル60のカラムクロマトグラフィー(20cm×Φ1cm、溶離液はヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、少し黄色でオイル状の0.60gの精製3−オキソブチレートエチルエステルを得た。収率は未精製品に対して46%であった。この化合物のNMR分析結果を以下に示す。
H NMR(in CDCl)δ4.20(q,J=7.1Hz,2H),3.47(s,2H),2.27(s,3H),1.28(t,J=7.1Hz,3H);
13C NMR(in CDCl)δ201.06,167.44,61.52,50.29,30.32,14.29
参考例1(2):3−ヒドロキシブチレートエチルエステルの合成
乾燥したフラスコ中で75.6mgの水素化ホウ素ナトリウムを2mlの脱水エタノールに溶かした溶液を撹拌し、そこへ520mgの3−オキソブチレートエチルエステルを2mlの脱水エタノールに溶解した溶液をゆっくりと添加した。撹拌は室温で2時間行い、その後4mlの水を添加した。混合溶液を分液漏斗へ移し、ジクロロメタンで2回抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下でエバポレーションして、薄い黄色のオイル状の282mgの3−ヒドロキシブチレートを得た。この化合物のNMR分析結果を以下に示す。
H NMR(in CDCl)δ4.17(q,J=7.1Hz,2H),4.17(m,1H),2.46(m,2H),1.28(t,J=7.1Hz,3H),1.23(d,J=6.3Hz,3H);
13C NMR(in CDCl)δ172.93,64.28,60.68,42.91,22.49,14.18
参考例1(3):3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルの合成
氷上で乾燥したフラスコ中で6mlの脱水ジクロロメタンを撹拌し、そこへ2mlの2Mトリメチルアルミニウムを窒素気流下でゆっくりと添加した。そこへ続けて2mmolのチオフェノールをゆっくりと添加した。室温で30分間撹拌し、続けて6mlの脱水ジクロロメタンに溶解した3−ヒドロキシブチレートを添加した。反応はTLCでモニターした。この混合液に20mlのジクロロメタンを加え、気泡発生が止むまで20mlの3%塩酸溶液を添加した。混合液を分液漏斗へ移し、3%塩酸溶液で2回、飽和食塩水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下でエバポレーションして濃黄色のオイル状の532mgの粗3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルを得た。これをシリカゲル60のカラムクロマトグラフィー(20cm×Φ1cm、溶離液はヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、透明なオイル状の125mgの3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルを得た。収率は未精製品に対して24%であった。その化合物のNMR分析結果を以下に示す。
H NMR(in CDCl)δ7.38(s,5H),4.33(m,1H),2.83(m,2H),1.25(d,3H);
13C NMR(in CDCl)δ198.24,134.90,130.07,129.69,127.61,65.23,52.02,22.85
参考例1(4):3−ヒドロキシブチレートCoAチオエステルの合成
小さなガラス瓶に39.5mgのコエンザイムAナトリウム塩を0.5mlの100mMリン酸カルシウム緩衝液(pH8.0)に撹拌して溶かした溶液に、9.8mgの3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルを0.1mlのアセトニトリルに溶かした溶液を添加した。撹拌は室温で3時間続け、次に0.13mlの1Mリン酸を添加した。混合液を0.5mlのジエチルエーテルで3回洗浄し、減圧下でエバポレーションして30mMの3−ヒドロキシブチレートCoAチオエステル溶液を得た。
参考例2(1):(R)−3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルの合成
2.53gのt−ブチルジメチルシリルクロライドを無水ジメチルホルムアミドに溶かして撹拌したところへ、3.4gのイミダゾールを添加し、氷上、窒素気流下で15分撹拌した。更に無水ジメチルホルムアミドに溶解した0.5gの(R)−3−ヒドロキシブチレートを添加して室温で一晩撹拌した。反応液に60mlの飽和食塩水を加え、ジエチルエーテル:石油エーテル=1:3溶液での抽出を5回繰り返した。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下でエバポレーションした。これをメタノール:テトラヒドロフラン=2:1溶液に溶解し、1.5gの炭酸カリウムを含む10mlの水溶液を加え、室温で一晩撹拌した。反応液は飽和食塩水で希釈し、更に1M硫酸でpHを3.0に調整し、ジエチルエーテル:石油エーテル=1:3溶液での抽出を5回繰り返した。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下でエバポレーション後、真空乾燥して3−(t−ブチルジメチルシリル)ブチレートを得た。氷上で、870mgの3−(t−ブチルジメチルシリル)ブチレートと452mgのチオフェノールを6mlのジクロロメタンに溶解し、これに2mlのジクロロメタンに溶解した846mgのジシクロヘキシルカルボジイミドを添加し撹拌後、室温で10時間撹拌した。