説明

アジピン酸の乾燥

少なくとも2つの一連のステージにおいて含水固体アジピン酸を非反応性ガスと接触させることにより含水固体アジピン酸が次第に乾燥される、少なくとも2つの乾燥ステージを用いる含水固体アジピン酸の乾燥方法であって、第1のステージの温度が、後続のいかなるステージの温度よりも低い方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジピン酸の水溶液からのアジピン酸の結晶化によるスラリーを固液分離した後得られる含水アジピン酸の乾燥に関する。
【背景技術】
【0002】
アジピン酸は、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを濃硝酸により酸化することにより工業的に製造される。初めの生成物の回収および精製は、反応混合物の結晶化、その後の固液分離により達成される。更なるアジピン酸の精製は、1つまたは複数のステップによる水再結晶化、その後の固液分離によって達成される。固液分離ユニットにおいて最終再結晶化ステップの後得られる固体ケークは、通常、約3〜12重量%の水を含んでいる。この水は、熱を供給することにより固体アジピン酸から分離される水蒸気に水を変換させる後続の乾燥ステップにより除去される。水分に加えられるべき熱のキャリア、並びに除去されるべき水蒸気のキャリアとしてガス流が度々用いられる。一般に望ましい無水アジピン酸生成物の含水率は、0.2重量%未満である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
乾燥対象である固体ケーク(上述されているように)には、水分は、2つの形態、すなわち、表面水分(遊離水分)および内部(結合)水分(液体に包含されて存在する水分を含む)で存在する。遊離水分の除去は容易であり速いが、結合水分の除去は困難であり遅いものである。従って、実際の乾燥処理は、通常、十分に水分を除去するために長い滞留時間および高温が用いられ、その結果、最終生成物は、規格に沿ったものとなる。しかしながら、高温では、乾燥の結果、大量の微粒子が形成される。これは、粒子表面から相当量の固体が蒸発する前に水に溶解するからであると推定されている。含水アジピン酸の含水率が高い(例えば10〜12%)場合には、この溶解は更に重要視されるべきである。いわゆる微粉(極めて小さい粒子)の存在は、生成物のローディング−アンローディング(loading−unloading)特性に悪影響を与える。従って、微粒子が過度に形成されることなく水分の規格に沿った生成物を生成するであろう乾燥方法を擁することが望ましいであろう。
【0004】
本発明は、このような乾燥方法を提供する。本発明においては、水の少なくとも一部、または、更に具体的には、含水アジピン酸に含まれる遊離水分の少なくとも一部が、高温での蒸発により残留した水が除去される前に、低温で蒸発させられて除去される。初めに低温で水を除去することにより、溶解および微粉の形成が低減されるべきであり、並びに高温で乾燥することにより、固体中に含有される水を除去する問題が排除されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アジピン酸溶液を固液分離することにより得られ、かつアジピン酸と水とを含む含水固体アジピン酸から、水の少なくとも一部を除去して熱無水アジピン酸を生成する方法であって、
前記方法は、第1のステージで開始されてから最終ステージで停止されるまでの一連のステージにおいて、含水固体アジピン酸と、アジピン酸または水に反応しないガスとを接触させることを含み、第1のステージにおいては含水固体アジピン酸とガスとを70〜110℃の温度範囲で接触させることによって含水固体アジピン酸を乾燥させて、部分乾燥固体アジピン酸を得、当該第1のステージの後の少なくとも1つのステージにおいては部分乾燥固体アジピン酸とガスとを100〜150℃の温度範囲で接触させ、第1のステージにおける温度は前記第1のステージの後の前記いずれのステージにおける温度よりも低い方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1について言及すると、乾燥方法において2つのステージ、すなわち第1のステージおよび最終ステージだけを包含する本発明の一実施形態を実施する装置10を図示するブロック図が示されている。
【0007】
水を3重量%超含む含水アジピン酸(12)および乾燥ガス(14)が、乾燥手段(18)の第1のステージに供給される。乾燥ガス(14)としては、空気、窒素または過熱蒸気またはこれらの混合物を挙げることができる。アジピン酸または水のいずれとも反応しない場合には、その他のガスを用いることも可能である。乾燥ガス(14)は予熱されてもよい。第1のステージで必要とされる乾燥用熱(16)の全部または一部は、熱交換面を介して提供されてもよい。高周波(RF)またはマイクロ波エネルギーを用いることによって、加熱を達成することもできる。
【0008】
第1のステージは、予乾燥を達成するために含水アジピン酸が乾燥ガスと接触させられる容器または容器の一部とすることができる。回転乾燥機(例えば回転ドラム乾燥機)、層乾燥機(例えばターボ棚型乾燥機)または流動床乾燥機を、第1のステージとして用いることができる。この第1のステージにおいて固体に接触させられるガスの温度は、70〜110℃の範囲内、好ましくは90〜110℃の範囲とすることができる。第1のステージは、単独のユニットまたは一連の複合ユニットとすることができ、固体に接触させられるガスの温度は、第1のステージ中において変化させることができる。第1のステージでの総滞留時間(乾燥時間)は、5〜120分の範囲とすることができる。この第1のステージにおいては、水を3重量%未満、好ましくは水を1重量%未満含む、予乾燥後の部分乾燥含水固体アジピン酸(20)が得られる。
【0009】