20mlのジエチルエーテルを加えてろ過後、溶媒をエバポレーションで取り除き、フラッシュクロマトグラフィー(溶離液は5%酢酸エチルを含むヘキサン)で330mgの3−(t−ブチルジメチルシリル)ブチレートチオフェニルエステルを得た。これを2mlアセトニトリルに溶解し、更に6mlの5%フッ化水素を含むアセトニトリル溶液を加えた。20分の反応後、気泡が発生しなくなるまで飽和炭酸水素ナトリウム溶液を添加し、ジエチルエーテルで抽出後、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下でエバポレーションして81mgの(R)−3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルを得た。
参考例2(2):(R)−3−ヒドロキシブチレートCoAチオエステルの合成
3−ヒドロキシブチレートCoAチオエステルの合成と同様にして、3−ヒドロキシブチレートCoAチオエステル溶液を得た。
参考例3(1):3−オキソバレレートエチルエステルの合成
氷上で、乾燥したフラスコ中で3.9gのメルドラム酸を18mlの脱水ジクロロメタンに溶かして撹拌したところへ、18mlの脱水ジクロロメタンに溶解した4.3gのピリジンと2.5gのプロピオニルクロライドの溶液を窒素気流下でゆっくりと添加した。撹拌は0℃で1時間の後、室温で2時間行った。混合液を分液漏斗に移し、3%塩酸溶液で2回、飽和食塩水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下でエバポレーションして、ゆっくりと固化する濃オレンジ色でオイル状の3.4gの粗アシル化メルドラム酸を得た。この粗アシル化メルドラム酸を80mlの脱水エタノール中で還流した。この時二酸化炭素の発生が観察された。溶媒をエバポレーションで取り除き、赤色オイル状の1.7gの粗3−オキソバレレートエチルエステルを得た。これをシリカゲル60のカラムクロマトグラフィー(20cm×Φ1cm、溶離液はヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、少し黄色でオイル状の0.50gの精製3−オキソバレレートエチルエステルを得た。収率は未精製品に対して29%であった。この化合物のNMR分析結果を以下に示す。
H NMR(in CDCl)δ4.19(q,J=7.1Hz,2H),3.40(s,2H),2.58(q,J=7.2Hz,2H),1.28(t,J=7.2Hz,3H),1.08(t,J=7.2Hz,3H);
13C NMR(in CDCl)δ203.48,180.07,61.33,49.03,36.32,14.13,7.56
参考例3(2):3−ヒドロキシバレレートエチルエステルの合成
乾燥したフラスコ中で75.6mgの水素化ホウ素ナトリウムを1mlの脱水エタノールに溶かした溶液を撹拌し、そこへ288mgの3−オキソバレレートエチルエステルを1mlの脱水エタノールに溶解した溶液をゆっくりと添加した。撹拌は室温で2時間行い、その後2mlの水を添加した。混合溶液を分液漏斗へ移し、ジクロロメタンで2回抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下でエバポレーションして、薄い黄色のオイル状の212mgの3−ヒドロキシバレレートを得た。この化合物のNMR分析結果を以下に示す。
H NMR(in CDCl)δ4.17(q,J=7.1Hz,2H),3.94(m,1H),2.45(m,2H),1.57(m,2H),1.27(t,J=7.1Hz,3H),0.96(t,J=7.3Hz,3H);
13C NMR(in CDCl)δ173.30,69.64,60.91,41.46,29.77,14.40,10.07
参考例3(3):3−ヒドロキシバレレートチオフェニルエステルの合成
氷上で乾燥したフラスコ中で3mlの脱水ジクロロメタンを撹拌し、そこへ1mlの2Mトリメチルアルミニウムを窒素気流下でゆっくりと添加した。そこへ続けて1mmolのチオフェノールをゆっくりと添加した。室温で30分間撹拌し、続けて3mlの脱水ジクロロメタンに溶解した3−ヒドロキシバレレートを添加した。反応はTLCでモニターした。この混合液に10mlのジクロロメタンを加え、気泡発生が止むまで10mlの3%塩酸溶液を添加した。混合液を分液漏斗へ移し、3%塩酸溶液で2回、飽和食塩水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下でエバポレーションして濃黄色のオイル状の258mgの粗3−ヒドロキシバレレートチオフェニルエステルを得た。これをシリカゲル60のカラムクロマトグラフィー(20cm×Φ1cm、溶離液はヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製し、透明なオイル状の44mgの3−ヒドロキシバレレートチオフェニルエステルを得た。収率は未精製品に対して17%であった。その化合物のNMR分析結果を以下に示す。
H NMR(in CDCl)δ7.39(s,5H),4.04(m,1H),2.82(m,2H),1.60(m,2H),0.98(t,J=7.1Hz,3H);
13C NMR(in CDCl)δ198.30,134.67,129.83,129.46,127.31,70.04,50.03,29.67,9.96
参考例3(4):3−ヒドロキシバレレートCoAチオエステルの合成
小さなガラス瓶に79mgのコエンザイムAナトリウム塩を2mlの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)に撹拌して溶かした溶液に、42mgの3−ヒドロキシバレレートチオフェニルエステルを1mlのアセトニトリルに溶かした溶液を添加した。撹拌は室温で3時間続け、次に0.53mlの1Mリン酸を添加した。混合液を2mlのジエチルエーテルで3回洗浄し、減圧下でエバポレーションして33mMの3−ヒドロキシブチレートCoAチオエステル溶液を得た。
参考例4:酵素の作製と精製
ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)ATCC17699のゲノムDNAから制限酵素EcoRIとSmaI断片(約5kbp)を切り出し、pUC18にクローニングしてPHA合成酵素遺伝子(PHAS)を含むプラスミドpTI305を取得した。次にpTI305のNotI・StuI断片(1.6kbp)と、pTI305をテンプレートとして下記2種のプライマーでPCRにより増幅したDNAのBamHI・NotI断片(140bp)と、ベクターpQE30(キアゲン社製)のBamHIとSmaI断片の3種類を混合してライゲーションし、プラスミドpQERECを調整した。これを大腸菌BL21(pREP4)に導入して、酵素調製用の大腸菌BL21(pQEREC)を作製した。この大腸菌を1000mlのLB培地中、30℃で16時間培養し、菌体内に酵素を蓄積させ、超音波処理によって菌体を破壊した後、菌体内の可溶性タンパク質を回収した。このタンパク質をNi−NTAアガロースゲルカラムに通し、(His)−PhaC(N末端にヒスチジンが6個付加されている)を特異的にカラムに吸着させた。洗浄後、イミダゾールを用いて(His)−PhaCを溶出し、透析後に精製酵素として10mgを得た。酵素の分子量はSDS−PAGEで65kDaであった。
PCRの条件

サイクル:(94℃45秒、58℃30秒、72℃60秒)×30サイクル。
実施例5:ポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)の重合
5mlの100mMリン酸カリウム溶液に0.015mgの酵素を添加して室温でよく撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として溶液温度を30℃に保ち、ここに5mlの1mMCoAナトリウム溶液と、0.5mlの20mM3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステル溶液(100mMリン酸カリウム溶液とアセトニトリルの1:1溶液に溶解)を少しずつ添加し、さらに30℃で24時間反応させた。次にこの溶液を20mlのヘキサンで3回洗浄し、更に10mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出、回収した。これを3回繰り返した。抽出液はフィルターろ過した後、300mlのメタノール中に滴下して24時間放置した。生成した沈殿物をフィルターろ過して回収し、真空乾燥機で乾燥し、0.4mgのポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)を得た。分子量(ポリスチレン換算のGPC)はMw=970000であった。その化合物のNMR分析結果を以下に示す。
H NMR(in CDCl)δ5.26(m,H),2.53(m,2H),1.25(s,3H);
13C NMR(in CDCl)δ169.53,67.99,41.16,20.15
比較例2:ポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)の重合
5mlの100mMリン酸カリウム溶液に0.015mgの酵素を添加して室温でよく撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として溶液温度を30℃に保ち、ここに5mlの1mMCoAナトリウム溶液を少しずつ添加し、さらに30℃で24時間反応させた。次にこの溶液を20mlのヘキサンで3回洗浄し、更に10mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出、回収した。これを3回繰り返した。抽出液はフィルターろ過した後、300mlのメタノール中に滴下して24時間放置した。しかし沈殿物は得られなかった。
実施例6:((R)−3−ヒドロキシブチレート)の重合
5mlの100mMリン酸カリウム溶液に0.015mgの酵素を添加して室温でよく撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として溶液温度を30℃に保ち、ここに5mlの1mM3−ヒドロキシブチレートCoA溶液と、0.5mlの20mM3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステル溶液(100mMリン酸カリウム溶液とアセトニトリルの1:1溶液に溶解)を少しずつ添加し、さらに30℃で24時間反応させた。次にこの溶液を20mlのヘキサンで3回洗浄し、更に10mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出、回収した。これを3回繰り返した。抽出液はフィルターろ過した後、300mlのメタノール中に滴下して24時間放置した。生成した沈殿物をフィルターろ過して回収し、真空乾燥機で乾燥し、0.3mgのポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)を得た。