第1のステージで生成された予乾燥後のアジピン酸(20)および乾燥ガス(24)が最終ステージ(28)に供給される。乾燥ガス(24)としては、空気、窒素、過熱蒸気、またはこれらのガスの少なくとも2種の混合物を挙げることができる。乾燥ガス(24)は予熱されてもよい。最終ステージで必要とされる乾燥用熱(26)の全部または一部は、熱交換面を介して提供されてもよい。高周波(RF)またはマイクロ波エネルギーを用いることによって、加熱を達成することもできる。
【0010】
乾燥手段(28)の最終ステージは、好ましくは水を0.2重量%未満含む熱無水アジピン酸を生成するために部分乾燥アジピン酸が乾燥ガスと接触させられる容器または容器の一部である。回転乾燥機(例えば回転ドラム乾燥機)、層乾燥機(例えばターボ棚型乾燥機)または流動床乾燥機を、最終ステージとして用いることができる。最終ステージにおいて固体に接触させられるガスの温度は、100〜150℃の範囲内である。最終ステージは、単独のユニットまたは一連の複合ユニットとすることができ、ガス−固体混合物の温度は最終ステージ中において変化させることができる。最終ステージでの総滞留時間(乾燥時間)は、5〜120分の範囲である。
【0011】
この最終ステージにおいては、熱無水アジピン酸(30)が生成される。第1のステージおよび最終ステージは、個別の容器であってもよく、または1つの容器内における個別の隔室であってもよい。第1のステージ(18)での温度は、最終ステージを含むいかなる後続のステージの温度よりも低いべきである。
【0012】
第1のステージおよび最終ステージにおいては、同一の種類の乾燥機を用いることができ、または異なる種類の乾燥機を用いることができる。本発明の一実施形態においては、第1のステージとして層乾燥機が用いられてもよく、また、最終ステージとして流動床乾燥機が用いられてもよい。
【0013】
乾燥ガスの流量が高い場合には、第1のステージおよび第2のステージの両方に対して、有利となるはずである。しかしながら、この流量は、乾燥ガスによって固体アジピン酸が過剰に流失することが防止されるよう、十分に小さいべきである。
【0014】
本発明の一実施形態においては、最終ステージにおいて生成される熱無水アジピンは、冷却ガスに接触させると共に、少なくとも5分間の間5〜50℃の温度範囲に維持することにより、冷却され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施する方法のブロック図を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジピン酸溶液を固液分離することにより得られ、かつアジピン酸と水とを含む含水固体アジピン酸から、水の少なくとも一部を除去して熱乾燥アジピン酸を生成する方法であって、
前記方法は、第1のステージで開始されてから最終ステージで停止されるまでの一連のステージにおいて、含水固体アジピン酸と、アジピン酸または水に反応しないガスとを接触させることを含み、第1のステージにおいては含水固体アジピン酸とガスとを70〜110℃の温度範囲で接触させることによって含水固体アジピン酸を乾燥させて、部分乾燥固体アジピン酸を得、当該第1のステージの後の少なくとも1つのステージにおいては前記部分乾燥固体アジピン酸とガスとを100〜150℃の温度範囲で接触させ、第1のステージにおける温度は前記第1のステージの後の前記いずれのステージにおける温度よりも低く、これによって微粒子の形成が最小限に抑えられることを特徴とする方法。
【請求項2】
5〜50℃の温度範囲で、前記熱乾燥アジピン酸とアジピン酸または水に反応しないガスとを接触させて、当該熱乾燥アジピン酸を冷却することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガスが、空気、窒素、過熱蒸気およびこれらのガスの少なくとも2種よりなる混合物からなる群から、各ステージに対して独立して選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つまたは複数のステージにおいて、熱が熱交換面を介して供給されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
部分乾燥固体アジピン酸は3重量%未満の水を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
部分乾燥固体アジピン酸は1重量%未満の水を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
冷却ガスが、空気または窒素であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項8】
第1のステージおよび最終ステージが、一つの容器内における隔離された隔室であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第1のステージにおいて層乾燥機が用いられ、並びに最終ステージにおいて流動床乾燥機が用いられることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−507502(P2007−507502A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533924(P2006−533924)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/030145
【国際公開番号】WO2005/033057
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(505245302)インヴィスタ テクノロジー エスアエルエル (81)
【氏名又は名称原語表記】INVISTA Technologies S.a.r.l.
【住所又は居所原語表記】Talstrasse 80,8001 Zurich,Switzerland
【Fターム(参考)】