比較例3:ポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)の重合
5mlの100mMリン酸カリウム溶液に0.015mgの酵素を添加して室温でよく撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として溶液温度を30℃に保ち、5mlの1mM3−ヒドロキシブチレートCoAを少しずつ添加し、さらに30℃で24時間反応させた。次にこの溶液を20mlのヘキサンで3回洗浄し、更に10mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出、回収した。これを3回繰り返した。抽出液はフィルターろ過した後、300mlのメタノール中に滴下して24時間放置した。生成した沈殿物をフィルターろ過して回収し、真空乾燥機で乾燥し、0.2mgのポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)を得た。
比較例4:
5mlの100mMリン酸カリウム溶液に0.015mgの酵素を添加して室温でよく撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として溶液温度を30℃に保ち、ここに0.5mlの20mM3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステル溶液(100mMリン酸カリウム溶液とアセトニトリルの1:1溶液に溶解)を少しずつ添加し、さらに30℃で24時間反応させた。次にこの溶液を20mlのヘキサンで3回洗浄し、更に10mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出、回収した。これを3回繰り返した。抽出液はフィルターろ過した後、300mlのメタノール中に滴下して24時間放置した。しかし沈殿物は得られなかった。
実施例7:ポリ(3−ヒドロキシバレレート)の重合
5mlの100mMリン酸カリウム溶液に0.015mgの酵素を添加して室温でよく撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として、ここに5mlの1mM(R,S)−3−ヒドロキシバレレートCoAと、0.5mlの20mM3−ヒドロキシバレレートチオフェニルエステル溶液(100mMリン酸カリウム溶液とアセトニトリルの1:1溶液に溶解)を少しずつ添加し、さらに室温で24時間反応させた。次にこの溶液を20mlのヘキサンで3回洗浄し、更に10mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出、回収した。これを3回繰り返した。抽出液はフィルターろ過した後、300mlのメタノール中に滴下して24時間放置した。生成した沈殿物をフィルターろ過して回収し、真空乾燥機で乾燥し、0.3mgのポリ((R)−3−ヒドロキシバレレート)を得た。その化合物のNMR分析結果を以下に示す。
H NMR(in CDCl)δ5.12(m,H),2.56(m,2H),1.53(m,2H),0.81(t,3H);
13C NMR(in CDCl)δ169.71,72.26,39.17,27.23,9.76
比較例5:ポリ(3−ヒドロキシバレレート)の重合
5mlの100mMリン酸カリウム溶液に0.015mgの酵素を添加して室温でよく撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として5mlの1mM(R,S)−3−ヒドロキシバレレートCoAを少しずつ添加し、さらに室温で24時間反応させた。次にこの溶液を20mlのヘキサンで3回洗浄し、更に10mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出、回収した。これを3回繰り返した。抽出液はフィルターろ過した後、300mlのメタノール中に滴下して24時間放置した。生成した沈殿物をフィルターろ過して回収し、真空乾燥機で乾燥し、0.1mgのポリ((R)−3−ヒドロキシバレレート)を得た。
実施例8:(R)−3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルからポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)の重合
5mlの100mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.5)、1mMCoAナトリウム塩溶液に0.015mgの酵素を添加して溶液温度を30℃に保ち撹拌した。その上に10mM(R)−3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルを5mlのヘキサン溶液を重層した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として、30℃で24時間反応させた。反応後にヘキサン層を除去し、次に水層中から5mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出した。これを2回繰り返した。抽出溶液をフィルターろ過した後、200mlのメタノール中に滴下して4℃で24時間放置した。生成した沈殿物をフィルターろ過して回収し、真空乾燥機で乾燥し、1.5mgのポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)を得た。分子量(ポリスチレン換算のGPC)はMw=1070000であった。また、添加したCoAのチオエステル化と遊離の反応回転数は3.4回である。
比較例6:(R)−3−ヒドロキシブチレートCoAチオエステルからポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)の重合
5mlの100mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.5)、1mM(R)−3−ヒドロキシブチレートCoAチオエステル溶液に0.015mgの酵素を添加して溶液温度を30℃に保ち撹拌した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として、30℃で24時間反応させた。反応後にヘキサン層を除去し、次に水層中から5mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出した。これを2回繰り返した。抽出溶液をフィルターろ過した後、200mlのメタノール中に滴下して4℃で24時間放置した。生成した沈殿物をフィルターろ過して回収し、真空乾燥機で乾燥し、0.4mgのポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)を得た。
比較例7:(R)−3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルからポリ((R)−3−ヒドロキシブチレート)の重合
5mlの100mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.5)に0.015mgの酵素を添加して溶液温度を30℃に保ち撹拌した。その上に10mM(R)−3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルを5mlのヘキサン溶液を重層した。撹拌速度を軽く混ざる程度に落として、30℃で24時間反応させた。反応後にヘキサン層を除去し、次に水層中から5mlのクロロホルムで溶液中の生成物を抽出した。これを2回繰り返した。抽出溶液をフィルターろ過した後、200mlのメタノール中に滴下して4℃で24時間放置した。沈殿物は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
アシル基転移酵素を用いる本発明の方法によれば、極めて高価なアシルコエンザイムA(アシルCoA)を追加添加することなく反応を継続的に行い、その生産性を飛躍的に改善することができる。従って、アシル基転移酵素の工業的製法への利用を可能とした新規なカップリング法により、種々の化合物を製造することができる。本発明によれば、スフィンゴイド塩基類の製造方法において、酵素反応にチオエステル交換反応を組み合わせて、従来の発酵法による方法では困難であったスフィンゴイド塩基類を細胞毒性の問題無く蓄積生産せしめ、さらに反応に必須である補酵素アシルCoAについてもその再生反応を同一反応液系内で行うことが可能となり、補酵素の消費量が劇的に減少し、経済的にスフィンゴイド塩基類を製造することができる。この発明により、様々なスフィンゴイド塩基類を安価かつ純粋に製造できるようになり、その用途が飛躍的に広がる。
また、PHAの製造方法において、インビトロ(in vitro)重合方法にチオエステル交換反応を組み合わせることにより、反応出発物質を容易に合成可能なチオフェニルエステルに代替し、さらに重合反応で必須である補酵素アシルCoAについてもその再生反応を同一反応液系内で行うことが可能となり、補酵素の消費量を劇的に減少でき、様々なPHAを安価に効率よく工業的に製造でき、その用途が飛躍的に広がる。
【配列表】



【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシルコエンザイムA(アシルCoA)のアシル基を転移するアシル基転移酵素反応において、チオール化合物のアシルエステルであるアシル基供与体との化学的チオエステル交換反応によって、コエンザイムAよりアシルコエンザイムAを反応系内で生成および/または再生させて反応させることを特徴とするアシル基転移酵素反応方法。
【請求項2】
反応系内にアシル基供与体、アシル基受容体、コエンザイムA、及びアシル基転移酵素を同時に含み、アシル基供与体のアシル基を化学的チオエステル交換反応によってコエンザイムAに転移させてアシルコエンザイムAとし、アシルコエンザイムAのアシル基をアシル基受容体に転移させる請求項1に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項3】
アシル基供与体のアシル基でアシルコエンザイムAを生成および/または再生しながら行う請求項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項4】
チオール化合物が芳香族チオールである請求項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項5】
芳香族チオールが置換基を有していてもよいチオフェノールである請求項4に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項6】
アシル基受容体がアミノ酸および/またはその誘導体である請求項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項7】
アシル基受容体がセリンおよび/またはその誘導体である請求項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項8】
アシル基転移酵素がセリン C−パルミトイルトランスフェラーゼである請求項1または2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項9】
セリン C−パルミトイルトランスフェラーゼがスフィンゴモナス(Sphingomonas)属細菌由来のものである請求項8に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項10】
アシル基転移酵素がスフィンゴシン N−アシルトランスフェラーゼである請求項1または2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項11】
反応系内にアシル基供与体、アシル基受容体、コエンザイムA、及びアシル基転移酵素を同時に含み、アシル基供与体のアシル基を化学的チオエステル交換反応によってコエンザイムAに転移させてアシルコエンザイムAとし、アシルコエンザイムAのアシル基をアシル基受容体に転移させる反応において、アシル基転移酵素が高分子重合酵素であり、高分子化合物を合成する請求項2に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項12】
アシルコエンザイムAまたはアシル基転移酵素反応による生成物をアシル基受容体としてアシル基転移酵素反応を繰り返すことにより高分子化合物を生成する請求項11に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項13】
アシルチオエステルが芳香族チオールのアシルエステルである請求項11に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項14】
芳香族チオールのアシルエステルがヒドロキシアルカノエートチオフェニルエステルである請求項13に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項15】
ヒドロキシアルカノエートチオフェニルエステルが3−ヒドロキシアルカノエートチオフェニルエステルである請求項14に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項16】
3−ヒドロキシアルカノエートチオフェニルエステルが3−ヒドロキシブチレートチオフェニルエステルである請求項15に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項17】
高分子重合酵素がポリヒドロキシアルカノエートシンターゼである請求項11に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項18】
ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼがラルストニア(Ralstonia)属由来である請求項17に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項19】
ラルストニア(Ralstonia)属がラルストニア・ユートロファ(Ralstoniaeutropha)である請求項18に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項20】
ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)がラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)ATCC17699である請求項19に記載のアシル基転移酵素反応方法。
【請求項21】
請求項7乃至9のいずれかに記載のアシル基転移酵素反応を用いるスフィンゴイド塩基類の製造方法。
【請求項22】
スフィンゴイド塩基類が3−ケトジヒドロスフィンゴシンである請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項10に記載のアシル基転移酵素反応を用いるセラミド類の製造方法。
【請求項24】
請求項11乃至20のいずれかに記載のアシル基転移酵素反応を用いる高分子化合物の製造方法であって、高分子化合物がポリエステル類であるポリエステル類の製造方法。
【請求項25】
ポリエステル類がポリヒドロキシアルカノエートである請求項24に記載のポリエステル類の製造方法。
【請求項26】
ポリヒドロキシアルカノエートがポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)である請求項25に記載のポリエステル類の製造方法。
【請求項27】
ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)がポリ(3−ヒドロキシブチレート)である請求項26に記載のポリエステル類の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/065609
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508108(P2005−508108)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000500
【国際出願日】平成16年1月21日(2004.1.21)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】